説明

膜厚測定方法及び膜厚測定装置

【課題】多くの基準となる板状部材の膜厚とパラメータとの関係を用いなくても広い範囲の膜厚測定が可能となる膜厚測定方法及び膜厚測定装置を提供することである。
【解決手段】板状部材に含まれる膜層の厚さを測定する膜厚測定方法及び装置であって、前記板状部材の面に対して透過可能な検査光を、その波長を所定範囲にわたって変化させつつ照射し、照射される各波長の検査光が前記板状部材を透過して出てくる透過光の強度を検出し、前記検査光の各波長とその透過光の強度との関係を表す特性曲線における極大点及び極小点に基づいて注目波長を決定し、前記決定された注目波長から前記膜層の厚さを算出するようにした膜厚測定方法及び装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエーハ等の板状部材に含まれる膜の厚さを非接触にて測定する膜厚測定方法及び膜厚測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウエーハ(板状部材)上にプローブ光を照射して得られる反射光または透過光の分光波形から求めた所定のパラメータ(最大極大値、最小極小値、それらの比等)の値に基づいて半導体ウエーハの表層の膜厚を検出する手法が提案されている(特許文献1)。この手法では、同じ膜厚ではその反射光または透過光の分光波形が略一定になるという現象を利用するものである。具体的には、膜厚が既知となる基準半導体ウエーハに対する反射光または透過光の分光波形から求められたパラメータの値を参照値として保存しておき、測定対象となる半導体ウエーハを研磨する過程で当該半導体ウエーハに対する反射光または透過光の分光波形から得られるパラメータの値が前記参照値と同じになったときに、その測定対象の半導体ウエーハの膜厚が前記基準半導体ウエーハの膜厚であると判定している。一方、前記パラメータの値が前記参照値と同じでなければ、その測定対象の半導体ウエーハの膜厚が前記基準半導体ウエーハの膜厚ではないと判定している。
【特許文献1】特開2000−77371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前述した従来の手法では、基準となる半導体ウエーハの膜厚と同じ膜厚しか測定できず、他の膜厚については、その基準となる半導体ウエーハの膜厚とは異なるものであるとしか判定できない。広い範囲の膜厚測定を可能なものとするためには、多くの基準半導体ウエーハの膜厚と分光波形から得られるパラメータとを組にして予め保存しておかなければならず、膨大な保存容量を確保しなければならない。
【0004】
本発明は、従来技術のこのような事情に鑑みてなされたもので、多くの基準となる板状部材の膜厚とパラメータとの関係を用いなくても広い範囲の膜厚測定が可能となる膜厚測定方法及び膜厚測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る膜厚検査方法は、板状部材に含まれる膜層の厚さを測定する膜厚測定方法であって、前記板状部材の面に対して透過可能な検査光を、その波長を所定範囲にわたって変化させつつ照射する検査光照射工程と、照射される各波長の検査光が前記板状部材を透過して出てくる透過光の強度を検出する透過光強度検出工程と、前記検査光の各波長とその透過光の強度との関係を表す特性曲線における極大点及び極小点に基づいて注目波長を決定する注目波長決定工程と、前記決定された注目波長から前記膜層の厚さを算出する演算工程とを有する構成となる。
【0006】
このような構成により、波長を所定範囲にわたって変化させつつ検査光を板状部材の面に照射した際に透過光の強度が検出されると、検査光の各波長とその透過光の強度との関係を表す特性曲線における極大点及び極小点に基づいて注目波長が決定される。そして、その注目波長から膜層の厚さが算出される。
【0007】
前記特性曲線の極大点及び極小点は、検査光の板状部材を直接透過する成分と、膜層の境界にて反射して透過する成分との干渉作用によって生じるものと推察される。このことからすると、特性曲線における極大点及び極小点それぞれに対応した波長は、膜層の厚さに依存するといい得る。従って、前記特性曲線における極大点及び極小点から前記膜層の厚さを最も的確に表す情報といい得る波長を注目波長として決定することができ、その決定された注目波長から膜厚が算出される。
【0008】
また、本発明に係る膜厚検査方法において、前記注目波長決定工程は、前記特性曲線における最も長波長側の極大点及び極小点の少なくともいずれかに対応する波長に基づいて前記注目波長を決定する構成とすることができる。
【0009】
このような構成により、波長を所定範囲にわたって変化させつつ検査光を板状部材の面に照射した際に透過光の強度が検出されると、検査光の各波長とその透過光の強度との関係を表す特性曲線における最も長波長側の極大点及び極小点の少なくともいずれかに対応する波長に基づいて注目波長が決定される。
【0010】
前述したように前記特性曲線における極大点及び極小点それぞれに対応した波長は、膜層の厚さに依存するといい得る。また、波長が長くなって膜厚以上になると干渉作用がなくなり、特性曲線においては膜厚以上の波長領域では極大点及び極小点がなくなる。従って、前記特性曲線における最も長波長側の極大点及び極小点それぞれに対応する波長は、膜層の厚さを最も的確に表す情報であるといい得る。この膜層の厚さを最も的確に表す情報であるといい得る前記特性曲線における最も長波長側の極大点及び極小点の少なくともいずれかに対応する波長に基づいて決定された注目波長からその膜厚を算出することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る膜厚測定方法において、前記注目波長決定工程は、前記特性曲線における最も長波長側の極大点に対応した波長を前記注目波長として決定することも、前記特性曲線における最も長波長側の極小点に対応した波長を前記注目波長として決定することもできる。更に、前記極大点に対応した波長と前記極小点に対応した波長の双方にから、例えば、それらの中間の波長(平均値等)を注目波長として決定することもできる。
【0012】
