説明

画像パターン補正方法、及びそれを適用した模擬画像生成方法、並びにパターン外観検査方法

【課題】補正処理パラメータを最適化できて設計画像中のパターンにおけるコーナー部を簡易に精度良く補正し得る画像パターン補正方法を提供すること。
【解決手段】本発明の画像パターン補正方法を実施する装置には、設計データ入力手段からの設計画像に対して設計画像補正処理フィルタ係数計算手段で算出された加工過程特性フィルタと加工過程応答関数とを用いてパターンの補正処理を行うための設計画像補正実行手段5が備えられ、その細部構成は連続量の補正処理フィルタ係数で制御されてフィルタ処理を設計画像に施す加工過程特性フィルタ処理実行手段11と、連続量の補正処理応答関数パラメータ(何れの補正処理パラメータも公知の統計的学習則により算出される)で制御されてその出力結果を加工過程応答関数に入力して出力値を計算することで補正処理後の設計画像として出力する加工過程応答関数計算手段12とから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として設計画像中のパターンを補正するための画像パターン補正方法、及びそれを適用した模擬画像生成方法、並びにパターン外観検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レティクル,フォトマスクといった半導体集積回路に用いられるマスクの外観検査には、パターンの微細化に伴ってより高精度化が要求されている。これらのマスクは、露光の際に光を通す透過面と光を通さない遮光面とから成り、マスク上のパターンは2値的に表現することができる。このマスク上のパターンの設計データにおいて、透過面を白画素,遮光面を黒画素とする2値画像が設計画像として用いられているが、昨今では検査対象パターンの微細化により両者の境界に相当するパターンのエッジの位置をサブピクセルの精度で多階調画素で表現した画像が設計画像として用いられている。
【0003】
図8は、従来の多階調で表現された設計画像を例示した模式図である。この設計画像では、1マスを1画素とし、透過面領域(図8中の画素p3で示される領域)に存在する画素の画素値を1,遮光面領域(図8中の画素p2で示される領域)に存在する画素の画素値を0としており、透過面と遮光面との境界が1画素の中央の位置にある場合には、図8中の画素p1で示される境界線上の画素の画素値が0.5の列となることを示している。上述した半導体集積回路用のマスクは、こうした設計画像に基づいて、半導体基質に対して描画,エッチング等の加工を施すことにより作成される加工済パターンと見做すことができる。この加工済パターンに対してレーザー光や荷電粒子ビームを照射することで採取される実画像に合わせて対応した設計画像から参照画像を作成し、実画像及び参照画像を比較することで加工済パターンの外観検査を実行することができる。
【0004】
即ち、参照画像は設計データ通りにパターンを加工できた場合に採取される画像を表現しており、実画像側にパターンの欠けや寸法の違い等の欠陥がある場合にはその相違が両者の差分となって現れることになる。従って、高精度な外観検査を行うためには、実画像上の正常なパターンとそれに対応した参照画像上のパターンとが正確に一致している必要があり、参照画像の作成の際にはパターン加工の際に生じるパターン変形と、光学系を用いて行われる画像採取での画像のぼけといった画像の劣化とを反映させなければならない。
【0005】
一般に、設計データからマスクへの加工過程におけるパターン変形には、上述した通りのパターンの描画過程における変形と、エッチング等の化学過程における変形とがある。画像のぼけは、通常検査の際に走査するビームの強度分布を表現した点広がり関数の加工済パターンへの積和演算で表わされる線形劣化過程である。パターンの描画には電子ビームが使われることが多いが、この場合の描画過程におけるパターン変形は、描画に用いるビームの照射量を入力とした描画過程における半導体基質の応答関数である描画過程応答関数の出力で近似することができる。
【0006】
即ち、電子ビームの強度分布は、ビーム中心からの距離rの関数f(r)として、f(r)=Aexp(−r/B)+Aexp(−r/B)なる関係式1で表わされ、マスク上の任意の一点における蓄積電荷量xは、その点を中心とした領域と関係式1の分布との積和演算で計算される。この蓄積電荷量xを入力とする描画過程応答関数の出力値は、描画過程後のその点におけるパターン描画精度を表わしている。描画過程応答関数の形は、図9に示されるような形になることが報告されている(非特許文献1参照)。
【0007】
図9に示される描画過程応答関数は、横軸が蓄積電荷量,縦軸が描画により取り除かれる遮光物質量を表わしている。設計画像上において画素値0の遮光領域では描画電子ビームが照射されないために除去遮光物質量はゼロであり、画素値1の透過領域では描画電子ビームが十分照射され蓄積電荷量も大きくなり、その結果として遮光物質量が完全に取り除かれることになる。描画過程におけるパターン変形は、特に画像パターンにおけるコーナー部に生じる。その理由は、設計画像上でコーナー部が90度で表現されていても、描画に用いる電子ビームが有限サイズのビーム口経を持っているため、ビーム口経の分が原理的にどうしても丸まってしまうことによる。従って、実画像におけるコーナー部が丸まって観測されることになり、実画像との一致度が高い参照画像を作成するためには、設計画像のコーナー部も実画像に合わせて補正する必要がある。
【0008】
そこで、設計画像から実画像に類似した参照画像を作成する際に設計画像中の画像パターンにおけるコーナー部を補正する技術については、幾つかの公知技術が知られている。
【0009】
具体的に言えば、公知例1に係るシステムの場合、多階調の設計画像を2値化する際にパターンのコーナー部で生じる量子化誤差に起因したパターン形状の不連続性(1画素分の凹凸の発生)を解消するため、多階調設計画像からテンプレートマッチングによってコーナー部を検出し、予め用意された2値コーナー画像のテンプレートをコーナー部に適用している(特許文献1参照)。
【0010】
公知例2に係るシステムの場合、2値の設計画像において、パターンのコーナー部のビットを削除することでパターンのコーナー部の補正処理を実現している(特許文献2参照)。図10は、この特許文献2に係る設計画像中のパターンのコーナー部を補正する技術を説明するために示した模式図であり、同図(a−1)は三角形のパターンの2次元マップに関するもの,同図(a−2)はそのビット表現に関するもの,同図(b)は走査投影したビット列に関するもの,同図(c−1)は三角形のパターンにおけるコーナー部を変形した2次元マップに関するもの,同図(c−2)はそのビット表現に関するものである。即ち、ここでは図10(a−1)に示すような三角形のパターンがあった場合、そのビット表現は図10(a−2)に示すようになるが、この2次元マップを図10(b)に示すようにx方向,y方向に走査し、1個でも画像があれば「1」、なければ「0」とすることにより、パターンをx方向,y方向に投影した投影ビット列を得ておき、その投影ビット列の「0」と「1」との境界である図10(b)中に示した丸印を付した「1」の位置に相当するコーナー部の画素のビットを0とすることにより、図10(c−1)に示すようなコーナーが変形された画像となると共に、図10(c−2)に示すような2次元マップとなる。
