説明

複眼撮像装置

【課題】複眼撮像装置において、狭いスペースに容易に進入させることができ、模様のない一様な表面を有する被写体であっても容易に正確な3次元形状を取得する。
【解決手段】複眼撮像装置1は、人の口腔内に進入可能な小型に形成された撮像装置本体2と、撮像した画像の画像処理装置3とを備える。撮像装置本体2は、複数の光学レンズL11、L12・・L33が同一平面上に配置されてなる光学レンズアレイ6と、個眼像k11、k12・・k33を撮像する固体撮像素子7と、光学レンズアレイ6上に接着された回折光学素子8と、回折光学素子8へレーザ光9を出射するレーザ光源装置10とを備える。回折光学素子8は、表面に形成された微小な凹凸により入射されたレーザ光9を反射し、被写体の表面に多数の輝点(パターン像)を格子状に映し出す。画像処理装置3は撮像された各輝点毎に撮像装置本体2と輝点との距離を算出し、被写体の3次元形状を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複眼撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、微小な光学レンズが縦横に複数配置された光学レンズアレイと、該光学レンズアレイの各光学レンズによってそれぞれ形成された被写体の個眼像を撮像する固体撮像素子とを備える複眼撮像装置が知られている。また、そのような複眼撮像装置と微小な距離を移動することができるマルチスリットとを組み合わせることによって、微小物体の高さを計測することできるようになった撮像装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、物体の3次元情報を取得するための装置として、ストライプパターン投射装置と、該ストライプパターン投射装置によって異なった種類のストライプパターンを投射された物体を撮像する撮像装置と、撮像装置によって撮像された画像に基づいて撮像装置と物体間の距離を算出する距離算出装置とを備える3次元画像取得装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−180139号公報
【特許文献2】特開2006−64454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、歯科診療において歯茎部の腫れの程度を客観的に判断するために口腔内を撮像する場合があり、このときに用いる撮像装置(カメラ)として、人の狭い口腔内に容易に進入させることができ、そのうえ口腔内の複雑な形状の3次元情報を得ることができるものが望まれていた。この点、複眼撮像装置は、装置本体を小型に構成することが容易であり(例えば、10mm四方程度)、複数の個眼像から距離画像を生成して被写体の3次元情報を得ることができるので、直ちに上記の用途に用いることが可能であるように考えられた。
【0005】
ところが、本発明者が実際に複眼撮像装置を用いて口腔内の歯茎部を撮像したところ、次のような問題から有効な3次元情報を得ることができないことが判明した。すなわち、距離画像を生成するためには各個眼像における被写体の同一箇所を個眼像内の同一模様領域に基づいて判定しなければならないが、歯茎部の表面は一様なピンク色であって位置を特定できる模様がなく正確に距離画像を生成することができなかった。また、簡単な照明装置により狭い口腔内を一様な照度で照明することは困難であり鮮明な個眼像を得ることができなかった。
【0006】
なお、特許文献2に記載された3次元画像取得装置を応用して歯茎部の表面に種々のストライプパターンを投射することが考えられるが、その場合にはストライプパターンの投射装置が別途必要になることなどから装置全体が大掛かりとなり人の口腔内等の狭いスペースの撮像用として構成することができない。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決するものであり、人の口腔内のような狭いスペースに容易に進入させて操作することができ、模様のない一様な表面を有する被写体であっても容易に正確な3次元形状を取得することができる複眼撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、被写体からの光を集光する複数の光学レンズが同一平面上に配置されてなる光学レンズアレイと、前記光学レンズによってそれぞれ形成された個眼像を撮像する固体撮像素子とを有する複眼撮像装置において、前記光学レンズアレイ上に