液晶基板保持盤およびその製造方法
【課題】照射光の広域な波長に亘って安定した低反射率を得られ、安定した二重露光防止作用と良好な露光作用を得られるとともに、液晶ディスプレイの軽量化と大型化に対応し、設備費と反射率の低減を図れるとともに、基板ステージの機能低下や故障を未然に防止し、低反射率の液晶基板保持盤を確実かつ安価に製造できる、液晶基板保持盤およびその製造方法を提供する。
【解決手段】母材11表面に低反射率の材料からなる溶射皮膜12を形成したこと。前記溶射皮膜12の表面に透明または半透明の基板Wを保持可能な支持部13を形成した液晶基板保持盤であること。前記溶射皮膜12をアルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)で形成したこと。前記溶射皮膜12表面の全反射率を、光の波長360〜740nmの範囲に亘って9%以下に形成したこと。
【解決手段】母材11表面に低反射率の材料からなる溶射皮膜12を形成したこと。前記溶射皮膜12の表面に透明または半透明の基板Wを保持可能な支持部13を形成した液晶基板保持盤であること。前記溶射皮膜12をアルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)で形成したこと。前記溶射皮膜12表面の全反射率を、光の波長360〜740nmの範囲に亘って9%以下に形成したこと。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射光の広域な波長に亘って安定した低反射率を得られ、安定した二重露光防止作用と良好な露光作用を得られるとともに、液晶ディスプレイの軽量化と大型化に対応し、設備費と反射率の低減を図れるとともに、基板ステージの機能低下や故障を未然に防止し、低反射率の液晶基板保持盤を確実かつ安価に製造できる、液晶基板保持盤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイを製造するための露光装置は、透明ガラス基板を真空吸着する液晶基板保持盤が使用され、ガラス基板の表面に電極や配線等のパターンを焼付けている。
前記液晶ディスプレイを製造する露光工程では、波長365nm(i線)、405nm(h線)、436nm(g線)の光線が使用され、このような装置に使用する構成部材は光の反射を嫌うため、低反射率の材料が必要とされていた。
例えば、液晶ディスプレイの場合、基板が透明ガラス材料のため、露光時に基板を透過した光が基板保持盤の表面で反射し、再びガラス基板の特定箇所に入射して、レジストの不要な箇所が露光される二重露光等の弊害が発生するという問題があった。
【0003】
従来、このような液晶用の露光装置の基板保持盤や、関連する検査装置における低反射率の特性を必要とする基板載置面に、アルミニウムにブラックアルマイトを施したものが使用されていた(例えば、特許文献1および2参照)。
【0004】
しかし、アルミニウムは軽量で一辺が1mを超える比較的大きな材料でも容易に製造できるが、黒色外観を有するブラックアルマイト皮膜は数十μm程度の薄層で、アルマイト施工後の表面の機械加工に様々な制約が伴うという問題があった。
更に、アルマイト施工したアルミニウム製基板保持盤は、ガラス基板との接触によって徐々に磨耗し、下地のアルミニウムが露出した場合、反射防止特性がないため、使用に不安があるという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するものとして、近時、光の反射を低減させるために黒色系セラミックスを母材とした基板保持盤が提案されている。
例えば、露光装置用の基板保持盤の基体を黒色系セラミックスバルクで形成し、液晶基板保持盤が大型化しても、加工時の材質の変形を防ぎ高精度に加工が可能であり、しかも液晶基板を透過する照射光の反射を有効に防止し、反射率を低下させるようにしている。
また、黒色研磨加工面の光を照射したときの反射率を、光の波長域220〜350nmで10.3〜15.0%、400〜550nmで11.9〜16.5%、600〜800nmで13.8〜21.7%にしたものがある(例えば、特許文献3および4参照)。
【0006】
しかし、前記全反射率は、光の波長域によって区々で安定した反射率を得られず、広域な波長域に亘って一様かつ良好な露光を得られないという問題があった。
しかも、前記黒色系セラミックスは、マンガンやチタン、鉄等の金属元素を含有したアルミナから形成したアルミナ系セラミックスで比重が高いため、液晶基板サイズが大型化し基板ステージも大型化する近時の液晶露光装置では、装置の重量増を招き、ステージの機能低下や故障を生じ易いという問題があった。
【0007】
また、液晶露光装置の大型化に伴って、大型の黒色系セラミックスを焼成するには大きな焼成炉を要して設備費が高騰し、液晶露光装置が高価になる問題があった。
更に、黒色系セラミックスの焼成は、鉄等の不純物を意図的に添加するため、焼成炉が汚染され、純度を要する別素材の焼成炉として併用できず、黒色系セラミックスの専用炉となって設備費の高騰を助長し、生産性が低下する等の問題があった。
【0008】
ところで、液晶露光装置において二重露光に最も影響を与える原因として、像に同じ像が重なる正反射光であることが知られ、この正反射光を低減するため、液晶基板保持盤の表面状態の改善が望まれていた。
このような要請に応ずるものとして、例えば液晶基板保持盤の表面の正反射を低く抑えるために、前記文献2および4のようにサンドブラスト処理や機械研削によって前記保持盤の表面を粗面化していた。
【0009】
この場合、正反射(鏡面反射)と拡散反射(乱反射)の和である全反射の内訳は、拡散反射が支配的となるが、全反射を低減させるために、黒色系セラミックス母材の様々な表面粗さの仕上げ法が提案されている。
例えば、基板保持盤側表面の光の波長250〜550nmにおける全反射率を、13%以下にしたものがある(例えば、特許文献3および5参照)。
しかし、前記全反射率は概して高く、広域な光の波長域に亘って一様かつ良好な露光を得られないという問題があった。
【0010】
一方、液晶基板保持盤の吸着構造は、黒色系セラミックスからなる平板状の基体表面に、支持面と支持面よりも低い非支持面からなる複数の突起を形成し、かつそれらの表面を支持面よりも非支持面の領域を大きく形成したものや、平板状の表面に支持面を有する複数の突部を形成し、前記支持面と突起間の表面を反射率の低いSiCからなる第1の被覆層で覆い、該第1の被覆層の表面を研削やブラスト加工によって粗面化し、この粗面化表面を平滑な表面を持つ透明材料であるAl2O3からなる第2の被覆層を形成したものがある(例えば、特許文献3および6参照)。
【0011】
しかし、これらの吸着構造は、液晶基板保持盤をアルミナ製としているため、大重量化し、また最表面の第2の被覆層の膜厚を厚くすると、平面度が低下したりコーティング斑で外観が損なわれるという問題があった。
【0012】
また、液晶基板保持盤の他の吸着構造として、ステージの位置決め装置のガイド面をセラミックス溶射し、該セラミックス層を封孔処理して、セラミックス溶射により発生した気孔やマイクロクラックを封孔し、ガイド面における空気の漏洩を防止するとともに、封孔後セラミックス層を所定の平面度に研削し、エアガイド機構を安定して作動し、ステージの制御性能を向上したものがある(例えば、特許文献7参照)。
しかし、この吸着構造は溶射材料が不明であり、また基板チャックや基板ステージの反射率低減についての言及がなく、具体的な吸着構造を得られないという問題があった。
【0013】
更に、露光装置のステージ装置として、エアガイド機構によって可動体を移動させる定盤の本体表面に、セラミックス材を溶射して被覆し、高剛性と軽量化を図り、大面積の定盤であっても容易かつ厚くセラミックス層を形成でき、また接触面に発生した傷の盛り上がりの発生を防止し、長期間に亘って安定した精密作動を得られるようにしたものがある(例えば、特許文献8参照)。
【0014】
しかし、この従来の装置は定盤を鋳物で成形しているため、材料費や設備費が高騰するとともに、セラミックス材を溶射する前に、定盤の溶射面を精密に研削ないし研磨する必要があり、その加工費の増加を招いて材料費の高騰を更に助長する等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平8−262090号公報
【特許文献2】特開2005−332910号公報
【特許文献3】特許第4518876号公報
【特許文献4】特許第4248833号公報
【特許文献5】特開2006−210546号公報
【特許文献6】特許第3095514号公報
【特許文献7】特開2009−210295号公報
【特許文献8】特許第4341101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はこのような問題を解決し、照射光の広域な波長に亘って安定した低反射率を得られ、安定した二重露光防止作用と良好な露光作用を得られるとともに、液晶ディスプレイの軽量化と大型化に対応し、設備費と反射率の低減を図れるとともに、基板ステージの機能低下や故障を未然に防止し、低反射率の液晶基板保持盤を確実かつ安価に製造できる、液晶基板保持盤およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1の発明は、母材表面に低反射率の材料からなる溶射皮膜を形成し、該溶射皮膜の表面に透明または半透明の基板を保持可能な支持部を形成した液晶基板保持盤において、前記溶射皮膜をアルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)で形成し、前記溶射皮膜表面の全反射率を、光の波長360〜740nmの範囲に亘って9%以下に形成し、光の波長360〜740nmの広域に亘って、溶射皮膜表面の安定した低反射率を得られ、安定した二重露光防止作用と良好な露光作用を得られるようにしている。
【0018】
請求項2の発明は、前記アルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)のうち、チタニア成分の含有量を重量百分率で10〜100wt%とし、光の波長360〜740nmの範囲に亘り、9%以下の安定した低反射率を実現するようにしている。
請求項3の発明は、前記溶射皮膜の表面および内部を含む表層部に透明な被覆層を形成し、溶射皮膜形成工程で発生したポアやマイクロクラックを閉塞し、該ポアやマイクロクラックによる内部反射を防止して、溶射皮膜表面の低反射率を実現するとともに、溶射皮膜の表層部を緻密化し、該表層部に形成する支持部を容易かつ正確に形成し、その強度を強化するようにしている。
