説明

車両用ハイブリッド駆動装置のモード切り替え制御装置

【課題】自動変速機の変速と、電気走行モードからエンジン走行モードへの切り替えとを同時に行っても、変速ショックが大きくならないようなモード切り替えとする。
【解決手段】電気(EV)走行中(S1)、アクセル開度APOの増大(S2)により要求駆動力tFdがEV走行上限駆動力Fevmaxを超えたり(S3)、バッテリ蓄電状態SOCがEV走行下限値SOCevmin未満になる時(S13)、エンジン走行への切り替え要求と判断して、S4で、エンジンを始動させると共にその回転数を変速前変速機入力回転数Nmに向け上昇させる。S5で、変速が予想される領域に入ったと判定した以後は、S6で、エンジン回転数をNmでなく、変速後変速機入力回転数Nm+1に向かうよう制御する。S7で、設定時間Δtのうちに変速が開始されたと判定する時、S8,S9でエンジン回転数RevEngがNm+1に一致し、且つ、変速機入力回転数RevATにほぼ一致したと判定することを条件に、S10で、エンジン走行レンジ用のクラッチを締結して、エンジン走行モードへの切り替えを完了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン以外にモータ/ジェネレータからの動力によっても走行することができ、モータ/ジェネレータからの動力のみによる電気走行モード(EV走行モード)と、エンジンからの動力のみにより、若しくは、エンジンからの動力とモータ/ジェネレータからの動力とで車両を走行させるエンジン走行モードとを有する車両用ハイブリッド駆動装置のモード切り替え制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用ハイブリッド駆動装置としては従来、様々な型式のものが提案されているが、
クラッチを介してエンジン回転を入力される自動変速機を具え、
該クラッチを解放させると共にエンジンを停止させた状態で、該クラッチと自動変速機の出力軸との間における駆動系に結合したモータ/ジェネレータからの動力のみにより車両を走行させる電気走行モード(EV走行モード)と、
エンジンを始動させると共に上記クラッチを締結させることで、エンジンからの動力のみにより、若しくは、エンジンからの動力と前記モータ/ジェネレータからの動力とで車両を走行させるエンジン走行モードとを有するようなものが考えられる。
【0003】
ところで、かかるハイブリッド駆動装置において、電気走行モード(EV走行モード)とエンジン走行モードの間でのモード切り替えと、自動変速機の変速とが同時に行われると、自動変速機の変速ショックが大きくなる傾向となり、この傾向は、エンジンの始動および上記クラッチの締結を伴う電気走行モードからエンジン走行モードへの切り替え時に特に顕著となる。
【0004】
その対策としては、従来より特許文献1により提案されている技術を用いることが考えられる。
この技術は、ハイブリッド駆動装置のモード切り替え(電気走行モードからエンジン走行モードへの切り替え)と、自動変速機の変速とが同時に発生する場合、モード切り替えを一時的に禁止して自動変速機の変速を先行させ、変速の完了後にモード切り替えを実行することにより、これら両者が同時に行われて変速ショックが大きくなるのを防止するというものである。
【特許文献1】特開平10−002241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、かようにモード切り替えを一時的に禁止して変速の完了後に行うというのでは、かかるモード切り替えの遅延中に最適でないモードで走行していることとなり、エンジンの燃費が悪化したり、運転性能の悪化を招く。
【0006】
例えば電気走行モードでの走行中に急加速したくてエンジン出力が必要になった場合、運転者はアクセルペダルを踏み込むが、この場合、電気走行モードからエンジン走行モードへのモード切り替えと、自動変速機の変速とが同時に要求される。
これらモード切り替えと変速とが同時に行われて変速ショックが大きくなるのを防止するため上記のごとく、モード切り替えを一時的に禁止して変速の完了後に行わせると、モード切り替えの遅延中に電気走行モードでの走行を余儀なくされることになり、変速中はエンジンからの動力がないことによって要求通りの急加速を行うことができない。
【0007】
なお変速ショックが大きくなるのを防止する対策としては、上記とは逆に、モード切り替えを先行して行わせ、これが完了するまで自動変速機の変速を遅延させる手法もある。
しかしこの場合、モード切り替えの進行によりエンジンが始動された後も変速が行われていないことにより、エンジン回転数が必要以上に高くなって燃費の悪化を招くという問題が発生する。
【0008】
