磁気光学効果特性測定用の組成傾斜フェライト材料およびフェライトの特性評価方法
【課題】一つの試料を作製するだけで、フェライトの組成変化に伴う磁気特性の変化を連続して測定することができるフェライトの特性評価方法を提供する。
【解決手段】透光性を有する単結晶基板上に、薄膜形成法を用いて、成分組成を水平方向に傾斜させて製膜した複数層の組成傾斜フェライト層からなる組成傾斜フェライト薄膜を形成し、該フェライト薄膜の組成傾斜方向に沿い連続して磁気光学効果を測定することにより、該フェライトの組成変化に伴う磁気特性の変化を連続して測定する。
【解決手段】透光性を有する単結晶基板上に、薄膜形成法を用いて、成分組成を水平方向に傾斜させて製膜した複数層の組成傾斜フェライト層からなる組成傾斜フェライト薄膜を形成し、該フェライト薄膜の組成傾斜方向に沿い連続して磁気光学効果を測定することにより、該フェライトの組成変化に伴う磁気特性の変化を連続して測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気光学効果特性測定用の組成傾斜フェライト材料に関するものである。
また、本発明は、上記した磁気光学効果特性測定用の組成傾斜フェライト材料を用いたフェライトの特性評価方法に関し、特にフェライトの成分組成を変化させた場合における磁気特性の変化を、磁気光学効果を利用することによって、迅速かつ簡便に判定しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
磁性材料として、フェライトが、以下に述べるような種々の用途において広く利用されている。
例えば、ハードフェライトとしては、回転機用磁石を利用した小型モータ用磁極、計測器、マイク・スピーカなどの電気機器、マグネットロール、磁気選別機、磁気軸受などの機械機構、あるいは健康器具用磁石や文具・玩具マグネットなどに、またソフトフェライトとしては、軟磁性を利用したパワー、通信用、CRT偏向などの磁気コア、磁気ヘッド、磁気シールド、マイクロ波特性を利用したフィルタ、アイソレータ、サーキュレータ、アンテナ、電磁波吸収体などマイクロ波デバイスなど、あるいは、磁気光学特性を利用した光アイソレータ、光サーキュレータ、光スイッチ、磁界センサなどの光通信・光学デバイス、マイクロ波特性を利用したフィルタ、共振器、サーキュレータなどのマイクロ波通信デバイス、さらには磁気バブルメモリなどの磁気メモリデバイスなどの種々の用途に幅広く利用されている。
上記の各用途において、フェライトに求められる特性は様々であり、各用途に適合した特性のフェライトを供給する必要がある。
フェライトの磁気特性は、主にフェライトの成分組成に依存することから、所望特性のフェライトを提供するためには、フェライト組成をその要求特性に適合した成分組成に調整する必要がある。
【0003】
従来、フェライトの組成変化に伴う磁気特性の変化を把握するには、フェライトの成分組成を少しずつ変化させた多数の試料を用意し、それらの磁気特性を一つ一つ測定することにより行っていた(例えば、非特許文献1)。
しかしながら、一つの試料を作製するにも、原料の調整に始まって焼結体を製造するまで多くの工程を必要とする。しかも、かかる試料を、成分組成を少しずつ変化させた各組成毎に数多く作製する必要があるため、試料作製に長時間を要するだけでなく、コストの上昇を招いていた。また、試料作製中には、以下に述べるような外乱によって、測定精度が劣化するところにも問題を残していた。
【0004】
一つ一つサンプルを作製および評価する場合、最も懸念されるのが同一の環境で行えるかどうかである。例えば、一連の実験を数日にわたって行う場合、気温や湿度など天候に左右されるおそれが高くなる。また、装置への供給電源が安定しているか、周辺機器との干渉は起こっていないかなども懸念される。
この点、多数のサンプルを同時に作製、評価できれば、上記のおそれは格段に低減する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】丸善 実験物理学講座6磁気測定 I
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、特定の成分系になるフェライトにおいて、対象とする成分(以下、対象成分という)の組成を変化させたときの磁気特性を検出しようとする場合に、一つの試料を作製するだけで、対象成分の組成変化に伴う磁気特性の変化を連続して測定することができる、磁気光学効果特性測定用の組成傾斜フェライト材料を提案することを目的とする。
また、本発明は、上記した組成傾斜フェライト材料を用いて、フェライトの成分組成を変化させた場合における磁気特性の変化を、磁気光学効果を利用することにより、迅速かつ簡便に判定することができるフェライトの特性評価方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
さて、発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、近年開発された傾斜薄膜製造技術と磁気光学効果とを組み合わせることによって、所期した目的が有利に達成されることの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0008】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.透光性を有する単結晶基板の上に、成分組成を水平方向に傾斜させて製膜した組成傾斜フェライト薄膜をそなえる磁気特性評価用の組成傾斜フェライト材料であって、
該組成傾斜フェライト薄膜は、単結晶基板の水平方向に成分組成を傾斜させて製膜した組成傾斜フェライト層の積層体からなり、
該組成傾斜フェライト層の各層の厚みが0.8〜4.5nmで、かつ積層体全体の厚みが30〜10000nmであることを特徴とする磁気光学効果特性測定用の組成傾斜フェライト材料。
【0009】
2.前記フェライトが、下記の一般式でそれぞれ示されるスピネルフェライト、Y型六方晶フェライトまたはガーネットフェライトのいずれかであることを特徴とする上記1に記載の組成傾斜フェライト材料。
記
・スピネルフェライト
一般式:A1-xBxFe2O4(0.00≦x≦1.00)
ここで、A,Bはそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、A≠B。
・Y型六方晶フェライト
一般式:A2(B1xB2y)Fe12O22(0.00≦x≦2.00,0.00≦y≦2.00,x+y=2.00)
ここで、AはBaおよび/またはSr、B1,B2はそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、B1≠B2。
・ガーネットフェライト
一般式:(BixR3-x)(Fe5-yMy)O12(0.00≦x≦1.60,0.00≦y≦1.00)
ここで、RはSc,Yおよび希土類元素のうちから選んだ一種または二種以上の元素、MはGaおよび/またはAl。
【0010】
3.前記単結晶基板が、MgAl2O4(111)基板またはAl2O3(0006)基板であることを特徴とする上記1または2に記載の組成傾斜フェライト材料。
【0011】
4.前記単結晶基板の透過性が、基板の厚みを0.5mmとした場合、波長:250〜2500nmの光の透過率で70%以上を満足することを特徴とする上記1乃至3のいずれかに記載の組成傾斜フェライト材料。
【0012】
5.透光性を有する単結晶基板上に、薄膜形成法を用いて、成分組成を水平方向に傾斜させて製膜した複数層の組成傾斜フェライト層からなる組成傾斜フェライト薄膜を形成し、該フェライト薄膜の組成傾斜方向に沿い連続して磁気光学効果を測定することにより、該フェライトの組成変化に伴う磁気特性の変化を連続して測定することを特徴とするフェライトの特性評価方法。
【0013】
6.前記フェライトが、下記の一般式でそれぞれ示されるスピネルフェライト、Y型六方晶フェライトまたはガーネットフェライトのいずれかであることを特徴とする上記5に記載のフェライトの特性評価方法。
記
・スピネルフェライト
一般式:A1-xBxFe2O4(0.00≦x≦1.00)
ここで、A,Bはそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、A≠B。
・Y型六方晶フェライト
一般式:A2(B1xB2y)Fe12O22(0.00≦x≦2.00,0.00≦y≦2.00,x+y=2.00)
ここで、AはBaおよび/またはSr、B1,B2はそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、B1≠B2。
