説明

樹脂成形品のコーティング方法及びコーティング装置並びに樹脂成形品

【課題】基材プレートの表面に透明樹脂のコーティング層を形成する際に、コート層を均一厚さに形成することが可能であると同時に表面を平滑に形成することが可能なコーティング方法の提供。
【解決手段】基材表面に接着、塗布、印刷などで表装面12xを形成して基材プレートを作成し、この基材プレートを成形型内30、31に収納して注入口から液状のコーティング剤を注入する。その後、成形型30、31に外部から光を照射してコーティング層を硬化させる。このとき、上記成形型30、31は、その内壁面と上記基材プレートの表装面12xとの間に略々均一厚さの成膜ギャップ20Gを形成すると共に、上記成膜ギャップ20Gに外部から光を照射するように少なくともその一部は透光性材料で構成する。また上記コーティング剤は一液性の硬化性組成物であると共に、紫外線及び/又は電磁放射線を照射することによって硬化する組成物で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の内装部品、家具製品などに用いられる樹脂成形品のコーティング方
法及びこの方法により表面コーティングを施した樹脂成形品に係わり、天然木、特殊金属
などの表装シートで形成した表装面(表皮層)を堅牢に保護する表面コーティングの改善
に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、各種家具などの調度品、自動車などの内装品、或いは家電製品などの外装材と
して装飾パネルが広く使用されている。このような装飾パネルは、加工が容易で形状変化
が少なく、目的に適した機械的強度が得られるように樹脂、金属などで構成されている。
例えば樹脂成形素材に補強金属をインサートして用途に適した機械的強度と寸法精度を有
する基材(芯材)プレートを製作し、そのプレート表面に装飾シートを貼着して外装デザ
インを施している。
【0003】
このような装飾パネルで装飾シートとして天然木のスライス板(本木突き板)を樹脂基
材上に接着して外装デザインの特殊性を強調することが知られている。例えば特許文献1
には、自動車などのインストールメントパネル、コンソールパネルなどの内装パネルを天
然木目調に装飾するパネル製造方法が提案されている。同文献には樹脂素材(基材)の上
に天然木の突き板を貼着してパネル表面を木目調に装飾することが開示されている。
【0004】
特許文献1には、装飾パネルを合成樹脂などのモールド成型でベースプレートを作成し
、このベースプレートの上に木目模様を有する表皮シートを接着剤で貼り合わせ、最上層
を透明合成樹脂でコーティングすることが開示されている。同文献には表面コーティング
層をどのように貼着するか詳細に開示されていないが、装飾シートとしてベニア板などの
補強材の上に接着剤でフィルム状の突き板(200〜500μm)を接着し、この突き板
の上に接着剤(アクリル樹脂系接着剤)を介して透明シート(PC;ポリカーボネート)
を接着している。
【特許文献1】特開2001−246717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように樹脂などのパネル基材の表面に装飾シートを貼着し、その最上層にオーバ
コート層を形成する装飾パネルの製造方法は、樹脂、金属などのベースプレートと、印刷
或いは天然素材から作成する装飾シートをそれぞれ個別の工程で生産する方法を採用して
いる。そして装飾シートは、樹脂などの中間補強材の表面に印刷模様、天然素材模様を施
し、最上面を透明樹脂などでコーティングしている。
【0006】
このようにベースプレートと表装シートをそれぞれ別工程で個別に製作し、最終的に両
者を接着剤で貼着する製造方法にあっては次の問題が生ずる。装飾フィルムはシート上に
印刷、或いは木質材などの天然素材をシート状に加工して構成され、このシートは複雑な
形状にフィットするように極めて薄い素材で形成される。例えば木目シートであっても、
その厚さは0.2mm〜0.5mm程度で、パネル基材に皺、凹凸、クラックが発生しないよ
うに貼着することが要求される。
【0007】
そこで、極めて薄い素材で形成された装飾フィルムをパネル基材に接着剤で貼着すると

装飾フィルム(表皮層)が容易に剥離する、また歪曲してカールする、更には皺、クラッ
ク、ピンホール或いは凹凸が生じ、表面の平滑性が損なわれるなどの問題を引き起こす。
