説明

車両のヨーモーメント制御装置

【課題】 車両の運動状態を制御する主操作部材に設けた副操作部材の操作でヨーモーメント発生装置の作動を制御するものにおいて、ヨーモーメント発生装置に適切なヨーモーメントを発生させる。
【解決手段】 運転者がステアリングホイール7に設けたグリップ9L,9Rを操作すると、その操作に応じてヨーモーメント発生装置が車両のヨーモーメントを変化させる。このときステアリングホイール7の操舵角の増加に応じグリップ9L,9Rの操作によるヨーモーメントの変化量を増加させるので、運転者に旋回の意思がない小操舵角時には、ヨーモーメントの変化量を小さくしてグリップ9L,9Rの誤操作による車両挙動の望ましくない変化を抑制するとともに、運転者が急旋回を望む大操舵角時には、ヨーモーメントの変化量を大きくして運転者がステアリングホイール7を操作する操作負担を軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者により操作されて車両の運動状態を制御する主操作部材と、前記主操作部材に設けられて運転者により操作される副操作部材と、車両にヨーモーメントを発生させるヨーモーメント発生装置と、前記副操作部材の操作に応じて前記ヨーモーメント発生装置が発生するヨーモーメントを制御する制御手段とを備えた車両のヨーモーメント制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の足で操作されるペダルを中間部において前後揺動可能に枢支し、中立位置から前方に揺動したときにアクセルペダルとして機能させ、中立位置から後方に揺動したときにブレーキペダルとして機能させるものにおいて、ペダルの左右両側に一対のスイッチを配置し、それらのスイッチをシフトアップ/シフトダウンの指令や、左右のウインカーの点灯の指令に用いるものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
また左右の後輪のブレーキを左右のブレーキペダルにより独立して作動させる状態と、ハンドルの切れ角が所定値以上になったときに旋回内輪側のブレーキを自動的に作動させる状態とを切り換え可能にしたものが、下記特許文献2により公知である。
【0004】
また走行速度が所定値未満の状態では左右の後輪のブレーキをそれぞれ左右のブレーキペダルにより独立して作動させ、走行速度が所定値以上の状態では左右一方のブレーキペダルで左右両方の後輪のブレーキを同時に作動させるものが、下記特許文献3により公知である。
【特許文献1】特開2004−352228号公報
【特許文献2】特許第3090858号公報
【特許文献3】特開平9−193759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、運転者が手や足で操作部材を操作して指令信号を出力することで左右の車輪の制動力を個別に制御し、旋回を補助するヨーモーメントや旋回を抑制するヨーモーメントを発生させるものでは、ステアリングホイールの操舵角大小や、車両の横加速度、ヨーレート、ヨーモーメント、横滑り角等の横運動量の大小に関わらずヨーモーメントの指令値を出力してしまうと、ヨーモーメント発生装置が過剰なヨーモーメントを発生して車両が不適切な挙動を示す虞や、ヨーモーメント発生装置が充分なヨーモーメントを発生せずに運転者の意思が車両の挙動に反映されない虞がある。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、車両の運動状態を制御する主操作部材に設けた副操作部材の操作でヨーモーメント発生装置の作動を制御するものにおいて、ヨーモーメント発生装置に適切なヨーモーメントを発生させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、運転者により操作されて車両の運動状態を制御する主操作部材と、前記主操作部材に設けられて運転者により操作される副操作部材と、車両にヨーモーメントを発生させるヨーモーメント発生装置と、前記副操作部材の操作に応じて前記ヨーモーメント発生装置が発生するヨーモーメントを制御する制御手段とを備えた車両のヨーモーメント制御装置であって、車両の操舵角を検出する操舵角センサを備え、前記制御手段は前記操舵角センサで検出した操舵角に応じて、前記副操作部材の操作量に対するヨーモーメントの変化量を変更することを特徴とする車両のヨーモーメント制御装が提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記制御手段は、前記操舵角の増加に応じて前記ヨーモーメントの変化量を増加させることを特徴とする車両のヨーモーメント制御装置が提案される。
