説明

相分離を抑制したポリブタジエン樹脂組成物とそれを用いたプリント基板

【課題】本発明は、高周波領域の誘電特性を損なわずに、1,2-ポリブタジエン樹脂組成物の相分離を抑制し、成型性、誘電特性、耐熱性、接着性の優れた組成物およびそれを用いた多層プリント基板を得ることを課題とする。
【解決手段】本発明は、1,2-ポリブタジエン単位を有する数平均分子量1000〜20000の架橋成分(A)と、1分間における半減期温度が80〜140℃であるラジカル重合開始剤(B)と、1分間における半減期温度が170〜230℃であるラジカル重合開始剤(C)とを含み、(A)成分を100重量部として、(B)成分を3〜10重量部含み、(C)成分を5〜15重量部含むことを特徴とするポリブタジエン樹脂組成物、ならびにそれを用いて製造されるプリプレグ、積層板およびプリント基板に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は相分離を抑制したポリブタジエン樹脂組成物とそれを絶縁層とするプリント基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PHS、携帯電話等の情報通信機器の信号帯域、コンピューターのCPUクロックタイムはGHz帯に達し、高周波数化が進行している。電気信号の伝送損失は、誘電損失と導体損失と放射損失の和で表され、電気信号の周波数が高くなるほど誘電損失、導体損失、放射損失は大きくなる関係にある。伝送損失は電気信号を減衰させ、信号の信頼性を損なうので、高周波信号を取り扱う配線基板においては誘電損失、導体損失、放射損失の増大を抑制する工夫が必要である。誘電損失は、回路を形成する絶縁材料の比誘電率の平方根、誘電正接及び使用される信号の周波数の積に比例する。そのため、絶縁材料として誘電率及び誘電正接の小さな材料を選定することによって誘電損失の増大を抑制することができる。そのような絶縁材料として構造中にヘテロ原子を持たない熱硬化性のポリブタジエンが古くから検討されてきた。特公昭47-51952号、特公昭48-14428号においては、1,2-ブタジエン単位を80wt%以上有する数平均分子量1000〜20000の低分子量ポリブタジエンと更に必要によりビニル単量体、シランカップリング剤、充填剤、硬化促進剤、顔料を添加したポリブタジエン樹脂組成物が開示されており、更にこのポリブタジエン樹脂組成物をガラス繊維等の補強剤に含浸させ、有機過酸化物の存在下、加熱、加圧して作製する積層板が開示されている。また、特公昭58-21925号、特公昭58-21926号においては、1,2-ブタジエン単位を50%以上含み、数平均分子量が100000〜200000である高分子量ポリブタジエンを架橋成分とするポリブタジエン樹脂組成物が開示されており、その効果としてプリプレグの段階で良好なタックフリー性を有することを明かしている。
【0003】
【特許文献1】特公昭47-51952号公報
【特許文献2】特公昭48-14428号公報
【特許文献3】特公昭58-21925号公報
【特許文献1】特公昭58-21926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなポリブタジエン樹脂組成物は、根本的に以下のような課題を有していた。第一に低分子量ポリブタジエンを架橋成分とするポリブタジエン系樹脂組成物は、タックフリー性が低く、そのプリプレグが粘着性を有することから保管およびハンドリング性が低かった。第二に高分子量ポリブタジエンは、常温で固体であるためハンドリング性は優れるものの、高濃度ワニスの粘度が非常に高く、塗工作業に適したワニス粘度(≦500 cP)に調製すると10 wt%程度の希薄なワニスとなり、基材への含浸量を調節するために複数回の塗工、乾燥作業が必要であった。第三は、ポリブタジエンは低極性であるため、フィラー、難燃剤、ブレンドポリマー等の他の材料との相溶性が低く、プレス加工時に架橋成分であるポリブタジエンが相分離し、積層板の系内から滲み出すという問題があった。相分離の発生は、積層板の外観を損ねるばかりでなく、架橋成分であるポリブタジエンの系外への滲み出しによる硬化不足、それにともなう耐溶剤性の低下を招く。
【0005】
