説明

車両の制御装置

【課題】悪路走行時の電動機及びインバータの温度上昇による性能低下や耐久性低下を抑制しつつ、悪路走破性を確保出来る車両の制御装置を提供する。
【解決手段】動力源として機能するエンジン2及び電動機9と、前記エンジン2によって回転駆動される発電機6と、エンジン駆動を伴う走行を選択するためにドライバが操作可能なオフロード走行選択スイッチ81および低速4輪走行選択スイッチ82と、サンギヤ18を前記発電機6に、キャリヤ21を前記エンジン2に、リングギヤ19を前記電動機9に連結した動力分配機構7とを備える車両の制御装置であって、前記オフロード走行選択スイッチ81または低速4輪走行選択スイッチ82からの信号に応じて前記エンジン2の出力状態を維持しつつ前記発電機6の回転数Nmg1を前記オフロード走行選択スイッチ81または低速4輪走行選択スイッチ82が操作されていない非操作時よりも低下させる(S4)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関し、悪路走行時の電動機及びインバータの温度上昇による性能低下や耐久性低下を抑制しつつ、悪路走破性を確保出来るハイブリッド車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車は、エンジンの燃料消費量及びエンジンから排出される排気ガスの低減が要求されているため、エンジンと電動機との2つの動力源を備えたハイブリッド車両の開発が進められている。
【0003】
上記したハイブリッド車両とは、エンジンと、エンジンの出力で駆動される発電機と、発電機により発電された電力を蓄える蓄電装置と、発電機あるいは蓄電装置の電力で駆動される電動機と、エンジンの出力を発電機と車輪とに分配する動力分配機構とを備え、要求トルクに応じて動力源をエンジンと電動機との少なくとも1つから選ぶ車両である。
【0004】
電動機からの出力のみで要求トルクを満たすことが出来る場合は、ハイブリッド車両はエンジンを停止させて走行するモータ走行を行う。
【0005】
電動機からの出力で要求トルクを満たすことが出来ない場合は、ハイブリッド車両はエンジンを始動させて走行する。この時、蓄電装置の残存容量が低い場合は、エンジンは要求トルクより大きい出力値を出力して要求トルクを満たすと共に余剰出力を用いて発電機を駆動させ、蓄電装置の充電を行う一方で発電機からの電力で電動機を駆動し、また蓄電装置の残存容量が高い場合は、蓄電装置からの電力により電動機を駆動し、エンジンの出力と電動機の出力とを用いて要求トルクを満たすハイブリッド走行を行う。
【0006】
尚、上記ハイブリッド走行中は電動機の出力と蓄電装置の残存容量とが考慮されつつ要求トルクに応じてエンジンの出力が算出される。また、エンジンが燃費最適ラインの近くで作動出来るようにエンジンの回転数及び発電機の回転数が算出され、エンジン及び発電機が制御される。
【0007】
このように、ハイブリッド車両は走行中に電動機を動力源として選ぶことでエンジンを停止することが可能なため、燃料消費量及び排気ガスを低減することが出来る。
【0008】
また、近年はこのようなハイブリッド車両の機能を従来から知られている四輪駆動装置付のSUV(スポーツユーティリティービークル)と呼ばれる悪路走破用車に組み合わせた悪路走破用ハイブリッド車両の開発も進められている。
【0009】
しかしながら、悪路走破用ハイブリッド車両(以下、車両と記す)は、モータ走行中に車輪が瓦礫路の間に挟み込まれる、段差を上るだけのトルクが得られない、泥や砂に車輪がはまりこんで抜け出せなくなる等の問題が発生して車輪がロックしてしまうと、電動機もロックされてしまい、一部の相のコイルまたは電動機を駆動するインバータの一部の電気素子に集中して大きな電流が流れる可能性がある。このように大きな電流が一部に集中して流れると、発熱が増大し、電動機またはインバータの性能低下や耐久性低下を招く可能性がある。
【0010】
この課題を解決するものとして、下記の特許文献1に開示された車両が知られている。特許文献1に開示された車両は、ドライバが操作可能であり、オンとされると電動機とエンジンとの双方の出力を用いて走行するオフロード走行選択スイッチと、電動機または電動機を駆動するインバータの温度が所定温度以上である場合に電動機の出力トルクの最大値を低く制限するか、または電動機の駆動のための電流を遮断する電動機制御部とを備えている。
【0011】
