説明

能動振動制御装置

【課題】無駄な消費電力を常時供給し続けることを抑制でき、かつ、リニアアクチュエータの振幅を最大限に活用できる能動振動制御装置を提供する。
【解決手段】能動振動制御装置は、全筒運転状態ではリニアアクチュエータの加振周波数Fが所定の周波数FA以下の周波数領域で、1G補正電流をバイアス電流として印加するように制御し、気筒休止運転状態ではリニアアクチュエータの加振周波数Fが所定の周波数FB以下の周波数領域で、1G補正電流をバイアス電流として印加するように制御する。その結果、加振ゲイン要求量最大値に容易に対応することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアアクチュエータを駆動制御して振動体を支持する支持体の振動を抑制する能動振動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、エンジンを車体に支持するエンジンマウントを備え、該エンジンマウントによりエンジンから車体への振動の伝達が抑制される防振装置において、車体に取り付けられたリニアアクチュエータが発生する制振用振動で車体の振動を低減することにより、車体における防振効果を高めるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、往復運動を生じさせるリニアアクチュエータとして、固定子と、該固定子に対して移動可能な可動子とを備えるものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、特許文献3には、適応デジタルフィルタ(Adaptive Digital Filter)を使用して、振動体から発生する振動を減衰させ、該振動の低減化を図る車両用振動騒音制御装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−300318号公報
【特許文献2】特開2006−345652号公報
【特許文献3】特開平6−74293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記した特許文献2に記載の従来技術においては、リニアアクチュエータの可動子を垂直方向に変位可能に取り付ける場合、可動子を板バネやコイルスプリング等で、変位可能な上下範囲の中央(中立位置)に保たないと、最大変位を生じさせることができない場合がある。しかしながら、板バネやコイルスプリングが可動子の自重を受けることにより、前記した変位可能な上下範囲の中立位置に保つことは不可能であり、その対策として、特許文献2に記載の従来技術には、所望の位置に推力0で可動子を位置決めする技術が開示されている。
しかしながら、そのためには、中立位置に保つために常時バイアスの直流電流をコイルに通電し続ける必要があり、無駄な消費電力となり、車両の場合燃費を悪化させる要因になる。
【0005】
本発明は、前記した従来の課題を解決するものであり、無駄な消費電力を常時供給し続けることを抑制し、かつ、リニアアクチュエータの振幅を最大限に活用できる能動振動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、可動子と、可動子の周囲に、可動子を囲むように配置された複数のコイルを有する固定子と、弾性変形することにより可動子をその軸方向に固定子に対して相対的に往復動可能に支持する弾性支持部と、を有するリニアアクチュエータと、複数のコイルに通電制御する制御手段と、を備える能動振動制御装置において、制御手段は、可動子と固定子との間の軸方向の相対的変位による振動を発生させるために交流電流を印加するとともに、リニアアクチュエータによる所定の加振条件の場合に、予め設定された所定の直流電流をバイアス電流として印加重畳して、可動子と固定子との間の軸方向の相対的変位による振動の振幅の中央位置を補正することを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、リニアアクチュエータによる所定の加振条件の場合に、予め設定された所定の直流電流をバイアス電流として印加重畳して、可動子と固定子との間の軸方向の相対的変位による振動の振幅の中央位置を補正することができるので、可動子と固定子との間の軸方向の相対的変位による振動の振幅を大きくしたい場合に、所定の直流電流をバイアス電流として印加することにより振動の振幅を大きくできる。
つまり、可動子または固定子が自重により下方に変位した状態で交流電流を印加すると可動子と固定子の軸方向の振動の振幅の中央位置が低下して振幅を最大限に活用できないというリニアアクチュエータの加振制御の制限が防止できる。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明の構成に加え、リニアアクチュエータによる所定の加振条件は、車両に積載された振動体としてのエンジンにより生じる振動を打ち消すためにリニアアクチュエータを加振させる周波数が、所定の値以下であることを特徴とする。
【0009】
車両に積載されたエンジンの振動が、エンジンマウントを経由して車体に伝達された振動は、伝達された振動の周波数が高くなるとその振幅が逓減していくことが知られている。従って、請求項2に記載の発明によれば、車両に積載された振動体としてのエンジンから伝達された振動を打ち消すためにリニアアクチュエータを加振させる周波数が、所定の値以下の場合に対してのみ、リニアアクチュエータによる加振の振幅を最大限に活用可能に確保するために所定の直流電流をバイアス電流として印加重畳して、可動子と固定子との間の前記軸方向の相対的変位による振動の振幅の中央位置を補正する。その結果、エンジンから車体に伝達された振動の周波数が、所定の値以下の場合に対してリニアアクチュエータの振幅を最大限に活用できるようにすることができ、エンジンから車体に伝達された振動の周波数が所定の値を超えて、その振幅が小さいときには、リニアアクチュエータに所定の直流電流をバイアスとして印加重畳しないで、無駄な消費電力が抑制できる。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の発明の構成に加え、さらに、振動体から伝達された振動に、リニアアクチュエータによる加振の結果が加えられた車両の車体の振動を検出する振動センサを備え、制御手段は、振動センサからの信号に応じてリニアアクチュエータを制御することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、さらに、振動体から伝達された振動に、リニアアクチュエータによる加振の結果が加えられた車両の車体の振動を検出する振動センサを備え、制御手段は、振動センサからの信号に応じてリニアアクチュエータを制御するので、例えば、制御手段において、特許文献3に記載のように適応デジタルフィルタ(Adaptive Digital Filter)を適用して、振動体から発生する振動を減衰させ、該振動の低減化を図る能動振動制御装置において、振動体から伝達された振動に対してリニアアクチュエータによる加振振動により打ち消した結果の残留振動を振動センサにより検出して、適応デジタルフィルタを効果的に動作制御させることにより、車両の車体の振動を効果的に減衰させることができる。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項2または請求項3に記載の発明の構成に加え、制御手段は、車両のエンジン及び変速機を含むパワープラントの運転状態を判別するパワープラント運転状態判別手段を有し、パワープラント運転状態判別手段により判別されたパワープラントの運転状態に応じて予め設定された所定の直流電流をバイアス電流として印加重畳するリニアアクチュエータを加振させる所定の周波数の値以下の領域を変更することを特徴とする。
【0013】
車両に搭載されたエンジン及び変速機を含むパワープラントの運転状態に応じて車体に伝達される振動の周波数に対する振幅が異なる。
従って、請求項4に記載の発明によれば、パワープラント運転状態判別手段により判別されたパワープラントの運転状態に応じて予め設定された所定の直流電流をバイアス電流として印加重畳するリニアアクチュエータを加振させる所定の周波数の値以下の領域を変更するので、パワープラントから車体に伝達された振動の周波数が、所定の値以下の場合に対してリニアアクチュエータの振幅を最大限に活用できるようにすることができ、パワープラントから車体に伝達された振動の周波数が所定の値を超えて、その振幅が小さいときには、リニアアクチュエータに所定の直流電流をバイアスとして印加重畳しないで、無駄な消費電力が抑制できる。
