説明

磁気メモリセル及び磁気メモリ

【課題】電気的手段により磁気情報の書込みを行う磁気メモリセル及びそれを装備した大容量多値磁気メモリを提供する。
【解決手段】スピン蓄積層1上に配置した複数の磁気記録ビット31〜34と、1つの検出部によって磁気メモリセルを構成し、その磁気メモリセルを多数組み合わせて大容量磁気メモリを構成する。磁気記録ビットは、スピン蓄積層上に中間層、磁気記録層、障壁層、固定層、電極保護層を積層した構造を有し、検出部はスピン蓄積層上に中間層、固定層、電極保護層を積層した構造を有する。検出部は、各記録ビットを構成する磁気記録層の磁化方向の組合せを多値情報として電気的に検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的手段により磁気情報の書込みを行う磁気メモリセル及びそれを装備した大容量多値磁気メモリに関するものである。
【背景技術】
【0002】
不揮発性磁気メモリや磁気記録装置では、その大容量化に向けて記録磁気情報を多値情報として記録し、読み出す技術が必要とされている。例えば、MOSFET上にトンネル磁気抵抗効果素子を2つ以上積層した多値磁気メモリが特表2007−504651号公報に開示されている。また、特開2006−237183号公報には、磁性細線に磁壁で分離して配列された多数の磁気ビット情報を一つの磁気抵抗効果素子で読み出す大容量の磁気記録装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−504651号公報
【特許文献2】特開2006−237183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気メモリや磁気記録装置の抜本的な大容量化の実現には、1ビットの磁気情報を多値で読み出す技術を開発する必要がある。
【0005】
本発明は、このような要請に応えることのできる磁気メモリセル及び大容量不揮発性磁気メモリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、1つのスピン蓄積層上に複数の磁気記録ビットと、その記録ビットを構成する磁気記録層の磁化方向の組合せを多値情報として電気的に検出可能な検出部とを配置した磁気メモリセル、及びその磁気メモリセルをアレイ状に多数組み合わせた大容量磁気メモリを提供する。
【0007】
本発明の磁気メモリセルは、スピン蓄積層と、スピン蓄積層上に接して設けられた複数の記録ビットと一つ又は複数の検出部を有する。一つの記録ビットは、スピン蓄積層に隣接する中間層と磁気記録層と障壁層と固定層と電極保護層がこの順に形成され、電極保護層とスピン蓄積層の間に電流あるいは電圧を印加するとき磁気記録層に作用するスピントランスファートルクにより磁気記録層の磁化方向を反転して記録ビットの書き込みを行う。固定層は、その上に磁化を固定するための反強磁性層を積層してもよい、一方、検出部は、スピン蓄積層に隣接する中間層と固定層と電極保護層によって構成される。中間層を介してスピン蓄積層に隣接している記録ビットの磁気記録層からスピン蓄積層にスピン電流が流れ、スピン蓄積層に偏極したスピンが蓄積される。蓄積される偏極スピンの向きと量が、記録ビットの磁気記録層の磁化方向に依存する。その蓄積された偏極スピンの向きと量、さらに、記録ビットと検出部の間の距離に応じて、検出部で検出される電気的信号の大きさと符合が決定される。検出される電気的信号の大きさと符合の組合せの数が、記録ビットの数以上に存在することから、多値情報として読み出すことが可能な磁気メモリセルを提供できる。
【0008】