、外部から入射される可干渉性の光を光学的に変換して被写体へ向けて出射する回折光学素子を設けたことを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の複眼撮像装置において、前記回折光学素子は、外部から入射される可干渉性の光を反射し、この反射光が被写体に所定のパターン像を映出することを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1の複眼撮像装置において、前記回折光学素子は、外部から入射される可干渉性の光を透過し、この透過光が被写体に所定のパターン像を映出することを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、請求項2、又は請求項3に記載の複眼撮像装置において、前記固体撮像素子により撮像された、前記所定のパターン像が映出された被写体の個眼像から、被写体の3次元形状を算出する画像処理装置をさらに備えることを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1の複眼撮像装置において、前記回折光学素子は、外部から入射される可干渉性の光を強度分布が一様な光に変換し、この光が被写体を照明することを特徴とする。
【0013】
請求項6の発明は、請求項5の複眼撮像装置において、前記強度分布が一様な光によって照明された被写体の個眼像から、照度差ステレオ法を用いて被写体の3次元形状を算出する画像処理装置をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、光学レンズアレイ上に回折光学素子を設けただけの構成であるので装置本体が大掛かりとならず、人の口腔内のような狭いスペースに容易に進入させて操作することができる。また、回折光学素子により外部から入射される可干渉性の光を光学的に変換して被写体へ出射させるので、被写体が適正に照明され、固体撮像素子によって撮像される複数の個眼像から容易に正確な3次元形状を取得することができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、回折光学素子が可干渉性の光を反射して被写体に所定のパターン像を映出するので、容易に正確な3次元形状を取得することができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、回折光学素子が可干渉性の光を透過して被写体に所定のパターン像を映出するので、容易に正確な3次元形状を取得することができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、画像処理装置が、被写体に映出されたパターン像に基づいて容易に正確な3次元形状を取得することができる。
【0018】
請求項5の発明によれば、被写体が、回折光学素子により変換された強度分布が一様な光によって照明されるので、容易に正確な3次元形状を取得することができる。
【0019】
請求項6の発明によれば、画像処理装置が、一様な光によって照明された被写体の個眼像から容易に正確な3次元形状を取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る複眼撮像装置について、図1乃至図3を参照して説明する。本実施形態の複眼撮像装置1は、歯科診療において用いられる歯茎部の腫れの程度を計測するための装置として構成され、図1、2に示されるように、被写体(歯茎部)からの光を集光して撮像する撮像装置本体2と、撮像装置本体2により撮像された画像情報(複数の個眼像)から被写体の3次元形状を算出する画像処理装置3とを備える。画像処理装置はマイクロコンピュータから構成され、撮像装置本体2に接続ケーブル4を介して接続され床上等に載置される。
【0021】
撮像装置本体2は、被写体からの光を集光する9個の光学レンズL11、L12・・L33が同一のレンズホルダ5上に支持されてなる光学レンズアレイ6と、各光学レンズL11、L12・・L33によってそれぞれ形成される個眼像k11、k12・・k33を撮像するプレート状の固体撮像素子7と、レンズホルダ5の上面の空きスペースに接着された回折光学素子8と、レーザ光(可干渉性の光)9を回折光学素子8へ照射するレーザ光源装置10とを備える。撮像装置本体2は、図2に示されるように、歯科医師等の操作者の操作によって被験者の口腔に接近させたり、口腔内に挿入できるように小型に形成されている(例えば、光学レンズアレイ6は約10mm四方の正方形に形成される)。
