説明

積層誘電体基板、高周波モジュール及び無線通信装置

【課題】積層誘電体基板に設置されたSAWフィルタ素子の入力信号経路と出力信号経路間のアイソレーションを十分に確保する。
【解決手段】積層誘電体基板17の内部に入力配線導体パターン305a、出力配線導体パターン305b及び接地導体パターン305c〜305eが形成されている。前記接地導体パターン305c〜305eは、前記入力配線導体パターン305aと前記出力配線導体パターン305bとの間に複数層にわたって形成され、前記複数層にわたって形成された各接地導体パターン305c〜305eどうしを、第4の誘電体層間ビア306e,306fで接続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話、無線LAN、WLL(Wireless Local Loop)などの無線通信装置に用いられる積層誘電体基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機の普及が進みつつあり、携帯電話機の機能、サービスの向上が図られている。このような携帯電話機では各送受信系の構成に必要な高周波回路を誘電体基板に搭載している。
前記高周波回路の一般的構成では、アンテナから入力された受信信号とアンテナに給電する送信信号とを切り替えるデュプレクサが設けられている。前記デュプレクサは、受信信号と送信信号とを切り替える必要があるため、急峻な遮断特性を持つフィルタ素子が用いられる。
【0003】
アンテナから入ってきた無線信号は、デュプレクサに入力され、ここで受信信号が選択的に通過される。受信信号は、低雑音増幅器で増幅され、信号処理回路に供給される。
一方、送信信号は、所定の送信通過帯域内の送信信号を通過させる帯域通過フィルタを通ってノイズを落とされ、高周波電力増幅回路に伝送される。高周波電力増幅回路は、この送信信号を電力増幅して前記デュプレクサに供給する。
【0004】
また、GPS(Global Positioning System)による測位機能も携帯電話機に取り込まれつつある。GPS機能付きの携帯電話機においては、GPS信号を前記送受信信号から分離する必要があるので、分波器が設けられている。アンテナから入力されたGPS信号は、この分波器を通り、GPS信号のみを通過させるためのGPS用フィルタ素子を経て、信号処理回路に供給される。
【0005】
近年、無線通信装置の小型化、多機能化に伴い、共通化可能な回路部分は、可及的に共通化するようにして機器の小型化、低コスト化を有利に展開することが要請されている。そのため所望の特性が達成できる回路単位で高周波モジュール化されている。
【特許文献1】特開2004−80233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記高周波モジュールを用いる場合、ケース内に内蔵される基板及び高周波回路に対する小型化の要求が厳しいため、高周波モジュールの大きさをできるだけ小さくすることが要求される。
高周波モジュールの小型化を図る手段として、高周波モジュールに実装するフィルタ素子を小型化する方法が効果的である。
【0007】
しかしそれにより、フィルタ素子の入力端子と出力端子間の距離が縮まるために、入力信号経路と出力信号経路間の信号漏れ量が多くなり、フィルタの減衰特性が劣化して、積層誘電体基板及び高周波モジュールの所望の電気特性を満たすことが困難になっている。
本発明は、積層誘電体基板の小型化を図りつつ、フィルタ素子の入力信号経路と出力信号経路間のアイソレーションを十分に確保できる高品質の積層誘電体基板、並びにこの基板を用いた高周波モジュール及び無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の積層誘電体基板は、入力電極、出力電極及び接地電極を具備するフィルタ素子を一方主面に実装したものであって、前記積層誘電体基板の内部に前記フィルタ素子の入力電極と接続される入力配線導体パターン、前記フィルタ素子の出力電極と接続される出力配線導体パターン及び接地導体パターンが形成され、前記接地導体パターンは、前記入力配線導体パターンと前記出力配線導体パターンとの間に複数層にわたって形成され、前記複数層にわたって形成された各接地導体パターンどうしを、誘電体層間ビアで接続していることを特徴とする。
【0009】
