説明

車両の制御装置

【課題】車輪相互間の差回転を適切に制御すると共に、車輪と路面の間のグリップ力を適切に監視してタイヤのグリップ力を最適に維持しながら摩擦円を使い切る効率の良い最適な制御を行う。
【解決手段】ドライバ要求に基づき車輪に発生するタイヤ力と車輪に現在発生しているタイヤ力を基にタイヤ力の摩擦円からのオーバー量をオーバータイヤ力Foverとして演算し、このオーバータイヤ力Foverが+の場合、このオーバータイヤ力Fover分のトルクToverを減じるようにエンジン制御部39に信号出力する。また、オーバータイヤ力Foverと、車体速と各車輪速との差回転を演算し、オーバータイヤ力Foverとこの差回転に基づいてブレーキ駆動部25に信号出力して各輪を制動制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動力を付加して駆動輪のグリップ力を適切に維持するように制御する車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においては、駆動車輪の車輪速度を相互に比較して、この比較結果を基に、より速く回転している車輪におけるブレーキ圧力を上昇させ、その後ブレーキ圧力を低下させる技術が提案されている。
【0003】
例えば、特表平5−503901号公報では、ブレーキ圧力上昇の勾配を車輪速度の相互間の偏差及び車輪加速度に依存させる(車輪速度の相互間の偏差及び車輪加速度が大きくなるほど大きくする)一方、ブレーキ圧力低下の勾配を車輪速度の相互間の偏差及び車輪減速度に依存させる(車輪速度の相互間の偏差が大きくなればなるほど小さくして、車輪減速度が大きくなればなるほど大きくする)技術が開示されている。
【特許文献1】特表平5−503901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1によれば、ブレーキ力により、駆動車輪相互間の差回転を制御するのみであり、車輪と路面の間のグリップ力を適切に監視してタイヤのグリップ力を最適に維持しながら摩擦円を使い切る効率の良い最適な制御ができないという問題がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、車輪相互間の差回転を適切に制御すると共に、車輪と路面の間のグリップ力を適切に監視してタイヤのグリップ力を最適に維持しながら摩擦円を使い切る効率の良い最適な制御を行うことができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、各駆動輪の前後力と横力の合力をタイヤ合力として算出するタイヤ合力算出手段と、各駆動輪が路面に対して発揮可能な最大発生力を摩擦円の大きさとして算出する摩擦円算出手段と、各駆動輪の上記タイヤ合力の総和に対する各駆動輪の上記摩擦円の大きさの総和からのオーバー量をオーバータイヤ力として演算するオーバータイヤ力演算手段と、車体速と各駆動輪の車輪速との差回転を演算する差回転演算手段と、上記オーバータイヤ力と各駆動輪の差回転とに基づいて各駆動輪を制動制御する制動制御手段とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明による車両の制御装置によれば、車輪相互間の差回転を適切に制御すると共に、車輪と路面の間のグリップ力を適切に監視してタイヤのグリップ力を最適に維持しながら摩擦円を使い切る効率の良い最適な制御を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1乃至図14は本発明の実施の一形態を示し、図1は車両の制御装置を搭載した車両全体の概略構成を示す説明図、図2は車両の制御装置の機能ブロック図、図3はオーバータイヤ力演算部の機能ブロック図、図4は制動力制御部の機能ブロック図、図5は車両制御プログラムのフローチャート、図6はオーバータイヤ力Fover演算ルーチンのフローチャート、図7は図6から続くフローチャート、図8は制動力制御ルーチンのフローチャート、図9はエンジン回転数とスロットル開度により設定されるエンジントルクの一例を示す説明図、図10は付加ヨーモーメント演算ルーチンのフローチャート、図11は横加速度飽和係数の説明図、図12は車速感応ゲインの特性マップ、図13はブレーキ液圧とブレーキ力との関係を示す説明図、図14は差回転とオーバータイヤ力に応じて設定される各領域の説明図である。尚、本実施形態では、車両として、センタデファレンシャル(ベーストルク配分(前輪のトルク配分比:Rf_cd)付4輪駆動車を例として説明する。
【0009】
図1において、符号1は車両前部に配置されたエンジンを示し、このエンジン1による駆動力は、エンジン1後方の自動変速装置(トルクコンバータ等も含んで図示)2からトランスミッション出力軸2aを経てセンタデファレンシャル装置3に伝達される。
【0010】
センタデファレンシャル装置3に伝達された駆動力は、リヤドライブ軸4、プロペラシャフト5、ドライブピニオン軸部6を介して後輪終減速装置7に入力される一方、トランスファドライブギヤ8、トランスファドリブンギヤ9、ドライブピニオン軸部となっているフロントドライブ軸10を介して前輪終減速装置11に入力される。ここで、自動変速装置2、センタデファレンシャル装置3および前輪終減速装置11等は、一体にケース12内に設けられている。
【0011】
後輪終減速装置7に入力された駆動力は、後輪左ドライブ軸13rlを経て左後輪14rlに伝達される一方、後輪右ドライブ軸13rrを経て右後輪14rrに伝達される。また、前輪終減速装置11に入力された駆動力は、前輪左ドライブ軸13flを経て左前輪14flに伝達される一方、前輪右ドライブ軸13frを経て右前輪14frに伝達される。
【0012】
センタデファレンシャル装置3は、入力側のトランスミッション出力軸2aに大径の第1のサンギヤ15が形成されており、この第1のサンギヤ15が小径の第1のピニオン16と噛合して第1の歯車列が構成されている。
【0013】
