説明

有機薄膜トランジスタ及びその製造方法、並びに有機トランジスタアレイ、表示装置

【課題】性能が高くばらつきの少ない有機薄膜トランジスタ、該有機薄膜トランジスタを有する有機トランジスタアレイおよび表示装置を提供する。
【解決手段】ドレイン電極4の電極表面の一部に、周囲の電極表面よりも表面エネルギーが高い高表面エネルギー部17を形成し、高表面エネルギー部17を含むソース電極3及びドレイン電極4のチャネル部に、インクジェット法により有機半導体材料と溶媒を含むインク18を塗布して有機半導体層1を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタ及びその製造方法、並びに前記有機薄膜トランジスタを用いた有機トランジスタアレイ及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料を用いた有機薄膜トランジスタ(TFT)は、以下の利点があることから、精力的に研究されている。
1.材料構成の多様性、製造方法、製品形態等でフレキシビリティが高いこと;
2.大面積化が容易であること;
3.単純な層構成が可能であり、製造プロセスが単純化できること;
4.安価な製造装置を用いて、製造できること;
【0003】
この有機TFTを構成する電極や絶縁膜、半導体層などの成膜方法としては、印刷法、スピンコート法、浸漬法等が挙げられ、有機TFTは、従来のSi半導体材料を用いたTFTより桁違いに安く製造することができる。
【0004】
また、この有機TFTを集積した有機TFTアレイを作製し、表示素子を駆動すれば、表示装置が得られる。この表示装置は、上記有機TFTの特性を備えたこれまでにない付加価値を有するものとなる。例えば非特許文献1などでは、印刷工程で作製した有機TFTアレイを電気泳動素子と組み合わせ、フレキシブルな表示装置を作製している。このような特性は、曲面を有する壁への展示パネルへの適用性や、携帯ディスプレイとしての利便性、また、落としたりした場合に壊れにくい(耐衝撃性)といった利点に直結する。さらには、印刷工程で作製することによるコストメリットも反映される。
【0005】
有機TFTを作製する際には、有機半導体材料からなる有機半導体層をパターン形成することが必須である。有機半導体層をパターン形成しないで、有機TFTを集積化すると、チャネル領域以外に成膜された有機半導体層の影響で、トランジスタの動作時にオフ電流が発生し、消費電力が上昇する。また、画素を表示する場合には、クロストークの原因にもなる。なお、Si半導体材料を用いたTFTを作製する際に、Si半導体材料は、フォトリソグラフィー・エッチングにより、パターン形成されている。
【0006】
有機半導体層のパターン形成のみに着目すれば、フォトレジストを塗布し、所望のパターンを露光・現像し、レジストパターンを形成し、これをエッチングマスクとしてエッチングを行い、レジストを剥離してパターン形成することは可能である。しかしながら、有機半導体材料として、高分子材料を用いる場合には、高分子材料上にフォトレジストを塗布してパターン形成すると、トランジスタ特性が劣化することがある。フォトレジストとしては、ナフトキノンジアジドを感光基としたノボラック系樹脂を、キシレン、セロソルブ系溶剤等の有機溶媒に溶解させたものが用いられており、高分子材料は、フォトレジストに含まれる有機溶媒等に溶解することが多い。また、有機半導体材料として、ペンタセン等の結晶性分子を用いる場合も、程度の差はあるものの、同様に、トランジスタ特性が劣化することがある。さらに、レジストを剥離する際に用いられるエチレングリコールモノブチルエーテル、モノエタノールアミン等の剥離液により、ダメージを受けたり、レジストを剥離した後の純水リンスにより、ダメージを受けたりすることもある。以上のことから、従来のフォトリソグラフィー・エッチングによる有機半導体層のパターン形成が困難であることがわかる。
【0007】
一方、他のパターン形成方法としては、インクジェット法が知られている。インクジェット法は、パターンを直接描画できるため、材料使用率を格段に向上させることができ、製造プロセスの簡略化、コストの低下を実現できる可能性がある。そのため、有機半導体材料として、有機溶媒に可溶な材料を用いると、有機半導体材料の溶液(有機半導体インク)を調製することができるため、インクジェット法により有機半導体層をパターン形成することができる。
【0008】
従来、インクジェット法による有機半導体層の形成には、有機溶剤への溶解性が比較的高い高分子材料が適用されてきた。しかしながら、このような可溶性の高分子有機半導体材料はキャリア移動度が低いという問題がある。
【0009】
有機半導体層のキャリア移動度は、形成される有機半導体材料膜中における分子の配列により決まってくるが、可溶性の高分子材料は分子の配向状態の秩序性(結晶性)が充分高くないためである。また、分子間力を高めることによって高次の秩序性を有する結晶性高分子材料では高いキャリア移動度が大きいものも報告されてはいるものの、その分子間力の要因となる自己凝集力により一般有機溶剤の溶解性が乏しいという問題がある。このように高分子材料では一般的にキャリア移動度と溶解性の両立は難しい。
【0010】
一方、真空蒸着法のようなドライプロセス適用した低分子系材料を用いた有機半導体膜が多数報告されている。これらは、高い結晶性薄膜となりやすく、キャリア移動度が大きいことが知られている。
【0011】
最近になって、有機溶剤に対する溶解性を向上させた塗布型の低分子材料も開発されており(非特許文献2、非特許文献3参照。)、ウェットプロセスによって高い結晶性を有する有機半導体層が形成され、キャリア移動度が大きいことが報告されている。
【0012】
しかしながら、非特許文献2,3に示される低分子系有機半導体材料を、該非特許文献2,3記載の遠心塗工法やブレード塗工法でなく、仮にインクジェット法により塗布成膜して有機半導体層を形成しても、良好な特性を得ることは難しい。
【0013】
一般に、インクジェット法のような微小液滴塗布法により滴下された液滴は、溶媒が気化蒸発して乾燥する過程においては、液滴周縁部における蒸発が中央部における蒸発よりも速く、不均一な膜プロファイルを与えることが知られている(非特許文献4参照。)。加えて、分子量の小さい低分子材料は、一般に材料自身の凝集力が強いため、インクジェット法で吐出された微小液滴の場合、溶媒蒸発が即座に進行して過飽和度が上昇し、核生成が多数生じるため、サブミクロンサイズの微小な結晶核の集合体が分散した状態になりやすいことが知られている(特許文献1参照。)。そのため、膜としての均一性および連続性が得られなかったり、有機半導体層の結晶性を向上させることができないため、特性を発現させることが困難であるという課題がある。