スピン蓄積効果は、非磁性層の上に中間層を介して積層された強磁性層を有するデバイスで生じる効果である。非磁性層の異なる位置にそれぞれ中間層を介して一対の強磁性層を積層し、一方の強磁性層の磁化を固定し、もう一方の磁化が固定されていない強磁性層から中間層を通して非磁性層に電流を流すと、その強磁性層から偏極したスピン電流が非磁性層へ流れ込み、非磁性層の中に偏極スピンが蓄積される。磁化が固定されていない強磁性層の磁化方向に応じて蓄積される上向きスピンと下向きスピンの量が異なる。磁化が固定された強磁性層と非磁性層との間の電圧は、上向きスピンと下向きスピンの量の差に依存する量として検出される。ここで、一対の強磁性層の間の距離をdとすると、その検出電圧はexp(−d)に比例して減少する。
【0009】
したがって、複数の記録ビットを共通の非磁性層の上に形成し、任意の位置に検出部を備えるとその検出部には、各々の記録ビットの磁気記録層の向きと検出部までの距離に応じた電圧が生じる。
【0010】
また、スピン蓄積層と隣接する中間層と磁気記録層とマルチフェロイックス層と電極保護層をこの順に積層して記録ビットを構成することもできる。この場合、電極保護層とマルチフェロイックス層の間に電界を印加して磁気記録層の磁化方向を反転する。マルチフェロイックス層は、反強磁性体の性質と強誘電体の性質を併せ持つ層である。
【0011】
また、本発明の磁気メモリセルを複数個同一平面上に配置し、各々の記録ビットを書込みワード線で接続し、また磁気メモリセル間の検出部を読出し線で接続すると大容量磁気メモリが得られる。
【0012】
本発明の一実施態様による磁気メモリセルは、スピン蓄積層と、スピン蓄積層上に互いに離間して形成された複数の記録ビット及び1又は複数の検出部とを有し、記録ビットは、スピン蓄積層上に、中間層、磁気記録層、障壁層、固定層、第1の電極保護層を順に積層した構造を有し、第1の電極保護層とスピン蓄積層の間に流す電流の向きによって磁気記録層の磁化方向を反転可能であり、検出部は、スピン蓄積層上に、中間層、固定層、第2の電極保護層を順に積層した構造を有し、検出部は、第2の電極保護層とスピン蓄積層の間に電流を流すことにより、複数の記録ビットの磁気記録層の磁化方向の組み合わせに依存するレベルの信号を出力する。
【0013】
上記実施態様の磁気メモリセルを複数配列した本発明の磁気メモリは、各記録ビットの第1の電極保護層上で2本が交差して当該第1の電極保護層に接続された複数の書込みワード線と、書込みワード線に接続された書込み制御部と、検出部の第2の電極保護層に接続された読出し線と、読出し線に接続された読出し制御部とを備え、書込み制御部は、所望の記録ビットの第1の電極保護層上で交差する一対の書込みワード線を選択し、当該一対の書込みワード線から所望の記録ビットの第1の電極保護層とスピン蓄積層の間に電流を印加することにより所望の記録ビットの磁気記録層の磁化方向を反転して書き込みを行い、読出し制御部は、選択したい検出部の第2の電極保護層上で交差する一対の読出し線を選択し、当該一対の読出し線から所望の第2の電極保護膜からスピン蓄積層の間に読出し線から電流を供給し、複数の記録ビットの磁気記録層の磁化方向の組み合わせを読み取る。
【0014】
また、本発明の他の実施態様による磁気メモリセルは、スピン蓄積層と、スピン蓄積層上に互いに離間して形成された複数の記録ビット及び1又は複数の検出部とを有し、記録ビットは、スピン蓄積層上に、中間層、磁気記録層、マルチフェロイックス層、第1の電極保護層を順に積層した構造を有し、第1の電極保護層とスピン蓄積層の間に印加する電圧の符号によって磁気記録層の磁化方向を反転可能であり、検出部は、スピン蓄積層上に、中間層、固定層、第2の電極保護層を順に積層した構造を有し、検出部は、第2の電極保護層とスピン蓄積層の間に電流を流すことにより、複数の記録ビットの磁気記録層の磁化方向の組み合わせに依存する信号レベルを出力する。
【0015】
