説明

窒化物半導体発光素子の製造方法

【課題】成長用基板に形成された窒化物半導体層を容易に剥離できる窒化物半導体発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】窒化物半導体発光素子の製造方法では、第1のサイズd1を有する第1基板31に窒化物半導体層11を形成する。窒化物半導体層11上に第1のサイズd1より小さい第2のサイズd2を有する第1接着層12aを形成し、第2基板32上に第2接着層12b形成する。第1および第2接着層12a、12bを重ね合わせ、第1および第2基板31、32を張り合わせる。第2のサイズd2より大きいまたは等しい第3のサイズd3を有する凹部31aを生じるように第1基板31を除去する。凹部31aに薬液を注入し、窒化物半導体層11が露出するまで第1基板31をエッチングする。薬液で、露出した窒化物半導体層11を更にエッチングし、窒化物半導体層11の露出面を粗面化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、窒化物半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窒化物半導体発光素子には、不透明な導電性の支持基板上に金属反射膜を介して窒化物半導体層を形成し、窒化物半導体層側から光を取り出すとともに、窒化物半導体層から支持基板に電流路が形成されるように構成されているものがある。
【0003】
この窒化物半導体発光素子は、始に成長用基板に窒化物半導体層を形成し、金属反射膜を介して成長用基板と支持基板を張り合わせた後、成長用基板を除去することにより製造されている。
【0004】
成長用基板がサファイア基板の場合、レーザリフトオフ法でサファイア基板を剥離すると、熱歪により窒化物半導体層の周辺にクラックが発生する問題がある。クラックが発生しない程度の微小なスポット径を有するレーザを用いればクラックの発生を抑えることができるが、作業時間が増大する問題がある。
【0005】
成長用基板がシリコン基板の場合、ウェットエッチングで容易にシリコン基板を剥離できる。然しながら、張り合わされた成長用基板および支持基板の露出面(裏面および側面を含む)がエッチング液に曝される。
【0006】
そのため、成長用基板を除く部位がエッチングされないように保護膜で被覆する必要がある。しかし、保護膜との隙間にエッチング液が染み込んで支持基板や金属反射膜などがダメージを受け易いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−283185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、成長用基板に形成された窒化物半導体層を容易に剥離できる窒化物半導体発光素子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一つの実施形態によれば、窒化物半導体発光素子の製造方法では、第1のサイズを有する第1基板に窒化物半導体層を形成する。前記窒化物半導体層上に前記第1のサイズより小さい第2のサイズを有する第1接着層を形成し、第2基板上に第2接着層を形成する。前記第1および第2接着層を重ね合わせ、前記第1および第2基板を張り合わせる。前記第2のサイズより大きいまたは等しい第3のサイズを有する凹部を生じるように前記第1基板を除去する。前記凹部に薬液を注入し、前記窒化物半導体層が露出するまで前記第1基板をエッチングする。前記薬液で、露出した前記窒化物半導体層をエッチングし、前記窒化物半導体層の露出面を粗面化する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1に係る窒化物半導体発光素子を示す断面図。
【図2】実施例1に係る窒化物半導体発光素子の製造工程を順に示す断面図。
【図3】実施例1に係る窒化物半導体発光素子の製造工程を順に示す断面図。
【図4】実施例1に係る窒化物半導体発光素子の製造工程を順に示す断面図。
【図5】実施例1に係る窒化物半導体発光素子の製造工程を順に示す断面図。
【図6】実施例2に係る窒化物半導体発光素子を示す断面図。
【図7】実施例2に係る窒化物半導体発光素子の製造工程を順に示す断面図。
【図8】実施例2に係る窒化物半導体発光素子の製造工程を順に示す断面図。
【図9】実施例2に係る窒化物半導体発光素子の製造工程を順に示す断面図。
