説明

車両制御システム

【課題】フューエルカット制御からの復帰時に筒内の酸素が過剰となることを抑制できる車両制御システムを提供すること。
【解決手段】車両の動力源としてのエンジンと、エンジンの排気通路と吸気通路とを連通する連通路と、連通路を開閉する開閉弁とを備え、車両の走行中にエンジンへの燃料の供給を停止するフューエルカット制御を実行可能なものであって、フューエルカット制御の実行中(S1−Y)に閉弁状態の開閉弁を開弁して連通路を開放することで排気通路の気体が連通路を介して吸気通路に流れることを許容する開放制御(S6)を実行可能であり、かつ、開放制御の実行中に吸気行程でエンジンの筒内に供給される酸素量と対応する物理量が予め定められた所定量以上(S7−Y)となると、開閉弁を閉弁する(S8)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、EGR通路(エンジンの吸気通路と排気通路とを連通する連通路)およびEGRバルブ(連通路を開閉する開閉弁)を備える車両が知られている。例えば、特許文献1には、燃料カット(フューエルカット)の実行中にEGRバルブを開弁する開弁処理を実行する内燃機関の制御装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−191791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、フューエルカット制御の実行中に開閉弁を開いた状態が長く続くと、新気の混入割合が増大してしまう。開閉弁が開かれていると、エンジンの燃焼室(筒内)から排気通路に排出される空気が連通路に流入するとともに、連通路を流通した空気が吸気通路に流入する。その結果、開閉弁を閉弁している場合と比較して多くの空気が吸気通路内に蓄積されることになる。吸気通路に蓄積した空気の影響は、その後も継続し、フューエルカットが終了して燃料供給が再開される際に多くの空気が筒内に供給される。これにより、筒内の酸素が過剰となり、フューエルカットからの復帰時に大きなトルクが発生してショックが生じたりすることがある。
【0005】
本発明の目的は、フューエルカット制御の実行中に開閉弁を開弁して連通路を開放した場合に、フューエルカット制御からの復帰時に筒内の酸素が過剰となることを抑制できる車両制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両制御システムは、車両の動力源としてのエンジンと、前記エンジンの排気通路と吸気通路とを連通する連通路と、前記連通路を開閉する開閉弁とを備え、前記車両の走行中に前記エンジンへの燃料の供給を停止するフューエルカット制御を実行可能なものであって、前記フューエルカット制御の実行中に閉弁状態の前記開閉弁を開弁して前記連通路を開放することで前記排気通路の気体が前記連通路を介して前記吸気通路に流れることを許容する開放制御を実行可能であり、かつ、前記開放制御の実行中に吸気行程で前記エンジンの筒内に供給される酸素量と対応する物理量が予め定められた所定量以上となると、前記開閉弁を閉弁することを特徴とする。
【0007】
上記車両制御システムにおいて、前記フューエルカット制御の実行中であってアクセル開度がアクセルオフに対応する開度よりも大きい場合に前記開放制御を実行することが好ましい。
【0008】
上記車両制御システムにおいて、前記開放制御において、前記アクセル開度に基づく前記エンジンに対する要求トルクを実現できるように前記開閉弁の開度を決定することが好ましい。
【0009】
上記車両制御システムにおいて、前記開放制御において、前記物理量が大きな場合には、前記物理量が小さな場合よりも前記開閉弁の開度を低減させることが好ましい。
【0010】
上記車両制御システムにおいて、前記物理量が前記所定量以上となった場合に、前記エンジンへの前記燃料の供給を開始するタイミングが、前記開閉弁を閉弁した後であることが好ましい。
【0011】
上記車両制御システムにおいて、前記物理量とは、前記排気通路を流れる気体の酸素濃度、あるいは前記連通路を介して前記排気通路から前記吸気通路に流れる気体の酸素濃度であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる車両制御システムは、フューエルカット制御の実行中に閉弁状態の開閉弁を開弁して連通路を開放することで排気通路の気体が連通路を介して吸気通路に流れることを許容する開放制御を実行可能である。また、開放制御の実行中に吸気行程でエンジンの筒内に供給される酸素量と対応する物理量が予め定められた所定量以上となると、開閉弁を閉弁する。よって、本発明にかかる車両制御システムによれば、フューエルカット制御からの復帰時に筒内の酸素が過剰となることを抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施形態にかかる車両制御システムの動作を示すフローチャートである。