【0011】
公知例3に係るシステムの場合、設計画像の各画素に対して円形やリング形といったフィルタを用いたフィルタ処理により設計画像の画素値を計算し、コーナー部を補正後の設計画像の画素値にしている(特許文献3参照)。図11は、この特許文献3に係る設計画像中のパターンのコーナー部を補正する技術を説明するために示した模式図であり、同図(a)はフィルタの係数値に関するもの,同図(b)はフィルタの係数和領域に関するものである。即ち、ここでは図11(a)に示すようなフィルタが与えられた場合、フィルタ中心を通る列で分けられた2領域の一方の領域におけるフィルタ係数和をM1,中心を通る列におけるフィルタ係数和をM2とすると、M1,M2はそれぞれ図11(b)に示される領域での係数和を計算することになり、M1=26,M2=22となる。このフィルタと設計画像との積和演算の結果をCとしたとき、コーナー部を補正した後の画素値L(C)は、C<M1のときには0,(M1+M2)≧C≧M1のときには(C−M1)/M2,C>(M1+M2)のときには1となる関係式2で計算される。
【0012】
そこで、図8で示したような画素値1で表わされる透過面と画素値0で表わされる遮光面との直線境界が画素0.5で表現されている設計画像における関数Lの動作を説明する。但し、図8中では1マスが1画素を表わすものとする。図8中の画素p1での積和演算の結果CはC=M1×1+M2×0.5であるので、関係式2よりL=(M1+M2×0.5−M1)/M2=0.5となり、関数Lを作用させる前と同じ画素値となる。図8中の画素p2での積和演算の結果CはM1より小さいためにL=0となり、図8中の画素p3での積和演算の結果Cは(M1+M2)より大きいためにL=1となる。即ち、関数Lは、直線パターン上の設計画像の画素の画素値を変化させず、コーナー部を構成する画素のみの画素値を変化させる関数となっている。
【0013】
公知例4に係るシステムの場合も、同様に設計画像中のパターンのコーナー部を補正する技術が開示されている(特許文献4参照)。図12は、この特許文献4に係る設計画像中のパターンのコーナー部を補正する技術を説明するために示した模式図であり、同図(a)は光学近接効果補正マスクのメインパターンのコーナー部にセリフと呼ばれる補助パターンを付加した状態に関するもの,同図(b)はセリフの検出に関してコーナー部が破線で囲われた状態に関するもの,同図(c)はテンプレートマッチングにより検出されたセリフが破線で囲われた状態に関するもの,同図(d)はコーナー部の補正処理後状態に関するものである。即ち、ここでは図12(a)に示されるような光学近接効果補正マスクのメインパターンのコーナー部に付加されるセリフと呼ばれる補助パターンの補正処理として、図12(b)に示されるようなテンプレートを用いたマッチング処理により図12(c)に示される破線で囲ったコーナー部のセリフを検出し、検出されたセリフに対してそのサイズ,形状,描画特性に応じた適切な修正を施すことにより、図12(d)に示されるようなコーナー部に簡易な補正処理が行われることを示している。
【0014】
公知例5に係るシステムの場合には、設計画像のコーナー部に対して円,楕円,直線,或いは他の方法で記述した曲線を適用し、実際のパターンのコーナー部の形状に近くなるように補正している(特許文献5参照)。
【0015】
公知例6に係るシステムの場合には、パターンのコーナー部の凹凸の別、及び90度,45度,135度の角度別にコーナー部を補正する度合いを決めることにより、設計画像におけるパターンのコーナー部を補正している(特許文献6参照)。
【0016】
【非特許文献1】Y.C.パティ他著「アン・エラー・メジャー・ドーズ・コレクション・イン・イービーム・ナノリソグラフィー」ジャーナル・バキューム・サイエンス・テクノロジーB8(6)、1990年、pp.1882−1888(Y.C.Pati et al,”an error measure for dose correction in e−beam nanolithography”,J.Vac.Sci.Technol.B 8(6),Nov/Dec 1990,p.1882−p.1888)
【特許文献1】特開平5−205046号公報(要約)
【特許文献2】特開平5−346405号公報(要約)
【特許文献3】特開平11−304453号公報(要約、第5頁、図8〜図10)
【特許文献4】特開2000−106336号公報(要約、第6頁〜第8頁、図4,図7)
【特許文献5】特開2001−338304号公報(要約、第4頁〜第6頁、図7)
【特許文献6】特開2003−107669号公報(要約、第8頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述した特許文献1〜特許文献6に係る設計画像中のパターンにおけるコーナー部を補正する技術の場合、何れについても設計画像のコーナー部におけるパターン補正処理に用いる補正処理パラメータが離散量であるため、結果として統計的学習則による補正処理パラメータを最適化し難いという欠点がある。
【0018】
一般に、ニューラルネットワークのような統計的学習則では実画像を教師信号、実画像と参照画像との誤差を評価関数とすることにより、評価関数値の最小化を図って参照画像生成に必要な補正処理パラメータの最適値を算出することができる。統計的学習則では、評価関数の補正処理パラメータに関する偏微分計算が必要となるため、参照画像が連続量の補正処理パラメータで表現されなければならない。実画像の劣化が線形演算である走査ビームの強度分布を表わす点広がり関数と設計画像との積和演算で表現できることから、参照画像が連続量の補正処理パラメータで表現されるということは、設計画像中のパターンに対するパターン補正処理が連続量の補正処理パラメータで制御されることと同値となる。
【0019】
そこで、特許文献1〜特許文献6に係る技術における問題の要点を説明すれば、特許文献1の場合には、パターンにおけるコーナー部の補正処理をテンプレートマッチングで行っているため、補正処理パラメータはテンプレートの番号といった離散量となっており、統計的学習則を用いることができず、特許文献2の場合には、ビット処理による画像パターンにおけるコーナー部の補正処理であり、学習が必要な補正処理パラメータは存在しない。又、特許文献3の場合には、予め番号付けされたフィルタの中から1つを選択してパターンにおけるコーナー部を補正するものであり、補正処理パラメータがフィルタ番号という離散量であるため、統計的学習則を用いることができず、特許文献4の場合には、パターンにおけるコーナー部の補正処理の前にテンプレートを用いたセリフ検出処理を行っているが、テンプレートは離散表現であるために統計的学習を用いることができない。更に、特許文献5の場合には、補正処理パラメータの算出方法について記述が無い上、パターンにおけるコーナー部の補正処理に際して、画像パターンのコーナー部を検出する必要があるため、これでは連続量の補正処理パラメータのみで表現することができず、特許文献6の場合には、補正処理パラメータの算出方法について記述が無い上、設計画像からコーナー部を検出する他、パターンにおけるコーナー部の凹凸の判定、パターンにおけるコーナー部の角度の算出、及び90度,45度,135度と離散的に表現された角度毎のパターンにおけるコーナー部の補正処理が必要であるため、補正処理パラメータを統計的学習で算出することができない。
