説明

機械式自動変速機の制御装置

【課題】コースティング状態移行時の燃費向上を図る。
【解決手段】車両が走行中であるとき(S1)、車速V、歯車式変速機の変速状態及びアクセル開度θに基づいて、車両が惰性で走行しているコースティング状態であるか否かを判定する(S2及びS3)。また、車両のコースティング状態が所定時間連続したら(S4)、摩擦クラッチを切断すると共に(S5)、エンジンコントローラにアイドル指令を送信する(S6)。そして、車両がコースティング状態を逸脱すると(S7及びS8)、車速及びアクセル開度に対応した目標変速段に変速機を変速させた後(S9)、摩擦クラッチ10を接続させる(S10)。このため、車両がコースティング状態になったときには、摩擦クラッチが切断されて惰性走行に移行することから、燃費向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特開2008−275047号公報(特許文献1)に記載されるように、アクチュエータを用いて摩擦クラッチ及び歯車式変速を夫々電子制御することで、走行状態に応じて自動変速する機械式自動変速機が実用化されている。機械式自動変速機では、エンジンから駆動輪までの駆動力伝達系に流体クラッチ(トルクコンバータ)が介在されていないので、駆動力伝達効率が高く、燃費向上を図ることができる。また、機械式自動変速機では、流体クラッチ特有のスリップ感がないため、ドライバビリティも向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−275047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、機械式自動変速機においては、例えば、一定速度で走行している状態から走行抵抗を用いて車速を低下させるべく、アクセルペダルを戻してコースティング状態に移行しようとしたとき、アクセルペダルを戻し過ぎてエンジンブレーキが作用してしまう場合がある。エンジンブレーキが作用すると、車速が目標車速より低下してしまうため、アクセルペダルを踏み込んで車両を再度加速しなければならない。この場合、減速意思があるにもかかわらず加速操作を行うことで燃料消費量が増加し、燃費低下のみならず環境への影響が懸念される。なお、アクセルペダルに対する反応が良好なエンジンでは、前述したような現象が顕著に現われる。
【0005】
そこで、本発明は従来技術の問題点に鑑み、コースティング状態移行時の燃費向上を図った機械式自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、エンジンの出力軸に摩擦クラッチを介して歯車式変速機の入力軸が接続され、車両の走行状態に応じて摩擦クラッチの断接及び歯車式変速機の変速が自動的に行われる機械式自動変速機の制御装置において、車速、歯車式変速機の変速状態及びアクセル開度に基づいて、車両が惰性で走行しているコースティング状態であるか否かを判定し、コースティング状態であると判定された状態が所定時間連続したときに、摩擦クラッチを切断する。そして、摩擦クラッチが切断された後、車両が惰性で走行しているコースティング状態でなくなると、摩擦クラッチを接続する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車両がコースティング状態になったときには、摩擦クラッチが切断されて惰性走行に移行することから、燃費向上を図ることができる。このとき、コースティング状態では惰性走行により車速が徐々に低下することとなるが、摩擦クラッチを切断してもコースティング状態からの減速度の変化が極僅かであるため、運転者に違和感を感じさせ難い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る機械式自動変速機の制御装置を備えた車両構成図
【図2】制御プログラムの内容を示すフローチャート
【図3】コースティング状態となるアクセル開度を求めるマップの説明図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付された図面を参照して本発明を詳述する。
【0010】
図1は、本発明に係る機械式自動変速機の制御装置を備えた車両構成を示す。
【0011】
エンジン10の出力軸には、アクチュエータとしてのクラッチブースタ12により断接される摩擦クラッチ14を介して、歯車式変速機(以下「変速機」という)16の入力軸が接続される。また、摩擦クラッチ14には、クラッチ断接制御に用いられるクラッチストロークLを検出するストロークセンサ18が取り付けられる。
【0012】
