説明

絶縁膜の形成方法

【課題】高誘電率ゲート絶縁膜としての使用に適する高誘電率絶縁膜を良好な制御性をもって生産性良く形成する。
【解決手段】シリコン基体101の表層部を酸化してシリコン酸化膜102とする第1工程と、非酸化性雰囲気中においてスパッタによりシリコン酸化膜102の上に金属膜103を形成する第2工程と、非酸化性雰囲気中での加熱を行うことで、金属膜103を構成する金属原子をシリコン酸化膜102中に拡散させる第3工程と、金属原子が拡散したシリコン酸化膜102をラジカル酸化により酸化し、金属原子とシリコン原子と酸素原子とを含む金属シリケート膜104を形成する第4工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁膜の形成方法に関するものであり、とくに半導体装置における高誘電率ゲート絶縁膜としての使用に適する絶縁膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MOS(Metal Oxide Semiconductor)型トランジスタなどの半導体装置は動作速度の高速化を達成する為、チャンネル長の縮小が進められてきた。しかしチャンネル長を縮小するとゲート絶縁膜の静電容量が低下し、トランジスタのスイッチング動作ができなくなる。このためゲート絶縁膜を薄膜化することで、トランジスタのスイッチング動作が可能な静電容量を得てきた。従来、MOS型トランジスタのゲート絶縁膜の材料には、容易な製造工程で良好な界面特性を得る事が可能なシリコン酸化膜(SiO)が用いられてきた。しかし、ゲート絶縁膜の膜厚が数nm程度にまで薄くなるにつれ、トンネル電流によるゲートリークが大量に発生するようになり、消費電力増大が問題となってきている。この問題を克服する手段として、SiOの比誘電率ε=3.9よりも高い比誘電率を有する材料を用いてゲート絶縁膜を形成する方法が提案されている。このような材料からなる絶縁膜は高誘電率絶縁膜(High−k絶縁膜)と呼ばれている。High−k絶縁膜では比誘電率が高いほど、シリコン酸化膜と同等の静電容量を得るのに必要な膜厚を厚くすることが可能となる。よってリーク電流の増加を抑制することが可能となる。
【0003】
High−k絶縁膜の材料としては例えばZrOやHfOなどの金属酸化物が候補として挙げられている。従来、このような金属酸化物を基体の表面上に堆積する方法として、特開2004−140292号公報(特許文献1)に記載の有機金属化学気相堆積(MOCVD)法が知られている。MOCVD法では、金属錯体原料を原料槽に入れて液体状態になるようにヒーターで加熱し、キャリアガスを原料槽内に流入させることにより、原料を気化して反応室へと運ぶ。反応室に運ばれた原料は加熱された基体の表面上に堆積されて成膜が行われる。
【0004】
しかし、MOCVD法によって成膜された膜は、有機原料に由来した炭素や水素などの不純物を多く含む膜である。そのような不純物の影響により、MOCVD法で成膜された膜はリーク電流が多く発生しやすいという問題を有していた。MOCVD法のような原料に由来した不純物を含むことが少ない金属酸化物を基体に堆積する別の方法として、スパッタ法が知られている。スパッタ法では、金属からなるターゲットの表面に高エネルギー粒子を衝突させ、ターゲットを構成する原子を弾き飛ばして基体表面に堆積させる。例えば、ターゲット金属を陰極とした放電によってアルゴンなどの不活性な希ガスをイオン化し、ターゲット金属に衝突させることで、スパッタ現象が生じる。これにより、不純物の少ない金属膜の堆積が可能となる。
【0005】
図4に、スパッタ法を適用した従来のHigh−k絶縁膜の製造方法について説明する。
【0006】
ここで、401は単結晶シリコンなどからなる基体、402はシリコン酸化膜、403は金属膜、404は金属シリケート膜、405は金属酸化膜である。
【0007】