【0014】
そして、請求項4に係る発明においては、パワープラントの運転状態を判別するには、少なくとも、全筒運転状態と気筒休止運転状態との判別、エンジンに接続された変速機に含まれるトルクコンバータのロックアップされた状態とトルクコンバータのロックアップされていない状態との判別、並びに、変速機の変速段を制御する制御装置の制御入力設定が標準モードに設定された状態と、標準モードよりもエンジンの回転速度がより低回転速度のときに変速段をシフトアップさせるエコモードに設定された状態との判別、のいずれかを含むことが好ましい。
【0015】
例えば、エンジンの全筒運転状態の場合にエンジンによる第1の振動周波数の値を超えた周波数領域では、周波数が増加するにつれてエンジン振動が車体に伝達される振幅が低減していくのに対し、エンジンの気筒の一部が休止状態である気筒休止運転状態の場合には、エンジンによる第1の振動周波数の値より大きな第2の周波数の値の超えた周波数領域で、周波数が増加するにつれてエンジン振動が車体に伝達される振幅が低減していくという特性が確認されている。従って、パワープラント運転状態判別手段によりエンジンが全筒運転状態か気筒休止運転状態かを判別して、その状態に応じて予め設定された所定の第1の振動周波数または所定の第2の振動周波数以下の加振周波数の領域では、リニアアクチュエータに所定の直流電流をバイアスとして印加重畳し、その状態に応じて予め設定された所定の第1の振動周波数または所定の第2の振動周波数を超えた加振周波数の領域では、リニアアクチュエータに所定の直流電流をバイアスとして印加重畳しないで、無駄な消費電力が抑制できる。
【0016】
また、変速機に含まれるトルクコンバータがロックアップされた状態では、トルクコンバータがロックアップされていない状態に比較して、車体にエンジン振動が伝達される際に、トルクコンバータによるエンジンのトルク変動振動吸収効果がなくなり、かつ、エンジンの回転が変速機に直接接続されてトルク変動が変速機に伝わることで、振動体の質量もエンジンと変速機の一体とみなされることになり、車体へ伝わるパワープラント全体の振動の振幅は増加する傾向になる。従って、パワープラント運転状態判別手段によりトルクコンバータがロックアップされている状態か否かを判別して、その状態に応じて予め設定された所定の周波数以下の加振周波数の領域では、リニアアクチュエータに所定の直流電流をバイアスとして印加重畳し、その状態に応じて予め設定された所定の周波数を超えた加振周波数の領域では、リニアアクチュエータに所定の直流電流をバイアスとして印加重畳しないで、無駄な消費電力が抑制できる。
【0017】
さらに、エンジン及び変速機を制御するエンジン・AT(Automatic Transmission)制御ECU(Electric Control Circuit)(以下、「エンジン・AT_ECU」と略称する)において、変速機が自動変速機であり、運転者がセレクトレバーをドライブレンジに設定した後、そのときのエンジン回転速度、スロットルバルブ・ポジションセンサ及び変速段から駆動トルクを推定して、運転者のアクセルペダルの踏み込み量の変化をアクセル・ポジション・センサで検出して、変速段を自動的に切り換えるときに、最近の車両では、標準モードとエコモードとを区別して自動変速させる技術が知られている。ここでエコモードとは、標準モードよりエンジン回転速度が小さい段階でエンジンの変速段をシフトアップしたりするモードであり、運転者によりインスツルメントパネルに設けられたエコモード選択ボタンが押下されて、エコモードが選択されると、エンジン回転速度の変化幅が標準モードの場合よりも小さい変化幅で変速段の自動切り替えがなされる。
【0018】
従って、エコモードが選択された場合は、例えば、加速時の変速段切替の際のエンジン回転速度の増加幅が小さくなり、標準モードの場合の変速段切替の際よりもエンジン振動が車体へ伝達された際の振動の振幅が大きくなる傾向がある。従って、パワープラント運転状態判別手段によりエコモードと標準モードのいずれが選択されている状態かを判別して、その状態に応じて予め設定された所定の周波数以下の加振周波数の領域では、リニアアクチュエータに所定の直流電流をバイアスとして印加重畳し、その状態に応じて予め設定された所定の周波数を超えた加振周波数の領域では、リニアアクチュエータに所定の直流電流をバイアスとして印加重畳しないで、無駄な消費電力が抑制できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、無駄な電力を常時消費し続けることを抑制し、かつ、リニアアクチュエータの振幅を最大限に活用できる能動振動制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】能動振動制御装置が車体に装備された状態を示す要部平面図である。
【図2】エンジンマウントの一部切り欠き断面図である。
【図3】リニアアクチュエータの外形斜視図である。
【図4】図3のA−A矢視の断面図である。
【図5】リニアアクチュエータの要部平面図である。
【図6】防振制御ECUの機能構成ブロック図である。
【図7】防振制御ECUにおけるリニアアクチュエータへ所定の直流電流を印加する制御の流れを示すフローチャートである。
【図8】(a)は、リニアアクチュエータの加振周波数Fと加振ゲイン要求最大値の関係の説明図、(b)は、リニアアクチュエータの加振周波数Fと所定の直流電流をバイアスとして印加する周波数領域の関係の説明図である。
【図9】(a)は、リニアアクチュエータにおける可動部材が軸方向の相対変位の中立位置にある状態の説明図、(b)は、リニアアクチュエータにおける可動部材が、自重により軸方向の相対変位の中立位置よりも下方にある状態の説明図である。
【図10】実施形態の変形例4における防振制御ECUでのリニアアクチュエータへ所定の直流電流を印加する制御の流れを示す図7のフローチャートからの変更部分のフローチャートである。
【図11】図10の続きのフローチャートである。
【図12】振動体であるエンジンが生じる振動が車両の車室内振動や車室内音として伝播する経路の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
先ず、車両における振動体としてのエンジンの発生する振動が、乗員に車室内振動や車室内音として感じさせるまでに伝達される従来から考えられている経路について図12を参照しながら説明する。図12は、振動体であるエンジンが生じる振動が車両の車室内振動や車室内音として伝播する経路の説明図である。
図12中、太矢印は、エンジンの発生する振動が車室内振動として伝達されるまでの主要な経路を示し、中太矢印はその次のレベルの主要な経路を示し、細矢印は振動が伝達される度合いが小さい経路を示す。
【0022】
エンジンが発生する振動の主要経路の1つ目は、図12において太矢印で示すように、固体伝播によりトランスミッションに伝わり、さらに、エンジンマウントによりエンジンやトランスミッションの振動が一部吸収され弱められながらも、サブフレームに伝えられるとともに、車体骨格にも伝達され、最終的に車室内振動として伝播される。
また、エンジンが発生する振動の主要経路の2つ目は、図12において中太矢印で示すように、トランスミッションからドライブシャフト等の駆動系に伝達され、サスペンションを経て、サブフレーム、車体骨格を伝播して、車内振動として伝播される。
【0023】
さらに、エンジンが発生する振動の主要経路の3つ目は、図12において細矢印で示すように、固体伝播によりエンジンに接続する排気管を通じ排気システムを経て車体骨格に伝播される。
ちなみに、車体骨格が振動すると中太矢印で示すように車内振動としてだけではなく、車室内の空気を音場として車室内音(車室内騒音)としても乗員に感じさせる。
【0024】
以下、本発明の実施形態を図1から図5を参照して、前記したような従来からの振動体としてのエンジンの振動が、エンジンを支持する車体のサブフレームに伝わった段階で、能動的にリニアアクチュエータでサブフレームのメンバーを加振してエンジンから伝わった振動を打ち消す能動振動制御装置について説明する。
【0025】