【0009】
また請求項3に記載された発明によれば、運転者により操作されて車両の運動状態を制御する主操作部材と、前記主操作部材に設けられて運転者により操作される副操作部材と、車両にヨーモーメントを発生させるヨーモーメント発生装置と、前記副操作部材の操作に応じて前記ヨーモーメント発生装置が発生するヨーモーメントを制御する制御手段とを備えた車両のヨーモーメント制御装置であって、車両の横加速度、ヨーレート、ヨーモーメントおよび横滑り角のうちの少なくとも一つの横運動量を検出する横運動量センサを備え、前記制御手段は前記横運動量センサで検出した横運動量に応じて、前記副操作部材の操作量に対するヨーモーメントの変化量を変更することを特徴とする車両のヨーモーメント制御装置が提案される。
【0010】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項3の構成に加えて、前記制御手段は、前記横運動量の増加に応じて前記ヨーモーメントの変化量を減少させることを特徴とする車両のヨーモーメント制御装置が提案される。
【0011】
尚、実施の形態のブレーキペダル1、ステアリングホイール7およびアクセルペダル18は本発明の主操作部材に対応し、実施の形態のグリップ9L,9R、被踏部15および被踏部23は本発明の副操作部材に対応し、実施の形態の油圧制御装置4は本発明のヨーモーメント発生装置に対応し、実施の形態の横加速度センサScは本発明の横運動量センサに対応し、実施の形態の電子制御ユニットUは本発明の制御手段に対応する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によれば、運転者が主操作部材に設けた副操作部材を操作すると、その副操作部材の操作に応じてヨーモーメント発生装置が車両のヨーモーメントを変化させるので、主操作部材を操作して車両の運動状態を制御するのと同時並行して、副操作部材を操作して車両の旋回を補助あるいは抑制することができる。このとき車両の操舵角に応じて副操作部材の操作量に対するヨーモーメントの変化量を変更するので、操舵角により判定される運転者の旋回意思の大小に応じてヨーモーメントの変化量を適正な大きさに制御することができる。
【0013】
また請求項2の構成によれば、操舵角の増加に応じてヨーモーメントの変化量を増加させるので、運転者に旋回の意思がない小操舵角時には、ヨーモーメントの変化量を小さくして副操作部材の誤操作による車両挙動の望ましくない変化を抑制するとともに、運転者が急旋回を望む大操舵角時には、ヨーモーメントの変化量を大きくして運転者が主操作部材を操作する操作負担を軽減することができる。
【0014】
また請求項3に記載された発明によれば、運転者が主操作部材に設けた副操作部材を操作すると、その副操作部材の操作に応じてヨーモーメント発生装置が車両のヨーモーメントを変化させるので、主操作部材を操作して車両の運動状態を制御するのと同時並行して、副操作部材を操作して車両の旋回を補助あるいは抑制することができる。このとき車両の横加速度、ヨーレート、ヨーモーメントおよび横滑り角等の横運動量に応じて副操作部材の操作量に対するヨーモーメントの変化量を変更するので、車両の横運動量により判定される横運動の緩急に応じてヨーモーメントの変化量を適正な大きさに制御することができる。
【0015】
また請求項4の構成によれば、横運動量の増加に応じてヨーモーメントの変化量を減少させるので、急激な横運動が発生しているときには、ヨーモーメントの変化量を小さくして副操作部材の誤操作による車両挙動の望ましくない変化を抑制するとともに、自動制御により充分な横運動量が発生しないときには、運転者の意思に応じて大きな横運動量を発生させることはできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0017】
