説明

車両制御システム

【課題】 車両挙動を制御する際、汎用性が高く、運転性を確保可能な車両制御システムを提供すること。
【解決手段】 車両制御システムにおいて、前輪操舵ユニットと後輪操舵ユニットとを高速通信手段により接続し、複数の車載ユニットと操舵角センサを低速通信手段により接続し、前輪操舵ユニットもしくは後輪操舵ユニットの少なくともいずれか一方を低速通信手段に接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システムに関し、特に所望の車両特性を得る車両挙動制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前輪の舵角比、もしくは後輪の舵角を制御することで、所望の車両特性を得るように制御する舵角制御手段を備えた車両の技術が種々提案されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−249980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら特許文献1の技術にあっては、前輪舵角比制御システムと後輪舵角制御システムを共に車両に搭載する場合、どちらも車両挙動に影響を与える制御であるため、相互のアクチュエーションを常に監視しながら制御する必要がある。このとき、一般に車両に搭載された複数のコントローラが接続された通信システム(例えばCAN通信等)に、それぞれのコントロールユニットを接続すると、通信速度不足やバス負荷の増大により、十分な制御性を確保できない虞がある。
【0004】
また、前述の両システムのコントロールユニットを一体構成とすることも考えられるが、前輪舵角比制御システムのみ採用する車両や、後輪舵角制御システムのみ採用する車両等が存在することを考えると、専用のコントローラを別途設計しなければならず、汎用性及びコスト面からもメリットが低い。
【0005】
そこで、全体の通信速度を上昇させることが考えられるが、外乱等の影響を排除するために有る程度各種情報をフィルタリングし、耐フェール性を確保する必要があるため、全てのコントローラの通信速度を上昇させることは困難であった。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、車両挙動を制御する際、汎用性が高く、運転性を確保可能な車両制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明では、運転者の操舵角を検出する操舵角センサと、前記操舵角センサにより検出された操舵角に基づいて目標前輪舵角及び目標後輪舵角を生成する目標値生成手段と、前輪舵角が前記目標前輪舵角となるように前輪アクチュエータとの間でフィードバック制御する前輪コントローラを有する前輪操舵ユニットと、後輪舵角が前記目標後輪舵角となるように後輪アクチュエータとの間でフィードバック制御する後輪コントローラを有する後輪操舵ユニットと、他の制御コントローラを有する複数の車載ユニットと、を備え、前記前輪操舵ユニットと前記後輪操舵ユニットとを高速通信手段により接続し、前記複数の車載ユニットと前記操舵角センサを低速通信手段により接続し、前記前輪操舵ユニットもしくは前記後輪操舵ユニットの少なくともいずれか一方を前記低速通信手段に接続した。
【発明の効果】
【0008】
よって、車両の挙動に影響を与える車載ユニットのみを高速通信手段に接続することで、全体の通信速度を上昇させることなく車両挙動を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の車両制御システムを実現する最良の形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
[車両制御システムの構成]
図1は実施例1の車両制御システムを表すシステム構成図である。実施例1の車両には、エンジンを制御するエンジンコントローラ(以下、ECUと記載)1と、自動変速機を制御する自動変速機コントローラ(以下、ATCUと記載)2と、各種メータ類を制御するメータコントローラ(以下、MCUと記載)3と、運転者の操舵角を検出する操舵角センサ7と、車両の挙動(ヨーレイト・横加速度・前後加速度等)を検出する一体型センサ8が搭載されている。
【0011】
操舵角センサ7内には、角度変化に応じて検出される電気信号を角度信号として出力するコントローラ7aが設けられ、ノイズ成分等を除去した値が所定周期毎(例えば10msec毎)に出力される。また、一体型センサ8内には、車両の挙動変化に応じて検出される電気信号をヨーレイト信号、横加速度信号、前後加速度信号として出力するコントローラ8aが設けられ、ノイズ成分等を除去した値が所定周期毎(例えば5msec毎)に出力される。