また、本発明に係る膜厚測定方法において、前記注目波長決定工程は、前記特性曲線の極大点を通る曲線として近似される第1近似曲線を生成する第1工程と、前記特性曲線の極小点を通る曲線として近似される第2近似曲線を生成する第2工程と、前記第1近似曲線と前記第2近似曲線との長波長側の交点を算出する第3工程と、前記第1近似曲線と前記第2近似曲線との長波長側の交点にその短波長側で最も近い前記特性曲線の極大点及び極小点の少なくともいずれかに対応する波長に基づいて前記注目波長を決定する第4工程とを有する構成とすることができる。
【0013】
このような構成により、検査光の各波長とその透過光の強度との関係を表す特性曲線の極大点を通る曲線として近似される第1近似曲線と前記特性曲線の極小点を通る曲線として近似される第2近似曲線との長波長側の交点は、長波長側で特性曲線の極大点と極小点とが一致する点である。即ち、その交点に対応した波長は、前記特性曲線において極大点及び極小点がなくなる波長領域内にあると推察される。そして、その交点にその短波長側で最も近い前記特性曲線の極大点及び極小点は、前記特性曲線における最も長波長側の極大点及び極小点となる。従って、前記特性曲線における最も長波長側の極大点及び極小点の少なくともいずれかに対応する波長に基づいて決定された注目波長から膜層の厚さが算出されるようになる。
【0014】
また、本発明に係る膜厚測定方法において、前記注目波長決定工程は、前記特性曲線の極大点を通る曲線として近似される第1近似曲線を生成する第1工程と、前記特性曲線の極小点を通る曲線として近似される第2近似曲線を生成する第2工程と、前記第1近似曲線と前記第2近似曲線との長波長側の交点を算出する第3工程とを有し、前記交点に対応する波長を前記注目波長として決定するように構成することができる。
【0015】
このような構成により、検査光の各波長とその透過光の強度との関係を表す特性曲線の極大点を通る曲線として近似される第1近似曲線と前記特性曲線の極小点を通る曲線として近似される第2近似曲線との長波長側の交点に対応する波長が注目波長として決定される。そして、その決定された注目波長から膜層の厚さが算出される。
【0016】
前述したように査光の各波長とその透過光の強度との関係を表す特性曲線の極大点を通る曲線として近似される第1近似曲線と前記特性曲線の極小点を通る曲線として近似される第2近似曲線との長波長側の交点に対応する波長は前記特性曲線において極大点と極小点が一致する波長領域内にあると推察される。即ち、その波長の光では膜層に起因した干渉作用が生じないものと推察される。従って、前記交点に対応した波長は、測定対象となる膜層の厚さで干渉作用が生じるか否かの境界条件なり得るものであり、その膜層の厚さを表す情報となり得る。このような前記交点に対応した波長から膜層の厚さが演算することができる。
【0017】
また、本発明に係る膜厚測定方法において、前記第3工程での交点の演算が可能であるか否かを前記膜層の欠陥の有無として判定する判定工程を有する構成とすることができる。
【0018】
膜層が正常であれば、前記特性曲線において長波長側に極大点及び極小点がなくなる、即ち、前記特性曲線の極大点を通る曲線として近似された第1近似曲線と前記特性曲線の極小点を通る曲線として近似された第2近似曲線との交点が存在する。逆に、前記第1近似曲線と前記第2近似曲線との交点が存在しない場合、膜層自体に欠陥(剥離、ボイド等)があるものと判断し得る。従って、前述した構成によれば、膜層の厚さを測定する過程で、その測定部位での膜層の欠陥の有無を判定することができるようになる。
【0019】
更に、本発明に係る膜厚測定方法において、前記特性曲線は、前記検査光の各波長に対応した透過光の強度と予め定めた基準板状部材に対して前記板状部材と同様に得られた透過光の強度との差と、波長との関係を表すように構成することができる。
【0020】
このような構成により、特性曲線が測定対象となる板状部材にて得られた透過光の強度から基準板状部材にて得られた透過光の強度が差し引かれた値と波長との関係を表すようになるので、前記特性曲線は、干渉現象に基づいた透過光の強度の変動分を強調して表し得るようになる。従って、その極大点及び極小点を判定し易くすることができる。
【0021】
また、本発明に係る膜厚測定方法において、前記特性曲線は、前記検査光の各波長と前記透過光の強度に依存する所定のパラメータとの関係を表すものである構成とすることができる。
【0022】
このような構成により、パラメータが透過光の強度に依存しているので、前記検査光の各波長とそのパラメータとの関係を表す特性曲線は、結局、前記検査光の各波長と透過光の強度との関係を表し得る。
【0023】
また、本発明に係る膜厚測定方法において、前記特性曲線は、前記検査光の各波長に対応した前記パラメータの値と予め定めた基準板状部材に対して前記板状部材と同様に得られた前記パラメータの値との差と、波長との関係を表すように構成することができる。
【0024】
このような構成により、特性曲線は、前述したのと同様に干渉現象に基づいた透過光の強度の変動分を強調して表し得るようになり、よって、その極大点及び極小点を判定し易くすることができる。
【0025】
また、本発明に係る膜厚測定方法において、前記パラメータは、前記検査光の前記板状部材での吸収の度合いを表す吸光パラメータとすることがきる。前記吸光パラメータは、検査光の板状部材での吸収の度合を表すパラメータであれば、限定されず、例えば、吸光率を用いることができる。
【0026】
更に、本発明に係る膜厚測定方法において、予め定めた物質の濃度に対する吸光特性と、前記検査光の各波長と前記検査光の前記吸光パラメータとの関係を表す特性曲線とに基づいて前記物質の前記板状部材内での濃度を算出する工程を有する構成とすることができる。
【0027】
このような構成により、特性曲線が検査光の各波長とその検査光の板状部材での吸収の度合との関係を表すので、予め定められた物質の濃度に対する吸光特性を用いることにより、その板状物質内での前記物質の濃度を算出し得る。従って、板状部材の膜層の厚さを測定する際に、その板状部材に含有される予め定めた物質の濃度も得ることができるようになる。なお、前記物質の濃度に対する吸光特性は、当該物質の濃度と光の波長毎の吸収の度合との関係を表したものである。
【0028】
また、本発明に係る膜厚測定方法において、前記パラメータは、前記検査光の前記板状部材での吸収の度合いを表す吸光パラメータであって、予め定めた物質の濃度に対する吸光特性と、前記検査光の各波長と前記検査光の前記吸光パラメータとの関係を表す特性曲線とに基づいて前記物質の前記板状部材内での濃度を算出する物質濃度算出工程と、前記基準板状部材に含まれる既知の前記物質の濃度と、前記物質濃度算出工程にて得られた前記物質の濃度とに基づいて、前記特性曲線を補正する補正工程とを有する構成とすることができる。
