車両用動力伝達装置の制御装置
【課題】トルクコンバータで発生する発熱量を抑制するためにダウンシフトを実行するに際して、そのダウンシフトによって運転者に与える違和感を抑制することができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供する。
【解決手段】トルクコンバータ34の単位時間当たりの発熱量qが上限値qmax以上、または、トルクコンバータ34の速度比eが下限値emin以下となると、通常ダウンシフトが実施されないタイミングでダウンシフトされ、自動変速機26の変速前後に発生する駆動力段差ΔTによって運転者に違和感を与えることとなるが、ダウンシフトの際に発生する、変速前後の駆動力段差ΔTを抑制する制御が実行されるため、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【解決手段】トルクコンバータ34の単位時間当たりの発熱量qが上限値qmax以上、または、トルクコンバータ34の速度比eが下限値emin以下となると、通常ダウンシフトが実施されないタイミングでダウンシフトされ、自動変速機26の変速前後に発生する駆動力段差ΔTによって運転者に違和感を与えることとなるが、ダウンシフトの際に発生する、変速前後の駆動力段差ΔTを抑制する制御が実行されるため、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用動力伝達装置の制御装置に係り、特に、駆動源と変速機と間にトルクコンバータが動力伝達可能に設けられている構成において、トルクコンバータで発生する発熱量を好適に抑制する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動源と変速機との間に流体伝動装置であるトルクコンバータが動力伝達可能に設けられている車両用動力伝達装置がよく知られている。例えば特許文献1がその一例である。特許文献1では、エンジン11と自動変速機10との間にトルクコンバータ12が動力伝達可能に設けられている。そして、トルクコンバータで発生する単位時間当たりの発熱量が上限値以上となると、自動変速機をダウンシフトしてアップシフトを禁止する技術が開示されている。このように自動変速機をダウンシフトすることにより、トルクコンバータ内の作動油の攪拌が抑制されるに従い、作動油の温度上昇が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−58023号公報
【特許文献2】特開2009−121238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の動力伝達装置において、トルクコンバータの発熱量が上限値以上となると、通常ダウンシフトされないタイミングでダウンシフトされるため、ダウンシフトに伴う駆動力変化や駆動源回転速度変化によって運転者に違和感を与える可能性があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、駆動源と変速機との間にトルクコンバータが動力伝達可能に設けられている車両用動力伝達装置において、トルクコンバータで発生する単位時間当たりの発熱量を抑制するためにダウンシフトを実行するに際して、そのダウンシフトによって運転者に与える違和感を抑制することができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a)駆動源と自動変速機との間にトルクコンバータが動力伝達可能に設けられている車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b)前記トルクコンバータの単位時間当たりの発熱量が予め設定されている上限値以上、または、そのトルクコンバータの速度比が予め設定されている下限値以下となることに基づいて、前記自動変速機のダウンシフトを実行するものであり、(c)該自動変速機をダウンシフトする際には、変速前後に発生する駆動力段差を抑制する制御を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、トルクコンバータの単位時間当たりの発熱量が上限値以上、または、トルクコンバータの速度比が下限値以下となることに基づいて、通常ダウンシフトが実施されないタイミングでダウンシフトが実行され、自動変速機の変速前後に発生する駆動力段差によって運転者に違和感を与えることとなるが、ダウンシフトの際に発生する、変速前後の駆動力段差を抑制する制御が実行されるため、その運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0008】
また、好適には、前記自動変速機の変速前後において、前記駆動源の回転速度変化量が予め設定されている所定値以下であることに基づいて、ダウンシフトを実行する。このようにすれば、ダウンシフトの際に駆動源の回転速度変化量も抑制されるため、駆動源の回転速度変化によって運転者に与える違和感をさらに抑制することができる。
【0009】
また、好適には、前記駆動力段差を抑制する制御とは、前記駆動源のトルクを低減させる制御である。このようにすれば、自動変速機のダウンシフトによる駆動力の増加分を駆動源のトルクの低減によって相殺することができ、結果として前記駆動力段差を抑制することができる。
【0010】
また、好適には、前記駆動力段差を抑制する制御とは、前記トルクコンバータに備えられているロックアップクラッチのスリップ制御である。このようにすれば、自動変速機のダウンシフトによる駆動力の増加分を、ロックアップクラッチのスリップ制御による、トルクコンバータのトルク増幅機能の抑制によって相殺することができ、結果として前記駆動力段差を抑制することができる。
【0011】
また、好適には、前記駆動力段差を抑制する制御とは、前記駆動源と駆動輪との間に動力伝達可能に連結されている電動機の回生制御である。このようにすれば、自動変速機のダウンシフトによる駆動力の増加分を、電動機の回生制御によって相殺することができ、結果として前記駆動力段差を抑制することができる。
【0012】
また、好適には、前記駆動力段差を抑制する手段とは、車輪に制動力を発生させる制動装置によって制動力を付与する制御である。このようにすれば、自動変速機のダウンシフトによる駆動力の増加分を、車輪に付与される制動力によって相殺することができ、結果として前記駆動力段差を抑制することができる。
【0013】
また、好適には、前記駆動力段差を抑制する制御とは、前記自動変速機のダウンシフトの際に係合されない所定の摩擦係合装置をスリップさせる制御である。このようにすれば、自動変速機のダウンシフトによる駆動力の増加分を、自動変速機の摩擦係合装置をスリップさせて、自動変速機を僅かにタイラップ状態(固着状態)とすることで相殺することができ、結果として前記駆動力段差を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明が適用された車両用動力伝達装置の構成を示す骨子図の一例である。
【図2】図1の車両用自動変速機の複数のギヤ段を成立させる際の摩擦係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表である。