【0020】
本発明は、このような問題点を解決すべくなされたもので、その技術的課題は、統計的学習則による補正処理パラメータを最適化し得ると共に、設計画像中のパターンにおけるコーナー部を簡易に精度良く補正し得る画像パターン補正方法、及びそれを適用した模擬画像生成方法、並びにパターン外観検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明によれば、設計画像中のパターンを補正するための画像パターン補正方法において、パターンの補正を連続量の補正処理パラメータによって制御して行う画像パターン補正方法が得られる。
【0022】
又、本発明によれば、上記画像パターン補正方法において、補正処理パラメータは、統計的学習則によって算出される画像パターン補正方法が得られる。
【0023】
一方、本発明によれば、設計画像を入力して該設計画像中のパターン補正処理を行った出力画像に対して画像劣化処理を行うことにより模擬画像を生成する模擬画像生成方法において、パターン補正処理として、上記何れかの画像パターン補正方法を採用した模擬画像生成方法が得られる。
【0024】
他方、本発明によれば、加工済パターンをビーム走査して電気信号に変換して得られる実画像、並びに該加工済パターンに対応した設計画像からパターン加工過程と該実画像の取得時の光学系による画像劣化過程とを考慮して得られる参照画像を入力して該実画像及び該参照画像を比較することにより該加工済パターン中の欠陥の有無の判定結果を出力するパターン外観検査方法において、設計画像中のパターンに対するパターン補正処理として上記何れかの画像パターン補正方法を適用したパターン外観検査方法が得られる。
【0025】
更に、本発明によれば、上記パターン外観検査方法において、パターン補正処理は、上記画像パターン補正方法が適用され、補正処理パラメータは、実画像を教師信号とした統計的学習則によって算出されるパターン外観検査方法が得られる。
【0026】
加えて、本発明によれば、上記パターン外観検査方法において、パターン補正処理は、連続量の補正処理フィルタパラメータにより制御されるフィルタの1個のものによる処理、及び該フィルタの処理の結果を入力して連続量の補正処理応答関数パラメータで制御される応答関数の1個のものにより行われるパターン外観検査方法が得られる。このパターン外観検査方法において、補正処理フィルタパラメータ及び補正処理応答関数パラメータは、実画像を教師信号とした統計的学習則により算出されること、補正処理フィルタパラメータは、実画像を教師信号とした統計的学習則により算出されること、或いは補正処理応答関数パラメータは、実画像を教師信号とした統計的学習則により算出されることはそれぞれ好ましい。
【0027】
又、本発明によれば、上記パターン外観検査方法において、パターン補正処理は、補正処理フィルタパラメータにより制御されるフィルタの複数個による処理と該フィルタの複数個のものの処理結果を入力として補正処理応答関数パラメータで制御される応答関数の複数個による出力値とを統合することによって行われるパターン外観検査方法が得られる。このパターン外観検査方法において、補正処理フィルタパラメータ及び補正処理応答関数パラメータは、実画像を教師信号とした統計的学習則により算出されること、補正処理フィルタパラメータは、実画像を教師信号とした統計的学習則により算出されること、或いは補正処理応答関数パラメータは、実画像を教師信号とした統計的学習則により算出されることはそれぞれ好ましい。
【0028】
更に、本発明によれば、上記パターン外観検査方法において、補正処理フィルタパラメータで表現されるフィルタと画像劣化過程を再現するためのフィルタとを統合することにより生成された統合フィルタを用いて参照画像を生成するパターン外観検査方法が得られる。このパターン外観検査方法において、補正処理フィルタパラメータ及び補正処理応答関数パラメータは、実画像を教師信号とした統計的学習則により算出されることは好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の画像パターン補正方法の場合、パターンの補正を連続量の補正処理パラメータによって制御して行うことを基本とし、補正処理パラメータを統計的学習則によって算出されるものとしているので、パターン補正処理が連続量の補正処理パラメータで制御され、ニューラルネットワーク等の統計的学習則を用いた補正処理パラメータの算出が可能となることにより、補正処理パラメータを最適化した上で設計画像中のパターンにおけるコーナー部を簡易に精度良く補正し得るようになる。又、本発明の場合、設計画像を入力して設計画像中のパターン補正処理を行った出力画像に対して画像劣化処理を行うことにより模擬画像を生成する模擬画像生成方法についても、パターン補正処理に同様に統計的学習則によって算出された連続量の補正処理パラメータによってパターンの補正を制御することにより、簡易に高精度な模擬画像を生成し得るようになる。更に、本発明の場合、加工済パターンをビーム走査して電気信号に変換して得られる実画像、並びに加工済パターンに対応した設計画像からパターン加工過程と実画像の取得時の光学系による画像劣化過程とを考慮して得られる参照画像を入力して実画像及び参照画像を比較することにより加工済パターン中の欠陥の有無の判定結果を出力するパターン外観検査方法についても、設計画像中のパターンに対するパターン補正処理に同様な統計的学習則により得られた連続量の補正処理パラメータによってパターンの補正を制御することにより、加工済パターンとそれに対応した設計画像中のパターンとの相違が設計画像中のパターンを補正することにより解消されるようになり、実画像で観測されるパターンにおけるコーナー部と一致したパターンにおけるコーナー部を参照画像上で実現することができるため、結果として高精度にパターン外観検査を行うことができるようになる。特に、本発明のパターン外観検査方法では、参照画像の補正処理パラメータに関する偏微分値を計算できるため、その偏微分値を用いて実画像及び参照画像の2乗差を最小化するように統計的学習則を実行することにより、実画像との誤差が最小となる最適な補正処理パラメータを算出することができるため、従来に無く高精度にパターン外観検査を行うことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の最良の形態に係る画像パターン補正方法は、設計画像中のパターンを補正する際、パターンの補正を連続量の補正処理パラメータによって制御して行うものである。但し、補正処理パラメータは、統計的学習則によって算出されるものとする。この結果、パターン補正処理が連続量の補正処理パラメータで制御され、ニューラルネットワーク等の統計的学習則を用いた補正処理パラメータの算出が可能となることにより、補正処理パラメータを最適化した上で設計画像中のパターンにおけるコーナー部を簡易に精度良く補正し得るものとなる。
