説明

車両のアイドルストップ制御装置

【課題】 停車時のアイドルストップ制御によるエンジンの自動停止時に自動変速機が走行レンジから中立レンジへ切換操作が行われた場合に、次の発進時にショックを生じることなく、良好な発進応答性を実現することを課題とする。
【解決手段】 所定の停止条件が成立したときにエンジンを自動停止させ、所定の再始動条件が成立したときにエンジンを自動再始動させるアイドルストップ手段が備えられた車両において、自動変速機に備えられてエンジンで駆動される機械ポンプとは別に、前記アイドルストップ手段によるエンジンの自動停止中に作動する電動ポンプを備え、該アイドルストップ手段によりエンジンが自動停止されており、かつ、自動変速機のレンジが中立レンジであるときに、前記電動ポンプにより生成される作動圧を自動変速機の前進発進段で締結される摩擦要素に供給し、該摩擦要素を締結させるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両、特に自動変速機を備えた車両のアイドルストップ制御装置に関し、車両の走行制御技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、交差点等における停車時に、所定の停止条件の成立によりエンジンを自動停止させると共に、所定の再始動条件の成立によりエンジンを自動再始動させる所謂アイドルストップ制御が行なわれる車両が実用化されている。
【0003】
このアイドルストップ制御を自動変速機が搭載された車両で実施する場合、エンジン停止時に、該エンジンに駆動されて自動変速機の各摩擦要素に作動圧を供給するオイルポンプも停止するので、停車直前に締結されていた摩擦要素、換言すれば発進時に動力を伝達する摩擦要素が一旦解放され、その後、エンジン再始動時に再び締結されることになるが、その際、締結の応答遅れによる発進性の悪化や、締結に伴うショック等の問題が発生する。
【0004】
これに対しては、特許文献1に開示されているように、エンジンに駆動されるオイルポンプとは別に、モータで駆動される電動オイルポンプを備え、該電動オイルポンプによって供給される作動圧により、エンジン停止中も前記摩擦要素を締結された状態に維持することが行なわれる。これによれば、エンジン再始動時における摩擦要素の締結の応答遅れによる発進性の悪化や、該摩擦要素締結時のショックの発生が回避される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−39988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、停車時におけるエンジンの自動停止中或いは自動停止前に、運転者が自動変速機のレンジをDレンジ等の走行レンジからNレンジ等の中立レンジに切換操作することが考えられる。この場合、自動変速機は各摩擦要素から作動圧を排出するように制御されるので、エンジンの自動停止中に電動オイルポンプを作動させても、発進時に動力を伝達する摩擦要素が解放され、したがって、発進に際して再び走行レンジに切換操作したときに、前記摩擦要素が改めて締結されることになり、その際の締結遅れによりエンジン再始動後の発進応答性が悪化し、また、該摩擦要素締結時にショックが発生することになる。
【0007】
そこで、本発明は、自動変速機を搭載した車両においてアイドルストップ制御を行なう場合の上記のような問題に対処し、エンジンの自動停止時に走行レンジから中立レンジへの切換操作が行われた場合にも、次の発進時における走行レンジへの切換操作時に、ショックを発生することなく、良好な発進応答性が得られるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明に係る車両のアイドルストップ制御装置は、次のように構成したことを特徴とする。
【0009】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、自動変速機が搭載され、かつ、停車時に所定のエンジン停止条件が成立したときにエンジンを自動停止すると共に、この自動停止状態で所定のエンジン再始動条件が成立したときに、エンジンを自動再始動させるアイドルストップ手段が備えられた車両のアイドルストップ制御装置であって、前記自動変速機に備えられて各摩擦要素に供給される作動圧を生成するエンジン駆動のオイルポンプとは別に、前記アイドルストップ手段によるエンジンの自動停止中に作動する油圧生成手段が備えられていると共に、前記アイドルストップ手段によりエンジンが自動停止されており、かつ前記自動変速機のレンジが中立レンジであるときに、前記油圧生成手段により自動変速機の前進発進段で締結される所定摩擦要素に作動圧を供給し、該摩擦要素を締結させる摩擦要素制御手段が設けられていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の車両のアイドルストップ制御装置において、前記所定摩擦要素に供給される作動圧を制御する油圧制御手段が備えられ、該油圧制御手段は、エンジンが自動停止中であり、かつ自動変速機のレンジが中立レンジであって、前記油圧生成手段によって生成された作動圧が前記所定摩擦要素に供給されている状態でエンジンが自動再始動されたときに、該所定摩擦要素に供給されている作動圧を排出することを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1又は請求項2に記載の車両のアイドルストップ制御装置において、前記所定摩擦要素に供給される作動圧を制御する油圧制御手段が備えられ、エンジンの自動停止中に自動変速機のレンジが中立レンジから後退レンジに切り換えられたとき、前記摩擦要素制御手段は、後退速で締結される摩擦要素を締結させ、前記油圧制御手段は、前記所定摩擦要素に供給されている作動圧を排出することを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項3に記載の車両のアイドルストップ制御装置において、前記摩擦要素制御手段は、前記所定摩擦要素の締結力が作動圧の排出により所定値以下に低下してから後退速で締結される前記摩擦要素を締結させることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両のアイドルストップ制御装置において、前記所定摩擦要素に供給される作動圧を制御する油圧制御手段が備えられ、自動変速機のレンジが前進走行レンジから中立レンジに切り換えられた後にエンジンが自動停止したとき、前記油圧制御手段は、その後エンジンが自動再始動し、前記油圧生成手段に代わって前記オイルポンプによって生成された作動圧が前記所定摩擦要素に供給されるときに、前記油圧生成手段によって前記所定摩擦要素に供給されている油圧が所定値より低いときは、前記オイルポンプから前記所定摩擦要素に供給される作動圧の上昇を抑制することを特徴とする。
【0014】
そして、請求項6に記載の発明は、前記請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の車両のアイドルストップ制御装置において、前記摩擦要素制御手段には、前記オイルポンプと前記所定摩擦要素との間に配置され、レンジの切換操作に連動して作動して前進走行レンジで両者を連通させるマニュアルバルブが設けられており、前記油圧生成手段は、前記マニュアルバルブから所定摩擦要素に通じる油路に、該油圧生成手段側からの油路とマニュアルバルブ側からの油路とを選択的に所定摩擦要素側へ連通させる切換手段を介して接続されていることを特徴とする。
【0015】
さらに、請求項7に記載の発明は、前記請求項1に記載の車両のアイドルストップ制御装置において、前記油圧生成手段は電動オイルポンプであり、かつ、該電動オイルポンプの回転数を制御するポンプ制御手段と、前記所定摩擦要素の締結状態を検出する締結状態検出手段とが備えられ、前記ポンプ制御手段は、自動変速機が中立レンジの状態でエンジンが自動停止したときに、前記電動オイルポンプの回転数を所定の第1回転数に制御すると共に、その後、前記締結状態検出手段により前記所定摩擦要素が締結されたことが検出されたときに、前記第1回転数よりも低回転数である第2回転数に制御することを特徴とする。
【0016】
また、請求項8に記載の発明は、前記請求項1に記載の車両のアイドルストップ制御装置において、前記油圧生成手段は電動オイルポンプであり、かつ、該電動オイルポンプの回転数を制御するポンプ制御手段が備えられ、該ポンプ制御手段は、自動変速機が中立レンジの状態でエンジンが自動停止したときに、所定期間、前記電動オイルポンプの回転数を所定の第1回転数に制御すると共に、その後、該第1回転数よりも低回転数である第2回転数に制御することを特徴とする。
【0017】
また、請求項9に記載の発明は、前記請求項7又は請求項8に記載の車両のアイドルストップ制御装置において、前記第1回転数は、前記電動オイルポンプに予め設定された上限回転数であることをと特徴とする。
【0018】
そして、請求項10に記載の発明は、前記請求項1、請求項7、請求項8、請求項9のいずれか1項に記載の車両のアイドルストップ制御装置において、ブレーキの作動状態を検出する作動状態検出手段が備えられ、自動変速機のレンジが中立レンジであり、かつ前記作動状態検出手段によりブレーキの締結が検出されている状態で、前記アイドルストップ手段によりエンジンが自動停止されているときは、前記アイドルストップ手段は、前記作動状態検出手段によりブレーキが締結状態から解放状態を経由して再度締結状態に移行したことが検出されたときに、エンジンを再始動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上の構成により、本願各請求項の発明によれば、次の効果が得られる。