【0022】
レーザ光源装置10は、図1に示されるように、半導体レーザ素子から構成されるレーザ光源11と、レーザ光源11から出射されるレーザ光9を回折光学素子8の斜め上方へ導く光ファイバ12とを備える。
【0023】
回折光学素子8は薄い石英基板の表面に微細な凹凸を形成したものであり、所定の方向から入射されるレーザ光9を反射し、ホログラム作用によって縦横の格子状に並ぶ多数の輝点p群(パターン像)を被写体(歯茎部)Hの表面に映し出す(図2参照)。回折光学素子8の表面の凹凸形状は、回折光学素子8によって被写体H上に映出される各輝点pの映出方向が撮像装置本体2に対して予め設定された所定の角度になるように設計されている。
【0024】
回折光学素子8は、レンズホルダ5上の所定位置に接着剤によって接着してもよいし、レンズホルダ5の所定位置に予め形成した凹部内に埋め込んで固定してもよい。また、レンズホルダ5の表面にエッチング技術を用いて直接形成したものであってもよい。
【0025】
以上のように、本実施形態では、操作者が撮像装置本体2を被写体(歯茎部)Hに接近させて撮像するときに、レーザ光源装置10からレーザ光9を回折光学素子8へ向けて照射させると、映出方向が予め所定の方向に設定された多数の輝点pが被写体Hの表面に映し出され、その画像が固体撮像素子7によって個眼像k11、k12・・k33として撮像される。そして、画像処理装置3が撮像された個眼像k11、k12・・k33から被写体Hの3次元形状を三角測量の原理に基づいて算出する。
【0026】
次に、画像処理装置3が実行する被写体Hの3次元形状を算出する方法について図3を参照して説明する。図3は、被写体H上に映出された1つの輝点pと回折光学素子8を含み光学レンズアレイ6に垂直な平面V(図1参照)における回折光学素子8から反射されたレーザ光9c、光学レンズL31、L22、L13及び固体撮像素子7の位置関係を示す。
【0027】
いま、被写体(歯茎部)Hの表面位置(腫れの程度)は、輝点pと光学レンズアレイ6との距離Zに相当し未知である。一方、輝点pからの反射光9rを集光する光学レンズL22と固体撮像素子7との間隔f、光学レンズL22の中心と回折光学素子8との水平方向における距離B、光学レンズL22の中心と回折光学素子8の表面との垂直方向における距離h、及び回折光学素子8によって反射され輝点pを形成する光9cの出射角度θは既知である。また、固体撮像素子7上に形成される輝点pの像paの位置は、像paが撮像された画素gの位置から求めることができ、輝点像paの光学レンズL22中心からの距離をduとする。
【0028】
上記既知の値(f、B、h、θ)は、予め各輝点p毎、及び光学レンズL11、L12・・L33毎に画像処理装置3内に記憶されており、距離duは、撮像された個眼像k11、k12・・k33における輝点像paの位置から測定される。画像処理装置3は上記値(f、B、h、θ、du)に基づいて輝点pと光学レンズアレイ6との距離Zを画像処理装置内に記憶された次の式から算出する。
Z=(B×f×tanθ+f×h)/(f−du×tanθ)・・・(A)
【0029】
ここで上記式の導出方法を説明する。いま、図3の紙面に沿った平面(図1における平面Vと同じ平面)において横方向をx軸、縦方向をz軸として、輝点pからの反射光9rを集光する光学レンズL22の中心をx=0、z=0の原点とする座標を設定する。また、光9cのz軸における交点をaと置くと、z=tanθ×x+aと表わされる(これを式1という)。交点aをh、B、θで表わすと、a=h+B×tanθとなる(これを式2という)。式2を式1に代入すると、z=tanθ×x+h+B×tanθが得られる(これを式3という)。この式3は光9cを表わす関数である。
【0030】
一方、輝点pから固体撮像素子7へ向かう反射光9rを表わす関数は、点(x=−du、z=−f)を通るので、z=(f/du)×xとなる(これを式4という)。式4を変形してx=(du/f)×zを得る(これを式5という)。式5を式3に代入すると、z=tanθ×{(du/f)×z}+h+B×tanθが得られる(これを式6という)。なお、式6を整理することによって上記距離Zの算出式(A)を得ることができる。
【0031】
