説明

相手船動静監視装置

【課題】 Bスコープ座標で示される相手船妨害ゾーンの映像と平面座標で示されるレーダ映像との関係が容易に理解できるようにする。
【解決手段】
相手船妨害ゾーンを示す船舶航行支援装置の表示画面1とレーダ装置の表示画面9とは近接して配置される。それらの画面1,9は、VRMとEBLとにより相互に連動するようにされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輻湊する海域において未然に衝突を防止するために、船舶の運航者に有効な情報を提供する相手船動静監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
相手船の動静を監視する相手船動静監視装置としては、一般にレーダ装置が用いられている。最近では、そのレーダ装置に、レーダ信号をもとに自船及び相手船の動きを推定し、自船の航行安全を支援するシステムとしての自動衝突予防援助装置(ARPA)が付加されている。この自動衝突予防援助装置は、自船の針路とともに相手船の位置を表示し、相手船の速度及び針路を出力するもので、その表示画面は海図表現と一致しているので、船舶が輻湊する海域において全体的な操船計画を立てるのに有利である。しかしながら、自船に近づくほどレーダ映像が込み入り、衝突防止の行動判断が難しくなるという問題がある。
【0003】
一方、最近、海上の景観を投影する海上景観映像に、横軸が自船からの方位であり縦軸が自船からの距離である座標を設定し、レーダ映像を、座標が合致するように座標変換した後に重畳表示するようにした船舶航行支援装置が開発された(特許文献1参照)。その船舶航行支援装置の表示画面には、そのレーダ映像に、相手船と同一位置に到達する確率が設定値より高い領域が、相手船妨害ゾーンとして重畳表示される。この船舶航行支援装置によれば、自船に近づく複数映像も左右に拡大されるので、衝突危険度合いの判断が容易である。
【特許文献1】特開2005−61893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、その船舶航行支援装置は、レーダ映像がBスコープと呼ばれる表示形式となり、海図等の平面座標表示形式とは大きく異なるために、慣れないと違和感があり、扱いにくいという問題がある。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、上述のような船舶航行支援装置の表示画面に表示される映像とレーダ装置の表示画面に表示される映像との関係が容易に分かるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、本発明では、レーダ装置と上述のような船舶航行支援装置とを連動させるようにしている。
すなわち、本発明は、自船を中心とした他船の位置を表示するレーダ装置と、他船の速度及び針路に基づいて算出される相手船の予想位置と同一位置に到達する確率が設定値より高い領域である相手船妨害ゾーンを、横軸が自船からの方位であり縦軸が自船からの距離である座標上に表示する船舶航行支援装置と、を備え、前記レーダ装置及び船舶航行支援装置の一方にその表示画面上の任意の位置あるいは自船からの任意の方位を指定する操作を行ったとき、同じ位置あるいは同じ方位が他方にも表示されるようにされていることを特徴としている。
【0007】
また、本発明は、それに加えて、前記船舶航行支援装置は、カメラ装置で投影した海上の景観を表示する機能を有するものであって、前記レーダ装置及び船舶航行支援装置の一方にその表示画面上の任意の位置を指定する操作を行ったとき、前記カメラ装置がその方向の景観を拡大して表示するようにされていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
このように、レーダ装置と船舶航行支援装置とを連動させることにより、例えばレーダ装置にその表示画面上の任意の位置あるいは自船からの任意の方位を指定して相手船を特定すると、船舶航行支援装置のレーダ映像上での相手船も特定される。そして、その相手船の予測航路における相手船妨害ゾーンを見れば、衝突するおそれがあるか否かがわかる。したがって、レーダ装置の表示画面上で操船計画を立てることができる。
【0009】
また、特定された相手船をカメラ装置によって拡大して表示することにより、その相手船がどのような船舶であるかを知ることができる。
【実施例1】
【0010】
以下、本発明の実施例を、添付図面に基づいて説明する。
まず、本発明で用いられる船舶航行支援装置の表示画面について説明する。