図4(a)に示す工程において、まず公知のRCA洗浄法などにより表面の汚染物などを除去し、基体401の表面にシリコン原子を露出させる。次に、図4(b)に示す工程において、基体401の表層部を酸化し、シリコン酸化膜402を形成する。なお、基体401の表層部を酸化する方法としては、熱酸化法及びラジカル酸化法などを用いる。次に、図4(c)に示す工程において、スパッタ法によって金属膜403をシリコン酸化膜402の表面に堆積する。さらに、図4(d)に示す工程において、酸素ラジカルによって金属膜403を酸化することで、金属酸化膜405を形成する。アモルファス状態の金属酸化膜に比べ、結晶化した金属酸化膜はリーク電流が多く発生しやすい。この為、金属膜403の酸化は、酸化中に結晶化を生じにくい低温で処理可能な酸素ラジカルによる酸化を行う。酸素ラジカルの発生法としては、プラズマ励起或いは光励起などを用いる。
【0008】
ラジカル酸化が行われる間、金属膜403を構成する金属原子の一部はシリコン酸化膜402中へと拡散し、金属シリケート膜404を形成する。金属シリケート膜404は、金属酸化膜405に比べて熱的安定性に優れ、結晶化し難いという特徴を持つ。
【0009】
このように、熱的安定性に優れた信頼性の高いゲート絶縁膜を得る為には、金属膜403とシリコン酸化膜とのミキシングを促進し、金属酸化膜をなるべくシリケート化するのが好ましい。
【0010】
一方、特開2002−314074号公報(特許文献2)には、金属原子の拡散を促進するために高温で熱酸化を行うことが開示されている。
【特許文献1】特開2004−140292号公報
【特許文献2】特開2002−314074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように、特許文献1に記載の方法では、金属膜403を低温で酸化させるため、金属原子が拡散し難い。また、金属原子をシリコン酸化膜深くへと拡散させるべく酸化時間を長くした場合、過剰に酸化が行われてしまう可能性がある。一方、特許文献2に記載のように、高温での熱酸化により金属原子を短時間で拡散させようとすると、下地のシリコン基体が酸化されてシリコン酸化膜の膜厚が大幅に増加しやすくなる。
【0012】
このように、従来は、シリコン酸化膜への金属拡散の制御ひいてはシリコン酸化膜と金属膜とのミキシングの制御が困難であり、また金属原子の拡散の条件と金属膜の酸化の条件とを独立に制御できなかった。このため、所要の膜厚を持つ絶縁膜を生産性良く形成することが困難であり、それに対する種々の対策が望まれていた。
【0013】
本発明は、以上のような技術的課題に鑑みて、高誘電率ゲート絶縁膜としての使用に適する高誘電率絶縁膜を良好な制御性をもって生産性良く形成することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、上記の目的を達成するものとして、
シリコン基体の上に絶縁膜を形成する方法であって、前記絶縁膜は少なくとも金属原子とシリコン原子と酸素原子とを含む膜を有し、前記方法は、
前記シリコン基体の表層部を酸化してシリコン酸化膜とする第1の工程と、
非酸化性雰囲気中において前記シリコン酸化膜の上に金属膜を形成する第2の工程と、
非酸化性雰囲気中での加熱を行うことで、前記金属膜を構成する金属原子を前記シリコン酸化膜中に拡散させる第3の工程と、
少なくとも前記金属原子が拡散したシリコン酸化膜を酸化し、前記金属原子とシリコン原子と酸素原子とを含む膜を形成する第4の工程とを備えることを特徴とする、絶縁膜の形成方法、
が提供される。
【0015】
本発明の一態様においては、前記第3の工程での加熱は、前記金属膜を構成する金属原子と前記シリコン酸化膜を構成する酸素原子及びシリコン原子とが反応して形成される金属シリケート膜において結晶化が生じる温度よりも低い温度で行われる。本発明の一態様においては、前記第3の工程での加熱は、前記シリコン酸化膜中へ拡散する前記金属原子が前記シリコン酸化膜を通過して前記シリコン基体にまで到達することのないような温度及び時間を選択して行われる。本発明の一態様においては、前記第2の工程の終了後から前記第3の工程の開始までの間、非酸化性雰囲気中に前記金属膜及びシリコン酸化膜付の前記シリコン基体を保持する。
【0016】
本発明の一態様においては、前記第2の工程はスパッタによりなされる。本発明の一態様においては、前記第4の工程の酸化はラジカル酸化によりなされる。