【0014】
上記の課題に対して、例えば、特許文献2では、有機半導体膜の形成領域を囲む隔壁層を設け、滴下した液体の一部分を早く乾燥させることで、ドメイン境界のない薄膜結晶を製造する方法を開示している。しかしながら、上記の隔壁層を設ける方法は、製造工程を増加や複雑化を招くことが懸念される。また、上記の特許文献1では、一つの種結晶から大きな結晶ドメインを形成する技術的な情報が十分開示されているとは言い難い。
【0015】
結晶性低分子有機半導体材料を溶液から結晶成長させ有機半導体層を形成する方法で、結晶粒を高配向させる方法としては、例えば、非特許文献5では、ソース電極およびドレイン電極の形状を円形にすることで、溶媒の乾燥方向に結晶粒を配向できることが示されている。上記の方法では、インクジェット法を用いて有機半導体層を形成しているが、電極形状が同心円である場合の特有の方法であるため、電極形状が変わると同じ効果を発揮できるとは言えない。また、トランジスタを集積化して電子デバイスに応用する際には、電極の形成方法や配線方法を複雑にする可能性がある。
【0016】
また、上記の方法はいずれも、溶液から結晶膜を形成する過程において生じる結晶粒界を確実に低減する方法については何ら言及されていない。
【0017】
以上のことから、インクジェットプロセスを用いて簡便な方法で結晶性有機半導体層を形成し、特性に優ればらつきの少ない有機薄膜トランジスタについてはいまだ不十分なものにとどまっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、以上の従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、インクジェット法により塗布型低分子有機半導体材料(有機半導体インク)を塗布し、チャネル部で結晶粒界が少なく、結晶粒が高配向した有機半導体層を簡便に製造することで、性能が高くばらつきの少ない有機薄膜トランジスタ、該有機薄膜トランジスタを有する有機トランジスタアレイおよび表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記課題を解決するために提供する本発明は、以下の通りである。
〔1〕 基板(基板(6))上に、ソース電極(ソース電極(3))と、ドレイン電極(ドレイン電極(4))と、インクジェット法により形成され前記ソース電極及び前記ドレイン電極にコンタクトする有機半導体層(有機半導体層(1))と、を備え、前記ソース電極、ドレイン電極の少なくともいずれか一方は、その電極表面の一部に、周囲の電極表面よりも表面エネルギーが高い高表面エネルギー部(高表面エネルギー部(17))を有し、前記有機半導体層の端部が前記高表面エネルギー部に接していることを特徴とする有機薄膜トランジスタ(図4)。
〔2〕 前記ソース電極、ドレイン電極のいずれか一方が前記高表面エネルギー部を複数有することを特徴とする前記〔1〕に記載の有機薄膜トランジスタ。
〔3〕 前記基板上に、ゲート電極(ゲート電極(5))と、ゲート絶縁膜(絶縁膜(2))と、を備えることを特徴とする前記〔1〕または〔2〕に記載の有機薄膜トランジスタ。
〔4〕 前記高表面エネルギー部は、前記ソース電極またはドレイン電極において下層である前記ゲート絶縁膜を露出させた開口領域であることを特徴とする前記〔3〕に記載の有機薄膜トランジスタ。
〔5〕 基板上に、ソース電極と、ドレイン電極と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極にコンタクトする有機半導体層と、を備える有機薄膜トランジスタの製造方法であって、前記ソース電極、ドレイン電極の少なくともいずれか一方の電極表面の一部に、周囲の電極表面よりも表面エネルギーが高い高表面エネルギー部を形成し、前記高表面エネルギー部を含む前記ソース電極及びドレイン電極のチャネル部に、インクジェット法により有機半導体材料と溶媒を含むインクを塗布して前記有機半導体層を形成することを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法。
〔6〕 基板上に、ゲート電極、ゲート絶縁膜、前記ソース電極及び前記ドレイン電極、前記高表面エネルギー部、前記有機半導体層をこの順番で形成することを特徴とする前記〔5〕に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
〔7〕 前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタが複数配置されてなることを特徴とする有機トランジスタアレイ。
〔8〕 前記〔7〕に記載の有機トランジスタアレイを備えることを特徴とする表示装置(電気泳動表示装置100、図9)。
【発明の効果】
【0020】
本発明の有機薄膜トランジスタによれば、結晶粒界が少なく、配向性の高い有機半導体層を有するので、優れたトランジスタ特性を得ることができる。
また本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法によれば、ソース電極、ドレイン電極のいずれか一方に高表面エネルギー部を設けることで、インクジェット法により吐出された有機半導体インクの着弾後の乾燥過程における結晶成長を制御することが可能となるので、結晶粒界が少なく配向性の高い有機半導体層を実現した有機薄膜トランジスタを得ることが可能となる。
また、本発明の有機薄膜トランジスタを複数配置することで、有機トランジスタアレイを得ることが可能となる。
さらに、本発明からなる有機トランジスタアレイと画素表示素子を組み合わせることで、安価で可撓性に優れた表示装置を作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】有機薄膜トランジスタの概略構造例を示す断面図である。
【図2】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法で用いるインクジェット装置及び微小液滴の挙動を観察するための観察装置の構成を示す概略図である。
【図3】有機半導体インクの液滴から結晶成長が進行する様子を示す概略図である。
【図4】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法において有機半導体材料の結晶成長の様子を上から観察したときの模式図である。