【図2】図2は、実施形態にかかる車両制御システムが適用された車両の要部を示す図である。
【図3】図3は、実施形態の車両制御システムによる制御が実行される場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【図4】図4は、実施形態の車両制御システムによる制御が実行される場合のタイムチャートの一例を示す他の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明にかかる車両制御システムの一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0015】
(実施形態)
図1から図4を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、エンジンの排気通路と吸気通路とを連通する連通路と、連通路を開閉する開閉弁とを備える車両制御システムに関する。図1は、本発明の実施形態にかかる車両制御システムの動作を示すフローチャート、図2は、実施形態にかかる車両制御システムが適用された車両の要部を示す図である。
【0016】
本実施形態の車両制御システム1−1は、エンジン負トルクが要求された場合、フューエルカット中に排気通路内に残留しているEGRを導入することでポンピングロスを低減してパワートレーンフリクションを低減する。しかし、この状態が長時間続くと、新気の混入割合が増大して、フューエルカット制御からの復帰時にショックが生じたり、エミッションの問題が生じたりする。そこで、車両制御システム1−1は、フューエルカット中にEGRを導入するとき、排気通路のO2濃度が一定値を超えた場合はEGRバルブを閉じることでフューエルカット制御からの復帰時にショックが生じることを抑制する。
【0017】
本実施形態の車両制御システム1−1は、燃料供給装置、EGRバルブ、O2センサおよびエンジンフリクション低減要求算出手段を備えることを前提としている。車両制御システム1−1は、以下に詳しく説明するように、燃料カット実施中にエンジンフリクション低減要求があった場合で、かつ燃料噴射を再開せずに要求どおりのエンジントルク(負トルク)が実現可能な場合、EGRバルブを開いて吸気負圧を低減する。排気通路内の酸素濃度が閾値を超えた場合、エンジンフリクション低減要求が継続されている場合においてもEGRバルブを閉じて、EGR導入を中止するとともに要求どおりのエンジントルク(負トルク)を実現するために燃料噴射を再開する。これにより、運転者のエンジンフリクション低減要求に応えつつフューエルカット制御からの復帰時のショックを抑制することが可能となる。
【0018】
図2において、符号1は、図示しない車両の動力源としてのエンジンを示す。エンジン1の燃焼室2には、吸気通路3および排気通路4がそれぞれ接続されている。燃焼室2と吸気通路3との接続部には、吸気バルブ5が設けられている。また、燃焼室2と排気通路4との接続部には、排気バルブ6が設けられている。吸気通路3には、吸気通路3を流れる空気の流量を調節するスロットルバルブ7およびその空気の流量を検出するエアフローメータ8が配置されている。エアフローメータ8は、吸気通路3を流れる空気の温度を検出する吸気温センサを兼ねている。スロットルバルブ7の開度は、スロットルモータ16により制御される。また、車両にはスロットルバルブ7の開度を検出するスロットルポジションセンサ17が設けられている。
【0019】
排気通路4には、A/Fセンサ9、三元触媒10(10A、10B)およびO2センサ11が設けられている。三元触媒10Aは、三元触媒10Bよりも排気通路4における上流側に配置されている。排気通路4において、A/Fセンサ9は三元触媒10Aの上流側に、O2センサ11は三元触媒10Aの下流側にそれぞれ配置されている。A/Fセンサ9およびO2センサ11はいずれも酸素濃度を検出可能なものである。
【0020】
