説明

気相成長方法、及び気相成長方法により形成された化合物半導体膜

【課題】本発明は、MOCVD法により化合物半導体膜が形成された基板に残存する反りを十分に低減することの可能な気相成長方法、及び気相成長方法により形成された化合物半導体膜を提供することを課題とする。
【解決手段】化合物半導体膜12を成膜後に、基板11の温度を下げる降温工程、及び/又は化合物半導体膜12を気相成長後に基板11の温度を上げる昇温工程と、を有し、降温工程及び/又は昇温工程では、反応炉16内への気相成長原料(原料ガス)の導入を停止すると共に、反応炉16内への不活性ガスの導入を段階的に減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長方法、及び気相成長方法により形成された化合物半導体膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サセプタに保持された基板を所定温度に加熱した状態で反応室内に原料ガスを供給し、基板の表面に化合物半導体膜を形成する(結晶を成長させる)気相成長方法が用いられている。
【0003】
また、化合物半導体膜(化合物半導体結晶)を形成する方法の1つとして、MOCVD法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;有機金属気相成長法)がある。
【0004】
MOCVD法では、気相状態で原料ガスを反応領域まで運び、反応領域で結晶を成長させたり、成長させる結晶と同じ化学組成をもった多結晶等の原料を気体にして反応領域まで運び成長させたりする。
上記原料ガスとしては、原料と、該原料を運ぶための気体であるキャリアガスとが混合された混合ガスを用いる(例えば、特許文献1参照。)
【0005】
一般的には、上記原料として、III族元素を有する有機金属と、V族元素を有する水素化物と、が用いられる。
上記有機金属としては、TMI(tri−methyl−indium)、TMG(tri−methyl−gallium)、TMA(tri−methyl−aluminum)等が用いられる。
また、上記水素化物としては、AsH(アルシン)、PH(ホスフィン)、NH(アンモニア)等が用いられる。
【0006】
有機金属は、常温では液体または固体であるが、飽和蒸気圧が高い性質を利用して、恒温槽等で温度を一定に保った有機金属中に、H(水素)やN(窒素)をキャリアガスとして用いてバブリングすることで、結晶を成長させるに十分な量の原料ガスを得ることができると共に、原料ガスを安定した流量で反応領域に供給する事ができる。
【0007】
ところで、近年、MOCVD法を使用した化合物半導体膜の量産技術は、日々進展している。例えば、複数の基板に対して均一な厚さの化合物半導体膜を形成する1つの手段として、サセプタを回転させる(公転させる)と共に、該サセプタの回転に伴って基板が載置される基板トレイを回転させ(自転させ)、成膜中の基板を自公転させることで量産に対応することが行なわれている。また、基板の直径を大きくする(大口径化する)ことで量産に対応することも行なわれている。
【0008】
MOCVD法は、気相エピタキシャル成長法(気相エピタキシー)であって、原料となる有機金属を気相で反応領域まで運び、反応領域において有機金属に熱エネルギーを与え、該熱エネルギーを与えられた有機金属が熱分解反応することで、基板の表面に結晶を成長させる方法である。
【0009】
特に、化合物半導体膜は、基板を構成する物質とエピタキシャル層を構成する物質とが異なる物質であるヘテロエピタキシャル成長(ヘテロエピタキシー)により形成する。
つまり、加熱された基板に原料ガスが到達すると、基板上で原料ガスが分解・化学反応を起こし、結晶情報を引き継いで基板の表面に化合物半導体膜が成長(堆積)する。また、原料ガスの流量、温度、圧力等を変えることによって、様々な組成、物性、構造を持つ化合物半導体膜を成膜することができる。
【0010】
反応領域で有機金属に熱エネルギーを与える方法としては、基板の裏面を基板トレイやサセプタを介して、ヒーター等の加熱装置により加熱する方法がある。
MOCVD法において、化合物半導体膜を形成する際に熱エネルギーを与える場合としては、加熱装置により基板を加熱する過程(昇温過程)があり、また、化合物半導体膜を形成する際に熱エネルギーを与えない場合としては、加熱しない過程(降温過程)がある。
【0011】
一方、量産に対応するために大口径化された基板の表面に、化合物半導体膜を形成する場合、基板の反りが顕著な問題となってきている。
大口径化された基板の場合、基板の僅かな曲率の反りであっても、基板上を流れる原料ガスの所定の流れを乱すこと、及び基板の表面の温度分布が均一でなくなることにより、基板の表面に均一な厚さ、及び均一な組成とされた化合物半導体膜を形成することが困難となる。この結果、基板に製造される素子の特性にばらつきが生じて、素子(具体的には、例えば、LED素子)の歩留が低下してしまう。
【0012】
特許文献2には、基板トレイの形状を変更することで、基板自身の温度を均一にし、その結果、基板の反り(具体的には、基板の表面と基板の裏面との温度差により生じる反り、及び基板の外縁部と基板の中央部との熱膨張量差に基づく基板の反り)を低減することが開示されている。
【0013】
また、従来、化合物半導体膜と基板との間に生じる歪を小さくするような原料の組合せにより、基板の材料及び化合物半導体膜の材料に起因する基板の反りを生じにくくすることが行なわれている。
具体的には、例えば、非特許文献1には、超格子構造を採用して、化合物半導体膜と基板との間に生じる歪を緩和させることで、基板の材料及び化合物半導体膜の材料に起因する基板の反りを生じにくくして、化合物半導体膜を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006―173346号公報