図中、図1は自船からカメラで撮影した海上の景観を映像モニタに映し出したときの表示画面の一例を示す図であり、図2は図1の表示画面上に方位−距離座標と、座標変換後のレーダ映像と、船舶自動識別装置で捉えた相手船の位置情報の座標変換後の位置画像とを重ねて表示した場合の一例を示す図である。また、図3は相手船妨害ゾーンの基本的な考え方を説明するための説明図であり、図4は座標変換後の相手船妨害ゾーンを図2の表示画面上に重ねて表示した場合の一例を示す表示画面図である。
【0011】
図1において、船舶航行支援装置の表示画面1は、自船2に据え付けられたカメラによって撮影された海上の景観の一例を表示している。図1の表示画面1においては、自船2の前方に水平線3が見えており、船首前方の左寄りの位置に他船すなわち相手船の映像aが映し出され、船首前方右寄りの位置に別の相手船の映像b,c及びdが映し出されている。
【0012】
図2に示されているように、表示画面1の水平線3より上方には横軸xが設けられ、同横軸xに沿って自船2から見た景観の方位を表す目盛が、例えば310(度)、320(度)、330(度)、340(度)のように表記されている。これらの目盛から、自船2の針路rの方位は326.7度であることが分かる。
また、表示画面1には、横軸xに垂直な縦軸yが上方に向けて設けられている。この縦軸yは、図2においては表示画面1の左端縁に沿って設定されている。そして、縦軸yに沿って自船からの距離を表す目盛、例えば1(海里)、2(海里)、3(海里)、4(海里)のような目盛が表記されている。
こうして、横軸xと縦軸yとによって、表示画面1には、水平線3の上方に方位−距離座標面が設定されている。
【0013】
表示画面1の方位−距離座標面には、レーダで捉えた相手船と、船舶自動識別装置(AIS)で捉えた相手船とが相手船位置表示マークA,B,C及びDのようなマークによって表示されている。
図示の船舶航行支援装置は、レーダ及び船舶自動識別装置の少なくとも一方によって捉えられた各相手船の位置表示マークA,B,C及びDが、それぞれ横軸x上のどの位置に対応するものであるのかを間違いなく確実に判定して、各相手船を特定することができるように、表示画面1の方位−距離座標面上に表記された各相手船の位置表示マークA,B,C及びDの表示位置から方位−距離座標面の横軸xに引いた垂線A0,B0,C0,D0を、表示画面1の方位−距離座標面上に表示することができるようになっている。
【0014】
表示画面1には、方位−距離座標面上に表示された位置表示マークA,B,C及びDによって表示された相手船が現在の針路と速度とを維持した場合における各相手船の予想経路α,β,γ及びδが、それぞれ各位置表示マークA,B,C及びDを起点として、表示画面1の方位−距離座標面上に重ねて表示されている。また、表示画面の中央には、自船2が現在の針路を維持した場合における自船2の予想経路rが表示されている。
【0015】
各予想経路α,β,γ及びδは画面操作により個別に、あるいは全部同時に選択的に表示画面1の方位−距離座標面上に重ねて表示させることができるようになっている。そして、例えば予想経路αによって、位置表示マークAにより表示された相手船が、方位−距離座標面上において概ね自船2の針路と同じ方向に向けて航行しているということを瞬時に読み取ることができ、また、予想経路β,γ及びδによって、位置表示マークB,C及びDにより表示された相手船が、それぞれ方位−距離座標面上において、自船2の前方において自船2の右方から左方へ向けて自船2の進路を横切るようにして航行しているということを瞬時に読み取ることができる。
【0016】
次に、図3により、図2において位置表示マークBにより表示された相手船を例として、方位−距離座標への座標変換前の相手船妨害ゾーンの基本的な考え方について説明する。図3において、図2の位置表示マークBにより表示された相手船を相手船Bとして示し、その相手船Bの予想経路を予想経路βとして表示している。
相手船Bが、現在の針路と速度とを維持して予想経路βに沿って航行しているものとする。このときの相手船予想経路β上において相互に間隔を置いて選択した多数の位置をそれぞれ目標位置β1,β2,…βnとする。そして、相手船Bが現在の速度を維持しつつ予想経路β上を航行して各目標位置β1,β2,…βnに到達する予想時刻を演算装置によって求める。他方、自船2が現在の速度を維持しつつ予想経路β上の各目標位置β1,β2,…βnを目指して現在の位置から最短距離の予想経路r1,r2,…rnを選択して進んだ場合に各目標位置β1,β2,…βnに到達する時刻を演算装置によって求める。
【0017】
次に、相手船Bが現在の速度を維持しつつ予想経路β上を航行して各目標位置β1,β2,…βnに到達する予想時刻と、自船2が現在の速度を維持しつつ各目標位置β1,β2,…βnを目指して現在の位置から最短距離の予想経路r1,r2,…rnを選択して進んだ場合に各目標位置β1,β2,…βnに到達する時刻とが一致する確率を仮想到達時刻一致確率演算装置によって求める。そして、演算された仮想到達時刻一致確率が設定値以上となる目標位置、例えば目標位置β5,β6,…β10において、各目標位置β5,β6,…β10を中心とする一定半径の妨害ゾーン表示円Pをそれぞれ描く。