本発明は、上記の問題がモード切り替えおよび変速のいずれかを遅延させることに起因するとの事実認識に基づき、
これらモード切り替えおよび変速のいずれも遅延させないで継続的に実行させることを主旨とし、それにもかかわらず変速ショックが大きくなることのないようなモード切り替え制御を具体化することにより、
上記の問題を生ずることなく変速ショックの軽減を可能にした車両用ハイブリッド駆動装置のモード切り替え制御装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のため、本発明の車両用ハイブリッド駆動装置のモード切り替え制御装置は、請求項1に記載した以下の構成とする。
先ず、前提となるハイブリッド駆動装置を説明するに、これは、
クラッチを介してエンジン回転を入力される自動変速機を具え、
該クラッチを解放させると共にエンジンを停止させた状態で、該クラッチと自動変速機の出力軸との間における駆動系に結合したモータ/ジェネレータからの動力のみにより車両を走行させる電気走行モードと、
前記エンジンを始動させると共に前記クラッチを締結させることで、エンジンからの動力のみにより、若しくは、エンジンからの動力と前記モータ/ジェネレータからの動力とで車両を走行させるエンジン走行モードとを有したものとする。
【0010】
本発明のモード切り替え制御装置は、かかる車両用ハイブリッド駆動装置に対し、
電気走行モードからエンジン走行モードへのモード切り替えが必要になったのを検知するモード切り替え要求検知手段と、
該手段により前記モード切り替えが必要になったと判定した時に前記エンジンを始動させるエンジン始動手段と、
該手段によるエンジン始動後に、前記自動変速機の変速が要求されるのを検知する変速要求検知手段と、
該手段による変速要求の検知後は、前記エンジンの目標回転数を自動変速機の変速前入力回転数から、自動変速機の出力回転数および変速後ギヤ比より判る自動変速機の変速後入力回転数に変更して、このエンジン目標回転数に向けエンジン回転数を上昇させるエンジン回転制御手段と、
該手段によるエンジン回転数の上昇でエンジン回転数が前記エンジン目標回転数に一致すると共に自動変速機の入力回転数にほぼ一致した時に前記クラッチを締結させるクラッチ締結手段とを設けた構成に特徴づけられる。
【発明の効果】
【0011】
かかる本発明の車両用ハイブリッド駆動装置のモード切り替え制御装置によれば、以下の作用効果が得られる。
モード切り替え要求検知手段が電気走行モードからエンジン走行モードへのモード切り替えが必要になったのを検知すると、エンジン始動手段がエンジンを始動させる。
かかるエンジン始動後に、自動変速機の変速が要求されるのを変速要求検知手段が検知した後は、エンジン回転制御手段が、エンジンの目標回転数を自動変速機の変速前入力回転数から変速後入力回転数に変更してこのエンジン目標回転数に向けエンジン回転数を上昇させる。
これによるエンジン回転数の上昇でエンジン回転数が上記エンジン目標回転数に一致すると共に自動変速機の入力回転数にほぼ一致した時にクラッチ締結手段が上記のクラッチを締結させてモード切り替えを完了する。
【0012】
従って、自動変速機の変速中もモード切り替えを進行させることとなり、これら変速およびモード切り替えの一方を他方が完了するまで遅延させる場合に生ずる前記の問題、
つまり、当該モード切り替えの遅延中に最適なモードで走行されなくて燃費が悪化したり、運転性能の低下を招くという問題や、
変速の遅延でエンジン回転数が必要に以上に高くなって燃費が悪化するという問題を生ずることがない。
【0013】
そして、自動変速機の変速およびモード切り替えを同時に進行させるといえども、
エンジン回転数が、自動変速機の変速後入力回転数と同じ値に定めたエンジン目標回転数に一致すると共に自動変速機の入力回転数にほぼ一致した時(変速完了時)にクラッチを締結させてモード切り替えを完了するから、
変速機の入力回転数が変化している変速中にクラッチの締結(モード切り替えの最終動作)が行われることがないことにより、変速と同時に行うモード切り替えが変速ショックを大きくする原因とはならず、変速ショックが大きくなるのを防止するという本来の目的を確実に達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明のモード切り替え制御装置を適用可能なハイブリッド駆動装置を具えた車両のパワートレーンを示す。
図1において、1はエンジンであり、該エンジン1の車両前後方向後方に自動変速機2を配置し、エンジン1(クランクシャフト1a)からの回転を自動変速機2の入力軸2aへ伝達する軸3に結合してモータ/ジェネレータ4を設ける。
【0015】
モータ/ジェネレータ4は、モータとして作用したり、ジェネレータ(発電機)として作用するもので、エンジン1および自動変速機2間に配置する。