本発明の目的は、高濃度ワニスを調製した際のワニス粘度の低減とタックフリー性を両立するとともに、架橋成分であるポリブタジエンと他の複合材料との相分離を抑制したポリブタジエン樹脂組成物とそれを用いたプリント基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 下記式(1)で表される繰り返し単位を有する数平均分子量1000〜20000の架橋成分(A)と、1分間における半減期温度が80〜140℃であるラジカル重合開始剤(B)と、1分間における半減期温度が170〜230℃であるラジカル重合開始剤(C)とを含み、(A)成分を100重量部として、(B)成分を3〜10重量部含み、(C)成分を5〜15重量部含むことを特徴とするポリブタジエン樹脂組成物。
【0007】
【化1】

【0008】
(2) 熱重合に基づく第一の発熱ピークが80〜140℃に存在し、第二の発熱ピークが170〜230℃に存在することを特徴とする(1)に記載のポリブタジエン樹脂組成物。
(3) (C)成分が2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン‐3であることを特徴とする(1)または(2)に記載のポリブタジエン樹脂組成物。
(4) スチレン-ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物(D)と、難燃剤(E)と、無機フィラー(F)とを更に含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のポリブタジエン樹脂組成物。
(5) (A)成分における式(1)の繰り返し単位の含有率が90 wt%以上であり、(D)成分におけるスチレン残基の含有率が10〜30 wt%であり、(E)成分が式(2)または式(3)で表される化合物であり、(F)成分がビニル基と反応しうるカップリング処理剤にて表面処理を施した酸化ケイ素フィラーであることを特徴とする(4)に記載のポリブタジエン樹脂組成物。
【0009】
【化2】

【0010】
【化3】

【0011】
(6) (A)成分を100重量部として、(D)成分を15〜100重量部、(E)成分を50〜100重量部、(F)成分を80〜200重量部を含有することを特徴とする(4)または(5)に記載のポリブタジエン組成物。
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載のポリブタジエン樹脂組成物において、(B)成分に基づく熱重合反応を終了させて得られるポリブタジエン樹脂組成物。
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載のポリブタジエン樹脂組成物を有機または無機材料のクロスまたは不織布に含浸し、次いで、ポリブタジエン樹脂組成物の熱重合に基づく第一の発熱ピーク温度に対して-10℃から+10℃の範囲の温度にて加熱乾燥を行うことを特徴とするプリプレグの製造方法。
(9) (1)〜(7)のいずれかに記載のポリブタジエン樹脂組成物を有機または無機材料のクロスまたは不織布に含浸し、次いで、ポリブタジエン樹脂組成物の熱重合に基づく第一の発熱ピーク温度に対して-10℃から+10℃の範囲の温度にて加熱乾燥して得られるプリプレグ。
(10) (9)に記載のプリプレグと導体箔とを重ね、次いで、加圧および加熱によりプリプレグを硬化させるとともに硬化されたプリプレグと導体箔とを接着させることにより製造される積層板。
(11) (10)に記載の積層板の表面に配置された導体箔に配線加工をほどこして得られるプリント基板を複数、(9)に記載のプリプレグを介して積層接着し、その後、層間配線を形成することにより製造される多層プリント基板。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、汎用的に用いられている1,2-ポリブタジエンを架橋成分とする樹脂組成物のワニス化、プリプレグ化が容易になる。本発明のプリプレグは成型加工が容易で、相分離、架橋成分の滲み出しが無い。本発明のプリプレグから作製される積層板および多層プリント基板は比誘電率、誘電正接が低く、銅箔との接着力、耐熱性が高いことから、高周波機器の基材材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第一の形態は、式(1)で表される繰り返し単位を有する数平均分子量1000〜20000の架橋成分(A)と、1分間における半減期温度が80〜140℃であるラジカル重合開始剤(B)と、1分間における半減期温度が170〜230℃であるラジカル重合開始剤(C)とを含み、(A)成分を100重量部として、(B)成分を3〜10重量部含み、(C)成分を5〜15重量部含むことを特徴とするポリブタジエン樹脂組成物である。
【0014】