【0019】
請求項4の発明は、前記被覆層の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成し、前記溶射皮膜の表層部に形成した被覆層と相俟って、溶射皮膜表面の低反射率を増進するようにしている。
【0020】
請求項5の発明は、母材表面に低反射率の材料からなる溶射皮膜を形成後、該溶射皮膜の表面に透明または半透明の基板を保持可能な支持部を形成する液晶基板保持盤の製造方法において、前記溶射皮膜をアルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)で形成し、前記溶射皮膜の形成後、該溶射皮膜の表面および内部を含む表層部を1次封孔処理し、該1次封孔処理によって前記表層部に被覆層を形成後、前記支持部を形成し、母材表面をアルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)から溶射皮膜を形成し、該溶射皮膜表面を光の波長の広範囲に亘って安定した低反射率を得られ、該皮膜の表層部を1次封孔処理してポアやマイクロクラックを封孔し、それらの内部反射を防止し溶射皮膜表面の低反射率を増進するとともに、溶射皮膜を緻密化して支持部を容易かつ正確に形成するようにしている。
【0021】
請求項6の発明は、前記アルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)のうち、チタニア成分の含有量を重量百分率で10〜100wt%とし、光の波長360〜740nmの範囲に亘り、9%以下の安定した低反射率を実現するようにしている。
請求項7の発明は、前記支持部を形成後、前記溶射皮膜の表面を2次封孔処理し、前記支持部の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成し、前記表層部に形成した被覆層と相俟って、溶射皮膜の表面の安定した低反射率を得られるようにしている。
請求項8の発明は、前記溶射皮膜の形成後、前記表層部の1次封孔処理前に、前記溶射皮膜表面をドライアイスブラスト洗浄し、溶射皮膜形成時における未溶融粒子を吹き飛ばし、溶射皮膜中の内部反射形成部を除去し、溶射皮膜表面の安定した低反射率を実現するようにしている。
【0022】
請求項9発明は、前記支持部を形成後、前記2次封孔処理前に、前記溶射皮膜表面をドライアイスブラスト洗浄し、支持部の形成時に皮膜表面に付着し残留する汚れや研削粉等を除去し、セラミックス皮膜表面を平滑にして、この後の2次封孔処理時に封孔剤を確実かつ精密に塗布し、透明な超薄膜を精密かつ確実に形成し得るようにしている。
請求項10の発明は、前記ドライアイスブラスト洗浄後、前記溶射皮膜表面を2次封孔処理し、該2次封孔処理によって前記溶射皮膜の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成し、前工程に形成されたマイクロクラックやポアを閉塞し、前記溶射皮膜の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成し、前記支持部表面を平滑化して、溶射皮膜の表層部に形成した被覆層と相俟って、溶射皮膜表面の低反射率を増進するようにしている。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の発明は、溶射皮膜をアルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)で形成し、前記溶射皮膜表面の全反射率を、光の波長360〜740nmの範囲に亘って9%以下に形成したから、光の波長360〜740nmの広域に亘って、溶射皮膜表面の安定した低反射率を得られ、安定した二重露光防止作用と良好な露光作用を得られる効果がある。
請求項2の発明は、前記アルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)のうち、チタニア成分の含有量を重量百分率で10〜100wt%としたから、光の波長360〜740nmの範囲に亘り、9%以下の安定した低反射率を実現することができる。
【0024】
請求項3の発明は、前記溶射皮膜の表面および内部を含む表層部に透明な被覆層を形成したから、溶射皮膜形成工程で発生したポアやマイクロクラックを閉塞し、該ポアやマイクロクラックによる内部反射を防止して、溶射皮膜表面の低反射率を実現するとともに、溶射皮膜の表層部を緻密化し、該表層部に形成する支持部を容易かつ正確に形成し、その強度を強化することができる。
請求項4の発明は、前記被覆層の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成したから、前記溶射皮膜の表層部に形成した被覆層と相俟って、溶射皮膜表面の低反射率を増進することができる。
【0025】
請求項5の発明は、溶射皮膜をアルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)で形成し、前記溶射皮膜の形成後、該溶射皮膜の表面および内部を含む表層部を1次封孔処理し、該1次封孔処理によって前記表層部に被覆層を形成後、前記支持部を形成したから、母材表面をアルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)からなる溶射皮膜を形成し、該溶射皮膜表面を光の波長の広範囲に亘って安定した低反射率を得られるとともに、前記皮膜の表層部を封孔処理してポアやマイクロクラックを封孔し、それらの内部反射を防止して溶射皮膜表面の低反射率を増進し、しかも溶射皮膜を緻密化して、支持部を容易かつ正確に形成することができる。
【0026】
請求項6の発明は、前記アルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)のうち、チタニア成分の含有量を重量百分率で10〜100wt%とするから、光の波長360〜740nmの範囲に亘り、9%以下の安定した低反射率を実現することができる。
請求項7の発明は、前記支持部を形成後、前記溶射皮膜の表面を2次封孔処理し、前記支持部の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成するから、前記表層部に形成した被覆層と相俟って、溶射皮膜の表面の安定した低反射率を増進することができる。
請求項8の発明は、前記溶射皮膜の形成後、前記表層部の1次封孔処理前に、前記溶射皮膜表面をドライアイスブラスト洗浄するから、溶射皮膜形成時における未溶融粒子を吹き飛ばし、溶射皮膜内の内部反射形成部を除去し、溶射皮膜表面の安定した低反射率を実現することができる。
【0027】
請求項9発明は、前記支持部を形成後、前記2次封孔処理前に、前記溶射皮膜表面をドライアイスブラスト洗浄するから、支持部の形成時に皮膜表面に付着し残留する汚れや研削粉等を除去し、セラミックス皮膜表面を平滑にして、この後の2次封孔処理時に封孔剤を確実かつ精密に塗布し、透明な超薄膜を精密かつ確実に形成することができる。
請求項10の発明は、前記ドライアイスブラスト洗浄後、前記溶射皮膜表面を2次封孔処理し、該2次封孔処理によって前記溶射皮膜の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成するから、前工程に形成されたマイクロクラックやポアを閉塞し、前記溶射皮膜の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成し、前記支持部表面を平滑化して、溶射皮膜の表層部に形成した被覆層と相俟って、溶射皮膜表面の低反射率を増進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を適用した露光装置の概要を示す説明図である。
【図2】本発明を適用した基板と液晶基板保持盤の要部を拡大して示す斜視図である
【図3】図2のA−A線に沿う液晶基板保持盤の拡大断面図である。
【0029】
【図4】本発明の液晶基板保持盤の製造工程を示す説明図で、同図(a)は液晶基板保持盤母材の加工前の状況を示し、同図(b)は溶射皮膜の溶射時の状況を示し、同図(c)は溶射皮膜形成後のドライアイスブラスト前洗浄状況を示し、同図(d)は前記ドライアイスブラスト洗浄後の1次封孔処理状況の要部を拡大して示し、同図(e)は前記1次封孔処理後のサンドブラストまたは機械研削による支持部の加工状況を示し、同図(f)は前記支持部加工後のドライアイスブラスト後洗浄状況を示し、同図(g)は前記ドライアイスブラスト洗浄後の2次封孔処理による超薄膜の被覆層の形成状況を示し、同図(h)は本発明の液晶基板保持盤の完成状況を拡大して示す断面図を示し、同図(i)は図(h)の要部を更に拡大して示す断面図である。
【0030】
【図5】物体の色毎に全反射率を測定した結果示すグラフである。
【図6】本発明に適用したサンプルの全反射率測定結果を示す表である。
【図7】本発明に適用したサンプルの波長360〜740nmにおける全反射率測定結果を示すグラフである。
【図8】本発明に適用したサンプルの波長360〜740nmにおける全反射率測定結果を示すグラフで、図7のグラフの縦軸スケールを変えたものである。
【図9】本発明に適用したサンプルの主な波長360〜430nmにおける全反射率測定結果を抽出して示す表である。
【図10】本発明に適用したサンプルに使用した溶射粉末材料の化学組成を示す表である。
【図11】本発明に適用したサンプルの一部について、封孔処理の有無による全反射率測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を液晶露光装置の液晶基板保持盤に適用した図示の実施形態について説明すると、図1乃至図4において1は液晶露光装置で、フォトマスクMに形成された、例えば半導体パターンを、感光剤が塗布された略円形のウエハからなる基板W上に投影し転写可能にしている。実施形態では基板Wとして、液晶基板を用いている。
【0032】
前記露光装置1は、光源2と、照明光学系3とフォトマスクステージ4、投影光学系5と基板ステージ6、等を備え、このうち光源2は、超高圧水銀ランプ等で構成される露光光としての光線を発生可能にされ、該光線を反射ミラー7によって反射し照明光学系3に入射可能にしている。
前記照明光学系3は、前記入射した光線を反射ミラー8を介して、フォトマスクM上に集光する種々のレンズを含む光学素子を有している。
【0033】
前記フォトマスクステージ4と基板ステージ6とは、エアベアリング(図示略)で支持され、非接触リニアモータ(図示略)によって移動可能にされていて、比較的軽量のフォトマスクステージ4が比較的重い基板ステージ6を追い掛け、両者を同期移動可能にしており、この両ステージ4,6の位置および速度を、後述のレーザー干渉計によって制御可能にしている。
