説明

液処理装置、液処理方法及び記憶媒体

【課題】被処理基板の下面にエッチング液などの薬液を供給した後、この薬液を効率的に除去することが可能な液処理装置等を提供する。
【解決手段】被処理基板Wは基板保持部3に水平に保持されて、鉛直軸周りに回転され、薬液供給部343からは回転している被処理基板Wの下面に薬液が供給される一方、リンス液供給部343からはこの薬液が供給された面にリンス液が供給される。そして第1のステップにて第1の回転速度で回転させながら被処理基板Wに薬液を供給し、第2のステップにて薬液の供給を停止し、かつ被処理基板Wを前記第1の回転速度より速い第2の回転速度で回転させて薬液を振り切った後、第3のステップにて被処理基板Wを第1の回転速度以下の第3の回転速度で回転させた状態で、当該被処理基板Wにリンス液を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液による処理が行われた被処理基板にリンス液を供給して薬液を除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体装置の製造工程には、被処理基板である半導体ウエハ(以下、ウエハという)を鉛直軸周りに回転自在に保持し、ウエハを回転させながらその被処理面に種々の薬液を供給する枚葉式の薬液処理がある。薬液処理を終えたウエハに対しては、引き続きウエハを回転させながら、被処理面にDIW(DeIonized Water)などのリンス液を供給して薬液を除去するリンス処理が行われる。
【0003】
特許文献1にはウエハへの成膜工程においてウエハの周端面に形成された不要な薄膜を除去するために、水平保持されたウエハの下面側からエッチング液などの薬液を供給して前記周端面の薄膜を除去する枚葉式の液処理装置が記載されている。
【0004】
この特許文献1に記載の液処理装置は、薬液処理を終えた直後にリンス液の供給を開始してリンス処理を行うため、ウエハに残存している薬液の量が多い。このため、薬液成分を十分に除去するためにはリンス時間を長くする必要があり、リンス処理を含む液処理全体の時間が長くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−318016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、被処理基板の下面にエッチング液などの薬液を供給した後、この薬液を効率的に除去することが可能な液処理装置、液処理方法及びこの方法を記憶した記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る液処理装置は、被処理基板を水平に保持するための基板保持部と、
この基板保持部を鉛直軸周りに回転させるための回転駆動部と、
回転している被処理基板の下面に薬液を供給する薬液供給部と、
被処理基板から薬液を除去するために、被処理基板の前記薬液が供給される面にリンス液を供給するリンス液供給部と、
前記基板保持部を第1の回転速度で回転させながら被処理基板に薬液を供給する第1のステップと、被処理基板への薬液の供給を停止し、かつ基板保持部を前記第1の回転速度より速い第2の回転速度で回転させて被処理基板から薬液を振り切る第2のステップと、次いで、基板保持部を第1の回転速度以下の第3の回転速度で回転させた状態で、被処理基板にリンス液を供給する第3のステップと、を実行するように制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
前記液処理装置は以下の特徴を備えていてもよい。
(a)前記第3の回転速度は、前記第1の回転速度と同じか、第1の回転速度に対して毎分200回転低くなるまでの範囲の回転速度であること。
(b)被処理基板にリンス液の供給を開始するタイミングは、前記基板保持部が第2の回転速度で回転しているときであること。
(c)前記第3のステップには、基板保持部を第3の回転速度で回転させる前に、当該基板保持部を前記第2の回転速度より速い第4の回転速度で回転させた状態でリンス液を供給する期間が含まれていること。
(d)前記制御部は、前記第3のステップにて、被処理基板に供給するリンス液の量を増やすこと。
