説明

溶射被膜被覆部材およびその製造方法、ならびに軸受

【課題】経時的な封孔特性の劣化を回避でき、機械的性質、電気的性質などの物性を向上させることができる。
【解決手段】金属基材上に封孔処理剤で封孔処理された溶射被膜を有し、封孔処理前の溶射被膜の表面層が封孔処理前に所定厚さ除去されており、封孔処理剤がエポキシ基含有成分と硬化剤とを含み、重合性ビニル基含有溶剤を含まない封孔処理剤であり、エポキシ基含有成分は、1分子中に含まれるエポキシ基の数が3個以上のポリグリシジルエーテル化合物を必須成分とし、1分子中に含まれるエポキシ基の数が2個のアルキレンジグリシジルエーテル化合物および環状脂肪族ジエポキシ化合物から選ばれた少なくとも1つを含む混合物であり、上記硬化剤を除く、エポキシ基含有成分全体に対して、ポリグリシジルエーテル化合物が 10〜80 重量%配合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射被膜被覆部材およびその製造方法、ならびに軸受に関し、特にエポキシ樹脂系封孔処理剤および該処理剤により処理されて得られる溶射被膜被覆部材およびその製造方法、ならびにこの溶射被膜被覆部材を有する軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼等から構成される機械部品の基材表面に金属またはセラミックスなどの硬質粒子および粉体を溶射し、耐熱性や耐摩耗性、耐食性を高める技術は以前より実施されている。一般に溶射被膜はその被膜形成の過程で生じる空隙や間隙、ボイド等の気孔を有しており、この気孔は種々の特性を被膜自体に付与している。気孔の中で、あるものは基材表面から基材素地に通じる連通孔の形態を示し、被膜表層が接している環境と、被膜が被覆されている基材とを連通している。この連通孔を通じて、溶射被膜外部に接触した気体や液体が基材素地まで浸透、拡散したりする現象がみられる。
【0003】
気体や液体が基材素地まで浸透、拡散したりする結果、溶射材自身が腐食劣化したり、素地基材が炭素鋼などの場合は、被膜と基材の接触界面で、基材が選択的に腐食劣化して、溶射被膜の基材に対する接合性が損なわれ剥離したりする場合がある。また、機械部品本体と、それが設置される部材や具備される部材との間の絶縁性を確保する目的でセラミックス溶射がなされる場合があるが、上述の気体や液体の浸透拡散現象によって絶縁破壊され、所望の絶縁抵抗が発揮されなくなる場合もある。
【0004】
そこで、溶射被膜を形成した後、何らかの封孔処理を施し、被膜の環境遮断性を高める封孔処理が行なわれてきた。例えば、封孔処理剤に、可視光線により硬化する光硬化性樹脂を利用する方法(特許文献1参照)、電着塗料により、塗料粒子の電気泳動現象で溶射被膜の細孔中に析出・充填させようとする方法(特許文献2参照)、ガラス質物質を形成するB23を添加した溶射材を母材表面に溶射した後、溶射被膜を加熱してB23を溶融させ、溶射被膜中に発生している間隙に充填する方法(特許文献3参照)などが知られている。しかし、これらの方法は、加圧または減圧工程に加え、いずれも特殊な装置や煩雑な工程を必要とするなど、工業的生産方法に適さないという問題がある。
【0005】
このため、封孔処理剤の必須組成として、(i)合成樹脂、(ii)重合性有機溶剤、ならびに(iii)フッ素系界面活性剤およびパーフルオロ基含有有機ケイ素化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有させる方法が知られている(特許文献4参照)。この方法は、(i)合成樹脂の硬化時、「(ii)重合性有機溶剤を単独で」あるいは「(i)合成樹脂と複合的に」硬化物を形成させることを意図しているものであるが、(ii)重合性有機溶剤の単純な加熱のみでは、溶液中の溶存酸素などが重合を阻害するため、実際に溶剤部分が硬化することが困難である。特に、特許文献4の実施例に示されたような、代表的なビニル基含有有機化合物である「スチレンモノマー」を重合性溶剤とした場合、エポキシ樹脂の硬化温度では重合反応は充分に行なわれず、エポキシ樹脂中に未反応の重合性溶剤が残存し、硬化後封孔樹脂の長期的な安定性に懸念が生じる。重合性溶剤の重合反応を促進する目的で、特許文献4にも記載があるとおりラジカル重合開始剤などを配合したり、一方で、封孔処理剤の系に溶存する酸素を高度に除去することが必要となる。しかしながら、高温型ラジカル重合開始剤は一般的に反応性が高く爆発などの危険性が高い有機過酸化物からなるため、取扱上の注意が必要であった。一方で低温型重合開始剤を選択すればかかる懸念事項は緩和されるが、低温においても重合開始剤の分解反応が進行するため、未硬化封孔処理剤のポットライフに留意する必要が生じる。また、溶存酸素量の観点からも、保存安定性を高めるために細い注意事項の遵守が常に要求されるという問題がある。