【0012】
また、運転者の操舵角に対して前輪4aの舵角を加算・減算制御可能な前輪操舵ユニット40と、後輪5aの舵角を制御可能な後輪操舵ユニット50と、各車輪4a,5aの制動力を走行状態に応じて独立に制御可能なブレーキユニット60が搭載されている。
【0013】
前輪操舵ユニット40は、前輪コントローラ4と、この前輪コントローラ4の指令に基づいて作動する前輪アクチュエータ41から構成され、車両前方のインストルメントパネル下方に配置されている。後輪操舵ユニット50は、後輪コントローラ5と、この後輪コントローラ5の指令に基づいて作動する後輪アクチュエータ51から構成され、車両後方の後輪近傍に配置されている。ブレーキユニット60は、ブレーキコントローラ6と、このブレーキコントローラ6の指令に基づいて作動するブレーキアクチュエータ61から構成され、エンジンルーム内に配置されている。
【0014】
ECU1,ATCU2,MCU3,操舵角センサ7,ブレーキコントローラ6及び後輪コントローラ5には、低速通信制御ポートが設けられ、低速CAN通信線100(低速通信手段に相当)により接続されている。この低速CAN通信線100の通信速度は、10msec毎に各コントローラから出力されるデータを送受信可能に構成されている。
【0015】
尚、CAN通信とは、2本の通信線にハイ信号とロー信号の組み合わせを出力し、これらの信号の偏差からbit信号を送受信するものである。よって、外乱等により信号が乱れたとしても、2本の通信線に同時に外乱が発生するため、偏差を取ることで安定したbit信号を送受することができる。また、この通信線内には、各コントローラから出力されたセンサ信号等が一定周期、または某かのイベント発生毎に出力され、必要なコントローラのみが必要な情報を受け取るように構成されている。
【0016】
前輪コントローラ4,後輪コントローラ5,ブレーキコントローラ6及び一体型センサ8には、高速通信制御ポートが設けられ、高速CAN通信線200(高速通信手段に相当)により接続されている。この高速CAN通信線200の通信速度は、1msec毎に各コントローラから出力されるデータを送受信可能に構成されている。尚、低速CAN通信線100を介した通信では、単位時間内に送受信可能なデータ量が少なく、高速CAN通信線200を介した通信では、単位時間内に送受信可能なデータ量が多いことを表す。
【0017】
尚、上述したように、ブレーキコントローラ6及び後輪コントローラ5には、高速通信制御ポートと低速通信制御ポートの両方が設けられ、高速CAN通信線200と低速CAN通信線100の両方に接続されている。
【0018】
〔4輪アクティブステアシステム〕
図2は、4輪アクティブステアシステムの構成を表すシステム図である。実施例1の車両には、ある車速で運転者がある操舵角を発生させた場合には、操舵フィーリングや車両特性としてこの程度のヨーレイトと横加速度を達成するのが最適であるという理論に基づき、前後輪に補助舵角が付与される4輪アクティブステアシステムが搭載されている。すなわち、ヨーレイトセンサや横加速度センサ等によるフィードバック制御系では、運転者の操舵意図を反映したものではなく、実際に発生した車両挙動に基づいて制御を開始するため、応答遅れを生じると共に、運転者の操舵意図に沿った最適な車両特性を得られない。そこで、操舵角と車速に対しフィードフォワード制御によって車両挙動が発生する前に前後輪補助舵角が設定され、素早い応答を確保している。
【0019】
(前輪操舵ユニットの構成について)
前輪アクチュエータ41は、ステアリングホイールとラック&ピニオン機構との間のステアリングシャフト上に設けられている。ステアリングシャフトはステアリングホイールに接続された第1ステアリングシャフトと、ピニオンに接続された第2ステアリングシャフトから構成され、前輪側モータ42の駆動により、第1ステアリングシャフトの回転角に対する第2ステアリングシャフトの回転角を加減算可能に制御する。尚、この前輪アクチュエータは周知の技術であるため、説明を省略する。
【0020】
前輪側モータ42には、前輪側モータ42の回転角を検出する前輪側回転角センサ43が設けられ、前輪コントローラ4に出力される。前輪コントローラ4内には、目標舵角に対する前輪側モータ42の駆動量を演算する演算部401と、前輪側モータ42の制御量を前輪側回転角センサ43の検出値に基づいてフィードバック制御するサーボ制御部402と、前輪側モータ42に対して電流値を出力する前輪側ドライバ部403が設けられている。