図1は、能動防振制御装置が車体に装備された状態を示す要部平面図である。図2は、エンジンマウントの一部切り欠き断面図である。図1に示すように、本発明の実施形態に係る能動防振制御装置1は、それを装備対象とする車両に備えられている。該車両は、振動体としてのエンジン2を車体Bに支持する1以上の、ここでは2つのエンジンマウント5A,5Bと、さらに2つのエンジンマウント6,7と、制振用振動を発生するリニアアクチュエータ30,30と、リニアアクチュエータ30、30を制御する防振制御ECU(Electronic Control Unit)50と、エンジン2と自動変速機である変速機9とを制御するエンジン・AT(Automatic Transmission)制御ECU(変速機の変速段を制御する制御装置)70と、を備える。
ここで、防振制御ECU50は、特許請求の範囲に記載の「制御手段」に対応する。
なお、変速機9は、例えば、エンジン2の出力軸を図示省略のトルクコンバータに入力され、その後、複数の組の変速段ギア同士またはリバースギアが油圧クラッチにより噛み合うような構成とされている。この油圧クラッチは、図示省略の油圧回路がエンジン・AT制御ECU70に制御されて動作する。
【0026】
ちなみに、エンジン・AT制御ECU70には、図示しないアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル・ポジション・センサ、スロットルバルブの開度を検出するスロットルバルブ・ポジションセンサ、エンジン2の吸気管による吸気量を検出するエアーフローメータ、吸気温センサ、エンジン冷却水温度を検出する水温センサ、排気ガス中の酸素量を検出するO2センサ、クランクパルスを検出するクランクセンサ、各気筒の上死点を検出するTDC(Top Dead Center)センサ等からの各種のエンジン制御のための信号が入力される。そして、エンジン・AT制御ECU70からエンジン2には、図示しないスロットルバルブの開度を制御するスロットルバルブ・アクチュエータへの制御信号、各気筒の燃料噴射弁への噴射信号、気筒の一部を休止させるためのソレノイドへの給電、各気筒の点火制御をするイグナイター回路からの高電圧等が出力される。
【0027】
さらに、エンジン・AT制御ECU70には、例えば、運転者席と助手席との間に設けられた変速機9をパーキングレンジ、リバースレンジ、ニュートラルレンジ、ドライブレンジ等に選択可能とする図示しないセレクト装置のセレクトポジション・センサからの信号、インストルメントパネルに設けられた図示しないエコモード選択ボタンが押下された状態のときのエコモード信号等が入力される。
そして、エンジン・AT制御ECU70から変速機9からは、図示しない油圧回路に、変速段を切り換えるための信号を出力したり、前記したトルクコンバータのロックアップ・クラッチを動作させたり、解除させたりする信号を出力する。
【0028】
ちなみに、最近の車両では、標準モードとエコモードとを区別して自動変速させる技術が知られている。ここでエコモードとは、標準モードよりエンジン回転速度が小さい段階で変速機9の変速段をシフトアップしたりするモードであり、運転者によりインスツルメントパネルに設けられたエコモード選択ボタンが押下されて、エコモードが選択されると、エンジン回転速度の変化幅が標準モードの場合よりも小さい変化幅で変速段の自動切り替えがなされる。
【0029】
エンジン2は、内燃機関である多気筒4ストローク内燃機関であり、往復運動するピストン(図示せず)により回転駆動されるクランク軸(図示せず)が車体の左右方向を指向する横置き配置で、振動受け部としての車体Bのフレームに支持される。エンジン2には、クランク軸の回転が伝達され入力される変速機9が結合され、変速機9で変速された動力が駆動輪としての前輪(図示せず)に伝達される。エンジン2及び変速機9はパワープラントを構成する。
【0030】
図1に示すように車体Bは、メインフレーム3として左右一対のサイドフレーム3a,3bと、両サイドフレーム3a,3bに下方から結合されるサブフレーム4とを有する車体フレームを備える。ほぼ四角形状の枠構造を有するサブフレーム4は、前後方向に離隔して配置されるとともに両サイドフレーム3a,3bに結合された第1、第2フレーム4a,4bを備える。
【0031】
エンジン2は、該エンジン2の前部及び後部に設けられた一対の連結部2a,2bにおいて、一対のエンジンマウント5A,5Bを介して第1、第2フレーム4a,4bにそれぞれ取り付けられ、エンジン2の左部にエンジン2と一体に固定された部材である変速機9に設けられた連結部2cにおいて、エンジンマウント6を介して第1フレーム4aに取り付けられ、エンジン2の右部に設けられた連結部2dにおいて、エンジンマウント7を介して右のサイドフレーム3bに取り付けられる。従って、車体Bは、エンジン2をエンジンマウント5A,5B,6,7を介して支持する。
これらエンジンマウント5A,5B,6,7は、エンジン2の構成部品である前記ピストンの運動に起因して、前記クランク軸の回転速度であるエンジン回転速度に対応して周期的に発生するトルク変動により発生するエンジン振動が、サブフレーム4及びメインフレーム3に伝達されるのを抑制する。
【0032】
エンジンマウント5A,5Bの近傍のサブフレーム4の第1、第2フレーム4a,4bの上面側には、リニアアクチュエータ30がそれぞれ配置固定されている。リニアアクチュエータ30,30は防振制御ECU50により加振振動を制御され、第1、第2フレーム4a,4bに伝わるエンジン2からの振動を打ち消す振動を発生して第1、第2フレーム4a,4bに伝える。ちなみに、リニアアクチュエータ30には、振動センサ29がそれぞれ設けられている。そして、リニアアクチュエータ30の後記するコイル40(図4参照)に給電するハーネスや振動センサ29の信号線が防振制御ECU50に接続されている。エンジン・AT制御ECU70と防振制御ECU50との間は、CAN(Controller Area Network)通信線71で通信可能に接続されている。
そして、リニアアクチュエータ30,30及び防振制御ECU50が能動防振制御装置1を構成している。
【0033】
《エンジンマウント5A,5B》
次に、図2を参照しながら適宜、図1を参照してエンジンマウント5A,5Bの構成について説明する。
エンジン2(図1参照)の前部及び後部でエンジン2を支持する一対のエンジンマウント5A,5Bは、エンジン振動のうちで、第1、第2フレーム4a,4b(図1参照)への主にロール振動の伝達を抑制する。各エンジンマウント5A,5Bは、フレーム4a,4bに一体に設けられた取付け座10にボルト11により固定され、該取付け座10を介してフレーム4a,4bに取り付けられるが、別の例としてフレーム4a,4bに直接固定されてもよい。
【0034】
図2に示すように両エンジンマウント5A,5Bは基本的な構造が同一であることから、以下の説明において、両エンジンマウント5A,5Bを区別しないときは、単にエンジンマウント5と記載する。エンジンマウント5は、通常の液封のエンジンマウントと同様の構成である。
ちなみに、エンジンマウント6,7も、通常の液封のエンジンマウントである。
なお、説明の便宜上、エンジンマウント5及びリニアアクチュエータ30に関しての上下方向は、図2に示されるエンジンマウント5での上下方向であるとする。
【0035】
図2に示すようにエンジンマウント5は、ボルト11により取付け座10を介してフレーム4a,4b(図1参照)に取り付けられる支持体側取付け部としての車体側取付け部20aを有する円筒状のハウジング20と、ハウジング20の上部にその外周部と加硫接合されたゴム製の円推状の弾性体21と、弾性体21の中央頂部に、そのアンカー部が加硫接合されて埋設されたエンジン側取付け部22と、ハウジング20にボルト12及びナット13により結合されて一体に設けられたホルダ23と、ホルダ23に結合された弾性材としてのゴムから形成されたストッパ24とを備える。
ホルダ23は、弾性体21を介することなく、ハウジング20及び取付け座10を介して、フレーム4a,4bと剛体的に取り付けられている。
【0036】
エンジンマウント5は、ハウジング20内で弾性体21と該弾性体21の下方に配置された弾性部材で構成されたダイヤフラム(図示せず)と、弾性体21とダイヤフラムとの間の軸方向中間部に配置された仕切り部材(図示せず)により、液体が封入され仕切り部材の上側に区画された主液室25と仕切り部材の下側に形成される副液室(図示せず)を有する液体封入式のエンジンマウントである。