【0029】
このような構成により、特性曲線が検査光の各波長に対応したパラメータの値と予め定めた基準板状部材に対して前記板状部材と同様に得られた前記パラメータの値との差と、波長との関係を表すものであり、前記パラメータが、前記検査光の前記板状部材での吸収の度合いを表す吸光パラメータである場合に、膜厚の測定対象となる板状部材に含有される予め定めた物質の濃度に応じてその吸光の度合が種々変わったとしても、その特性曲線がその物質の濃度に応じて補正されるようになるので、より正確な膜厚の測定が可能となる。
【0030】
本発明に係る膜厚測定装置は、板状部材に含まれる膜層の厚さを測定する膜厚測定装置であって、前記板状部材の面に対して透過可能な検査光を、その波長を所定範囲にわたって変化させつつ照射する検査光照射手段と、照射される各波長の検査光が前記板状部材を透過して出てくる透過光の強度を検出する透過光強度検出手段と、前記検査光の各波長とその透過光の強度との関係を表す特性曲線における極大点及び極小点に基づいて注目波長を決定する注目波長決定手段と、前記決定された注目波長から前記膜層の厚さを算出する演算手段とを有する構成となる。
【0031】
また、本発明に係る膜厚測定装置において、前記注目波長決定手段は、前記特性曲線における最も長波長側の極大点及び極小点の少なくともいずれかに対応する波長に基づいて前記注目波長を決定するように構成することができる。
【0032】
また、本発明に係る膜厚測定装置において、前記注目波長決定手段は、前記特性曲線の極大点を通る曲線として近似される第1近似曲線を生成する第1手段と、前記特性曲線の極小点を通る曲線として近似される第2近似曲線を生成する第2手段と、前記第1近似曲線と前記第2近似曲線との長波長側の交点を算出する第3手段と、前記第1近似曲線と前記第2近似曲線との長波長側の交点にその短波長側で最も近い前記特性曲線の極大点及び極小点の少なくともいずれかに対応する波長に基づいて前記注目波長を決定する第4手段とを有する構成とすることができる。
【0033】
更に、本発明に係る膜厚測定装置において、前記注目波長決定手段は、前記特性曲線の極大点を通る曲線として近似される第1近似曲線を生成する第1手段と、前記特性曲線の極小点を通る曲線として近似される第2近似曲線を生成する第2手段と、前記第1近似曲線と前記第2近似曲線との長波長側の交点を算出する第3手段とを有し、前記交点に対応する波長を前記注目波長として決定するように構成することができる。
【0034】
また、本発明に係る膜厚測定装置において、前記第3手段での交点の演算が可能であるか否かを前記膜層の損傷の有無として判定する判定手段を有する構成とすることができる。
【0035】
また、本発明に係る膜厚測定装置において、前記特性曲線は、前記検査光の各波長と前記透過光の強度に依存する所定のパラメータとの関係を表すように構成することができる。
【0036】
更に、本発明に係る膜厚測定装置は、前記特性曲線は、前記検査光の各波長に対応した前記パラメータの値と予め定めた基準板状部材に対して前記板状部材と同様に得られた前記パラメータの値との差と、波長との関係を表すように構成することができる。
【0037】
また、本発明に係る膜厚測定装置において、前記パラメータは、前記検査光の前記板状部材での吸収の度合いを表す吸光パラメータであるように構成することができる。
【0038】
また、本発明に係る膜厚測定装置において、予め定めた物質の濃度に対する吸光特性と、前記検査光の各波長と前記検査光の前記吸光パラメータとの関係を表す特性曲線とに基づいて前記物質の前記板状部材内での濃度を算出する手段と、該濃度を出力する手段とを有する構成とすることができる。
【0039】
更に、本発明に係る膜厚測定装置において、前記パラメータは、前記検査光の前記板状部材での吸収の度合いを表す吸光パラメータであって、予め定めた物質の濃度に対する吸光特性と、前記検査光の各波長と前記検査光の前記吸光パラメータとの関係を表す特性曲線とに基づいて前記物質の前記板状部材内での濃度を算出する物質濃度算出手段と、前記基準板状部材に含まれる既知の前記物質の濃度と、前記物質濃度算出工程にて得られた前記物質の濃度とに基づいて、前記特性曲線を補正する補正手段とを有する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明に係る膜厚検査方法及び膜厚検査装置によれば、波長を所定範囲にわたって変化させつつ検査光を板状部材の面に照射した際に透過光の強度が検出され、検査光の各波長とその透過光の強度との関係を表す特性曲線における極大値及び極小値に基づいて決定された注目波長から膜層の厚さが算出されるので、特に基準となる板状部材に対する特性曲線等を用いることなく、膜層の厚さを計測することができる。従って、多くの基準となる板状部材の膜厚とパラメータとの関係を用いなくても広い範囲の膜厚測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0042】
本発明の実施の一形態に係る膜厚検査方法に従って膜層の厚さを計測すべき板状部材は、例えば、図1(a)に示すように、結晶軸(100)のシリコン基盤101の表層に結晶軸(110)のシリコン膜102が形成された、所謂、HOT(Hybrid-Orientation Technology)構造の半導体ウエーハ100である。
【0043】
本件発明者は、図1(b)に示す結晶軸(100)のシリコン基盤101単体からなる半導体ウエーハ100に対して、検査光を、その波長を近赤外領域となる1000nm〜2500nmの範囲にわたって変化させつつ照射し、その各波長の検査光(強度Ii)がシリコン基盤101単体の半導体ウエーハ100から出てくる透過光の強度Ioを検出した。その結果、検査光の各波長と透過光の強度Ioとの関係、具体的には、各波長に対応する透過強度(Io/Ii)(%)は、図3に示すような特性曲線Q1となった。
【0044】