【図3】図1の自動変速機などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部およびエンジンから駆動輪までの動力伝達系の概略構成を説明するブロック線図である。
【図4】図3の電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】図1の自動変速機の変速制御に関し、複数のギヤ段を運転状態に応じて自動的に切り替える変速マップの一例である。
【図6】速度比と単位時間当たりの発熱量との関係を示す2次元マップである。
【図7】作動油の油温と発熱量の上限値との関係を示す2次元マップである。
【図8】作動油の油温と速度比の下限値との関係を示す2次元マップである。
【図9】トルクコンバータのタービン回転速度とポンプ回転速度との関係を示す特性マップである。
【図10】エンジン回転速度と予め設定されている所定値との関係を示す2次元マップである。
【図11】図5のダウン変速線のうちの1つを拡大した変速線図である。
【図12】図3の電子制御装置の制御作動の要部すなわちトルクコンバータで発生する単位時間当たりの発熱量を抑制するためにダウンシフトを実行するに際して、ダウンシフトによって運転者に与える違和感を抑制する制御作動を説明するためのフローチャートである。
【図13】図12のフローチャートに基づく作動状態を説明するためのタイムチャートである。
【図14】本発明の他の実施例である車両用動力伝達装置の基本構成を示すと共に、その動力伝達装置を制御する電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明が適用された車両用動力伝達装置10(以下、動力伝達装置10)の骨子図である。図2は複数の変速段(ギヤ段)を成立させる際の摩擦係合要素すなわち摩擦係合装置の作動状態を説明する作動表である。動力伝達装置10は、駆動源であるエンジン12と駆動輪14(図3参照)との間の動力伝達経路を構成するものであり、車両の左右方向(横置き)に搭載するFF車両に好適に用いられる。動力伝達装置10は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース14内において、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置16を主体として構成されている第1変速部18と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置20およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置22を主体としてラビニヨ型に構成されている第2変速部24とから構成される自動変速機26を共通の軸心C上に有し、入力軸28の回転を変速して出力歯車30から出力する。
【0017】
入力軸28は、走行用の動力源であるエンジン12によって回転駆動される流体式伝動装置としてのトルクコンバータ34のタービン軸である。また、出力歯車30は、図3に示す差動歯車装置35に動力を伝達するために、デフリングギヤ36と噛み合ってファイナルギヤ対を構成するデフドライブピニオンと同軸上に配置されたカウンタドリブンギヤと噛み合ってカウンタギヤ対を構成するカウンタドライブギヤである。この出力歯車30の回転速度Noutが出力軸回転速度センサ66によって検出され、後述する電子制御装置100に供給される。そして回転速度Noutに基づいて車速Vが算出されて変速判断に用いられる。
【0018】
トルクコンバータ34は、エンジン12の動力を流体を介することなく入力軸28へ直接伝達するためのロックアップクラッチ32を備えている。このロックアップクラッチ32は、係合側油室38内の油圧と開放側油室40内の油圧との差圧ΔPにより摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチであり、それが完全係合(ロックアップオン)させられることにより、エンジン30の動力が入力軸28に直接伝達される。また、所定のスリップ状態で係合するように差圧ΔPすなわちトルク容量がフィードバック制御されることにより、例えば50rpm程度の所定のスリップ量でタービン軸(入力軸28)をエンジン12の出力回転部材(クランク軸)に対して追従回転させる。また、エンジン12のクランク軸はオイルポンプ46に連結されており、エンジン12の駆動に伴って油圧制御回路50(図3参照)に供給される油圧(元圧)を発生させる。
【0019】
このように構成された動力伝達装置10において、エンジン12の出力は、トルクコンバータ34、自動変速機26、差動歯車装置35、および一対の車軸39等を介して一対の駆動輪48へ伝達される(図3参照)。なお、この自動変速機26やトルクコンバータ34は中心線(軸心)Cに対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはその中心線Cの下半分が省略されている。
【0020】
自動変速機26は、第1変速部18および第2変速部24の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)のうちのいずれかの連結状態の組み合わせに応じて第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の6つの前進ギヤ段が成立させられるとともに、後退ギヤ段「R」が成立させられる。図2に示すように、例えば前進ギヤ段では、クラッチC1とブレーキB2との係合により第1速ギヤ段が、クラッチC1とブレーキB1との係合により第2速ギヤ段が、クラッチC1とブレーキB3との係合により第3速ギヤ段が、クラッチC1とクラッチC2との係合により第4速ギヤ段が、クラッチC2とブレーキB3との係合により第5速ギヤ段が、クラッチC2とブレーキB1との係合により第6速ギヤ段が、それぞれ成立させられるようになっている。また、ブレーキB2とブレーキB3との係合により後退ギヤ段が成立させられ、クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3のいずれも解放されることによりニュートラル状態となるように構成されている。
【0021】
図2の作動表は、上記各ギヤ段とクラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。特に、第1速ギヤ段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)にはクラッチC1のみを係合させ、エンジンブレーキを作用させるときにはクラッチC1とブレーキB2とを係合させる。また、各ギヤ段のギヤ比(変速比)γ(=入力軸28の回転速度/出力歯車30の回転速度)は、第1遊星歯車装置16、第2遊星歯車装置20、および第3遊星歯車装置22の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められ、第1速ギヤ段「1st」の変速比γが最も大きく、高速側(第6速ギヤ段「6th」)程小さくなる。
【0022】