・ガーネットフェライト
一般式:(BixR3-x)(Fe5-yMy)O12(0.00≦x≦1.60,0.00≦y≦1.00)
ここで、RはSc,Yおよび希土類元素のうちから選んだ一種または二種以上の元素、MはGaおよび/またはAl。
【0014】
7.前記単結晶基板が、MgAl2O4(111)基板またはAl2O3(0006)基板であることを特徴とする上記5または6に記載のフェライトの特性評価方法。
【0015】
8.前記薄膜形成法が、レーザアブレーション法(PLD法)、ALD法、CVD法、蒸着法またはスパッタリング法のいずれかであることを特徴とする上記5乃至7のいずれかに記載のフェライトの特性評価方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フェライトの成分組成の変化に伴う磁気特性の変化を、迅速かつ簡便かつ正確に判定することができる。
また、磁気光学ファラデー効果や磁気円二色性といった磁気光学効果の大きさは、磁化の大きさに比例することが知られていることから、本発明に従い、多成分の組成傾斜薄膜を作製し、その磁気光学効果特性の組成依存性を判定することにより、製品の使用時における磁場や波長に応じた最適の組成を選択することができる。
従って、多数のサンプルの作製および材料物性のデータ測定を迅速に行うことが可能となり、その結果、材料設計および部品・デバイスへの応用の迅速化が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】PLD法の実施に好適な薄膜形成装置の模式図である。
【図2】コンビナトリアル技術を用いて行う、多数の試料群の集積化の要領を示す模式図である。
【図3】PLD法にコンビナトリアル技術を適用して、多層積層体からなるZn1-xCoxFe2O4組成傾斜薄膜を形成する要領を示す模式図である。
【図4】(a)はPLD法を用いて作製したZn1-xCoxFe2O4組成傾斜薄膜の写真、(b)はこの写真に基づいて組成傾斜状態をより明確に示した図である。
【図5】(a)はZn1-xCoxFe2O4膜全面におけるX線回折パターン、(b),(c)はZnFe2O4膜およびCoFe2O4膜のX線回折パターンを示す図である。
【図6】Zn1-xCoxFe2O4膜の各測定点におけるd222値を示す図である。
【図7】Zn1-xCoxFe2O4膜の原子レベルの表面凹凸を示す表面AFM像の写真である。
【図8】Zn1-xCoxFe2O4膜の各測定点におけるZn,Co,Fe組成を示す図である。
【図9】膜厚が異なる3種類のZn1-xCoxFe2O4膜の波長と吸収係数との関係を示す図である。
【図10】Zn1-xCoxFe2O4膜の室温における各組成の磁気光学効果(磁気円二色性)の磁場依存性を、630nmの波長の光を用いて測定した結果を示す図である。
【図11】波長:630nmにおける磁気円二色性(MCD)および保磁力(Hc)の変化を組成変化に対して示した図である。
【図12】波長:310nmにおける磁気円二色性(MCD)および保磁力(Hc)の変化を組成変化に対して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明において、評価の対象とするフェライトについては特に制限はなく、スピネルフェライトやY型六方晶フェライト、ガーネットフェライトなど従来公知のフェライトのいずれもが適合する。
【0019】
ここに、スピネルフェライトとは、次の一般式で示されるものである。
一般式:A1-xBxFe2O4(0.00≦x≦1.00)
ここで、A,Bはそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、A≠B。
【0020】
また、Y型六方晶フェライトとは、次の一般式で示されるものである。
一般式:A2(B1xB2y)Fe12O22(0.00≦x≦2.00,0.00≦y≦2.00,x+y=2.00)
ここで、AはBaおよび/またはSr、B1,B2はそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、B1≠B2。
【0021】
さらに、ガーネットフェライトとは、次の一般式で示されるものである。
一般式:(BixR3-x)(Fe5-yMy)O12(0.00≦x≦1.60,0.00≦y≦1.00)
ここで、RはSc,Yおよび希土類元素のうちから選んだ一種または二種以上の元素、MはGaおよび/またはAl。
【0022】
また、本発明における単結晶基板としては、透過性を有していればいずれでもよく、その種類が特に限定されることはない。ここに、「透過性を有する」とは、0.5mm厚の基板において、波長:250〜2500nmの光の透過率が70%以上を意味する。また、透過性を評価する光の波長を250〜2500nmの範囲としたのは、この波長範囲を外れると本発明で所期した良好な透過率が得られないからである。
とはいえ、単結晶基板としては、その上に形成されるフェライト薄膜と、格子定数が近似しているものが有利であり、さらには、成長した膜の配向面が容易磁化軸に向き易いものがより有利である。例えば、評価対象がスピネルフェライトやY型六方晶フェライトの場合には、単結晶基板としてはMgAl2O4(111)基板やAl2O3(0006)基板などが有利に適合する。
【0023】
さらに、薄膜形成法としては、レーザアブレーション(PLD:Pulse Laser Deposition)法やALD(Atomic Laser Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、蒸着法(常温または高温蒸着法や熱および電子ビーム蒸着法など)およびスパッタリング法などの従来公知の薄膜形成技術のいずれもが適合するが、なかでもPLD法は以下に述べる種々の利点を有するのでのとりわけ有利に適合する。
(1)高融点の酸化物材料でも、パルスレーザーにより一瞬でターゲットをプラズマ化させることが可能であるため、ターゲットと同じ組成比の薄膜を容易に作製することができる。
(2)基板温度、ガス圧およびレーザーエネルギー密度等により成長速度を制御することが可能であり、かつパルス数を変えることで容易に膜厚を変えることができる。
(3)プラズマ化した薄膜材料はレーザーからのエネルギーを持つため、超高真空から大気圧まで酸素ガスを導入した状態で薄膜を作製することができる。
【0024】
ここで、PLD法を用いて、本発明に従うフェライト薄膜を形成する場合について説明する。
PLD法とは、ターゲット(薄膜原料:焼結体や単結晶)にパルスレーザーを断続的に照射し、ターゲットをアブレーションすることによって放出されるイオン、クラスタ、分子、原子など(これら解離種のまとまったプラズマの様な状態をプルームという)を、ターゲットと対向して配置された基板上に堆積させて、薄膜を形成する方法である。
【0025】
図1に、PLD法の実施に用いて好適な薄膜形成装置を模式で示す。
同図に示したとおり、この薄膜形成装置では、チャンバー1内に、基板2とターゲット3が対向して配設されている。また、このチャンバー1の外部には、光発振部4により発振されたパルスレーザー光の位置を調節するための反射鏡5、レーザー光のスポット径を制御するためのレンズ6が配設されている。7は、基板を加熱するための半導体レーザーであり、基板温度は窓を介して、チャンバー外部に設置された放射温度計8によってモニターされ、常に一定の温度となるように制御されている。また、チャンバー1には、酸素ガスの流量を調節するための調整弁9が付設されていて、減圧下における製膜を実現するため、チャンバーにはターボ分子ポンプ10および圧力弁11が連結されている。ここに、チャンバーの圧力は、酸素ガス流量調整弁9および圧力弁11を用い、例えば酸素雰囲気中において1.33×10-5〜1.33×10-1Pa(1×10-7〜1×10-3Torr)となるように制御されている。また、ターボ分子ポンプ10には、油回転ポンプ12と逆流防止弁13が連結されており、ターボ分子ポンプ10の排気側の圧力は常に1.33×10-1Pa(1×10-3Torr)以下に保持されている。なお、14は圧力モニタ、15はマスク、16は回転軸である。
【0026】
ターゲットに照射するパルスレーザー光としては、例えばパルス周波数:1〜10Hz、レーザパワー:1J/cm2、波長:248nm程度のKrFエキシマレーザーを好適に使用することができる。
【0027】
上記したPLD法にコンビナトリアル技術(combinatorial)を適用することにより、組成が連続的に変化する薄膜を形成することができる。ここに、コンビナトリアル技術とは、多種類の化合物群(ライブラリー)を効率的に合成し、それらを様々な目的に応じて活用していく技術である。