画像処理装置3は、上記手順によって被写体Hの表面に映出される各輝点p毎に輝点pと撮像装置本体2との間の距離Zを算出する。各光学レンズL11、L12・・L33の光学レンズアレイ6上における位置(図1のxy平面における位置)が既知であるので、各輝点pの3次元情報を算出することができ、被写体(歯茎部)Hの表面の形状(腫れの程度)を推定することができる。なお、被写体H上に映出する輝点pの配置は、図2に示されるような縦横の格子状以外に種々の配置(例えば、放射状の配置)が可能であり、輝点p同士の間隔を密にすることによって被写体Hの表面の3次元形状をより精密に推定することができる。
【0032】
また、被写体Hが歯茎部であるときには隆起した頂点にあたる部分(例えば、図3におけるm部)が鏡面反射を生じる場合がある。この場合、鏡面反射部分からの反射光9rはエネルギーが大きく固体撮像素子7の画素gを飽和させてしまうことから、鏡面反射部分の近辺にある輝点pの位置(輝点像paの位置)を特定することができず(距離duを測定することができず)、当該輝点pの撮像装置本体2との間の距離Zを算出することができなくなる虞がある。ところが、本実施形態では、光学レンズL11、L12・・L33はそれぞれ異なった角度で被写体Hからの光を集光するので、個眼像k11、k12・・k33毎に鏡面反射部分が形成される位置がずれる。従って、特定の個眼像(例えば、k11)においてある輝点pの距離Zを算出できない場合でも、他の個眼像(例えば、k33)に基づいて同一の輝点pの距離Zを算出することができる。
【0033】
さらに、被写体Hが歯茎部である場合には、以上のようにして取得した特定の被験者の歯科治療時におけるデータ(各輝点pの3次元情報)をメモリ等の記憶媒体に保存しておき、治療が完了した後において再度取得したデータと比較することによって治療の効果(歯茎部の腫れの程度が緩和したこと)を容易に確認することができる。3次元情報を比較する場合、腫れの影響のない歯の部分の情報をベースとして一致させ、その後、歯茎部分を比較すると、より正確に変化分を測定することができる。
【0034】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る複眼撮像装置1について、図4を参照して説明する。本実施形態の複眼撮像装置1は第1の実施形態と略同一の構成であり、同一構成部分については同一の番号を付して説明を省略する。異なるところは、光学レンズアレイ6上に設けられる回折光学素子28が透過型の素子である点と、レーザ光源装置20から回折光学素子28へ出射されるレーザ光9の光路が光学レンズアレイ6と固体撮像素子7との間の空間に設けられた点である。
【0035】
本実施形態の回折光学素子28は、第1の実施形態と略同様に透明の石英基板の表面に微細な凹凸を形成したものであり、下面から入射されるレーザ光9を透過し、縦横の格子状に並ぶ多数の輝点群(パターン像)を形成する光9cに変換して被写体(歯茎部)Hの表面へ向けて出射する。
【0036】
回折光学素子28は、レンズホルダ5上の所定位置に予め開けられた開口に嵌め込んで固定してもよいし、レンズホルダ5の所定位置に予め形成した凹部内に埋め込んで固定してもよい。後者の場合には、レンズホルダ5を光透過性の材質で形成するか、凹部の中央部に下方からのレーザ光9を通過させる貫通孔を形成する。
【0037】
本実施形態のレーザ光源装置20は、半導体レーザ素子から構成されるレーザ光源21と、レーザ光源21から出射されるレーザ光9を回折光学素子28の下面へ導くプリズム22とを備える。プリズム22は光学レンズアレイ5と固体撮像素子7との間であって、各光学レンズL11、L12・・L33によって集光され固体撮像素子7へと進行する光の通過路から外れた位置に設置される。以上のようにレーザ光源21から回折光学素子28へ出射されるレーザ光9の光路が光学レンズアレイ6と固体撮像素子7との間の空間に形成されるので、レーザ光源21から出射されたレーザ光9が光学レンズアレイ6よりも被写体H側において光学レンズL11、L12・・L33により集光される光の光路(例えば、光9r)に影響を及ぼすことがない。
【0038】
本実施形態の複眼撮像装置1も第1の実施形態と同様に、撮像装置本体2が小型に形成されるので歯科医師等の操作者が撮像装置本体2を容易に被験者の口腔に接近させたり、口腔内に挿入できる。また、撮像時に被写体(歯茎部)Hに多数の輝点pが映し出されるので、第1の実施形態と同様の手順に基づいて画像処理装置3が各輝点pの3次元情報を算出することができ、被写体(歯茎部)Hの3次元形状を正確に推定することができる。
【0039】