(e)前記制御部は、前記第2の回転速度が第1の回転速度よりも毎分50回転以上、500回転以下の範囲で速くなるように制御すること。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水平に保持され、鉛直軸周りに回転する被処理基板に薬液を供給したのち、被処理基板への薬液の供給を停止し、かつ基板保持部を前記第1の回転速度より速い第2の回転速度で回転させて薬液を振り切る。これにより、被処理基板に残存している薬液の量が減るので、その後のリンス処理にて効果的に薬液を除去することができる。また、リンス液を供給する際には、薬液供給時の第1の回転速度以下の第3の回転速度にて基板保持部を回転させるので、被処理基板の下面に供給されたリンス液が当該被処理基板の周端面を介して上面側に回り込む範囲を、薬液の供給時と同程度か、これよりも広くすることができる。この結果、被処理基板の周端面、及び上面側に回り込んだ薬液を確実に除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係る液処理装置の構成を示す縦断側面図である。
【図2】前記液処理装置の内部構成を示す縦断斜視図である。
【図3】前記液処理装置へのウエハの搬入動作を示す説明図である。
【図4】液処理の期間中における前記液処理装置の内部の状態を示す説明図である。
【図5】液処理の各工程におけるウエハの回転速度を示す説明図である。
【図6】前記液処理装置の作用を示す第1の説明図である。
【図7】前記液処理装置の作用を示す第2の説明図である。
【図8】液処理の各工程におけるウエハの回転速度の他の例を示す説明図である。
【図9】比較例に係る液処理の各工程におけるウエハの回転速度を示す説明図である
【図10】実施例及び比較例に係るリンス処理後のウエハの状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
被処理基板であるウエハに薬液を供給して液処理を行う液処理装置の一例として、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)によるウエハ表面への成膜工程の際に、ウエハWの裏面側に形成された不要な薄膜を除去する液処理装置1を例に挙げて説明を行う。以下、図1、図2を参照しながら本発明を適用した液処理装置1の構成について説明する。
【0012】
図1の縦断側面図に示すように、液処理装置1は、ウエハWを水平に保持し、鉛直軸周りに回転自在に構成された基板保持部であるウエハ保持部3と、当該ウエハ保持部3に保持されたウエハWの周囲を囲むように設けられ、ウエハWから飛散した薬液等を受けるためのカップ体4とを筐体21内に配置した構成となっている。
【0013】
筐体21の天井部には、外部のFFU(Fan Filter Unit)から送り出された清浄空気が導入される気流導入部24が設けられており、この気流導入部24に流入した空気は筐体21の天井面に設けられた多数の通流孔211を介して筐体21内に流れ込む。筐体21内に流れ込んだ清浄空気は、筐体21内の上方側から下方側へ向けて流れ、筐体21の底面側に設けられた排気口212から排気されることにより、筐体21内にダウンフローを形成する。図中、23は外部からウエハWが搬入出される搬入出口、22は搬入出口23を開閉するシャッターである。
【0014】
ウエハ保持部3は、ほぼ水平に保持されるウエハWの下面側に、当該ウエハWと対向するように設けられたガイド板31と、このガイド板31の中央部を下面側から支持し、鉛直下方に伸びる円筒形状の回転軸32と、この回転軸32内に上下方向に貫挿され、ガイド板31中央部の開口部からその上端部が突没可能に設けられたリフター34と、を備えている。本例では、除去対象の薄膜が下面側を向くようにウエハWはウエハ保持部3に保持される。
【0015】
ガイド板31は、周縁部の上面側の角を落として曲面を形成した円盤形状の部材として構成され、当該曲面を設けた周縁部の下面側には周方向に溝部311が形成されている。図1、図2に示すようにガイド板31の上面側には、曲面を設けた周縁部よりも中央寄りの平坦な領域に、ウエハWをほぼ水平な状態で支持するための、例えば3個の支持ピン312が周方向に等間隔で設けられている。支持ピン312はウエハWの外周部を底面側から支持するための切り欠き部313を備えている。
【0016】
ガイド板31を下面側から支持する回転軸32は、ベアリング等を内蔵した軸受け部33を介してカップ体4及び筐体21の底面に支持されている。回転軸32の下端部は筐体21の底面から下方側に突出しており、その下端部にはプーリー364が設けられている一方、回転軸32の側方位置には回転モータ361が配設されていて、この回転モータ361の回転軸にもプーリー362が設けられている。そしてこれら2つのプーリー362、364に駆動ベルト363を捲回することにより回転駆動部が構成され、回転モータ361を駆動させることで回転軸32を所望の回転速度(単位時間あたりの回転数)で回転させ、これによりガイド板31及びこのガイド板31上に保持されたウエハWを回転させることができる。