【0017】
本発明の一態様においては、前記方法は、前記第4の工程に続き前記金属原子とシリコン原子と酸素原子とを含む膜を窒化して窒化金属シリケート膜を形成する第5の工程を、さらに備える。本発明の一態様においては、前記第5の工程において、窒化する手段として少なくとも窒素原子を含むプラズマを用いる。
【0018】
本発明の更なる目的またはその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施形態及び実施例によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高誘電率ゲート絶縁膜としての使用に適する高誘電率絶縁膜を良好な制御性をもって生産性良く形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明による絶縁膜の形成方法の一実施形態について、図1を参照して詳細に説明する。
【0021】
ここで、101はシリコン基体(以下、単に「基体」ということがある)、102はシリコン酸化膜、103は金属膜、104は金属シリケート膜、105は金属酸化膜である。
【0022】
基体101としては、例えば(100)面方位を有する単結晶シリコンからなり、さらにリンがドープされ、抵抗値が2から10Ω・cmの範囲に制御されたもの等を使用する。なお、本発明においては、上記の例に限らず、上記以外の異なる面方位、ドーパント及び抵抗値を有するシリコン基体であっても良い。また、基体101は、例えばシリコン以外の材料からなる基材の上に、エピタキシャル法によりシリコンを成長させた物などであっても良い。
【0023】
図1(a)では、まず公知のRCA洗浄法などにより、基体表面の金属、有機物、パーティクル、自然酸化膜等を除去し、清浄なシリコン原子を表面に露出させる。
【0024】
次に、図1(b)に示すように、シリコン基体101の表層部を酸化してシリコン酸化膜102とする第1の工程を行う。基体101の表層部に先ずシリコン酸化膜102を形成するのは、直接シリコン基体上に金属酸化膜を形成した場合には良好な界面特性が得難い為である。但し、シリコン酸化膜102の厚さがあまり厚すぎると低い酸化膜換算膜厚値が得られなくなる為、シリコン酸化膜102の厚さは0.5nm乃至2nmの範囲であることが好ましい。基体101の表層部を酸化する方法としては、熱酸化法、ラジカル酸化法など良好なシリコン界面が得られる手法が挙げられる。例えば、熱酸化法の場合、ホットウォール熱酸化炉、或いは赤外ランプ急速熱酸化装置などによる酸化が適用可能である。熱酸化炉で酸化を行う場合、ドライ酸化や、酸素ガスをアルゴンガス或いは窒素ガスなどのキャリアガスと共に純水中を通したガスによって酸化を行うウェット酸化のいずれの方法で行っても良い。または酸素ガスと水素ガスとを用いた燃焼酸化(パイロジェニック)法などであってもよい。上記の例以外に酸化に用いられるガスとしては、O、HO、NO、NO、NOなどが挙げられる。
【0025】
次に、図1(c)に示すように、スパッタ法によって、金属原子が酸化反応を生じ難い雰囲気中においてシリコン酸化膜102の上に金属を堆積させて金属膜103を形成する第2の工程を行う。なお、スパッタを行う装置の方式は、ECRスパッタ法の他、DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法などのいかなる処理方式であっても良い。またスパッタ法によって堆積させる金属としては、例えばAl、Sr、Ba、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、Taなどの他、La、Ceなどのランタノイド系金属などが挙げられる。これらの金属元素は酸化物を形成した際、二酸化シリコンよりも高い誘電率を得る事ができる。また、堆積させる金属は単一元素のみからなるもの、或いは複数の金属元素からなるもの、のいずれのものであっても良い。また、異なる元素の金属膜を積層させたものであっても良い。スパッタ法では、ターゲット表面に高エネルギー粒子を衝突させ、ターゲットを構成する原子を弾き飛ばし、基体表面に堆積させる。