説明

有機発光トランジスタ

【課題】複数のゲートを有する有機発光トランジスタの構造をより簡素化すること。
【解決手段】基板(1)と、基板上に配置された第1ゲート電極(2)と、基板上に、第1ゲート電極と離間して配置された第2ゲート電極(3)と、第1ゲート電極及び第2ゲート電極の少なくとも一部を覆い、基板上に配置されたゲート絶縁膜(4)と、ゲート絶縁膜上に配置された第1ソース/ドレイン電極(5)と、第1ソース/ドレイン電極の少なくとも一部を覆い、かつ第1ゲート電極及び第2ゲート電極の各々と重畳してゲート絶縁膜上に配置された第1有機半導体層(6)と、第1有機半導体層上に配置された第2ソース/ドレイン電極と、第2ソース/ドレイン電極の少なくとも一部を覆い、かつ第1ゲート電極及び第2ゲート電極の各々と重畳して第1有機半導体層上に配置された第2有機半導体層(8)と、を備える有機発光トランジスタである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体を用いた電界効果トランジスタ、その中でも特に、発光性のn型およびp型有機半導体の積層構造を有する発光型の有機電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
有機電界効果トランジスタの中にはチャネルがn型有機半導体とp型有機半導体の積層構造からなるものがある。その一例は、特開平8−228034号公報(特許文献1)に開示されている。この構造を用いる目的は、トランジスタのON/OFF比を高めることと、ゲート電圧の正負に応じてn型特性とp型特性の両方の特性(アンバイポーラ特性、両極性)を引き出すことにある。この積層膜を用いた有機電界効果トランジスタの構造をもう少し詳しく述べると、ゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース電極とドレイン電極、そしてn型とp型の有機半導体積層膜を、この順番に積層した構造からなる。n型とp型の有機半導体積層膜におけるn型有機半導体とp型有機半導体の積層順序には、n型とp型の順番とその逆の順番の両方がある。
【0003】
このようなn型とp型の有機半導体積層膜の半導体材料に発光性材料を用いると発光型の有機電界効果トランジスタ(発光FET)として機能する。発光は電子とホールの再結合によって起こるものであるから、それを実現するためには電子とホールを同時にキャリヤとして電界効果トランジスタのチャネル部に注入することが必要である。しかしながら、上記従来例に発光性材料を用いる場合、ゲート電極が1つであることから電子とホールを別々に注入することはできても同時に注入することは容易ではなかった。そのためこの構造の発光FETからの発光は微弱であった。さらに言えば、電子とホールを等量注入するバランス注入も当然難しいから発光強度だけではなく発光効率という観点からも問題であった。これを解決する手段として有機半導体積層膜の両面のそれぞれにゲートを取付ける構造、すなわち上下ダブルゲート構造が考えられる。その一例は、特開2005−79549号公報(特許文献2)に開示されている。しかし、この従来例のトランジスタは構造的にも製造プロセスの面からも複雑であり、改良の余地が残されていた。
【特許文献1】特開平8−228034号公報
【特許文献2】特開2005−79549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明に係る具体的態様は、複数のゲートを有する有機発光トランジスタの構造をより簡素化することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る一態様の有機発光トランジスタは、(a)基板と、(b)前記基板上に配置された第1ゲート電極と、(c)前記基板上に、前記第1ゲート電極と離間して配置された第2ゲート電極と、(d)前記第1ゲート電極及び前記第2ゲート電極の少なくとも一部を覆い、前記基板上に配置されたゲート絶縁膜と、(e)前記ゲート絶縁膜上に配置された第1ソース/ドレイン電極と、(f)前記第1ソース/ドレイン電極の少なくとも一部を覆い、かつ前記第1ゲート電極及び前記第2ゲート電極の各々と重畳して前記ゲート絶縁膜上に配置された第1有機半導体層と、(g)前記第1有機半導体層上に配置された第2ソース/ドレイン電極と、(h)前記第2ソース/ドレイン電極の少なくとも一部を覆い、かつ前記第1ゲート電極及び前記第2ゲート電極の各々と重畳して前記第1有機半導体層上に配置された第2有機半導体層と、を備える。
