説明

液圧弁装置

【課題】増圧弁及び減圧弁の各々の弁体と弁座との間を流れる作動液が各弁を開弁する方向に流れる液圧弁装置を提供する。
【解決手段】(a)低圧室272と、調圧室254と、低圧室と調圧室との間に位置する高圧室256と、低圧室と高圧室とを繋ぐ第1室間部と、高圧室と調圧室とを繋ぐ第2室間部とを有するハウジングと、(b)第1室間部を塞ぎ第2室間部に挿入された状態で移動可能な移動部材196と、(c)移動部材に形成されて低圧室に開口するとともに減圧弁の弁座として機能する低圧室側開口を有し、低圧室と調圧室とを連通する連通路260と、(d)低圧室側開口に着座可能な減圧弁の弁体として機能するプランジャ192とを備えた液圧弁装置において、第2室間部の調圧室への開口を増圧弁の弁座として、移動部材の調圧室内の部分を増圧弁の弁体として機能させる。このようにすれば、増減圧時に、弁が開弁する方向に作動液を流すことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧源と連通する高圧室と、低圧源と連通する低圧室と、それら高圧室と低圧室とに連通可能な調圧室とを有するハウジングと、高圧室と調圧室との間の作動液の流通を開閉する弁機構と、低圧室と調圧室との間の作動液の流通を開閉する弁機構とを備え、調圧室内の作動液の液圧を調圧可能な液圧弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液圧弁装置には、(a)高圧室と低圧室と調圧室とを有するハウジングと、(b)そのハウジング内に移動可能に設けられ、一端部が第1の弁体として機能するプランジャと、(c)そのプランジャの一端部が着座する第1の弁座が形成されるとともに、ハウジング内に移動可能に設けられた移動部材とによって構成されており、プランジャの一端部が第1の弁座に着座している状態において、低圧室と調圧室との間の作動液の流通が遮断されるとともに、ハウジング内に形成された第2の弁座に着座可能な第2の弁体が上記移動部材に形成され、その移動部材に形成された第2の弁体が第2の弁座に着座している状態において、高圧室と調圧室との間の作動液の流通が遮断される構造のものが存在する。このような構造の液圧弁装置では、第1の弁体と第1の弁座とによって低圧室と調圧室との間の作動液の流通を開閉する弁機構が構成されるとともに、第2の弁体と第2の弁座とによって高圧室と調圧室との間の作動液の流通を開閉する弁機構が構成されている。
【0003】
さらに、移動部材に形成された第2の弁体が第2の弁座に接近する方向にその移動部材を付勢する第1付勢部材と、プランジャの一端部が第1の弁座から離隔する方向にプランジャを付勢する第2付勢部材と、プランジャの一端部が第1の弁座に接近する方向にプランジャを移動させるための力を発生させる移動力発生器とが設けられ、その移動力発生器の発生させる力によって、プランジャの一端部が第2付勢部材の付勢力に抗して第2の弁座に着座させられ、その状態において移動部材がプランジャとともに移動させられることで、移動部材に形成された第2の弁体が第1付勢部材の付勢力に抗して第2の弁座から離隔する構造のものがある。
【0004】
このような構造の液圧弁装置においては、移動力発生器の作動を制御して、移動部材に形成された第2の弁体を第2の弁座から離隔させることで、高圧室と調圧室との間の作動液の流通を許容し、調圧室内の作動液の液圧(以下、「調圧室圧」という場合がある)を増圧させることが可能となっている。一方、プランジャの一端部を第1の弁座から離隔させることで、低圧室と調圧室との間の作動液の流通を許容し、調圧室圧を減圧させることも可能となっている。つまり、移動力発生器の発生させる力に応じた高さに調圧室圧を調圧することが可能となっている。下記特許文献には、そのような構造の液圧弁装置に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−25712号公報
【特許文献2】特開2008−47104号公報
【特許文献3】特開2008−25711号公報
【特許文献4】特開2008−132966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記構造の液圧弁装置においては、調圧室圧が増圧および減圧される際に、弁体と弁座との間を作動液が流れる。弁体と弁座との間は比較的狭く、その間を流れる作動液は勢いよく弁体に作用する。このため、例えば、調圧室圧が調圧される際に弁体と弁座との間を流れる作動液が、弁体が弁座に接近する方向に流れるような場合には、作動液の流れによって弁体が弁座に接近する方向に弁体が付勢される。つまり、作動液の流れによって弁が閉じる方向(以下、「自閉方向」という場合がある)に弁体が付勢される。一方、調圧室圧が調圧される際には、移動力発生器の発生させる力を制御して、弁体を弁座から離隔させることで弁を開けている。このため、作動液が自閉方向に流れると、精度良く調圧室圧を調圧できない虞がある。また、作動液が自閉方向に流れると弁体が弁座に着座する場合があり、そのような場合には、作動液の流れによる閉弁と、移動力発生器の発生させる力による開弁とが頻繁に繰り返される現象、所謂ハンチング現象が生じる虞があり、精度良く調圧室圧を調圧できない虞がある。本発明は、そのような事情に鑑みてなされたものであり、調圧室圧が増圧および減圧される際に、精度良く調圧室圧を調圧可能な液圧弁装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の液圧弁装置は、(a)低圧室と、調圧室と、それら低圧室と調圧室との間に設けられる高圧室と、低圧室と高圧室とを繋ぐ第1室間部と、高圧室と調圧室とを繋ぐ第2室間部とを有するハウジングと、(b)第1室間部を塞ぐとともに第2室間部に挿入された状態で軸線方向に移動可能にハウジング内に配設される移動部材と、(c)移動部材に形成されるとともに低圧室に開口し、上記第1の弁座として機能する低圧室側開口と、移動部材とハウジングとのいずれか一方に形成されるとともに調圧室に開口する調圧室側開口とを有して、低圧室と調圧室とを連通する連通路と、(d)低圧室側開口に着座可能な上記第1の弁体として機能するプランジャとを備えた液圧弁装置であって、第2室間部の調圧室への開口が上記第2の弁座として機能するとともに、移動部材の調圧室内に位置する部分が上記第2の弁体として機能するように構成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の液圧弁装置においては、上記第1の弁座としての低圧側開口に着座する上記第1の弁体としてのプランジャは低圧室内に位置しており、調圧室圧が減圧される際に作動液は調圧室から低圧室へ流れる。このため、減圧時において、弁体と弁座との間を流れる作動液は、弁体が弁座から離隔する方向、つまり、弁が開く方向(以下、「自開方向」という場合がある)へ流れる。また、上記第2の弁座としての第2室間部の調圧室への開口に着座する上記第2の弁体としての移動部材の一部は調圧室内に位置しており、調圧室圧が増圧される際に作動液は高圧室から調圧室へ流れる。このため、増圧時においても、弁体と弁座との間を流れる作動液は自開方向へ流れる。したがって、本発明の液圧弁装置によれば、調圧室圧が増圧および減圧される際の弁体と弁座との間を流れる作動液の流れを自開方向にすることが可能となり、ハンチング等の発生を抑制し、精度良く調圧室圧を調圧することが可能となる。
【発明の態様】
【0009】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0010】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、請求項1に(2)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項2に、請求項1に(3)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項3に、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに(4)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項4に、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに(5)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項5に、請求項1ないし請求項5のいずれか1つに(6)項および(7)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項6に、請求項1ないし請求項6のいずれか1つに(6)項および(8)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項7に、請求項1ないし請求項6のいずれか1つに(6)項および(9)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項8に、請求項1ないし請求項8のいずれか1つに(10)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項9に、それぞれ相当する。
【0011】
(1)作動液を調圧するための液圧弁装置であって、
低圧源と連通する低圧室と、調圧された作動液で満たされる調圧室と、前記低圧室と前記調圧室との間に設けられるとともに高圧源と連通する高圧室と、前記低圧室と前記高圧室とを繋ぐ第1室間部と、前記高圧室と前記調圧室とを繋ぐ第2室間部とを有し、それらを自身の軸線方向に並ぶように区画するハウジングと、
前記高圧室を前記軸線方向に貫くようにして前記第1室間部と前記第2室間部とに挿入されるとともに一端部が前記調圧室内に延び出しており、前記軸線方向に移動可能に前記ハウジング内に配設され、前記第1室間部を塞ぐとともに、前記一端部が前記第2室間部の前記調圧室側の開口に着座することで前記高圧室と前記調圧室との間の作動液の流通を遮断する移動部材と、
その移動部材を、前記一端部が前記開口に着座する方向に付勢する第1付勢部材と、
前記移動部材の他端部に形成されるとともに前記低圧室に開口する低圧室側開口と、前記移動部材の前記一端部と前記ハウジングとのいずれか一方に形成されるとともに前記調圧室に開口する調圧室側開口とを有して、前記低圧室と前記調圧室とを連通する連通路と、
前記軸線方向に移動可能に前記ハウジング内に配設され、前記低圧室側開口に着座することで前記調圧室と前記低圧室との間の作動液の流通を遮断するプランジャと、
そのプランジャを、それが前記低圧室側開口から離隔する方向に付勢する第2付勢部材と、
前記プランジャをそれが前記低圧室側開口に着座する方向に移動させるための力を、自身に供給される電力に応じた大きさで発生させる移動力発生器と
を備えた液圧弁装置。
【0012】
液圧弁装置には、高圧室と、低圧室と、それら高圧室と低圧室とに連通可能な調圧室とを有するハウジングと、高圧室と調圧室との間の作動液の流通を開閉する弁(以下、「増圧弁」という場合がある)と、低圧室と調圧室との間の作動液の流通を開閉する弁(以下、「減圧弁」という場合がある)とを備え、調圧室内の作動液の液圧(以下、「調圧室圧」という場合がある)を調圧可能な構造のものが存在する。増圧弁は、弁体と弁座とを有し、弁体が弁座に着座することで、高圧室と調圧室との間の作動液の流通を遮断する構造とされており、減圧弁も、弁体と弁座とを有し、弁体が弁座に着座することで、低圧室と調圧室との間の作動液の流通を遮断する構造とされている。
【0013】
調圧室圧が増圧および減圧される際に、弁体と弁座との間を作動液が流れるが、それら弁体と弁座との間は比較的狭いため、その間を流れる作動液は勢いよく弁体に作用する。このため、例えば、調圧室圧が調圧される際に弁体と弁座との間を流れる作動液が、弁体が弁座に接近する方向、つまり、弁が閉じる方向(以下、「自閉方向」という場合がある)に流れるような場合には、弁体と弁座との間を離隔させて調圧室圧を調圧する制御を精度良く実行できない虞がある。また、作動液が自閉方向に流れると弁体が弁座に着座する場合があり、そのような場合には、作動液の流れによる閉弁と、移動力発生器の発生させる力による開弁とが頻繁に繰り返される現象、所謂、ハンチング現象が生じる虞があり、精度良く調圧室圧を調圧できない虞がある。
【0014】
以上のことに鑑みて、本項に記載された液圧弁装置は、(a)高圧室と、低圧室と、それら高圧室と低圧室との間に設けられた調圧室と、高圧室と調圧室とを繋ぐ第1室間部と、低圧室と調圧室とを繋ぐ第2室間部とを有するハウジングと、(b)第1室間部を塞ぐとともに第2室間部に挿入された状態で軸線方向に移動可能にハウジング内に配設される移動部材と、(c)移動部材に形成されるとともに低圧室に開口し、減圧弁の弁座として機能する低圧室側開口と、移動部材とハウジングとのいずれか一方に形成されるとともに調圧室に開口する調圧室側開口とを有して、低圧室と調圧室とを連通する連通路と、(d)低圧室側開口に着座可能な減圧弁の弁体として機能するプランジャとを備え、第2室間部の調圧室への開口が増圧弁の弁座として機能するとともに、移動部材の調圧室内に位置する部分が増圧弁の弁体として機能するように構成されている。本項に記載の液圧弁装置によれば、調圧室圧が増圧および減圧される際の弁体と弁座との間を流れる作動液の流れを、弁体が弁座から離隔する方向、つまり、弁が開く方向(以下、「自開方向」という場合がある)にすることが可能となり、ハンチング等の発生を抑制し、精度良く調圧室圧を調圧することが可能となる。
【0015】
本項に記載された「第1室間部」および「第2室間部」は、2つの液室を連通するものであればよく、例えば、2つの液室の間に位置する内壁を貫通する穴,通路等であってもよく、ハウジング内に嵌合される環状の部材の内壁面によって形成される部分であってもよい。本項に記載の「連通路」は、低圧室側開口と調圧室側開口とを介して、低圧室と調圧室とを連通するものであればよく、例えば、移動部材内を貫通する貫通穴のみによって連通するものであってもよく、移動部材内に形成される通路とハウジング内に形成される通路とによって連通するものであってもよい。
【0016】