一方、変速機16には、変速機構を駆動するためのアクチュエータが内蔵されたギヤシフトユニット20と、変速状態としての変速段を検出するギヤポジションセンサ22(変速状態検出手段)と、入力軸の回転速度Niを検出する回転速度センサ24と、が夫々取り付けられる。また、変速機16の出力軸には、変速特性に応じた減速比を有するギヤ列を介して、車速Vを検出する車速センサ26(車速検出手段)が取り付けられる。さらに、車室内には、運転者が変速指令を入力するシフトタワー30と、アクセルペダルの操作量たるアクセル開度θを検出する開度センサ32(開度検出手段)と、が取り付けられる。
【0013】
ストロークセンサ18,ギヤポジションセンサ22,回転速度センサ24,車速センサ26,シフトタワー30及び開度センサ32の各出力信号は、コンピュータを内蔵した変速機コントローラ28に入力される。変速機コントローラ28は、エンジン運転状態としてのエンジン回転速度Ne及びエンジントルクTを取得するため、CAN(Controller Area Network)などの車載ネットワークを介して、エンジン10を電子制御するエンジンコントローラ34に接続される。ここで、エンジントルクTとしては、吸気流量,過給圧,吸気圧,燃料噴射量など、トルクと密接に関連する状態量から求めるようにしてもよい。また、エンジン回転速度Ne及びエンジントルクTは、エンジンコントローラ34から読み込まずに、公知のセンサで直接検出するようにしてもよい。なお、エンジンコントローラ34又はエンジン回転速度Neを直接検出するセンサが、回転速度検出手段の一例として挙げられる。
【0014】
そして、変速機コントローラ28は、ROM(Read Only Memory)などに書き込まれた制御プログラムを実行することで、各種センサ及びエンジンコントローラ34から読み込んだ各種パラメータに基づいて、摩擦クラッチ14の断接及び変速機16の変速を自動的に行う。
【0015】
図2は、エンジン10が始動したことを契機として、変速機コントローラ28が繰り返し実行する制御プログラムの内容を示す。
【0016】
なお、変速機コントローラ28により、コースティング判定手段及び変速段決定手段が具現化される。変速機コントローラ28がクラッチブースタ12と協働することにより、クラッチ切断手段及びクラッチ接続手段が具現化される。また、変速機コントローラ28がエンジンコントローラ34と協働することにより、アイドル移行手段及び回転速度調整手段が具現化される。さらに、変速機コントローラ28がギヤシフトユニット20と協働することにより、第1の変速手段及び第2の変速手段が具現化される。
【0017】
ステップ1(図では「S1」と略記する。以下同様。)では、車速センサ26から読み込んだ車速Vに基づいて、車両が走行中であるか否か(V≠0)を判定する。そして、車両が走行中であれば処理をステップ2へと進める一方(Yes)、車両が走行中でなければ(即ち、停車中であれば)処理を終了させる(No)。
【0018】
ステップ2では、車速センサ26から読み込んだ車速V、及び、ギヤポジションセンサ22から読み込んだ変速段に基づいて、車両が惰性で走行している「コースティング状態」となるアクセル開度θcを演算する。具体的には、図3に示すように、車速及び変速段に対応したコースティング状態のアクセル開度が設定されたマップを参照し、車速V及び変速段に応じたアクセル開度θcを検索する。なお、コースティング状態となるアクセル開度θcは、運転者がアクセルペダルの操作量を一定に保持しようとしてもアクセル開度が多少増減する実情に鑑み、下限値及び上限値で画定される幅を有することが望ましい。
【0019】
ステップ3では、開度センサ32から読み込んだアクセル開度θがアクセル開度θcと等しいか否かを介して、車両がコースティング状態にあるか否かを判定する。ここで、アクセル開度θcに幅を持たせるようにすれば、アクセル開度θがアクセル開度θcと厳密に等しくなくても、アクセル開度θがアクセル開度θcの近傍にあれば、車両がコースティング状態にあると判定することができる。そして、車両がコースティング状態にあれば処理をステップ4へと進める一方(Yes)、車両がコースティング状態になければ処理をステップ1へと戻す(No)。
【0020】
ステップ4では、例えば、アクセルペダルの踏込時又は解放時など、アクセル開度θが一時的にアクセル開度θcとなる過渡状態のときにコースティング状態であると判定されることを抑制すべく、コースティング状態が所定時間連続しているか否かを判定する。そして、コースティング状態が所定時間連続していれば処理をステップ5へと進める一方(Yes)、コースティング状態が所定時間連続していなければ処理をステップ1へと戻す(No)。