【0034】
前記投影光学系5は、フォトマスクMの照明領域に存在する前記パターン像を、前記基板W上に結像可能にされ、また前記基板ステージ6は基板Wを保持し、X軸、Y軸、Z軸の三次元方向へ移動可能にされている。
前記基板ステージ6上には、Y軸方向へ移動可能な移動鏡9が設けられ、該移動鏡9に位置計測装置であるレーザー干渉計10からレーザー光が照射され、その反射光と入射光の干渉に基いて、移動鏡9とレーザー干渉計10との距離を検出可能にされ、その検出結果を基に基板ステージ6の位置や基板Wの位置を検出かつ演算可能にしている。
【0035】
前記フォトマスクMを透過した光線は、投影光学系5を介し基板Wを照明することによって、フォトマスクMの照明領域に存在するパターン像を基板Wに結像可能にされ、また前記基板Wの露光領域に、フォトマスクMの照明領域にあるパターン像が形成されている
すなわち、前記露光装置1は基板ステージ6の位置を検出しつつ、基板ステージ6の露光領域にフォトマスクMのパターンを逐次転写可能にしている。
【0036】
前記基板ステージ6に、透明または半透明な基板Wを保持可能な液晶基板保持盤11が設けられ、該保持盤11は大形の形状寸法に容易かつ安価に製作可能なアルミニウム板を母材11aとして構成され、その表面に黒色セラミックス系のセラミックスを溶射した溶射皮膜であるセラミックス皮膜12を形成している。
この場合、前記液晶基板保持盤11の軽量化を主たる目的とする場合は、前記保持盤11の母材11aとして、アルミニウム板の他に、例えば石英ガラス板を用いることも可能である。
【0037】
前記セラミックス皮膜12の表面に、基板Wを支持可能な微小な支持部、つまり凸部13と凹部14とが形成され、この凹凸部13,14の表面に低粘性の透明な封孔剤(コーティング剤)によって透明な被覆層15が形成され、該被覆層15は後述の二つの被覆層を内外二重に配置して形成され、該被覆層15によって前記凹凸部13,14の全反射率を低減し、光の波長360nm〜740nmの範囲における全反射率を、後述のように9%以下にしている。
【0038】
実施形態では、被覆層15の表面側の被覆層の膜厚を数ナノメートル(nm)若しくは数十nmオーダに形成し、その内側の被覆層は膜厚を600μmの溶射皮膜の内部に形成され、凹凸部13,14表面の平面度の狂いを防止し、外観を向上している。
前記凹凸部13,14を形成後、前記凸部13上に基板Wを支持し、該基板Wと凹14との間に真空ポンプ(図示略)を接続し、それらの間を吸引することによって、基板Wを凸部13上に吸着保持するようにしている。
図中、24は液晶基板保持盤11に複数形成された貫通孔で、前記真空ポンプに連通している。
【0039】
図5は市販の色紙の全反射率を分光測色計で測定した測定結果を示し、白色は波長360nm〜740nmの範囲で略一定の安定した高い反射率を有し、赤色は波長580nm付近から長波長側では反射率が増加し高い反射率を有するが、波長580nm以下では低反射率である。
したがって、365nm〜430nmの露光波長では、必ずしも黒色系の材料である必要がないことが分かる。
【0040】
前記液晶基板保持盤11の製造工程は図4のようで、先ずアルミニウム板製の基板保持盤11の母材11aの表面に、後述の黒色系セラミックスを溶射してセラミックス皮膜12を形成する。この状況は図4(b)のようである。
前記セラミックス溶射は、例えば一般的なプラズマ溶射法を用いて行ない、該プラズマ溶射法は、プラズマ状態になった超高温のガスを熱源として溶射材料を溶融し、プラズマジェットとともに前記母材11aに噴射して、該母材11aの表面にセラミックス皮膜12を形成する。
【0041】
前記セラミックス皮膜12の溶射材料は、アルミナーチタニア(Al2O3−α%TiO2)の複合材を用い、チタニアの割合が重量比換算で、α=10〜100(%)に構成されている。
この場合、純アルミナ溶射皮膜(α=0)は、外観が象牙色若しくは白色であるが、チタニアを添加することによって黒色化が増加し耐摩耗性の保護膜になるが、微量のチタニアを添加するだけでは、全反射率が安定的に9%以下にならない。
【0042】
そこで、可及的に高い前記α値のアルミナーチタニアを選択することで、つまり黒色系セラミックスとすることによって、黒色化が増加し全反射率を低減して耐摩耗性の保護膜を得るようにしている。
【0043】
前記黒色系セラミックス溶射後、表層の未溶融粒子16を除去するため、ドライアイスブラスト前洗浄を実行して、未溶融粒子16を吹き飛ばす。この状況は図4(c)のようである。
前記ドライアイスブラスト洗浄は、清浄なチャンバ(図示略)にセラミックス溶射後の前記母材11aを収容し、ブラスト装置(図示略)を介し、−70℃以下の高純度のドライアイス粒子であるドライアイスペレット17を、圧縮された清浄空気または窒素と一緒にセラミックス皮膜12に吹き付けて行なう。
【0044】
このようにすることで、溶射皮膜12表面の吹き付け部が急速に冷却され、熱収縮による剥離が促されて未溶融粒子16が吹き飛ばされる。
実施形態ではドライアイスの噴射圧力を0.2〜0.5MPaに設定し、約800μmの膜厚のセラミックス皮膜12を形成している。
【0045】
こうして未溶融粒子16を吹き飛ばし後は、セラミックス皮膜12にセラミックス溶射およびその凝固時、並びに前記洗浄時に発生したポア(気孔)18やマイクロクラック19が残留している状態になる。
そこで、前記ドライアイスブラスト洗浄後、前記ポア18やマイクロクラック19を埋め、セラミックス皮膜12を被覆するために、1次封孔処理を行なう。
【0046】
前記セラミックス皮膜12を被覆する1次封孔処理としては、硬化皮膜である被覆膜が透明となる低粘性コート剤を封孔剤として、前記コート剤をセラミックス皮膜12の表面および皮膜中を含む表層部に含浸し、かつ所定の乾燥工程を経て、前記コ−ト剤を硬化させ、前記ポア18やマイクロクラック19を封孔する。
前述のコート剤は、溶射皮膜内部への高浸透性と塗布ムラ低減から、粘度10mPa・s未満の低粘性とし、更に前記コート剤から形成される被覆膜20は、近紫外線および可視光線に長時間曝されても、劣化しないものが好ましい。
【0047】
このような特性を有するコート剤としては、アルコキシシラン化合物を含むものやシロキサン系の無機系コート剤、若しくはフッ素ポリマーを含む有機系コ−ト剤を用い、セラミックス皮膜12の少なくとも表面および皮膜中を含む表層部に、前記コート剤の硬化皮膜である被覆膜20を形成する。
実施形態ではセラミックス皮膜12の全域に前記封孔剤を含浸して、被覆膜20を形成している。
このようにすることによって、ポア18やマイクロクラック19による内部反射を阻止し、全反射率を下げることが可能になる。この状況は図4(d)のようである。
【0048】
前記1次封孔処理後、セラミックス皮膜12の表面をサンドブラスト若しくは機械研削し前記表面に微小な多数の支持部13を形成する。すなわち、前記サンドブラスト若しくは機械研削によって、セラミックス皮膜12の表面に微小な多数の凹凸部13,14を形成し、前記凸部13によって前記支持部を構成し、前記凹凸部13,14によって前記基板W保持用のパターンを形成する。
【0049】
実施形態では前記サンドブラスト若しくは機械研削によって、セラミックス皮膜12を加工して約600μmの膜厚に形成し、支持部13(凸部)高さを約200μmに形成している。この状況は図4(e)のようである。
この場合、セラミックス皮膜12は1次封孔処理されているため、機械加工における切削油、研削液等の加工液や研削粉の浸透を防止し得る。
【0050】
次に、前記機械研削やサンドブラストによって、セラミックス皮膜12の表面に汚れや研削粉21等が付着して残留するため、必要に応じてセラミックス皮膜12の表面をドライアイスブラスト洗浄する。
すなわち、ドライアイスペレット17を凹凸部13,14に吹き付け、残留する研削粉21等を吹き飛ばす。この状況は図4(f)のようである。
特に、砥粒の突き刺さりの除去には、ドライアイスブラストによる後洗浄が有効であり、このドライアイスブラスト後洗浄を前述の前洗浄と同様の要領で行なう。
【0051】
前記支持部13の形成後、セラミックス皮膜12の表面を2次封孔処理する。
前記2次封孔処理は、前述の1次封孔処理と同様の要領で低粘性の透明コート剤を塗布し、前記コート剤による超薄膜の透明な被覆膜22を形成する。
【0052】
実施形態では被覆膜22の厚さは計測困難で正確には計測していないが、別途平面基材に前記超薄膜と未コート部を形成し、両者の段差を非接触三次元測定装置(三鷹光器社製、型式:NH−3PS)で測定したところ、数nm〜数10nmに形成されていると推定される。
よって、前記被覆膜22は前記支持部13の表面または凹面の機械加工による微小な凹部を閉塞し、平滑面に形成している。この状況は図4(h),(i)のようである。
【0053】
すなわち、前記2次封孔剤を塗布し、前記サンドブラスト若しくは機械加工で発生したマイクロクラック23を封孔し、該マイクロクラック23による内部反射を阻止し、また微小な凹凸部を平滑にして、前記セラミックス皮膜12表面の反射率低減を増進するようにしている。
【0054】
こうして前記セラミックス皮膜12の表面に微小な多数の支持部13を形成し、またその前後に1次および2次の封孔処理を行なって、支持部13に透明な被覆膜20,22を内外二重に被覆し、低反射率に形成して完成する。この状況は図4(h),(i)のようである。
【0055】
このように構成した実施形態の液晶基板保持盤11は、母材11aをアルミニウムとしたから、軽量で材料費や加工費が安価であり、液晶基板サイズないし基板ステージの大型化に伴なう液晶基板保持盤11の大形化に対応でき、またそれらの軽量化によって、基板ステージの機能低下や故障を未然に防止し得る。
【0056】
前記液晶基板保持盤11は、表面に溶射皮膜である黒色系セラミックス皮膜12を形成し、該セラミックス皮膜12の溶射材料は、アルミナーチタニア(Al2O3−α%TiO2)の複合材を用い、チタニアの割合が重量比換算で、α=10〜100(%)に構成している。
【0057】
前記アルミナ溶射皮膜(α=0)は、外観が象牙色若しくは白色であるが、チタニアを添加することによって黒色化が増加し耐摩耗性の保護膜になるが、微量のチタニアを添加するだけでは、全反射率が安定的に低くならない。
そこで、可及的に高い前記α値のアルミナーチタニアを選択することで、つまり黒色系セラミックス皮膜とすることによって、黒色化が増加し全反射率を低減して耐摩耗性の保護膜を形成した。
【0058】