【特許文献2】特開2010−080614号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】D. Zhu他、Proceedings of SPIE Vol.7231 pp.723118−1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、MOCVD法で化合物半導体膜を形成する過程で発生する基板の反りの種類としては以下の4種類がある。
【0017】
(1)第1の反り
一般に、反応炉内の基板は、基板の表面(基板の表面)の温度よりも基板の裏面(基板の裏面)の温度のほうが高い。これは、基板が基板の裏面側から加熱手段により加熱されているからである。
【0018】
また、MOCVD法により化合物半導体膜を形成する過程では、反応炉内に導入される原料ガスの導入流量を増加させる場合がある。この場合、反応炉内に導入される原料ガスは常温なので、反応炉内に導入される原料ガスにより、基板の表面の温度は基板の裏面の温度よりも下がりやすい。
【0019】
このように、基板の表面と基板の裏面との温度差により、基板の表面と基板の裏面との熱膨張量差が生じて、基板自身が反って変形してしまうのが第1の反りである。
【0020】
(2)第2の反り
化合物半導体膜の多くは、基板の材料(物質)と化合物半導体膜の材料(物質)が異なる、所謂ヘテロエピタキシーにより形成される。基板の材料と化合物半導体膜の材料との熱膨張係数差に基づいて、基板の表面に形成された化合物半導体膜は、基板と共に反って変形してしまう。
【0021】
第2の反りは、基板の温度が一定の温度となるように調整し、かつ反応炉内に原料ガスを導入して化合物半導体膜を形成する場合には発生しない。これは、化合物半導体膜を形成する間は温度変化がないからである。第2の反りは、化合物半導体膜の形成が終了するにあたって、基板の加熱を終了する時(降温過程)に発生する。
【0022】
(3)第3の反り
基板の外縁部と基板の中央部との間に温度差が生じると、基板の外縁部と基板の中央部との熱膨張量差に基づいて、基板が反って変形してしまうのが第3の反りである。
特に、基板が大口径の場合には、基板の外縁部と基板の中央部との熱膨張量差が無視できないので、上記第3の反りが発生しやすい。
【0023】
そこで、基板の外縁部と基板の中央部との温度差ができるだけ大きくならないように様々な対策が為されている。
例えば、化合物半導体膜の形成(成膜)を終了する降温過程において、基板の裏面側に設けられた加熱手段を制御して、基板の外縁部(降温過程において基板の温度が低下しやすい部分)の温度を低下しにくくすることで、基板の外縁部と基板の中央部との温度差を小さくすることができる。
【0024】
一方、化合物半導体膜の成膜中における降温過程及び昇温過程等のように、基板及び基板周辺の温度が過渡的に変化する場合には、上記加熱手段の制御では、基板及び基板周辺の温度を均一に維持することが困難な場合がある。
【0025】
(4)第4の反り
第3の反りが生じた状態の基板をさらに昇温させて、かつ、その状態を長時間持続すると、基板中に結晶欠陥が進展し、この結晶欠陥によって基板が反って変形してしまう。これが第4の反りである。
特に、Si基板上に化合物半導体膜を形成する場合には、Si基板中に進展する結晶欠陥として熱歪によるスリップと呼ばれる変形が生じる。
【0026】
しかしながら、基板トレイの形状を変更することや原料の組合せを考慮するのみでは、化合物半導体膜を形成後の基板に残存する上記第1乃至第4の反りを十分に低減することは困難であった。
【0027】
そこで、本発明は、MOCVD法により化合物半導体膜が形成された基板に残存する反りを十分に低減することの可能な気相成長方法、及び気相成長方法により形成された化合物半導体膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明によれば、気相成長装置の反応炉内にサセプタを設置して、該サセプタに基板を載置した状態で前記基板を加熱すると共に、前記反応炉内に気相成長原料と不活性ガスとを導入し、前記基板を自公転させながら基板の表面に、MOCVD法により化合物半導体膜を成膜する気相成長方法であって、前記化合物半導体膜を成膜後に、前記基板の温度を下げる降温工程、及び/又は前記化合物半導体膜を気相成長後に前記基板の温度を上げる昇温工程と、を有し、前記降温工程及び/又は前記昇温工程では、前記反応炉内への前記気相成長原料の導入を停止すると共に、前記反応炉内への前記不活性ガスの導入を段階的に減少させることを特徴とする気相成長方法が提供される。
【0029】
また、請求項2に係る発明によれば、気相成長装置の反応炉内にサセプタを設置して、該サセプタに基板を載置した状態で前記基板を加熱すると共に、前記反応炉内に気相成長原料と不活性ガスとを導入し、前記基板を自公転させながら基板の表面に、MOCVD法により化合物半導体膜を成膜する気相成長方法であって、前記化合物半導体膜を成膜後に、前記基板の温度を下げる降温工程、及び/又は前記化合物半導体膜を気相成長後に前記基板の温度を上げる昇温工程と、を有し、前記降温工程では、前記反応炉内への前記気相成長原料の導入を停止し、かつ前記反応炉内へ前記不活性ガスを導入すると共に、前記反応炉内の圧力を段階的に上昇させ、前記昇温工程では、前記反応炉内への前記気相成長原料の導入を停止し、かつ前記反応炉内へ前記不活性ガスを導入すると共に、前記反応炉内の圧力を段階的に下降させることを特徴とする気相成長方法が提供される。
【0030】
また、請求項3に係る発明によれば、気相成長装置の反応炉内にサセプタを設置して、該サセプタに基板を載置した状態で前記基板を加熱すると共に、前記反応炉内に気相成長原料と不活性ガスとを導入し、前記基板を自公転させながら基板の表面に、MOCVD法により化合物半導体膜を成膜する気相成長方法であって、前記化合物半導体膜を成膜後に、前記基板の温度を下げる降温工程、及び/又は前記化合物半導体膜を気相成長後に前記基板の温度を上げる昇温工程と、を有し、前記降温工程では、前記反応炉内への前記気相成長原料の導入を停止し、前記反応炉内への前記不活性ガスの導入を段階的に減少させると共に、前記反応炉内の圧力を段階的に上昇させ、前記昇温工程では、前記反応炉内への前記気相成長原料の導入を停止し、かつ前記反応炉内への前記不活性ガスの導入を段階的に減少させると共に、前記反応炉内の圧力を段階的に下降させることを特徴とする気相成長方法が提供される。