【0006】
一方、溶射被膜の形状(寸法)精度を保つために、封孔処理後に溶射被膜表面を研削あるいは研摩などの機械的手段で除去する方法が採用されている。特に歯車や軸受、スピンドルなど、金属基材からなる寸法精度の要求が厳しい機械部品表面に対し溶射を適用する場合、これら機械部品の表面は研摩で仕上げることが多く、表面粗さRaが 1μm 未満になっていることが多い。よって、これら金属部品の表面に溶射を行なう場合、ショットブラストあるいはタンブラー処理などの表面改質手法を用いて粗表面を除去し、表面粗さRaを 1μm 以上程度まで増大させる処理を行なうことが多い。
【0007】
溶射被膜内に存在する気孔は、あるものは基材素地とは連通しているが、被膜表層とは連通していない形態を示すものがある。これらは単独孔と呼ばれ、溶射および封孔処理の直後は被膜表層が接している環境と被膜が被覆されている基材との間を連通させることがないため、被膜と基材の接触界面で、基材を選択的に腐食劣化させるおそれはないと考えられる。
しかし、機械部品の基材表面に封孔処理をした後、その部品の寸法精度を向上させるためになされる研削、旋削、ショットブラストなどの機械的手段による後加工で表層のセラミック溶射被膜等が除去された後、新たに溶射被膜表面に微小な単独孔が新たに発生する場合がある。この単独孔は仕上げ表面に存在するため、外部環境から付着するおそれのある水分、ゴミなどの通電性をもつ異物を保持する可能性があり、表面電流を増加させる原因となる。表面電流が増加すると、それは電流のバイパス路であるため、最終的に絶縁体としての機能は低下するため好ましくないという問題がある。
【0008】
上述のとおり、従来技術においては、封孔処理を研摩前に実施していたため、研摩前は表層部とは連通していない被膜内部の単独孔が、研摩によって新たに連続気孔として加工表面に発生し、絶縁性能の低下が発生する問題があった。
また、従来技術では、スチレンなどの重合性有機溶剤の残存等により、封孔処理剤の空隙充填性が劣るため、使用中の湿気侵入による絶縁特性の劣化が避けられないという問題があった。
【特許文献1】特開平5−106014号公報
【特許文献2】特開平6−212391号公報
【特許文献3】特開平10−259469号公報
【特許文献4】特開2003−183806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる問題に対処するためになされたものであり、溶射被膜層に存在する連通孔のみならず、従来技術では発生を防ぐことが難しかった、溶射被膜層に内在している単独孔および表層面の後加工にて新たに発生する気孔または間隙に対して、浸透性および充填性に優れ、溶射被膜層の気孔または間隙が実質的に充填されている状態まで封孔処理を施すことができ、経時的な封孔特性の劣化を回避できるとともに、表面層が研削または研摩除去されても封孔処理剤の浸透・充填層が十分存在し、更に機械的性質、電気的性質などの物性をも向上させることができる溶射被膜被覆部材およびその製造方法、ならびにこの溶射被膜被覆部材を備えた軸受の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の溶射被膜被覆部材は、金属基材上に封孔処理剤で封孔処理された溶射被膜を有する溶射被膜被覆部材であって、上記封孔処理剤は、エポキシ基含有成分と硬化剤とを含み、重合性ビニル基含有溶剤を含まない封孔処理剤であり、上記封孔処理前の溶射被膜の表面層が封孔処理前に所定厚さ除去されていることを特徴とする。
また、上記エポキシ基含有成分は、1分子中に含まれるエポキシ基の数が3個以上のポリグリシジルエーテル化合物を必須成分とし、1分子中に含まれるエポキシ基の数が2個のアルキレンジグリシジルエーテル化合物および環状脂肪族ジエポキシ化合物から選ばれた少なくとも1つを含む混合物であり、上記硬化剤を除く、エポキシ基含有成分全体に対して、ポリグリシジルエーテル化合物が 10 重量%〜80 重量%配合されていることを特徴とする。
また、本発明の軸受は、上述した本発明の溶射被膜被覆部材が軸受構成部材表面に形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の溶射被膜被覆部材の製造方法は、金属基材上に溶射被膜を形成する工程と、この溶射被膜の表面層を機械加工により除去する工程と、封孔処理剤で封孔処理する工程とを備えることを特徴とし、該封孔処理剤が上記エポキシ基含有成分と硬化剤とを含み、重合性ビニル基含有溶剤を含まない封孔処理剤であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の溶射被膜被覆部材は、封孔処理剤がエポキシ基含有成分と硬化剤とを含み、重合性ビニル基含有溶剤を含まない封孔処理剤であり、封孔処理前の溶射被膜の表面層が封孔処理前に所定厚さ除去されているので、溶射直後に膜内に存在する独立気孔への封孔処理剤による封孔確率が高まる。その結果、封孔処理前の溶射被膜層に存在する連通孔のみならず封孔処理後の表層面に発生する単独孔などの気孔や間隙に対し、浸透性および充填性に優れ、全ての気孔や間隙が実質的に全て充填されている溶射被膜被覆部材が得られる。