実施形態では、板厚20mmのアルミニウム(材質:A5052)板を母材として、市販の粉末材料を基にα=13、40、100(%)の3種類に選択したアルミナ−チタニアの複合材からなる溶射皮膜のサンプルを作製し、またα=略0、つまりチタニアなしの純Al2O3と、α=略2.5、つまりAl2O3−2.5%TiO2からなる溶射皮膜のサンプルを作製し、これらのサンプル1〜5を2次封孔処理後、波長360nm〜740nmの範囲に亘って全反射率を測定した。
【0059】
前記反射率の測定方法は、JIS Z 8722に規定する方法に基いて測定し、測定器は分光測色計/コニカミノルタ製 CM−2600dを使用した。
このようにして測定した全反射率測定結果は図6のようである。また、図7および図8は、前記全反射率測定結果を基にグラフ化したものである。
【0060】
図7において、α=0、つまりTiO2なしのサンプル1の純Al2O3は、外観が白色のため各波長の全反射率が65%以上になって高く、安定した低反射率を得られず、前記所期の目的を達成できないことが確認された。
【0061】
そこで、図7のうち前記α=0の純Al2O3を除く4件のサンプル2〜5について、更に検討するため縦軸スケ−ルを変えて示し、これを図8に示している。
また、図9は前記全反射率測定結果のうち、近時の液晶露光装置で多用されている露光光源の波長に近い波長400nmを基準に、その前後の360、400、430nmの全反射率を抽出して示している。
【0062】
発明者は前記所期の目的を達成するため、近時の液晶ディスプレイ製造用露光装置における低反射率部材の全反射率の目安として、9%以下を想定している。
そこで、前記想定した全反射率を基に図8および図9を観察すると、α=2.5の複合材(通称:グレーアルミナ)のサンプル2は、各波長の全反射率が10%前後になって、安定した低反射率を得られず、所期の目的を達成できないことが確認された。
【0063】
一方、図8および図9において、α=13の複合材のサンプル3は、各波長の全反射率が6%台に推移し、α=40の複合材のサンプル4は、各波長の全反射率が6〜7%台に推移し、α=100の複合材のサンプル5の純TiO2は各波長の全反射率が6〜7%台に推移し、サンプル4と大差なかった。
したがって、α=13〜100では、波長360〜430nmに対する全反射率が6.19〜7.41%で、全反射率が9%以下になり、所期の目的を達成することが確認された。
【0064】
次に、α=13〜100以外について検討すると、例えばα=10〜100であっても、その全反射率は図6、および図7、8の全反射率曲線の推移からすると、α=13とα=100の各曲線の間に分布すると推測され、全反射率9%以下の想定条件を充足すると考えられる。したがって、α=10〜100であっても所期の目的を達成することが確認された。
【0065】
したがって、液晶基板保持盤4の表面の黒色系セラミックス皮膜12の溶射材料である、アルミナーチタニア(Al2O3−α%TiO2)の複合材として、α=10〜100に相当するAl2O3−10%TiO2〜100%TiO2を使用すれば、前記セラミックス皮膜12の表面の全反射率が、照射光の波長360〜740nmの広域に亘って9%以下になり、セラミックス皮膜12の表面の安定した低反射率を得られ、安定した二重露光防止作用と良好な露光作用を得られることが確認された。
【0066】
しかも、溶射皮膜12上に支持部13を形成後、該皮膜12に透明な超薄膜の被覆層22を形成し、従来のように厚い薄膜によって平面度が低下したり、被覆層22による斑によって外観が損なわれない。
また、支持部13の内外に透明な被覆層22,20を形成し、これらで支持された基板Wに入射した照射光が透過し、低反射率に形成された液晶基板保持盤11の表面で、反射・吸収・透過が起きる。
【0067】
そして、この入射光の一部は、被覆層22(または20)の表面で反射し、また一部の入射光は被覆層22(または20)内部に入り、溶射皮膜12と被覆層22(または20)の境界面で再び反射し、これら反射光同士の干渉が起きて、被覆層22(または20)を形成した溶射皮膜12の反射率が低くなる。
こうして、前記反射光が低減し、基板Wの特定箇所に再入射し、レジストの不要な箇所を露光する二重露光等の弊害の発生を阻止する。
【0068】
一方、実施形態の前記液晶基板保持盤11の製造方法は、溶射皮膜であるセラミックス皮膜12を1次封孔処理後に、セラミックス皮膜12の表面に支持部13を形成し、セラミックス皮膜12中のポア18やマイクロクラック19を封孔し、前記表面を平滑にしてポア18やマイクロクラック19による内部反射を阻止し、セラミックス皮膜12表面の安定した低反射率を得られ、安定した二重露光防止作用と良好な露光作用を得られた。
【0069】
そして、前記セラミックス皮膜12の形成後、該セラミックス皮膜12の表面をドライアイスブラスト前洗浄し、例えば溶融金属を溶射してセラミックス皮膜12を形成する際、皮膜表層の未溶融粒子を除去し、セラミックス皮膜12の表面を平滑に形成し、この後の1次封孔処理を確実に行なえた。
【0070】
更に、前記セラミックス皮膜12に支持部13を形成後、該セラミックス皮膜12の表面をドライアイスブラスト洗浄し、前記皮膜表面に付着し残留する汚れや研削粉等を除去し、セラミックス皮膜12の表面を平滑にして、この後の2次封孔処理において封孔剤22を確実かつ精密に塗布し、この後の2次封孔処理を確実に行なえた。
【0071】
そして、前記ドライアイスブラスト洗浄後、前記セラミックス皮膜12の表面に透明な超薄膜の被覆層22を形成し、厚い被覆層を形成する場合に比べ、平面度の狂いを防止するとともに、被覆層22の斑による外観の毀損を防止し、また前記後洗浄によって発生したマイクロクラック23による内部反射を阻止し、セラミックス皮膜12表面を平滑化して、該表面の反射率低減を増進し得た。
【0072】
このように、この実施形態における液晶基板保持盤11の製造方法は、溶射皮膜12の形成後に1次封孔処理して透明な被覆層20を形成し、また支持部13の形成後に2次封孔処理して超薄膜の透明な被覆層22を形成し、かつこれらの被覆層22,20を内外に形成して、溶射皮膜12ないし液晶基板保持盤11の表面の反射率を低減している。
【0073】
発明者は、前記封孔処理の効果を確認するため、前記母材11aと同質のアルミニウム(材質:A5052)基材を作製し、各基材表面に前記アルミナ−チタニアの複合材のうち、α=13、40、100(%)の複合材を溶射したサンプルを各2個ずつ作製した。これらサンプルに使用した溶射粉末材料の化学組成を、図10に示している。
【0074】
その後、全サンプルの溶射面を前記ドライアイスブラスト洗浄し、各α値に対して2個の同種サンプルのうち一方は、前記洗浄面に前述と同様に封孔処理し、他方は、封孔処理しないものとした。
そして、これらサンプルの未封孔品(封孔処理なし)と封孔品(封孔処理あり)の表面について、波長360nmの光に対する全反射率を前記分光測色計で計測し、封孔処理の有無による効果を実験した。図11は、その測定結果を示している。
【0075】
図11を観察すると、各サンプルとも未封孔品に比べ、封孔品の全反射率が約5%低くなることが確認され、封孔処理が全反射率の低減に有効であることが確認された。
また、封孔処理したサンプルの測定結果を見ると、α=13,40,100(%)の複合材は、波長360nmに対する全反射率が9%以下になっており、前記所期の目的を達成できることが確認され、前述の効果確認と相俟って、α=10以上であれば、発明者が想定した9%以下の全反射率を得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
このように本発明の液晶基板保持盤およびその製造方法は、照射光の広域な波長に亘って安定した低反射率を得られ、安定した二重露光防止作用と良好な露光作用を得られるとともに、液晶ディスプレイの軽量化と大型化に対応でき設備費と反射率の低減を図れ、基板ステージの機能低下や故障を未然に防止し得るとともに、低反射率の液晶基板保持盤を確実かつ安価に製造できる。
【符号の説明】
【0077】
11 液晶基板保持盤
12 溶射皮膜
13 支持部
20,22 被覆層
11a 液晶基板保持盤の母材
W 基板(液晶基板)
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射光の広域な波長に亘って安定した低反射率を得られ、安定した二重露光防止作用と良好な露光作用を得られるとともに、液晶ディスプレイの軽量化と大型化に対応し、設備費と反射率の低減を図れるとともに、基板ステージの機能低下や故障を未然に防止し、低反射率の液晶基板保持盤を確実かつ安価に製造できる、液晶基板保持盤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイを製造するための露光装置は、透明ガラス基板を真空吸着する液晶基板保持盤が使用され、ガラス基板の表面に電極や配線等のパターンを焼付けている。
前記液晶ディスプレイを製造する露光工程では、波長365nm(i線)、405nm(h線)、436nm(g線)の光線が使用され、このような装置に使用する構成部材は光の反射を嫌うため、低反射率の材料が必要とされていた。
例えば、液晶ディスプレイの場合、基板が透明ガラス材料のため、露光時に基板を透過した光が基板保持盤の表面で反射し、再びガラス基板の特定箇所に入射して、レジストの不要な箇所が露光される二重露光等の弊害が発生するという問題があった。
【0003】
従来、このような液晶用の露光装置の基板保持盤や、関連する検査装置における低反射率の特性を必要とする基板載置面に、アルミニウムにブラックアルマイトを施したものが使用されていた(例えば、特許文献1および2参照)。
【0004】
しかし、アルミニウムは軽量で一辺が1mを超える比較的大きな材料でも容易に製造できるが、黒色外観を有するブラックアルマイト皮膜は数十μm程度の薄層で、アルマイト施工後の表面の機械加工に様々な制約が伴うという問題があった。
更に、アルマイト施工したアルミニウム製基板保持盤は、ガラス基板との接触によって徐々に磨耗し、下地のアルミニウムが露出した場合、反射防止特性がないため、使用に不安があるという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するものとして、近時、光の反射を低減させるために黒色系セラミックスを母材とした基板保持盤が提案されている。
例えば、露光装置用の基板保持盤の基体を黒色系セラミックスバルクで形成し、液晶基板保持盤が大型化しても、加工時の材質の変形を防ぎ高精度に加工が可能であり、しかも液晶基板を透過する照射光の反射を有効に防止し、反射率を低下させるようにしている。
