説明

薄膜製造方法

【課題】 広い面積にわたって均一に炭素含有固体膜を形成することのできる薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】 チャンバー内で炭化水素誘導体からなる原料流体と二酸化炭素からなるキャリア流体を混合して超臨界状態を形成し、白金、タングステン、コバルト、ニッケル、鉄またはその合金から選ばれたすくなくとも1種の金属触媒での触媒反応により超臨界流体中の原料流体に活性種を発生させ、その流体を基板に吹き付けることにより、基板上に炭素含有固体膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板等の表面に炭素含有固体膜を薄くかつ均一に形成する薄膜製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板等の表面に炭素含有固体膜を形成するものとしては、プラズマCVD装置を用いたものが知られている。(特許文献1)
【特許文献1】特公平6−60404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、プラズマCVD装置を用いて基板等の表面に薄膜を形成する場合、チャンバー内を減圧しなければならないことから、基板の大きさが規制されるうえ、プラズマを均一に作用させることが難しかった。また、発生する活性種の濃度および原料の濃度が低く、気相から成長させることによる薄膜成長速度が遅いという問題があった。
【0004】
本発明はこのよう点に着目してなされたもので、広い面積にわたって均一かつ高速に薄膜を形成することのできる製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するために、本発明はチャンバー内に収容した触媒体に二酸化炭素と炭化水素誘導体からなる原料流体を超臨界状態で吹きつけ、前記触媒体と原料流体の接触反応によって、原料流体の少なくとも一部を分解し、分解によって生成された活性種の雰囲気中に基板を晒し、基板にシリコン含有固体膜を形成するようにしたことを特徴としている。
【0006】
本発明では、原料流体と触媒体との接触により、原料流体の少なくとも一部を分解して、炭素ラジカルを形成し、この炭素ラジカルの雰囲気内に設置されている基板の表面に炭素含有固体膜を形成するようにしている。また、分解により発生した水素は二酸化炭素の超臨界流体にすみやかにとけ込み、膜中には残らない。このため、チャンバー内全体が均一な雰囲気となり、炭素含有固体膜を基板全体で均一に形成することができることになる。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、二酸化炭素と原料流体とをともに超臨界状態にしてチャンバー内に導入し、チャンバー内の活性種発生装置に接触させることで、遊離炭素を形成させ、低温で基板表面上に薄くて緻密な炭素含有固体膜を形成することができる。それゆえ、従来では作製が難しかった、ガラス転移温度が低い、ガラスやプラスチック基板上でも良質なダイヤモンドライクカーボン膜を得ることができた。
【0008】
しかもこの場合、原料流体の濃度が通常使用されているCVD装置と較べて遙かに高いために、核発生の頻度が高まるための、ピンホールフリーで全体的に均一な薄膜を形成することができる。また、チャンバー内の雰囲気を真空にする必要もないことから、作業性にも優れることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図は本発明を実施する装置の一例を示し、チャンバー(1)内に活性種発生装置(2)を配置して、チャンバー(1)内を活性種発生装置で区画するように構成し、この活性種発生層で区画された一方の空間(3)に原料流体の吹き込み口(4)を位置させるとともに、他方の空間(5)にガス排出口(6)を位置させ、この他方の空間(5)内に基板(7)を位置させている。
【0010】
活性種発生手段(2)としては、白金、タングステン、コバルト、ニッケル、鉄、またはその合金等の抵抗発熱体を使用しており、2000℃以下の温度に加熱することにより、反応条件を整えて使用するようになっている。なお、この触媒の加熱はレーザ加熱や電磁波加熱であっても良い。この場合、2000℃は二酸化炭素がプラズマ現象を起こす温度であり、二酸化炭素の臨界温度(31℃)以上の温度でプラズマ現象を発生させない温度領域に加熱する。