【0020】
まず、請求項1に記載の発明によれば、アイドルストップ手段によるエンジンの自動停止中に、電動オイルポンプ等の油圧生成手段が作動し、該手段で生成された作動圧が前進発進段で締結される所定摩擦要素に供給されることにより、エンジンの自動停止により該エンジンによって駆動されるオイルポンプが停止しても前記所定摩擦要素が締結状態に維持される。
【0021】
その場合に、中立レンジでのエンジン自動停止状態であっても、前記所定摩擦要素が締結状態に維持されるので、次の発進時にレンジを前進走行レンジに切り換えたときに該所定摩擦要素を改めて締結する必要がなく、改めて締結する場合の応答遅れやショックの発生が回避され、円滑で応答性のよい発進性が得られることになる。
【0022】
ところで、エンジンが自動停止中で、かつ自動変速機のレンジが中立レンジの状態で、油圧生成手段によって生成された作動圧によって前記所定摩擦要素を締結状態に維持すると、走行レンジに切り換えられる前に、例えばブレーキペダルの踏み込みが解除されるなどのエンジンの自動再始動条件が成立し、或いはバッテリ残容量の低下等のエンジンの自動停止禁止条件が成立するなどにより、エンジンが自動再始動したときに、自動変速機のレンジが中立レンジの状態で車両が発進するという不都合が生じることになる。
【0023】
これに対し、請求項2に記載の発明によれば、自動変速機のレンジが中立レンジであって、前記油圧生成手段によって生成された作動圧により前記所定摩擦要素が締結されている状態でエンジンが自動再始動されたときは、油圧制御手段が前記所定摩擦要素に供給されている作動圧を排出することにより、該摩擦要素が解放されることになる。したがって、中立レンジでエンジンが再始動したときに車両が発進するという不具合が回避される。
【0024】
また、請求項3に記載の発明によれば、エンジンの自動停止中に、自動変速機のレンジが中立レンジに切り換えられた後、後退速で発進するために後退レンジに切り換えられたときに、後退速で締結される摩擦要素が締結されると共に、前進発進段で締結される前記所定摩擦要素に供給されていた作動圧が油圧制御手段によって排出されて、該摩擦要素が解放されることになる。したがって、前記所定摩擦要素が締結されたまま、後退速で締結される摩擦要素が締結されることによるインターロックが回避され、後退速での円滑な発進が実現される。
【0025】
その場合に、請求項4に記載の発明によれば、前進発進段で締結される所定摩擦要素の締結力が所定値以下に低下してから後退速で締結される摩擦要素が締結されるので、後退速への移行が、インターロック状態を生じることなく、一層円滑に行なわれることになる。
【0026】
ところで、自動変速機のレンジが前進走行レンジから中立レンジに切り換えられた後にエンジンが自動停止したときは、前記所定摩擦要素から作動圧が一旦排出された後、エンジンの自動停止時から作動を開始する油圧生成手段によって改めて該所定摩擦要素に作動圧が供給されることになり、その後、前進走行レンジに切り換えられてエンジンが自動再始動したときに、前記油圧生成手段に代わって、エンジン駆動のオイルポンプが所定摩擦要素に作動圧を供給することになる。
【0027】
その場合に、前記油圧生成手段は、所定摩擦要素に供給される作動圧を生成するだけであるから、全摩擦要素に供給される作動圧を生成するエンジン駆動のオイルポンプに比べて容量が小さいのが通例であり、この場合、上記の油圧生成手段が所定摩擦要素に作動圧を供給している状態からオイルポンプが作動圧を供給する状態に切り換わるときに、油圧生成手段による作動圧が十分に上昇していないことがある。そのため、前記オイルポンプが作動圧の供給を開始したときに、所定摩擦要素に供給される作動圧が急に上昇し、該摩擦要素の急激な締結によるショックが発生する可能性がある。
【0028】
これに対し、請求項5に記載の発明によれば、自動変速機のレンジが前進走行レンジから中立レンジに切り換えられた後にエンジンが自動停止して、油圧生成手段が所定摩擦要素に改めて作動圧を供給し、その後、前進走行レンジに切り換えられて、該所定摩擦要素への作動圧の供給がオイルポンプに切り換えられるときに、該所定摩擦要素に供給されている作動圧が所定値より低いときは、前記所定摩擦要素に供給される作動圧が急に上昇しないように油圧制御手段によって制御されるので、所定摩擦要素が急激に締結されることによるショックが抑制されることになる。
【0029】
そして、請求項6に記載の発明によれば、前記油圧生成手段は、前記マニュアルバルブと前記所定摩擦要素との間の油路に切換手段を介して接続されているので、マニュアルバルブを経由することなく所定摩擦要素に作動圧を供給することができ、油路の構成が簡素化されることになる。
【0030】
一方、請求項7及び請求項8に記載の発明によれば、前記油圧生成手段が電動オイルポンプである場合において、自動変速機が中立レンジの状態でエンジンが自動停止されたときに、前記電動オイルポンプの回転数が相対的に高回転である第1回転数に制御されることにより、前進走行レンジから中立レンジに切り換えられたときに一旦排出された所定摩擦要素の締結用の作動圧が、エンジンの自動停止直後に速やかに立ち上げられることになる。
【0031】
したがって、エンジンの自動停止後、比較的短時間の後に再発進する場合にも、前記所定摩擦要素は確実に締結された状態とされており、これにより、前記作動圧の立ち上がりの遅れやこれに伴う前記所定摩擦要素の締結の遅れにより再発進時に該摩擦要素がすべり、所要の発進応答性が得られないといった事態が回避される。
【0032】
特に、電動オイルポンプは、前述のように、エンジン駆動のオイルポンプよりも容量が小さいのが通例で、通常の制御では、前記締結用作動圧の立ち上がりが遅れ、良好な発進応答性が得られないおそれがあるが、請求項7及び請求項8に記載の発明により、この問題が解消されることになる。
【0033】
そして、上記のようにエンジンの自動停止直後に電動オイルポンプの回転数を相対的に高い第1回転数とした後、請求項7に記載の発明によれば、締結状態検出手段により前記所定摩擦要素が締結されたことが検出されたときに、また、請求項8に記載の発明によれば、エンジンの自動停止後、例えば所定摩擦要素の締結に要する時間として設定された所定期間が経過したときに、いずれも、電動オイルポンプの回転数が前記第1回転数よりも低回転数である第2回転数に制御されるので、所定摩擦要素が締結された後も高回転数である第1回転数を維持することによる無駄なエネルギ消費が抑制されることになる。
【0034】
その場合に、請求項9に記載の発明によれば、前記請求項7、8に記載の発明における電動オイルポンプの第1回転数が、該ポンプに予め設定された上限回転数とされるので、該ポンプの過回転による耐久性の低下等を防止し、該ポンプの保護を図りながら、エンジン自動停止後における前記所定摩擦要素の締結の遅れが効果的に防止されることになる。
【0035】
そして、請求項10に記載の発明によれば、前記請求項1、請求項7、請求項8、請求項9のうちのいずれか1項に記載の発明において、自動変速機のレンジが中立レンジであり、かつブレーキが締結されている状態で、エンジンが自動停止されているときは、運転者による中立レンジから前進走行レンジへの切り換え操作がなくても、ブレーキが締結状態から解放状態を経由して再度締結状態に移行したとき、換言すれば、その直後に前進走行レンジに切り換えられて発進するものと推測されるときは、その時点でエンジンが自動再始動される。したがって、運転者の発進要求に沿って遅滞なくエンジンが始動することになる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施形態に係る自動変速機の骨子図である。
【図2】同自動変速機の摩擦要素の締結表である。
【図3】同自動変速機の油圧制御回路の要部の回路図である。
【図4】同自動変速機及びエンジンの制御システム図である。
【図5】アイドルストップ中の第1の動作を示すタイムチャートである。
【図6】同、第2の動作を示すタイムチャートである。
【図7】同、第3の動作を示すタイムチャートである。
【図8】同、第4の動作を示すタイムチャートである。
【図9】図8の動作の他の状態を示すタイムチャートである。
【図10】アイドルストップ中の第5の動作を示すタイムチャートである。
【図11】第1実施形態の制御例を示すフロチャートである。
【図12】同、他の制御例を示すフローチャートである。
【図13】本発明の第2実施形態に係る油圧制御回路の要部の回路図である。
【図14】本発明の第3実施形態の動作を示すタイムチャートである。
【図15】同、制御例を示すフローチャートである。
【図16】本発明の第4実施形態の動作を示すタイムチャートである。
【図17】同、制御例を示すフローチャートである。
【図18】本発明の第5実施形態の動作を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0038】
まず、本発明の第1実施形態に係るアイドルストップ制御装置が適用される自動変速機について説明すると、図1に骨子を示すように、この自動変速機1は、フロントエンジンフロントドライブ車等のエンジン横置き式車両に適用されるもので、主たる構成要素として、エンジン出力軸2に取り付けられたトルクコンバータ3と、該トルクコンバータ3からの動力が入力軸4を介して入力される第1ラッチ10及び第2クラッチ20と、これらのクラッチ10、20や入力軸4から動力が入力される変速機構30とを有し、これらが入力軸4の軸心上に配置されて、変速機ケース5に収納されている。
