説明

車両用エンジンマウントの支持装置

【課題】前側取付部と後側取付部とによってマウントインシュレータを車体に取り付ける車両用エンジンマウントの支持装置において、エンジンルーム内のレイアウトの自由度を向上するとともに、エンジンマウントの固有振動数を高めてパワートレインから車体に伝わる振動を低減することにある。
【解決手段】エンジンマウント(13)の前側取付部(19)と後側取付部(20)とを、マウントインシュレータ(18)の上端(18T)よりも低い位置で車両前後方向に延びるとともにマウントブラケット(17)の上方を跨ぐ補強部材(22)によって連結している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用エンジンマウントの支持装置に係り、特に数箇所に分かれている取付部を備えた車両用エンジンマウントの支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のパワートレインを支持する支持装置において、図9に示すように、パワートレイン101を車体102に支持するエンジンマウント103は、マウントインシュレータ104の車両前側及び車両後側で、取付部として前側取付部105と後側取付部106とを設け、この前側取付部105と後側取付部106とを介して車体102に取り付けられているものがある。また、エンジンマウント103には、パワートレイン101から延びるマウントブラケット107が連結している。
しかしながら、パワートレイン101から伝達される振動によって、パワートレイン101側の取付部位が大きく変位・変形し、パワートレイン101から車体102に伝わる振動が増加するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−47416号公報
【0004】
上記の特許文献1に係る防振マウントは、保持部材の凹字形の支持部にストッパ部材の両端部を圧入して、ストッパ部材を簡単に組み付け、また、マウントインシュレータの上方を覆うストッパ部材を設けて、パワートレインから車体に伝わる振動を抑制するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記の特許文献1では、マウントインシュレータの上方にストッパ部材が突出してしまい、鉛直方向にエンジンマウントの大型化を招くという不具合があった。そのため、エンジンマウントからエンジンフードまでの空間が狭くなり、無駄なスペースができてしまうという不都合が生じた。
【0006】
また、一般的に、エンジンマウントの取付部は、エンジンマウントの車体への取付剛性を高めるため、エンジンマウントの周囲に数箇所でバランス良く配置されている。このエンジンマウントの取付部の剛性は、車両NVH性能に寄与するため、十分高いことが望まれている。
しかしながら、特に、横置きエンジン・変速機の車両における車両右側(エンジン側)のエンジンマウント等では、エンジンマウントとエンジンの隙間が狭く、取付部の形状の設計自由度小さいため、取付部の剛性及びエンジンマウントの剛性を向上させるのが難しい場合が多かった。
また、取付部の板厚を厚くすることで、取付部の剛性を向上させることは可能であるが、その方法では、取付部の重量も大きくなるという不都合があった。
更に、取付部が板金製のエンジンマウントでは、その形状の設計自由度が小さいので、取付部に他部品を取り付けることが少なく、エンジンマウントの上方に空きスペースができてしまう場合が多かった。
【0007】
そこで、この発明の目的は、エンジンルーム内のレイアウトの自由度を向上するとともに、エンジンマウントの固有振動数を高めてパワートレインから車体に伝わる振動を低減する車両用エンジンマウントの支持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、外筒内に弾性体を介して内筒を支持し、前記内筒にパワートレインから延びるマウントブラケットが連結されるマウントインシュレータを車体に配置し、前記外筒の車両前側及び車両後側に夫々前側取付部と後側取付部とを設け、前記前側取付部と前記後側取付部とによって前記マウントインシュレータを前記車体に取り付ける車両用エンジンマウントの支持装置において、前記前側取付部と前記後側取付部とを前記マウントインシュレータの上端よりも低い位置で車両前後方向に延びるとともに前記マウントブラケットの上方を跨ぐ補強部材によって連結したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明の車両用エンジンマウントの支持装置は、エンジンルーム内のレイアウトの自由度を向上するとともに、エンジンマウントの固有振動数を高めてパワートレインから車体に伝わる振動を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は車両前部の平面図である。(実施例)
【図2】図2は車両前部の正面図である。(実施例)
【図3】図3は車両前部の右側面図である。(実施例)
【図4】図4はエンジンマウントの斜視図である。(実施例)
