説明

車両の駆動力制御装置

【課題】 容易な適合により、運転者の感性に訴求できる駆動力制御を実現する。
【解決手段】 駆動力制御装置は、人間の感性に関係する特性を調整する機能ブロックであるドライバモデル100と、車両のハードウェア特性を調整する機能ブロックであるパワトレマネージャ200とを含む。ドライバモデル100は、ベース駆動力マップ等を用いてアクセル開度から目標駆動力を算出する目標ベース駆動力算出部(静特性)110と、伝達関数で表わされる過渡特性を用いて目標駆動力から最終目標駆動力を算出する目標過渡特性付加演算部120とを含む。パワトレマネージャ200は、目標エンジントルクとATギヤ段演算部210と車両の応答性を補償する特性補償器220とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと自動変速機とを有するパワートレーンが搭載された車両の制御装置に関し、特に、運転者の要求駆動力に対応する駆動力を出力できる駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者のアクセルペダル操作とは独立にエンジン出力トルクを制御することが可能なエンジンと自動変速機とを備えた車両において、運転者のアクセルペダル操作量や車両の運転条件等に基づいて算出された正負の目標駆動トルクを、エンジントルクと自動変速機の変速ギヤ比で実現する「駆動力制御」という考え方がある。また、「駆動力要求型」や「駆動力ディマンド型」と呼ばれる制御手法もこれに類する。
【0003】
この駆動力制御においては、目標駆動トルクの作成によって車両の動特性を容易に変えることが可能である。しかしながら、加減速時(過渡応答時)には自動変速機の変速ギヤ比の時間的変化に対応したイナーシャトルクだけでなく、車輪速の時間的変化に対応したイナーシャトルクによっても駆動トルクが目標値からずれるので、トルクを補正する必要がある。
【0004】
さらに、スロットル開度と車速とによる変速マップに基づいて変速判断する場合においては、以下に示す問題点がある。車両の駆動源がエンジンである場合、発生トルクはスロットル開度の増加に応じて増加する。このため、運転者の操作により駆動力要求が増大した場合に、スロットル開度を大きくすることにより駆動力の増大を実現することが基本的には可能である。しかしながら、スロットル開度がある程度まで大きくなると、エンジンから発生する駆動力は飽和するという特性を有する。これは、スロットル開度を大きく変化させても駆動力は小さくしか変化しない(増大しない)ことを意味する(線形ではなく非線形性の特性を有することを意味する)。したがって、比較的大きな駆動力がエンジンから発生している状態で、駆動力がわずかに増大するような駆動力要求があっても、スロットル開度が大きく変化する。その結果、スロットル開度が大きく変化して変速マップ上の変速線と交錯して変速が行なわれる。このような場合において、目標駆動トルクと発生トルクとが乖離して、運転者の意図する車両挙動が実現されない。
【0005】
特開2002−87117号公報(特許文献1)は、駆動力の定常目標と過渡目標をエンジントルクと変速比の同調制御により実現する制御仕様とすることで、運転者の要求通りの駆動力を実現でき、動力性および運転性を大幅に改良できる駆動力制御装置を開示する。
【0006】
この公報に開示された駆動力制御装置は、エンジンと変速機を有するパワートレーンにおいて、アクセル操作量を検出するアクセル操作量検出手段と、車速を検出する車速検出手段と、検出されたアクセル操作量と車速から静的な目標駆動力を演算する目標駆動力演算手段と、目標駆動力の変化のパターンを演算する駆動力パターン演算手段と、目標駆動力に基づいてエンジントルク定常目標値を演算し、検出されたアクセル操作量と車速から変速比定常目標値を演算する定常目標値演算手段と、目標駆動力の変化パターンに基づいて、エンジントルク過渡目標値と変速比過渡目標値を演算する過渡目標値演算手段と、エンジントルク定常目標値とエンジントルク過渡目標値を実現する目標エンジントルク実現手段と、変速比定常目標値と変速比過渡目標値を実現する目標変速比実現手段とを備える。
【0007】