【0006】
このような本発明に係る有機発光トランジスタによれば、ゲート電極を1つの面(共通面)上で2分割した構成により、発光特性に優れ、かつ構造がより簡素化された有機発光トランジスタが実現される。このような有機発光トランジスタは、例えば表示装置、光通信などの高輝度・高強度の発光素子が必要とされる分野に応用することが期待される。さらにまた、有機レーザというこれまでにない新たな分野に展開されることも期待できる。
【0007】
上述した有機発光トランジスタにおいては、例えば前記第1有機半導体層がn型有機半導体層、前記第2有機半導体層がp型有機半導体層である。なお、前記第1有機半導体層がp型有機半導体層、前記第2有機半導体層がn型有機半導体層であってもよい。
【0008】
上述した有機発光トランジスタにおいて、前記第1ソース/ドレイン電極の仕事関数と前記第2ソース/ドレイン電極の仕事関数とが異なることが好ましい。更に、前記第1ソース/ドレイン電極の仕事関数が前記第2ソース/ドレイン電極の仕事関数よりも小さいことが好ましい。これにより、各有機半導体層に対するキャリア(電子、ホール)の注入がしやすい構造が得られる。
【0009】
上述した有機発光トランジスタにおいて、前記第1ゲート電極と前記第2ゲート電極とを同じ材料によって構成することができる。このような同一材料からなる第1ゲート電極及び第2ゲート電極は、例えば基板上に導電膜を形成し、この導電膜をパターニングすることにより容易に形成することが可能である。
【0010】
上述した有機発光トランジスタにおいては、前記ソース電極と前記ドレイン電極とを平面視において離間して配置することができる。それにより、発光をより効率よく外部へ取り出すことが可能となる。
【0011】
上述した有機発光トランジスタにおいては、前記ソース電極及び前記ドレイン電極の各々の長手方向と、前記第1ゲート電極及び前記第2ゲート電極の各々の長手方向とが交差することも好ましい。このようなレイアウトによれば、各電極を外部回路等と接続するための部位を確保しやすい利点がある。
【0012】
上述した有機発光トランジスタは、例えば、前記第1ゲート電極上であって前記ドレイン電極近傍の第1領域、前記第2ゲート電極上であって前記ソース電極近傍の第2領域、及び前記第1ゲート電極と前記第2ゲート電極との相互間を結ぶ第3領域の各々において発光を生じる。これにより、発光部位が多く確保された高輝度の有機発光トランジスタが実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る有機発光トランジスタの構造を説明する模式平面図である。また、図2は、図1に示す有機発光トランジスタのII−II線に対応する模式断面図である。また、図3は、図1に示す有機発光トランジスタのIII−III線に対応する模式断面図である。
【0014】
図1〜図3に示す本実施形態の有機発光トランジスタは、基板1、ゲート電極(第1ゲート電極)2、ゲート電極(第2ゲート電極)3、ゲート絶縁膜4、ソース電極(第1ソース/ドレイン電極)5、n型有機半導体層6、ドレイン電極(第2ソース/ドレイン電極)7、p型有機半導体層8、を含んで構成される。この有機発光トランジスタにおいては、ゲート電極は同一の面上(基板1の一方面上)においてゲート電極2とゲート電極3の2つに分割されている。換言すれば、本実施形態に係る有機発光トランジスタは、共通の面上に配置された2つのゲート電極2、3を備える。また、ソース電極5とドレイン電極7とは異なる面上に配置されている。すなわち、ソース電極5はゲート絶縁膜4上に形成され、ドレイン電極7はn型有機半導体層6上に形成されている。ゲート電極2、3のそれぞれは、例えば図示のように矩形状である。これらのゲート電極2、3は図中に示すX方向(第1方向)に沿って離間して配置され、かつ図中に示すY方向(第2方向)に沿って延在している。ソース電極5およびドレイン電極7のそれぞれは、例えば図示のように矩形状である。これらのソース電極5およびドレイン電極7は、平面視において図中に示すY方向(第2方向)に沿って離間して配置され、かつ図中に示すX方向(第1方向)に沿って延在している。すなわち、ゲート電極2、3とソース電極5およびドレイン電極7とは、ゲート電極2、3の各々の長手方向とソース電極5およびドレイン電極7の各々の長手方向とが交差するようにして配置されている。
