説明

表面コートフィラー,複合接着剤およびパワーモジュール

【課題】高充填率で接着剤に混入するのに適したフィラー構造、およびこれを用いた複合接着剤およびパワーモジュールを提供する。
【解決手段】パワーモジュール10は、半導体チップ11と、ヒートシンク21と、金属配線23と、金属配線23とヒートシンク21との間に設けられた複合接着剤26と、半田層14とを備えている。複合接着剤26は、接着剤Eに大径表面コートフィラーCF1と、小径表面コートフィラーCF2とを混入して構成されている。各表面コートフィラーCF1,CF2は、無機絶縁性物質からなるフィラーFと、フィラーFの表面を覆う樹脂皮膜Lとからなり、全体の外形が実質的に球面体である。大径表面コートフィラーCF1は、整列しており、大径表面コートフィラーCF1同士の間隙に小径表面コートフィラーCF2が入り込んでいて、高充填率でフィラーFが充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面コートフィラー,複合接着剤およびパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
図8は、従来のIGBTチップを搭載したパワーモジュールの構造を示す断面図である。同図に示すように、CuMo等により構成されている放熱基板101の主面側には、放熱基板101に、半田層102により固定されたAl板104と、Al板104の主面にAlろうによって固定されたAlN板106と、AlN板106の主面にAlろうによって固定されたAl配線108と、Al配線108の上に、半田層109により固定された半導体チップ120とを備えている。また、放熱基板101の裏面側には、グリース112によりフィン付きのヒートシンク113が取り付けられている。上記Al板104,AlN板106およびAl配線108は、DBA基板として一体的に用いられている。
【0003】
このように、Al板104,AlN板106およびAl配線108をDBA基板(絶縁層を含む配線部材)として用いたパワーモジュールの構造は、たとえば、特許文献1に記載されている(同文献の図5参照)。同図には、チップ直下の半田層(同図の符号122)には、液相点が300℃〜330℃の高融点半田(Sn−90%Pb)を用い、下方の半田層(同図の符号125)には、液相点が216℃程度の低融点半田(Sn−50%Pb)を用いている例が開示されている。なお、本明細書においては、組成割合を表す「%」は、重量%を示すものとする。
【特許文献1】特開2001−168256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記図8に開示される構造では、互いに融点が異なる2つの半田層102,109が設けられている。一般に、コストの上昇を回避したい場合には、できるだけ高融点のろう材(たとえば、特許文献1に記載されているような,融点が600℃程度のAl−11%Si−2%Mg)の使用を避けて、リフロー炉を利用できる半田を用いる。そこで、図8に示す下方の半田層102には、たとえば特許文献1における低融点半田(Sn−50%Pb)や、液相点が183℃程度の共晶半田(Sn−37%Pb)を用い、上方の半田層109には、たとえば液相点が300℃〜330℃の高融点半田(Sn−90%Pbなど)を用いるのが一般的である。すなわち、先の半田付け工程では高融点半田を用い、後の半田付け工程では、先の工程で形成された半田層がリフロー炉内で融解しないように、低融点半田を用いるのである。
【0005】
しかしながら、上記従来のパワーモジュールのように、2つの半田層を設けると、半田材料のコストと、2回のリフロー工程を行うことによる製造コストとによって、パワーモジュールのコストが多大となる。
【0006】