この構造の積層誘電体基板によれば、接地導体パターンを、入力配線導体パターンと出力配線導体パターンとの間において、複数層にわたって形成し、各接地導体パターンどうしを、誘電体層間ビアで接続することにより、入力配線導体パターンと出力配線導体パターンとの間を電磁的にシールドすることができる。したがって、フィルタ素子の入力信号経路と出力信号経路間の信号干渉を低減し、そのアイソレーションを十分に確保できる。これにより積層誘電体基板の小型化、軽量化ができる。
【0010】
前記各層に形成された接地導体パターンは、互いに平行に配置され、前記誘電体層間ビアは、前記接地導体パターンの一方の端部どうし、他方の端部どうしを、誘電体層の積層方向に沿って交互に接続することにより、ミアンダ状の接地導体パターンを形成しているものであってもよい。
この構造であれば、誘電体層間ビアで接地導体パターンの端部同士を接続することにより、入力配線導体パターンと出力配線導体パターンとの間において二次元的な電磁シールド面を形成することができ、したがって、フィルタ素子の入力信号経路と出力信号経路間の信号干渉をさらに効果的に低減することができる。
【0011】
また、前記各層に形成された接地導体パターンは、両端を有するとともに平面視して曲がった形状であり、前記誘電体層間ビアは、前記接地導体パターンの端部どうしを接続することにより、スパイラル形状の接地導体パターンを形成している構造を採用することもできる。
この構造であれば、接地導体パターンは誘導性を持つ。前記フィルタ素子の減衰量は、この接地導体パターンの誘導性に応じて変化するので、減衰量を調整することができるという効果が得られる。
【0012】
また、前記各層に形成された接地導体パターンは、互いに平行に配置された形状であり、前記誘電体層間ビアは、前記接地導体パターンどうしを、複数箇所において接続する構造を採用してもよい。
この構造であれば、前記誘電体層間ビアは、前記接地導体パターンどうしを、複数箇所において接続することにより、入力配線導体パターンと出力配線導体パターンとの間において、さらに密度の高い二次元的な(例えば平面格子状の)電磁シールド面を形成することができる。したがって、フィルタ素子の入力信号経路と出力信号経路間の信号干渉をさらに効果的に低減することができる。
【0013】
前記フィルタ素子は、高周波フィルタ機能を有するものであれば、いかなる素子を採用してもよい。例えば、弾性表面波素子であってもよい。
また、前記積層誘電体基板用いて、高周波特性の優れた小型、軽量の高周波回路モジュールを作製することができる。
また、前記高周波回路モジュールを搭載することにより、小型で特性の優れた携帯電話機などの無線通信装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、携帯電話装置等の移動体通信機器に用いられる高周波信号処理回路の構成図である。この移動体通信機器は、セルラーシステム(800MHz帯)と、GPS(Global Positioning System)測位システム(1575MHz)を共用する通信機器であるとする。
【0015】
このような構成の高周波信号処理回路を搭載した移動体通信機器においては、各部に対する小型化、軽量化の要求が強く、これらの要求を考慮して、高周波信号処理回路は、所望の特性が達成できる単位でモジュール化されている。
すなわち、図1に破線16で示したように、分波器2、デュプレクサ3a〜3c、送信用フィルタ6、電力増幅器5、GPS用フィルタ8などを含む主要回路が、1つの積層誘電体基板に配置され1つの高周波モジュールを形成している。
【0016】
なお、セルラー受信系を構成する低雑音増幅器9や受信用フィルタ10も実装したさらに大きな高周波モジュールとしてもよい。
本発明の高周波モジュールは、積層誘電体基板上に形成され、無線通信装置のアンテナに接続される分波器2と、デュプレクサ3a〜3cと、送信用フィルタ6と、電力増幅器5と、方向性結合器4と、電力検出回路7と、GPS用フィルタ8とを備えている。
【0017】
分波器2は、周波数をセルラーシステムとGPSシステムとに分けるものであり、低域通過フィルタと高域通過フィルタとを含んでいる。これらのフィルタは、誘電体積層誘電体基板内の内層導体パターンで形成されたキャパシタやインダクタで構成してもよく、チップ素子を誘電体積層誘電体基板の表面に実装する形で構成してもよい。また、これらの内層素子と表面実装素子との組み合わせで構成してもよい。
【0018】
GPS用フィルタ8は、急峻な遮断特性によりGPS受信信号のみを選択する弾性表面波(Surface Acoustic Wave)フィルタなどの表面実装部品で構成される。弾性表面波フィルタは減衰特性が急峻でかつ、小型という特徴があるので、弾性表面波フィルタを用いることで高周波モジュールの性能を向上させ、小型化ができる。なお、弾性表面波フィルタの代わりに、FBARフィルタ、誘電体フィルタ、BAWフィルタなどを用いることもできる。