この駆動力制御装置によると、走行時、目標駆動力演算手段において、アクセル操作量検出手段により検出されたアクセル操作量と、車速検出手段により検出された車速から静的な目標駆動力が演算され、駆動力パターン演算手段において、目標駆動力の変化のパターンが演算される。そして、定常目標値演算手段において、目標駆動力に基づいてエンジントルク定常目標値が演算され、検出されたアクセル操作量と車速から変速比定常目標値が演算され、過渡目標値演算手段において、目標駆動力の変化パターンに基づいて、エンジントルク過渡目標値と変速比過渡目標値が演算される。そして、目標エンジントルク実現手段において、エンジントルク定常目標値とエンジントルク過渡目標値が実現され、目標変速比実現手段において、変速比定常目標値と変速比過渡目標値が実現される。すなわち、変速機の変速遅れや回転変化に伴うイナーシャトルクの発生を全てエンジントルクによって補償するのではなく、駆動力の定常目標と過渡目標をエンジントルクと変速比の同調制御により実現する制御仕様としている。よって、運転者の要求通りの駆動力を実現でき、動力性・運転性を大幅に改良することができる。
【特許文献1】特開2002−87117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された駆動力制御装置においては、運転者の操作であるアクセル操作量に基づいて静的な目標駆動力を演算して、目標駆動力の変化パターンに車両各部において発生する遅れを加味して過渡特性を算出して目標駆動力を演算する。このため、運転者の操作と車両各部における特性(遅れ特性)とが互いに関連付けられて算出される。このため、運転者の感性に訴求する加速感や減速感を実現するためには車両に発生する加速度の過渡特性を安定して実現させることが必要不可欠である。
【0009】
上述した公報に開示された駆動力制御装置においては、
1)運転者の操作と車両各部における特性(遅れ特性)とが互いに関連付けられているので、運転者の特性に基づく適合が困難である、
2)車両各部における遅れ特性等の動的特性変化(過渡特性変化)の非線形性が大きいので、運転者の要求する目標駆動力を実現することが困難である、
という問題を解決することができない。
【0010】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、容易な適合により、運転者の感性に訴求できる駆動力を実現できる、車両の駆動力制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明に係る車両の駆動力制御装置は、動力源と動力源に接続された変速機とを備える車両の駆動力を制御する。この駆動力制御装置は、運転者の操作に基づいて目標駆動力を設定するための目標駆動力設定手段と、目標駆動力設定手段から出力された目標駆動力に基づいて、動力源および変速機を制御するための制御手段とを含む。この制御手段は、動力源の過渡特性を補償するための補償手段を含む。
【0012】
第1の発明によると、運転者の操作に関連して運転者の訴求する過渡特性に基づいて目標駆動力を設定する機能ブロックである目標駆動力設定手段と、設定された目標駆動力に基づいて動力源および変速機を制御する機能ブロックである制御手段とを別々に設けている。制御手段は、動力源の過渡特性を補償して、入力された目標駆動力を車両のハードウェア特性に影響を受けることなく運転者が訴求する車両に加速度を発生させるように機能する補償手段を設けている。目標駆動力設定手段において運転者の訴求する過渡特性になるように最終目標駆動力を設定することと、制御手段により車両の動特性を補償することとを、別々の機能ブロックで実現したので、運転者の感性や車両に求められる運動性能に対応して最終目標駆動力が設定できる、容易な適合が可能になる。また、そのような最終目標駆動力の過渡特性を発生できるように補償手段により車両のハードウェア特性を補償したので、所望の車両加速度を実現できる。その結果、容易な適合により、運転者の感性に訴求できる駆動力を実現できる、車両の駆動力制御装置を提供することができる。
【0013】
第2の発明に係る車両の駆動力制御装置においては、第1の発明の構成に加えて、目標駆動力設定手段は、運転者の操作に基づいて目標駆動力を設定するための手段と設定された目標駆動力に、過渡特性を付加して最終目標駆動力を設定するための過渡特性付加手段とを含む。設定された最終目標駆動力が制御手段へ出力されるものである。
【0014】
第2の発明によると、たとえば、時間領域における応答特性や伝達関数(2次遅れ+無駄時間)で表わされた過渡特性を用いて、運転者の感性や車両に求められる運動性能に適合させることが容易になる。
【0015】