【0015】
図1〜図3に示す有機発光トランジスタの製造方法の一例を説明すると以下の通りである。まず、ガラス基板等の基板1の上に導電膜を形成する。導電膜は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)であり、スパッタ法などの成膜法によって形成可能である。この基板1上に形成された導電膜をフォトリソグラフィー法等の方法によってパターニングすることにより、ゲート電極2およびゲート電極3が形成される。ゲート電極2とゲート電極3との対向間隔は、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm、更に好ましくは20μm以下に設定される。
【0016】
次に、各ゲート電極2、3の少なくとも一部を覆うゲート絶縁膜4が基板1上に形成される。ゲート絶縁膜4は、例えばSiO2膜などの絶縁膜であり、スパッタ法などの成膜法によって形成可能である。ゲート絶縁膜4の膜厚は例えば400nm程度である。
【0017】
次に、ゲート絶縁膜4の上にソース電極5を形成する。ソース電極5は、例えばアルミニウム等の導電膜をゲート絶縁膜4上にマスク蒸着することによって形成可能である。
【0018】
次に、ゲート絶縁膜4上にソース電極5の少なくとも一部を覆うようにしてn型有機半導体層6が形成される。n型有機半導体層6は、例えば蒸着法によって形成可能である。n型有機半導体層6の膜厚は例えば50nm程度である。図4は、n型有機半導体層として用いられる有機半導体材料の化学構造の一例を示す図である。以下ではこの有機半導体材料をAC5CF3と称する。AC5CF3は発光性の有機半導体材料である。
【0019】
次に、n型有機半導体層6の上にドレイン電極7が形成される。ドレイン電極7は、例えば、金などの導電膜をn型有機半導体層6の上にマスク蒸着することによって形成可能である。ソース電極5とドレイン電極7の間隔、すなわちチャネル長は例えば50μm程度である。このチャネル長の調整は、例えば、ドレイン電極7をマスク蒸着するときのマスク位置合わせによって行うことができる。
【0020】
次に、n型有機半導体層6の上に、ドレイン電極7の少なくとも一部を覆い、かつ各ゲート電極2、3の各々と重畳して配置されるp型有機半導体層8を形成する。p型有機半導体層8は、例えば蒸着法により形成可能である。p型有機半導体層8の膜厚は例えば100nm程度である。図5は、p型有機半導体層として用いられる有機半導体材料の化学構造の一例を示す図である。以下ではこの有機半導体材料をBP3Tと称する。BP3Tは発光性の有機半導体材料である。
【0021】
上述した有機発光トランジスタの製造方法は、ゲート電極2、ゲート電極3という2つのゲート電極が共通の導電膜から形成されるという特徴と、2つのゲート電極を得るためのパターニングはフォトリソグラフィー法という従来からよく用いられている簡便な方法で行えるという特徴と、を備えている。
【0022】
上述した有機発光トランジスタにおいては、ソース電極5とドレイン電極7とは材料の異なる異種電極とされる。ソース電極5の材料としてアルミニウムを選択した場合、その仕事関数は4.3eVである。また、ドレイン電極7の材料として金を選択した場合、その仕事関数は5.1eVである。すなわち、ソース電極5はドレイン電極7よりも仕事関数が小さい。それゆえ、ソース電極5からはそれに接するn型有機半導体層6に電子を注入しやすく、ドレイン電極7からはそれに接するp型有機半導体層8にホールを注入しやすい構造が実現される。なお、ソース電極5、ドレイン電極7の各々の材料は一例であり、上述した仕事関数の関係が満たされる限り、電極材料は特に限定されない。この本実施形態に係る有機発光トランジスタは、n型有機半導体層6とp型有機半導体層8の積層構造が用いられているので、ゲート電極の制御電圧による電界効果を利用してn型とp型のどちらのチャネルも形成可能である。特にp型チャネル形成時ではn型有機半導体層は半導体としてではなくゲート絶縁膜の一部として機能する。
【0023】
