説明

紫外線硬化型インクジェット記録用インク、それから得られた絶縁膜、電子素子及び電子素子の製造方法

【課題】 合成樹脂基板及び電極の両方に対するレベリング性に優れ、平滑性及び絶縁性に優れた硬化膜が得られる紫外線硬化型インクジェット記録用インク、それから得られた絶縁膜、電子素子及び電子素子の製造方法を提供する。
【解決手段】 エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、及び表面張力調整剤を含有し、硬化性を有さないポリマーを含まず、25℃における粘度が100mPa・sec以下、表面張力が22〜35mN/m、かつインク硬化膜の体積抵抗率1013Ω・cm以上であり、絶縁破壊強度1.2MV/cm以上である、絶縁膜を形成するためのソルベントフリー紫外線線硬化型インクジェット記録用インク、それを硬化してなる絶縁膜等を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタの様な電子素子を製造する際に用いる、レベリング性に優れ、平滑性及び絶縁性に優れた硬化膜が得られる紫外線硬化型インクジェット記録用インク、それから得られた絶縁膜、電子素子及び電子素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子素子の典型例である有機薄膜トランジスタ(Organic Thin-Film Trasistor ; OTFT)は、基板や半導体が有機材料で構成された、薄いフィルム状のトランジスタである。このOTFTは、柔軟性に富み、必要とする所望の形状に賦型できたり、成形が可能であることから、フレキシブルで軽量なトランジスタとして注目されている。
【0003】
このOTFTは、三つの電極、絶縁層および半導体層を必須部材として構成されており、例えば、基板(a)上に、ゲート電極(b)、絶縁層(c)、該絶縁層に接する有機半導体層(d)及びソース/ドレイン電極(e)からなるものが知られている。
【0004】
最近では、ソース/ドレイン電極(e)と接する絶縁層(c)の形成には、真空蒸着法やスパッタリング法などによるドライプロセスに比べて、その作業性の容易さから、印刷法の様なウエットプロセスが多用される様になってきており、このために用いられるインキにも、微細なパターンの形成に対応し得る優れた印刷特性が要求される様になってきた。
【0005】
OTFTの様な電子素子では、絶縁層(c)と半導体層間の界面において、キャリア(電子または正孔)が移動するため、絶縁層(c)自体には薄膜であっても絶縁性が高いこと、キャリアの移動が円滑となる様な表面平滑性が高いことが要求されている。
【0006】
この様な実状のもと特許文献1には、トリメチロールプロパントリメタクリレートの様なエチレン性二重結合を3つ有する化合物と、ポリビニルフェノールの様な硬化性を有さないポリマーとを含む紫外線硬化性組成物を紫外線硬化することで、OTFTの絶縁膜が形成されることが記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1では、エチレン性二重結合を3つ有する化合物とポリビニルフェノールを主成分としたので、それ自体が高粘度となり紫外線硬化型インクジェット記録用インクとしては吐出が安定的に行えなかったり、平滑性に優れた膜厚の小さな硬化膜(絶縁膜)が得難くなるという欠点があった。また有機溶剤を併用しているので、紫外線で硬化する前に、それを蒸発乾燥する工程が必要となったり、絶縁膜を形成するに当たって揮発した有機溶剤の臭気による作業環境悪化や溶剤回収の手間が必要となり、OTFTの様な電子素子の生産性が低下するという問題もあった。加えて、得られた電子素子において円滑なキャリア移動が行われなかったり、微小部位において絶縁膜の役目が損なわれ電子素子の信頼性が低下するという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−28497公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、有機薄膜トランジスタの様な電子素子を製造する際に用いる、キャリア移動の円滑性を保持するためのレベリング性や絶縁性に優れた硬化膜が得られる紫外線硬化型インクジェット記録用インク、同絶縁膜やそれを含んだ信頼性に優れた電子素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記実状に鑑みて鋭意検討した結果、インクを調製した際に高粘度となり易い硬化性を有さないポリマーを用いることなく、エネルギー線硬化性化合物自体で、25℃における粘度が100mPa・sec以下、表面張力が22〜27mN/mとすることで、インク硬化膜の体積抵抗率1013Ω・cm以上と出来、インクジェット記録用プリンターのヘッドを破壊することなくインクを吐出させることが出来、基板と電極の両方に対して優れたレベリング性を発現させ絶縁破壊強度1.2MV/cm以上とすることが出来、絶縁膜を形成するに当たって揮発した有機溶剤の臭気による作業環境悪化や溶剤回収の手間がないこと及びキャリア移動の円滑性に優れ、結果的に信頼性に優れた電子素子が得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち本発明は、エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、及び表面張力調整剤を含有し、硬化性を有さないポリマーを含まず、25℃における粘度が100mPa・sec以下、表面張力が22〜27mN/m、かつインク硬化膜の体積抵抗率1013Ω・cm以上であり、絶縁破壊強度1.2MV/cm以上である、絶縁膜を形成するためのソルベントフリー紫外線硬化型インクジェット記録用インクを提供する。
【0012】
また本発明は、上記のインクジェット記録用インクを硬化してなる絶縁膜を提供する。
【0013】
さらに本発明は、上記の絶縁膜をゲート絶縁膜として有する電子素子を提供する。
【0014】
加えて本発明は、基板(a)上に、ゲート電極(b)、絶縁層(c)、該絶縁層に、必要に応じてシランカップリング剤反応物からなる自己組織膜を介して、接する有機半導体層(d)及びソース/ドレイン電極(e)を有する電子素子の製造方法において、前記絶縁層(c)として上記のインクジェット記録用インクをゲート電極(b)上又は有機半導体層上に吐出し硬化させる工程を含む電子素子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の紫外線線硬化型インクジェット記録用インクは、インクジェット記録用プリンターのヘッドを破壊することなくインクを吐出させることができ、有機溶剤の臭気による作業環境悪化や溶剤回収の手間がなく、キャリア移動の円滑性を保持するためのレベリング性や絶縁性に優れた硬化膜(絶縁膜)が得られるという格別顕著な技術的効果を奏する。