また、後輪への出力を行うリヤドライブ軸4には、小径の第2のサンギヤ17が形成されており、この第2のサンギヤ17が大径の第2のピニオン18と噛合して第2の歯車列が構成されている。
【0014】
第1のピニオン16と第2のピニオン18は、ピニオン部材19に一体に形成されており、複数(例えば3個)のピニオン部材19が、キャリア20に設けた固定軸に回転自在に軸支されている。そして、このキャリア20の前端には、トランスファドライブギヤ8が連結され、前輪への出力が行われる。
【0015】
また、キャリア20には、前方からトランスミッション出力軸2aが回転自在に挿入される一方、後方からはリヤドライブ軸4が回転自在に挿入されて、空間中央に第1のサンギヤ15と第2のサンギヤ17を格納している。そして、複数のピニオン部材19の各第1のピニオン16が第1のサンギヤ15に、各第2のピニオン18が第2のサンギヤ17に、共に噛合されている。
【0016】
こうして、入力側の第1のサンギヤ15に対し、第1,第2のピニオン16,18、及び、第2のサンギヤ17を介して一方の出力側とし、第1,第2のピニオン16,18のキャリア20を介して他方の出力側として噛み合い構成され、リングギヤの無い複合プラネタリギヤを成している。
【0017】
そして、かかる複合プラネタリギヤ式センタデファレンシャル装置3は、第1,第2のサンギヤ15,17、および、これらサンギヤ15,17の周囲に複数個配置される第1,第2のピニオン16,18の歯数を適切に設定することで差動機能を有する。
【0018】
また、第1,第2のピニオン16,18と第1,第2のサンギヤ15,17との噛み合いピッチ半径を適切に設定することで、基準トルク配分が所望の配分(例えば、後輪偏重(例えば前後35:65)にした不等トルク配分)となっている。
【0019】
センタデファレンシャル装置3は、第1,第2のサンギヤ15,17と第1,第2のピニオン16,18とを例えばはすば歯車にし、第1の歯車列と第2の歯車列のねじれ角を異にしてスラスト荷重を相殺させることなくスラスト荷重を残留させる。更に、ピニオン部材19の両端で発生する摩擦トルクを、第1,第2のピニオン16,18とキャリア20に設けた固定軸の表面に噛み合いによる分離、接線荷重の合成力が作用し摩擦トルクが生じるように設定する。こうして、入力トルクに比例した差動制限トルクを得られるようにすることで、このセンタデファレンシャル装置3自体によっても差動制限機能が得られるようになっている。
【0020】
一方、符号25は車両のブレーキ駆動部を示し、このブレーキ駆動部25には、ドライバにより操作されるブレーキペダルと接続されたマスターシリンダ(図示せず)が接続されている。そして、ドライバがブレーキペダルを操作するとマスターシリンダにより、ブレーキ駆動部25を通じて、4輪14fl,14fr,14rl,14rrの各ホイールシリンダ26fl,26fr,26rl,26rrにブレーキ圧が導入され、これにより4輪にブレーキがかかって制動されるように構成されている。
【0021】
ブレーキ駆動部25は、加圧源、減圧弁、増圧弁等を備えたハイドロリックユニットで、上述のドライバによるブレーキ操作以外にも、後述するメイン制御部40からの入力信号に応じて、各ホイールシリンダ26fl,26fr,26rl,26rrに対して、それぞれ独立にブレーキ圧を導入自在に構成されている。
【0022】
メイン制御部40には、スロットル開度センサ31、エンジン回転数センサ32、ハンドル角センサ33、各車輪の車輪速センサ34fl、34fr、34rl、34rr、ヨーレートセンサ35、横加速度センサ36、路面μ推定装置37、トランスミッション制御部38が接続され、スロットル開度θth、エンジン回転数Ne、ハンドル角θH、各車輪の車輪速ωfl、ωfr、ωrl、ωrr、ヨーレートγ、横加速度(dy/dt)、路面摩擦係数μ、主変速ギヤ比i、トルクコンバータのタービン回転数Ntが入力される。そして、メイン制御部40は、これら入力信号に基づき、後述の車両制御プログラムに従って、各駆動輪の前後力と横力の合力をタイヤ合力として算出すると共に、各駆動輪が路面に対して発揮可能な最大発生力を摩擦円の大きさとして算出する。そして、各駆動輪のタイヤ合力の総和から各駆動輪の摩擦円の大きさの総和を減算することでオーバータイヤ力を算出し、このオーバータイヤ力Foverがプラス(+)の場合、このオーバータイヤ力Fover分のトルクToverを減じるようにエンジン制御部39に信号出力する。また、メイン制御部40は、上述の入力信号に基づき、上述のオーバータイヤ力Foverと、車体速と各駆動輪の車輪速との差回転を演算し、オーバータイヤ力Foverとこの差回転に基づいてブレーキ駆動部25に信号出力して各輪を制動制御する。この制動制御は、具体的には、以下のように行われる。
【0023】
オーバータイヤ力Foverが予め設定したオーバータイヤ力閾値(例えば0)を越えた場合で、且つ、特定の駆動輪の差回転が予め設定した第1の差回転閾値Δωc1を越える場合は、この特定の駆動輪にオーバータイヤ力Foverに応じた制動力を付加する。
【0024】
また、オーバータイヤ力Foverがオーバータイヤ力閾値(例えば0)を越えた場合で、且つ、特定の駆動輪の差回転が第1の差回転閾値Δωc1以下の場合は、この特定の駆動輪の制動圧を制動力が発生しない程度に予め高めて予圧状態とする。
【0025】
更に、オーバータイヤ力Foverがオーバータイヤ力閾値(例えば0)以下の場合で、且つ、特定の駆動輪の差回転が予め設定した第2の差回転閾値Δωc2を越える場合は、この特定の駆動輪に差回転に応じた制動力を付加する。
【0026】
メイン制御部40は、図2に示すように、オーバータイヤ力演算部41、トラクション制御部42、制動力制御部43から主要に構成されている。
【0027】