例えばパネル基材の表面に皺、凹凸などの表面平滑性が損なわれると、その程度が非常に
微細であっても、使用者が表面に触れたときに異常として感じ、また表皮層が天然素材な
どの場合には深み感が損なわれる。
【0008】
このように従来は、装飾シートの表面に透明コート層を塗布、印刷、貼り合わせなどで
形成し、この装飾シートをパネル基材に接着剤などで貼着しているため、接着作業中に表
面コート層を含む装飾シート自体に皺、凹凸、ピンホールなどが発生する問題があった。
これと同時に透明コート層は塗布、印刷などの工程で形成されるため、比較的薄い層で形
成され、接着後の外観に深み感が失われる。またこの層を厚く形成するとパネル基材への
接着加工時にクラックが生じ、或いは歪曲変形によって生ずる内部歪みで透明コート層が
変色する問題を招く。
【0009】
そこで従来は、例えば木材などの天然素材で表皮層を形成したパネル基材の外表面をオ
ーバコートする場合に次の第1、第2いずれかの方法が採られている。まずこのオーバコ
ートは木材などの天然素材が表面に露出し、これが剥離する問題、或いは天然素材が熱、
光、薬液などによって変質、劣化するのを防止する。このためオーバコート剤としては、
天然素材などの表皮層が剥離或いは歪曲しないように強度的に保護し、同時に熱、光、水
分、薬液などで変形或いは変質しないように表皮層を保護(ガード)することが要求され
る。
【0010】
このオーバコート方法として、従来採用されている第1の方法は、所定の工程で作成さ
れたパネル基材(ベース部材と天然表皮材の貼着)にコーティングシートを接着する方法
である。このコーティングシートは例えばシルク印刷などで透明樹脂フィルムの上に透明
コーティング層を形成し、このコーティングシートを加圧或いは加熱して基材表面に貼着
する方法である。このようなコーティングシートを基材表面に貼着するコーティング方法
では、凹凸など複雑な形状の基材表面に完全にフィットさせることが困難であり、皺、凹
凸などが発生することがあり、これを防止するために加熱してシートを貼着すると天然素
材の表皮面が変質する問題が生ずる。
【0011】
また、オーバコート方法として成形型内にパネル基材を収容し、このパネル表面の表皮
層と型内壁との間に成膜ギャップを形成する。そしてこの成膜ギャップにコーティング樹
脂を注入してコーティングする方法も知られている。この場合、従来は例えば熱可塑性の
樹脂を加熱して注入し、基材表面に充填した後に冷却固化させる方法も知られている。と
ころが加熱した樹脂の温度で表皮材(例えば木質材)が歪曲など変形し、或いは変色する
ことがある。
【0012】
そこで、オーバコート剤を加熱することなく固化させる方法として成膜ギャップに充填
する樹脂材料を反応させて固化する方法が試みられている。この場合には所定のオーバコ
ート性能を有する樹脂材料を型内に充填する際に、例えばA液とB液を直前に混合して充
填することが提案されている。ところが成膜ギャップに充填する直前に樹脂材料を混合し
て注入すると、その注入の過程でコーティング材が硬化を開始し、成膜ギャップに確実に
滲入しない問題が生ずる。
【0013】
そこで本発明者は、基材プレートを用途に応じた形状に加工し、その上に表装シートを
貼着し、その後この表装シートの上に透明コート層を射出成形で成膜することによって表
面に皺、凹凸、クラックなどの発生を防ぎ、表面の平滑性を得ることが可能との着想に至
った。
【0014】
この場合に、コーティング剤を成形型内に射出して内部の基材プレート表面にコート層
を形成する際に、(1)表面コート層に皺、凹凸、クラックが生じないこと、(2)表面
コート層を所定厚さで形成して防水性、耐摩擦特性、耐酸性(耐薬品性)に富んだコーテ
ィングとすること、及び射出形成したコート層を固化する際に(3)加熱処理による温湿
度変化で変色、劣化が生じないこと、(2)化学変化によるコーティング層の変色、劣化
が生じないこと、を究明するに至った。
【0015】
本発明は、基材プレートの表面に透明樹脂のコーティング層を形成する際に、そのコー
ト層を均一厚さに形成することが可能であると同時に表面を平滑に形成することが可能な
コーティング方法の提供をその課題としている。
更に、本発明は流動性を有する材料を成形型内に射出注入してコーティング層を形成し
た後、これを固化する際に、加熱処理或いは化学変化を伴うことがなく、温湿度差或いは
化学変化によって表面層が変色、劣化することのないコーティング方法の提供を課題とし