また本発明の電子素子は、前記した紫外線硬化型インクジェット記録用インクを用いるので、有機溶剤の臭気による作業環境悪化や溶剤回収の手間がなく、信頼性に優れるという格別顕著な技術的効果を奏する。
さらに本発明の電子素子の製造方法は、信頼性に優れた電子素子を簡便に製造できるという格別顕著な技術的効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明の紫外線線硬化型インクジェット記録用インクは、エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、及び表面張力調整剤を含有し、25℃における粘度が100mPa・sec以下、表面張力が22〜27mN/mである。
【0017】
有機薄膜トランジスタの絶縁膜には、従来から絶縁性が高いとされてきた、ポリビニルフェノール等の、それ自体には硬化性を有さないポリマーが必須成分として用いられていたが、この様な硬化性を有さないポリマーは、それ自体の粘度が高く、液滴とした際の切れが悪いため、インクを微小液滴として飛翔させることが要されるインクジェット記録用インクの調製には不向きであった。
使いこなすに当たっては、インク調製に有機溶剤を使用する必要があり、有機溶剤の臭気によるトランジスタ製造場所の環境悪化や溶剤回収設備等が必要になるという問題があったが、本発明の紫外線硬化型インクジェット記録用インクは、エネルギー線硬化性化合物と表面張力調整剤を用いることで、硬化性を有さないポリマーを使用せずに、良好なレベリング性があり、特定粘度かつ特定表面張力とすることが可能となり、ソルベントフリー(すなわち有機溶剤を含まない)を達成した。
【0018】
しかも、本発明の紫外線硬化型インクジェット記録用インクは、エネルギー線硬化性化合物と表面張力調整剤で、このインクを紫外線硬化して得られる硬化膜(インク硬化膜)の諸物性を測定したところ、体積抵抗率1013Ω・cm以上かつ絶縁破壊強度1.2MV/cm以上であることを見い出した。この様な体積抵抗率及び絶縁破壊強度は、従来の有機薄膜トランジスタで要求されているのと同等以上の水準にある。
【0019】
本発明においては、インクジェット記録方式で、ゲート絶縁膜の様な絶縁層を製造できるため、基板(a)上に、ゲート電極(b)、絶縁層(c)、該絶縁層に接する有機半導体層(d)及びソース/ドレイン電極(e)を有する電子素子の様な有機薄膜トランジスタは、各層のビルドアップによる積層の順序を変えたり、絶縁層自体の製造時間の短縮化が可能となり、電子素子の製造プロセスの選択自由度が高まると同時に、その生産性をより高めることが可能となる。
【0020】
電子素子の典型例である有機トランジスタは、ゲート絶縁膜表面を、例えば、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、オクチルトリクロロシラン(OTS−8)、オクタデシルトリクロロシラン、(OTS−18)、ドデシルトリクロロシラン(DTS)、フッ素置換オクタトリクロロシラン(PFOTS)、β−フェネチルトリクロロシラン等のシランカップリング剤でSAM(自己組織膜)処理を施すことによりトランジスタ特性の向上が図られている場合がある。このSAM処理により、シランカップリング剤の反応物からなる皮膜がゲート絶縁膜上に形成される。しかしながら、緻密にSAM処理された表面は必然的に撥液性が大きくなり、その表面に均一な有機半導体薄膜を形成することがこれまで困難となっていた。
本発明のインクジェット記録用インクのインク硬化膜からなる絶縁層は、有機半導体からなる層とゲート絶縁膜とが直接接する場合のみならず、有機半導体からなる層とゲート絶縁膜上の前記自己組織膜とが接する場合であっても、それ自体の撥液性は低減され、レベリングに優れた未硬化層を形成できる結果、それを硬化して得られる絶縁層を含む電子素子は、優れた電気特性を有したものとすることが可能となる。
【0021】
インクジェット記録用インクの表面張力は、電極や有機半導体へのぬれと、吐出後の良好な液滴形成性、かつ該液滴が媒体上に着弾、硬化後に形成される絶縁層の絶縁性能等を考慮し、22〜27mN/mとなる様に設定することが好ましい。この範囲であると、任意の微細なパターンで絶縁層を形成する観点からドットの広がりを制御する事ができ、また安定した吐出性が確保できるばかりでなく、電極や有機半導体上でのはじき等が低減され、未硬化インクのレベリング性に優れ、表面平滑性に優れたインク硬化膜が得られる結果として、積層界面でのキャリアの移動が円滑となり、電子素子の電気特性自体も高まる。
【0022】
また粘度としては3〜50mPa・secがより好ましく、5〜30mPa・secがさらに好ましく、15〜25mPa・secが最も好ましい。25℃の粘度が100mPa・sec以下であっても表面張力が22mN/m未満であると吐出液滴の切れが悪くなる傾向にあり、不吐出や均一な膜厚を得られない等の問題が生じやすい。また25℃の粘度が100mPa・sec以下であっても表面張力が27mN/mを超えると、電極や有機半導体、インクパターンによりハジキ等の製膜不良から意図した絶縁性を有するインク硬化膜が得られない傾向にある。25℃の粘度が100mPa・sec以上であると表面張力が如何なる場合であってもインクが不吐出となり、ヘッド部分を加熱したとしても良好な吐出が行われず、良好な塗膜が得られない傾向にある。吐出性の観点からは、25℃の粘度は低い方が好ましく、30mPa以下であれば加熱機能のないヘッドを用いて常温で良好な吐出を行うことができる。
【0023】
本発明において使用するエネルギー線硬化性化合物には、その反応機構によりラジカル重合型とカチオン重合型があるが、それぞれの特徴と利用目的によって適宜、使い分ける事ができる。
ラジカル重合型のエネルギー線硬化性化合物に使用できる単官能(メタ)アクリレートとして例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、アミル、2−エチルヘキシル、オクチル、ノニル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、ベンジル、メトキシエチル、ブトキシエチル、フェノキシエチル、ノニルフェノキシエチル、グリシジル、ジメチルアミノエチル、ジエチルアミノエチル、イソボルニル、ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニル、ジシクロペンテニロキシエチルなどの置換基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0024】
