説明

薄膜形成用原料及び薄膜の製造方法

【課題】特にCVD用原料として好適な揮発特性、熱安定性等の性質を有するストロンチウムプレカーサを含有する薄膜形成用原料を提供すること。
【解決手段】ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウムに、下記一般式(1)で表される二座配位化合物を付加させて得られるストロンチウム化合物を含有してなる薄膜形成用原料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有するストロンチウム化合物を含有してなる薄膜形成用原料、該原料を用いた薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ストロンチウムを含有する薄膜は、高誘電体キャパシタ、強誘電体キャパシタ、ゲート絶縁膜、バリア膜等の電子部品の電子部材、光導波路、光スイッチ、光増幅器等の光通信用デバイスの光学部材、超電導部材として用いられている。
【0003】
上記の薄膜の製造法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法、塗布熱分解法やゾルゲル法等のMOD法、化学気相成長法等が挙げられるが、組成制御性、段差被覆性に優れること、量産化に適すること、ハイブリッド集積が可能である等多くの長所を有しているので、ALD(Atomic Layer Deposition)法を含む化学気相成長(以下、単にCVDと記載することもある)法が最適な製造プロセスである。
【0004】
CVD法においては、薄膜に金属原子を供給するプレカーサとして有機配位子を用いた金属化合物が使用されている。CVD法に用いる原料に適する化合物(プレカーサ)に求められる性質は、気化及び輸送時においては、液体の状態で輸送が可能であること、蒸気圧が大きく気化させやすいこと、熱に対して安定であることである。また、薄膜堆積時においては、熱及び/又は酸化による分解が容易に進行することである。ストロンチウムプレカーサとしては、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウム及びこれに有機化合物を付加させたビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウム付加物が多数報告されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウム及びビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウムエーテル付加体が開示されている。また、特許文献2には、エチルエーテル、アミルエーテル等の脂肪族エーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の複素環状系エーテル、フェナントロリン等の複素環窒素化合物を付加させたビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウムが開示されている。
【0006】
これらのビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウム化合物は、一般に用いられるCVD用プレカーサと比べ蒸気圧又は昇華圧が小さく揮発しにくいため、CVD法に充分な原料供給をするためには高温に加熱することが必要である。
しかし、上記のビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウム化合物は、熱安定性が不充分であり、加熱による原料の劣化により、CVD法に対して一定の原料供給ができない問題点を有している。
【0007】
また、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウム化合物は固体であるため、有機溶媒に溶解させた溶液を用いる液体供給法が好ましい方法である。液体供給法においては、プレカーサの有機溶剤に対する溶解性が小さいと気化装置中での温度変化や溶剤の部分的揮発、濃度変化が原因の固体析出を起こし、配管の詰まり等により供給量が経時的に変化する傾向があるので、プレカーサの有機溶剤に対する溶解性も薄膜の製造に安定したプロセスを与える重要な因子となっている。
【0008】
【特許文献1】特開平5−287534号公報(特に、実施例1、実施例2)
【特許文献2】特開平6−157191号公報(特に、[0017]、実施例1、実施例3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、特にCVD用原料として好適な揮発特性、熱安定性等の性質を有するストロンチウムプレカーサを含有する薄膜形成用原料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、検討を重ねた結果、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウムに特定の構造を有する二座配位化合物付加させて得られるストロンチウム化合物が、上記課題を解決し得ることを知見し、本発明に到達した。
【0011】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウムに、下記一般式(1)で表される二座配位化合物を付加させて得られるストロンチウム化合物を含有してなる薄膜形成用原料を提供するものである。
【0012】
【化1】

(式中、R1及びR6は、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R3〜R5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子、−NH―又は−NR−を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【0013】
また、本発明は、上記薄膜形成用原料を気化させて得たストロンチウム化合物を含有する蒸気を基体に導入し、これを分解及び/又は化学反応させて基体上に薄膜を形成する薄膜の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特にCVD用原料として好適な揮発特性、熱安定性等の性質を有するストロンチウムプレカーサを含有する薄膜形成用原料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の薄膜形成用原料及び該原料を用いた薄膜の製造方法について詳細に説明する。
本発明の薄膜形成用原料は、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウムに、上記一般式(1)で表される二座配位化合物を付加させて得られるストロンチウム化合物(以下、本発明に係るストロンチウム化合物ともいう)を含有してなる。
本発明に係る上記一般式(1)で表される二座配位化合物において、R1、R6、R3〜R5及びRで表される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、2−ブチル、イソブチル、t−ブチルが挙げられる。
【0016】
上記の二座配位化合物の具体例としては、下記に示す化合物No.1〜No.43が挙げられる。
【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
【化5】