【図5】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法において有機半導体材料の結晶成長途中段階の液滴状態を示す断面模式図である。
【図6】本発明の有機薄膜トランジスタにおける高表面エネルギー部の形状及び配置例を示す概略図である。
【図7】実施例1において有機半導体インクの乾燥過程における結晶化の様子を観察した結果を示す図である。
【図8】実施例1において成膜した有機半導体層の顕微鏡観察結果および偏光観察結果を示す図である。
【図9】本発明に係る表示装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
図1は、有機薄膜トランジスタの概略構造例を示す断面図である。
図1に示すように、有機薄膜トランジスタには、基板(6)上で、絶縁層(2)により空間的に分離された第一の電極(3)と第二の電極(4)および第三の電極(5)が設けられており、第三の電極(5)への電圧印加により、有機半導体層(1)を流れる電流を制御することができる。第一の電極(3)および第二の電極(4)をそれぞれ、ソース電極、ドレイン電極と呼ぶ。また、第三の電極(5)をゲート電極と呼ぶ。
【0023】
また、図1(A)はボトムコンタクトボトムゲート型のもの、(B)はボトムコンタクトトップゲート型のもの、(C)はトップコンタクトボトムゲート型のもの、(D)はトップコンタクトトップゲート型のもので、いずれも電界効果型トランジスタ(FET)である。このうち、本発明は、図1(A),(B)のボトムコンタクト型の有機薄膜トランジスタに適用可能である。
【0024】
ここで、本発明に用いられる基板(6)としては、例えば、金属基板、ガラス基板、プラスチック基板、シリコン基板等が挙げられる。一連の製造工程において寸法変化が少ない基板は製造工程を容易にすることができる。また、導電性基板を用いることにより、ゲート電極と兼ねること、さらには、ゲート電極と導電性基板とを積層した構造にすることもできる。
【0025】
プラスチック基板を用いると、完成するデバイスにフレキシビリティ、軽量化、安価、耐衝撃性などの特性を与えることができる。そのプラスチック基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースセテートポロピオネート等からなる基板が挙げられる。
【0026】
本発明に用いられる絶縁膜(2)の材料としては、種々の絶縁膜材料を用いることができる。例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル等の無機系絶縁膜材料が挙げられる。また、有機絶縁膜としてポリイミド、ポリアミドイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、無置換またはハロゲン原子置換ポリパラキシリレン、ポリアクリロニトリル、シアノエチルプルラン、ポリメチルメタクリレート、シルセスキオキサン、ポリビニルブチラール等が挙げられる。
【0027】
なお、絶縁性を向上させるために、有機材料に無機材料を添加してもよい。絶縁膜の作製方法は、その種類に応じて適宜選択できる。例えば、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、蒸着法、スプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、ブレードコート法、バーコート法、印刷法、ディスペンサ法、インクジェット法などを用いることができる。
【0028】
本発明に用いられる第一の電極(3)、第二の電極(4)、および、第三の電極(5)は、導電性材料であれば、特に限定されない。
具体的には、金、白金、ニッケル、クロム、アルミニウム、銅、銀、チタン、鉄、アンチモン、鉛、タンタル、インジウム、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの合金、インジウム酸化物などの導電性金属酸化物、あるいは、ドーピング等で導電率を向上させた無機半導体及び有機半導体、例えば、シリコン、ゲルマニウム、グラファイト、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリエチエニレンビニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体などが挙げられる。また、第一の電極(3)と第二の電極(4)は、有機半導体層との接触面において、電気抵抗の少ない材料で形成することが望ましい。
【0029】
電極の形成方法としては、上記材料を原料として蒸着やスパッタリング等の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフィー法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅等の金属箔上に熱転写、インクジェット等によるレジストを用いてエッチングする方法がある。
【0030】
また導電性ポリマーの溶液あるいは分散液、導電性微粒子分散液を直接インクジェットによりパターニングしても良いし、塗工膜からリソグラフィーやレーザーアブレーション等により形成しても良い。さらに導電性ポリマーや導電性微粒子を含むインク、導電性ペースト等を凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等の印刷法でパターニングする方法も用いることができる。
【0031】
また、本発明の有機薄膜トランジスタは、必要に応じて各電極からの引き出し電極を設けることができる。また、本発明の有機薄膜トランジスタは、水分、大気及びガスからの保護、または、デバイスの集積の都合上の保護等のため、必要に応じて保護層を設けることもできる。
【0032】
つぎに、インクジェット法を用いて有機半導体層を形成する方法について説明する。
本発明で用いられる有機溶媒としては、インクジェットのノズルから液滴を安定に吐出させうる溶媒から選ばれる。
【0033】
安定に吐出させるための条件としては、少なくとも、溶媒の乾燥速度と、溶質の溶解度に対するインクの溶質濃度の二点から検討する必要がある。
乾燥速度については、過度に高い蒸気圧すなわち、沸点が比較的低い溶媒は、インクジェットのノズル周辺での急激な溶媒乾燥によって溶質が析出し、ノズルの目詰まりが生じるという問題が発生するため、工業的製造において不適切である。したがって、一般にインクジェット法に用いる溶媒としては高沸点のものがよいとされているが、本発明においては、少なくとも150℃以上の沸点を有する溶媒を含むことが望ましい。さらに望ましくは、少なくとも200℃以上の沸点を有する溶媒を含むことである。