【図10】実施例2に係る窒化物半導体発光素子の製造工程を順に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0012】
本実施例に係る窒化物半導体発光素子の製造方法について図1乃至図5を用いて説明する。図1は本実施例の窒化物半導体発光素子を示す断面図、図2乃至図5は窒化物半導体発光素子の製造工程を順に示す断面図である。
【0013】
図1に示すように、本実施例の窒化物半導体発光素子10では、窒化物半導体層11が接着層12を介して支持基板13上に形成されている。
【0014】
窒化物半導体層11の上面11aは、光の取り出し効率を高めるために粗面化されている。第1電極14が窒化物半導体層11の上面11aに形成されている。第2電極15が支持基板13の下面13aに形成されている。
【0015】
窒化物半導体層11は、例えばN型GaN層21、N型GaNクラッド層22、MQW層23、P型GaNクラッド層24およびP型GaNコンタクト層25が順に積層された多層構造の窒化物半導体層(半導体積層体)である。
【0016】
P型GaNコンタクト層25上にはMQW層23から支持基板13側に放射された光を窒化物半導体層11側に反射するための反射層26、例えば銀(Ag)膜と、Agの拡散を防止するためのバリア層27、例えば窒化チタン(TiN)膜が形成されている。
【0017】
接着層12は、例えば金錫(AuSn)等の共晶金属膜である。接着層12は窒化物半導体層11側のバリア層27上に形成された第1接着層12aと支持基板13上に形成された第2接着層12bが合体した接着層である。
【0018】
支持基板13は、例えば比抵抗の低いN型シリコン基板である。第1電極(N側電極)14は、例えばチタン(Ti)/白金(Pt)/金(Au)の積層膜で、窒化物半導体層11のN型GaN層21上に形成されている。第2電極(P側電極)15は、例えばアルミニウム(Al)膜である。
【0019】
窒化物半導体層11については周知であるが、以下簡単に説明する。N型GaN層21は、N型クラッド層22乃至P型GaNコンタクト層25までを成長させるための下地単結晶層であり、例えば約3μmと厚く形成されている。N型GaNクラッド層22は、例えば厚さ2μm程度に形成されている。
【0020】
MQW層23は、例えば厚さが5nmのGaN障壁層と厚さが2.5nmのInGaN井戸層とが交互に積層され、最上層がInGaN井戸層である多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)構造に形成されている。
【0021】
P型GaNクラッド層24は、例えば厚さ100nm程度に形成され、P型GaNコンタクト層25は、例えば厚さ10nm程度に形成されている。
【0022】
InGaN井戸層(InGa1−xN層、0<x<1)のIn組成比xは、窒化物半導体層11から取り出される光のピーク波長が、例えば約450nmになるように0.1程度に設定されている。
【0023】
本実施例の窒化物半導体発光素子10は、第1電極14と第2電極15を電源に接続すると、窒化物半導体層11と支持基板13の間に電流が流れ、MQW層23から放射されて支持基板13側に向かう光が反射層26で窒化物半導体層11側に反射され、窒化物半導体層11側から多くの光が取り出されるように構成されている。
【0024】
次に、窒化物半導体発光素子10の製造方法について説明する。図2乃至図3は窒化物半導体発光素子10の製造工程を順に示す断面図である。
【0025】
図2(a)に示すように、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法により、直径(第1のサイズ)d1を有する第1基板(成長用基板)31に、バッファ層を介してN型GaN層21乃至P型GaNコンタクト層25を順にエピタキシャル成長させて窒化物半導体層11を形成する。
【0026】
第1基板31は、例えば比抵抗が数Ωcm程度のP型シリコン基板で、直径d1が約150mm、厚さt1が約650μmである。
【0027】
窒化物半導体層11の形成方法は周知であるが、以下簡単に説明する。第1基板31である面方位が(100)±2°オフのN型シリコン基板に前処理として、例えば有機洗浄、酸洗浄を施した後、MOCVD装置の反応室内に収納する。
【0028】
次に、例えば窒素(N)ガスと水素(H)ガスの常圧混合ガス雰囲気中で、高周波加熱により、第1基板31の温度を、例えば1100℃まで昇温する。これにより、第1基板31の表面が気相エッチングされ、表面に形成されている自然酸化膜が除去される。