【0031】
また、請求項4に係る発明によれば、前記反応炉内への前記不活性ガスの導入を段階的に減少させる際、前記化合物半導体膜の成膜中に前記反応炉内へ導入される前記不活性ガスの流量よりも少ない流量の範囲内で、前記不活性ガスの導入を段階的に減少させることを特徴とする請求項1又は3記載の気相成長方法が提供される。
【0032】
また、請求項5に係る発明によれば、前記反応炉内の圧力を段階的に上昇させる際、前記化合物半導体膜の成膜中における前記反応炉内の圧力よりも高い圧力の範囲内で、前記反応炉内の圧力を段階的に上昇させることを特徴とする請求項2又は3記載の気相成長方法が提供される。
【0033】
また、請求項6に係る発明によれば、前記降温工程、及び/又は前記昇温工程を繰り返し行うことを特徴とする請求項1乃至5のうち、いずれか1項記載の気相成長方法が提供される。
【0034】
また、請求項7に係る発明によれば、前記請求項1乃至6のうち、いずれか1項記載の気相成長方法により形成された化合物半導体膜が提供される。
【発明の効果】
【0035】
本発明の気相成長方法によれば、MOCVD法により化合物半導体膜が形成された基板に残存する反り(具体的には、第1乃至第4の反り)を十分に低減することができる。
【0036】
また、本発明の気相成長方法により形成された化合物半導体膜によれば、MOCVD法により化合物半導体膜が形成された基板に残存する反り(具体的には、第1乃至第4の反り)が十分に低減されることで、基板に残存する反りにより化合物半導体膜が損傷することを抑制できる。また、基板の反りを抑制することにより、フォトリソグラフィーあるいはステッパー等の後工程に支障を来すことなく工程を進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態に係る気相成長法により基板の表面に化合物半導体膜を成膜する際に使用する気相成長装置の主要部の断面図である。
【図2】図1に示すサセプタの上面側から、サセプタ、基板トレイ、及び基板を平面視した図である。
【図3】図1に示すサセプタの下面側から、サセプタ、基板トレイ、及び基板を平面視した図である。
【図4】化合物半導体膜が形成された基板の断面図である。
【図5】基板の反り高さを説明するための基板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照して本発明を適用した実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の実施形態の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の気相成長装置、及び化合物半導体膜が形成された基板の寸法関係とは異なる場合がある。
【0039】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る気相成長法により基板の表面に化合物半導体膜を成膜する際に使用する気相成長装置の主要部の断面図である。
始めに、図1を参照して、本発明の実施の形態に係る気相成長法により基板11の表面11aに化合物半導体膜12を成膜する際に使用する気相成長装置10の構成について説明する。
【0040】
図1を参照するに、気相成長装置10は、基板11を自公転させながら基板11の表面11aに化合物半導体膜12を形成する自公転型の気相成長装置である。
【0041】
気相成長装置10は、一度に複数枚の基板11の表面11aに化合物半導体膜12を形成する気相成長装置であり、公転するサセプタ14の外周部周方向に複数の自転する基板トレイ15を配置し、基板トレイ15の外周部に軸受及び外歯車を設け、反応炉16の内面に設けられた固定歯車と外歯車とを噛合させることによって、基板トレイ15を自公転させると共に、基板11を自公転させる自公転型気相成長装置である。
【0042】
気相成長装置10は、反応炉16と、基板トレイ15が載置されるサセプタ14と、反応炉16内に設置され、かつ基板11が載置される基板トレイ15と、気相成長原料である原料ガスを供給する原料ガス導入ノズル18と、加熱手段である第1乃至第3の加熱手段25〜27と、を有する。
また、反応炉16内の圧力を制御できるように、反応炉16の排気口16Aと連通する配管に排気バルブ(図示しない)が設けられている。
【0043】
図2は、図1に示すサセプタの上面側から、サセプタ、基板トレイ、及び基板を平面視した図である。図2において、図1に示す気相成長装置10と同一構成部分には、同一符号を付す。
図1を参照するに、基板11は、表面11aが基板トレイ15の上面に対して略面一となるように、基板トレイ15に載置されている。
図2を参照するに、基板11は、原料ガス導入ノズル18を中心に放射状に複数配置されている。基板11としては、例えば、サファイア基板、Si基板等を用いることができる。
【0044】
図1を参照するに、サセプタ14は、カーボン等からなり、その上部には基板トレイ15が載置されている。サセプタ14の表面14aには、基板11の表面11aに形成される化合物半導体膜12に不純物が混入するのを抑制するために、例えば、グラファイトや炭化ケイ素等がコーティングされている。
【0045】
図1を参照するに、基板トレイ15は、サセプタ14の上面側に設けられている。基板トレイ15は、基板11を載置するための部材である。基板トレイ15の上面は、サセプタ14の表面14aに対して略面一とされている。
【0046】
