説明

車両挙動制御装置

【課題】前後駆動力配分制御とブレーキ制御とを協調させて、操舵応答性とトラクション性能とを適切に両立させる。
【解決手段】エンジン駆動力Fdを算出し、該エンジン駆動力Fdに基づいて一次遅れ処理を行って前後軸間の締結トルクCawdを算出してトランスファクラッチ駆動部31に出力する。一方、エンジン駆動力Fdの時間的変化ΔFdに基づいて時間の経過と共に減衰する駆動力の変化に応じた制動力Fdtdを一次進み処理を行って算出し、駆動力の変化に応じた制動力Fdtdを基とするアクセル感応目標ヨーモーメントMdtを算出し、ハンドル角速度を基とする操舵感応目標ヨーモーメントMstを一次進み処理を行って算出し、これらアクセル感応目標ヨーモーメントMdtと操舵感応目標ヨーモーメントMstを基に旋回内側内輪に付加する制動力を算出してブレーキ駆動部32に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、前後軸間の締結トルクを制御する前後駆動力配分制御と設定した車輪に制動力を付加する制動力制御とを有し、これらの制御を適切に協調して行わせる車両挙動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前後軸間の締結トルクを制御する前後駆動力配分制御と、設定した車輪に制動力を付加する制動力制御とを備えた車両については、例えば、特開2002−46589号公報(以下、特許文献1)で、前後軸間の結合状態が大である間は、制動制御装置による制動制御の開始条件が成立した場合にも、この制動制御を禁止する一方、制動制御装置による制動制御の実行中は、前後軸間の結合状態が大となるように変更された場合であっても制動制御装置による制動制御を継続させて、また、前後軸間の結合状態の変更は制限する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】2002−46589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、旋回中に車両がヘッドアウトしている状態で前後軸間を締結すると、前後軸の軌跡差(=スリップ率差=前輪制動/後輪駆動状態)により、アンダステア傾向が助長される。このような状況で、上述の特許文献1のようにブレーキ制御を禁止したのでは十分な操舵応答性が望めないという問題がある。逆に、ブレーキ制御が先行した場合に上述の特許文献1のように前後駆動力配分制御の変更を制限すると、十分なトラクション性能が得られないという問題がある。このように、独立した前後駆動力配分制御とブレーキ制御の作動を切り替えるだけでは、操舵応答性とトラクション性能とを適切に両立させることは困難であった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、前後駆動力配分制御とブレーキ制御とを協調させて、操舵応答性とトラクション性能とを適切に両立させることができる車両挙動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両の運動状態に応じて前後軸間の締結トルクを制御する前後駆動力配分制御手段と、車両の運転状態に応じて設定した車輪に制動力を付加する制動力制御手段とを備えた車両挙動制御装置において、上記前後駆動力配分制御手段による上記前後軸間の締結は、上記制動力制御手段による上記制動力の付加よりも遅らせて実行させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明による車両挙動制御装置によれば、前後駆動力配分制御とブレーキ制御とを協調させて、操舵応答性とトラクション性能とを適切に両立させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の一形態に係る車両全体の概略構成を示す説明図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る制御ユニットの機能ブロック図である。
【図3】本発明の実施の一形態に係る車両挙動制御プログラムのフローチャートである。
【図4】本発明の実施の一形態に係るアクセル感応目標ヨーモーメントを算出する旋回状態に応じた制御ゲインの特性図である。
【図5】本発明の実施の一形態に係る操舵感応目標ヨーモーメントを算出する車速に応じた制御ゲインの特性図である。