【0017】
回転軸32内に貫挿されたリフター34の上端部には、すり鉢状に広がる開口部341が設けられており、図1に示すようにこの開口部341の傾斜面にはリフター34をガイド板31の上面から突出させた際にウエハWを下面から支持する例えば3本の支持ピン342が設けられている。一方、リフター34の下端部には昇降板352を介してシリンダモータ351が接続されており、このシリンダモータ351を駆動させることによって昇降板352及びリフター34を上下方向に移動させることができる。これによりガイド板31の上面からリフター34を突没させて、リフター34の上方に進入してきたピック161と支持ピン342との間でウエハWの受け渡しが行われる。
【0018】
さらにリフター34の内部には、当該リフター34を上下方向に貫通するように液流路343が形成されている。液流路343は本実施の形態の薬液であるHF溶液やリンス液であるDIWをリフター34の上端部に設けられた開口部341を介してウエハWの下面へ供給する役割を果たす。液流路343の基端側は、これらHF溶液やリンス液を貯留したHF溶液供給源並びにリンス液供給源に接続されている。従って内部に液流路343及びこの液流路343に接続されたHF溶液供給源は、本実施の形態の薬液供給部に相当している。これと同時に、液流路343はリンス液供給源と協働してリンス液供給部としての役割も果たしている。
【0019】
また図1、図2に示すように、既述のガイド板31において、曲面を設けた周縁部の上方位置には、案内板37が配置されている。案内板37の下面側は、ガイド板31側の曲面(凸曲面)に対応する凹曲面が形成されており、案内板37はその全体がガイド板31の周囲を囲むように円環状に成形されている。案内板37の上面側の中央部にはウエハWよりもひと回り大きな径を有する開口部372が形成されている(図2)。図1に示すようにガイド板31の支持ピン312上に載置されたウエハWは、この案内板37の開口部372の内側に配置されることとなる。
【0020】
案内板37は、ガイド板31の上面側の曲面と案内板37の下面側の曲面との間に隙間が形成されるように、ガイド板31の上方位置に固定ピン371によって固定されている。リフター34の開口部341から供給され、ウエハWの下面とガイド板31の上面との間の隙間を広がるHF溶液やリンス液は、これらガイド板31と案内板37との間の隙間内を流れてカップ体4側へ案内される。
【0021】
カップ体4は、例えば図2に示すように扁平な円筒形状の部材に、当該部材の上面側に向けて中央領域に開口する凹部(以下、当該凹部の開口した部分を開口部44という)と、この凹部を取り囲むように形成され、当該凹部の上端部から円筒形状の部材の周縁側下端部に向けて末広がりに伸びると共に、縦断面がU字形状に形成された内周面を持つ液受け空間41とを設けた構成となっている。
【0022】
ガイド板31及び案内板37は、既述のようにカップ体4の底面を貫通する回転軸32に支持されてカップ体4の凹部内に格納されており、これらガイド板31及び案内板37の周縁部は、液受け空間41の上部側にまで伸びだしている。そして、液受け空間41の上部側には、案内板37の上面側の曲面(凸曲面)に対応する凹曲面が形成されており、案内板37がカップ体4内に配置された状態となっている。そしてこれら案内板37の上面と液受け空間41の内面との間にも隙間が形成され、後述するパージガスなどを通流させることができる。また図1中の45は、ガイド板31の底面側に形成された溝部311内に伸びだして狭隘な空間を形成し、液受け空間41内を流れる気体が回転軸32側への流れ込むことを抑えるための突起部である。
【0023】
液受け空間41の底部には、液受け空間41内に溜まったHF溶液やリンス液を排出するための排液口42が設けられており、また例えば液受け空間41の側壁面には、液受け空間41内に流れこんだ気体を排気するための吸引排気口43が設けられている。この吸引排気口43には不図示のコンプレッサーなどが接続されており、液受け空間41内の気体を吸引排気して当該液受け空間41内をカップ体4外部の筐体21内の圧力よりも負圧に維持することができる。
【0024】
さらにカップ体4の上方位置には、当該カップ体4の開口部44を閉じ、ガイド板31上に保持されたウエハWとの間に扁平な空間を形成するための円板形状の天板部5が設けられている。天板部5の上面は例えば支持梁54によって片持ち支持され、当該支持梁54はシリンダモータ55に接続されている。このシリンダモータ55を駆動させることによってカップ体4内のウエハWの上面に対向する処理位置と、この位置から上方に移動した退避位置との間で天板部5を昇降させることができる。