そこで、一方の半田層に代えて、接着剤を用いることが考えられる。その場合、熱抵抗を小さく維持するためには、無機絶縁性フィラーを接着剤に混入する必要があるが、熱伝導率の高い無機絶縁性フィラーを高充填率で接着剤に混入すると、粘度が極端に高くなり、樹脂絶縁層を形成するのが困難であるという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、高充填率で接着剤に混入するのに適したフィラー構造、およびこれを用いた複合接着剤およびパワーモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の表面コートフィラーは、無機絶縁性物質からなるフィラーの表面を覆う樹脂被膜を設けて、外形を曲面体にしたものである。
【0009】
無機絶縁性物質からなるフィラーのうちでも、熱伝導率が高い材料は高硬度であるために、表面の凹凸を平滑化することが困難である。そのために、接着剤に直接フィラーを高充填率で混入すると、高粘度となって印刷等で層状に形成することが困難となる。それに対し、本発明の表面コートフィラーによると、外形が曲面体であるので、接着剤中に高充填率で混入したときにも、粘度の上昇を抑制することができ、複合接着剤を形成するのに適したものとなる。特に、球面体とすることにより、表面コートフィラーが複合接着剤中で自由に移動できるので、粘度をより小さくすることができる。
【0010】
本発明の複合接着剤は、充填剤として、本発明の表面コートフィラーを混入したものである。
【0011】
これにより、上述のように、表面コートフィラーを高充填率で混入しても、接着剤の粘度の上昇を抑制することができるので、高充填率のフィラーによる,高い熱伝導率を有する複合接着剤が得られる。
【0012】
本発明の複合接着剤において、表面コートフィラーの粒径が所定範囲である30〜60μmの範囲内に収まっていて、表面コートフィラーが整列していることにより、フィラーの充填率の高い複合接着剤が得られる。
【0013】
また、大径の表面コートフィラーと小径の表面コートフィラーとに区分けされていて、小径の表面コートフィラーが大径の表面コートフィラー同士の間隙に入っていることにより、さらにフィラーの充填率の高い複合接着剤が得られる。そのためには、大径の表面コートフィラーの径が上記所定範囲内に収まっていて、小径の表面コートフィラーの径がその0.2倍(6〜12μm)の範囲内に収まっていればよい。
【0014】
フィラーがAlN,BN,SiN,SiC,Alおよびダイヤモンドから選ばれた少なくとも1種の材料であることにより、特に、熱伝導率の高い複合接着剤が得られる。
【0015】
本発明の複合接着剤は、接着剤を熱可塑性の状態で固化させて、固体シート状に形成することができ、これにより、各種機器中の複合接着剤を形成するために便利な接着剤シートが得られる。
【0016】
本発明のパワーモジュールは、半導体チップ用の配線部材と支持基材との間に、本発明の複合接着剤を介在させたものである。
【0017】
これにより、半田層を形成する工程の削減により、製造コストの削減を図りつつ、複合接着剤中のフィラーの充填率を高めることが可能になるので、放熱性能の高いパワーモジュールが得られる。
【0018】
特に、支持部材が、フィンを有するヒートシンク部材であることにより、構造が簡素化されてコストの低減を図ることができるとともに、半導体チップから熱交換媒体に至る経路の熱抵抗が小さくなるので、放熱性能がより高くなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の表面コートフィラー、またはこれを用いた複合接着剤によると、フィラーの充填率を高めつつ、製造工程を円滑に進めることが可能な複合接着剤を提供することができる。
そして、本発明の複合接着剤を用いたパワーモジュールにより、放熱性能の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
−パワーモジュールの構造−