【0034】
また、インク溶媒に対する溶質の溶解度としては、本発明で用いられる有機半導体材料を少なくとも0.1重量%以上溶解させる溶媒であることが望ましい。さらに望ましくは0.5重量%以上溶解させる溶媒である。上記を満たす溶媒としては、例えば、クメン、シメン、メシチレン、2,4−トリメチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、アミルベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、ニトロベンゼン、ベンゾニトリル、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、テトラリン、1,5−ジメチルテトラリン、シクロヘキサノン、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0035】
なお、本発明に用いられる塗布型低分子有機半導体材料としては、一般的に知られる有機半導体材料を用いることができ、例えば、下記(式1)に示すような有機溶媒への溶解性を付与する溶解性基を有する芳香族化合物が好ましい。
【0036】
【化1】

(ここで、Arは複素環を含んでよいアリール基、ポルフィリン環基、発色性アゾ残基等のπ型共役性基および芳香族基を表し、Rは、Ar基に結合する溶解性基を表し、n、m、自然数である。)
【0037】
溶解性基としては例えば、アルキル基、アルコキシ基、チオアルキル基、トリアルキルシリル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリル基、アルアリル基、アリルアルキル基、アリロキシ基、パーフロロアルキル基、パーフロロアルケニル基、アルキルカルボニル基、アルキルカルボキシル基などが挙げられる。
【0038】
芳香族基であるArは、複素環を含んでもよい多環縮合などが挙げられ、具体例としては例えば、下記式(A)などを部分構造として有するものが挙げられる。
【0039】
【化2】

【0040】
溶解性基であるRの具体例としては例えば下記式(B)の官能基が挙げられる。ここで、a,b,cはそれぞれ独立に1から30の整数である。溶解性の効果と汎用性の面から1から22の整数の範囲がより好ましい。
【0041】
【化3】

【0042】
本発明に用いられる塗布型低分子有機半導体材料として具体的な構造として下記式(C)のものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
【化4】

【0044】
図2に、本発明に係る有機薄膜トランジスタの製造方法において用いたインクジェット装置および微小液滴の挙動を観察するための装置の構成例を示す。
【0045】
このうち、図2(A)は、本発明で用いたインクジェット装置および微小液滴の挙動を観察するための装置の構成例(1)である。
インクジェット装置(インクジェット塗布装置ともいう)は、インクジェットヘッド(7)、電圧印加コントローラ(図示しない)、ステージ(8)からなる。
【0046】
微小液滴の挙動を観察装置は、ズームレンズ(10)とCMOSイメージセンサ収納のカメラ本体(11)からなる高速度カメラユニット、撮影コントローラ(図示しない)、照明手段(12)からなる。なお、インクジェットヘッド(7)から吐出される微小液滴の着弾の様子、および、乾燥過程を観察する場合には、図2(B)にように、高速度カメラユニットおよび照明手段(12)を液滴の飛翔方向から約45度の角度をもって配置し、液滴が着弾する基板(9)上でピントを合わせるようにする。
【0047】
一般に、インクジェットに用いられる微小液滴の液量は数ピコリットルオーダーであり、液滴のサイズは数十μmとなるが、ズームレンズ(10)は最大1000倍まで拡大することができるため、液滴の微小な変化を詳細に観察することができる。
【0048】
また、カメラ本体(11)は最大24000fpsの解像度で録画することが可能であり、吐出された微小液滴の乾燥過程を撮影することで、乾燥時間を調べることができる。また、微小液滴の挙動だけでなく、溶質である低分子材料の析出や結晶化の様子も録画することができる。高速度カメラユニットおよび照明手段(12)に偏光子を入れて偏光観察をすることも可能であるため、結晶の異方性を観察することもできる。
【0049】
また、図2(C)に示すように、高速度カメラユニットとインクジェットヘッドを平行に配置してもよい。インクが基板上に着弾後、ステージ(8)を移動させ、着弾したインクをカメラの視野に移動させることで、直上から乾燥過程や結晶成長の様子を観察することもできる。
【0050】
また、安定にインクを吐出するための印加電圧の条件は、液滴の飛翔状態を観察することで決めることができる。例えば、図2(D)に示すように、液滴の飛翔方向に対して垂直にカメラと照明を配置するとよい。このときの光源は、ストロボ発光するLEDとなっており、インクジェットヘッド(7)に印加する電気信号と同期した信号を光源に送ることで、インクの吐出とLEDの発光を同期させることが可能である。この状態で、一定の周波数でインクを吐出し、飛翔中の液滴の影をカメラ本体(11)で撮影する。またこの飛翔液滴の形状を球形で見積もって液量を計算することができる。なお、液量を見積もる方法としては、この他に、インクの滴下数とインクの重量から一滴あたりの重量および体積を計算してもよい。
【0051】
本装置では、微小液滴の着弾後の様子を直接観察できることから、実際のインクの乾燥時間を測定することができる。また、乾燥にともなう溶質の析出や結晶化の過程を直に観察できることから、微小液滴そのものの挙動を正確に把握することが可能である。
【0052】
一般に、溶液から良質な結晶を得るためには、溶媒蒸発による過飽和状態での結晶核の発生後に、更なる結晶核の生成よりも結晶成長の方が優先的に生じる状態にすればよいことが知られている。微小液滴において、このような状態を実現するためには、結晶核の発生頻度を制御することが非常に重要であり、そのためには溶液の濃度上昇速度、つまりは溶媒の蒸発速度を制御することが重要となる。溶媒の蒸発速度に影響する因子としては、溶媒の乾燥性やインクの濡れ拡がりによる表面積の変化、溶質の溶解度などがある。
【0053】
図3に、上記因子を効果的に制御し、結晶成長が発生する例を示す。