このモータ/ジェネレータ4およびエンジン1間に、より詳しくは、軸3とエンジンクランクシャフト1aとの間にエンジンクラッチ5を介挿し、このエンジンクラッチ5によりエンジン1およびモータ/ジェネレータ4間を切り離し可能に結合する。
【0016】
自動変速機2は、変速機入力軸2aおよび変速機出力軸2b間に複数の伝動系路を形成可能な複数の図示せざる遊星歯車組を内蔵すると共に、前進用発進クラッチ6を含む複数の摩擦要素(クラッチやブレーキ等)を内蔵し、これら前進用発進クラッチ6を含む複数の摩擦要素(クラッチやブレーキ等)を選択的に締結したり解放することで、これら摩擦要素の締結・解放組み合わせにより、変速機入力軸2aおよび変速機出力軸2b間の伝動系路(変速段)を決定するものとする。
【0017】
ここで前進用発進クラッチ6は、前進変速段(少なくとも発進変速段)を選択する時に締結させて変速機入力軸2aおよび変速機出力軸2b間を伝動可能にするための摩擦要素である。
【0018】
自動変速機2は、変速機入力軸2aへの回転を選択変速段に応じた変速比で変速して変速機出力軸2bに向かわせ、この軸2bからの出力回転は、ディファレンシャルギヤ装置7および左右ドライブシャフト8L,8Rを順次経て図示せざる左右後輪に達し、車両を走行させるのに用いられる。
【0019】
上記の構成になる車両のパワートレーンは、停車状態からの発進時などに用いられる電気走行(EV走行)モードが要求される場合、エンジンクラッチ5を解放し、前進用発進クラッチ6を締結して自動変速機4を前進変速段選択状態にする。
【0020】
この状態でモータ/ジェネレータ4を駆動すると、当該モータ/ジェネレータ4からの出力回転のみが変速機入力軸2aに達することとなり、自動変速機2が当該入力軸2aへの回転を選択中の前進変速段に応じ変速して、変速機出力軸2bよりディファレンシャルギヤ装置7および左右ドライブシャフト8L,8Rを順次経由し、図示せざる左右後輪に向かわせることで、車両をモータ/ジェネレータ4からの動力のみにより電気走行(EV走行)させることができる。
【0021】
なお上記のEV走行は前進走行時のそれであるが、後退変速段でのEV走行に当たっては、自動変速機2を図示せざる後退用摩擦要素の締結により後退変速段選択状態にする必要があることは言うまでもない。
【0022】
高速走行時や大負荷走行時などで用いられるエンジン走行モードが要求される場合、エンジンクラッチ5を締結すると共に、前進用発進クラッチ6を締結して自動変速機2を前進変速段選択状態にする。
この状態では、エンジン1からの動力およびモータ/ジェネレータ4からの動力の双方が変速機入力軸2aに達することとなり、自動変速機2が当該入力軸2aへの回転を選択中の前進変速段に応じた変速比で変速して、変速機出力軸2bよりディファレンシャルギヤ装置7および左右ドライブシャフト8L,8Rを順次経由し、図示せざる左右後輪に向かわせることで、車両をエンジン1およびモータ/ジェネレータ4の双方によって走行させることができる。
【0023】
なお当該エンジン走行モードは、モータ/ジェネレータ4をモータとして作動させないことにより、車両をエンジン1からの動力のみにより走行させる状態をも含むものであり、この場合、最適燃費となるよう運転させているエンジン1の動力が余るような状況のもとではモータ/ジェネレータ4を発電機として機能させ、余剰エンジン動力を電気エネルギーに変換して蓄電することにより、以後のモータ/ジェネレータ4のモータ駆動に用いることでエネルギー効率を高め、エンジン1の燃費を向上させることができる。
【0024】
なお図1では、モータ/ジェネレータ4および変速機出力軸2b間を切り離し可能に結合する摩擦要素として、自動変速機2内に既存する前進用発進クラッチ6または後退用発進摩擦要素(図示せず)を流用することとしたが、専用の摩擦要素を付加してもよい。
この場合当該専用の摩擦要素は、変速機入力軸2aと軸3との相互突き合わせ部に介在させて、これら軸2a,3間を断接することにより、モータ/ジェネレータ4および変速機出力軸2b間を切り離し可能に結合する機能を果たして、前記電気走行モードおよびエンジン走行モードを実現するようになすのが好ましい。
【0025】
ところで、本発明のモード切り替え制御装置を適用可能なハイブリッド駆動装置は、図2に示すごとくモータ/ジェネレータ4にタンデムに付加して別のモータ/ジェネレータ9を設けたハイブリッド駆動装置であってもよい。
つまり、エンジンクランクシャフト1aに結合した軸10と、モータ/ジェネレータ4が結合されている軸3との間を、前記のクラッチ5により切り離し可能に結合し、軸10に結合して上記別のモータ/ジェネレータ9を設ける。