例えば、ターゲット金属を陰極とした放電によってアルゴンなどの不活性な希ガスをイオン化して、ターゲット金属に衝突させることで、スパッタ現象が生じる。また、希ガスに加え反応ガスを添加することで、反応ガスとターゲット金属原子との化合物を堆積させるリアクティブスパッタと呼ばれる方法がある。反応ガスとして例えばOなど酸化力を有するガスを用いた場合、金属原子が酸化され、金属酸化物が堆積される。しかし、本発明ではそのような酸化力を有する反応ガスなどを添加せず、金属原子が酸化反応を生じ難い雰囲気中(非酸化性雰囲気中)でターゲット金属のスパッタを行う。このため、スパッタした金属原子が酸化されること無く、シリコン酸化膜102の上に金属膜103が形成される。
【0026】
その後、図1(d)に示すように、非酸化性雰囲気中で、金属膜103及びシリコン酸化膜102付の基体101の加熱を行うことで、金属膜103を構成する金属原子をシリコン酸化膜102中に拡散させる第3の工程を行う。この加熱処理工程における加熱処理の方法としては、例えば大気圧下で加熱を行う電気加熱炉や、赤外ランプによる加熱装置などのいかなる加熱方法であっても適用可能である。このような処理装置で基体101の加熱を行う場合、基体101上に堆積された金属膜103が極力酸化されることがないよう、例えば希ガスなどの不活性ガスで満たされた処理容器内で加熱を行うのが好ましい。また、基体101上に堆積された金属膜103が極力酸化されることがないようにする別の加熱方法としては、高真空状態に保持された加熱処理容器内に基体を収容して行う加熱処理などが挙げられる。高真空状態に保持された加熱処理容器内での基体の加熱手段としては、基体を支持する手段に内蔵された熱伝導による加熱手段や、赤外ランプによる輻射加熱手段など、いかなるものであっても良い。
【0027】
この加熱処理により、金属膜103の金属原子はシリコン酸化膜102の中へ拡散し、シリコン酸化膜102と金属膜103とがミキシングすることで、金属シリケート膜104が形成される。従来の低温ラジカル酸化時に生じていた金属原子の拡散に比べて、高温の熱処理を行うことで多くの金属原子をシリコン酸化膜102に迅速に且つ深くに拡散させることができる。シリコン酸化膜中へと拡散する金属原子の濃度分布は、基体101を加熱する温度や時間などの条件によって制御可能である。なお、Hf原子等の金属原子の拡散はシリコン酸化膜中に留めるのが好ましい。すなわち、第3の工程での加熱は、好ましくは、シリコン酸化膜102中へ拡散する金属原子がシリコン酸化膜102を通過してシリコン基体101にまで到達することのないような温度及び時間を選択して行われる。Hf原子等の金属原子がシリコン酸化膜102を通過し、下層のシリコン基体との界面にまで到達すると、界面特性の劣化を引き起こす虞があるためである。
【0028】
本発明では、金属膜103のスパッタ工程において、金属原子が酸化反応を生じ難い雰囲気中で金属膜を103堆積させる。さらに、堆積した金属膜103の金属原子が酸化反応を生じ難い雰囲気中で加熱処理を行う。この為、金属が酸化されることが抑制される。このため、基体101の加熱処理工程において、金属酸化物では結晶化を生じるような高温の加熱を行っても、金属膜には結晶化を生じることがない。すなわち、第3の工程での加熱は、金属膜103を構成する金属原子とシリコン酸化膜102を構成する酸素原子及びシリコン原子とが反応して形成される金属シリケート膜104において結晶化が生じる温度よりも低い温度で行われる。また、シリコン酸化膜中に拡散した金属が反応して形成される金属シリケート膜は、金属酸化物膜よりも高温の熱処理を行っても結晶化を生じ難い。例えば、Hfの酸化物であるHfOは、約600℃程度の温度で結晶化が生じる。これに対して、本発明のようにHfを酸化させずに堆積した状態で基体の加熱を行った場合、金属原子がシリコン酸化膜中に拡散して形成される金属シリケート膜は、約700℃の高温の加熱処理を行っても結晶化されることがない。以上のように、従来では結晶化を避けるのが困難であった高温の加熱処理を行って、シリコン酸化膜と金属膜とのミキシングを行うことが可能となる。
【0029】