オーバータイヤ力演算部41は、スロットル開度センサ31、エンジン回転数センサ32、ハンドル角センサ33、各車輪の車輪速センサ34fl、34fr、34rl、34rr、ヨーレートセンサ35、横加速度センサ36、路面μ推定装置37、トランスミッション制御部38から、スロットル開度θth、エンジン回転数Ne、ハンドル角θH、各車輪の車輪速ωfl、ωfr、ωrl、ωrr、ヨーレートγ、横加速度(dy/dt)、路面摩擦係数μ、主変速ギヤ比i、トルクコンバータのタービン回転数Ntが入力される。そして、オーバータイヤ力Foverを演算してトラクション制御部42、制動力制御部43に出力する。すなわち、オーバータイヤ力演算部41は、オーバータイヤ力演算手段として設けられている。
【0028】
オーバータイヤ力演算部41は、図3に示すように、エンジントルク演算部41a、トランスミッション出力トルク演算部41b、総駆動力演算部41c、前後接地荷重演算部41d、左輪荷重比率演算部41e、各輪接地荷重演算部41f、各輪前後力演算部41g、各輪要求横力演算部41h、各輪横力演算部41i、各輪摩擦円限界値演算部41j、各輪要求タイヤ合力演算部41k、各輪タイヤ合力演算部41l、各輪要求オーバータイヤ力演算部41m、各輪オーバータイヤ力演算部41n、オーバータイヤ力決定部41oから主要に構成されている。
【0029】
エンジントルク演算部41aは、スロットル開度センサ31からスロットル開度θthが、エンジン回転数センサ32からエンジン回転数Neが入力される。そして、予めエンジン特性により設定しておいたマップ(例えば、図9に示すマップ)を参照し、現在発生しているエンジントルクTegを求め、トランスミッション出力トルク演算部41bに出力する。尚、このエンジントルクTegは、エンジン制御部39から読み込んで用いても良い。
【0030】
トランスミッション出力トルク演算部41bは、エンジン回転数センサ32からエンジン回転数Neが、トランスミッション制御部38から主変速ギヤ比i、及び、トルクコンバータのタービン回転数Ntが、エンジントルク演算部41aからエンジントルクTegが入力される。そして、例えば、以下の(1)式により、トランスミッション出力トルクTtを演算し、総駆動力演算部41c、各輪前後力演算部41gに出力する。
Tt=Teg・t・i …(1)
ここで、tはトルクコンバータのトルク比であり、予め設定されている、トルクコンバータの回転速度比e(=Nt/Ne)とトルクコンバータのトルク比とのマップを参照することにより求められる。
【0031】
総駆動力演算部41cは、トランスミッション出力トルク演算部41bからトランスミッション出力トルクTtが入力される。そして、例えば、以下の(2)式により、総駆動力Fxを演算し、前後接地荷重演算部41d、各輪前後力演算部41gに出力する。
Fx=Tt・η・if/Rt …(2)
ここで、ηは駆動系伝達効率、ifはファイナルギヤ比、Rtはタイヤ半径である。
【0032】
前後接地荷重演算部41dは、総駆動力演算部41cから総駆動力Fx入力される。そして、以下の(3)式により前輪接地荷重Fzfを演算し、各輪接地荷重演算部41fに出力すると共に、以下の(4)式により後輪接地荷重Fzrを演算し、各輪接地荷重演算部41fに出力する。
Fzf=Wf−((m・(dx/dt)・h)/L) …(3)
Fzr=W−Fzf …(4)
ここで、Wfは前輪静加重、mは車両質量、(dx/dt)は前後加速度(=Fx/m)、hは重心高さ、Lはホイールベース、Wは車両重量(=m・G;Gは重力加速度)である。
【0033】
左輪荷重比率演算部41eは、横加速度センサ36から横加速度(dy/dt)が入力される。そして、以下の(5)式により左輪荷重比率WR_lを演算し、各輪接地荷重演算部41f、各輪要求横力演算部41h、各輪横力演算部41iに出力する。
WR_l=0.5−((dy/dt)/G)・(h/Ltred) …(5)
ここで、Ltredは前輪と後輪のトレッド平均値である。
【0034】
各輪接地荷重演算部41fは、前後接地荷重演算部41dから前輪接地荷重Fzf、後輪接地荷重Fzrが入力され、左輪荷重比率演算部41eから左輪荷重比率WR_lが入力される。そして、以下の(6)、(7)、(8)、(9)式により、それぞれ左前輪接地荷重Fzf_l、右前輪接地荷重Fzf_r、左後輪接地荷重Fzr_l、右後輪接地荷重Fzr_rを演算し、各輪摩擦円限界値演算部41jに出力する。
Fzf_l=Fzf・WR_l …(6)
Fzf_r=Fzf・(1−WR_l) …(7)
Fzr_l=Fzr・WR_l …(8)
Fzr_r=Fzr・(1−WR_l) …(9)
【0035】
各輪前後力演算部41gは、トランスミッション出力トルク演算部41bからトランスミッション出力トルクTtが入力され、総駆動力演算部41cから総駆動力Fxが入力される。そして、以下の(10)式により、前輪前後トルクTfを演算し、(11)式により、前輪前後力Fxfを演算し、(12)式により後輪前後力Fxrを演算して、これら前輪前後力Fxf、及び、後輪前後力Fxrを用いて、以下、(13)〜(16)式により、左前輪前後力Fxf_l、右前輪前後力Fxf_r、左後輪前後力Fxr_l、右後輪前後力Fxr_rを演算して、各輪要求タイヤ合力演算部41k、各輪タイヤ合力演算部41lに出力する。
Tf=Tt・Rf_cd …(10)
Fxf=Tf・η・if/Rt …(11)
Fxr=Fx−Fxf …(12)
Fxf_l=Fxf/2 …(13)
Fxf_r=Fxf_l …(14)
Fxr_l=Fxr/2 …(15)
Fxr_r=Fxr_l …(16)
【0036】
各輪要求横力演算部41hは、横加速度センサ36から横加速度(dy/dt)が、ヨーレートセンサ35からヨーレートγが、ハンドル角センサ33からハンドル角θHが、各車輪の(4輪)車輪速センサ34fl、34fr、34rl、34rrから各車輪の車輪速ωfl、ωfr、ωrl、ωrrが、左輪荷重比率演算部41eから左輪荷重比率WR_lが入力される。そして、後述する手順に従って(図10に示すフローチャートに従って)付加ヨーモーメントMzθを演算し、この付加ヨーモーメントを基に、以下の(17)式により要求前輪横力Fyf_FFを演算し、以下の(18)式により要求後輪横力Fyr_FFを演算する。これら要求前輪横力Fyf_FF、要求後輪横力Fyr_FFを基に、(19)〜(22)式により、左前輪要求横力Fyf_l_FF、右前輪要求横力Fyf_r_FF、左後輪要求横力Fyr_l_FF、右後輪要求横力Fyr_r_FFを演算して各輪要求タイヤ合力演算部41kに出力する。