図2に、組成や超格子構造の異なる100〜10000個に及ぶ試料群の集積化の例を模式で示す。なお、基板とターゲットの位置関係は、図1と逆さになっている。図2(a)〜(c)では、基板とターゲットの間にパターン形成したマスクを挿入し、複数のターゲットの選択と同期してマスクを移動する状態を示している。この方法によれば、基板上に供給される元素の種類と量を時空間で精密に制御することができ、従って1枚の基板上にパラレルに異種物質を合成することができる。また、基板温度などの合成条件も同図(d)のように行うことができる。
本発明では、同図(c)の技術を導入している。
【0028】
次に、上記の技術を利用して、Zn1-xCoxFe2O4組成のスピネルフェライトの傾斜薄膜を形成する場合の具体的例について説明する。
(1) ターゲット
ターゲットとしては、CoFe2O4焼結体およびZnFe2O4焼結体を用いた。これらの焼結体は、所望の原子比となるように秤量されたCoOとFe2O3あるいはZnOとFe2O3との各粉末を混合し、さらにこの混合した粉末を放電プラズマ焼結:SPS(Spark Plasma Sintering)させることにより作製することができる。またターゲットは、基板における薄膜形成面に対して平行となるように配設した。
(2) 基板
基板としては、格子定数のマッチング性および広い波長範囲での光透過性、さらには電気伝導性、非磁性、熱安定性などの物性などを考慮して、MgAl2O4(111)基板を用いた。
(3) 製造過程
まず、研磨した基板および所望のターゲットをチャンバー内に設置する。次に、チャンバー内を、酸素分圧:1.33×10-1Pa(1×10-3Torr)、基板温度:400℃に設定し、図3に示すように、基板近接位置でマスク1,マスク2を基板の薄膜形成面と平行に移動させることにより膜厚を変化させながら製膜を行った。具体的には、ターゲットを回転軸を介して回転駆動させつつ、エネルギー密度:1J/cm2、パルス照射:5Hzのパルスレーザー光を断続的に照射することにより、ターゲット表面の温度を急激に上昇させ、アブレーションプラズマ(プルーム)を発生させた。このアブレーションプラズマ中に含まれるZn,Co,Fe,Oの各原子は、チャンバー内の酸素ガスとの衝突反応等を繰り返しながら状態を徐々に変化させて基板へ移動する。そして、基板へ到達したZn,Co,Fe,O原子を含む粒子は、そのまま基板上の(111)面に拡散し、格子整合性の最も安定な状態で薄膜化されることになる。
その結果、図3に示したような多層積層体からなる組成傾斜フェライト材料が得られるのである。
【0029】
図3に示した本発明に従う組成傾斜フェライト材料において、組成傾斜フェライト薄膜を形成する積層体各層の厚みは0.8〜4.5nmとする必要がある。というのは、各層の厚みがスピネルの単位胞である0.8nmに満たないと磁気光学スペクトルが得られず、一方六方晶の単位胞である4.5nmを超えると膜厚方向の組成の濃度むらが大きくなってやはり明瞭な磁気光学スペクトルが得られなくなるからである。より好ましい各層の厚みは1.0〜2.0nmの範囲である。なお図3では各層の厚みが1.46nm(14.6オングストローム)の例を示している。
【0030】
また、積層体全体の厚みは30〜10000nmとする必要がある。というのは、積層体全体の厚みが30nmに満たないと、積層体各層の界面で起こる電子移動遷移が少なくなるため正確な磁気光学効果の測定が難しく、一方10000nmを超えると測定波長:250〜2500nmにおいて十分な光の透過性が得られないからである。より好ましい積層体全体の厚みは40〜200nmの範囲である。なお、薄膜形成の能率を考慮すると積層体全体の厚みの上限は100nm程度とするのが有利である。
【0031】
上記のようにして得られた組成傾斜薄膜について、組成傾斜方向に沿って連続して磁気光学効果を測定することにより、かかるフェライトの組成変化に伴う磁気特性の変化を連続して測定することができる。
すなわち、磁気光学効果を測定すると、
a)磁気円二色性の大きさは薄膜の磁化の大きさに比例し、
b)磁気光学効果測定における保磁力は薄膜の保磁力に比例する
ので、この関係により、薄膜の磁化の大きさおよび保磁力を推定することができるのである。
【0032】
なお、本発明に従うフェライト組成傾斜薄膜の大きさについては特に制限はないが、長さ:1〜152.4mm、幅:1〜152.4mm程度とすることが好ましい。1mm未満であると薄膜の取扱性が困難になり。152.4mmを超えると膜組成の均一性に問題を生じるからである。
【実施例】
【0033】
実施例1
図1に示した薄膜形成装置を用い、MgAl2O4(111)基板温度:400℃、酸素分圧:1.33×10-1Pa(1×10-3Torr)の条件で、MgAl2O4(111)基板(厚み:0.5nm)上に、図4に示すような、長さ:12mm、幅:5mm、厚さ:70nmのZn1-xCoxFe2O4(0.00≦x≦1.00)の組成傾斜薄膜をレーザアブレーション法(PLD法)を用いて形成した。4図(a)は、PLD法を用いて作製したZn1-xCoxFe2O4組成傾斜薄膜の写真であり、同図(b)は、この写真に基づいて組成傾斜状態をより明確に示した図である。
このZn1-xCoxFe2O4膜の形成のために使用したターゲットは、CoO粉末、ZnO粉末およびFe2O3粉末を、CoFe2O4およびZnFe2O4の化学量論比組成に一致するように各々の粉末量を調整し、混合して、放電プラズマ焼結(SPS(Spark Plasma Sintering))により作製したターゲットである。なお、この例では、厚みが1.4nmの組成傾斜層を50層積層し、全体の厚みを70nmとした。
以下、かくして得られたZn1-xCoxFe2O4組成傾斜薄膜の各種物性について調べた結果を説明する。
【0034】
図5(a)は、上述のようにして得たZn1-xCoxFe2O4膜全面におけるX線回折パターンであり、同図(b)および(c)はそれぞれ、Zn1-xCoxFe2O4膜と同様の条件で得られたZnFe2O4膜およびCoFe2O4膜のX線回折パターンを示したものである。
同図から明らかなように、Zn1-xCoxFe2O4膜は、ZnFe2O4とCoFe2O4が互いに混じり合った積層構造をしていることが分かる。
【0035】
図6は、Zn1-xCoxFe2O4膜における各測定位置でのd222値を示すグラフである。
同図に示したとおり、Zn1-xCoxFe2O4膜の組成傾斜方向を見ると、xの減少に伴ってd222値が増加しており、x=0ではZnFe2O4膜と同じd222値を、一方x=1ではCoFe2O4膜と同じd222値を示すことが確認された。
【0036】
図7は、Zn1-xCoxFe2O4膜の原子レベルの表面凹凸を示す表面AFM像である。
同図から明らかなように、Zn1-xCoxFe2O4膜の表面には原子層ステップが等間隔で出現し、原子レベルで平坦な表面が形成されていることが分かる。
【0037】
図8は、Zn1-xCoxFe2O4膜の各測定位置におけるZn,Co,Fe組成比を示すグラフである。なお、組成比はエネルギー分散型X線分析装置で測定した。
同図に示したとおり、Zn1-xCoxFe2O4膜は、組成傾斜方向にZnとCoの比率がほぼ直線的に変化していることが分かる。
【0038】
また、Zn1-xCoxFe2O4膜の作製時間を変化させることによって、その膜厚を、16nm(試料番号♯1)、35nm(試料番号♯2)および70nm(試料番号♯3)と種々に変化させた。
図9は、上記した3種類のZn1-xCoxFe2O4膜の透過スペクトルおよび反射スペクトルより求めた室温における吸収係数を、波長との関係で示すグラフである。
同図に示したとおり、Zn1-xCoxFe2O4膜の組成変化に伴い、スペクトルがシフトしていることが分かる。
しかしながら、試料番号♯1は、膜厚が16nmで、本発明の下限に満たなかったため、明瞭な磁気光学スペクトルが得られなかったのに対し、膜厚が本発明の適正範囲を満たす試料番号♯2および試料番号♯3では、明瞭な磁気光学スペクトルを得ることができた。
【0039】
図10は、Zn1-xCoxFe2O4膜の室温における各組成の磁気光学効果(磁気円二色性)の磁場依存性を、630nmの波長の光を用いて測定した結果である。
同図に示したとおり、Zn1-xCoxFe2O4膜の組成変化に伴い、磁気円二色性が変化していることが分かる。
【0040】
図11は、図10から読み取った、波長:630nmにおける磁気円二色性(MCD)および保磁力(Hc)の変化を組成変化に対して示した図である。