図1を参照するに、原料ガス導入ノズル18は、第1乃至第3の流路21〜23を有し、基板11の表面11aに形成する化合物半導体膜12の種類に応じて、第1乃至第3の流路21〜23のそれぞれに対して原料ガスを流通させる。
第1乃至第3の流路21〜23は、基板11に近いほうから、第1の流路21、第2の流路22、第3の流路23の順に配置されている。
【0047】
原料ガス導入ノズル18の材料としては、例えば、石英ガラスを用いるとよい。なお、上記石英ガラス以外の原料ガス導入ノズル18の材料としては、例えば、カーボン、炭化シリコン(SiC)、ボロンナイトライド(BN)、タンタルカーバイド(TaC)等を用いることができる。
【0048】
原料ガスは、原料供給源(図示せず)から原料ガス導入ノズル18を介して、反応炉16に導入されると共に、原料ガス導入ノズル18を中心として反応炉16内に放射状に導入されて、基板11上に効率よく導かれる。
【0049】
図1を参照するに、基板11は、基板トレイ15により保持され、サセプタ14及び基板トレイ15を介して、第1乃至第3の加熱手段25〜27(3つの加熱手段)により加熱される。すなわち、サセプタ14を発熱体として基板トレイ15を介して間接的に基板11を加熱する。第1乃至第3の加熱手段25〜27は、サセプタ14の下方に設けられている。
図1を参照するに、第1乃至第3の加熱手段25〜27は、原料ガス導入ノズル18に近い側から、第1の加熱手段25、第2の加熱手段26、第3の加熱手段27、の順に配置されている。
【0050】
図3は、図1に示すサセプタの下面側から、サセプタ、基板トレイ、及び基板を平面視した図である。図3において、図1に示す気相成長装置10と同一構成部分には、同一符号を付す。
【0051】
図1及び図3を参照するに、第1乃至第3の加熱手段25〜27は、サセプタ14の中心から同心円状に3分割された第1乃至第3の加熱領域31〜33(3つのゾーン)を加熱する。
具体的には、第1の加熱手段25が第1の加熱領域31を加熱し、第2の加熱手段26が第2の加熱領域32を加熱し、第3の加熱手段27が第3の加熱領域33を加熱する。
【0052】
また、第1乃至第3の加熱手段25〜27は、それぞれ独立して加熱温度を変更可能な構成とされている。例えば、各ゾーンに抵抗ヒーターを配置する場合、該抵抗ヒーターに与える電力を、電力操作器等を用いて個別に制御することで、サセプタ14の径方向に温度分布をもたせることができる。
具体的には、例えば、第1乃至第3の加熱手段25〜27として抵抗ヒーターを配置する場合、抵抗ヒーターに与える電力を、電力操作器等を用いて個別に制御することで、サセプタ14の径方向に温度分布をもたせることができる。
【0053】
第1乃至第3の加熱手段25〜27としては、例えば、抵抗加熱による加熱手段や誘導加熱による加熱手段を使用することが可能であるが、これらに限定されない。
誘導加熱を使用した加熱手段は、信頼性及び再現性に優れており、また、非接触でエネルギー効率の高い加熱を短時間で行うことができる。また、加熱対象となる部材に対して、極めて狭い範囲もしくは高い温度制御精度で加熱可能であるため、化合物半導体膜12を形成するのに適切な温度分布を基板11上にもたせることができる。
【0054】
基板11の温度や反応炉16内の雰囲気温度が定常状態の場合では、以下のように第1乃至第3の加熱手段25〜27を制御することのみで、第3の反り及び/又は第4の反りを生じにくくすることができる。
【0055】
基板11の中央部の温度を基板11の外縁部の温度よりも高く設定する場合には、第2の加熱手段26に相当する抵抗ヒーターに与える電力を、第1及び第3の加熱手段25,27に相当する抵抗ヒーターの電力よりも高くすればよい。
【0056】
逆に、基板11の中央部の温度を基板11の外縁部の温度より低く設定する場合には、第2の加熱手段26に相当する抵抗ヒーターに与える電力を、第1及び第3の加熱手段25,27に相当する抵抗ヒーターの電力よりも低くすればよい。
【0057】
このように、基板11の温度や反応炉16内の雰囲気温度が定常状態の場合においては、第1乃至第3の加熱手段25〜27を制御することにより、第3及び第4の反りを制御する(減少させる)ことが可能である。
なお、第3の反りは、基板11の外縁部と基板11の中央部との間に温度差により、基板11の外縁部と基板11の中央部との熱膨張量差に基づく基板11の反りである。また、第4の反りは、第3の反りが生じた状態の基板11をさらに昇温させて、かつ、その状態を長時間持続させた際、基板11中に結晶欠陥が進展することで発生する基板11の反りである。
【0058】
上記構成とされた気相成長装置10では、原料ガス導入ノズル18を介して導入された原料ガスが、原料ガス導入ノズル18を中心に放射状に反応炉16内に供給され、反応炉16内で基板11の表面11aに対して原料ガスが平行に流れると共に、基板11が所定の温度に加熱された状態で、基板11の表面11aが反応炉16内部を流れる原料ガスと接触して、基板11の表面11aに化合物半導体膜12が成膜される。
【0059】
なお、反応炉16内に導入した全ての原料ガスが化合物半導体膜12の成膜に寄与するわけではなく、化合物半導体膜12の成膜に寄与しない原料ガスは、反応炉16に設けられた排気口16Aから排出される。このとき、反応炉16内は所定の圧力で保持されている。
【0060】
また、図1及び図4では、一例として、サセプタ14の中心から同心円状に3分割された第1乃至第3の加熱領域31〜33を第1乃至第3の加熱手段25〜27で加熱する場合を例に挙げて説明したが、例えば、サセプタ14の中心から同心円状に4分割された第1乃至第4の加熱領域(図示せず)を加熱する第1乃至第4の加熱手段(図示せず)を設け、該第1乃至第4の加熱手段により基板11を加熱してもよい。
また、各第1乃至第3の加熱手段25〜27を、それぞれを周方向において複数に分割してもよい。
【0061】
MOCVD法を用いて化合物半導体膜12を形成する場合、様々な成膜条件を設定することにより、LED用途等の目的に応じた化合物半導体膜12を形成することができる。