【0037】
Fyf_FF=Mzθ/L …(17)
Fyr_FF=(−Iz・(dγ/dt)
+m・(dy/dt)・Lf)/L …(18)
ここで、Izは車両のヨー慣性モーメント、Lfは前軸−重心間距離である。
【0038】
Fyf_l_FF=Fyf_FF・WR_l …(19)
Fyf_r_FF=Fyf_FF・(1−WR_l) …(20)
Fyr_l_FF=Fyr_FF・WR_l …(21)
Fyr_r_FF=Fyr_FF・(1−WR_l) …(22)
【0039】
また、付加ヨーモーメントMzθは、図10に示すように、まず、ステップ(以下、「S」と略称)401で車速Vを演算し(例えば、V=(ωfl+ωfr+ωrl+ωrr)/4)、S402に進み、以下の(23)式により、横加速度/ハンドル角ゲインGyを演算する。
Gy=(1/(1+A・V))・(V/L)・(1/n) …(23)
ここで、Aはスタビリティファクタ、nはステアリングギヤ比である。
【0040】
次に、S403に進み、横加速度/ハンドル角ゲインGyとハンドル角θHを乗算した値(Gy・θH)と、横加速度(dy/dt)とに応じて予め設定されたマップを参照し、横加速度飽和係数Kμを演算する。この横加速度飽和係数Kμを求めるマップは、図11(a)に示すように、横加速度/ハンドル角ゲインGyとハンドル角θHを乗算した値(Gy・θH)と、横加速度(dy/dt)とに応じて予め設定され、ハンドル角θHが所定値以上において、横加速度(dy/dt)が大きくなる程、小さな値に設定される。これは、Gy・θHが大きいとき高μ路であるほど横加速度(dy/dt)が大きくなるが、低μ路では横加速度(dy/dt)が発生し難くなることを表現するものである。これにより、後述する基準横加速度(dyr/dt)の値は、図11(b)に示すように、Gy・θHが大きいとき横加速度(dy/dt)が大きく高μ路であると思われる場合は低い値に設定され、付加ヨーモーメントMzθに対する修正量が小さくなるようになっている。
【0041】
次いで、S404に進み、以下の(24)式により、横加速度偏差感応ゲインKyを演算する。
Ky=Kθ/Gy …(24)
ここで、Kθは、舵角感応ゲインであり、以下の(25)式により演算される。
Kθ=(Lf・Kf)/n …(25)
Kfは前軸の等価コーナリングパワーである。
【0042】
すなわち、上述の(24)式により、横加速度偏差感応ゲインKyは、設定の目安(最大値)として、極低μ路にて舵がまったく効かない状態(γ=0,(dy/dt)=0)で、付加ヨーモーメントMzθ(定常値)が0となる場合が考慮される。
【0043】
次に、S405に進み、以下の(26)式により基準横加速度(dyr/dt)を演算する。
【0044】
(dyr/dt)=Kμ・Gy・(1/(1+Ty・s))・θH …(26)
ここで、sは微分演算子、Tyは横加速度の1次遅れ時定数であり、この1次遅れ時定数Tyは、後軸の等価コーナリングパワーをKrとして、例えば以下の(27)式により算出される。
Ty=Iz/(L・Kr) …(27)
【0045】
次いで、S406に進み、以下の(28)式により横加速度偏差(dye/dt)を演算する。
(dye/dt)=(dy/dt)−(dyr/dt) …(28)
【0046】
次に、S407に進み、以下の(29)式によりヨーレート/ハンドル角ゲインGγを演算する。
Gγ=(1/(1+A・V))・(V/L)・(1/n) …(29)
【0047】
次いで、S408に進み、以下の(30)式により、例えば、グリップ走行((dye/dt)=0)時に付加ヨーモーメントMzθ(定常値)が0となる場合を考えて、ヨーレート感応ゲインKγを演算する。
Kγ=Kθ/Gγ …(30)
【0048】
次に、S409に進み、予め設定しておいたマップにより車速感応ゲインKvを演算する。このマップは、例えば図12に示すように、低速域での不要な付加ヨーモーメントMzθを避けるために設定されている。尚、図12において、Vc1は、例えば40km/hである。
【0049】
そして、S410に進み、以下の(31)式により付加ヨーモーメントMzθを演算する。
Mzθ=Kv・(−Kγ・γ+Ky・(dye/dt)+Kθ・θH) …(31)
【0050】
すなわち、この(31)式に示すように、−Kγ・γの項がヨーレートγに感応したヨーモーメント、Kθ・θHの項がハンドル角θHに感応したヨーモーメント、Ky・(dye/dt)の項がヨーモーメントの修正値となっている。このため、高μ路で横加速度(dy/dt)が大きな運転をした場合には、付加ヨーモーメントMzθも大きな値となり、運動性能が向上する。一方、低μ路での走行では、付加ヨーモーメントMzθは、上述の修正値が作用して付加ヨーモーメントMzθを低減するため回頭性が大きくなることがなく、安定した走行性能が得られるようになっている。
【0051】
各輪横力演算部41iは、横加速度センサ36から横加速度(dy/dt)が、ヨーレートセンサ35からヨーレートγが、左輪荷重比率演算部41eから左輪荷重比率WR_lが入力される。そして、以下の(32)式により前輪横力Fyf_FBを演算し、以下の(33)式により後輪横力Fyr_FBを演算する。これら前輪横力Fyf_FB、後輪横力Fyr_FBを基に、(34)〜(37)式により、左前輪横力Fyf_l_FB、右前輪横力Fyf_r_FB、左後輪横力Fyr_l_FB、右後輪横力Fyr_r_FBを演算して各輪タイヤ合力演算部41lに出力する。
Fyf_FB=(Iz・(dγ/dt)
+m・(dy/dt)・Lr)/L …(32)
Fyr_FB=(−Iz・(dγ/dt)
+m・(dy/dt)・Lf)/L …(33)
ここで、Lrは後軸−重心間距離である。
Fyf_l_FB=Fyf_FB・WR_l …(34)
Fyf_r_FB=Fyf_FB・(1−WR_l) …(35)
Fyr_l_FB=Fyr_FB・WR_l …(36)
Fyr_r_FB=Fyr_FB・(1−WR_l) …(37)
