説明

車両の駆動力制御装置

【課題】加速性を向上させるとともにドライバビリティを向上することのできる過給機付き内燃機関と変速機とを有する駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】前記過給作動開始時間算出手段(ステップS3)で算出される過給作動開始タイミングが、前記変速終了時間算出手段(ステップS5)で算出される変速終了タイミングより時間的に遅れる場合、前記過給作動開始タイミングと前記変速終了タイミングとが時間的にほぼ一致するように変速終了タイミングを遅延するように変速機7の変速制御を行う手段(ステップS7)を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンなどの内燃機関の制御装置に関し、特に過給機を備えた内燃機関とその出力側に連結された変速機とを制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関および変速機を搭載した車両を加速させる場合、内燃機関に対する吸入空気量および燃料供給量を増大させてその出力を増大させ、また必要に応じて変速機での変速比を大きくするダウンシフトを実行することにより、駆動輪でのトルクすなわち駆動トルクを増大させている。したがって車両の加速性能を向上させるためには、内燃機関の出力を迅速に増大させ、かつ変速比を迅速に大きくすればよいが、例えば過給機を備えている内燃機関では、過給圧の上昇に不可避的な遅れがあり、また変速比を増大させれば、内燃機関などの回転部材の回転数の変化に伴う慣性力が大きくなって変速比の迅速な増大がそのまま駆動トルクの増大にはならない場合がある。さらに、内燃機関の出力を増大させるべく燃料の供給量(負荷)を増大させると、燃焼が適正に生じずに、スモークが発生するなどのこともある。
【0003】
上述した過給圧の上昇の不可避的な遅れは、排気ターボ過給機を備えたエンジンにおける、アクセルペダルを踏込んでから排気ガス量が増加して過給機の回転数が増大するまでの間に過渡状態が生じると速やかな加速ができなくなる現象とほぼ同一で、ターボラグと称する。このターボラグを検出してアクセルペダルの踏込み状態に応じた速やかな加速を行うために、備えられた制御手段からシフトダウン信号が出力され、自動変速機がシフトダウンして出力トルクを増大させる自動変速機の制御装置が特許文献1に記載されている。
【0004】
また、過給機による過給圧の上昇の過渡状態から収束状態までに応じて、変速線図上の変速線の位置を決定する自動変速機の制御装置が特許文献2に記載されている。この自動変速機の制御装置では、高速用と低速用との2種類のアップシフト線図および高速用と低速用との2種類のダウンシフト線図が用意されており、アクセル操作の踏込みが速い場合と遅い場合に応じてアップシフト線図とダウンシフト線図を選択するようになっている。また、この自動変速機が連結されるエンジンは、吸気系に過給装置が取り付けられており、上述の過給状態に応じて変速線を設定する。その設定方法により、車両の加速応答性および燃費を向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−228742号公報
【特許文献2】特開2006−138391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
運転者がアクセル操作を行って急な加速を要求する場合、必要な駆動トルクを得るために不要な慣性力を伴わない範囲で変速比を大きくして、その後にエンジンなどの内燃機関の吸気系に備えられた過給機により過給を行って、駆動輪側に伝達される駆動トルクを増大させる。この際、前述の過給圧の上昇に不可避的な遅れがあることから、変速比を大きくした後に、実際の過給圧の上昇するまでに時間が空いてしまう。つまり変速機による変速が終了した後、しばらくして過給圧の上昇による内燃機関の出力が増大する。
【0007】
これにより、図4に示すように車両が走行する際の駆動トルクの変化曲線において、変速による駆動トルク増大と過給による駆動トルク増大とが滑らかにつながらず、すなわち変速による駆動トルクの変化曲線部分の上昇と過給による駆動トルクの変化曲線部分の上昇とが段階的に行われてしまう。さらに言えば、駆動トルクの変化曲線において変速によるトルク曲線部分に極大値が表れて、一旦駆動トルクの上昇が安定状態になろうとした後に、過給圧の上昇によるトルク曲線部分に極大値が表れてしまう。このような現象を一般に2段加速と言って、この2段加速によって駆動トルクが安定せずにスムーズな加速が行われず、ドライバビリティが低下してしまう。