ちなみに、仕切り部材には、主液室25と前記した副液室とを連通するオリフィス通路が設けられている。
【0037】
振動体側取付け部としてのエンジン側取付け部22は弾性体21から上方に突出する突出部22aを有する。連結部2a,2b(図1参照)が結合される結合部としての突出部22aには、連結部2a,2bが結合手段としてのボルト14により結合される。エンジンマウント5Aにおいては、突出部22a及び連結部2aと、ストッパ24とは、上下方向から見て重なる位置に配置され、したがって突出部22a及び連結部2aとストッパ24とが、上下方向で対向するように配置されている。同様に、エンジンマウント5Bにおいても、突出部22a及び連結部2b(図1参照)と、ストッパ24とは、上下方向から見て重なる位置に配置され、したがって突出部22a及び連結部2bとストッパ24とが、上下方向で対向するように配置されている。
【0038】
突出部22aとの間に上下方向での間隔をおいて配置されたストッパ24は、車両の加速時や減速時などの過渡運転時、及び、路面の凹凸や段差などに起因して路面からの変動荷重のうちで比較的大きな荷重が作用したときに、突出部22a及び連結部2a,2b(図1参照)の少なくとも一方と当接することにより、連結部2a,2bの過大な変位を規制し、従ってエンジン2が大きな振幅で振動することを防止する。
【0039】
《リニアアクチュエータ》
次に、図3から図5を参照しながら、適宜、図1、図6、図9を参照してリニアアクチュエータ30の構成について説明する。図3は、リニアアクチュエータの外形斜視図である。リニアアクチュエータ30の本体は、ベース板35の上面に固定された筒状のケーシング34内に収容されている。ベース板35上には振動センサ29が固定され、リニアアクチュエータ30へ電力を供給するハーネス38と振動センサ29の信号線39は、ベース板35の上下方向の貫通孔35dを経て、ベース板35の下面側に設けられたコネクタ(図示せず)に接続されている。
ちなみに、リニアアクチュエータ30へ電力を供給するハーネス38は、ケーシング34の下部の小穴34aから外部に引き出され、貫通孔35dに導かれる。リニアアクチュエータ30は、ベース板35のボルト孔35bにより第1、第2フレーム4a,4b(図1参照)にボルトナット締結される。
【0040】
図4は、図3のA−A矢視の断面図であり、図5は、リニアアクチュエータの要部平面図である。
リニアアクチュエータ30は、車体B(図1参照)のうち、主として、エンジンマウント5(図1参照)が取り付けられた第1、第2フレーム4a,4b(図1参照)を有するサブフレーム4(図1参照)の振動を低減する。つまり、エンジン2(図1参照)の発生するロール振動を打ち消すための制振用振動を発生し、該制振用振動を第1、第2フレーム4a,4bに加える。
【0041】
リニアアクチュエータ30は、ベース板35に固定される固定部材31と、固定部材31に対して相対的に移動可能な可動部材32と、可動部材32を固定部材31に対して移動可能に支持する支持部材(弾性支持部材)33とを備える。
固定部材31は、ベース板35に固定される本体としての柱状の軸部36を備える。制振用振動の振動方向に平行な軸線LAを有する軸部36は、そのネジ部に螺合する固定具としてのナット16によりベース板35に固定される。この実施形態では、前記振動方向及び軸線LAに平行な方向である軸線方向は上下方向に一致する。
なお、ナット16でベース板35に取り付ける部分のベース板35の下面側には窪み部35aが設けられている。
【0042】
リニアアクチュエータ30は、防振制御ECU50により可動部材32の軸方向の変位運動を制御するため、防振制御ECU50の駆動回路53A(図6参照),または駆動回路53Bから給電されるコイル40と、固定具であるスリーブ37a,37b,37cにより軸部36に一体に固定された環状の第1ヨーク41と、第1ヨーク41を囲んで配置された第2ヨーク42を備える。
【0043】
第2ヨーク42は、第1ヨーク41を囲む外周側の周囲部42cと、周囲部42cから軸部36に向かって突出するとともにコイル40が巻回された一対の磁極部42a,42bとを有する。磁極部42aには、該磁極部42aと軸部36との間に軸線方向に直列に第1、第2永久磁石43a,43bが取り付けられ、磁極部42bには、該磁極部42bと軸部36との間に軸線方向に直列に第3,第4永久磁石44a,44bが取り付けられている。第1,第4永久磁石43a,44bは、軸部36に空隙を介して対面する側がN極、磁極部42a,42bに取り付けられる側がS極となるように着磁され、第2,第3永久磁石43b,44aは、軸部36に空隙を介して対面する側がS極、磁極部42a,42bに取り付けられる側がN極となるように着磁されている。
【0044】
支持部材33は、軸部36並びに第2ヨーク42に固定されて、軸線LA方向で第1ヨーク41,第2ヨーク42を挟んで配置された可撓性部材で構成された上下方向に一対の板バネ33a,33bを備える。各板バネ33a,33bは、内周側では、スリーブ37a、第1ヨーク41、スリーブ37b,37c等により軸部36に固定されるとともに、外周側では、ボルト17及びナット18により第2ヨーク42に固定される。
【0045】
ここで、軸部36、スリーブ37a,37b,37c、及び第1ヨーク41は、前記した固定部材31を構成し、固定部材31は特許請求の範囲に記載の「可動子」に対応する。そして、第2ヨーク42、一対の磁極部42a,42b、永久磁石43a,43b,44a,44b、並びに、一対の磁極部42a,42bの周囲に配置された前記したコイル40,40が可動部材32を構成し、可動部材32は特許請求の範囲に記載の「固定子」に対応する。
【0046】
そして、防振制御ECU50により向きや大きさが制御された電流がコイル40に供給されることで発生する磁束変化により、ベース板35に固定された軸部36に対して第2ヨーク42がコイル40とともに軸部36に対して軸線方向に変位することで制振用振動が発生し、該制振用振動がリニアアクチュエータ30において軸部36及びベース板35を通じて、さらに第1、第2フレーム4a,4b(図1参照)に伝達される。
そして、リニアアクチュエータ30の構成部材である第2ヨーク42、コイル40及び永久磁石43a,43b,44a,44bの質量を利用して制振用振動が発生するので、リニアアクチュエータ30を小型化できる。
【0047】
ケーシング34内のベース板35の上面には、ゴム製のストッパ67A,67Aが配置され、可動部材32が上下動の下側限界まで変位したとき、例えば、ボルト17の頭部と当接するように、また、ケーシング34の天井面には、ゴム製のストッパ67B,67Bが配置され、可動部材32が上下動の上側限界まで変位したとき、例えば、ボルト17の端部と当接するようにして、衝撃音を生じないようにしてある。
なお、可動部材32が上下動の上下側限界でゴム製のストッパ67A,67Bと当接する部分はボルト17の頭部、端部を避けて、板バネ33a,33bのボルト17より外周側で環状のストッパ67A,67Bと当接するようにしても良い。そして、後記する可動部材32の自重による板バネ33a,33bの下方への垂れがない状態で、かつ、第1ヨーク41と第2ヨーク42との軸線LA方向の相対位置が図9の(a)に示すように中立位置のとき板バネ33aとストッパ67Bとの間隙、板バネ33bとストッパ67Aとの間隙が同じ距離L1になるように設定することが好ましい。
【0048】
リニアアクチュエータ30のベース板35に取り付けられる振動センサ29は、例えば、静電容量検出方式またはピエゾ抵抗素子方式などの加速度センサにより構成される。振動センサ29は、車両の運転状態としての走行状態に応じた加速時や減速時などの過渡運転時に発生する慣性力や路面からの外力である変動荷重が作用するときに第1、第2フレーム4a,4b及びエンジンマウント5に対してエンジン2が変位する場合に、振動センサ29に作用する動的荷重の大きさ(これは、振動加速度レベルと等価である)を検出する。
【0049】
振動センサ29は、リニアアクチュエータ30のコイル40による加熱など、振動センサ29が配置される雰囲気温度による温度変化を抑制するために、ケーシング34の外側に配置されている。
【0050】
《防振制御ECU》