本発明の第二の形態は、熱重合に基づく第一の発熱ピークが80〜140℃に存在し、第二の発熱ピークが170〜230℃に存在することを特徴とする前記ポリブタジエン樹脂組成物である。
【0015】
1,2-ポリブタジエンのラジカル重合性(硬化性)を検討したところ、ポリブタジエンの硬化の進行度は、硬化時間、温度によらずラジカル重合開始剤の添加量に依存することが判明した。これにより、適量のラジカル重合開始剤の添加と、ワニス調製時の加熱またはプリプレグ乾燥時の加熱によって1,2-ポリブタジエンの架橋を進行させ、三次元的な架橋構造を有する高分子量体とすることによって、タックフリー性の改善、他成分との相分離防止が可能であると考えた。
【0016】
本発明の架橋成分(A)としては、高濃度ワニスのワニス粘度低減の観点から、数平均分子量1000〜20000の低分子量1,2-ポリブタジエンが好ましい。特に、硬化性の観点から式(1)で示される1,2-ブタジエン単位を90 wt%以上含有する1,2-ポリブタジエンが好ましい。架橋成分(A)に含まれ得る1,2-ブタジエン単位以外の繰り返し単位としては、例えばシス-1,4-ブタジエン単位又はトランス-1,4-ブタジエン単位が挙げられる。
【0017】
ラジカル重合開始剤(B)は、ワニス調製時またはプリプレグ乾燥時の比較的低い温度において架橋成分(A)に架橋反応をもたらす成分である。以下、(B)成分を低温開始剤(B)と称す。低温開始剤(B)には、比較的低い温度でのラジカルの発生が求められることから、1分間における半減期温度が80〜140℃の範囲に存在するラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。低温開始剤(B)の添加量は、架橋成分(A)を100重量部として3〜10重量部の範囲が好ましく、3重量部未満では、相分離、滲み出しの抑制が不十分であり、10重量部よりも多いとワニス粘度の増大、プレス加工時の樹脂組成物の流動性低下を生じる。低温開始剤(B)の例としては、イソブチルパーオキサイド、α,α’-ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、ジ-n-プロピルパーオキシジカルボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジイソプロピルパーオキシジカルボネート、1-シクロへキシル-1-メチルエチルパーオキシネオデカノエート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカルボネート、ジ(2-エチルヘキシルパーオキシ)ジカルボネート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、ジメトキシブチルパーオキシジデカネート、ジ(3-メチル-3-メトキシブチルパーオキシ)ジカルボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキシド、オクタノイルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシ-2-エチルヘキサネート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、m-トルオイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレートを挙げることができる。更に好ましい例としては室温における保存安定性が優れた低温開始剤(B)としてベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、ビス(4-t-ブチルシクロへキシル)パーオキシジカルボネートを挙げることができる。室温での保存安定性の優れた低温開始剤(B)の使用は、ラジカル重合開始剤の貯蔵時の安全性の向上のみならず、保管時に分解反応が生じにくいため、重合開始性能が安定しており、プリプレグに含まれる樹脂材料の相分離防止、流動性のコントロールが容易であることから好ましい。中でもベンゾイルパーオキサイドは活性酸素含有量が高いので重合効率が高く、特に好ましい。
【0018】
