説明

自律旋回装置

【課題】操舵輪が接地する床等に影響されることなく適切に操舵できる自律旋回装置を提
供する。
【解決手段】自律旋回装置2は、車両が旋回を開始する始点を検知する位置検知手段6と
、車両の走行した距離を検出する距離検出手段8と、操舵輪36を操舵する操舵装置10
と、操舵輪36が操舵される操舵角を検出する角度検出手段12と、車両の走行する距離
の累積値を車両が旋回するときの操舵輪36の目標操舵角に対応させた旋回データを記録
した記憶手段14と、操舵装置10の動作を制御する制御装置16とを備える。制御装置
16は、車両の始点から走行した距離が旋回データの累積値に達した時点で、操舵輪36
の操舵角が旋回データの目標操舵角に合致するように、操舵装置10を動作させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め設定された行程に従い走行する車両を旋回させる自律旋回装置に関する

【背景技術】
【0002】
図5に示すように、互いに直行する走行ガイド28,30が床等に埋設されている。矢
印F方向へ走行する無人搬送車である車両32は、その前後部に取付けた2つのガイドセ
ンサ34で走行ガイド28を検出し、走行ガイド28に沿って直進する。車両32の操舵
輪36がA地点に達したところで車両32を停止させ、操舵輪36を仮想線で表した姿勢
になるよう操舵する。この後、車両32を発進させると、車両32は旋回する。同図は、
車両32が90°旋回するときの軌跡38と操舵輪36の軌跡40を表している。続いて
、車両32の操舵輪36がB地点に達したところで再び車両32を停止させ、操舵輪36
を直進する向きに戻す。言い換えると、操舵輪36が走行ガイド30と平行な姿勢になる
よう操舵される。この後、車両32を発進させると、車両32は2つのガイドセンサ34
で走行ガイド30を検出し、走行ガイド30に沿って直進する。
【0003】
上記のように車両32が旋回している間、ガイドセンサ34は走行ガイド28,30を
検出しない。以下に述べる自律旋回とは、走行ガイド28,30に関わりなく、車両32
を旋回させるために操舵輪36が操舵される動作を意味する。また、特許文献1は、車両
が自律旋回を開始した時点で、車両の姿勢である旋回角をジャイロスコープ等で検出し、
この旋回角に照らして車両が旋回を終えるタイミングを決定する技術を開示している。
【特許文献1】特開2003−241837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図6は、同一の車両32が旋回する過程でその姿勢の変化を重ね合わせて表した平面図
である。自動倉庫等で稼働する無人搬送車は、走行中に操舵を行うので次の問題がある。
即ち、操舵輪36がA地点を通過するのと同時に操舵が開始されるが、操舵輪36が所定
の操舵角に操舵されるまでには、ある程度の動作時間を要する。操舵輪36を直進する向
きに戻すときも同様である。この間に走行し続ける車両32と操舵輪36の軌跡はそれぞ
れ点線39,41のようになり、操舵輪36のいわゆる切り遅れが起こる。これが著しい
場合、走行ガイド30の上方からガイドセンサ34が逸れ、走行ガイド30をガイドセン
サ34で検出できない事態となる。
【0005】
また、操舵輪36を操舵する操舵装置は、操舵輪36が接地する床等から操舵の反力と
して摩擦力を受けるので、床等の摩擦係数が大きい程、上記の動作時間は遅延する傾向が
ある。しかしながら、床等の摩擦係数は不確定な要素であるので、操舵輪36の切り遅れ
を数量的に予測するのは困難である。このため、走行中に操舵する車両32の軌跡(点線
39)を軌跡38に近づけるには、操舵輪36がA地点を通過する少し前に操舵が開始さ
れるように、手探りで操舵装置の動作するタイミングを調整しなければならない。
【0006】
そこで、本発明は、操舵輪が接地する床等に影響されることなく適切に操舵できる自律
旋回装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するため、操舵輪を有する車両が走行する行程で、前記車両を
旋回させるために前記操舵輪を操舵する自律旋回装置であって、前記車両が旋回を開始す
る始点を検知する位置検知手段と、前記車両の走行した距離を検出する距離検出手段と、
前記操舵輪を操舵する操舵装置と、前記操舵輪が操舵される操舵角を検出する角度検出手
段と、前記車両の走行する距離の累積値を前記車両が旋回するときの前記操舵輪の目標操
舵角に対応させた旋回データを記録した記憶手段と、前記操舵装置の動作を制御する制御
装置とを備え、前記始点から前記車両の走行した距離が前記旋回データの累積値に達した
時点で、前記制御装置は、前記操舵輪の操舵角が前記旋回データの目標操舵角に合致する
ように、前記操舵装置を動作させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、前記記憶手段が、逐次に増加する複数の前記累積値と、それぞれの累
積値毎に定められた複数の前記目標操舵角とを記録したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る自律旋回装置によれば、車両の旋回を開始するべき始点が位置検知手段に
よって検知されると同時に、距離検出手段が始点からの車両の走行した距離を検出する。