スパッタにより形成された金属膜103が、熱処理工程に移る迄の間に酸化されることが無いように、スパッタ終了後から加熱処理を開始するまでの間においても、基体を金属原子が酸化反応を生じ難い雰囲気中に保持する。すなわち、第2の工程の終了後から第3の工程の開始までの間、金属膜103を構成する金属原子が酸化反応を生じ難い雰囲気中に金属膜103及びシリコン酸化膜102付のシリコン基体101を保持する。
【0030】
例えば、スパッタを行う装置と熱処理を行う装置との間を、直接或いは高真空に減圧されたロードロック室などでつなぎ、基体搬送手段によって基体を搬送し、金属膜が酸化されないようにするのが好ましい。或いは、スパッタ処理と加熱処理とを同じ装置内で連続的に行い、金属膜が酸化雰囲気に曝されないようにするのが好ましい。或いは、スパッタ終了後に基体を装置外に搬出する場合は、希ガスや窒素ガスなどの不活性ガスを十分満たした経路のみを基体が通過するようにしても良い。またこれらの例に限らず、金属膜が酸化されない方法であればいかなる手段を用いても良い。
【0031】
本実施形態では、熱処理の後においても金属膜103の一部がシリコン酸化膜とミキシングせずに残存する例を挙げている。しかしながら、金属膜103がシリコン酸化膜102とミキシングしてほぼ全てシリケート化し、金属膜103が残らないものであっても良い。
【0032】
次に、図1(e)に示すように、金属原子が拡散したシリコン酸化膜(金属シリケート膜104)を酸化し、前記金属原子とシリコン原子と酸素原子とを含む膜を形成する第4の工程を行う。この第4の工程は、低温酸化工程であることが好ましく、例えばラジカル酸化により行うことができる。図1(d)の加熱処理工程において形成された金属シリケート膜104は、酸化絶縁膜としては組成的に酸素が不足した状態である。このため、ラジカル酸化することで絶縁性の高い金属シリケート膜にする。また、シリコン酸化膜102とミキシングせずに残った金属膜103がある場合は、同様に酸化して絶縁膜化する。ラジカル酸化法は、熱酸化法に比べ低い温度で金属膜を高品質に酸化することが可能であり、金属膜103の酸化処理に好適である。ラジカル酸化を行う為の酸素ラジカルの発生法としては、プラズマ励起手段を用いたもの、或いは光励起手段を用いたものなど、いかなる方法を用いても良い。例えば、プラズマ励起手段を用いる場合、絶縁膜にダメージを与えないものであればICP、ヘリコン、ECR、マイクロ波、表面波などのいかなるプラズマ源を用いることが可能である。また例えば光励起手段を用いる場合、Xeエキシマランプなど、酸化用のガスを励起し、酸素ラジカルを生成可能な波長の光を放射可能な光源であれば適用可能である。
【0033】
酸化に用いるガスとしては、O、O、HO、NO、NO、NOなどが挙げられる。またこれらのガスを混合したものや、H、N、He、Ne、Ar、Ke、Xeなどで希釈したものであっても良い。
【0034】
また、必要があれば、第4の工程に続き金属シリケート膜104すなわち金属原子とシリコン原子と酸素原子とを含む膜を窒化して窒化金属シリケート膜を形成する第5の工程を、さらに備えるのが好ましい。この窒化処理工程を行うことで、より高い誘電率を得ることが可能になる他、熱的安定性を高め金属酸化膜の結晶化を抑制し、更には後に形成される上部電極からの不純物拡散を抑制することが可能となる。第5の工程において、窒化する手段として少なくとも窒素原子を含むプラズマを用いるのが好ましい。すなわち、窒化の方法としては低温で金属シリケート膜及び金属酸化膜を窒化することが可能なプラズマによる窒化処理が好適である。
【0035】
窒化に用いるガスとしては、N、NH、N、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)などが挙げられる。またプラズマの迅速な着火のために少なくとも着火時にHe、Ne、Ar、Kr、Xeなどの希ガスを添加してもよい。
【0036】
窒化処理により、金属シリケート膜104は窒化金属シリケート膜とされ、金属酸化膜105は金属酸化窒化膜とされる。
【0037】