上記成膜条件としては、例えば、反応炉16に導入される原料ガス流量、キャリアガス(不活性ガス)流量、基板11の温度、反応炉16内の雰囲気温度等がある。
【0062】
なお、反応炉16内の雰囲気温度としては、例えば、基板11の周辺温度があり、これは、基板11を所定の温度にするために、第1乃至第3の加熱手段25〜27により導入される熱エネルギーに依存する。
【0063】
また、適宜上記成膜条件を変更することで、さらに目的に応じた化合物半導体膜12を形成することができる。このため化合物半導体12の同一材料を成膜中は反応炉16内の温度、圧力、制御している温度が一定で安定している(以下、この状態を「定常状態」という)。成膜材料を変更するときには一度成膜を中断し、反応炉16内の温度条件等を目的に応じて変更し、反応炉16の温度、圧力等が安定してから成膜を再開する。また、成膜中に温度や圧力条件が変化する場合もあり、このときには意図せずに反応炉16内の温度や圧力が制御変化に間に合わず、一時的に制御範囲から大きく逸れた状態となる場合がある。以下、このような温度・圧力環境を「過渡状態」という。
【0064】
図4は、化合物半導体膜が形成された基板の断面図である。図4において、図1に示す構造体と同一構成部分には同一符号を付す。
ここで、化合物半導体膜12の構成の一例について説明する。
図4を参照するに、化合物半導体膜12は、LEDに適用される化合物半導体膜であり、基板11の表面11aに設けられている。化合物半導体膜12は、基板11の表面11a上に、第1のud―GaN層36(第1層)と、Mg−AlGaN層37(第2層)と、Mg−Ga層38(第3層)と、第2のud―GaN39(第4層)とが順次積層された構成(4層構造)とされている。
【0065】
第1のud―GaN層36を形成する場合には、原料ガス導入ノズル18の第1乃至第3の流路21〜23から、所定の割合で混合された有機金属及びキャリアガスを原料ガスとして、反応炉16内に導入する。
具体的には、例えば、第1の流路21にNとNHとの混合ガスを導入し、第2の流路22にH、N、及びTMGを導入し、第3流路23にN、NH、及びHの混合ガスを導入する。
【0066】
基板11の温度や反応炉16内の雰囲気温度が過渡状態の場合、後述する本発明の気相
成長方法を実施することにより、第1乃至第4の反りを生じにくくすることができる。
なお、第1の反りとは、基板11の表面11aと基板11の裏面11bとの温度差により、基板11の表面11aと基板11の裏面11bとの熱膨張量差が生じることで発生しり反りである。また、第2の反りとは、基板11の材料と化合物半導体膜12の材料との熱膨張係数差に基づいて発生する反りである。
【0067】
基板11の温度や反応炉16内の雰囲気温度が過渡状態の場合として、例えば、化合物半導体膜12の形成を完了する場合(完了過程)が挙げられる。該完了過程では、第1乃至第3の加熱手段25〜27により導入される熱エネルギーを与えず、キャリアガスのみを反応炉16内に導入する降温過程が実施される。
【0068】
降温過程では、例えば、基板11の外縁部分の温度が基板11の中心部分の温度より先に低くなると共に、基板11の外縁部分と基板11の中心部分との温度差による熱変形が生じ、基板11自身が反って変形してしまう。この場合、第3の反りが生じる。
【0069】
過渡状態においては、定常状態と同様に第1乃至第3の加熱手段25〜27を制御することによって、例えば、第3の反りを生じなくすることは不可能である。これは、過渡状態における基板11の温度の時間変化や反応炉16内の雰囲気温度の時間変化に対して、第1乃至第3の加熱手段25〜27の制御が追いつかないからである。
【0070】
そこで、本発明は、降温過程において、キャリアガスの導入量を減少させていくこと、及び/又は、反応炉16内の圧力を上昇させることで、基板11の温度や反応炉16内の雰囲気温度を制御し、基板11に第1乃至第4の反りを生じにくくする。
【0071】
反応炉16内の圧力を上昇させる際、例えば、反応炉16内の圧力を段階的に上昇させることができる。この場合、化合物半導体膜12の成膜中における反応炉16内の圧力よりも高い圧力の範囲内で、反応炉16内の圧力を段階的に上昇させる。
【0072】
キャリアガスの反応炉16内への導入流量を減少させていくことにより、基板11の反り量が減少する理由として、以下の理由が考えられる。
第1乃至第3の加熱手段25〜27からの熱エネルギーの供給を停止すると、徐々に基板11の温度や反応炉16内の雰囲気温度が低下する。このとき、基板11については、基板11の外縁部の温度が基板11の中心部の温度より先に低下する。
また、常温のキャリアガスを反応炉16内へ流通させることで、基板11の外縁部は常にキャリアガスにより冷却される。このため、基板11の外縁部の温度と基板11の中心部の温度との差が大きくなる。
【0073】
そこで、常温(例えば、25℃)のキャリアガスの反応炉16への導入流量を段階的に減少させていくことで、基板11の外縁部がキャリアガスにより冷却される冷却熱量が減少し、基板11の外縁部の温度と基板11の中心部の温度との差を小さくすることが可能となり、基板11の反り量を小さくすることができる。
【0074】
本実施の形態において、常温のキャリアガスの反応炉16への導入流量を段階的に減少させるとは、例えば、キャリアガスの流量をある程度の時間をかけて徐々に減少させるステップと、減少したキャリアガスの流量を一定に保つステップと、を繰り返し行う場合や、目標とする流量まで一気にキャリアガスの流量を減らすステップと、減少したキャリアガスの流量を一定に保つステップと、を繰り返し行う場合等のことをいう。
【0075】
また、本実施の形態において、常温のキャリアガスの導入流量を段階的に減少させる際には、化合物半導体膜12の成膜中に反応炉16内へ導入されるキャリアガス(不活性ガス)の流量よりも少ない流量の範囲内で、キャリアガスの導入を段階的に減少させる。