かかるハイブリッド駆動装置においても、電気走行モードではクラッチ5を解放し、クラッチ6を締結することで、所定の電気走行を行わせることができ、また、エンジン走行モードではクラッチ5をも締結することで、所定のエンジン走行を行わせることができる。
【0026】
図1または図2に示す車両用ハイブリッド駆動装置のモード切り替え制御および自動変速機2の変速制御は、図示せざるコントローラによりこれを実行する。
このコントローラが行う自動変速機2の変速制御を先ず説明するに、この変速制御に際しては、図3に示す予定の変速スケジュールマップをもとに、エンジン出力を加減するアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)APOと、変速機出力軸2bの回転数に応じた車速VSPとの組み合わせ(車両運転状態)から、目標変速段(第1速〜第4速)を決定し、この目標変速段が選択されるよう自動変速機2を変速制御する。
【0027】
なお、図3における実線がそれぞれ、第1速から第2速への1→2アップシフト変速線、第2速から第3速への2→3アップシフト変速線、第3速から第4速への3→4アップシフト変速線を示し、同図における波線がそれぞれ、第4速から第3速への4→3ダウンシフト変速線、第3速から第2速への3→2ダウンシフト変速線、第2速から第1速への2→1ダウンシフト変速線を示す。
コントローラは、上記アクセル開度APOおよび車速VSPの組み合わせ点(車両運転状態)が、実線で示すアップシフト変速線を通過して低速側変速段域から高速側変速段域に入る時に対応するアップシフトを行わせ、運転状態が波線で示すダウンシフト変速線を通過して高速側変速段域から低速側変速段域に入る時に対応するダウンシフトを行わせる。
【0028】
次に、コントローラが実行する変速中の電気(EV)走行モードからエンジン走行モードへのモード切り替え制御を、図4に基づき説明する。
コントローラは、アクセル開度APOおよび車速VSPから車両の要求駆動力を演算し、これと、バッテリ蓄電状態SOC(持ち出し可能電力)とから、電気(EV)走行モードを選択すべきか、エンジン走行モードを選択すべきかを決定し、選択したモードでの走行を行うべくクラッチ5,6を締結・解放制御すると共に、エンジン1の運転およびモータ/ジェネレータ4の作動を行わせる。
【0029】
本発明が、変速中に電気(EV)走行モードからエンジン走行モードへモード切り替えする場合のモード切り替えを制御対象としていることから、いま図4のステップS1で電気(EV)走行モードが選択され、当該モードで車両を走行させているものとして説明を開始する。
このモードでは前記した通り、クラッチ5が解放され、クラッチ6が締結され、エンジン1が停止されていて、車両をモータ/ジェネレータ4からの動力のみにより電気(EV)走行させている。
【0030】
かかる走行中、ステップS2でアクセル開度APOの増大があった場合、ステップS3で車両要求駆動力tFdが、バッテリ出力およびモータ/ジェネレータ出力から判るEV走行で実現可能なEV走行上限駆動力Fevmaxよりも大きいか否かをチェックする。
図5および図6の瞬時t1におけるようにアクセル開度APOを増大させた結果、車両要求駆動力tFdが図5に示すようにEV走行上限駆動力Fevmaxよりも大きくなった場合、EV走行モードからエンジン走行モードへのモード切り替えが必要であるから、図4のステップS3はモード切り替え指令を発して制御をステップS4に進める。
従ってステップS3は、本発明におけるモード切り替え要求検知手段に相当する。
【0031】
ステップS4ではエンジン1を始動させるよう指令し、その時のエンジン目標回転数tRevEngを、今の自動変速機2の入力回転数RevATから求めた、クラッチ5を締結する時に判断資料とする初期エンジン目標回転数Nm(図5参照)として、当初はエンジン回転数RevEngを図5に示すごとくこの目標値tRevEng=Nmに向け上昇させる。
従ってステップS4は、本発明におけるエンジン始動手段に相当する。
なお初期エンジン目標回転数Nmの決定に際しては、自動変速機2の入力回転数RevATおよびその変化速度から、変速が開始される直前における自動変速機の変速前入力回転数を求め、これを初期エンジン目標回転数Nmと定める。
【0032】
次いで制御をステップS5に進め、ここでは、アクセル開度APOおよび車速VSPの組み合わせ点(車両運転状態)が、図6に示すように設定する変速要求予知判定用の変速準備領域Yに入ったか否かを、つまり、自動変速機2の変速が要求されるか否かをチェックする。
従ってステップS5は、本発明における変速要求検知手段に相当する。
【0033】