また、多官能(メタ)アクリレートとしては例えば、1.3−ブチレングリコール、1.4−ブタンジオール、1.5−ペンタンジオール、3−メチル−1.5−ペンタンジオール、1.6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1.8−オクタンジオール、1.9−ノナンジオール、トリシクロデカンジメタノール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに2モルのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのジまたはトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性アルキルリン酸(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0025】
本発明のインクジェット記録用インクには、ポリビニルフェノール等の、それ自体には硬化性を有さないポリマーは含有させない。本発明のインクジェット記録用インクをラジカル重合型で用いる場合、その代替として、絶縁層として要求される、表面平滑性、柔軟性、絶縁性などの特性を付与するために、エネルギー線硬化性化合物としてポリウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基を分子中に有するオリゴマーを含有させることが好ましい。(メタ)アクリロイル基を分子中に有するオリゴマーは、上記各種ジ(メタ)アクリレートとは明確に区別される。このオリゴマーは、本発明のインクジェット記録用インクの粘度、硬化性の点から、エネルギー線硬化性化合物の総量に対して、質量基準で2〜15%の範囲で用いることが好ましい。
【0026】
本発明のインクジェット記録用インクは、例えば上記したラジカル重合型のエネルギー線硬化性化合物、例えば単官能モノマー、二官能モノマー、三官能以上のモノマー、およびオリゴマーを適宜配合することによって、上記の特定の絶縁性を満たすことができる。
【0027】
本発明のインクジェット記録用インクは、エチレン性不飽和二重結合を2つ有する化合物、なかでも上記した各種ジ(メタ)アクリレートを主成分として含有したものとすることが好ましい。また、同一構造また類似構造を有するエネルギー線硬化性化合物や表面張力調整剤同士を組み合わせる、例えばポリアルキレングルコールジ(メタ)アクリレートの様な二官能モノマーを主成分に用いる場合には、それにアルキレンオキシド変性トリ(メタ)アクレートの様な三官能以上のモノマーや、ポリエーテル変性シリコーンオイルを組み合わせて用いる様にすると、よりレベリング性に優れ、上記した様なブリード等が起こり難い、表面平滑性と絶縁性に優れた、電気特性に優れた絶縁層を形成できるインクジェット記録用インクとすること出来る。
【0028】
粘度を低下させ、吐出安定性、レベリング性を実現するために、エネルギー線硬化性化合物の総量に対して、質量基準で、単官能モノマーは5〜50%が好ましく、また光硬化性、硬化塗膜の耐久性を向上させるため、三官能以上のモノマーを3〜30%含有させるようにすることが好ましい。
【0029】
本発明にラジカル重合型エネルギー線硬化性化合物を使用する場合、光重合開始剤としては、用いる紫外線硬化性化合物を硬化できる公知慣用のものがいずれも使用できるが、特に好適に使用することができる開始剤として、分子開裂型または水素引き抜き型の光重合開始剤がある。
【0030】
本発明に使用する光重合開始剤としては分子開裂型のものとして、ベンゾインイソブチルエーテル、2.4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ベンジル、2.4.6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、ビス(2、6−ジメトキシベンゾイル)−2.4.4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシドなどが好適に用いられ、さらにこれら以外の分子開裂型のものとして、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オンおよび2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オンなどがある。これらはそれぞれ単独で用いても良いし二つ以上を併用しても良い。 更に水素引き抜き型の光重合開始剤として、ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、イソフタルフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルスルフィドなどがある。これらはそれぞれ単独で用いても良いし二つ以上を併用しても良い。また分子開裂型の光重合開始剤の一つ以上と併用してもよい。
【0031】
また上記光重合開始剤に対し、増感剤として例えば、トリメチルアミン、メチルジメタノールアミン、トリエタノールアミン、p−ジエチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N.N−ジメチルベンジルアミンおよび4.4'−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどの、前述重合性成分と付加反応を起こさないアミン類を併用することもできる。もちろん、上記光重合開始剤や増感剤は、前述の紫外線硬化性化合物あるいはこれらよりなる組成物への溶解性に優れ、紫外線透過性を阻害しないものを選択して用いることが好ましい。光重合開始剤と増感剤は紫外線硬化性化合物総量に対して0.1〜20質量%、好ましくは、7〜14質量%の範囲で用いることが好ましい。
【0032】
本発明に使用するエネルギー線硬化性化合物のうちカチオン重合型のものとしては、各種公知のカチオン重合型エネルギー線硬化性化合物を使用することができる。例えば、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物などが挙げられる。
【0033】
エポキシ化合物のうち芳香族エポキシドとしては、例えばビスフェノールAあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはポリグリシジルエーテル、ならびにノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0034】