【0018】
この妨害ゾーン表示円Pを図2の表示画面1上に重ねて表示したのが図4である。図4において、妨害ゾーン表示円Pは、方位−距離座標への座標変換を経て表示されているため、各予想経路β及びδ上の各妨害ゾーン表示円Pは、それぞれ扁平に傾斜して互いに重なり合うようにして表示されている。例えば、予想経路β上の各妨害ゾーン表示円Pは、一群となって相手船妨害ゾーン表示域PBとして表示され、予想経路δ上の各妨害ゾーン表示円Pは、一群となって相手船妨害ゾーン表示域PDとして表示される。
【0019】
このようにして、船舶航行支援装置の表示画面1には、海上の景観を投影する海上景観映像の上方に、横軸が自船からの方位であり縦軸が自船からの距離である方位−距離座標が設定され、その座標上に、他船の速度及び針路に基づいて算出される相手船の予想位置と同一位置に到達する確率が設定値より高い領域である相手船妨害ゾーンが、重畳して表示される。
【0020】
本発明の相手船動静監視装置は、このような船舶航行支援装置をレーダ装置に連動させるようにしたものである。
すなわち、その相手船動静監視装置は、図5に示されているように、船舶航行支援装置5とレーダ装置6との間、及び船舶航行支援装置5とカメラ装置7との間で信号のやり取りが行われるように、それぞれインターフェイス51,61,71を介してそれら船舶航行支援装置5、レーダ装置6及びカメラ装置7を組んだものである。船舶航行支援装置5及びレーダ装置6には、それぞれ、VRM(Variable Range Marker:距離指定情報)、EBL(Electronic Bearing Line:方位指定情報)や各種の指令などを入力するための操作部52,62と、必要な情報を得て各種の演算を行う演算部53,63と、その結果を表示画面に表示する表示部54,64とが設けられる。また、カメラ装置7には、映像信号を船舶航行支援装置5に送るとともに、船舶航行支援装置5からモータ制御信号を受けてカメラ73をモータ駆動する制御部72が設けられる。カメラ73はズーム機能を有するもので、その水平画角と相手船妨害ゾーン表示画角とは、カメラ73で捉えた物標、レーダ映像、EBLを一致させるように設定しておく。
【0021】
レーダ装置6からは、レーダ映像信号と、他船の位置、速度及び針路信号と、VRMデータ及びEBLデータとが船舶航行支援装置5に送られる。船舶航行支援装置5においては、それらのデータを受信し、かつ自船の位置、速度、針路により、相手船妨害ゾーンを算出する。また、船舶航行支援装置5の操作部52に入力されたVRMデータ及びEBLデータは、レーダ装置6にも送られる。
【0022】
相手船動静監視装置の表示画面は、図6に示されているように、船舶航行支援装置5の表示画面1とレーダ装置6の表示画面9とを並列配置したものとされる。
図6において、船舶航行支援装置5の表示画面1及びレーダ装置6の表示画面9には、それぞれ物標としての船舶Sの映像が映し出されている。これらの船舶Sは同一のものであるが、表示画面1と表示画面9とは座標が異なるために一見したところでは分からない。そこで、レーダ装置6の操作部62にVRMとEBLとを入力し、レーダ装置6の表示画面9において、VRMとEBLとを調整して交点をその船舶Sに合わせる。すなわち、表示画面9上で位置を指定する。すると、船舶航行支援装置5の表示画面1においても、VRMとEBLとがレーダ装置6の表示画面9に連動し、船舶Sに合致する。したがって、両方の船舶Sが同一のものであることが分かる。
【0023】
こうして、レーダ装置6の表示画面9で捉えられた注目すべき相手船Sが船舶航行支援装置5の表示画面1上ではどこに位置するのかが分かる。そして、船舶航行支援装置5の表示画面1上で、前述の相手船妨害ゾーンを見ることにより、その相手船Sが自船に衝突するおそれがあるか否かが確認される。したがって、衝突防止の行動判断が確実かつ容易となる。
【0024】
逆に船舶航行支援装置5の表示画面1上で、他船の予想経路上に現れる相手船妨害ゾーンを見て、自船と衝突するおそれのある相手船Sが見つかったときには、船舶航行支援装置5側でVRM及びEBLをその相手船Sに合わせる。すると、レーダ装置6の表示画面9上でもその相手船Sが特定される。したがって、見慣れたレーダ画面上で操船計画を立てることができる。
【0025】