また、封孔処理前に溶射被膜表面層を所定厚さ除去することにより、研摩取り代分の封孔処理剤の浸透深さを考慮しなくてもよくなるため、封孔処理剤の組成を変更することなく、封孔処理膜厚さの大きなセラミック溶射被膜等へ、確実に封孔処理を行なうことが可能となる。
従来技術では表面研摩を封孔処理の後で行なっていたため、封孔処理剤の浸透深さのうち、研摩取り代分の浸透部分は除去され無駄となっていたが、封孔処理前に溶射被膜表面層を所定厚さ除去することにより、封孔処理剤が浸透した部位はほぼそのまま絶縁皮膜の封孔部位として活用できるため、従来技術よりも厚いセラミック溶射被膜においても、より確実な絶縁特性が得られる。
さらに、溶射被膜被覆部材製品の表面のディンプル等が減少し水分の乾燥が速まるため、結果的に湿潤環境下で一旦低下した絶縁抵抗などの電気特性が早期に回復する。
【0013】
特に封孔処理剤として、エポキシ基含有成分と硬化剤とを含み、重合性ビニル基含有溶剤を含まないで、上記エポキシ基含有成分が所定のポリグリシジルエーテル化合物を主成分とする混合物であるので、封孔処理剤における溶剤の揮発による空隙の発生を効果的に抑制し、溶射被膜材の間隙が実質的に全て充填されている状態まで封孔処理された溶射被膜被覆部材が得られる。また、封孔処理剤を構成する複数のポリグリシジルエーテル化合物の混合物は、分子構造が類似するので相溶性に優れるため、相分離などが生じるおそれがないことから気孔内に容易に浸透することができる。このため溶射被膜材の封孔状態や経時的な封孔特性の劣化の恐れを回避でき、使用時における溶射被膜の剥離などの破損を防止し、軸受などの機械部品の寿命を向上させることができる。
【0014】
本発明の溶射被膜被覆部材の製造方法は、封孔処理剤で封孔処理する工程前に溶射被膜の表面層を機械加工により除去する工程を有するので、研摩取り代分の封孔処理剤の浸透深さを考慮しなくてもよくなるため、処理工程が単純化され容易に実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の溶射被膜被覆部材は、最初に金属基材上に溶射被膜を形成する。
溶射被膜材料としては、金属、その合金、酸化物セラミックス、炭化物サーメット等が挙げられ、金属としてはAl、Zn、Cr、Ni等を、合金としてはステンレス鋼等を、酸化物セラミックスとしてはアルミナ、ジルコニア、チタニア等を、炭化物サーメットとしてはクロム炭化物、タングステン炭化物等を、それぞれ挙げることができる。
【0016】
溶射方法としては、例えばプラズマ溶射法、高速ガス炎溶射法等を用いることができる。溶射被膜の膜厚は、溶射材料の種類や得られる溶射被膜被覆部材の用途に応じて適宜設定することができるが、通常、炭素鋼を基材として、溶射材をアルミナとした場合、20〜2000μm 程度、好ましくは 50〜1000μm 程度である。
【0017】
次に封孔処理前の溶射被膜の表面層を所定厚さ除去する。
除去方法としては、機械加工を用いる方法が好ましく、研削砥石、研摩紙、不織布バフ、ショットブラストなどを用いる研削・研摩除去方法が挙げられる。
上記所定厚さは少なくとも最終の表面処理となる取り代を加えた寸法である。取り代としては、表面層厚さの設計値正寸の +10μm〜+50μm が挙げられる。
【0018】
表面層除去の際に発生する研摩粉、研削粉、ブラスト砥粒やクーラントなどの加工残留物が、その後に行われる封孔処理に悪影響を及ぼす可能性があるため、可能であればドライ加工を採用すべきであり、ショットブラストによる加工が好ましい加工方法である。しかし、やむなくクーラントを機械的加工時に併用する場合、加工後にクーラント残渣を除去できる溶剤などで封孔処理対象物を超音波洗浄し、封孔処理前の溶射被膜を清浄にしておくことが好ましい。なお、洗浄溶剤としては、水性クーラントの場合には水が、油性クーラントの場合には白灯油やベンジンなどが挙げられる。
【0019】
本発明の溶射被膜被覆部材に使用できる封孔処理剤は、1分子中に含まれるエポキシ基の数が3個以上のポリグリシジルエーテル化合物を必須成分とし、この必須成分に加えて、1分子中に含まれるエポキシ基の数が2個のアルキレンジグリシジルエーテル化合物および/または1分子中に含まれるエポキシ基の数が2個の環状脂肪族ジエポキシ化合物を含む混合物である。ポリグリシジルエーテル化合物および環状脂肪族ジエポキシ化合物はその分子内にオキシラン環が解裂して形成される繰り返し単位を含まない化合物である。上記混合物は硬化剤と反応して硬化物を形成する。