ている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の課題を達成するため本発明は以下の手段を採用する。尚、本発明にあって「一液
性の硬化性組成物」とは流動性を有するコーティング剤を硬化させる際に2つ以上の流動
性物質を混合して硬化することなく、1つの流動性物質(組成物を含む)を例えば光(紫
外光、赤外光、可視光など)の照射によって硬化させる物質を云う。本発明は樹脂、金属
などの基材を適宜形状に形成し、この基材表面に接着、塗布、印刷などで表装面を形成し
て基材プレートを作成する。次にこの基材プレートを成形型内に収納して注入口から液状
のコーティング剤を注入する。その後、成形型に外部から光を照射してコーティング層を
硬化させる。このとき、上記成形型は、(1)その内壁面と、内部に収容された上記基材
プレートの表装面との間に略々均一厚さの成膜ギャップを形成すると共に、(2)上記成
膜ギャップに外部から光を照射するように少なくともその一部は透光性材料で構成する。
また、上記コーティング剤は、(1)上記成膜ギャップに充填可能な流動性を有する一液
性の硬化性組成物であると共に、(2)紫外線及び/又は電磁放射線を照射することによ
って液体から固体に硬化する組成物で構成する。
【0017】
本願発明は基材プレート(10)の表面にコーティング層(20)を形成する方法であ
って、適宜形状に形成された基材の表面に表装面(12x)を形成して基材プレートを作
成する工程と、上記基材プレートを成形型内に収納する工程と、上記成形型に設けられた
注入口(33)から液状のコーティング剤を注入して上記基材プレートの表装面にコーテ
ィング層を形成する工程と、上記成形型に外部から光を照射して上記コーティング層を硬
化させる工程とから構成する。
【0018】
上記成形型は、(1)その内壁面(31x)と、内部に収容された上記基材プレート(
10)の表装面(12x)との間に略々均一厚さの成膜ギャップ(20G)を形成すると
共に、(2)上記成膜ギャップに外部から光を照射するように少なくともその一部は透光
性材料で構成し、上記コーティング剤は、(1)上記成膜ギャップに充填可能な流動性を
有する一液性の硬化性組成物であると共に、(2)紫外線及び/又は電磁放射線を照射す
ることによって液体から固体に硬化する組成物で構成する。
【0019】
請求項1に記載の樹脂成形品のコーティング方法であって、前記成形型に設けられた注
入口(33)には、供給パイプを介して前記コーティング剤の供給タンク(36)を連結
し、この供給タンクにはコーティング剤を加圧して上記注入口に案内する加圧ポンプ手段
(35)を備える。
【0020】
前記成形型は、前記基材プレート(10)を収容する凹陥部(30U)を有するコアー
型(30)と、この凹陥部に収容された基材プレートの表装面との間に前記成膜ギャップ
を形成するように覆うキャビティ型(31)とで構成し、上記キャビティ型とコアー型と
は機密性を有するように連結可能に構成されると共に、上記成膜ギャップには内部の気体
を減圧するようにバキュームポンプ手段(40)に導通されている。
【0021】
前記基材プレート(10)の表装面(12x)は天然木から生成された木目シートを基
材に貼着して形成される。
【0022】
前記成形型は前記基材プレート(10)を収容する凹陥部(30U)を有するコアー型
(30)と、この凹陥部に収容された基材プレートの表装面との間に前記成膜ギャップ(
20G)を形成するように覆うキャビティ型(31)とで構成し、上記キャビティ型はガ
ラス若しくは透光性樹脂で形成される。前記コアー型は、スチール、ステンレス、アルミ
ニウム合金で構成する。
【0023】
前記コアー型(30)は、スチールで構成されると共に前記基材プレート(10)を収
容する凹陥部(30U)は硬質クロムメッキで表面処理されている。
【0024】
前記コーティング剤は、ポリウレタン樹脂若しくはアクリル樹脂であり、紫外線に敏感
な増感物質をその成分として含んでおり、直前混合されることなく前記成形型内に注入さ
れる。
【0025】
前記成形型には、内部に注入されたコーティング剤を加熱する加熱手段(41)を装備
し、この加熱手段は、上記成形型に紫外線及び/又は電磁放射線を照射する際に内部に注
入されているコーティング剤を加熱する。
【0026】
自動車用内装パネルなどの樹脂成形品であって、適宜形状に形成された樹脂基材の表面
に表装面を形成した基材プレート(10)と、上記基材プレート上の表装面を覆う透明又