【図6】本発明の実施の一形態に係る旋回内輪の前後制動力配分の一例を示す説明図である。
【図7】本発明の実施の一形態に係る車両挙動制御の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
図1において、符号1は車両前部に配置されたエンジンを示し、このエンジン1による駆動力は、エンジン1後方の自動変速装置(トルクコンバータ等も含んで図示)2からトランスミッション出力軸2aを経てトランスファ3に伝達される。
【0011】
更に、このトランスファ3に伝達された駆動力は、リヤドライブ軸4、プロペラシャフト5、ドライブピニオン軸部6を介して後輪終減速装置7に入力される一方、リダクションドライブギヤ8、リダクションドリブンギヤ9、ドライブピニオン軸部となっているフロントドライブ軸10を介して前輪終減速装置11に入力される。ここで、自動変速装置2、トランスファ3および前輪終減速装置11等は、一体にケース12内に設けられている。
【0012】
また、後輪終減速装置7に入力された駆動力は、後輪左ドライブ軸13rlを経て左後輪14rlに、後輪右ドライブ軸13rrを経て右後輪14rrに伝達される。前輪終減速装置11に入力された駆動力は、前輪左ドライブ軸13flを経て左前輪14flに、前輪右ドライブ軸13frを経て右前輪14frに伝達される。
【0013】
トランスファ3は、リダクションドライブギヤ8側に設けたドライブプレート15aとリヤドライブ軸4側に設けたドリブンプレート15bとを交互に重ねて構成したトルク伝達容量可変型クラッチとしての湿式多板クラッチ(トランスファクラッチ)15と、このトランスファクラッチ15の締結力(後軸駆動トルク)を可変自在に付与するトランスファピストン16とにより構成されている。従って、本車両は、トランスファピストン16による押圧力を制御し、トランスファクラッチ15の締結力を制御することで、トルク配分比が前輪と後輪で、例えば100:0から50:50の間で可変できるフロントエンジン・フロントドライブ車ベース(FFベース)の4輪駆動車となっている。
【0014】
トランスファピストン16の押圧力は、複数のソレノイドバルブ等を擁した油圧回路で構成するトランスファクラッチ駆動部31で与えられる。このトランスファクラッチ駆動部31を駆動させる制御信号(前後軸間の締結トルクCawd)は、後述する制御ユニット30から出力される。
【0015】
一方、符号32は車両のブレーキ駆動部を示し、このブレーキ駆動部32には、ドライバにより操作されるブレーキペダルと接続されたマスターシリンダ(図示せず)が接続されている。そして、ドライバがブレーキペダルを操作するとマスターシリンダにより、ブレーキ駆動部32を通じて、4輪14fl,14fr,14rl,14rrの各ホイールシリンダ(左前輪ホイールシリンダ17fl,右前輪ホイールシリンダ17fr,左後輪ホイールシリンダ17rl,右後輪ホイールシリンダ17rr)にブレーキ圧が導入され、これにより4輪が制動される。
【0016】
ブレーキ駆動部32は、加圧源、減圧弁、増圧弁等を備えたハイドロリックユニットで、上述のドライバによるブレーキ操作以外にも、後述する制御ユニット30からの信号(目標ブレーキ液圧:PBf(旋回内側前輪)、PBr(旋回内側後輪))に応じて、各ホイールシリンダ17fl,17fr,17rl,17rrに対して、それぞれ独立にブレーキ圧を導入自在に構成されている。
【0017】
制御部ユニット30には、車速センサ21、ハンドル角センサ22、アクセル開度センサ23、エンジン回転数センサ24、横加速度センサ25、路面摩擦係数推定装置26、トランスミッション制御装置27が接続されており、車速V、ハンドル角θH、アクセル開度θp、エンジン回転数ωe、車体横加速度(dy/dt)、路面摩擦係数μ、主変速ギヤ比iが、それぞれ入力される。
【0018】
そして、制御部ユニット30は、これらの入力信号に基づいて、エンジン駆動力Fdを算出し、該エンジン駆動力Fdに基づいて一次遅れ処理を行って前後軸間の締結トルクCawdを算出してトランスファクラッチ駆動部31に出力する。一方、エンジン駆動力Fdの時間的変化(駆動力の変化量ΔFd)に基づいて時間の経過と共に減衰する駆動力の変化に応じた制動力Fdtdを一次進み処理を行って算出し、駆動力の変化に応じた制動力Fdtdを基とするアクセル感応目標ヨーモーメントMdtを算出し、ハンドル角速度を基とする操舵感応目標ヨーモーメントMstを一次進み処理を行って算出し、これらアクセル感応目標ヨーモーメントMdtと操舵感応目標ヨーモーメントMstを基に旋回内輪に付加する制動力(目標ブレーキ液圧:PBf(旋回内側前輪)、PBr(旋回内側後輪))を算出し、ブレーキ駆動部32に出力するように構成されている。