本項に記載の「移動力発生器」は、プランジャを移動させるための力を制御可能に発生させるものであればよく、具体的に言えば、例えば、供給電力に応じて電磁力を発生させるコイルであってもよい。また、当該液圧弁装置とは異なる電磁式の液圧弁装置によって作動液を調圧し、その調圧された作動液をプランジャに作用させることで、そのプランジャを移動させる構造のものであってもよい。このような構造のものであれば、当該液圧弁装置とは異なる電磁式の液圧弁装置への供給電力に応じて、プランジャを移動させるための力を発生させることが可能である。
【0017】
(2)前記調圧室側開口が、前記移動部材の前記一端部に形成されるとともに、
前記連通路が、前記移動部材の内部を貫通する(1)項に記載の液圧弁装置。
【0018】
(3)前記調圧室側開口が、前記ハウジングに形成されるとともに、
前記連通路が、
(a)前記移動部材に形成され、前記第1室間部に開口するとともにその開口と前記低圧室側開口とを連通する移動部材内連通路と、(b)前記ハウジングに形成され、前記移動部材内連通路の前記第1室間部への開口と前記調圧室側開口とを連通するハウジング内連通路とを含んで構成された(1)項に記載の液圧弁装置。
【0019】
上記2つの項に記載の液圧弁装置においては、連通路の低圧室側開口と調圧室側開項との間の構造が具体的に限定されている。後者の項に記載の「連通路」は、移動部材内連通路とハウジング内連通路との2つの通路によって低圧室と調圧室とを連通するものであればよく、例えば、第1室間部に位置し移動部材の外周面を囲むようにして設けられた連通室と、ハウジングに形成されるとともに連通室と調圧室とを連通する液通路とを有し、その液通路と連通室とがハウジング内連通路として機能するとともに、移動部材内連通路が連通室と低圧室とを連通する構造であってもよい。
【0020】
(4)前記移動部材が、
それの前記一端部が前記第2室間部の前記調圧室側の開口に接近する方向に前記高圧室内の作動液の液圧を受ける受圧面積と、前記一端部が前記開口から離隔する方向に前記高圧室内の作動液の液圧を受ける受圧面積とが等しくなる形状とされた(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の液圧弁装置。
【0021】
高圧室を区画する移動部材には、高圧室内の作動液の液圧(以下、「高圧室圧」という場合がある)が作用しており、高圧室圧が移動部材の移動に影響を及ぼす場合がある。移動部材には、増圧弁が開く方向に移動部材が高圧室圧を受ける受圧面積に応じた大きさの力が作用し、その力は増圧弁が開く方向に作用する。一方、移動部材には、増圧弁が閉じる方向に移動部材が高圧室圧を受ける受圧面積に応じた大きさの力も作用し、その力は増圧弁が閉じる方向に作用する。それら2つの力は概ねつり合っていることが望ましく、2つの力のバランスが崩れると、後に詳しく説明するように、例えば、移動部材を移動させるために必要な力が大きくなる場合がある。そこで、本項に記載の液圧弁装置においては、増圧弁が開く方向への高圧室圧を受ける移動部材の受圧面積と、増圧弁が閉じる方向への高圧室圧を受ける移動部材の受圧面積とが同じとなるようにされており、移動部材を移動させるために必要な力を低減することが可能となっている。
【0022】
(5)前記移動部材が、
前記低圧室側開口が前記プランジャに接近する方向に前記調圧室内の作動液の液圧を受ける受圧面積と、前記低圧室側開口が前記プランジャから離隔する方向に前記調圧室内の作動液の液圧を受ける受圧面積とが等しくなる形状とされた(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の液圧弁装置。
【0023】
移動部材は調圧室も区画しており、調圧室圧が移動部材に作用し、調圧室圧が移動部材の移動に影響を及ぼす場合がある。移動部材には、減圧弁が開く方向に移動部材が調圧室圧を受ける受圧面積(以下、「減圧弁開方向受圧面積」という場合がある)に応じた大きさの力が作用し、その力は減圧弁が開く方向に作用する。一方、移動部材には、減圧弁が閉じる方向に移動部材が調圧室圧を受ける受圧面積(以下、「減圧弁閉方向受圧面積」という場合がある)に応じた大きさの力も作用し、その力は減圧弁が閉じる方向に作用する。減圧弁が開く方向の力が、減圧弁が閉じる方向の力より大きい場合には、調圧室圧の増圧時に調圧室から低圧室へ液漏れが生じる虞がある。一方、減圧弁が閉じる方向の力が、減圧弁が開く方向の力より大きい場合には、調圧室圧を減圧する際に減圧弁が開弁し難くなり、圧力特性にヒステリシスが生じる虞がある。そこで、本項に記載の液圧弁装置においては、減圧弁開方向受圧面積と減圧弁閉方向受圧面積とが同じとなるようにされており、調圧室圧の増圧時の液漏れ,圧力特性のヒステリシスの発生を抑制することが可能となっている。
【0024】
本項に記載の液圧弁装置は、減圧弁開方向受圧面積と減圧弁閉方向受圧面積とが等しくなるように設計されているが、例えば、調圧室圧の増圧時の液漏れを優先して抑制したい場合には、減圧弁閉方向受圧面積が減圧弁開方向受圧面積より大きくなるように設計してもよい。また、例えば、圧力特性のヒステリシスの発生を抑制したい場合、言い換えれば、減圧弁を開弁する際の力を低減したい場合には、減圧弁開方向受圧面積が減圧弁閉方向受圧面積より大きくなるように設計してもよい。
【0025】
(6)前記ハウジングが、さらに、前記調圧室の前記高圧室側とは反対側に設けられた補助室と、その補助室と前記調圧室とを繋ぐ第3室間部とを有し、
前記移動部材が、前記第3室間部まで延びてそれに挿入される(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載の液圧弁装置。
【0026】
本項に記載の液圧弁装置においては、移動部材が調圧室をも貫いており、移動部材が第1室間部と第3室間部とによって支持されている。したがって、本項の液圧弁装置によれば、例えば、移動部材の軸ズレを抑制することが可能となる。本項に記載の「補助室」は、作動液で満たされる部屋であってもよく、作動液が入らないようにされた部屋であってもよい。「補助室」が、例えば、作動液で満たされる部屋である場合には、低圧源と連通し、ドレイン室として機能するものであってもよい。
【0027】
(7)当該液圧弁装置が、
前記移動部材の内部に形成され、その移動部材の外周面において前記調圧室に開口するとともに、前記移動部材の前記一端部の側の端面において前記補助室に開口する内部室と、
その内部室の前記端面における開口にその開口を塞ぐようにして一端部が摺動可能に挿入されるとともに、他端部が前記補助室内において前記ハウジングによって支持されるピンとを備えた(6)項に記載の液圧弁装置。
【0028】
移動部材の一端部側の端面に開口する内部室が形成されるとともに、その開口にピンを摺動可能に挿入することによって、減圧弁開方向受圧面積を減らすことが可能となる。減圧弁開方向受圧面積と減圧弁閉方向受圧面積とのバランスを調整するためには、移動部材の外径,移動部材のシール箇所の受圧面積等を変更する必要があり、移動部材の形状が複雑化する場合がある。本項に記載の液圧弁装置においては、内部室の端面への開口の大きさを変更するだけで、減圧弁開方向受圧面積と減圧弁閉方向受圧面積とのバランスを調整することが可能となり、移動部材の形状を比較的シンプルなものとすることが可能となる。
【0029】
(8)前記移動部材が、前記第3室間部に挿入された部分に前記補助室に対向する段差面を有する段付形状とされるとともに、
前記補助室が、前記低圧源と連通しており、
当該液圧弁装置が、
前記第3室間部に設けられ、前記移動部材を貫通させるとともに、前記段差面に密着した状態で前記補助室と前記調圧室との間の作動液の流通を遮断する環状の第3室間部内ゴム部材を備えた(6)項または(7)項に記載の液圧弁装置。
【0030】
(9)前記移動部材が、それの前記一端部の側の端面が前記第3室間部内に位置するように前記第3室間部まで延びてそれに挿入されるとともに、
前記補助室が、前記低圧源と連通しており、
当該液圧弁装置が、
前記第3室間部に設けられ、前記移動部材の前記端面に密着した状態で前記補助室と前記調圧室との間の作動液の流通を遮断する第3室間部内ゴム部材を備えた(6)項または(7)項に記載の液圧弁装置。
【0031】
(10)前記移動部材が、前記第1室間部に挿入された部分に前記低圧室に対向する段差面を有する段付形状とされるとともに、
当該液圧弁装置が、
前記第1室間部に設けられ、前記移動部材を貫通させるとともに、前記段差面に密着した状態で前記低圧室と前記高圧室との間の作動液の流通を遮断する環状の第1室間部内ゴム部材を備えた(1)項ないし(9)項のいずれか1つに記載の液圧弁装置。
【0032】
一般的な液圧弁装置において、ハウジング内に摺動可能に設けられるものには、通常、Oリング等のシールがその摺動するものの外周面に装着される。Oリング等のシールが外周面に装着されることで、液漏れ等は抑制されるが、ハウジング内を摺動するものの摺動抵抗が高くなる。上記3つの項に記載の液圧弁装置では、ゴム部材を外周面ではなく、段差面若しくは端面に密着させることで、そのゴム部材をシールとして機能させている。したがって、本項に記載の液圧弁装置によれば、移動部材の外周面にOリング等のシールが装着される液圧弁装置より、ハウジング内での移動部材の摺動抵抗を小さくすることが可能となる。
【0033】
2番目の項に記載の「第3室間部内ゴム部材」は、移動部材の端面からの作動液の液漏れを禁止する形状であればよく、平板状であっても環状であってもよい。また、「第3室間部内ゴム部材」が環状である場合には、上記した項に記載の内部室に挿入されるピンを環状の「第3室間部内ゴム部材」に嵌合させるようにして配設してもよい。このようにピンを配設すれば、ピンの軸ズレ等を抑制することが可能となる。
【0034】
(11)前記移動力発生器が、前記プランジャをそれが前記低圧室側開口に接近する方向に移動させるための電磁力を発生させるコイルを有する(1)項ないし(10)項のいずれか1つに記載の液圧弁装置。
【0035】
(12)前記ハウジングが、さらに、前記低圧室の前記高圧室側とは反対側に設けられた移動力発生室と、その移動力発生室と前記低圧室とを繋ぐ第4室間部とを有し、
前記プランジャが、前記第4室間部に摺動可能に挿入されるとともに、
前記移動力発生器が、
前記高圧源と連通するとともに作動液の液圧を前記自身に供給される電力に応じた高さに増圧可能な電磁式増圧弁と、前記低圧源と連通するとともに作動液の液圧を前記自身に供給される電力とは異なる電力に応じた高さに減圧可能な電磁式減圧弁とを有し、前記電磁式増圧弁と前記電磁式減圧弁とによって作動液を調圧するとともに、その調圧された作動液が前記移動力発生室に供給されることによって、前記プランジャをそれが前記低圧室側開口に接近する方向に移動させるための力を発生させるように構成された(1)項ないし(10)項のいずれか1つに記載の液圧弁装置。
【0036】
上記2つの項に記載の液圧弁装置においては、移動力発生器が具体的に限定されている。上記2つの項に記載の液圧弁装置によれば、コイル、若しくは、電磁式増圧弁と電磁式減圧弁とへの供給電力量を変化させることでプランジャを移動させるための力を変化させることが可能であり、プランジャを移動させるための力を容易に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】請求可能発明の第1実施例の液圧弁装置を備えた車両用液圧ブレーキシステムを概略的に示す図である。
【図2】図1の車両用液圧ブレーキシステムの備える液圧弁装置を構成する増減圧弁を示す概略断面図である。
【図3】図2の増減圧弁の各部材が受ける受圧面積を示す図である。
【図4】請求可能発明の第2実施例の液圧弁装置を備えた車両用液圧ブレーキシステムを概略的に示す図である。
【図5】図4の車両用液圧ブレーキシステムの備える液圧弁装置を示す概略断面図である。
【図6】図5の液圧弁装置の各部材が受ける受圧面積を示す図である。
【図7】請求可能発明の第3実施例の液圧弁装置を示す概略断面図である。
【図8】図7の液圧弁装置の各部材が受ける受圧面積を示す図である。
【図9】請求可能発明の第4実施例の液圧弁装置を示す概略断面図である。
【図10】図9の液圧弁装置の各部材が受ける受圧面積を示す図である。
【図11】請求可能発明の第5実施例の液圧弁装置を示す概略断面図である。
【図12】図11の液圧弁装置の各部材が受ける受圧面積を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、請求可能発明のいくつかの実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例1】
【0039】
<車両用ブレーキシステムの構成>
図1に、第1実施例の液圧弁装置を備えた車両用液圧ブレーキシステム10を示す。本液圧ブレーキシステム10は、ブレーキ液を加圧するためのシリンダ装置20を有している。車両の運転者は、シリンダ装置20に連結された操作装置22を操作することでシリンダ装置20を作動させことができ、シリンダ装置20は、自身の作動によってブレーキ液を加圧する。その加圧されたブレーキ液は、シリンダ装置20に接続されるアンチロック装置24を介して、各車輪に設けられたブレーキ装置26に供給される。ブレーキ装置26は、加圧されたブレーキ液の圧力に依拠して、車輪の回転を制止するための力、すなわち、液圧制動力を発生させる。
【0040】
ブレーキ装置26の詳しい構造についての説明は省略するが、各ブレーキ装置26は、ブレーキキャリパと、そのブレーキキャリパに取り付けられたホイールシリンダ(ブレーキシリンダ)およびブレーキパッドと、各車輪とともに回転するブレーキディスクとを含んで構成されている。ブレーキシリンダは、シリンダ装置20によって加圧されたブレーキ液の出力圧に依拠して、ブレーキパッドをブレーキディスクに押し付ける。その押し付けによって発生する摩擦によって、各ブレーキ装置26では、車輪の回転を制止する液圧制動力が発生し、車両は制動されるのである。
【0041】
なお、以下の説明において、「ブレーキ装置26」等のいくつかの構成要素は、総称として使用するが、4つの車輪のいずれかに対応するものであることを示す場合には、左前輪,右前輪,左後輪,右後輪にそれぞれ対応して、添え字「FL」,「FR」,「RL」,「RR」を付すこととする。また、「前方」は図1における左方、「後方」は図1における右方をそれぞれ表している。また、「前側」、「前端」、「前進」や、「後側」、「後端」、「後進」等も同様に表すものとされている。
【0042】
i)シリンダ装置の構成