【0039】
また、前記トルクコンバータ3と第1、第2クラッチ10、20との間には、該トルクコンバータ3を介してエンジンにより駆動される機械式のオイルポンプ6が配置され、また、第1、第2クラッチ10、20と前記変速機構30との間には、該変速機構30からの動力を取り出す出力ギヤ7が配置されている。そして、該出力ギヤ7から取り出された動力が、カウンタドライブ機構8を介して差動装置9に伝達され、車軸9a、9bを介して前輪を駆動するようになっている。
【0040】
前記トルクコンバータ3は、エンジン出力軸2に連結されたケース3aと、該ケース3a内に固設されたポンプ3bと、該ポンプ3bに対向配置されて該ポンプ3bにより作動油を介して駆動されるタービン3cと、該ポンプ3bとタービン3cとの間に介設され、かつ、前記変速機ケース5にワンウェイクラッチ3dを介して支持されてトルク増大作用を行うステータ3eと、ケース3aとタービン3cとの間に設けられ、該ケース3aを介してエンジン出力軸2とタービン3cとを直結するロックアップクラッチ3fとで構成されている。そして、タービン3cの回転が入力軸4を介して前記第1、第2クラッチ10、20や変速機構30側に伝達されるようになっている。
【0041】
また、変速機構30は、第1、第2、第3プラネタリギヤセット(以下「第1、第2、第3ギヤセット」という)40、50、60を有し、これらが変速機ケース5内にトルクコンバータ3側からこの順序で配置されている。
【0042】
また、摩擦要素として、前記第1、第2クラッチ10、20の他に、変速機構30を構成する第1ブレーキ70、第2ブレーキ80及び第3ブレーキ90が備えられ、エンジン側からこの順序で配置されている。また、第1ブレーキ70に並列にワンウェイクラッチ71が配置されている。
【0043】
前記第1、第2、第3ギヤセット40、50、60は、いずれもシングルピニオン型のプラネタリギヤセットであって、サンギヤ41、51、61と、これらのサンギヤ41、51、61にそれぞれ噛み合った各複数のピニオン42、52、62と、これらのピニオン42、52、62をそれぞれ支持するキャリヤ43、53、63と、各複数のピニオン42、52、62にそれぞれ噛み合ったリングギヤ44、54、64とで構成されている。
【0044】
そして、入力軸4が第3ギヤセット60のサンギヤ61に連結されていると共に、第1ギヤセット40のサンギヤ41と第2ギヤセット50のサンギヤ51、第1ギヤセット40のリングギヤ44と第2ギヤセット50のキャリヤ53、第2ギヤセット50のリングギヤ54と第3ギヤセット60のキャリヤ63が、それぞれ連結されている。そして、第1ギヤセット40のキャリヤ43に前記出力ギヤ7が連結されている。
【0045】
また、第1ギヤセット40のサンギヤ41及び第2ギヤセット50のサンギヤ51は、第1クラッチ10の出力部材11に連結され、該第1クラッチ10を介して入力軸4に断接可能に連結されている。また、第1ギヤセット40のリングギヤ44及び第2ギヤセット50のキャリヤ53は、第2クラッチ20の出力部材21に連結され、該第2クラッチ20を介して入力軸4に断接可能に連結されている。
【0046】
さらに、第1ギヤセット40のリングギヤ44及び第2ギヤセット50のキャリヤ53は、並列に配置された第1ブレーキ70及びワンウェイクラッチ71を介して変速機ケース5に断接可能に連結されており、第2ギヤセット50のリングギヤ54及び第3ギヤセット60のキャリヤ63は、第2ブレーキ80を介して変速機ケース5に断接可能に連結されており、さらに、第3ギヤセット60のリングギヤ64は、第3ブレーキ90を介して変速機ケース5に断接可能に連結されている。
【0047】
以上の構成により、この自動変速機1によれば、第1、第2クラッチ10、20及び第1、第2、第3ブレーキ70、80、90の締結状態の組み合わせにより、前進6速と後退速とが得られるようになっており、その組み合わせと変速段の関係を図2の締結表に示す。
【0048】
ここで、第1ブレーキ70は、エンジンブレーキ作動用のレンジで締結されるようになっており、Dレンジ等では、該第1ブレーキ70に代えてワンウェイクラッチ71がロックすることにより1速段が実現されるようになっているが、Dレンジ等の1速で第1ブレーキ70を締結する場合もある。
【0049】
以上のような各クラッチ10、20及びブレーキ70、80、90の締結、解放は油圧制御回路によって制御されるようになっており、該油圧制御回路100のうち、停車直前及び発進時の変速段である1速、及び後退速を実現する部分は、図3に示すように構成されている。
【0050】
即ち、この油圧制御回路100は、前記エンジンによって駆動される機械式のオイルポンプ(以下「機械ポンプ」という)6とは別に設けられたモータ101aによって駆動される電動オイルポンプ(以下「電動ポンプ」という)101を有すると共に、前記機械ポンプ6の吐出側には、レンジ位置に応じて該ポンプ6からの油圧を各摩擦要素に振り分けて供給するマニュアルバルブ102が配置されている。
【0051】
このマニュアルバルブ102は、ライン103を介して前記機械ポンプ6に接続された入力ポートaと、Dレンジ等の前進走行レンジで該入力ポートaに連通する前進用出力ポートbと、Rレンジで該入力ポートaに連通する後退用出力ポートcとを有し、Nレンジでは、入力ポートaはいずれの出力用ポートb、cにも連通せず、該出力ポートb、cはドレンされるようになっている。
【0052】
前記前進用出力ポートbに接続された前進用ライン104は、オリフィスとチェックバルブとで構成されて作動油の排出方向に絞り作用を有する一方向絞り機構105を介してオイルポンプシフトバルブ(以下「シフトバルブ」という)106に導かれ、該シフトバルブ106の第1入力ポートdに接続されている。
【0053】
また、このシフトバルブ106の第2入力ポートeには、ライン107を介して前記電動ポンプ101の吐出側が接続されていると共に、該シフトバルブ106の一端の制御ポートfには、前記機械式ポンプ6の吐出側のライン103から分岐されたライン108が接続されている。
【0054】
そして、前記機械ポンプ6の作動時には、その吐出圧が前記ライン108を介してシフトバルブ106の制御ポートfに導入されることにより、スプリングの付勢力に抗してスプールが図の下半部で示す右側の位置(以下「第1位置」という)に移動し、これにより、前記第1入力ポートdが該シフトバルブ106の出力ポートgに連通する。
【0055】
また、前記機械ポンプ6の非作動時は、制御ポートfに該ポンプ6の吐出圧が導入されないので、スプリングの付勢力によってスプールが図の上半部で示す左側の位置(以下「第2位置」という)に移動し、このとき、第2入力ポートeが出力ポートgに連通する。
【0056】
そして、このシフトバルブ106の出力ポートgは、ライン109に接続されており、該ライン109が、油圧制御用の第1リニアソレノイドバルブ121を介して前記第1クラッチ10に導かれている。
【0057】
一方、前記マニュアルバルブ102の第2出力ポートcにはライン110が接続されている。このライン110は、ライン111、112に分岐された上で、それぞれ、油圧制御用の第2リニアソレノイドバルブ122、第3リニアソレノイドバルブ123を介して前記第1ブレーキ70及び第3ブレーキ90に導かれている。
【0058】
なお、前記電動ポンプ101の吐出側のライン107からは排圧回路113が分岐されており、該排圧回路113にオリフィス114が設けられている。また、前記各リニアソレノイドバルブ121、122、123の下流側には、これらのソレノイドバルブで発生する油圧振動を吸収するためのアキュムレータ124、125、126が設けられている。
【0059】
次に、前記自動変速機1の制御及びエンジンのアイドルストップ制御を行なう制御システムについて説明する。
【0060】
図4に示すように、このシステムの中心となる制御ユニット200には、当該車両の速度を検出する車速センサ201からの信号と、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ202からの信号と、ブレーキペダルの踏み込みを検出するブレーキスイッチ203からの信号と、運転者によって選択されている自動変速機1のレンジを検出するレンジセンサ204からの信号と、前記第1クラッチ10に供給されている作動圧(以下「第1クラッチ圧」という)を検出する第1クラッチ圧センサ205からの信号と、当該車両に搭載されているバッテリの残容量を検出するバッテリ残容量センサ206からの信号と、エンジン水温を検出するエンジン水温センサからの信号207とが入力されるようになっている。
【0061】
そして、これらの信号に基づき、該制御ユニット200は、次のようにアイドルストップ制御を行なう。
【0062】
即ち、所定のエンジンの自動停止条件が成立したとき、具体的には、バッテリの残容量が所定量以上であり、エンジン水温が所定温度以上の状態において、車速が所定車速以下であり、アクセル開度が所定開度以下であり、かつ、ブレーキペダルが踏み込まれたときに、エンジンの燃料供給装置や点火装置等のエンジンを作動させるための装置210にその作動を停止させるエンジン停止信号を出力してエンジンを自動停止させる。
【0063】