【0021】
(後輪操舵ユニットの構成について)
後輪アクチュエータ51は、左右後輪5aの間に設けられている。左右後輪5aは平行リンクにより連結され、このリンクの一辺を後輪側モータ51により車幅方向に移動させると、平行リンクの弾性変形によって後輪5aに舵角が発生する。尚、この後輪アクチュエータは周知の技術であるため、説明を省略する。
【0022】
後輪側モータ52には、後輪側モータ52の回転角を検出する後輪側回転角センサ53が設けられ、後輪コントローラ5に出力される。後輪コントローラ5内には、目標舵角に対する後輪側モータ52の駆動量を演算する演算部501と、後輪側モータ52の制御量を後輪側回転角センサ53の検出値に基づいてフィードバック制御するサーボ制御部502と、後輪側モータ52に対して電流値を出力する後輪側ドライバ部503と、操舵角センサ7により検出された操舵角と車速に基づいて前後輪の目標舵角を演算する目標値演算部504が設けられている。前輪コントローラ4は、この前輪の目標舵角に基づき、前輪側モータ42を制御するようになっている。
【0023】
(4輪アクティブステア制御構成)
低速CAN通信線100に接続された後輪コントローラ5では、低速CAN通信線100に接続された操舵角センサ7からの操舵角情報、及び低速CAN通信線100に接続されたATCU2からの車速情報を受信し、目標値演算部504において、この2つの値に基づく目標前輪舵角と目標後輪舵角を演算する。目標前輪舵角は後輪コントローラ5から高速CAN通信線200を介して前輪コントローラ4に出力される。上述したように、目標前輪舵角と目標後輪舵角は低速CAN通信線100の通信速度に制限されるため、10msec毎に演算されることとなる。
【0024】
前輪コントローラ4では、受信した目標前輪舵角となるように前輪側モータ42を駆動する。このとき、サーボ制御部402及び前輪側ドライバ403では、前輪側モータ回転角センサ43の検出値及び電流センサ等の値に基づいて1msec毎に制御量が演算され、200μsec毎に前輪側モータ42に出力する。このような処理は、マルチタスク処理等によって実行され、CPUの処理能力に応じて適宜割り付けられる。
【0025】
後輪コントローラ5では、演算した目標後輪舵角となるように後輪側モータ52を駆動する。このとき、サーボ制御部502及び後輪側ドライバ503では、後輪側モータ回転角センサ53の検出値及び電流センサ等の値に基づいて1msec毎に制御量が演算され、200μsec毎に後輪側モータ52に出力する。
【0026】
また、前輪4a及び後輪5aの補助舵角は、タイヤの向きを直接変更する制御であり、言い換えると、タイヤと路面との間に発生するタイヤ力の主に横力をアクチュエータにより直接制御することとなる。このとき、各アクチュエータにフェール等が発生すると、車両の挙動(特に旋回状態)に直接影響を与える虞があるため、常にフェールチェックを実行する必要がある。そこで、前輪コントローラ4では、高速CAN通信線200を介して後輪側のフェール関連情報(例えばアクチュエータ信号等)を複数回送受信し、目標値演算部504により新たな目標値が演算されるまでの間、常に監視する。同様に、後輪コントローラ5では、高速CAN通信線200を介して前輪側のフェール関連情報(例えばアクチュエータ信号等)を複数回送受信し、目標値演算部504により新たな目標値が演算されるまでの間、常に監視する。
【0027】
〔ABS/TCS/VDC制御システム〕
図3は、ABS/TCS/VDC制御システムの構成を表すシステム図である。実施例1の車両には、タイヤと路面間のスリップ状態を監視し、タイヤ力のうち主に制動力を制御して、制動時に最も高い制動力が得られるように(車輪のロックを回避するように)制御するABS制御と、発進時等の駆動力出力時に最も効率よく路面にトルクが伝達できるように(所定のスリップ率以上にスリップしないように)制御するTCS制御と、旋回時等にオーバーステアやアンダーステアの発生を抑制し、所望の車両挙動が得られるように(各輪に独立した制動力を与えて)制御するVDC制御を行うABS/TCS/VDC制御システムが搭載されている。
【0028】
ブレーキアクチュエータ61には、運転者のブレーキペダル操作によってブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ62と、各輪に制動力を発生させるホイルシリンダ63が接続されている。また、各輪の回転速度を検出する車輪速センサ64と、マスタシリンダ圧を検出する圧力センサ62aが設けられている。ブレーキアクチュエータ61内には、マスタシリンダ62とホイルシリンダ63との間を遮断する遮断弁と、ホイルシリンダ63内の液圧を減圧可能な減圧弁と、ホイルシリンダ63内の液圧を運転者の意図に係わらず増圧可能なポンプ等が内蔵され、各輪の制動力を制御可能に構成されている。
