説明

自動車の前部車体構造

【課題】車両衝突時の被衝突物への衝撃力を吸収できる自動車の前部車体構造を提供する。
【解決手段】フード5の前端部5bをロックするフードロック機構17をダッシュパネル3とラジエータサポートメンバ4とに固定されたブラケット18,19により支持し、該ブラケット18,19に、車両衝突時に上記フードロック機構17の車両後方への移動を許容する脆弱部18g,スリット19e(衝撃力吸収手段)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダッシュパネルとラジエータサポートメンバとの間の空間上部を開閉するフードを備えた自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の前部車体は、ダッシュパネルとこれの車両前方に配設されたラジエータサポートメンバとの間に両者の空間上部を開閉するフードを配設した構造となっている。このようなフードを車体にロックする構造として、上記ダッシュパネルとラジエータサポートメンバとにフードロックサポートを前後方向に橋渡しして固定し、該フードロックサポートの前端部にフードロック機構を取付けるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第2852200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記ダッシュパネルとラジエータサポートメンバとの間の空間上部を開閉するフードを、フードロック機構によって車体にロックする構造を採用する場合には、車両衝突時に、衝撃力が上記フードロック機構等を介して車室側に伝達されるのを可能な限り防止できるよう考慮することが必要である。
【0004】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたもので、車両衝突時の衝撃力を吸収できる自動車の前部車体構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ダッシュパネルと、これの車両前方に配設されたラジエータサポートメンバと、該ラジエータサポートメンバと上記ダッシュパネルの間の空間上部を開閉するフードとを備えた自動車の前部車体構造において、上記フードの前端部をロックするフードロック機構を上記ダッシュパネルとラジエータサポートメンバとに固定されたブラケットにより支持し、該ブラケットに、車両衝突時に上記フードロック機構の車両後方への移動を許容する衝撃力吸収手段を設けたことを特徴としている。
【0006】
ここで、衝撃力吸収手段としては、ブラケットのラジエータサポートメンバ取付け部に衝撃力により該ラジエータサポートメンバから離脱するスリットを形成したり、あるいはブラケットに衝撃力により入力方向に座屈する脆弱部を形成したりすることとなる。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る前部車体構造によれば、ブラケットに、車両衝突時に上記フードロック機構の車両後方移動を許容する衝撃力吸収手段を設けたので、車両衝突時の衝撃力をフードロック機構が後方に移動して吸収することができ、車室内へのダメージを軽減することができ、また同様に被衝突物へのダメージも軽減できる。
【0008】
また本発明では、フードロック機構を、ダッシュパネルとラジエータサポートメンバとに固定されたブラケットにより支持したので、該ブラケットに衝撃力吸収手段を設ける場合のフードロック機構の支持強度を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0010】
図1ないし図3は、本発明の一実施形態による自動車の前部車体構造を説明するための図であり、図1は前部車体の断面側面図、図2はフードロック機構の組み付け状態を示す分解斜視図、図3はフードロック機構の取付け部の断面側面図である。
【0011】
図において、1は不図示のシート下方にエンジンが搭載されたセミキャブ型自動車の前部車体を示しており、これは主として車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバ2,2と、車幅方向に延びるダッシュパネル3と、該ダッシュパネル3の車両前方に配設されたラジエータサポートメンバ4と、該ラジエータサポートメンバ4とダッシュパネル3との間の空間上部を開閉するフード5とを備えている。このダッシュパネル3によりラジエータ室Aと車室Bとに画成されており、上記フード5によりラジエータ室Aを開閉するようになっている。
【0012】
上記左,右のサイドメンバ2の前端面には車幅方向に延びるクロスメンバ6が結合され、該クロスメンバ6の前側にはフロントバンパ8が配設されている。このフロントバンパ8と上記フード5との間にはラジエータグリル9が配設されている。
【0013】
上記ダッシュパネル3の上端フランジ3aには車幅方向に延びるカウルパネル7の下面が結合されており、左,右側端部には不図示のフロントピラーが結合されている。この左,右のフロントピラーと上記カウルパネル7とで囲まれたウインド開口にフロントガラス10が配設されている。
【0014】
上記ラジエータサポートメンバ4は、ラジエータサポートアッパメンバ4a,ラジエータファンシュラウド4b,リザーブタンク4c,及びラジエータ(不図示)を一体化した樹脂製のものからなり、上記左,右のサイドメンバ2の前端部2a間に架け渡してボルト締め固定されている。
【0015】
上記フード5は、アウタパネル11とインナパネル12の外縁部同士をへミング加工により結合した構造となっており、後端部5aに配設された不図示のヒンジ部材により上下に回動可能に支持されている。
【0016】
上記フード5の前端部5b下面にはストライカ13がアウタ,インナパネル11,12の間に結合されたフードリインホース14を介して固定されている。
【0017】
上記ストライカ13の下方にはフードロック機構17が配設されている。このフードロック機構17は、上記ダッシュパネル3に固定されたフードロックブラケット18と、上記ラジエータサポートメンバ4に固定されたクランプブラケット19とにより支持されている。
【0018】