【0021】
【化6】

【0022】
上記の二座配位化合物の中でも、X及びYが酸素原子であるもの(化合物No.1〜12)が、配位させたストロンチウム化合物の有機溶剤に対する溶解性が良好であるので好ましい。
【0023】
また、上記の二座配位化合物は、下記一般式(2)の如く、通常ビス(ペンタメチルシクロペンタジエン)ストロンチウム1分子に対して1分子の割合で配位するものであり、このような配位形態であるものが熱安定性、揮発特性の面でCVD用原料のプレカーサとして適するので好ましい。
【0024】
【化7】

(式中、R1〜R6、X及びYは、上記一般式(1)と同様である。)
【0025】
本発明に係るストロンチウム化合物は、その製造方法により、特に制限を受けず、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウムに、二座配位化合物を付加させる周知の方法を応用して製造することができる。このような製造方法としては、1)ペンタメチルシクロペンタジエニルナトリウムとハロゲン化ストロンチウムとをエーテル系溶媒中で反応させた後、所望の二座配位化合物を加える方法、2)金属ストロンチウムとペンタメチルシクロペンタジエンとのトルエン懸濁液を加熱還留して反応させた後、所望の二座配位化合物を加える方法、3)金属ストロンチウムとペンタメチルシクロペンタジエンとのトルエン懸濁液を冷却してアンモニアガスを導入して反応させた後、所望の配位化合物を加える方法が挙げられ、これらの方法の中では、前記3)のアンモニアガスを導入する方法が反応時間が短く効率よく製造することができるので好ましい。
【0026】
本発明の薄膜形成用原料は、本発明に係るストロンチウム化合物を薄膜のプレカーサとしたものであり、プロセスによって形態が異なる。本発明の薄膜形成用原料は、その物性からストロンチウム化合物を気化させる工程を有するCVD用原料として特に有用である。
【0027】
本発明の薄膜形成用原料が化学気相成長(CVD)用原料である場合、その形態は使用されるCVD法の輸送供給方法等の手法により適宜選択されるものである。
【0028】
上記の輸送供給方法としては、CVD用原料を原料容器中で加熱及び/又は減圧することにより気化させ、必要に応じて用いられるアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に堆積反応部へと導入する気体輸送法、CVD用原料を液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて、堆積反応部へと導入する液体輸送法がある。気体輸送法の場合は、本発明に係るストロンチウム化合物そのものがCVD用原料となり、液体輸送法の場合は、本発明に係るストロンチウム化合物を有機溶剤に溶かした溶液がCVD用原料となる。
【0029】
また、多成分系薄膜を製造する場合の多成分系CVD法においては、CVD用原料を各成分独立で気化、供給する方法(以下、シングルソース法と記載することもある)と、多成分原料を予め所望の組成で混合した混合原料を気化、供給する方法(以下、カクテルソース法と記載することもある)がある。カクテルソース法の場合、本発明に係るストロンチウム化合物と他のプレカーサとの混合物或いはこれら混合物に有機溶剤媒を加えた混合溶液がCVD用原料である。
【0030】
上記のCVD用原料に使用する有機溶剤としては、本発明に係るストロンチウム化合物に対して、不活性の有機溶剤を用いることが出来る。該有機溶剤としては、例えば;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類が挙げられ、これらは、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独又は二種類以上の混合溶媒として用いられる。これらの有機溶剤を使用する場合、該有機溶剤中におけるプレカーサ成分の合計量が0.01〜2.0モル/リットル、特に0.05〜1.0モル/リットルとなるようにするのが好ましい。
【0031】
また、シングルソース法又はカクテルソース法を用いた多成分系のCVD法において、本発明に係るストロンチウム化合物と共に用いられる他のプレカーサとしては、特に制限を受けず、CVD用原料に用いられている周知一般のプレカーサを用いることができる。
【0032】
上記の他のプレカーサとしては、アルコール化合物、グリコール化合物、β−ジケトン化合物、シクロペンタジエン化合物及び有機アミン化合物等の有機配位化合物から選択される一種類又は二種類以上と、珪素、ホウ素、リン又は金属との化合物が挙げられる。金属種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等の1族元素、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム等の2族元素、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド元素(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム)、アクチノイド元素等の3族元素、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウムの4族元素、バナジウム、ニオブ、タンタルの5族元素、クロム、モリブデン、タングステンの6族元素、マンガン、テクネチウム、レニウムの7族元素、鉄、ルテニウム、オスミウムの8族元素、コバルト、ロジウム、イリジウムの9族元素、ニッケル、パラジウム、白金の10族元素、銅、銀、金の11族元素、亜鉛、カドミウム、水銀の12族元素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウムの13族元素、ゲルマニウム、錫、鉛の14族元素、砒素、アンチモン、ビスマスの15族元素、ポロニウムの16族元素が挙げられる。