この車両によれば、ドライバの操作によりオフロード走行選択スイッチがオンとされると車両は電動機とエンジンとの双方の出力を用いて走行し、さらに電動機またはインバータの温度が所定温度以上である場合に電動機制御部が電動機の出力トルクの最大値を低く制限するか電動機の駆動のための電流を遮断するので電動機及びインバータの温度上昇による性能低下や耐久性低下を抑制することが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−062779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の特許文献に開示された車両のように悪路走行時には電動機とエンジンとの双方の出力を用いて走行し、さらに電動機及びインバータの温度に応じて電動機の出力トルクを制限すれば電動機及びインバータを保護することが可能だが、悪路走行時に電動機及びインバータの温度上昇に応じて電動機の出力トルクを制限してしまうと、電動機の出力トルクを制限した分だけ車両の出力トルクが低下してしまうので、車両の悪路走破性が悪くなってしまう。
【0014】
本発明は、上記の課題を解決するものであって、その目的は、悪路走行時の電動機及びインバータの温度上昇による性能低下や耐久性低下を抑制しつつ、悪路走破性を確保出来る車両の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の発明に係る車両の制御装置は、動力源として機能するエンジン及び電動機と、前記エンジンによって回転駆動される発電機と、エンジン駆動を伴う走行を選択するためにドライバが操作可能な操作部と、第1要素を前記発電機に、第2要素を前記エンジンに、第3要素を前記電動機に連結した電気式差動部とを備える車両の制御装置であって、前記操作部からの信号に応じて前記エンジンの出力状態を維持しつつ、前記発電機の回転数を前記操作部が操作されていない非操作時よりも低下させることを特徴とする。
【0016】
第2の発明に係る車両の制御装置は、第1の発明の構成に加えて、前記制御装置は、ドライバによるアクセルペダルの操作量に応じて要求トルクを算出し、さらに前記操作部からの信号に応じて該要求トルクを該操作部が操作されていない非操作時よりも低く算出することを特徴とする。
【0017】
第3の発明に係る車両の制御装置は、第1または第2の発明の構成に加えて、前記操作部は、車両が悪路走行を行うことを知らせるためのオフロード走行選択スイッチまたは低速4輪走行選択スイッチであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明によれば、制御装置はドライバにより操作部が操作されると、まずエンジンを停止して電動機のみで走行するモータ走行を禁止し、そしてエンジンの出力状態を維持しつつ発電機の回転数を操作部が操作されていない非操作時よりも低下させる。すると、発電機の回転数の低下に伴いエンジンの回転数も低下するが、エンジンは出力状態を維持することによりエンジンの直達トルクが増加するので、要求トルクを満たしつつエンジンの直達トルクの増加分だけ電動機のトルクを低下させることが出来る。よって、電動機の平均温度が低下して、電動機は常に熱的に余裕が増した状態となるので、電動機及びインバータの温度上昇による故障を阻止しつつ、悪路からの脱出等一時的に大きなトルクを要求されても余裕を持ってトルクを出力することが出来るため、悪路走破性が確保出来る。
【0019】
第2の発明によれば、制御装置は操作部からの信号に伴い、ドライバによるアクセルペダルの操作量から算出される要求トルクを操作部が操作されていない非操作時よりも低く算出するので、ドライバが悪路走行中にアクセルペダルを踏み込んでも要求トルクが容易に大きくならずに、電動機の余分な熱の発生を抑えることが出来る。
【0020】
第3の発明によれば、操作部はオフロード走行選択スイッチまたは低速4輪走行選択スイッチであるので、ドライバは車両が悪路走行を行う場合等にオフロード走行選択スイッチまたは低速4輪走行選択スイッチを操作するので、悪路からの脱出等一時的に大きなトルクを要求されても余裕を持ってトルクを出力することが出来るため、悪路走破性が確保出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の制御装置を適用した実施例1に係る車両のパワートレーンを示す骨子図である。