【0025】
また天板部5の中央部には、ウエハWと天板部5との間に形成される空間内に例えば窒素ガスなどの不活性ガスをパージガスとして供給するためのパージガス供給口531が設けられている。このパージガス供給口531には不図示のパージガス供給源へと繋がるパージガス供給管53が接続されている。
【0026】
一方、天板部5の下面側には、カップ体4の開口部44の内側に嵌合可能に構成され、天板部5の下方側に向けて突出する円環状の突起部51が形成されている。突起部51の内周側には、外周側から内周側へ向けて上方に伸びるテーパ状の傾斜面が形成されており、ウエハWと天板部5との間に形成される空間内に供給されたガスを前記の隙間へ向けて案内することができる。
【0027】
突起部51は、ウエハWとの間で狭隘な隙間を形成し、中央側の空間内のガスを液受け空間41側へと排気する役割を果たしている。また突起部51は、液受け空間41側の雰囲気をウエハWと天板部5との間に形成される空間から区画して、液受け空間41からのHFガスやミストの逆流を防ぐ役割も果たす。
【0028】
以上に説明した構成を備えた液処理装置1には、図1に示すように制御部6が接続されている。制御部6は例えば図示しないCPUと記憶部とを備えたコンピュータからなり、記憶部には液処理装置1の作用、つまり、各液処理装置1内にウエハWを搬入し、当該液処理装置1にて液処理を行いウエハWの裏面側(図1の下面側)に形成された薄膜を除去してから、ウエハWを搬出するまでの動作に係わる制御についてのステップ(命令)群が組まれたプログラムが記録されている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリーカード等の記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0029】
特に当該液処理装置1による液処理の動作において、制御部6はHF溶液やリンス液の供給タイミングや供給流量、これらの処理液の供給期間中におけるガイド板31の回転速度(即ちウエハ保持部3に保持されたウエハWの回転速度)などを予め設定されたスケジュールに基づいて切り替える役割を果たしている。
【0030】
以上の構成を備えた本実施の形態に係る液処理装置1の作用について説明する。はじめに液処理装置1は、図3(a)に示すように天板部5を退避位置まで退避させた状態で待機している。そして筐体21のシャッター22が開くと、外部のウエハ搬送機構のピック101がウエハWを保持した状態で筐体21内に進入し、ピック101は天板部5とカップ体4の開口部44との間の高さ位置にて停止する。次いで図3(b)に示すようにリフター34を上昇させてピック101と交差させ、リフター34の支持ピン342上にウエハWを受け渡した後、ピック161を筐体21の外へ退出させてシャッター22が閉じる。
【0031】
リフター34が回転軸32内に没入し、ウエハWを支持ピン312上に保持したら、天板部5を処理位置まで降下させて液処理を開始する準備が完了する。このとき筐体21内には清浄空気のダウンフローが継続的に形成されている。また図3(a)、図3(b)、図4ではカップ体4の底面を貫通する軸受け部33の記載は省略してある。
【0032】
以上の動作を終えたら、図4に示すように回転軸32を後述のスケジュールに基づいて回転させると共に液流路343から処理液(HF溶液やリンス液)を供給する。液流路343の開口部341から吐出された処理液はガイド板31の回転に伴う遠心力によってウエハWとガイド板31との間の空間内を中央側から周縁側へ向けて流れウエハWの下面側全体に広がる。
【0033】
処理液としてHF溶液が供給された場合には、当該HF溶液がウエハWの下面と接触して薄膜を溶解し不要な膜が除去される。一方、リンス液の供給時には、ウエハWの表面に残存しているHF溶液が、ウエハWの下面側を広がるリンス液にて稀釈され、下流側へと流されていくことにより除去される。ウエハWの下面を通り抜けたHF溶液は、ガイド板31と案内板37との間の隙間に流れ込んで液受け空間41内へと振り落とされる。
【0034】
一方でウエハWの上面側では加圧されたパージガスがパージガス供給管53からウエハWと天板部5との間の空間内に供給され、ウエハWの中央部側から周縁部側へ向けて流れていく。
【0035】