このように本実施例の自動変速機10は、複数の摩擦係合装置すなわちクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3を選択的に係合させることによりギヤ比の異なる複数のギヤ段を成立させるものであり、図2の作動表から明らかなように、クラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の何れか2つを掴み替える所謂クラッチツウクラッチ変速により各ギヤ段の切り替えを行うことができる。これらクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、油圧制御回路(図3参照)のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5の励磁、非励磁や電流制御により、係合、開放状態が切り替えられると共に係合、開放時の過渡油圧などが制御される。
【0023】
図3は、図1の自動変速機26などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部およびエンジン12から駆動輪48までの動力伝達系の概略構成を説明するブロック線図である。
【0024】
図3において、電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御や自動変速機26の変速制御、ロックアップクラッチ32のロックアップ制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や油圧制御回路50のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5、SLU、SLTを制御する変速制御用等に分けて構成される。
【0025】
例えば、電子制御装置100には、アクセル開度センサ54により検出されたアクセルペダル52の操作量に相当するアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、エンジン回転速度センサ56により検出されたエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Neを表す信号、冷却水温センサ58により検出されたエンジン12の冷却水温Twを表す信号、吸入空気量センサ60により検出されたエンジン12の吸入空気量Qを表す信号、スロットル弁開度センサ64により検出された電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを表すスロットル弁開度信号、出力軸回転速度センサ66により検出された出力歯車30の回転速度である出力回転速度Noutすなわち車速Vを表す信号、ブレーキスイッチ70により検出された常用ブレーキであるフットブレーキ(ホイールブレーキ)の作動中(踏込操作中)を示すフットブレーキペダル68の操作(オン)Bonを表す信号、レバーポジションセンサ74により検出されたシフト装置71のシフトレバー72のレバーポジション(操作位置、シフトポジション)PSHを表す信号、タービン回転速度センサ76により検出されたトルクコンバータ32のタービン軸の回転速度であるタービン回転速度Ntすなわち入力軸28の回転速度Ninを表す信号、ATF油温センサ78により検出された油圧制御回路50内の作動油の温度であるATF油温Toil表す信号などがそれぞれ供給される。
【0026】
また、電子制御装置100からは、電子スロットル弁62を開閉駆動するスロットルアクチュエータ80への駆動信号、エンジン12の点火時期を指令する点火信号、エンジン12の吸気管または筒内に燃料を供給し或いは停止する燃料噴射装置82によるエンジン12への燃料供給量を制御する燃料供給量信号、シフトインジケータを作動させるためのレバーポジションPSH表示信号、自動変速機26のギヤ段を切り換えるために油圧制御回路50内のシフト弁を駆動するシフトソレノイドを制御する信号、およびライン圧を制御するリニヤソレノイド弁を駆動するための指令信号などがそれぞれ出力される。
【0027】
シフトレバー72は例えば運転席の近傍に配設され、図3に示すように、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、または「S」へ手動操作されるようになっている。「P」ポジションは自動変速機26内の動力伝達経路を解放しすなわち自動変速機26内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力歯車30の回転を阻止(ロック)するための駐車レンジ(位置)であり、「R」ポジションは自動変速機26の出力歯車30の回転方向を逆回転とするための後退走行レンジであり、「N」ポジションは自動変速機26内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための非走行レンジであり、「D」ポジションは自動変速機26の変速を許容する変速範囲で第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の総ての前進ギヤ段を用いて自動変速制御を実行させる前進走行レンジであり、「S」ポジションはギヤ段の変化範囲を制限する複数種類の変速レンジすなわち高車速側のギヤ段が異なる複数種類の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能な前進走行レンジである。この「S」ポジションにおいては、シフトレバー72の操作毎に変速範囲をアップ側にシフトさせるためのレバーポジションPSHとしての「+」ポジション、シフトレバー72の操作毎に変速範囲をダウン側にシフトさせるためのレバーポジションPSHとしての「−」ポジションが備えられている。
【0028】
図4は、上記電子制御装置100による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図4において、エンジン出力制御手段102は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ80により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置82による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置による点火時期を制御するなどしてエンジン12の出力制御を実行する。スロットル制御は、予め記憶された関係からアクセル操作量Accに基づいてスロットルアクチュエータを駆動し、アクセル操作量Accが増加する程スロットル弁開度θTHを増加させるように行われる。
【0029】
変速制御手段104は、自動変速機26の変速制御を行うもので、シフトレバー72が「D」ポジションへ操作されることにより前記自動変速モード(Dレンジ)を成立させ、例えば図5に示すように車速Vおよびアクセル操作量Accをパラメータとして予め設定された変速マップに従って、総ての前進ギヤ段「1st」〜「6th」を用いて自動変速を行う。図5の変速マップは、変速規則に相当するもので、実線はアップ変速を判断するためのアップ変速線であり、破線はダウン変速を判断するためのダウン変速線である。
【0030】