上記実施態様の磁気メモリセルを複数配列した本発明の磁気メモリは、各記録ビットの第1の電極保護層上で2本が交差して当該第1の電極保護層に接続された複数の書込みワード線と、書込みワード線に接続された書込み制御部と、検出部の第2の電極保護層に接続された読出し線と、読出し線に接続された読出し制御部とを備え、書込み制御部は、所望の記録ビットの第1の電極保護層上で交差する一対の書込みワード線を選択し、当該一対の書込みワード線から所望の記録ビットの電極保護層とマルチフェロイックス層の間に電界を印加することにより所望の記録ビットの磁気記録層の磁化方向を反転して書き込を行う。その方法では、2本のワード線の交点の記録ビットにのみ反転電圧を印加し、その2本のワード線に接続されている他の記録ビットには反転電圧を印加しない。読出し制御部は、選択したい検出部の第2の電極保護層上で交差する一対の読出し線を選択し、当該一対の読出し線から所望の第2の電極保護膜からスピン蓄積層の間に読出し線から電流を供給し、複数の記録ビットの磁気記録層の磁化方向の組み合わせを読み取る。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、従来の2倍以上の容量をもつ磁気メモリを提供でき、大容量化を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の磁気メモリセルの構成例を示す平面模式図である。
【図2A】本発明の磁気メモリセルの検出部の構成例を示す断面模式図である。
【図2B】本発明の磁気メモリセルの検出部の他の構成例を示す断面模式図である。
【図2C】本発明の磁気メモリセルの検出部の他の構成例を示す断面模式図である。
【図2D】本発明の磁気メモリセルの検出部の他の構成例を示す断面模式図である。
【図3】本発明の磁気メモリセルの記録ビットの構成例を示す断面模式図である。
【図4】本発明の磁気メモリセルの記録ビットの他の構成例を示す断面模式図である。
【図5】本発明の磁気メモリセルの記録ビットの他の構成例を示す断面模式図である。
【図6】本発明の磁気メモリセルの書込みと読出し方式を示す説明図である。
【図7】本発明の磁気メモリセルの読出し信号レベルを示した図である。
【図8】本発明の磁気メモリセルの構成例を示した図である。
【図9】本発明の磁気メモリセルの構成例を示した図である。
【図10】本発明の他の磁気メモリセルの書込みと読出し方式を示す説明図である。
【図11】本発明の磁気メモリセルの構成例を示した図である。
【図12】本発明の磁気メモリの構成例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
[実施例1]
図1は、本発明による磁気メモリセルの一例を示す平面模式図である。ここには、4つの記録ビットで構成される磁気メモリセルの例を示す。磁気メモリセルは、一つのスピン蓄積層1の上に、4つの記録ビット31〜34と1つの検出部2を形成している。記録ビットと検出部は、図示するように記録ビット31,32の中心と記録ビット33,34の中心の間の距離をd1、記録ビット31,32の中心と検出部の中心の間の距離をd2とするとき、d2=2×d1の関係に配置した。なお、記録ビットの個数は4個に限られず、また記録ビットの配置も図示した配置には限られない。その場合、検出部と記録ビットとの間の距離が少なくとも2種類以上あるように複数の記録ビットを設けることが必要である。
【0019】
図2Aから図2Dは、検出部2の種々の構成例を説明する断面摸式図である。図2Aに示した検出部には、スピン蓄積層1側から中間層21と固定層22と電極保護層23がこの順に積層されている。また、図2Bに示すように、固定層22は、中間層222を介して積層された2層の磁性層221,223により構成されていてもよい。この場合、2層の磁性層221,223の磁化方向は反平行配置することが望ましい。さらに図2Cに示すように、固定層22に反強磁性層24を隣接させて、固定層22の磁化方向を一方向に固定してもよい。また、図2Dに示すように、図2Bの固定層22を構成する磁性層223に反強磁性層24を隣接させた構造とすることも可能である。
【0020】