図3において、(A−1)〜(A−4)は、インクジェットから吐出され着弾した微小液滴の乾燥過程および結晶成長の様子を、図2(C)の配置の装置により実際に観察した結果である。また、(B−1)〜(B−4)は、インクの乾燥および結晶成長の様子をその真上から観察したときの模式図を示している。また、(C−1)〜(C−4)は、インクの乾燥および結晶成長の様子をその真横から観察したときの模式図を示している。
【0054】
インクジェットにより塗布されたインクの液滴(13)の形状は、インクに対する濡れ性がほぼ均一な単一表面の場合、平面視にてほぼ円形となる(図3(A−1),(B−1))。また、複数種の表面にまたがって塗布される場合も、濡れ性に大きな差が無い場合には、概ね円形もしくは楕円形となる。
【0055】
このような場合には、液滴の周辺部において、溶質濃度がより高くなるために、結晶核(14)は液の周辺部より析出し始める(図3(A−2),(B−2),(C−2))。その後、溶媒の蒸発と結晶成長が進行するにつれ、液滴の周辺から中心部に向かって結晶(15)が成長していく様子が確認できる(図3(A−3),(B−3),(C−3))。これは、低分子有機半導体材料の自己凝集力が強いためで、安定な結晶核が形成され析出が始まると、溶液中の分子が次々に結晶に取り込まれ大きな結晶へと成長していくからである。その結果、放射状に配向した結晶膜(16)が得られることがわかった(図3(A−4),(B−4),(C−4))。
【0056】
このようにインクジェット法により滴下された液滴中の溶質挙動は本質的に不均一であり、結晶成長に影響する溶質濃度に勾配が存在するため、結果として得られる結晶膜も、明確な結晶粒界を多数含有したものになる。このような結晶粒界は微視的には、膜の連続性を損なう空隙や分子配列の乱れた箇所であって、キャリアトラップの原因となり、移動度の低下や素子間の特性ばらつきの原因となると考えられる。
【0057】
本発明では、電極表面に表面エネルギーの高い領域を局所的に設けることで、この溶質濃度の勾配を積極的に制御し、結晶粒界の少ない良質な結晶膜を形成することに成功した。
【0058】
図4に、本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法において有機半導体材料の結晶成長の様子を上から観察したときの模式図を示す。
本発明では、図4(D−1)に示すように、ドレイン電極(4)上に周囲の電極表面よりも表面エネルギーの高い領域である高表面エネルギー部(17)を設けている。
これにより、高表面エネルギー部(17)を含むソース電極(3)及びドレイン電極(4)のチャネル部に、インクジェット法により有機半導体材料と溶媒を含む有機半導体インク(18)の液滴を着弾させて塗布すると、図4(D−2)〜(D−3)に示すように液滴の体積が収縮していく乾燥過程で、有機半導体インク(18)の液滴が高表面エネルギー部(17)の影響を受け、図4(D−3)のように、その形状として略円形の外周から外側に突出した凸部(19)を持たせることが出来る。すなわち、有機半導体インク(18)の液滴は、有機半導体インク(18)の乾燥に伴い当初は円形のまま径が小さくなっていく(図4(D−2))。そして、その円形の外周が高表面エネルギー部(17)のところまで縮んでくると、その円形の外周において有機半導体インク(18)は高表面エネルギー部(17)と接する外周部分ではそれまでよりも濡れ性のよい状態となり、それ以外の外周部分(高表面エネルギー部(17)と接していない外周部分)ではそれまでと同じ程度の濡れ性の状態となる。ついで、さらに有機半導体インク(18)の乾燥が進むと、その円形の外周のうち、高表面エネルギー部(17)と接していない外周部分では円形を維持するように径が小さくなっていくのに対して、高表面エネルギー部(17)と接している外周部分では該高表面エネルギー部(17)の全領域を有機半導体インク(18)が濡らすようになるため、有機半導体インク(18)の液滴形状として円形の外周から高表面エネルギー部(17)が飛び出している領域に対応して凸部(19)を形成するようになる。
そしてそのような液滴形状を呈する結果、さらに有機半導体インク(18)の乾燥が進行すると、凸部(19)で結晶核が発生し、ついで図4(D−4)〜(D−6)に示すように、有機半導体材料の結晶(14)の成長が凸部(19)からソース電極(3)側に進行し、最終的にドレイン電極(4)からソース電極(3)にまたがる状態の、結晶粒界の少ない結晶膜からなる結晶性の有機半導体層(1)を得ることができる。またこのとき、有機半導体層(1)は、その端部が高表面エネルギー部(17)に接した状態で形成されている(図4(D−6))。
【0059】
図5に、図4(D−3)に示す液滴状態のときの断面模式図を示す。
有機半導体インク(18)の液滴のうち、凸部(19)では、体積に対して表面積が相対的に大きな状態となるため、溶質濃度が上昇する。その結果、凸部(19)は局所的に溶質濃度が高い領域となり、凸部(19)から結晶核が先行して発生し、さらに該結晶核から優先的に結晶成長することが可能となり、結晶粒界の少ない有機半導体層(1)を得ることができたと考えられる。
【0060】
なお、高表面エネルギー部(17)は、電極表面の表面改質や電極形状に開口部を設けて絶縁膜表面を露出させたりするなどして、形成することができる。このうち、電極表面の改質方法としては、各種アルカンチオールによる処理が可能である。具体的には、飽和もしくは不飽和アルキルチオール、パーフルオロアルキルチオール、置換又は無置換のベンゼンチオールなどが挙げられる。これらをインクジェット法などで選択処理することで処理した面を低表面エネルギー化することができ、未処理面を相対的に表面エネルギーが高い領域として高表面エネルギー部(17)とすることができる。
また、電極形状による方法としては、インクジェット法などによって開口部を有する電極形状を作製したり、フォトリソグラフィープロセスによって形成したりするとよい。これらによって絶縁膜表面を露出させることで、高表面エネルギー部(17)を形成することができる。すなわち、高表面エネルギー部(17)は、ソース電極(3)またはドレイン電極(4)において下層である絶縁膜(2)を露出させた開口領域となっている。
【0061】
また、高表面エネルギー部(17)は、ソース電極(3)上に形成してもドレイン電極(4)上に形成してもよく、いずれか一方に形成する。また、1つの電極(ソース電極(3)またはドレイン電極(4))上に、複数の高表面エネルギー部(17)を配置しても良い。これにより、さらに安定して、結晶粒界が少なく配向性の高い有機半導体層(1)を形成することができる。