【0052】
各輪摩擦円限界値演算部41jは、路面μ推定装置37から路面摩擦係数μが入力され、各輪接地荷重演算部41fから左前輪接地荷重Fzf_l、右前輪接地荷重Fzf_r、左後輪接地荷重Fzr_l、右後輪接地荷重Fzr_rが入力される。
【0053】
そして、以下の(38)〜(41)式により、左前輪摩擦円限界値μ_Fzfl、右前輪摩擦円限界値μ_Fzfr、左後輪摩擦円限界値μ_Fzrl、右後輪摩擦円限界値μ_Fzrrを演算し、各輪要求オーバータイヤ力演算部41m、各輪オーバータイヤ力演算部41nに出力する。
μ_Fzfl=μ・Fzf_l …(38)
μ_Fzfr=μ・Fzf_r …(39)
μ_Fzrl=μ・Fzr_l …(40)
μ_Fzrr=μ・Fzr_r …(41)
【0054】
各輪要求タイヤ合力演算部41kは、各輪前後力演算部41gから左前輪前後力Fxf_l、右前輪前後力Fxf_r、左後輪前後力Fxr_l、右後輪前後力Fxr_rが入力され、各輪要求横力演算部41hから左前輪要求横力Fyf_l_FF、右前輪要求横力Fyf_r_FF、左後輪要求横力Fyr_l_FF、右後輪要求横力Fyr_r_FFが入力される。そして、以下の(42)〜(45)式により、左前輪要求タイヤ合力F_fl_FF、右前輪要求タイヤ合力F_fr_FF、左後輪要求タイヤ合力F_rl_FF、右後輪要求タイヤ合力F_rr_FFを演算し、各輪要求オーバータイヤ力演算部41mに出力する。
F_fl_FF=(Fxf_l+Fyf_l_FF1/2 …(42)
F_fr_FF=(Fxf_r+Fyf_r_FF1/2 …(43)
F_rl_FF=(Fxr_l+Fyr_l_FF1/2 …(44)
F_rr_FF=(Fxr_r+Fyr_r_FF1/2 …(45)
【0055】
各輪タイヤ合力演算部41lは、各輪前後力演算部41gから左前輪前後力Fxf_l、右前輪前後力Fxf_r、左後輪前後力Fxr_l、右後輪前後力Fxr_rが入力され、各輪横力演算部41iから左前輪横力Fyf_l_FB、右前輪横力Fyf_r_FB、左後輪横力Fyr_l_FB、右後輪横力Fyr_r_FBが入力される。そして、以下の(46)〜(49)式により、左前輪タイヤ合力F_fl_FB、右前輪タイヤ合力F_fr_FB、左後輪タイヤ合力F_rl_FB、右後輪タイヤ合力F_rr_FBを演算し、各輪オーバータイヤ力演算部41nに出力する。
F_fl_FB=(Fxf_l+Fyf_l_FB1/2 …(46)
F_fr_FB=(Fxf_r+Fyf_r_FB1/2 …(47)
F_rl_FB=(Fxr_l+Fyr_l_FB1/2 …(48)
F_rr_FB=(Fxr_r+Fyr_r_FB1/2 …(49)
【0056】
各輪要求オーバータイヤ力演算部41mは、各輪摩擦円限界値演算部41jから左前輪摩擦円限界値μ_Fzfl、右前輪摩擦円限界値μ_Fzfr、左後輪摩擦円限界値μ_Fzrl、右後輪摩擦円限界値μ_Fzrrが入力され、各輪要求タイヤ合力演算部41kから左前輪要求タイヤ合力F_fl_FF、右前輪要求タイヤ合力F_fr_FF、左後輪要求タイヤ合力F_rl_FF、右後輪要求タイヤ合力F_rr_FFが入力される。そして、以下の(50)〜(53)式により、左前輪要求オーバータイヤ力ΔF_fl_FF、右前輪要求オーバータイヤ力ΔF_fr_FF、左後輪要求オーバータイヤ力ΔF_rl_FF、右後輪要求オーバータイヤ力ΔF_rr_FFを演算し、オーバータイヤ力決定部41oに出力する。
ΔF_fl_FF=F_fl_FF−μ_Fzfl …(50)
ΔF_fr_FF=F_fr_FF−μ_Fzfr …(51)
ΔF_rl_FF=F_rl_FF−μ_Fzrl …(52)
ΔF_rr_FF=F_rr_FF−μ_Fzrr …(53)
【0057】
各輪オーバータイヤ力演算部41nは、各輪摩擦円限界値演算部41jから左前輪摩擦円限界値μ_Fzfl、右前輪摩擦円限界値μ_Fzfr、左後輪摩擦円限界値μ_Fzrl、右後輪摩擦円限界値μ_Fzrrが入力され、各輪タイヤ合力演算部41lから左前輪タイヤ合力F_fl_FB、右前輪タイヤ合力F_fr_FB、左後輪タイヤ合力F_rl_FB、右後輪タイヤ合力F_rr_FBが入力される。そして、以下の(54)〜(57)式により、左前輪オーバータイヤ力ΔF_fl_FB、右前輪オーバータイヤ力ΔF_fr_FB、左後輪オーバータイヤ力ΔF_rl_FB、右後輪オーバータイヤ力ΔF_rr_FBを演算し、オーバータイヤ力決定部41oに出力する。
ΔF_fl_FB=F_fl_FB−μ_Fzfl …(54)
ΔF_fr_FB=F_fr_FB−μ_Fzfr …(55)
ΔF_rl_FB=F_rl_FB−μ_Fzrl …(56)
ΔF_rr_FB=F_rr_FB−μ_Fzrr …(57)
【0058】
オーバータイヤ力決定部41oは、各輪要求オーバータイヤ力演算部41mから左前輪要求オーバータイヤ力ΔF_fl_FF、右前輪要求オーバータイヤ力ΔF_fr_FF、左後輪要求オーバータイヤ力ΔF_rl_FF、右後輪要求オーバータイヤ力ΔF_rr_FFが入力され、各輪オーバータイヤ力演算部41nから左前輪オーバータイヤ力ΔF_fl_FB、右前輪オーバータイヤ力ΔF_fr_FB、左後輪オーバータイヤ力ΔF_rl_FB、右後輪オーバータイヤ力ΔF_rr_FBが入力される。そして、各輪要求オーバータイヤ力ΔF_fl_FF、ΔF_fr_FF、ΔF_rl_FF、ΔF_rr_FFの総和と、各輪オーバータイヤ力ΔF_fl_FB、ΔF_fr_FB、ΔF_rl_FB、ΔF_rr_FBの総和とを比較して、値の大きい方をオーバータイヤ力Foverとして決定して、トラクション制御部42と制動力制御部43に出力する。すなわち、
Fover=MAX((ΔF_fl_FF+ΔF_fr_FF+ΔF_rl_FF+ΔF_rr_FF)
,(ΔF_fl_FB+ΔF_fr_FB+ΔF_rl_FB+ΔF_rr_FB))…(58)
【0059】