ここで、固定層22や固定層を構成する磁性層221,223には、表1に掲げたCo,Fe,Niを基本とする強磁性材料を用いることができる。その他に、ホイスラー合金や、TbFeCo,GdFeCo,CoPt,CoPd,FePt,FePd,CoFeBPt,CoFeBCr,CoCrPt,CoCr,CoPtB,FePtB,CoGd,CoFeBCrなどの材料を用いてもよい。また、Co/Pt多層膜、CoFe/Pt多層膜、Fe/Pt多層膜、Co/Pd多層膜などを使用することが可能である。中間層21には、MgOを用いることが望ましいが、ZnO,Al23,SiO2のような酸化物、あるいはGaAsやZnSeなどの半導体材料、AlN,SiNなどの窒化物を用いてもよい。特に、中間層21にMgOを用いた場合、固定層22や磁性層221に体心立方格子構造のCoFeBを用いることにより、大きな読出し出力信号を得ることができる。この場合、MgOもCoFeBも(100)配向性の高い薄膜で構成し、CoFeBの組成をCo20Fe6020とするのが望ましい。電極保護層23には、TaやRuなどの非磁性金属層を用いるとよいが、伝導率の大きな材料を使用することも可能である。ここで、電極保護層とは、保護層であり電極を兼ねる層であることを意味する。
【0021】
【表1】

【0022】
次に、図1に示した記録ビットの積層構成について説明する。図1に示した4個の記録ビット31〜34は全て同じ積層構造を有し、ここでは代表して記録ビット31について説明する。
【0023】
図3は、記録ビットの積層構成例を示す断面摸式図である。図示した記録ビット31は、スピン蓄積層1側から中間層311、磁気記録層312、障壁層313、固定層314、反強磁性層315、電極保護層316をこの順に積層した構造を有する。ただし、反強磁性層315は、固定層314に保磁力の大きな磁性層を用いた場合には必ずしも必要がない。
【0024】
磁気記録層312と固定層314には、表1に掲げたCo,Fe,Niを基本とする強磁性材料の他に、ホイスラー合金や、TbFeCo,GdFeCo,CoPt,CoPd,FePt,FePd,CoFeBPt,CoFeBCr,CoCrPt,CoCr,CoPtB,FePtB,CoGd,CoFeBCrなどの材料を適用することができる。また、Co/Pt多層膜、CoFe/Pt多層膜、Fe/Pt多層膜、Co/Pd多層膜などを使用することが可能である。さらには、ここに挙げた材料を用いて2層以上の記録層を構成することも可能である。2層以上の構成とすることにより、磁気特性の制御を容易に行うことができる。
【0025】
中間層311と障壁層313には、MgOを用いることが望ましいが、ZnO,Al23,SiO2のような酸化物、あるいはGaAsやZnSeなどの半導体材料、AlN,SiNなどの窒化物、あるいはCu,Al,Ag,Auなどの非磁性の金属材料を用いてもよい。特に、中間層311と障壁層313にMgOを用いた場合、磁気記録層312と固定層314に体心立方格子構造のCoFeBを用いることにより、大きな読出し出力信号を得ることができる。この場合、MgOもCoFeBも(100)配向性の高い薄膜で構成し、CoFeBの組成をCo20Fe6020とするのが望ましい。記録ビット32〜34についても、用いる材料は記録ビット31と同様である。電極保護層316には、TaやRuなどの非磁性金属層を用いるのがよいが、伝導率の大きな材料を使用することも可能である。
【0026】
スピン蓄積層1の材料としては、Cu,Ag,Alや、これらの元素を含むスピン拡散長の長い導電性材料や、GaAsやZnSeなどの半導体材料を用いることができる。また磁気記録層312に体心立方格子のCoFeBを用い、中間層311にMgOを用いた場合には、スピン蓄積層1にCrやVや、これらの元素を含む体心立方格子の導電性材料を用いることが可能である。
【0027】
図4は、記録ビットの他の構成例を示す断面模式図である。図4の記録ビットは、図3に示した記録ビット31の磁気記録層312を、中間層3122を介して積層された2層の磁性層3121,3123で構成した例である。ここで、磁性層3121と磁性層3123の磁化方向は互いに反平行あるいは平行に配置していることが望ましい。