パージガスは、ガイド板31とウエハWとの間の空間を中央部側から周縁部側へ向けて流れ、突起部51が設けられている領域に到達し、吸引排気により負圧になっている液受け空間41内へと流れ込む。そしてウエハWと突起部51との間の狭隘な隙間を通りぬけ、案内板37と液受け空間41との間の隙間を通って液受け空間41内の下方側の空間へ流れ込む。このパージガスの流れが形成されていることにより、HF溶液のミストやHFガスがウエハWの上面側に回りこんで半導体デバイスの形成領域がエッチングされてしまう不具合の発生を抑えることができる。
【0036】
本実施の形態に係る液処理装置は、これら処理液の供給にあたってウエハWの回転速度と処理液の供給タイミングを予め設定したスケジュールに基づいて切り替えることによりリンス処理に要する時間を短縮し、且つ、良好なリンス処理結果を得る機能を備えている。以下、図5〜図7を参照しながら当該液処理(薬液処理及びリンス処理)の具体的な内容について説明する。
【0037】
図5は、液処理装置1にて例えば直径300mmのウエハに対して実行される薬液処理、リンス処理並びにその後の振切乾燥の各処理工程におけるガイド板31の回転速度の設定例を示している。図5の横軸には各処理の内容及びその処理の実行時間を秒単位で示し、縦軸にはガイド板31の回転速度の設定値をrpm(回転/分)単位で示してある。速度変更時にガイド板31の回転速度が設定値に到達するまでに要する時間は例えば数十ミリ秒〜数百ミリ秒と十分に短く、実際のウエハWも図5に示した設定値にほぼ一致した回転速度で回転していると考えてよい。また図6、図7にはウエハWがガイド板31上に保持されて回転している様子を模式的に示してあり、便宜上、天板部5や突起部51、リフター34などの記載は省略してある。
【0038】
ガイド板31上にウエハWが保持され、薬液処理を開始する準備ができたら、図5に示すようにガイド板31を例えば500rpm〜1500rpmの範囲の1000rpm(第1の回転速度)で回転させると共に当該回転速度にて液流路343からウエハWの下面にHF溶液を供給する(第1のステップ。以下、「ステップ1」という)。第1の回転速度や薬液の供給流量はウエハWのサイズや薬液の種類によって適宜設定することができるが、本例ではウエハWの下面全体にHF溶液が行き渡り、当該面に形成されている薄膜を十分に除去することができる値に設定されている。
【0039】
HF溶液が供給されると、図6(a)に示すようにウエハWの下面側にHF溶液の液膜が形成され、この液膜と接触することによって薄膜が除去される。そしてウエハWの下面全体に広がり、薄膜の除去を実行したHF溶液はウエハWの外周縁に到達し、周囲に振り飛ばされて液受け空間41へと排出されていく。
【0040】
一方、HF溶液の一部がウエハWの周端面を介して上面側へ回り込むことによってこれら外周領域に形成されている薄膜の除去が行なわれる。なお、ウエハWの上面側に回り込んだHF溶液は、天板部5に設けられた既述の突起部51側から流れ出してくるパージガスに押し戻されて半導体デバイスの形成領域へ侵入することはできない。
【0041】
こうしてウエハWの薄膜を除去するのに十分な予め設定された時間、例えば60秒間だけ薬液処理を行ったら、HF溶液の供給を停止する。そしてガイド板31の回転速度を既述の第1の回転速度よりも例えば50rpm〜500rpmの範囲の300rpmだけ速い1300rpm(第2の回転速度)で回転させる(第2のステップ。以下、「ステップ2」という)。HF溶液の供給が停止され、さらにウエハWの回転速度が上昇することによりHF溶液は周囲に振り落とされるので、図6(b)に示すようウエハWの下面、周端面及び上面側に回り込んで付着しているHF溶液の液膜は薄くなる。
【0042】
以下ステップ2において、(1)HF溶液の供給を停止、(2)ウエハWの回転速度の上昇という、(1)、(2)の2つの条件を成立させて行われるHF溶液の振り落とし(振り切り)操作をスピンオフと呼ぶ。本例ではスピンオフは5秒〜20秒の範囲の例えば5秒間実行されるように設定されている。
【0043】
スピンオフを実行する時間の長さについては、ウエハWの大きさや薬液の種類に応じて適宜設定することができるが、例えば5秒未満など短すぎる場合には薬液を振り落とす効果が十分に得られず、リンス処理の時間短縮につながらない。一方、スピンオフの時間が20秒以上など長すぎると液処理全体の処理時間を短縮できない。
【0044】
こうしてスピンオフを実行しながら予め設定した時間が経過したら、液流路343に供給する処理液をリンス液に切り替えてリンス洗浄を開始する。図5に示すように本例では、ウエハWの回転速度を第2の回転速度に維持したままリンス洗浄が開始される。リンス液についても、当該第2の回転速度にてウエハWの下面全体にリンス液を十分に行き渡らせ、残存しているHF溶液を除去することができる量であれば、その供給流量は適宜設定することができる。例えばリンス液の供給流量がHF溶液の供給流量と同じ場合には、図6(c)に示すようにウエハWの下面にはステップ1の場合よりも薄い液膜が形成される。