次に、図6を参照しながら、適宜、図1を参照して、防振制御ECU50の構成について説明する。図6は、防振制御ECUの機能構成ブロック図である。防振制御ECU50は、マイクロコンピュータ51、駆動回路53A,53B、CAN通信部73を含んで構成されている。マイクロコンピュータ51は、CPU、ROM、RAM、バス、クロック回路、入出力インタフェース等を含み、ここでは、マイクロコンピュータ51は、高速で信号を処理するDSP(デジタルシグナルプロセッサDigital Signal Processor)も含んで広義に呼称するものとし、後記する機能構成部分の最小二乗演算部83cと適応フィルタ部83dの演算処理はDSPにおいて行われる。
そして、ROMに格納されたプログラムを読み出してCPUにおいてそれを実行することで、エンジン回転速度演算部81、パワープラント運転状態モード判定部(パワープラント運転状態判別手段)82、振動騒音制御部83A,83Bの機能が実行される。
ここで、エンジン2として、例えば、V型6気筒エンジンを想定し、クランク軸の回転角を検出するクランクパルスセンサ(図示せず)が、例えば、6deg.ごとにクランクパルス信号を出力してエンジン・AT制御ECU70に入力し、TDC(Top Dead Center)センサが各気筒のTDC位置を示すTDCパルス信号をエンジン・AT制御ECU70に入力するものとする。
【0051】
振動騒音制御部83A,83Bは同一機能構成ブロックから構成され、周波数同定部83a、基準信号生成部83b、最小二乗演算部83c、適応フィルタ部83d、駆動制御部83eを含んで構成されている。
そして、振動騒音制御部83A,83Bは、それぞれ1つのリニアアクチュエータ30を加振制御する。
【0052】
(CAN通信部73)
防振制御ECU50のCAN通信部73は、CAN通信制御機能を有しエンジン・AT制御ECU70からCAN通信線71で入力されるエンジン2の、例えば、各気筒がTDCに達したときタイミングを示すTDCパルス信号、クランク角の所定の角度、例えば、6deg.ごとに出力されるクランクパルス信号(以下、「CRKパルス信号」と称する)、エンジン2が全筒運転状態か部分気筒休止状態かを示すための気筒休止信号、FI(Fuel Injection)のタイミングを示すFI信号、アイドルストップ信号、変速機9(図1参照)内の図示しないトルクコンバータをロックアップした状態であることを示すロックアップ信号、前記したエコモード信号等を受信する。
CAN通信部73は、例えば、TDCパルス信号、CRKパルス信号をエンジン回転速度演算部81、振動騒音制御部83Aの周波数同定部83a及び基準信号生成部83b、振動騒音制御部83Bの周波数同定部83a及び基準信号生成部83bに入力する。また、CAN通信部73は、FI信号、気筒休止信号、アイドルストップ信号、ロックアップ信号、エコモード信号をパワープラント運転状態モード判定部82へ入力する。
【0053】
(エンジン回転速度演算部81)
エンジン回転速度演算部81は、主にCRKパルス信号にもとづいてエンジン2の回転速度NE(以下「エンジン回転速度NE」と称する)を演算し、演算された回転速度NEをパワープラント運転状態モード判定部82、振動騒音制御部83Aの駆動制御部83e及び振動騒音制御部83Bの駆動制御部83eに入力する。
【0054】
(パワープラント運転状態モード判定部82)
パワープラント運転状態モード判定部82は、エンジン回転速度演算部81から入力されるエンジン回転速度NEの他CAN通信部73からン入力さえるFI信号、気筒休止信号、アイドルストップ信号、ロックアップ信号、エコモード信号にもとづいてエンジン2の運転状態が、例えば、エンジン始動時のモータリング状態、アイドリング運転状態、全筒運転状態、部分気筒運転の状態である気筒休止運転状態、アイドルストップの状態の判定を行い、また、変速機9のトルクコンバータがロックアップ状態か否かの判別、変速機9の変速制御の状態が標準モードであるかエコモードであるかの判定を行い、その結果を振動騒音制御部83Aの駆動制御部83e及び振動騒音制御部83Bの駆動制御部83eに入力する。
【0055】
《振動騒音制御部》
次に、振動騒音制御部83A,83Bの詳細な構成について説明する。そして、振動騒音制御部83A,83Bの機能構成は同一であることから、一方の振動騒音制御部83Aを例に説明する。
(周波数同定部83a)
周波数同定部83aは、TDCパルス信号、CRKパルス信号にもとづいて、例えば、120deg.のクランク角の範囲にわたるCRKパルス間隔から、1次振動、1.5次振動、2次振動、3次振動のモードどの振動モードの振幅が最大かを判定し、最大振幅の振動モードにおけるエンジン振動の周波数を同定し、その結果を基準信号生成部83bに出力するとともに、駆動制御部83eにも出力する。
【0056】
(基準信号生成部83b)
基準信号生成部83bは、周波数同定部83aが同定した前記した振動モードの振幅が最大の振動モードの振動に対し、TDCパルス信号のタイミングを基準にサンプリングのタイミング信号としての基準信号を生成する。つまり、同定した前記した振動モードに対する基準信号を分周する。生成された基準信号は、DSPで処理される機能部である最小二乗演算部83c及び適応フィルタ部83dに入力される。
なお、エンジンマウント5A,5Bが能動型防振マウントである場合は、最小二乗演算部83cに対しては位相調整フィルタを介して生成された基準信号が入力される。本実施形態では、エンジンマウント5A,5Bは、能動型防振マウントではなく液封型の防振マウントで構成されているので前記した位相調整フィルタは介していないで最小二乗演算部83cに基準信号が入力されている。
【0057】
(最小二乗演算部83c)
振動センサ29から振動騒音制御部83Aへ入力される信号は、例えば、第1フレーム4a(図1参照)にエンジン2からエンジンマウント5Aを介して伝播される振動と、第1フレーム4aに固定されたリニアアクチュエータ30の加振作用による振動の打ち消し効果の差分の振動成分であり、それが振動騒音制御部83Aの最小二乗演算部83cに入力される。
ちなみに、もう一つの振動センサ29から振動騒音制御部83Bへ入力される信号は、例えば、第2フレーム4b(図1参照)にエンジン2からエンジンマウント5Bを介して伝播される振動と、第2フレーム4bに固定されたリニアアクチュエータ30の加振作用による振動の打ち消し効果の差分の振動成分であり、それが振動騒音制御部83Bの最小二乗演算部83cに入力される。
【0058】
最小二乗演算部83cでは、最小二乗演算部83cに基準信号生成部83bから入力されるサンプリングのタイミング信号における振動センサ29からの入力信号をサンプリングして、所定の期間、つまり、クランク角で120deg.に対応する期間の最小二乗演算結果が最小となるように、最適相殺信号を生成し、適応フィルタ部83dに出力する。
【0059】
(適応フィルタ部83d)
適応フィルタ部83dは、基準信号生成部83bから入力されるサンプリングのタイミング信号に応じて、次の周期の120deg.に対して、最小二乗演算部83cから入力された最適相殺信号を駆動制御部83eに出力する。
【0060】
(駆動制御部83e)
駆動制御部83eは、エンジン回転速度演算部81からのエンジン回転速度NE、パワープラント運転状態モード判定部82からの少なくとも気筒休止信号、周波数同定部83aからの同定された前記した振動モードの周波数の情報が入力される。
そして、それらの情報にもとづいて適応フィルタ部83dからの交流電流を出力するための最適相殺信号に対して、予め設定された直流電流成分をバイアス加算して重畳したり、既にバイアス加算して重畳されていた直流電流成分を解除したりして、駆動回路53Aに出力する。
ちなみに、振動騒音制御部83Bの駆動制御部83eでは、適応フィルタ部83dからの交流電流を出力するための最適相殺信号に対して、予め設定された直流電流成分をバイアス加算して重畳したり、既にバイアス加算して重畳されていた直流電流成分を解除したりして、駆動回路53Bに出力する。
【0061】
この駆動制御部83eにおける予め設定された直流電流成分をバイアス加算して重畳したり、既にバイアス加算して重畳されていた直流電流成分を解除したりする詳細な制御の方法については、後記する図7のフローチャートにもとづいて説明する。
【0062】
次に、図7から図9を参照しながら防振制御ECU50にけるリニアアクチュエータ30への所定の直流電流を印加する制御の方法について説明する。図7は、防振制御ECUにおけるリニアアクチュエータへ所定の直流電流を印加する制御の流れを示すフローチャートである。