図1は、実施の形態におけるパワーモジュールセットの構造を示す斜視図である。同図に示すように、本実施形態のパワーモジュールセットは、放熱器50の上に、複数のパワーモジュール10を取り付けて構成されている。放熱器50は、天板50aと天板50aに接合された容器50bとからなり、天板50aには、パワーモジュール10を組み込むための多数の矩形状貫通穴が設けられている。本実施形態においては、矩形状貫通穴が多数設けられているが、1つだけでもよい。放熱器50を構成する天板50aと容器50bとは、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、ダイキャスト,押し出し,鍛造,鋳造,機械加工等によって組み立てることができる。
【0021】
本実施の形態では、放熱器50は天板50aと容器50bとを個別に形成してから両者を接合しているが、天板と容器とを一体に形成してもよい。その場合、たとえば一体型を用いたダイキャストにより放熱器を形成することができる。
【0022】
図2は、実施の形態に係るパワーモジュールセットのII-II線における断面図である。ただし、図2において配線構造の図示は省略されている。図3は、図2の一部を拡大して示す断面図である。図2および図3に示すように、本実施の形態のパワーモジュールセットにおいて、放熱器50の天板50aと容器50bとの間の空間51には、熱交換媒体としての冷却水が図2の紙面に直交する方向に流れている。パワーモジュール10は、Oリング25により気密を保持しつつボルト54により天板50aにネジ止めされている。また、パワーモジュール10は、主要部材として、IGBTなどの半導体素子が形成された半導体チップ11と、半導体チップ11内の半導体素子と外部部材とを電気的に接続するための金属配線23と、金属配線23と半導体チップ11とを接合する,Pbフリー半田を含む半田層14と、半導体チップ11で発生した熱を外方に放出するためのヒートシンク21と、金属配線23をヒートシンク21に固着する複合接着剤26とを備えている。図3に示すように、半導体チップ11の上面および下面には、それぞれ、IGBTなどの半導体素子の活性領域に接続される上面電極12および裏面電極13が設けられている。そして、半導体チップ11の裏面電極13が、半田層14によって、金属配線23に導通状態で接合されている。
【0023】
ヒートシンク21は、平板部21aと、平板部21aの裏面側から突出するフィン部21bとからなり、平板部21aは、金属配線23を支持する支持部材として機能している。そして、フィン部21bは、熱交換媒体である冷却水にさらされて、熱交換効率を高めるように構成されている。ただし、フィン部21bは必ずしも必要ではなく、また、フィン部21bに代えて、他の放熱構造体を備えていてもよい。
【0024】
また、放熱器50の天板50a上に、半導体チップ11等を囲むモジュール樹脂枠53が設けられていて、モジュール樹脂枠53がボルト54によって天板50aに固定されている。モジュール樹脂枠53の内部および外表面には電極端子層56が形成されている。この電極端子層56と金属配線23とは、大電流用配線18によって接続されており、電極端子層56と半導体チップ11の上面電極12の一部とは、信号配線17によって接続されている。これによって、パワーモジュール10と外部機器との電気的な接続が可能になっている。また、モジュール樹脂枠53の内方には、シリコンゲルからなるゲル層40が設けられていて、ヒートシンク21の上面側で半導体チップ11,信号配線17,大電流用配線18,金属配線23,半田層14,複合接着剤26などの部材がゲル層40内に埋設されている。
【0025】
ここで、図3の拡大部分に示すように、複合接着剤26は、接着剤Eに充填剤を混入して構成されている。充填剤は、大径表面コートフィラーCF1と、小径表面コートフィラーCF2とに区分けされている。同図に示すように、各表面コートフィラーCF1,CF2は、無機絶縁性物質からなるフィラーFと、フィラーFの表面を覆う樹脂皮膜Lとからなり、全体の外形が実質的に球面体である。「実質的に球面体である」とは、製造工程などにおいて生じうる,真球面からの誤差を有するものは、球面体とする意味である。なお、1つの表面コートフィラーCF1,CF2中に複数のフィラーFが含まれていてもよい。
【0026】