また、本実施形態の場合には、前述の通りレーザ光源21から回折光学素子28へのレーザ光9の光路が撮像装置本体2内に形成され、光学レンズアレイ2の被写体H側において他の光に影響を及ぼす虞がないので、図5に示されるように異なった波長のレーザ光9a、9bを出射する2つのレーザ光源装置20a、20bと、各レーザ光源装置20a、20bに対応する2つの回折光学素子28a、28bを備えた構成とすることができる。
【0040】
この場合には、各回折光学素子28a、28bからの透過光によって被写体Hの表面に映出される輝点の色が異なるので、各回折光学素子28a、28bによって映出される輝点の位置が交互になるように設定することによって、測定できる輝点の密度を容易に高めることができ、被写体Hの3次元形状をより正確に推定することができる。例えば、レーザ光9aが赤色光、レーザ光9bが青色光である場合について説明すると、被写体Hの表面に赤色の輝点prと青色の輝点pbが図6に示すように交互に映出される。赤色の輝点prと青色の輝点pbとの間隔dは、同一色の輝点pが映出されるときの画像処理装置3が判別できる輝点pの間隔(分解能)よりも小さくすることができるので、単位面積当たりに映出できる輝点pの数を容易に増加することができる。
【0041】
なお、各レーザ光源装置20a、20bによるレーザ光9a、9bの出射のタイミングは同時であってもよいし、所定時間ずれていてもよい。赤、青同時に出射する場合は、個眼の一部に赤色フィルタ、残りの個眼に青色フィルタを搭載すると、被写体の形状によって赤色輝点と青色輝点が重なった場合でも、それぞれの色フィルタを搭載した個眼で輝点位置の検出が可能であり、これにより分解能を向上させるとともに、測定時間の短縮が可能である。タイミングをずらして出射する場合は、例えば、図6における赤色の輝点prの位置について画像処理装置3が被写体Hと撮像装置本体2との距離Zを算出し、次に距離Zが算出された位置の間を補間するようにして青色の輝点pbの位置について画像処理装置3が被写体Hと撮像装置本体2との距離Zを算出することになる。
【0042】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係る複眼撮像装置1について、図7を参照して説明する。本実施形態の複眼撮像装置1は第2の実施形態における図5に示されたものと略同一の構成であり、異なるところは、レーザ光源装置20a、20bが出射するレーザ光9a、9bの波長が同一である点と、そのレーザ光を回折光学素子28a、28bが変換して出射する光が輝点pを形成する光ではなく強度分布が一様な光である点と、画像処理装置3が照度差ステレオ法を用いて3次元形状を算出する点である。本実施形態の回折光学素子28a、28bは、表面の微小な凹凸が、出射する光9cが一様な強度(照度)となるように設計されているものである。
【0043】
具体的には、各回折光学素子28a、28bが出射する光9cは、図7に示されるように、回折光学素子28a、28bの表面の凹凸によって形成される微小な球面波mwが合成されて強度分布が一様になる。この一様な強度の光9cによって照明された被写体Hには、被写体Hと各回折光学素子28a、28bとの距離に無関係に、照明光9cによって照らされる方向にのみ依存する影が生じる。本実施形態の画像処理装置3は、上記のような被写体Hに形成される影の濃度に基づいて公知の照度差ステレオ法を用いて被写体Hの3次元形状を算出する。
【0044】
例えば、回折光学素子28aが出射する光9cによって生じる影のうち同じ濃度の影の領域Hfaは、回折光学素子28aに対して同じ傾斜角度を有する面に生じる。回折光学素子28aに対してより大きな傾斜角度を有する面にはさらに濃い濃度の影の領域Hfbが形成される。同一の強度の照明によって生じる影の濃度は、被照明面の傾斜角度に応じて一義的に決定されるので、画像処理装置3は、回折光学素子28aからの光9cによって照明された被写体Hの個眼像k22における影の濃度を計測することによって、被写体Hの表面の各位置における回折光学素子28aに対する微小面の傾斜角度を算出することができる。
【0045】
画像処理装置3は、同様に回折光学素子28bからの光9cによって被写体Hを一様な強度で照明して個眼像k22を撮像し、その個眼像k22における影の濃度から被写体Hの表面の各位置における回折光学素子28bに対する微小面の傾斜角度を算出し、既に算出した回折光学素子28aに対する微小面の傾斜角度と合成することによって被写体Hの3次元形状を推定することができる。
【0046】