また、オーバータイヤ力決定部41oは、オーバータイヤ力Foverを決定した各車輪のオーバータイヤ力(ΔF_fl_FF、ΔF_fr_FF、ΔF_rl_FF、ΔF_rr_FF)、(ΔF_fl_FB、ΔF_fr_FB、ΔF_rl_FB、ΔF_rr_FB)のどちらか(ΔF_fl、ΔF_fr、ΔF_rl、ΔFrr)を制動力制御部43に出力する。
【0060】
トラクション制御部42は、オーバータイヤ力演算部41からオーバータイヤ力Foverが入力される。そして、例えば、オーバータイヤ力Foverがプラス(+)の場合、このオーバータイヤ力Fover分のトルク(オーバートルク)Toverを以下の(59)式により演算して、このオーバートルクover分の出力を減じるようにエンジン制御部39に信号出力する。
Tover=Fover・Rt/t/i/η/if …(59)
【0061】
制動力制御部43は、制動制御手段として設けられており、各車輪の(4輪)車輪速センサ34fl、34fr、34rl、34rrから各車輪の車輪速ωfl、ωfr、ωrl、ωrrが入力され、オーバータイヤ力演算部41からオーバータイヤ力Foverと、オーバータイヤ力Foverを決定した各車輪のオーバータイヤ力(ΔF_fl、ΔF_fr、ΔF_rl、ΔFrr)が入力される。そして、後述するようにブレーキを付加する車輪の選択と、付加するブレーキ液圧を演算して、ブレーキ駆動部25に信号出力する。
【0062】
すなわち、制動力制御部43は、図4に示すように、差回転演算部43a、オーバータイヤ力判定部43b、差回転判定部43c、ブレーキ制御量演算出力部43dから主要に構成されている。
【0063】
差回転演算部43aは、差回転演算手段として設けられており、各車輪の(4輪)車輪速センサ34fl、34fr、34rl、34rrから各車輪の車輪速ωfl、ωfr、ωrl、ωrrが入力される。そして、速度の最も速い車輪を速度ωmaxの対象車輪として選択し、速度の最も遅い車輪を速度ωminの車輪として(車体速の車輪として)選択し、これらωmaxとωminとの差回転Δω(=ωmax−ωmin)を演算して差回転判定部43c、ブレーキ制御量演算出力部43dに出力する。
【0064】
オーバータイヤ力判定部43bは、オーバータイヤ力演算部41からオーバータイヤ力Foverが入力される。そして、オーバータイヤ力Foverが予め設定したオーバータイヤ力閾値(本実施の形態では、例えば「0」)を越える(Fover>0)か否(Fover≦0)かを判定し、この判定結果を差回転判定部43cに出力する。
【0065】
差回転判定部43cは、差回転演算部43aから対象車輪の差回転Δωが入力され、オーバータイヤ力判定部43bからオーバータイヤ力Foverの判定結果が入力される。そして、Fover>0の場合、対象車輪の差回転Δωが予め設定した第1の差回転閾値Δωc1を越える(Δω>Δωc1:図14における領域B)か否(ω≦Δωc1:図14における領域A)かを判定し、この判定結果をブレーキ制御量演算出力部43dに出力する。一方、Fover≦0の場合、対象車輪の差回転Δωが予め設定した第2の差回転閾値Δωc2を越える(Δω>Δωc2:図14における領域C)か否(ω≦Δωc2:図14における領域D)かを判定し、この判定結果をブレーキ制御量演算出力部43dに出力する。
【0066】
ブレーキ制御量演算出力部43dは、オーバータイヤ力演算部41からオーバータイヤ力Foverを決定した各車輪のオーバータイヤ力(ΔF_fl、ΔF_fr、ΔF_rl、ΔF_rr)が入力され、差回転演算部43aから特定された対象車輪の差回転Δωが入力され、差回転判定部43cから各差回転の判定結果(すなわち、図14における領域A、B、C、D)が入力される。そして、現在の走行状態が領域Bの状態の場合、対象車輪に対応したオーバータイヤ力をΔFtargとして、以下の(60)式により、対象とする車輪のブレーキ液圧Pbを演算して、対象とする車輪にこのブレーキ力Pbを付加するようにブレーキ駆動部25に信号出力する。
Pb=Gb1・ΔFtarg …(60)
ここで、Gb1は予め設定されるゲインである。
【0067】
また、現在の走行状態が領域Aの状態の場合、対象車輪の制動圧を制動力が発生しない程度に予め高めて予圧状態とする(すなわち、図13のPb1のブレーキ液圧を付加する)ようにブレーキ駆動部25に信号出力する。
更に、現在の走行状態が領域Cの状態の場合、以下の(61)式により、対象とする車輪のブレーキ液圧Pbを演算して、対象とする車輪にこのブレーキ力Pbを付加するようにブレーキ駆動部25に信号出力する。
Pb=Gb2・Δω …(61)
ここで、Gb2は予め設定されるゲインである。
【0068】
次に、上述のメイン制御部40で実行される車両制御プログラムについて、図5のフローチャートで説明する。
まず、ステップ(以下、「S」と略称)101で必要パラメータ、すなわち、スロットル開度θth、エンジン回転数Ne、ハンドル角θH、各車輪の車輪速ωfl、ωfr、ωrl、ωrr、ヨーレートγ、横加速度(dy/dt)、路面摩擦係数μ、主変速ギヤ比i、トルクコンバータのタービン回転数Ntを読み込み、S102に進み、オーバータイヤ力演算部41でオーバータイヤ力Foverを演算し、S103に進み、トラクション制御部42でトラクション制御を実行する。このトラクション制御は、例えば、S102で演算されたオーバータイヤ力Foverがプラス(+)の場合、このオーバータイヤ力Fover分のトルク(オーバートルク)Toverを前述の(59)式により演算して、このオーバートルクover分の出力を減じるようにエンジン制御部39に信号出力する。
【0069】
次いで、S104に進んで、制動力制御部43で制動力制御を実行してプログラムを抜ける。
【0070】
次に、図6及び図7は、上述のS102のオーバータイヤ力演算部41で実行されるオーバータイヤ力Fover演算ルーチンのフローチャートで、まず、S201で、エンジントルク演算部41aにより、予めエンジン特性により設定しておいたマップ(例えば、図9に示すマップ)を参照し、現在発生しているエンジントルクTegを求める。
【0071】
次いで、S202に進み、トランスミッション出力トルク演算部41bで、前述の(1)式により、トランスミッション出力トルクTtを演算する。