ここで、本実施形態に係る有機発光トランジスタの駆動方法と発光特性について詳細に説明する。本実施形態に係る有機発光トランジスタは、ソース電極5の電位を基準電位(グラウンド)として、ドレイン電極7の電圧をVD、ゲート電極2の電圧をVG1、ゲート電極3の電圧をVG2とするとき、以下の条件のもとで駆動される。
〔条件1〕 0<VD
〔条件2〕 0<VG1かつVG2<VD
【0024】
上述した条件1は、ソース電極5とドレイン電極7が異種材料であることに因る。すなわち、低仕事関数である材料(例えばアルミニウム)からなるソース電極5の良好な電子注入性と高仕事関数である材料(例えば金)からなるドレイン電極7の良好なホール注入性を積極的に利用して、n型有機半導体層6及びp型有機半導体層8に多量のキャリヤを注入させるための条件である。
【0025】
一方、上述した条件2は、ゲート電極2による駆動をn型駆動的に、ゲート電極3による駆動をp型駆動的にするための条件である。実際には、VG1とVG2が0からVDの電圧範囲にある場合は、n型駆動、p型駆動というよりもむしろ両極性駆動である。n型駆動とp型駆動をより明確に行うためには、条件2をさらに限定した、VD<VG1かつVG2<0という電圧範囲で駆動するとよい。条件2の電圧範囲の設定は、ここで用いているn型とp型の各有機半導体材料それぞれのゲート閾値電圧がともにほぼ0Vであることに基づいている。仮にそれらのゲート閾値電圧がそれぞれVnthおよびVpthであるならば、条件2は、Vnth<VG1かつVG2<VD+Vpth、と表せる。
【0026】
ここで、一実施例について説明する。基板1をガラス基板、各ゲート電極2、3をITOにより形成してそのゲート対向間隔を50μmとし、ゲート絶縁膜4を膜厚400nmのSiO2膜、ソース電極5をアルミニウム膜、ドレイン電極7を金膜、チャネル長を50μm、n型有機半導体層6をAC5CF3、p型有機半導体層8をBP3T、とした有機発光トランジスタを製造した。この実施例に係る有機発光トランジスタを、0V<VD<120V、0V<VG1<150V、かつ−100V<VG2<VDの範囲で動作させた。この範囲外である120V<VD、150V<VG1あるいはVG2<−100Vの場合にはゲートリークが大きくなって電界効果トランジスタとしての正常な機能が得られなかった。前記の動作範囲のうち、特に、80V<VD<120Vにおいて、50V<VG1<150Vではゲート電極2上が発光し、また−100V<VG2<VD−50Vではゲート電極3上が発光した。これら2つの領域における発光強度は、VDが大きいほど、またVG1あるいはVD−VG2の絶対値が大きいほど強かった。50V<VG1<150Vかつ−100V<VG2<VD−50Vでは、さらにゲート電極2とゲート電極3の対向部分に発光が認められた。
【0027】
図6は、本実施形態に係る有機発光トランジスタにおける発光部位を説明する模式平面図である。詳細には、図6(A)は上述した図1と同様の有機発光トランジスタの模式平面図であり、図6(B)は図6(A)に点線で示した部分を拡大して示した模式平面図である。図6(B)においては、発光部位と電極との位置関係をわかりやすくするために、n型有機半導体層6およびp型有機半導体層8の積層膜を省略してある。また、発光部位をわかりやすくするために発光部位10には網掛け模様が付されている。発光部位10は、ゲート電極2上ではドレイン電極7近傍の領域に、ゲート電極3上ではソース電極5近傍の領域に、そしてゲート電極2とゲート電極3の対向部分では前記の2つの領域における発光部位を直線的に結ぶ領域にある。発光部位10の形状は各領域ともに細い帯び状である。
【0028】
以下では、本実施形態に係る有機発光トランジスタの発光機構を説明する。最初に、発光機構の説明の基礎となる従来の有機発光トランジスタの発光機構を説明する。
図7は、従来例の有機発光トランジスタのn型有機半導体層とp型有機半導体層の積層膜の中における主キャリヤの流れを模式的に示す図である。詳細には、図7(A)はn型駆動の場合を、図7(B)はp型駆動の場合をそれぞれ表している。なお、説明の便宜上、この図7ではゲート絶縁膜やゲート電極などは省略してある。図7(A)では、ソース電極55から注入された電子51がドレイン電極57に流れ込み、また図7(B)では、ドレイン電極57から注入されたホール52がソース電極55に流れ込む。図中には明記されていないが、図7(A)ではドレイン電極57近傍にはホールが発生し、また図7(B)ではソース電極55近傍には電子が発生している。特に図7(B)では実際にはソース電極55近傍上のn型有機半導体層56にはその膜厚方向に相当量の電子が発生していると考えられる。そのため、それらの部分では電子とホールの再結合が起きて発光する。