【0008】
上記の公報に記載された発明は、ターボラグが発生した場合であっても速やかな加速を実現するために、そのターボラグが発生している間の加速のための駆動トルクの増大を自動変速機のシフトダウンにより補うことや過給機の過渡状態にある場合に自動変速機の制御のための変速線図を適宜設定すること等に関して考慮しているものの、上述した駆動トルクが不安定に上昇する2段加速の要因を考慮した制御をおこなうようには構成されていない。そのため、上記の公報に記載された発明では、自動変速機と過給機とをより効果的に使用した制御が充分にはおこなわれず、その点で改良の余地があった。
【0009】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであり、加速性を向上させるとともにドライバビリティを向上することのできる過給機付き内燃機関と変速機とを有する駆動力制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、運転者による加速指示に応じて内燃機関に連結された変速機によりダウンシフトが行われるとともに、前記内燃機関の吸気系に取り付けられた過給機により過給が行われる車両の駆動力制御装置において、運転者による加速の指示を判断する加速指示判断手段と、加速の指示に伴って前記過給機による過給が行われるか否かを判断する過給要否判断手段と、前記過給要否判断手段により過給が行われると判断された場合、過給が作動開始する時間を算出する過給作動開始時間算出手段と、加速のためにダウンシフトが行われるか否かを判断するダウンシフト要否判断手段と、前記ダウンシフト要否判断手段によりダウンシフトが行われると判断された場合、変速が終了するまでの時間を算出する変速終了時間算出手段と、前記過給作動開始時間算出手段で算出される過給作動開始タイミングが、前記変速終了時間算出手段で算出される変速終了タイミングより時間的に遅れる場合、前記過給作動開始タイミングと前記変速終了タイミングとが時間的にほぼ一致するように変速終了タイミングを遅延するように変速機の変速制御を行う手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記過給作動時間算出手段は、前記過給機による過給の過給作動開始タイミングを、前記内燃機関の回転数と負荷トルクとからマッピングされる応答性マップにより算出されることを含むものである。
【0012】
上記の目的を達成するために、請求項3の発明は、運転者による加速指示に応じて内燃機関に連結された変速機によりダウンシフトが行われるとともに、前記内燃機関の吸気系に取り付けられた過給機により過給が行われる車両の駆動力制御装置において、前記過給機による過給作動開始タイミングが、前記変速機による変速終了タイミングより時間的に遅れる場合、前記過給作動開始タイミングと前記変速終了タイミングとが時間的にほぼ一致するように変速機の変速制御を行う手段を備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、内燃機関と内燃機関に連結された変速機と内燃機関の吸気系に取り付けられた過給機とを備えた車両において、運転者の加速指示があって、変速機によるダウンシフトと過給機による過給とを行うことが判断された場合に、過給機による過給動作の不可避的な時間の遅れが発生する場合であっても、変速機による変速を過給作動開始タイミングと時間的にほぼ一致するように変速終了タイミングを遅延させることができる。これにより、上記のいわゆる2段加速などの加速状態が不安定になることが解消され、車両の挙動の安定性を確保できることから、ドライバビリティを向上することができる。また、不安定な加速によるプロペラシャフト、ドライブシャフト等の出力軸に作用するトルクの増減も抑制するため、プロペラシャフト、ドライブシャフト等の出力軸の耐久性を向上させることができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、内燃機関の回転数と負荷トルクとから過給機の作動状況を把握して過給作動開始タイミングを算出することができる。算出された過給作動開始タイミングから、前記変速終了タイミングを遅延する時間的量を算出することができ、算出されたその変速終了タイミングによって2段加速などが発生しないように車両の加速を制御できる。