【図5】図5はエンジンマウントの分解図である。(実施例)
【図6】図6はエンジンマウントを車室内側から視た図である。(実施例)
【図7】図7はエンジンマウントを車両後方から視た図である。(実施例)
【図8】図8はエンジンマウントを車室内側から視た図である。(変形例)
【図9】図9はエンジンマウントの斜視図である。(従来例)
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明は、エンジンルーム内のレイアウトの自由度を向上するとともに、エンジンマウントの固有振動数を高めてパワートレインから車体に伝わる振動を低減する目的を、前側取付部と後側取付部とをマウントインシュレータの上端よりも低い位置で車両前後方向に延びるとともにマウントブラケットの上方を跨ぐ補強部材によって連結して実現するものである。
【実施例】
【0012】
図1〜図7は、この発明の実施例を示すものである。
図1〜図3において、1は車両、2は車体、3はダッシュパネル、4はエンジンフード、5はエンジンルーム、6Rは右前輪、6Lは左前輪である。
車体2は、車両前後方向に延びる一対のサイドフレームとしての、右サイドフレーム7R・左サイドフレーム7Lで構成される。
エンジンルーム5には、エンジン8とこのエンジン8に連結した変速機9とを車両幅方向に横置きしたパワートレイン10が、右サイドフレーム7Rと右サイドフレーム7Lとの間に配置されているとともに、このパワートレイン10の前方でラジエータ11が配置されている。
【0013】
パワートレイン10のエンジン8の右部は、支持装置12によって支持される。
この支持装置12は、パワートレイン10の右部でエンジン8を支持するエンジンマウント13を備える。
このエンジンマウント13は、図5、図6に示すように、外筒14内に弾性体(ゴム材等)15を介して内筒16を支持し、この内筒16にパワートレイン10から延びるマウントブラケット17が連結され、このマウントブラケット17の先端部がこの外周面に巻かれたストッパゴム45を介して連結されるマウントインシュレータ18を車体2の右サイドフレーム7Rに配置し、また、外筒14の車両前側及び車両後側に夫々前側取付部19と後側取付部20とを設け、前側取付部19と後側取付部20とによってマウントインシュレータ18を右サイドフレーム7Rに取り付けている。また、外筒14には、車両内側に延びて車体2に固定される内側取付部21が設けられている。
【0014】
このエンジンマウント13において、前側取付部19と後側取付部20とは、図6に示すように、マウントインシュレータ18の上端18Tよりも低い位置で車両前後方向に延びるとともにマウントブラケット17の上方を跨ぐ補強部材22によって連結され、そして、図5、図7に示すように、右サイドフレーム7Rの上面に固設した前側エクステンションブラケット23と後側エクステンションブラケット24とに締結点Pとなる前側締結ボルト25と後側締結ボルト26とによって取り付けられる。
補強部材22は、図5、図6に示すように、マウントインシュレータ18の左側面とを取り囲んで前側取付部19と後側取付部20とに連結する側面部27を備える。この側面部27には、強度向上のためのビード28が車両前後方向に延びて形成されている。
このように、前側取付部19と後側取付部20とを補強部材22で連結したことで、前側取付部19と後側取付部22との変位や動きを連動させることができ、前側取付部19と後側取付部20とが別々に変動又は変形するのを規制できる。
また、特に、パワートレイン10に車両上下方向の振動が作用してエンジンマウント13に車両上下方向の荷重が入力された際、変位量又は変形量が最も大きい前側取付部19と後側取付部20との車両幅方向内側に位置する部分の動きを補強部材22で抑制することができる。これによって、前側取付部19と後側取付部20との動きを規制できるとともに変位量又は変形量を抑制できるため、補強部材22でエンジンマウント13全体の固有振動数を高めることができ、パワートレイン10から車体2に伝わる振動を低減できる。
さらに、このような構造にすることで、補強部材22がエンジンマウント13(又はマウントインシュレータ18)の車両上方に突出するのが防止できるため、エンジンフード4の高さを高くすることなく、エンジンマウント13(又はマウントインシュレータ18)上方の空間29を拡大でき、この空間29を利用してエンジンマウント13(又はマウントインシュレータ18)の上方に車載部品を配置することができ、レイアウトの自由度を向上させることができる。
【0015】
また、図7に示すように、前側取付部19と後側取付部20との少なくとも一方としての後側取付部20には、車体2への締結点Pの両側から鉛直方向へ延びる一対の右側縦壁部30R・左側縦壁部30Lを連結する。そして、補強部材22には、右側縦壁部30R・左側縦壁部30Lに連結されるハット型断面の連結部31を形成する。
このような構造により、前側取付部19と後側取付部20とに対する補強部材22の結合力を高めることができる。これによって、補強部材22の剛性が高まり、エンジンマウント13の固有振動数を向上でき、振動低減効果を高めることができる。