図1〜図5は本発明の実施の形態を示すもので、図1はヨーモーメント制御装置を搭載した車両の全体構成を示す図、図2はヨーモーメント制御装置の構成を示すブロック図、図3はステアリングホイールの斜視図、図4は制御系のブロック図、図5は第1、第2補正係数を検索するマップを示す図である。
【0018】
図1および図2に示すように、本実施の形態のヨーモーメント制御装置を搭載した四輪の車両は、エンジンEの駆動力がトランスミッションTを介して伝達される駆動輪たる左右の前輪WFL,WFRと、車両の走行に伴って回転する従動輪たる左右の後輪WRL,WRRとを備える。運転者により操作されるブレーキペダル1は電子制御負圧ブースタ2を介してマスタシリンダ3に接続される。電子制御負圧ブースタ2は、ブレーキペダル1の踏力を機械的に倍力してマスタシリンダ3を作動させるとともに、自動制動時にはブレーキペダル1の操作によらずに電子制御ユニットUからの制動指令信号によりマスタシリンダ3を作動させる。尚、電子制御負圧ブースタ2の入力ロッドはロストモーション機構を介してブレーキペダル1に接続されており、電子制御負圧ブースタ2が電子制御ユニットUからの信号により作動して前記入力ロッドが前方に移動しても、ブレーキペダル1は初期位置に留まるようになっている。
【0019】
マスタシリンダ3の一対の出力ポート3a,3bは、本発明のヨーモーメント発生装置としての油圧制御装置4を介して、前輪WFL,WFRおよび後輪WRL,WRRにそれぞれ設けられたブレーキキャリパ5FL,5FR,5RL,5RRに接続される。油圧制御装置4は4個のブレーキキャリパ5FL,5FR,5RL,5RRに対応して4個の圧力補正器6…を備えており、それぞれの圧力補正器6…は電子制御ユニットUに接続されて前輪WFL,WFRおよび後輪WRL,WRRに設けられたブレーキキャリパ5FL,5FR,5RL,5RRの作動を個別に制御する。
【0020】
従って、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRのブレーキキャリパ5FL,5FR,5RL,5RRに伝達されるブレーキ油圧を圧力補正器6…によって独立に制御すれば、車両のヨーモーメントを任意に制御して旋回を補助あるいは抑制することができ、また制動時における車輪WFL,WFR,WRL,WRRのロックを抑制するアンチロックブレーキ制御を行うことができる。
【0021】
図1および図3に示すように、ステアリングホイール7は環状のステアリングホイール本体8を備えており、運転者が左右の手で握る2カ所が別部材のグリップ9L,9Rで構成される。各グリップ9L,9Rはその接線方向に延びる回転軸10,10まわりに回転可能であり、その回転角がグリップ回転角センサSaL,SaRにより検出される。グリップ9L,9Rは、図示せぬリターンスプリングで中立位置に向けて付勢される。
【0022】
図1および図4に示すように、電子制御ユニットUは、左ヨーモーメント指令値算出手段M1Lと、右ヨーモーメント指令値算出手段M1Rと、加算手段M2と、補正係数算出手段M3と、乗算手段M4と、アクチュエータ制御手段M5とを備える。左ヨーモーメント指令値算出手段M1Lおよび右ヨーモーメント指令値算出手段M1Rには、左右のグリップ回転角センサSaL,SaRがそれぞれ接続され、補正係数算出手段M3には、ステアリングホイール7の操舵角を検出する操舵角センサSbと、車両の横加速度を検出する横加速度センサScとが接続され、アクチュエータ制御手段M5には、油圧制御装置4の圧力補正器6…に接続される。
【0023】
次に、上記構成を備えた本発明の第1の実施の形態の作用を説明する。
【0024】
運転者がステアリングホイール7を左右に回転させると、前輪WFL,WFRが左右に操舵されて車両が旋回する。運転者が通常ステアリングホイール本体8を左手で握る位置に設けられた左グリップ9Lを回転させると、左グリップ回転角センサSaLにより検出された左グリップ9Lの回転角が電子制御ユニットUの左ヨーモーメント指令値算出手段M1Lに入力される。左ヨーモーメント指令値算出手段M1Lは左グリップ9Lの回転角に応じた左ヨーモーメントの指令値を算出する。また運転者が通常ステアリングホイール本体8を右手で握る位置に設けられた右グリップ9Rを回転させると、右グリップ回転角センサSaRにより検出された右グリップ9Rの回転角が電子制御ユニットUの右ヨーモーメント指令値算出手段M1Rに入力される。右ヨーモーメント指令値算出手段M1Rは右グリップ9Rの回転角に応じた右ヨーモーメントの指令値を算出する。