【0015】
請求項3の発明によれば、内燃機関と内燃機関に連結された変速機と内燃機関の吸気系に取り付けられた過給機とを備えた車両において、運転者の加速指示があって、変速機によるダウンシフトと過給機による過給とを行うことが判断された場合に、過給機による過給動作の不可避的な時間の遅れが発生する場合であっても、変速機による変速を過給作動開始タイミングと時間的にほぼ一致するように変速終了タイミングを遅延させることができる。これにより、上記のいわゆる2段加速などの加速状態が不安定になることが解消され、車両の挙動の安定性を確保できることから、ドライバビリティを向上することができる。また、不安定な加速によるプロペラシャフト、ドライブシャフト等の出力軸に作用するトルクの増減も抑制するため、プロペラシャフト、ドライブシャフト等の出力軸の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の車両の駆動力制御装置における制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図2】この発明の車両の駆動力制御装置の具体例を示すスケルトン図である。
【図3】この発明の車両の駆動力制御装置で制御を行った場合のアクセル開度、ギア段判定、変速実行中フラグ、過給作動判定、ドライブシャフトトルクのそれぞれの時間的変化を示すタイムチャートである。
【図4】従来技術の車両の駆動力制御装置で制御を行った場合のアクセル開度、ギア段判定、変速実行中フラグ、過給作動判定、ドライブシャフトトルクのそれぞれの時間的変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の車両の駆動力制御装置を具体例に基づいて図2を参照して説明する。符号1は、この発明の車両の駆動力制御装置を示している。この車両の駆動力制御装置1で対象とする車両は、動力源となる内燃機関2と内燃機関2からの駆動トルクを車輪3に伝動するパワートレインとを主体的な車両を走行させる構成要素として備えている。この内燃機関2は、車両外部などから供給される空気と供給される燃料とが内燃機関2の燃焼室内で燃焼することによるピストンの往復運動を原動力とし、回転運動に変換して車両に駆動トルクを供給する。また、ピストンの往復運動は、内燃機関2の燃焼室内で空気と燃料との混合気を圧縮させて燃焼が行われたエネルギーがピストンに伝えられて、コンロッドを介して内燃機関2に駆動可能に設けられ、内燃機関2の出力軸に連結されたクランクシャフトを回転動作させることで駆動トルクを出力する。
【0018】
この内燃機関2に送られる空気の吸入は、内燃機関2のシリンダ内をピストンが下死点に向かう際の負圧などにより行われる。また、この燃焼室に送られる空気の吸気量は、運転者のアクセルペダル4の操作量などから、スロットル5のスロットル開度量が設定されて増減可能である。例えば運転者の加速要求があった場合に吸気量を増やす動作が行われる。一方、内燃機関2内で燃焼した後のガスの排気は、シリンダ内のピストンが上死点に向かう際の圧力により押し出される。また、この排気ガスの排気流を利用して、吸気量を増大させる後述するターボチャージャーなどの過給機6が備えられている。
【0019】
この内燃機関2から出力される駆動トルクは、車両内に備えられたパワートレインを介して、車輪3に駆動力を与える。このように車輪3に駆動力を与える際に、内燃機関2の駆動力をそのまま、もしくは一定の変速比で車輪3に伝えたのでは、運転者の要求する車速や加速力、駆動トルクを得ることができない。そのため、内燃機関2から車輪3の間に設けられたパワートレインは自動変速機7を備えている。なお、このような変速機7には、その変速比が段階的に変化する有段変速機と無段階に変化する無段変速機とがある。この変速機7は、内燃機関2から出力トルクをトルクコンバータやクラッチなどを介して、その入力軸に伝動される。変速機7内で変速された動力は、変速機7の出力軸からプロペラシャフトやドライブシャフトなどを介して車輪3に駆動力を伝動する。
【0020】