本件発明者は、更に、図1(a)に示す所謂HOT構造の半導体ウエーハ100に対しても、前記波長を前記範囲で変化させつつ検査光を照射し、その透過光の強度Ioを検出した。その結果、各波長に対応する透過強度(Io/Ii)(%)は、図4に示すような特性曲線Q2となった。前記特性曲線Q1とQ2とを比較すると、特性曲線Q2において特に1200nmを超える長波長側で振動成分が発生している点で、それらは異なる。この相違は、シリコン基盤101上に形成されたシリコン膜102の存在に起因するものと考えられる。
【0045】
そして、図2に示すように、表層にそのシリコン膜102が形成された半導体ウエーハ100に検査光Rinを入射させると、半導体ウエーハ100を直接透過する光と、厚さDのシリコン膜102とシリコン基盤101との境界面及びシリコン膜102と空気との境界面で反射を繰り返して透過する光とが干渉する結果、波長に対するその透過光Rtの強度に振動成分が含まれるものと推察される。従って、その特性曲線Q2の振動状態、具体的には、その振動の極大点及び極小点に対応する波長はシリコン膜102の厚さDに依存するものといい得る。
【0046】
本発明の実施の一形態に係る膜厚検査方法(膜厚検査装置)は、前述したような検査光の各波長とその透過光の強度との関係を表す特性曲線における極大点(極小点)に対応する波長からシリコン膜102の厚さDを演算するものである。以下、その膜厚検査方法について具体的に説明する。
【0047】
本発明の実施の一形態に係る膜厚検査装置の基本的な構成は図5に示すようになっている。
【0048】
図5において、この膜厚検査装置は、X−Y平面内で2次元的な動きが可能となるステージ10、投光ヘッド12及び受光ヘッド21を有している。ステージ10には、膜厚の測定対象となる図1(a)に示すようなHOT構造の半導体ウエーハ100がセットされる。そして、図6に拡大して示すように、半導体ウエーハ100の裏面側に投光ヘッド12が配置されるとともに、半導体ウエーハ100を挟んで投光ヘッド12と逆側に受光ヘッド21が配置され、投光ヘッド12からスポットSP状に半導体ウエーハ100の面に照射される検査光が半導体ウエーハ100を透過して受光ヘッド21に入射するようになっている。
【0049】
投光ヘッド12は、白色光を出力する光源装置16に導光ファイバ13を介して接続されている。この投光ヘッド12は、レンズ、プリズム、回折格子等の光学部材を有しており、光源装置16から導光ファイバ13を介して入力する白色光から、波長が所定範囲(例えば、1000nm〜2500nmの範囲)で変化する検査光を生成し、その検査光を半導体ウエーハ100の面に照射する。受光ヘッド21は、投光ヘッド12から照射される各波長の検査光が半導体ウエーハ100を透過して出てくる透過光を受光する。受光ヘッド21は導光ファイバ22を介して検出器(光電変換素子)20に接続されており、受光ヘッド21にて受光された透過光が検出器20に入射する。検出器20は、入射した光の強度、即ち、前記透過光の強度に対応したレベルの信号(透過光強度信号)を出力する。
【0050】
膜厚検査装置は、更に、制御ユニット30及び演算ユニット40を有している。制御ユニット30は、前述した検出器20、光源装置16、投光ヘッド12及び演算ユニット40等の各部の動作を制御する。演算ユニット40は、制御ユニット30による制御のもと、検出器20からの透過光強度信号から、後述するような手順に従って、測定対象となる半導体ウエーハ100のシリコン膜102の厚さを演算する。
【0051】
なお、カメラ50が受光ヘッド21の光学系を介して半導体ウエーハ100の面の所定部位を撮影している。この撮影映像はモニタユニット51に表示されるようになっている。これにより、シリコン膜102の厚さの測定とともに、半導体ウエーハ100の表面外観をモニタすることができる。また、図示されてはいないが、演算ユニット40にて演算されたシリコン膜102の厚さについての情報は、モニタユニット51にその測定結果として表示(出力)されるようになっている。
【0052】
制御ユニット30は、図7に示す手順にしたがって処理を行なう。
【0053】
図7において、制御ユニット30は、予め定めた波長範囲(シリコンに対する透過可能な波長範囲)の最小値λmin(例えば、1000nm)を照射光の波長λとして設定し(λ=λmin)(S1)、その設定された波長λの光が半導体ウエーハ100に照射されるように投光ヘッド12を制御する(S2)。その後、制御ユニット30は、所定のタイミングにて計測指示を演算ユニット40に与える(S3)。制御ユニット30は、計測指示を与えると、設定されている波長λが前記波長範囲の最大値λmax(例えば、2500nm)であるか否かを判定する(S4)。その設定されている波長λが最大値λmaxではないとの判定がなされると(S4でNO)、制御ユニット30は、所定のタイミングにて更に所定量Δλだけ増加させた波長λ+Δλを新たな波長λとして設定する(S5)。以後、制御ユニットは、前述したのと同様の処理(S2〜S5)を繰り返し実行する。その過程で、設定されている波長λが最大値λmaxに達したとの判定を行なうと(S4でYES)、制御ユニット30は、演算ユニット40に終了指示を与えて、一連の処理を終了する。
【0054】
このような処理により、半導体ウエーハ100の面に対して検査光が、その波長λがシリコンに対する透過可能な波長範囲にわたって少しずつ(Δλ)変化しつつ照射されるようになる。
【0055】
また、前述したように半導体ウエーハ100の面に対して検査光が、その波長λがシリコンに対する透過可能な波長範囲にわたって少しずつ(Δλ)変化しつつ照射される過程で、演算ユニット40は、図8及び図9に示す手順に従って処理を行なっている。
【0056】
図8において、演算ユニット40は、制御ユニット30から計測指示(図7におけるS3参照)があるまで待機状態となっている(S11でNO)。そして、波長λの検査光が半導体ウエーハ100に照射された状態で制御ユニット30から計測指示があると(S11でYES)、演算ユニット40は、前記検査光が半導体ウエーハ100を透過して出てくる透過光の強度、即ち、透過光強度Iを表す検出器20からの透過光強度信号のレベルを取得する(S12)。
【0057】
ところで、
A(λ)=Log{(Ii−I)/Ii} ・・・(1)
i:入射光(検査光)の強度
:透過光の強度
で定義される吸収率A(吸光パラメータ)は、半導体ウエーハ100を透過して出てくる透過光の強度に依存するパラメータとなる。そして、前記式(1)で定義される吸収率Aと波長λとの関係は、透過光強度Iと波長λとの関係(図3参照)と同様であって、例えば、図10に示す特性曲線Q3のようになる。