第3の発明に係る車両の駆動力制御装置においては、第1または2の発明の構成に加えて、過渡特性付加手段は、時間領域における応答特性および伝達関数の少なくともいずれかを用いて、過渡特性を付加して最終目標駆動力を設定するための手段を含む。
【0016】
第3の発明によると、時間領域における応答特性や伝達関数(2次遅れ+無駄時間)で表わされた過渡特性を用いて、運転者の感性や車両に求められる運動性能に適合させることが容易になる。
【0017】
第4の発明に係る車両の駆動力制御装置においては、第3の発明の構成に加えて、過渡特性付加手段は、運転者の感性および車両に求められる運動性能の少なくともいずれかに基づいて過渡特性を調整して、調整された過渡特性を付加して最終目標駆動力を設定するための手段を含む。
【0018】
第4の発明によると、過渡特性を、運転者の感性(緩やかな加速感を訴求、鋭い加速感を訴求)や運動性能(ファミリーカー的なテイスト、スポーツカー的なテイスト)にあわせた適合が容易にできる。
【0019】
第5の発明に係る車両の駆動力制御装置においては、第1〜4のいずれかの発明の構成に加えて、補償手段は、動力源出力に対して発生する車両の加速度の特性モデルを用いて、作成されるものである。
【0020】
第5の発明によると、入力を動力源の一例であるエンジンのスロットル開度として、出力を車両の加速Gとした特性モデルを用いるので、的確に動力源の過渡特性を補償することができる。
【0021】
第6の発明に係る車両の駆動力制御装置においては、第5の発明の構成に加えて、補償手段は、特性モデルを表わす伝達関数の逆関数を用いて作成されるものである。
【0022】
第6の発明によると、入力を動力源の一例であるエンジンのスロットル開度として、出力を車両の加速Gとした特性モデルを表わす伝達関数の逆関数を用いるので、的確に動力源の過渡特性を補償することができる。
【0023】
第7の発明に係る車両の駆動力制御装置は、第1〜6のいずれかの発明の構成に加えて、車両運転情報を検知するための手段と、検知された車両運転情報に基づいて、補償手段を調整するための手段とをさらに含む。
【0024】
第7の発明によると、車両の運転情報として、動力源の一例であるエンジンの回転数、トルクコンバータのタービン回転数、自動変速機の出力軸回転数、車両の車速等に基づいて、補償手段の特性モデルを変更するようにして補償手段を調整するので、的確に動力源の過渡特性を補償することができる。また、このような情報に基づいて予め運転領域毎に特性モデルや特性モデルの伝達関数を準備しておいて、検知された車両運転状態に基づいて運転領域が切り換わると特性モデルや特性モデルの伝達関数を変更するようにしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0026】
図1に、本実施の形態に係る駆動力制御装置の制御ブロック図を示す。この駆動力制御装置は、車両に実装された、CPU(Central Processing Unit)を含むECU(Electronic Control Unit)において、そのCPUで実行されるプログラムにより実現される。
【0027】
図1に示すように、この駆動力制御装置は、最終的に、エンジン300に要求エンジントルクを出力するとともに、ECT(Electronically Controlled automatic Transmission)400に要求ギヤ段を出力する。なお、ECT400は、ベルト式CVT(Continuously Variable Transmission)であってもよく、その場合の出力は、要求ギヤ段ではなく要求ギヤ比になる。
【0028】
以下、図1を参照して、本実施の形態に係る駆動力制御装置の構成について詳しく説明する。なお、以下に示す、マップ、伝達関数、係数、パラメータの種類は一例であって、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0029】
この駆動力制御装置は、ドライバモデル100とパワトレマネージャ200とを含み、ドライバモデル100に含まれる目標過渡特性付加演算部120において車両のハードウェア特性以外の人間の感性に関するチューニングを行ない、パワトレマネージャ200に含まれる特性補償器220において人間の感性以外の車両のハードウェア特性に関するチューニングを行なうようにして、人間の感性と車両のハードウェア特性とを区別していることが特徴である。また、車両のハードウェア特性の非線形性による過渡特性のチューニングを容易にしたことが特徴である。以下、この特徴を含めて、駆動力制御装置について、ドライバモデル100、パワトレマネージャ200の順で説明する。