【0063】
図7に示すフローチャートにおける制御の処理は、駆動制御部83eにおいてなされる。
ステップS01では、適応フィルタ部83dから入力された最適相殺信号にもとづいて交流電流波形を生成する(「AC電流波形を生成」)。
ステップS02では、パワープラント運転状態モード判定部82から入力されているエンジン運転状態に対する信号が気筒休止運転状態か否かをチェックする。気筒休止運転状態の場合(Yes)は、ステップS04へ進み、そうでない場合(No)、つまり、全筒運転状態の場合は、ステップS03へ進む。
【0064】
ステップS03では、周波数同定部83aから入力された最大振幅の振動モードにおけるエンジン振動の周波数、つまり、リニアアクチュエータ30における加振周波数Fが周波数FA(所定の値)以下か否かをチェックする。加振周波数Fが周波数FA以下の場合(Yes)は、ステップS05へ進み、加振周波数Fが周波数FAを超える場合(No)は、ステップS08へ進む。
ステップS04では、周波数同定部83aから入力された最大振幅の振動モードにおけるエンジン振動の周波数、つまり、リニアアクチュエータ30における加振周波数Fが周波数FB(所定の値)以下か否かをチェックする。加振周波数Fが周波数FB以下の場合(Yes)は、ステップS05へ進み、加振周波数Fが周波数FBを超える場合(No)は、ステップS08へ進む。
【0065】
ステップS03またはステップS04からYesでステップS05へ進むと、所定の直流電流がバイアスとして設定されていない場合は、所定の直流電流をバイアスとして設定する。すでに所定の直流電流がバイアスとして設定されている場合は、そのままとする。ちなみに、図7ではこのステップS05を「所定のDC電流をバイアスとして設定」と表示。
【0066】
ステップS06では、エンジン回転速度演算部81から入力されるエンジン回転速度NEにもとづいて、エンジン回転速度が増加しているか否かをチェックする(ΔNE>0?)。ここでΔNEは所定の周期で前回のエンジン回転速度NEと今回のエンジン回転速度NEをサンプリングしてその差分{ΔNE=(今回のエンジン回転速度NE)−(前回のエンジン回転速度NE)}である。
エンジン回転速度が増加している場合(Yes)は、ステップS07へ進み、そうでない場合(No)は、ステップS08へ進む。
【0067】
ステップS07では、ステップS05において設定された所定の直流電流をバイアスとして、ステップS01で設定された交流電流波形に加算重畳(印加重畳)して駆動回路53Aまたは駆動回路53Bに出力する(「DC+AC電流による加振制御を出力」)。そしてステップS10へ進む。
【0068】
ステップS03でNo、ステップS04でNoまたはステップS06でNoとなり、ステップS08に進むと、既に前回の繰り返し周期のステップS05において所定の直流電流がバイアスとして設定されている場合は、そのバイアス設定を解除し、所定の直流電流がバイアスとして設定されていない場合はそのままとする(「DC電流のバイアス解除」)。
ステップS09では、ステップS01で設定された交流電流波形を駆動回路53Aまたは駆動回路53Bに出力する(「AC電流のみによる加振制御を出力」)。そしてステップS10へ進む。
【0069】
ステップS10では、エンジン回転速度演算部81からのエンジン回転速度NEにもとづいてエンジン2が停止したか否かをチェックする。エンジン2が停止した場合(Yes)は、駆動回路53Aまたは駆動回路53Bに対する電流出力制御を停止して、一連の制御を終了する。エンジン2が停止していない場合(No)は、ステップS01に戻り、制御を繰り返す。
【0070】
図8の(a)は、リニアアクチュエータの加振周波数Fと加振ゲイン要求最大値の関係の説明図、(b)は、リニアアクチュエータの加振周波数Fと所定の直流電流をバイアスとして印加する周波数領域の関係の説明図である。図9の(a)は、リニアアクチュエータにおける可動部材が軸方向の相対変位の中立位置にある状態の説明図、(b)は、リニアアクチュエータにおける可動部材が、自重により軸方向の相対変位の中立位置よりも下方にある状態の説明図である。
【0071】
図8の(a)において横軸はリニアアクチュエータ30の加振周波数F(Hz)を示し、縦軸は、加振振動の振幅の要求最大値に対応する「加振ゲイン要求最大値」(単位:N)を示す。曲線X1は全筒運転状態におけるリニアアクチュエータ30に要求される加振ゲイン要求最大値であり、周波数FAを超えると加振ゲイン要求最大値は加振周波数Fが増加するにつれて逓減していく。これに対し、曲線X2は気筒休止運転状態におけるリニアアクチュエータ30に要求される加振ゲイン要求最大値であり、周波数FAより高い周波数FBを超えると加振ゲイン要求最大値は加振周波数Fが増加するにつれて逓減していくことを示している。
【0072】
図8の(b)において横軸はリニアアクチュエータ30の加振周波数F(Hz)を示し、縦軸は、前記した図7のフローチャートにおいて説明した所定の直流電流(図8の(b)中、「1G補正電流(A)」と表示)を示す。ここで「1G」とは、重量が可動部材32(図4参照)に加わっている状態を示し、「1G補正電流(A)」とは、可動部材32に重量が加わっている状態(図9の(b)の状態)で、交流電流のみをコイル40(図4参照)に加えると実際の可動部材32の上下動の振動の振幅の中央位置が、固定部材31(図4参照)と可動部材32との軸線LA方向の中立位置よりも下方で振動することとなり、リニアアクチュエータ30の振幅が十分に取れず、加振力が低下するのを補正するため、振動の中心を中立位置まで引き上げるために必要な直流電流、つまり、前記した予め設定された直流電流値である。
ちなみに、図9の(b)に示すように可動部材32の初期位置は自重で下方に垂れ下がり、板バネ33aとストッパ67Bとの間隙L3が、板バネ33bとストッパ67Aとの間隙L2より大きくなっている状態で交流電流を印加してリニアアクチュエータ30を駆動すると、下方へ第2ヨーク42が下がっても板バネ33bはストッパ67Aに小さな振幅で衝突し、第2ヨーク42の下方への移動への抵抗となって働き、振幅を最大限に利用できない。
【0073】
全筒運転状態においては加振周波数Fが周波数FA以下の周波数領域、気筒休止運転状態においては加振周波数Fが周波数FB以下の周波数領域に対して、1G補正電流を交流電流に対してバイアスとして加えることにより、図9の(a)に示すように実際の可動部材32の上下動の振動の振幅の中央位置が、固定部材31(図4参照)と可動部材32との軸線LA方向の中立位置を中央にして振動することになり、振幅を最大限に活用でき、リニアアクチュエータ30の加振力を最大にすることができる。
【0074】
図8の(b)において実線で示す直線Y1は全筒運転状態におけるリニアアクチュエータ30のコイル40(図4参照)に印加する所定の直流電流の周波数領域を示し、周波数FAを超えると、リニアアクチュエータ30に加振振動を生じさせないような時定数で所定の直流電流を0とすることを示している。これに対し、一点鎖線で示す直線Y2は気筒休止運転状態におけるリニアアクチュエータ30のコイル40に印加する所定の直流電流の周波数領域を示し、周波数FBを超えると、リニアアクチュエータ30に加振振動を生じさせないような時定数で所定の直流電流を0とすることを示している。
【0075】
本実施形態によれば、図7のフローチャートにもとづいて駆動制御部83eが駆動回路53A,53Bからリニアアクチュエータ30に出力させる電流を制御することにより、図8の(a)に示すようにリニアアクチュエータ30に要求される加振ゲイン要求最大値が大きい加振周波数の領域では、可動部材32(図4参照)が固定部材31(図4参照)の軸方向の中立位置を中心に上下動の振動をするように自重による振動の振幅の中央位置が低下するのを補正することができ、加振力を十分大きく効果的に確保できる。そして、加振ゲイン要求最大値が逓減していく加振周波数の領域では、所定の直流電流のバイアスを印加せずとも徐々に振動の中心位置が低下することはあっても、要求される加振振動の振幅が小さいので、リニアアクチュエータ30は十分な加振力を出力できる。
また、加振ゲイン要求最大値が逓減していく加振周波数の領域では、所定の直流電流を印加しないことにより消費電力を低減することができる。
【0076】
《変形例1》