車両には、エンジン1を制御するエンジンコントロールコンピュータ(ECU)30が設けられている。エンジン1は、インジェクター12、オイルコントロールバルブ13、カムポジションセンサ14およびイグニッションコイル15を有する。インジェクター12は、フューエルタンク27から供給される燃料を吸気通路3に噴射する。オイルコントロールバルブ13は、吸気バルブ5のバルブタイミングを可変とするものである。カムポジションセンサ14は、吸気バルブ5を駆動するカムシャフトの回転角度を検出する。イグニッションコイル15は、燃焼室2内の混合気に点火する点火プラグに電流を供給する。また、エンジン1は、クランクポジションセンサ18、水温センサ19およびノックセンサ20を有する。クランクポジションセンサ18は、クランクシャフト28の回転角度を検出する。ECU30は、クランクシャフト28の回転角度の検出結果に基づいて、エンジン回転数Neを検出することができる。水温センサ19は、エンジン1の冷却水温を検出する。ノックセンサ20は、エンジン1におけるノッキングの発生を検出する。
【0021】
ECU30には、A/Fセンサ9、O2センサ11、カムポジションセンサ14、スロットルポジションセンサ17、クランクポジションセンサ18、水温センサ19およびノックセンサ20が接続されており、各センサの検出結果を示す信号がECU30に入力される。また、ECU30には、インジェクター12、オイルコントロールバルブ13、イグニッションコイル15およびスロットルモータ16が接続されており、ECU30はそれぞれの装置を制御する。例えば、ECU30は、インジェクター12による燃料の噴射タイミングや噴射量を制御する。また、ECU30は、イグニッションコイル15による電流の供給タイミングを調節することで燃焼室2内の混合気への点火タイミングを制御する。また、ECU30は、スロットルモータ16の開度を調節することで、燃焼室2に供給される空気量を制御する。
【0022】
本実施形態のエンジン1は、EGR通路21、EGRバルブ22、EGRクーラー23およびEGRガス温度センサ24を有する。EGR通路21は、排気通路4と吸気通路3とを連通する連通路である。EGR通路21は、吸気通路3におけるスロットルバルブ7よりも下流側と、排気通路4におけるA/Fセンサ9よりも上流側とを連通している。EGRバルブ22は、EGR通路21を開閉する開閉弁である。EGRバルブ22は、任意の開度に調節可能となっている。EGRバルブ22は、EGR通路21を閉塞することが可能であるとともに、任意の開度に開かれてEGR通路21を流れる気体の流量を調節することも可能である。EGRバルブ22が開かれた場合には、排気通路4の気体がEGR通路21を介して吸気通路3に流れることが許容される。
【0023】
EGRクーラー23は、EGR通路21を流れる気体を冷却するものである。EGRガス温度センサ24は、EGR通路21を流れる気体の温度を検出する。EGRガス温度センサ24は、ECU30に接続されており、EGRガス温度センサ24の検出結果を示す信号はECU30に入力される。また、EGRバルブ22は、ECU30に接続されており、EGRバルブ22はECU30により制御される。ECU30は、制御指令によって、EGRバルブ22の開度をEGR通路21が閉塞される全閉状態から全開状態までの任意の開度に調節することができる。
【0024】
ECU30には、図示しないアクセルペダルの開度(操作量)を検出するアクセルポジションセンサ25が接続されており、検出されたアクセル開度を示す信号がECU30に入力される。また、車速を検出する車速センサ26がECU30に接続されており、検出された車速を示す信号がECU30に入力される。上記の他に、ECU30には、エアコンスイッチ、イグニッションスイッチが接続されており、各スイッチおよびセンサからの信号がECU30に入力される。また、ECU30は、診断ツールのためのコネクタ(DLC3)と接続されている。本実施形態の車両制御システム1−1は、エンジン1、EGR通路21、EGRバルブ22およびECU30を含む。
【0025】
ECU30は、走行中にあらかじめ定められたフューエルカット実行条件が成立すると、エンジン1への燃料の供給を停止するフューエルカット制御を実行する。フューエルカット実行条件は、例えば、アクセル開度やエンジン回転数Neに関して定められているものである。フューエルカット実行条件は、例えば、アクセル開度があらかじめ定められた所定開度以下である条件や、エンジン回転数Neがあらかじめ定められた所定回転数以上である条件を含み、これらの条件がすべて成立すると、フューエルカット制御が許可される。フューエルカット制御の開始時には、EGRバルブ22の開度は、例えば全閉の状態(閉弁状態)とされる。
【0026】