1分子中に含まれるエポキシ基の数が3個以上のポリグリシジルエーテル化合物としては、トリグリシジルエーテル化合物、テトラグリシジルエーテル化合物等が挙げられる。
ポリグリシジルエーテル化合物の例としては、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテルを挙げることができる。
これらの中で、封孔処理剤の粘度を下げる観点から、トリグリシジルエーテル化合物が好ましく、特にトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルが好ましい。
【0020】
1分子中に含まれるエポキシ基の数が2個のアルキレンジグリシジルエーテル化合物としては、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを挙げることができる。
【0021】
1分子中に含まれるエポキシ基の数が2個の環状脂肪族ジエポキシ化合物は、脂環式化合物の環を形成する炭素原子において、隣接する2つの炭素原子がオキシラン環を形成している、いわゆる脂環式エポキシ化合物であって、オキシラン環を2つ含む脂環式ジエポキシ化合物、例えば、1,2,8,9−ジエポキシリモネンが挙げられる。封孔処理剤の粘度を低下させつつ処理物の物性の低下を効果的に防止する好ましい化合物である。
また、水素添加ビスフェノールA、テトラヒドロフタル酸のジグリシジルエーテルなどの脂環式化合物のジグリシジルエーテルも使用することができる。
【0022】
上記封孔処理剤は、取り扱い性の向上や、溶射被膜材への更なる浸透性向上の目的で、1分子中に含まれるエポキシ基の数が1個のモノグリシジルエーテル化合物を配合することができる。
1分子中に含まれるエポキシ基の数が1個のモノグリシジルエーテル化合物としては、ブチルグリシジルエーテルなどのアルキルモノグリシジルエーテル、アルキルフェノールモノグリシジルエーテル等、公知のモノグリシジルエーテル化合物を挙げることができる。
【0023】
トリグリシジルエーテル化合物は、溶射被膜と金属基材との間の接着力を飛躍的に高める封孔処理剤成分として使用できる。同時に該化合物自体の粘度が低いために、後述するジグリシジルエーテル化合物等と混合することによって、キシレン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤や、重合性ビニル基含有溶剤などの添加を必要とせず、封孔剤に対し、充分な浸透性を付与できる。
また、樹脂中に含む塩素イオン量を 0.5 重量%以下とすることで、湿潤雰囲気下における絶縁抵抗などの電気特性の低下や、基材の腐食性などが抑えられる。
トリグリシジルエーテル化合物の 25℃における粘度は 500 mPa・s 以下であることが好ましい。500 mPa・s を超えると浸透性に劣る。
【0024】
混合物全体に対して、トリグリシジルエーテル化合物の配合割合が 10〜80 重量%であることが好ましく、より好ましくは 20〜50 重量%である。10 重量%未満のときは、封孔液自体の粘度を低く設定できるため、硬化物の浸透性は高まるものの、一方ではトリグリシジルエーテル化合物の接着性向上効果が得られにくくなるため、基材との接着力は減少する。また、トリグリシジルエーテル化合物の配合割合が 80 重量%を超えるときは封孔処理剤の粘度が高くなるため浸透性に劣る。
【0025】
1分子中に含まれるエポキシ基の数が2個のアルキレンジグリシジルエーテル化合物は、それ自体が低粘度のエポキシ化合物であるため、ポリグリシジルエーテルへの添加によって封孔剤の粘度を低下させることができるため好ましい。また、1,2,8,9−ジエポキシリモネンに示されるような環状脂肪族ジエポキシ化合物の添加も好ましい。これら化合物は、硬化反応時にエポキシ分子と共重合することで一体化するため、配合による硬化物の物性低下や、硬化時の体積減少を防ぐことができるため好ましい。
【0026】
アルキレンジグリシジルエーテル化合物の 25℃における粘度は 30 mPa・s 以下であることが好ましい。30 mPa・s を超えると封孔剤の粘度が上昇するため浸透性が劣る。
混合物全体に対して、アルキレンジグリシジルエーテル化合物の配合割合が 10〜80 重量%であることが好ましく、より好ましくは 50〜80 重量%である。10 重量%未満のときは封孔剤の粘度低減効果が小さくなり、封孔剤の浸透性を高めることができない。また、80 重量%を超えると、封孔剤の浸透性は高まるが、相対的に硬化時に高密度の架橋構造を形成する役割を持つトリグリシジルエーテル化合物の配合割合が、相対的に減少するため、硬化後のエポキシ樹脂の物性は低下する。
【0027】