【図2】本発明の制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図3】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置と、車両の悪路走行時や低速4輪走行時にドライバにより操作される操作部の一例を示した図である。
【図4】ドライバによりオフロード走行選択スイッチもしくは低速4輪走行選択スイッチが操作された場合の本発明の制御装置の制御作動を示したフローチャートである。
【図5】ドライバによりオフロード走行選択スイッチもしくは低速4輪走行選択スイッチが操作された場合の発電機、エンジン、電動機の回転数の変化を示した共線図である。
【図6】ドライバによりオフロード走行選択スイッチもしくは低速4輪走行選択スイッチが操作された場合のエンジン回転数、エンジントルク、電動機トルク、直達トルク、アウトプットトルク、発電機回転数、発電機トルクの変化を表したタイムチャートである。
【図7】アクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを基に、ドライバの要求トルクを算出する場合に用いるマップの一例を示した図である。
【図8】本発明の制御装置を適用した実施例2に係る車両のパワートレーンを示す骨子図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施例について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の制御装置を適用した実施例1に係るFF(フロントエンジン・フロントドライブ)形式の車両1のパワートレーン11を示す骨子図である。
【0024】
図1に示すように、パワートレーン11は、エンジン2、トランスアクスル28、ドライブシャフト39、40、駆動輪41、42を備えており、エンジン2の出力軸であるクランクシャフト2aは、車両1の幅方向に水平に配置されている。また、クランクシャフト2aの端部には、フライホイール3が備えられており、インプットシャフト5の軸端にダンパ機構12のハブ10がスプライン嵌合されている。そして、フライホイール3には、ダンパ機構12を介してインプットシャフト5が連結されている。さらに、エンジン2には、動力分配機構7、減速機構8、差動機構が1つになったトランスアクスル28が取り付けられており、トランスアクスル28の筐体であるケース4は、金属材料、例えば、アルミニウムなどの材料を用いてダイカスト法により製造されたものであり、中空構造を有している。ケース4の内部空間4iには、車両1のエンジン2側から順に、インプットシャフト5、発電機6、動力分配機構7、減速機構8、電動機9などが設けられている。
【0025】
発電機6及び電動機9は、電力の供給により駆動する電動機としての機能すなわち力行機能と、機械エネルギを電気エネルギに変換する発電機としての機能すなわち回生機能とを兼ね備えたものである。発電機6と電動機9はケース4に固定されたステータ13、25と回転自在なロータ14、26とをそれぞれ備えている。
【0026】
インプットシャフト5の外周部には、中空シャフト17が取り付けられており、インプットシャフト5と中空シャフト17とが相対回転可能に構成されている。ケース4の内面には、隔壁4a、4b、4cが設けられている。また、隔壁4aには、軸受15が取り付けられるとともに隔壁4bには、軸受16が取り付けられ、軸受15、16により中空シャフト17が回転可能に支持されている。
【0027】
発電機6と電動機9との間に設けられた動力分配機構7は、いわゆる3つの回転要素を有するシングルピニオン形式の遊星歯車装置を有している。つまり、遊星歯車装置は、サンギヤ18と、サンギヤ18と同心状に配置されたリングギヤ19と、サンギヤ18及びリングギヤ19に歯合する複数のピニオンギヤ20と、ピニオンギヤ20を保持するキャリヤ21とを備えている。サンギヤ18は中空シャフト17と連結され、キャリヤ21はインプットシャフト5と連結されている。なお、リングギヤ19は、インプットシャフト5と同心状に配置された環状部材22の内周側に設けられており、この環状部材22の外周部には、カウンタドライブギヤ23が設けられている。このカウンタドライブギヤ23は、カウンタ軸37、ディファレンシャル38、ドライブシャフト39、40を介して駆動輪41、42に連結されている。
【0028】