【0019】
デュプレクサ3a〜3cはセルラーシステムの送信信号と受信信号とを分けるためのデュプレクサであり、送信用帯域通過フィルタ3a、受信用帯域通過フィルタ3b及び位相調整回路3cからなる。送信用帯域通過フィルタ3a、受信用帯域通過フィルタ3bも、急峻な遮断特性を持った弾性表面波フィルタなどが用いられる。
GPS用フィルタ8は、セルラーシステムの周波数帯の信号を減衰さ
せ、GPSシステムの周波数帯の受信信号のみを通過させるためのフィルタであり、急峻な遮断特性を持った弾性表面波フィルタなどが用いられる。
【0020】
送信用フィルタ6は、GPSシステムの周波数帯の受信信号を通過させるためのフィルタであり、ここにも急峻な遮断特性を持った弾性表面波フィルタなどが用いられる。
電力増幅器5は800MHz帯の送信信号を電力増幅する回路である。
方向性結合器4は、電力増幅器5からの出力信号のレベルをモニタして、そのモニタ信号に基づいて電力増幅器5をオートパワーコントロールするためのものである。そのモニタ出力は、電力検出回路7に入力される。
【0021】
セルラー送信系における信号の流れを説明する。送信信号処理回路11から出力されるセルラー送信信号は、送信用フィルタ6でノイズが削減され、電力増幅器5に伝えられる。電力増幅器5で増幅された送信信号は、方向性結合器4を通り、前記送信用帯域通過フィルタ3aに入力され、分波器2を通してアンテナから放射される。
一方アンテナから入力されたセルラー受信信号は、分波器2、位相調整回路3c、受信用帯域通過フィルタ3bを通して、低雑音増幅器9で増幅され、受信信号からノイズを除去する受信用フィルタ10を通り、受信信号処理回路12に入力され信号処理される。
【0022】
アンテナから入力されたGPS信号は、前記GPS用フィルタ8で分離され、受信信号処理回路12に入力され信号処理される。
図2は、図1中の破線に囲まれた領域16を1つの積層誘電体基板内にモジュール化した場合の高周波モジュールの斜視透過図を示す。
図2において、積層誘電体基板17の表層には、電力増幅器5を構成する電力増幅用半導体素子18、送信用帯域通過フィルタ3a、受信用帯域通過フィルタ3b、GPS用フィルタ8、送信用フィルタ6、電力検出回路7が実装されている。また、方向性結合器4や分波器2は、積層誘電体基板17の表面に搭載されるチップ部品や、積層誘電体基板17の表面や内部の導体パターンによって形成されている。また電力増幅器5を構成する電力増幅用整合回路も設けられているが、その電力増幅用整合回路も積層誘電体基板17表面に搭載されるチップ部品や、積層誘電体基板17の表面や内部の導体パターンによって形成されている。
【0023】
図2に示す高周波モジュールにおいて、送信用フィルタ6、送信用帯域通過フィルタ3a、受信用帯域通過フィルタ3b、GPS用フィルタ8は、すでに述べたように誘電体フィルタやSAWフィルタ、FBARフィルタが使用されている。SAWフィルタを用いる場合、SAWフィルタ素子を積層誘電体基板17の表層に実装することでフィルタとして機能する。
【0024】
積層誘電体基板17は、同一寸法形状の誘電体層を複数層積層してなり、その表面や内部に配線導体層が形成されてなるものである。例えば、ガラスエポキシ樹脂などの有機誘電体層に対して、銅箔などの導体によって配線導体層を形成し、積層して熱硬化させたもの、又は、セラミック材料などの無機誘電体グリーンシートに種々の配線導体層を形成し、これらを積層後同時に焼成したものが用いられる。
【0025】
上記セラミック材料としては、(1)Al2O3、AlN、Si3N4、SiCなどを主成分とする焼成温度が1100℃以上のセラミック材料、(2)金属酸化物の混合物からなる1100℃以下、特に1050℃以下で焼成される低温焼成セラミック材料、(3)ガラス粉末、あるいはガラス粉末とセラミックフィラー粉末との混合物からなる1100℃以下、特に1050℃以下で焼成される低温焼成セラミック材料の群から選ばれる少なくとも1種が選択される。
【0026】