シリンダ装置20は、それの筐体であるハウジング30と、ブレーキ装置26に供給するブレーキ液を加圧する第1加圧ピストン32および第2加圧ピストン34と、運転者の操作力によって前進する中間ピストン36と、運転者の操作が操作装置22を通じて入力される入力ピストン38とを含んで構成されている。なお、図1は、シリンダ装置20が動作していない状態、つまり、ブレーキ操作がされていない状態を示している。
【0043】
ハウジング30は、主に、2つの部材から、具体的には、第1ハウジング部材40、第2ハウジング部材42から構成されている。第1ハウジング部材40は、前端部が閉塞された概して円筒状を有し、後端部の外周にフランジ44が形成されており、そのフランジ44において車体に固定される。第1ハウジング部材40は、内径が互いに異なる3つの部分、具体的には、前方側に位置して内径の最も小さい前方小径部46、後方側に位置して内径の最も大きい後方大径部48、それら前方小径部46と後方大径部48との中間に位置しそれらの内径の中間の内径を有する中間部50に区分けされている。
【0044】
第2ハウジング部材42は、前方側に位置して外径の大きい前方大径部52、後方側に位置して外径の小さい後方小径部54とを有する円筒形状をなしている。第2ハウジング部材42は、前方大径部52の前端部が第1ハウジング部材40の中間部50と後方大径部48との段差面に接する状態で、その後方大径部48に嵌め込まれている。それら第1ハウジング部材40,第2ハウジング部材42は、第1ハウジング部材40の後端部の内周面に嵌め込まれたロック環56によって、互いに締結されている。
【0045】
第1加圧ピストン32および第2加圧ピストン34は、それぞれ、後端部が塞がれた有底円筒形状をなしており、第1ハウジング部材40の前方小径部46に摺動可能に嵌め合わされている。第1加圧ピストン32は、第2加圧ピストン34の後方に配設されている。第1加圧ピストン32と第2加圧ピストン34との間には、右前輪のブレーキ装置26FRに供給されるブレーキ液を加圧するための第1加圧室R1が区画形成されており、また、第2加圧ピストン34の前方には、左前輪に設けられたブレーキ装置26FLに供給されるブレーキ液を加圧するための第2加圧室R2が区画形成されている。なお、第1加圧ピストン32と第2加圧ピストン34とは、第1加圧ピストン32の後端部に立設された有頭ピン60と、第2加圧ピストン34の後端面に固設されたピン保持筒62とによって、離間距離が設定範囲内に制限されている。また、第1加圧室R1内,第2加圧室R2内には、それぞれ、圧縮コイルスプリング64、66が配設されており、それらスプリング64、66によって、第1加圧ピストン32,第2加圧ピストン34はそれらが互いに離間する方向に付勢されるとともに、第1加圧ピストン32、第2加圧ピストン34は後方に向かって付勢されており、第1加圧ピストン32は中間ピストン36の前端面に当接されている。
【0046】
中間ピストン36は、両端部が開口された円筒形状の本体部70と、本体部70の前端部を塞ぐ蓋部72とから構成されている。中間ピストン36は、前端が第1加圧ピストン32の後端に当接した状態で、第1ハウジング部材40の中間部50の内周面に、摺動可能に嵌め合わされている。中間ピストン36の後方には、第2ハウジング部材42の前端部との間に、入力室R3が区画形成されている。ちなみに、図1では、ほとんど潰れた状態で示されている。また、ハウジング30の内部には、第1ハウジング部材40の内周面と第1加圧ピストン32の外周面との間に形成された空間が存在する。その空間が、中間ピストン36の前端面と、第1ハウジング部材40の前方小径部46と中間部50との段差面とによって区画されることで、常時大気圧とされる環状の液室(以下、「大気圧室」という場合がある)R4が形成されている。
【0047】
入力ピストン38は、前方が塞がれて後端部の開口する円筒形状をなす外筒部材80と、概して円柱形状のロッド部材82とを主体として構成されている。入力ピストン38は、ロッド部材82が、外筒部材80に、それの後端側から挿し込まれている。入力ピストン38は、第2ハウジング部材42に保持された状態で、中間ピストン36の本体部70の前端部から挿し込まれるとともに、中間ピストン36に対して進退可能とされている。このように構成された中間ピストン36の内部には、中間ピストン36と入力ピストン38との相対移動によって自身の容積が変化する液室(以下、「内部室」という場合がある)R5が区画形成されている。ちなみに、入力ピストン38の後退は、外筒部材80の前端部に形成される鍔部が、中間ピストン36の本体部70の後端部に当接することで制限されている。
【0048】
内部室R5には、中間ピストン36の内底面と入力ピストン38の前端面との間に、2つの圧縮コイルスプリングである第1反力スプリング90および第2反力スプリング92が配設されている。第1反力スプリング90は、第2反力スプリング92の前方に直列に配設されており、鍔付ロッド形状の浮動座94が、それらの反力スプリング90,92に挟まれて浮動支持されている。第1反力スプリング90は、それの前端部が中間ピストン36の前端部に支持され、後端部が浮動座94の前方側のシート面に支持されている。一方、第2反力スプリング92は、それの前端部が浮動座94の後方側のシート面に支持され、後端部が入力ピストン38の前端部に支持されている。また、浮動座94の前端部には第1緩衝ゴム96、後端部には第2緩衝ゴム98がそれぞれ嵌め込まれており、その第1緩衝ゴム96が中間ピストン36の前端面に当接し、第2緩衝ゴム98が入力ピストン38の前端面に当接することで、浮動座94と中間ピストン36との接近、および、浮動座94と入力ピストン38との接近は、ある範囲に制限されている。
【0049】
入力ピストン38のロッド部材82の後端部には、操作装置22のブレーキペダル100に加えられた操作力を入力ピストン38に伝達すべく、また、ブレーキペダル100の操作量に応じて入力ピストン38を進退させるべく、操作装置22のオペレーションロッド102の前端部が連結されている。ちなみに、入力ピストン38は、ロッド部材82の後端部が第2ハウジング部材42の後端部によって係止されることで、後退が制限されている。また、オペレーションロッド102には、円形の支持板104が付設されており、この支持板104とハウジング30との間にはブーツ106が渡されており、シリンダ装置20の後部の防塵が図られている。
【0050】
第1加圧室R1は、開口が出力ポートとなる連通孔110を介して、右前輪のブレーキ装置26FLに繋がる主液通路112と連通しており、第1加圧ピストン32に設けられた連通孔114および開口がドレインポートとなる連通孔116を介して、低圧源としてのリザーバ118に、非連通となることが許容された状態で連通している。一方、第2加圧室R2は、開口が出力ポートとなる連通孔120を介して、左前輪のブレーキ装置26FLに繋がる主液通路122と連通しており、第2加圧ピストン34に設けられた連通孔124および開口がドレインポートとなる連通孔126を介して、リザーバ118に、非連通となることが許容された状態で連通している。
【0051】
中間ピストン36は、第1ハウジング部材40の中間部50の内径よりある程度小さい外径とされており、それらの間にはある程度の流路面積を有する液通路130が形成されている。入力室R3は、その液通路130および開口が連結ポートとなる連通孔131を介して、外部に連通可能となっている。その連通孔131は、連通路132を介して制御圧連通路133に繋げられている。
【0052】
中間ピストン36には、蓋部72において、大気圧室R4と内部室R5とを連通する連通孔134が設けられている。また、第1加圧ピストン32は、第1ハウジング部材40の前方小径部46の内径よりある程度小さい外径とされており、それらの間にはある程度の流路面積を有する液通路136が形成されている。大気圧室R4は、その液通路136および連通孔116を介して、リザーバ118に連通されている。したがって、大気圧室R4および内部室R5は、常時、大気圧とされており、それらのブレーキ液は、リザーバ118に対して流出入可能とされている
ii)アンチロック装置および液通路の構成
【0053】
主液通路112および主液通路122には、それぞれ、非励磁状態で開弁し、励磁状態で閉弁する電磁式の開閉弁(以下、「シリンダ装置カット弁」という場合がある)140、142が設けられており、それらの開閉によって、シリンダ装置20によって加圧されたブレーキ液のブレーキ装置26FL,FRへの供給を許容する状態と供給を禁止する状態とが選択的に実現される。
【0054】
アンチロック装置24は、非励磁状態において閉弁し、励磁状態において開弁する4つの電磁式の開閉弁(以下、「減圧弁」という場合がある)150を有しており、それら4つの減圧弁150は、リザーバ118に繋がる減圧連通路152と連通している。さらに、アンチロック装置24は、非励磁状態において閉弁し、励磁状態において開弁する2つの電磁式の開閉弁(以下、「常閉増圧弁」という場合がある)154と、非励磁状態において開弁し、励磁状態において閉弁する2つの電磁式の開閉弁(以下、「常開増圧弁」という場合がある)156とを有しており、それら4つの増圧弁154,156は、液圧弁装置158に繋がる制御圧連通路133と連通している。
【0055】
2つの減圧弁150と2つの常閉増圧弁154とは、前輪のブレーキ装置26FL,FRの各々に1つずつ設けられており、1組の常閉増圧弁154および減圧弁150はそれぞれ、前輪のブレーキ装置26FL,FRの対応するものに繋がる主液通路112,122に、接続通路160FL,FRによって接続されている。また、2つの減圧弁150と2つの常開増圧弁156とは、後輪のブレーキ装置26RL,RRの各々に1つずつ設けられており、1組の常開増圧弁156および減圧弁150はそれぞれ、後輪のブレーキ装置26RL,RRの対応するものに接続通路160RL,RRによって接続されている。
【0056】
また、液圧弁装置158は、高圧源としての高圧源装置162に繋がる高圧連通路164と連通しており、その高圧源装置162は、リザーバ118からブレーキ液を汲み上げる液圧ポンプ166と、その液圧ポンプ166を駆動するモータ168と、液圧ポンプ166から吐出されたブレーキ液を加圧された状態で蓄えるアキュムレータ170とを有している。液圧弁装置158は、さらに、主液通路112のシリンダ装置カット弁140の下流側に繋がるバックアップ通路172と連通するとともに、減圧連通路152とも連通している。
【0057】
iii)液圧弁装置の構成
液圧弁装置158は、電磁式増圧弁としての増圧用リニア弁180と電磁式減圧弁としての減圧用リニア弁182と増減圧弁184とを有している。増減圧弁184は、増圧用リニア弁180によって増圧、若しくは減圧用リニア弁182によって減圧されたブレーキ液の高さに応じて、高圧源装置160によって加圧されたブレーキ液を流入させてブレーキ液の液圧を増圧させたり、リザーバ118にブレーキ液を流出させてブレーキ液の液圧を減圧させたりすることで、ブレーキ液の液圧を調圧することが可能な構造とされている。その調圧されたブレーキ液は、シリンダ装置20の入力室R3および、アンチロック装置24を介して各ブレーキ装置26のホイールシリンダに供給される。つまり、液圧弁装置158は、ホイールシリンダの液圧であるホイールシリンダ圧を連続的に変化させることができ、ホイールシリンダ圧を任意の高さに制御することが可能となっている。
【0058】
増減圧弁184は、図2に示すように、中空形状のハウジング190と、そのハウジング190内にそれの軸線方向に移動可能に設けられたプランジャ192と、そのプランジャ192の下方において軸線方向に移動可能に設けられた円柱状の棒状ピストン194と、プランジャ192の上方において軸線方向に移動可能に設けられた移動部材196とを備えている。ハウジング190は、概して円筒状の外郭部材198と、その外郭部材198の下端部が固定的に嵌合される有底円筒部材200と、外郭部材198の上端を塞ぐ蓋部材202とによって構成されており、内部にブレーキ液が充填されている。
【0059】
外郭部材198の内周面は、5つの異なる内径を有する部分によって構成されており、上方へ向かうほど内径は大きくなっている。つまり、下端部から順番に、内径の最も小さい第1内径部204,その第1内径部204の内径より大きい内径の第2内径部206,その第2内径部206の内径より大きい内径の第3内径部208,その第3内径部208の内径より大きい内径の第4内径部210,内径の最も大きい第5内径部212が位置しており、外郭部材198の内周面は段付形状とされている。
【0060】
棒状ピストン194の外周面も段付形状とされており、上端部に位置し外径の大きい大径部214と、下端部に位置し外径の小さい小径部216との区分けされている。その棒状ピストン194の小径部216は外郭部材198の第1内径部204に摺動可能に嵌合されており、大径部214は第2内径部206に摺動可能に嵌合されている。大径部214と小径部216との間の段差面と、第1内径部204と第2内径部206との間の段差面とは当接しており、棒状ピストン194の下方への移動範囲が制限されている。なお、外郭部材198に棒状ピストン194が嵌合された状態で、外郭部材198と棒状ピストン194と有底円筒部材200とによって第1液室218が区画されている。
【0061】
プランジャ192は、円柱状の本体部220と、その本体部220の上方に位置しその本体部220の外径より小さな外径の中間部222と、中間部222の上方に位置しその中間部222の外径より小さな外径のロッド部224とによって構成されている。プランジャ192の本体部220は、外郭部材198の第4室間部としての第2内径部206に摺動可能に嵌合されており、本体部220の下端面が棒状ピストン194の上端面に形成された凸部226と当接している。凸部226と本体部220の下端面とが当接した状態でも、本体部220の下端面と棒状ピストン194の上端面との間にはクリアランスが存在し、そのクリアランスが第2液室228として機能している。
【0062】