【0029】
次に、NガスとHガスの混合ガスをキャリアガスとし、プロセスガスとして、例えばアンモニア(NH)ガスとトリメチルガリウム(TMG:Tri-Methyl Gallium)を供給し、N型ドーパントとして、例えばシラン(SiH)ガスを供給し、厚さ3μmのN型GaN層21を形成する。
【0030】
次に、同様にして厚さ2μmのN型GaNクラッド層22を形成した後、NHガスは供給し続けながらTMGおよびSiHガスの供給を停止し、第1基板31の温度を1100℃より低い温度、例えば800℃まで降温し、800℃で保持する。
【0031】
次に、Nガスをキャリアガスとし、プロセスガスとして、例えばNHガスおよびTMGを供給し、厚さ5nmのGaN障壁層を形成し、この中にトリメチルインジウム(TMI:Tri-Methyl Indium)を供給することにより、厚さ2.5nm、In組成比が0.1のInGaN井戸層を形成する。
【0032】
次に、TMIの供給を断続することにより、GaN障壁層とInGaN井戸層の形成を、例えば7回繰返す。これにより、MQW層23が得られる。
【0033】
次に、TMG、NHガスは供給し続けながらTMIの供給を停止し、アンドープで厚さ5nmのGaNキャップ層を形成する。
【0034】
次に、NHガスは供給し続けながらTMG、TMAの供給を停止し、Nガス雰囲気中で、第1基板31の温度を800℃より高い温度、例えば1030℃まで昇温し、1030℃で保持する。
【0035】
次に、NガスとHガスの混合ガスをキャリアガスとし、プロセスガスとしてNHガスおよびTMG、P型ドーパントとしてビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)を供給し、Mg濃度が1E20cm−3、厚さが100nm程度のP型GaNクラッド層24を形成する。
【0036】
次に、CpMgの供給を増やして、Mg濃度が1E21cm−3、厚さ10nm程度のP型GaNコンタクト層25を形成する。
【0037】
次に、NHガスは供給し続けながらTMGの供給を停止し、キャリアガスのみ引き続き供給し、第1基板31を自然降温する。NHガスの供給は、第1基板31の温度が500℃に達するまで継続する。これにより、第1基板31上に窒化物半導体層11が形成され、P型GaNコンタクト層25が表面になる。
【0038】
次に、P型GaNコンタクト層25上に反射層26として、例えば真空蒸着法によりAg膜(図示せず)を形成する。反射層26上にバリア層27として、例えばスパッタリング法によりTiN膜(図示せず)を形成する。
【0039】
次に、図2(b)に示すように、窒化物半導体層11上に、直径d1より小さい直径(第2のサイズ)d2を有する第1接着層12aを形成する。直径d2は、窒化物半導体層11の外周部がΔd1だけ露出するように定める。
【0040】
Δd1は(d1−d2)/2で表わされる。例えばΔd1を1.5mmとすると、d2は147mmになる。
【0041】
具体的には、窒化物半導体層11上に、例えばスパッタリング法により厚さ約2μmのAuSn膜を形成し、外縁から約1.5mm内側へAuSn膜をエッチング除去することにより第1接着層12aを形成する。
【0042】
または、内径が147mmの開口を有するメタルマスクを用いて、スパッタリング法により窒化物半導体層11上にAuSn膜を形成して、第1接着層12aを形成することもできる。
【0043】
次に、図2(c)に示すように、第1基板31と同じ第2基板(支持基板)31を用意し、第2基板31上に直径d2を有する第2接着層12bを形成する。
【0044】
次に、図3(a)に示すように、第1基板31を上下反転させて、第1接着層12aと第2接着層12bを重ね合わせ、第1基板31と第2基板32を張り合わせる。
【0045】
具体的には、第1基板31と第2基板32を加熱して加圧する。第1接着層12aと第2接着層12bが融着して接着層12になり、第1基板31と第2基板32が張り合わされる。
【0046】
次に、図3(b)に示すように、第1基板31および第2基板32の外周部に挟まれた隙間33に補強材34を充填する。補強材は、例えばパラフィンなどのワックスである。補強材34は、這い上がりにより第1基板31および第2基板32の側面も被覆している。
【0047】
補強材34は、後工程で第1基板31の中央部を研削するときに、第1基板31および窒化物半導体層11の外周部が片持ち梁状になり、破損するのを防止するために設けられている。