また、黒色研磨加工面の光を照射したときの反射率を、光の波長域220〜350nmで10.3〜15.0%、400〜550nmで11.9〜16.5%、600〜800nmで13.8〜21.7%にしたものがある(例えば、特許文献3および4参照)。
【0006】
しかし、前記全反射率は、光の波長域によって区々で安定した反射率を得られず、広域な波長域に亘って一様かつ良好な露光を得られないという問題があった。
しかも、前記黒色系セラミックスは、マンガンやチタン、鉄等の金属元素を含有したアルミナから形成したアルミナ系セラミックスで比重が高いため、液晶基板サイズが大型化し基板ステージも大型化する近時の液晶露光装置では、装置の重量増を招き、ステージの機能低下や故障を生じ易いという問題があった。
【0007】
また、液晶露光装置の大型化に伴って、大型の黒色系セラミックスを焼成するには大きな焼成炉を要して設備費が高騰し、液晶露光装置が高価になる問題があった。
更に、黒色系セラミックスの焼成は、鉄等の不純物を意図的に添加するため、焼成炉が汚染され、純度を要する別素材の焼成炉として併用できず、黒色系セラミックスの専用炉となって設備費の高騰を助長し、生産性が低下する等の問題があった。
【0008】
ところで、液晶露光装置において二重露光に最も影響を与える原因として、像に同じ像が重なる正反射光であることが知られ、この正反射光を低減するため、液晶基板保持盤の表面状態の改善が望まれていた。
このような要請に応ずるものとして、例えば液晶基板保持盤の表面の正反射を低く抑えるために、前記文献2および4のようにサンドブラスト処理や機械研削によって前記保持盤の表面を粗面化していた。
【0009】
この場合、正反射(鏡面反射)と拡散反射(乱反射)の和である全反射の内訳は、拡散反射が支配的となるが、全反射を低減させるために、黒色系セラミックス母材の様々な表面粗さの仕上げ法が提案されている。
例えば、基板保持盤側表面の光の波長250〜550nmにおける全反射率を、13%以下にしたものがある(例えば、特許文献3および5参照)。
しかし、前記全反射率は概して高く、広域な光の波長域に亘って一様かつ良好な露光を得られないという問題があった。
【0010】
一方、液晶基板保持盤の吸着構造は、黒色系セラミックスからなる平板状の基体表面に、支持面と支持面よりも低い非支持面からなる複数の突起を形成し、かつそれらの表面を支持面よりも非支持面の領域を大きく形成したものや、平板状の表面に支持面を有する複数の突部を形成し、前記支持面と突起間の表面を反射率の低いSiCからなる第1の被覆層で覆い、該第1の被覆層の表面を研削やブラスト加工によって粗面化し、この粗面化表面を平滑な表面を持つ透明材料であるAl2O3からなる第2の被覆層を形成したものがある(例えば、特許文献3および6参照)。
【0011】
しかし、これらの吸着構造は、液晶基板保持盤をアルミナ製としているため、大重量化し、また最表面の第2の被覆層の膜厚を厚くすると、平面度が低下したりコーティング斑で外観が損なわれるという問題があった。
【0012】
また、液晶基板保持盤の他の吸着構造として、ステージの位置決め装置のガイド面をセラミックス溶射し、該セラミックス層を封孔処理して、セラミックス溶射により発生した気孔やマイクロクラックを封孔し、ガイド面における空気の漏洩を防止するとともに、封孔後セラミックス層を所定の平面度に研削し、エアガイド機構を安定して作動し、ステージの制御性能を向上したものがある(例えば、特許文献7参照)。
しかし、この吸着構造は溶射材料が不明であり、また基板チャックや基板ステージの反射率低減についての言及がなく、具体的な吸着構造を得られないという問題があった。
【0013】
更に、露光装置のステージ装置として、エアガイド機構によって可動体を移動させる定盤の本体表面に、セラミックス材を溶射して被覆し、高剛性と軽量化を図り、大面積の定盤であっても容易かつ厚くセラミックス層を形成でき、また接触面に発生した傷の盛り上がりの発生を防止し、長期間に亘って安定した精密作動を得られるようにしたものがある(例えば、特許文献8参照)。
【0014】
しかし、この従来の装置は定盤を鋳物で成形しているため、材料費や設備費が高騰するとともに、セラミックス材を溶射する前に、定盤の溶射面を精密に研削ないし研磨する必要があり、その加工費の増加を招いて材料費の高騰を更に助長する等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平8−262090号公報
【特許文献2】特開2005−332910号公報
【特許文献3】特許第4518876号公報
【特許文献4】特許第4248833号公報
【特許文献5】特開2006−210546号公報
【特許文献6】特許第3095514号公報
【特許文献7】特開2009−210295号公報
【特許文献8】特許第4341101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はこのような問題を解決し、照射光の広域な波長に亘って安定した低反射率を得られ、安定した二重露光防止作用と良好な露光作用を得られるとともに、液晶ディスプレイの軽量化と大型化に対応し、設備費と反射率の低減を図れるとともに、基板ステージの機能低下や故障を未然に防止し、低反射率の液晶基板保持盤を確実かつ安価に製造できる、液晶基板保持盤およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1の発明は、母材表面に低反射率の材料からなる溶射皮膜を形成し、該溶射皮膜の表面に透明または半透明の基板を保持可能な支持部を形成した液晶基板保持盤において、前記溶射皮膜をアルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)で形成し、前記溶射皮膜表面の全反射率を、光の波長360〜740nmの範囲に亘って9%以下に形成し、光の波長360〜740nmの広域に亘って、溶射皮膜表面の安定した低反射率を得られ、安定した二重露光防止作用と良好な露光作用を得られるようにしている。
【0018】
請求項2の発明は、前記アルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)のうち、チタニア成分の含有量を重量百分率で10〜100wt%とし、光の波長360〜740nmの範囲に亘り、9%以下の安定した低反射率を実現するようにしている。
請求項3の発明は、前記溶射皮膜の表面および内部を含む表層部に透明な被覆層を形成し、溶射皮膜形成工程で発生したポアやマイクロクラックを閉塞し、該ポアやマイクロクラックによる内部反射を防止して、溶射皮膜表面の低反射率を実現するとともに、溶射皮膜の表層部を緻密化し、該表層部に形成する支持部を容易かつ正確に形成し、その強度を強化するようにしている。
【0019】
請求項4の発明は、前記被覆層の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成し、前記溶射皮膜の表層部に形成した被覆層と相俟って、溶射皮膜表面の低反射率を増進するようにしている。
【0020】
請求項5の発明は、母材表面に低反射率の材料からなる溶射皮膜を形成後、該溶射皮膜の表面に透明または半透明の基板を保持可能な支持部を形成する液晶基板保持盤の製造方法において、前記溶射皮膜をアルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)で形成し、前記溶射皮膜の形成後、該溶射皮膜の表面および内部を含む表層部を1次封孔処理し、該1次封孔処理によって前記表層部に被覆層を形成後、前記支持部を形成し、母材表面をアルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)から溶射皮膜を形成し、該溶射皮膜表面を光の波長の広範囲に亘って安定した低反射率を得られ、該皮膜の表層部を1次封孔処理してポアやマイクロクラックを封孔し、それらの内部反射を防止し溶射皮膜表面の低反射率を増進するとともに、溶射皮膜を緻密化して支持部を容易かつ正確に形成するようにしている。
【0021】
請求項6の発明は、前記アルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)のうち、チタニア成分の含有量を重量百分率で10〜100wt%とし、光の波長360〜740nmの範囲に亘り、9%以下の安定した低反射率を実現するようにしている。
請求項7の発明は、前記支持部を形成後、前記溶射皮膜の表面を2次封孔処理し、前記支持部の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成し、前記表層部に形成した被覆層と相俟って、溶射皮膜の表面の安定した低反射率を得られるようにしている。
請求項8の発明は、前記溶射皮膜の形成後、前記表層部の1次封孔処理前に、前記溶射皮膜表面をドライアイスブラスト洗浄し、溶射皮膜形成時における未溶融粒子を吹き飛ばし、溶射皮膜中の内部反射形成部を除去し、溶射皮膜表面の安定した低反射率を実現するようにしている。
【0022】
請求項9発明は、前記支持部を形成後、前記2次封孔処理前に、前記溶射皮膜表面をドライアイスブラスト洗浄し、支持部の形成時に皮膜表面に付着し残留する汚れや研削粉等を除去し、セラミックス皮膜表面を平滑にして、この後の2次封孔処理時に封孔剤を確実かつ精密に塗布し、透明な超薄膜を精密かつ確実に形成し得るようにしている。
請求項10の発明は、前記ドライアイスブラスト洗浄後、前記溶射皮膜表面を2次封孔処理し、該2次封孔処理によって前記溶射皮膜の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成し、前工程に形成されたマイクロクラックやポアを閉塞し、前記溶射皮膜の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成し、前記支持部表面を平滑化して、溶射皮膜の表層部に形成した被覆層と相俟って、溶射皮膜表面の低反射率を増進するようにしている。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の発明は、溶射皮膜をアルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)で形成し、前記溶射皮膜表面の全反射率を、光の波長360〜740nmの範囲に亘って9%以下に形成したから、光の波長360〜740nmの広域に亘って、溶射皮膜表面の安定した低反射率を得られ、安定した二重露光防止作用と良好な露光作用を得られる効果がある。