移動部材196の外周面も段付形状とされており、最も外径の大きいフランジ部230と、フランジ部230の上方に位置しフランジ部230の外径より小さな外径の上方第1外径部232と、その上方第1外径部232の上方に位置し上方第1外径部232の外径より小さな外径の上方第2外径部234と、フランジ部230の下方に位置しフランジ部230の外径より小さな外径の下方第1外径部236と、その下方第1外径部236の下方に位置し下方第1外径部236の外径より小さな外径の下方第2外径部238とによって構成されている。下方第2外径部238は、外郭部材198の第3内径部208に摺動可能に嵌合されており、第2室間部としての第3内径部208の上方への開口に移動部材196の外周面が着座可能とされている。詳しく言えば、第3内径部208と第4内径部210との間の段差面240がテーパ状とされており、下方第1外径部236と下方第2外径部238との間の段差面が、弁体として機能し、テーパ状とされた上記段差面240に着座可能とされている。
【0063】
ハウジング190の上端に固定的に嵌合された蓋部材202の下面には、凹部250が形成されており、第3室間部としての凹部250の下方への開口に移動部材196の上方第2外径部234が摺動可能に嵌合されている。蓋部材202の下面と移動部材196のフランジ部230との間にはコイルスプリング252が圧縮された状態で配設されており、そのコイルスプリング252の弾性力によって移動部材196が下方に付勢されている。つまり、コイルスプリング252の弾性力によって、移動部材196の外周面の弁体として機能する部分が外郭部材198の内周面に形成された段差面240に接近する方向に、移動部材196が付勢されている。ちなみに、移動部材196の外周面が段差面240に着座した状態において、外郭部材198の第4内径部210と移動部材196とによって第3液室254が区画されている。また、移動部材196の下方第2外径部238の外周面は僅かに凹んでおり、着座状態において、下方第2外径部238の外周面の凹んだ部分と外郭部材198の第3内径部208とによって第4液室256が区画されている。
【0064】
移動部材196の内部には、それの軸線方向に貫通する貫通穴260が形成されており、その貫通穴260は、移動部材196の上端面および下端面に開口している。移動部材196の内部には、さらに、下方第1外径部236の外周面と貫通穴260とに開口する接続穴261が径方向に延びるように形成されている。内部室としての貫通穴260にはそれの上端の開口から、概して円柱状のピン262が摺動可能に挿入されており、そのピン262の上端面は蓋部材202の補助室としての凹部250の内面において支持されている。蓋部材202の凹部250の内部には、ピン262を貫通させた状態で環状のゴム部材266が設けられており、そのゴム部材266の下面に移動部材196の上端面が密着している。ゴム部材266はシールとして機能しており、そのゴム部材266によって移動部材196と蓋部材202との間の液漏れが禁止されている。
【0065】
貫通穴260にはそれの下端の開口から、プランジャ192のロッド部224および中間部222が挿入されており、貫通穴260の下端の開口に、プランジャ192の外周面が着座可能とされている。詳しく言えば、貫通穴260の下端の開口がテーパ状とされており、プランジャ192の中間部222と本体部220との間の段差面が、弁体として機能し、テーパ状とされた開口に着座可能とされている。また、プランジャ192のロッド部224と中間部222との間の段差面と、貫通穴260の内部に形成された段差面との間にはコイルスプリング270が圧縮された状態で配設されており、そのコイルスプリング270の弾性力によってプランジャ192が下方に付勢されている。つまり、コイルスプリング270の弾性力によって、プランジャ192の外周面の弁体として機能する部分が貫通穴260の下端の開口から離隔する方向に、プランジャ192が付勢されている。ちなみに、プランジャ192がコイルスプリング270の弾性力に抗して貫通穴260の下端の開口に着座した状態において、外郭部材198の第3内径部208とプランジャ192の本体部220と移動部材196の下端面とによって第5液室272が区画されている。
【0066】
外郭部材198の第3内径部208には、第4液室256と外郭部材198の外周面とに開口する第1連通路274が径方向に延びるように形成されており、その第1連通路274の外周面への開口に上記高圧連通路164が接続されている。つまり、第4液室256は、高圧連通路164および第1連通路274を介して、高圧源装置162によって加圧されたブレーキ液が流入するものとされており、高圧室として機能している。以下、第4液室256を高圧室256という場合がある。また、外郭部材198の第3内径部208には、第5液室272と外郭部材198の外周面とに開口する第2連通路276が径方向に延びるように形成されており、その第2連通路276の外周面への開口に上記減圧連通路152が接続されている。つまり、第5液室272は、減圧連通路152および第2連通路276を介して、リザーバ118にブレーキ液を流出させるものとされており、低圧室として機能している。以下、第5液室272を低圧室272という場合がある。ちなみに、第2室間部としての第3内径部208に移動部材196の下方第2外径部238が嵌合されることで、低圧室272と高圧室256との間のブレーキ液の流通は遮断されている。なお、第2連通路276には、外郭部材198の第1内径部204に開口するドレイン路278が繋がっている。
【0067】
外郭部材198の第2内径部206には、第2液室228と外郭部材198の外周面とに開口する第3連通路280が径方向に延びるように形成されており、その第3連通路280の外周面への開口には、上記高圧連通路164に繋がる接続通路282が接続されている。接続通路282には、図1に示すように、常閉弁とされた電磁式の増圧用リニア弁180が設けられている。接続通路282の増圧用リニア弁180と増減圧弁184との間には、減圧連通路152に繋がる分岐通路284が接続されており、その分岐通路284に常開弁とされた電磁式の減圧用リニア弁182が設けられている。
【0068】
外郭部材198の第4内径部210には、第3液室254と外郭部材198の外周面とに開口する第4連通路286が径方向に延びるように形成されており、その第4連通路286の外周面への開口に上記制御圧連通路133が接続されている。つまり、第3液室254は、調圧室として機能しており、以下、第3液室254を調圧室254という場合がある。なお、有底円筒部材200には、第1液室218に開口するポート288が形成されており、そのポート288を介して、上記バックアップ通路172が第1液室218に接続されている。
【0069】
iv)液圧弁装置の作動
上述した構造によって、増減圧弁184は、移動力発生室としての第2液室228に供給されるブレーキ液の液圧(以下、「制御用液圧」という場合がある)に応じて各液室間のブレーキ液の流通状態を切り換えることで、調圧室254内のブレーキ液の液圧(以下、「調圧室圧」という場合がある)を制御可能に増減させることが可能とされている。詳しく言えば、制御用液圧が大気圧となっている場合には、高圧室256と調圧室254との間のブレーキ液の流れが遮断されるとともに、調圧室254と低圧室272との間のブレーキ液の流れが許容されている。つまり、制御用液圧が大気圧となっている場合には、調圧室254は低圧室272を介してリザーバ118と連通しており、調圧室圧も大気圧となっている。そして、制御用液圧が増圧されると、調圧室254と低圧室272との間のブレーキ液の流れが遮断されるとともに、高圧室256と調圧室254との間のブレーキ液の流れが許容されることで、調圧室圧を増圧させることが可能とされている。さらに、調圧室圧を増圧させた後に制御用液圧が減圧されると、高圧室256と調圧室254との間のブレーキ液の流れが遮断されるとともに、調圧室254と低圧室272との間のブレーキ液の流れが許容されることで、増圧された調圧室圧を減圧させることが可能とされている。
【0070】
具体的に言えば、制御用液圧が大気圧となっている場合には、第1付勢部材としてのコイルスプリング252の弾性力によって、移動部材196の外周面が外郭部材198に形成された段差面240に着座しており、高圧室256と調圧室254との間のブレーキ液の流れが遮断されている。さらに、第2付勢部材としてのコイルスプリング270の弾性力によってプランジャ192は移動部材196に形成された貫通穴260の下端への開口から離隔しており、ブレーキ液は、貫通穴260と接続穴261とを介して、調圧室254と低圧室272との間を流通可能となっている。つまり、貫通穴260と接続穴261とが連通路として機能し、その連通路によって調圧室圧は大気圧となっている。なお、貫通穴260の下端への開口は、低圧室側開口として機能し、接続穴261の外周面への開口は、調圧室側開口として機能している。
【0071】
ちなみに、制御用液圧は、増圧用リニア弁180および減圧用リニア弁182への通電量が制御されることで増減されるようになっている。詳しく言えば、増圧用リニア弁180および減圧用リニア弁182への通電量が0とされている状態において増圧用リニア弁180は閉弁されるとともに減圧用リニア弁182は開弁されており、制御用液圧は大気圧となっている。そして、減圧用リニア弁182への通電量をある程度多くし、増圧用リニア弁180への通電量を制御することで、減圧用リニア弁182は閉弁されるとともに増圧用リニア弁180の開弁量が制御される。この際、制御用液圧は、増圧用リニア弁180への通電量に応じて増圧される。制御用液圧が増圧された後に、増圧用リニア弁180への通電量を0とし、減圧用リニア弁182への通電量を制御することで、増圧用リニア弁180は閉弁されるとともに減圧用リニア弁182の開弁量が制御される。この際、制御用液圧は、減圧用リニア弁182への通電量に応じて減圧されるのである。
【0072】
上述したように、減圧用リニア弁182が閉弁されるとともに増圧用リニア弁180の開弁量が制御されると制御用液圧が増圧されて、プランジャ192が上方へ付勢される。つまり、増圧用リニア弁180と減圧用リニア弁182とから構成される移動力発生器によって、プランジャ192が貫通穴260の下端への開口(以下、「低圧室側開口」という場合がある)に接近する方向にプランジャ192を移動させようとする力が生じるのである。この力によって、まず、プランジャ192がコイルスプリング270の弾性力に抗して上方に移動して、プランジャ192の外周面が貫通穴260の下端への開口へ着座する。この状態において、調圧室254と低圧室272との間のブレーキ液の流れは遮断されるとともに、高圧室256と調圧室254との間のブレーキ液の流れも遮断されている。そして、プランジャ192の外周面が低圧室側開口へ着座した状態、つまり、プランジャ192が移動部材196に当接した状態でプランジャ192が上方へ移動すると、移動部材196も上方に移動する。移動部材196の上方への移動に伴って、移動部材196の外周面が外郭部材198に形成された段差面240から離隔することで、高圧室256と調圧室254との間のブレーキ液の流れが許容されるのである。この際、制御用液圧を制御することで調圧室圧を制御可能に増圧させることが可能となっている。つまり、増圧用リニア弁180への通電量に応じて調圧室圧を増圧させることが可能となっている。
【0073】
また、図3に示すように、高圧室256内のブレーキ液の液圧(以下、「高圧室圧」という場合がある)と調圧室圧との差圧を受ける箇所の受圧面積A1と、低圧室272内のブレーキ液の液圧、つまり大気圧と高圧室圧との差圧を受ける箇所の受圧面積A2とは同じとなっている。言い換えれば、上方向への高圧室圧を受ける移動部材196の受圧面積A1と、下方向への高圧室圧を受ける移動部材196の受圧面積A2とは同じとなっている。このため、調圧室圧が大気圧である場合には、シール等による摺動抵抗を無視すれば、コイルスプリング252の弾性力に相当する力を僅かに超えた力を移動部材196に付与することで、移動部材196の外周面を外郭部材198の段差面240から離隔することが可能となっている。つまり、移動部材196の初期動作において、シール等による摺動抵抗を無視すれば、2つのコイルスプリング252,270の弾性力に相当する力を僅かに超える力をプランジャ192に付与すれば、調圧室圧を増圧することが可能となっている。つまり、移動部材196の初期動作における増圧用リニア弁180への通電量を低減することが可能となり、消費電力を低減することが可能となっている。
【0074】
また、調圧室254が密閉されている状態において、移動部材196には調圧室圧によって移動部材196を軸線方向へ移動させようとする力が作用する。詳しく言えば、上方向への調圧室圧を受ける移動部材196の受圧面積に応じた大きさの力が、移動部材196を上方へ移動させようとする力として作用し、下方向への調圧室圧を受ける移動部材196の受圧面積に応じた大きさの力が、移動部材196を下方へ移動させようとする力として作用する。このため、上方向への調圧室圧を受ける移動部材196の受圧面積が、下方向への調圧室圧を受ける移動部材196の受圧面積より大きいような場合には、調圧室圧の増圧時に調圧室254から低圧室272へ液漏れが生じる虞がある。一方、下方向への調圧室圧を受ける移動部材196の受圧面積が、上方向への調圧室圧を受ける移動部材196の受圧面積より大きいような場合には、調圧室圧を減圧する際にプランジャ192が貫通穴260の開口から離隔し難くなり、圧力特性にヒステリシスが生じる虞がある。そこで、本増減圧弁184は、下方向への調圧室圧を受ける移動部材196の受圧面積と、上方向への調圧室圧を受ける移動部材196の受圧面積とが同じとなるように設計されており、調圧室圧の増圧時の液漏れ,圧力特性のヒステリシスの発生が抑制されている。
【0075】
具体的には、移動部材196の外周面が外郭部材198の段差面240に着座している箇所の受圧面積(上記重圧面積A1に相当)からプランジャ192の外周面が低圧室側開口へ着座している箇所の受圧面積A3(図3参照)を減じたものが、下方向への調圧室圧を受ける移動部材196の受圧面積に相当し、移動部材196が蓋部材202の凹部250に摺動可能に嵌合されている箇所の受圧面積A4(図3参照)からピン262の断面積A5(図3参照)を減じたものが、上方向への調圧室圧を受ける移動部材196の受圧面積に相当する。つまり、受圧面積の関係が以下の式を満たすように設計されている。
1−A3=A4−A5
なお、本増減圧弁184では、受圧面積A1と受圧面積A4とは同じとされているため、受圧面積A3とピン262の断面積A5とは同じとなっている。
【0076】