発熱時ダウンシフト手段106は、トルクコンバータ34の単位時間当たりの発熱量qが予め設定されている上限値qmax以上、且つ、自動変速機26のダウンシフト前後のエンジン12の回転速度変化量ΔNeが所定値α以下であることに基づいて、変速線図に拘わらずダウンシフトを実行する指令を変速制御手段104に出力する。例えば第6速ギヤ段で走行時に単位時間当たりの発熱量が上限値qmaxを越え、さらに、後述するエンジン12の回転速度変化量ΔNeが所定値α以下となることに基づいて、第5速ギヤ段へのダウンシフトを実行する指令を変速制御手段104に出力する。そして、変速制御手段104によって自動変速機26がダウンシフトされると、自動変速機26の入力軸28の回転速度Ninすなわちトルクコンバータ34のタービン回転速度Ntが上昇するため、トルクコンバータ34のポンプインペラ側のポンプ回転速度Npすなわちエンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとの差回転ΔNが低減される。これに従い、トルクコンバータ34内の作動油の攪拌が抑制されるので発熱量qが低減される。
【0031】
発熱量算出手段108は、トルクコンバータ34で発生する単位時間当たりの発熱量q(cal/s)を算出する。発熱量算出手段108は、例えば図6に示すような、予め実験的に求められた速度比eと発熱量qとの2次元マップに基づいて、現時点における速度比eを参照することにより、単位時間当たりの発熱量qを算出する。ここで、速度比eは、タービン回転速度Ntとポンプ回転速度Np(エンジン回転速度Ne)との比(=Nt/Np)で算出される値である。図6に示すように、速度比eが小さい場合、タービン回転速度Ntとポンプ回転速度Npとの差回転ΔN(Np−Nt)が大きいことから、トルクコンバータ34内の作動油が攪拌されるため、発熱量qが大きくなる。そして、速度比eが増加するに従って差回転ΔNが小さくなることから、トルクコンバータ34内の作動油の攪拌が抑制されて発熱量qが減少する。なお、発熱量qは、上記図6に示すような2次元マップからではなく、公知である計算式に基づいて算出しても構わない。
【0032】
発熱時ダウンシフト手段106は、発熱量算出手段108によって求められた発熱量qが予め設定されている上限値qmax以上であるか否かを判定する。ここで、上限値qmaxは、予め実験等に基づいて求められており、トルクコンバータ34内の作動油の過度の温度上昇が防止される発熱量に設定されている。また、上限値qmaxは必ずしも一定値ではなく、例えば油圧制御回路50内の作動油のATF油温Toilに応じて設定される。具体的には、図7に示すようなATF油温Toilと上限値qmaxとをパラメータとする2次元マップが予め実験的に求められており、ATF油温センサ78によって検出されたATF油温Toilからこの2次元マップを参照することにより上限値qmaxが求められる。図7に示すように、ATF油温Toilが低温状態にあるとき上限値qmaxが高い値に設定される。これは、ATF油温Toilが低い場合には、発熱量qが大きくてもATF油温Toilが過度に高くならないためである。そして、ATF油温Toilが高くなるに従って、上限値qmaxが小さくなるように設定されている。これは、ATF油温Toilが高くなると、発熱量qが小さくてもATF油温Toilが高温状態になり易いためである。
【0033】
また、発熱時ダウンシフト手段106は、発熱量算出手段108に代わって、速度比算出手段110によって速度比e(=Nt/Np)を算出して自動変速機26のダウンシフトの実施を判断しても構わない。図6に示したように、速度比eと発熱量qとは、相関関係にあることが知られている。従って、速度比eを算出し、算出された速度比eに基づいてダウンシフトの実施を判断しても、発熱量qに基づいてダウンシフトの実施を判断することと実質的に変わらない。発熱時ダウンシフト手段106は、速度比算出手段110によって算出された速度比eが予め設定されている下限値emin以下であるか否かを判定する。なお、下限値eminは、予め実験等によって求められており、トルクコンバータ34内の作動油の過度の温度上昇が防止される発熱量に設定されている。また、下限値eminは、必ずしも一定値ではなく、例えば油圧制御回路50内の作動油のATF油温Toilに応じて設定される。具体的には、図8に示すようなATF油温Toilと下限値eminとをパラメータとする2次元マップが予め実験的に求められており、ATF油温センサ78によって検出されたATF油温Toilからこの2次元マップを参照することにより下限値eminが求められる。図8に示すように、ATF油温が低温状態にあるとき下限値eminが低い値に設定される。これは、速度比eが小さい状態ではトルクコンバータ34内の作動油が攪拌されて発熱量qが大きくなるが、ATF油温Toilが低いため、その発熱量qが大きくてもATF油温Toilが高温状態にはならないためである。そして、ATF油温Toilが高くなるに従って下限値eminが大きくなるように設定されている。これは、ATF油温Toilが高くなるに従って、発熱量qを抑制するためである。
【0034】
回転変化量判定手段112は、発熱時ダウンシフト手段106によるダウンシフトを実行するに際して、変速前後のエンジン12の回転速度変化量ΔNeが予め設定されている所定値α以下となるか否かを判定する。ここで、変速後のエンジン回転速度Ne'は、予め求められて記憶されている図9に示すトルクコンバータ34の回転速度の特性マップから、変速後のタービン回転速度Nt’を参照することで求められる。なお、変速後のタービン回転速度Nt’は、出力軸回転速度センサ66から検出される出力回転速度Noutと変速後のギヤ段の変速比γとの積(=Nout×γ)で算出される。そして、回転変化量判定手段112は、算出された変速後のエンジン回転速度Ne'と現時点におけるエンジン回転速度Neとの回転速度変化量ΔNe(Ne'−Ne)が、予め設定されている所定値α以下であるか否かを判定する。
【0035】
ここで、上記所定値αは、予め実験等によって求められ、変速前後において発生するエンジン12の回転速度変化が運転者に知覚されない、すなわち運転者に違和感を与えない値に設定されている。上記所定値αは、例えばエンジン回転速度Neに応じて変化するように設定されている。例えば、変速前後でエンジン回転速度Neが500rpm変化すると仮定し、エンジン回転速度Neが6000rpmで回転している場合、この500rpmの変化は相対的には小さいため、運転者に殆ど違和感を与えない。一方、エンジン回転速度Neが1000rpmで回転している場合、500rpm変化するとその変化は相対的に大きいため、運転者に違和感を与えることとなる。これより、所定値αは、図10に示すように、エンジン回転速度Neが増加するに従って大きくなるように設定されている。この変速前後のエンジン12の回転速度変化量ΔNeが所定値α以下となるのは、図11の斜線で示すようにダウン変速線に隣接する領域となる。この図11は、図5のダウン変速線のうちの1つを拡大したものである。図11に示すように、自動変速機26の変速前後のエンジン12の回転速度変化量ΔNeが所定値α以下となる領域、すなわちエンジン12の回転速度変化が運転者によって知覚されない領域は、各ダウン変速線毎に存在し、予め実験的に求めることができる。これより、回転変化量判定手段112は、自動変速機26の変速前後におけるエンジン12の回転速度変化量ΔNeが所定値α以下となる予め設定されている領域にあるか否かを判断しても構わない。
【0036】