アルキレンジグリシジルエーテル化合物は、上記トリグリシジルエーテル化合物と所定量混合することで、トリグリシジルエーテル化合物単体の持つ基材密着力や、分子の架橋密度、樹脂硬度を大幅に低下させることなく、封孔処理剤の浸透度を確保することで溶射被膜用の封孔処理剤として充分な機能を発現させることができる。
【0028】
1分子中に含まれるエポキシ基の数が1個のモノグリシジルエーテル化合物は単官能基を介して樹脂の一部と結合することができる。また、それ自身が低粘度のエポキシ化合物であるため封孔処理剤の粘度を低下させることができ、一方で、硬化後の樹脂内部の残留応力の低減や、硬化速度の調整効果を与えることができる。
モノグリシジルエーテル化合物の配合量は、混合物全体に対して、0〜50 重量%とすることが好ましい。
モノグリシジルエーテル化合物の添加量が 50 重量%を超えると、揮発量が増加したり、トリグリシジルエーテル化合物の量が相対的に減少し、硬化後樹脂の架橋密度が不足し、物性が大きく低下したり硬化物が形成しにくくなる。またポリグリシジルエーテル化合物の配合量も減少するため、溶射被膜と基材間の密着力が小さくなる。
【0029】
上記グリシジルエーテル化合物の混合物に対して硬化剤が配合される。硬化剤としては、酸無水物類および脂肪族アミン化合物、脂環式アミン化合物、芳香族アミン化合物などのアミン化合物類、イミダゾール類などの公知のエポキシ樹脂用硬化剤を単体あるいは組合せて使用することができる。
酸無水物類としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、ドデセニル無水コハク酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物およびその誘導体等を挙げることができる。
アミン化合物類としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、N−アミノエチルピペラジン、イソホロンジアミンなどの環状脂肪族ポリアミン、キシリレンジアミンなどの脂肪芳香族アミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルアミンなどの芳香族アミンおよびその誘導体等を挙げることができる。
これらの中で 25℃における粘度が 50 mPa・s 以下の酸無水物硬化剤や、25℃における粘度が 10 mPa・s 以下の脂肪族アミン系硬化剤は、添加によって封孔処理剤系全体の粘度を顕著に低下できるため、好適な硬化剤となる。
特に封孔処理剤のポットライフを長くすることができ、また硬化時の収縮率が小さい酸無水物硬化剤が好ましい。
酸無水物硬化剤の配合量は、エポキシ基1当量に対して 0.80〜0.95 当量とすることが好ましい。
【0030】
上記封孔処理剤には、その他材料として界面活性剤を添加できる。特に効果のある界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤やシリコン系界面活性剤が挙げられ、特に公知のフッ素系界面活性剤の使用が好ましい。本発明において、公知のアニオン性、カチオン性、ノニオン性および両性の界面活性剤を使用できる。本発明の封孔処理剤に、フッ素系界面活性剤を配合する場合は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。また、シリコーンオイルなど界面活性効果や浸透効果を高める添加剤であれば、発明の特徴を妨げない範囲で使用できる。
【0031】
アニオン性界面活性剤としては、スルホン酸塩、硫酸塩、カルボン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、リン酸エステル等を使用できる。カチオン性界面活性剤としては、第四級アンモニウム塩、アミノハロゲン塩等を使用できる。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンエステル型、ポリオキシエチレンエーテル型、ソルビタンエステル型等を使用できる。両性界面活性剤としては、イミダゾリン型、ベタイン型等を使用できる。
【0032】
本発明の溶射被膜被覆部材は、上記封孔処理剤を用いて、封孔処理前に所定厚さ表面層が除去されている溶射被膜に封孔処理を行なう。
上記封孔処理剤は、形成された溶射被膜の気孔率が 10%以下である場合の封孔処理に用いることが好ましい。また、該封孔処理剤は、溶射材としてセラミック粉末や炭化物サーメット等を用いてプラズマ溶射、高速ガス炎溶射法によって形成した溶射被膜の気孔率 10%以下である場合の封孔処理に用いることが好ましい。該封孔処理剤を用いてこれら溶射被膜に封孔処理を施した場合、非常に優れた封孔効果を発揮し、封孔処理後に表面層を、仕上げ研削除去しても封孔効果を確認することができる。
このように、封孔処理剤を用いることにより、溶射被膜の間隙などの気孔がエポキシ基を重合して得られる樹脂で実質的に全て充填されるので、間隙のない連続被膜表面を有する溶射被膜被覆部材を得ることができる。