【0058】
演算ユニット40は、前記取得した透過光強度Iから前記式(1)に従って吸収率A(λ)を算出する(S13)。また、演算ユニット40は、シリコン基盤101単体となる基準半導体ウエーハ(図1(b)参照)について、各波長λに対応した吸収率AR(λ)を事前に計測して内部に保持している。この基準半導体ウエーハに対する吸収率AR(λ)は、シリコン基盤101単体となる基準ウエーハ(図1(b)参照)についての透過光強度に対応したものとなる。
【0059】
演算ユニット40は、更に、検査光の波長λに対応した吸収率A(λ)と基準半導体ウエーハに対して同様に得られた吸収率AR(λ)との差分ΔA
ΔA=A(λ)−AR(λ) ・・・(2)
を算出し(S14)、その差分ΔAを波長λに対応付けて内部メモリに蓄積する(S15)。その後、演算ユニット40は、制御ユニット30から終了指示(図7におけるS6参照)がなされた否かを判定する(S16)。終了指示がなければ(S16でNO)、演算ユニット40は、前述した処理(S11〜S16)を再度実行し、次の波長(λ+Δλ:図7におけるS5参照)に対応した吸収率の差分ΔA(λ)を算出し、その差分を波長λに対応付けて内部メモリに蓄積する。
【0060】
以後、演算ユニット40は、制御ユニット30から終了指示がなされるまで、前述した処理(S11〜S16)を繰り返し実行する。そして、制御ユニット30から終了指示がなされると(S16でYES)、演算ユニット40は、図9に示す処理に移行する。この時点で、演算ユニット40内には、所定範囲(1000nm〜2500nm)の波長と前記吸収率の差分ΔA(λ)との関係(特性曲線)が保存されたことになる。その関係は、図2に示す波形と図3に示す波形の差分に相当するものであり、例えば、図11に示す特性曲線Q(ΔA−λ特性)に対応したものとなる。このように吸収率の差分ΔAを用いて特性曲線Qが表されるので、特性曲線Qにおいてシリコン膜102に起因する干渉現象に基づいた変動成分が強調され得るようになる。
【0061】
図9において、演算ユニット40は、前記蓄積した情報から、図11に示す特性曲線Qにおける極大点(ピーク点)及び極小点(ボトム点)を検出する(S21)。そして、演算ユニット40は、公知の数学的手法を用いて、その特性曲線Qの極大点を通る曲線として近似される第1近似曲線fp(λ)を算出し(S22)、その特性曲線Qの極小点を通る曲線として近似される第2近似曲線fb(λ)を算出する(S23)。これら第1近似曲線fp(λ)と第2近似曲線fb(λ)は、一般的には指数関数曲線となる。
【0062】
次いで、演算ユニット40は、第1近似曲線fp(λ)と第2近似曲線fb(λ)との交点Pxを算出する処理を実行する(S24)。そして、演算ユニット40は、この第1近似曲線fp(λ)と第2近似曲線fb(λ)との交点Pxが算出されたか否かを判定する(S25)。前記交点Pxが算出されると(S25でYES)、演算ユニット40は、前記特性曲線Qにおいて、前記交点Pxにその短波長側で最も近い極大点に対応した波長λp1を注目波長として決定し(S26)、その波長λp1(注目波長)を用いて、
D=2λp1 ・・・(3)
に従ってシリコン膜102の膜厚Dを算出する(S27)。
【0063】
このように算出された膜厚Dは、例えば、モニタユニット51に表示され、オペレータに提示される。また、前記算出された膜厚Dを膜の形成工程にフィードバックすることもできる。
【0064】
シリコン膜102の膜厚Dを、前記第1近似曲線fp(λ)と前記第2近似曲線fb(λ)との交点Pxにその短波長側で最も近い特性曲線Qの極大点に対応した波長λp1の2倍(2λp1)として算出することの妥当性について定性的に考察する。
【0065】
図11を参照するに、吸収率A(λ)と波長λとの関係を表す特性曲線Qには、前述したようにシリコン膜102の厚さDに依存した、変動成分が存在する。そして、その極大点を通る曲線として近似される第1近似曲線fp(λ)とその極小点を通る曲線として近似される第2近似曲線fb(λ)との交点Pxは、長波長側で特性曲線Qにおいて極大点と極小点とが一致する点である。即ち、その交点Pxに対応した波長λp0=λb0=λ0は、前記特性曲線Qにおいて極大点及び極小点がなくなる波長領域内あると推察される。
【0066】
一方、図2に示すように、膜厚D以上の波長λの光は、反射光による干渉を受けることなく半導体ウエーハ100を透過する。従って、干渉の影響を受けることなく透過する光(反射次数m=0)の最小の波長λ0は膜厚Dになる(λ0=D)。そして、シリコン膜102の膜厚Dにて2回反射(反射次数m=2)して透過する光成分による干渉の影響を受ける光の波長λ1は、波長λ0の2分の1(最小の偶数分の1)になるはずである(2λ1=λ0)。
【0067】
これらのことを考慮すると、前記1次近似曲線fp(λ)と前記2次近似曲線fb(λ)との交点Pxに対応する波長λ0の光は、半導体ウエーハ100のシリコン膜102の境界で反射することなく透過するものであるが、その波長λ0がシリコン膜102の境界で反射することなく透過する光の波長の最小値、即ち、シリコン膜102の膜厚Dになる保証はない。しかし、特性曲線Qにおいて前記交点Pxにその短波長側で最も近い極大点に対応した波長λp1は、膜厚Dの波長λ0より短波長側で初めて干渉の影響を受ける波長、即ち、反射次数m=2での反射成分にて干渉の影響を受け得る波長であるとみることができる。従って、前記極大点に対応したλp1は、膜厚Dと同じ長さの波長λ0の2分の1であり、その関係から前記式(3)に基づいて膜厚Dを算出することができる。
【0068】
図9に戻って、演算ユニット40は、前記第1近似曲線fp(λ)と前記第2近似曲線fb(λ)との交点Pxの算出が可能ではないと判定した場合(S25でNO)、半導体ウエーハ100の膜厚を測定している領域のシリコン膜102が剥離、ボイドなど、損傷しているものとの判定を行なう(S28)。例えば、シリコン膜102がボイド、剥離など、損傷している領域では、その特性曲線Qから得られるその極大点を通る曲線として近似された第1近似曲線fp(λ)と極小点を通る曲線として近似された第2近似曲線fb(λ)との交点Pxは、図12に示すように存在しない。このような処理(S25、S28)を行なうことにより、シリコン膜102の厚さDを測定する過程で、その測定部位でのシリコン膜102の欠陥の有無を判定することができるようになる。