【0029】
次いで、本実施形態に係る有機発光トランジスタの発光機構および発光方式について説明する。本実施形態に係る有機発光トランジスタの大きな特徴は、ゲート電極2とゲート電極3の対向構造に起因し、上述した図7(A)に示した状態と図7(B)に示した状態のそれぞれが近接して発生することである。
【0030】
図8は、図1におけるII−II線断面に対応した有機半導体層の模式断面図に電子とホールの流れを重ね書きした図である。ただし、説明の便宜上、ゲート絶縁膜などは省略してあるとともに、断面を表すハッチングが省略されている。実際には電子の流れとホールの流れは同じ面内にはないが、この図8では重ね書きして表現している。電子11の流れとホール12の流れは、同じ面内ではないが、ゲート電極2とゲート電極3の対向構造によって近接する面内に生じる。この場合、電子11とホール12とは、その負電荷と正電荷によって互いに引き合うことになる。
【0031】
図9は、図1におけるIII−III線断面に対応した模式断面図に電子とホールの分布と発光の様子を重ね書きした図である。ただし、説明の便宜上、断面を表すハッチングが省略されている。ゲート電極2上に発生した電子11とゲート電極3上に発生したホール12は、ゲート電極2とゲート電極3の対向距離が小さいときには、上記した図8において説明した引力によって互いに引き合い、その対向部分で再結合して発光する。
【0032】
発生する電子とホールの量はゲート電極に印加される電圧の絶対値にほぼ比例する。本実施形態に係る有機発光トランジスタにおける発光方式では、電子の発生量とホールの発生量をゲート電極2とゲート電極3でそれぞれ独立に制御できる。したがって、ゲート電極を1つしか持たない従来の有機発光トランジスタの発光方式と比較してキャリヤのバランス注入が容易である。また従来の発光方式においてバランス注入を実現するためにはゲート電極に印加される電圧をソース電極への印加電圧とドレイン電極への印加電圧の中間値に設定する必要があるという制限があった。これに対して本実施形態ではその制限がない。そのため本実施形態ではキャリヤ注入の絶対量を大きくすることが容易であり、発光強度の向上に多大な効果がある。さらに、ゲート電極2とゲート電極3のそれぞれに所定のゲート電圧を印加して電子とホールを発生させてから2つのゲート電極を同時にオープン状態あるいは反転電圧状態にすると、発生した電子とホールはゲート電極による電気的束縛から解放されて互いに引き合いゲート電極2とゲート電極3の対向部分で一瞬のうちに再結合する。すなわち、これによってゲート電極への印加電圧に所定の一定電圧を印加する方式より大きな発光強度が得られる。ゲート電極への印加電圧をパルス電圧にしてこの原理を利用すれば、高強度連続発光が得られる。また、本実施形態に係る有機発光トランジスタでは、ゲート電極2とゲート電極3の対向間隔が重要なパラメータの1つとなる。すなわち、その間隔が狭いほど2つのゲート電極上に発生した電子とホールの間に働く引力は大きくなって発光強度は向上する。
【0033】
以上のように、本実施形態によれば、ゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース電極、ドレイン電極および有機半導体を具備する有機発光トランジスタにおいて、ゲート電極を1つの面(共通面)上で2分割し、その2分割された各ゲート電極の対向間隔を比較的に狭くする(例えば20μm〜100μm程度)とすることにより、発光特性に優れ、かつ構造がより簡素化された有機発光トランジスタが実現される。本実施形態に係る有機発光トランジスタは、例えば表示装置、光通信などの高輝度・高強度の発光素子が必要とされる分野に応用することが期待される。さらにまた、有機レーザというこれまでにない新たな分野に展開されることも期待できる。
【0034】