は半透明のコーティング層(20)とから構成し、上記コーティング層は、成形型内に収
容された上記基材プレートの表装面に光硬化性の一液性コーティング剤を注入し、次いで
上記成形型の外部から紫外線及び/又は電磁放射線を照射してコーティング剤を硬化する
ことによって形成する。
【0027】
樹脂成形品の表面にコーティング層(20)を形成するコーティング装置であって、内
部に基材プレート(10)を収納可能な凹陥部(30U)を有する成形型と、上記成形型
に注入する液状のコーティング剤と、上記成形型に注入したコーティング剤を硬化するた
めに紫外線及び/又は電磁放射線を照射する発光装置(41)とを備え、上記成形型は、
(1)その内壁面(31x)と、内部に収容された上記基材プレートの表装面(12x)
との間に略々均一厚さの成膜ギャップ(20G)を形成すると共に、(2)上記成膜ギャ
ップに外部から光を照射するように少なくともその一部は透光性材料で構成し、上記コー
ティング剤は、(1)上記成膜ギャップに充填可能な流動性を有する一液性の硬化性組成
物であると共に、(2)紫外線及び/又は電磁放射線を照射することによって液体から固
体に硬化する組成物で構成する。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、用途に応じた適宜形状の基材に表装面を形成し、この基材プレートの表面を
成形型内に注入した一液性の紫外線硬化型(及び/又は電磁放射線硬化型)のコーティン
グ剤で被膜形成し、その後成形型の外部から紫外線(及び/又は電磁放射線)を照射して
硬化させたものであるから次の特徴を有する。
【0029】
成形型には内部に収容された基材プレート表面との間に所定の成膜ギャップが形成され
、コーティング剤はこのギャップに注入された後、光硬化されるから、表面コーティング
層に皺、凹凸、クラックが発生することがない。従って表面コーティング層は平滑性、気
密性に富んだ状態で基材プレート表面をコーティングし、防水性、耐薬品性に優れた特性
を呈する。これと同時に表面コーティング層は成膜ギャップの厚さをコントロールするこ
とによって表装面の審美性、特に深み感を得ることが出来る。
【0030】
また、コーティング剤は一液性の組成物で構成しているため、液体から固体に固化する
際に化学反応を伴うことが無く、表面コーティング層の透明度、均質性を確保することが
出来る。
【0031】
更に、成形型内にコーティング剤を注入する際に、この型内壁と基板プレート表面との
間に形成される成膜ギャップ(空間)を真空状態に減圧することによってコーティング剤
注入時に気泡が包含されることがない。この成膜ギャップの減圧と同時に注入口からコー
ティング剤を加圧射出することによって更に気泡の発生を防ぐことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図示の好適な実施の形態に基づいて本発明を詳述する。図1は本発明に係わる樹
脂成形品Aを示し、(a)はその外観を示す斜視図、(b)は断面構造の説明図であり、
(c)は積層構造の説明図である。図2はコーティング装置Bの全体構成の説明図であり
、図3(a)はそのx−x断面構造の説明図であり、図3(b)は同図(a)に示すAセ
クションの部分拡大図、図4は図2と直交する方向のY−Y縦断面図を示す。以下本発明
を「樹脂成形品」、「コーティング方法」、「コーティング装置」の順に説明する。
【0033】
[樹脂成形品]
まず、本発明の樹脂成形品Aについて説明する。図1に示す樹脂成形品Aは基材プレー
ト10と、この基材プレート10の表面に形成されたコーティング層20とから構成され
る。基材プレート10は、基材11と、この基材11の表面に形成された表装面12とか
ら構成されている。
【0034】
上記基材11は、合成樹脂、金属などで形成され、内装パネルなど用途に応じた形状に
形成されている。図示の基材11は合成樹脂のモールド成型で板状に形成され、用途に適
合するように内部に金属補強材(不図示)がインサートされている。基材11は、樹脂の
他、金属、木材、織布など用途に適した材料と形状に構成される。
【0035】
上記表装面12は、基材11の表面にメッキ、塗装、印刷などによって直接的に装飾面
を形成する(表面処理;第1実施形態)か、或いは基材11の表面に装飾シート12Sを
接着剤13bで接着する。図示の樹脂成形品Aは図1(c)に示すように基材11に装飾