ラジカル重合開始剤(C)は、積層板または多層プリント基板作製時のプレス加工の際にプリプレグの硬化を促進する機能を果たす。これにより積層板または多層プリント基板の耐熱性、耐溶剤性等が改善される。以下、ラジカル重合開始剤(C)を高温開始剤(C)と称す。高温開始剤(C)には低温開始剤(B)よりも高い温度でラジカルを発生することが求められ、1分間における半減期温度が170〜230℃の範囲に存在するラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。その添加量は、架橋成分(A)を100重量部として5〜15重量部の範囲が好ましく、5重量部未満では、硬化不足となり耐溶剤性が低下する場合があり、15重量部よりも多い場合には硬化が進みすぎてピール強度を満足しない場合がある。高温開始剤(C)の例としては、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、t-ブチルトリメチルシリルパーオキサイドを挙げることができる。特に2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3は、誘電特性の著しい劣化をもたらさないので好ましい。
【0019】
本発明では、物性のバランスをとるために、ポリブタジエン樹脂組成物にスチレン-ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物(D)、難燃剤(E)、無機フィラー(F)を添加することができる。
【0020】
スチレン-ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物(D)は、系の誘電特性を劣化させることなくプリプレグのタックフリー性を改善する効果を有する。(D)成分のスチレン残基含有率は10〜30 wt%が好ましく、本範囲のスチレン残基を有する(D)成分を用いることにより、ガラス転移温度を低下させること無く、タックフリー性を改善することができる。一方、スチレン残基が10 wt%未満の(D)成分を用いた場合、高分子量ポリブタジエンを添加した場合と同様にワニス粘度の増大を招き、30 wt%よりも高いスチレン残基含有率の(D)成分を用いた場合には、硬化時にミクロ相分離が生じ、ガラス転移温度が100℃程度に低下する場合がある。
【0021】
難燃剤(E)は、系に難燃性を付与する成分であり、特に好ましい難燃剤としては、誘電正接が小さく、分解温度、溶融温度、難燃効果がともに高い式(2)または式(3)で表される化合物からなる難燃剤が好ましく用いられる。難燃剤(E)の粒径は、0.2〜3.0μmであることが好ましく、これによりワニス保管時の難燃剤の沈澱防止、沈殿物の再分散が容易となる。
【0022】
無機フィラー(F)は、系の熱膨張の低減に寄与する。好ましいフィラー種としては、誘電正接の値が小さい酸化ケイ素が好ましく、更にフィラー表面は系の誘電正接の低減効果、1,2-ポリブタジエンの相分離の抑制効果を発揮させるためにビニル系のカップリング処理剤により表面処理を施すことが好ましい。(F)成分の粒径は、平均粒径が0.5〜60μmの範囲にあることが、生産性、最終製品の絶縁性確保の観点から好ましい。
【0023】
各複合材料の配合比率は、架橋成分(A)を100重量部として、(D)成分が15〜100重量部、(E)成分が50〜100重量部、(F)成分が80〜200重量部であることが好ましく、本範囲の中で最終製品に求める特性に合わせて調整することが好ましい。
【0024】
本発明のポリブタジエン樹脂組成物は、ワニス調製時またはプリプレグ乾燥時に低温開始剤(B)に基づく第一の熱重合を完了させた後、プリプレグとして使用され得る。ワニス化するための有機溶媒は、架橋成分(A)およびスチレン-ブタジエンブロック共重合体の良溶媒であることが好ましく、その例としてTHF、トルエン、シクロヘキサン等を挙げることができる。本発明の組成比においては、30〜50wt%の固形分濃度において≦500 cPのワニス粘度を得ることができる。
【0025】
プリプレグの乾燥時間は、作業性の観点から10〜30分程度の短い時間が好ましく、そのため乾燥温度は低温開始剤(B)に基づく第一の発熱ピーク温度の±10℃の範囲とすることが好ましい。これにより速やかに低温開始剤(B)に基づくラジカルが発生し、架橋反応が短時間で進行する。また、乾燥雰囲気は、ラジカルの失活を防止する観点から窒素雰囲気または窒素気流下で行うことが好ましい。空気中でプリプレグを乾燥する場合には、ワニス調製時に窒素気流下で低温開始剤(B)に基づく架橋反応を完結せしめ、その後、プリプレグ化することが好ましい。これにより、プリプレグ硬化物の余分な酸化が防止され、積層板、多層プリント基板の誘電特性の劣化を防止することができる。
【0026】