変速準備領域Yは、アップシフト変速線が基準である場合、図6に示すように(変速段mから変速段m+1へのアップシフト変速線を基準として示した)、アクセル開度APOおよび車速VSPの組み合わせ点(車両運転状態)が順次t1,t2,t3,t4で示す方向へ移動することから、アップシフト変速線から当該移動方向手前側における所定領域に設定し、
ダウンシフト変速線が基準である場合、図10に示すように(変速段mから変速段m-1へのダウンシフト変速線を基準として示した)、アクセル開度APOおよび車速VSPの組み合わせ点(車両運転状態)が順次t5,t6,t7,t8で示す方向へ移動することから、ダウンシフト変速線から当該移動方向手前側における所定領域に設定する。
【0034】
図6の瞬時t2におけるようにアクセル開度APOおよび車速VSPの組み合わせ点(車両運転状態)が変速要求予知判定用の変速準備領域Yに入ったことにより、ステップS5で自動変速機2の変速が要求されると判定した時は、制御をステップS6に進める。
このステップS6においては(図5の瞬時t2において)、エンジン目標回転数tRevEngを、ステップS4で定めた初期エンジン目標回転数Nmから、自動変速機2の出力回転数および変速後ギヤ比より求め得る変速後入力回転数Nm+1へと変更し、以後はエンジン回転数RevEngを図5に示すごとく、このエンジン目標回転数tRevEng=Nm+1に向かうよう上昇制御する。
従ってステップS6は、本発明におけるエンジン回転制御手段に相当する。
【0035】
次のステップS7においては、上記の変速要求に対応する変速段mから変速段m+1へのアップシフトが、図5および図6のt3におけるごとく設定時間Δtのうちに開始されたか否かをチェックする。
上記の変速が設定時間Δtのうちに開始されていれば、ステップS8でエンジン回転数RevEngが目標回転数tRevEng=Nm+1に一致したと判定し、且つ、ステップS9でエンジン回転数RevEngおよび変速機入力回転数RevAT間の偏差が微少設定値ΔRev未満になった(エンジン回転数RevEngが変速機入力回転数RevATにほぼ一致した)と判定する、図5および図6の瞬時t4にクラッチ5を締結させて、エンジン走行モードへの切り替えを完了し、ステップS11でのエンジン走行モードが可能である。
従ってステップS10は、本発明におけるクラッチ締結手段に相当する。
【0036】
以上のモード切り替え制御によれば、自動変速機2の変速段mから変速段m+1へのアップシフト変速中に、EV走行モードからエンジン走行モードへのモード切り替えを進行させることから、これら変速およびモード切り替えの一方を他方が完了するまで遅延させる場合に生ずる前記の問題、
つまり、当該モード切り替えの遅延中に最適なモードで走行されなくて燃費が悪化したり、運転性能の低下を招くという問題や、
変速の遅延でエンジン回転数が必要に以上に高くなって燃費が悪化するという問題を生ずることがない。
【0037】
しかも変速要求の検知瞬時t2に、始動させたエンジンの回転上昇制御に用いるエンジン目標回転数tRevEngを自動変速機2の変速前入力回転数Nmから変速後入力回転数Nm+1に変更するため、
図5の瞬時t2以後、エンジン回転数RevEngを一旦変速前入力回転数Nmまで上昇させた後に変速後入力回転数Nm+1まで低下させてモード切り替えを行うのではなく、エンジン回転数RevEngを瞬時t2以後は図5に示すごとくいきなり変速後入力回転数Nm+1に向かうよう制御することとなり、この点でもモード切り替え時間を短縮することができて上記の作用効果を更に顕著なものにし得る。
【0038】
そして、上記のとおり自動変速機2の変速段mから変速段m+1へのアップシフト変速、および、EV走行モードからエンジン走行モードへのモード切り替えを同時に進行させるといえども、
エンジン回転数RevEngが、自動変速機2の変速後入力回転数Nm+1と同じ値に定めたエンジン目標回転数tRevEngに一致すると共に自動変速機2の入力回転数RevATにほぼ一致した瞬時t4(変速完了時)にクラッチ5を締結させて上記のモード切り替えを完了するから、
変速機の入力回転数RevATが変化している変速中にクラッチ5の締結(モード切り替えの最終動作)が行われることがないことにより、変速と同時に行うモード切り替えが変速ショックを大きくする原因とはならず、変速ショックが大きくなるのを防止するという本来の目的を確実に達成することができる。
【0039】
図7および図8は、図5および図6につき前述したと同様、
瞬時t1にアクセル開度APOの増大の結果、車両要求駆動力tFdが図7に示すようにEV走行上限駆動力Fevmaxよりも大きくなってEV走行モードからエンジン走行モードへのモード切り替え要求がなされ(図4のステップS3)、これに伴ってエンジンの始動を行うと共にエンジン回転数RevEngを変速要求前の目標回転数tRevEng=Nmに向け上昇制御し(ステップS4)、