シート12Sを接着剤13bで貼着する場合を示している。
【0036】
上記装飾シート12Sは、フレキシブルなシート状フィルム材で構成されている。補強
板12aに表皮材12bを接着剤13bで貼着してある。補強板12aは例えばベニア板
、不織布、樹脂フィルムなどで構成される。図示の補強板12aは0.5mmメートル厚さ
のベニア板で構成されている。表皮材12bは印刷などで表装面(デザイン面)12xを
形成したフィルム材で構成されるか、或いは天然素材のスライス材で構成される。図示の
ものは天然木の木目調の表装シートで表皮材12bを構成している。このため表皮材12
bは天然木を200〜500μm厚さで板状にスライスした材料で構成されている。そし
て補強板12aに接着剤13bで表皮材12bを接着してある。
【0037】
上述の他、装飾シート12は補強板12aを用いることなく表皮材12b単体で構成し
ても良いが、この場合には表皮材12bが容易に歪曲変形可能で所定の機械的強度を有す
る材を選択する必要がある。また上記表層シートは天然木で形成する他、例えば金属、カ
ーボンなど目的用途に応じた素材で薄板(フレキシブネルシート)を形成し、この薄板で
表装シートを構成しても良い。
【0038】
次にコーティング層20について説明する。上述のように樹脂などの基材11の表面に
表装シート層12Sを貼着する。そしてこの表装シート12Sを透明(半透明)のコーテ
ィング層20で覆うこととなる。そこで表装仕上げした基材11の表装面にポリマーを塗
布する。このポリマーは例えばアクリレートポリマーなどの透明ポリマーで、膨縮性に富
んだ材料を用いる。図1(c)に示すように表装シート層12Sの上にポリマー層12p
を塗布する。このポリマー層12pは透明樹脂材で厚さ(tmm)に構成される。そしてこ
のポリマー層の材質及び塗布厚さ(膜厚さ)は、後述するコーティング層20がUV光で
硬化する際に凝縮する。このコーティング層20の凝縮で表装面とコーティング層20と
の間に空隙が発生しないようにポリマー層の材質(特に膨縮特性)及び塗布厚さを、実験
的に最適値を求める。
【0039】
そこでコーティング層20は所定形状に形成された基材プレート10の最上層に形成さ
れる。このコーティング層20は上述の表装面12xを外部に露出する程度に透明又は半
透明の樹脂材料で構成される。そしてこの樹脂材料(以下「コーティング剤」という)は
、(1)基板プレート10の表面と成形型(後述)内壁との間に形成される成膜ギャップ
20Gに射出成形される。また、コーティング剤は、光硬化型の一液性樹脂材料で構成さ
れる。
【0040】
[コーティング装置]
次に図2、図3に示すコーティング装置Bについて説明する。コーティング装置Bはコ
アー型30と、キャビティ型31で構成され、キャビティ型31には基材プレート10の
外径形状に適合した凹陥部が形成されている。この型内壁31xと基材プレート10の表
装面12xとの間には成膜ギャップ20Gが形成されている。この成膜ギャップ20Gは
予め基材プレート10表面に形成するコート層の厚さに設定してある。またコアー型30
にも基材プレート10の形状に応じた凹陥溝が形成してある。
【0041】
上記キャビティ型31には段差フランジ31f(図3(b)参照)が基材プレート10
の周縁数カ所に設けてあり、この段差フランジで基材プレート10をコアー型30とキャ
ビティ型31との間で挟持している。図示38は型締めボルトである。このようにコアー
型30とキャビティ型31との間に形成された成膜ギャップ20Gには図2に示すように
射出ノズル33と流入経路34とコンプレッサ35とコーティング剤収納タンク36が連
結されている。
【0042】
従ってコンプレッサ35を作動することによってタンク内に収納された液状のコーティ
ング剤はコンプレッサ35によって加圧され、射出ノズル33から成膜ギャップ20Gに
流入されることとなる。
【0043】
また、上述のコアー型30とキャビティ型31との間に形成された成膜ギャップ20G
には吐出口37が設けられ、吐出口37には流出経路39を介してバキュームポンプ40
が連結されている。従ってバキュームポンプ40を作動することによって成膜ギャップ2
0G内に滞留している気体は吐出口37から外部に流出されることとなる。
【0044】
上記成膜ギャップ20Gに形成された射出ノズル33と吐出口37とは図2に示すよう
に重力の作用方向(図2矢示参照)の最下端にコーティング剤の注入口(ノズル33)が