【0045】
このように第1の回転速度よりも速い回転速度でウエハWを回転させながらリンス液の供給を開始することにより、第1の回転速度を維持する場合に比べてウエハWの下面全体にリンス液を行き渡らせるのに要する時間が短くなる。また先行するステップ2においてスピンオフを行っておくことにより、ウエハWの下面に残存しているHF溶液量が少なくなりより短い時間でHF溶液を除去することができる。
【0046】
こうして例えば10秒間、第2の回転速度でリンス液の供給を行ったら、リンス液の供給を継続しながらガイド板31の回転速度を第1の回転速度以下の第3の回転速度に低下させる(第3のステップ。以下、「ステップ3」という)。ウエハWの周端面及び上面側へ回り込む処理液の量は、ウエハWの回転速度を高くするほど少なくなるので、ウエハWの回転速度を下げることにより、リンス液の回り込み量は、回転数を下げる前の回り込み量よりも増やすことができる。特に前記第3の回転速度が、HF溶液供給時の第1の回転速度以下であることにより、HF溶液がウエハWの上面側へ回り込んだ領域と同程度の範囲か、これよりも広いウエハWの内側領域にリンス液を回り込ませることができる。この結果、HF溶液が供給されたウエハWの周端面及び上面側の外周領域に十分量のリンス液が供給され、当該領域に残っているHF溶液を除去することができる(図7(a))。
【0047】
ステップ3におけるウエハWの回転速度は、リンス処理時におけるリンス液の回り込み量を薬液処理時と同じか、これより多くする観点から、例えば第1の回転速度と同程度、あるいはこれより200rpm低くなる程度までの範囲で調整される。この観点から、本例の液処理装置では、第3の回転速度は、第1の回転速度より100rpm低い900rpmに調整されている。言い替えると、第2の回転速度に比べて400rpmだけ回転速度を低下させていることになる。この第3の回転速度でウエハWを回転させている期間中は、第2の回転速度で回転させているときに比べてリンス液の供給流量も増加させ、ウエハWの上面側へのリンス液の回り込み量をさらに増やしてもよい。
【0048】
こうしてステップ3のリンス処理を例えば10秒間行ったら、図5、図7(b)に示すようにリンス液の供給を停止し、ガイド板31の回転速度を1500rpmまで上昇させ振切乾燥を行う。こうしてウエハWの裏面に残っているリンス液が除去され、一連の液処理が終了する。
【0049】
以上に説明した動作によりウエハWの下面側(裏面側)に形成された不要な薄膜が除去され、その後のリンス処理、振切乾燥を終えたらガイド板31の回転を停止する。そしてパージガス供給口531からのパージガスの供給を止めた後、天板部5を退避位置まで上昇させ、搬入時とは逆の動作でリフター34からピック101にウエハWを受け渡し、液処理装置1からウエハWを搬出する。
【0050】
本実施の形態に係る液処理装置1によれば以下の効果がある。水平に保持され、鉛直軸周りに回転するウエハWに薬液を供給したのち、ウエハWへのHF溶液の供給を停止し、かつガイド板31をHF溶液供給時の第1の回転速度より速い第2の回転速度で回転させてHF溶液を振り切る。これにより、ウエハWに残存している薬液の量が減るので、その後のリンス処理にて効果的にHF溶液を除去することができる。また、リンス液を供給する際には、HF溶液供給時の第1の回転速度以下の第3の回転速度にてガイド板31を回転させるので、ウエハWの下面に供給されたリンス液が当該ウエハWの周端面を介して上面側に回り込む範囲を、薬液の供給時と同程度か、これよりも広くすることができる。この結果、ウエハWの周端面、及び上面側に回り込んだHF溶液を確実に除去できる。
【0051】
ここでウエハWを保持するガイド板31の回転速度(即ちウエハWの回転速度)の設定は図5に示した例に限定されるものではない。例えば図8(a)に示すようにスピンオフを実行した後、リンス液の供給を行う際に、ウエハWの回転速度を上昇させて第2の回転速度よりも速い第4の回転速度で回転させる期間を設けてから、ウエハWの回転速度を第3の回転速度まで低下させてもよい。これにより、ウエハWの前面にリンス液を行き渡らせるのに必要な時間がさらに短くなり、リンス処理の時間を短縮することができる。
【0052】