また、調圧室圧が増圧された後に、増圧用リニア弁180を閉弁するとともに減圧用リニア弁182の開弁量を制御することで制御用液圧が減圧されると、移動部材196の外周面が外郭部材198の段差面240に着座する。移動部材196の外周面が段差面240に着座するとともにプランジャ192が低圧室側開口に着座している状態では、調圧室圧は増圧された液圧に維持される。そして、その状態からさらに制御用液圧を減圧させることで、プランジャ192が低圧室側開口から離隔して、低圧室272と調圧室254との間のブレーキ液の流れが許容される。つまり、減圧用リニア弁182への通電量に応じて調圧室圧を減圧させることが可能となっている。
【0077】
上述したように、本増減圧弁184は、増圧用リニア弁180および減圧用リニア弁182への通電量を制御することで、調圧室圧を制御可能に増減圧させることが可能となっている。増圧時には、移動部材196の外周面が外郭部材198に形成された段差面240から離隔し、ブレーキ液が高圧室256から調圧室254へ流れる。この際、ブレーキ液は、移動部材196の弁体として機能する外周面が弁座として機能する段差面240から離隔する方向に流れる。一方、減圧時には、プランジャ192の外周面が低圧室側開口から離隔し、ブレーキ液が調整室254から低圧室272へ流れる。この際、ブレーキ液は、プランジャ192の弁体として機能する外周面が弁座として機能する貫通穴260の開口から離隔する方向に流れる。つまり、本増減圧弁184は、調圧室圧が制御される際にブレーキ液は、弁体が弁座から離間する方向、つまり、ブレーキ液によって弁が開弁させられる方向(以下、「自開方向」という場合がある)に流れる構造とされている。
【0078】
一方、従来の増減圧弁は、調圧室圧の制御時に、ブレーキ液が、弁体が弁座に接近する方向、つまり、ブレーキ液によって弁が閉弁させられる方向(以下、「自閉方向」という場合がある)に流れる構造とされている。調圧時にブレーキ液が自閉方向に流れると、ブレーキ液の流れによって、弁体が弁座に接近させられて閉弁する場合がある。このため、調圧時において、ブレーキ液の流れによる閉弁と、調圧室圧の制御のための開弁とが頻繁に繰り返される現象、所謂、ハンチング現象が生じる虞があり、精度よく調圧室圧の制御を実行できない虞がある。本増減圧弁184では、上述したように、増圧時および減圧時においても、ブレーキ液は自開方向に流れるようにされており、ハンチング現象の発生が抑制されている。したがって、本増減圧弁184では、調圧室圧の制御精度が良好となっている。
【0079】
また、本増減圧弁184は、上述したような作動によって、調圧室圧を増圧用リニア弁180および減圧用リニア弁182への通電量に応じた高さの圧力にすることが可能となっている。ただし、増圧用リニア弁180および減圧用リニア弁182への通電が何らかの理由によって停止したような場合には、プランジャ192を移動させることができなくなり、調圧室圧を増圧させることができなくなる虞がある。本増減圧弁184では、そのような場合に、電力に依拠することなく、シリンダ装置20の作動によって加圧されたブレーキ液に依拠して調圧室圧を増圧させるようになっている。
【0080】
詳しく言えば、液圧ブレーキシステム10への電力供給が断たれた場合には、後に詳しく説明するように、バックアップ通路172にシリンダ装置20の作動によって加圧されたブレーキ液が流れ、その加圧されたブレーキ液が第1液室218に流入するようになっている。このため、第1液室218内のブレーキ液の液圧の増加に伴って、棒状ピストン194が上方に移動し、その棒状ピストン194によってプランジャ192も上方へ移動する。プランジャ192の上方への移動に伴って、プランジャ192が低圧室側開口に着座し、移動部材196の外周面が外郭部材198の段差面240から離隔することで、高圧室256と調圧室254との間のブレーキ液の流れが許容される。このように、本増減圧弁184では、電力失陥時等であっても、電力に依拠することなく、調整室圧を増圧させることが可能とされている。
【0081】
v)液圧ブレーキシステムの制御
ブレーキペダル100が運転者によって操作された場合には、そのブレーキペダル100に加えられた操作力により、入力ピストン38が前進し、2つの反力スプリング90,92が圧縮される。これらの反力スプリング90,92の弾性反力により中間ピストン36は前進し、第1加圧ピストン32は前進する。この第1加圧ピストン32の前進に伴って第2加圧ピストン34は前進し、第1加圧室R1,第2加圧室R2のブレーキ液が加圧される。一方、液圧弁装置158によって調圧されたブレーキ液が入力室R3に入力された場合、その調圧されたブレーキ液によって中間ピストン36は前進させられ、同様にして、第1加圧室R1,第2加圧室R2のブレーキ液が加圧される。つまり、シリンダ装置20では、運転者による操作力と液圧弁装置158によって調圧されたブレーキ液の液圧とのいずれによってもブレーキ液の加圧がなされ、それらの両方が入力された場合には、それらの両方に依拠して加圧されたブレーキ液が出力可能とされている。
【0082】
ただし、本ブレーキシステム10において、通常時には、シリンダ装置20によって加圧されたブレーキ液に依拠することなく、液圧弁装置158によって調圧されたブレーキ液に依拠してブレーキ装置26のブレーキシリンダを作動させる制御である電気制動制御が実行される。電気制動制御は、本発明とは直接関係ないことから、簡単に説明すると、本制御では、シリンダ装置カット弁140,142が、励磁されて閉弁状態とされ、アンチロック装置24の2つの常閉増圧弁154が、励磁されて開弁状態とされる。また、アンチロック装置24の2つの常開増圧弁156は、励磁されず、開弁状態とされ、4つの減圧弁150も、励磁されず、閉弁状態とされている。ブレーキペダル100の踏込み量に応じて目標となる目標液圧を決定し、制御室圧がその目標液圧となるように、上述したように増圧用リニア弁180および減圧用リニア弁182に通電される。そして、目標液圧に調圧されたブレーキ液が、制御圧連通路133を介して各車輪のブレーキ装置26へ供給される。このように、液圧弁装置158の作動を制御することで、ブレーキペダル100の踏込み量に応じた制動力が発生させられるのである。
【0083】
一方、電力失陥時には、各制御弁に電力供給がされないため、シリンダ装置カット弁140,142は開弁状態とされており、アンチロック装置24の2つの常開増圧弁156は開弁状態とされ、2つの常閉増圧弁154は閉弁状態とされている。また、4つの減圧弁150は、閉弁状態とされている。この状態において、シリンダ装置20によって加圧されたブレーキ液は、主液通路112を介して、バックアップ通路172に流れ、さらに、増減圧弁184の第1液室218に流入する。第1液室218内のブレーキ液の液圧の増加に伴って、上述したように、棒状ピストン194が移動させられて、制御室圧が増圧させられる。そして、増圧させられたブレーキ液が、制御圧連通路133を介して後輪側のブレーキ装置26RL,RRへ供給される。また、増圧させられたブレーキ液は、連通路132を介して入力室R3に供給され、その供給されたブレーキ液の液圧と運転者による操作力とによって、シリンダ装置20はブレーキ液を加圧する。そのシリンダ装置20によって加圧されたブレーキ液が、主液通路112,122を介して、前輪側のブレーキ装置26FL,FRへ供給される。つまり、電力失陥時においては、後輪側のブレーキ装置26RL,RRは、液圧弁装置158を介して増圧されたブレーキ液に依拠して制動力を発生させるとともに、前輪側のブレーキ装置26FL,FRは、液圧弁装置158を介して増圧されたブレーキ液と運転者による操作力とに依拠して制動力を発生させている。
【実施例2】
【0084】
図4に、第2実施例の液圧弁装置300を備えた車両用液圧ブレーキシステム302を示す。本ブレーキシステム302は、液圧弁装置300を除いて、先のブレーキシステム10と略同様の構成とされており、先のシステム10と共通する構成要素を多く備えている。このため、本システム302の説明において、先のシステム10と共通する構成要素については、同じ符号を用い、それらの説明は省略あるいは簡略に行うものとする。
【0085】
液圧弁装置300は、図5に示すように、中空形状のハウジング310と、そのハウジング310内にそれの軸線方向に移動可能に設けられたプランジャ312と、プランジャ312の上方において軸線方向に移動可能に設けられた移動部材314と、ハウジング310の外周に設けられた円筒状のコイル316とを備えている。ハウジング310は、下端部に設けられた有底円筒状の下部外殻部材318と、上端部に設けられた有蓋円筒状の上部外殻部材320と、それら下部外郭部材318と上部外殻部材320とを連結する概して円柱状のコア322とを有している。
【0086】
コア322は、最も外径の大きいフランジ部330と、そのフランジ部330の下方に位置しフランジ部330の外径より小さな外径の下方部332と、フランジ部330の上方に位置しフランジ部330の外径より小さな外径の上方第1外径部334と、その上方第1外径部334の上方に位置し上方第1外径部334の外径より小さな外径の上方第2外径部336とを有している。コア322の下方部332は下部外殻部材318に固定的に嵌合されており、コア322のフランジ部330の下面と、下部外殻部材318の外周面とにコイル316が固定されている。
【0087】
コア322には、ハウジング310の軸線方向に貫通する貫通穴338が形成されており、プランジャ312は、その貫通穴338に挿入されるロッド部340と、コア322の下端面と下部外殻部材318の内底面との間に配設される本体部342とを有している。ロッド部340は、下端部に位置し外径の大きい大径部344と、上端部に位置し外径の小さい小径部346とを有しており、貫通穴338は、下端部に位置し内径の大きい大内径部348と、上端部に位置し内径の小さい小内径部350とを有している。ロッド部340の大径部344は貫通穴338の大内径部348に摺動可能に嵌合されており、ロッド部340の小径部346は貫通穴338の小内径部350にクリアランスのある状態で挿入されている。大径部344と小径部346との間の段差面と、大内径部348と小内径部350との間の段差面との間には、コイルスプリング352が圧縮された状態で配設されており、そのコイルスプリング352の弾性力によってプランジャ312は下方に付勢されている。
【0088】
上部外殻部材320は、下端部に位置し最も内径の大きい第1内径部360と、その第1内径部360の上方に位置し第1内径部360の内径より小さな内径の第2内径部362と、上端部に位置し最も内径の小さい第3内径部364と、その第3内径部364と第2内径部362との間に位置し第2内径部362の内径より小さく、かつ第3内径部364の内径より大きい内径の第4内径部366とを有する。コア322の上方第2外径部336は上部外殻部材320の第2内径部362に固定的に嵌合されており、コア322の上方第1外径部334は上部外殻部材320の第1内径部360に固定的に嵌合されている。上方第1外径部334と上方第2外径部336との間の段差面と、第1内径部360と第2内径部362との間の段差面とは離隔しており、それら2つの段差面と上方第2外径部336と第1内径部360とによって第1液室368が区画されている。
【0089】
上部外殻部材320の第4内径部336には、概して円筒状の円筒部材370が摺動可能に嵌合されており、その円筒部材370は、下端部に位置し最も内径の小さい下端部372と、その下端部372の上方に位置し下端部372の内径より大きい内径の第1中間部374と、上端部に位置し最も内径の大きい上端部376と、その上端部376と第1中間部374との間に位置し第1中間部374の内径より大きく、かつ上端部376の内径より小さい内径の第2中間部378とを有している。上端部376には、円柱状の蓋部材380が固定的に嵌合されており、その蓋部材380の上部は、円筒部材370の上端から延び出すとともに、上部外郭部材320の第3内径部364に摺動可能に嵌合されている。
【0090】
円筒部材370の下端面とコア322の上端面との間には、コイルスプリング382が圧縮された状態で配設されている。そのコイルスプリング382の弾性力によって円筒部材370と蓋部材380とが上方に付勢されており、蓋部材380の上端面と上部外殻部材320の蓋内面とが当接している。蓋部材380の上端面は僅かに凹んでおり、その凹んだ部分と上部外殻部材320の蓋内面とによって第2液室384が区画されている。また、上部外郭部材320の第3内径部364と第4内径部336との間の段差面と円筒部材370の上端面とは離隔しており、それら2つの面と蓋部材380と第4内径部336とによって第3液室386が区画されている。
【0091】
蓋部材380の下面には凹部388が形成されており、その凹部388と円筒部材370の内部に移動部材314が挿入されている。移動部材314は、最も外径の大きいフランジ部390と、そのフランジ部390の下方に位置しフランジ部390の外径より小さな外径の下方第1外径部392と、その下方第1外径部392の下方に位置し下方第1外径部392の外径より小さな外径の下方第2外径部394と、フランジ部390の上方に位置しフランジ部390の外径より小さな外径の上方第1外径部396と、その上方第1外径部396の上方に位置し上方第1外径部396の外径より小さな外径の上方第2外径部398とを有している。下方第1外径部392は円筒部材370の第1中間部374に、下方第2外径部394は第1室間部としての下端部372に、それぞれ摺動可能に嵌合されており、上方第2外径部398と上方第1外径部396の上端部とは凹部388に挿入されている。上方第1外径部396の下端部とフランジ部390とは第2中間部378内に位置しており、そのフランジ部390が第2室間部としての第1中間部374の上方への開口に着座可能とされている。詳しく言えば、第1中間部374と第2中間部378との間の段差面400はテーパ状とされており、その段差面400が弁座として機能し、弁体として機能するフランジ部390が段差面400に着座可能とされている。
【0092】
そのフランジ部390の上端面と蓋部材380の下面との間には、第1付勢部材としてのコイルスプリング402が圧縮された状態で配設されており、そのコイルスプリング402の弾性力によって下方、つまり、フランジ部390が円筒部材370内に形成された段差面400に着座する方向に、移動部材314が付勢されている。フランジ部390が段差面400に着座している状態において、円筒部材370の第2中間部378と移動部材314と蓋部材380とによって第4液室404が区画されている。また、移動部材314の下方第1外径部392の外周面は僅かに凹んでおり、その下方第1外径部392の凹んだ部分と円筒部材370の第1中間部374とによって第5液室406が区画されている。