位置し、重力作用方向の最上端に吐出口37が位置するように設定されている。従って成
膜ギャップ20G内に生起した気泡は反重力方向の上方に浮上し、同時にキャビティ内は
減圧され真空状態となる。そこでこの気泡は吐出口37から流出経路39を経て成形型の
外部に流出除去される。
【0045】
上記キャビティ型31は成膜ギャップ20Gに紫外線を照射することが可能なように、
少なくとも成膜ギャップ20Gに面する部位は透明のガラス(例えば石英ガラス)、透光
性材料で構成されている。図3に示す31yは透光窓を現している。そこで上述のように
キャビティ型31とコアー型30で形成される成膜ギャップ20Gには型外部から光を照
射することが可能なように透光窓31yが設けられ、この透光窓31yの外部には紫外線
ランプ(UVランプ)41が配置されている。そして成膜ギャップ20Gにコーティング
剤が充填された後、UVランプ41の電源に通電して紫外光を成膜ギャップ20Gに向け
て照射する。
【0046】
UVランプ41から紫外光を照射されたコーティング剤は、前述したように紫外線吸収
剤、紫外線硬化剤を含有しているため、UV線(例えば波長300nm)を受けて液状態か
ら固体に固化する。このように紫外線で硬化する光重合開始剤を有するコーティング層2
0は、成形後に長時間紫外線に晒されても色褪せすることがない。
【0047】
上述したコーティング装置Bの詳細構造について説明する。図2に示すように基板プレ
ート10の長手方向(長尺方向)を上下に成形型(コアー型30、キャビティ型31)は
上下縦方向に設置される。そして重力の作用方向を基準に下端側に射出ノズル33が、上
端側に吐出口37が配置されている。このとき射出ノズル33に連なる流入経路34には
図示しない逆止弁が設けられている。またコンプレッサ35は通常の吐出ポンプで構成さ
れ、コーティング剤収納タンク内の液状コーティング剤を加圧して射出ノズル33に案内
する。
【0048】
上記吐出口37には前述したように流出経路39が連結され、この経路にはバキューム
ポンプ40が配置されている。流出経路39には図示しない逆止弁が設けられている。そ
して上記射出ノズル33と吐出口37は成膜ギャップ20Gに連通する位置に配置されて
いる。従って吐出口37から成膜ギャップ内の気体はバキュームポンプ40で吸引され、
射出ノズル33からコーティング剤が導入されることとなる。そこで成膜ギャップ内に流
入するコーティング剤に気泡などが含まれても、この気泡はバキュームポンプ40で吐出
口37から成形型外部に除去される。これによって成膜ギャップ20Gに充填され、その
後光硬化して形成されるコーティング層20に気泡などが生ずることがない。
【0049】
[コーティング方法]
次に図5の工程説明図に従って本発明のコーティング方法について説明する。まず本発
明のコーティング方法は「素材プレート作成工程」と「コーティング層形成工程」で構成
される。
【0050】
「素材プレート作成工程」
素材プレート作成工程は、天然素材、例えば天然木をスライスして表装シート12Sを
形成する。この表装シート12Sは歪曲可能なフレキシビリティに富んだ厚さに形成する
(St11)。上記表装シート12Sの作成と並行して補強板12aを作成する(St1
2)。この補強板12aは表装シート12Sをバックアップ支持する機械的補強と、同時
に表装シート12Sの変質防止の為に用いる。図示のものは装飾シート12Sを木目シー
トで形成した関係で、この木目シートの耐久性を保持するためベニア板で補強板12aを
形成している。
【0051】
次に補強板12aに表装シート12Sを接着剤13bで貼着する。このとき必要に応じ
て加温した状態で加圧する。すると補強板12aと表装シート12Sは互いに重ね合わさ
れてフィルム状に一体化する(St13)。このように木材から構成された補強板12a
は本木目で構成された表装シート12Sを保水性、温湿度変化で同一素材でバックアップ
するように保護することとなる。
【0052】
次に基材11を作成する(St14)。この基材11は樹脂のモールド成形などで用途
に応じた形状に形成する。例えば自動車などの内装用パネルの場合には、基材を目的に応
じた形状に成形する。このとき必要に応じて補強材をインモールド成形する。そして目的
に応じた形状及び機械的強度に形成した基材11の表面に表装シート12Sを接着剤13
bで貼着する(St15)。この状態で表装仕上げした基材11が完成する(St20a