【0031】
即ち、本発明の画像パターン補正方法では、従来技術の課題を解決するため、パターン加工過程の一つである描画過程におけるパターン変形を補正する手法として、描画電子ビームの強度分布を表わすフィルタを描画過程の特性を表わす加工過程特性フィルタとし、且つ図9で示した描画過程応答関数を描画過程の基質の応答を表わす加工過程応答関数と見做し、加工過程特性フィルタと設計画像との積和演算によって各画素における蓄積電荷量を算出し、更に得られた蓄積電荷量を加工過程応答関数に入力して補正後のパターンを出力する。
【0032】
この画像パターン補正方法を実施するための画像パターン補正装置は、加工過程特性フィルタ処理実行手段と加工過程応答関数計算手段とにより構成される設計画像補正実行手段を有する。
【0033】
加工過程特性フィルタ処理実行手段では、設計画像G中の各画素に対して関係式1で表わされる描画電子ビーム強度分布と等価の係数を持つ加工過程特性フィルタFとの積和演算(F*G)を行い、加工過程応答関数計算手段では、図9で示された描画過程応答関数を図8に示されるようなシグモイド関数S(x)として、S(x)={1+exp(−βx)}−1なる関係式3で近似する。即ち、図1は、本発明の画像パターン補正方法で用いる描画過程応答関数に近似されるシグモイド関数を例示したものである。
【0034】
更に、加工過程応答関数を関係式3のシグモイド関数S(x)とし、加工過程特性フィルタ処理実行手段で計算された各画素が持つ積和演算(F*G)の値にバイアスαを足した特徴量CをC=(F*G)+αなる関係式4で得る。これにより、関係式4を加工過程応答関数であるシグモイド関数S(x)の関係式3の入力とすれば、画像HをH=S(C)なる関係式5で算出できるので、この関係式5の画像Hをパターン補正処理後の設計画像として出力する。
【0035】
ところで、本発明の画像パターン補正方法は、加工済パターンをビーム走査して電気信号に変換して得られる実画像、並びに加工済パターンに対応した設計画像からパターン加工過程と実画像の取得時の光学系による画像劣化過程とを考慮して得られる参照画像を入力して実画像及び参照画像を比較することにより加工済パターン中の欠陥の有無の判定結果を出力するパターン外観検査方法へ適用すれば有効であり、設計画像中のパターンに対するパターン補正処理に同様な実画像を教師信号とした統計的学習則により算出された連続量の補正処理パラメータによってパターンの補正を制御することにより、実画像で観測されるパターンにおけるコーナー部と一致したパターンにおけるコーナー部を参照画像上で実現することができ、加工済パターンとそれに対応した設計画像中のパターンとの相違が設計画像中のパターンの補正により解消されるようになり、結果として高精度にパターン外観検査を行うことができる。
【0036】
但し、本発明のパターン外観検査方法では、補正処理パラメータを実画像を教師信号とした統計的学習規によって算出されるものとするが、パターン補正処理は、連続量の補正処理フィルタパラメータにより制御されるフィルタの1個のものによる処理、及びフィルタの処理の結果を入力して連続量の補正処理応答関数パラメータで制御される応答関数の1個のものにより行われるものとするか、或いは補正処理フィルタパラメータにより制御されるフィルタの複数個による処理とフィルタの複数個のものの処理結果を入力として補正処理応答関数パラメータで制御される応答関数の複数個による出力値とを統合することによって行われるものとすることができる。何れにおいても、補正処理フィルタパラメータ及び補正処理応答関数パラメータについては、選択的に実画像を教師信号とした統計的学習則により算出されるものとすることが好ましい。又、参照画像の生成に際しては、補正処理フィルタパラメータで表現されるフィルタと画像劣化過程を再現するためのフィルタとを統合することにより生成された統合フィルタを用いて参照画像を生成することができる。この場合においても、補正処理フィルタパラメータ及び補正処理応答関数パラメータは、実画像を教師信号とした統計的学習則により算出されるものとすることが好ましい。
【0037】
何れにしても、本発明では補正処理パラメータとして、フィルタ処理を表現する補正処理フィルタパラメータと応答関数を表現する補正処理応答関数パラメータとを持っており、関係式1中のA1,A2,B1,B2が補正処理フィルタパラメータ、関係式4のα及び関係式3のβが補正処理応答関数パラメータとなる。パターン外観検査の際に走査するビームを表現した点広がり関数を画像劣化過程再現フィルタPを用いるものとすると、参照画像Refは、連続量である補正処理パラメータの関数Hを用いてRef=H*Pとして表現できる。従って、参照画像Refの補正処理パラメータA1,A2,B1,B2,α,βに関する偏微分が∂Ref/∂A=(∂H/∂A)*P={(∂C/∂A)×[βexp(−βC)/{1+exp(−βC)}]}*P=[{exp(−r/B)*G}×βexp(−βC)/{1+exp(−βC)}]*P、∂Ref/∂A=(∂H/∂A)*P={(∂C/∂A)×[βexp(−βC)/{1+exp(−βC)}]}*P=[{exp(−r/B)*G}×βexp(−βC)/{1+exp(−βC)}]*P、∂Ref/∂B=(∂H/∂B)*P={(∂C/∂B)×[βexp(−βC)/{1+exp(−βC)}]}*P=[{(2A/B)exp(−r/B)*G}×βexp(−βC)/{1+exp(−βC)}]*P、∂Ref/∂B=(∂H/∂B)*P={(∂C/∂B)×[βexp(−βC)/{1+exp(−βC)}]}*P=[{(2A/B)exp(−r/B)*G}×βexp(−βC)/{1+exp(−βC)}]*P、∂Ref/∂α=(∂H/∂α)*P={(∂C/∂α)×[βexp(−βC)/{1+exp(−βC)}]}*P=[βexp(−βC)/{1+exp(−βC)}]*P、∂Ref/∂β=(∂H/∂β)*P=[Cexp(−βC)/{1+exp(−βC)}]}*Pのように計算できるため、これらの偏微分値を用いて実画像Realと参照画像Refとの2乗差DiffであるDiff=(Real−Ref)2を最小化するように統計的学習則を実行することにより、実画像Realとの誤差が最小となる最適な補正処理パラメータを算出することができる。
【0038】
以下は、本発明の画像パターン補正方法(パターン外観検査方法へ適用可能なもの)を実施するための画像パターン補正装置について、幾つかの実施例を挙げて具体的に説明する。
【実施例1】
【0039】
図2は、本発明の実施例1に係る画像パターン補正装置の基本機能を示したブロック図である。
【0040】