【0076】
反応炉16内の圧力を上昇させることで、基板11の反り量が減少する理由としては、以下の理由が考えられる。
第1乃至第3の加熱手段25〜27からの熱エネルギーの供給を停止すると、徐々に基板11の温度や反応炉16内の雰囲気の温度が低下する。このとき、基板11については、基板11の外縁部の温度が基板11の中心部の温度よりも先に低下する。
【0077】
そこで、反応炉16内の圧力を上昇させると、反応炉16内の基板11上を流れるキャリアガスの流速が小さくなる。これにより、基板11の外縁部の温度と基板11の中心部の温度との差が小さくなり、基板11の反り量が小さくなると考えられる。
また、反応炉16内の圧力を上昇させる方法としては、例えば、排気口16Aと接続された排気バルブ(図示せず)の開度を調整することが挙げられる。この場合、反応炉16の排気口16Aを介して排出される導出ガス流量を排気バルブで調整する。
【0078】
基板11の反りを測定するにあたっては、三次元測長器(図示せず)を用いる。三次元測長器としては、例えば、キーエンス社製三次元測長器(LT−8110型)を用いることができる。
【0079】
基板11の反りの測定は、基板11の表面11aに形成された化合物半導体12を損傷しないように非接触で行なう。
三次元測長器は、レーザ測長器から射出されたレーザが被測定物である基板11上へ照射されると共に、該レーザ測長器によって測定される距離データに基づいて、レーザが照射されている基板上の点の三次元座標を演算する。
三次元測長器を用いて、化合物半導体膜12を形成する前の基板11と、化合物半導体膜12が形成された後の基板11と、を測定することで、基板11の反りを評価できる。
【0080】
また、三次元測長器を用いた測定は、反応炉16から取り出した基板11を測定してもよいし、反応炉16内に基板11を載置したままの状態(以下、「In−situ」という)で測定してもよい。
【0081】
In−situで測定する場合、例えば、基板11の直上に、かつ、基板11に対向するように、反応炉16にレーザ測長器を設ければよい。
なお、In−situで測定する場合、基板11の表面11aに化合物半導体膜12を成膜しながら、基板11の反りを測定することも可能である。
【0082】
図5は、基板の反り高さを説明するための基板の断面図である。図5において、Cは反り高さ(以下、「反り高さC」という)、Hは基板11の厚さ、Wは基板11の直径をそれぞれ示している。
【0083】
基板11の反りを定量的に評価する指標として反り高さがある。
図5を参照するに、反り高さCは、基板11の円周端面を通る平面と最大反りとの差である。反り高さCは、三次元測長器で基板11を測定した後に算出することで得られる。
【0084】
本実施の形態の気相成長方法によれば、化合物半導体膜12を成膜後に行なう降温工程及び/又は昇温工程において、反応炉16内への原料ガス(気相成長原料)の導入を停止すると共に、反応炉16内へのキャリアガス(不活性ガス)の導入を段階的に減少させることにより、MOCVD法により化合物半導体膜12が形成された基板11に残存する第1乃至第4の反りを十分に低減することができる。また、上記降温工程及び昇温工程を繰り返し行なってもよい。
【0085】
また、本実施の形態の気相成長方法により形成された化合物半導体膜12によれば、基板11の反りが十分に低減されることで、基板11に残存する反りにより化合物半導体膜12が損傷することを抑制できる。
【0086】
なお、化合物半導体膜12を成膜後に行なう降温工程において、反応炉16内への原料ガス(気相成長原料)の導入を停止し、かつ反応炉16内へキャリアガス(不活性ガス)を導入すると共に、反応炉16内の圧力を段階的に上昇させ、化合物半導体膜12を成膜後に行なう昇温工程では、反応炉16内への原料ガスの導入を停止し、かつ反応炉16内へキャリアガスを導入すると共に、反応炉16内の圧力を段階的に下降させてもよい。
この場合、本実施の形態の気相成長方法と同様な効果を得ることができる。また、上記降温工程及び昇温工程を繰り返し行なってもよい。
【0087】
また、化合物半導体膜12を成膜後に行なう降温工程において、反応炉16内への原料ガス(気相成長原料)の導入を停止し、反応炉16内へのキャリアガス(不活性ガス)の導入を段階的に減少させると共に、反応炉16内の圧力を段階的に上昇させ、化合物半導体膜12を成膜後に行なう昇温工程では、反応炉16内への原料ガスの導入を停止し、かつ反応炉16内への不活性ガスの導入を段階的に減少させると共に、反応炉16内の圧力を段階的に下降させてもよい。
この場合、本実施の形態の気相成長方法と同様な効果を得ることができる。また、上記降温工程及び昇温工程を繰り返し行なってもよい。
【0088】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0089】
(実施例1)
図1を参照して、図1に示す気相成長装置10を用いた実施例1の気相成長法について説明する。
<化合物半導体膜の形成前過程>
化合物半導体膜12の形成に先立って、反応炉16内に基板11としてSi基板を載置し、キャリアガスとしてHを200SLMの流量で供給し、反応炉16内の圧力を10kPaとし、基板11の温度を1100℃まで昇温させた。なお、上記キャリアガスとして、Hの替わりに、NやAr等の不活性ガスを用いてもよい。
次いで、H雰囲気で、基板11の温度1100℃を10分間保持することで、基板11のクリーニングを行なった。
【0090】
<化合物半導体膜の形成過程>
次いで、基板11の表面11aに、化合物半導体膜12を形成した。具体的には、原料ガスとして、III族元素を有する有機金属であるTMA(流量500sccm)、及びV族元素を有する水素化物であるNH(流量20SLM)を、反応炉16内に常温(例えば、25℃)で流通させると共に、キャリアガスであるH(流量200SLM)を反応炉16内に流通させることで、化合物半導体膜12としてAlN膜を成膜した。