このフードロック機構17は、板金製のベース部材17aに上記ストライカ13が係合してフード5を全閉位置に拘束するメインラッチ17bと、該フード5の全閉位置での拘束を解除してフード5を半開位置まで開放するロック解除ケーブル17cと、該半開位置での拘束を解除してフード5を全開位置に開放する全開レバー17dとをそれぞれ一体に組み付けた構造となっている。
【0019】
上記ベース部材17aの左,右側部には車両後方に延びる左,右の取付け辺部17e,17eが一体形成され、中央部には車両前方に突出する取付け部17fが一体形成されている。
【0020】
上記フードロックブラケット18は、前壁部18aの左右両端縁に後方に屈曲して延びる左,右の脚部18b,18bを一体形成するとともに、該左,右脚部18bの後端に車外側に屈曲して延びるフランジ部18c,18cを一体形成した構造となっている。この左,右のフランジ部18cが上記ダッシュパネル3に溶接により接合されている。上記フードロックブラケット18の前壁部18aに上記ベース部材17aの左,右取付け辺部17eがボルト20,20により締結固定されている。
【0021】
上記フードロックブラケット18の左,右脚部18bには、車両衝突時の衝撃力によって入力方向に座屈変形する脆弱部18g,18gが形成されている。
【0022】
上記ラジエータサポートメンバ4の上壁部4dの車幅方向中央部には、斜め上向きに傾斜する取付け座4eが凹設されており、該取付け座4eにはナット21がインサート成形されている(図3参照)。
【0023】
上記クランプブラケット19は、下辺部19aと上辺部19bとからなる側面視で概ねく字状に形成されており、該下,上辺部19a,19bにはボルト孔19c,19dが形成されている。この下辺部19aがボルト22により上記ラジエータサポートメンバ4の取付け座4eに締結固定されており、上辺部19bがボルト23により上記ベース部材17aの取付け部17fに締結固定されている。
【0024】
そして上記クランプブラケット19の下辺部19aにはボルト孔19cに続いて車両前方に開口するスリット19eが切り欠いて形成されている。このスリット19e及び上記脆弱部18gにより衝撃力吸収手段が構成されている。
【0025】
本実施形態によれば、フードロックブラケット18に入力方向に座屈する脆弱部18gを形成し、クランプブラケット19の下辺部19aのラジエータサポートメンバ締結部に車両前方に開口するスリット19eを形成し、これにより車両衝突時にフードロック機構17の車両後方への移動を許容する衝撃力吸収手段を構成したので、車両衝突時の衝撃力をフードロック機構17が後方移動して吸収することとなり、車室内及び被衝突物へのダメージを軽減することができる。即ち、車両衝突時の入力によってダッシュパネル3が後方に変形し、フードロックブラケット18が後方に座屈変形するとともに、クランプブラケット19がラジエータサポートメンバ4から離脱し、もってフードロック機構17が後方に移動することとなる(図1の一点鎖線参照)。
【0026】
また本実施形態では、フードロック機構17を、ダッシュパネル3に溶接接合されたフードロックブラケット18と、ラジエータサポートメンバ4に締結固定されたクランプブラケット19とで両持ち支持したので、脆弱部18g及びスリット19eを設ける場合のフードロック機構17の支持強度を確保できる。
【0027】
上記フードロック機構17をフードロックブラケット18及びクランプブラケット19にそれぞれボルト締め固定したので、フードロック機構17を組み付ける場合には、フード5を開けた状態で、車両前方から各ボルト20,22,23を締め付けることにより取付けることができ、組み付け作業を容易に行うことができる。
【0028】
なお、上記実施形態では、クランプブラケット19の下辺部19aにボルト孔19cに続くスリット19eを切り欠いて形成したが、本発明では、例えば、図4に示すように、クランプブラケット19の下辺部19aにボルト孔19cに続いて切り込み19e′を形成してもよい。
【0029】
また上記実施形態では、フードロックブラケット18とクランプブラケット19とを別体としたが、本発明は、フードロックブラケットとクランプブラケットとを一体形成してもよい。この場合にもラジエータサポートメンバから離脱するスリット,あるいは入力方向に座屈する脆弱部等の衝撃力吸収手段を設けることにより上記実施形態と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態による自動車の前部車体構造を説明するための側面図である。
【図2】本実施形態のフードロック機構の組み付け状態を示す分解斜視図である。
【図3】上記フードロック機構の取付け部の断面側面図である。
【図4】上記クランプブラケットの変形例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
1 前部車体
3 ダッシュパネル
4 ラジエータサポートメンバ
5 フード
5b 前端部
17 フードロック機構
18 フードロックブラケット
18g 脆弱部(衝撃力吸収手段)
19 クランプブラケット
19e,19e′ スリット(衝撃力吸収手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッシュパネルと、これの車両前方に配設されたラジエータサポートメンバと、該ラジエータサポートメンバと上記ダッシュパネルの間の空間上部を開閉するフードとを備えた自動車の前部車体構造において、上記フードの前端部をロックするフードロック機構を上記ダッシュパネルとラジエータサポートメンバとに固定されたブラケットにより支持し、該ブラケットに、車両衝突時に上記フードロック機構の車両後方への移動を許容する衝撃力吸収手段を設けたことを特徴とする自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−44336(P2006−44336A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225084(P2004−225084)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】