また、図12は、図11と同様に、波長:310nmにおける磁気円二色性(MCD)および保磁力(Hc)の変化について調べた結果を、組成変化に対して示した図である。
図11と図12を比較すると、MCDのプロットが注目に値する。
すなわち、λ=630nmにおける測定では、x=1.0(CoFe2O4)での値が最も大きなMCD値を示したのに対し、λ=310nmにおける測定では、x=0.72(Zn0.28Co0.72Fe2O4)での値が最も大きなMCD値を示している。この結果は、例えば310nmの波長を利用した応用を考える場合には、30%程度ZnがドープされたZn1-xCoxFe2O4を利用することが好ましいことを示している。
また、x<0.24の組成では、λ=630nmではMCD値がほぼゼロであるのに対し、λ=310nmでは2500(deg./cm)以上の値を有していることも読み取ることができる。
なお、保磁力については、今回の波長依存性比較では、明瞭な差異は見られなかった。
【0041】
実施例2
MgAl2O4(111)基板上に、表1に示すABFe2O4組成のAサイト元素およびBサイト元素が異なるスピネルフェライトを、表2に示すように種々に組み合わせて、A1-xBxFe2O4(0.00≦x≦1.00)組成の組成傾斜フェライト薄膜を形成した。このフェライト薄膜の形成は、実施例1の方法に準じて行った。また、この際、フェライト積層体の各層の厚みおよび全体厚みについては種々に変化させた。
かくして得られた各組成傾斜フェライト材料に対して、フェライト薄膜の組成傾斜方向に沿い連続して磁気光学効果を測定した際の磁気光学スペクトルの明瞭性、磁気光学効果の測定の可否および波長:250〜2500nmの光の透過性について調査した。得られた結果を表2に併記する。なお、明瞭な磁気光学スペクトルが得られた場合および適正に磁気光学効果を測定できた場合は○で、一方、明瞭な磁気光学スペクトルが得られなかった場合および適正に磁気光学効果を測定できなかった場合は×で評価した。特にI-1のケース(Zn1-xCoxFe2O4;各層の膜厚が1.4nm、全体厚が70nm)では、磁気光学効果の測定が最も良好に行なえたので、I-1内の相対的な評価を◎とした。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表2に示したとおり、本発明の要件を満足する発明例はいずれも、明瞭な磁気光学スペクトルが得られ、適正に磁気光学効果を測定できたのに対し、フェライト積層体の各層の厚みや全体厚みが本発明の要件を逸脱した比較例では、明瞭な磁気光学スペクトルを得ることができず、その結果適正な磁気光学効果の測定も行えなかった。
【0045】
実施例3
MgAl2O4(111)基板上に、実施例1の方法に準じて、A2(Zn2-xCox)Fe12O22(0.00≦x≦2.00)組成になるY型六方晶組成傾斜フェライト薄膜を形成した。得られたY型六方晶組成傾斜フェライト薄膜の各層の厚みは4.5nm、積層数:16層、全体厚み:72nmである。ターゲットとしてFe2O3粉末とBaCO3粉末とZnO粉末またはCoO粉末をそれぞれ所定量混合し、電気炉で焼結してBa2Zn2Fe12O22とBa2Co2Fe12O22を作製した。なお、基板温度は800℃、酸素分圧は1.33×10-1Pa(1×10-3Torr)とした。
かくして得られたY型六方晶組成傾斜フェライト材料に対して、フェライト薄膜の組成傾斜方向に沿い連続して磁気光学効果を測定した際の磁気光学スペクトルの明瞭性および磁気光学効果の測定の可否について調査したところ、明瞭な磁気光学スペクトルが得られ、その結果、磁気光学効果の測定も好適に実施することができた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、フェライトの成分組成の変化に伴う磁気特性の変化を、迅速かつ簡便かつ正確に判定することができるので、本発明に従って、多成分の組成傾斜薄膜を作製し、その磁気光学効果特性の組成依存性を判定することにより、磁場や波長に応じた最適の組成を選択することができる。
従って、多数のサンプルの作製および材料物性のデータ測定を迅速に行うことが可能となり、その結果、材料設計および部品・デバイスへの応用の迅速化が期待できる。
【符号の説明】
【0047】
1 チャンバー
2 基板
3 ターゲット
4 光発振部
5 反射鏡
6 レンズ
7 半導体レーザー
8 放射温度計
9 調整弁
10 ターボ分子ポンプ
11 圧力弁
12 油回転ポンプ
13 逆流防止弁
14 圧力モニタ
15 マスク
16 回転軸
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気光学効果特性測定用の組成傾斜フェライト材料に関するものである。
また、本発明は、上記した磁気光学効果特性測定用の組成傾斜フェライト材料を用いたフェライトの特性評価方法に関し、特にフェライトの成分組成を変化させた場合における磁気特性の変化を、磁気光学効果を利用することによって、迅速かつ簡便に判定しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
磁性材料として、フェライトが、以下に述べるような種々の用途において広く利用されている。
例えば、ハードフェライトとしては、回転機用磁石を利用した小型モータ用磁極、計測器、マイク・スピーカなどの電気機器、マグネットロール、磁気選別機、磁気軸受などの機械機構、あるいは健康器具用磁石や文具・玩具マグネットなどに、またソフトフェライトとしては、軟磁性を利用したパワー、通信用、CRT偏向などの磁気コア、磁気ヘッド、磁気シールド、マイクロ波特性を利用したフィルタ、アイソレータ、サーキュレータ、アンテナ、電磁波吸収体などマイクロ波デバイスなど、あるいは、磁気光学特性を利用した光アイソレータ、光サーキュレータ、光スイッチ、磁界センサなどの光通信・光学デバイス、マイクロ波特性を利用したフィルタ、共振器、サーキュレータなどのマイクロ波通信デバイス、さらには磁気バブルメモリなどの磁気メモリデバイスなどの種々の用途に幅広く利用されている。
上記の各用途において、フェライトに求められる特性は様々であり、各用途に適合した特性のフェライトを供給する必要がある。
フェライトの磁気特性は、主にフェライトの成分組成に依存することから、所望特性のフェライトを提供するためには、フェライト組成をその要求特性に適合した成分組成に調整する必要がある。
【0003】
従来、フェライトの組成変化に伴う磁気特性の変化を把握するには、フェライトの成分組成を少しずつ変化させた多数の試料を用意し、それらの磁気特性を一つ一つ測定することにより行っていた(例えば、非特許文献1)。
しかしながら、一つの試料を作製するにも、原料の調整に始まって焼結体を製造するまで多くの工程を必要とする。しかも、かかる試料を、成分組成を少しずつ変化させた各組成毎に数多く作製する必要があるため、試料作製に長時間を要するだけでなく、コストの上昇を招いていた。また、試料作製中には、以下に述べるような外乱によって、測定精度が劣化するところにも問題を残していた。
【0004】
一つ一つサンプルを作製および評価する場合、最も懸念されるのが同一の環境で行えるかどうかである。例えば、一連の実験を数日にわたって行う場合、気温や湿度など天候に左右されるおそれが高くなる。また、装置への供給電源が安定しているか、周辺機器との干渉は起こっていないかなども懸念される。
この点、多数のサンプルを同時に作製、評価できれば、上記のおそれは格段に低減する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】丸善 実験物理学講座6磁気測定 I
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、特定の成分系になるフェライトにおいて、対象とする成分(以下、対象成分という)の組成を変化させたときの磁気特性を検出しようとする場合に、一つの試料を作製するだけで、対象成分の組成変化に伴う磁気特性の変化を連続して測定することができる、磁気光学効果特性測定用の組成傾斜フェライト材料を提案することを目的とする。
また、本発明は、上記した組成傾斜フェライト材料を用いて、フェライトの成分組成を変化させた場合における磁気特性の変化を、磁気光学効果を利用することにより、迅速かつ簡便に判定することができるフェライトの特性評価方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