【0019】
このため、制御ユニット30は、図2に示すように、エンジン駆動力算出部30a、前後軸間締結トルク算出部30b、駆動力の変化量算出部30c、駆動力の変化に応じた制動力算出部30d、アクセル感応目標ヨーモーメント算出部30e、操舵感応目標ヨーモーメント算出部30f、旋回内輪総制動力算出部30g、目標ブレーキ液圧算出部30hから主要に構成されている。
【0020】
エンジン駆動力算出部30aは、アクセル開度センサ23からアクセル開度θpが入力され、エンジン回転数センサ24からエンジン回転数ωeが入力され、トランスミッション制御装置27から主変速ギヤ比iが入力される。そして、例えば、以下の(1)式により、エンジン駆動力Fdを算出し、前後軸間締結トルク算出部30b、駆動力の変化量算出部30cに出力する。
Fd=f(θp,ωe)・(i・Gf)/Rt …(1)
ここで、f(θp,ωe)は、予め設定しておいたマップ(エンジン特性のマップ)を参照して、アクセル開度θp、エンジン回転数ωeを基に推定するエンジン出力トルクである。また、Gfはファイナルギヤ比、Rtはタイヤ径である。
【0021】
尚、エンジン駆動力Fdは、以下の(1)’式で算出するようにしても良い。
Fd=f(υa)・(i・Gf)/Rt …(1)’
ここで、f(υa)は、予め設定しておいたマップ(エンジン特性のマップ)を参照して、吸入空気量υaを基に算出する、実際のエンジン出力トルクである
前後軸間締結トルク算出部30bは、エンジン駆動力算出部30aからエンジン駆動力Fdが入力される。そして、例えば、以下の(2)式により、前後軸間の締結トルクCawdを算出してトランスファクラッチ駆動部31に出力する。
Cawd=(1/(1+Tawd・s))・Fd・Gawd …(2)
ここで、Tawdはローパスフィルタ(一次遅れフィルタ)の時定数、sはラプラス演算子、Gawdは制御ゲイン(所定値)である。
【0022】
すなわち、前後軸間の締結トルクCawdは、上述の(2)式に示すように、一次遅れで設定されるため、例えば、図7の前後駆動力配分制御の例で示すように、時刻t2で、ドライバ操作のアクセル開度の入力と共に制御量が設定された場合でも、従来の(一次遅れ処理の無い)前後駆動力配分制御のようにアクセル開度と共に制御量が増加されることがなく、遅れて追従していく特性となっている。
【0023】
駆動力の変化量算出部30cは、エンジン駆動力算出部30aからエンジン駆動力Fdが入力される。そして、例えば、以下の(3)式により、エンジン駆動力Fdの時間的な変化量(駆動力の変化量)ΔFdを算出し、駆動力の変化に応じた制動力算出部30dに出力する。
ΔFd=Fd−(1/(1+Tl・s))・Fd …(3)
ここで、Tlはローパスフィルタの時定数、sはラプラス演算子である。尚、本実施の形態では、駆動力の変化量ΔFdをフィルタ処理により算出しているが、単に、今回算出されたエンジン駆動力Fdから所定時間(例えば、1秒)前のエンジン駆動力Fdを減算することにより算出するようにしても良い。
【0024】
駆動力の変化に応じた制動力算出部30dは、駆動力の変化量算出部30cから駆動力の変化量ΔFdが入力される。そして、例えば、以下の(4)式により、駆動力の変化に応じた制動力Fdtdを算出して、アクセル感応目標ヨーモーメント算出部30eに出力する。
Fdtd=((Th・s)/(1+Th・s))・ΔFd …(4)
ここで、Thはハイパスフィルタ(一次進みフィルタ)の時定数である。
【0025】
すなわち、駆動力の変化に応じた制動力Fdtdは、上述の(4)式に示すように、一次進みで設定されるため、この値を基に制動力(制御量)を設定する場合は、例えば、図7のブレーキ制御の例で示すように、時刻t2で、ドライバ操作のアクセル開度の入力と共に制動力(制御量)が設定された場合、速やかに、この値を基とする制動力(制御量)が設定され、その後、次第に減衰する制御量が付加されることになる。
【0026】