【0028】
図5は、記録ビットの更に他の構成例を示す断面模式図である。図5の記録ビットは、図3に示した記録ビット31の磁気記録層312を、隣接する2層の磁気記録層3131,3132で構成したものである。図4、図5に示した例においても、各々の層には図3の実施例に例示した材料を用いることができる。
【0029】
図6は、記録ビットへの情報の書き込みと、検出部での情報の読み出しの原理を説明する図であり、図1のA−Bに沿った断面模式図である。記録ビットには図3に示した積層構造を用い、検出部には図2Aに示した積層構造を用いた例によって説明する。
【0030】
例えば記録ビット31の書込み動作において、磁気記録層312の磁化方向を固定層314の磁化方向に対して平行にする場合、スピン蓄積層1から電極保護膜316の方向に書込み電流61を流す。それにより固定層314の磁化方向と同じ方向に磁気記録層312の磁化を揃えようとするスピントランスファートルクが作用する。一方、磁気記録層312の磁化方向を固定層314の磁化方向と反平行にするには、電極保護層316からスピン蓄積層1の方向に書込み電流62を流す。このようにして記録ビット31〜34の磁気記録層の磁化をそれぞれ所望の方向に向けることが可能である。
【0031】
ランダムに配置した記録ビット31〜34の磁気記録層の磁化方向の組み合わせのパターンを検出部2で読み出す。この場合、検出部2において、スピン蓄積層1と電極保護層23の間に読出し電流63あるいは電圧を印加することにより電気的信号として読み出す。この際に、各記録ビットには、スピン蓄積層1と電極保護層の間に、それぞれの磁気記録層の磁化方向が反転しないレベルの電流を書込み時に流した電流方向と同じ方向に流しておくのが望ましい。
【0032】
図7は、各記録ビットの磁気記録層の磁化方向の組合せと検出部で検出される出力信号のレベルの関係をまとめて示したものである。出力信号のレベルは相対値である。
【0033】
例えば、パターン1は、記録ビット31〜34の磁気記録層の磁化方向がすべて右向きの場合であり、出力信号レベルは最大となる。一方、パターン2は、記録ビット34の磁気記録層の磁化方向のみ左向きで他の記録ビット31〜33の磁気記録層の磁化方向が右向きの場合であり、パターン1に比べて3分の1の信号レベルとして検出される。その理由は、パターン2の場合、検出部2から等距離に位置する記録ビット33の磁気記録層からスピン蓄積層1に拡散してきた偏極スピンと記録ビット34の磁気記録層から拡散してきた偏極スピンに起因する信号が相殺されるため、記録ビット31,32の磁気記録層からスピン蓄積層1に拡散してきた偏極スピンに起因する信号が検出部2で検出される。ここで、パターン3とパターン4の信号レベルの差に現れているように、記録ビット31,32は、検出部2からみて記録ビット33,34より遠くに位置し、スピン蓄積層1内での偏極スピンの拡散距離が長いため、記録ビット33,34に比較して検出信号への寄与率が小さい。従って、パターン2の場合、パターン1に比べて3分の1の信号レベルとなるのである。
【0034】
さらに、パターン12のような磁化配列の場合、信号レベルは、パターン2の信号と符合が逆転して大きさが2倍になる。このように、4つの記録ビットから16パターンの磁化配列の組合せが可能であり、結果的に6,4,2,0,−2,−4,−6の7値の検出信号を得ることが可能である。このため、従来の磁気メモリに比べて2倍の容量を形成可能となる。
【0035】
本実施例では、スピン蓄積層1上に4つの記録ビットと1つの検出部を装備して7値を検出できる例を示したが、図8に示すように、検出部を4つ設けることにより、さらに4倍の28値の多値情報を得ることが可能となる。すなわち、図7に示した各パターンに対して、検出部201〜204の位置で、それぞれ独立した信号レベルが得られる。例えばパターン1の場合、4つの検出部201〜204の信号レベルは全て6となる。一方、パターン2の場合、4個の記録ビットの各検出部の間の距離の違いを反映して、検出部201と202の信号レベルは2、検出部202と204の信号レベルは4となり、さらに多値の情報読出しが可能となる。このようにして、記録ビットと検出部の数を増加させることにより、図9に示すような記録ビットアレイ70と複数個の検出部71a〜71dを併せ持つ大容量磁気メモリセルを構成することが可能となる。