インプットシャフト5には、連結軸5aが同心状に連結されており、インプットシャフト5と連結軸5aとは、一体的に回転できるようになっている。連結軸5aの外周部には、中空シャフト24が回転可能に取り付けられており、中空シャフト24の外周部には、電動機9が配置されている。電動機9のロータ26は、中空シャフト24と一体回転するように連結されている。ケース4の内面の隔壁4cには、軸受35が取り付けられるともにケース4の端部には、軸受36が取り付けられており、軸受35、36により中空シャフト24が回転可能に支持されている。
【0029】
動力分配機構7と電動機9との間には、減速機構8が設けられている。減速機構8は、いわゆるシングルピニオン形式の遊星歯車装置を有している。つまり、遊星歯車装置は、中空シャフト24と一体的に回転するサンギヤ29と、サンギヤ29と同心状に配置され、かつ、環状部材22の内周に形成されたリングギヤ30と、サンギヤ29およびリングギヤ30に歯合する複数のピニオンギヤ31と、ピニオンギヤ31を保持するキャリヤ32とを有している。キャリヤ32は、隔壁4cに固定されており回転しないようになっている。また、環状部材22は、隔壁4bに取り付けられた軸受33および隔壁4cに取り付けられた軸受34により回転自在に支持されている。
【0030】
パワートレーン11においては、エンジン2から出力されるトルクがインプットシャフト5を介してキャリヤ21に伝達される。キャリヤ21に伝達されたトルクは、リングギヤ19、環状部材22、カウンタドライブギヤ23等を介して駆動輪41、42に伝達される。また、エンジン2のトルクをキャリヤ21に伝達する際に、発電機6を発電機として機能させ、発生した電力を図示しない蓄電装置に充電することができる。
【0031】
また、パワートレーン11は、図示しない蓄電装置からの電力、もしくはエンジン2のトルクを用いて電動機9を駆動させ、電動機9から出力されたトルクを減速機構8に伝達することができる。電動機9の出力トルクが中空シャフト24を介してサンギヤ29に伝達されると、前述したようにキャリヤ32が隔壁4cに固定されており反力要素として作用するので、各ピニオンギヤ31は、公転せずに自転し、各ピニオンギヤ31のトルクは、リングギヤ30に伝達される。なお、リングギヤ30の回転速度は、サンギヤ29の回転速度に対して減速されたものとなり、リングギヤ30の回転方向は、サンギヤ29の回転方向とは逆方向となる。
【0032】
また、エンジン2の出力トルク及び電動機9の出力トルクは合成され、合成されたトルクが駆動輪41、42に伝達される。したがって、パワートレーン11を有する車両1は、エンジン2または電動機9の少なくとも一方のトルクを駆動輪41、42に伝達することが出来る。
【0033】
図2は、パワートレーン11を制御するための制御装置であるECU80に入力及び出力される信号を例示している。このECU80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成るマイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン2、発電機6、電動機9等に関するハイブリッド駆動制御、減速機構8の変速制御等の各種制御を実行するものである。
【0034】
ECU80には、図2に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン2の冷却流体の温度であるエンジン水温を表す信号、レゾルバ等からなる図示しない発電機6の回転速度センサにより検出された発電機6の回転数Nmg1及びその回転方向を表す信号、レゾルバ等からなる図示しない電動機9の回転速度センサにより検出された電動機9の回転数Nmg2及びその回転方向を表す信号、エンジン2の回転速度Neを表す信号、車両1を用いて重量物を牽引する場合に選択されるトーイング走行モードを指令する信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、図示しない車速センサにより検出されたアウトプットシャフト43の回転速度に対応する車速及び車両1の進行方向を表す信号、減速機構8の作動油温を表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、車輪41、42にブレーキトルク(制動力)を付与する制動装置としての良く知られたフットブレーキ装置(ホイールブレーキ装置)の作動中(すなわちフットブレーキ操作中)を示すブレーキペダルの操作を表すブレーキ操作信号、触媒温度を表す信号、図示しないアクセル開度センサにより検出された運