【0062】
上記の方法によって形成される高表面エネルギー部(17)の形状は、有機半導体インクの液滴の乾燥過程においてその液滴に凸部(19)を形成させるような形状であれば特に限定されない。例えば、図6(F−1)に示すように、チャネル側に底辺が配置され該チャネル長手に対して垂直な方向(図中左右方向)に頂点を有する三角形がよい。あるいは、図6(F−2)に示すように、チャネル長手に対して垂直な方向(図中左右方向)に長辺を有する長方形でもよいし、図6(F−3)に示すように、チャネル長手に対して垂直な方向(図中左右方向)に長軸を有する楕円形でもよい。
【0063】
また、本発明において、良質な有機半導体層(1)を得るためには、電極表面(高表面エネルギー部(17)の周囲の電極表面)の表面エネルギーは低い方がよいが、結晶成長の点からは低すぎても悪影響となる。具体的には、有機半導体インク(18)の液滴接触角が100°以下であることが好ましい。
【0064】
また、電極表面の高表面エネルギー部(17)の表面エネルギーは電極表面の表面エネルギーより高い必要があり、具体的には、有機半導体インク(18)の液滴接触角として10°以上の差があることが好ましい。また、電極表面の高表面エネルギー部(17)の表面エネルギーとしては、具体的には有機半導体インク(18)の接触角が50°以下であることが好ましく、40°以下であることがさらに好ましい。
【0065】
本発明の有機薄膜トランジスタは、集積化することにより電子デバイスに応用できる。例えば、液晶、有機電界発光、電気泳動などの画像表示素子を駆動するための素子として利用でき、これらを集積化することにより、いわゆる「電子ペーパー」と呼ばれるディスプレイを製造することが可能である。また、ICタグ等の電子デバイスとして、本発明の機能性有機薄膜を集積したICを利用することも可能である。
【実施例】
【0066】
以下に試験例、実施例および比較例を示して、本発明をさらに詳細に説明する。
(試験例)
絶縁膜(2)と、電極(ソース電極(3)、ドレイン電極(4))について、各種表面処理方法を検討し、その表面性の影響について検討を行った。
表1は、各種表面処理を行った電極と絶縁膜について、溶媒A,B,Cそれぞれの接触角を測定した結果である。なお、電極については、表面処理なしのもの(Au)、パーフルオロベンゼンチオール(PFBT)で処理したもの(Au+PFBT処理表面)、パーフルオロデカンチオール(PFDT)で処理したもの(Au+PFDT処理表面)について溶媒接触角を測定し、絶縁膜(2)については、ポリイミド(CT4112)表面、シリコン酸化膜について表面処理をしないもの(シリコン酸化膜)、シリコン酸化膜について各種シランカップリング剤(HMDS、C8TS、FC8TS)で処理したもの(HMDS処理表面、C8TS処理表面、FC8TS処理表面)について溶媒接触角を測定した。
【0067】
【表1】

【0068】
(試験例1)
以下の手順で、本発明の有機薄膜トランジスタを模した電極及び高表面エネルギー部を形成し、有機半導体層の結晶の配向度を評価した。
(処理1) 基板(6)上に下記(i)〜(v)の絶縁膜(ゲート絶縁膜)(2)を別々のサンプルとして形成した。
(i)ポリイミド(CT4112);ポリイミド溶液のCT4112(京セラ化学製)をスピンコート法により塗布し、プリベークし、その後に200℃で焼成することにより、膜厚500nmの絶縁膜(ゲート絶縁膜)(2)を形成した。
(ii)シリコン酸化膜;Nドープのシリコンウェハーの基板(6)上に、膜厚300nmの熱酸化膜(シリコン酸化膜)を絶縁膜(2)として形成した。
(iii)HMDS処理表面;(ii)のシリコン酸化膜について更に酸化膜表面を酸素プラズマで洗浄後、気相にてHMDS(ヘキサメチルジシラザン)処理を施した。
(iv)C8TS処理表面;(ii)のシリコン酸化膜について更に酸化膜表面を酸素プラズマで洗浄後、気相にてシランカップリング剤C8TSの処理を施した。
(V)FC8TS処理表面;(ii)のシリコン酸化膜について更に酸化膜表面を酸素プラズマで洗浄後、気相にてシランカップリング剤FC8TSの処理を施した。
(処理2) ついで、それぞれの絶縁膜(2)上に、公知のフォトリソグラフィーにより、チャネル長10μmのソース電極(3)及びドレイン電極(4)からなり、図6(F−1)に示す三角形の開口部(高表面エネルギー部(17))をドレイン電極(4)に有する膜厚100nmのAu電極パターンを形成した。また、比較用に、高表面エネルギー部(17)を形成しないサンプルも作製した。
(処理3) 下記構造式(D)で示される化合物を溶媒A,B,Cのいずれかに1重量%溶解した有機半導体インク(以下、インク)(18)を、インクジェット法によってチャネル部に滴下し、結晶化させて有機半導体層(1)を形成した。
【0069】
【化5】

【0070】
表2に、各サンプルの有機半導体層の結晶の配向度を評価した結果を示す。なお、結晶の配向度は、有機半導体層(1)について顕微鏡観察および偏光観察により評価し、比較用サンプル(高表面エネルギー部(17)を設けないサンプル)に比べて、配向度の高い結晶が得られた場合を記号○で表し、有意差が認められない場合を記号×で表している。
電極としてAu形成ままでは、すべてのサンプルで比較用サンプルと有意差が認められなかった。
【0071】
【表2】

【0072】
(試験例2)
試験例1において、処理2の後であって処理3の前に、つぎの処理を施してそれ以外は同じ条件でサンプルを作製した。
(処理2A) 10mMのパーフルオロベンゼンチオール(PFBT)を含むエタノール溶液中に処理2の基板を18時間浸漬した。
【0073】
表3に、各サンプルの有機半導体層の結晶の配向度を評価した結果を示す。
絶縁膜(2)の表面種として、ポリイミド(CT4112)とシリコン酸化膜のサンプルについて、溶媒A,B,Cのいずれについても比較用サンプルとの有意差が認められた。
【0074】
【表3】

【0075】
(試験例3)
試験例1において、処理2の後であって処理3の前に、つぎの処理を施してサンプルを作製した。
(処理2B) 10mMのパーフルオロデカンチオール(PFDT)を含むエタノール溶液中に処理2の基板を18時間浸漬した。
【0076】
表4に、各サンプルの有機半導体層の結晶の配向度を評価した結果を示す。
絶縁膜(2)の表面種として、ポリイミド(CT4112)、シリコン酸化膜、HMDS処理表面のサンプルについて、溶媒A,B,Cのいずれについても比較用サンプルとの有意差が認められ、C8TS処理表面のサンプルについては溶媒A,Cについて比較用サンプルとの有意差が認められた。