また、エンジンの自動停止中にブレーキペダルの踏み込み解除、或いは自動変速機1のレンジの中立レンジから走行レンジへの切り換えなどの自動再始動条件が成立したときに、前記のエンジンを作動させるための装置210とエンジンの始動装置211とにエンジン始動信号を出力してエンジンを自動再始動させる。
【0064】
また、この制御ユニット200は、車速とアクセル開度とに基づき、選択されているレンジに応じた自動変速機1の変速制御を行なうと共に、前記アイドルストップ制御中に、レンジの切り換えや、第1クラッチ圧等に応じて、前記自動変速機1の油圧制御回路100における第1〜第3リニアソレノイドバルブ121、122、123及び電動ポンプ101を駆動するモータ101aに制御信号を出力し、アイドルストップ中における自動変速機1の摩擦要素の締結制御を行うようになっている。
【0065】
次に、図5〜図10に示すタイムチャートに従い、前記アイドルストップ制御中における電動ポンプ101による自動変速機1の摩擦要素の締結動作について説明する。
【0066】
まず、図5に示す動作は、前進走行レンジとしてDレンジが選択されている状態で停車し、エンジンが自動停止した後、他のレンジへの切換操作が行われることなく再始動する場合の動作を示すもので、まず、エンジンの自動停止に先立ち、車速が所定車速(エンジン自動停止条件の車速又はそれ以上の車速)以下になった時点T1で電動ポンプ101が作動し、その後、前述のエンジン自動停止条件が成立した時点T2でエンジンが自動停止する。
【0067】
このとき、エンジンに駆動される機械ポンプ6が停止することにより、該ポンプ6から第1クラッチ10への作動圧の供給が停止されることになるが、図3の油圧制御回路100においては、機械ポンプ6の吐出圧が低下することにより、シフトバルブ106のスプールが第2位置に移動し、電動ポンプ101から導かれたライン107が第1クラッチ10に通じるライン109に連通する。
【0068】
したがって、エンジンの自動停止に先立つ時点T1で既に作動を開始している電動ポンプ101からの作動圧が機械ポンプ6からの作動圧に代わり、ライン109を介して第1クラッチ10に供給され、図5に符号アで示すように、第1クラッチ圧が供給されている状態、即ち第1クラッチ10が締結された状態が維持される。その場合、電動ポンプ101で供給される第1クラッチ圧は、締結状態を維持するだけの比較的低い油圧に制御される。
【0069】
その後、時点T3で、エンジン再始動条件としてのブレーキペダルの踏み込みの解除が検出されると、エンジンが再始動されることになるが、自動変速機1は第1クラッチ10が締結された状態、即ち1速の状態が保持されているから、車両はアクセルペダルの踏み込みに応じて直ちに発進することになる。
【0070】
そして、その後、エンジンの始動に伴う機械ポンプ6の作動開始により該ポンプ6の吐出圧が立ち上がり、前記シフトバルブ106のスプールが第1位置へ移動することにより、該機械ポンプ6からの作動圧が第1クラッチ圧として第1クラッチ10に供給される。これにより、電動ポンプ101は役目を終了し、停止する。
【0071】
その場合に、エンジン自動停止中、第1クラッチ圧は比較的低い油圧に制御されていたので、該第1クラッチ圧を車両の発進に必要な圧力まで速やかに上昇させるため、電動ポンプ101は、符合イで示すように、停止する直前に吐出圧が一時的に高くなるように、回転数が高められる。
【0072】
以上のようにして、第1クラッチ10は、エンジンの自動停止中も締結された状態が維持され、発進時に該第1クラッチ10を改めて締結することがないから、クラッチ締結時の応答遅れが防止されて良好な発進応答性が得られると共に、クラッチの締結によるショックの発生が回避される。
【0073】
次に、図6に示す動作は、Dレンジが選択されている状態で停車し、エンジンが自動停止した後、運転者がDレンジからNレンジへの切換操作を行い、その後、再びDレンジへの切換操作を行って発進する場合のもので、この場合も、時点T1で電動ポンプ101が作動を開始し、時点T2でエンジンが自動停止する。そして、エンジンの自動停止に伴う機械ポンプ6の停止によりシフトバルブ106のスプールが第2位置に移動し、この時点T2で、機械ポンプ6に代わって電動ポンプ101が第1クラッチ圧の供給を開始する。
【0074】
その後、時点T4で、DレンジからNレンジへの切換操作が行われるのであるが、図6に符号ウで示すように、Nレンジへの切換操作後も電動ポンプ101による第1クラッチ圧の供給が継続され、第1クラッチ10が締結された状態に維持される。
【0075】
このように、エンジンの自動停止中にDレンジからNレンジへの切換操作が行われたときは、NレンジからDレンジへの切換操作がエンジンの再始動条件とされ、この操作が行われた時点T5でエンジンが再始動する。そして、その後、ブレーキが解除され、アクセルペダルが踏み込まれることにより車両が発進することになるが、図5に示す場合と同様、エンジンの自動停止中、第1クラッチ10は締結状態に維持される。
【0076】
つまり、一般に自動変速機のレンジがDレンジからNレンジに切り換えられた場合、各摩擦要素はマニュアルバルブから作動圧が排出されて解放されることになり、この場合、再びDレンジに操作したときに、改めて1速で締結される摩擦要素(本実施形態では第1クラッチ10)が締結されることになるのであるが、上記のように、この実施形態では、エンジン自動停止中にDレンジからNレンジへの切換操作が行われても、第1クラッチ10は締結された状態に維持されるのである。これにより、前記図5に示す制御の場合と同様、発進時の応答遅れやショックの発生が防止される。
【0077】
なお、この動作は、図3の油圧制御回路100に示すように、電動ポンプ101を、マニュアルバルブ102を経由することなく、ライン107により直接シフトバルブ106に接続したことにより実現され、電動ポンプ101からの作動圧を、Nレンジへの操作に伴うマニュアルバルブ102の作動に拘わらず、第1クラッチ10に供給することが可能となっているのである。
【0078】
次に、図7に示す動作は、Dレンジが選択されている状態で停車し、エンジンが自動停止した後、後退速で発進するために、運転者がDレンジからNレンジを経由してRレンジへの切換操作を行った場合のもので、この場合も、時点T1で電動ポンプ101が作動を開始した後、時点T2でエンジンが自動停止し、機械ポンプ6からの作動圧に代えて電動ポンプ101からの作動圧が第1クラッチ圧として第1クラッチ10に供給される。
【0079】
その後、時点T4でDレンジからNレンジへの切換操作が行われるが、図7に符号エで示すように、Nレンジへの切換操作後も第1クラッチ圧の供給が継続され、第1クラッチ10が締結された状態が維持される。このことは、前述の図6に示す動作と同様であるが、この動作では、次にNレンジからRレンジへの切換操作が行われ、この操作がエンジンの再始動条件とされて、この操作の時点T6でエンジンが再始動し、機械ポンプ6が再び作動を開始する。
【0080】
この動作では、エンジンの再始動後、後退速で発進するので、エンジン再始動の時点T6で、第1クラッチ10が解放されると共に、機械ポンプ6で発生した作動圧が、マニュアルバルブ102からライン110〜112を介して、第1ブレーキ圧及び第3ブレーキ圧として、第1ブレーキ70及び第3ブレーキ90にそれぞれ供給される。
【0081】
その場合に、前記エンジン再始動の時点T6で電動ポンプ101が停止し、第1クラッチ10から第1クラッチ圧が排出されるのであるが、該第1クラッチ10を確実かつ速やかに解放する必要上、符号オで示す第1クラッチ圧の排出は、図3の油圧制御回路100におけるライン109上の第1リニアソレノイドバルブ121によって行なわれる。
【0082】
そして、その後、再始動したエンジンの回転数が所定回転数に達し、或いは第1クラッチ圧が所定圧まで低下した時点T7で、前記第1、第3ブレーキ圧の供給制御を開始し、これにより、自動変速機は第1クラッチ10が締結された1速の状態から、第1ブレーキ70及び第3ブレーキ90が締結された後退速に切り換わることになる。
【0083】
その場合に、前記第1、第3ブレーキ圧の供給開始のタイミングや油圧の立ち上がり状態は、ライン111、112に設置された第2、第3リニアソレノイドバルブ122、123によってそれぞれ適切に制御され、例えば、第1クラッチ圧が所定圧まで低下した時点で、まず第1ブレーキ圧の供給を開始し、引き続き第3ブレーキ圧の供給を開始するといった制御が行なわれる。
【0084】
このようにして、Rレンジへの操作が行われたときに、第1クラッチ10が確実かつ速やかに解放されると共に、第1ブレーキ70及び第3ブレーキ90の締結タイミングが適切に制御されることにより、自動変速機1は、中立状態から後退速の状態へ、迅速かつ円滑に移行することになる。
【0085】
一方、図8、図9に示す動作は、停車時におけるエンジンの自動停止前に、運転者によるDレンジからNレンジへの切換操作が行われた場合のもので、エンジンに駆動される機械ポンプ6が作動している状態、即ち油圧制御回路100におけるシフトバルブ106のスプールが第1位置にある状態でマニュアルバルブ102がNレンジ位置に移動することにより、Nレンジへの切換操作が行われた時点T8で、第1クラッチ10に供給されていた作動圧が前記シフトバルブ106を介してマニュアルバルブ102から排出され、第1クラッチ10が解放される。
【0086】