ここで、溶射被膜の間隙などの気孔が「実質的に全て充填されている」とは、溶射被膜表面に塗膜形状で存在している封孔処理剤により形成された層(封孔処理剤に含まれる成分の硬化物などからなる)を含めた溶射被膜の最外層部分(例えば、表面から厚さ 0.2 mm 程度)を研削・研摩して除去した後、JIS H 8666に基づく染色浸透試験において、着色が見られないことを意味する。
【0033】
上記封孔処理方法は、上述の封孔処理剤が溶射被膜底部まで浸透し充填性が向上することにより、粒子間境界の間隙が確実に埋められることで粒子間の個々の結合力や、基材との密着力が増大し、粒子間境界の間隙を全て埋めることができる。このため大気中における環境水分や異物の侵入が遮断され、酸化物セラミックス溶射被膜の固有の値を低減させることなく、絶縁抵抗値および絶縁破壊値の低下を抑制することができる。また得られた封孔処理済みの溶射被膜は表面を研削または研摩などした場合にも露出する間隙が存在しない。
したがって、溶射被膜自体の機械的強さや基材との密着強さを高める手段、絶縁抵抗値および絶縁破壊値など電気特性の低下抑制手段などとして利用できる。
【0034】
上記封孔処理剤を用いて封孔処理を施すと、溶射被膜の間隙が封孔処理剤で実質的に全て充填された後、溶射被膜表層を隠蔽する形で封孔処理剤による塗膜状の薄い層が形成される。この塗膜状の薄い層を有する被覆部材はそのまま使用することもできるが、被覆部材の寸法精度を保つためには、研削砥石、研摩紙、不織布バフなどを用いて溶射被膜の表面を仕上げ研削・研摩してかかる層を除去することができる。
【0035】
封孔処理は、溶射後に表面層を研削除去した溶射被膜に対し速やかに施すことが好ましい。溶射被膜は、粒子径分布のある多数の粒子が粒子間表層のみで融着して形成された被膜である。必然的に粒子境界に間隙が生成するため、被膜形成の直後から粒子境界の間隙をぬって水分や異物が侵入するなど、環境条件の影響を受けることが多い。したがって封孔効率の低下を防ぐには溶射後、溶射被膜の封孔処理をできる限り早く施すことが望ましい。
【0036】
本発明の溶射被膜被覆部材は、機械的強さや基材との密着強さが高められ、更に絶縁抵抗値および絶縁破壊値など電気特性が向上する溶射被膜を機械部品基材に被覆するので、機械部品を周囲の環境から完全に遮断し、水や異物の侵入を防ぎ保護することができる。また、封孔処理前に溶射被膜の表面を除去しているので、表面の単独孔であるディンプルが減少し水分の乾燥が速まるため、結果的に湿潤環境下で絶縁抵抗などの電気特性が安定する。
【0037】
本発明の溶射被膜被覆部材は、軸受を構成している部材表面に好適に応用できる。軸受としては、転がり軸受、すべり軸受のいずれにも用いることができる。転がり軸受は、外周面に内輪転走面を有する内輪と内周面に外輪転走面を有する外輪とが同心に配置され、内輪転走面と外輪転走面との間に複数個の転動体が配置される。さらに、この複数個の転動体を保持する保持器および外輪等に固定されるシール部材とにより構成される。
本発明の溶射被膜被覆部材は、深溝玉軸受および円筒/円錐ころ軸受等の転がり軸受の外輪部に処理されるセラミック溶射被膜の封孔処理剤として好適に用いることができる。
溶射被膜被覆部材で外輪部表面が処理された軸受はハウジングに外輪外径面を摺動させながら圧入することで固定される。本発明の溶射被膜被覆部材を設けることで、封入樹脂の作用により、溶射被膜が強化されるため、圧入時に起こりうるハウジングとの衝突による被膜の破損リスクを減少させることができる。
また、本発明の溶射被膜被覆部材は、すべり軸受の摺動面としても用いることができる。
【実施例】
【0038】
実施例1〜実施例2および比較例1〜比較例4
表1で用いた材料を以下に示す。
(1)グリシジルエーテル化合物または環状脂肪族ジエポキシ化合物
(1−1)トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル:ナガセケムテックス社製、デナコールEX−321L、粘度; 500 mPa・s (25℃)
(1−2)環状脂肪族ジエポキシ化合物:ダイセル化学工業社製、セロキサイド3000、粘度; 10 mPa・s (25℃)
(2)硬化剤、硬化促進剤
(2−1)酸無水物系硬化剤:大日本インキ化学工業社製、エピクロンB−570、粘度; 40 mPa・s (25℃)
(2−2)イミダゾール系硬化促進剤:四国化成工業社製、OR−2E4MZ
(3)重合性ビニル基含有溶剤
(3−1)スチレンモノマー:和光純薬社製、試薬
【0039】
表1に示す各成分を室温で充分に撹拌混合し、混合樹脂中の気泡を抜くため 30分静置して封孔処理剤を得た。得られた封孔処理剤の評価を焼成後重量減少率試験により行なった。
<焼成後重量減少率試験>