請求項2の発明は、前記アルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)のうち、チタニア成分の含有量を重量百分率で10〜100wt%としたから、光の波長360〜740nmの範囲に亘り、9%以下の安定した低反射率を実現することができる。
【0024】
請求項3の発明は、前記溶射皮膜の表面および内部を含む表層部に透明な被覆層を形成したから、溶射皮膜形成工程で発生したポアやマイクロクラックを閉塞し、該ポアやマイクロクラックによる内部反射を防止して、溶射皮膜表面の低反射率を実現するとともに、溶射皮膜の表層部を緻密化し、該表層部に形成する支持部を容易かつ正確に形成し、その強度を強化することができる。
請求項4の発明は、前記被覆層の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成したから、前記溶射皮膜の表層部に形成した被覆層と相俟って、溶射皮膜表面の低反射率を増進することができる。
【0025】
請求項5の発明は、溶射皮膜をアルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)で形成し、前記溶射皮膜の形成後、該溶射皮膜の表面および内部を含む表層部を1次封孔処理し、該1次封孔処理によって前記表層部に被覆層を形成後、前記支持部を形成したから、母材表面をアルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)からなる溶射皮膜を形成し、該溶射皮膜表面を光の波長の広範囲に亘って安定した低反射率を得られるとともに、前記皮膜の表層部を封孔処理してポアやマイクロクラックを封孔し、それらの内部反射を防止して溶射皮膜表面の低反射率を増進し、しかも溶射皮膜を緻密化して、支持部を容易かつ正確に形成することができる。
【0026】
請求項6の発明は、前記アルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)のうち、チタニア成分の含有量を重量百分率で10〜100wt%とするから、光の波長360〜740nmの範囲に亘り、9%以下の安定した低反射率を実現することができる。
請求項7の発明は、前記支持部を形成後、前記溶射皮膜の表面を2次封孔処理し、前記支持部の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成するから、前記表層部に形成した被覆層と相俟って、溶射皮膜の表面の安定した低反射率を増進することができる。
請求項8の発明は、前記溶射皮膜の形成後、前記表層部の1次封孔処理前に、前記溶射皮膜表面をドライアイスブラスト洗浄するから、溶射皮膜形成時における未溶融粒子を吹き飛ばし、溶射皮膜内の内部反射形成部を除去し、溶射皮膜表面の安定した低反射率を実現することができる。
【0027】
請求項9発明は、前記支持部を形成後、前記2次封孔処理前に、前記溶射皮膜表面をドライアイスブラスト洗浄するから、支持部の形成時に皮膜表面に付着し残留する汚れや研削粉等を除去し、セラミックス皮膜表面を平滑にして、この後の2次封孔処理時に封孔剤を確実かつ精密に塗布し、透明な超薄膜を精密かつ確実に形成することができる。
請求項10の発明は、前記ドライアイスブラスト洗浄後、前記溶射皮膜表面を2次封孔処理し、該2次封孔処理によって前記溶射皮膜の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成するから、前工程に形成されたマイクロクラックやポアを閉塞し、前記溶射皮膜の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成し、前記支持部表面を平滑化して、溶射皮膜の表層部に形成した被覆層と相俟って、溶射皮膜表面の低反射率を増進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を適用した露光装置の概要を示す説明図である。
【図2】本発明を適用した基板と液晶基板保持盤の要部を拡大して示す斜視図である
【図3】図2のA−A線に沿う液晶基板保持盤の拡大断面図である。
【0029】
【図4】本発明の液晶基板保持盤の製造工程を示す説明図で、同図(a)は液晶基板保持盤母材の加工前の状況を示し、同図(b)は溶射皮膜の溶射時の状況を示し、同図(c)は溶射皮膜形成後のドライアイスブラスト前洗浄状況を示し、同図(d)は前記ドライアイスブラスト洗浄後の1次封孔処理状況の要部を拡大して示し、同図(e)は前記1次封孔処理後のサンドブラストまたは機械研削による支持部の加工状況を示し、同図(f)は前記支持部加工後のドライアイスブラスト後洗浄状況を示し、同図(g)は前記ドライアイスブラスト洗浄後の2次封孔処理による超薄膜の被覆層の形成状況を示し、同図(h)は本発明の液晶基板保持盤の完成状況を拡大して示す断面図を示し、同図(i)は図(h)の要部を更に拡大して示す断面図である。
【0030】
【図5】物体の色毎に全反射率を測定した結果示すグラフである。
【図6】本発明に適用したサンプルの全反射率測定結果を示す表である。
【図7】本発明に適用したサンプルの波長360〜740nmにおける全反射率測定結果を示すグラフである。
【図8】本発明に適用したサンプルの波長360〜740nmにおける全反射率測定結果を示すグラフで、図7のグラフの縦軸スケールを変えたものである。
【図9】本発明に適用したサンプルの主な波長360〜430nmにおける全反射率測定結果を抽出して示す表である。
【図10】本発明に適用したサンプルに使用した溶射粉末材料の化学組成を示す表である。
【図11】本発明に適用したサンプルの一部について、封孔処理の有無による全反射率測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を液晶露光装置の液晶基板保持盤に適用した図示の実施形態について説明すると、図1乃至図4において1は液晶露光装置で、フォトマスクMに形成された、例えば半導体パターンを、感光剤が塗布された略円形のウエハからなる基板W上に投影し転写可能にしている。実施形態では基板Wとして、液晶基板を用いている。
【0032】
前記露光装置1は、光源2と、照明光学系3とフォトマスクステージ4、投影光学系5と基板ステージ6、等を備え、このうち光源2は、超高圧水銀ランプ等で構成される露光光としての光線を発生可能にされ、該光線を反射ミラー7によって反射し照明光学系3に入射可能にしている。
前記照明光学系3は、前記入射した光線を反射ミラー8を介して、フォトマスクM上に集光する種々のレンズを含む光学素子を有している。
【0033】
前記フォトマスクステージ4と基板ステージ6とは、エアベアリング(図示略)で支持され、非接触リニアモータ(図示略)によって移動可能にされていて、比較的軽量のフォトマスクステージ4が比較的重い基板ステージ6を追い掛け、両者を同期移動可能にしており、この両ステージ4,6の位置および速度を、後述のレーザー干渉計によって制御可能にしている。
【0034】
前記投影光学系5は、フォトマスクMの照明領域に存在する前記パターン像を、前記基板W上に結像可能にされ、また前記基板ステージ6は基板Wを保持し、X軸、Y軸、Z軸の三次元方向へ移動可能にされている。
前記基板ステージ6上には、Y軸方向へ移動可能な移動鏡9が設けられ、該移動鏡9に位置計測装置であるレーザー干渉計10からレーザー光が照射され、その反射光と入射光の干渉に基いて、移動鏡9とレーザー干渉計10との距離を検出可能にされ、その検出結果を基に基板ステージ6の位置や基板Wの位置を検出かつ演算可能にしている。
【0035】
前記フォトマスクMを透過した光線は、投影光学系5を介し基板Wを照明することによって、フォトマスクMの照明領域に存在するパターン像を基板Wに結像可能にされ、また前記基板Wの露光領域に、フォトマスクMの照明領域にあるパターン像が形成されている
すなわち、前記露光装置1は基板ステージ6の位置を検出しつつ、基板ステージ6の露光領域にフォトマスクMのパターンを逐次転写可能にしている。
【0036】
前記基板ステージ6に、透明または半透明な基板Wを保持可能な液晶基板保持盤11が設けられ、該保持盤11は大形の形状寸法に容易かつ安価に製作可能なアルミニウム板を母材11aとして構成され、その表面に黒色セラミックス系のセラミックスを溶射した溶射皮膜であるセラミックス皮膜12を形成している。
この場合、前記液晶基板保持盤11の軽量化を主たる目的とする場合は、前記保持盤11の母材11aとして、アルミニウム板の他に、例えば石英ガラス板を用いることも可能である。
【0037】
前記セラミックス皮膜12の表面に、基板Wを支持可能な微小な支持部、つまり凸部13と凹部14とが形成され、この凹凸部13,14の表面に低粘性の透明な封孔剤(コーティング剤)によって透明な被覆層15が形成され、該被覆層15は後述の二つの被覆層を内外二重に配置して形成され、該被覆層15によって前記凹凸部13,14の全反射率を低減し、光の波長360nm〜740nmの範囲における全反射率を、後述のように9%以下にしている。
【0038】
実施形態では、被覆層15の表面側の被覆層の膜厚を数ナノメートル(nm)若しくは数十nmオーダに形成し、その内側の被覆層は膜厚を600μmの溶射皮膜の内部に形成され、凹凸部13,14表面の平面度の狂いを防止し、外観を向上している。
前記凹凸部13,14を形成後、前記凸部13上に基板Wを支持し、該基板Wと凹14との間に真空ポンプ(図示略)を接続し、それらの間を吸引することによって、基板Wを凸部13上に吸着保持するようにしている。
図中、24は液晶基板保持盤11に複数形成された貫通孔で、前記真空ポンプに連通している。
【0039】
図5は市販の色紙の全反射率を分光測色計で測定した測定結果を示し、白色は波長360nm〜740nmの範囲で略一定の安定した高い反射率を有し、赤色は波長580nm付近から長波長側では反射率が増加し高い反射率を有するが、波長580nm以下では低反射率である。
したがって、365nm〜430nmの露光波長では、必ずしも黒色系の材料である必要がないことが分かる。
【0040】
前記液晶基板保持盤11の製造工程は図4のようで、先ずアルミニウム板製の基板保持盤11の母材11aの表面に、後述の黒色系セラミックスを溶射してセラミックス皮膜12を形成する。この状況は図4(b)のようである。
前記セラミックス溶射は、例えば一般的なプラズマ溶射法を用いて行ない、該プラズマ溶射法は、プラズマ状態になった超高温のガスを熱源として溶射材料を溶融し、プラズマジェットとともに前記母材11aに噴射して、該母材11aの表面にセラミックス皮膜12を形成する。
【0041】