瞬時t2にアクセル開度APOおよび車速VSPの組み合わせ点(車両運転状態)が、図8に示すように変速要求予知判定用の変速準備領域Yに入った(自動変速機2の変速が要求される)のを検知し(ステップS5)、これに伴いエンジン目標回転数tRevEngを変速要求前のエンジン目標回転数Nmから自動変速機2の変速後入力回転数Nm+1(図7参照)へと変更して以後エンジン回転数RevEngを図7に示すごとく、このエンジン目標回転数tRevEng=Nm+1に向かうよう上昇制御するが、
運転者がアクセルペダルを踏み込んだり、戻し操作をするなどしたため、アクセル開度APOおよび車速VSPの組み合わせ点(車両運転状態)が、図8にt3’(t4’)で示すように変速準備領域Yに入ってもm→m+1変速線を横切らない(自動変速機2の変速が開始されない)場合の動作説明図である。
【0040】
この場合、図7の変速要求判定瞬時t2から設定時間Δtが経過した瞬時t3’に、図4のステップS7が、変速要求に対応する変速段mから変速段m+1へのアップシフトの設定時間Δt中の開始を検知しないことから、ステップS7は変速が発生しないとの判定のもと制御をステップS12に進め、ここでエンジン目標回転数tRevEngを、変速後変速機入力回転数Nm+1から変速要求前エンジン目標回転数Nmに戻し、エンジン回転数RevEngを図7の瞬時t3’以後は図7に示すごとくNm+1でなくNmに向けて上昇させるよう制御する。
従ってステップS12も、ステップS6とともに本発明におけるエンジン回転制御手段を構成する。
【0041】
その後、ステップS8においてエンジン回転数RevEngがステップS12で定めた目標回転数tRevEng=Nmに一致したと判定し、且つ、ステップS9でエンジン回転数RevEngおよび変速機入力回転数RevAT間の偏差が微少設定値ΔRev未満になった(エンジン回転数RevEngが変速機入力回転数RevATにほぼ一致した)と判定する、図7および図8の瞬時t4’にクラッチ5を締結させて、エンジン走行モードへの切り替えを完了し、ステップS11でのエンジン走行モードが可能である。
かかる実施例の構成によれば、瞬時t2に変速要求が判定されても実際に変速が開始されないのに変速を待ち続ける結果、所定のモード切り替えがいつまでも実行されない、若しくは、モード切り替えが大きく遅れるという愚を避けることができる。
【0042】
なお上記ではいずれも、自動変速機2が変速段mから変速段m+1へのアップシフトを行う時に、EV走行モードからエンジン走行モードへの切り替え要求が発生した場合について説明したが、自動変速機2が変速段mから変速段m-1へのダウンシフトを行う時に、EV走行モードからエンジン走行モードへの切り替え要求が発生した場合についても同様の制御を行って同様の作用効果を達成することができる。
この場合、図4におけるm+1をm-1に読み替えることで、同様の制御を行わせることができる。
【0043】
図9および図10は、変速機入力回転数RevATが図9に示すごとくに上昇する、変速段mから変速段m-1への自動変速機2のダウンシフト時に、EV走行モードからエンジン走行モードへのモード切り替えを行う場合の動作説明図である。
【0044】
図4のステップS1でのEV走行中にステップS2でアクセル開度APOを増大させたが、車両要求駆動力tFdが図5および図7に示すごとくにEV走行上限駆動力Fevmaxよりも大きくなることがなく、これに伴うEV走行モードからエンジン走行モードへのモード切り替え要求は発生しなかったものの、
図10にt5,t6,t7,t8で示すようにアクセル開度APOおよび車速VSPの組み合わせ点(運転状態)を移動させる運転中、図9の瞬時t5におけるごとくバッテリ蓄電状態SOC(持ち出し可能電力)がEV走行を維持し得るEV走行下限バッテリ蓄電状態SOCevmin未満になってEV走行不能になった結果、EV走行モードからエンジン走行モードへのモード切り替えが必要になた場合、
図4のステップS3はステップS13に制御を進め、ここでのSOC< SOCevminの判定結果によりモード切り替え指令を発してステップS4以後の制御により、本発明が狙いとするモード切り替え制御を以下のごとくに実行する。
従ってステップS13も、ステップS3とともに本発明におけるモード切り替え要求検知手段を構成する。
【0045】
この場合も、ステップS4でエンジン1を始動させるよう指令し、その時のエンジン目標回転数tRevEngを、今の自動変速機2の入力回転数RevATから求めた、クラッチ5を締結する時に判断資料とする初期エンジン目標回転数Nm(図9参照)として、当初はエンジン回転数RevEngを図9に示すごとくこの目標値tRevEng=Nmに向け上昇させる。