さて、発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、近年開発された傾斜薄膜製造技術と磁気光学効果とを組み合わせることによって、所期した目的が有利に達成されることの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0008】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.透光性を有する単結晶基板の上に、成分組成を水平方向に傾斜させて製膜した組成傾斜フェライト薄膜をそなえる磁気特性評価用の組成傾斜フェライト材料であって、
該組成傾斜フェライト薄膜は、単結晶基板の水平方向に成分組成を傾斜させて製膜した組成傾斜フェライト層の積層体からなり、
該組成傾斜フェライト層の各層の厚みが0.8〜4.5nmで、かつ積層体全体の厚みが30〜10000nmであることを特徴とする磁気光学効果特性測定用の組成傾斜フェライト材料。
【0009】
2.前記フェライトが、下記の一般式でそれぞれ示されるスピネルフェライト、Y型六方晶フェライトまたはガーネットフェライトのいずれかであることを特徴とする上記1に記載の組成傾斜フェライト材料。
記
・スピネルフェライト
一般式:A1-xBxFe2O4(0.00≦x≦1.00)
ここで、A,Bはそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、A≠B。
・Y型六方晶フェライト
一般式:A2(B1xB2y)Fe12O22(0.00≦x≦2.00,0.00≦y≦2.00,x+y=2.00)
ここで、AはBaおよび/またはSr、B1,B2はそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、B1≠B2。
・ガーネットフェライト
一般式:(BixR3-x)(Fe5-yMy)O12(0.00≦x≦1.60,0.00≦y≦1.00)
ここで、RはSc,Yおよび希土類元素のうちから選んだ一種または二種以上の元素、MはGaおよび/またはAl。
【0010】
3.前記単結晶基板が、MgAl2O4(111)基板またはAl2O3(0006)基板であることを特徴とする上記1または2に記載の組成傾斜フェライト材料。
【0011】
4.前記単結晶基板の透過性が、基板の厚みを0.5mmとした場合、波長:250〜2500nmの光の透過率で70%以上を満足することを特徴とする上記1乃至3のいずれかに記載の組成傾斜フェライト材料。
【0012】
5.透光性を有する単結晶基板上に、薄膜形成法を用いて、成分組成を水平方向に傾斜させて製膜した複数層の組成傾斜フェライト層からなる組成傾斜フェライト薄膜を形成し、該フェライト薄膜の組成傾斜方向に沿い連続して磁気光学効果を測定することにより、該フェライトの組成変化に伴う磁気特性の変化を連続して測定することを特徴とするフェライトの特性評価方法。
【0013】
6.前記フェライトが、下記の一般式でそれぞれ示されるスピネルフェライト、Y型六方晶フェライトまたはガーネットフェライトのいずれかであることを特徴とする上記5に記載のフェライトの特性評価方法。
記
・スピネルフェライト
一般式:A1-xBxFe2O4(0.00≦x≦1.00)
ここで、A,Bはそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、A≠B。
・Y型六方晶フェライト
一般式:A2(B1xB2y)Fe12O22(0.00≦x≦2.00,0.00≦y≦2.00,x+y=2.00)
ここで、AはBaおよび/またはSr、B1,B2はそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、B1≠B2。
・ガーネットフェライト
一般式:(BixR3-x)(Fe5-yMy)O12(0.00≦x≦1.60,0.00≦y≦1.00)
ここで、RはSc,Yおよび希土類元素のうちから選んだ一種または二種以上の元素、MはGaおよび/またはAl。
【0014】
7.前記単結晶基板が、MgAl2O4(111)基板またはAl2O3(0006)基板であることを特徴とする上記5または6に記載のフェライトの特性評価方法。
【0015】
8.前記薄膜形成法が、レーザアブレーション法(PLD法)、ALD法、CVD法、蒸着法またはスパッタリング法のいずれかであることを特徴とする上記5乃至7のいずれかに記載のフェライトの特性評価方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フェライトの成分組成の変化に伴う磁気特性の変化を、迅速かつ簡便かつ正確に判定することができる。
また、磁気光学ファラデー効果や磁気円二色性といった磁気光学効果の大きさは、磁化の大きさに比例することが知られていることから、本発明に従い、多成分の組成傾斜薄膜を作製し、その磁気光学効果特性の組成依存性を判定することにより、製品の使用時における磁場や波長に応じた最適の組成を選択することができる。
従って、多数のサンプルの作製および材料物性のデータ測定を迅速に行うことが可能となり、その結果、材料設計および部品・デバイスへの応用の迅速化が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】PLD法の実施に好適な薄膜形成装置の模式図である。
【図2】コンビナトリアル技術を用いて行う、多数の試料群の集積化の要領を示す模式図である。
【図3】PLD法にコンビナトリアル技術を適用して、多層積層体からなるZn1-xCoxFe2O4組成傾斜薄膜を形成する要領を示す模式図である。
【図4】(a)はPLD法を用いて作製したZn1-xCoxFe2O4組成傾斜薄膜の写真、(b)はこの写真に基づいて組成傾斜状態をより明確に示した図である。
【図5】(a)はZn1-xCoxFe2O4膜全面におけるX線回折パターン、(b),(c)はZnFe2O4膜およびCoFe2O4膜のX線回折パターンを示す図である。
【図6】Zn1-xCoxFe2O4膜の各測定点におけるd222値を示す図である。
【図7】Zn1-xCoxFe2O4膜の原子レベルの表面凹凸を示す表面AFM像の写真である。
【図8】Zn1-xCoxFe2O4膜の各測定点におけるZn,Co,Fe組成を示す図である。
【図9】膜厚が異なる3種類のZn1-xCoxFe2O4膜の波長と吸収係数との関係を示す図である。
【図10】Zn1-xCoxFe2O4膜の室温における各組成の磁気光学効果(磁気円二色性)の磁場依存性を、630nmの波長の光を用いて測定した結果を示す図である。
【図11】波長:630nmにおける磁気円二色性(MCD)および保磁力(Hc)の変化を組成変化に対して示した図である。
【図12】波長:310nmにおける磁気円二色性(MCD)および保磁力(Hc)の変化を組成変化に対して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明において、評価の対象とするフェライトについては特に制限はなく、スピネルフェライトやY型六方晶フェライト、ガーネットフェライトなど従来公知のフェライトのいずれもが適合する。
【0019】
ここに、スピネルフェライトとは、次の一般式で示されるものである。
一般式:A1-xBxFe2O4(0.00≦x≦1.00)
ここで、A,Bはそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、A≠B。
【0020】
また、Y型六方晶フェライトとは、次の一般式で示されるものである。
一般式:A2(B1xB2y)Fe12O22(0.00≦x≦2.00,0.00≦y≦2.00,x+y=2.00)
ここで、AはBaおよび/またはSr、B1,B2はそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、B1≠B2。
【0021】
さらに、ガーネットフェライトとは、次の一般式で示されるものである。
一般式:(BixR3-x)(Fe5-yMy)O12(0.00≦x≦1.60,0.00≦y≦1.00)
ここで、RはSc,Yおよび希土類元素のうちから選んだ一種または二種以上の元素、MはGaおよび/またはAl。
【0022】
また、本発明における単結晶基板としては、透過性を有していればいずれでもよく、その種類が特に限定されることはない。ここに、「透過性を有する」とは、0.5mm厚の基板において、波長:250〜2500nmの光の透過率が70%以上を意味する。また、透過性を評価する光の波長を250〜2500nmの範囲としたのは、この波長範囲を外れると本発明で所期した良好な透過率が得られないからである。