前記セラミックス皮膜12の溶射材料は、アルミナーチタニア(Al2O3−α%TiO2)の複合材を用い、チタニアの割合が重量比換算で、α=10〜100(%)に構成されている。
この場合、純アルミナ溶射皮膜(α=0)は、外観が象牙色若しくは白色であるが、チタニアを添加することによって黒色化が増加し耐摩耗性の保護膜になるが、微量のチタニアを添加するだけでは、全反射率が安定的に9%以下にならない。
【0042】
そこで、可及的に高い前記α値のアルミナーチタニアを選択することで、つまり黒色系セラミックスとすることによって、黒色化が増加し全反射率を低減して耐摩耗性の保護膜を得るようにしている。
【0043】
前記黒色系セラミックス溶射後、表層の未溶融粒子16を除去するため、ドライアイスブラスト前洗浄を実行して、未溶融粒子16を吹き飛ばす。この状況は図4(c)のようである。
前記ドライアイスブラスト洗浄は、清浄なチャンバ(図示略)にセラミックス溶射後の前記母材11aを収容し、ブラスト装置(図示略)を介し、−70℃以下の高純度のドライアイス粒子であるドライアイスペレット17を、圧縮された清浄空気または窒素と一緒にセラミックス皮膜12に吹き付けて行なう。
【0044】
このようにすることで、溶射皮膜12表面の吹き付け部が急速に冷却され、熱収縮による剥離が促されて未溶融粒子16が吹き飛ばされる。
実施形態ではドライアイスの噴射圧力を0.2〜0.5MPaに設定し、約800μmの膜厚のセラミックス皮膜12を形成している。
【0045】
こうして未溶融粒子16を吹き飛ばし後は、セラミックス皮膜12にセラミックス溶射およびその凝固時、並びに前記洗浄時に発生したポア(気孔)18やマイクロクラック19が残留している状態になる。
そこで、前記ドライアイスブラスト洗浄後、前記ポア18やマイクロクラック19を埋め、セラミックス皮膜12を被覆するために、1次封孔処理を行なう。
【0046】
前記セラミックス皮膜12を被覆する1次封孔処理としては、硬化皮膜である被覆膜が透明となる低粘性コート剤を封孔剤として、前記コート剤をセラミックス皮膜12の表面および皮膜中を含む表層部に含浸し、かつ所定の乾燥工程を経て、前記コ−ト剤を硬化させ、前記ポア18やマイクロクラック19を封孔する。
前述のコート剤は、溶射皮膜内部への高浸透性と塗布ムラ低減から、粘度10mPa・s未満の低粘性とし、更に前記コート剤から形成される被覆膜20は、近紫外線および可視光線に長時間曝されても、劣化しないものが好ましい。
【0047】
このような特性を有するコート剤としては、アルコキシシラン化合物を含むものやシロキサン系の無機系コート剤、若しくはフッ素ポリマーを含む有機系コ−ト剤を用い、セラミックス皮膜12の少なくとも表面および皮膜中を含む表層部に、前記コート剤の硬化皮膜である被覆膜20を形成する。
実施形態ではセラミックス皮膜12の全域に前記封孔剤を含浸して、被覆膜20を形成している。
このようにすることによって、ポア18やマイクロクラック19による内部反射を阻止し、全反射率を下げることが可能になる。この状況は図4(d)のようである。
【0048】
前記1次封孔処理後、セラミックス皮膜12の表面をサンドブラスト若しくは機械研削し前記表面に微小な多数の支持部13を形成する。すなわち、前記サンドブラスト若しくは機械研削によって、セラミックス皮膜12の表面に微小な多数の凹凸部13,14を形成し、前記凸部13によって前記支持部を構成し、前記凹凸部13,14によって前記基板W保持用のパターンを形成する。
【0049】
実施形態では前記サンドブラスト若しくは機械研削によって、セラミックス皮膜12を加工して約600μmの膜厚に形成し、支持部13(凸部)高さを約200μmに形成している。この状況は図4(e)のようである。
この場合、セラミックス皮膜12は1次封孔処理されているため、機械加工における切削油、研削液等の加工液や研削粉の浸透を防止し得る。
【0050】
次に、前記機械研削やサンドブラストによって、セラミックス皮膜12の表面に汚れや研削粉21等が付着して残留するため、必要に応じてセラミックス皮膜12の表面をドライアイスブラスト洗浄する。
すなわち、ドライアイスペレット17を凹凸部13,14に吹き付け、残留する研削粉21等を吹き飛ばす。この状況は図4(f)のようである。
特に、砥粒の突き刺さりの除去には、ドライアイスブラストによる後洗浄が有効であり、このドライアイスブラスト後洗浄を前述の前洗浄と同様の要領で行なう。
【0051】
前記支持部13の形成後、セラミックス皮膜12の表面を2次封孔処理する。
前記2次封孔処理は、前述の1次封孔処理と同様の要領で低粘性の透明コート剤を塗布し、前記コート剤による超薄膜の透明な被覆膜22を形成する。
【0052】
実施形態では被覆膜22の厚さは計測困難で正確には計測していないが、別途平面基材に前記超薄膜と未コート部を形成し、両者の段差を非接触三次元測定装置(三鷹光器社製、型式:NH−3PS)で測定したところ、数nm〜数10nmに形成されていると推定される。
よって、前記被覆膜22は前記支持部13の表面または凹面の機械加工による微小な凹部を閉塞し、平滑面に形成している。この状況は図4(h),(i)のようである。
【0053】
すなわち、前記2次封孔剤を塗布し、前記サンドブラスト若しくは機械加工で発生したマイクロクラック23を封孔し、該マイクロクラック23による内部反射を阻止し、また微小な凹凸部を平滑にして、前記セラミックス皮膜12表面の反射率低減を増進するようにしている。
【0054】
こうして前記セラミックス皮膜12の表面に微小な多数の支持部13を形成し、またその前後に1次および2次の封孔処理を行なって、支持部13に透明な被覆膜20,22を内外二重に被覆し、低反射率に形成して完成する。この状況は図4(h),(i)のようである。
【0055】
このように構成した実施形態の液晶基板保持盤11は、母材11aをアルミニウムとしたから、軽量で材料費や加工費が安価であり、液晶基板サイズないし基板ステージの大型化に伴なう液晶基板保持盤11の大形化に対応でき、またそれらの軽量化によって、基板ステージの機能低下や故障を未然に防止し得る。
【0056】
前記液晶基板保持盤11は、表面に溶射皮膜である黒色系セラミックス皮膜12を形成し、該セラミックス皮膜12の溶射材料は、アルミナーチタニア(Al2O3−α%TiO2)の複合材を用い、チタニアの割合が重量比換算で、α=10〜100(%)に構成している。
【0057】
前記アルミナ溶射皮膜(α=0)は、外観が象牙色若しくは白色であるが、チタニアを添加することによって黒色化が増加し耐摩耗性の保護膜になるが、微量のチタニアを添加するだけでは、全反射率が安定的に低くならない。
そこで、可及的に高い前記α値のアルミナーチタニアを選択することで、つまり黒色系セラミックス皮膜とすることによって、黒色化が増加し全反射率を低減して耐摩耗性の保護膜を形成した。
【0058】
実施形態では、板厚20mmのアルミニウム(材質:A5052)板を母材として、市販の粉末材料を基にα=13、40、100(%)の3種類に選択したアルミナ−チタニアの複合材からなる溶射皮膜のサンプルを作製し、またα=略0、つまりチタニアなしの純Al2O3と、α=略2.5、つまりAl2O3−2.5%TiO2からなる溶射皮膜のサンプルを作製し、これらのサンプル1〜5を2次封孔処理後、波長360nm〜740nmの範囲に亘って全反射率を測定した。
【0059】
前記反射率の測定方法は、JIS Z 8722に規定する方法に基いて測定し、測定器は分光測色計/コニカミノルタ製 CM−2600dを使用した。
このようにして測定した全反射率測定結果は図6のようである。また、図7および図8は、前記全反射率測定結果を基にグラフ化したものである。
【0060】
図7において、α=0、つまりTiO2なしのサンプル1の純Al2O3は、外観が白色のため各波長の全反射率が65%以上になって高く、安定した低反射率を得られず、前記所期の目的を達成できないことが確認された。
【0061】
そこで、図7のうち前記α=0の純Al2O3を除く4件のサンプル2〜5について、更に検討するため縦軸スケ−ルを変えて示し、これを図8に示している。
また、図9は前記全反射率測定結果のうち、近時の液晶露光装置で多用されている露光光源の波長に近い波長400nmを基準に、その前後の360、400、430nmの全反射率を抽出して示している。
【0062】
発明者は前記所期の目的を達成するため、近時の液晶ディスプレイ製造用露光装置における低反射率部材の全反射率の目安として、9%以下を想定している。
そこで、前記想定した全反射率を基に図8および図9を観察すると、α=2.5の複合材(通称:グレーアルミナ)のサンプル2は、各波長の全反射率が10%前後になって、安定した低反射率を得られず、所期の目的を達成できないことが確認された。
【0063】
一方、図8および図9において、α=13の複合材のサンプル3は、各波長の全反射率が6%台に推移し、α=40の複合材のサンプル4は、各波長の全反射率が6〜7%台に推移し、α=100の複合材のサンプル5の純TiO2は各波長の全反射率が6〜7%台に推移し、サンプル4と大差なかった。
したがって、α=13〜100では、波長360〜430nmに対する全反射率が6.19〜7.41%で、全反射率が9%以下になり、所期の目的を達成することが確認された。
【0064】
次に、α=13〜100以外について検討すると、例えばα=10〜100であっても、その全反射率は図6、および図7、8の全反射率曲線の推移からすると、α=13とα=100の各曲線の間に分布すると推測され、全反射率9%以下の想定条件を充足すると考えられる。したがって、α=10〜100であっても所期の目的を達成することが確認された。
【0065】
したがって、液晶基板保持盤4の表面の黒色系セラミックス皮膜12の溶射材料である、アルミナーチタニア(Al2O3−α%TiO2)の複合材として、α=10〜100に相当するAl2O3−10%TiO2〜100%TiO2を使用すれば、前記セラミックス皮膜12の表面の全反射率が、照射光の波長360〜740nmの広域に亘って9%以下になり、セラミックス皮膜12の表面の安定した低反射率を得られ、安定した二重露光防止作用と良好な露光作用を得られることが確認された。
【0066】
しかも、溶射皮膜12上に支持部13を形成後、該皮膜12に透明な超薄膜の被覆層22を形成し、従来のように厚い薄膜によって平面度が低下したり、被覆層22による斑によって外観が損なわれない。
また、支持部13の内外に透明な被覆層22,20を形成し、これらで支持された基板Wに入射した照射光が透過し、低反射率に形成された液晶基板保持盤11の表面で、反射・吸収・透過が起きる。
【0067】