以上のように、金属原子の拡散の工程と金属膜の酸化の工程とを別々に実行することで、金属原子の拡散の条件と金属膜の酸化の条件とを独立に制御することができ、しかも金属原子の拡散は高温加熱を使用して短時間で行うことができる。かくして、高誘電率ゲート絶縁膜としての使用に適する高誘電率絶縁膜を良好な制御性をもって生産性良く形成することが可能となる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明による絶縁膜の形成方法の具体的な適用例を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
本実施例は、図1の実施形態に従って実施した。シリコン基体101として、直径200mmのp型単結晶シリコン基板を使用した。
【0040】
まず、基体101の表面をRCA洗浄により洗浄し、不純物や、自然酸化膜の除去を行った。
【0041】
次に、基体101を図示しない急速熱酸化処理装置内に搬送し、酸素雰囲気中において1000℃の熱酸化を行った。これにより基体101の表層部に膜厚2nmのシリコン酸化膜102が形成された。
【0042】
つづいて、シリコン酸化膜102付の基体101を、図示しないRFマグネトロン方式のスパッタ装置内に搬送した。なお、スパッタ装置のターゲットにはHfを用いた。まず、基体をスパッタ装置内に搬送した後、スパッタ装置内の排気を行い2.6x10−3Paまで減圧した。また基体101を加熱手段により加熱し、300℃に保持した。これらにより、金属膜の堆積中に金属膜を酸化させる虞のある酸素や水分などスパッタ装置外へと排気した。続いて、スパッタ装置内に5sccmの流量でArガスを導入し、スパッタ装置内を0.2Paに保持した。続いて、ターゲットに250Wの高周波を印加してプラズマを生成し、ターゲットを構成するHf原子をスパッタした。スパッタされたHf原子は、ターゲットに対向する位置に支持された基体101の方へと飛び、シリコン酸化膜202上に堆積し、これにより金属膜203が形成された。この処理によって、シリコン酸化膜202上に、膜厚5nmのHfからなる金属膜103が形成された。
【0043】
その後、高周波印加及びArガスの供給を停止し、更にスパッタ装置内の排気を行った。さらに、基体101を700℃の温度で加熱した。このため、金属膜103は、装置内の雰囲気によって酸化され難いものであった。また、金属膜103を構成するHf原子がシリコン酸化膜102の中へと拡散し、ミキシングされることでHfシリケートからなる金属シリケート膜104が形成された。
【0044】
次に、金属膜103及び金属シリケート膜104をラジカル酸化する為、表面波プラズマにより酸素ラジカルを発生する図示しないプラズマ装置内に基体を搬送した。まず、プラズマ装置内の排気を行った。ついで、1000sccmの流量でOガスをプラズマ装置内に導入した。さらに、プラズマ装置内の圧力を400Paに保持した。このとき、基体101の温度は、基体を支持すると共に該基体を加熱可能なヒーターを内蔵するステージによって、200℃に保持された。その後、2.45GHzのマイクロ波をアンテナから放射し、装置内外を真空隔離する誘電体を介してプラズマ装置内に導入し、表面波プラズマを生成した。かくして励起された酸素ラジカルを用いて、酸化が不足しているシリケート膜104及び金属膜103の酸化を20秒間行った。これにより、酸化が不足していたシリケート膜104を十分に酸化して絶縁膜化すると共に、シリケート化せず残っていた金属膜103をも酸化して絶縁膜化し、金属酸化膜105を形成した。
【0045】
かくして形成した絶縁膜の熱的安定性を評価する為、膜102,104,105付の基体101を800℃の温度で60秒間加熱して、本発明サンプルを作成し、X線回折(XRD)測定を行った。
【0046】
比較のために、金属膜103を堆積した後の基体の加熱処理の工程を行わなかったこと以外は同様にして比較サンプルを作成し、X線回折(XRD)測定を行った。
【0047】
その結果、図2に示すように、比較サンプルではHfO結晶に起因した信号が現れるのに対し、本発明サンプルではその信号強度が極めて低い。これは、金属膜103を堆積した後に行った基体の加熱処理工程によってシリケート化が進んだことにより、熱的安定性が向上し、結晶化を抑制した為と考えられる。