そして、複合接着剤26内において、大径表面コートフィラーCF1同士の間隙に小径表面コートフィラーCF2が入り込んでいる。本実施の形態においては、大径表面コートフィラーCF1の径(最大部)は、所定範囲である30〜60μmの範囲内にあり、小径表面コートフィラーCF2の径は、大径表面コートフィラーCF1の径の約0.2倍(6〜12μm)程度の範囲内にある。たとえば、大径表面コートフィラーCF1の径が40±10μmであり、小径表面コートフィラーCF2の径が、8±3μmである。また、小径表面コートフィラーCF2よりもさらに径の小さい微細表面コートフィラー(図示せず)を加えることにより、大径表面コートフィラーCF1と小径表面コートフィラーCF2との間隙に微細表面コートフィラーを入り込ませて、フィラーの充填率をさらに向上させることができる。
【0027】
図4(a),(b)は、実施の形態における大径表面コートフィラーCF1の積み重なり構造を示す斜視図、および大径表面コートフィラーCF1と小径表面コートフィラーCF2との積み重なり状態を示す平面図である。図4(a)では、小径表面コートフィラーCF2の図示は省略されている。
【0028】
図4(a),(b)に示すように、大径表面コートフィラーCF1は、理想的には、稠密六方構造や面心立方構造などの単結晶構造に類似した積み重ね状態で整列されている。大径表面コートフィラーCF1の第1層CF1(1)は、ハニカム状に整列しており、大径表面コートフィラーCF1の第2層CF1(2)は、第1層CF1(1)中の3つの大径表面コートフィラーCF1の中間位置(安定位置)に整列する。さらに、大径表面コートフィラーCF1の第3層CF1(3)は、第2層CF1(2)中の3つの大径表面コートフィラーCF2の中間位置(安定位置)に整列する。そして、小径表面コートフィラーCF2は、大径表面コートフィラーCF1の第1層CF1(1)と第2層CF1(2)との間の間隙に入り込んでいる。
【0029】
以上のような整列状態は、後述するように、充填剤を混入した接着剤をスクリーン印刷などによって、塗布する際に圧力を印加することによって、各表面コートフィラーCF1,CF2が最小の体積を占めるように移動する結果、実現される。ただし、部分的な整列状態の乱れはあっても、全体としての充填率がそれほど低下するわけではないので、ここにいう整列状態に含まれる。
【0030】
表面コートフィラーCF1,CF2のフィラーFの材質は、高硬度の無機絶縁性材料であって、たとえばAlN,SiC,Al,BN,窒化珪素,ダイヤモンドなどが好ましい。高硬度の無機絶縁性材料は、熱伝導率が高いので、複合接着剤26全体の熱抵抗を小さくすることができる。たとえばAlNの熱伝導率は約200(W/m・K)であり、SiCの熱伝導率は約200〜500(W/m・K)であり、Alの熱伝導率は約17(W/m・K)であり、BNの熱伝導率は約60〜200(W/m・K)であり、窒化珪素の熱伝導率は約80(W/m・K)であり、ダイヤモンドの熱伝導率は最大2000(W/m・K)である。
【0031】
しかしながら、このような高硬度の無機絶縁性材料は、現実的な製造コストを維持しうる加工では、表面を滑らかにして球状に近づけることが困難で、表面が細かな凹凸を有している。そのため、フィラーを高充填率(たとえば60〜70%)で混入した接着剤は、極めて高粘度状態になって、スクリーン印刷などで塗布することが困難である。
【0032】
それに対し、本発明の表面コートフィラーCF1,CF2は、表面の凹凸の大きいフィラーFであっても、その表面を樹脂被膜Lで被覆して、全体の外形を実質的に球面体にしているので、表面コートフィラーCF1,CF2を混入しても、接着剤の粘度上昇を抑制することができる。その結果、本発明の表面コートフィラーCF1,CF2を混入した接着剤を、スクリーン印刷などで、塗布することが可能になる。
【0033】
ただし、表面コートフィラーCF1,CF2の外形は必ずしも球状である必要はない。表面コートフィラーCF1,CF2の外形が曲面体であれば、スクリーン印刷などが可能な程度に粘度を小さく抑えることはできる。特に、表面の任意の部分が凸であれば(言い換えると、曲率半径が正の値であれば)、接着剤の中で表面コートフィラーCF1,CF2がスムーズに移動可能であるので、接着剤の粘度低減という本発明の効果を確実に発揮することができる。曲面体の例としては、球面体以外に、ラグビーボールのような2軸方向で径が異なる楕円体、3軸方向で径が異なる楕円体、多面体の表面を滑らかにしたもの、などがある。