前記(2)の混合物としては、BaO−TiO2システム、Ca−TiO2システム、MgO−TiO2システム等のセラミック材料が用いられる。これらのセラミック材料に、SiO2、Bi2O3、CuO、Li2O、B2O3等の助剤を適宜添加したものも用いられる。前記(3)のガラス組成物としては、少なくともSiO2を含み、Al2O3、B2O3、ZnO、PbO、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属酸化物のうちの少なくとも1種以上を含有したものであって、具体的には、SiO2−B2O3−ROシステム、SiO2−BaO−Al2O3−ROシステム、SiO2−B2O3−Al2O3−ROシステム、SiO2−Al2O3−ROシステム、さらにはこれらのシステムにZnO、PbO、Pb、ZrO2、TiO2等を配合した組成物が挙げられる。
【0027】
また、前記(3)のガラスとしては、焼成処理することによっても非晶質ガラス、また焼成処理によって、アルカリ金属シリケート、クォーツ、クリストバライト、コージェライト、ムライト、エンスタタイト、アノーサイト、セルジアン、スピネル、ガーナイト、ディオプサイド、イルメナイト、ウイレマイト、ドロマイト、ペタライトやその置換誘導体の結晶を少なくとも1種を析出する結晶化ガラスなどが用いられる。また、前記(3)におけるセラミックフィラーとしては、Al2O3、SiO2(クォーツ、クリストバライト)、フォルステライト、コージェライト、ムライト、ZrO2、ムライト、フォルステライト、エンスタタイト、スピネル、マグネシア、AlN、Si3N4、SiC、MgTiO3、CaTiO3などのチタン酸塩の群から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、ガラス20〜80質量%、フィラー20〜80質量%の割合で混合されることが望ましい。
【0028】
一方、配線導体層は、積層誘電体基板17と同時焼成して形成するために、積層誘電体基板17を形成するセラミック材料の焼成温度に応じて種々組み合わせられる。例えば、セラミック材料が前記(1)の場合、タングステン、モリブデン、マンガン、銅の群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする導体材料が好適に用いられる。また、低抵抗化のために、銅などとの混合物としてもよい。セラミック材料が前記(2)(3)の低温焼成セラミック材料を用いる場合、銅、銀、金、アルミニウムの群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする低抵抗導体材料が用いられる。
【0029】
また、各層を接続するためのビアホール導体は、誘電体層に形成した貫通孔にメッキ処理するか、導体ペーストを充填するかして形成される。
特に、積層誘電体基板17にセラミック材料を用いれば、セラミック誘電体の比誘電率は通常7から25と、樹脂積層誘電体基板に比べて高いので、誘電体層を薄くでき、誘電体層に内装された回路の素子のサイズを小さくでき、素子間距離も狭くすることができる。
【0030】
とりわけ、ガラスセラミックスなどの低温で焼成が可能なセラミック材料を用いると、前述したように、導体パターンを低抵抗の銅、銀などによって形成することができるので望ましい。
この高周波モジュールは、複数個取りになった積層誘電体基板の作製、積層誘電体基板へのクリーム半田の印刷、表面実装部品を積層誘電体基板に載せるためのチップマウント、半田を硬化させるためのリフロー、積層誘電体基板を個片にするためのダイシング又はスナップという製造工程で作られる。なお、ダイシングの前に樹脂封止工程を入れれば、表面を平らにでき、ユーザーがメインボードに搭載するのが容易になるので、高周波モジュール単体として望ましい形状となる。
【0031】
図3は、本発明の高周波モジュールを構成する積層誘電体基板17の一例を示す斜視透過図である。また図4は積層誘電体基板17を上面から見た透過図である。
図3において、送信用フィルタ6を構成する弾性表面波素子を301で示す。積層誘電体基板17の表面の"A"は弾性表面波素子301の実装領域を示す。積層誘電体基板17の表面の302,303は、弾性表面波素子301の入出力電極に接続される入出力端子受け電極を示し、304は、弾性表面波素子301の接地電極に接続される接地端子受け電極を示す。また、307は積層誘電体基板17の裏面に形成された裏面接地電極、309は送信信号処理回路11につながる入力端子電極を示す。
【0032】
305a,305bは、積層誘電体基板17の1つの誘電体層に形成された入力配線導体パターン、出力配線導体パターンをそれぞれ示す。入力配線導体パターン305aと入力端子309とは、誘電体層間のビア306dを介してつながっている。また、入力配線導体パターン305aは、誘電体層間のビア306aを介して、積層誘電体基板17表面の入力端子受け電極302につながり、出力配線導体パターン305bは、誘電体層間のビア306bを介して、積層誘電体基板17表面の出力端子受け電極303につながっている。