【0093】
蓋部材380の第3室間部としての凹部388内には、円環状のゴム部材410が設けられている。その第3室間部内ゴム部材としてのゴム部材410に移動部材314の上方第2外径部398が挿入されており、ゴム部材410の下面に上方第1外径部396と上方第2外径部398との間の段差面が密着している。ゴム部材410はシールとして機能しており、そのゴム部材410によって移動部材314と蓋部材380との間の液漏れが禁止されている。また、円筒部材370の第1室間部としての下端部372にも、円環状のゴム部材412が設けられている。その第1室間部内ゴム部材としてのゴム部材412に移動部材314の下方第2外径部394が挿入されており、ゴム部材412の上面に下方第1外径部392と下方第2外径部394との間の段差面が密着している。そのゴム部材412もシールとして機能しており、ゴム部材412によって移動部材314と円筒部材370の下端部372との間の液漏れが禁止されている。
【0094】
移動部材314の下方第2外径部394は、円筒部材370の下端から延び出しており、コア322に形成された貫通穴338の第1室間部としての小内径部350に摺動可能に嵌合されている。このような構造によって、下方第2外径部394とコア322の上端面と円筒部材370の下端面と上部外郭部材320の第4内径部366とによって第6液室414が区画されている。下方第2外径部394には、外周面に開口するとともに、下端面に開口する移動部材内連通路416が形成されており、貫通穴338の内部と第6液室414とが移動部材内連通路416によって連通されている。その移動部材内連通路416の貫通穴338内部への開口は、テーパ状とされており、上記プランジャ312のロッド部340の先端と向かい合っている。プランジャ312は、第2付勢部材としてのコイルスプリング352の弾性力によってプランジャ312が移動部材内連通路416の開口から離隔する方向に付勢されており、そのコイルスプリング352の弾性力に抗してプランジャ312が上方に移動することで、プランジャ312の先端が、移動部材内連通路416の開口に着座するようにされている。
【0095】
また、上部外殻部材320の第1内径部360には、第1液室368に開口する低圧ポート420が形成されており、その低圧ポート420を介して、減圧連通路152が第1液室368に接続されている。つまり、第1液室368は、低圧室として機能している。その第1液室368と貫通穴338の大内径部348とを連通する第1連通路422が、コア322内に径方向に延びるように形成されており、その第1連通穴422および貫通穴338も低圧室として機能している。以下、第1液室368と第1連通穴422と貫通穴338とをまとめて低圧室368等という場合がある。また、上部外殻部材320の第4内径部366には、補助室としての第3液室386に開口するドレインポート424が形成されており、減圧連通路152に繋がる接続路426が、ドレインポート424を介して第3液室386に接続されている。その第3液室386と蓋部材380の凹部388とを連通する第2連通路428が、蓋部材380内に形成されており、移動部材314の移動に伴う凹部388内の容積変化が許容されている。
【0096】
円筒部材370の外周面には僅かに凹んだ部分があり、その凹んだ部分と上部外殻部材320の第4内径部366との間にクリアランス430が形成されている。そのクリアランス430に開口する高圧ポート432が第4内径部366に形成されており、クリアランス430と第5液室406とを連通する第3連通路434が円筒部材370の径方向に延びるように形成されている。また、高圧ポート432は、高圧連通路164に接続されている。つまり、高圧ポート432とクリアランス430と第3連通路434とを介して、高圧連通路164が第5液室406に接続されており、第5液室406は、高圧室として機能している。以下、第5液室406を高圧室406という場合がある。
【0097】
円筒部材370には、第4液室404と第6液室414とに開口し、それら2つの液室を連通する円筒部材内連通路440が形成されている。また、第6液室414に開口する調圧ポート442が、上部外殻部材320の第4内径部366に形成されており、その調圧ポート442に制御圧連通路133が接続されている。つまり、第4液室404は、調圧ポート442と第6液室414と円筒部材内連通路440とを介して、制御圧連通路133に接続されており、調圧室として機能している。以下、第4液室404を調圧室404という場合がある。なお、上部外殻部材320の蓋部には、第2液室384に開口する補助ポート444が形成されており、その補助ポート444を介して、バックアップ通路172が第2液室384に接続されている。
【0098】
上述した構造によって、本液圧弁装置300においては、コイル316に電流が供給されていないときには、コイルスプリング402の弾性力によって、移動部材314のフランジ部390が円筒部材370の内周面に形成された段差面400に着座している。このため、高圧室406と調圧室404との間のブレーキ液の流れが遮断されている。また、コイルスプリング352の弾性力によって、プランジャ312の先端が移動部材314の移動部材内連通路416の下方への開口から離隔しており、ブレーキ液は、円筒部材内連通路440と第6液室414と移動部材内連通路416とを介して、調圧室404と低圧室368等との間を流通可能となっている。つまり、円筒部材内連通路440と第6液室414と移動部材内連通路416とが連通路として機能し、その連通路によって、調圧室圧は大気圧となっている。ちなみに、円筒部材内連通路440と第6液室414とはハウジング内連通路として機能し、円筒部材内連通路440の調圧室への開口は調圧室側開口として機能している。
【0099】
移動力発生器としてのコイル316に電流が供給されると、プランジャ312の先端が移動部材内連通路416の低圧室368等への開口(以下、「低圧室側開口」という場合がある。)に接近する方向にプランジャ312を移動させようとする電磁力が生じる。この電磁力によって、まず、プランジャ312がコイルスプリング352の弾性力に抗して上方に移動して、プランジャ312の先端が低圧室側開口へ着座する。この状態において、調圧室404と低圧室368等との間のブレーキ液の流れは遮断されるとともに、高圧室406と調圧室404との間のブレーキ液の流れも遮断されている。そして、プランジャ312の先端が低圧室側開口へ着座した状態、つまり、プランジャ312が移動部材314に当接した状態でプランジャ312が上方へ移動すると、移動部材314も上方に移動する。移動部材314の上方への移動に伴って、移動部材314のフランジ部390が円筒部材370の段差面400から離隔することで、高圧室406と調圧室404との間のブレーキ液の流れが許容されるのである。この際、コイル316への通電量を制御することで、調圧室圧を制御可能に増圧させることが可能となっている。
【0100】
また、調圧室圧が増圧された後に、コイル316への通電量を減少させることで、コイルスプリング402の弾性力によって移動部材314のフランジ部390が円筒部材370の段差面400に着座する。フランジ部390が段差面400に着座するとともにプランジャ312の先端が低圧室側開口に着座している状態では、調圧室圧は増圧された液圧に維持される。そして、その状態からコイル316への通電量をさらに減少させることで、コイルスプリング352の弾性力によってプランジャ312の先端が低圧側開口から離隔して、低圧室368等と調圧室404との間のブレーキ液の流れが許容される。この際、コイル316への通電量を制御することで、調圧室圧を制御可能に減圧させることが可能となっている。
【0101】
上述したように、本増減圧弁300は、コイル316への通電量を制御することで、調圧室圧を制御可能に増減圧させることが可能となっている。増圧時には、移動部材314のフランジ部390が円筒部材370の段差面400から離隔し、ブレーキ液が高圧室406から調圧室404へ流れる。このため、ブレーキ液は、移動部材314の弁体として機能するフランジ部390が弁座として機能する段差面400から離隔する方向に流れる。一方、減圧時には、プランジャ312が低圧側開口から離隔し、ブレーキ液が調整室404から低圧室368等へ流れる。このため、ブレーキ液は、プランジャ312の弁体として機能する先端が弁座として機能する低圧側開口から離隔する方向に流れる。つまり、本液圧弁装置300においても、調圧室圧が制御される際に、ブレーキ液は弁体が弁座から離間する方向に流れるようになっており、調圧時のハンチング現象が抑制されることで、精度よく調圧室圧を制御することが可能となっている。
【0102】
また、本増減圧弁158においても、先の増減圧装置158と同様に、電力に依拠することなく、シリンダ装置20の作動によって加圧されたブレーキ液に依拠して調圧室圧を増圧させることが可能となっている。詳しく言えば、液圧ブレーキシステム302への電力供給が断たれた場合には、先のシステム10と同様に、バックアップ通路172にシリンダ装置20の作動によって加圧されたブレーキ液が流れ、その加圧されたブレーキ液が第2液室384に流入するようになっている。このため、第2液室384内のブレーキ液の液圧の増加に伴って、その第2液室384内のブレーキ液の液圧によって蓋部材380および円筒部材370が下方に押される力が、調圧室圧によって蓋部材380および円筒部材370が上方に押される力より大きくなったときに、蓋部材380および円筒部材370が下方に移動する。蓋部材380および円筒部材370の下方への移動に伴って移動部材314も下方に移動し、まず、低圧側開口にプランジャ312の先端が着座する。この状態において、低圧室368等と調圧室404との間のブレーキ液の流れが遮断される。そして、蓋部材380および円筒部材370がさらに下方に移動すると、蓋部材380および円筒部材370は下方に移動するが、移動部材314はプランジャ312と当接しているため、移動部材314は下方に移動せずに、移動部材314のフランジ部390が円筒部材370の段差面400から離隔することで、高圧室406と調圧室404との間のブレーキ液の流れが許容される。このように、本減増圧弁300において、電力失陥時等であっても、電力に依拠することなく、調整室圧を増圧させることが可能とされている。
【0103】
また、図6に示すように、上方向への高圧室圧を受ける移動部材314の受圧面積A6と、下方向への高圧室圧を受ける移動部材314の受圧面積A7とは同じとなっている。このため、本液圧弁装置300においても、移動部材314の初期動作に必要な力が低減されており、コイル316の消費電力の抑制が図られている。さらに、調圧室圧の増圧時の液漏れ,圧力特性のヒステリシスの発生を抑制するために、下方向への調圧室圧を受ける移動部材196の受圧面積と上方向への調圧室圧を受ける移動部材196の受圧面積とを同じとするべく、各受圧面積の関係が以下の式を満たすように設計されている。
6−A8=A9
ここで、A8は、移動部材314が上方第1外径部396が蓋部材380の凹部388に摺動可能に嵌合されている箇所の受圧面積、A9は、プランジャ312の先端が低圧室側開口へ着座する箇所の受圧面積である。
【実施例3】
【0104】
本実施例の液圧ブレーキシステムにおいては、液圧弁装置を除いて、先のブレーキシステム302と同様の構成とされているため、液圧弁装置500のみを図7に示し、全体の図面を省略することとする。また、本液圧弁装置500は、移動部材および円筒部材を除いて、先のシステム302の液圧弁装置300と略同様の構成であるため、それらを中心に説明し、同様の機能の構成要素については、同じ符号を用いて説明を省略あるいは簡略に行うものとする。
【0105】
図7に示すように、本液圧弁装置500において、上部外郭部材320の第4内径部366には、概して円筒状の円筒部材510が摺動可能に嵌合されており、その円筒部材510は、下端部に位置し最も内径の小さい下端部512と、その下端部512の上方に位置し下端部512の内径より大きい内径の第1中間部514と、上端部に位置し最も内径の大きい上端部516と、その上端部516と第1中間部514との間に位置し第1中間部514の内径より大きく、かつ上端部516の内径より小さい内径の第2中間部518とを有している。上端部516には、蓋部材380が固定的に嵌合されており、その蓋部材380の上部は、円筒部材510の上端から延び出すとともに、上部外郭部材320の第3内径部364に摺動可能に嵌合されている。
【0106】
蓋部材380の下面には凹部388が形成されており、その凹部388と円筒部材510の内部に移動部材520が挿入されている。移動部材520は、最も外径の大きいフランジ部522と、そのフランジ部522の下方に位置しフランジ部522の外径より小さな外径の下方第1外径部524と、その下方第1外径部524の下方に位置し下方第1外径部524の外径より小さな外径の下方第2外径部526と、その下方第2外径部526の下方に位置し下方第2外径部526の外径より小さな外径の下方第3外径部528と、フランジ部522の上方に位置しフランジ部522の外径より小さな外径の上方第1外径部530と、その上方第1外径部530の上方に位置し上方第1外径部530の外径より小さな外径の上方第2外径部532とを有している。
【0107】
下方第2外径部526は円筒部材510の第1中間部514に、下方第3外径部528は第1室間部としての下端部512に、それぞれ摺動可能に嵌合されており、上方第2外径部532と上方第1外径部530の上端部とは凹部388に挿入されている。上方第1外径部530の下端部とフランジ部522と下方第1外径部524とは第2中間部518内に位置しており、下方第1外径部524と下方第2外径部526との間の段差面534が円筒部材510の第2室間部としての第1中間部514の上方への開口に着座可能とされている。詳しく言えば、第1中間部514と第2中間部518との間の段差面536はテーパ状とされており、その段差面536が弁座として機能し、その段差面536に弁体として機能する下方第1外径部524と下方第2外径部526との間の段差面534が着座可能とされている。
【0108】