【0036】
[実施例2]
図10は、記録ビット31〜34にマルチフェロイックス層を適用して、電界により記録ビットの磁気記録層の磁化方向を制御する方式の例を示したものである。図10は、図1のA−Bに沿う断面模式図である。
【0037】
記録ビット31は、スピン蓄積層1側から、中間層311、磁気記録層312、マルチフェロイックス層41、電極保護層316を順に積層して形成される。記録ビット32〜34も、記録ビット31と同様の層構造を有する。この場合、スピン蓄積層1に対して電極保護層316に正の電界を印加すると磁気記録層312の磁化方向は左に向き、逆に負の電界を印加すると磁気記録層312の磁化方向は右に向く。
【0038】
図10には、検出部2として図2Aに示した構造を採用した例を示した。しかし、実施例1と同様に、検出部2としては図2Aに示した構造以外に、図2B、図2C、図2Dに示した構造のものも適用可能である。
【0039】
本実施例は、電界による書込み方式であり、電流を用いないため実施例1に比べて1桁以下小さい消費電力で動作可能となる。マルチフェロイックス層は、広義には磁性と誘電性を併せ持つ材料であるが、特に本実施例のマルチフェロイックス層には、BiFeO3,YMnO3,CoFeO2,Cr23など、反強磁性と強誘電性の両方の性質を備える材料を用いる。本実施例の磁気記録層には、実施例1と同様に、表1に掲げたCo,Fe,Niを基本とする強磁性材料の他に、ホイスラー合金、あるいはTbFeCo,GdFeCo,CoPt,CoPd,FePt,FePd,CoFeBPt,CoFeBCr,CoCrPt,CoCr,CoPtB,FePtB,CoGd,CoFeBCrなどの材料を適用することができる。また、Co/Pt多層膜、CoFe/Pt多層膜、Fe/Pt多層膜、Co/Pd多層膜などを使用することもできる。また、マルチフェロイックス層と電極保護層316の間に絶縁層を設けてもよい。それによりマルチフェロイックス層に均一に大きな電界を印加することが可能となり、磁気記録層の磁化反転を円滑に制御することができる。
【0040】
[実施例3]
図11は、各記録ビットと検出部に接続される配線を設けた磁気メモリセルの構成例を示したものである。この磁気メモリセルを複数個配置することにより、図12に示した磁気メモリが構成され、大容量の磁気記録層を実現することが可能になる。
【0041】
X方向の書込みワード線51とY方向の書込みワード線52が、電極保護膜を介して記録ビット上で交差するように形成されている。書込みワード線の端部には書込み制御ドライバ54,55が備えられており、その書込み制御ドライバ54,55で書込みワード線51,52に印加する電気信号パターンを与えて任意の記録ビットへ電流又は電圧を印加して記録ビットの磁気記録層の磁化方向を変化させて磁気情報を書込む。この電気信号パターンでは、例えば+1Vを与えられたX方向に伸びる書込みワード線51と、同時に+1Vを与えられたY方向に伸びる書込みワード線52の交点の記録ビットが選択されて、磁気情報が書き込まれる。
【0042】
一方、X方向の読出し線53とY方向の読出し線532が、電極保護膜を介して検出部上で交差するように形成されている。読出し線の端部には読出し制御ドライバ56,57が備えられており、その読出し制御ドライバ56,57で読出し線53,532に印加する電気信号パターンを与えて任意の検出部へ電流又は電圧を印加して検出部で検出される電圧をどちらか一方の読出し制御ドライバで読出し、記録の電圧パターンを演算認識する。
【0043】