ECU30は、フューエルカット制御の実行中に、エンジンフリクションを低減する要求があると、閉弁状態のEGRバルブ22を開く。例えば、アクセルを離したとき(アクセルオフ)に生じる減速状態に対して、運転者が微少に減速度を弱めるために、アクセル操作を行うことがある。このエンジンフリクション低減要求に対して、フューエルカット状態を維持しながらエンジン1のフリクションを低減する技術の一つとして、スロットルバルブ7を開くことで吸気負圧を低減してフリクションを低減する手法がある。この手法では、スロットルバルブ7を閉じた場合よりも燃焼室2に流入する空気量が増加することで、フューエルカット制御からの復帰時に大きなトルクが発生してショックが生じたり、空燃比がリーンな状態となって排気エミッションの問題(有害物質の排出量増加)が生じたりすることがある。
【0027】
本実施形態では、ECU30は、吸気負圧を低減しながら空気量を増加させない手段として、フューエルカット中にEGRバルブ22を開き、排気通路4の気体を吸気通路3に導入する。閉弁状態のEGRバルブ22が開弁されてEGR通路21が開放されることで、排気通路4の気体がEGR通路21を介して吸気通路3に流れることが許容される。以下の説明では、フューエルカット中に閉弁状態のEGRバルブ22を開弁してEGR通路21を開放することで、EGR通路21を介して排気通路4から吸気通路3に気体が流れることを許容する制御を「開放制御」と記載する。開放制御では、例えば、スロットルバルブ7を全閉とした状態でEGRバルブ22が開弁される。この開放制御により、吸気負圧を低減してポンピングロスを低減させ、エンジンフリクションを低減させることができる。しかしながら、EGRバルブ22を開いた状態が長時間続いた場合、吸気通路3に多くの空気が蓄積されることとなる。これにより、以下に説明するように、フューエルカット制御からの復帰時に燃焼室2内の酸素が過剰となってショックあるいはエミッションの問題が生じる可能性がある。
【0028】
ECU30は、O2センサ11により検出された排気通路4のO2濃度に基づいてフューエルカット制御からの復帰時の燃料噴射量を増減させる。排気通路4のO2濃度が大きな場合には、EGR通路21を介して吸気通路3に導入される気体のO2濃度が大きくなる。よって、排気通路4のO2濃度が大であれば、開放制御の実行中に吸気行程で筒内に供給される酸素量(以下、単に「筒内酸素量」と記載する。)は大きなものとなる。これにより、ECU30は、排気通路4のO2濃度が大きな場合には、小さな場合よりもフューエルカット制御からの復帰時の燃料噴射量を大きな値に決定する。よって、排気通路4のO2濃度が大きくなると、フューエルカット制御からの復帰時にトルク変動が大となってショックが生じることがある。また、フューエルカット制御からの復帰時に燃料噴射量に対して筒内酸素量が過剰のリーンな状態となることがある。
【0029】
これに対して、本実施形態では、排気通路4内のO2濃度(酸素濃度)が閾値を超えた場合には、エンジンフリクション低減要求が継続されている場合であってもEGRバルブ22が閉じられる。EGRバルブ22を閉じるときには、EGR導入に代えて、要求通りのエンジントルク(負トルク)を実現するために、燃料噴射が再開される。これにより、運転者のエンジンフリクション低減要求に応えつつ、燃焼室2内の酸素が過剰となることを抑制し、ショックやエミッションの問題の発生を抑制することができる。
【0030】
図1を参照して、本実施形態の動作について説明する。図1に示す制御フローは、走行中に実行されるものであり、例えば、所定の周期で繰り返し実行される。図3および図4は、それぞれ本実施形態の車両制御システムによる制御が実行される場合のタイムチャートの一例を示す図である。図3および図4において、(a)は車速、(b)はアクセル開度、(c)は燃料噴射要求、(d)はEGR開率(EGRバルブ22の開度)、(e)はO2センサ11により検出されたO2濃度をそれぞれ示す。図3には、開放制御の途中で排気通路4のO2濃度が閾値αを超え、フューエルカット制御から復帰する場合のタイムチャートが示されている。また、図4には、開放制御の途中でアクセル開度が増加して、燃料カット状態では実現できないエンジントルクの要求が生じた場合のタイムチャートが示されている。
【0031】
図1を参照して、まず、ステップS1では、ECU30により、燃料カット要求があるか否かが判定される。ECU30は、フューエルカット実行条件が成立して燃料カットの要求がなされているか否かを判定する。その判定の結果、燃料カット要求があると判定された場合(ステップS1−Y)にはステップS2に進み、そうでない場合(ステップS1−N)にはステップS9に進む。
【0032】
ステップS2では、ECU30により、燃料カットが実行される。ECU30は、それまでエンジン1への燃料の供給が行われていた場合にはインジェクター12による燃料の噴射を停止してフューエルカット制御を開始し、すでに燃料カットを実行中であれば、燃料の噴射停止を継続する。
【0033】