【0048】
[実施例2]
本実施例は、図1の実施形態に従って実施した。シリコン基体101として、直径200mmのp型単結晶シリコン基板を使用した。
【0049】
実施例1と同様にして、ラジカル酸化処理までを行った。
【0050】
次に、窒化処理を行う為、膜102,104,105付の基体101を、表面波プラズマにより窒素ラジカルを発生するプラズマ装置内に、搬送した。
【0051】
まず、プラズマ装置内の排気を行い、続いて200sccmの流量でNガスをプラズマ装置内に導入した。さらに、プラズマ装置内の圧力を26Paに保持した。このとき、基体101の温度は、基体を支持すると共に該基体を加熱可能なヒーターを内蔵するステージによって、200℃に保持された。その後、2.45GHzのマイクロ波をアンテナから放射し、装置内外を真空隔離する誘電体を介してプラズマ装置内に導入し、表面波プラズマを生成した。かくして励起された窒素ラジカルを用いて、金属シリケート膜104及び金属酸化膜105の窒化を30秒間行った。これにより、金属シリケート膜104は窒化金属シリケート膜に転化し、金属酸化膜105は金属酸化窒化膜に転化した。
【0052】
かくして形成した絶縁膜の熱的安定性を評価する為、シリコン酸化膜102、窒化金属シリケート膜及び金属酸化窒化膜付の基体101を900℃の温度で30秒間加熱して、サンプルを作成し、X線回折(XRD)測定を行った。
【0053】
その結果、HfO結晶に起因した信号が現れず、絶縁膜が900℃もの高温に曝されても結晶化せず、アモルファス状態を維持している事が分かった。
【0054】
[実施例3]
本実施例は、図1の実施形態に従って実施した。シリコン基体101として、直径200mmのP型単結晶シリコン基板を使用した。
【0055】
本実施例では、基体101の表層部に形成されるシリコン酸化膜102の膜厚を1.6nmとし、スパッタによって形成される金属膜103の膜厚を1nmとし、該金属膜の形成後の加熱工程での加熱温度及び加熱時間を以下の表1に示す条件のように変更した。これ以外は、実施例1と同様でありラジカル酸化処理までを行い、サンプルを作成した。
【0056】
【表1】

これらのサンプルの絶縁膜中に含まれる各元素の膜厚方向(深さ方向)の分布を、RBSによって測定した。図3(a)〜(c)に、各条件で処理された試料のRBSによる深さ方向分布の測定結果を示す。図から分かるように、異なる加熱条件を選ぶことで、Hf原子の深さ方向の分布が変化する。なお、金属膜の加熱条件たとえば加熱温度及び加熱時間は、本実施例に示した条件に限らず、シリコン酸化膜の膜厚や、スパッタした金属膜の膜厚や、金属膜の材料などに応じて、適宜選択することが可能である。
【0057】
[実施例4]
本実施例は、図1の実施形態に従って実施した。シリコン基体101として、直径200mmのP型単結晶シリコン基板を使用した。
【0058】
本実施例では、基体101の表層部に形成されるシリコン酸化膜102の膜厚を1.4nmとし、スパッタによって形成される金属膜103の膜厚を0.8nmとし、該金属膜の形成後の加熱工程での加熱温度及び加熱時間を600℃に変更した。これ以外は、実施例1と同様であり、ラジカル酸化処理までを行い、サンプルを作成した。
【0059】
得られたサンプルに電極を形成し、電気的特性の評価をおこなった。電極材料にはAuを使用し、C−V、I−V特性を評価した。その結果、酸化膜換算膜厚は1.61nm、フラットバンド電圧(V fb)は0.33Vで、C−Vカーブのヒステリシスは40mVであった。また、リーク電流値は6.6x10−5A/cm(Vg=V fb−1V)と良好な結果が得られた。
【0060】
[実施例5]
本実施例は、図1の実施形態に従って実施した。シリコン基体101として、直径200mmのP型単結晶シリコン基板を使用した。
【0061】
実施例4と同様にして、ラジカル酸化処理までを行った。
【0062】