移動部材520のフランジ部522の上端面と蓋部材380の下面との間には、第1付勢部材としてのコイルスプリング540が圧縮された状態で配設されており、そのコイルスプリング540の弾性力によって下方、つまり、移動部材520の外周面に形成された段差面534が円筒部材510の内周面に形成された段差面536に着座する方向に、移動部材520が付勢されている。着座状態において、円筒部材520の第2中間部518と移動部材520と蓋部材380とによって調圧室542が区画されている。また、移動部材520の下方第2外径部526の外周面は僅かに凹んでおり、その下方第2外径部526の凹んだ部分と円筒部材510の第1中間部514とによって高圧室544が区画されている。その高圧室544に開口する第3連通路546が、円筒部材510の径方向に延びるようにして形成されており、その第3連通路546とクリアランス430と高圧ポート432とを介して、高圧室544が高圧連通路164に接続されている。
【0109】
移動部材520の内部には、それの軸線方向に貫通する連通路550が形成されており、その連通路550は、移動部材520の上端面および下端面に開口している。その連通路550は、さらに、下方第1外径部524の外周面および下方第3外径部528の外周面にも開口している。内部室として機能する連通路550の上端の開口には、概して円柱状のピン556が摺動可能に挿入されており、そのピン556の上端面は蓋部材380の凹部388の内面において支持されている。蓋部材380の凹部388の内部には、ピン556を貫通させた状態で環状のゴム部材558が設けられており、その第3室間部内ゴム部材としてのゴム部材558の下面に移動部材520の上端面が密着している。ゴム部材558はシールとして機能しており、そのゴム部材558によって移動部材520と蓋部材380との間の液漏れが禁止されている。ちなみに、移動部材520の下方第2外径部526と下方第3外径部528との間の段差面は、環状のゴム部材412の上面に密着しており、それらの間がシールされている。
【0110】
連通路550が形成された移動部材520の下方第3外径部528の下端部は、コア322に形成された貫通穴338の小外径部350に摺動可能に嵌合されており、連通路550の下端の開口は、貫通穴338内に開口している。また、連通路550の下方第1外径部524の外周面への開口は、調圧室542に開口している。つまり、調圧室542と低圧室368等とが連通路550によって連通されており、連通路550の下方第1外径部524の外周面への開口が調圧室側開口として機能するとともに、連通路550の下端面への開口が低圧室側開口として機能している。連通路550の下端面への開口(以下、「低圧室側開口」という場合がある)はテーパ状とされており、プランジャ312の先端と向かい合っている。プランジャ312は、コイルスプリング352の弾性力によってプランジャ312が低圧室側開口から離隔する方向に付勢されており、弾性力に抗してプランジャ312が上方に移動することで、プランジャ312の先端が、低圧室側開口に着座するようにされている。
【0111】
このような構造によって、本液圧弁装置500においても、先のシステム302の液圧弁装置300と同様に、コイル316への通電量を制御することで、調圧室圧を制御可能に増減圧させることが可能となっている。また、調圧室圧が制御される際に、ブレーキ液は弁体が弁座から離間する方向に流れるようになっており、調圧時のハンチング現象が抑制されることで、精度よく調圧室圧を制御することが可能となっている。さらに、電力失陥時においても、第2液室384への加圧されたブレーキ液の流入に伴って、蓋部材380および円筒部材510を下方に移動させることが可能となっており、コイル316の電磁力に依拠することなく制御室圧を増圧することが可能となっている。
【0112】
また、図8に示すように、上方向への高圧室圧を受ける移動部材520の受圧面積A10と、下方向への高圧室圧を受ける移動部材520の受圧面積A11とは同じとなっている。このため、本液圧弁装置500においても、移動部材520の初期動作に必要な力が低減されており、コイル316の消費電力の抑制が図られている。さらに、調圧室圧の増圧時の液漏れ,圧力特性のヒステリシスの発生を抑制するために、下方向への調圧室圧を受ける移動部材520の受圧面積と、上方向への調圧室圧を受ける移動部材520の受圧面積とが同じとされている。具体的には、移動部材520の段差面534が円筒部材510の段差面536に着座している箇所の受圧面積(上記受圧面積A10に相当)からプランジャ312の先端が低圧室側開口へ着座している箇所の受圧面積A12を減じたものが、下方向への調圧室圧を受ける移動部材520の受圧面積に相当し、移動部材520の上方第2外径部532が蓋部材380の凹部388に摺動可能に嵌合されている箇所の受圧面積A13からピン556の断面積A14を減じたものが、上方向への調圧室圧を受ける移動部材520の受圧面積に相当する。つまり、受圧面積の関係が以下の式を満たすように設計されている。
10−A12=A13−A14
なお、本液圧弁装置500では、受圧面積A10と受圧面積A13とは同じとされているため、受圧面積A12とピン556の断面積A14とは同じとなっている。
【実施例4】
【0113】
本実施例の液圧ブレーキシステムにおいても、液圧弁装置を除いて、先のブレーキシステム302と同様の構成とされているため、液圧弁装置600のみを図9に示し、全体の図面を省略することとする。また、本液圧弁装置600は、移動部材および円筒部材等を除いて、先のシステム302の液圧弁装置300と略同様の構成であるため、それらを中心に説明し、同様の機能の構成要素については、同じ符号を用いて説明を省略あるいは簡略に行うものとする。
【0114】
図9に示すように、本液圧弁装置600において、上部外郭部材320の第4内径部366には、概して円筒状の円筒部材610が摺動可能に嵌合されており、その円筒部材610は、上端部に位置し最も内径の大きい上端部612と、下端部に位置し上端部612より内径の小さい下端部614と、上端部612と下端部614との間に位置し最も内径の小さい中間部616とを有している。上端部612には、有蓋円筒状の蓋部材618が固定的に嵌合されており、その蓋部材618の上部は、円筒部材610の上端から延び出すとともに、上部外郭部材320の第3内径部364に摺動可能に嵌合されている。なお、蓋部材618の上端面は僅かに凹んでおり、その蓋部材618の凹んだ部分と上部外郭部材320の蓋内面とによって第2液室619が区画されている。
【0115】
蓋部材380の内部および円筒部材610の内部には、移動部材620が挿入されており、移動部材620は、上端に位置し最も外径の大きいフランジ部622と、そのフランジ部622の下方に位置しフランジ部622の外径より小さな外径の下方第1外径部624と、その下方第1外径部624の下方に位置し下方第1外径部624の外径より小さな外径の下方第2外径部626とを有している。ちなみに、下方第2外径部626には、下方第1外径部624の外径より大きな外径の環状部材628が固定的に嵌合されており、その環状部材628は、下方第1外径部624と下方第2外径部626との間の段差面と当接している。なお、環状部材628は、移動部材620に固定されているため、移動部材620の構成物とみなす。
【0116】
下方第1外径部624は円筒部材610の中間部616に摺動可能に嵌合されている。下方第1外径部624の下端部および環状部材628は第1室間部としての下端部614に位置しており、下方第1外径部624の下端部および環状部材628と下端部614との間は、環状のシール部材630によってシールされている。フランジ部622は蓋部材618、つまり、円筒部材610の上端部612内に位置しており、フランジ部622が円筒部材610の第2室間部としての中間部616の上方への開口に着座可能とされている。詳しく言えば、上端部612と中間部616との間の段差面632はテーパ状とされており、段差面632が弁座として機能し、その段差面632に弁体として機能する移動部材620のフランジ部622が着座可能とされている。
【0117】
移動部材620のフランジ部622の上端面と蓋部材618の蓋内面との間には、第1付勢部材としてのコイルスプリング634が圧縮された状態で配設されており、そのコイルスプリング634の弾性力によって下方、つまり、フランジ部622が円筒部材610の内周面に形成された段差面632に着座する方向に、移動部材620が付勢されている。着座状態において、移動部材620のフランジ部622と蓋部材618と円筒部材610の段差面632とによって調圧室636が区画されている。また、移動部材620の下方第1外径部624の外周面は僅かに凹んでおり、その下方第1外径部624の凹んだ部分と円筒部材610の中間部616とによって高圧室638が区画されている。その高圧室638に開口する第3連通路640が、円筒部材610の径方向に延びるようにして形成されており、その第3連通路640とクリアランス430と高圧ポート432とを介して、高圧室638が高圧連通路164に接続されている。
【0118】
移動部材620の内部には、それの軸線方向に貫通する連通路650が形成されており、その連通路650は、移動部材620の上端面および下端面に開口している。その連通路650が形成された移動部材620の下方第2外径部626の下端部は、コア322に形成された貫通穴338の小内径部350に摺動可能に嵌合されており、連通路650の下端の開口は、貫通穴338内に開口している。一方、連通路650の上端の開口は、調圧室363に開口している。つまり、調圧室636と低圧室368等とが連通路650によって連通されており、連通路650の上端面への開口が調圧室側開口として機能するとともに、連通路650の下端面への開口が低圧室側開口として機能している。連通路650の下端面への開口(以下、「低圧室側開口」という場合がある)はテーパ状とされており、プランジャ312の先端と向かい合っている。プランジャ312は、コイルスプリング352の弾性力によってプランジャ312が低圧室側開口から離隔する方向に付勢されており、弾性力に抗してプランジャ312が上方に移動することで、プランジャ312の先端が、低圧室側開口に着座するようにされている。なお、連通路650は、さらに、下方第2外径部626の外周面にも開口しており、第6液室414に連通している。
【0119】
このような構造によって、本液圧弁装置600においても、先のシステム302の液圧弁装置300と同様の効果を発揮することが可能となっている。また、図10に示すように、上方向への高圧室圧を受ける移動部材620の受圧面積A15と、下方向への高圧室圧を受ける移動部材620の受圧面積A16とは同じとなっている。このため、本液圧弁装置600においても、移動部材620の初期動作に必要な力が低減されており、コイル316の消費電力の抑制が図られている。さらに、調圧室圧の増圧時の液漏れ,圧力特性のヒステリシスの発生を抑制するために、下方向への調圧室圧を受ける移動部材620の受圧面積と、上方向への調圧室圧を受ける移動部材620の受圧面積とが同じとされている。具体的には、移動部材620のフランジ部622が円筒部材610の段差面632に着座している箇所の受圧面積(上記受圧面積A15に相当)からプランジャ312の先端が低圧室側開口へ着座している箇所の受圧面積A17を減じたものが、下方向への調圧室圧を受ける移動部材620の受圧面積に相当し、移動部材620を構成する環状部材628の受圧面積A18から移動部材620の下方第2外径部626の受圧面積A19を減じたものが、上方向への調圧室圧を受ける移動部材620の受圧面積に相当する。つまり、受圧面積の関係が以下の式を満たすように設計されている。
15−A17=A18−A19
【実施例5】
【0120】
本実施例の液圧ブレーキシステムにおいても、液圧弁装置を除いて、先のブレーキシステム302と同様の構成とされているため、液圧弁装置700のみを図11に示し、全体の図面を省略することとする。また、本液圧弁装置700は、移動部材およびプランジャ等を除いて、先のシステム302の液圧弁装置300と略同様の構成であるため、それらを中心に説明し、同様の機能の構成要素については、同じ符号を用いて説明を省略あるいは簡略に行うものとする。
【0121】
図11に示すように、本液圧弁装置700において、上部外郭部材320の第3内径部364に蓋部材380が摺動可能に嵌合されるとともに、第4内径部366に円筒部材370が摺動可能に嵌合されており、円筒部材370に蓋部材380が固定的に嵌合されている。円筒部材370および蓋部材380の下面に形成された凹部388には、移動部材710が挿入されている。移動部材710は、最も外径の大きいフランジ部712と、そのフランジ部712の下方に位置しフランジ部712の外径より小さな外径の下方第1外径部714と、その下方第1外径部714の下方に位置し下方第1外径部714の外径より小さな外径の下方第2外径部716と、フランジ部712の上方に位置しフランジ部712の外径より小さな外径の上方第1外径部718と、その上方第1外径部718の上方に位置し上方第1外径部718の外径より小さな外径の上方第2外径部720とを有している。
【0122】
円筒部材370は、下端に位置し内径の最も小さい下端部722と、上端に位置し内径の最も大きい上端部724と、下端部722と上端部724との間に位置し、下端部722の内径より大きく、かつ、上端部724の内径より小さい内径の中間部726とを有している。移動部材710の下方第2外径部716は円筒部材370の下端部722に摺動可能に嵌合されており、上方第2外径部720は蓋部材380の凹部388に挿入されている。上方第1外径部718とフランジ部712と下方第1外径部714とは中間部726内に位置しており、下方第1外径部714と下方第2外径部716との間の段差面728が円筒部材370の第2室間部としての下端部722の上方への開口に着座可能とされている。詳しく言えば、下端部722と中間部726との間の段差面730はテーパ状とされており、段差面730が弁座として機能し、その段差面730に弁体として機能する下方第1外径部714と下方第2外径部716との間の段差面728が着座可能とされている。
【0123】