この変速機7により、変速比を変化させて、内燃機関2のトルク特性のままでは得られない車両の駆動力を得ることができる。たとえば運転者から加速指示があった場合に駆動力を得るために、変速比を大きくさせて、車両の加速要求に対してトルクを増大させることができる。また、変速機7によって変速比を調整して内燃機関2にかかる負担を減じて燃費の向上などをはかることもできる。
【0021】
一方、車両の加速要求に対して大きな駆動力を得るためには、上記のように変速機7により変速比を大きくする以外に内燃機関2に通常の吸気のみではなく過給によって燃焼室内に送り込む空気を増量させて内燃機関2の出力トルクを増大させる場合がある。この過給を行う装置すなわち前述の過給機6は、一般的にその作動原理によりクランクシャフトから直接、もしくはジェネレータなどを介して間接的に動力を得るスーパーチャージャーと内燃機関の排気から排気側タービンなどを介して動力を得るターボチャージャーとの2種類に大別される。
【0022】
本発明における過給機6はターボチャージャーであり、内燃機関2からの排気を排気管にバイパスされた管路に回転自在に設けられたタービンを排気流により回転させてその動力を得る。タービンに連結された回転軸を介して吸気側に設けられて吸気管にバイパスされた管路に回転自在に設けられたタービンが回転されることにより、吸気管内の吸気圧が増大して通常の吸気よりも空気を燃焼室に送ることができる。過給により燃焼に送られる空気が増えることから、内燃機関2において、より高エネルギーの燃焼を発生させて駆動トルクを増大させることができる。
【0023】
このように過給機(ターボチャージャー)6の作動が行われることから、その動作に時間的な遅れが発生する。内燃機関2の回転数が低く排気ガスの量が少ないと充分な過給効率を得ることができない。また、加速しようとして運転者がアクセルペダル4を一気に踏み込んでも、排気ガスの量が増えるまでには時間的な遅れがある。このように過給機(ターボチャージャー)6では、動作開始時期(タイミング)に不可避的な遅れが発生することから、加速指示するためのアクセルペダル4の操作に対して出力上昇が遅れて始まる。こうした過給効果の時間的な遅れはターボラグと呼ばれる。一方、過給機の一種であるクランクシャフトなどから動力を得るスーパーチャージャーは、その作動原理から動作開始時期を制御するのが容易であり、加速要求に対する変速機の変速終了タイミングに合わせることが容易であり、本発明における課題が発生しないことから、その過給機6の対象としない。また、本発明において、実施例では過給機6をターボチャージャー6とするが、過給の作動の制御が容易でない過給機を対象としている。
【0024】
上記のように内燃機関2の出力側に設けられた変速機7と内燃機関2の吸気系に設けられた過給機6とにより、運転者のアクセル操作などから加速が車両に対して指示される場合、たとえば応答性のよい変速機7がまず最初に変速比を大きくして減速(ダウンシフト)する動作を開始する。変速比の変速が完了すると同時に過給機6による内燃機関2に対する過給が行われる。この過給機6による過給は、その作動開始時期(タイミング)を内燃機関2の回転数と負荷トルクとからマッピングされる応答性マップなどにより知ることは可能であるが、内燃機関2の状態などに依存して動作することにより、その開始時期を自在に制御することが難しい。
【0025】
そのため、変速機7による減速と過給機6による過給とを連動させて要求加速に必要な駆動トルクを得る場合、変速機7による減速から得られる駆動トルクが発生されたのち、過給機6による過給から得られて駆動トルクが発生する際に、2つの間に時間的間隔が生じると電子制御装置(ECU)8などで総合的に判断されると、前述の2段加速などが発生するため、その補正が行われる。この補正を行う際に前述のとおり過給機6による過給作動開始時期(タイミング)を時間的にずらして、変速機7による変速終了時期(タイミング)に合わせることが困難であることから、変速機7による変速終了時期(タイミング)を過給機6による過給作動開始時期(タイミング)に合わせる。
【0026】