またステップ3において、リンス液の供給を開始するタイミングは、ウエハWが第2の回転速度、若しくはこれより速い第4の回転速度で回転しているときに限られるものではない。例えば図8(b)に示すようにスピンオフを行った後、直ちにウエハWの回転速度を第3の回転速度まで低下させると共にリンス液の供給を開始してもよい。この場合にも、HF溶液が振り切られ、またHF溶液供給時と同程度またはこれよりも広い範囲にリンス液を回り込ませることができるので、十分なHF溶液の除去効果を得ることができる。
【0053】
またステップ1からステップ2に移行する際に、薬液を停止するタイミングはウエハWの回転速度を第1の回転速度から第2の回転速度に切り替えるタイミングと同時でなくてもよい。切り替えの手前で薬液を停止してもよいし、切り替えの後に停止してもよく、第2の回転速度への回転速度の切り替えと、薬液の停止の両条件を成立させることができれば、これらの条件の成立タイミングの前後は問わない。またこれと同様に、図8(a)の場合においてリンス液の供給を開始するタイミングについても第2の回転速度から第4の回転速度への切り替えの前でもよいし後でもよい。
【0054】
さらに本発明を適用可能な薬液はHF溶液に限定されるものではなく、過酸化水素水、硫酸溶液、硝酸溶液、アンモニア水やこれらの混合液でもよく、またリンス液についてもDIWのほか、蒸留水などでもよい。
さらには、被処理基板は円形のウエハに限定されるものではなく、例えば角型基板であってもよい。
【実施例】
【0055】
(実験)
HF処理後にスピンオフ工程を設け、ウエハWの回転速度を第1の回転速度から第2の回転速度に上昇させてリンス処理を行う本実施の形態の液処理と、従来の液処理との間でディフェクト(欠陥)の発生数を比較する実験を行った。
【0056】
A.実験条件
(実施例)
図1に示した液処理装置1を用いて、図5に示した工程にてウエハWの下面を処理した。評価対象のウエハWには薄膜は形成されておらず、液処理を行った処理前後で、ウエハWの被処理面に付着している直径12μm以上のサイズのディフェクト数の差をカウントすることにより薬液の除去効果を評価した。薬液にはHF溶液、リンス液にはDIWを用い、各々0.6リットル/分の流量で供給した。薬液処理を開始してからリンス処理を終えるまでの液処理の時間は合計85秒である。リンス処理によりHF溶液が十分に除去されていない場合には、HF溶液によりウエハWがエッチングされてディフェクトが発生するため、このディフェクトの数をカウントすることによりリンス処理の効果を評価することができる。
(比較例)
図9に示した工程にて液処理を行った他は、実験に使用した液処理装置1、処理液(薬液としてHF溶液、リンス液としてDIW)及び処理液の供給流量は(実施例)と同様である。図9に示すように(比較例)では、薬液処理を行った後、スピンオフの工程を設けず、第1の回転速度のままリンス処理を40秒間行っている。薬液処理を開始してからリンス処理を終えるまでの液処理の時間は合計100秒である。
【0057】
B.実験結果
(実施例)及び(比較例)において、直径12μm以上のサイズのディフェクトが発生した位置をウエハWにプロットした結果を図10に示す。図10(a)は(実施例)の結果を示し、図10(b)は(比較例)の結果を示している。
【0058】
図10(a)に示した(実施例)の結果によれば、液処理後のディフェクト数は51個に留まった。これに対して図10(b)に示した(比較例)ではディフェクトは539個も発生した。(実施例)と(比較例)とでは、薬液処理の時間は同じである一方、(実施例)におけるリンス処理の時間は20秒しかない。これに対して(比較例)は40秒間リンス処理を行っているところ、ディフェクトの発生数の差はリンス処理の効果の違いとして現れているといえる。
【0059】
これらの実験結果の比較から、スピンオフの工程を設け、更にリンス液の供給開始時にウエハWの回転速度を第1の回転速度(1000rpm)から第2の回転速度(1300rpm)まで上昇させることにより、従来法よりも良好なリンス処理の結果を得られているといえる。これに加えて(実施例)では、(比較例)に比べてリンス処理の時間が20秒短くなっており、本発明を適用することにより、従来法より短い時間で前述の如く良好なリンス処理の結果が得られていることになる。
【符号の説明】
【0060】
W ウエハ
1、1a 液処理装置
21 筐体
3 ウエハ保持部
31 ガイド板
4 カップ体
41 液受け空間
5 天板部
51 突起部
6 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板を水平に保持するための基板保持部と、