【0048】
次に、図4(a)に示すように、直径d2より大きい直径(第3のサイズ)d3を有する凹部31aを生じるように、第1基板31の中央部を除去する。具体的には、外径がd3のグラインダを用いて第1基板31の中央部を途中まで研削する。
【0049】
直径d3は、第1基板31の外周部がΔd1より小さいΔd2だけ残るように定める。Δd2は(d1−d3)/2で表わされる。例えばΔd2を1mmとするとd3は148mmになる。
【0050】
第1基板31の外周部をΔd2だけ残すのは、第1基板31の強度を保つためと、後工程で凹部31aが貫通して窒化物半導体層11が露出するように、第1基板31の中央部を薬液でエッチングするときに、薬液の収納部とするためである。
【0051】
第1基板31の残し厚Δtは、特に限定されない。第1基板31の反りおよび研削精度の観点からは、残し厚Δtは10μm以上が望ましい。後工程で第1基板31の中央部を薬液でエッチングする観点からは、残し厚Δtは30μm以下が望ましい。
【0052】
次に、図4(b)に示すように、凹部31aに水酸化カリウム(KOH)水溶液を注入し、窒化物半導体層11が露出するまで第1基板31をエッチングする。
【0053】
具体的には、第1基板31の外周部にOリング35を介して蓋体36を載置して、凹部31aを封止する。第1基板31の外周部は堤防となり、Oリング35は液漏れを防止する。Oリング35および蓋体36は耐アルカリ性を有する樹脂、例えばフッ素系樹脂である。
【0054】
蓋体36は、薬液を注入するための注入口36aと薬液を排出するための排出口36bを有している。耐アルカリ性を有するポンプを用いて、注入口36aからKOH水溶液を凹部31a内に注入する。注入されたKOH水溶液は凹部31aの底面のシリコンをエッチングする。反応済みのKOH水溶液は排出口36bから排出される。
【0055】
KOH水溶液は、例えば濃度20%〜40%程度、温度60℃〜70℃程度が適当である。シリコンはKOH水溶液で異方性エッチングされるので、ピラミッド状のピットを形成しながらエッチングが進行する。
【0056】
KOH水溶液を適宜フローさせて新液を供給し、時間をかけることにより、凹部31aの底面のシリコンをきれいに除去することが可能である。
【0057】
次に、図5(a)に示すように、引き続いて露出した窒化物半導体層11のN型GaN層21をKOH水溶液によりエッチングする。GaNはKOH水溶液に対するエッチングレードが小さいので、エッチングむらに起因して窒化物半導体層11を粗面化することが可能である。
【0058】
次に、図5(b)に示すように、蓋体36およびOリング35を取りはずした後、補強材34を、例えば有機溶剤を用いて除去する。このときの軽い機械的衝撃で窒化物半導体層11の外周部が破断するので、第1基板31および窒化物半導体層11の外周部を除去することが可能である。
【0059】
これにより、図5(c)に示す窒化物半導体層11が接着層12を介して第2基板32に形成された窒化物半導体基板37が得られる。
【0060】
次に、窒化物半導体基板37の窒化物半導体層11上に、例えばスパッタリング法によりTi/Pt/Auの積層膜を形成し、フォトリソグラフィ法によりパターニングして格子状に配列された複数の第1電極14を形成する。第2半導体基板32の全面に、例えばスパッタリング法によりAl膜を形成し、第2電極15を形成する。
【0061】
第1電極14および第2電極15が形成された窒化物半導体基板37を、ブレートを用いてダイシングし、個片化する。これにより、図1に示す窒化物半導体発光素子10が得られる。
【0062】
以上説明したように、本実施例の窒化物半導体発光素子の製造方法では、第2基板32に張り合わされた第1基板31の中央部を研削して凹部31aを形成することにより、外周部を残して第1基板31を部分的に薄化している。更に、凹部31a内に薬液を注入して成第1基板31をエッチングすることにより、第1基板31を完全に除去している。
【0063】
その結果、第2基板32、接着層12、反射層26およびバリア層27が薬液に曝されないので、ダメージを受ける恐れはほとんど生じない。従って、成長用基板に形成された窒化物半導体層を容易に剥離できる窒化物半導体発光素子の製造方法が得られる。
【0064】