なお、本発明は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上述した実施形態における各構成要素の材料、寸法などは一例であり、上記内容に限定されない。また、上述した実施形態におけるn型有機半導体層とp型有機半導体層との上下関係を入れ替えることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】有機発光トランジスタの構造を説明する模式平面図である。
【図2】図1に示す有機発光トランジスタのII−II線に対応する模式断面図である。
【図3】図1に示す有機発光トランジスタのIII−III線に対応する模式断面図である。
【図4】n型有機半導体層として用いられる有機半導体材料の化学構造の一例を示す図である。
【図5】p型有機半導体層として用いられる有機半導体材料の化学構造の一例を示す図である。
【図6】有機発光トランジスタにおける発光部位を説明する模式平面図である。
【図7】従来例の有機発光トランジスタのn型有機半導体層とp型有機半導体層の積層膜の中における主キャリヤの流れを模式的に示す図である。
【図8】図1におけるII−II線断面に対応した有機半導体層の模式断面図に電子とホールの流れを重ね書きした図である。
【図9】図1におけるIII−III線断面に対応した模式断面図に電子とホールの分布と発光の様子を重ね書きした図である。
【符号の説明】
【0036】
1…基板、2…ゲート電極(第1ゲート電極)、3…ゲート電極(第2ゲート電極)、4…ゲート絶縁膜、5…ソース電極、6…n型有機半導体層、7…ドレイン電極、8…p型有機半導体層、10…発光部位、11…電子、12…ホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置された第1ゲート電極と、
前記基板上に、前記第1ゲート電極と離間して配置された第2ゲート電極と、
前記第1ゲート電極及び前記第2ゲート電極の少なくとも一部を覆い、前記基板上に配置されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に配置された第1ソース/ドレイン電極と、
前記第1ソース/ドレイン電極の少なくとも一部を覆い、かつ前記第1ゲート電極及び前記第2ゲート電極の各々と重畳して前記ゲート絶縁膜上に配置された第1有機半導体層と、
前記第1有機半導体層上に配置された第2ソース/ドレイン電極と、
前記第2ソース/ドレイン電極の少なくとも一部を覆い、かつ前記第1ゲート電極及び前記第2ゲート電極の各々と重畳して前記第1有機半導体層上に配置された第2有機半導体層と、
を備える、有機発光トランジスタ。
【請求項2】
前記第1有機半導体層がn型有機半導体層、前記第2有機半導体層がp型有機半導体層である、
請求項1に記載の有機発光トランジスタ。
【請求項3】
前記第1ソース/ドレイン電極の仕事関数が前記第2ソース/ドレイン電極の仕事関数よりも小さい、
請求項1又は2に記載の有機発光トランジスタ。
【請求項4】
前記第1ゲート電極と前記第2ゲート電極とが同じ材料からなる、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の有機発光トランジスタ。
【請求項5】
前記ソース電極と前記ドレイン電極とが、平面視において離間して配置される、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の有機発光トランジスタ。
【請求項6】
前記ソース電極及び前記ドレイン電極の各々の長手方向と、前記第1ゲート電極及び前記第2ゲート電極の各々の長手方向とが交差する、
請求項1乃至5の何れか1項に記載の有機発光トランジスタ。
【請求項7】
前記第1ゲート電極上であって前記第2ソース/ドレイン電極近傍の第1領域、前記第2ゲート電極上であって前記第1ソース/ドレイン電極近傍の第2領域、及び前記第1ゲート電極と前記第2ゲート電極との相互間を結ぶ第3領域の各々において発光を生じる、
請求項1乃至6の何れか1項に記載の有機発光トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−182302(P2009−182302A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22673(P2008−22673)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】