次に、ステップS3では、ECU30により、エンジンフリクション低減要求があるか否かが判定される。ECU30は、例えば、アクセルポジションセンサ25により検出されたアクセル開度に基づいてステップS3の判定を行う。ECU30は、例えば、アクセル開度がアクセルオフに対応する開度よりも大きな開度である場合にステップS3で肯定判定を行う。その判定の結果、エンジンフリクション低減要求があると判定された場合(ステップS3−Y)にはステップS4に進み、そうでない場合(ステップS3−N)にはステップS2に進んで燃料カットを継続する。
【0034】
ステップS4では、ECU30により、燃料カット継続可能であるか否かが判定される。ECU30は、燃料噴射を再開せずに要求通りのエンジントルク(負トルク)を実現可能であるか否かに基づいてステップS4の判定を行う。ECU30は、アクセルポジションセンサ25により検出されたアクセル開度に基づいて、エンジン1に要求される出力トルクを決定する。ECU30は、アクセル開度と車速と要求加速度(あるいは要求駆動力等)との対応関係を例えばマップとしてあらかじめ記憶しており、この対応関係に基づいて(対応関係が実現できるために)エンジン1に要求される出力トルクである要求トルクを決定する。決定された要求トルクが、燃料噴射を再開せずに実現可能なエンジン1の出力トルク(の最大値)を上回る場合には、ステップS4において否定判定がなされる。
【0035】
ここで、燃料噴射を再開せずに実現可能なエンジン1の出力トルクとは、EGRバルブ22を開弁してEGR通路21を開放する開放制御により実現可能な出力トルクであり、実現可能なエンジン1の出力トルクの最大値とは、例えば、EGRバルブ22の開度を最大(全開)とした場合に実現可能な出力トルクのことである。ステップS4の判定の結果、燃料カット継続可能であると判定された場合(ステップS4−Y)にはステップS5に進み、そうでない場合(ステップS4−N)にはステップS9に進む。
【0036】
なお、図4に示す例では、時刻t3にアクセル開度が増加して燃料カット継続可能であると判定されなくなり、EGRバルブ22が閉弁され、燃料噴射が再開される。
【0037】
ステップS5では、ECU30により、EGRバルブ22が開弁中であるか否かが判定される。ECU30は、例えば、EGRバルブ22に対する現在の開度の指令値に基づいてステップS5の判定を行う。その判定の結果、EGRバルブ22が開弁中であると判定された場合(ステップS5−Y)にはステップS7に進み、そうでない場合(ステップS5−N)にはステップS6に進む。
【0038】
ステップS6では、ECU30により、EGRバルブ22が開弁される。このときのEGRバルブ22の開度は、例えば、ステップS4で決定されたエンジン1に対する要求トルクを実現可能なEGRバルブ22の開度とされる。つまり、EGRバルブ22に対する開度の指令値は、フリクション(ポンピングロス)を低減させてエンジン1の出力トルクを要求トルクとすることができる開度とされる。なお、EGRバルブ22に対する開度の指令値は、これに限らず、全開や、全開と全閉との間の決められた開度などの一定の開度であってもよい。すなわち、EGRバルブ22に対する開度の指令値は、エンジンフリクション低減要求に対して、エンジン出力トルクを増加させる(負トルクを小さくする)ことができる開度であればよい。ECU30は、EGRバルブ22に対して開度の指令値を出力し、EGRバルブ22を開弁する。これにより、エンジンフリクションが低減し、運転者によるエンジンフリクション低減要求が実現される。ステップS6が実行されると、ステップS7に進む。
【0039】
ステップS7では、ECU30により、O2濃度があらかじめ定められた閾値である所定濃度α以上であるか否かが判定される。ECU30は、O2センサ11により検出されたO2濃度と所定濃度αとの比較結果によりステップS7の判定を行う。所定濃度αは、例えば、エンジン1の筒内(燃焼室2)に供給された吸気に含まれる酸素量(筒内酸素量)があらかじめ定められた所定酸素量以上となることを抑制できる値として定められている。EGRバルブ22が開かれる開放制御の実行中には、排気通路4を流れる気体がEGR通路21を介して吸気通路3に導かれる。従って、筒内酸素量は、排気通路4のO2濃度によって変化する。排気通路4のO2濃度が高い場合には、低い場合よりも筒内酸素量が増加する。つまり、排気通路4のO2濃度は、開放制御の実行中に吸気行程でエンジン1の筒内に供給される酸素量と対応する物理量である。
【0040】