アクセル感応目標ヨーモーメント算出部30eは、横加速度センサ25から車体横加速度(dy/dt)が入力され、駆動力の変化に応じた制動力算出部30dから駆動力の変化に応じた制動力Fdtdが入力される。そして、例えば、以下の(5)式により、アクセル感応目標ヨーモーメントMdtを算出して旋回内輪総制動力算出部30gに出力する。
Mdt=Fdtd・Gc …(5)
ここで、Gcは旋回状態に応じた制御ゲインであり、例えば、図4に示すマップを参照して設定される。この旋回状態に応じた制御ゲインGcのマップは、(車両の旋回状態を代表するパラメータとしての)車体横加速度(dy/dt)が略0に近い領域(直進走行に近い領域)では、旋回状態に応じた制御ゲインGcを0に設定するようになっている。すなわち、直進走行に近い領域では、ブレーキ制御でヨーモーメントを発生させて車両挙動を修正する必要が略無いため、ブレーキ制御の制御量の基となるアクセル感応目標ヨーモーメントMdtを0に設定するのである。尚、本実施の形態では、車両の旋回状態を代表するパラメータとしての車体横加速度(dy/dt)に応じて旋回状態に応じた制御ゲインGcを設定するようにしたが、他に、車両の旋回状態を代表するパラメータとしてヨーレートに応じて旋回状態に応じた制御ゲインGcを設定するようにしても良い。
【0027】
操舵感応目標ヨーモーメント算出部30fは、車速センサ21から車速Vが入力され、ハンドル角センサ22からハンドル角θHが入力され、横加速度センサ25から車体横加速度(dy/dt)が入力される。そして、例えば、以下の(6)式により、操舵感応目標ヨーモーメントMstを算出して旋回内輪総制動力算出部30gに出力する。
Mst=(dθH/dt)・((Ts・s)/(1+Ts・s))
・GMZV・|(dy/dt)| …(6)
ここで、Tsはハイパスフィルタ(一次進みフィルタ)の時定数である。また、GMZVは車速に応じた制御ゲインであり、例えば、図5に示すマップを参照して設定される。この車速Vに応じたヨーモーメントゲインGMZVの特性は、車速Vの小さい領域では、略0となっており、また、車速Vが大きな領域では、車速Vが大きくなるにつれて次第に減少する特性に設定されている。これは、車速Vが0に近い極低速の領域では、ブレーキ制御でヨーモーメントを発生させて車両挙動を修正する必要が略無いため、ブレーキ制御の制御量の基となる操舵感応目標ヨーモーメントMstを0に設定するためである。また、車速Vが高速になっていくと、やはり、ブレーキ制御でヨーモーメントを発生させて車両の操舵応答性を高める必要が略無いための特性となっている。
【0028】
また、操舵感応目標ヨーモーメントMstも、上述の(6)式に示すように、一次進みで設定されるため、この値を基に制動力(制御量)を設定する場合は、例えば、図7のブレーキ制御の例で示すように、時刻t1で、ドライバ操作のハンドル角の入力と共に制動力(制御量)が設定された場合、速やかに、この値を基とする制動力(制御量)が設定され、その後、次第に減衰する制御量が付加されることになる。
【0029】
旋回内輪総制動力算出部30gは、アクセル感応目標ヨーモーメント算出部30eからアクセル感応目標ヨーモーメントMdtが入力され、操舵感応目標ヨーモーメント算出部30fから操舵感応目標ヨーモーメントMstが入力される。そして、例えば、以下の(7)式により、旋回内輪の総制動力FBを算出し、目標ブレーキ液圧算出部30hに出力する。
FB=FBf+FBr=2・(Mdt+Mst)/w …(7)
ここで、FBfは旋回内側前輪の制動力、FBrは旋回内側後輪の制動力であり、後述の目標ブレーキ液圧算出部30hで説明する。
【0030】
目標ブレーキ液圧算出部30hは、横加速度センサ25から車体横加速度(dy/dt)が入力され、路面摩擦係数推定装置26から路面摩擦係数μが入力され、旋回内輪総制動力算出部30gから旋回内輪の総制動力FBが入力される。そして、以下の(8)、(9)式により、旋回内側前後輪の制動力FBf、FBrを算出し、以下の(10)、(11)式により、旋回内側前後輪の制動力PBf、PBrを算出してブレーキ駆動部32に出力する。
FBf=FB・DB …(8)
FBr=FB・(1−DB) …(9)
ここで、DBは、例えば、図6に示すような、予め設定しておいたマップを参照して設定される旋回内輪の制動力の前後配分比である。この旋回内輪の制動力の前後配分比DBは、本実施の形態では、タイヤのグリップ状態が限界に近づく(すなわち、|dy/dt|/μが大きくなる)に従って、制動力の前後配分比DBを静止時の接地荷重配分比に近い値から減少させて設定するようになっている。尚、旋回内輪の制動力の前後配分比DBは、このような特性とすることに限るものではない。