【0069】
ところで、シリコン基盤101がボロンB(ドーパント)を含有している場合がある。その場合、ボロンB自体が吸光特性(吸光係数ε(λ):濃度に対する光の吸収程度を表す)を有していることから、膜厚の測定中に得られる吸収率A(λ)は、そのボロン濃度の影響を受ける。一般には、図13に示すように、ボロン濃度Bが高い場合、その吸収率A(特性QB1)は、ボロン濃度Bが低い場合(特性QB2)に比べて、全体的に高くなる。
【0070】
このような状況のなかで、図14に示すように、シリコン基盤101内のボロン濃度Bが比較的高い半導体ウエーハ100では、比較的吸収率が高い領域で、その基本的な吸収率の特性Q11に膜厚に依存した変動成分がのった特性Q12となる。また、シリコン基盤101内のボロン濃度Bが比較的低い半導体ウエーハ100では、比較的吸収率が低い領域で、その基本的な吸収率の特性Q21に膜厚に依存した変動成分がのった特性Q22となる。このため、前述したように予め定めた基準半導体ウエーハにて得られた吸収率との差分ΔA(λ)を特性曲線Qとする場合、測定対象となる半導体ウエーハ100と同じボロン濃度の基準半導体ウエーハをその都度用意しなければならない。
【0071】
これでは、実用上支障をきたすことから、測定対象となる半導体ウエーハ100のボロン濃度を得られた吸収率A(λ)から求めて、その特性曲線Qを表す吸収率の差分ΔAを補正することが好ましい。
【0072】
具体的には、演算ユニット40は、図8に示すステップS14にて次のような処理を実行する。
【0073】
測定対象となる半導体ウエーハ100の吸収率Aが得られると(S13)、その吸収率A(λ)とボロンBの吸光係数ε(λ)と半導体ウエーハ100の厚さLとから、
A(λ)=Bd・ε(λ)・L
Bd={A(λ)/(ε(λ)・L)} ・・・(4)
に従って、ボロン濃度Bdを算出する。そして、基準半導体ウエーハから既に得られているボロン濃度Bdrとの比(Bd/Bdr)を用いた比例配分の手法に従って前記差分ΔA(λ)(特性曲線Q)を補正する。
【0074】
このように、ボロン濃度Bに応じて特性曲線Qを表す吸収率の差分ΔAが補正されるので、測定対象となる半導体ウエーハ100に含有されるボロンB(ドーパント)の濃度が種々変わっても、より精度の高い膜厚の測定が可能となる。
【0075】
また、前述した処理において算出されたボロン濃度をモニタユニット51に表示(出力)させることもできる。これにより、オペレータは、測定対象となる半導体ウエーハ100の膜厚を測定する過程で、その半導体ウエーハ100に含有されるボロンB(ドーパント)の濃度も知ることができるようになる。
【0076】
なお、ドーパントの種類は、観測波長(例えば、1000nm〜2500nm)の範囲で有効な吸収率があって前記式(4)を満足するものであれば、どんなものでもその濃度を測定することができる。一方、観測波長の範囲に有効な吸収率がないドーパント(物質)の場合には、その濃度を知ることができないが、その場合、そもそもその物質の濃度に応じて特性曲線Qを補正する必要がない。
【0077】
前述した実施の形態では、特性曲線Qにおける極大点を通る曲線として近似される第1近似曲線fp(λ)と極小点を通る曲線として近似される第2近似曲線fb(λ)の交点Pxにその短波長側で最も近い特性曲線Qの極大点に対応する波長λP1を注目波長として決定しているが、他の手法を用いて、特性曲線Qにおける最も長波長側の極大点を注目波長として決定することもできる。また、理論的には、特性曲線Qにおける最も長波長側の極大点と極小点は、非常に近づいたものとなる(前記交点Pxでは一致している)。従って、特性曲線Qにおける最も長波長側の極小点に対応した波長λb1を注目波長として、
D=2・λb1
に従って、膜厚Dを算出することも可能である。
【0078】
更に、特性曲線Qにおける最も長波長側の極大点に対応する波長λp1と最も長波長側の極小点に対応した波長λb1とに基づいて、例えば、平均化して、注目波長λxを決定することもできる。そして、その注目波長λxを用いて
D=2・λx
に従って、膜厚Dを算出することも可能である。
【0079】
また、更に、前記特性曲線Qの極大点を通る曲線として近似される第1近似曲線fp(λ)と前記特性曲線Qの極小点を通る曲線として近似される第2近似曲線fb(λ)との長波長側の交点Pxに対応する波長λ0を注目波長とし、その注目波長からシリコン膜102の膜厚Dを算出するようにしてもよい。具体的には、
D=λ0 ・・・(5)
として算出することができる。
【0080】
前記第1近似曲線fp(λ)と前記第2近似曲線fb(λ)との交点Pxに対応する波長λ0の光は、前述したように、半導体ウエーハ100のシリコン膜102の境界で反射することなく透過するものであるが、その波長λ0がシリコン膜102の境界で反射することなく透過する光の波長の最小値、即ち、シリコン膜102の膜厚Dになる保証はない。しかし、それによる精度誤差を許容するものであれば、あるいは、特性曲線Qの極大点及び極小点から前記第1近似曲線fp(λ)及び前記第2近似曲線fb(λ)を生成する手法を工夫することにより、前記波長λ0をその膜層を反射することなく透過する光の波長の最小値として扱うこともできる。この場合、前記式(5)に従ってシリコン膜102の膜厚Dが演算される。
【0081】
前述した例では、検査光の各波長とその透過光の強度との関係を表す特性曲線Qとして、吸収率Aの基準半導体ウエーハのものとの差分ΔA(λ)を用いたが、これに限定されず、透過光の強度に依存するパラメータと検査光の波長との関係を表すものであれば、特に限定されない。例えば、吸収率A(λ)を特性曲線Qとして用いることも、透過光強度Iそのものを特性曲線Qとして用いることもできる。
【0082】
前述した例では、図1(a)、(b)に示すようなHOT構造の半導体ウエーハ100を測定対象としていたが、板状部材(半導体ウエーハ)を透過可能な光を用いることにより、種々の板状部材をその測定対象とすることができる。例えば、図15(a)、(b)、(c)、(d)に示すような他のHOT構造の半導体ウエーハでも、前述した手法にて膜厚を測定することができる。更に、図16(a)、(b)、(c)に示すような、SOI構造の半導体ウエーハであっても、酸化膜層(Oxide)やBox層が極めて薄ければ、前述した手法により表層の膜の厚さを測定することは可能であり、酸化膜層やBox層が比較的厚くても、それらを透過することのできるX線領域の光を検査光として用いることにより膜厚を前述した手法にて測定することができる。