この距離が旋回データの累積値に達した時点で、制御装置は、操舵輪の実際の操舵角が旋
回データの目標操舵角の値に合致するように操舵装置を動作させる。これにより、操舵輪
の切り遅れ、或いは操舵輪の操舵角が目標操舵角よりも先行するという問題を解消するこ
とができる。従って、当該自律旋回装置によれば、操舵輪の設置する床等の状況、操舵輪
の材質、又は操舵輪の接地する面積の広さに無関係に、操舵輪を適切に操舵することがで
きる。また、操舵装置の動作するタイミングをオペレータの経験又は勘に頼って決めると
いう調整作業を殆ど省略することができる。
【0010】
更に、本発明に係る自律旋回装置は、逐次に増加する複数の累積値と、それぞれの累積
値毎に定められた複数の目標操舵角とを、記憶手段が旋回データとして記録している。こ
のため、制御装置は、始点からの車両の走行した距離が増加する毎に、操舵輪の実際の操
舵角が旋回データの目標操舵角の値に合致するように操舵装置を動作させるので、車両が
自律旋回している間に操舵角に僅な狂いが生じても、これを繰り返し修正することができ
る。従って、当該自律旋回装置によれば、自律旋回を終えた車両を予め設定された行程に
正確に従わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、操舵輪36を有する車両の走行する行程で操舵輪36を操舵する自律旋回装置
2の概略を示している。操舵輪36の接地する床等に走行ガイドが埋設され、図2に示す
車両32にガイドセンサが取付けられている点は、従来と同様である。自律旋回装置2は
、車両32が旋回を開始する始点4を検知する位置検知手段6と、車両32の走行した距
離を検出する距離検出手段8と、操舵輪36を操舵する操舵装置10と、操舵輪36が操
舵される操舵角を検出する角度検出手段12と、後述の旋回データを記録した記憶手段1
4と、コンピュータを主体とする制御装置16とを備える。
【0012】
操舵装置10は、操舵輪36の車軸18をアーム20で支持し、アーム20を操舵用モ
ータ22の回転力で鉛直軸周りに回転させるものである。操舵輪36は、アーム20と共
に回転することにより操舵される。更に、操舵装置10は、アーム20に内装されたギア
列を介して操舵輪36に駆動力を伝達する駆動用モータ24を備える。角度検出手段12
は、操舵装置10によるアーム20の回転する角度を検出し、これを制御装置16へ送信
するポテンショメータである。距離検出手段8は、駆動用モータ24が回転する回転角を
検出するロータリエンコーダであり、この回転角が制御装置16によって車両32の走行
した距離に換算される。
【0013】
上記の走行ガイドは、交流電流を通電される誘導線又は磁石であり、上記のガイドセン
サは、ピックアップコイル35を誘導線の上方で対を成すよう配置したものである。車両
32が走行ガイドに沿って直進するとき、走行ガイドから一対のピックアップコイル35
までのそれぞれの距離は等しくなるが、車両32が走行ガイドに対して車幅方向に逸れる
と、一対のピックアップコイル35の間に電位差が生じる。このとき、制御装置16は、
電位差が生じない位置に車両32を導くように、操舵装置10に操舵輪36を操舵させる
。また、走行ガイドが上記の磁石である場合、その磁場の中心をガイドセンサが検出し、
車両32が磁場の中心を通るよう操舵輪36の操舵が行われる。
【0014】
位置検知手段6は、床等の始点4に相当する場所に埋設された永久磁石を、ピックアッ
プコイル35で検出するものである。始点4は、位置検知手段6が車両32の走行する行
程の途中に特定できる地点を意味する。記憶手段14は、車両32が旋回しながら走行す
る距離の累積値と、車両32が旋回するときの操舵輪36の目標操舵角とを記録したRO
Mである。累積値は、操舵輪36が始点4から移動する距離であり、操舵輪36の軌跡を
表した曲線26の始点4からの長さである。目標操舵角は、車両32の旋回する半径r、
車両32の旋回する角度φ、及びホイルベースdに基づき算定される値である。
【0015】
図3に示すように、操舵角θは、操舵輪36の車両32に対する角度であり、操舵輪3
6が車両32を直進させる方向を向くときを0度と定められている。θの値が増加するこ
とは、操舵角が大きくなることを意味する。また、矢印F方向に前進する車両が右旋回す
るように操舵輪36が操舵されたとき、操舵角θの符号は+となり、同車両が左旋回する
ように操舵輪36が操舵されたとき、操舵角θの符号は−となる。旋回データは、以上に
述べた累積値と目標操舵角とを互いに対応させたものである。表1は、逐次に増加する複
数の累積値Xo と、これらの累積値Xo 毎に算定された複数の目標操舵角θo が、それぞ
れ対応することを示している。
【0016】
【表1】

【0017】
次に、自律旋回装置2による車両の自律旋回について説明する。以下のS1〜S6は、
図4のフローチャートのステップを指している。
【0018】
図2に示すように、車両32が矢印F方向に直進し、制御装置16は、操舵輪36が始
点4に達したことをピックアップコイル35によって認識する(S1)。これと同時に、
制御装置16は、操舵装置10に操舵輪36の操舵を開始させる(S2)。同図の操舵輪
36は、図3の+θ方向に操舵された姿勢である。車両32が更に走行するに従って、制