次いでステップS5において、アクセル開度APOおよび車速VSPの組み合わせ点(車両運転状態)が、図10に示すように設定する変速要求予知判定用の変速準備領域Yに入ったか否かを、つまり、自動変速機2の変速が要求されるか否かをチェックする。
【0046】
図10の瞬時t6におけるようにアクセル開度APOおよび車速VSPの組み合わせ点(車両運転状態)が変速準備領域Yに入ったことにより、ステップS5で自動変速機2の変速が要求されると判定した時は、制御をステップS6に進める。
このステップS6においては(図9の瞬時t6において)、エンジン目標回転数tRevEngを、ステップS4で定めた初期エンジン目標回転数Nmから、自動変速機2の出力回転数および変速後ギヤ比より求め得る変速後入力回転数Nm-1へと変更し、以後はエンジン回転数RevEngを図9に示すごとく、このエンジン目標回転数tRevEng=Nm-1に向かうよう上昇制御する。
【0047】
次のステップS7においては、上記の変速要求に対応する変速段mから変速段m-1へのダウンシフトが、図9および図10のt7におけるごとく設定時間Δtのうちに開始されたか否かをチェックする。
上記の変速が設定時間Δtのうちに開始されていれば、ステップS8でエンジン回転数RevEngが目標回転数tRevEng=Nm-1に一致したと判定し、且つ、ステップS9でエンジン回転数RevEngおよび変速機入力回転数RevAT間の偏差が微少設定値ΔRev未満になった(エンジン回転数RevEngが変速機入力回転数RevATにほぼ一致した)と判定する、図9および図10の瞬時t8にクラッチ5を締結させて、エンジン走行モードへの切り替えを完了し、ステップS11でのエンジン走行モードが可能である。
【0048】
以上のモード切り替え制御によれば、自動変速機2の変速段mから変速段m-1へのダウンシフト変速中に、EV走行モードからエンジン走行モードへのモード切り替えを進行させることから、これら変速およびモード切り替えの一方を他方が完了するまで遅延させる場合に生ずる前記の問題、
つまり、当該モード切り替えの遅延中に最適なモードで走行されなくて燃費が悪化したり、運転性能の低下を招くという問題や、
変速の遅延でエンジン回転数が必要に以上に高くなって燃費が悪化するという問題を生ずることがない。
【0049】
そして、上記のとおり自動変速機2の変速段mから変速段m-1へのダウンシフト変速、および、EV走行モードからエンジン走行モードへのモード切り替えを同時に進行させるといえども、
エンジン回転数RevEngが、自動変速機2の変速後入力回転数Nm-1と同じ値に定めたエンジン目標回転数tRevEngに一致すると共に自動変速機2の入力回転数RevATにほぼ一致した瞬時t8(変速完了時)にクラッチ5を締結させて上記のモード切り替えを完了するから、
変速機の入力回転数RevATが変化している変速中にクラッチ5の締結(モード切り替えの最終動作)が行われることがないことにより、また、モード切り替え直後に変速が行われることがないことにより、変速と同時に行うモード切り替えが変速ショックを大きくする原因とはならず、変速ショックが大きくなるのを防止するという本来の目的を確実に達成することができる。
【0050】
なお、上記のごときダウンシフト中のモード切り替え時においても、アクセル開度APOおよび車速VSPの組み合わせ点(運転状態)が図10の変速準備領域Yに入ったのに設定時間Δ中に変速が開始されない場合は、図4のステップS7がステップS12を選択することから、図7および図8につき前述したと同様な制御が実行され、実際に変速が開始されないのに変速を待ち続けてモード切り替えがいつまでも実行されない、若しくは、モード切り替えが大きく遅れるという愚を避けることができるのは言うまでもない。
【0051】
図4につき更に付言するに、ステップS3で車両要求駆動力tFdがEV走行上限駆動力Fevmax以下であると判定し、且つ、ステップS13でバッテリ蓄電状態SOC(持ち出し可能電力)がEV走行下限値SOCevminを超えていると判定する場合は、エンジン走行が不要であるから制御をステップS1に戻してEV走行を継続させる。
また、ステップS5で変速準備領域Yに入ったと判定しない間は、ステップS6、ステップS7およびステップS12をバイパスして制御をステップS8に進め、
ステップS8においてエンジン回転数RevEngが、ステップS4で定めた目標回転数tRevEng=Nmに一致したと判定し、且つ、ステップS9においてエンジン回転数RevEngおよび変速機入力回転数RevAT間の偏差が微少設定値ΔRev未満になった(エンジン回転数RevEngが変速機入力回転数RevATにほぼ一致した)と判定する時、クラッチ5を締結させてエンジン走行モードへの切り替えを完了し、ステップS11でのエンジン走行モードが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のモード切り替え制御装置を適用可能なハイブリッド駆動装置を具えた後輪駆動車のパワートレーンを示す概略平面図である。