【0077】
【表4】

【0078】
以上の結果、有機半導体層(1)で良好な結晶の配向度を得るためには、絶縁膜(2)すなわち電極上の高表面エネルギー部(17)の溶媒接触角は、少なくとも50度以下であることが好ましいことが分かる。また、電極表面の溶媒接触角は少なくとも20度以上であることが好ましい。さらに、高表面エネルギー部(17)と電極それぞれの表面における溶媒接触角の差が少なくとも10度以上あることが好ましい。
【0079】
(実施例1)
以下の手順にて、本発明の有機薄膜トランジスタを作製した。
(S11) Nドープのシリコンウェハーを基板(6)およびゲート電極(5)として用い、膜厚300nmの熱酸化膜(シリコン酸化膜)を絶縁膜(2)として形成した。
(S12) 酸化膜表面を酸素プラズマで洗浄後、気相にてHMDS(ヘキサメチルジシラザン)処理を施し、絶縁膜の表面の濡れ性を変化させた。なお別途、HMDS処理を施した酸化膜表面に対する、溶媒Aの接触角を測定したところ、15.5度であった。
(S13) その後、公知のフォトリソグラフィーにより、チャネル長10μmのソース電極(3)及びドレイン電極(4)からなり、図6(F−1)に示す三角形の開口部(高表面エネルギー部(17))をドレイン電極(4)に有する膜厚100nmのAu電極パターンを形成した。
(S14) その後、10mMのパーフルオロデカンチオールを含むエタノール溶液中に上記基板を18時間浸漬させることで、ソース電極(3)及びドレイン電極(4)の表面の濡れ性を変化させた。なお別途、パーフルオロデカンチオールで処理したAu膜の接触角を測定したところ、溶媒Aの接触角は73.8度であった。
(S15) 前記構造式(D)で示される化合物を溶媒Aに1重量%溶解した有機半導体インク(以下、インク)(18)を、インクジェット法によってチャネル部に滴下し、結晶化させて有機半導体層(1)を形成した。
【0080】
図7に、インクの乾燥過程における結晶化の様子を観察した結果を示す。
ドレイン電極(4)上に設けられた三角形の開口部によって、インクが濡れやすいゲート絶縁膜表面が露出して高表面エネルギー部(17)が形成されており、それによってインクの乾燥過程で凸部(19)が形成されていた(図7(G−1))。ついで、その凸部(19)から結晶成長が開始、促進され(図7(G−2)〜(G−4))、有機半導体層(1)が形成された(図7(G−4))。
【0081】
図8に、そのとき成膜した有機半導体層(1)の顕微鏡観察結果(G−5)および偏光観察結果(G−6)を示す。結晶粒界が少なく、配向度の高い有機半導体層(1)が得られていることがわかった。
【0082】
上記で得られた有機薄膜トランジスタをグローブボックス中で、80℃で加熱処理を施した。
同様にして作製した8素子のトランジスタ特性を、グローブボックス中で評価したところ、平均移動度0.05cm/Vs(最大/最小値:0.06/0.04cm/Vs)となり、ぱらつきが少なく、良好なトランジスタ特性が得られた。本発明によって結晶粒界が少なく、配向度の高い有機半導体層(1)を得ることができたためと考えられる。
【0083】
(比較例1)
ドレイン電極(4)表面に高表面エネルギー部(17)を設けない以外は、実施例1と同じ条件及び同様の手法でサンプルを作製した。
同様にして作製した8素子のトランジスタ特性を、グローブボックス中で評価したところ、平均移動度0.01cm/Vs(最大/最小値:0.03/0.001cm/Vs)となり、ぱらつきが大きく、トランジスタ特性も低いものになった。インクが乾燥するに従って、液滴周辺部からの結晶成長が進行した結果、結晶粒界が多い膜が形成されたためと考えられる。
【0084】
(実施例2)
以下の手順にて、本発明の有機薄膜トランジスタを作製した。
(S21) ガラス基板に、フォトレジストを塗布し、シャドウマスクを用いたパターン露光、現像後に、膜厚3nmのCrからなる密着層、および膜厚50nmのAuを真空蒸着法により成膜した。その後、レジストを溶解する溶媒に浸漬し、レジストとレジスト上の電極を選択除去することでゲート電極(5)をパターン形成した。
(S22) 次に、ポリイミド溶液のCT4112(京セラ化学製)をスピンコート法により塗布し、プリベークし、その後に200℃で焼成することにより、膜厚500nmの絶縁膜(ゲート絶縁膜)(2)を形成した。なお別途、ポリイミド絶縁膜表面に対する溶媒Aの接触角を測定したところ、5度以下であった。
(S23) 続いて、シャドウマスクを用いた真空蒸着法により、チャネル長10μmのソース電極(3)及びドレイン電極(4)からなり、図6(F−1)に示す三角形の開口部(高表面エネルギー部(17))をドレイン電極(4)に有する膜厚100nmのAu電極パターンを形成した。
その後、実施例1と同様の手法で電極処理(ステップS14)、有機半導体層(1)の成膜(ステップS15)を行った。
上記で得られた有機薄膜トランジスタをグローブボックス中で、80℃で加熱処理を施した。
【0085】
同様にして作製した8素子のトランジスタ特性を、グローブボックス中で評価したところ、平均移動度0.06cm/Vs(最大/最小値:0.07/0.05cm/Vs)となり、ぱらつきが少なく、良好な特性が得られた。
ドレイン電極(4)上に設けられた三角形の開口部によって、インクが濡れやすいゲート絶縁膜表面が露出して高表面エネルギー部(17)が形成され、それによってインクの乾燥過程で凸部(19)を設けることができ、そこから結晶成長が促進された結果、結晶粒界が少なく、配向度の高い有機半導体層(1)を得ることができたためと考えられる。
【0086】
(比較例2)
ドレイン電極(4)表面に高表面エネルギー部(17)を設けない以外は、実施例2と同じ条件及び同様の手法でサンプルを作製した。
同様にして作製した8素子のトランジスタ特性を、グローブボックス中で評価したところ、平均移動度0.01cm/Vs(最大/最小値:0.03/0.001cm/Vs)となり、ぱらつきが大きく、トランジスタ特性が低い結果となった。インクが乾燥するに従って、液滴周辺部からの結晶成長が進行した結果、結晶粒界が多い膜が形成されたためと考えられる。
【0087】
(実施例3)
実施例1と同様の手法で、有機薄膜トランジスタを複数配置したトランジスタアレイを作製した。
同様にして作製した8素子のトランジスタ特性を、各々面内20箇所、グローブボックス内で評価したところ、平均移動度0.05cm/Vs(最大/最小値:0.06/0.04cm/Vs)となり、ぱらつきが少なく、良好なトランジスタ特性が得られた。