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、車両1を高速2輪駆動モードで走行させる場合に選択されるH2モードを指令する信号、車両1の悪路走破性を向上させる場合に選択されるオフロード走行モードを指令するオフロード走行選択スイッチ81からの信号、車両1を低速4輪駆動モードで走行させる場合に選択されるL4モードを指令する低速4輪走行選択スイッチ82からの信号、車両1を高速4輪駆動モードで走行させる場合に選択されるH4モード、車両1の加速性を向上させる場合に選択されるパワー走行モードを指令する信号、シフトレバー45(図3参照)のシフトポジションPshや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号等がそれぞれ供給される。
【0035】
また、ECU80からは、エンジン2の吸気管に備えられた電子スロットル弁のスロットル弁開度を操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、点火装置によるエンジン2の点火時期を指令する点火信号、発電機6及び電動機9の作動を指令する指令信号、図示しない蓄電装置へ電力の放電を指令する指令信号、車両1を4輪駆動モードに切り換える切換信号、車両1を高速駆動モードと低速駆動モードとに切り換える切換信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、減速機構8等の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために図示しない油路に含まれる電磁弁(ソレノイドバルブ)等を作動させるバルブ指令信号、制動時の車輪41、42のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、この油路に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧を調圧するための信号、図示しない油路を流れる潤滑油の流れる量をコントロールするために電磁弁を作動させるバルブ指令信号、そのライン油圧が調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0036】
図3は、複数種類のシフトポジションPshをドライバの操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置44の一例を示す図である。このシフト操作装置44は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPshを選択するために操作されるシフトレバー45を備えている。
【0037】
そのシフトレバー45は、減速機構8内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ減速機構8のアウトプットシャフト43をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、トランスアクスル28内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、トランスアクスル28の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、又は手動変速走行モード(手動モード)を成立させて自動変速制御における高速側の変速段を制限する変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0038】
また、オフロード走行選択スイッチ81と低速4輪走行選択スイッチ82等の車両1の走行モードを切り替えるスイッチは、ドライバが操作しやすいようにシフト操作装置44と並んで設けられる。
【0039】
次に、図4のフローチャート、図5の共線図、そして図6のタイムチャートを参照して、ECU80の制御作動のうち、オフロード走行選択スイッチ81もしくは低速4輪走行選択スイッチ82が操作されてモータ走行を禁止しエンジン駆動を伴う走行をする場合に実行する制御作動について説明する。
【0040】
図4において、ステップ(以下、Sと記す)1では、オフロード走行選択スイッチ81がオンとされているか否かを判断する。オフロード走行選択スイッチ81がオンとされている場合はS1の判断を肯定してS3を実行する。オフロード走行選択スイッチ81がオンとされていない場合はS1の判断を否定してS2を実行する。