移動部材710のフランジ部712の上端面と蓋部材380の蓋内面との間には、第1付勢部材としてのコイルスプリング732が圧縮された状態で配設されており、そのコイルスプリング732の弾性力によって下方、つまり、移動部材710の外周面に形成された段差面728が円筒部材370の内周面に形成された段差面730に着座する方向に、移動部材710が付勢されている。着座状態において、移動部材710と蓋部材380と円筒部材370の中間部726とによって調圧室734が区画されている。また、移動部材710の下方第2外径部716の外周面は僅かに凹んでおり、その凹んだ部分と円筒部材370の中間部726とによって高圧室736が区画されている。なお、円筒部材370には、高圧室736とクリアランス430とを連通する第3連通路434と、調圧室734と第6液室414とを連通する円筒部材内連通路440とが形成されている。
【0124】
移動部材710には、上端面および下方第1外径部714に開口する内部室としての内部通路737が形成されている。その内部通路737の上端の開口には、概して円柱状のピン738が摺動可能に挿入されており、そのピン738の上端面は蓋部材380の凹部388の内面において支持されている。蓋部材380の凹部388の内部には、ピン738を貫通させた状態で環状のゴム部材739が設けられており、その第3室間部内ゴム部材としてのゴム部材739の下面に移動部材710の上端面が密着している。ゴム部材739はシールとして機能しており、そのゴム部材739によって移動部材710と蓋部材380との間の液漏れが禁止されている。
【0125】
移動部材710の下方第2外径部716は円筒部材370の下端から延び出しており、その延び出した下方第2外径部716の下端部がコア322に形成された貫通穴338の小内径部350に摺動可能に嵌合されている。下方第2外径部716の下端面には凹部740が形成されており、さらに下方第2外径部716の外周面に開口するとともに凹部740にも開口する接続穴742も形成されている。その接続穴742は第6液室414に開口しており、低圧室368等と調圧室734とが、凹部740と接続穴742と第6液室414と円筒部材内連通路440とから構成される連通路によって連通されている。ここで、凹部740と接続穴742とは移動部材内連通路として機能し、第6液室414と円筒部材内連通路440とはハウジング内連通路として機能している。さらに、円筒部材内連通路440の調圧室734への開口は調圧室側開口として機能し、凹部740の低圧室368等への開口は低圧室側開口として機能している。
【0126】
また、移動部材710の下方には、プランジャ750が設けられており、プランジャ750は、貫通穴338に挿入されるロッド部752と、コア322の下端面と下部外殻部材318の内底面との間に配設される本体部754とを有している。ロッド部752は、下端部に位置し外径の大きい大径部756と、上端部に位置し外径の小さい小径部758と、大径部756と小径部758との間に位置し、大径部756の外径より小さく、かつ、小径部758の外径より大きい外径の中間径部760とを有している。大径部756は貫通穴338の大内径部348に摺動可能に嵌合されており、中間径部760は貫通穴338の大内径部348および小内径部350にクリアランスのある状態で挿入されている。小径部758は、貫通穴338に嵌合された移動部材710の凹部740に挿入されている。
【0127】
プランジャ750の小径部758と中間内径部760との間の段差面770は、移動部材740の凹部740の下方への開口(以下、「低圧室側開口」という場合がある)と向かい合っており、その低圧室側開口はテーパ状とされている。プランジャ750の大径部756と中間径部760との間の段差面と、貫通穴338の大内径部348と小内径部350との間の段差面との間には、第2付勢部材としてのコイルスプリング772が圧縮された状態で配設されており、そのコイルスプリング772の弾性力によってプランジャ750は下方に付勢されている。つまり、プランジャ750は、コイルスプリング772の弾性力によってプランジャ750の外周面に形成された段差面770が低圧室側開口から離隔する方向に付勢されており、弾性力に抗してプランジャ750が上方に移動することで、段差面770が低圧室側開口に着座するようにされている。なお、プランジャ750のロッド部752には、上端面と外周面とに開口するロッド部内連通路776が形成されており、プランジャ750の移動に伴う凹部740内の容積変化が許容されている。
【0128】
このような構造によって、本液圧弁装置700においても、先のシステム302の液圧弁装置300と同様の効果を発揮することが可能となっている。また、図12に示すように、上方向への高圧室圧を受ける移動部材710の受圧面積A20と、下方向への高圧室圧を受ける移動部材710の受圧面積A21とは同じとなっている。このため、本液圧弁装置700においても、移動部材710の初期動作に必要な力が低減されており、コイル316の消費電力の抑制が図られている。さらに、調圧室圧の増圧時の液漏れ,圧力特性のヒステリシスの発生を抑制するために、下方向への調圧室圧を受ける移動部材710の受圧面積と、上方向への調圧室圧を受ける移動部材710の受圧面積とが同じとされている。具体的には、移動部材710の段差面728が円筒部材370の段差面730に着座している箇所の受圧面積(上記受圧面積A20に相当)が、下方向への調圧室圧を受ける移動部材710の受圧面積に相当する。一方、移動部材710の上方第2外径部720が蓋部材380の凹部388に摺動可能に嵌合されている箇所の受圧面積A22からピン738の断面積A23を減じたものが、上方向への調圧室圧を受ける移動部材710の受圧面積に相当する。さらに、プランジャ750の段差面770が低圧室側開口へ着座している箇所の受圧面積A24からプランジャ750の小径部758の受圧面積A25を減じたものも、上方向への調圧室圧を受ける移動部材710の受圧面積に相当する。つまり、受圧面積の関係が以下の式を満たすように設計されている。
20=(A22−A23)+(A24−A25
なお、本液圧弁装置700では、受圧面積A20と受圧面積A22とは同じとされているため、受圧面積の関係は以下の式を満たすようになっている。
23=A24−A25
【符号の説明】
【0129】
118:リザーバ(低圧源) 158:液圧弁装置 162:高圧減装置 180:増圧用リニア弁(電磁式増圧弁)(移動力発生器) 182:減圧用リニア弁(電磁式減圧弁)(移動力発生器) 190:ハウジング 192:プランジャ 196:移動部材 206:第2内径部(第4室間部) 208:第3内径部(第1室間部)(第2室間部) 228:第2液室(移動力発生室) 250:凹部(第3室間部) 252:コイルスプリング(第1付勢部材) 254:第3液室(調圧室) 256:第4液室(高圧室) 260:貫通穴(連通路)(内部室) 261:接続穴(連通路) 262:ピン 270:コイルスプリング(第2付勢部材) 272:第5液室(低圧室) 300:液圧弁装置 310:ハウジング 312:プランジャ 314:移動部材 316:コイル(移動力発生器) 350:小内径部(第1室間部) 352:コイルスプリング(第2付勢部材) 368:第1液室(低圧室) 372:下端部(第1室間部) 374:第1中間部(第2室間部) 386:第3液室(補助室) 388:凹部(第3室間部) 402:コイルスプリング(第1付勢部材) 404:第4液室(調圧室) 406:第5液室(高圧室) 410:ゴム部材(第3室間部内ゴム部材) 412:ゴム部材(第1室間部内ゴム部材) 414:第6液室(ハウジング内連通路)(連通路) 416:移動部材内連通路(連通路) 440:円筒部材内連通路(ハウジング内連通路)(連通路) 500:液圧弁装置 512:下端部(第1室間部) 514:第1中間部(第2室間部) 520:移動部材 540:コイルスプリング(第1付勢部材) 542:調圧室 544:高圧室 550:連通路(内部室) 556:ピン 558:ゴム部材(第3室間部内ゴム部材) 600:液圧弁装置 614:下端径部(第1室間部) 616:中間部(第2室間部) 620:移動部材 634:コイルスプリング(第1付勢部材) 636:調圧室 638:高圧室 650:連通路 700:液圧弁装置 710:移動部材 722:下端部(第1室間部)(第2室間部) 732:コイルスプリング(第1付勢部材) 734:調圧室 736:高圧室 737:内部通路(内部室) 738:ピン 739:ゴム部材(第3室間部内ゴム部材) 740:凹部(移動部材内連通路)(連通路) 742:接続穴(移動部材内連通路)(連通路) 750:プランジャ 772:コイルスプリング(第2付勢部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動液を調圧するための液圧弁装置であって、
低圧源と連通する低圧室と、調圧された作動液で満たされる調圧室と、前記低圧室と前記調圧室との間に設けられるとともに高圧源と連通する高圧室と、前記低圧室と前記高圧室とを繋ぐ第1室間部と、前記高圧室と前記調圧室とを繋ぐ第2室間部とを有し、それらを自身の軸線方向に並ぶように区画するハウジングと、
前記高圧室を前記軸線方向に貫くようにして前記第1室間部と前記第2室間部とに挿入されるとともに一端部が前記調圧室内に延び出しており、前記軸線方向に移動可能に前記ハウジング内に配設され、前記第1室間部を塞ぐとともに、前記一端部が前記第2室間部の前記調圧室側の開口に着座することで前記高圧室と前記調圧室との間の作動液の流通を遮断する移動部材と、
その移動部材を、前記一端部が前記開口に着座する方向に付勢する第1付勢部材と、
前記移動部材の他端部に形成されるとともに前記低圧室に開口する低圧室側開口と、前記移動部材の前記一端部と前記ハウジングとのいずれか一方に形成されるとともに前記調圧室に開口する調圧室側開口とを有して、前記低圧室と前記調圧室とを連通する連通路と、
前記軸線方向に移動可能に前記ハウジング内に配設され、前記低圧室側開口に着座することで前記調圧室と前記低圧室との間の作動液の流通を遮断するプランジャと、
そのプランジャを、それが前記低圧室側開口から離隔する方向に付勢する第2付勢部材と、
前記プランジャをそれが前記低圧室側開口に着座する方向に移動させるための力を、自身に供給される電力に応じた大きさで発生させる移動力発生器と
を備えた液圧弁装置。
【請求項2】
前記調圧室側開口が、前記移動部材の前記一端部に形成されるとともに、
前記連通路が、前記移動部材の内部を貫通する請求項1に記載の液圧弁装置。
【請求項3】
前記調圧室側開口が、前記ハウジングに形成されるとともに、
前記連通路が、
(a)前記移動部材に形成され、前記第1室間部に開口するとともにその開口と前記低圧室側開口とを連通する移動部材内連通路と、(b)前記ハウジングに形成され、前記移動部材内連通路の前記第1室間部への開口と前記調圧室側開口とを連通するハウジング内連通路とを含んで構成された請求項1に記載の液圧弁装置。
【請求項4】
前記移動部材が、
それの前記一端部が前記第2室間部の前記調圧室側の開口に接近する方向に前記高圧室内の作動液の液圧を受ける受圧面積と、前記一端部が前記開口から離隔する方向に前記高圧室内の作動液の液圧を受ける受圧面積とが等しくなる形状とされた請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の液圧弁装置。
【請求項5】
前記移動部材が、
前記低圧室側開口が前記プランジャに接近する方向に前記調圧室内の作動液の液圧を受ける受圧面積と、前記低圧室側開口が前記プランジャから離隔する方向に前記調圧室内の作動液の液圧を受ける受圧面積とが等しくなる形状とされた請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の液圧弁装置。
【請求項6】
前記ハウジングが、さらに、前記調圧室の前記高圧室側とは反対側に設けられた補助室と、その補助室と前記調圧室とを繋ぐ第3室間部とを有し、
前記移動部材が、前記第3室間部まで延びてそれに挿入されるとともに、
当該液圧弁装置が、
前記移動部材の内部に形成され、その移動部材の外周面において前記調圧室に開口するとともに、前記移動部材の前記一端部の側の端面において前記補助室に開口する内部室と、
その内部室の前記端面における開口にその開口を塞ぐようにして一端部が摺動可能に挿入されるとともに、他端部が前記補助室内において前記ハウジングによって支持されるピンとを備えた請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の液圧弁装置。
【請求項7】
前記ハウジングが、さらに、前記調圧室の前記高圧室側とは反対側に設けられるとともに前記低圧源と連通する補助室と、その補助室と前記調圧室とを繋ぐ第3室間部とを有し、
前記移動部材が、前記第3室間部まで延びてそれに挿入されており、前記第3室間部に挿入された部分に前記補助室に対向する段差面を有する段付形状とされるとともに、
当該液圧弁装置が、
前記第3室間部に設けられ、前記移動部材を貫通させるとともに、前記段差面に密着した状態で前記補助室と前記調圧室との間の作動液の流通を遮断する環状の第3室間部内ゴム部材を備えた請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の液圧弁装置。
【請求項8】
前記ハウジングが、さらに、前記調圧室の前記高圧室側とは反対側に設けられるとともに前記低圧源と連通する補助室と、その補助室と前記調圧室とを繋ぐ第3室間部とを有し、
前記移動部材が、それの前記一端部の側の端面が前記第3室間部内に位置するように前記第3室間部まで延びてそれに挿入されるとともに、
当該液圧弁装置が、
前記第3室間部に設けられ、前記移動部材の前記端面に密着した状態で前記補助室と前記調圧室との間の作動液の流通を遮断する第3室間部内ゴム部材を備えた請求項1ないし請求項6のいずれか1つ記載の液圧弁装置。
【請求項9】
前記移動部材が、前記第1室間部に挿入された部分に前記低圧室に対向する段差面を有する段付形状とされるとともに、
当該液圧弁装置が、
前記第1室間部に設けられ、前記移動部材を貫通させるとともに、前記段差面に密着した状態で前記低圧室と前記高圧室との間の作動液の流通を遮断する環状の第1室間部内ゴム部材を備えた請求項1ないし請求項8のいずれか1つに記載の液圧弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−226541(P2011−226541A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95895(P2010−95895)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】