この自動変速機26の変速前後のエンジン回転速度Neの回転速度変化量ΔNeが所定値α以下となる領域でダウンシフトが実行されると、エンジン12の回転速度変化量ΔNeが所定値αとなるため、エンジン回転速度Neの回転速度変化によって運転者に与える違和感が抑制される。発熱時ダウンシフト手段106は、発熱量qが上限値qmax以上となり、回転変化量判定手段112によって変速前後のエンジン12の回転速度変化量ΔNeが所定値α以下となると判断されると、変速制御手段104によるダウンシフトを実行(開始)する。
【0037】
駆動力調整手段114は、発熱時ダウンシフト手段106が実行されるに際して、自動変速機26の変速前後に発生する出力歯車30から出力される駆動力Toutの段差ΔT(駆動力段差ΔT)を抑制する制御を実行する。具体的には、駆動力調整手段114は、自動変速機26のダウンシフトによる駆動力Toutの増加分が相殺されるように、エンジン12の出力トルクを低減させる指令をエンジン出力制御手段102に出力する。なお、エンジン12の出力トルクの低減量は、ダウンシフトされるギヤ段の変速比γ等に応じて変速前後の駆動力段差ΔT(駆動力変化)が抑制される値に設定されている。
【0038】
また、駆動力調整手段114は、駆動力段差ΔTを抑制する他の手段として、トルクコンバータ34のロックアップクラッチ32をスリップさせる制御(スリップ制御)を実行する。ロックアップクラッチ32がスリップされると、ポンプ回転速度Npとタービン回転速度Ntとの差回転ΔNが抑制される。すなわち、トルクコンバータ34のトルク増幅作用が抑制され、結果として出力歯車30から出力される駆動力Toutが低減される。なお、ロックアップクラッチ32のスリップ量Nslipは、予め実験的に求められており、変速前後の駆動力段差ΔTが抑制される、すなわちダウンシフトによる駆動力Toutの増加分が相殺される値に設定されている。
【0039】
さらに、駆動力調整手段114は、駆動力段差ΔTを抑制するさらに他の手段として、自動変速機26の所定の摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)をスリップさせる。なお、この所定の摩擦係合装置とは、ダウンシフトの際に係合される摩擦係合装置に該当しない摩擦係合装置である。すなわち、この変速の際に係合されない摩擦係合装置をスリップさせることで、自動変速機26を僅かにタイラップ状態(ロック状態)とすることで、出力歯車34から出力される駆動段差ΔTを抑制する。例えば、第6速ギヤ段から第5速ギヤ段へのダウンシフトの場合、クラッチC1、ブレーキB1、ブレーキB2が係合されないので、これらの摩擦係合装置が所定の摩擦係合装置となる。駆動力調整手段114は、上記駆動力段差を抑制する各手段のうちの何れか1つ、或いは各手段を組み合わせて実施することにより、変速前後に発生する駆動力段差ΔTを抑制する。
【0040】
図12は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわちトルクコンバータ34で発生する単位時間当たりの発熱量qを抑制するためにダウンシフトを実行するに際して、ダウンシフトによって運転者に与える違和感を抑制する制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
【0041】
先ず、発熱量算出手段108および発熱時ダウンシフト手段106に対応するステップSA1(以下、ステップを省略する)において、トルクコンバータ34で発生する単位時間当たりの発熱量qが算出され、その発熱量qが上限値qmax以上であるか否かが判定される。SA1が否定される場合、SA1が肯定されるまで繰り返しSA1の判定が実施される。SA1が肯定される場合、回転変化量判定手段112に対応するSA2において、自動変速機26の変速前後のエンジン回転速度Neの変化量ΔNが予め設定されている所定値α以下か否かが判定される。SA2が否定される場合、再度SA1に戻り、同様のステップが繰り返される。SA2が肯定される場合、発熱時ダウンシフト手段106に対応するSA3において、自動変速機26のダウンシフトが開始される。そして、SA3のステップと並行して、駆動力調整手段114に対応するSA4において、出力歯車30において発生する駆動力段差ΔTが抑制されるように、エンジン12の出力トルク低減制御、ロックアップクラッチ32のロックアップ制御、および自動変速機26の所定の摩擦係合装置のスリップ制御の何れか1つ、或いはこれらを組み合わせた制御が開始される。
【0042】
図13は、図12のフローチャートに基づく作動状態を説明するためのタイムチャートである。t1時点において単位時間当たりの発熱量qが上限値qmax以上となり、発熱量qを抑制するためのダウンシフト側への変速判断が為され、これと同時に自動変速機26の変速前後のエンジン回転速度Neの回転速度変化量ΔNeが算出され、その回転速度変化量ΔNeが所定値α以下か否かが判定される。そして、変化量ΔNが所定値α以下であると判断されると、ダウンシフトが開始される。なお、実際の変速制御は、所定の時間遅れの後、t2時点から開始される。また、t2時点において、ダウンシフトの開始と同時に、自動変速機26の変速前後の駆動力段差ΔT(駆動力変化)を抑制する制御が開始される。そして、t3時点において、タービン回転速度Ntが変化するイナーシャ相が開始される。t4時点において、イナーシャ相が終了すると、変速終期に実施される摩擦係合装置の油圧を上昇させる制御が実行され、摩擦係合装置が完全係合される。ここで、図13に示すように、エンジン回転速度Neのt1時点からt5時点間の変化量ΔNは、数百回転程度と比較的小さいので、エンジン回転速度Neの変化によって運転者に与える違和感は抑制されている。また、t3時点からt5時点間における自動変速機26(出力歯車30)の駆動力段差ΔTも駆動力調整手段114によって抑制されている。これらより、エンジン回転速度変化による違和感、および、駆動力段差によって運転車に与える違和感が抑制される。
【0043】
上述のように、本実施例によれば、トルクコンバータ34の単位時間当たりの発熱量qが上限値qmax以上、または、トルクコンバータ34の速度比eが下限値emin以下となることに基づいて、通常ダウンシフトが実施されないタイミングでダウンシフトされ、自動変速機26の変速前後に発生する駆動力段差ΔTによって運転者に違和感を与えることとなるが、ダウンシフトの際に発生する、変速前後の駆動力段差ΔTを抑制する制御が実行されるため、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0044】
また、本実施例によれば、自動変速機26の変速前後において、エンジン12の回転速度変化量ΔNeが予め設定されている所定値α以下であることに基づいてダウンシフトを実行する。このようにすれば、ダウンシフトの際にエンジン12の回転速度変化量ΔNeも抑制されるため、エンジン12の回転速度変化によって運転者に与える違和感をさらに抑制することができる。
【0045】
また、本実施例によれば、駆動力段差ΔTを抑制する制御として、エンジン12の出力トルクを低減させる。このようにすれば、自動変速機26のダウンシフトによる駆動力の増加分をエンジン12のトルクの低減によって相殺することができ、結果として駆動力段差ΔTを抑制することができる。
【0046】
また、本実施例によれば、駆動力段差ΔTを抑制する制御として、トルクコンバータ34に備えられているロックアップクラッチ32をスリップ制御させる。このようにすれば、自動変速機26のダウンシフトによる駆動力の増加分を、ロックアップクラッチ32のスリップ制御による、トルクコンバータ34のトルク増幅機能の抑制によって相殺することができ、結果として駆動力段差ΔTを抑制することができる。