【0025】
左右のヨーモーメント指令値算出手段M1L,M1Rで算出した左右のヨーモーメントの指令値は加算手段M2で加算される。通常、左右のグリップ9L,9Rはその一方だけが操作されるが、左右のグリップ9L,9Rが同時に操作された場合には、左ヨーモーメント指令値算出手段M1Lが算出した左ヨーモーメントの指令値と、右ヨーモーメント指令値算出手段M1Rが算出した右ヨーモーメントの指令値とが加算されて相殺され、その差分のヨーモーメントの指令値が加算手段M2から出力される。
【0026】
一方、操舵角センサSbで検出した操舵角が入力された補正係数算出手段M3は、操舵角をパラメータとする図5(A)のマップに基づいて第1補正係数K1を算出する。第1補正係数K1は、操舵角が0のときに1未満の最小値をとり、操舵角が0から左右に増加すると前記最小値から1に向かって増加する。また横加速度センサScで検出した横加速度が入力された補正係数算出手段M3は、横加速度をパラメータとする図5(B)のマップに基づいて第2補正係数K2を算出する。第2補正係数K2は、横加速度が0のときに1の値をとり、横加速度が0から左右に増加すると1から減少する。
【0027】
加算手段M2が出力するヨーモーメントの指令値と前記第1、第2補正係数K1,K2とが乗算手段M4において乗算されて最終的な指令値が算出され、その指令値に基づいてアクチュエータ制御手段M5が油圧制御装置4の圧力補正器6…を作動させて左右の車輪の制動力を自動的かつ個別に制御することで、前記最終的な指令値に対応するヨーモーメントを発生させる。
【0028】
例えば、右旋回中にアンダーステア傾向だと判断した運転者が右グリップ9Rを回転させると、旋回内輪である右車輪だけに制動力が作用して車両を右に旋回させるヨーモーメントが発生し、このヨーモーメントによりアンダーステア傾向を解消させることができる。逆に右旋回中にオーバーステア傾向だと判断した運転者が左グリップ9Lを回転させると、旋回外輪である左車輪だけに制動力が作用して車両を左に旋回させるヨーモーメントが発生し、このヨーモーメントによりオーバーステア傾向を解消させることができる。
【0029】
左旋回中でも、あるいは直進走行中でも、同様にして左右のグリップ9L,9Rの操作によりヨーモーメントの制御を行うことができる。このとき発生するヨーモーメントの大きさは、グリップ9の回転角に応じて調整することができる。
【0030】
以上のように、ステアリングホイール本体8の一部を回転可能とした左右のグリップ9L,9Rを回転させるだけで任意の方向および任意の大きさのヨーモーメントを発生させることができるので、ステアリングホイール7を操作して車両を旋回させながら、左右のグリップ9L,9Rを回転させて旋回を補助あるいは抑制することができる。このとき、ステアリングホイール本体8に添えた運転者の手で左右のグリップ9L,9Rを操作可能であるため、運転者の操作負担が軽減される。
【0031】
そして第1補正係数K1により、操舵角の増加に応じてヨーモーメントの変化量を増加させるので、運転者に旋回の意思がない小操舵角時には、ヨーモーメントの変化量を小さくして左右のグリップ9L,9Rの誤操作による車両挙動の望ましくない変化を抑制するとともに、運転者が急旋回を望む大操舵角時には、ヨーモーメントの変化量を大きくして運転者がステアリングホイール7を操作する操作負担を軽減することができる。
【0032】
また第2補正係数K2により、横加速度の増加に応じてヨーモーメントの変化量を減少させるので、急激な横加速度が発生しているときには、ヨーモーメントの変化量を小さくして左右のグリップ9L,9Rの誤操作による車両挙動の望ましくない変化を抑制するとともに、駆動力の左右配分装置や制動力の左右配分装置による自動制御では充分な横加速度が発生しないときには、運転者の意思に応じて大きなヨーモーメントを発生させることができる。
【0033】
図6(A)は第1補正係数K1の第2の実施の形態を示すものである。第2の実施の形態では、操舵角の絶対値が閾値未満の領域では第1補正係数K1が一律に0であり、左右のグリップ9L,9Rにより指令されたヨーモーメントは発生しない。そして操舵角の絶対値が閾値以上の領域では第1補正係数K1が0から1へと瞬時にあるいは次第に増加し、最終的に左右のグリップ9L,9Rにより指令されたヨーモーメントの全量が発生する。