ここでは、第1基板31および窒化物半導体層11の外周部が途中工程で破損するのを防止するために、隙間33に補強材34を充填する場合について説明したが、窒化物半導体層11が比較的厚く(100μm〜200μm)、途中工程で第1基板31および窒化物半導体層11の外周部が破損する恐れが少ない場合は、補強材34は無くても構わない。
【0065】
グラインダ研削により第1基板31に凹部31aを形成する場合について説明したが、化学機械研磨(CMP : Chemical Mechanical Polishing)またはレーザスパッタリング法により凹部31aを形成することも可能である。
【0066】
第1基板31および第2基板32が同じ直径d1を有し、第1接着層12aと第2接着層12bが同じ直径d2を有する場合について説明したが、第2基板32が第1基板31より大きく、第2接着層12bは第1接着層12aより大きくても特に支障はない。
【0067】
直径d3が直径d2より大きい場合について説明したが、直径d3が直径d2と等しくても特に支障はない。
【0068】
薬液がKOH水溶液である場合について説明したが、フッ酸と硝酸の混合液とすることも可能である。
【0069】
光取り出し効率を向上させるために、窒化物半導体層11の露出面を粗面化する場合について説明したが、窒化物半導体層11の露出面を粗面化する必要がない場合は、図5(a)に示す工程は不要である。
【実施例2】
【0070】
本実施例に係る窒化物半導体発光素子の製造方法について図6乃至図10を用いて説明する。図6は窒化物半導体発光素子を示す断面図、図7乃至図10は窒化物半導体発光素子の製造工程を順に示す断面図である。
【0071】
本実施例において、上記実施例1と同一の構成部分には同一符号を付してその部分の説明は省略し、異なる部分について説明する。本実施例が実施例1と異なる点は、露出した窒化物半導体層の表面に微細なドットパターン(凹凸)を形成したことにある。
【0072】
即ち、図6に示すように、本実施例の窒化物半導体発光素子50は、窒化物半導体層11の表面11aに微細なドットパターンが形成されている。ドットのサイズは、MQW層23から放出され窒化物半導体層11内を伝播する光の波長程度乃至波長の数分の一程度である。
【0073】
例えば窒化物半導体層11から取り出される光の波長を450nmとすると、GaNの屈折率が約2.4であることから窒化物半導体層11内の光の波長は約190nmになる。従って、ドットのサイズとしては、約200nm以下、更には50nm以下が望ましい。
【0074】
窒化物半導体層11の表面11aの微細なドットパターンにより、窒化物半導体層11と大気との境界の屈折率が等価的に徐々に変化する。その結果、窒化物半導体層11での全反射が効果的に抑制される。
【0075】
図1に示す薬液により形成された粗面では、凹凸のサイズがランダムである。その結果、窒化物半導体層11と大気との境界での乱反射が主になる。
【0076】
従って、本実施例の窒化物半導体発光素子50では、図1に示す窒化物半導体発光素子10に比べて光の取り出し効率を向上させることが可能である。
【0077】
次に、本実施例の窒化物半導体発光素子50の製造方法について説明する。図7乃至図10は窒化物半導体発光素子50の製造工程を順に示す断面図である。
【0078】
窒化物半導体層11の表面11aの微細なドットパターンの形成は、周知のように以下のように行う。窒化物半導体層11の表面11aに周期的な開口パターンを有するマスク材を形成し、マスク材を用いて窒化物半導体層11を異方性エッチングする。
【0079】
図7(a)に示すように、第1基板31に硼素(B)をイオン注入し、KOH水溶液に対して第1基板31よりエッチング速度の遅い改質層51を形成する。Bのイオン注入は、例えば第1基板31の表面より深さ100nm以内でBのピーク濃度(1E21cm―3以上)が得られ条件で行う。
【0080】
B濃度が高いシリコンは、B濃度が低いシリコンに比べてKOH水溶液に対するエッチング速度が低下する。例えばB濃度が1E19cm−3の以上とき、濃度40%、温度60℃のKOH水溶液対するエッチング速度は略1/100まで低下すると期待される。
【0081】
従って、改質層51は後工程でシリコンをエッチングするときのエッチングストップ層として機能する。
【0082】
次に、図7(b)に示すように、表面に改質層51が形成された第1基板に、図2(a)に示す工程と同様にしてMOCVD法により窒化物半導体層11を形成する。
【0083】
次に、図7(c)に示すように、図2(b)から図3(b)に示す工程と同様にして第1基板31と第2基板32を張り合わせ、隙間33に補強材34を充填する。