この実施例1に係る画像パターン補正装置は、加工済パターンをレーザー光や荷電粒子ビーム等で走査して電気信号へ変換することにより実画像として画像化する加工済パターン走査実画像入力手段1と、設計データを画像として取り込む設計データ入力手段2と、設計画像補正処理に用いる加工過程特性フィルタ形状や加工過程応答関数の形を計算する設計画像補正処理フィルタ係数計算手段3と、画像劣化再現フィルタ処理に用いる画像劣化再現フィルタ形状を計算する画像劣化再現フィルタ係数計算手段4と、設計画像中のパターンを実画像に合わせて補正する設計画像補正処理実行手段5と、走査に用いた光学系に起因する実画像の劣化を再現するフィルタ処理を設計画像補正処理実行手段5の出力画像に対して行って参照画像として出力する画像劣化再現フィルタ処理実行手段6と、加工済パターン走査実画像入力手段1で得られた実画像と画像劣化再現フィルタ処理実行手段6で得られた参照画像とを比較してパターン外観検査を実行する画像比較手段7と、画像比較手段7における比較結果としてパターン外観検査結果を出力する検査結果出力手段8とを備えて構成される。
【0041】
この画像パターン補正装置では、設計画像補正処理フィルタ係数計算手段3において補正処理パラメータを統計的学習則により算出されたものを使用するという前提的条件、並びに図2中の破線で囲まれた設計画像補正実行手段5が新規な機能部分となっている。図3は、この設計画像補正実行手段5の細部機能を示したブロック図である。
【0042】
図3を参照すれば、設計画像補正実行手段5は、設計データ入力手段2の出力である設計画像に対して加工過程特性フィルタを用いたフィルタ処理を行う加工過程特性フィルタ処理実行手段11と、そのフィルタ処理の実行結果を加工過程応答関数に入力して出力値を計算する加工過程応答関数計算手段12とから構成されている。但し、ここでの加工過程特性フィルタ処理実行手段11は、連続量の補正処理フィルタ係数で制御されてフィルタ処理を設計画像に対して施し、加工過程応答関数計算手段12は、連続量の補正処理応答関数パラメータ(何れの補正処理パラメータも公知の統計的学習則により算出される)で制御されてその出力結果を加工過程応答関数に入力して出力値を計算することでパターン補正処理後の設計画像として出力するようになっている。
【0043】
そこで、以下は図2及び図3を参照してこの画像パターン補正装置における全体の動作について説明する。尚、以下の説明では、加工過程として描画過程に注目し、描画ビームとして電子ビームを使用する。
【0044】
この画像パターン補正装置において、加工済パターン走査実画像入力手段1では、加工済パターンをレーザー光や荷電粒子ビームで走査して電気信号へ変換することにより実画像として取得し、画像比較手段7へ出力する。
【0045】
設計データ入力手段2では、加工済パターン走査実画像入力手段1で走査した加工済パターンに対応した設計データを取り込んで設計画像として設計画像補正処理実行手段5へ出力する。
【0046】
設計画像補正処理フィルタ係数計算手段3では、実画像を教師信号としてニューラルネットワーク,ルベンバーグ・マカート法,共役勾配法等の公知の統計的学習則を用いることで算出された関係式1の描画電子ビーム強度分布のパラメータA,A,B,Bを補正処理フィルタパラメータとすると共に、関係式4のα及び関係式3のβを補正処理応答関数パラメータとして読み込み、描画過程の特性を表わす関係式1の描画電子ビーム強度分布と等価の係数を持つフィルタを加工過程特性フィルタとした上、関係式3の応答関数を加工過程応答関数として計算し、設計画像補正処理実行手段5へ出力する。
【0047】
画像劣化再現フィルタ係数計算手段4では、加工済パターンの走査に用いた光学系に起因する実画像中のぼけを再現するためのぼけ関数の広がりをパラメータとして読み込み、画像劣化再現フィルタの形状を計算して画像劣化再現フィルタ処理実行手段6へ出力する。
【0048】
設計画像補正処理実行手段5では、設計データ入力手段2から出力された設計画像に対して、設計画像補正処理フィルタ係数計算手段3で算出された加工過程特性フィルタと加工過程応答関数とを用いてパターンの補正処理を行い、そのパターンの補正処理画像を画像劣化再現フィルタ処理実行手段6へ出力する。
【0049】
画像劣化再現フィルタ処理実行手段6では、設計画像補正処理実行手段5から出力されたパターンの補正処理画像に対して、画像劣化再現フィルタ係数計算手段4で算出された画像劣化再現フィルタの形状に従った画像劣化再現処理が行われ、その結果を参照画像として画像比較手段7へ出力する。
【0050】
画像比較手段7では、加工済パターン走査実画像入力手段1で得られた実画像と画像劣化再現フィルタ処理実行手段6で得られた参照画像とが然るべき基準で比較され、その比較結果を検査結果出力手段8へ出力する。検査結果出力手段8では、画像比較手段7から出力された比較結果であるパターン外観検査の結果を出力する。
【0051】
ところで、図3を参照すれば、設計画像補正処理実行手段5では、加工過程特性フィルタ処理実行手段11が設計画像補正処理フィルタ係数計算手段3で算出された加工過程特性フィルタを用いた積和演算を入力された設計画像の各画素に対して実行し、加工過程応答関数計算手段12が設計画像中の各画素に対して加工過程特性フィルタ処理実行手段11で計算した積和演算値に関係式4のαを加えた値を設計画像補正処理フィルタ係数計算手段3で算出された加工過程応答関数に入力してその出力値をパターン補正処理後の設計画像の画素値(パターン補正処理画像)とする。
【0052】
図4は、この実施例1に係る画像パターン補正装置の基本動作を示したフローチャートである。
【0053】
この画像パターン補正装置の場合、図2及び図3のブロック図を参照すれば、図2の構成との対比でステップA1が図2における加工済パターン走査実画像入力手段1、ステップA2が設計データ入力手段2、ステップA3,A4が設計画像補正処理フィルタ係数計算手段3、ステップA5が画像劣化再現フィルタ係数計算手段4、ステップA6〜A13が設計画像補正処理実行手段5、ステップA14が画像劣化再現フィルタ処理実行手段6、ステップA15が画像比較手段7、ステップA16が検査結果出力手段8のそれぞれの動作を表わし、又図3の構成との対比でステップA8が加工過程特性フィルタ処理実行手段11、ステップA9が加工過程応答関数計算手段12のそれぞれの動作を表わす。
【0054】
具体的に言えば、ステップA1では、加工済パターンに対してレーザーや荷電粒子ビームによる走査を行って電気信号に変換し、A×Aの実画像としてA×Aの配列RealImg[A][A]に保存する。ステップA2では、ステップA1で取り込んだ実画像(加工済パターン)に対応した設計データを画像化し、A×Aの配列Design[A][A]に保存する。ステップA3では、加工過程特性フィルタのサイズがM×Mと設定され、関係式1中のA,A,B,B、関係式3中のβ、及び関係式4中のαの値が与えられる。ステップA4では、ステップA3で入力されたA,A,B,Bを用い、関係式1の分布と同じ形状のフィルタF[M][M]が算出され、配列に保存される。ステップA5では、画像劣化再現フィルタのサイズがN×Nと設定され、加工済パターンの走査に用いた光学系に起因した画像劣化として、パターン走査ビームの広がりをパラメータとして読み込んで画像のぼけを表現(画像劣化過程を再現)するぼかしフィルタP[N][N]が算出され、配列に保存される。