エポキシ化合物のうち脂環式エポキシドとしては、例えばエチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテルまたは1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、グリセリンあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはトリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル等のポリアルキレングリコールのジグリシジルエーテル等が挙げられる。ここでアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0035】
ビニルエーテル化合物としては、例えばエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のジ又はトリビニルエーテル化合物、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル−O−プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0036】
オキセタン化合物としては、例えばオキセタン環を有する化合物のことであり、3−ヒドロキシメチル−3−メチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−プロピルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−ノルマルブチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−フェニルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−ベンジルオキセタン、3−ヒドロキシエチル−3−メチルオキセタン、3−ヒドロキシエチル−3−エチルオキセタン、3−ヒドロキシエチル−3−プロピルオキセタン、3−ヒドロキシエチル−3−フェニルオキセタン、3−ヒドロキシプロピル−3−メチルオキセタン、3−ヒドロキシプロピル−3−エチルオキセタン、3−ヒドロキシプロピル−3−プロピルオキセタン、3−ヒドロキシプロピル−3−フェニルオキセタン、3−ヒドロキシブチル−3−メチルオキセタンなどを挙げることができる。
【0037】
本発明のインクジェット記録用インクには、ポリビニルフェノール等の、それ自体には硬化性を有さないポリマーは含有させない。本発明のインクジェット記録用インクをカチオン重合型で用いる場合、その代替として、絶縁層として要求される、表面平滑性、柔軟性、絶縁性などの特性を付与するために、エネルギー線硬化性化合物として、オキセタン化合物を含有させることが好ましい。本発明においてエネルギー線硬化性化合物にカチオン重合型のものを用いるときは、反応性や、硬化膜の収縮、粘度調整の観点から、少なくとも1種のオキセタン化合物と、エポキシ化合物及びビニルエーテル化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物とを含有させることが好ましい。
【0038】
本発明のカチオン重合型のインクジェット記録用インクは、例えば上記したラジカル重合型のエネルギー線硬化性化合物と同様に、例えばカチオン重合の単官能モノマー、同二官能モノマー、同三官能以上のモノマーを適宜配合することによって、上記の特定の絶縁性を満たすことができる。
【0039】
粘度を低下させ、吐出安定性、レベリング性を実現するために単官能モノマーは全構成モノマー質量の5〜50%が好ましく、また光硬化性、硬化塗膜の耐久性を向上させるため、三官能以上の多官能モノマーを3〜50質量%含有させるようにすることが好ましい。
【0040】
本発明にカチオン重合型エネルギー硬化性化合物を使用するときは、使用できる光重合開始剤としては、従来より光カチオン重合開始剤として知られている化合物であれば特に限定することなく使用できるが、例えば芳香族ヨードニウム錯塩や芳香族スルホニウム錯塩などを挙げることができ、これらの1種を単独で使用してもよいが、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。またその添加量は、エネルギー線硬化性カチオンモノマーの総質量に対して例えば0.01〜20質量%、特に0.1〜10質量%の範囲で使用するのが好ましい。
【0041】
芳香族ヨードニウムの具体例としては、ジフェニルヨードニウム、4−メトキシジフェニルヨードニウム、ビス(4−メチルフェニル)ヨードニウム、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム等が挙げられる。また、芳香族スルホニウムの具体例としては、トリフェニルスルホニウム、ジフェニル−4−チオフェノキシフェニルスルホニウム、ビス[4−(ジフェニルスルフォニオ)−フェニル]スルフィド、ビス[4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル)スルホニオ)−フェニル]スルフィド、η5−2,4−(シクロペンタジェニル)[1,2,3,4,5,6−η)−(メチルエチル)−ベンゼン]−鉄(1+)等が挙げられる。
【0042】
錯塩を形成するカウンタアニオンの具体例としては、テトラフルオロボレート(BF4)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF6)、ヘキサフルオロアルセネート(AsF6)、ヘキサクロロアンチモネート(SbCl6)などが挙げられる。
【0043】
本発明において表面張力調整剤として使用する化合物は、一般に表面張力の調整に用いられる公知の化合物を特に問題なく用いる事ができる。例えば、アニオン性またはカチオン性のイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。
【0044】
イオン性界面活性剤のうちアニオン性界面活性剤の例としては、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、半硬化牛脂脂肪酸ナトリウム等の脂肪酸塩類;ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸トリ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、オクタデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩類;ノニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オクタデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等のベンゼンスルホン酸塩類;ドデシルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物等のナフタレンスルホン酸塩類;スルホコハク酸ジドデシルナトリウム、スルホコハク酸ジオクタデシルナトリウム等のスルホコハク酸エステル塩類;ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸トリ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレン硫酸エステル塩類;ドデシルリン酸カリウム、オクタデシルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル塩類等が挙げられる。