)。この基材11の表面に樹脂ポリマーを塗布してポリマーの表面被膜を形成する(St
20b)。
【0053】
「コーティング層形成工程」
次にコーティング層形成工程は上述の基板プレート10の表面にコーティング層20を
形成する。そこで成形型は前述したようにキャビティ型31とコアー型30で構成され、
型締めボルト38で一体化されている。そこでキャビティ型31とコアー型30を分離す
る(St21)。次いでコアー型30の凹陥部30Uに基板プレート10を収容セットし
、この基板プレート10の上をキャビティ型31で覆う。このときキャビティ型31の段
差フランジ31fが基板プレート10の表装面12xを突き当て規制して、この表装面1
2xと型内壁31xとの間に成膜ギャップ20Gを形成する。
【0054】
上記コアー型30とキャビティ型31とは型締めボルト38で一体的に型締めされ、成
膜ギャップ20Gの機密性は保持される(St22)。次にコーティング剤収納タンク3
6内に前述した一液性のコーティング剤を収納準備する。このときコーティング剤は所定
温度例えば38℃に温度コントロールする(St23)。次にバキュームポンプ40を作
動して成膜ギャップ20G内の気体を吸引して真空状態に形成する(St24)。そこで
コンプレッサ35を作動してコーティング剤を成膜ギャップ内に注入する。
【0055】
上記成膜ギャップ20Gへのコーティング剤の注入とバキュームポンプ40の作動で基
材プレート表面に所定厚さのコーティング層20が形成される(St25)。このとき、
コーティング層内に気泡が形成されることがない。次にキャビティ型31の透光窓31y
から紫外線を照射する(St26)。この紫外線の照射により成膜ギャップ20Gに充填
されたコーティング剤は硬化し、液体から固体に変化する。この硬化後に成形型から基材
プレート10を取り出してコーティング処理を終了する(St27)。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係わる樹脂成形品を示し、(a)はその外観を示す斜視図であり、(b)は断面構造の説明図を示し、(c)は積層構造の説明図である。
【図2】本発明に係わるコーティング装置の全体構成の説明図。
【図3】図2の装置の要部説明図であり、(a)は図2x−x断面構造の説明図を示し、(b)は(a)の部分拡大図。
【図4】図2の装置のY−Y縦断面構造の説明図。
【図5】本発明に係わるコーティング方法の工程説明図。
【符号の説明】
【0057】
A 樹脂成形品
B コーティング装置
10 基板プレート
11 基材
12x 表装面
12a 補強板
12b 表皮材
12S 表装シート
13b 接着剤
20 コーティング層
20G 成膜ギャップ
30 コアー型
30U 凹陥部
31 キャビティ型
31x 型内壁
31y 透光窓
31f 段差フランジ
33 射出ノズル
34 流入経路
35 コンプレッサ
36 コーティング剤収納タンク
37 吐出口
38 型締めボルト
39 流出経路
40 バキュームポンプ
41 紫外線ランプ(UVランプ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材プレートの表面にコーティング層を形成する方法であって、
適宜形状に形成された基材の表面に表装面を形成して基材プレートを作成する工程と、
上記基材プレートを成形型内に収納する工程と、
上記成形型に設けられた注入口から液状のコーティング剤を注入して上記基材プレートの
表装面にコーティング層を形成する工程と、
上記成形型に外部から光を照射して上記コーティング層を硬化させる工程と、
から構成され、
上記成形型は、
(1)その内壁面と、内部に収容された上記基材プレートの表装面との間に略々均一厚さ
の成膜ギャップを形成すると共に、
(2)上記成膜ギャップに外部から光を照射するように少なくともその一部は透光性材料
で構成され、
上記コーティング剤は、
(1)上記成膜ギャップに充填可能な流動性を有する一液性の硬化性組成物であると共に

(2)紫外線及び/又は電磁放射線を照射することによって液体から固体に硬化する組成
物で、
構成されていることを特徴とする樹脂成形品のコーティング方法。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂成形品のコーティング方法であって、
前記成形型に設けられた注入口には、供給パイプを介して前記コーティング剤の供給タン
クが連結され、