【0072】
次に、S203に進み、総駆動力演算部41cで、前述の(2)式により、総駆動力Fxを演算する。
【0073】
次いで、S204に進み、前後接地荷重演算部41dで、前述の(3)式により前輪接地荷重Fzfを演算し、前述の(4)式により後輪接地荷重Fzrを演算する。
【0074】
次に、S205に進み、左輪荷重比率演算部41eで、前述の(5)式により左輪荷重比率WR_lを演算する。
【0075】
次いで、S206に進み、各輪接地荷重演算部41fで、前述の(6)、(7)、(8)、(9)式により、それぞれ左前輪接地荷重Fzf_l、右前輪接地荷重Fzf_r、左後輪接地荷重Fzr_l、右後輪接地荷重Fzr_rを演算する。
【0076】
次に、S207に進み、各輪前後力演算部41gで、前述の(13)〜(16)式により、左前輪前後力Fxf_l、右前輪前後力Fxf_r、左後輪前後力Fxr_l、右後輪前後力Fxr_rを演算する。
【0077】
次いで、S208に進み、各輪要求横力演算部41hで、前述の(19)〜(22)式により左前輪要求横力Fyf_l_FF、右前輪要求横力Fyf_r_FF、左後輪要求横力Fyr_l_FF、右後輪要求横力Fyr_r_FFを演算する。
【0078】
次に、S209に進み、各輪横力演算部41iで、前述の(34)〜(37)式により、左前輪横力Fyf_l_FB、右前輪横力Fyf_r_FB、左後輪横力Fyr_l_FB、右後輪横力Fyr_r_FBを演算する。
【0079】
次いで、S210に進み、各輪摩擦円限界値演算部41jで、前述の(38)〜(41)式により、左前輪摩擦円限界値μ_Fzfl、右前輪摩擦円限界値μ_Fzfr、左後輪摩擦円限界値μ_Fzrl、右後輪摩擦円限界値μ_Fzrrを演算する。
【0080】
次に、S211に進み、各輪要求タイヤ合力演算部41kで、前述の(42)〜(45)式により、左前輪要求タイヤ合力F_fl_FF、右前輪要求タイヤ合力F_fr_FF、左後輪要求タイヤ合力F_rl_FF、右後輪要求タイヤ合力F_rr_FFを演算する。
【0081】
次いで、S212に進み、各輪タイヤ合力演算部41lで、前述の(46)〜(49)式により、左前輪タイヤ合力F_fl_FB、右前輪タイヤ合力F_fr_FB、左後輪タイヤ合力F_rl_FB、右後輪タイヤ合力F_rr_FBを演算する。
【0082】
次に、S213に進み、各輪要求オーバータイヤ力演算部41mで、前述の(50)〜(53)式により、左前輪要求オーバータイヤ力ΔF_fl_FF、右前輪要求オーバータイヤ力ΔF_fr_FF、左後輪要求オーバータイヤ力ΔF_rl_FF、右後輪要求オーバータイヤ力ΔF_rr_FFを演算する。
【0083】
次いで、S214に進み、各輪オーバータイヤ力演算部41nで、前述の(54)〜(57)式により、左前輪オーバータイヤ力ΔF_fl_FB、右前輪オーバータイヤ力ΔF_fr_FB、左後輪オーバータイヤ力ΔF_rl_FB、右後輪オーバータイヤ力ΔF_rr_FBを演算する。
【0084】
次に、S215に進み、オーバータイヤ力決定部41oで、前述の(58)式により、オーバータイヤ力Foverを演算し出力してルーチンを抜ける。
【0085】
次いで、図8は、上述のS104の制動力制御部43で実行される制動力制御ルーチンのフローチャートで、まず、S301で、差回転演算部43aにより、速度の最も速い車輪を速度ωmaxの対象車輪として選択し、速度の最も遅い車輪を速度ωminの車輪として(車体速の車輪として)選択し、これらωmaxとωminとの差回転Δω(=ωmax−ωmin)を演算する。
【0086】
次に、S302に進み、オーバータイヤ力判定部43bは、オーバータイヤ力Foverが予め設定したオーバータイヤ力閾値(本実施の形態では、例えば「0」)を越える(Fover>0)か否(Fover≦0)かを判定する。
【0087】
この判定の結果、Fover>0の場合は、S303に進み、差回転判定部43cは、対象車輪の差回転Δωが予め設定した第1の差回転閾値Δωc1を越える(Δω>Δωc1:図14における領域B)か否(Δω≦Δωc1:図14における領域A)かを判定する。この判定の結果、Δω≦Δωc1の場合は、S304に進んで、ブレーキ制御量演算出力部43dは、対象車輪の制動圧を制動力が発生しない程度に予め高めて予圧状態とする(すなわち、図13のPb1のブレーキ液圧を付加する)ようにブレーキ駆動部25に信号出力してルーチンを抜ける。また、逆に、Δω>Δωc1の場合は、S305に進んで、ブレーキ制御量演算出力部43dは、前述の(60)式により、対象とする車輪のブレーキ液圧Pbを演算して、対象とする車輪にこのブレーキ力Pbを付加するようにブレーキ駆動部25に信号出力してルーチンを抜ける。
一方、前述のS302で、Fover≦0の場合は、S306に進み、差回転判定部43cは、対象車輪の差回転Δωが予め設定した第2の差回転閾値Δωc2を越える(Δω>Δωc2:図14における領域C)か否(Δω≦Δωc2:図14における領域D)かを判定する。この判定の結果、Δω>Δωc2の場合は、S307に進んで、ブレーキ制御量演算出力部43dは、前述の(61)式により、対象とする車輪のブレーキ液圧Pbを演算して、対象とする車輪にこのブレーキ力Pbを付加するようにブレーキ駆動部25に信号出力してルーチンを抜ける。また、逆に、Δω≦Δωc2の場合は、S308に進んで、ブレーキ制御量演算出力部43dは、制動力制御を解除するようにブレーキ駆動部25に信号出力してルーチンを抜ける。
【0088】
このように本発明の実施の形態によれば、各駆動輪の前後力と横力の合力をタイヤ合力として算出し、各駆動輪が路面に対して発揮可能な最大発生力を摩擦円の大きさとして算出し、各駆動輪のタイヤ合力の総和に対する各駆動輪の摩擦円の大きさの総和からのオーバー量をオーバータイヤ力Foverとして演算し、このオーバータイヤ力Foverがプラス(+)の場合、このオーバータイヤ力Fover分のトルクToverを減じるようにエンジン制御部39に信号出力する。また、オーバータイヤ力Foverと、車体速と各駆動輪の車輪速との差回転を演算し、オーバータイヤ力Foverとこの差回転に基づいてブレーキ駆動部25に信号出力して各輪を制動制御する。この制動制御は、具体的には、以下のように行われる。