その後、所定のエンジン自動停止条件が成立すれば、時点T9でエンジンが自動停止すると共に、その直後の時点T10で電動ポンプ101が作動を開始し、この電動ポンプ101で発生された作動圧が、機械ポンプ6の停止に伴ってスプールが第2位置へ移動したシフトバルブ106を介して第1クラッチ10に供給され、一旦解放された第1クラッチ10を再び締結させる制御が開始される。
【0087】
そして、この動作では、NレンジからDレンジへの切換操作がエンジンの再始動条件とされ、その操作が行われた時点T11でエンジンが再始動すると共に、これに伴う機械ポンプ6の作動開始により、シフトバルブ106のスプールが第1位置へ移動し、該機械ポンプ6からの作動圧が第1クラッチ圧として第1クラッチ10に供給される。
【0088】
ところで、時点T11で、第1クラッチ10へ第1クラッチ圧を供給するポンプが電動ポンプ101から機械ポンプ6に交代するときに、該第1クラッチ圧が電動ポンプ101によってある程度まで上昇されていないと、機械ポンプ6に交代したときに該第1クラッチ圧が急上昇し、第1クラッチ10が急激に締結されてショックが発生するおそれがある。
【0089】
つまり、機械ポンプ6は自動変速機1の全体に作動圧を供給する必要上、容量が十分大きく設定されているのに対し、電動ポンプ101は、第1クラッチ10専用のポンプであるから機械ポンプ6に比べて容量が小さく、しかも、該電動ポンプ101は、第1クラッチ圧が排出された後、エンジン自動停止後の時点T10で作動を開始するから、機械ポンプ6に交代する時点T11で第1クラッチ圧が十分に上昇していないことがあり、この状態で、機械ポンプ6に交代すると、第1クラッチ圧が急に上昇し、第1クラッチ10の急激な締結によるショックが発生することが考えられるのである。
【0090】
そこで、図8、図9に示す動作では、図4に示す第1クラッチ圧センサ205により、NレンジからDレンジへの切換操作が行われた時点T11で第1クラッチ圧を検出し、その油圧が所定圧に達しているか否かを判定する。この所定圧は、Dレンジの状態でエンジンが自動停止した場合において、第1クラッチ圧が排出されることなく、機械ポンプ6と入れ替わって電動ポンプ101が第1クラッチ圧を生成する場合の油圧(図5〜図7に符号ア、ウ、エで示す油圧)と同等もしくはこれよりも低い油圧に設定されている。
【0091】
そして、NレンジからDレンジへの切換操作が行われた時点T11の第1クラッチ圧が、図8に符号カで示すように、前記所定圧に達しているときは、第1クラッチ圧を速やかに上昇させるために電動ポンプ101の回転数を一時的に高めた上で(符号イ’)、機械ポンプ6の吐出圧をそのまま第1クラッチ圧として第1クラッチ10に供給する。
【0092】
これに対し、図9に符号キで示すように、NレンジからDレンジへの切換操作が比較的早期に行われたため、その操作の時点T11’で第1クラッチ圧が前記所定圧に達していないときは、同様に電動ポンプ101の回転数を一時的に高めた上で(符合イ”)、符合クで示すように、第1クラッチ10に通じるライン109に備えられた第1リニアソレノイドバルブ121により、機械ポンプ6からの作動圧の上昇を抑制し、第1クラッチ10へ所定の時間をかけて供給するように制御する。これにより、第1クラッチ圧が急激に上昇することによる第1クラッチ10の締結時のショックが抑制される。
【0093】
さらに、図10に示す動作は、図8、図9の動作と同様、停車時におけるエンジンの自動停止前に、DレンジからNレンジへの切換操作が行われた場合のものであるが、Dレンジへの切換操作が行われることなく、Nレンジのままエンジンが再始動する場合のもので、この場合、まず、エンジン自動停止前に、油圧制御回路100におけるシフトバルブ106のスプールが第1位置にある状態でマニュアルバルブ102がNレンジ位置に移動することにより、Nレンジへの切換操作が行われた時点T8で、マニュアルバルブ102から第1クラッチ圧が排出され、第1クラッチ10が解放される。
【0094】
そして、その後、時点T9でエンジンが自動停止し、時点T10で電動ポンプ101が作動を開始し、第1クラッチ10へ再び第1クラッチ圧が供給されることになるが、ここまでの動作は図8、図9の動作と同様である。
【0095】
その後、この図10の動作では、NレンジからDレンジへの切換操作が行われることなく、時点T12で、ブレーキペダルの踏み込みが解除され、これがエンジン再始動条件とされて、この時点T12で、符号ケで示すように、Nレンジのまま、エンジンが自動再始動する。また、エンジンの再始動に伴い、この時点T12で電動ポンプ101が停止する。
【0096】
このとき、電動ポンプ101の停止により、第1クラッチ圧の供給は終了するが、第1クラッチ10から作動圧が排出される前にエンジンが再始動すると、Nレンジで車両が発進するという不具合が発生するおそれがある。そこで、この場合は、図3の油圧制御回路100の第1リニアソレノイドバルブ121により、符号コで示すように、第1クラッチ圧を速やかに排出する。これにより、第1クラッチ10が速やかに解放され、エンジンの再始動時にNレンジで車両が発進するという不具合が解消される。
【0097】
そして、エンジンの再始動に伴う機械ポンプ6の作動開始により、シフトバルブ106のスプールが第1位置に移動することになるが、マニュアルバルブ102はNレンジ位置にあるので、機械ポンプ6からの作動圧は第1クラッチ10に供給されることはなく、時点12以降は、エンジンが作動している状態での中立状態となる。
【0098】
なお、エンジンが自動再始動する時点T12の前に、例えばバッテリ残容量が所定量以下に低下するなど、アイドルストップ制御を禁止すべき状態が発生したときは、符合サで示すように、その時点でエンジンが再始動される。
【0099】
この場合、エンジンの再始動を迅速に行なわせるため、符合シ、スで示すように電動ポンプ101を停止させると共に、前記第1リニアソレノイドバルブ121により第1クラッチ圧を速やかに排出し、第1クラッチ10が解放された状態でエンジンを再始動するように制御される。
【0100】
ところで、このように、エンジンの始動前に、電動ポンプ101を停止させた上で、第1リニアソレノイドバルブ121により第1クラッチ圧を排出する制御においては、該バルブ121が故障により第1クラッチ圧を排出できなくなった場合、電動ポンプ101からの作動油の排出は期待できないので、第1クラッチ圧の排出が不能となることが考えられる。
【0101】
この場合、図3に示す油圧制御回路6では、電動ポンプ101の吐出側のライン107に排圧回路113が設けられているので、第1クラッチ圧はこの排圧回路113から排出されることになり、第1クラッチ10が解放される。その場合に、この排圧回路113にはオリフィス114が設けられているので、電動ポンプ101の作動時に、吐出された作動油が排圧回路113から抜け、作動圧が上昇しないといったことはない。
【0102】
以上の動作は、図4に示す制御ユニット200による制御によって実現されるものであり、次に、この制御ユニット200の制御動作を図11、図12に示すフローチャートに従って説明する。
【0103】
図11のフローチャートは本実施形態の基本的な制御例を示すもので、まず、ステップS1で、図4に示す各種センサ、スイッチ201〜207からの信号を読み込み、ステップS2で、現在の当該車両の情況が減速中で、車速が設定車速以下まで低下したか否かを判定する。そして、減速中でなく或いは設定車速以下でないときは、以下のエンジン自動停止制御を行わない。
【0104】
一方、当該車両の情況が減速中で、車速が設定車速以下まで低下した場合には、次にステップS3で、自動変速機1の現在のレンジがDレンジであるか否かを判定し、Dレンジである場合には、ステップS4で、電動ポンプ101の駆動を開始すると共に、フラグFを電動ポンプ101が駆動されたことを示す「1」にセットする。
【0105】
その後、ステップS5で、さらに車速が低下したか或いはブレーキペダルが踏み込まれたか、などの所定のエンジン自動停止条件が成立したか否かを判定し、成立したときには、ステップS6で、前述のようなエンジンの自動停止の制御を実行する。
【0106】
さらに、エンジンの自動停止制御後、ステップS7で再びレンジがDレンジであるか否かを判定し、Dレンジであると判定されれば、次にステップS8で、レンジがDレンジからNレンジに切り換えられたか否かを判定し、切り換えられていなければ、ステップS9で、ブレーキが解放されるなどの所定のエンジン再始動条件が成立したか否かを判定する。
【0107】
そして、この再始動条件が成立すれば、ステップS10で、その直後のレンジがDレンジであるか否かを判定し、Dレンジであれば、ステップS11で、エンジンの再始動制御を実行すると同時に、電動ポンプを一時的に高回転数で駆動して第1クラッチ圧を発進に必要な油圧に速やかに上昇させ(図5の符合イ参照)、その後、ステップS12で、該電動ポンプ101を停止させる。
【0108】
これにより、電動ポンプ101の役目が終了し、エンジンの始動に伴う機械ポンプ6の作動により発生した第1クラッチ圧で第1クラッチ40が締結された状態に移行し、この状態で発進する。そして、次の制御のために、ステップS13で、前記フラグFを「0」にリセットする。なお、以上の動作は、図5にタイムチャートを示す動作に相当する。
【0109】
また、前記ステップS8で、エンジンの自動停止後、再始動前に、DレンジからNレンジに切り換えられたことを判定したときは、ステップS14で、電動ポンプ101の駆動を継続すると共に、前記ステップS9、S7を経由してステップS15を実行し、前記フラグFが「1」であるか否かを判定する。そして、この場合は、先にステップS4でフラグFが「1」にセットされているので、再びステップS9を実行し、再始動条件が成立するのを待つ。