本発明のポリブタジエン樹脂組成物は、各種有機または無機材料のクロスまたは不織布に含浸し、乾燥してプリプレグとして使用する。特に無機材料のクロスまたは不織布を使用する場合には、前記無機フィラーの場合と同様にして、カップリング処理剤によりクロスまたは不織布表面を改質して用いることが好ましい。無機材料のクロスまたは不織布としては、ガラスクロスまたはガラス不織布が挙げられる。
【0027】
本発明のプリプレグを電解銅箔、圧延銅箔等の導体箔と重ね、加熱プレス加工することによって、表面に導体層を有する積層板を作製することができる。本発明のプリプレグ中では、低温開始剤(B)に由来する架橋反応によって、1,2-ポリブタジエンが高分子量化されているから、本発明のプリプレグを積層板の製造に使用することにより、相分離の発生とプレス加工時の1,2-ポリブタジエンの系外への滲み出しが抑制される。また、プリプレグの作製時にカップリング処理剤により表面処理された無機フィラー(F)および/またはクロスもしくは不織布が使用されている場合には、1,2-ポリブタジエンと無機フィラー表面および/またはクロスもしくは不織布表面との間に適度な共有結合が形成されるから、相分離の発生とプレス加工時の1,2-ポリブタジエンの系外への滲み出しの抑制効果はより一層高められる。
【0028】
加熱プレス加工時の温度条件は、高温開始剤(C)に基づく熱重合反応によりプリプレグ中のポリブタジエンが硬化できる条件である限り特に限定されない。このような条件としては、例えば170〜230℃の温度条件が挙げられる。加熱プレス加工時の圧力条件は、硬化したプリプレグと導体箔とを接着させることができる条件である限り特に限定されない。このような条件としては、例えば1〜5 MPaの圧力条件が挙げられる。
【0029】
本発明の積層板に用いる導体箔の好ましい形状としてはエッチング等の加工精度の観点から導体箔の厚さは、9〜36μm程度が好ましく、導体損失、放射損失の低減の観点からプリプレグの樹脂層との接着面の表面粗さは1〜3μmであることが好ましい。表面粗さが小さな導体箔の使用は、導体損失、放射損失が小さくなるため電気信号の損失が低減され、低誘電正接樹脂を用いた多層プリント配線板の優れた伝送特性を劣化させることがないので好ましい。本発明では表面粗さが小さな導体箔の表面を前記無機フィラーの場合と同様にしてカップリング処理剤により表面改質することによって、プリプレグの樹脂層と導体箔との接着力を向上することができる。表面粗さの小さな導体層の接着性を増すことによって、後述するエッチング加工、多層化といった多層プリント配線板の製造プロセスにおける導体層の剥離、断線といった問題を防止することができる。
【0030】
本発明のプリプレグ、積層板を用いた多層プリント配線板の作製例を説明する。本発明の積層板の導体層を通常のエッチング法によって配線加工し、前記プリプレグを介して配線加工した積層板を複数積層し、加熱プレス加工することによって多層化する。その後、ドリル加工またはレーザー加工によるスルーホールまたはブラインドビアホールの形成とめっきまたは導電性ペーストによる層間配線の形成を経て多層プリント配線板を作製するものである。
【実施例】
【0031】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
(1)材料
架橋成分(A):
低分子1,2-ポリブタジエン、日本曹達(株)製B-3000、数平均分子量≒2600〜3400、1,2-ブタジエン単位含有率≧90wt%
比較例の架橋成分:
高分子1,2-ポリブタジエン、JSR(株)製RB830、数平均分子量≒170000、1,2-ブタジエン単位含有率≧90wt%
低温開始剤(B):
過酸化ベンゾイル(略称:BPO)、アルドリッチケミカルカンパニー製、純度≒75wt%、1分間半減期温度≒130℃
高温開始剤(C):
2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3(略称25B)、日本油脂株式会社製、1分間半減期温度≒196℃、純度≧90%
スチレン-ブタジエンブロック共重合体(D):
水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体:旭化成ケミカルズ株式会社製H1031、スチレン含有率30 wt%
水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体:旭化成ケミカルズ株式会社製H1051、スチレン含有率42 wt%
難燃剤(E):
1,2-ビス(ペンタブロモフェニル)エタン(式(2)で表される難燃剤)、アルベマール日本株式会社製、SAYTEX8010、平均粒径1.5μm
無機フィラー(F):