【0030】
図1に示すように、ドライバモデル100は、目標ベース駆動力算出部(静特性)110と、目標ベース駆動力算出部(静特性)110から出力された目標駆動力に基づいて最終目標駆動力を算出する目標過渡特性負荷演算部120とを含む。
【0031】
目標ベース駆動力算出部(静特性)110は、たとえば、図1のベース駆動力MAP等として示すように、アクセル開度をパラメータとして、車速により目標駆動力が決定されるマップに基づいて目標駆動力を算出する。すなわち、この目標ベース駆動力算出部(静特性)110においては、運転者により操作されたアクセル開度とそのときの車両の速度(車速)とにより目標駆動力が算出されることになる。
【0032】
目標過渡特性負荷演算部120は、上述したように、本発明の特徴的な要素であって、人間の感性の立場に基づいて(車両のハードウェア特性とは切り離して)、どのような過渡特性にするのかを決定する演算を行なう部分である。この目標過渡特性負荷演算部120は、たとえば図1の「目標駆動力過渡特性MAP等」として示すように、時系列で与えられたり、伝達関数(2次遅れ+無駄時間)で与えられたりする。この目標過渡特性負荷演算部120がこのような時系列や伝達関数で与えられることにより(後述する特性補償器が正常に動作していることが前提となるが)、車両のハードウェア特性に依存することなく、目標駆動力過渡特性MAPにおける目標応答性を調整することにより、アクセル開度に対する車両加速度特性(静特性および動特性)をチューニング(カスタマイズ)することが可能になる。以下においては、「目標駆動力過渡特性MAP等」が伝達関数で与えられる場合について説明する。
【0033】
図1に示す伝達関数は、上述したように、2次遅れ要素と無駄時間要素とから構成されている一例である。目標駆動力の変化をステップ状の変化として(アクセルペダルをステップ状に踏込んだ場合等)、時間領域において、この伝達関数により2次遅れ系の過度応答となる。この点からは、要求駆動力に対して2次遅れ系のフィルタが設けられているともいえる。
【0034】
実際の調整(チューニング)の具体例としては、上述した伝達関数における、パラメータωnとパラメータζとをチューニングする。図2に、この伝達関数のステップ応答の波形を示す。パラメータζは、0<ζ<1(不足制振)ではオーバシュートを発生して、パラメータζが小さいほど大きく振動する。ζ>1(過制振)では振動しないでパラメータζが大きくなるに従って、より緩やかに目標値に漸近する。ζ=1(臨海制振)では、振動することなく目標値に収束する。
【0035】
図3に、0<ζ<1(不足制振)の場合の行き過ぎ量Φを示す。図3に示すように不足制振ではオーバシュートとアンダーシュートとを繰り返す振動が発生するので、実際にパラメータζをこの0<ζ<1(不足制振)の領域に設定することができない。そこで、パラメータζについては、以下のような方針に基づいてチューニングすることになる。
【0036】
まろやか感のある加速度変化を運転者が求める場合や、車両のコンセプトとしてファミリーカー的なチューニングが求められ場合には、パラメータζ(>1)は、より大きくなるように調整する、すなわち、図2におけるζ=2.0やζ=4.0の場合に示すように、緩やかな立ち上がりを実現させる。
【0037】
他方、ダイレクト感のある加速度変化を運転者が求める場合や、車両のコンセプトとしてスポーティカー的なチューニングが求められる場合には、パラメータζは限りなく1に近い値であって、1よりも大きい値に調整することになる。すなわち、図2におけるζ=1.0を限界として1に近い値である。ζ=1.0の場合に示すように、速やかな立ち上がりを実現させることができる。
【0038】
次に、パラメータωnのチューニングについて説明する。パラメータωnは、図4に示す2次遅れ系のステップ応答における、時刻t(2)における変曲点に至るまでの応答曲線の形状に影響を与える。パラメータζを1とした場合において、パラメータωnを大きくすると、上述した応答曲線の形状がすぐに直線になり、パラメータωnを小さくすると緩やかに(丸みを帯びて)直線になる。そこで、パラメータωnについては、以下のような方針に基づいてチューニングすることになる。
【0039】
まろやか感のある加速度変化を運転者が求める場合や、車両のコンセプトとしてファミリーカー的なチューニングが求められる場合には、パラメータωnは小さくなるように調整する。すなわち、図4における変曲点近傍において丸みを帯びた緩やかな立ち上がりを実現させる。