【0033】
さらに、積層誘電体基板17表面の接地端子受け電極304は、ビア306c、接地導体パターン305c、ビア306e、接地導体パターン305d、ビア306f、接地導体パターン305e、ビア306gを介して、積層誘電体基板17の裏面に形成された裏面接地電極307に接続される。
ここで、接地導体パターン305c、接地導体パターン305d、接地導体パターン305eは、互いに平行に配置され、それぞれ複数の誘電体層に形成された配線導体である。なお、配線導体は、本発明の実施形態では、上下に接する各誘電体層に形成されているものであるが、必ずしも上下に接する各誘電体層に形成されているものでなくてもよい。配線導体の形成された誘電体層の間に、配線導体の形成されていない誘電体層が挟まれていてもよい(以下に説明する他の実施形態においても同じ)。
【0034】
前記ビア306eは、接地線導体パターン305cの一端と接地導体パターン305dの一端同士を接続している。前記ビア306fは、接地導体パターン305dの他端と接地配線導体パターン305eの他端同士を接続している。前記ビア306eとビア306fとが、特許請求の範囲記載の複数層にわたって形成された各接地導体パターンどうしを接続する「誘電体層間ビア」を構成する。
【0035】
送信信号処理回路11からの入力信号は、積層誘電体基板17の裏面の入力端子電極309からビア306d、入力配線導体パターン305a、ビア306a、入力端子受け電極302の順に接続された後、弾性表面波素子301に入力される。
弾性表面波素子301の出力信号は、弾性表面波素子301から出力端子受け電極303、ビア306b、出力配線導体パターン305bの順で接続された後、電力増幅器5に出力される。
【0036】
弾性表面波素子301の接地電極は、接地端子受け電極304、ビア306c、接地導体パターン305c、ビア306e、接地導体パターン305d、ビア306f、接地導体パターン305e、ビア306g、裏面接地電極307の順に接続される。
この接地経路の形状は、前記接地導体パターン305c〜305eの一方の端部どうし、他方の端部どうしを、誘電体層の上層から下層にかけて交互に接続することにより、ミアンダ状となる。これにより、入力信号経路(305a)と出力信号経路(305b)間に、垂直なシールド面を形成することが出来るので、弾性表面波素子301を通らない信号の漏れ量を抑制することができる。したがって、フィルタ素子の入力信号経路と出力信号経路間の信号干渉を低減し、そのアイソレーションを十分に確保できる。
【0037】
図5は、本発明の高周波モジュールを構成する積層誘電体基板17の他の一例を示す斜視透過図である。また図6は積層誘電体基板17を上面から見た透過図である。
図5において、弾性表面波素子401は図3に示した弾性表面波素子301と同じもので、"A"は弾性表面波素子401の実装領域を示す。積層誘電体基板17の表面の402,403は、弾性表面波素子401の入出力電極に接続される入出力端子受け電極を示し、404は、弾性表面波素子401の接地電極に接続される接地端子受け電極を示す。407は積層誘電体基板17の裏面に形成された裏面接地電極、409は送信信号処理回路11につながる入力端子電極を示す。
【0038】
405a,405bは、積層誘電体基板17の1つの誘電体層に形成された入力配線導体パターン、出力配線導体パターンをそれぞれ示す。 この図5では、積層誘電体基板17表面の接地端子受け電極404が、ビア406c、接地導体パターン405c、ビア406e、接地導体パターン405d、ビア406f、接地導体パターン405e、ビア406gを介して、積層誘電体基板17の裏面に形成された裏面接地電極407に接続されている。
【0039】
前記ビア406eとビア406fとが、特許請求の範囲記載の複数層にわたって形成された各接地導体パターンどうしを接続する「誘電体層間ビア」を構成する。
図3の配線と異なっているところは、接地導体パターン405c,405d,405eの形状が上から見て、両端が開いているとともに平面視して折れ曲がった形状となっていることである。具体的には、ほぼ「コ」の字状あるいはそれに近い形状になっている。したがって、接地経路の形状は、接地端子受け電極404から裏面接地電極407に至るまで、スパイラル状に配線される。
【0040】