【0034】
本実施形態の表面コートフィラーCF1,CF2の樹脂被膜Lは、エポキシ樹脂であり、接着剤に混入される前に、エポキシ樹脂は硬化されている。ただし、エポキシ樹脂を硬化前の熱可塑性状態で接着剤に混入してもよい。また、樹脂皮膜Lの材料が、エポキシ樹脂以外の熱硬化型樹脂や熱可塑性樹脂であってもよい。
【0035】
表面コートフィラーCF1,CF2の作製は、フィラーFを樹脂皮膜Lの融液に浸漬した後、取り出して、相対向する平板間で転動させる、などの方法によって行うことができる。転動させる際に、エポキシ樹脂等が硬化していてもよいし、熱可塑性状態であってもよい。熱可塑性状態のものを転動させて球面体にする場合、球面体にしてから硬化させてもよいし、硬化させないままで接着剤に混入してもよい。なお、フィラーFの径を所定範囲内に収める場合には、篩いなどで予め粒度を区分けしておく。
【0036】
加えて、本実施の形態では、大径表面コートフィラーCF1の径が所定範囲に収まっているので、大径表面コートフィラーCF1が整列することで、フィラーの充填率を高めることができる。さらに、小径表面コートフィラーCF2が大径表面コートフィラーCF1の間隙に入り込む寸法に収まっていることで、より充填率を高めることができる。
【0037】
ただし、表面コートフィラーCFの径がランダムに分布していても、表面コートフィラーCFの外形が任意の部分で凸状の曲面体であれば、表面コートフィラーCFが複合接着剤中で自由に移動できるので、複合接着剤をスクリーン印刷などによって塗布する際に、複合接着剤に加わる圧力によって、各表面コートフィラーCFが最小の体積を占めるように移動する結果、一定の充填率の向上効果を発揮することができる。
【0038】
複合接着剤26中の接着剤Eには、本実施の形態では、エポキシ樹脂が用いられているが、エポキシ樹脂以外の熱硬化性接着剤や熱可塑性接着剤を用いることができる。
【0039】
複合接着剤26の厚みは、0.4mm以下であることが好ましく、0.1mm〜0.2mm以下であることがより好ましい。複合接着剤26の熱抵抗は、熱伝導率と厚みに依存して定まるが、厚みが薄いほど熱抵抗が小さくなる。したがって、厚みが0.4mm以下であることにより、放熱性能が高くなることになる。
【0040】
本実施の形態では、半田層14は、Pbフリー半田を用いて形成されている。一般に、Pbフリー半田には、以下のものがある。たとえば、Sn(液相点232℃),Sn−3.5%Ag(液相点221℃),Sn−3.0%Ag(液相点222℃),Sn−3.5%Ag−0.55%Cu(液相点220℃),Sn−3.0%Ag−0.5%Cu(液相点220℃),Sn−1.5%Ag−0.85%Cu−2.0Bi(液相点223℃),Sn−2.5%Ag−0.5%Cu−1.0Bi(液相点219℃),Sn−5.8Bi(液相点138℃),Sn−0.55%Cu(液相点226℃),Sn−0.55%Cu−その他(液相点226℃),Sn−0.55%Cu−0.3%Ag(液相点226℃),Sn−5.0%Cu(液相点358℃),Sn−3.0%Cu−0.3%Ag(液相点312℃),Sn−3.5%Ag−0.5%Bi−3.0In(液相点216℃),Sn−3.5%Ag−0.5%Bi−4.0In(液相点211℃),Sn−3.5%Ag−0.5%Bi−8.0In(液相点208℃),Sn−8.0%Zn−3.0%Bi(液相点197℃)等がある。本実施の形態では、液相点が250℃以下の低融点のPbフリー半田、たとえば、Sn−3.0%Ag−0.5%Cu(液相点220℃)を用いているが、これに限定されるものではない。
【0041】