【0040】
他方、ダイレクト感のある加速度変化を運転者が求める場合や、車両のコンセプトとしてスポーティカー的なチューニングが求められる場合には、パラメータωnは大きくなるように調整する。すなわち、図4における変曲点近傍において丸みを帯びない速やかな立ち上がりを実現させる。
【0041】
このように、まろやか感のある加速度変化を運転者が求める場合や、車両のコンセプトとしてファミリーカー的なチューニングが求められる場合には、パラメータζ(>1)は大きくなるように、パラメータωnは小さくなるように、それぞれ調整する。ダイレクト感のある加速度変化を運転者が求める場合や、車両のコンセプトとしてスポーティカー的なチューニングが求められる場合には、パラメータζ(>1)を限りなく1に近くなるように、パラメータωnは大きくなるように、それぞれ調整する。なお、これらのパラメータおよびパラメータの調整方法は一例であって、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0042】
上述したように、図1に示すような伝達関数で目標駆動力過渡特性を与えると、適合者が容易に、運転者の感性や車両のコンセプトに容易に合致させることができるチューニングを実現することができる。このように、後述するパワトレマネージャ200の特性補償器220で車両のハードウェア特性(特に非線形特性)に関する補償器を構成して、ドライバモデル100においては、このような車両のハードウェア特性に影響しない人間の感性に影響する因子のみを、車両のハードウェア特性とは別にして調整できるようにしている。
【0043】
次に、パワトレマネージャ200は、目標エンジントルク&ATギヤ段演算部210と、目標エンジントルク&ATギヤ段演算部210から出力された目標エンジントルクに基づいて要求エンジントルクを算出する特性補償器220とを含む。この特性補償器220は、車両に発生する加速度である車両Gの応答性であって、車両のハードウェア特性に依存する部分を補償する。
【0044】
この特性補償器220は、本発明の特徴的な要素であって、人間の感性の立場を切り離して、車両のハードウェア特性であって、特に非線形性の強い部分について、実車または詳細シミュレーションモデルを同定することによって求めたエンジンスロットル開度から車両加速度までの伝達関数の逆関数に基づいて設計される。このような構成とすることにより、車両のハードウェア特性に大きく影響されることなく、アクセル開度−車両加速度特性(静特性、動特性)を一定に保持することができる。これにより、常に、上述した目標過渡特性負荷演算部120と相まって、満足度の高い加速度特性をユーザに提供することができる。
【0045】
さらに、図1に示すように、この特性補償器220においては、目標G(目標エンジントルク)から実G(要求エンジントルク)までのトータルの伝達関数G(s)(スロットル開度→車両Gの動特性モデルの逆関数を含む)が「G(s)=1」になるように設計している。このようにすると、高周波数領域においても(急にアクセル開度が変化した場合においても)、良好な応答性を維持することができる。なお、スロットル開度→車両Gの動特性モデルは、エンジン、トルクコンバータ、車両の動特性モデルに基づいて作成されるものである。
【0046】
なお、このトータルな伝達関数G(s)においては、運転領域を複数の領域に分けて、それぞれの領域毎に部分線形化する等により、スロットル開度→車両Gの動特性モデルの逆関数が算出できるようにするようにしてもよい。さらに、この特性補償器220は、車両運転状態情報(エンジン回転数Ne、タービン回転数Nt、出力軸回転数No、車速)でその特性を変化させたり切り替えたりするようにしてもよい。このようにすると、動特性モデル自体を変更するような効果がある。
【0047】
図1に示すように、目標過渡特性付加演算部120をパワトレマネージャ200よりも前に出して、このパワトレマネージャ200を目標過渡特性付加演算部120とは別の機能ブロックとした。目標過渡特性付加演算部120を人間の感性とは関係がある部分のみを処理する機能ブロックとして構成するとともに、パワトレマネージャ200を車両のハードウェア特性に依存する部分のみを処理する機能ブロックとして構成した。
【0048】