この電気信号パターンでは、例えば+1Vを与えられたX方向に伸びる読出し線53と、同時に+1Vを与えられたY方向に伸びる読出し線532の交点の検出部が選択されて出力信号が読みだされる。
各メモリセルに属する記録ビットの選択の管理は、書込み制御ドライバにて行っているが、メモリセル単位で記録ビットの管理を行う場合とメモリセルによるよらずチップ内でランダムに管理する場合のどちらを採用してもよい。検出部の検出信号を読み取る際に、隣のメモリセルの記録ビットによる干渉はない。
【符号の説明】
【0044】
1…スピン蓄積層
2…検出部
21…中間層
22…固定層
23…電極保護層
24…反強磁性層
31〜34…記録ビット
41…マルチフェロイックス層
50…書込みワード線
51…X方向の書込みワード線
52…Y方向の書込みワード線
53…読出し線
54,55…書込み制御ドライバ
56…読出し制御部
70…記録ビットアレイ
71a〜71d…検出部
201〜204…検出部
311…中間層
312…磁気記録層
313…障壁層
314…固定層
315…反強磁性層
316…電極保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピン蓄積層と、前記スピン蓄積層上に互いに離間して形成された複数の記録ビット及び1又は複数の検出部とを有し、
前記記録ビットは、前記スピン蓄積層上に、中間層、磁気記録層、障壁層、固定層、第1の電極保護層を順に積層した構造を有し、前記第1の電極保護層と前記スピン蓄積層の間に流す電流の向きによって前記磁気記録層の磁化方向を反転可能であり、
前記検出部は、前記スピン蓄積層上に、中間層、固定層、第2の電極保護層を順に積層した構造を有し、
前記検出部は、前記第2の電極保護層と前記スピン蓄積層の間に電流を流すことにより、前記複数の記録ビットの磁気記録層の磁化方向の組み合わせに依存するレベルの信号を出力することを特徴とする磁気メモリセル。
【請求項2】
請求項1記載の磁気メモリセルにおいて、前記記録ビットは前記固定層と前記第1の電極保護層の間に反強磁性層を有することを特徴とする磁気メモリセル。
【請求項3】
請求項1記載の磁気メモリセルにおいて、前記磁気記録層は中間層を挟んで形成された2層の磁性層からなり、前記2層の磁性層の磁化方向は互いに反平行あるいは平行であることを特徴とする磁気メモリセル。
【請求項4】
請求項1記載の磁気メモリセルにおいて、前記磁気記録層は2層以上の磁性層からなることを特徴とする磁気メモリセル。
【請求項5】
請求項1記載の磁気メモリセルにおいて、前記検出部の前記固定層は中間層を挟んで形成された2層の磁性層からなり、前記2層の磁性層の磁化方向は互いに反平行であることを特徴とする磁気メモリセル。
【請求項6】
請求項1記載の磁気メモリセルにおいて、前記検出部は前記固定層と前記第2の電極保護層の間に反強磁性層を備えていることを特徴とする磁気メモリセル。
【請求項7】
スピン蓄積層と、前記スピン蓄積層上に互いに離間して形成された複数の記録ビット及び1又は複数の検出部とを有し、
前記記録ビットは、スピン蓄積層上に、中間層、磁気記録層、マルチフェロイックス層、第1の電極保護層を順に積層した構造を有し、前記第1の電極保護層と前記スピン蓄積層の間に印加する電圧の符号によって前記磁気記録層の磁化方向を反転可能であり、
前記検出部は、前記スピン蓄積層上に、中間層、固定層、第2の電極保護層を順に積層した構造を有し、
前記検出部は、前記第2の電極保護層と前記スピン蓄積層の間に電流を流すことにより、前記複数の記録ビットの磁気記録層の磁化方向の組み合わせに依存する信号レベルを出力することを特徴とする磁気メモリセル。
【請求項8】
請求項7記載の磁気メモリセルにおいて、前記検出部の前記固定層は中間層を挟んで形成された2層の磁性層からなり、前記2層の磁性層の磁化方向は互いに反平行であることを特徴とする磁気メモリセル。
【請求項9】
請求項7記載の磁気メモリセルにおいて、前記検出部は前記固定層と前記第2の電極保護層の間に反強磁性層を備えていることを特徴とする磁気メモリセル。