所定濃度αは、例えば、フューエルカット制御から復帰してエンジン1への燃料の供給が再開されるときのトルク変動量に基づいて設定される。例えば、許容されるトルク変動量の上限を決めた場合に、生じるトルク変動量が定められたトルク変動量の上限となる排気通路4のO2濃度を所定濃度αとすることができる。所定濃度αは、例えば、適合実験の結果に基づいて設定するようにすればよい。なお、エンジン回転数Ne等の運転状況によって排気通路4のO2濃度とフューエルカット制御からの復帰時に生じるトルク変動量との関係が変化する場合には、その運転状況に応じて所定濃度αを可変とするようにしてもよい。このように、開放制御の実行中に吸気行程で筒内に供給される酸素量(筒内酸素量)と対応する物理量である排気通路4のO2濃度が所定濃度α(所定量)以上となるとEGRバルブ22が閉弁されることで、筒内の酸素量が過剰となることが抑制される。
【0041】
ステップS7の判定の結果、排気通路4のO2濃度が所定濃度α以上であると判定された場合(ステップS7−Y)にはステップS8に進み、そうでない場合(ステップS7−N)には本制御フローはリターンする。図3に示すタイムチャートでは、時刻t2においてO2濃度が所定濃度αに達し、ステップS7で肯定判定がなされる。
【0042】
ステップS8では、ECU30により、EGRバルブ22が閉弁される。ECU30は、EGRバルブ22に対して開度を全閉とする指令信号を出力し、EGRバルブ22を閉弁させる。ステップS8が実行されると、ステップS9に進む。
【0043】
ステップS9では、ECU30により、燃料噴射が実施される。ECU30は、インジェクター12に対して燃料噴射を実施する指令信号を出力する。このときの燃料噴射量の指令値は、例えば、筒内に供給される酸素量に応じた噴射量に設定される。つまり、本実施形態の車両制御システム1−1によれば、O2濃度が所定濃度αに達した時点(ステップS7−Y)で、ショックが生じない程度のトルク変動でフューエルカット制御から復帰させることができる。ステップS9が実行されると、本制御フローはリターンする。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の車両制御システム1−1によれば、フューエルカット制御の実行中に、エンジンフリクション低減要求があった場合に、開放制御によりエンジンフリクションを低減させることで、エンジン1を再始動することなく運転者のトルク要求に応えることができる。フューエルカット制御を継続したまま負トルク制御を実行可能なことで、燃費の向上を実現することができる。また、開放制御の実行中に排気通路4のO2濃度が所定濃度α以上となった場合には、フューエルカット制御から復帰し、燃料噴射が再開されることで、フューエルカット制御からの復帰時に燃焼室2内の酸素が過剰となることが抑制される。よって、フューエルカット制御からの復帰時にショックが発生したり、空燃比がリーンな状態となって排気エミッションの問題が発生したりすることが抑制される。
【0045】
また、排気通路4のO2濃度が所定濃度α以上となった場合に、エンジン1への燃料の供給が再開されるタイミングは、EGRバルブ22が閉弁された後である。これにより、EGRバルブ22の閉弁前や閉弁と同時に燃料の供給が再開される場合よりもエンジン1の筒内に流入する吸気量が低減する。よって、吸気行程においてエンジン1の筒内に供給される酸素量の増加が抑制されるため、フューエルカット制御からの復帰時のトルク変動の低減が可能となる。
【0046】
なお、本実施形態では、運転者によるエンジンフリクション低減要求があった場合に開放制御が実行されたが、これには限定されない。例えば、エンジンフリクション低減要求とは異なる理由により開放制御を実行する場合においても、排気通路4のO2濃度が上昇した場合にEGRバルブ22を閉弁するようにすれば、フューエルカット制御からの復帰時のショックの発生を抑制することができる。
【0047】
なお、本実施形態では、O2センサ11により検出されたO2濃度に基づいて、EGRバルブ22の閉弁が決定されたが、これに代えて、A/Fセンサ9により検出されたO2濃度に基づいて、EGRバルブ22の閉弁タイミングが決定されてもよい。また、排気通路4のO2濃度に限らず、例えばEGR通路21のO2濃度など、EGR通路21を介して排気通路4から吸気通路3に流れる気体のO2濃度に基づいてEGRバルブ22の閉弁タイミングが決定されてもよい。
【0048】
(実施形態の第1変形例)