【0034】
図6(B)は第2補正係数K2の第2の実施の形態を示すものである。第2の実施の形態では、横加速度の絶対値が閾値未満の領域では第1補正係数K1が一律に1であり、左右のグリップ9L,9Rにより指令されたヨーモーメントの全量が発生する。そして横加速度の絶対値が閾値以上の領域では第1補正係数K1が1から0へと瞬時にあるいは次第に減少し、それに応じて左右のグリップ9L,9Rにより指令されたヨーモーメントが最終的に発生しなくなる。
【0035】
図7および図8は本発明の第3の実施の形態を示すもので、図7はブレーキペダルの分解斜視図、図8は図7の8A方向および8B方向矢視図である。
【0036】
第1および第2の実施の形態では、ステアリングホイール7に設けた左右のグリップ9L,9Rでヨーモーメントを増減する運転者の意思を電子制御ユニットUに入力しているが、第3の実施の形態では前記グリップ9L,9Rの代わりにブレーキペダル1を用いている。
【0037】
ブレーキペダル1は車体に固定したブラケット11に左右方向に配置したピン12を介して上端を枢支されたペダルアーム13を備えており、ペダルアーム13の下端に設けたペダル本体14の表面(運転者に対向する面)に、運転者の足Fによって踏まれる被踏部15が上下方向に延びるピン16を介して左右揺動可能に枢支される。被踏部15はペダル本体14との間に配置した一対のリターンスプリング17,17によって該ペダル本体14と平行になるように付勢される。ペダル本体14の下端部には被踏部15と一体に揺動するピン16に接続された被踏部揺動角センサSdが設けられており、この被踏部揺動角センサSdにより被踏部15の揺動角が検出される。
【0038】
車両の走行中にブレーキペダル1を踏み込むと、マスタシリンダ3が発生するブレーキ油圧で車輪が制動されるが、その際に運転者の足Fでブレーキペダル1の被踏部15をピン16まわりに左右に揺動させると、被踏揺動角センサSdで検出した被踏部15の揺動角に基づいて、電子制御ユニットUが油圧制御装置4を介して左右の車輪の制動力を別個に制御する。
【0039】
例えば、ブレーキペダル1を踏む際に被踏部15の右側に踏力を加えると、マスタシリンダ3が発生するブレーキ油圧のうち、右側の車輪に伝達されるブレーキ油圧が油圧制御装置4によって増圧され、かつ左側の車輪に伝達されるブレーキ油圧が油圧制御装置4によって減圧されることで、右旋回方向のヨーモーメントを発生させることができる。逆に、ブレーキペダル1を踏む際に被踏部15の左側に踏力を加えると、マスタシリンダ3が発生するブレーキ油圧のうち、左側の車輪に伝達されるブレーキ油圧が油圧制御装置4によって増圧され、かつ右側の車輪に伝達されるブレーキ油圧が油圧制御装置4によって減圧されることで、左旋回方向のヨーモーメントを発生させることができる。
【0040】
よって、ブレーキペダル1を踏んでの制動中に任意の方向および任意の大きさのヨーモーメントを発生させることができ、しかも右足だけで制動力の制御およびヨーモーメントの制御を同時に行うことができるので、運転者の操作負担が軽減される。
【0041】
図9および図10は本発明の第4の実施の形態を示すもので、図9はアクセルペダルの分解斜視図、図10は図9の10A方向および10B方向矢視図である。
【0042】
第1および第2の実施の形態では、ステアリングホイール7に設けた左右のグリップ9L,9Rでヨーモーメントを増減する運転者の意思を電子制御ユニットUに入力しているが、第4の実施の形態では前記グリップ9L,9Rの代わりにアクセルペダル18を用いている。
【0043】
アクセルペダル18は車体に固定したブラケット19に左右方向に配置したピン20を介して上端を枢支されたペダルアーム21を備えており、ペダルアーム21の下端に設けたペダル本体22の表面(運転者に対向する面)に、運転者の足Fによって踏まれる被踏部23が上下方向に延びるピン24を介して左右揺動可能に枢支される。被踏部23はペダル本体22との間に配置した一対のリターンスプリング25,25によって該ペダル本体22と平行になるように付勢される。ペダル本体22の下端部には被踏部23と一体に揺動するピン24に接続された被踏部揺動角センサSeが設けられており、この被踏部揺動角センサSeにより被踏部23の揺動角が検出される。
【0044】