この供給タンクにはコーティング剤を加圧して上記注入口に案内する加圧ポンプ手段が備
えられていることを特徴とする。
【請求項3】
請求項1に記載の樹脂成形品のコーティング方法であって、
前記成形型は、
前記基材プレートを収容する凹陥部を有するキャビティ型と、
この凹陥部に収容された基材プレートの表装面との間に前記成膜ギャップを形成するよう
に覆うコアー型と、
で構成され、
上記キャビティ型とコアー型とは、機密性を有するように連結可能に構成されると共に、
上記成膜ギャップには内部の気体を減圧するようにバキュームポンプ手段に導通されてい
ることを特徴とする。
【請求項4】
請求項1に記載の樹脂成形品のコーティング方法であって、
前記基材プレートの表装面は天然木、金属薄板、カーボン薄板などから生成された表装シ
ートを基材に貼着して形成されていることを特徴とする。
【請求項5】
請求項1に記載の樹脂成形品のコーティング方法であって、
前記成形型は、
前記基材プレートを収容する凹陥部を有するコアー型と、
この凹陥部に収容された基材プレートの表装面との間に前記成膜ギャップを形成するよう
に覆うキャビティ型と、
で構成され、
上記キャビティ型はガラスその他の透光性材料で形成されていることを特徴とする。
【請求項6】
請求項5に記載の樹脂成形品のコーティング方法であって、
前記コアーは、スチール、ステンレス、アルミニウム合金で構成されていることを特徴と
する。
【請求項7】
請求項5に記載の樹脂成形品のコーティング方法であって、
前記キャビティ型は、スチールで構成されると共に前記基材プレートを収容する凹陥部は
硬質クロムメッキで表面処理されていることを特徴とする。
【請求項8】
請求項1に記載の樹脂成形品のコーティング方法であって、
前記コーティング剤は、
ポリウレタン樹脂若しくはアクリル樹脂を主成分とする組成物であることを特徴とする。
【請求項9】
請求項1に記載の樹脂成形品のコーティング方法であって、
前記コーティング剤は、
紫外線に敏感な増感物質をその成分として含んでおり、直前混合されることなく前記成形
型内に注入されることを特徴とする。
【請求項10】
請求項1に記載の樹脂成形品のコーティング方法であって、
前記成形型には、内部に注入されたコーティング剤を加熱する加熱手段が装備され、
この加熱手段は、上記成形型に紫外線及び/又は電磁放射線を照射する際に内部に注入さ
れているコーティング剤を所定温度に加熱することを特徴とする。
【請求項11】
自動車用内装パネルなどの樹脂成形品であって、
適宜形状に形成された樹脂基材の表面に表装面を形成した基材プレートと、
上記基材プレート上の表装面を覆う透明又は半透明のコーティング層と、
から構成され、
上記コーティング層は、
成形型内に収容された上記基材プレートの表装面に光硬化性の一液性コーティング剤を注
入し、
次いで上記成形型の外部から紫外線及び/又は電磁放射線を照射してコーティング剤を硬
化する、
ことによって形成されていることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項12】
樹脂成形品の表面にコーティング層を形成するコーティング装置であって、
内部に基材プレートを収納可能な凹陥部を有する成形型と、
上記成形型に注入する液状のコーティング剤と、
上記成形型に注入したコーティング剤を硬化するために紫外線及び/又は電磁放射線を照
射する発光装置と、
を備え、
上記成形型は、
(1)その内壁面と、内部に収容された上記基材プレートの表装面との間に略々均一厚さ
の成膜ギャップを形成すると共に、
(2)上記成膜ギャップに外部から光を照射するように少なくともその一部は透光性材料
で構成され、
上記コーティング剤は、
(1)上記成膜ギャップに充填可能な流動性を有する一液性の硬化性組成物であると共に

(2)紫外線及び/又は電磁放射線を照射することによって液体から固体に硬化する組成
物で、
構成されていることを特徴とする。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−131918(P2010−131918A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311457(P2008−311457)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(510063823)株式会社ダイナ楽器 (1)
【Fターム(参考)】