【0047】
また、本実施例によれば、駆動力段差ΔTを抑制する制御として、自動変速機26のダウンシフトの際に係合されない所定の摩擦係合装置をスリップさせる。このようにすれば、自動変速機26のダウンシフトによる駆動力の増加分を、自動変速機26の摩擦係合装置をスリップさせて、自動変速機26を僅かにタイラップ状態(固着状態)とすることで相殺することができ、結果として駆動力段差ΔTを抑制することができる。
【0048】
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0049】
図14は、本発明の他の実施例である車両用動力伝達装置150(動力伝達装置150)の基本構成を示すと共に、その動力伝達装置150を制御する電子制御装置152による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【0050】
動力伝達装置150は、エンジン154、電動機MG、トルクコンバータ156、および油圧制御回路159の油圧制御によって変速される自動変速機158を主に備えて構成されている。なお、エンジン154(駆動源)、トルクコンバータ156、および自動変速機158の構成は、基本的には前述した実施例と略変わらないのでその説明を省略する。電動機MGは、エンジン154のクランク軸(すなわちトルクコンバータ156のポンプ軸)に動力伝達可能に連結されており、蓄電装置155に連結されているインバータ157によって力行または回生制御させられる。なお、電動機MGは必ずしも直列に配置される必要はなく、歯車等を介して並列に設けられていても構わない。また、電動機MGの配置位置もエンジン154とトルクコンバータ156との間にのみに限定されない。例えば、電動機MGがトルクコンバータ156のタービン軸に動力伝達可能に連結される構成、或いは、電動機MGが自動変速機158の出力軸160に動力伝達可能に連結される構成であっても構わない。すなわち、電動機MGは、エンジン154から車輪164の間に動力伝達可能に連結されている構成であればよい。
【0051】
制動装置162は、図14に示すように、常用ブレーキとしてよく知られた所謂ディスクブレーキであって、車軸に固定されて車輪164と共に回転するディスク166と、車体に連結されたサスペンションを構成する部材等に配設され、ブレーキ制御装置168等からブレーキ油圧が供給されることによりブレーキパッド(摩擦材)を介してディスク166を挟圧するキャリパ170とを備えるホイールブレーキ172と、ブレーキアクチュエータ174等とを有して構成されている。上記ブレーキアクチュエータ174は、たとえば、ブレーキ油圧の元圧を発生させる油圧ポンプやアキュムレータ、および各車輪164のブレーキ油圧を独立に調圧する電磁弁(たとえばリニアソレノイドバルブ等)等を備え、電子制御装置152からの指令に従って各車輪164のキャリパ170へブレーキ油圧を供給するとともにその供給されるブレーキ油圧を調圧制御するものである。上記ホイールブレーキ172は、車両の制動時において、車輪164と共に回転するディスク166に対してキャリパ170からブレーキパッドが押し付けられることにより発生する摩擦により車輪164の回転を制動するものであり、その摩擦による制動力(油圧制動トルクTb-oil、ブレーキ制動トルク)は、ブレーキアクチュエータから供給される油圧の大きさに応じて増減させられるようになっている。
【0052】
駆動力調整手段180は、前述した駆動力調整手段114と同様に、エンジンの出力トルクを低減させることによる自動変速機158の変速前後の駆動力段差ΔTの抑制、トルクコンバータ156に備えられているロックアップクラッチ153のロックアップ制御による駆動力段差ΔTの抑制、および、自動変速機158のダウンシフト時に係合されない所定の摩擦係合装置のスリップによる駆動力段差ΔTの抑制を実施することができる。
【0053】
また、駆動力調整手段180は、変速前後の駆動力段差ΔTを抑制する他の手段として、制動装置162による制動力を発生させる制御を実行する。具体的には、駆動力調整手段180は、自動変速機158のダウンシフトによる駆動力の増加分を相殺する大きさの制動力を発生させる。なお、上記駆動力段差ΔTを抑制する制動力(油圧制動トルクTb-oil)は、予め実験的に求められて記憶されている。
【0054】
また、駆動力調整手段180は、変速前後の駆動力段差ΔTを抑制するさらに他の手段として、電動機MGの回生制御により電気的な制動力を発生させる制御を実行する。具体的には、駆動力調整手段180は、自動変速機158のダウンシフトによる駆動力の増加分を相殺する大きさの制動力を発生させる。なお、上記駆動力段差ΔTを相殺できる電動機MGによる制動力は、予め実験的に求められて記憶されている。
【0055】
駆動力調整手段180は、上記駆動力段差ΔTを抑制する各手段のうちの何れか1つ、或いは各手段を組み合わせて実施することにより、自動変速機158の出力軸160で発生する駆動力Toutの駆動力段差Δを抑制する。なお、電子制御装置152の各手段の作動については、前述の実施例と同様であるため、その説明を省略する。
【0056】
上記のように構成される車両用動力伝達装置150においても、前述の実施例と同様に、発熱量qが上限値qmax以上となって自動変速機158のダウンシフトが実施されても、自動変速機158の変速前後の駆動力変化およびエンジン回転速度Neの変化が抑制されるため、運転者に与える違和感が抑制される。
【0057】
また、本実施例によれば、駆動力段差ΔTを抑制する制御として、エンジン154と車輪164(駆動輪)との間に動力伝達可能に連結されている電動機MGの回生制御が実施される。このようにすれば、自動変速機158のダウンシフトによる駆動力の増加分を、電動機MGの回生制御によって相殺することができ、結果として駆動力段差ΔTを抑制することができる。
【0058】
また、本実施例によれば、駆動力段差ΔTを抑制する手段として、車輪164に制動力を発生させる制動装置162によって制動力を付与する。このようにすれば、自動変速機158のダウンシフトによる駆動力の増加分を、車輪164に付与される制動力によって相殺することができ、結果として駆動力段差ΔTを抑制することができる。
【0059】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0060】
例えば、前述の実施例では、有段式の自動変速機26、158が用いられているが、自動変速機は必ずしも有段式の変速機に限定されず、ベルト式無段変速機など、無段式の変速機であっても構わない。
【0061】
また、前述の実施例では、単位時間当たりの発熱量qが上限値qmax以上となり、且つ、エンジン12の回転速度変化量ΔNeが所定値α以下となるとダウンシフトを実行するものであったが、エンジン12の回転速度変化量ΔNeが所定値α以下であることは必ずしも必要なく、単位時間当たりの発熱量qが上限値qmaxを越えると、ダウンシフトを実行するものであっても構わない。
【0062】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0063】