【0091】
実施例1では、化合物半導体膜12としてAlN膜を成膜したが、III族元素を有する有機金属として、例えば、TMGやTMI等を用いてもよい。また、V族元素を有する水素化物として、例えば、AsHやPH等を用いてもよい。さらに、キャリアガスとして、例えば、NやAr等の不活性ガスを用いてもよい。
【0092】
<化合物半導体膜の形成後過程>
化合物半導体膜12を形成した後、原料ガスの反応炉16への導入を停止すると共に、第1乃至第3の加熱手段25〜27からの熱エネルギーの供給を停止した。このとき、基板11の温度は、1200℃から概略15℃/minで一定に降下する。
【0093】
また、キャリアガス(この場合、H)の反応炉16への導入流量を常温(例えば、25℃)で、以下に説明するように段階的に減少させた。
具体的には、第1段階として、キャリアガスの導入流量を200SLMから100SLMまで10SLM/minの割合で減少させ、次いで、第2段階としてキャリアガスの導入流量を100SLMで一定に保った状態で10分間保持し、次いで、第3段階としてキャリアガスの導入流量を100SLMから50SLMまで10SLM/minの割合で減少させ、その後、10SLM/minの割合で、最終的に20SLMまでキャリアガスの導入流量を減少させた。
【0094】
<反り量の測定>
化合物半導体膜12が形成された基板11の変形量を、キーエンス社製三次元測長器(LT−8110型)を用いて測定した。表1に、実施例1による化合物半導体膜12が形成された基板11の反り高さCの値を示す。表1を参照するに、実施例1の反り高さCは、60μmであり、良好な結果が得られた。
【0095】
【表1】

【0096】
(実施例2)
図1を参照して、図1に示す気相成長装置10を用いた実施例2の気相成長法について説明する。
<化合物半導体膜の形成前過程>
化合物半導体膜12の形成に先立って、反応炉16内に基板11としてSi基板を載置し、キャリアガスとしてHを200SLMの流量で供給し、反応炉16内の圧力を10kPaとし、基板11の温度を1100℃まで昇温させた。上記キャリアガスとして、Hの替わりに、NやAr等の不活性ガスを用いてもよい。
次いで、H雰囲気で、基板11の温度1100℃を10分間保持することで、基板11のクリーニングを行なった。
【0097】
<化合物半導体膜の形成過程>
次いで、基板11の表面11aに、化合物半導体膜12を形成した。具体的には、原料ガスとして、III族元素を有する有機金属であるTMA(流量500sccm)、及びV族元素を有する水素化物であるNH(流量20SLM)を、反応炉16内に常温(例えば、25℃)で流通させると共に、キャリアガスであるH(流量200SLM)を反応炉16内に流通させることで、化合物半導体膜12としてAlN膜を成膜した。化合物半導体成膜12を成膜時の反応炉16内の圧力は、圧力10kPaとした。
【0098】
実施例2では、化合物半導体膜12としてAlN膜を成膜したが、III族元素を有する有機金属として、例えば、TMGやTMI等を用いてもよい。また、V族元素を有する水素化物として、例えば、AsHやPH等を用いてもよい。また、キャリアガスとして、例えば、NやAr等の不活性ガスを用いてもよい。
【0099】
<化合物半導体膜の形成後過程>
化合物半導体膜12を形成後、原料ガスの反応炉16への導入を停止し、かつ第1乃至第3の加熱手段25〜27からの熱エネルギーの供給を停止した。このとき、基板11の温度は、1200℃から概略15℃/minで一定に降下する。
【0100】
また、キャリアガス(H)を200SLMの流量で一定に反応炉16内へ導入し、かつ排気バルブの開度を小さくして、反応炉16内から排気口16Aを介して排出される導出ガス流量を少なくし、化合物半導体成膜12を形成直後の圧力10kPaから9kPa/minの割合で反応炉16内の圧力を上昇させ、最終的に反応炉16内の圧力を100kPaにした。
【0101】
<反り量の測定>
化合物半導体膜12が形成された基板11の変形量を、キーエンス社製三次元測長器(LT−8110型)を用いて測定した。表1に、実施例2による化合物半導体膜12が形成された基板11の反り高さCの値を示す。表1を参照するに、実施例2の反り高さCは、110μmであり、良好な結果が得られた。
【0102】
(比較例)
図1を参照して、図1に示す気相成長装置10を用いた比較例の気相成長法について説明する。比較例の気相成長法は、「化合物半導体膜の形成後過程」を実施例1及び実施例2の「化合物半導体膜の形成後過程」と異ならせた以外は、実施例1及び実施例2の気相成長法と同じ過程を行なった。
【0103】
<化合物半導体膜の形成前過程>
化合物半導体膜12の形成に先立って、反応炉16内に基板11としてSi基板を載置し、キャリアガスとしてHを200SLMの流量で供給し、反応炉16内の圧力を10kPaとし、基板11の温度を1100℃まで昇温させた。上記キャリアガスとして、Hの替わりに、NやAr等の不活性ガスを用いてもよい。
次いで、H雰囲気で、基板11の温度1100℃を10分間保持することで、基板11のクリーニングを行なった。
【0104】
<化合物半導体膜の形成過程>
次いで、基板11の表面11aに、化合物半導体膜12を形成した。具体的には、原料ガスとして、III族元素を有する有機金属であるTMA(流量500sccm)、及びV族元素を有する水素化物であるNH(流量20SLM)を、反応炉16内に常温(例えば、25℃)で流通させると共に、キャリアガスであるH(流量200SLM)を反応炉16内に流通させることで、化合物半導体膜12としてAlN膜を成膜した。
【0105】
<化合物半導体膜の形成後過程>
化合物半導体膜12を形成した後、原料ガスの反応炉16への導入を停止し、かつ第1乃至第3の加熱手段25〜27からの熱エネルギーの供給を停止した。このとき、基板11の温度は、1100℃から概略15℃/minで一定に降下した。また、反応炉16へのキャリアガス(H)の導入も停止した。