本実施の形態では、複合接着剤26中の、接着剤Eおよび樹脂皮膜Lとして、エポキシ樹脂を用い、Pbフリー半田の液相点よりも高いものを用いている。したがって、後述するパワーモジュールの組み立て工程において、複合接着剤26を形成した後で、Pbフリー半田のリフロー工程を行うことが可能になる。本実施の形態によると、従来用いられていた2つの半田層に代えて、1つの半田層14と、樹脂接着剤からなる複合接着剤26とを用いているので、工程の先後に応じて低融点のPbフリー半田と高融点のPbフリー半田とを用いる必要はなく、低融点のPbフリー半田だけで済むことになる。したがって、本実施の形態により、半田層14をPbフリー化して、接続信頼性を確保しつつ、Pbフリー化を図ることができる利点もある。
【0042】
本実施の形態では、ヒートシンク21の材料として、焼結アルミニウム(焼結Al)を用いているが、これに限定されるものではない。たとえば、Al,Al合金,Cu,Cu合金などの他の金属、AlN,SiN,BN,SiC,WCなどのセラミックス、或いは、Al−SiC,Cu−W,Cu−Moなどの複合材料を用いてもよい。
【0043】
本実施の形態では、金属配線23の材料として、CuまたはCu合金を用いているが、これに限定されるものではない。たとえば、Al,Al合金,DBA基板,DBC基板や、Al−SiC,Cu−W,Cu−Moなどの複合材料を用いてもよい。ただし、DBA基板やDBC基板を用いると、製造コストが高くつく。本発明では、DBA基板やDBC基板を用いなくても接合の信頼性を維持することができるので、金属配線23をCuやCu合金などの金属板単体構造とすることにより、製造コストの削減を図ることができる。
【0044】
−パワーモジュールの製造工程−
次に、図5(a)〜(d),図6(a)〜(d)および図7(a)〜(c)を参照しながら、本実施の形態のパワーモジュールの製造方法について説明する。図5(a)〜(d)は、本実施の形態の製造工程における,樹脂接着剤の塗布からモジュール樹脂枠の取付までの工程を示す断面図である。図6(a)〜(d)は、本実施の形態の製造工程における,チップマウントからポッティングまでの工程を示す断面図である。図7(a)〜(c)は、本実施の形態の製造工程における,Oリングの設置からボルトの締結までの工程を示す断面図である。
【0045】
まず、図5(a)に示す工程で、焼結Alからなり、平板部21aとフィン部21bとを有するヒートシンク21を準備する。そして、ヒートシンク21の平板部21aの上面上に、充填材として表面コートフィラーCF1,CF2を混入したエポキシ樹脂を、たとえばスクリーン印刷により塗布し、厚みがたとえば100〜150μmの複合接着剤26を形成する。
【0046】
また、この工程で、ヒートシンク21の平板部21aの上面上に表面コートフィラーCF1,CF2を混入したエポキシ樹脂を塗布する代わりに、予め他の基板の上に表面コートフィラーCF1,CF2を混入したエポキシ樹脂を塗布し、エポキシシートを作成しておいて、このエポキシシートをヒートシンク21の平板部21aの上面上に載置してもよい。予めエポキシシートにしておくことにより、目視によって複合接着剤26となるエポキシシートに気泡がないことを確認することができる。気泡が存在すると、複合接着剤26の熱抵抗が増大するおそれがあるが、エポキシシートにしておくことにより、複合接着剤26の熱抵抗が気泡によって増大するのを未然に防止することができる。
【0047】
次に、図5(b)に示す工程で、所定形状にパターニングされた金属配線23を複合接着剤26の上にマウントし、図5(c)に示す工程で、複合接着剤26により、金属配線23をヒートシンク21の平板部21の上面に固着する。
【0048】
次に、図5(d)に示す工程で、ヒートシンク21の平板部21aの上に、モジュール樹脂枠53を取り付ける。モジュール樹脂枠53の内部および外表面には、電極端子層56が一体成形により形成されている。そして、モジュール樹脂枠53の内側には、電極端子層56の一部が露出している。
【0049】