尚、運転者がアクセルペダル18に足を乗せる場合に爪先が右側に傾く場合が多いため、被踏部23の揺動軸となるピン24の上部を右側に傾けて配置することで、被踏部23の操作性を高めることができる。
【0045】
車両の走行中にアクセルペダル18を操作すると車両が加速あるいは減速するが、その際に運転者の足Fでアクセルペダル18の被踏部23をピン24まわりに左右に揺動させると、被踏部揺動角センサSeで検出した被踏部23の揺動角に基づいて、電子制御ユニットUが電子制御負圧ブースタ2および油圧制御装置4を介して左右の車輪の制動力を別個に制御する。
【0046】
例えば、アクセルペダル18を踏む際に被踏部23の右側に踏力を加えると、電子制御負圧ブースタ2の作動によりマスタシリンダ3が発生するブレーキ油圧のうち、右側の車輪に伝達されるブレーキ油圧が油圧制御装置4によって増圧され、かつ左側の車輪に伝達されるブレーキ油圧が油圧制御装置4によって減圧されることで、右旋回方向のヨーモーメントを発生させることができる。逆に、アクセルペダル18を踏む際に被踏部23の左側に踏力を加えると、マスタシリンダ3が発生するブレーキ油圧のうち、左側の車輪に伝達されるブレーキ油圧が油圧制御装置4によって増圧され、かつ右側の車輪に伝達されるブレーキ油圧が油圧制御装置4によって減圧されることで、左旋回方向のヨーモーメントを発生させることができる。
【0047】
よって、アクセルペダル18に足を置いての加速中、定速走行中、減速中の何れの場合にも任意の方向および任意の大きさのヨーモーメントを発生させることができ、しかも右足だけで加減速およびヨーモーメントの制御を同時に行うことができるので、運転者の操作負担が軽減される。
【0048】
上述した第3および第4の実施の形態において、被踏部揺動角センサSd,Seで検出したブレーキペダル1あるいはアクセルペダル18の揺動角に基づいて算出したヨーモーメントの指令値を、操舵角および横加速度に基づいて補正することは、第1、第2の実施の形態と同じである。
【0049】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0050】
例えば、実施の形態では本発明のヨーモーメント発生装置として左右の車輪に制動力を任意に配分可能な油圧制御装置4(制動力左右配分装置)を例示したが、その他のヨーモーメント発生装置として、エンジンの駆動力を左右の車輪に任意に配分可能な駆動力左右配分装置や、前輪だけを操舵する通常の操舵装置や、前輪に加えて後輪を操舵可能な四輪操舵装置や、左右のサスペンションのダンパーの硬さを個別に制御可能な減衰力可変装置を採用することができる。
【0051】
ヨーモーメント発生装置として通常の操舵装置を採用した場合には、ステアリングホイール7の操作による前輪の操舵と、左右のグリップ9L,9Rの操作による前輪の操舵とを重畳することで、グリップ9L,9Rを操作した分だけヨーモーメントを増減することができる。またブレーキペダル1の被踏部15やアクセルペダル18の被踏部23を操作すれば、その分だけ前輪の操舵量を増減して任意のヨーモーメントを発生させることができる。
【0052】
ヨーモーメント発生装置として四輪操舵装置を採用した場合には、ステアリングホイール7のグリップ9L,9R、ブレーキペダル1の被踏部15あるいはアクセルペダル18の被踏部23の操作量に応じて後輪が操舵され、その操舵量に応じたヨーモーメントを発生させることができる。
【0053】
ヨーモーメント発生装置としてダンパーの硬さを個別に制御可能な減衰力可変装置を採用した場合には、旋回外輪側のダンパーを硬くして旋回内輪側のダンパーを柔らかくすることで、遠心力による旋回方向外側への車体の倒れを抑制して旋回を補助するヨーモーメントを発生させることができる。
【0054】
またステアリングホイール7のグリップ9L,9R、ブレーキペダル1の被踏部15あるいはアクセルペダル18の被踏部23は無段階(連続的)に回転あるいは揺動するものであっても良いし、段階的に回転あるいは揺動するものであっても良い。
【0055】
また実施の形態ではステアリングホイール7のグリップ9L,9R、ブレーキペダル1の被踏部15およびアクセルペダル18の被踏部23の一つを備えているが、本発明はそれらの二つ以上備えるものでも良い。
【0056】