【0084】
次に、図8(a)に示すように、図4(a)に示す工程と同様にして第1基板31に凹部31aを形成する。
【0085】
次に、図8(b)に示すように、図4(b)に示す工程と同様にしてKOH水溶液を用いて第1基板31の凹部31aの底部のシリコンをエッチングする。エッチングは改質層51が露出したところで停止する。
【0086】
次に、図8(c)に示すように、図5(b)に示す工程と同様にして第1基板31および窒化物半導体層11の外周部を除去する。
【0087】
次に、図9(a)に示すように、窒化物半導体層11の表面の改質層51上に微細なドットパターンを有するマスク材52を形成する。マスク材52は、例えばフォトリソグラフィ法によりパターニングされたレジスト膜である。
【0088】
ドットのサイズが50nm以下の場合は、マスク材52としては芳香族ポリマーとアクリルポリマーのブロックコポリマーなどが適している。ブロックコポリマーによれは自己組織化を利用してnmサイズのドットパターンを形成することが可能である。
【0089】
具体的には、プロックコポリマーを有機溶剤により溶解し、スピンコート法により窒化物半導体層11の表面に塗布する。熱アニール(100℃〜200℃)によりプロックコポリマーに相分離構造を発生させる。
【0090】
芳香族ポリマーとアクリルポリマーが相分離すると、芳香族ポリマーの海にアクリルポリマーの島が点在するnmサイズの海島構造が得られる。
【0091】
相分離したプロックコポリマーをRIE(Reactive Ion Etching)法により異方性エッチングする。芳香族ポリマーとアクリルポリマーのエッチング耐性の違いにより、アクリルポリマーが選択的にエッチングされる。最終的に残された芳香族ポリマーが微細なドットパターンを有するマスク材52となる。
【0092】
次に、図9(b)に示すように、フッ素系ガス(CHF、CF、SFなど)を用いたRIE法により、改質層51を異方性エッチングする。マスク材52のパターンが改質層51に転写される。
【0093】
次に、図9(c)に示すように、マスク材52を、例えばアッシング法により除去した後、マスク材52のパターンが転写された改質層51をマスクとして、塩素系ガス(SiCl、BCl、Cl)を用いたRIE法により、窒化物半導体層11のN型GaN層21を異方性エッチングする。これにより、窒化物半導体層11の表面11aに微細なドットパターンが形成される。
【0094】
次に、図10に示すように、マスクとした改質層51を、フッ素系ガスを用いたRIE法により完全に除去する。これにより、表面に微細なドットパターンが形成された窒化物半導体層11が接着層12を介して第2基板32に形成された窒化物半導体基板53が得られる。
【0095】
次に、窒化物半導体基板53の窒化物半導体層11上に格子状に配列された複数の第1電極14を形成し、第2半導体基板32の全面に、第2電極15を形成する。第1電極14および第2電極15が形成された窒化物半導体基板53を、ブレートを用いてダイシングし、個片化する。これにより、図6に示す窒化物半導体発光素子50が得られる。
【0096】
以上説明したように、本実施例の窒化物半導体発光素子の製造方法は、第1基板31の表面にKOH水溶液に対するエッチングストップ層として機能する改質層51を形成している。その結果、改質層51をマスクとして窒化物半導体層11に微細なドットパターンを形成することが容易になる利点がある。
【0097】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0098】
本発明は、以下の付記に記載されているような構成が考えられる。
(付記1) 前記第1および第2基板がシリコン基板であり、前記薬液が水酸化カリウム水溶液である請求項1または請求項2に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【0099】
(付記2) 前記補強材は、ワックスである請求項3に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【0100】
(付記3) 前記補強材を除去する際に、前記第1および第2接着層より外側の前記第1基板および前記窒化物半導体層が除去される請求項3に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【0101】