得られた封孔処理剤を、140℃×2 時間の条件で充分に乾燥させ、異物付着のない(容量 3 ml )のガラス製容器に約 2 g 秤量し、焼成前秤量値とした。その後、ガラス容器の口を開放したまま、80℃×1 時間予備焼成し、その後 120℃×2 時間焼成を行ない、焼成後の重量を測定し焼成後秤量値とし、下記の式にしたがって封孔処理剤の重量減少率を計測した。測定結果を表1に示す。なお、測定結果に対する判定基準は、重量減少率が 1 %を超えると溶射被膜に残存する微小空隙内で硬化後に空隙部を生じたり、発生ガスによって硬化物中の残留気泡の発生が多くなったりする懸念があるため「不可」と判定され、1 %以下を「可」と判定できる。

焼成後重量減少率(%)=100×(焼成前秤量値−焼成後秤量値)/焼成前秤量値

【0040】
次に、φ20 mm×25 mm のSUJ2製円柱試験片を準備し、その円柱端面に膜厚 400μm のアルミナセラミック溶射被膜を大気プラズマ溶射法により形成した。作製手順により、下記のA方式(比較例3および比較例4)およびB方式(実施例1、実施例2、比較例1および比較例2)にて硬化試験片を作製した。
【0041】
A方式による硬化試験片の作製
溶射直後に封孔処理を実施し、その後に仕上げ加工(研削)を行なう。
溶射面の表面に室温雰囲気下において、ポリアミド製ブラシを用いて表1に示す封孔処理剤を塗布し 30 分静置した。その後ポリエチレン製のヘラで表面付着分の過剰な封孔処理剤を掻き取った状態をもって、封孔処理剤の塗布済み試験片とした。その後、これら塗布済み試験片を 80℃×1 時間予備焼成し、その後 120℃×2 時間焼成を行ない、封孔処理剤を硬化させた。次に、仕上げ面として硬化試験片の表面から約 200μm の深さまでの樹脂浸透層を除去する目的で、セラミック平面と平行にダイヤモンド砥石を用いて研削除去を行なった。
【0042】
B方式による硬化試験片の作製
溶射後に表面層を除去する粗加工を行ない、その後封孔処理と仕上げ加工を行なう。
溶射直後の溶射被膜にアルミナ砥粒によるショットブラストで溶射被膜を 180μm または 380μm 除去する(表1中、溶射前の除去深さで示す)。その後、除去した溶射被膜の残骸やブラスト砥粒の残分を除去するために、エアブローおよびアセトンによる超音波洗浄を行ない、120 ℃の恒温槽内で 2 時間保持し乾燥させる。
その後、溶射面の表面に室温雰囲気下において、ポリアミド製ブラシを用いて表1に示す封孔処理剤を塗布し 30 分静置した。その後ポリエチレン製のヘラで表面付着分の過剰な封孔処理剤を掻き取った状態をもって、封孔処理剤の塗布済み試験片とした。その後、これら塗布済み試験片を 80℃×1 時間予備焼成し、その後 120℃×2 時間焼成を行ない、封孔処理剤を硬化させた。次に、次に、硬化試験片の表面から約 20μm の深さまで、セラミック平面と平行にダイヤモンド砥石を用いて仕上げ加工(研削)を行なった。
【0043】
上記の方法にて得られた硬化試験片を用いて以下に示す方法により、絶縁抵抗値、耐電圧特性、抵抗回復時間を測定した。全ての項目が「可」の場合、総合判定を「○」、いずれか1つが「不可」の場合、総合判定を「×」とそれぞれ判定した。
<絶縁抵抗試験>
試験の目的:絶縁皮膜の基本特性の評価
方法の詳細:絶縁抵抗試験の概略を図1に示す。硬化試験片1を 80℃の温水に 1 時間浸漬後、配線5に取り付けた 1000 V DC絶縁抵抗計4を用いて、溶射被膜2表面と硬化試験片1間の絶縁抵抗を測定した。3は電極である。測定結果を表1に併記する。判定基準は、2000MΩ以上の抵抗率を示す場合が「可」、2000 MΩより下回る抵抗率の場合が「不可」と判定される。
【0044】
<耐電圧特性試験>
試験の目的:絶縁皮膜の基本特性の評価
方法の詳細:耐電圧特性試験の概略を図2に示す。配線5に取り付けた高電圧発生装置6によりDC 5 kV の電圧を印加してモニタ7を用いて溶射被膜2と硬化試験片1との間の耐電圧特性を評価した。3は電極である。判定結果を表1に併記する。判定基準は、DC 5 kV を5 分間印加させ、絶縁破壊を生じなかったら「可」、絶縁破壊を生じた場合「不可」とした。
【0045】
<抵抗回復時間測定試験>
試験の目的:絶縁皮膜表面の表面電流伝達特性の評価
方法の詳細:上記絶縁抵抗試験方法にて絶縁抵抗を測定した試験片を、40 ℃× 85 %RHの恒温恒湿槽内に 2 時間放置する。その後、試験片を 25 ℃× 50 %RHの環境に晒し、直ちに絶縁抵抗を上記絶縁抵抗試験方法で測定する。測定開始直後は、試験片表面の残留水分が表面電流を伝達すると思われる現象により、絶縁抵抗は 2000 M Ω以下を示す。その後 30 秒ごとに絶縁抵抗を測定してゆき、恒温恒湿槽から取り出した時間から絶縁抵抗値が 2000 M Ω以上となった時間までを「抵抗回復時間」として記録する。測定結果を表1に併記する。判定基準は、回復時間が 5 分以内の場合が「可」と、5 分より長い場合が「不可」と判定される。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、実施例1の封孔処理剤は重量減少率が 1 %を下回る。比較例1〜比較例3は、硬化時に配合成分のスチレンモノマーが、微小量揮発するために、硬化した封孔剤の内部に欠陥が生じ、その結果耐電圧特性が低下したと考える。