【0055】
ステップA6,A7では配列の添字j=1,i=1が初期化設定される。ステップA8では、設計画像Design中の画素(i,j)を中心としたM×Mの領域でフィルタ(配列)Fを用いた積和演算が行われ、その結果が積和演算値Cとして保存される。ステップA9では、ステップA8で得られた積和演算値Cと、ステップA3で得られたパラメータα,βとから補正処理後の画素値C′をC′=1/(1+exp{−β(C+α)})として算出したものを画素(i,j)のパターン補正処理後の画像値とし、配列Design′にDesign′[i][j]=C′として保存する。ステップA10では、i=Aであるか否かを判定し、i=Aであれば引き続いてステップA11でj=Aであるか否かを判定するが、ここでi=AでなければステップA12でi=i+1としてからステップA7のi=1の後にリターンし、j=AでなければステップA13でj=j+1としてからステップA6のj=1の後にリターンするようにし、画像Designの全画素が補正されるまで、ステップA8、A9の処理を繰り返す。
【0056】
j=Aである場合のステップA14では、補正処理後の設計画像である配列Design′に対して、ステップA5で設定されたフィルタ(配列)Pを用いた積和演算処理が行われ、ぼかされたパターン補正処理後の設計画像が参照画像として配列RefImg[A][A]に保存される。ステップA15では、ステップA1で得られた実画像RealImgとステップA14で得られた参照画像RefImgとが比較され、然るべき基準によりパターン外観検査を実行する。ステップA16では、ステップA15で行われた検査結果を出力する。
【0057】
尚、実施例1に係る画像パターン補正装置の場合、描画ビーム強度分布を得るために電子ビームを使用する場合を説明したが、描画ビーム強度分布は連続量の補正処理フィルタパラメータで制御されるものであれば、用いる描画ビームの種類に合わせて形を変えるようにしても良い。又、描画過程における応答関数として、描画ビームが電子ビームである場合を想定したシグモイド関数を説明したが、描画ビームが他のビームの場合にはそれに合わせた連続量の補正処理フィルタパラメータで制御される描画過程応答関数を用いても良い。更に、パターン加工過程として描画過程を例にして説明したが、エッチング等の化学過程を表現する連続量の補正処理フィルタパラメータで制御される特性フィルタと連続量の補正処理応答関数パラメータで制御される応答関数とを用いて設計画像の補正を行うようにすることも可能である。
【実施例2】
【0058】
図5は、本発明の実施例2に係る画像パターン補正装置に備えられる設計画像補正実行手段5′の細部機能を示したブロック図である。
【0059】
実施例2に係る画像パターン補正装置は、加工過程特性フィルタ処理に用いるフィルタがn個(n≧1)あると共に、加工過程応答関数の計算に用いる応答関数がm個(m≧2)ある場合に設計画像補正処理を実行するものである。
【0060】
ここでの設計画像補正処理実行手段5′の場合、設計データ入力手段2の出力である設計画像に対して1,2,…,n(但し、n≧1)個の加工過程特性フィルタ処理実行手段11〜11においてそれぞれ加工過程特性フィルタ1〜nによるフィルタ処理が実行され、各加工過程特性フィルタ処理実行手段11〜11の出力結果をそれぞれ1,2,…,m(≧2)個の加工過程応答関数計算手段12〜12に入力し、各加工過程応答関数計算手段12〜12においてそれぞれ加工過程応答関数1〜mの出力値を計算して加工過程応答関数出力値統合手段13へ出力し、加工過程応答関数出力値統合手段13において各加工過程応答関数計算手段12〜12の出力を統合してパターン補正処理後の設計画像として出力する。
【0061】
即ち、この設計画像補正処理手段5′を図3に示した設計画像補正処理手段5と比較すると、構成上において加工過程特性フィルタ処理実行手段11がn(≧1)個分備えられ、加工過程応答関数計算手段12がm(≧2)個分備えられ、且つ各加工過程応答関数計算手段12〜12の出力を統合するための加工過程応答関数出力値統合手段13が追加されている点が相違している。
【0062】
以下は、図5を参照してこの画像パターン補正装置における全体の動作を説明する。但し、ここでは説明を簡単にするため、1個の加工過程特性フィルタと2個の加工過程応答関数とを用いてパターンのコーナー部でのみ補正処理を行い、それ以外の部分では補正処理を行わない場合について説明する。
【0063】
ここでは、関係式2の関数Lが積和演算値Cに関する折れ線関数となるが、折れ線関数を図9で示した描画過程の応答関数の粗い近似とみなすことにより、関係式2のLを関係式3のシグモイド関数と共に2個目の応答関数として設計画像のパターン補正処理を実行する。但し、応答関数Lを用いるにあたっては、描画電子ビーム強度分布を表わすフィルタのうち、図11(b)に示したようなフィルタ中心を通る列で分けられる2領域の一方におけるフィルタ係数和をM1,フィルタ中心を通る列におけるフィルタ係数和をM2とする。尚、関係式1の描画電子ビーム強度分布は対称分布であるため、図11(b)の左側領域における係数和をM1としても同じ結果となる。パターン補正処理前の設計画像上の画素Pixにおける画素値をq、画素Pixにおける加工過程特性フィルタと設計画像との積和演算値(積和演算結果)Cとし、関係式4のα、関係式3のβ、及びフィルタ係数和M1,M2から関係式3の関数Sと関係式2の関数Lとを計算し、{1−exp(−{q−L(C)}/γ})}S(C)+exp(−{q−L(C)}/γ)L(C)で表わされるような関係式6の線形結合した結果をパターン補正処理後の画素Pixの画素値とする。
【0064】
この関係式6を用いれば、γの値を調整することでパターンのコーナー部以外のパターンで応答関数Lの係数を1、パターンのコーナー部では応答関数Sの係数を1とすることができるので、パターンのコーナー部でのみ描画過程特性を反映した補正処理が行われ、直線パターンでは補正が行われないようにすることができる。
【0065】
図5における加工過程特性フィルタ処理実行手段11では、図2に示す設計画像補正処理フィルタ係数計算手段3において補正処理パラメータA,A,B,Bから計算された関係式1の描画電子ビーム強度分布と等価の係数を持つ加工過程特性フィルタ1を用い、設計画像に対する積和演算が行われる。1個目の加工過程応答関数計算手段12では、加工過程応答関数として、加工過程特性フィルタ処理実行手段11の積和演算結果と図2に示す設計画像補正処理フィルタ係数計算手段3で入力された補正処理パラメータの関係式3のシグモイド関数のβ、並びに関係式4のαとを用いて関係式3の関数の値を各画素について計算する。
【0066】