(付記4) 露出した前記窒化物半導体層上に第1電極を形成し、前記第2基板上に第2電極を形成する工程を具備する請求項1または請求項2に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【0102】
(付記5) 前記複数のドットは、サイズが200nm以下で分散して配置されている請求項2に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【符号の説明】
【0103】
10、50 窒化物半導体発光素子
11 窒化物半導体層
12 接着層
12a 第1接着層
12b 第2接着層
13 支持基板
14 第1電極
15 第2電極
21 N型GaN層
22 N型GaNクラッド層
23 MQW層
24 P型GaNクラッド層
25 P型GaNコンタクト層
26 反射層
27 バリア層
31 第1基板(成長用基板)
32 第2基板(支持基板)
33 隙間
34 補強材
31a 凹部
35 Oリング
36 蓋体
36a 注入口
36b 排出口
37、53 窒化物半導体基板
51 改質層
52 マスク材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のサイズを有する第1基板に窒化物半導体層を形成する工程と、
前記窒化物半導体層上に前記第1のサイズより小さい第2のサイズを有する第1接着層を形成し、第2基板上に第2接着層を形成する工程と、
前記第1および第2接着層を重ね合わせ、前記第1および第2基板を張り合わせる工程と、
前記2のサイズより大きいまたは等しい第3のサイズを有する凹部を生じるように前記第1基板を除去する工程と、
前記凹部に薬液を注入し、前記窒化物半導体層が露出するまで前記第1基板をエッチングする工程と、
前記薬液で、露出した前記窒化物半導体層をエッチングし、前記窒化物半導体層の露出面を粗面化する工程と、
を具備することを特徴とする窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
第1のサイズを有する第1基板の表面に不純物をイオン注入し、前記第1基板よりエッチング速度の遅い改質層を形成する工程と、
表面に前記改質層が形成された前記第1基板に窒化物半導体層を形成する工程と、
前記窒化物半導体層上に前記第1のサイズより小さい第2のサイズを有する第1接着層を形成し、第2基板上に第2接着層を形成する工程と、
前記第1および第2接着層を重ね合わせ、前記第1および第2基板を張り合わせる工程と、
前記第2のサイズより大きいまたは等しい第3のサイズを有する凹部を生じるように前記第1基板を除去する工程と、
前記凹部に薬液を注入し、前記改質層が露出するまで前記第1基板をエッチングする工程と、
露出した前記改質層上に複数のドット状パターンを有するマスク材を形成し、前記マスク材を用いて前記改質層を異方性エッチングし、前記異方性エッチングされた前記改質層をマスクとして前記窒化物半導体層を異方性エッチングする工程と、
前記異方性エッチングされた前記改質層を除去し、前記異方性エッチングされた前記窒化物半導体層を露出する工程と、
を具備することを特徴とする窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記第1および第2基板を張り合わせた後に、前記第1および第2基板に挟まれた空隙に補強材を充填する工程と、前記窒化物半導体層または前記改質層が露出した後に、前記補強材を除去する工程を具備することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1基板を除去する工程は、機械研削、化学機械研磨またはレーザスパッタリングにより行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記第1基板をエッチングする工程は、注入口と排出口を有する蓋体を第1基板に冠着した後、前記注入口から前記凹部に薬液を注入し、前記排出口から前記薬液を排出することにより行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−253304(P2012−253304A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127174(P2011−127174)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】