また、活性種発生装置(2)として白金線や鉄線を利用することも可能である。
【0011】
そして炭素含有固体膜を形成する場合には、そして炭素含有固体膜を形成する場合には、キャリア流体としてはキャリアガス導入口(41)より導入される二酸化炭素(8)と原料流体としては炭化水素誘導体(9)を混合して使用するようにしており、この流体を超臨界状態で活性種発生装置(2)に接触させるようにしている。
【0012】
また、基板(7)としてはガラス基板やアルミニウム基板、シリコン基板、合成樹脂基板を使用している。
【0013】
上述のように構成した固体膜製造方法では、チャンバー(1)内に二酸化炭素(8)とカーボンソースとしての炭化水素誘導体(9)とをそれぞれ超臨界状態で供給する。超臨界状態で二酸化炭素と炭化水素誘導体を導入すると、両流体が均一に混合され、活性種発生装置(2)に接触し、炭化水素誘導体が炭素と水素に分解して、この遊離炭素が基板(7)の表面に達して、薄くて、緻密で固い多結晶状のダイヤモンドライクカーボン膜を形成する。このとき、二酸化炭素はキャリアガスとして働き、遊離炭素の原料にはなっていない。
【0014】
なお、活性種発生装置(2)との接触により原料流体から分解生成した水素ガスは、すみやかに超臨界状態の二酸化炭素に溶けて、導入された二酸化炭素と共に、ガス排出口(6)から排出される。
【0015】
上記の実施形態では、二酸化炭素と炭化水素誘導体を超臨界状態でチャンバー(1)内に個別に導入するようにしたが、二酸化炭素と炭化水素誘導体とを超臨界状態で混合させ、その混合流体をチャンバー(1)内に導入するようにしても良い。
【0016】
[実施例1]
まず、予め洗浄したガラス基板(7)を、チャンバー(1)にセットする。次に、ターボ分子ポンプ(55)、ロータリーポンプ(56)を作動させてチャンバー(1)内を1〜2×10-6Pa程度にまで減圧し、この状態を約5分保持して特にチャンバー内に持ち込まれた水分や酸素を排気する。また、基板(7)の温度を200℃に加熱保持する。
【0017】
次いで、活性種発生装置(白金系触媒)(2)に通電し、その温度を1600〜1800℃程度に上げる。本例では1800℃に設定する。そして、この状態で10分間保持する。
【0018】
次いで、前記反応ガス制御系からメタン(CH4 )についてもこれをチャンバー(1)内に導入する。すなわち、本例では、超臨界二酸化炭素流量を90sccm/minとし、CH4 流量を9sccm/min(100%メタン)とすることによって原料ガスをチャンバー内(1)に供給する。チャンバー内の圧力は5MPa、50℃に保つ。成膜速度80nm/minで1分間成膜を行い、厚さ40nm程度のダイヤモンドライクカーボン膜を形成する。
【0019】
このようにして原料ガスをチャンバー(1)内に供給すると活性種発生装置(2)によって原料ガスにこれらを化学反応させるエネルギーが供給され、これによりCH4 が分解してCが生成され、前述したようにガラス基板(7)表面上に炭素が堆積してダイヤモンドライクカーボン膜(10)が高速で形成される。得られたダイヤモンドライクカーボン膜(10)は、本装置で形成されたことにより、その成膜条件によって結晶粒径が100nm以下の所望する粒径(例えば1〜2nm程度の微細粒径)に制御されたものとなっており、またその水素含有量も原子比が0.1〜2.0at%程度に抑えられたものとなっている。
【0020】
このようにしてダイヤモンドライクカーボン膜(10)に形成したら、前記反応ガス制御系によってCH4 ガスの流量をゼロにし、二酸化炭素のみを流し続ける。そして、この状態を5分間続けたら、 活性種発生装置(2)への電力供給を停止してその温度を下げる。次いで、二酸化炭素の流量もゼロにし、さらに反応室(51)内を1〜2×10-6Pa程度にまで減圧し、この状態を約5分保持して特にチャンバー内に導入したCH4 を排気する。その後、チャンバー内を大気圧に戻し、ガラス基板(7)を外部に取り出す。
【0021】
[実施例2]
まず、予め洗浄したガラス基板(7)を、チャンバー(1)にセットする。次に、ターボ分子ポンプ(55)、ロータリーポンプ(56)を作動させて反応室(51)内を1〜2×10-6Pa程度にまで減圧し、この状態を約5分保持して特にチャンバー内に持ち込まれた水分や酸素を排気する。また、基板(7)の温度を200℃に加熱保持する。
【0022】