10、150:車両用動力伝達装置
12、154:エンジン(駆動源)
26、158:自動変速機
32、153:ロックアップクラッチ
34、156:トルクコンバータ
100、152:電子制御装置
162:制動装置
164:車輪(駆動輪)
MG:電動機
e:速度比
emin:下限値
q:単位時間当たりの発熱量
qmax:上限値
α:所定値
ΔNe:エンジンの回転速度変化量(駆動源の回転速度変化量)
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用動力伝達装置の制御装置に係り、特に、駆動源と変速機と間にトルクコンバータが動力伝達可能に設けられている構成において、トルクコンバータで発生する発熱量を好適に抑制する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動源と変速機との間に流体伝動装置であるトルクコンバータが動力伝達可能に設けられている車両用動力伝達装置がよく知られている。例えば特許文献1がその一例である。特許文献1では、エンジン11と自動変速機10との間にトルクコンバータ12が動力伝達可能に設けられている。そして、トルクコンバータで発生する単位時間当たりの発熱量が上限値以上となると、自動変速機をダウンシフトしてアップシフトを禁止する技術が開示されている。このように自動変速機をダウンシフトすることにより、トルクコンバータ内の作動油の攪拌が抑制されるに従い、作動油の温度上昇が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−58023号公報
【特許文献2】特開2009−121238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の動力伝達装置において、トルクコンバータの発熱量が上限値以上となると、通常ダウンシフトされないタイミングでダウンシフトされるため、ダウンシフトに伴う駆動力変化や駆動源回転速度変化によって運転者に違和感を与える可能性があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、駆動源と変速機との間にトルクコンバータが動力伝達可能に設けられている車両用動力伝達装置において、トルクコンバータで発生する単位時間当たりの発熱量を抑制するためにダウンシフトを実行するに際して、そのダウンシフトによって運転者に与える違和感を抑制することができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a)駆動源と自動変速機との間にトルクコンバータが動力伝達可能に設けられている車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b)前記トルクコンバータの単位時間当たりの発熱量が予め設定されている上限値以上、または、そのトルクコンバータの速度比が予め設定されている下限値以下となることに基づいて、前記自動変速機のダウンシフトを実行するものであり、(c)該自動変速機をダウンシフトする際には、変速前後に発生する駆動力段差を抑制する制御を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、トルクコンバータの単位時間当たりの発熱量が上限値以上、または、トルクコンバータの速度比が下限値以下となることに基づいて、通常ダウンシフトが実施されないタイミングでダウンシフトが実行され、自動変速機の変速前後に発生する駆動力段差によって運転者に違和感を与えることとなるが、ダウンシフトの際に発生する、変速前後の駆動力段差を抑制する制御が実行されるため、その運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0008】
また、好適には、前記自動変速機の変速前後において、前記駆動源の回転速度変化量が予め設定されている所定値以下であることに基づいて、ダウンシフトを実行する。このようにすれば、ダウンシフトの際に駆動源の回転速度変化量も抑制されるため、駆動源の回転速度変化によって運転者に与える違和感をさらに抑制することができる。
【0009】
また、好適には、前記駆動力段差を抑制する制御とは、前記駆動源のトルクを低減させる制御である。このようにすれば、自動変速機のダウンシフトによる駆動力の増加分を駆動源のトルクの低減によって相殺することができ、結果として前記駆動力段差を抑制することができる。
【0010】
また、好適には、前記駆動力段差を抑制する制御とは、前記トルクコンバータに備えられているロックアップクラッチのスリップ制御である。このようにすれば、自動変速機のダウンシフトによる駆動力の増加分を、ロックアップクラッチのスリップ制御による、トルクコンバータのトルク増幅機能の抑制によって相殺することができ、結果として前記駆動力段差を抑制することができる。
【0011】
また、好適には、前記駆動力段差を抑制する制御とは、前記駆動源と駆動輪との間に動力伝達可能に連結されている電動機の回生制御である。このようにすれば、自動変速機のダウンシフトによる駆動力の増加分を、電動機の回生制御によって相殺することができ、結果として前記駆動力段差を抑制することができる。
【0012】
また、好適には、前記駆動力段差を抑制する手段とは、車輪に制動力を発生させる制動装置によって制動力を付与する制御である。このようにすれば、自動変速機のダウンシフトによる駆動力の増加分を、車輪に付与される制動力によって相殺することができ、結果として前記駆動力段差を抑制することができる。
【0013】
また、好適には、前記駆動力段差を抑制する制御とは、前記自動変速機のダウンシフトの際に係合されない所定の摩擦係合装置をスリップさせる制御である。このようにすれば、自動変速機のダウンシフトによる駆動力の増加分を、自動変速機の摩擦係合装置をスリップさせて、自動変速機を僅かにタイラップ状態(固着状態)とすることで相殺することができ、結果として前記駆動力段差を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明が適用された車両用動力伝達装置の構成を示す骨子図の一例である。
【図2】図1の車両用自動変速機の複数のギヤ段を成立させる際の摩擦係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表である。
【図3】図1の自動変速機などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部およびエンジンから駆動輪までの動力伝達系の概略構成を説明するブロック線図である。
【図4】図3の電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】図1の自動変速機の変速制御に関し、複数のギヤ段を運転状態に応じて自動的に切り替える変速マップの一例である。
【図6】速度比と単位時間当たりの発熱量との関係を示す2次元マップである。
【図7】作動油の油温と発熱量の上限値との関係を示す2次元マップである。
【図8】作動油の油温と速度比の下限値との関係を示す2次元マップである。
【図9】トルクコンバータのタービン回転速度とポンプ回転速度との関係を示す特性マップである。
【図10】エンジン回転速度と予め設定されている所定値との関係を示す2次元マップである。