【0021】
ステップ5では、摩擦クラッチ14を切断させるべく、クラッチブースタ12に制御信号を出力する。このとき、後述する変速動作に要する時間を短縮させることを目的として、摩擦クラッチ14を切断した後に、変速機16をニュートラルに変速させるべく、ギヤシフトユニット20に制御信号を出力するようにしてもよい。また、摩擦クラッチ14は、切断状態を保持しておくことが望ましい。
【0022】
ステップ6では、さらなる燃費向上を図るべく、エンジンコントローラ34に対して、エンジン回転速度をアイドル回転速度まで低下させることを依頼するアイドル指令を送信する。なお、エンジンコントローラ34に対してアイドル指令を送信する代わりに、エンジン10の燃料噴射量などを直接制御して、エンジン回転速度をアイドル回転速度まで低下させるようにしてもよい。
【0023】
ステップ7では、ステップ2と同様にして、車速センサ26から読み込んだ車速V、及び、ギヤポジションセンサ22から読み込んだ変速段に基づいて、車両が惰性で走行している「コースティング状態」となるアクセル開度θcを演算する。
【0024】
ステップ8では、開度センサ32から読み込んだアクセル開度θがアクセル開度θcでなくなったか否かを介して、車両がコースティング状態から逸脱したか否かを判定する。そして、車両がコースティング状態から逸脱したのであれば処理をステップ9へと進める一方(Yes)、車両がコースティング状態から逸脱していなければ処理をステップ7へと戻す(No)。
【0025】
ステップ9では、車速センサ26から読み込んだ車速V、及び、開度センサ32から読み込んだアクセル開度θに基づいて、車両走行状態に適合した目標変速段に変速機16を変速する。即ち、車速及びアクセル開度に対応した変速段が設定されたマップを参照し、車速V及びアクセル開度θに応じた目標変速段を決定する。そして、変速機16が目標変速段に変速されるように、ギヤシフトユニット20に制御信号を出力する。ここで、摩擦クラッチ14が切断状態に保持されているため、変速機16を目標変速段に変速する時間を短縮することができる。また、変速機16がニュートラルに変速されていれば、コースティング状態となったときの変速段からギヤ抜きをする必要がなく、変速機16を目標変速段に変速する時間をさらに短縮することができる。
【0026】
ステップ10では、摩擦クラッチ14を接続させるべく、クラッチブースタ12に制御信号を出力する。このとき、摩擦クラッチ14が半クラッチ状態を経て緩接続されるように、ストロークセンサ18から読み込んだクラッチストロークL、回転速度センサ24から読み込んだ変速機16の入力軸の回転速度Ni、及び、エンジンコントローラ34から読み込んだエンジンの回転速度Neに基づいて、クラッチブースタ12を制御することが望ましい。また、摩擦クラッチ14を接続するときに、エンジンコントローラ34から読み込んだエンジン10のトルクTを一時的に低下させることで、クラッチ接続時のショックをさらに緩和するようにしてもよい。
【0027】
かかる機械式自動変速機の制御装置によれば、アクセルペダルのアクセル開度θが、車速V及び変速段に応じたアクセル開度θcとなると、車両がコースティング状態になったと判定される。コースティング状態が所定時間連続すると、摩擦クラッチ14が切断されると共に、エンジン10がアイドル運転へと移行される。そして、アクセルペダルのアクセル開度θがアクセル開度θcでなくなると、車速V及びアクセル開度θに応じた変速段に変速機16が変速されると共に、摩擦クラッチ14が半クラッチ状態を経て緩接続される。
【0028】
このため、車両がコースティング状態になったときには、摩擦クラッチ14が切断されて惰性走行に移行することから、燃費向上を図ることができる。このとき、コースティング状態では惰性走行により車速が徐々に低下することとなるが、摩擦クラッチ14を切断してもコースティング状態からの減速度の変化が極僅かであるため、運転者に違和感を感じさせ難い。また、摩擦クラッチ14の切断と共に、エンジン10の回転速度がアイドル回転速度まで低下するので、さらなる燃費向上を図ることができる。さらに、車両がコースティング状態から逸脱したときには、車速V及びアクセル開度θに応じた変速段に変速機16が変速された後、摩擦クラッチ14が緩接続されるため、クラッチ接続ショックを緩和することができる。
【符号の説明】
【0029】
10 エンジン
12 クラッチブースタ
14 摩擦クラッチ
16 変速機
20 ギヤシフトユニット
22 ギヤポジションセンサ
26 車速センサ
28 変速機コントローラ
32 開度センサ