【0016】
更に、図1〜図5に示すように、パワートレイン10を冷却する冷却水が流れるデガッシングタンク32は、マウントインシュレータ18の上方に配設しかつ弾性体としての後側弾性体33を介して補強部材22に取り付けられる。後側弾性体33は、上下方向の貫通孔34を備え、この貫通孔34の上方からデガッシングタンク32の下部の支持軸35を挿通させ、この支持軸35が後側弾性体33を介して補強部材22の挿入孔36に挿入することで、デガッシングタンク32を弾性支持する。
また、デガッシングタンク32は、前部にタンク用ボルト37が設けられる前側タンクブラケット38を備え、タンク用ボルト37に前側弾性体39を介して段差形状の固定用ブラケット40の一端部の一端側ボルト孔41に挿入するとともに、固定用ブラケット40の他端をマウントインシュレータ18よりも前側の補強部材22の固定用部42に固定用ボルト等で固定することで、エンジンマウント13に弾性支持される。なお、デガッシングタンク32には、後側タンクブラケット43が設けられている。
このような構造により、エンジンフード4の高さを高くすることなく、エンジンマウント13の上方に形成された拡大された空間29を利用してデガッシングタンク32を弾性体33・39を介して補強部材22に取り付けることができるため、デガッシングタンク32がマスとなり、デガッシングタンク32をダイナミックダンパとして機能させることができ、パワートレイン10からエンジンマウント13を介して車体2に伝わる振動を低減することができる。
また、この空間29(エンジンマウント13の上方に形成される空間)を利用することで、デガッシングタンク32をエンジンルーム5の高い位置(又は冷却水路内で最も高くなる位置)に配置できる。
【0017】
図8は、この実施例に係る変形例である。
図8に示すように、補強部材22には、前側取付部19と後側取付部20とに連結する縦壁部44を一体的に形成した。
このような構造により、補強部材22と前側取付部19・後側取付部20との組み付け等を簡便に行わせることができる。
【0018】
なお、この実施例においては、エンジンマウントの前側取付部と後側取付部とに組み付ける部品としては、デガッシングタンク以外の他の部品でも適用可能である。
また、デガッシングタンクの取付部位を省略し、前側取付部と後側取付部とに直接補強部材を固定する構造でも可である。
更に、デガッシングタンクブラケットを補強部材に一体化することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0019】
この発明に係る車両用エンジンマウントの支持装置を、各種車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0020】
1 車両
2 車体
4 エンジンフード
5 エンジンルーム
8 エンジン
9 変速機
10 パワートレイン
12 支持装置
13 エンジンマウント
14 外筒
15 弾性体
16 内筒
17 マウントブラケット
18 マウントインシュレータ
19 前側取付部
20 後側取付部
22 補強部材
27 補強部材の側面部
29 空間
30R 右側縦壁部
30L 左側縦壁部
31 連結部
32 デガッシングタンク
33 後側弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒内に弾性体を介して内筒を支持し、前記内筒にパワートレインから延びるマウントブラケットが連結されるマウントインシュレータを車体に配置し、前記外筒の車両前側及び車両後側に夫々前側取付部と後側取付部とを設け、前記前側取付部と前記後側取付部とによって前記マウントインシュレータを前記車体に取り付ける車両用エンジンマウントの支持装置において、前記前側取付部と前記後側取付部とを前記マウントインシュレータの上端よりも低い位置で車両前後方向に延びるとともに前記マウントブラケットの上方を跨ぐ補強部材によって連結したことを特徴とする車両用エンジンマウントの支持装置。
【請求項2】
前記前側取付部と前記後側取付部との少なくとも一方には前記車体への締結点の両側から鉛直方向へ延びる一対の縦壁部を連結し、前記補強部材には前記縦壁部に連結されるハット型断面の連結部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の車両用エンジンマウントの支持装置。
【請求項3】
前記パワートレインを冷却する冷却水が流れるデガッシングタンクを、前記マウントインシュレータの上方に配設しかつ弾性体を介して前記補強部材に取り付けたことを特徴とする請求項2に記載の車両用エンジンマウントの支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−61958(P2012−61958A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207825(P2010−207825)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】