これにより、入力信号経路(405a)と出力信号経路(405b)間にシールド面を形成することが出来るので、信号漏れ量を抑制することができる。図3のミアンダ状の接地経路に比べて、接地導体パターン405c,405d,405eの総距離が長くなり、シールドを立体的に形成することが出来るので、信号の漏れ量をさらに抑制することができる。さらに、スパイラルによって接地配線を誘導性とすることができるので、前記フィルタ素子の減衰量を調整することができるという効果が得られる。
【0041】
なお、図5,図6の実施形態において、接地経路を構成する配線導体パターンの形状は、両端が開いているとともに平面視して折れ曲がった形状に限定されるものではない。例えば、両端が開いているとともに平面視してなめらかに湾曲した形状であってもよい。なめらかに湾曲した形状として、例えば、「U」字状、「C」字状などの形状があげられる。
【0042】
図7は、本発明の高周波モジュールを構成する積層誘電体基板17のさらに他の例を示す斜視透過図である。また図8は積層誘電体基板17を上面から見た透過図である。
図7において、弾性表面波素子501は図3に示した弾性表面波素子301と同じもので、"A"は弾性表面波素子501の実装領域を示す。積層誘電体基板17の表面の502,503は、弾性表面波素子501の入出力電極に接続される入出力端子受け電極を示し、504は、弾性表面波素子501の接地電極に接続される接地端子受け電極を示す。507は積層誘電体基板17の裏面に形成された裏面接地電極、509は送信信号処理回路11につながる入力端子電極を示す。
【0043】
この図7では、積層誘電体基板17表面の接地端子受け電極504が、ビア506c、接地導体パターン505c、3本の並列ビア506e、接地導体パターン505d、3本の並列ビア506f、接地導体パターン505e、3本の並列ビア506gを介して、積層誘電体基板17の裏面に形成された裏面接地電極507に接続されている。
前記ビア506eとビア506fとが、特許請求の範囲記載の複数層にわたって形成された各接地導体パターンどうしを接続する「誘電体層間ビア」を構成する。
【0044】
図3の配線と異なっているところは、図3では、接地導体パターン305c,305d,305eの端同士が交互につながってミアンダ状になっていたのに対して、図7では、接地導体パターン505c,505d,505e同士が中央及び両端で各ビアにより接続され、入力配線導体パターン505aの方向、出力配線導体パターン505bの方向から見て縦横につながった平面格子状になっていることである。
【0045】
したがって、接地経路の形状は、接地端子受け電極504から裏面接地電極507に至るまで、平面格子状に配線される。これにより、入力信号経路(505a)と出力信号経路(505b)間に、電磁シールド面を形成することが出来るので、信号漏れ量を抑制することができる。図3のミアンダ状の接地経路に比べて、ビア506e,506f,506gの本数が3本ずつあるので、シールド面の導体密度が、より高くなり、効果的なシールド実現することができ、信号の漏れ量をさらに抑制することができる。
【0046】
なお、ビア506e,506f,506gの本数は、図7に示した3本に限られるものではなく、2本でも4本以上でも、複数本あれば、シールド面の導体密度を高めることができる。また、1本であっても、この1本のビアと配線導体パターン505c,505d,505eとにより、シールド効果は達せられる。
以上で、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施は、前記の形態に限定されるものではない。例えば、いままでの実施形態では、送信用フィルタ6を構成する弾性表面波素子301,401,501を例にあげて、入出力間で接地導体パターンとビアとを用いてシールド面を構成する構造を説明した。しかし、本発明は、送信用フィルタ6を構成する弾性表面波素子に限らず、送信用帯域通過フィルタ3a、受信用帯域通過フィルタ3b、GPS用フィルタ8の弾性表面波素子に対しても、同じように適用できる。加えて本発明の一例は弾性表面波素子を使用した場合について示されたが、誘電体フィルタやFBARフィルタなどのフィルタ素子を用いた場合でも、同じように適用できる。また、セルラーシステム(800MHz帯)とGPSシステムに対応する高周波モジュールについて説明したが、本発明の構造が適用される通過帯域や通信方式はこれらに限定されるわけではない。例えばGSM方式(Global System for Mobile communication)850方式(850MHz帯)、GSM900方式(900MHz帯)、DCS方式(1800MHz帯)、PCS方式(1900MHz帯)などに対応する積層誘電体基板、高周波モジュールについても、本発明の構造を適用することができる。その他、本発明の範囲内で種々の変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】移動体通信機器に用いられる高周波信号処理回路の構成図である。