以上のようにして、本実施の形態に係る駆動力制御装置においては、人間の感性や車両のコンセプトに関係する感性に影響を与える機能ブロック(目標過渡特性付加演算部)と、車両のハードウェア特性に影響を与える機能ブロック(特性補償器)とに分けて構成した。目標過渡特性付加演算部においては、目標駆動力から最終目標駆動力への伝達関数を適合者が感覚的にチューニングしやすい、たとえば、2次遅れ+無駄時間の伝達関数で表わすようにした。これにより、アクセルペダルをステップ状に踏んでからの立ち上がり特性等の時間領域における過渡特性を調整することが容易になった。また、特性補償器においては、スロットル開度から車両Gの動特性モデルの逆関数を含むトータルの伝達関数G(s)についてG(s)=1として規定することにより、非線形性を排除して目標エンジントルクから要求エンジントルクを算出できるようにした。この結果、人間の感性に関するチューニングを適合者が容易に実行できるとともに、非線形性の制御特性を有する車両のハードウェア特性に関わらずハードウェア特性を補償することができるようになる。
【0049】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態に係る制御装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】過渡応答の一例を示す図(その1)である。
【図3】過渡応答の一例を示す図(その2)である。
【図4】過渡応答の一例を示す図(その3)である。
【符号の説明】
【0051】
100 ドライバモデル、110 目標ベース駆動力算出部(静特性)、120 目標過渡特性負荷演算部、200 パワトレマネージャ、210 目標エンジントルク&ATギヤ段演算部、220 特性補償器、300 エンジン、400 ECT。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源と前記動力源に接続された変速機とを備える車両の駆動力制御装置であって、
運転者の操作に基づいて目標駆動力を設定するための目標駆動力設定手段と、
前記目標駆動力設定手段から出力された目標駆動力に基づいて、前記動力源および前記変速機を制御するための制御手段とを含み、
前記制御手段は、前記動力源の過渡特性を補償するための補償手段を含む、車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記目標駆動力設定手段は、
前記運転者の操作に基づいて目標駆動力を設定するための手段と
前記設定された目標駆動力に、過渡特性を付加して最終目標駆動力を設定するための過渡特性付加手段とを含み、
前記最終目標駆動力が前記制御手段へ出力される、請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記過渡特性付加手段は、時間領域における応答特性および伝達関数の少なくともいずれかを用いて、前記過渡特性を付加して最終目標駆動力を設定するための手段を含む、請求項1または2に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項4】
前記過渡特性付加手段は、運転者の感性および車両に求められる運動性能の少なくともいずれかに基づいて過渡特性を調整して、調整された過渡特性を付加して最終目標駆動力を設定するための手段を含む、請求項3に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項5】
前記補償手段は、動力源出力に対して発生する車両の加速度の特性モデルを用いて、作成される、請求項1〜4のいずれかに記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項6】
前記補償手段は、前記特性モデルを表わす伝達関数の逆関数を用いて作成される、請求項5に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項7】
前記駆動力制御装置は、
車両運転情報を検知するための手段と、
前記検知された前記車両運転情報に基づいて、前記補償手段を調整するための手段とをさらに含む、請求項1〜6のいずれかに記載の車両の駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−290235(P2006−290235A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115804(P2005−115804)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】