【0083】
前述した例では、半導体ウエーハ100の表層にある膜の厚さDを測定するものであったが、半導体ウエーハ100の内部に形成される膜層であっても、その界面で反射が発生し、その反射光によって透過光が振動的な影響を受け得るものであれば、前述した手法に従ってその内部の膜の厚さを測定することも可能である。
【0084】
また、図5に示す膜厚測定装置において、半導体ウエーハ100は、厚さを測定すべきシリコン膜102を投光ヘッド12に対向するようにステージ10にセットしても、シリコン膜102を受光ヘッド21に対向するようにステージ10にセットしても、その厚さを測定することができる。
【0085】
更に、図7、図8及び図9に示す手順に従った制御ユニット30及び演算ユニット40の処理は、半導体ウエーハ100に検査光がスポットSP状に照射された1箇所の部位についての処理であり、例えば、ステージ10を移動させてその測定部位が変更されるごとに、制御ユニット30及び演算ユニット40は、図7、図8及び図9に示す手順に従った処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上、説明したように、本発明に係る膜厚検査方法及び膜厚検査装置は、多くの基準となる板状部材の膜厚とパラメータとの関係を用いなくても広い範囲の膜厚測定が可能となるという効果を有し、半導体ウエーハ等の板状部材に含まれる膜の厚さを非接触にて測定する膜厚測定方法及び膜厚測定装置に適している。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の実施の一形態に係る膜厚検査方法に従って膜層の厚さが検査される半導体ウエーハ(板状部材)の断面構造及び光の透過状態を模式的に表した図(a)と、膜層のない基準半導体ウエーハ(基準板状部材)の断面構造及び光の透過状態を模式的に表した図(b)。である。
【図2】図1(a)に示す断面構造を有する半導体ウエーハ(板状部材)に入射した検査光の挙動を模式的に示す図である。
【図3】図1(b)に示すようなシリコン基盤での波長に対する透過強度の特性例を示す図である。
【図4】図1(a)に示すような膜層を有する半導体ウエーハでの波長に対する透過強度の特性例を示す図である。
【図5】本発明の実施の一形態に係る膜厚測定装置の構成例を示す図である。
【図6】図5に示す測定対象となる半導体ウエーハ及びその近傍領域を拡大して示す図である。
【図7】図5に示す膜厚測定装置の制御ユニットでの処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】図5に示す膜厚測定装置の演算ユニットでの処理の手順を示すフローチャート(その1)である。
【図9】図5に示す膜厚測定装置の演算ユニットでの処理の手順を示すフローチャート(その2)である。
【図10】半導体ウエーハでの波長に対する吸収率の特性例を示す図である。
【図11】特性曲線Q(ΔA(λ))から膜厚を算出する手法を示す図である。
【図12】膜が損傷している場合の特性曲線Qの状態例を示す図である。
【図13】シリコン基盤に含有されるボロン(ドーパント)濃度の違いによる吸光特性の相違を示す図である。
【図14】異なるボロン濃度での特性曲線Qの例を示す図である。
【図15】膜の測定対象となり得る半導体ウエーハの構造例を示す図である。
【図16】膜の測定対象となり得る半導体ウエーハの構造例を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
10 ステージ
12 投光ヘッド
13 導光ファイバ
16 光源装置
20 検出器
21 受光ヘッド
22 導光ファイバ
30 制御ユニット
40 演算ユニット
50 カメラ
51 モニタユニット
100 半導体ウエーハ
101 シリコン基盤
102 シリコン膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状部材に含まれる膜層の厚さを測定する膜厚測定方法であって、
前記板状部材の面に対して透過可能な検査光を、その波長を所定範囲にわたって変化させつつ照射する検査光照射工程と、
照射される各波長の検査光が前記板状部材を透過して出てくる透過光の強度を検出する透過光強度検出工程と、
前記検査光の各波長とその透過光の強度との関係を表す特性曲線における極大点及び極小点に基づいて注目波長を決定する注目波長決定工程と、
前記決定された注目波長から前記膜層の厚さを算出する演算工程とを有することを特徴とする膜厚測定方法。
【請求項2】
前記注目波長決定工程は、前記特性曲線における最も長波長側の極大点及び極小点の少なくともいずれかに対応する波長に基づいて前記注目波長を決定することを特徴とする請求項1記載の膜厚測定方法。
【請求項3】
前記注目波長決定工程は、前記特性曲線における最も長波長側の極大点に対応した波長を前記注目波長として決定することを特徴とする請求項2記載の膜厚測定方法。
【請求項4】
前記注目波長決定工程は、前記特性曲線における最も長波長側の極小点に対応した波長を前記注目波長として決定することを特徴とする請求項2記載の膜厚測定方法。
【請求項5】
前記注目波長決定工程は、前記特性曲線の極大点を通る曲線として近似される第1近似曲線を生成する第1工程と、
前記特性曲線の極小点を通る曲線として近似される第2近似曲線を生成する第2工程と、
前記第1近似曲線と前記第2近似曲線との長波長側の交点を算出する第3工程と、
前記第1近似曲線と前記第2近似曲線との長波長側の交点にその短波長側で最も近い前記特性曲線の極大点及び極小点の少なくともいずれかに対応する波長に基づいて前記注目波長を決定する第4工程とを有することを特徴とする請求項2記載の膜厚測定方法。
【請求項6】
前記注目波長決定工程は、前記特性曲線の極大点を通る曲線として近似される第1近似曲線を生成する第1工程と、
前記特性曲線の極小点を通る曲線として近似される第2近似曲線を生成する第2工程と、
前記第1近似曲線と前記第2近似曲線との長波長側の交点を算出する第3工程とを有し、
前記交点に対応する波長を前記注目波長として決定することを特徴とする請求項1記載の膜厚測定方法。