【0088】
(実施例4)
実施例3で作製した有機トランジスタアレイを用いて、図9に示す電気泳動表示装置(アクティブマトリックス表示装置)を作製した。具体的には、電気泳動表示装置(100)は、ITOからなる透明電極(21)が形成されたポリカーボネート基板からなるフィルム(22)と、フィルム(22)の透明電極(21)上に、酸化チタン粒子とオイルブルーで着色したアイソパーを内包するマイクロカプセル(20a)と、カーボンブラック粒子(20b)と、ポリビニルアルコール水溶液を混合した塗布液を塗布して形成されてなり、隔壁(20d)で区画され内部にマイクロカプセル(20a),カーボンブラック粒子(20b),水溶液(20c)が充填されたセル(20)と、フィルム(22)との間にセル(20)を挟むようにしてガラス基板(6)が外側になるように配置される、実施例2の有機薄膜トランジスタを複数配置した有機トランジスタアレイと、から構成される。
【0089】
得られた電気泳動表示装置(100)のゲート電極(5)に繋がるバスラインに走査信号用のドライバーICを、ソース電極(3)に繋がるバスラインにデータ信号用のドライバーICを各々接続し、0.5秒毎に画像の切り替えを行ったところ、良好な静止画像を表示することができた。
【0090】
なお、これまで本発明を図面に示した実施形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
例えば、ソース電極(3)、ドレイン電極(4)のいずれか一方(図4ではドレイン電極(4))の電極表面領域の一部に、周囲の電極表面よりも表面エネルギーが高い高表面エネルギー部(17)を形成する有機薄膜トランジスタを例に取り、本発明を説明してきたが、これに限定されるものではなく、ソース電極(3)及びドレイン電極(4)の電極表面領域の一部に、それぞれ高表面エネルギー部(17)を形成するようにしてもよい。これによっても、従来よりも結晶粒界が少なく、配向性の高い有機半導体層を有するようになるので、優れたトランジスタ特性を得ることができる。
【符号の説明】
【0091】
1 有機半導体層
2 絶縁膜(ゲート絶縁膜)
3 ソース電極(第一の電極)
4 ドレイン電極(第二の電極)
5 ゲート電極(第三の電極)
6 基板
7 インクジェットヘッド
8 ステージ
9 基板
10 ズームレンズ
11 カメラ本体
12 照明手段
13 液滴
14 結晶核
15 結晶
16 結晶膜
17 高表面エネルギー部
18 有機半導体インク
19 凸部
20 セル
20a マイクロカプセル
20b カーボンブラック粒子
20c 水溶液
20d 隔壁
21 透明電極
22 フィルム
100 電気泳動表示装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0092】
【非特許文献1】K.Suzukietal,IDW08 FLX2-3L
【非特許文献2】MarciaM.Payneetal.J.AM.CHEM.SOC.2005,127,4986-4987
【非特許文献3】HideakiEbataetal.J.AM.CHEM.SOC.2007,129,15732-15733
【非特許文献4】森井克行・下田達也 表面科学Vol.24,No.2,pp.90―97,2003
【非特許文献5】JungAhLimetal.Langmuir2009,25(9),5404-5410
【特許文献1】特許第4103530号公報
【特許文献2】特開2008−227141号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、ソース電極と、ドレイン電極と、インクジェット法により形成され前記ソース電極及び前記ドレイン電極にコンタクトする有機半導体層と、を備え、
前記ソース電極、ドレイン電極の少なくともいずれか一方は、その電極表面の一部に、周囲の電極表面よりも表面エネルギーが高い高表面エネルギー部を有し、
前記有機半導体層の端部が前記高表面エネルギー部に接していることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記ソース電極、ドレイン電極のいずれか一方が前記高表面エネルギー部を複数有することを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記基板上に、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記高表面エネルギー部は、前記ソース電極またはドレイン電極において下層である前記ゲート絶縁膜を露出させた開口領域であることを特徴とする請求項3に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項5】
基板上に、ソース電極と、ドレイン電極と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極にコンタクトする有機半導体層と、を備える有機薄膜トランジスタの製造方法であって、
前記ソース電極、ドレイン電極の少なくともいずれか一方の電極表面の一部に、周囲の電極表面よりも表面エネルギーが高い高表面エネルギー部を形成し、
前記高表面エネルギー部を含む前記ソース電極及びドレイン電極のチャネル部に、インクジェット法により有機半導体材料と溶媒を含むインクを塗布して前記有機半導体層を形成することを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項6】
基板上に、ゲート電極、ゲート絶縁膜、前記ソース電極及び前記ドレイン電極、前記高表面エネルギー部、前記有機半導体層をこの順番で形成することを特徴とする請求項5に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタが複数配置されてなることを特徴とする有機トランジスタアレイ。
【請求項8】
請求項7に記載の有機トランジスタアレイを備えることを特徴とする表示装置。

【図6】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−222801(P2011−222801A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91202(P2010−91202)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】