【0031】
PBf=FBf・KBf …(10)
PBr=FBr・KBr …(11)
ここで、KBf、KBrはブレーキ諸元(ホイールシリンダ径等)によって定まる定数である。
【0032】
次に、上述の制御部ユニット30で実行される車両挙動制御プログラムを、図3のフローチャートで説明する。
まず、ステップ(以下、「S」と略称)S101で、必要パラメータ、すなわち、車速V、ハンドル角θH、アクセル開度θp、エンジン回転数ωe、車体横加速度(dy/dt)、路面摩擦係数μ、主変速ギヤ比iを読み込む。
【0033】
次に、S102に進み、エンジン駆動力算出部30aで、前述の(1)式、或いは、(1)’式により、エンジン駆動力Fdを算出する。
【0034】
次いで、S103に進み、前後軸間締結トルク算出部30bで、前述の(2)式により、前後軸間の締結トルクCawdを算出してトランスファクラッチ駆動部31に出力する。
【0035】
次に、S104に進んで、駆動力の変化量算出部30cで、前述の(3)式により、エンジン駆動力Fdの時間的な変化量(駆動力の変化量)ΔFd0を算出する。
【0036】
次いで、S105に進み、駆動力の変化に応じた制動力算出部30dで、前述の(4)式により、駆動力の変化に応じた制動力Fdtdを算出する。
【0037】
次に、S106に進んで、アクセル感応目標ヨーモーメント算出部30eで、前述の(5)式により、アクセル感応目標ヨーモーメントMdtを算出する。
【0038】
次いで、S107に進み、操舵感応目標ヨーモーメント算出部30fで、前述の(6)式により、操舵感応目標ヨーモーメントMstを算出する。
【0039】
次に、S108に進み、旋回内輪制総動力算出部30gで、前述の(7)式により、旋回内輪の総制動力FBを算出する。
【0040】
次いで、S109に進んで、目標ブレーキ液圧算出部30hで、前述の(8)、(9)式により、旋回内側前後輪の制動力FBf、FBrを算出する。
【0041】
そして、S110に進み、前述の(10)、(11)式により、旋回内側前後輪の制動力PBf、PBrを算出してブレーキ駆動部32に出力して、プログラムを抜ける。
【0042】
本実施の形態により、上述のように制御される車両挙動制御の一例を、図7のタイムチャートで説明する。このタイムチャートは、ドライバが、時刻t1で操舵を行った後、時刻t2でアクセルペダルを踏み込んだ例を示している。
【0043】
従って、ドライバの操舵入力が行われた、時刻t1では、前述の(6)式で算出される操舵感応目標ヨーモーメントMstによる旋回内輪制動力が一次進みで設定されて出力される。
【0044】
この時刻t1による操舵入力により、従来では、図中の破線に示すように、ある車体すべり角(この例では若干ヘッドアウトする方向)の車両挙動が発生されるが、上述の操舵感応目標ヨーモーメントMstによる旋回内輪への制動力の付加により、図中の実線で示すように、ヘッドイン方向に車両挙動が修正される。(尚、本実施の形態では、操舵入力による前後駆動力配分制御の変化は無い例となっている)
この状態で、時刻t2でドライバがアクセル入力を行うと、前後駆動力配分制御では、前述の(2)式で算出される前後軸間の締結トルクCawdが出力される。前述の如く、本実施の形態では、前後軸間の締結トルクCawdは、一次遅れで設定されるため、時刻t2で、ドライバ操作のアクセル開度の入力と共に制御量が設定された場合でも、従来の(一次遅れ処理の無い)前後駆動力配分制御のようにアクセル開度と共に制御量が増加されることがなく、遅れて追従していく特性となっている。
【0045】
また、時刻t2では、前述の(4)、(5)式で算出されるアクセル感応目標ヨーモーメントMdtによる旋回内輪制動力が一次進みで設定されて出力される。
【0046】
従って、車両は、まず、ブレーキ制御によるアクセル感応目標ヨーモーメントMdtによる旋回内輪への制動力の付加により、図中の実線で示すように、ヘッドイン方向に車両挙動が修正されて、その後、トランスファクラッチ15が締結されるようになり、従来のヘッドアウトを助長する傾向が防止され、ドライバの意図する旋回性能を発揮できるようになっている。
【0047】