以下、上述したこの発明の車両の駆動力制御装置1における制御について図1に示すフローチャートもしくは図3の線図を参照して説明する。また、以下に示すフローチャートによる制御は、記憶装置および演算処理回路、入出力インターフェースなどが主体的な構成要素である電子制御装置(ECU)8内により行う。先ず、ステップS1において、車両内の各部位に設けられた車輪3の車輪速センサ、内燃機関2の回転数センサ、アクセルペダル4のアクセル開度センサ、スロットル5のスロットルセンサなどの各種センサから送られる各信号を車両に設けられた電子制御装置(ECU)8が受信して、車速,内燃機関2の回転数,アクセル開度,スロットル開度などの数値がECUの記憶装置9に読み込まれる。
【0027】
次にステップS2において、ECUの記憶装置9に読み込まれた数値から運転者の加速指示があると判断されて、過給機6による過給が非作動の状態から作動状態に移行するか否かが判断される。ステップS2で否定的に判断された場合、すなわち過給機6による過給が非作動の状態で維持するように判断された場合、過給は行われないためリターンされる。ステップS2で肯定的に判断された場合、すなわち運転者の加速指示から車両の加速の際に過給機6による過給を作動状態に移行すると判断された場合、過給機6による過給作動開始時間を算出する(ステップS3)。その際、過給作動開始タイミングを、内燃機関2の回転数と負荷トルクとからマッピングされる応答性マップにより算出を行う。この応答性マップは、ECUの記憶装置9に記憶されおり、適宜書き換え可能である。また、過給作動開始時間の算出はECU8の演算処理回路で行われる。
【0028】
ついでステップS4において、ECUの記憶装置9に読み込まれた数値から運転者の加速指示があると判断された際に過給機6による過給とともに変速機7によるダウンシフトを行うか否かが判断される。ステップS4で否定的に判断された場合、すなわち変速機7によるダウンシフトをしないと判断された場合、過給機6による過給を伴うダウンシフトは実行されないためリターンされる。ステップS4で肯定的に判断された場合、すなわち過給機6による過給を伴うダウンシフトが実行される場合、ECU8においてその記憶装置に記憶された各諸条件によりマッピングされた、変速機7による変速を開始してから終了するまでの目標時間を示すマップより、変速機7による変速時間すなわちダウンシフトを開始してから終了するまでの時間すなわち変速時間が算出される(ステップS5)。
【0029】
そしてステップS6において、ECU8によりステップS3で過給作動開始時間を算出した際に求められる過給作動開始時期(タイミング)がステップS5で変速時間を算出した際に求められる変速終了時期(タイミング)より時間的に遅れるか否かが判断される。ステップS6で否定的に判断された場合、すなわち過給作動開始タイミングが変速終了タイミングより早く、過給機6によって変速の終了時期よりも時間的に早く過給が作動開始される場合、そのままでも前述のいわゆる2段加速などの車両の挙動を不安定にさせる駆動トルクの発生が起こりにくいため、そのままリターンされる。
【0030】
ステップS6において、肯定的に判断された場合、すなわち過給作動開始タイミングが変速終了タイミングより遅く、過給機6によって変速の終了時期よりも時間的に遅く過給が作動開始される場合、変速機7によるダウンシフトで発生する駆動トルクの増大が発生した後、タイムラグがあって過給機6による過給で発生する駆動トルクの増大が発生する。これにより前述のいわゆる2段加速の状態になってしまい、車両の挙動が不安定になってしまうため、図3のドライブシャフトトルク(駆動トルク)曲線に示すような曲線を描くように次のステップS7の制御がECU8により指令される。
【0031】
ステップS7において実行される制御は、上述の過給作動開始タイミングと変速終了タイミングとが一致するように変速開始タイミングを遅延する制御を行う。以下、図3を参照してステップS7の制御について説明する。運転車がアクセルペダル4を操作して加速指示が行われると、図3に示すようにアクセル開度が急激に上昇すると、ほぼ同じ時点でギヤ段判定が高ギヤ段側から低ギヤ段側に移行するようにECU8などで設定される。そして、変速実行中フラグが矢印の方向にずらされる(もしくは移行する)制御すなわちダウンシフト開始タイミングを遅らせて、過給作動開始タイミングと同時に変速機7による変速が終了する制御が行われる。つまり、過給作動判定の線図の過給作動開始タイミングと変速実行中フラグの線図の変速終了タイミングとほぼ同じタイミングとなる。
【0032】