2個目の加工過程応答関数計算手段12では、加工過程応答関数として、加工過程特性フィルタ処理実行手段11の積和演算結果と関係式2とから関数Lの値を各画素について計算する。加工過程応答関数出力値統合手段13では、各画素における関数Sと関数Lの値とを関係式6に従って線形結合してパターン補正処理後の設計画像として出力する。
【0067】
図6は、この実施例2に係る画像パターン補正装置の基本動作を示したフローチャートである。
【0068】
この画像パターン補正装置の場合、図2及び図5のブロック図を参照すれば、図2の構成との対比でステップB1が加工済パターン走査実画像入力手段1、ステップB2が設計データ入力手段2、ステップB3〜B5が設計画像補正処理フィルタ係数計算手段3、ステップB6が画像劣化再現フィルタ係数計算手段4、ステップB7〜B16が設計画像補正処理実行手段5、ステップB17が画像劣化再現フィルタ処理実行手段6、ステップB18が画像比較手段7、ステップB19が検査結果出力手段8のそれぞれの動作を表わし、又図5の構成との対比でステップB9が加工過程特性フィルタ処理実行手段11、ステップB10,B11が加工過程応答関数計算手段12,12、ステップB12が加工過程応答関数出力値統合手段13のそれぞれの動作を表わす。
【0069】
尚、図6中のステップB1,B2はそれぞれ図4中のステップA1,A2と、図6中のステップB4,B6はそれぞれ図4中のステップA4,A5と、図6中のステップB7〜B9はそれぞれ図4中のステップA6〜A8と、図6中のステップB13〜B19はそれぞれ図4中のステップA10〜A16と同じ動作を行うので、これらの説明部分は省略する。
【0070】
相違部分について説明すれば、ステップB3では、加工過程特性フィルタのサイズをM×Mとし、関係式1中のA,A,B,B、関係式3中のβ、関係式4中のαの値、及び応答関数計算結果の統合に用いる関係式6のγが与えられる。ステップB5ではフィルタ(配列)Fに対して図11(b)に示したように、フィルタ中心を通る列で分けられるフィルタの2領域の一方の係数和がM1、フィルタ中心を通る列におけるフィルタ係数和がM2として算出される。ステップB10では、積和演算値Cとαとから関係式5に従って応答関数Sの出力をC1′=1/(1+exp{−β(C+α)})として計算する。ステップB11では、応答関数Lの出力C2′をフィルタ係数和M1,M2と積和演算値Cとから関係式2に従って計算する。ステップB12では、δ=C2′−Design[i][j]とし、γを用いて関係式6に従ってC′=(1−exp{−δ×δ/(γ×γ)})×C1′+exp{−δ×δ/(γ×γ)}×C2′で得られるC′を画素(i,j)におけるパターン補正処理後の画素値(C1′,C2′が線形に統合され、その結果がパターン補正処理後の設計画像の画素値となる)とし、配列Design′[i][j]=C′として保存する。
【0071】
尚、この実施例2に係る画像パターン補正装置の場合、1個の加工過程特性フィルタ処理実行手段11が加工過程特性フィルタ1を備え、2個の加工過程応答関数計算手段12,12が加工過程応答関数1,2を有する場合を説明したが、加工過程特性フィルタ処理実行手段(加工過程特性フィルタ)や加工過程応答関数計算手段(加工過程応答関数)の個数はこれに制限されるものでなく、任意に設定することが可能である。又、ここでは特性過程応答関数の出力値の統合方法として線形結合する場合を例に説明したが、これに代えて平均画像を用いたり、或いは差画像を用いたりすることで統合することも可能である。更に、ここでは特性過程応答関数の出力値の統合方法としてパターン補正処理後の設計画像を1個出力する構成として説明したが、画像劣化再現フィルタ処理で複数個のフィルタを用いる場合等に合わせて、補正処理後の設計画像を複数個出力するように構成することも可能である。
【実施例3】
【0072】
図7は、本発明の実施例3に係る画像パターン補正装置の基本機能を示したブロック図である。
【0073】
実施例3に係る画像パターン補正装置は、加工過程応答関数が線形関数であり、画像劣化再現フィルタ処理が積和演算のような線形処理である場合に加工過程特性フィルタと画像劣化再現フィルタとを統合することにより、設計画像補正処理と画像劣化再現フィルタ処理とを1つに纏めて行うものである。
【0074】
即ち、この画像パターン補正装置を図2に示した画像パターン補正装置と比較すると、構成上において設計画像補正処理における加工過程特性フィルタ処理で用いるフィルタと画像劣化再現フィルタ処理で用いるフィルタとを統合するフィルタ統合手段20が存在し、且つ設計画像補正処理実行手段5と画像劣化再現フィルタ処理実行手段6とが統合された統合フィルタ処理実行手段21とが備えられた点が相違している。
【0075】
以下は、図7を参照してこの画像パターン補正装置における全体の動作を説明する。但し、ここでは加工過程として描画過程に注目し、描画ビームとして電子ビームを使用する。又、線形の加工過程応答関数として、描画電子ビームの積和演算値をそのまま出力する恒等関数を想定する。従って、設計画像Gに描画電子ビーム強度分布と等価の係数を持つ加工過程特性フィルタFの積和演算を施し、その後に画像劣化再現フィルタPによる積和演算を施す参照画像生成過程は、P*(F*G)=(P*F)*Gなる関係式7のようになる。これにより、P*Fなる関係式8で統合されたフィルタと設計画像Gとの積和演算を実行するのと同等の処理となる。尚、加工済パターン走査実画像入力手段1,設計データ入力手段2,設計画像補正処理フィルタ係数計算手段3,及び画像劣化再現フィルタ係数計算手段4と、画像比較手段7,検査結果出力手段8とは、何れも図2に示した画像パターン補正装置に備えられるものと同様であるので、説明は省略する。
【0076】
この画像パターン補正装置の場合、フィルタ統合手段20では、設計画像補正処理フィルタ係数計算手段3で設定された描画電子ビーム強度分布と等価の係数を持つ加工過程特性フィルタFと画像劣化再現フィルタ係数計算手段4で設定された画像劣化再現フィルタPとに対して関係式8で表わされる積和演算処理が行われ、統合フィルタQが作成される。統合フィルタ処理実行手段21では、設計画像に対して統合フィルタQを用いた積和演算処理が実行され、統合フィルタ処理後の設計画像として出力される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の画像パターン補正方法の場合、設計画像を入力して設計画像中のパターン補正処理を行った出力画像に対して画像劣化処理を行うことにより模擬画像を生成する模擬画像生成方法についても有効に適用でき、ここでのパターン補正処理に同様に統計的学習則によって算出された連続量の補正処理パラメータによってパターンの補正を制御すれば簡易に高精度な模擬画像を生成し得るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の画像パターン補正方法で用いる描画過程応答関数に近似されるシグモイド関数を例示したものである。
【図2】本発明の実施例1に係る画像パターン補正装置の基本機能を示したブロック図である。
【図3】図2に示す画像パターン補正装置に備えられる設計画像補正実行手段の細部機能を示したブロック図である。