その後、窒素ラジカルを発生する図示しないプラズマ装置により30秒間の窒化処理を行った。更に、プラズマ窒化後、窒素雰囲気中で1000℃の温度で5秒間のアニールを行った。アニール後、Auの電極を形成し、C−V、I−V特性を評価した。その結果、酸化膜換算膜厚は1.67nm、フラットバンド電圧は0.25V(V fb)で、C−Vカーブのヒステリシスは55mVであった。また、リーク電流値は1.4x10−5A/cm(Vg=V fb−1V)と良好な結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明による絶縁膜の製造方法の一実施形態を説明するための工程断面図である。
【図2】本発明により得られた絶縁膜及び従来の絶縁膜のX線回折強度の測定結果を示す図である。
【図3】金属膜の加熱条件が異なる絶縁膜を構成する元素の深さ方向分布を示す図である。
【図4】従来の高誘電率絶縁膜の製造方法の一例を説明するための工程断面図である。
【符号の説明】
【0064】
101 シリコン基体
102 シリコン酸化膜
103 金属膜
104 金属シリケート膜
105 金属酸化膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基体の上に絶縁膜を形成する方法であって、前記絶縁膜は少なくとも金属原子とシリコン原子と酸素原子とを含む膜を有し、前記方法は、
前記シリコン基体の表層部を酸化してシリコン酸化膜とする第1の工程と、
非酸化性雰囲気中において前記シリコン酸化膜の上に金属膜を形成する第2の工程と、
非酸化性雰囲気中での加熱を行うことで、前記金属膜を構成する金属原子を前記シリコン酸化膜中に拡散させる第3の工程と、
少なくとも前記金属原子が拡散したシリコン酸化膜を酸化し、前記金属原子とシリコン原子と酸素原子とを含む膜を形成する第4の工程とを備えることを特徴とする、絶縁膜の形成方法。
【請求項2】
前記第3の工程での加熱は、前記金属膜を構成する金属原子と前記シリコン酸化膜を構成する酸素原子及びシリコン原子とが反応して形成される金属シリケート膜において結晶化が生じる温度よりも低い温度で行われることを特徴とする、請求項1に記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項3】
前記第3の工程での加熱は、前記シリコン酸化膜中へ拡散する前記金属原子が前記シリコン酸化膜を通過して前記シリコン基体にまで到達することのないような温度及び時間を選択して行われることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか一項に記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項4】
前記第2の工程の終了後から前記第3の工程の開始までの間、非酸化性雰囲気中に前記金属膜及びシリコン酸化膜を有する前記シリコン基体を保持することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項5】
前記第2の工程はスパッタによりなされることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項6】
前記第4の工程の酸化はラジカル酸化によりなされることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項7】
前記第4の工程に続き前記金属原子とシリコン原子と酸素原子とを含む膜を窒化して窒化金属シリケート膜を形成する第5の工程を、さらに備えることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項8】
前記第5の工程において、窒化する手段として少なくとも窒素原子を含むプラズマを用いることを特徴とする、請求項7に記載の絶縁膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−158783(P2009−158783A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336732(P2007−336732)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】