次いで、活性種発生装置(白金径触媒)(2)に通電し、その温度を1600〜1800℃程度に上げる。本例では1800℃に設定する。そして、この状態で10分間保持する。
【0023】
次いで、前記反応ガス制御系からメタノールについてもこれをチャンバー(1)内に導入する。すなわち、本例では、超臨界二酸化炭素流量を90sccm/minとし、メタノール 流量を9sccm/min(100%メタノール)とすることによって原料ガスをチャンバー内(1)に供給する。チャンバー内の圧力は5MPa、50℃に保つ。成膜速度80nm/minで1分間成膜を行い、厚さ40nm程度のシリコン膜を形成する。
【0024】
このようにして原料ガスをチャンバー(1)内に供給すると活性種発生装置(2)によって原料ガスを分解し、これにより、まず炭素ラジカルが生成し、水素が脱離する。そして、これらが反応して、前述したようにガラス基板(7)表面上に炭素が堆積してダイヤモンドライクカーボン膜が高速で形成される。得られたダイヤモンドライクカーボン膜は、本装置で形成されたことにより、その成膜条件によって結晶粒径が100nm以下の所望する粒径(例えば1〜2nm程度の微細粒径)に制御されたものとなっており、またその水素含有量も原子比が0.1〜2.0at%程度に抑えられたものとなっている。
【0025】
このようにしてダイヤモンドライクカーボン膜(10)を形成したら、前記反応ガス制御系によってメタノールガスの流量をゼロにし、二酸化炭素のみを流し続ける。そして、この状態を5分間続けたら、 活性種発生装置(2)への電力供給を停止してその温度を下げる。次いで、二酸化炭素の流量もゼロにし、さらにチャンバー(1)内を1〜2×10-6Pa程度にまで減圧し、この状態を約5分保持して特にチャンバー内に導入したCH4 を排気する。その後、チャンバー内を大気圧に戻し、ガラス基板(7)を外部に取り出す。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、基板表面に薄くて緻密な炭素含有固体膜(DLC)を形成することができるので、各種工具、治具、耐摩擦材、スピーカ振動板、各融合炉壁材、半導体素子等の製造分野に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明方法を実施する装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0028】
1…チャンバー、2…活性種発生装置、3…空間、4…原料ガス導入口、5…空間、6…ガス排気口、7…基板、8…キャリア流体、9…原料流体、10…ダイヤモンドライクカーボン、41…キャリアガス導入口、55…ターボ分子ポンプ、56…ロータリーポンプ。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内で原料流体とキャリア流体を混合して超臨界状態を形成し、触媒反応により超臨界流体中の原料流体に活性種を発生させ、その流体を基板に吹き付けることにより、基板上に炭素含有固体膜を形成することを特徴とする薄膜製造方法。
【請求項2】
触媒体として、白金、タングステン、コバルト、ニッケル、鉄またはその合金から選ばれたすくなくとも1種の金属を使用する請求項1に記載した薄膜製造方法。
【請求項3】
キャリア流体として二酸化炭素、原料流体としての炭化水素誘導体をあらかじめ混合した後に、チャンバー内に導入し、炭素含有固体膜を形成する請求項1に記載した薄膜製造方法。
【請求項4】
キャリア流体として二酸化炭素、原料流体としての炭化水素誘導体をチャンバー内に個別に導入して炭素含有固体膜を形成する請求項1に記載した薄膜製造方法。
【請求項5】
炭化水素誘導体としてメタン等の炭化水素、アルコール等の酸素を含んだ有機物を用いてダイヤモンドライクカーボン固体膜を形成する請求項1〜4のいずれか1項に記載した薄膜製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−144084(P2006−144084A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337176(P2004−337176)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(598084895)株式会社アイテック (24)
【出願人】(504431913)
【Fターム(参考)】