とはいえ、単結晶基板としては、その上に形成されるフェライト薄膜と、格子定数が近似しているものが有利であり、さらには、成長した膜の配向面が容易磁化軸に向き易いものがより有利である。例えば、評価対象がスピネルフェライトやY型六方晶フェライトの場合には、単結晶基板としてはMgAl2O4(111)基板やAl2O3(0006)基板などが有利に適合する。
【0023】
さらに、薄膜形成法としては、レーザアブレーション(PLD:Pulse Laser Deposition)法やALD(Atomic Laser Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、蒸着法(常温または高温蒸着法や熱および電子ビーム蒸着法など)およびスパッタリング法などの従来公知の薄膜形成技術のいずれもが適合するが、なかでもPLD法は以下に述べる種々の利点を有するのでのとりわけ有利に適合する。
(1)高融点の酸化物材料でも、パルスレーザーにより一瞬でターゲットをプラズマ化させることが可能であるため、ターゲットと同じ組成比の薄膜を容易に作製することができる。
(2)基板温度、ガス圧およびレーザーエネルギー密度等により成長速度を制御することが可能であり、かつパルス数を変えることで容易に膜厚を変えることができる。
(3)プラズマ化した薄膜材料はレーザーからのエネルギーを持つため、超高真空から大気圧まで酸素ガスを導入した状態で薄膜を作製することができる。
【0024】
ここで、PLD法を用いて、本発明に従うフェライト薄膜を形成する場合について説明する。
PLD法とは、ターゲット(薄膜原料:焼結体や単結晶)にパルスレーザーを断続的に照射し、ターゲットをアブレーションすることによって放出されるイオン、クラスタ、分子、原子など(これら解離種のまとまったプラズマの様な状態をプルームという)を、ターゲットと対向して配置された基板上に堆積させて、薄膜を形成する方法である。
【0025】
図1に、PLD法の実施に用いて好適な薄膜形成装置を模式で示す。
同図に示したとおり、この薄膜形成装置では、チャンバー1内に、基板2とターゲット3が対向して配設されている。また、このチャンバー1の外部には、光発振部4により発振されたパルスレーザー光の位置を調節するための反射鏡5、レーザー光のスポット径を制御するためのレンズ6が配設されている。7は、基板を加熱するための半導体レーザーであり、基板温度は窓を介して、チャンバー外部に設置された放射温度計8によってモニターされ、常に一定の温度となるように制御されている。また、チャンバー1には、酸素ガスの流量を調節するための調整弁9が付設されていて、減圧下における製膜を実現するため、チャンバーにはターボ分子ポンプ10および圧力弁11が連結されている。ここに、チャンバーの圧力は、酸素ガス流量調整弁9および圧力弁11を用い、例えば酸素雰囲気中において1.33×10-5〜1.33×10-1Pa(1×10-7〜1×10-3Torr)となるように制御されている。また、ターボ分子ポンプ10には、油回転ポンプ12と逆流防止弁13が連結されており、ターボ分子ポンプ10の排気側の圧力は常に1.33×10-1Pa(1×10-3Torr)以下に保持されている。なお、14は圧力モニタ、15はマスク、16は回転軸である。
【0026】
ターゲットに照射するパルスレーザー光としては、例えばパルス周波数:1〜10Hz、レーザパワー:1J/cm2、波長:248nm程度のKrFエキシマレーザーを好適に使用することができる。
【0027】
上記したPLD法にコンビナトリアル技術(combinatorial)を適用することにより、組成が連続的に変化する薄膜を形成することができる。ここに、コンビナトリアル技術とは、多種類の化合物群(ライブラリー)を効率的に合成し、それらを様々な目的に応じて活用していく技術である。
図2に、組成や超格子構造の異なる100〜10000個に及ぶ試料群の集積化の例を模式で示す。なお、基板とターゲットの位置関係は、図1と逆さになっている。図2(a)〜(c)では、基板とターゲットの間にパターン形成したマスクを挿入し、複数のターゲットの選択と同期してマスクを移動する状態を示している。この方法によれば、基板上に供給される元素の種類と量を時空間で精密に制御することができ、従って1枚の基板上にパラレルに異種物質を合成することができる。また、基板温度などの合成条件も同図(d)のように行うことができる。
本発明では、同図(c)の技術を導入している。
【0028】
次に、上記の技術を利用して、Zn1-xCoxFe2O4組成のスピネルフェライトの傾斜薄膜を形成する場合の具体的例について説明する。
(1) ターゲット
ターゲットとしては、CoFe2O4焼結体およびZnFe2O4焼結体を用いた。これらの焼結体は、所望の原子比となるように秤量されたCoOとFe2O3あるいはZnOとFe2O3との各粉末を混合し、さらにこの混合した粉末を放電プラズマ焼結:SPS(Spark Plasma Sintering)させることにより作製することができる。またターゲットは、基板における薄膜形成面に対して平行となるように配設した。
(2) 基板
基板としては、格子定数のマッチング性および広い波長範囲での光透過性、さらには電気伝導性、非磁性、熱安定性などの物性などを考慮して、MgAl2O4(111)基板を用いた。
(3) 製造過程
まず、研磨した基板および所望のターゲットをチャンバー内に設置する。次に、チャンバー内を、酸素分圧:1.33×10-1Pa(1×10-3Torr)、基板温度:400℃に設定し、図3に示すように、基板近接位置でマスク1,マスク2を基板の薄膜形成面と平行に移動させることにより膜厚を変化させながら製膜を行った。具体的には、ターゲットを回転軸を介して回転駆動させつつ、エネルギー密度:1J/cm2、パルス照射:5Hzのパルスレーザー光を断続的に照射することにより、ターゲット表面の温度を急激に上昇させ、アブレーションプラズマ(プルーム)を発生させた。このアブレーションプラズマ中に含まれるZn,Co,Fe,Oの各原子は、チャンバー内の酸素ガスとの衝突反応等を繰り返しながら状態を徐々に変化させて基板へ移動する。そして、基板へ到達したZn,Co,Fe,O原子を含む粒子は、そのまま基板上の(111)面に拡散し、格子整合性の最も安定な状態で薄膜化されることになる。
その結果、図3に示したような多層積層体からなる組成傾斜フェライト材料が得られるのである。
【0029】
図3に示した本発明に従う組成傾斜フェライト材料において、組成傾斜フェライト薄膜を形成する積層体各層の厚みは0.8〜4.5nmとする必要がある。というのは、各層の厚みがスピネルの単位胞である0.8nmに満たないと磁気光学スペクトルが得られず、一方六方晶の単位胞である4.5nmを超えると膜厚方向の組成の濃度むらが大きくなってやはり明瞭な磁気光学スペクトルが得られなくなるからである。より好ましい各層の厚みは1.0〜2.0nmの範囲である。なお図3では各層の厚みが1.46nm(14.6オングストローム)の例を示している。
【0030】
また、積層体全体の厚みは30〜10000nmとする必要がある。というのは、積層体全体の厚みが30nmに満たないと、積層体各層の界面で起こる電子移動遷移が少なくなるため正確な磁気光学効果の測定が難しく、一方10000nmを超えると測定波長:250〜2500nmにおいて十分な光の透過性が得られないからである。より好ましい積層体全体の厚みは40〜200nmの範囲である。なお、薄膜形成の能率を考慮すると積層体全体の厚みの上限は100nm程度とするのが有利である。
【0031】
上記のようにして得られた組成傾斜薄膜について、組成傾斜方向に沿って連続して磁気光学効果を測定することにより、かかるフェライトの組成変化に伴う磁気特性の変化を連続して測定することができる。
すなわち、磁気光学効果を測定すると、
a)磁気円二色性の大きさは薄膜の磁化の大きさに比例し、
b)磁気光学効果測定における保磁力は薄膜の保磁力に比例する
ので、この関係により、薄膜の磁化の大きさおよび保磁力を推定することができるのである。
【0032】
なお、本発明に従うフェライト組成傾斜薄膜の大きさについては特に制限はないが、長さ:1〜152.4mm、幅:1〜152.4mm程度とすることが好ましい。1mm未満であると薄膜の取扱性が困難になり。152.4mmを超えると膜組成の均一性に問題を生じるからである。
【実施例】
【0033】
実施例1
図1に示した薄膜形成装置を用い、MgAl2O4(111)基板温度:400℃、酸素分圧:1.33×10-1Pa(1×10-3Torr)の条件で、MgAl2O4(111)基板(厚み:0.5nm)上に、図4に示すような、長さ:12mm、幅:5mm、厚さ:70nmのZn1-xCoxFe2O4(0.00≦x≦1.00)の組成傾斜薄膜をレーザアブレーション法(PLD法)を用いて形成した。4図(a)は、PLD法を用いて作製したZn1-xCoxFe2O4組成傾斜薄膜の写真であり、同図(b)は、この写真に基づいて組成傾斜状態をより明確に示した図である。