このように、本発明の実施の形態によれば、エンジン駆動力Fdを算出し、該エンジン駆動力Fdに基づいて一次遅れ処理を行って前後軸間の締結トルクCawdを算出してトランスファクラッチ駆動部31に出力する。一方、エンジン駆動力Fdの時間的変化(駆動力の変化量ΔFd)に基づいて時間の経過と共に減衰する駆動力の変化に応じた制動力Fdtdを一次進み処理を行って算出し、駆動力の変化に応じた制動力Fdtdを基とするアクセル感応目標ヨーモーメントMdtを算出し、ハンドル角速度を基とする操舵感応目標ヨーモーメントMstを一次進み処理を行って算出し、これらアクセル感応目標ヨーモーメントMdtと操舵感応目標ヨーモーメントMstを基に旋回内側内輪に付加する制動力(目標ブレーキ液圧:PBf(旋回内側前輪)、PBr(旋回内側後輪))を算出し、ブレーキ駆動部32に出力するようになっている。このため、ブレーキ制御によって所定のヘッドイン状態へ遷移させながらトランスファクラッチ15を締結するようになっているため、前後駆動力配分制御とブレーキ制御とを協調させて、操舵応答性とトラクション性能とを適切に両立させることが可能となっている。
【符号の説明】
【0048】
1 エンジン
2 自動変速装置
3 トランスファ
14fl、14fr、14rl、14rr 車輪
15 トランスファクラッチ
21 車速センサ
22 ハンドル角センサ
23 アクセル開度センサ
24 エンジン回転数センサ
25 横加速度センサ
26 路面摩擦係数推定装置
27 トランスミッション制御装置
30 制御ユニット
30a エンジン駆動力算出部
30b 前後軸間締結トルク算出部
30c 駆動力の変化量算出部
30d 駆動力の変化に応じた制動力算出部
30e アクセル感応目標ヨーモーメント算出部
30f 操舵感応目標ヨーモーメント算出部
30g 旋回内輪総制動力算出部
30h 目標ブレーキ液圧算出部
31 トランスファクラッチ駆動部
32 ブレーキ駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運動状態に応じて前後軸間の締結トルクを制御する前後駆動力配分制御手段と、車両の運転状態に応じて設定した車輪に制動力を付加する制動力制御手段とを備えた車両挙動制御装置において、
上記前後駆動力配分制御手段による上記前後軸間の締結は、上記制動力制御手段による上記制動力の付加よりも遅らせて実行させることを特徴とする車両挙動制御装置。
【請求項2】
上記前後駆動力配分制御手段は、上記前後軸間の締結トルクに遅れ処理を行って算出することを特徴とする請求項1記載の車両挙動制御装置。
【請求項3】
上記制動力制御手段は、上記車輪に付加する制動力に進み処理を行って算出することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両挙動制御装置。
【請求項4】
上記前後駆動力配分制御手段が算出する上記前後軸間の締結トルクと上記制動力制御手段が算出する上記制動力は、少なくとも車両の駆動力に応じて算出することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の車両挙動制御装置。
【請求項5】
上記制動力制御手段が算出する上記制動力は、旋回中の駆動力の時間的な変化と操舵変化に基づいて算出することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の車両挙動制御装置。
【請求項6】
上記制動力制御手段が上記制動力を付加する車輪は旋回内輪であることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一つに記載の車両挙動制御装置。
【請求項7】
上記制動力制御手段が算出する上記制動力は、時間に応じた減衰処理して算出することを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の車両挙動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−56511(P2012−56511A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203398(P2010−203398)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】