次に、図6(a)に示す工程で、金属配線23の上に、Pbフリー半田を吐出または印刷し、Pbフリー半田の上に、半導体チップ11をマウントする。半導体チップ11には、パワーデバイスとして機能するIGBT、あるいはダイオードが形成されている。さらに、図6(b)に示す工程で、パワーモジュールをリフロー炉に投入し、半導体チップ11と金属配線23とを接合する半田層14を形成する。このときのリフロー炉の雰囲気は不活性ガス雰囲気または還元性雰囲気で、炉内の最高温度は260℃である。その後、フラックス洗浄を行なって、フラックス残渣を除去する。
【0050】
次に、図6(c)に示す工程で、比較的大径(たとえば400μm径)のAlワイヤを用いたワイヤボンディングを行う。そして、半導体チップ11の上面電極12(図3参照)同士や、上面電極12と金属配線23との間、金属配線23と電極端子層56との間を接続する大電流用配線18を形成する。その後、小径(たとえば125μm径)のAlワイヤを用いたワイヤボンディングを行なって、半導体チップ11の上面電極12と電極端子層56との間を接続する信号配線17を形成する。
【0051】
次に、図6(d)に示す工程で、シリコンゲルを用いたポッティングにより、モジュール樹脂枠53の内方を埋めるゲル層40を形成する。これにより、ヒートシンク21の上面に設けられている、半導体チップ11,信号配線17,大電流用配線18,金属配線23,半田層14,複合接着剤26などの部材が、ゲル層40内に埋め込まれる。
【0052】
次に、図7(a)に示す工程で、準備されている天板50aの矩形状貫通穴の周縁部に設けられた環状溝にOリング25を設置する。
【0053】
次に、図7(b)に示す工程で、天板50aの矩形状貫通穴にヒートシンク21のフィン部21bを挿通させて、パワーモジュール10を放熱器50にマウントし、図7(c)に示す工程で、ボルト54により、パワーモジュール10を天板50aに固定する。同様にして、複数のパワーモジュールを、放熱器50の複数の矩形状貫通穴に、それぞれ取り付ける。
【0054】
上述の工程により、放熱器50の天板50aにパワーモジュール10が実装された後、天板50aが容器50bに接合される(図1および図2参照)。この接合は、機械かしめ等によって行なってもよい。これより、パワーモジュールセットが形成される。なお、先に天板50aと容器50bとを接合してから、天板50aに各パワーモジュール10を取り付けてもよい。
【0055】
本実施の形態のパワーモジュールの製造方法によると、先に、樹脂接着剤を用いて複合接着剤26を形成してから、Pbフリー半田を用いて半田層14を形成しているので、下方の部材の固着から上方の部材の固着までを、順次、効率よく行うことができる。すなわち、複合接着剤26の形成時には、金属配線23のみを把持して樹脂接着剤の上に載置すればよく、半田層14の形成時には、半導体チップ11のみを把持してPbフリー半田の上に載置すればよいので、先に半田層14を形成して半導体チップ11および金属配線23をヒートシンク21上に載置するのに比べ、組立作業のための装置が簡素化され、作業能率も高くなる。よって、製造コストの低減を図ることができる。
【0056】
(他の実施の形態)
本発明のパワーモジュールに配置される半導体素子は、ワイドバンドギャップ半導体(SiC,GaNなど)を用いたパワーデバイスでもよいし、Siを用いたパワーデバイスでもよい。
【0057】
上記実施の形態では、半導体チップ11に、IGBTが形成されているが、MOSFET,ダイオード,JFETなどが形成された半導体チップを用いてもよい。
【0058】
上記実施の形態では、天板50aに多数のパワーモジュール10を取り付ける構造を採ったが、天板を兼ねる単一のヒートシンク上に多数の半導体チップを搭載してもよい。
【0059】
ヒートシンク21との熱交換を行う熱交換媒体は、冷却能やコストを考慮すると、フロリナートや水などの液体であることが好ましい。ただし、ヘリウム,アルゴン,窒素,空気などの気体であってもよい。
【0060】