このZn1-xCoxFe2O4膜の形成のために使用したターゲットは、CoO粉末、ZnO粉末およびFe2O3粉末を、CoFe2O4およびZnFe2O4の化学量論比組成に一致するように各々の粉末量を調整し、混合して、放電プラズマ焼結(SPS(Spark Plasma Sintering))により作製したターゲットである。なお、この例では、厚みが1.4nmの組成傾斜層を50層積層し、全体の厚みを70nmとした。
以下、かくして得られたZn1-xCoxFe2O4組成傾斜薄膜の各種物性について調べた結果を説明する。
【0034】
図5(a)は、上述のようにして得たZn1-xCoxFe2O4膜全面におけるX線回折パターンであり、同図(b)および(c)はそれぞれ、Zn1-xCoxFe2O4膜と同様の条件で得られたZnFe2O4膜およびCoFe2O4膜のX線回折パターンを示したものである。
同図から明らかなように、Zn1-xCoxFe2O4膜は、ZnFe2O4とCoFe2O4が互いに混じり合った積層構造をしていることが分かる。
【0035】
図6は、Zn1-xCoxFe2O4膜における各測定位置でのd222値を示すグラフである。
同図に示したとおり、Zn1-xCoxFe2O4膜の組成傾斜方向を見ると、xの減少に伴ってd222値が増加しており、x=0ではZnFe2O4膜と同じd222値を、一方x=1ではCoFe2O4膜と同じd222値を示すことが確認された。
【0036】
図7は、Zn1-xCoxFe2O4膜の原子レベルの表面凹凸を示す表面AFM像である。
同図から明らかなように、Zn1-xCoxFe2O4膜の表面には原子層ステップが等間隔で出現し、原子レベルで平坦な表面が形成されていることが分かる。
【0037】
図8は、Zn1-xCoxFe2O4膜の各測定位置におけるZn,Co,Fe組成比を示すグラフである。なお、組成比はエネルギー分散型X線分析装置で測定した。
同図に示したとおり、Zn1-xCoxFe2O4膜は、組成傾斜方向にZnとCoの比率がほぼ直線的に変化していることが分かる。
【0038】
また、Zn1-xCoxFe2O4膜の作製時間を変化させることによって、その膜厚を、16nm(試料番号♯1)、35nm(試料番号♯2)および70nm(試料番号♯3)と種々に変化させた。
図9は、上記した3種類のZn1-xCoxFe2O4膜の透過スペクトルおよび反射スペクトルより求めた室温における吸収係数を、波長との関係で示すグラフである。
同図に示したとおり、Zn1-xCoxFe2O4膜の組成変化に伴い、スペクトルがシフトしていることが分かる。
しかしながら、試料番号♯1は、膜厚が16nmで、本発明の下限に満たなかったため、明瞭な磁気光学スペクトルが得られなかったのに対し、膜厚が本発明の適正範囲を満たす試料番号♯2および試料番号♯3では、明瞭な磁気光学スペクトルを得ることができた。
【0039】
図10は、Zn1-xCoxFe2O4膜の室温における各組成の磁気光学効果(磁気円二色性)の磁場依存性を、630nmの波長の光を用いて測定した結果である。
同図に示したとおり、Zn1-xCoxFe2O4膜の組成変化に伴い、磁気円二色性が変化していることが分かる。
【0040】
図11は、図10から読み取った、波長:630nmにおける磁気円二色性(MCD)および保磁力(Hc)の変化を組成変化に対して示した図である。
また、図12は、図11と同様に、波長:310nmにおける磁気円二色性(MCD)および保磁力(Hc)の変化について調べた結果を、組成変化に対して示した図である。
図11と図12を比較すると、MCDのプロットが注目に値する。
すなわち、λ=630nmにおける測定では、x=1.0(CoFe2O4)での値が最も大きなMCD値を示したのに対し、λ=310nmにおける測定では、x=0.72(Zn0.28Co0.72Fe2O4)での値が最も大きなMCD値を示している。この結果は、例えば310nmの波長を利用した応用を考える場合には、30%程度ZnがドープされたZn1-xCoxFe2O4を利用することが好ましいことを示している。
また、x<0.24の組成では、λ=630nmではMCD値がほぼゼロであるのに対し、λ=310nmでは2500(deg./cm)以上の値を有していることも読み取ることができる。
なお、保磁力については、今回の波長依存性比較では、明瞭な差異は見られなかった。
【0041】
実施例2
MgAl2O4(111)基板上に、表1に示すABFe2O4組成のAサイト元素およびBサイト元素が異なるスピネルフェライトを、表2に示すように種々に組み合わせて、A1-xBxFe2O4(0.00≦x≦1.00)組成の組成傾斜フェライト薄膜を形成した。このフェライト薄膜の形成は、実施例1の方法に準じて行った。また、この際、フェライト積層体の各層の厚みおよび全体厚みについては種々に変化させた。
かくして得られた各組成傾斜フェライト材料に対して、フェライト薄膜の組成傾斜方向に沿い連続して磁気光学効果を測定した際の磁気光学スペクトルの明瞭性、磁気光学効果の測定の可否および波長:250〜2500nmの光の透過性について調査した。得られた結果を表2に併記する。なお、明瞭な磁気光学スペクトルが得られた場合および適正に磁気光学効果を測定できた場合は○で、一方、明瞭な磁気光学スペクトルが得られなかった場合および適正に磁気光学効果を測定できなかった場合は×で評価した。特にI-1のケース(Zn1-xCoxFe2O4;各層の膜厚が1.4nm、全体厚が70nm)では、磁気光学効果の測定が最も良好に行なえたので、I-1内の相対的な評価を◎とした。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表2に示したとおり、本発明の要件を満足する発明例はいずれも、明瞭な磁気光学スペクトルが得られ、適正に磁気光学効果を測定できたのに対し、フェライト積層体の各層の厚みや全体厚みが本発明の要件を逸脱した比較例では、明瞭な磁気光学スペクトルを得ることができず、その結果適正な磁気光学効果の測定も行えなかった。
【0045】
実施例3
MgAl2O4(111)基板上に、実施例1の方法に準じて、A2(Zn2-xCox)Fe12O22(0.00≦x≦2.00)組成になるY型六方晶組成傾斜フェライト薄膜を形成した。得られたY型六方晶組成傾斜フェライト薄膜の各層の厚みは4.5nm、積層数:16層、全体厚み:72nmである。ターゲットとしてFe2O3粉末とBaCO3粉末とZnO粉末またはCoO粉末をそれぞれ所定量混合し、電気炉で焼結してBa2Zn2Fe12O22とBa2Co2Fe12O22を作製した。なお、基板温度は800℃、酸素分圧は1.33×10-1Pa(1×10-3Torr)とした。
かくして得られたY型六方晶組成傾斜フェライト材料に対して、フェライト薄膜の組成傾斜方向に沿い連続して磁気光学効果を測定した際の磁気光学スペクトルの明瞭性および磁気光学効果の測定の可否について調査したところ、明瞭な磁気光学スペクトルが得られ、その結果、磁気光学効果の測定も好適に実施することができた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、フェライトの成分組成の変化に伴う磁気特性の変化を、迅速かつ簡便かつ正確に判定することができるので、本発明に従って、多成分の組成傾斜薄膜を作製し、その磁気光学効果特性の組成依存性を判定することにより、磁場や波長に応じた最適の組成を選択することができる。
従って、多数のサンプルの作製および材料物性のデータ測定を迅速に行うことが可能となり、その結果、材料設計および部品・デバイスへの応用の迅速化が期待できる。
【符号の説明】
【0047】
1 チャンバー
2 基板
3 ターゲット
4 光発振部
5 反射鏡
6 レンズ
7 半導体レーザー
8 放射温度計
9 調整弁
10 ターボ分子ポンプ
11 圧力弁
12 油回転ポンプ
13 逆流防止弁
14 圧力モニタ
15 マスク
16 回転軸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する単結晶基板の上に、成分組成を水平方向に傾斜させて製膜した組成傾斜フェライト薄膜をそなえる磁気特性評価用の組成傾斜フェライト材料であって、
該組成傾斜フェライト薄膜は、単結晶基板の水平方向に成分組成を傾斜させて製膜した組成傾斜フェライト層の積層体からなり、