【0041】
S2では、低速4輪走行選択スイッチ82がオンとされているか否かを判断する。低速4輪走行選択スイッチ82がオンとされている場合はS2の判断を肯定しS3を実行する。低速4輪走行選択スイッチ82がオンとされていない場合はS2の判断を否定し、S5を実行する。
【0042】
S3では、S1においてオフロード走行選択スイッチ81がオンとされている、もしくはS2において低速4輪走行選択スイッチ82がオンとされていると判断したので、車両1が悪路を走行して電動機9及びインバータの温度が過度に上昇する可能性があるため、電動機9のみで走行するモータ走行を禁止し、またエンジン2が始動していない場合はエンジン2を始動してS4を実行する。
【0043】
S4では、発電機6の回転数Nmg1を、オフロード走行選択スイッチ81もしくは低速4輪走行選択スイッチ82がオンとされていない場合よりも低下させるよう制御した後に本ルーチンを終了し、次の制御サイクルを開始する。つまり、図5の共線図内の破線及び図6のタイムチャートのように、オフロード走行選択スイッチ81もしくは低速4輪走行選択スイッチ82がオンとされると、まずエンジン2を停止して電動機9のみで走行するモータ走行を禁止し、そしてエンジン2の出力状態を維持しつつ発電機6の回転数Nmg1をオフロード走行選択スイッチ81もしくは低速4輪走行選択スイッチ82がオンとされていない場合よりも低下させる。すると、発電機6の回転数Nmg1の低下に伴いエンジン2の回転数Negも低下するが、エンジン2は出力状態を維持するので、エンジン2の直達トルクが増加する。故に、要求トルクを満たしつつ、エンジン2の直達トルクの増加分だけ電動機9のトルクを低下させることが出来る。
【0044】
S5では、S2においてオフロード走行選択スイッチ81もしくは低速4輪走行選択スイッチ82がオンとされていないと判断したので、車両1が悪路を走行して電動機9及びインバータの温度が過度に上昇する可能性がないため、電動機9のみで走行するモータ走行を許可して本ルーチンを終了し、次の制御サイクルを開始する。
【0045】
図7は、ECU80が図示しないアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを基に、ドライバの要求トルクを算出する場合に用いるマップである。
【0046】
ECU80は、オフロード走行選択スイッチ81もしくは低速4輪走行選択スイッチ82がオンとされている場合は図7の実線の曲線を、オフロード走行選択スイッチ81もしくは低速4輪走行選択スイッチ82がオンとされていない場合は図7の破線の曲線を用いて出力トルクを算出する。尚、実線の曲線が破線の曲線と比べてアクセル開度Accの変化に対する勾配が寝ているのは、アクセル開度Accの頻繁な変化に対して要求トルクの変化を少なくすることで、電動機9の発熱を避けるためである。また、アクセル開度Accが低い場合はクリープトルクを確保する必要があるため、オフロード走行選択スイッチ81もしくは低速4輪走行選択スイッチ82の操作状態を問わず要求トルクを同じように設定している。
【0047】
以上のように、実施例1に係る車両1の制御装置は、ドライバによりオフロード走行選択スイッチ81もしくは低速4輪走行選択スイッチ82がオンとされると、まずエンジン2を停止して電動機9のみで走行するモータ走行を禁止し、そしてエンジン2の出力状態を維持しつつ発電機6の回転数Nmg1をオフロード走行選択スイッチ81もしくは低速4輪走行選択スイッチ82がオンとされていない場合よりも低下させる。すると、発電機6の回転数Nmg1の低下に伴いエンジン2の回転数Negも低下するが、エンジン2が出力状態を維持することによりエンジン2の直達トルクが増加するので、要求トルクを満たしつつエンジン2の直達トルクの増加分だけ電動機9のトルクを低下させることが出来る。よって、電動機9の平均温度が低下して、電動機9は常に熱的に余裕が増した状態となるので、電動機9及びインバータの温度上昇による故障を阻止しつつ、悪路からの脱出等一時的に大きなトルクを要求されても余裕を持ってトルクを出力することが出来るため、悪路走破性が確保出来る。
【0048】
また、実施例1に係る車両1の制御装置は、オフロード走行選択スイッチ81もしくは低速4輪走行選択スイッチ82がオンとされると、アクセル開度Accから算出される要求トルクをオフロード走行選択スイッチ81もしくは低速4輪走行選択スイッチ82がオンとされていない場合よりも低く算出するので、ドライバが悪路走行中にアクセルペダルを踏み込んでも要求トルクが容易に大きくならずに、電動機9の余分な熱の発生を抑えることが出来る。