また第1、第2の実施の形態のステアリングホイール7は左右のグリップ9L,9Rを備えているが、右手あるいは左手で操作する単一のグリップを設け、そのグリップを中立位置から正逆二つの方向に回転させて右ヨーモーメントおよび左ヨーモーメントの発生を指令しても良い。
【0057】
またグリップ9L,9Rを柔軟性を有する材料で構成し、それが回転してもステアリングホイール本体8が円形を維持するようにすれば操作性が更に向上する。
【0058】
また実施の形態では車両の横運動量として横加速度を例示したが、車両の横運動量ヨーレート、ヨーモーメントあるいは横滑り量であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】第1の実施の形態に係るヨーモーメント制御装置を搭載した車両の全体構成を示す図
【図2】ヨーモーメント制御装置の構成を示すブロック図
【図3】ステアリングホイールの斜視図
【図4】制御系のブロック図
【図5】第1、第2補正係数を検索するマップを示す図
【図6】第2の実施の形態に係る第1、第2補正係数を検索するマップを示す図
【図7】第3の実施の形態に係るブレーキペダルの分解斜視図
【図8】図7の8A方向および8B方向矢視図
【図9】第4の実施の形態に係るアクセルペダルの分解斜視図
【図10】図9の10A方向および10B方向矢視図
【符号の説明】
【0060】
1 ブレーキペダル(主操作部材)
4 油圧制御装置(ヨーモーメント発生装置)
7 ステアリングホイール(主操作部材)
9L 左グリップ(副操作部材)
9R 右グリップ(副操作部材)
15 被踏部(副操作部材)
18 アクセルペダル(主操作部材)
22 ペダル本体
23 被踏部(副操作部材)
Sb 操舵角センサ
Sc 横加速度センサ(横運動量センサ)
U 電子制御ユニット(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者により操作されて車両の運動状態を制御する主操作部材(1,7,18)と、
前記主操作部材(1,7,18)に設けられて運転者により操作される副操作部材(9L,9,,15,23)と、
車両にヨーモーメントを発生させるヨーモーメント発生装置(4)と、
前記副操作部材(9L,9R,15,23)の操作に応じて前記ヨーモーメント発生装置(4)が発生するヨーモーメントを制御する制御手段(U)と、
を備えた車両のヨーモーメント制御装置であって、
車両の操舵角を検出する操舵角センサ(Sb)を備え、前記制御手段(U)は前記操舵角センサ(Sb)で検出した操舵角に応じて、前記副操作部材(9L,9R,15,23)の操作量に対するヨーモーメントの変化量を変更することを特徴とする車両のヨーモーメント制御装置。
【請求項2】
前記制御手段(U)は、前記操舵角の増加に応じて前記ヨーモーメントの変化量を増加させることを特徴とする、請求項1に記載の車両のヨーモーメント制御装置。
【請求項3】
運転者により操作されて車両の運動状態を制御する主操作部材(1,7,18)と、
前記主操作部材(1,7,18)に設けられて運転者により操作される副操作部材(9L,9R,15,23)と、
車両にヨーモーメントを発生させるヨーモーメント発生装置(4)と、
前記副操作部材(9L,9RL,9R,15,23)の操作に応じて前記ヨーモーメント発生装置(4)が発生するヨーモーメントを制御する制御手段(U)と、
を備えた車両のヨーモーメント制御装置であって、
車両の横加速度、ヨーレート、ヨーモーメントおよび横滑り角のうちの少なくとも一つの横運動量を検出する横運動量センサ(Sc)を備え、前記制御手段(U)は前記横運動量センサ(Sc)で検出した横運動量に応じて、前記副操作部材(9L,9R,15,23)の操作量に対するヨーモーメントの変化量を変更することを特徴とする車両のヨーモーメント制御装置。
【請求項4】
前記制御手段(U)は、前記横運動量の増加に応じて前記ヨーモーメントの変化量を減少させることを特徴とする、請求項3に記載の車両のヨーモーメント制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−168755(P2008−168755A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3043(P2007−3043)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】