本実施形態のリニアアクチュエータ30では、図4に示すように軸部36の上部は自由端としてあるが、ケーシング34の剛性を高めたものとし、軸部36のボルトをケーシング34の頂部から挿通し、隙間部材を介して板バネ33aとケーシング34の頂部下面との距離を確保して、ナット16でケーシング34とベース板35との間に固定しても良い。
また、リニアアクチュエータ30の構成は図4、図5に記載されたものに限定されるものではない。特開2006−345652号公報に記載のようなリニアアクチュエータでも良い。
【0077】
《変形例2》
本実施形態では、図4、図5に示したように可動部材32を板バネ33a,33bで軸方向に保持することとしたがそれに限定されるものではない、ベース板35と第2ヨーク42の下面との間、ケーシング34の天井面と第2ヨーク42の上面との間に複数のコイルスプリングを周方向に配置して固定部材31に対して可動部材32が相対的に上下方向に変位可能にしても良い。
【0078】
《変形例3》
また、前記した実施形態におけるリニアアクチュエータ30の固定部材31をベース板35に固定するものとしたが、それに限定されるものではなく、可動部材32をボルト17及びナット18でベース板35に固定し、固定部材31は、ベース板35に固定されることなく板バネ33a,33bに支持されて可動部材32に対して相対的に上下方向に変位可能な構成としても良い。
この意味で、固定部材31、可動部材32と称するのは相対的に軸方向に互いに変位可能という意味であり、特許請求の範囲の記載において、固定部材31を「可動子」と称し、可動部材32を「固定子」と言うのは、リニアアクチュエータの一般的な構成からは通常の呼び方である。
【0079】
《変形例4》
前記した本実施形態の図7、図8では、パワープラント運転状態モード判定部82が、エンジン2の全筒運転状態、気筒休止運転状態を判定して、所定の直流電流成分を、ステップS01で生成された交流電流波形に加算重畳する周波数の設定を行っている例で説明したがそれに限定されるものではない。
【0080】
以下に、本実施形態の変形例4における防振制御ECU50でのリニアアクチュエータへ所定の直流電流を印加する制御について説明する。
パワープラント運転状態モード判定部82は、CAN通信でエコモード信号を受信しているか否かで、エンジン・AT制御ECU70が変速機9をエコモードで変速段の切り替え制御をしている状態か、または変速機9を標準モードで変速段の切り替え制御をしている状態かを判定したり、CAN通信でロックアップ信号を受信しているか否かで、変速機9のトルクコンバータがロックアップ状態か、またはロックアップしていない状態かを判定したりし、それぞれの状態で、さらにエンジン2が全筒運転状態か、気筒休止運転状態に応じて設定される所定の加振周波数以下か否かで所定の直流電流を交流電流波形に印加重畳する。
ここで、エンジン・AT制御ECU70が変速機9をエコモードで変速段の切り替え制御をしている状態か、または標準モードで変速段の切り替え制御をしている状態かの判別、変速機9のトルクコンバータがロックアップ状態か、またはロックアップしていない状態の判別、エンジン運転状態が全筒運転状態かまたは気筒休止運転状態かの判別は、特許請求の範囲に記載の「パワープラントの運転状態の判別」に対応する。
【0081】
これは、エコモードでの運転状態では、標準モードでの運転状態に比して、例えば、加減速時の変速段の切り替え制御の際のエンジン回転速度の増減幅が小さくなり、変速段の切り替え制御の際にエンジン振動が車体Bへ伝達された際の振動の振幅は、標準モードでの運転状態の場合の変速段の切り替え制御の際のそれよりも大きくなる傾向があることを考慮して所定の直流電流をAC電流波形に印加重畳する加振周波数範囲を設定するものである。
また、トルクコンバータがロックアップされた状態では、トルクコンバータのロックアップされていない状態に比較して、車体Bにエンジン振動が伝達される際に、トルクコンバータによるエンジン2のトルク変動振動吸収効果がなくなり、かつ、エンジン2の回転が変速機に直接接続されてトルク変動が変速機9に伝わることで、振動体の質量もエンジン2と変速機9の一体とみなされることになり、車体Bへ伝わるパワープラント全体の振動の振幅は増加する傾向になることを考慮して所定の直流電流をAC電流波形に印加重畳する加振周波数範囲を設定するものである。
【0082】
図10、図11及び図7を参照しながら、本変形例について詳細に説明する。図10、図11は、実施形態の変形例4における防振制御ECUでのリニアアクチュエータへ所定の直流電流を印加する制御の流れを示す図7のフローチャートからの変更部分のフローチャートである。
図10、図11に示すフローチャートにおける制御の処理は、駆動制御部83eにおいてなされる。
ステップS01では、適応フィルタ部83dから入力された最適相殺信号にもとづいて交流電流波形を生成する(「AC電流波形を生成」)。ステップS01の次はステップS21へ進み、パワープラント運転状態モード判定部82から入力されているエンジン運転状態に対する信号にエコモードが選択されている信号があるか否かをチェックする(「エコモードが選択されているか?」)。エコモードが選択されている場合(Yes)は、結合子(A)に従って、図11のステップS29へ進み、そうでない場合(No)、つまり、標準モードが選択されている場合は、ステップS22へ進む。
【0083】
ステップS22では、パワープラント運転状態モード判定部82から入力されているエンジン運転状態に対する信号にトルクコンバータのロックアップ状態を示す信号があるか否かをチェックする。ロックアップ状態の場合(Yes)は、ステップS26へ進み、そうでない場合(No)は、ステップS23へ進む。
ステップS23では、パワープラント運転状態モード判定部82から入力されているエンジン運転状態に対する信号が気筒休止運転状態か否かをチェックする。気筒休止運転状態の場合(Yes)は、ステップS25へ進み、そうでない場合(No)、つまり、全筒運転状態の場合は、ステップS24へ進む。
【0084】
ステップS24では、周波数同定部83aから入力された最大振幅の振動モードにおけるエンジン振動の周波数、つまり、リニアアクチュエータ30における加振周波数Fが周波数FA1(所定の値)以下か否かをチェックする。加振周波数Fが周波数FA1以下の場合(Yes)は、図7のステップS05へ進み、加振周波数Fが周波数FA1を超える場合(No)は、図7のステップS08へ進む。
ステップS25では、周波数同定部83aから入力されたリニアアクチュエータ30における加振周波数Fが周波数FB1(所定の値)以下か否かをチェックする。加振周波数Fが周波数FB1以下の場合(Yes)は、図7のステップS05へ進み、加振周波数Fが周波数FB1を超える場合(No)は、図7のステップS08へ進む。
【0085】
ステップS22においてYesでステップS26に進むと、パワープラント運転状態モード判定部82から入力されているエンジン運転状態に対する信号が気筒休止運転状態か否かをチェックする。気筒休止運転状態の場合(Yes)は、ステップS28へ進み、そうでない場合(No)、つまり、全筒運転状態の場合は、ステップS27へ進む。
【0086】
ステップS27では、周波数同定部83aから入力されたリニアアクチュエータ30における加振周波数Fが周波数FA3(所定の値)以下か否かをチェックする。加振周波数Fが周波数FA3以下の場合(Yes)は、図7のステップS05へ進み、加振周波数Fが周波数FA3を超える場合(No)は、図7のステップS08へ進む。
ステップS28では、周波数同定部83aから入力されたリニアアクチュエータ30における加振周波数Fが周波数FB3(所定の値)以下か否かをチェックする。加振周波数Fが周波数FB3以下の場合(Yes)は、図7のステップS05へ進み、加振周波数Fが周波数FB3を超える場合(No)は、図7のステップS08へ進む。
【0087】
ステップS21においてNoで結合子(A)に従って図11のステップS29に進むと、パワープラント運転状態モード判定部82から入力されているエンジン運転状態に対する信号にトルクコンバータのロックアップ状態を示す信号があるか否かをチェックする。ロックアップ状態の場合(Yes)は、ステップS33へ進み、そうでない場合(No)は、ステップS30へ進む。