そして、この入射光の一部は、被覆層22(または20)の表面で反射し、また一部の入射光は被覆層22(または20)内部に入り、溶射皮膜12と被覆層22(または20)の境界面で再び反射し、これら反射光同士の干渉が起きて、被覆層22(または20)を形成した溶射皮膜12の反射率が低くなる。
こうして、前記反射光が低減し、基板Wの特定箇所に再入射し、レジストの不要な箇所を露光する二重露光等の弊害の発生を阻止する。
【0068】
一方、実施形態の前記液晶基板保持盤11の製造方法は、溶射皮膜であるセラミックス皮膜12を1次封孔処理後に、セラミックス皮膜12の表面に支持部13を形成し、セラミックス皮膜12中のポア18やマイクロクラック19を封孔し、前記表面を平滑にしてポア18やマイクロクラック19による内部反射を阻止し、セラミックス皮膜12表面の安定した低反射率を得られ、安定した二重露光防止作用と良好な露光作用を得られた。
【0069】
そして、前記セラミックス皮膜12の形成後、該セラミックス皮膜12の表面をドライアイスブラスト前洗浄し、例えば溶融金属を溶射してセラミックス皮膜12を形成する際、皮膜表層の未溶融粒子を除去し、セラミックス皮膜12の表面を平滑に形成し、この後の1次封孔処理を確実に行なえた。
【0070】
更に、前記セラミックス皮膜12に支持部13を形成後、該セラミックス皮膜12の表面をドライアイスブラスト洗浄し、前記皮膜表面に付着し残留する汚れや研削粉等を除去し、セラミックス皮膜12の表面を平滑にして、この後の2次封孔処理において封孔剤22を確実かつ精密に塗布し、この後の2次封孔処理を確実に行なえた。
【0071】
そして、前記ドライアイスブラスト洗浄後、前記セラミックス皮膜12の表面に透明な超薄膜の被覆層22を形成し、厚い被覆層を形成する場合に比べ、平面度の狂いを防止するとともに、被覆層22の斑による外観の毀損を防止し、また前記後洗浄によって発生したマイクロクラック23による内部反射を阻止し、セラミックス皮膜12表面を平滑化して、該表面の反射率低減を増進し得た。
【0072】
このように、この実施形態における液晶基板保持盤11の製造方法は、溶射皮膜12の形成後に1次封孔処理して透明な被覆層20を形成し、また支持部13の形成後に2次封孔処理して超薄膜の透明な被覆層22を形成し、かつこれらの被覆層22,20を内外に形成して、溶射皮膜12ないし液晶基板保持盤11の表面の反射率を低減している。
【0073】
発明者は、前記封孔処理の効果を確認するため、前記母材11aと同質のアルミニウム(材質:A5052)基材を作製し、各基材表面に前記アルミナ−チタニアの複合材のうち、α=13、40、100(%)の複合材を溶射したサンプルを各2個ずつ作製した。これらサンプルに使用した溶射粉末材料の化学組成を、図10に示している。
【0074】
その後、全サンプルの溶射面を前記ドライアイスブラスト洗浄し、各α値に対して2個の同種サンプルのうち一方は、前記洗浄面に前述と同様に封孔処理し、他方は、封孔処理しないものとした。
そして、これらサンプルの未封孔品(封孔処理なし)と封孔品(封孔処理あり)の表面について、波長360nmの光に対する全反射率を前記分光測色計で計測し、封孔処理の有無による効果を実験した。図11は、その測定結果を示している。
【0075】
図11を観察すると、各サンプルとも未封孔品に比べ、封孔品の全反射率が約5%低くなることが確認され、封孔処理が全反射率の低減に有効であることが確認された。
また、封孔処理したサンプルの測定結果を見ると、α=13,40,100(%)の複合材は、波長360nmに対する全反射率が9%以下になっており、前記所期の目的を達成できることが確認され、前述の効果確認と相俟って、α=10以上であれば、発明者が想定した9%以下の全反射率を得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
このように本発明の液晶基板保持盤およびその製造方法は、照射光の広域な波長に亘って安定した低反射率を得られ、安定した二重露光防止作用と良好な露光作用を得られるとともに、液晶ディスプレイの軽量化と大型化に対応でき設備費と反射率の低減を図れ、基板ステージの機能低下や故障を未然に防止し得るとともに、低反射率の液晶基板保持盤を確実かつ安価に製造できる。
【符号の説明】
【0077】
11 液晶基板保持盤
12 溶射皮膜
13 支持部
20,22 被覆層
11a 液晶基板保持盤の母材
W 基板(液晶基板)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材表面に低反射率の材料からなる溶射皮膜を形成し、該溶射皮膜の表面に透明または半透明の基板を保持可能な支持部を形成した液晶基板保持盤において、前記溶射皮膜をアルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)で形成し、前記溶射皮膜表面の全反射率を、光の波長360〜740nmの範囲に亘って9%以下に形成したことを特徴とする液晶基板保持盤。
【請求項2】
前記アルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)のうち、チタニア成分の含有量を重量百分率で10〜100wt%とした請求項1記載の液晶基板保持盤
【請求項3】
前記溶射皮膜の表面および内部を含む表層部に透明な被覆層を形成した請求項1記載の液晶基板保持盤。
【請求項4】
前記被覆層の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成した請求項3記載の液晶基板保持盤。
【請求項5】
母材表面に低反射率の材料からなる溶射皮膜を形成後、該溶射皮膜の表面に透明または半透明の基板を保持可能な支持部を形成する液晶基板保持盤の製造方法において、前記溶射皮膜をアルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)で形成し、前記溶射皮膜の形成後、該溶射皮膜の表面および内部を含む表層部を1次封孔処理し、該1次封孔処理によって前記表層部に被覆層を形成後、前記支持部を形成することを特徴とする液晶基板保持盤の製造方法。
【請求項6】
前記アルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)のうち、チタニア成分の含有量を重量百分率で10〜100wt%とする請求項5記載の液晶基板保持盤の製造方法。
【請求項7】
前記支持部を形成後、前記溶射皮膜の表面を2次封孔処理し、前記支持部の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成する請求項5記載の液晶基板保持盤の製造方法。
【請求項8】
前記溶射皮膜の形成後、前記表層部の1次封孔処理前に、前記溶射皮膜表面をドライアイスブラスト洗浄する請求項5記載の液晶基板保持盤の製造方法。
【請求項9】
前記支持部を形成後、前記2次封孔処理前に、前記溶射皮膜表面をドライアイスブラスト洗浄する請求項7記載の液晶基板保持盤の製造方法。
【請求項10】
前記ドライアイスブラスト洗浄後、前記溶射皮膜表面を2次封孔処理し、該2次封孔処理によって前記溶射皮膜の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成する請求項9記載の液晶基板保持盤の製造方法。
【請求項1】
母材表面に低反射率の材料からなる溶射皮膜を形成し、該溶射皮膜の表面に透明または半透明の基板を保持可能な支持部を形成した液晶基板保持盤において、前記溶射皮膜をアルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)で形成し、前記溶射皮膜表面の全反射率を、光の波長360〜740nmの範囲に亘って9%以下に形成したことを特徴とする液晶基板保持盤。
【請求項2】
前記アルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)のうち、チタニア成分の含有量を重量百分率で10〜100wt%とした請求項1記載の液晶基板保持盤
【請求項3】
前記溶射皮膜の表面および内部を含む表層部に透明な被覆層を形成した請求項1記載の液晶基板保持盤。
【請求項4】
前記被覆層の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成した請求項3記載の液晶基板保持盤。
【請求項5】
母材表面に低反射率の材料からなる溶射皮膜を形成後、該溶射皮膜の表面に透明または半透明の基板を保持可能な支持部を形成する液晶基板保持盤の製造方法において、前記溶射皮膜をアルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)で形成し、前記溶射皮膜の形成後、該溶射皮膜の表面および内部を含む表層部を1次封孔処理し、該1次封孔処理によって前記表層部に被覆層を形成後、前記支持部を形成することを特徴とする液晶基板保持盤の製造方法。
【請求項6】
前記アルミナとチタニアを含有する複合材料(Al2O3−α%TiO2)のうち、チタニア成分の含有量を重量百分率で10〜100wt%とする請求項5記載の液晶基板保持盤の製造方法。
【請求項7】
前記支持部を形成後、前記溶射皮膜の表面を2次封孔処理し、前記支持部の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成する請求項5記載の液晶基板保持盤の製造方法。
【請求項8】
前記溶射皮膜の形成後、前記表層部の1次封孔処理前に、前記溶射皮膜表面をドライアイスブラスト洗浄する請求項5記載の液晶基板保持盤の製造方法。
【請求項9】
前記支持部を形成後、前記2次封孔処理前に、前記溶射皮膜表面をドライアイスブラスト洗浄する請求項7記載の液晶基板保持盤の製造方法。
【請求項10】
前記ドライアイスブラスト洗浄後、前記溶射皮膜表面を2次封孔処理し、該2次封孔処理によって前記溶射皮膜の表面に透明な超薄膜の被覆層を形成する請求項9記載の液晶基板保持盤の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−203286(P2012−203286A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69399(P2011−69399)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(392020705)テクノクオーツ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(392020705)テクノクオーツ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]