上記実施形態では、排気通路4のO2濃度に基づいてEGRバルブ22の閉弁タイミングが決定されたが、これには限定されない。排気通路4のO2濃度とは異なる物理量であっても、筒内酸素量と対応する物理量であれば、その物理量に基づいてEGRバルブ22の閉弁タイミングが決定されることが可能である。例えば、筒内酸素量と対応する物理量として、開放制御の実行時間(開放制御開始からの経過時間等)が用いられてもよい。また、筒内酸素量と対応する物理量に代えて、開放制御の実行中に吸気行程でエンジン1の筒内に供給される吸気の酸素濃度(筒内酸素濃度)と対応する物理量に基づいてEGRバルブ22の閉弁タイミングが決定されてもよい。なお、排気通路4のO2濃度は、上記の筒内酸素濃度と対応した物理量である。
【0049】
(実施形態の第2変形例)
上記実施形態の開放制御におけるEGRバルブ22の開度制御に加えて、開放制御の実行中に排気通路4の酸素濃度に応じてEGRバルブ22の開度の指令値が決定されてもよい。
【0050】
例えば、アクセル開度(エンジン1に対する要求トルク)が同じであっても、排気通路4のO2濃度の増加に応じてEGRバルブ22の開度を低下させるようにしてもよい。つまり、筒内酸素量に対応する物理量である排気通路4のO2濃度が大きな場合には、排気通路4のO2濃度が小さな場合よりもEGRバルブ22の開度を低減させるようにしてもよい。また、上記実施形態と同様に、排気通路4のO2濃度が所定濃度α以上となった場合には、EGRバルブ22は閉弁される。このようにすれば、運転者によるエンジンフリクション低減要求を実現しつつ排気通路4のO2濃度の上昇を抑制し、開放制御の継続時間を延ばして燃費の向上を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明にかかる車両制御システムは、吸気通路と排気通路とを連通する連通路および連通路を開閉する開閉弁とを備える車両において有用であり、特に、フューエルカット制御の実行中に開閉弁を開弁して連通路を開放した場合に、フューエルカット制御からの復帰時に筒内の酸素が過剰となることを抑制するのに適している。
【符号の説明】
【0052】
1−1 車両制御システム
1 エンジン
2 燃焼室(筒内)
3 吸気通路
4 排気通路
11 O2センサ
12 インジェクター
21 EGR通路
22 EGRバルブ
25 アクセルポジションセンサ
30 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の動力源としてのエンジンと、
前記エンジンの排気通路と吸気通路とを連通する連通路と、
前記連通路を開閉する開閉弁とを備え、
前記車両の走行中に前記エンジンへの燃料の供給を停止するフューエルカット制御を実行可能なものであって、
前記フューエルカット制御の実行中に閉弁状態の前記開閉弁を開弁して前記連通路を開放することで前記排気通路の気体が前記連通路を介して前記吸気通路に流れることを許容する開放制御を実行可能であり、かつ、前記開放制御の実行中に吸気行程で前記エンジンの筒内に供給される酸素量と対応する物理量が予め定められた所定量以上となると、前記開閉弁を閉弁する
ことを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
前記フューエルカット制御の実行中であってアクセル開度がアクセルオフに対応する開度よりも大きい場合に前記開放制御を実行する
請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記開放制御において、前記アクセル開度に基づく前記エンジンに対する要求トルクを実現できるように前記開閉弁の開度を決定する
請求項2に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記開放制御において、前記物理量が大きな場合には、前記物理量が小さな場合よりも前記開閉弁の開度を低減させる
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両制御システム。
【請求項5】
前記物理量が前記所定量以上となった場合に、前記エンジンへの前記燃料の供給を開始するタイミングが、前記開閉弁を閉弁した後である
請求項1から4のいずれか1項に記載の車両制御システム。
【請求項6】
前記物理量とは、前記排気通路を流れる気体の酸素濃度、あるいは前記連通路を介して前記排気通路から前記吸気通路に流れる気体の酸素濃度である
請求項1から5のいずれか1項に記載の車両制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−185189(P2011−185189A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52351(P2010−52351)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】