【0029】
エンジンには、ECU1の指令信号に基づいて、エンジンの燃料噴射量を制御する電子制御インジェクタ11と、スロットル開度を制御する電子制御スロットル12が設けられ、必要に応じてエンジンの出力トルクを制御可能に構成されている。
【0030】
(ABS制御について)
ブレーキコントローラ6において、車輪のロック傾向が検出されるとロック傾向のホイルシリンダ圧の増減圧を繰り返し、最適スリップ率により最大限制動力を確保する。
【0031】
(TCS制御について)
ブレーキコントローラ6において、車輪の駆動スリップが検出されると、過大なエンジンの出力を低下させるようにトルクダウン指令を出力し、燃料噴射量制御やスロットル開度制御を行って、車輪の駆動スリップを防止する。尚、駆動輪のホイルシリンダ圧を増大させてスリップを防止してもよいし、ATCU2に対しアップシフト指令を出力することで駆動スリップを回避してもよく、特に限定しない。
【0032】
(VDC制御について)
ABS制御とTCS制御については、車両の前後方向の挙動を制御する制御であり、VDC制御は車両の左右方向(旋回状態)の制御である。運転者がある車速である操舵を行うと、それに応じて荷重移動やヨーレイトが発生する。このとき、タイヤのコーナリングフォースの限界値等が予め推定されているため、その限界値を越えない目標ヨーレイトが算出される。一体型センサ8により検出される実ヨーレイトが目標ヨーレイトと比較され、実ヨーレイトが目標ヨーレイトを越えると、オーバーステア傾向となり、過大なヨーレイトが発生していると判断して、ヨーレイトを打ち消すために前輪の旋回外輪及び/又は後輪の旋回内輪に制動力を発生させる。一方、実ヨーレイトが目標ヨーレイトよりも小さいと、アンダーステア傾向となり、十分なヨーレイトが発生していないと判断して、ヨーレイトを発生させるために前輪の旋回内輪及び/又は後輪の旋回外輪に制動力を発生させる。すなわち、ヨーレイトフィードバック制御によって車両挙動を制御している。
【0033】
また、ABS/TCS/VDC制御システムでは、各センサ値を他のセンサ値との論理モニタによりフェールチェックを実行する。ここで、論理モニタとは、例えば一体型センサ8のヨーレイト値と、車速と舵角に基づくヨーレイト理論値とを比較し、これらの値の整合が取れているかどうかをモニタリングするものである。
【0034】
〔高速CAN通信線と低速CAN通信線との併設について〕
前輪操舵ユニット40と後輪操舵ユニット50は、それぞれ車両の前方と後方に搭載されている。すなわち、前輪アクチュエータ41は、前輪4aの近傍に配置されるため、車両前方に配置することが望ましく、同様の理由から後輪アクチュエータ51は、後輪5aの近傍に配置されるため、車両後方に配置することが望ましい。
【0035】
ここで、実施例1の車両のように、全ての車輪に対し制御舵角を付与する構成として、前輪4aと後輪5aを統合的に制御する統合コントローラを構成する手段を考える。これら統合コントローラを適用するには、新規にコントローラを設計する必要があり、前輪操舵ユニットのみを備えた既存車両のユニットや、後輪操舵ユニットのみを備えた既存車両のユニットをそのまま流用することができず、コストアップを招く。
【0036】
また、例えコントローラを1つにまとめたとしても、各アクチュエータ搭載位置は、車両前方と車両後方であるため、駆動電流を距離の長いハーネスを介して供給するのは外乱の影響を受けやすく好ましくない。また、ドライバ部を別途アクチュエータ近傍に配置すればよいが、結局新規に設計し直さなければならない。
【0037】
ここで、前輪操舵ユニット40と後輪操舵ユニット50を既存ベースに近い状態で別々に搭載し、両者を通常の低速CAN通信線100を介して接続した場合を想定する。各ユニットは、車両挙動に直接影響を与えるユニットであり、VDC制御のように限界領域で作動するものではなく、通常運転領域において作動するユニットである。よって、きめ細やかなアクチュエーション、及び前輪操舵ユニット40と後輪操舵ユニット50との協調を行わなければ、運転者に違和感を与える虞がある。
【0038】
そこで、前輪コントローラ4と後輪コントローラ5を高速CAN通信線200により接続し、更に、目標舵角を演算する後輪コントローラ5にのみ低速CAN通信線100を接続した。これにより、目標前輪舵角は、高速CAN通信線200を介して、後輪コントローラ5から前輪コントローラ4に送られるので、通信による遅れを小さくでき、既存のユニットを流用して安価、かつ、高性能な4輪アクティブステアシステムを実現することができる。