なお、光学レンズアレイ6上に3カ所の回折光学素子を配置して被写体Hを3方向から一様な強度の光9cで照明し、各方向から照明したときに撮像した個眼像に基づいて被写体H表面の微小面の傾斜角度を算出し、それらを合成することによって被写体Hの3次元形状を推定することが好ましいが、被写体Hが歯茎部の場合のように個々の被写体の形状に大きな相違がない場合には、上記のように2方向から照明することにより算出されたデータ(微小面の傾斜角度)を合成することによって被写体Hの形状の有意な推定を行うことができる。
【0047】
さらに、前述のように歯科診療の治療の前後における歯茎部の腫れの程度を判定するような場合には、光学レンズアレイ6上に設けた1カ所の回折光学素子8から出射する一様な強度の光9cにより歯茎部を照明し、撮像された個眼像k22に基づいて歯茎部の表面の傾斜角度を算出する簡易な方法によっても有意な推定(歯茎部の腫れが大きくなったか、小さくなったか)を行うことができる。
【0048】
また、第1の実施形態と同様に、歯茎部の一部に鏡面反射がある場合であっても、複数の個眼像の中から同一部分について鏡面反射がない個眼像を検索し、その個眼像の当該部分の画像データを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る複眼撮像装置の構成を示す図。
【図2】同複眼撮像装置において撮像装置本体を被写体に接近させて使用するときの態様を示す図。
【図3】同複眼撮像装置における被写体の表面に映出させた輝点を撮像するときのレーザ光の光路と、光学レンズ、及び固体撮像素子の配置を示す図。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る複眼撮像装置の構成を示す図。
【図5】同複眼撮像装置の変形例を示す図。
【図6】同複眼撮像装置の変形例における輝点の配置を示す図。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る複眼撮像装置における回折光学素子から出射される光と被写体に形成される影の態様を示す図。
【符号の説明】
【0050】
1 複眼撮像装置
3 画像処理装置
6 光学レンズアレイ
7 固体撮像素子
8 回折光学素子
9、9a、9b レーザ光(可干渉性の光)
28、28a、28b 回折光学素子
H 被写体
L11、L12・・L33 光学レンズ
k11、k12・・k33 個眼像
p、pb、pr 輝点(パターン像)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体からの光を集光する複数の光学レンズが同一平面上に配置されてなる光学レンズアレイと、前記光学レンズによってそれぞれ形成された個眼像を撮像する固体撮像素子とを有する複眼撮像装置において、
前記光学レンズアレイ上に、外部から入射される可干渉性の光を光学的に変換して被写体へ向けて出射する回折光学素子を設けたことを特徴とする複眼撮像装置。
【請求項2】
前記回折光学素子は、外部から入射される可干渉性の光を反射し、この反射光が被写体に所定のパターン像を映出することを特徴とする請求項1に記載の複眼撮像装置。
【請求項3】
前記回折光学素子は、外部から入射される可干渉性の光を透過し、この透過光が被写体に所定のパターン像を映出することを特徴とする請求項1に記載の複眼撮像装置。
【請求項4】
前記固体撮像素子により撮像された、前記所定のパターン像が映出された被写体の個眼像から、被写体の3次元形状を算出する画像処理装置をさらに備えることを特徴とする請求項2、又は請求項3に記載の複眼撮像装置。
【請求項5】
前記回折光学素子は、外部から入射される可干渉性の光を強度分布が一様な光に変換し、この光が被写体を照明することを特徴とする請求項1に記載の複眼撮像装置。
【請求項6】
前記強度分布が一様な光によって照明された被写体の個眼像から、照度差ステレオ法を用いて被写体の3次元形状を算出する画像処理装置をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の複眼撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−204991(P2009−204991A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48483(P2008−48483)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】