【請求項10】
請求項7記載の磁気メモリセルにおいて、前記マルチフェロイックス層と前記第1の電極保護層の間に絶縁層が設けられていることを特徴とする磁気メモリセル。
【請求項11】
複数の磁気メモリセルと、所望の磁気メモリセルに対して選択的に書き込みあるいは読出しを行う手段とを備える磁気メモリであって、
前記磁気メモリは、スピン蓄積層と、前記スピン蓄積層上に互いに離間して形成された複数の記録ビットと1又は複数の検出部とを有し、前記記録ビットは、前記スピン蓄積層上に、中間層、磁気記録層、障壁層、固定層、第1の電極保護層を順に積層した構造を有し、前記検出部は、前記スピン蓄積層上に、中間層、固定層、第2の電極保護層を順に積層した構造を有するものであり、
各記録ビットの第1の電極保護層上で2本が交差して当該第1の電極保護層に接続された複数の書込みワード線と、
前記書込みワード線に接続された書込み制御部と、
前記検出部の第2の電極保護層に接続された読出し線と、
前記読出し線に接続された読出し制御部とを備え、
前記書込み制御部は、所望の記録ビットの第1の電極保護層上で交差する一対の書込みワード線を選択し、当該一対の書込みワード線から前記所望の記録ビットの第1の電極保護層と前記スピン蓄積層の間に電流を印加することにより前記所望の記録ビットの磁気記録層の磁化方向を反転して書き込みを行い、
前記読出し制御部は、選択された検出部の第2の電極保護層とスピン蓄積層の間に前記読出し線から電流を供給し読出し制御部は、所望の検出部の第2の電極保護層上で交差する一対の読出し線を選択し、当該一対の読出し線から前記所望の検出部の第2の電極保護膜とスピン蓄積層の間に読出し線から電流を供給し、複数の記録ビットの磁気記録層の磁化方向の組み合わせを読み取る、
ことを特徴とする磁気メモリ。
【請求項12】
複数の磁気メモリセルと、所望の磁気メモリセルに対して選択的に書き込みあるいは読出しを行う手段とを備える磁気メモリであって、
前記磁気メモリセルは、スピン蓄積層と、前記スピン蓄積層上に互いに離間して形成された複数の記録ビットと1又は複数の検出部とを有し、前記記録ビットは、スピン蓄積層上に、中間層、磁気記録層、マルチフェロイックス層、第1の電極保護層を順に積層した構造を有し、前記検出部は、前記スピン蓄積層上に、中間層、固定層、第2の電極保護層を順に積層した構造を有し、
各記録ビットの第1の電極保護層上で2本が交差して当該第1の電極保護層に接続された複数の書込みワード線と、
前記書込みワード線に接続された書込み制御部と、
前記検出部の第2の電極保護層に接続された読出し線と、
前記読出し線に接続された読出し制御部とを備え、
前記書込み制御部は、所望の記録ビットの第1の電極保護層上で交差する一対の書込みワード線を選択し、当該一対の書込みワード線から前記所望の記録ビットの電極保護層とマルチフェロイックス層の間に電界を印加することにより前記所望の記録ビットの磁気記録層の磁化方向を反転して書き込を行い、
読出し制御部は、所望の検出部の第2の電極保護層上で交差する一対の読出し線を選択し、当該一対の読出し線から前記所望の検出部の第2の電極保護膜とスピン蓄積層の間に読出し線から電流を供給し、複数の記録ビットの磁気記録層の磁化方向の組み合わせを読み取る
ことを特徴とする磁気メモリ。
【請求項13】
請求項12記載の磁気メモリにおいて、前記マルチフェロイックス層と前記電極保護層の間に絶縁層が設けられていることを特徴とする磁気メモリ。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−138924(P2011−138924A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297855(P2009−297855)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】