【0045】
イオン性界面活性剤のうちカチオン性界面活性剤の例としては、酢酸オクタデシルアンモニウム、ヤシ油アミン酢酸塩等のアルキルアミン塩類;塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化ジオクタデシルジメチルアンモニウム、塩化ドデシルベンジルジメチルアンモニウム等の第4級アンモニウム塩類が挙げられる。
【0046】
イオン性界面活性剤のうち両性イオン性活性剤の例としては、ドデシルベタイン、オクタデシルベタイン等のアルキルベタイン類;ドデシルジメチルアミンオキシド等のアミンオキシド類等が挙げられる。
【0047】
非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル、ポリオキシエチレン(9−オクタデセニル)エーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンフェニルエーテル類;ポリ酸化エチレン、コ−ポリ酸化エチレン酸化プロピレン等のオキシラン重合体類;ソルビタンドデカン酸エステル、ソルビタンヘキサデカン酸エステル、ソルビタンオクタデカン酸エステル、ソルビタン(9−オクタデセン酸)エステル、ソルビタン(9−オクタデセン酸)トリエステル、ポリオキシエチレンソルビタンドデカン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンヘキサデカン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンオクタデカン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンオクタデカン酸トリエステル、ポリオキシエチレンソルビタン(9−オクタデセン酸)エステル、ポリオキシエチレンソルビタン(9−オクタデセン酸)トリエステル等のソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビトール(9−オクタデセン酸)テトラエステル等のソルビトール脂肪酸エステル類;グリセリンオクタデカン酸エステル、グリセリン(9−オクタデセン酸)エステル等のグリセリン脂肪酸エステル類が挙げられる。
【0048】
シリコーン系界面活性剤の例としては、未変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、メチルスチレン変性シリコーンオイル、オレフィン変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル等が挙げられる。これらシリコーンオイルは、上記したシランカップリング剤とは明確に区別される。
【0049】
表面張力調整剤としては、エネルギー線硬化型化合物中に容易に溶解し透明とできることなどから、それとの相溶性に優れる各種有機基を導入した界面活性剤を用いることが出来る。また末端(メタ)アクリル変性界面活性剤、末端エポキシ変性界面活性剤等のラジカル反応性あるいはカチオン反応性の界面活性剤は、インク硬化膜形成後の絶縁層表面へのブリードを抑制出来、絶縁層と有機半導体との界面状態が経時的に変化せず、初期の高い絶縁性能を長期間に亘り維持でき、信頼性に優れた電子素子とすることが出来る。
【0050】
表面張力調整剤としては、各種界面活性剤のなかでも、シリコーンオイルが、絶縁層の絶縁性を低下させることなく、少量でエネルギー線硬化性化合物と光重合開始剤の混合物のレベリング性を高められ、表面平滑性に優れ電気特性に優れた電子素子が得られるので好ましい。
【0051】
これら表面張力調整剤は、インク総量の0.05〜1質量%の範囲で用いることが好ましい。
【0052】
本実施形態で使用されるインクには、上記説明した以外に様々な添加剤を用いることができる。例えば、インク組成物の保存性を高めるため、重合禁止剤を200〜20,000ppm添加することができる。紫外線硬化型のインクは、加熱、低粘度化して射出することが好ましいので、熱重合によるヘッド詰まりを防ぐためにも重合禁止剤を入れることが好ましい。必要に応じて、アルミナ微粒子、シリカ微粒子、タンタルオキサイド微粒子等の高比誘電率粒子や中空シリカ微粒子等の低比誘電率粒子などの体質成分を添加しても良い。この他にも、必要に応じて、レベリング添加剤、マット剤、ワックス類を添加することができる。
【0053】
本発明の紫外線硬化型インクジェット記録用インクを製造するには、上記エネルギー線硬化性化合物を主成分として、これに適宜必要量の光重合開始剤、及び表面張力調整剤を加えた後、必要に応じて上記添加剤を添加し混合、攪拌して製造することができる。
【0054】
尚、本発明の紫外線硬化型インクジェット記録用インクは、硬化膜に高度な絶縁性が要求されるため、導電性のある、金属や金属イオン等の含有量が出来るだけ少ないものであることが好ましい。インクジェット記録用インクの導電性は、その比電導度を測定することで把握することが可能であり、比電導度1μS/cm以下とすることが好ましい。
【0055】
本発明の紫外線硬化型インクジェット記録用インクは、インクジェット記録装置のノズルから吐出させ、支持体に必要とするパターンを所望の膜厚で形成の上、紫外線照射を行って硬化することにより、絶縁膜を形成することが出来る。こうして得られた絶縁膜は、電子素子の各種絶縁膜として使用でき、例えば層間絶縁膜、パッシベーション(保護)膜として使用することが出来るが、なかでも有機薄膜トランジスタのゲート絶縁膜として用いることが、その絶縁性の水準の点で好ましい。
【0056】
本発明の紫外線硬化型インクジェット記録用インクからは、基板(a)上に、ゲート電極(b)、絶縁層(c)、該絶縁層に、必要に応じてシランカップリング剤反応物からなる自己組織膜を介して、接する有機半導体層(d)及びソース/ドレイン電極(e)を有する、有機薄膜トランジスタの様な電子素子を製造することが出来る。この様な電子素子を製造するには、前記絶縁層(c)として本発明のインクジェット記録用インクをゲート電極(b)上又は有機半導体上に吐出し硬化させる工程を含む電子素子の製造方法が採用される。