上記開示された本発明の実施の形態の構造は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のパワーモジュールは、MOSFET,IGBT,ダイオード,JFET等を搭載した各種機器に利用することができ、本発明の表面コートフィラーや複合接着剤はこのようなパワーモジュールの要素として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施の形態におけるパワーモジュールセットの構造を示す斜視図である。
【図2】実施の形態に係るパワーモジュールセットのII-II線における断面図である。
【図3】図2の一部を拡大して示す断面図である。
【図4】(a),(b)は、実施の形態における大径表面コートフィラーの積み重なり構造を示す斜視図、および大径表面コートフィラーと小径表面コートフィラーとの積み重なり状態を示す平面図である。
【図5】(a)〜(d)は、実施の形態の製造工程における,樹脂接着剤の塗布からモジュール樹脂枠の取付までの工程を示す断面図である。
【図6】(a)〜(d)は、実施の形態の製造工程における,チップマウントからポッティングまでの工程を示す断面図である。
【図7】(a)〜(c)は、本実施の形態の製造工程における,Oリングの設置からボルトの締結までの工程を示す断面図である。
【図8】従来のIGBTチップを搭載したパワーモジュールの構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0063】
CF1 大径表面コートフィラー
CF2 小径表面コートフィラー
E 接着剤
F フィラー
L 樹脂皮膜
10 パワーモジュール
11 半導体チップ
12 上面電極
13 裏面電極
14 半田層
17 信号配線
18 大電流用配線
21 ヒートシンク
21a 平板部
21b フィン部
23 金属配線
25 Oリング
26 複合接着剤
40 ゲル層
50 放熱器
50a 天板
50b 容器
53 モジュール樹脂枠
56 電極端子層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機絶縁性物質からなるフィラーと、
前記フィラーの表面を覆う樹脂被膜とを備え、
外形が曲面体である、表面コートフィラー。
【請求項2】
請求項1記載の表面コートフィラーにおいて、
外形が球面体である、表面コートフィラー。
【請求項3】
充填剤および接着剤を含む複合接着剤であって、
前記充填剤は、請求項1または2記載の表面コートフィラーである、複合接着剤。
【請求項4】
請求項3記載の複合接着剤において、
前記表面コートフィラーの粒径が所定範囲内に収まっており、
前記表面フィラーが整列している、複合接着剤。
【請求項5】
請求項4記載の複合接着剤において、
前記表面コートフィラーの径が、大径の表面コートフィラーと小径の表面コートフィラーとに区分けされており、
前記小径の表面コートフィラーが、前記大径の表面コートフィラー同士の間隙に入っている、複合接着剤。
【請求項6】
請求項3〜5のうちいずれか1つに記載の複合接着剤において、
前記フィラーは、AlN,BN,SiN,SiC,Alおよびダイヤモンドから選ばれた少なくとも1種の材料からなる、複合接着剤。
【請求項7】
請求項3〜6のうちいずれか1つに記載の複合接着剤において、
前記接着剤が熱可塑性の状態で固化されていて、
固体シート状に形成されている、複合接着剤。
【請求項8】
半導体チップ内の半導体素子と外部とを電気的に接続するための配線部材と、
前記配線部材を支持する支持部材と、
前記配線部材と前記支持部材との間に介在する,請求項3〜6のうちいずれか1つに記載の複合接着剤と、
を備えているパワーモジュール。
【請求項9】
請求項8記載のパワーモジュールにおいて、
前記支持部材は、フィンを有するヒートシンク部材である、パワーモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−19182(P2009−19182A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185017(P2007−185017)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】