【0033】
上記の他のプレカーサは、シングルソース法の場合は、本発明に係るストロンチウム化合物と、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似している化合物が好ましく、カクテルソース法の場合は、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似していることに加え、混合時に化学反応による変質を起こさないものが好ましい。
【0034】
本発明の薄膜形成用原料は、これを構成する成分以外の不純物金属元素分、不純物塩素等の不純物ハロゲン分、不純物有機分を極力含まないようにする。不純物金属元素分は元素毎では100ppb以下が好ましく、10ppb以下がより好ましい。総量では1ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。不純物ハロゲン分は100ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、1ppm以下が更に好ましい。不純物有機分は総量で500ppm以下が好ましく、50ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましい。また、水分は薄膜形成用原料中のパーティクル発生やCVD法によるパーティクル発生の原因となるので、金属化合物及び有機溶剤については、それぞれの水分の低減のために、使用の際には予めできる限り水分を取り除いたほうがよい。金属化合物及び有機溶剤それぞれの水分量は10ppm以下が好ましく、1ppm以下がより好ましい。
【0035】
また、本発明の薄膜形成用原料は、製造される薄膜のパーティクル汚染を低減又は防止するために、液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定において、0.3μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に1000個以下であることがより好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に1000個以下であることが更に好ましい。
【0036】
本発明の薄膜の製造方法は、本発明の薄膜形成用原料を用いるもので、本発明に係るストロンチウム化合物及び必要に応じて用いられる他のプレカーサを気化させた蒸気、並びに必要に応じて用いられる反応性ガスを基板上に導入し、次いで、プレカーサを基板上で分解及び/又は化学反応させて薄膜を基板上に成長、堆積させるCVD法によるものである。原料の輸送供給方法、堆積方法、製造条件、製造装置等については、特に制限を受けるものではなく、周知一般の条件、方法を用いることができる。
【0037】
上記の必要に応じて用いられる反応性ガスとしては、例えば、酸化性のものとしては、酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等が挙げられ、還元性のものとしては水素が挙げられ、また、窒化物を製造するものとしては、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア、窒素等が挙げられる。
【0038】
また、上記の輸送供給方法としては、前記の気体輸送法、液体輸送法、シングルソース法、カクテルソース法等が挙げられる。
【0039】
また、上記の堆積方法としては、原料ガス、又は原料ガス及び反応性ガスを熱のみにより反応させ薄膜を堆積させる熱CVD,熱とプラズマを使用するプラズマCVD、熱及び光を使用する光CVD、熱、光及びプラズマを使用する光プラズマCVD、CVDの堆積反応を素過程に分け、分子レベルで段階的に堆積を行うALD(Atomic Layer Deposition)が挙げられる。
【0040】
また、上記の製造条件としては、反応温度(基板温度)、反応圧力、堆積速度等が挙げられる。反応温度については、本発明に係るストロンチウム化合物が充分に反応する温度である160℃以上が好ましく250℃〜800℃がより好ましい。また、反応圧力は、熱CVD、光CVDの場合、大気圧〜10Paが好ましく、プラズマを使用する場合は、2000Pa〜10Paが好ましい。また、堆積速度は、原料の供給条件(気化温度、気化圧力)、反応温度、反応圧力によりコントロールすることが出来る。堆積速度は、大きいと得られる薄膜の特性が悪化する場合があり、小さいと生産性に問題を生じる場合があるので、0.5〜5000nm/分が好ましく、1〜1000nm/分がより好ましい。また、ALDの場合は、所望の膜厚が得られるようにサイクルの回数でコントロールされる。
【0041】
また、本発明の薄膜の製造方法においては、薄膜堆積の後に、より良好な電気特性を得るために不活性雰囲気下、酸化性雰囲気下又は還元性雰囲気下でアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。この場合の温度は、通常400〜1200℃であり、500〜800℃が好ましい。
【0042】