酸化ケイ素フィラー、株式会社アドマテックス製SO25R、平均粒径0.5μm
カップリング処理剤:
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製KBM503
導体箔:
カップリング処理付き銅箔、株式会社日鉱マテリアルズ製、厚さ18μm、マット面の表面粗さ(Rz)2μm
ガラスクロス:
NEガラスクロス、日東紡績工業株式会社製、厚さ約100μm
【0032】
(2)フィラーのカップリング処理
KBM503のメタノール溶液に酸化珪素フィラーを加えて、ボールミルにて8時間攪拌した。その後、フィラーをろ別して、120℃で4時間乾燥した。無機フィラーに対するカップリング処理剤の含有率は、0.8 wt%とした。
(3)ガラスクロスのカップリング処理
KBM503のメタノール溶液にガラスクロスを浸し、8時間静置した。その後、ガラスクロスを取り出し、120℃で4時間乾燥して表面処理を施した。ガラスクロスに対するカップリング処理剤の含有率は、0.2wt%とした。
(4)ワニスの調製
所定量の架橋成分(A)、低温開始剤(B)、高温開始剤(C)、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(D)、難燃剤(E)、無機フィラー(F)をボールミルによってトルエンに溶解、分散することによってポリブタジエン樹脂組成物のワニスを作製した。
(5)硬化物(樹脂板)の作製方法
上記ワニスをPETフィルムに塗布して窒素気流下、140℃/30分間乾燥した後、これを剥離して鉄製の厚さ1.5mmのスペーサ内に充填し、真空プレスによって加圧、加熱して硬化物を得た。硬化条件は室温から2 MPaに加圧し、一定速度(6℃/分)で昇温し、230℃で60分間保持とした。
【0033】
(6)プリプレグの作製方法
上記、ワニスにガラスクロスを浸漬し、一定速度で引き上げて室温で約1時間、窒素気流下、140℃/10分間加熱して乾燥した。プリプレグの重量に対する樹脂組成物の含有率は50〜55 wt%とした。
(7)積層板の作製方法
前述のように作製したプリプレグを100x100mmのサイズに切り出し、本プリプレグを6枚重ねて、200x200mmの銅箔2枚の間に挟んだ。その後、真空下、成型圧力2MPa、昇温速度6℃/分、保持温度230℃、保持時間60分の条件で成型加工して積層板を作製した。
(8)成形性の評価
先のように作製した積層板の銅箔をエッチングして、架橋成分(A)の相分離の有無、滲み出しの有無を観察した。また、樹脂組成物全体の流動性の指標として下記式により流動率を求めた。相分離、滲み出しがなく、流動率が3〜30%の試料を成形性良好とした。
流動率(%)=(積層板のサイズ(一片の長さmm)−100mm)/100mm x 100
(9)比誘電率、誘電正接の測定
空洞共振法(8722ES型ネットワークアナライザー、アジレントテクノロジー製; 空洞共振器、関東電子応用開発製)によって、10GHzの値を測定した。試料は1.8x80mm、厚さは積層板が約0.5mm、樹脂板が1.5mmに調整した。
(10)銅箔ピール強度の測定
積層板上の銅箔(幅5mm)を90°方向に50mm/分の速度で引き剥がしてピール接着強度を測定した。
【0034】
(11)ガラス転移温度(Tg)の測定
Tgは、アイティー計測制御製DVA-200型粘弾性測定装置(DMA)を用いて求めた。サンプルには銅箔をエッチングにより除いた2mm×30mm×0.5mmの積層板を用いた。支点間距離は20mmとし、昇温速度は5℃/分とした。
(12)耐溶剤製
先に作製した積層板の銅箔をエッチングし、20x20mmのサイズに切り出して試料とした。本試料を室温下、トルエン中に20時間浸漬し、膨潤の有無を評価した。
(13)はんだ耐熱性
(12)で作製した試料を260℃はんだ浴に20秒間浸漬し、膨れの発生の有無を評価した。
(14)ワニス粘度の測定
ワニス粘度は、E型粘度計を用いて、試料1 mL、測定温度23℃の条件で観測した。
【0035】
(比較例1、2)
架橋成分の分子量とワニス粘度の関係を表1に示した。比較例1の架橋成分は高分子量1,2-ポリブタジエンであり、希薄な11 wt%トルエン溶液において470 cPの高い粘度を示した。また、ワニス濃度を21 wt%に増すとポリブタジエンが溶解せず、ワニスが得られなかった。
【0036】
(実施例1、2)
架橋成分の分子量とワニス粘度の関係を表1に示した。実施例1の架橋成分は低分子量1,2-ポリブタジエン(B3000)を使用しているため52wt%においても18 cPと低い粘度が観測され、低分子量の架橋成分は作業性が良いワニスとなることが確認された。