【0057】
こうして、基板(a)上に、ゲート電極(b)、絶縁層(c)、該絶縁層に、必要に応じてシランカップリング剤反応物の自己組織膜を介して、接する有機半導体層(d)及びソース/ドレイン電極(e)を有する電子素子の製造方法において、前記絶縁層(c)が本発明のインクジェット記録用インクのインク硬化膜である電子素子が得られる。
【0058】
本発明の紫外線硬化型インクジェット記録用インクから、電子素子の一例である有機薄膜トランジスタは、次の工程で製造される。すなわち、(a)合成樹脂基板上に、(b)ゲート電極を形成する工程、(c)絶縁層を形成する工程、(d)該絶縁層に、必要に応じてシランカップリング剤反応物の自己組織膜を形成した上で、それに接する有機半導体層を形成する工程を有する。
【0059】
有機薄膜トランジスタは、横型および縦型のトランジスタ構造をとることができる。横型トランジスタとして例えば、ゲート電極のトランジスタ構成要素との位置関係により定義されるボトムゲート型(BG)又はトップゲート型(TG)のトランジスタが適用できる。またBG型やTG型それぞれにソース・ドレイン電極と有機半導体層の位置関係より、ボトムコンタクト型、トップコンタクト型、ボトムトップコンタクト型等のトランジスタ構造をとることができる。
【0060】
本発明によれば、ボトムゲート型の有機薄膜トランジスタを製造する場合は絶縁層を形成した後に有機半導体層を重ねればよいし、トップゲート型の有機トランジスタを形成する場合には有機半導体層を形成した後に絶縁層を形成すればよい。
【0061】
有機トランジスタ等の電子素子に適用できる基板に制限は無く、例えば、シリコン、絶縁層となるよう表面を酸化シリコン化した熱酸化膜シリコン、ガラス、ステンレス等の金属薄板があるが、本発明では、例えばポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のプラスチックフィルムおよびこれらフィルムにガスバリヤー性、ハードコート層を付けた複合フィルムを、合成樹脂基板として使用できる。電子素子のフレキシブル化の観点からプラスチックフィルムが好適に使用できる。
【0062】
有機トランジスタ等の電子素子において、絶縁層を除くそれぞれの機能層の形成方法には特に制限は無く、ドライプロセスでも、ウェットプロセスでも良い。例えば、ゲート電極(b)の形成には、スパッタ、蒸着、イオンプレーティング、フォトリソグラフィー、エッチングに代表されるドライプロセスや、印刷法等のウェットプロセスが適用できる。特に、ウェットプロセスは、製造コストの劇的な低減が期待できることから本発明の好ましい実施形態である。ウェットプロセスとして、例えば、インクジェット記録法、スクーリーン印刷法、スピンコート法、バーコート法、スリットコート法、ディップコート法、スプレーコート法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、グラビアオフセット法、凸版オフセット法、マイクロコンタクトプリント法、凸版反転印刷法等が用いられる。
【0063】
印刷法の場合、ゲート電極を形成する導電インキとしては、例えば、適当な溶剤中に、金、銀、銅、ニッケル、亜鉛、アルミ、カルシウム、マグネシウム、鉄、白金、パラジウム、スズ、クロム、鉛、等の金属粒子及銀/パラジウム等のこれら金属の合金、酸化銀、有機銀、有機金等の比較的低温で熱分化して導電性金属を与える熱分解性金属化合物、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジュウムスズ(ITO)等の導電性金属酸化物粒子を導電性成分として含んでいても良いし、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)、ポリアニリン等の導電性高分子を含んでいても良い。溶剤の種類に制限はなく該導電性材料の溶解または分散に適した溶剤を適宜選択できる。例えば、水、炭化水素系、アルコール系、ケトン系、エーテル系、エステル系、フッ素系などの各種有機溶剤が使用できる。
【0064】
又、インキには前記導電性材料の他、必要に応じて樹脂等のバインダー成分、酸化防止剤、皮膜形成促進のための各種触媒、各種表面張力調整剤、レベリング剤、離型促進剤等を添加できる。これ等のインキの中でも、特にナノ銀粒子を溶剤に分散し、低分子シリコーン等の離型剤、フッ素系界面活性剤等の表面張力調整剤を混合したインキは凸版反転印刷法に適しており、優れたパターンニング性および低温焼成で高い導電性を示すことから好適に使用できる。インキ膜層から、電子部品の構成する機能性材料層への変換は、例えば、常温乾燥、加熱処理、および紫外線、電子線の照射等の処理等、インキ特性や電子部品にとってそれぞれに最適な方法で実施できる。
【0065】
前述のように、絶縁層を除くそれぞれの機能層の形成方法には特に制限は無く、ドライプロセスでも、ウェットプロセスでも良い。例えば、スパッタ、蒸着、イオンプレーティング、フォトリソグラフィー、エッチングに代表されるドライプロセスや、印刷法等のウェットプロセスが適用できる。特に、上記したウェットプロセスは、製造コストの劇的な低減が期待できることから本発明の好ましい実施形態である。
【0066】
印刷法を適用する場合、絶縁層(c)を形成する絶縁インキとしては、上記本発明のインクジェット記録用インクを用いることが出来る。絶縁層(c)上または後記する有機半導体からなる層上に、シランカップリング剤の自己組織膜を形成する場合には、上記した様なシランカップリング剤を塗布し硬化させれば良い。
【0067】
有機トランジスタ等の電子素子に適用できる有機半導体層の形成には、溶剤可溶性でウェットプロセスが可能な有機半導体が適用できる。溶剤可溶性有機半導体として、P3HT(ポリ(3−へキシルチオフェン))、PQT−12(ポリ[5,5‘−ビス(3−dodecyl−2−チエニル1)−2,2’−ビチオフェン])等のポリチオフェン系高分子、PB10TTT,PB12TTT,PB14TTT,PB16PBTTT等のチオフェン−チエノチオフェン(PBTTT:ポリ(2,5−ビス(3−アルキルチオフェン−2-イル)チエノ[3,2−b]チオフェン))共重合体、可溶性のチオフェン系オリゴマー、F8T2等のフルオレン系高分子、フェニレンビニレン系高分子、トリアリールアミン系高分子、TIPSペンタセン及びこれら有機半導体の前駆体や混合体が好適に使用できる。上記の有機半導体の中でも、P3HT(ポリ(3−へキシルチオフェン))、PQT−12(ポリ[5,5‘−ビス(3−dodecyl−2−チエニル1)−2,2’−ビチオフェン])等のポリチオフェン系高分子、PB10TTT,PB12TTT,PB14TTT,PB16PBTTT等のチオフェン−チエノチオフェン(PBTTT:ポリ(2,5−ビス(3−アルキルチオフェン−2-イル)チエノ[3,2−b]チオフェン))共重合体、TIPSペンタセン等の単独又は2種類以上の混合体が好ましい。これらの有機半導体は、自己凝集性が高く、結晶構造を取ることによって優れたトランジスタ特性を発揮することが出来る。