【0089】
オーバータイヤ力Foverが予め設定したオーバータイヤ力閾値(例えば0)を越えた場合で、且つ、特定の駆動輪の差回転が予め設定した第1の差回転閾値Δωc1を越える場合は、この特定の駆動輪にオーバータイヤ力Foverに応じた制動力を付加する。
【0090】
また、オーバータイヤ力Foverがオーバータイヤ力閾値(例えば0)を越えた場合で、且つ、特定の車輪の差回転が第1の差回転閾値Δωc1以下の場合は、この特定の車輪の制動圧を制動力が発生しない程度に予め高めて予圧状態とする。
【0091】
更に、オーバータイヤ力Foverがオーバータイヤ力閾値(例えば0)以下の場合で、且つ、特定の駆動輪の差回転が予め設定した第2の差回転閾値Δωc2を越える場合は、この特定の駆動輪に差回転に応じた制動力を付加する。このため、車輪相互間の差回転を適切に制御すると共に、車輪と路面の間のグリップ力を適切に監視してタイヤのグリップ力を最適に維持しながら摩擦円を使い切る効率の良い最適な制御を行うことが可能となる。また、特に、オーバータイヤ力Foverが予め設定したオーバータイヤ力閾値(例えば0)を越えた場合には、特定の駆動輪の差回転が第1の差回転閾値Δωc1以下の場合は、この特定の駆動輪の制動圧を制動力が発生しない程度に予め高める予圧状態となる領域を設定して、差回転が予め設定した第1の差回転閾値Δωc1を越える場合にはじめて制動力が付加されるようにしたので、制動力の付加をレスポンス良く、且つ、ドライバに違和感を与えることなくスムーズに行うことが可能となっている。更に、上述の予圧状態とする領域も、オーバータイヤ力Foverが予め設定したオーバータイヤ力閾値(例えば0)を越え、且つ、差回転が第1の差回転閾値Δωc1以下の場合に制限しているので、ブレーキパッド摺動抵抗低減による燃費向上を図ることができる。
【0092】
尚、本実施形態では各駆動輪の前後力と横力の合力であるタイヤ合力として、ドライバ要求に基づき車輪に将来発生する各輪要求タイヤ合力と、車輪に現在発生している各輪タイヤ合力との2つを算出し、大きい値を使ってオーバータイヤ力を算出している。しかし、必ずしも本発明は2つのタイヤ合力を算出する必要はなく、どちらか一方だけを算出してオーバータイヤ力の算出に用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】車両の制御装置を搭載した車両全体の概略構成を示す説明図
【図2】車両の制御装置の機能ブロック図
【図3】オーバータイヤ力演算部の機能ブロック図
【図4】制動力制御部の機能ブロック図
【図5】車両制御プログラムのフローチャート
【図6】オーバータイヤ力Fover演算ルーチンのフローチャート
【図7】図6から続くフローチャート
【図8】制動力制御ルーチンのフローチャート
【図9】エンジン回転数とスロットル開度により設定されるエンジントルクの一例を示す説明図
【図10】付加ヨーモーメント演算ルーチンのフローチャート
【図11】横加速度飽和係数の説明図
【図12】車速感応ゲインの特性マップ
【図13】ブレーキ液圧とブレーキ力との関係を示す説明図
【図14】差回転とオーバータイヤ力に応じて設定される各領域の説明図
【符号の説明】
【0094】
1 エンジン
14fl、14fr、14rl、14rr 車輪
25 ブレーキ駆動部
26fl、26fr、26rl、26rr ホイールシリンダ
39 エンジン制御部
40 メイン制御部
41 オーバータイヤ力演算部(オーバータイヤ力演算手段)
42 トラクション制御部
43 制動力制御部(制動制御手段)
43a 差回転演算部(差回転演算手段)
43b オーバータイヤ力判定部
43c 差回転判定部
43d ブレーキ制御量演算出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各駆動輪の前後力と横力の合力をタイヤ合力として算出するタイヤ合力算出手段と、
各駆動輪が路面に対して発揮可能な最大発生力を摩擦円の大きさとして算出する摩擦円算出手段と、
各駆動輪の上記タイヤ合力の総和に対する各駆動輪の上記摩擦円の大きさの総和からのオーバー量をオーバータイヤ力として演算するオーバータイヤ力演算手段と、
車体速と各駆動輪の車輪速との差回転を演算する差回転演算手段と、
上記オーバータイヤ力と各駆動輪の差回転とに基づいて各駆動輪を制動制御する制動制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
上記制動制御手段は、上記オーバータイヤ力が予め設定したオーバータイヤ力閾値を越えた場合で、且つ、特定の駆動輪の差回転が予め設定した第1の差回転閾値を越える場合は、上記オーバータイヤ力に基づいて上記特定の駆動輪に制動力を付加することを特徴とする請求項1記載の車両の制御装置。
【請求項3】
上記制動制御手段は、上記オーバータイヤ力が上記オーバータイヤ力閾値を越えた場合で、且つ、特定の駆動輪の差回転が上記第1の差回転閾値以下の場合は、上記特定の駆動輪の制動圧を制動力が発生しない程度に予め高めて予圧状態とすることを特徴とする請求項1記載の車両の制御装置。
【請求項4】
上記制動制御手段は、上記オーバータイヤ力が上記オーバータイヤ力閾値以下の場合で、且つ、特定の駆動輪の差回転が予め設定した第2の差回転閾値を越える場合は、上記特定の駆動輪の差回転に基づいて上記特定の駆動輪に制動力を付加することを特徴とする請求項1記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−95047(P2010−95047A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265538(P2008−265538)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】