【0110】
そして、再始動条件が成立すれば、ステップS10でその直後のレンジがDレンジであるか否かを判定し、Dレンジである場合、即ちDレンジに切り換えられたことによって再始動条件が成立した場合には、前記ステップS11〜S13を実行し、前述の場合と同様に、電動ポンプ101を一時的に高回転数に制御した上で該ポンプ101を停止させ、エンジンの始動に伴う機械ポンプ6の作動により発生した第1クラッチ圧で第1クラッチを締結した状態に移行し、この状態で発進する。なお、この動作は、図6にタイムチャート示す動作に相当する。
【0111】
一方、Dレンジに戻されたこと以外の理由で再始動条件が成立した場合は、前記ステップS10からステップS16を実行し、レンジがRレンジか否かを判定するが、今回は、Nレンジに切り換えられた場合であるので、さらにステップS17を実行し、エンジンを再始動すると同時に、電動ポンプ101を停止し、かつ、図3に示す第1リニアソレノイドバルブ121により、第1クラッチ圧を速やかに排出する制御を行う。
【0112】
つまり、第1クラッチ10が締結されていると、エンジンが再始動したときに、Nレンジで発進することになり、運転者に違和感を与えることになるので、この場合は、エンジンの再始動と同時に、第1クラッチ10を速やかに解放するのである。
【0113】
また、ステップS9で再始動条件が成立したことが判定された場合において、それが、NレンジからRレンジへの切り換えによるものである場合、或いは、Dレンジの状態でエンジンが自動停止し、Nレンジに操作されることなくRレンジに切り換えられて、再始動条件が成立した場合は、前記ステップS16からステップS18を実行し、エンジンを再始動すると同時に、電動ポンプ101を停止し、かつ、第1クラッチ圧を排出する。さらに、ステップS19で、第1、第3ブレーキ70、90に第1ブレーキ圧及び第3ブレーキ圧をそれぞれ供給する制御を行う。
【0114】
これらの作動圧の排出及び供給の制御は、図3に示す第1リニアソレノイドバルブ121、122、123により行い、第1クラッチ10と第1、第3ブレーキ70、90の締結が競合することによるインターロックを回避しながら、後退速が円滑に実現されるように行われる。なお、この動作は、図7にタイムチャート示す動作に相当する。
【0115】
さらに、前記ステップS2で、現在の当該車両の情況が減速中で、車速が設定車速以下まで低下したことを判定された場合において、ステップS3で、自動変速機1の現在のレンジがDレンジでないと判定された場合、即ち、当該エンジン自動停止制御は前進走行からの停車時を前提とするので、Nレンジであると判定された場合であるが、この場合には、ステップS4による電動ポンプ101の駆動開始制御を行わない。
【0116】
つまり、エンジンの自動停止前にレンジがDレンジからNレンジに切り換えられた場合は、その時点では電動ポンプ101の駆動を開始しない。これは、エンジン停止前に電動ポンプを駆動すると、Nレンジに切り換えたにも拘らず、第1クラッチ10の締結状態が維持されて駆動力が発生し、運転者に違和感を与えるからである。
【0117】
そして、この場合は、ステップS5、S6で、自動停止条件が成立したことを判定し、エンジンの自動停止を実行した後、Dレンジではないので、ステップS7からステップS15を実行する。また、この時点では、フラグFは「0」であるから、次にステップS20を実行し、この時点で電動ポンプ101の駆動を開始すると共に、フラグFを「1」にセットする。
【0118】
その後、エンジンの再始動条件が成立したときには、その時点のレンジがDレンジであるか、Nレンジであるか、Rレンジであるかに応じて、前述のステップS11〜13の制御、ステップS17の制御、またはステップS18、S19の制御のいずれかが行われる。
【0119】
次に、図12にフローチャートを示す本実施形態の他の制御例について説明する。この制御例は、図11の基本制御例の動作に加えて、図8、図9に示すエンジン再始動時の動作が実行されるが、その他の動作は基本制御例と同じであり、図12のフローチャートでは、図11のフローチャートのステップS1〜S20と全く同じであるステップS101〜S120に加えて、ステップS121、S122が追加されている。
【0120】
つまり、この制御例では、ステップS109で、エンジンの再始動条件の成立が判定され、ステップS110で、レンジがDレンジであると判定されたときに、ステップS111で、エンジンの再始動制御を実行し、電動ポンプを一時的に高回転数で駆動した後、ステップS121で、第1クラッチ圧が所定圧未満か否かを判定する。
【0121】
この所定圧は、図8、図9に示すもので、前述のように、Dレンジの状態でエンジンが自動停止した場合において、機械ポンプ6と入れ替わりに電動ポンプ101が第1クラッチ圧を生成する場合の油圧と同等もしくはこれよりも低い油圧に設定されている。したがって、Dレンジの状態でエンジンが自動停止した場合は、第1クラッチ圧が前記所定圧未満になることはない。
【0122】
これに対し、エンジンの自動停止前にDレンジからNレンジへの切換操作が行われ、この時点で第1クラッチ圧が一旦排出された後、エンジンが自動停止して電動ポンプ101が駆動を開始し、再び第1クラッチ圧の供給が開始された場合は、エンジンの再始動時までに、該第1クラッチ圧が前記所定圧まで達していないことがある。
【0123】
そこで、ステップS121で、エンジンの再始動時点で第1クラッチ圧が所定圧未満か否かを判定し、所定圧に達していれば、機械ポンプ6から供給される作動圧の立ち上がりに対する制御は行わないが、所定圧に達していない場合は、ステップS122で、図3に示す第1クラッチ10に通じるライン109に備えられた第1リニアソレノイドバルブ121により、機械ポンプ6からの作動圧の上昇を抑制し、第1クラッチ10へ所定の時間をかけて供給するように制御する。
【0124】
これにより、第1クラッチ圧が急激に上昇することによる第1クラッチ10の締結時のショックが抑制されることになるが、この制御の第1クラッチ圧が所定圧に達しているときの動作は、図8の動作に相当し、所定圧に達していないときの動作は、図9の動作に相当する。
【0125】
そして、その後、前述の図11に示す基本制御例の場合と同様、ステップS112で、電動ポンプ101を停止し、ステップS113で、フラグFを「0」にリセットして制御を終了する。
【0126】
次に、図13に示す本発明の第2実施形態について説明する。なお、この実施形態における自動変速機1の構成は前記第1実施形態と同じであり、前記第1実施形態と同一の構成要素については同一の符号を用いて説明する。
【0127】
この実施形態では、油圧生成手段として、前記第1実施形態における電動ポンプ101に代えてアキュムレータ101’が用いられており、その吐出側のライン107’がシフトバルブ106’のポートe’に接続されている。
【0128】
また、該シフトバルブ106’には、前記アキュムレータ101’の蓄圧用のポートh’が設けられており、該バルブ106’のスプールが第1位置に位置するときに、前記ポートe’が該ポートh’に連通するようになっている。そして、このポートh’に、前記機械ポンプ6の吐出圧をシフトバルブ106’の制御ポートf’に導入するライン108から分岐されたライン115’が接続されている。
【0129】
したがって、エンジンの作動中において機械ポンプ6が作動しているときは、その吐出圧がライン108を介して制御ポートf’に導入されて、前記シフトバルブ106’のスプールが第1位置に位置することにより、該シフトバルブの106’のポートe’とポートh’とが連通し、前記ライン108から分岐されたライン115’によって供給されるポンプ6の吐出圧が、シフトバルブ106’のポートh’、ポートe’及びライン107’を経てアキュムレータ101’に導入され、該アキュムレータ101’に蓄圧されることになる。
【0130】
そして、エンジンが自動停止し、シフトバルブ106’の制御ポートf’に機械ポンプ6の吐出圧が供給されなくなると、該シフトバルブ106’のスプールが第2位置に移動することにより、前記ポートe’が出力ポートg’に連通し、前記アキュムレータ101’に蓄圧された油圧が、第1クラッチ圧として、ライン107’、シフトバルブ106’及びライン109を介して第1クラッチ10に供給されることになる。
【0131】
このようにして、エンジンの自動停止時に、第1クラッチ10に供給される作動圧を供給する油圧生成手段が、エンジンに駆動される機械ポンプ6からアキュムレータ107’に自動的に切り換えられることになる。
【0132】
したがって、この実施形態によっても、エンジンの停止時に、機械ポンプ6の代わりに電動ポンプ101を作動させる前記第1実施形態の各動作を同様に実行することが可能となる。ただし、前記第1実施形態の図5、6、7に示す制御では、エンジンの停止前(機械ポンプ6の停止前)に電動ポンプ101を作動開始するようになっているが、アキュムレータ101’を用いた第2実施形態では、これらの制御は、機械ポンプ6の停止時からアキュムレータ101’にる第1クラッチ圧の供給が開始することになる。
【0133】
次に、図14〜図18に示す本発明の第3〜第5実施形態について説明する。なお、これらの実施形態における自動変速機の構成及び油圧制御回路の構成は、図1〜図3に示す第1実施形態の自動変速機1及び油圧制御回路100と同様であり、油圧制御回路には電動ポンプ101が備えられている。