御装置16は、距離検出手段8が検出する駆動用モータ24の回転角に基づき、操舵輪3
6が始点4に達した時点から車両32の走行した実走距離Xを計測する(S3)。
【0019】
制御装置16は、実走距離Xが旋回データの累積値Xo に達した時点で、操舵輪36の
実際の操舵角θと、旋回データの目標操舵角θo とを比較し(S4)、操舵角θが目標操
舵角θo の値に合致するように操舵装置10を動作させる(S5)。例えば、実走距離X
が15mmであるときに実際の操舵角θが7.1度であれば、制御装置16は、θの値が
0.4度増加する方向へ操舵輪36を操舵し、[0004]番目の旋回データの目標操舵角θo
=7.5度に操舵角θを合致させる。或いは、上記の例で、操舵輪36の操舵が車両32
の走行よりも先行し、実際の操舵角θが目標操舵角θo を超えていれば、制御装置16は
、θの値が減少する方向へ操舵輪36を操舵し、操舵角θを7.5度に合致させる。
【0020】
以上に述べた操舵装置10の動作により、操舵輪36と床等との摩擦力に起因する操舵
輪36の切り遅れを解消することができる。このため、自律旋回を終えた車両32のガイ
ドセンサが走行ガイドの上方から逸れることがなく、車両32が予め設定された行程を逸
脱することはない。
【0021】
また、自律旋回装置2によれば、操舵装置10の動作するタイミングをオペレータの経
験又は勘に頼って決めるという調整作業を殆ど省略することができる。この効果は、操舵
輪36と床等との摩擦力が小さい場合も達成される。即ち、操舵装置10が受ける操舵の
反力が過小であっても、操舵輪36の操舵角θが目標操舵角θo よりも先行することはな
い。従って、自律旋回装置2によれば、操舵輪36を床面の状況、操舵輪36の材質、又
は操舵輪36の接地する面積の広さと無関係関に、操舵輪36を適切に操舵することがで
きる。
【0022】
また、制御装置16は、実走距離Xが増加する毎に記憶手段14にアクセスし(S6)
、操舵輪36の実際の操舵角θが旋回データの目標操舵角θo の値に合致するように、操
舵装置10を動作させることができる(S5)。このため、自律旋回装置2は、車両32
が自律旋回している間に操舵角θに僅な狂いが生じても、これを繰り返し修正できるとい
う利点がある。
【0023】
最後に、制御装置16は、[0050]番目の旋回データの目標操舵角θo =0度に操舵角θ
が合致するように操舵装置10を動作させる(S5)。この動作が完了したところで、自
律旋回装置2による車両32の自律旋回は終了する。
【0024】
尚、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修
正、又は変形を加えた態様でも実施できる。また、同一の作用又は効果が生じる範囲内で
、何れかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、操舵輪の個数、操舵輪の配置、又は車両の用途に関わりなく、あらゆる車両
の自律旋回に有益な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る自律旋回装置の構成を示すブロック図。
【図2】本発明の実施形態に係る自律旋回装置により操舵輪を操舵される車両が旋回する過程を示す平面図。
【図3】本発明の実施形態に係る自律旋回装置に適用した操舵輪の操舵角を説明する平面図。
【図4】本発明の実施形態に係る自律旋回装置の動作を説明するフローチャート。
【図5】車両が旋回する過程を説明する平面図。
【図6】車両が旋回する過程でその姿勢の変化を表した平面図。
【符号の説明】
【0027】
2…自律旋回装置、4…始点、6…位置検知手段、8…距離検出手段、10…操舵装置、
12…角度検出手段、14…記憶手段、16…制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵輪を有する車両が走行する行程で、前記車両を旋回させるために前記操舵輪を操舵
する自律旋回装置であって、
前記車両が旋回を開始する始点を検知する位置検知手段と、前記車両の走行した距離を
検出する距離検出手段と、前記操舵輪を操舵する操舵装置と、前記操舵輪が操舵される操
舵角を検出する角度検出手段と、前記車両の走行する距離の累積値を前記車両が旋回する
ときの前記操舵輪の目標操舵角に対応させた旋回データを記録した記憶手段と、前記操舵
装置の動作を制御する制御装置とを備え、
前記始点から前記車両の走行した距離が前記旋回データの累積値に達した時点で、前記
制御装置は、前記操舵輪の操舵角が前記旋回データの目標操舵角に合致するように、前記
操舵装置を動作させることを特徴とする自律旋回装置。
【請求項2】
前記記憶手段が、逐次に増加する複数の前記累積値と、それぞれの累積値毎に定められ
た複数の前記目標操舵角とを記録したことを特徴とする請求項1に記載の自律旋回装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−18054(P2010−18054A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177900(P2008−177900)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000232807)日本輸送機株式会社 (320)
【Fターム(参考)】