【0106】
<反り量の測定>
化合物半導体膜12が形成された基板11の変形量を、キーエンス社製三次元測長器(LT−8110型)を用いて測定した。表1に、比較例による化合物半導体膜12が形成された基板11の反り高さCの値を示す。表1を参照するに、比較例の反り高さCは、160μmであり、悪い結果が得られた。
【0107】
(実施例1,2及び比較例の結果について)
実施例1と比較例の反り高さCの結果から、化合物半導体膜12を形成した後、常温のキャリアガスの反応炉16への導入流量を段階的に減少させていくことにより、基板11の反り量が減少することが確認できた。
すなわち、基板11に化合物半導体膜12を形成した後に、反応炉16内へ導入するキャリアガスの導入量を制御することで、基板11の反り量を制御できることが確認できた。
【0108】
実施例2と比較例の反り高さCの結果から、化合物半導体膜12を形成した後、反応炉内16の圧力を、化合物半導体膜12を形成直後の圧力から徐々に上昇させることにより、基板11の反り量が減少することが確認できた。
すなわち、基板11に化合物半導体膜12を形成した後に、反応炉16の圧力を制御することで、基板11の反り量を制御できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、MOCVD法により化合物半導体膜が形成された基板に残存する反りを十分に低減することの可能な気相成長方法、及び気相成長方法により形成された化合物半導体膜に適用可能である。
【符号の説明】
【0110】
10…気相成長装置、11…基板、11a,14a…表面、11b…裏面、12…化合物半導体膜、14…サセプタ、15…基板トレイ、16…反応炉、16A…排気口、18…原料ガス導入ノズル、21…第1の流路、22…第2の流路、23…第3の流路、25…第1の加熱手段、26…第2の加熱手段、27…第3の加熱手段、31…第1の加熱領域、32…第2の加熱領域、33…第3の加熱領域、36…第1のud―GaN層、37…Mg−AlGaN層38…Mg−Ga層、39…第2のud―GaN、C…反り高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相成長装置の反応炉内にサセプタを設置して、該サセプタに基板を載置した状態で前記基板を加熱すると共に、前記反応炉内に気相成長原料と不活性ガスとを導入し、前記基板を自公転させながら基板の表面に、MOCVD法により化合物半導体膜を成膜する気相成長方法であって、
前記化合物半導体膜を成膜後に、前記基板の温度を下げる降温工程、及び/又は前記化合物半導体膜を気相成長後に前記基板の温度を上げる昇温工程と、を有し、
前記降温工程及び/又は前記昇温工程において、前記反応炉内への前記気相成長原料の導入を停止すると共に、前記反応炉内への前記不活性ガスの導入を段階的に減少させることを特徴とする気相成長方法。
【請求項2】
気相成長装置の反応炉内にサセプタを設置して、該サセプタに基板を載置した状態で前記基板を加熱すると共に、前記反応炉内に気相成長原料と不活性ガスとを導入し、前記基板を自公転させながら基板の表面に、MOCVD法により化合物半導体膜を成膜する気相成長方法であって、
前記化合物半導体膜を成膜後に、前記基板の温度を下げる降温工程、及び/又は前記化合物半導体膜を気相成長後に前記基板の温度を上げる昇温工程と、を有し、
前記降温工程では、前記反応炉内への前記気相成長原料の導入を停止し、かつ前記反応炉内へ前記不活性ガスを導入すると共に、前記反応炉内の圧力を段階的に上昇させ、
前記昇温工程では、前記反応炉内への前記気相成長原料の導入を停止し、かつ前記反応炉内へ前記不活性ガスを導入すると共に、前記反応炉内の圧力を段階的に下降させることを特徴とする気相成長方法。
【請求項3】
気相成長装置の反応炉内にサセプタを設置して、該サセプタに基板を載置した状態で前記基板を加熱すると共に、前記反応炉内に気相成長原料と不活性ガスとを導入し、前記基板を自公転させながら基板の表面に、MOCVD法により化合物半導体膜を成膜する気相成長方法であって、
前記化合物半導体膜を成膜後に、前記基板の温度を下げる降温工程、及び/又は前記化合物半導体膜を気相成長後に前記基板の温度を上げる昇温工程と、を有し、
前記降温工程では、前記反応炉内への前記気相成長原料の導入を停止し、前記反応炉内への前記不活性ガスの導入を段階的に減少させると共に、前記反応炉内の圧力を段階的に上昇させ、
前記昇温工程では、前記反応炉内への前記気相成長原料の導入を停止し、かつ前記反応炉内への前記不活性ガスの導入を段階的に減少させると共に、前記反応炉内の圧力を段階的に下降させることを特徴とする気相成長方法。
【請求項4】
前記反応炉内への前記不活性ガスの導入を段階的に減少させる際、前記化合物半導体膜の成膜中に前記反応炉内へ導入される前記不活性ガスの流量よりも少ない流量の範囲内で、前記不活性ガスの導入を段階的に減少させることを特徴とする請求項1又は3記載の気相成長方法。
【請求項5】
前記反応炉内の圧力を段階的に上昇させる際、前記化合物半導体膜の成膜中における前記反応炉内の圧力よりも高い圧力の範囲内で、前記反応炉内の圧力を段階的に上昇させることを特徴とする請求項2又は3記載の気相成長方法。
【請求項6】
前記降温工程、及び/又は前記昇温工程を繰り返し行うことを特徴とする請求項1乃至5のうち、いずれか1項記載の気相成長方法。
【請求項7】
前記請求項1乃至6のうち、いずれか1項記載の気相成長方法により形成された化合物半導体膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−174731(P2012−174731A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32416(P2011−32416)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】