ステップS30では、パワープラント運転状態モード判定部82から入力されているエンジン運転状態に対する信号が気筒休止運転状態か否かをチェックする。気筒休止運転状態の場合(Yes)は、ステップS32へ進み、そうでない場合(No)、つまり、全筒運転状態の場合は、ステップS31へ進む。
【0088】
ステップS31では、周波数同定部83aから入力されたリニアアクチュエータ30における加振周波数Fが周波数FA2(所定の値)以下か否かをチェックする。加振周波数Fが周波数FA2以下の場合(Yes)は、結合子(B)に従って図7のステップS05へ進み、加振周波数Fが周波数FA2を超える場合(No)は、結合子(C)に従って図7のステップS08へ進む。
ステップS32では、周波数同定部83aから入力されたリニアアクチュエータ30における加振周波数Fが周波数FB2(所定の値)以下か否かをチェックする。加振周波数Fが周波数FB2以下の場合(Yes)は、結合子(B)に従って図7のステップS05へ進み、加振周波数Fが周波数FB2を超える場合(No)は、結合子(C)に従って図7のステップS08へ進む。
【0089】
ステップS29においてYesでステップS33に進むと、パワープラント運転状態モード判定部82から入力されているエンジン運転状態に対する信号が気筒休止運転状態か否かをチェックする。気筒休止運転状態の場合(Yes)は、ステップS35へ進み、そうでない場合(No)、つまり、全筒運転状態の場合は、ステップS34へ進む。
【0090】
ステップS34では、周波数同定部83aから入力されたリニアアクチュエータ30における加振周波数Fが周波数FA4(所定の値)以下か否かをチェックする。加振周波数Fが周波数FA4以下の場合(Yes)は、結合子(B)に従って図7のステップS05へ進み、加振周波数Fが周波数FA4を超える場合(No)は、結合子(C)に従って図7のステップS08へ進む。
ステップS35では、周波数同定部83aから入力されたリニアアクチュエータ30における加振周波数Fが周波数FB4(所定の値)以下か否かをチェックする。加振周波数Fが周波数FB4以下の場合(Yes)は、結合子(B)に従って図7のステップS05へ進み、加振周波数Fが周波数FB1を超える場合(No)は、結合子(C)に従って図7のステップS08へ進む。
【0091】
ちなみに、所定の周波数FA1,FA2,FA3,FA4の値の大小関係は、例えば、FA1<FA2<FA3<FA4であり、所定の周波数FB1,FB2,FB3,FB4の値の大小関係は、例えば、FB1<FB2<FB3<FB4であり、さらに、FA1<FB1,FA2<FB2,FA3<FB3,FA4<FB4の関係である。
このようにして、パワープラントの運転状態に応じた所定の周波数以下の加振周波数の領域でリニアアクチュエータ30に所定の直流電流をバイアスとして印加重畳し、パワープラントの運転状態に応じた所定の周波数を越えた加振周波数の領域で、所定の直流電流をバイアスとして印加重畳せず、無駄な消費電力が抑制できる。
【0092】
なお、車種によっては変速機9の自動変速を標準モード、エコモードの他に加速の場合により加速感を感じるように、減速の場合により減速感を感じるように、エンジン回転速度の変化幅を大きくして、変速機9の変速段をシフトアップ、シフトダウンさせるスポーツモードを備えたものもある。
【0093】
その場合には、エコモードと逆に、例えば、シフトアップの場合、標準モードの場合よりエンジン回転速度が高まるので、スポーツモードとロックアップ状態とが組み合わされた全筒運転状態では、例えば、所定の周波数FA5(FA4<FA5)に設定する。
なお、ここでは、スポーツモードでは、気筒休止運転は選択されないとする。
【0094】
《変形例5》
この他、パワープラント運転状態モード判定部82が、CAN通信でアイドルストップ信号を受信して、アイドリングストップ状態であることを検出した場合は、エンジン2が停止していても、少なくとも所定の時間、例えば、信号機が「青」に切り替わるのを待つ程度の時間は、駆動制御部83eにおいて所定の直流電流をバイアスとして印加し続けさせて、エンジン再始動時の車体Bへの振動伝達抑制のために、リニアアクチュエータ30に振幅を最大限に活用できるように待機状態にさせても良い。
【符号の説明】
【0095】
1 能動振動制御装置
2 エンジン(振動体、パワープラント)
3 メインフレーム
4 サブフレーム
4a 第1フレーム
4a 第2フレーム
5,5A,5B エンジンマウント(防振装置)
9 変速機(パワープラント)
20 ハウジング
21 弾性体
22 取付け部
22a 突出部
25 主液室
29 振動センサ
30 リニアアクチュエータ
31 固定部材(可動子)
32 可動部材(固定子)
33 支持部材(弾性支持部材)
33a,33b 板バネ(弾性支持部材)
34 ケーシング
35 ベース板
36 軸部
40 コイル
50 防振制御ECU(制御手段)
51 マイクロコンピュータ
53A,53B 駆動回路
70 エンジン・AT制御ECU(変速機の変速段を制御する制御装置)
81 エンジン回転速度演算部
82 パワープラント運転状態モード判定部(パワープラント運転状態判別手段)
83A,83B 振動騒音制御部
83a 周波数同定部
83b 基準信号生成部
83c 最小二乗演算部
83d 適応フィルタ部
83e 駆動制御部
B 車体
A 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動子と、前記可動子の周囲に、前記可動子を囲むように配置された複数のコイルを有する固定子と、弾性変形することにより前記可動子をその軸方向に前記固定子に対して相対的に往復動可能に支持する弾性支持部と、を有するリニアアクチュエータと、
前記複数のコイルに通電制御する制御手段と、を備える能動振動制御装置において、
前記制御手段は、
前記可動子と前記固定子との間の前記軸方向の相対的変位による振動を発生させるために交流電流を印加するとともに、
前記リニアアクチュエータによる所定の加振条件の場合に、予め設定された所定の直流電流をバイアス電流として印加重畳して、前記可動子と前記固定子との間の前記軸方向の相対的変位による振動の振幅の中央位置を補正することを特徴とする能動振動制御装置。
【請求項2】
前記リニアアクチュエータによる所定の加振条件は、車両に積載された振動体としてのエンジンにより生じる振動を打ち消すために前記リニアアクチュエータを加振させる周波数が、所定の値以下であることを特徴とする請求項1に記載の能動振動制御装置。
【請求項3】
さらに、前記振動体から伝達された振動に、前記リニアアクチュエータによる加振の結果が加えられた前記車両の車体の振動を検出する振動センサを備え、
前記制御手段は、前記振動センサからの信号に応じて前記リニアアクチュエータを制御することを特徴とする請求項2に記載の能動振動制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、
車両に搭載されたエンジン及び変速機を含むパワープラントの運転状態を判別するパワープラント運転状態判別手段を有し、
前記パワープラント運転状態判別手段により判別された前記パワープラントの運転状態に応じて前記予め設定された所定の直流電流をバイアス電流として印加重畳する前記リニアアクチュエータを加振させる所定の周波数の値以下の領域を変更することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の能動振動制御装置。
【請求項5】
前記パワープラントの運転状態を判別するとは、少なくとも、
全筒運転状態と気筒休止運転状態との判別、
前記エンジンに接続された変速機に含まれるトルクコンバータのロックアップされた状態と前記トルクコンバータのロックアップされていない状態との判別、
並びに、前記変速機の変速段を制御する制御装置の制御入力設定が標準モードに設定された状態と、前記標準モードよりも前記エンジンの回転速度がより低回転速度のときに変速段をシフトアップさせるエコモードに設定された状態との判別、
のいずれかを含むことを特徴とする請求項4に記載の能動振動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−36975(P2012−36975A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177849(P2010−177849)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】