特定された相手船Sを拡大して見たいときには、レーダ装置6の表示画面9上で物標である相手船Sの映像にVRMとEBLとを合わせ、操作部62の「ズーム」操作をオンにする。すると、船舶航行支援装置5がズーム指令を受ける。また、船舶航行支援装置5の表示画面1上でレーダ映像にVRM・EBLを合わせ、操作部52の「ズーム」操作をオンにしても、船舶航行支援装置5がズーム指令を受ける。ズーム指令を受けると、船舶航行支援装置5がEBLによりカメラ73の正面方向の回転角度(自船船首方向からの角度)を算出してカメラ制御部72に送る。そして、カメラ73が相手船Sを拡大して撮影する。ズーム倍率は手動でその都度設定することも可能であるが、船舶航行支援装置5においてあらかじめ距離とズーム倍率との関係を設定しておけば、VRMデータにより自動的にズーム倍率を送ることができる。距離とズーム倍率との関係の一例を図7に示す。
カメラ73の設置位置がマスト上などの高い場所の場合には、ズーム倍率に応じたチルト角の補正値を、同様の方法で制御することができる。
【0026】
このようにしてズームアップされた相手船Sの映像は、船舶航行支援装置5の表示画面1に、図8に示されているようにピクチャ・イン・ピクチャの手法で、あるいは図9に示されているように海上景観映像に変えてズームアップ画像のみとすることで表示する。
このようにして、相手船Sの拡大画像を表示することにより、相手船Sがどのような船か、例えば漁船か貨物船かなどを知ることができる。
【0027】
以上、本発明の好適実施例について説明したが、本発明はその実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の設計変更が可能である。例えば、レーダ装置6の表示画面9はヘッディングアップ式のものを例としたが、ノースアップ式あるいはコースアップ式のものであってもよいことは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】自船からカメラで撮影した海上の景観を映像モニタに映し出したときの表示画面の一例を示す図である。
【図2】図1の表示画面上に方位−距離座標と、座標変換後のレーダ映像と、船舶自動識別装置で捉えた相手船の位置情報の座標変換後の位置画像とを重ねて表示した場合の一例を示す図である。
【図3】相手船妨害ゾーンの基本的な考え方を説明するための説明図である。
【図4】座標変換後の相手船妨害ゾーンを図2の表示画面上に重ねて表示した場合の一例を示す表示画面図である。
【図5】本発明による相手船動静監視装置の一実施例を示すブロック図である。
【図6】その相手船動静監視装置の表示画面を示す図である。
【図7】距離とズーム倍率との関係図の一例である。
【図8】船舶航行支援装置の表示画面にズームアップ画像を重ねる一例の図である。
【図9】船舶航行支援装置の表示画面にズームアップ画像を重ねて表示する他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 船舶航行支援装置の表示画面
2 自船
3 水平線
5 船舶航行支援装置
6 レーダ装置
7 カメラ装置
73 カメラ
9 レーダ装置の表示画面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自船を中心とした他船の位置を表示するレーダ装置と、
他船の速度及び針路に基づいて算出される相手船の予想位置と同一位置に到達する確率が設定値より高い領域である相手船妨害ゾーンを、横軸が自船からの方位であり縦軸が自船からの距離である座標上に表示する船舶航行支援装置と、を備え、
前記レーダ装置及び船舶航行支援装置の一方にその表示画面上の任意の位置あるいは自船からの任意の方位を指定する操作を行ったとき、同じ位置あるいは同じ方位が他方にも表示されるようにされていることを特徴とする、相手船動静監視装置。
【請求項2】
前記船舶航行支援装置は、カメラ装置で投影した海上の景観を表示する機能を有するものであって、前記レーダ装置及び船舶航行支援装置の一方にその表示画面上の任意の位置を指定する操作を行ったとき、前記カメラ装置がその方向の景観を拡大して表示するようにされていることを特徴とする、請求項1記載の相手船動静監視装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−286725(P2007−286725A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−110842(P2006−110842)
【出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(503287719)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【出願人】(000003388)株式会社トキメック (103)
【出願人】(595055162)社団法人日本舶用工業会 (25)
【Fターム(参考)】