【図2】図1の破線に囲まれた領域16を1つの積層誘電体基板内にモジュール化した場合の高周波モジュールの斜視透過図を示す。
【図3】本発明のシールド構造を適用した積層誘電体基板17の内部透過斜視図である。
【図4】図3のシールド構造を適用した積層誘電体基板17を上面から見た透過図である。
【図5】本発明の他のシールド構造を適用した積層誘電体基板17の内部透過斜視図である。
【図6】図5のシールド構造を適用した積層誘電体基板17を上面から見た透過図である。
【図7】本発明のさらに他のシールド構造を適用した積層誘電体基板17の内部透過斜視図である。
【図8】図7のシールド構造を適用した積層誘電体基板17を上面から見た透過図である。
【符号の説明】
【0048】
2:分波器
3a、3b、3c:デュプレクサ
4:方向性結合器
5:電力増幅器
6:送信用フィルタ
7:電力検出回路
8:GPS用フィルタ
9:低雑音増幅器
10:受信用フィルタ
11、12:RFIC
13:ベースバンドIC
14:VC−TCXO
15:VCO
16:高周波モジュール
17:積層誘電体基板
18:電力増幅用半導体素子
301、401、501:弾性表面波素子
302、402、502:入力端子受け電極
303、403、503:出力端子受け電極
304、404、504:接地端子受け電極
305a、405a、505a:入力配線導体パターン
305b、405b、505b:出力配線導体パターン
305c〜305e、405c〜405e、505c〜505e:接地導体パターン
306a〜306g、406a〜406g、506a〜506f:ビア
307、407、507:裏面接地電極
309、409、509:入力端子
A:送信フィルタ搭載部
ANT:アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電極、出力電極及び接地電極を具備するフィルタ素子を一方主面に実装した積層誘電体基板であって、
前記積層誘電体基板の内部に前記フィルタ素子の入力電極と接続される入力配線導体パターン、前記フィルタ素子の出力電極と接続される出力配線導体パターン及び接地導体パターンが形成され、
前記接地導体パターンは、前記入力配線導体パターンと前記出力配線導体パターンとの間に、複数層にわたって形成され、
前記複数層にわたって形成された各接地導体パターンどうしを、誘電体層間ビアで接続している積層誘電体基板。
【請求項2】
前記各層に形成された接地導体パターンは、互いに平行に配置され、
前記誘電体層間ビアは、前記接地導体パターンの一方の端部どうし、他方の端部どうしを、誘電体層の積層方向に沿って交互に接続することにより、ミアンダ状の接地導体パターンを形成している請求項1記載の積層誘電体基板。
【請求項3】
前記各層に形成された接地導体パターンは、両端を有するとともに平面視して曲がった形状であり、
前記誘電体層間ビアは、前記接地導体パターンの端部どうしを接続することにより、スパイラル形状の接地導体パターンを形成している請求項1記載の積層誘電体基板。
【請求項4】
前記各層に形成された接地導体パターンは、互いに平行に配置され、
前記誘電体層間ビアは、前記接地導体パターンどうしを、複数箇所において接続している請求項1記載の積層誘電体基板。
【請求項5】
前記誘電体層間ビアにより、平面格子状の接地導体パターンを形成している請求項4記載の積層誘電体基板。
【請求項6】
前記フィルタ素子は、弾性表面波素子である請求項1記載の積層誘電体基板。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の積層誘電体基板用いた高周波回路モジュール。
【請求項8】
請求項7記載の高周波回路モジュールを搭載した携帯電話機などの無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−186907(P2006−186907A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380887(P2004−380887)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】