【0049】
また、実施例1に係る車両1の制御装置は、ドライバは車両1が悪路走行を行う場合等にオフロード走行選択スイッチ81もしくは低速4輪走行選択スイッチ82を操作するので、悪路からの脱出等一時的に大きなトルクを要求されても余裕を持ってトルクを出力することが出来るため、悪路走破性が確保出来る。
【実施例2】
【0050】
図8は、本発明の制御装置を適用した実施例2に係るFR(フロントエンジン・リアドライブ)形式の車両101のパワートレーン111を示す骨子図である。尚、このパワートレーン111を制御する制御装置として、実施例1で用いたECU80を利用することが出来る。よって、本発明の実施例2に係る車両101でも実施例1に係る車両1と同様の効果が得られる。
【0051】
図8に示すように、パワートレーン111は、エンジン102、トランスアクスル128、ドライブシャフト39、40、152、153、駆動輪141、142、154、155を備えており、エンジン102の出力軸であるクランクシャフト102aは、車両101の長手方向に水平に配置されており、車両101の前後方向を回転軸として回転可能とされている。また、クランクシャフト102aの端部には、フライホイール103が備えられている。このフライホイール103には、ダンパ機構112を介してインプットシャフト105が連結されている。そして、ハイブリッドシステムを収容しているケース104の内部には、車両101の前側から順に、インプットシャフト105、発電機106、動力分配機構107、2段変速式の減速機構108、電動機109などが設けられている。
【0052】
発電機106と電動機109は前述した実施例1の発電機6と電動機9と同じく、力行機能と回生機能とを兼ね備えている。そして、発電機106と電動機109はケース104に固定されたステータ113、125と回転自在なロータ114、126とをそれぞれ備えている。
【0053】
発電機106と電動機109との間に設けられた動力分配機構107は、実施例1と同じようにシングルピニオン形式の遊星歯車機構を有している。つまり、この動力分配機構107は、サンギヤ118と、サンギヤ118と同心状に配置されたリングギヤ119と、サンギヤ118及びリングギヤ119に歯合する複数のピニオンギヤ120と、ピニオンギヤ120を保持するキャリヤ121とを備えている。サンギヤ118は中空シャフト117と連結され、キャリヤ121はインプットシャフト105と連結されている。また、インプットシャフト105は中空シャフト117内に配置され、このインプットシャフト105と中空シャフト117とは相対回転可能となっている。
【0054】
クランクシャフト102a、フライホイール103、インプットシャフト105、動力分配機構107は同軸上に配置されている。また、車両101の前後方向(クランクシャフト102aの軸線方向)において、フライホイール103及びダンパ機構112と、動力分配機構107との間に発電機106が配置され、この発電機106のロータ114の内部空間を通過するように、インプットシャフト105が配置されている。前述したように、インプットシャフト105の後端に、キャリヤ121が連結されているため、このキャリヤ121が動力分配機構107における入力要素となっている。また、サンギヤ118に発電機106のロータ114が中空シャフト117を介して回転一体に連結されているため、このサンギヤ118が反力要素となっている。更に、リングギヤ119は後述するアウトプットシャフト143に回転一体に連結されている。
【0055】
減速機構108は、ラビニオ式の遊星歯車機構によって構成されている。つまり、この減速機構108は、フロントサンギヤ144、このフロントサンギヤ144よりも大径のリアサンギヤ145、ロングピニオンギヤ146、ショートピニオンギヤ147、リングギヤ148、ロングピニオンギヤ146とショートピニオンギヤ147とを自転可能に保持するキャリヤ149を備えた構成となっている。
【0056】
フロントサンギヤ144は、その回転を許可または規制する第1ブレーキ(摩擦係合要素)164に連結されている。この第1ブレーキ164としては油圧制御式の摩擦係合装置が用いられている。
【0057】
リアサンギヤ145は、中空シャフト124によって電動機109のロータ126に回転一体に連結されている。