以上の制御により、図3に示すように変速機7による変速(ダウンシフト)が開始されるや否やダウンシフトされたことによりドライブシャフトトルクが増大する。そしてこのダウンシフトによるドライブシャフトトルクの増大が完了すると同時に、そのトルク変動が滑らかにつなげられるように過給機による過給が実行されてドライブシャフトトルクがさらに増大する。つまり言い換えると、図3のドライブシャフトトルク曲線において、ダウンシフトによる増加分と過給作動による増加分とが時間的な間隔を空けて発生しない、つまり、変速機7のダウンシフトによるトルク増大分の極大値と過給機6の過給によるトルク増大分の極大値とが発生しないことから、前述の2段加速などの車両の挙動を不安定にさせる駆動トルクの発生を抑制でき、ドライバビリティを向上することができる。また、不安定な加速によるプロペラシャフト、ドライブシャフト等の出力軸に作用するトルクの増減も抑制するため、プロペラシャフト、ドライブシャフト等の出力軸の耐久性を向上させることができる。
【0033】
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、図1のフローチャートのステップS2の制御を実行する機能的手段が、この発明の過給作動開始時間算出手段に相当し、また図1のフローチャートのステップS5の制御を実行する機能的手段が、この発明の変速終了時間算出手段に相当する。さらに、図1のフローチャートのステップS7の制御を実行する機能的手段が、この発明の前記過給作動開始タイミングと前記変速終了タイミングとが時間的にほぼ一致するように変速終了タイミングを遅延するように変速機7の変速制御を行う手段に相当する。
【符号の説明】
【0034】
7…変速機、 8…電子制御装置(ECU)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者による加速指示に応じて内燃機関に連結された変速機によりダウンシフトが行われるとともに、前記内燃機関の吸気系に取り付けられた過給機により過給が行われる車両の駆動力制御装置において、
運転者による加速の指示を判断する加速指示判断手段と、
加速の指示に伴って前記過給機による過給が行われるか否かを判断する過給要否判断手段と、
前記過給要否判断手段により過給が行われると判断された場合、過給が作動開始する時間を算出する過給作動開始時間算出手段と、
加速のためにダウンシフトが行われるか否かを判断するダウンシフト要否判断手段と、
前記ダウンシフト要否判断手段によりダウンシフトが行われると判断された場合、変速が終了するまでの時間を算出する変速終了時間算出手段と、
前記過給作動開始時間算出手段で算出される過給作動開始タイミングが、前記変速終了時間算出手段で算出される変速終了タイミングより時間的に遅れる場合、前記過給作動開始タイミングと前記変速終了タイミングとが時間的にほぼ一致するように変速終了タイミングを遅延するように変速機の変速制御を行う手段とを備えていることを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記過給作動時間算出手段は、前記過給機による過給の過給作動開始タイミングを、前記内燃機関の回転数と負荷トルクとからマッピングされる応答性マップにより算出されることを含む請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
運転者による加速指示に応じて内燃機関に連結された変速機によりダウンシフトが行われるとともに、前記内燃機関の吸気系に取り付けられた過給機により過給が行われる車両の駆動力制御装置において、
前記過給機による過給作動開始タイミングが、前記変速機による変速終了タイミングより時間的に遅れる場合、前記過給作動開始タイミングと前記変速終了タイミングとが時間的にほぼ一致するように変速機の変速制御を行う手段を備えていることを特徴とする車両の駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−255586(P2010−255586A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108887(P2009−108887)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】