【請求項7】
前記第3工程での交点の演算が可能であるか否かを前記膜層の欠陥の有無として判定する判定工程を有することを特徴とする請求項5または6記載の膜厚測定方法。
【請求項8】
前記特性曲線は、前記検査光の各波長に対応した透過光の強度と予め定めた基準板状部材に対して前記板状部材と同様に得られた透過光の強度との差と、波長との関係を表すものであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の膜厚計測方法。
【請求項9】
前記特性曲線は、前記検査光の各波長と前記透過光の強度に依存する所定のパラメータとの関係を表すものであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の膜厚測定装置。
【請求項10】
前記特性曲線は、前記検査光の各波長に対応した前記パラメータの値と予め定めた基準板状部材に対して前記板状部材と同様に得られた前記パラメータの値との差と、波長との関係を表すものであることを特徴とする請求項9記載の膜厚測定方法。
【請求項11】
前記パラメータは、前記検査光の前記板状部材での吸収の度合いを表す吸光パラメータであることを特徴とする請求項9または10記載の膜厚測定方法。
【請求項12】
予め定めた物質の濃度に対する吸光特性と、前記検査光の各波長と前記検査光の前記吸光パラメータとの関係を表す特性曲線とに基づいて前記物質の前記板状部材内での濃度を算出する工程を有することを特徴とする請求項11記載の膜厚測定方法。
【請求項13】
前記パラメータは、前記検査光の前記板状部材での吸収の度合いを表す吸光パラメータであって、
予め定めた物質の濃度に対する吸光特性と、前記検査光の各波長と前記検査光の前記吸光パラメータとの関係を表す特性曲線とに基づいて前記物質の前記板状部材内での濃度を算出する物質濃度算出工程と、
前記基準板状部材に含まれる既知の前記物質の濃度と、前記物質濃度算出工程にて得られた前記物質の濃度とに基づいて、前記特性曲線を補正する補正工程とを有することを特徴とする請求項10記載の膜厚測定方法。
【請求項14】
板状部材に含まれる膜層の厚さを測定する膜厚測定装置であって、
前記板状部材の面に対して透過可能な検査光を、その波長を所定範囲にわたって変化させつつ照射する検査光照射手段と、
照射される各波長の検査光が前記板状部材を透過して出てくる透過光の強度を検出する透過光強度検出手段と、
前記検査光の各波長とその透過光の強度との関係を表す特性曲線における極大点及び極小点に基づいて注目波長を決定する注目波長決定手段と、
前記決定された注目波長から前記膜層の厚さを算出する演算手段とを有することを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項15】
前記注目波長決定手段は、前記特性曲線における最も長波長側の極大点及び極小点の少なくともいずれかに対応する波長に基づいて前記注目波長を決定することを特徴とする請求項14記載の膜厚測定装置。
【請求項16】
前記注目波長決定手段は、前記特性曲線の極大点を通る曲線として近似される第1近似曲線を生成する第1手段と、
前記特性曲線の極小点を通る曲線として近似される第2近似曲線を生成する第2手段と、
前記第1近似曲線と前記第2近似曲線との長波長側の交点を算出する第3手段と、
前記第1近似曲線と前記第2近似曲線との長波長側の交点にその短波長側で最も近い前記特性曲線の極大点及び極小点の少なくともいずれかに対応する波長に基づいて前記注目波長を決定する第4手段とを有することを特徴とする請求項15記載の膜厚測定装置。
【請求項17】
前記注目波長決定手段は、前記特性曲線の極大点を通る曲線として近似される第1近似曲線を生成する第1手段と、
前記特性曲線の極小点を通る曲線として近似される第2近似曲線を生成する第2手段と、
前記第1近似曲線と前記第2近似曲線との長波長側の交点を算出する第3手段とを有し、
前記交点に対応する波長を前記注目波長として決定することを特徴とする請求項14記載の膜厚測定装置。
【請求項18】
前記第3手段での交点の演算が可能であるか否かを前記膜層の損傷の有無として判定する判定手段を有することを特徴とする請求項16または17記載の膜厚測定装置。
【請求項19】
前記特性曲線は、前記検査光の各波長と前記透過光の強度に依存する所定のパラメータとの関係を表すものであることを特徴とする請求項14乃至18のいずれかに記載の膜厚測定装置。
【請求項20】
前記特性曲線は、前記検査光の各波長に対応した前記パラメータの値と予め定めた基準板状部材に対して前記板状部材と同様に得られた前記パラメータの値との差と、波長との関係を表すものであることを特徴とする請求項19記載の膜厚測定装置。
【請求項21】
前記パラメータは、前記検査光の前記板状部材での吸収の度合いを表す吸光パラメータであることを特徴とする請求項19または20記載の膜厚測定装置。
【請求項22】
予め定めた物質の濃度に対する吸光特性と、前記検査光の各波長と前記検査光の前記吸光パラメータとの関係を表す特性曲線とに基づいて前記物質の前記板状部材内での濃度を算出する手段と、
該濃度を出力する手段とを有することを特徴とする請求項21記載の膜厚測定装置。
【請求項23】
前記パラメータは、前記検査光の前記板状部材での吸収の度合いを表す吸光パラメータであって、
予め定めた物質の濃度に対する吸光特性と、前記検査光の各波長と前記検査光の前記吸光パラメータとの関係を表す特性曲線とに基づいて前記物質の前記板状部材内での濃度を算出する物質濃度算出手段と、
前記基準板状部材に含まれる既知の前記物質の濃度と、前記物質濃度算出工程にて得られた前記物質の濃度とに基づいて、前記特性曲線を補正する補正手段とを有することを特徴とする請求項20記載の膜厚測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−139177(P2008−139177A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326364(P2006−326364)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000002428)芝浦メカトロニクス株式会社 (907)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】