該組成傾斜フェライト層の各層の厚みが0.8〜4.5nmで、かつ積層体全体の厚みが30〜10000nmであることを特徴とする磁気光学効果特性測定用の組成傾斜フェライト材料。
【請求項2】
前記フェライトが、下記の一般式でそれぞれ示されるスピネルフェライト、Y型六方晶フェライトまたはガーネットフェライトのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の組成傾斜フェライト材料。
記
・スピネルフェライト
一般式:A1-xBxFe2O4(0.00≦x≦1.00)
ここで、A,Bはそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、A≠B。
・Y型六方晶フェライト
一般式:A2(B1xB2y)Fe12O22(0.00≦x≦2.00,0.00≦y≦2.00,x+y=2.00)
ここで、AはBaおよび/またはSr、B1,B2はそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、B1≠B2。
・ガーネットフェライト
一般式:(BixR3-x)(Fe5-yMy)O12(0.00≦x≦1.60,0.00≦y≦1.00)
ここで、RはSc,Yおよび希土類元素のうちから選んだ一種または二種以上の元素、MはGaおよび/またはAl。
【請求項3】
前記単結晶基板が、MgAl2O4(111)基板またはAl2O3(0006)基板であることを特徴とする請求項1または2に記載の組成傾斜フェライト材料。
【請求項4】
前記単結晶基板の透過性が、基板の厚みを0.5mmとした場合、波長:250〜2500nmの光の透過率で70%以上を満足することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の組成傾斜フェライト材料。
【請求項5】
透光性を有する単結晶基板上に、薄膜形成法を用いて、成分組成を水平方向に傾斜させて製膜した複数層の組成傾斜フェライト層からなる組成傾斜フェライト薄膜を形成し、該フェライト薄膜の組成傾斜方向に沿い連続して磁気光学効果を測定することにより、該フェライトの組成変化に伴う磁気特性の変化を連続して測定することを特徴とするフェライトの特性評価方法。
【請求項6】
前記フェライトが、下記の一般式でそれぞれ示されるスピネルフェライト、Y型六方晶フェライトまたはガーネットフェライトのいずれかであることを特徴とする請求項5に記載のフェライトの特性評価方法。
記
・スピネルフェライト
一般式:A1-xBxFe2O4(0.00≦x≦1.00)
ここで、A,Bはそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、A≠B。
・Y型六方晶フェライト
一般式:A2(B1xB2y)Fe12O22(0.00≦x≦2.00,0.00≦y≦2.00,x+y=2.00)
ここで、AはBaおよび/またはSr、B1,B2はそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、B1≠B2。
・ガーネットフェライト
一般式:(BixR3-x)(Fe5-yMy)O12(0.00≦x≦1.60,0.00≦y≦1.00)
ここで、RはSc,Yおよび希土類元素のうちから選んだ一種または二種以上の元素、MはGaおよび/またはAl。
【請求項7】
前記単結晶基板が、MgAl2O4(111)基板またはAl2O3(0006)基板であることを特徴とする請求項5または6に記載のフェライトの特性評価方法。
【請求項8】
前記薄膜形成法が、レーザアブレーション法(PLD法)、ALD法、CVD法、蒸着法またはスパッタリング法のいずれかであることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載のフェライトの特性評価方法。
【請求項1】
透光性を有する単結晶基板の上に、成分組成を水平方向に傾斜させて製膜した組成傾斜フェライト薄膜をそなえる磁気特性評価用の組成傾斜フェライト材料であって、
該組成傾斜フェライト薄膜は、単結晶基板の水平方向に成分組成を傾斜させて製膜した組成傾斜フェライト層の積層体からなり、
該組成傾斜フェライト層の各層の厚みが0.8〜4.5nmで、かつ積層体全体の厚みが30〜10000nmであることを特徴とする磁気光学効果特性測定用の組成傾斜フェライト材料。
【請求項2】
前記フェライトが、下記の一般式でそれぞれ示されるスピネルフェライト、Y型六方晶フェライトまたはガーネットフェライトのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の組成傾斜フェライト材料。
記
・スピネルフェライト
一般式:A1-xBxFe2O4(0.00≦x≦1.00)
ここで、A,Bはそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、A≠B。
・Y型六方晶フェライト
一般式:A2(B1xB2y)Fe12O22(0.00≦x≦2.00,0.00≦y≦2.00,x+y=2.00)
ここで、AはBaおよび/またはSr、B1,B2はそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、B1≠B2。
・ガーネットフェライト
一般式:(BixR3-x)(Fe5-yMy)O12(0.00≦x≦1.60,0.00≦y≦1.00)
ここで、RはSc,Yおよび希土類元素のうちから選んだ一種または二種以上の元素、MはGaおよび/またはAl。
【請求項3】
前記単結晶基板が、MgAl2O4(111)基板またはAl2O3(0006)基板であることを特徴とする請求項1または2に記載の組成傾斜フェライト材料。
【請求項4】
前記単結晶基板の透過性が、基板の厚みを0.5mmとした場合、波長:250〜2500nmの光の透過率で70%以上を満足することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の組成傾斜フェライト材料。
【請求項5】
透光性を有する単結晶基板上に、薄膜形成法を用いて、成分組成を水平方向に傾斜させて製膜した複数層の組成傾斜フェライト層からなる組成傾斜フェライト薄膜を形成し、該フェライト薄膜の組成傾斜方向に沿い連続して磁気光学効果を測定することにより、該フェライトの組成変化に伴う磁気特性の変化を連続して測定することを特徴とするフェライトの特性評価方法。
【請求項6】
前記フェライトが、下記の一般式でそれぞれ示されるスピネルフェライト、Y型六方晶フェライトまたはガーネットフェライトのいずれかであることを特徴とする請求項5に記載のフェライトの特性評価方法。
記
・スピネルフェライト
一般式:A1-xBxFe2O4(0.00≦x≦1.00)
ここで、A,Bはそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、A≠B。
・Y型六方晶フェライト
一般式:A2(B1xB2y)Fe12O22(0.00≦x≦2.00,0.00≦y≦2.00,x+y=2.00)
ここで、AはBaおよび/またはSr、B1,B2はそれぞれ、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg,Al,GaおよびInのうちから選んだ一種または二種以上の元素。但し、B1≠B2。
・ガーネットフェライト
一般式:(BixR3-x)(Fe5-yMy)O12(0.00≦x≦1.60,0.00≦y≦1.00)
ここで、RはSc,Yおよび希土類元素のうちから選んだ一種または二種以上の元素、MはGaおよび/またはAl。
【請求項7】
前記単結晶基板が、MgAl2O4(111)基板またはAl2O3(0006)基板であることを特徴とする請求項5または6に記載のフェライトの特性評価方法。
【請求項8】
前記薄膜形成法が、レーザアブレーション法(PLD法)、ALD法、CVD法、蒸着法またはスパッタリング法のいずれかであることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載のフェライトの特性評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−245510(P2010−245510A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41529(P2010−41529)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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