【0037】
【表1】

【0038】
(比較例3)
低温開始剤(B)の添加量と主に成形性の関係を検討した。結果を表2に示した。低温開始剤(B)の添加量が1重量部である比較例3は、積層板の作製時に相分離が発生し、架橋成分であるB3000の滲み出しが観測された。また、B3000の滲み出し量が非常に大きく、流動率は観測できなかった。また、架橋成分の滲み出しの影響により、ガラス転移温度、耐溶剤性が低かった。
【0039】
(実施例3、4)
実施例3、4は、低温開始剤(B)をそれぞれ4重量部、10重量部含有する。低温開始剤(B)の増量により、架橋成分であるB3000の相分離、滲み出しは防止された。また、樹脂組成物の流動率は、5〜20%と観測された。低温開始剤の増量により誘電特性の劣化は観測されず、良好な値が観測された。本系は弾性率の温度依存性が小さく、明瞭なガラス転移温度は観測されなかった。また、トルエン中における積層板の膨潤も観測されず、はんだ耐熱性も良好な値を示した。
【0040】
(比較例4)
比較例4は低温開始剤(B)を15重量部含有する。低温開始剤(B)の増量によって架橋成分であるB3000の相分離、滲み出しは防止されたものの、流動率が0%となり、成型性が低下した。
【0041】
【表2】

【0042】
(実施例5)
スチレン-ブタジエンブロック共重合体(D)成分のスチレン含有率とガラス転移温度の関係を表3に示した。実施例3は、スチレン含有率30 wt%のH1031を含有し、ガラス転移温度は観測されなかった。スチレン含有率の42 wt%のH1051を含有する実施例5では、100℃にガラス転移温度が観測された。
【0043】
【表3】

【0044】
(比較例5)
高温開始剤(C)成分の含有量の検討を行った。結果を表4に示した。比較例5は、高温開始剤(C)成分の含有量が3重量部である。成形性、誘電特性、ピール強度は優れるものの耐溶剤性が低かった。
【0045】
(実施例6、7)
実施例6、7は、高温開始剤(C)成分をそれぞれ5重量部、15重量部含有する。成形性、誘電特性、耐溶剤性はともに優れる。ピール強度は高温開始剤(C)成分の増量に伴い低下する関係にあるものの、本検討の範囲では良好な値が観測された。
【0046】
【表4】

【0047】
(実施例8)
実施例6の両面銅張積層板およびプリプレグを用いて以下のように多層プリント基板を作製した。
(A)両面銅張積層板の片面にフォトレジスト(日立化成製HS425)をラミネートして全面に露光した。次いで残る銅表面にフォトレジスト(日立化成製HS425)をラミネートしてテストパターンを露光し、未露光部分のフォトレジストを1%炭酸ナトリウム液で現像した。
(B)硫酸5%、過酸化水素5%のエッチング液で露出した銅箔をエッチング除去して、両面銅張積層板の片面に導体配線を形成した。
(C)3%水酸化ナトリウム溶液で残存するフォトレジストを除去し、片面に配線を有する配線基板を得た。同様にして2枚の配線基板を作製した。
(D)二枚の配線基板の配線側の面を合わせ、間にプリプレグを挿入した。真空下、加熱、加圧して多層化した。加熱条件は230℃/60分、プレス圧力は2 MPaとした。
(E)作製した多層板の両面の外装銅にフォトレジスト(日立化成製HS425)をラミネートしてテストパターンを露光し、未露光部分のフォトレジストを1%炭酸ナトリウム液で現像した。
(F)硫酸5%、過酸化水素5%のエッチング液で露出した銅箔をエッチング除去し、3%水酸化ナトリウム溶液で残存するフォトレジストを除去して外装配線を形成した。
(G)内層配線と外装配線を接続するスルーホールをドリル加工で形成した。
(H)配線基板をめっき触媒のコロイド溶液に浸して、スルーホール内、基板表面に触媒を付与した。
(I)めっき触媒の活性化処理の後、無電解めっき(日立化成製CUST2000)により、約1μmの種膜を設けた。
(J)フォトレジスト(日立化成製HN920)を配線基板の両面にラミネートした。
(K)スルーホール部及び配線基板の端部をマスクして露光後、3%炭酸ナトリウムで現像して開孔部を設置した。
(L)配線基板の端部に電極を設置して電解めっきによってスルー部分にめっき銅を約18μm形成した。
(M)電極部分を切断除去し、残存するフォトレジストを5%水酸化ナトリウム水溶液で除去した。
(N)硫酸5%、過酸化水素5%のエッチング液に配線基板を浸して約1μmエッチングして種膜を除去し多層配線板を作製した。本多層配線板は、多層化の際の配線の断線、配線の剥離は生じなかった。また、本多層基板は絶縁材料の比誘電率、誘電正接が低いことから高周波機器の回路形成に適している