【図4】図2に示す画像パターン補正装置の基本動作を示したフローチャートである。
【図5】本発明の実施例2に係る画像パターン補正装置に備えられる設計画像補正実行手段の細部機能を示したブロック図である。
【図6】図5で説明した画像パターン補正装置の基本動作を示したフローチャートである。
【図7】本発明の実施例3に係る画像パターン補正装置の基本機能を示したブロック図である。
【図8】従来の多階調で表現された設計画像を例示した模式図である。
【図9】従来の非特許文献1に示される参照描画過程応答関数の形を例示した模式図である。
【図10】従来の特許文献2に係る設計画像中のパターンのコーナー部を補正する技術を説明するために示した模式図であり、(a−1)は三角形のパターンの2次元マップに関するもの,(a−2)はそのビット表現に関するもの,(b)は走査投影したビット列に関するもの,(c−1)は三角形のパターンをコーナー部を変形した2次元マップに関するもの,(c−2)はそのビット表現に関するものである。
【図11】従来の特許文献3に係る設計画像中のパターンのコーナー部を補正する技術を説明するために示した模式図であり、(a)はフィルタの係数値に関するもの,(b)はフィルタの係数和領域に関するものである。
【図12】従来の特許文献4に係る設計画像中のパターンのコーナー部を補正する技術を説明するために示した模式図であり、(a)は光学近接効果補正マスクのメインパターンのコーナー部にセリフと呼ばれる補助パターンを付加した状態に関するもの,(b)はセリフの検出に関してコーナー部が破線で囲われた状態に関するもの,(c)はテンプレートマッチングにより検出されたセリフが破線で囲われた状態に関するもの,(d)はコーナー部の補正処理後状態に関するものである。
【符号の説明】
【0079】
1 加工済パターン走査実画像入力手段
2 設計データ入力手段
3 設計画像補正処理フィルタ係数計算手段
4 画像劣化再現フィルタ係数計算手段
5,5′ 設計画像補正処理実行手段
6 画像劣化再現フィルタ処理実行手段
7 画像比較手段
8 検査結果出力手段
11,11〜11 加工過程特性フィルタ処理実行手段
12,12〜12 加工過程応答関数計算手段
13 加工過程応答関数出力値統合手段
20 フィルタ統合手段
21 統合フィルタ処理実行手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設計画像中のパターンを補正するための画像パターン補正方法において、前記パターンの補正を連続量の補正処理パラメータによって制御して行うことを特徴とする画像パターン補正方法。
【請求項2】
請求項1記載の画像パターン補正方法において、前記補正処理パラメータは、統計的学習則によって算出されることを特徴とする画像パターン補正方法。
【請求項3】
設計画像を入力して該設計画像中のパターン補正処理を行った出力画像に対して画像劣化処理を行うことにより模擬画像を生成する模擬画像生成方法において、前記パターン補正処理として、請求項1又は2記載の画像パターン補正方法を採用したことを特徴とする模擬画像生成方法。
【請求項4】
加工済パターンをビーム走査して電気信号に変換して得られる実画像、並びに該加工済パターンに対応した設計画像からパターン加工過程と該実画像の取得時の光学系による画像劣化過程とを考慮して得られる参照画像を入力して該実画像及び該参照画像を比較することにより該加工済パターン中の欠陥の有無の判定結果を出力するパターン外観検査方法において、前記設計画像中のパターンに対するパターン補正処理として請求項1又は2記載の画像パターン補正方法を適用したことを特徴とするパターン外観検査方法。
【請求項5】
請求項4記載のパターン外観検査方法において、前記パターン補正処理は、請求項2記載の画像パターン補正方法が適用され、前記補正処理パラメータは、前記実画像を教師信号とした統計的学習則によって算出されることを可能とするパターン外観検査方法。
【請求項6】
請求項4記載のパターン外観検査方法において、前記パターン補正処理は、連続量の補正処理フィルタパラメータにより制御されるフィルタの1個のものによる処理、及び該フィルタの処理の結果を入力して連続量の補正処理応答関数パラメータで制御される応答関数の1個のものにより行われることを特徴とするパターン外観検査方法。
【請求項7】
請求項6記載のパターン外観検査方法において、前記補正処理フィルタパラメータ及び前記補正処理応答関数パラメータは、前記実画像を教師信号とした統計的学習則により算出されることを特徴とするパターン外観検査方法。
【請求項8】
請求項6記載のパターン外観検査方法において、前記補正処理フィルタパラメータは、前記実画像を教師信号とした統計的学習則により算出されることを特徴とするパターン外観検査方法。
【請求項9】
請求項6記載のパターン外観検査方法において、前記補正処理応答関数パラメータは、前記実画像を教師信号とした統計的学習則により算出されることを特徴とするパターン外観検査方法。
【請求項10】
請求項6記載のパターン外観検査方法において、前記パターン補正処理は、前記補正処理フィルタパラメータにより制御される前記フィルタの複数個による処理と該フィルタの複数個のものの処理結果を入力として前記補正処理応答関数パラメータで制御される前記応答関数の複数個による出力値とを統合することによって行われることを特徴とするパターン外観検査方法。
【請求項11】
請求項10記載のパターン外観検査方法において、前記補正処理フィルタパラメータ及び前記補正処理応答関数パラメータは、前記実画像を教師信号とした統計的学習則により算出されることを特徴とするパターン外観検査方法。
【請求項12】
請求項10記載のパターン外観検査方法において、前記補正処理フィルタパラメータは、前記実画像を教師信号とした統計的学習則により算出されることを特徴とするパターン外観検査方法。
【請求項13】
請求項10記載のパターン外観検査方法において、前記補正処理応答関数パラメータは、前記実画像を教師信号とした統計的学習則により算出されることを特徴とするパターン外観検査方法。
【請求項14】
請求項6記載のパターン外観検査方法において、前記補正処理フィルタパラメータで表現されるフィルタと前記画像劣化過程を再現するためのフィルタとを統合することにより生成された統合フィルタを用いて参照画像を生成することを特徴とするパターン外観検査方法。
【請求項15】
請求項14記載のパターン外観検査方法において、前記補正処理フィルタパラメータ及び前記補正処理応答関数パラメータは、前記実画像を教師信号とした統計的学習則により算出されることを特徴とするパターン外観検査方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−11270(P2006−11270A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191563(P2004−191563)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】