【0039】
上述したように、4輪アクティブステアシステムとVDC制御システムとは、共に車両の挙動(旋回状態)を制御する。基本的な制御分担としては、タイヤの摩擦限界近傍をVDC制御システムが担当し、十分にタイヤの摩擦力が確保された領域を4輪アクティブステアシステムが担当する。このとき、これら両システムが隣接する領域が存在するため、車両の動きを最適に制御しようとすると、必ず両システム間で通信を行い情報を送受信しなければならない。
【0040】
また、VDC制御システムでは、センサ系の故障を他の複数のセンサ出力から論理モニタを用いて検出している。これら各センサは上述したように電気信号に変換する際にフィルタリングを行い、ノイズ成分等を除去するために所定周期毎(例えば、10msec毎)に信号を出力しており、単に通信速度を上げてしまうと、すぐに論理モニタによってフェールと判断されてしまい、ロバスト性の低いセンサ値が出力されてしまう。
【0041】
すなわち、単に速い制御性を追い求め、情報量を増大させるべく、全体の通信速度を高めて情報量を増大させると、わずかな外乱等の発生によっても正確なフェールチェックを行えず安全性・信頼性の低下を招き、一方、安全性・信頼性ばかりを確保しようとすると、速い制御性の向上代が失われてしまう。
【0042】
そこで、VDC制御システムを備えたブレーキコントローラ6を高速CAN通信線200に接続すると共に、低速CAN通信線100にも接続することとした。言い換えると、タイヤと路面との間に発生するタイヤ力をアクチュエータにより制御する車載ユニットを高速CAN通信線200により接続し、それ以外の車載ユニットを低速CAN通信線100により接続した。また、高速CAN通信線200と低速CAN通信線100とを他のセンサを用いて目標値を生成する後輪コントローラ5及びブレーキコントローラ6を介して接続した。これにより、車両の安全性・信頼性の向上を図りつつ、性能機能の向上を図ることができる。
【0043】
以上、実施例1について説明したが、他の構成において上記技術思想を適用しても良い。具体的には、例えば図4に示すように、基本的には実施例1と同様のコントローラを搭載した車両において、各コントローラを低速CAN通信線100に接続し、後輪コントローラ5を低速CAN通信線100と高速CAN通信線200の両方に接続し、前輪コントローラ4を高速CAN通信線200のみと接続してもよい。
【0044】
また、実施例1では、後輪コントローラ5に低速CAN通信線100と高速CAN通信線200の両方を接続したが、前輪コントローラ4に低速CAN通信線100と高速CAN通信線200の両方を接続し、後輪コントローラ5には高速CAN通信線200のみ接続する構成としても良い。
【0045】
また、実施例1では、4輪アクティブステアシステムとして、操舵角と車速に応じてフィードフォワード制御により補助舵角を付与する構成としたが、一体型センサ8の検出値に基づいてフィードバック制御により補助舵角を付与するシステムに適用してもよい。このとき、例えばヨーレイトフィードバック制御によって補助舵角を付与する場合には、前後輪の実舵角の変化によってヨーレイトがどの程度変化しているかを常にモニタリングする場合などに高速CAN通信線200による接続が有効である。
【0046】
また、タイヤと路面との間に発生するタイヤ力をアクチュエータにより制御する車載ユニットとしては、例えばアクティブサスペンションシステムや、クラッチの締結制御により駆動輪の駆動力制御を行う駆動力配分制御システムや、パワーステアリングシステム等を採用し、高速CAN通信線に接続しても良い。
【0047】
また、実施例1では、通信手段としてCAN通信を示したが、他のプロトコルを用いた通信手段(例えば、TDMAによる時分割多重通信、FDMA又はCDMAによる同時多重通信等)であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1における車両制御システムを表すシステム構成図である。
【図2】実施例1における4輪アクティブステアシステムの構成を表すシステム図である。
【図3】実施例1におけるABS/TCS/VDC制御システムの構成を表すシステム図である。
【図4】他の実施例における車両制御システムをモデル化して表すシステム構成図である。
【符号の説明】
【0049】
1 エンジンコントローラ(ECU)
2 自動変速機コントローラ(ATCU)
3 メータコントローラ(MCU)