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】多層配線板作製時のプロセスを現わす模式図である。
【符号の説明】
【0049】
1…銅箔、2…樹脂基板、3…フォトレジスト、4…プリプレグ、5…内層配線、6…外層配線、7…スルーホール、8…めっき触媒、9…種膜、10…開孔部、11…電極、12…めっき銅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位を有する数平均分子量1000〜20000の架橋成分(A)と、1分間における半減期温度が80〜140℃であるラジカル重合開始剤(B)と、1分間における半減期温度が170〜230℃であるラジカル重合開始剤(C)とを含み、(A)成分を100重量部として、(B)成分を3〜10重量部含み、(C)成分を5〜15重量部含むことを特徴とするポリブタジエン樹脂組成物。
【化1】

【請求項2】
熱重合に基づく第一の発熱ピークが80〜140℃に存在し、第二の発熱ピークが170〜230℃に存在することを特徴とする請求項1に記載のポリブタジエン樹脂組成物。
【請求項3】
(C)成分が2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン‐3であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリブタジエン樹脂組成物。
【請求項4】
スチレン-ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物(D)と、難燃剤(E)と、無機フィラー(F)とを更に含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリブタジエン樹脂組成物。
【請求項5】
(A)成分における式(1)の繰り返し単位の含有率が90 wt%以上であり、(D)成分におけるスチレン残基の含有率が10〜30 wt%であり、(E)成分が式(2)または式(3)で表される化合物であり、(F)成分がビニル基と反応しうるカップリング処理剤にて表面処理を施した酸化ケイ素フィラーであることを特徴とする請求項4に記載のポリブタジエン樹脂組成物。
【化2】

【化3】

【請求項6】
(A)成分を100重量部として、(D)成分を15〜100重量部、(E)成分を50〜100重量部、(F)成分を80〜200重量部を含有することを特徴とする請求項4または5に記載のポリブタジエン組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリブタジエン樹脂組成物において、(B)成分に基づく熱重合反応を終了させて得られるポリブタジエン樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリブタジエン樹脂組成物を有機または無機材料のクロスまたは不織布に含浸し、次いで、ポリブタジエン樹脂組成物の熱重合に基づく第一の発熱ピーク温度に対して-10℃から+10℃の範囲の温度にて加熱乾燥を行うことを特徴とするプリプレグの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリブタジエン樹脂組成物を有機または無機材料のクロスまたは不織布に含浸し、次いで、ポリブタジエン樹脂組成物の熱重合に基づく第一の発熱ピーク温度に対して-10℃から+10℃の範囲の温度にて加熱乾燥して得られるプリプレグ。
【請求項10】
請求項9に記載のプリプレグと導体箔とを重ね、次いで、加圧および加熱によりプリプレグを硬化させるとともに硬化されたプリプレグと導体箔とを接着させることにより製造される積層板。
【請求項11】
請求項10に記載の積層板の表面に配置された導体箔に配線加工をほどこして得られるプリント基板を複数、請求項9に記載のプリプレグを介して積層接着し、その後、層間配線を形成することにより製造される多層プリント基板。

【図1】
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【公開番号】特開2008−94889(P2008−94889A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275430(P2006−275430)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】