本発明の薄膜形成用原料を用いた本発明の薄膜の製造方法により製造される薄膜は、他の成分のプレカーサ、反応性ガス及び製造条件を適宜選択することにより、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、ガラス等の所望の種類の薄膜とすることができる。製造される薄膜の種類としては、例えば、ストロンチウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムストロンチウム、タンタル酸ビスマスストロンチウム、タンタルニオブ酸ビスマスバリウムストロンチウム等が挙げられ、これらの薄膜の用途としては、例えば、高誘電キャパシタ膜、ゲート絶縁膜、ゲート膜、強誘電キャパシタ膜、コンデンサ膜、バリア膜等の電子部品部材、光ファイバ、光導波路、光増幅器、光スイッチ等の光学ガラス部材が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例、評価例及び比較例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施例等によって、何ら制限を受けるものではない。
【0044】
[実施例1]ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウム1モルに対して、化合物No.1を1モル配位させたストロンチウム化合物(Sr化合物1)の製造
乾燥アルゴン気流中、ペンタメチルシクロペンタジエン(0.20モル)と脱水トルエン(2.7モル)との混合液に、金属ストロンチウム(0.089モル)を加え、−40℃に冷却した後、アンモニアガスを溶解させ、−40℃にて3〜4時間反応させた。反応液が濃紺色となりかつ金属ストロンチウムが全て消失したことを確認し、液温を室温に戻した後、加熱と減圧によりトルエンを留去した。残渣として得られたビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウムのアンモニア付加体に、化合物No.1(7.5モル)を加えて溶解させた後、不溶性不純物をろ別した。ろ液を濃縮し、析出した白色針状結晶を取り出し、目的物であるSr化合物1を収率56%で得た。得られたSr化合物1について、重ベンゼン溶液における1H−NMR測定、ICP発光分析法によりSr含有量測定を行った。結果を下記に示す。
1H−NMR(ケミカルシフトppm;多重度;H数)
(2.130;シングレット;30)(2.584;ブロード:4)(2.678;ブロード;6)
・元素分析 Sr:19.4質量%(理論値:19.5%)
【0045】
[実施例2]ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウム1モルに対して、化合物No.2を1モル配位させたストロンチウム化合物(Sr化合物2)の製造
1,2−ジメトキシエタンの代わりに、1,2−ジエトキシエタンを使用した以外は上記実施例1と同様の方法で、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウム1モルに対して、化合物No.2を1モル配位させたストロンチウム化合物(Sr化合物2)を収率52%で得た。得られたSr化合物2について上記実施例1と同様の分析を行った。結果を下記に示す。
・1H−NMR (ケミカルシフトppm;多重度;H数)
(2.170;シングレット;30)(0.831;ブロード:6)(2.662;ブロード;4)(3.009;ブロード;4)
・ 元素分析
Sr:18.7質量%(理論値:18.4%)
【0046】
[実施例3]ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウム1モルに対して、化合物No.4を1モル配位させたストロンチウム化合物(Sr化合物3)の製造
1,2−ジメトキシエタンの代わりに、1,2−ジブトキシエタンを使用した以外は上記実施例1と同様の方法で、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウム1モルに対して、化合物No.4を1モル配位させたストロンチウム化合物(Sr化合物3)を収率55%で得た。得られたSr化合物3ついて上記実施例1と同様の分析を行った。結果を下記に示す。
・1H−NMR (ケミカルシフトppm;多重度;H数)
(0.870;トリプレット;6)(1.090;ブロード;4)(1.421;ブロード:4)(2.188;シングレット;30)(2.825;ブロード;4)(3.116;ブロード;4)
・元素分析 Sr:17.6質量%(理論値:17.4%)
【0047】
[実施例4]ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウム1モルに対して、化合物No.9を1モル配位させたストロンチウム化合物(Sr化合物4)の製造
1,2−ジメトキシエタンの代わりに、1−メチル−1,2−ジメトキシエタンを使用した以外は上記実施例1と同様の方法で、白色固体であるビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウム1モルに対して、化合物No.9を1モル配位させたストロンチウム化合物(Sr化合物4)を収率50%で得た。得られたSr化合物4ついて上記実施例1と同様の分析を行った。結果を下記に示す。
・1H−NMR(ケミカルシフトppm;多重度;H数)
(0.385;ブロード;3)(2.139;シングレット;30)(2.635;ブロード;2)(2.695:ブロード;6)(3.061;ブロード;1)
・元素分析 Sr:18.8質量%(理論値:19.0%)
【0048】
[評価例1]
上記実施例1〜4で得たSr化合物1〜4並びにビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウム1モルに対してテトラヒドロフランが2モル配位した化合物(比較Sr化合物)について、TG−DTAを測定した。なお、測定条件は、Ar100ml/min、1℃/min昇温であり、測定サンプル量は表2に記載した。295℃での残量と質量減少の様子について表1に示す。
【表1】