比較例4は、浸透性向上効果をもつエポキシ基の数が2個のジエポキシ化合物と、1分子中に含まれるエポキシ基の数が3個以上のポリグリシジルエーテル化合物との共重合により緻密な分子構造をもつ化合物を形成するため、封孔処理後に表層から 200μm 研削除去しても耐電圧特性は満たしたが、溶射被膜の表層からの研削除去によって新たに生成する独立気孔に吸着される水分が絶縁体の表面電流の伝達を促進し、湿潤雰囲気における低抵抗値からの回復を遅らせる原因となったと考える。なお、絶縁抵抗値が低下していないため、連続孔ではないと考えられる。
【0048】
上記試験結果は、本発明の溶射被膜被覆部材が適切な組成の封孔処理剤を用いて溶射被膜の間隙などの気孔を充填するので、大気中の水分の侵入を防止し、酸化物セラミックス溶射被膜の固有の値を低減させることなく、絶縁抵抗値および耐電圧特性の低下を抑制できることを示している。
また、封孔処理剤の浸透・充填層が十分存在するので、封孔処理後に溶射被膜表層部分を仕上げ研削あるいは研摩除去された場合でも溶射被膜の耐熱性や耐摩耗性、耐食性を大幅に向上させ、更に電気的性質も向上させることができる。このため、絶縁軸受等に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の溶射被膜被覆部材は、溶射被膜の耐熱性や耐摩耗性、耐食性を大幅に向上させ、更に機械的性質、電気的性質などの物性をも向上させることができるので、高精度な後加工が要求される、鋼等から構成される各種産業機械部品の溶射被膜の保護用部材、改質部材として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】絶縁抵抗試験の概略を示す図である。
【図2】耐電圧特性試験の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 硬化試験片
2 封孔処理済み溶射被膜
3 電極
4 絶縁抵抗計
5 配線
6 高電圧発生装置
7 モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材上に封孔処理剤で封孔処理された溶射被膜を有する溶射被膜被覆部材であって、前記封孔処理剤は、エポキシ基含有成分と硬化剤とを含み、重合性ビニル基含有溶剤を含まない封孔処理剤であり、前記封孔処理前の溶射被膜の表面層は、封孔処理前に所定厚さ除去されていることを特徴とする溶射被膜被覆部材。
【請求項2】
前記エポキシ基含有成分は、1分子中に含まれるエポキシ基の数が3個以上のポリグリシジルエーテル化合物を必須成分とし、1分子中に含まれるエポキシ基の数が2個のアルキレンジグリシジルエーテル化合物および環状脂肪族ジエポキシ化合物から選ばれた少なくとも1つを含む混合物であり、前記硬化剤を除く、前記エポキシ基含有成分全体に対して、ポリグリシジルエーテル化合物が 10〜80 重量%配合されていることを特徴とする請求項1記載の溶射被膜被覆部材。
【請求項3】
溶射被膜被覆部材が軸受構成部材表面に形成されている軸受において、前記溶射被膜被覆部材が請求項1または請求項2記載の溶射被膜被覆部材であることを特徴とする軸受。
【請求項4】
金属基材上に溶射被膜を形成する工程と、この溶射被膜の表面層を機械加工により除去する工程と、エポキシ基含有成分と硬化剤とを含み、重合性ビニル基含有溶剤を含まない封孔処理剤であり、前記エポキシ基含有成分は、1分子中に含まれるエポキシ基の数が3個以上のポリグリシジルエーテル化合物を必須成分とし、1分子中に含まれるエポキシ基の数が2個のアルキレンジグリシジルエーテル化合物および環状脂肪族ジエポキシ化合物から選ばれた少なくとも1つを含む混合物であり、前記硬化剤を除く、前記エポキシ基含有成分全体に対して、ポリグリシジルエーテル化合物が 10〜80 重量%配合されている封孔処理剤で封孔処理する工程とを備えることを特徴とする溶射被膜被覆部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−156690(P2008−156690A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345543(P2006−345543)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】