この基板保持部を鉛直軸周りに回転させるための回転駆動部と、
回転している被処理基板の下面に薬液を供給する薬液供給部と、
被処理基板から薬液を除去するために、被処理基板の前記薬液が供給される面にリンス液を供給するリンス液供給部と、
前記基板保持部を第1の回転速度で回転させながら被処理基板に薬液を供給する第1のステップと、被処理基板への薬液の供給を停止し、かつ基板保持部を前記第1の回転速度より速い第2の回転速度で回転させて被処理基板から薬液を振り切る第2のステップと、次いで、基板保持部を第1の回転速度以下の第3の回転速度で回転させた状態で、被処理基板にリンス液を供給する第3のステップと、を実行するように制御する制御部と、を備えたことを特徴とする液処理装置。
【請求項2】
前記第3の回転速度は、前記第1の回転速度と同じか、第1の回転速度に対して毎分200回転低くなるまでの範囲の回転速度であることを特徴とする請求項1に記載の液処理装置。
【請求項3】
被処理基板にリンス液の供給を開始するタイミングは、前記基板保持部が第2の回転速度で回転しているときであることを特徴とする請求項1または2に記載の液処理装置。
【請求項4】
前記第3のステップには、基板保持部を第3の回転速度で回転させる前に、当該基板保持部を前記第2の回転速度より速い第4の回転速度で回転させた状態でリンス液を供給する期間が含まれていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の液処理装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第3のステップにて、被処理基板に供給するリンス液の量を増やすことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の液処理装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第2の回転速度が第1の回転速度よりも毎分50回転以上、500回転以下の範囲で速くなるように制御することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の液処理装置。
【請求項7】
被処理基板を水平に保持し、この被処理基板を鉛直軸周りに第1の回転速度で回転させながら、その下面に薬液を供給する工程と、
薬液の供給を停止し、かつ被処理基板を第1の回転速度より速い第2の回転速度で回転させて薬液を振り切る工程と、
次いで、被処理基板を第1の回転速度以下の第3の回転速度で回転させた状態で、当該被処理基板の下面にリンス液を供給する工程と、を含むことを特徴とする液処理方法。
【請求項8】
前記第3の回転速度は、前記第1の回転速度と同じか、第1の回転速度に対して毎分200回転低くなるまでの範囲の回転速度であることを特徴とする請求項7に記載の液処理方法。
【請求項9】
被処理基板にリンス液の供給を開始するタイミングは、被処理基板が第2の回転速度で回転しているときであることを特徴とする請求項7または8に記載の液処理方法。
【請求項10】
前記被処理基板にリンス液を供給する工程には、被処理基板を前記第3の回転速度で回転させる前に、当該被処理基板を前記第2の回転速度より速い第4の回転速度で回転させた状態でリンス液を供給する期間が含まれていることを特徴とする請求項7ないし9のいずれか一つに記載の液処理方法。
【請求項11】
前記被処理基板にリンス液を供給する工程にて、被処理基板に供給するリンス液の量を増やすことを特徴とする請求項7ないし10のいずれか一つに記載の液処理方法。
【請求項12】
前記第2の回転速度は、第1の回転速度よりも毎分50回転以上、500回転以下の範囲で速いことを特徴とする請求項7ないし11のいずれか一つに記載の液処理方法。
【請求項13】
水平に保持された被処理基板を鉛直軸周りに回転させ、薬液を供給して液処理を行った後、前記被処理基板の薬液が供給された面にリンス液を供給して薬液を除去する液処理装置に用いられるコンピュータプログラムを格納した記憶媒体であって、
前記プログラムは請求項7ないし12のいずれか一つに記載された液処理
方法を実行するためにステップが組まれていることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−4450(P2012−4450A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139781(P2010−139781)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】