【0049】
上記表1より、Sr化合物1〜4は、比較Sr化合物と比較すると、付加化合物の乖離がないことが確認できた。このことはCVD原料として揮発特性が良好であることを示す。中でもSr化合物1とSr化合物2は、揮発残量が少なく、熱安定性が良好である。
【0050】
[実施例5]チタン酸ストロンチウム薄膜の製造
上記実施例で得たSr化合物1の0.07モル%1,2−ジメトキシエタン溶液をストロンチウムソースに用い、チタニウム化合物にはチタニウムテトラターシャリーブトキシドの0.07モル%の1,2−ジメトキシエタン溶液を用いて図1に示すCVD装置により、以下の条件、工程でシリコンウエハ上にチタン酸ストロンチウム薄膜を製造した。得られた薄膜について、蛍光X線により膜厚測定、薄膜組成の確認を行ったところ、膜厚は10nmであり、膜組成はチタン酸ストロンチウムであった。
(条件)
反応温度(基板温度);350℃、反応性ガス;酸素
(工程)
下記(1)〜(5)からなる一連の工程を1サイクルとして、20サイクル繰り返し、最後に500℃で3分間アニール処理を行った。
(1)気化室温度:170℃、気化室圧力90Paの条件で気化させたストロンチウム化合物の蒸気を導入し、系圧90 Paで2秒間堆積させる。
(2)3秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
(3)気化室温度:160℃、気化室圧力90Paの条件で気化させたチタニウム化合物の蒸気を導入し、系圧90Paで2秒間堆積させる。
(4)反応性ガスを導入し、系圧力90Paで2秒間反応させる。
(5)2秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、実施例5において用いた、本発明の薄膜の製造方法に用いられるCVD装置を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ストロンチウムに、下記一般式(1)で表される二座配位化合物を付加させて得られるストロンチウム化合物を含有してなる薄膜形成用原料。
【化1】

(式中、R1及びR6は、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R3〜R5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子、−NH―又は−NR−を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項2】
上記一般式(1)において、X及びYが酸素原子である請求項1に記載の薄膜形成用原料。
【請求項3】
上記ストロンチウム化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である請求項1に記載の薄膜形成用原料。
【化2】

(式中、R1〜R6、X及びYは、上記一般式(1)と同様である。)
【請求項4】
上記一般式(2)において、X及びYが酸素原子である請求項3に記載の薄膜形成用原料。
【請求項5】
さらに有機溶剤を含有してなる請求項1〜4のいずれかに記載の薄膜形成用原料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の薄膜形成用原料を気化させて得たストロンチウム化合物を含有する蒸気を基体に導入し、これを分解及び/又は化学反応させて基体上に薄膜を形成する薄膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−40707(P2009−40707A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206088(P2007−206088)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】