34 エンジンコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力軸に摩擦クラッチを介して歯車式変速機の入力軸が接続され、車両の走行状態に応じて摩擦クラッチの断接及び歯車式変速機の変速が自動的に行われる機械式自動変速機の制御装置において、
車速を検出する車速検出手段と、
前記歯車式変速機の変速状態を検出する変速状態検出手段と、
アクセル開度を検出する開度検出手段と、
前記車速検出手段により検出された車速、前記変速状態検出手段により検出された変速状態、及び、前記開度検出手段により検出されたアクセル開度に基づいて、車両が惰性で走行しているコースティング状態であるか否かを判定するコースティング判定手段と、
前記コースティング判定手段によりコースティング状態であると判定された状態が所定時間連続したときに、前記摩擦クラッチを切断するクラッチ切断手段と、
前記クラッチ切断手段により摩擦クラッチが切断された後、前記コースティング判定手段によりコースティング状態でないと判定されたときに、前記摩擦クラッチを接続するクラッチ接続手段と、
を備えたことを特徴とする機械式自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記コースティング判定手段は、前記車速検出手段により検出された車速、及び、前記変速状態検出手段により検出された変速状態に基づいて、コースティング状態となるアクセル開度を演算し、前記開度検出手段により検出されたアクセル開度が、前記コースティング状態となるアクセル開度であるときに、コースティング状態であると判定することを特徴とする請求項1記載の機械式自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記コースティング判定手段は、車速及び変速状態に対応したコースティング状態のアクセル開度が設定されたマップを参照して、前記車速及び変速状態に応じたコースティング状態となるアクセル開度を演算することを特徴とする請求項2記載の機械式自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記コースティング状態となるアクセル開度は、下限値及び上限値で画定される幅を有することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の機械式自動変速機の制御装置。
【請求項5】
前記クラッチ切断手段により摩擦クラッチが切断された後、前記エンジンの回転速度をアイドル回転速度まで低下させるアイドル移行手段を更に備えたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の機械式自動変速機の制御装置。
【請求項6】
前記クラッチ接続手段により摩擦クラッチを接続する前に、前記車速検出手段により検出された車速、及び、前記開度検出手段により検出されたアクセル開度に基づいて、前記歯車式変速機の目標変速段を決定する変速段決定手段と、
前記変速段決定手段により決定された目標変速段となるように、前記歯車式変速機を変速させる第1の変速手段と、
を更に備えたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の機械式自動変速機の制御装置。
【請求項7】
前記エンジンの回転速度を検出する回転速度検出手段と、
前記第1の変速手段により歯車式変速機が目標変速段に変速された後、前記クラッチ接続手段により摩擦クラッチを接続する前に、前記回転速度検出手段により検出された回転速度、及び、前記変速状態検出手段により検出された変速状態に基づいて、前記エンジンの回転速度を調整する回転速度調整手段と、
を更に備えたことを特徴とする請求項6記載の機械式自動変速機の制御装置。
【請求項8】
前記クラッチ切断手段により摩擦クラッチが切断された後、前記歯車式変速機をニュートラルに変速する第2の変速手段を更に備えたことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1つに記載の機械式自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−163535(P2011−163535A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30116(P2010−30116)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(504334865)日産ライトトラック株式会社 (60)
【Fターム(参考)】