【0134】
また、制御システムの構成も、基本的に図4に示す構成と同様であるが、第3、第5実施形態では、第1クラッチ圧センサ205に代え、第1クラッチ圧が所定圧以上でONになる第1クラッチ圧スイッチ(以下「油圧スイッチ」という)205’が用いられる。この油圧スイッチ205’がONになる所定圧(以下「スイッチON油圧」という)は、エンジンの自動停止中、第1クラッチ10を締結状態に維持するのに必要な油圧に設定されている。なお、以下の説明においても、第1実施形態と同一の構成については、同一の符号を用いる。
【0135】
まず、図14にタイムチャートを示す第3実施形態の動作について説明すると、この動作は、前記第1実施形態における図8〜図10に示す動作と同様、停車時におけるエンジンの自動停止前にDレンジからNレンジへの切換操作が行われた場合のものである。
【0136】
つまり、エンジンが自動停止する前の時点T8で、DレンジからNレンジへの切換操作が行われ、この時点T8で、第1クラッチ10に供給されていた第1クラッチ圧が、油圧制御回路100のシフトバルブ106を介してマニュアルバルブ102から排出され、該第1クラッチ10が解放される。そして、該第1クラッチ圧が所定のスイッチON油圧より低下した時点で、油圧スイッチ205’がOFFとなる。
【0137】
その後、所定のエンジン自動停止条件が成立した時点T9でエンジンが自動停止すると共に、その直後の時点T10で電動ポンプ101が作動を開始し、この電動ポンプ101で生成された作動圧が、第1クラッチ圧として、機械ポンプ6の停止に伴ってスプールが第2位置へ移動したシフトバルブ106を介して第1クラッチ10に供給され、一旦解放された第1クラッチ10を再び締結させる制御が開始される。
【0138】
このとき、電動ポンプ101は、予め設定された上限回転数数である第1回転数で駆動され、符号セで示すように、該電動ポンプ101の吐出圧は実現可能範囲の最大圧となり、第1クラッチ圧が急速に立ち上がって、第1クラッチ10がエンジンの自動停止後、速やかに締結されることになる。
【0139】
これにより、エンジンの自動停止後、比較的短時間の後に再発進する場合にも、前記第1クラッチ10は確実に締結された状態とされており、第1クラッチ10の締結が遅れたため、発進時に該クラッチ10がすべり、所要の発進応答性が得られないといった事態が回避される。
【0140】
そして、前記電動ポンプ101の第1回転数での駆動により、第1クラッチ圧が前記スイッチON油圧に達すると、その時点T13で、電動ポンプ101の回転数は前記第1回転数より低い第2回転数まで低下され、符号ソで示すように、第1クラッチ圧は、前記最大圧よりも低い第1クラッチ10を締結状態に維持するのに必要な油圧とされ、電動ポンプ101の高回転駆動状態を必要以上に継続することによる無駄なエネルギ消費が回避される。
【0141】
その後、NレンジからDレンジへの切換操作が行われれば、その時点T11で、エンジンが再始動し、これに伴って機械ポンプ6が作動を開始する共に、電動ポンプ101が停止し、機械ポンプ6で生成された第1クラッチ圧が第1クラッチ10に供給されることになる。
【0142】
この第3実施形態の動作は、制御ユニット200の制御によって実現されるものであり、次に、この動作を実現する制御動作を図15のフローチャートに従って説明する。
【0143】
この制御は、図11の基本制御例における動作に加えて、図14に符号セで示す電動ポンプ101の駆動開始時の動作を実行するためのステップを追加したものであり、ステップS201〜S219は、図11のフローチャートのステップS1〜S19と全く同じであり、図11のステップS20が、ステップS220〜S222に変更されている。
【0144】
このステップS220〜S222は、停車時のエンジンの自動停止前に自動変速機のレンジがDレンジからNレンジに切り換えられている場合に実行されるもので、この場合、停車時にステップS203でDレンジでない(Nレンジでである)と判定され、その後、ステップS204の電動ポンプ101の駆動開始制御を行うことなく、ステップS205、S206で、自動停止条件の成立が判定されてエンジンが自動停止される。
【0145】
そして、レンジがNレンジであるから、ステップS207からステップ215が実行され、さらに前記ステップS204でフラグFが「1」にセットされていないから、ステップS220〜S222を実行することになる。
【0146】
そして、まず、ステップS220で、電動ポンプを上限回転数である第1回転数で駆動開始すると共に、フラグFを「1」にセットし、次いで、ステップS221で、油圧スイッチ205’がONになったか否かを判定する。
【0147】
そして、該油圧スイッチ205‘がONになれば、即ち、前記電動ポンプの第1回転数での駆動によって第1クラッチ圧が急速に立ち上がり、図4に示す所定のスイッチON油圧に達すれば、次にステップS222で、電動ポンプ101の回転数を第2回転数まで低下させる。
【0148】
これにより、前述のように、第1クラッチ10がエンジンの自動停止後、速やかに締結され、エンジンの自動停止後、比較的短時間の後に再発進する場合にも、該第1クラッチ10のすべりを生じることなく、良好な発進応答性が得られることになる。また、第1クラッチ10が締結された後は、電動ポンプ101の回転数が低下され、該電動ポンプ101の高回転駆動状態を必要以上に継続することによる無駄なエネルギ消費が回避される。そして、その後、基本制御例と同様にして、エンジンの再始動制御が行われる。
【0149】
次に、図16にタイムチャートを示す第4実施形態の動作を説明する。
【0150】
この動作も、停車時におけるエンジンの自動停止前にDレンジからNレンジへの切換操作が行われた場合に、第1クラッチ10を速やかに締結させるためのものであり、図14に示す前記第3実施形態の動作と同様、エンジンが自動停止する前の時点T8で、DレンジからNレンジへの切換操作が行われ、この時点T8で、第1クラッチ10に供給されていた第1クラッチ圧が排出され、該第1クラッチ10が解放される。
【0151】
その後、所定のエンジン自動停止条件が成立した時点T9でエンジンが自動停止すると共に、その直後の時点T14で電動ポンプ101が作動を開始し、この電動ポンプ101で生成された作動圧が第1クラッチ圧として第1クラッチ10に供給され、一旦解放された第1クラッチ10を再び締結させる制御が開始される。
【0152】
このとき、制御ユニット200に内装されたタイマが計時を開始すると共に、前記電動ポンプ101は、前記第3実施形態と同様、予め設定された上限回転数数である第1回転数で駆動され、該電動ポンプ101の吐出圧は、符合タで示すように、実現可能範囲の最大圧とされる。
【0153】
これにより、第1クラッチ圧が急速に立ち上がり、第1クラッチ10がエンジンの自動停止後、速やかに締結されることになって、エンジンの自動停止後、比較的短時間の後に再発進する場合にも、該第1クラッチ10がすべることなく、良好な発進応答性が得られることになる。
【0154】
そして、前記電動ポンプ101を第1回転数で駆動開始した時点T14から所定時間が経過した時点T15で、該電動ポンプ101の回転数は、前記第1回転数より低い第2回転数まで低下され、前記第3実施形態と同様、電動ポンプ101の高回転駆動状態を必要以上に継続することによる無駄なエネルギ消費が回避される。
【0155】
その後、NレンジからDレンジへの切換操作が行われれば、その時点T11で、エンジンが再始動し、これに伴って機械ポンプ6が作動を開始する共に、電動ポンプ101が停止し、機械ポンプ6からの作動圧が第1クラッチ10に供給されることになる。
【0156】
この第4実施形態の動作は、制御ユニット200による制御動作によって実現されるものであり、この制御動作は図17のフローチャートに従って行われるが、このフローチャートは、図15に示す第3実施形態のフローチャートとほぼ同じで、ステップS301〜S319は、図15のフローチャートのステップS201〜S219と全く同じであり、また、ステップS320〜322は、図15のステップS220〜S222に相当するものである。
【0157】
つまり、このステップS320〜S322も、停車時のエンジンの自動停止前に自動変速機のレンジがDレンジからNレンジに切換操作されている場合に実行されるもので、この場合、停車時にステップS303でDレンジでない(Nレンジである)と判定され、その後、ステップS304の電動ポンプ101の駆動開始制御を行うことなく、ステップS305、S306で、自動停止条件の成立が判定されてエンジンが自動停止される。
【0158】
そして、レンジがNレンジであるからステップS307からステップ315が実行され、さらに前記ステップS304でフラグFが「1」にセットされていないから、ステップS320〜S322を実行することになり、まず、ステップS220で、電動ポンプを上限回転数である第1回転数で駆動開始すると共に、フラグFを「1」にセットする。
【0159】
次いで、ステップS321で、電動ポンプ101の駆動開始から所定時間が経過したか否かを判定し、経過していれば、次にステップS222で、電動ポンプ101の回転数を第2回転数まで低下させる。このとき、前記所定時間は、電動ポンプを上限回転数である第1回転数で駆動するこによって、第1クラッチ圧が急速に立ち上がって第1クラッチ10が締結したと推測される時間に設定されている。
【0160】