4a 前輪
4 前輪コントローラ
5a 後輪
5 後輪コントローラ
6 ブレーキコントローラ
7 操舵角センサ
8 一体型センサ
9 ブレーキコントローラ
40 前輪操舵ユニット
50 後輪操舵ユニット
60 ブレーキユニット
100 低速CAN通信線
200 高速CAN通信線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の操舵角を検出する操舵角センサと、
前記操舵角センサにより検出された操舵角に基づいて目標前輪舵角及び目標後輪舵角を生成する目標値生成手段と、
前輪舵角が前記目標前輪舵角となるように前輪アクチュエータとの間でフィードバック制御する前輪コントローラを有する前輪操舵ユニットと、
後輪舵角が前記目標後輪舵角となるように後輪アクチュエータとの間でフィードバック制御する後輪コントローラを有する後輪操舵ユニットと、
他の制御コントローラを有する複数の車載ユニットと、
を備え、
前記前輪操舵ユニットと前記後輪操舵ユニットとを高速通信手段により接続し、
前記複数の車載ユニットと前記操舵角センサを低速通信手段により接続し、
前記前輪操舵ユニットもしくは前記後輪操舵ユニットの少なくともいずれか一方を前記低速通信手段に接続したことを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御システムにおいて、
車両の挙動を検出する挙動検出手段と、
4輪の制動力を制御するブレーキコントローラを有する制動ユニットと、
を設け、
前記挙動検出手段と、前記制動ユニットを前記高速通信手段に接続したことを特徴とする車両制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載の車両制御システムにおいて、
前記制動ユニットを、前記低速通信手段に接続したことを特徴とする車両制御システム。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1項に記載の車両制御システムにおいて、
前記前輪操舵ユニットもしくは前記後輪操舵ユニットの一方にのみ前記低速通信手段を接続したことを特徴とする車両制御システム。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の車両制御システムにおいて、
前記低速通信手段に接続された操舵ユニットに、前記目標値生成手段を設けたことを特徴とする車両制御システム。
【請求項6】
請求項2ないし5いずれか1項に記載の車両制御システムにおいて、
前記制動ユニットは、前記挙動検出手段の検出値に基づいてフィードバック制御を実行することを特徴とする車両制御システム。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれか1項に記載の車両制御システムにおいて、
前記前輪操舵ユニットと前記後輪操舵ユニットは、前記操舵角検出手段により検出された操舵角に基づいてフィードフォワード制御により補助舵角を付与することを特徴とする車両制御システム。
【請求項8】
請求項2ないし7いずれか1項に記載の車両制御システムにおいて、
前記前輪操舵ユニットと前記後輪操舵ユニットは、前記挙動検出手段の検出値に基づいてフィードバック制御により補助舵角を付与することを特徴とする車両制御システム。
【請求項9】
請求項8に記載の車両制御システムにおいて、
前記前輪操舵ユニットと前記後輪操舵ユニットは、フィードバック制御中に相互の制御情報を通信することを特徴とする車両制御システム。
【請求項10】
請求項1ないし9いずれか1項に記載の車両制御システムにおいて、
フェール関連情報を、制御周期内で複数回送受信することを特徴とする車両制御システム。
【請求項11】
車両の各アクチュエータを制御する複数の車載ユニットを、通信手段を介して接続した車両制御システムにおいて、
タイヤと路面との間に発生するタイヤ力をアクチュエータにより制御する車載ユニットを高速通信手段により接続し、それ以外の車載ユニットを低速通信手段により接続し、前記高速通信手段と前記低速通信手段とを、前記高速通信手段に接続された車載ユニットを介して接続したことを特徴とする車両制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−290133(P2006−290133A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112755(P2005−112755)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】