【図2】本発明のモード切り替え制御装置を適用可能な他の型式のハイブリッド駆動装置を具えた後輪駆動車のパワートレーンを示す概略平面図である。
【図3】図1および図2に示すハイブリッド駆動装置に用いた自動変速機の変速スケジュールを示す変速パターン図である。
【図4】図1および図2に示すハイブリッド駆動装置のコントローラが実行するモード切り替え制御のフローチャートである。
【図5】自動変速機がアップシフトを行っている間に実行すべき、同モード切り替え制御の動作タイムチャートである。
【図6】同モード切り替え制御中におけるアクセル開度および車速の組み合わせ点の移動状況を例示する変速パターン図である。
【図7】自動変速機がアップシフトを開始しなかった場合に実行すべき、モード切り替え制御の動作タイムチャートである。
【図8】同モード切り替え制御中におけるアクセル開度および車速の組み合わせ点の移動状況を例示する変速パターン図である。
【図9】自動変速機がダウンシフトを行っている間に実行すべき、同モード切り替え制御の動作タイムチャートである。
【図10】同モード切り替え制御中におけるアクセル開度および車速の組み合わせ点の移動状況を例示する変速パターン図である。
【符号の説明】
【0053】
1 エンジン
2 自動変速機
2a 変速機入力軸
2b 変速機出力軸
3,10 軸
4,9 モータ/ジェネレータ
5 エンジンクラッチ
6 発進クラッチ
7 ディファレンシャルギヤ装置
8a,8b ドライブシャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチを介してエンジン回転を入力される自動変速機を具え、
該クラッチを解放させると共にエンジンを停止させた状態で、該クラッチと自動変速機の出力軸との間における駆動系に結合したモータ/ジェネレータからの動力のみにより車両を走行させる電気走行モードと、
前記エンジンを始動させると共に前記クラッチを締結させることで、エンジンからの動力のみにより、若しくは、エンジンからの動力と前記モータ/ジェネレータからの動力とで車両を走行させるエンジン走行モードとを有する車両用ハイブリッド駆動装置において、
電気走行モードからエンジン走行モードへのモード切り替えが必要になったのを検知するモード切り替え要求検知手段と、
該手段により前記モード切り替えが必要になったと判定した時に前記エンジンを始動させるエンジン始動手段と、
該手段によるエンジン始動後に、前記自動変速機の変速が要求されるのを検知する変速要求検知手段と、
該手段による変速要求の検知後は、前記エンジンの目標回転数を自動変速機の変速前入力回転数から、自動変速機の出力回転数および変速後ギヤ比より判る自動変速機の変速後入力回転数に変更して、このエンジン目標回転数に向けエンジン回転数を上昇させるエンジン回転制御手段と、
該手段によるエンジン回転数の上昇でエンジン回転数が前記エンジン目標回転数に一致すると共に自動変速機の入力回転数にほぼ一致した時に前記クラッチを締結させるクラッチ締結手段とを具備してなることを特徴とする車両用ハイブリッド駆動装置のモード切り替え制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用ハイブリッド駆動装置のモード切り替え制御装置において、
前記変速要求検知手段は、自動変速機の変速制御に際して用いる変速線を車両運転状態が横切る直前の変速準備領域に車両運転状態が入った時をもって自動変速機の変速要求を検知するものである車両用ハイブリッド駆動装置のモード切り替え制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用ハイブリッド駆動装置のモード切り替え制御装置において、
前記エンジン回転制御手段は、前記変速要求検知手段による変速要求の検知後、設定時間が経過しても自動変速機の変速がなされない場合、前記エンジンの目標回転数を自動変速機の変速後入力回転数から変速前入力回転数に戻すものである車両用ハイブリッド駆動装置のモード切り替え制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−315484(P2006−315484A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138507(P2005−138507)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】