【0068】
これら有機半導体インキに適用可能な溶剤は、常温もしくは多少の加熱で該有機半導体を溶解でき、適度の揮発性を有し、溶剤揮発後に有機半導体薄膜を形成できればよく、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロホルム、アニソール、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジクロルベンゼンやトリクロロベンゼン等のクロルベンゼン系溶剤、フッ素系溶剤を、単独またはこれら溶媒を含有する混合溶媒が好適に使用できる。
【0069】
有機半導体層を形成する有機半導体インキには、好ましくは、フッ素系界面活性剤が含有される。特に結晶性有機半導体インキへのフッ素系界面活性剤は、インキ特性の向上効果のみならず、インキの乾燥により形成した半導体膜の特性、例えば電界効果移動度等の向上に寄与するものである。また、インキ特性の向上を目的として、更に少量のシリコーン系や、炭化水素系の界面活性剤を補助的に添加することもできる。
【0070】
トランジスタ特性の向上を図るために、ゲート絶縁膜表面に、例えば、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、オクチルトリクロロシラン(OTS−8)、オクタデシルトリクロロシラン、(OTS−18)、ドデシルトリクロロシラン(DTS)、フッ素置換オクタトリクロロシラン(PFOTS)、β−フェネチルトリクロロシラン等のシランカップリング剤でSAM(自己組織膜)処理を施すことがよく行われているが、この絶縁層上の自己組織膜と有機半導体層とが接した積層構造の有機薄膜トランジスタを得る場合には、上記した様にフッ素系界面活性剤を含有させることで、撥液性を低下させ、その表面に均一な有機半導体薄膜を形成すること出来る。
【0071】
フッ素系界面活性剤としては、含フッ素基と親水性基及び/または親油性基が同一分子中に存在する界面活性剤が使用できる。ここで、含フッ素基に特に制限はないが、アルキル基の水素原子が全て若しくは部分的にフッ素原子に置換されたパーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基に酸素原子を介した構造を有するパーフルオロポリエーテル基が好ましい。含フッ素基がパーフルオロアルキルキル基の場合、その炭素数は6以上が好ましい。電界効果移動度の制御、ON/OFF比等のトランジスタ特性向上の点から、フッ素系界面活性剤は、フッ素化(メタ)アクリル重合体であることが好ましい。
【0072】
この様なフッ素化(メタ)アクリル重合体の分子量は、重量平均分子量で、3,000〜1,000,000が良く、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜300,000が良い。
【0073】
フッ素系界面活性剤は全有機半導体インキ中、例えば有効成分で0.01〜5.0質量%、好ましくは有効成分で0.05〜1.0質量%となる様に含有される。
【0074】
中でもP3HT、PQT−12等の結晶性の高い高分子有機半導体への表面偏析性の高いフッ素系界面活性剤の添加は電界効果移動度、ON/OFF比等のトランジスタ特性向上に特に有効である。
【0075】
有機半導体に基づく層やソース/ドレイン電極(e)の形成は、いずれも、例えば上記したウェットプロセスにより、制限無く容易に形成できる。
【実施例】
【0076】
以下に実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。特に断らない限り、「部」は「質量部」を表す。
【0077】
(実施例1)
<紫外線硬化型インクジェット記録用インク>
ユニディックV−5530
「大日本インキ化学工業(株)製:エポキシアクリレート」
10部
ミラマーM−3110
「美源製:エチレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリアクリレート」
25部
ミラマーM−222
「美源製:ジプロピレングリコールジアクリレート」
50部
IO−AA
「大阪有機化学社製:イソオクチルアクリレート」
15部
イルガキュア184D
「チバ・スペシャリティー・ケミカルズ製:光重合開始剤」
6.0部
KF−945
「ダウコーニング製:ポリエーテル変性シリコーンオイル」
0.06部
【0078】
以上を混合し、十分に撹拌、溶解した後、1.2μmのメンブレンフィルターを用いてろ過することにより、表面張力23.8mN/m(25℃)、粘度20mPa・sec、比電導度1μS/cm以下の紫外線硬化型インクジェット記録用インクを得た。このインクは、インクジェット記録法で容易に絶縁膜を形成出来た。また、有機溶剤を含まないため、後記する比較例2のインクの様な、揮発した有機溶剤の臭気による作業環境悪化や溶剤回収の手間は不要であった。
【0079】
(比較例1)
<紫外線硬化型インクジェット記録用インク>
表面張力調整剤をKF−351の0.2部に置き換えたこと意外は、実施例1と同様な組成で混合し、十分に撹拌、溶解した後、1.2μmのメンブレンフィルターを用いてろ過することにより、表面張力31.0mN/m(25℃)、粘度20mPa・secの紫外線硬化型インクジェット記録用インクを得た。
【0080】
(比較例2)
<紫外線硬化型インク>
トリメチロールプロパントリメタクリレート1.0部、イルガキュア369の0.06部、およびポリビニルフェノール(Aldrich社、重量平均分子量8,000)3.0部をシクロヘキサノン27mlに溶解させて紫外線硬化型インクを製造した。
【0081】
上記紫外線硬化型インクは、硬化性を有さないポリマーとしてポリビニルフェノールを含んでおり、25℃における粘度が100mPa・secを越えており、かつ表面張力も35mN/mを越えており、インクジェット記録法で絶縁膜を形成することが出来なった。また、有機溶剤としてシクロヘキサノンを含んでおり、絶縁膜を形成するに当たって揮発した有機溶剤の臭気による作業環境悪化や溶剤回収の手間が必要なインクであった。
【0082】
上記実施例1及び比較例1のエネルギー線硬化型インクジェット記録用インクの表面張力は、協和界面科学株式会社製のウェルヘルミー型表面張力測定器:CBUP−A3で、また25℃の粘度を東機産業社製粘度測定器:TVE−20Lにて測定した。