これにより、第3実施形態と同様、第1クラッチ10がエンジンの自動停止後、速やかに締結され、エンジンの自動停止後、比較的短時間の後に再発進する場合にも、該第1クラッチ10のすべりを生じることなく、良好な発進応答性が得られる共に、第1クラッチ10が締結された後は、電動ポンプ101の回転数が低下され、無駄なエネルギ消費が抑制される。そして、その後は、基本制御例と同様にして、エンジンが再始動される。
【0161】
次に、図18にタイムチャートを示す第5実施形態の動作を説明する。
【0162】
この動作は、停車時におけるエンジンの自動停止前にDレンジからNレンジへの切換操作が行われ、エンジンの自動停止後、Dレンジへの切換操作が行われる前に、所定の条件の成立によっててエンジンを再始動させるものである。
【0163】
エンジンの自動停止時の動作は、図14に示す第3実施形態の動作と同様であり、エンジンが自動停止する前の時点T8で、DレンジからNレンジへの切換操作が行われ、この時点T8で、第1クラッチ10に供給されていた第1クラッチ圧が排出され、該第1クラッチ10が解放される。そして、第1クラッチ圧が所定のスイッチON油圧より低下した時点で、油圧スイッチ205’がOFFとなる。
【0164】
その後、所定のエンジン自動停止条件が成立した時点T9でエンジンが自動停止すると共に、その直後の時点T10で電動ポンプ101が作動を開始し、この電動ポンプ101で生成された作動圧が第1クラッチ10に供給され、一旦解放された第1クラッチ10を再び締結させる制御が開始される。
【0165】
このとき、前記実施形態3と同様、電動ポンプ101は上限回転数である第1回転数で駆動されることにより、該電動ポンプ101の吐出圧は実現可能範囲の最大圧となって、第1クラッチ10がエンジンの自動停止後、速やかに締結される。
【0166】
また、前記電動ポンプ101の第1回転数での駆動により、第1クラッチ圧が前記スイッチON油圧に達すると、その時点T13で電動ポンプ101の回転数は、前記第1回転数より低い第2回転数まで低下され、無駄なエネルギ消費が抑制される。
【0167】
このNレンジでのエンジン停止中は、停車時にブレーキペダルの踏み込みにより締結されたブレーキの締結状態が維持されているが、Dレンジへの切換操作に先立ち、図4に示すブレーキスイッチ203により、ブレーキが締結状態から解放状態を経由して再度締結状態に移行したことが検出されたときに、これを再始動条件として、時点T11”で、エンジンが再始動される。
【0168】
したがって、この実施形態によれば、自動変速機のレンジが中立レンジであり、かつブレーキが締結されている状態で、エンジンが自動停止されているときは、運転者によるNレンジからDレンジへの切換操作がなくても、ブレーキが締結状態から解放状態を経由して再度締結状態に移行したとき、換言すれば、その直後に走行レンジに切り換えられて発進するものと推測されるときは、その時点でエンジンが自動再始動されることになり、運転者の発進要求に沿って遅滞なくエンジンが始動することになる。
【産業上の利用可能性】
【0169】
以上のように、本発明によれば、アイドルストップ制御を行なう自動変速機搭載車両において、エンジンの自動停止時に走行レンジから中立レンジへの切換操作が行われた場合にも、次の発進時に円滑で応答性のよい発進性が実現されるので、この種の車両の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0170】
1 自動変速機
6 機械ポンプ(エンジン駆動のオイルポンプ)
10 第1クラッチ(所定摩擦要素)
101、101’ 電動ポンプ、アキュムレータ(油圧生成手段)
100 油圧制御回路(摩擦要素制御手段)
121 油圧制御手段(第1リニアソレノイドバルブ)
200 制御ユニット(アイドルストップ手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機が搭載され、かつ、停車時に所定のエンジン停止条件が成立したときにエンジンを自動停止すると共に、この自動停止状態で所定のエンジン再始動条件が成立したときに、エンジンを自動再始動させるアイドルストップ手段が備えられた車両のアイドルストップ制御装置であって、
前記自動変速機に備えられて各摩擦要素に供給される作動圧を生成するエンジン駆動のオイルポンプとは別に、前記アイドルストップ手段によるエンジンの自動停止中に作動する油圧生成手段が備えられていると共に、
前記アイドルストップ手段によりエンジンが自動停止されており、かつ前記自動変速機のレンジが中立レンジであるときに、前記油圧生成手段により自動変速機の前進発進段で締結される所定摩擦要素に作動圧を供給し、該摩擦要素を締結させる摩擦要素制御手段が設けられていることを特徴とする車両のアイドルストップ制御装置。
【請求項2】
前記所定摩擦要素に供給される作動圧を制御する油圧制御手段が備えられ、
該油圧制御手段は、エンジンが自動停止中であり、かつ自動変速機のレンジが中立レンジであって、前記油圧生成手段によって生成された作動圧が前記所定摩擦要素に供給されている状態でエンジンが自動再始動されたときに、該所定摩擦要素に供給されている作動圧を排出することを特徴とする請求項1に記載の車両のアイドルストップ制御装置。
【請求項3】
前記所定摩擦要素に供給される作動圧を制御する油圧制御手段が備えられ、
エンジンの自動停止中に自動変速機のレンジが中立レンジから後退レンジに切り換えられたとき、
前記摩擦要素制御手段は、後退速で締結される摩擦要素を締結させ、
前記油圧制御手段は、前記所定摩擦要素に供給されている作動圧を排出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両のアイドルストップ制御装置。
【請求項4】
前記摩擦要素制御手段は、前記所定摩擦要素の締結力が作動圧の排出により所定値以下に低下してから後退速で締結される前記摩擦要素を締結させることを特徴とする請求項3に記載の車両のアイドルストップ制御装置。
【請求項5】
前記所定摩擦要素に供給される作動圧を制御する油圧制御手段が備えられ、
自動変速機のレンジが前進走行レンジから中立レンジに切り換えられた後にエンジンが自動停止したとき、
前記油圧制御手段は、その後エンジンが自動再始動し、前記油圧生成手段に代わって前記オイルポンプによって生成された作動圧が前記所定摩擦要素に供給されるときに、前記油圧生成手段によって前記所定摩擦要素に供給されている油圧が所定値より低いときは、前記オイルポンプから前記所定摩擦要素に供給される作動圧の上昇を抑制することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両のアイドルストップ制御装置。
【請求項6】
前記摩擦要素制御手段には、前記オイルポンプと前記所定摩擦要素との間に配置され、レンジの切換操作に連動して作動して前進走行レンジで両者を連通させるマニュアルバルブが設けられており、
前記油圧生成手段は、前記マニュアルバルブから所定摩擦要素に通じる油路に、該油圧生成手段側からの油路とマニュアルバルブ側からの油路とを選択的に所定摩擦要素側へ連通させる切換手段を介して接続されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の車両のアイドルストップ制御装置。
【請求項7】
前記油圧生成手段は電動オイルポンプであり、かつ、
該電動オイルポンプの回転数を制御するポンプ制御手段と、
前記所定摩擦要素の締結状態を検出する締結状態検出手段とが備えられ、
前記ポンプ制御手段は、自動変速機が中立レンジの状態でエンジンが自動停止したときに、前記電動オイルポンプの回転数を所定の第1回転数に制御すると共に、その後、前記締結状態検出手段により前記所定摩擦要素が締結されたことが検出されたときに、前記第1回転数よりも低回転数である第2回転数に制御することを特徴とする請求項1に記載の車両のアイドルストップ制御装置。
【請求項8】
前記油圧生成手段は電動オイルポンプであり、かつ、
該電動オイルポンプの回転数を制御するポンプ制御手段が備えられ、
該ポンプ制御手段は、自動変速機が中立レンジの状態でエンジンが自動停止したときに、所定期間、前記電動オイルポンプの回転数を所定の第1回転数に制御すると共に、その後、該第1回転数よりも低回転数である第2回転数に制御することを特徴とする請求項1に記載の車両のアイドルストップ制御装置。
【請求項9】
前記第1回転数は、前記電動オイルポンプに予め設定された上限回転数であることをと特徴とする請求項7又は請求項8に記載の車両のアイドルストップ制御装置。
【請求項10】
ブレーキの作動状態を検出する作動状態検出手段が備えられ、
自動変速機のレンジが中立レンジであり、かつ前記作動状態検出手段によりブレーキの締結が検出されている状態で、前記アイドルストップ手段によりエンジンが自動停止されているときは、
前記アイドルストップ手段は、前記作動状態検出手段によりブレーキが締結状態から解放状態を経由して再度締結状態に移行したことが検出されたときに、エンジンを再始動させることを特徴とする請求項1、請求項7、請求項8、請求項9のいずれか1項に記載の車両のアイドルストップ制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2012−30779(P2012−30779A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92016(P2011−92016)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】