【0058】
ロングピニオンギヤ146は、ショートピニオンギヤ147を介してフロントサンギヤ144に噛み合っている。つまり、ショートピニオンギヤ147は、ロングピニオンギヤ146及びフロントサンギヤ144にそれぞれ噛み合っている。また、このロングピニオンギヤ146は、リアサンギヤ145及びリングギヤ148にそれぞれ噛み合っている。
【0059】
リングギヤ148は、その内周側がロングピニオンギヤ146に噛み合っている一方、このリングギヤ148の回転を許可または規制する第2ブレーキ(摩擦係合要素)165に連結されている。この第2ブレーキ165としても油圧制御式の摩擦係合装置が用いられている。
【0060】
キャリヤ149にはアウトプットシャフト143が回転一体に連結されている。このアウトプットシャフト143は、インプットシャフト105と同軸上に配置されている。また、アウトプットシャフト143の前端は、動力分配機構107のリングギヤ119に回転一体に連結されている。アウトプットシャフト143の外側には中空シャフト124が配置されており、アウトプットシャフト143と中空シャフト124とは相対回転可能となっている。この中空シャフト124と電動機109のロータ126とは回転一体に連結されている。従って、減速機構108は、リヤサンギヤ145が入力要素であり、またキャリヤ149が出力要素となっている。
【0061】
一方、アウトプットシャフト143と、ディファレンシャル138とが、図示しないプロペラシャフトにより連結されている。また、ディファレンシャル138は内部に収容された図示しない差動機構を介してドライブシャフト139、140に連結され、これらドライブシャフト139、140には車輪(駆動輪)141、142が取り付けられている。
【0062】
また、オフロード走行選択スイッチ81もしくは低速4輪走行選択スイッチ82がドライバにより操作されると、車両101は2輪走行から4輪走行に切り換える。2輪走行から4輪走行に切り換える場合は、アウトプットシャフト143からのトルクをトランスファを介して駆動輪154、155に伝達させる。また、オフロード選択スイッチ81もしくは低速4輪走行選択スイッチ82とは別に4輪走行切換スイッチを設けて、4輪走行切換スイッチが操作された場合は発電機106の回転数Nmg1を低下させずに車両101を2輪走行から4輪走行へ切り換えるようにしても良い。
【符号の説明】
【0063】
2:エンジン
6:発電機
8:減速機構
9:電動機
18:サンギヤ(第1要素)
19:リングギヤ(第3要素)
21:キャリヤ(第2要素)
80:ECU(制御装置)
81:オフロード走行選択スイッチ(操作部)
82:低速4輪走行選択スイッチ(操作部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源として機能するエンジン及び電動機と、前記エンジンによって回転駆動される発電機と、エンジン駆動を伴う走行を選択するためにドライバが操作可能な操作部と、第1要素を前記発電機に、第2要素を前記エンジンに、第3要素を前記電動機に連結した電気式差動部とを備える車両の制御装置であって、
前記操作部からの信号に応じて前記エンジンを等出力に維持しつつ前記発電機の回転数を前記操作部が操作されていない非操作時よりも低下させることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両の制御装置であって、
前記制御装置は、ドライバによるアクセルペダルの操作量に応じて要求トルクを算出し、さらに前記操作部からの信号に応じて該要求トルクを該操作部が操作されていない非操作時よりも低く算出することを特徴とする。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両の駆動装置であって、
前記操作部は、車両が悪路走行を行うことを知らせるためのオフロード走行選択スイッチまたは低速4輪走行選択スイッチであることを特徴とする。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−66747(P2012−66747A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214579(P2010−214579)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】