【0083】
<絶縁性の評価>
ITO付きガラス基板上に、実施例1の紫外線線硬化型インクジェット記録用インクをスピンコーティング(4,000rpm、30秒)した後、この2μmの未硬化皮膜を120Wメタルハライドランプ付き紫外線照射装置を用いて光硬化(1,000mJ/cm2)した。この上に、銀を、真空蒸着法によって厚さ300オングストロームとなる様に積層し、絶縁性評価用サンプルを得た。
このサンプルの電流電圧特性を、ケースレー・インスツルメント社(Keithley Instruments Inc.)製 ケースレー・ソースメジャーユニット237を用いて評価し、1×10(V/cm)電圧を印加したときのもれ電流値から、以下の式で体積抵抗率を求めた。
【0084】
【数1】

【0085】
一方、上記サンプルの周波数1,000Hz下のキャパシタンスを、ソーラトロン社(Solartron Analytical is part of Advanced Measurement Technology, Inc, a division of AMETEK, Inc.)製ソーラートロン1260を用いて測定し、以下の式を用いて誘電率を求めた。
【0086】
【数2】

【0087】
その結果、体積抵抗率>1013、誘電率4.1であった。尚、絶縁破壊強度は、>1.2MV/cmであった。
【0088】
<有機薄膜トランジスタの製造>
図1に示すボトムゲートボトムコンタクト(BGBC)構造を有するトランジスタは、以下の様にして製造することが出来る。
(1)ゲート電極の形成:
所定の大きさにカットした厚さ125μmのハードコート付ポリカーボネートフィルム上に、凸版反転印刷用のnmオーダーの銀微細粒子を含む導電性インキを用い凸版反転印刷により、ゲート電極パターンを形成し、180℃、30分焼成し、ゲート電極を形成する。
(2)絶縁層の形成:
実施例1の紫外線硬化型インクジェット記録用インクを用い、インクジェット記録法によりゲート電極を覆うように塗布し、窒素雰囲気下で紫外線照射を行い、膜厚約0.8μmの有機ゲート絶縁層を形成する。
(3)ソース/ドレイン電極の形成:
反転印刷用の導電性インキを用い凸版反転印刷により、先に形成したゲート絶縁層上にチャネル長50μm、チャネル幅4mmのソース、ドレイン電極パターンを形成し、クリーンオーブン中で180℃、30分焼成し、ソース/ドレイン電極を形成する。
(4)有機半導体層の形成:
有機半導体P3HTのキシレン0.5重量%溶液に、フッ素化(メタ)アクリル重合体からなるフッ素系界面活性剤を不揮発分換算で1%となるよう添加し、有機半導体インキを調製する。調製した有機半導体インキを、バーコーターを用いて平滑なポリジメチルシロキサン(PDMS)ゴム上に塗膜を形成した後、該塗膜に先に調製したソース/ドレイン電極付の絶縁層を押し当て、該半導体塗膜を該絶縁層上に転写し、膜厚約70nmのP3HT半導体層を絶縁層上に形成する。
(5)こうして製造した有機薄膜トランジスタは、グローボックス中で150℃、約5分の熱処理を行い、Id−Vg、Id−Vd特性を、半導体パラメータ測定装置(ケースレー社4200)を用いて測定し、電界効果移動度及びON/OFFを周知の方法より求めることが出来る。
【0089】
比較例1のインクを用いて上記と同様な工程で有機薄膜トランジスタを製造した場合、ポリカーボネート上に塗布された比較例1のインキは、はじかれた状態で部分的に寄ってしまい、膜厚の著しい不均一が発生する。
【0090】
比較例2のインクを用いて上記と同様な工程で有機薄膜トランジスタを製造した場合、紫外線照射前のインク塗膜中に含まれるシクロヘキサノンの蒸発のためにオーブン加熱処理が必要となり余分な時間やエネルギーを消費して、有機薄膜トランジスタの生産性が低下する。また、シクロヘキサノンの蒸発を促進するために加熱温度を上げ過ぎると、ポリカーボネートフイルムに「へたり」が生じる。加えて、絶縁膜を形成するに当たって揮発した有機溶剤の臭気による作業環境悪化や溶剤回収の手間が必要となる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の紫外線硬化型インクジェット記録用インクは、液晶ディスプレイ、電子ペーパー、EL表示装置、RF−IDタグ等に用いる電子素子の製造に相応しく応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の紫外線硬化型インクジェット記録用インクを硬化して得られるインク硬化膜からなる絶縁層を有する電子素子である、有機薄膜トランジスタの一例を模式的に示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0093】
1.基板
2.ゲート電極
3.絶縁膜
4.有機半導体層
5.ソース/ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、及び表面張力調整剤を含有し、硬化性を有さないポリマーを含まず、25℃における粘度が100mPa・sec以下、表面張力が22〜27mN/m、かつインク硬化膜の体積抵抗率1013Ω・cm以上であり、絶縁破壊強度1.2MV/cm以上である、絶縁膜を形成するためのソルベントフリー紫外線線硬化型インクジェット記録用インク。
【請求項2】
前記エネルギー線硬化性化合物が、エチレン性二重結合を2つ有する化合物を主成分として含有してなる請求項1記載のインクジェット記録用インク。
【請求項3】
前記表面張力調整剤が、シリコーンオイルである請求項1または2記載のインクジェット記録用インク。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット記録用インクを硬化してなる絶縁膜。
【請求項5】
請求項4記載の絶縁膜をゲート絶縁膜として有する電子素子。
【請求項6】
基板(a)上に、ゲート電極(b)、絶縁層(c)、該絶縁層に、必要に応じてシランカップリング剤反応物からなる自己組織膜を介して、接する有機半導体層(d)及びソース/ドレイン電極(e)を有する電子素子の製造方法において、前記絶縁層(c)として請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット記録用インクをゲート電極(b)上又は有機半導体層上に吐出し硬化させる工程を含む電子素子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−178832(P2011−178832A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42062(P2010−42062)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】