【図11】図5のダウン変速線のうちの1つを拡大した変速線図である。
【図12】図3の電子制御装置の制御作動の要部すなわちトルクコンバータで発生する単位時間当たりの発熱量を抑制するためにダウンシフトを実行するに際して、ダウンシフトによって運転者に与える違和感を抑制する制御作動を説明するためのフローチャートである。
【図13】図12のフローチャートに基づく作動状態を説明するためのタイムチャートである。
【図14】本発明の他の実施例である車両用動力伝達装置の基本構成を示すと共に、その動力伝達装置を制御する電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明が適用された車両用動力伝達装置10(以下、動力伝達装置10)の骨子図である。図2は複数の変速段(ギヤ段)を成立させる際の摩擦係合要素すなわち摩擦係合装置の作動状態を説明する作動表である。動力伝達装置10は、駆動源であるエンジン12と駆動輪14(図3参照)との間の動力伝達経路を構成するものであり、車両の左右方向(横置き)に搭載するFF車両に好適に用いられる。動力伝達装置10は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース14内において、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置16を主体として構成されている第1変速部18と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置20およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置22を主体としてラビニヨ型に構成されている第2変速部24とから構成される自動変速機26を共通の軸心C上に有し、入力軸28の回転を変速して出力歯車30から出力する。
【0017】
入力軸28は、走行用の動力源であるエンジン12によって回転駆動される流体式伝動装置としてのトルクコンバータ34のタービン軸である。また、出力歯車30は、図3に示す差動歯車装置35に動力を伝達するために、デフリングギヤ36と噛み合ってファイナルギヤ対を構成するデフドライブピニオンと同軸上に配置されたカウンタドリブンギヤと噛み合ってカウンタギヤ対を構成するカウンタドライブギヤである。この出力歯車30の回転速度Noutが出力軸回転速度センサ66によって検出され、後述する電子制御装置100に供給される。そして回転速度Noutに基づいて車速Vが算出されて変速判断に用いられる。
【0018】
トルクコンバータ34は、エンジン12の動力を流体を介することなく入力軸28へ直接伝達するためのロックアップクラッチ32を備えている。このロックアップクラッチ32は、係合側油室38内の油圧と開放側油室40内の油圧との差圧ΔPにより摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチであり、それが完全係合(ロックアップオン)させられることにより、エンジン30の動力が入力軸28に直接伝達される。また、所定のスリップ状態で係合するように差圧ΔPすなわちトルク容量がフィードバック制御されることにより、例えば50rpm程度の所定のスリップ量でタービン軸(入力軸28)をエンジン12の出力回転部材(クランク軸)に対して追従回転させる。また、エンジン12のクランク軸はオイルポンプ46に連結されており、エンジン12の駆動に伴って油圧制御回路50(図3参照)に供給される油圧(元圧)を発生させる。
【0019】
このように構成された動力伝達装置10において、エンジン12の出力は、トルクコンバータ34、自動変速機26、差動歯車装置35、および一対の車軸39等を介して一対の駆動輪48へ伝達される(図3参照)。なお、この自動変速機26やトルクコンバータ34は中心線(軸心)Cに対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはその中心線Cの下半分が省略されている。
【0020】
自動変速機26は、第1変速部18および第2変速部24の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)のうちのいずれかの連結状態の組み合わせに応じて第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の6つの前進ギヤ段が成立させられるとともに、後退ギヤ段「R」が成立させられる。図2に示すように、例えば前進ギヤ段では、クラッチC1とブレーキB2との係合により第1速ギヤ段が、クラッチC1とブレーキB1との係合により第2速ギヤ段が、クラッチC1とブレーキB3との係合により第3速ギヤ段が、クラッチC1とクラッチC2との係合により第4速ギヤ段が、クラッチC2とブレーキB3との係合により第5速ギヤ段が、クラッチC2とブレーキB1との係合により第6速ギヤ段が、それぞれ成立させられるようになっている。また、ブレーキB2とブレーキB3との係合により後退ギヤ段が成立させられ、クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3のいずれも解放されることによりニュートラル状態となるように構成されている。
【0021】
図2の作動表は、上記各ギヤ段とクラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。特に、第1速ギヤ段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)にはクラッチC1のみを係合させ、エンジンブレーキを作用させるときにはクラッチC1とブレーキB2とを係合させる。また、各ギヤ段のギヤ比(変速比)γ(=入力軸28の回転速度/出力歯車30の回転速度)は、第1遊星歯車装置16、第2遊星歯車装置20、および第3遊星歯車装置22の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められ、第1速ギヤ段「1st」の変速比γが最も大きく、高速側(第6速ギヤ段「6th」)程小さくなる。
【0022】
このように本実施例の自動変速機10は、複数の摩擦係合装置すなわちクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3を選択的に係合させることによりギヤ比の異なる複数のギヤ段を成立させるものであり、図2の作動表から明らかなように、クラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の何れか2つを掴み替える所謂クラッチツウクラッチ変速により各ギヤ段の切り替えを行うことができる。これらクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、油圧制御回路(図3参照)のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5の励磁、非励磁や電流制御により、係合、開放状態が切り替えられると共に係合、開放時の過渡油圧などが制御される。
【0023】
図3は、図1の自動変速機26などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部およびエンジン12から駆動輪48までの動力伝達系の概略構成を説明するブロック線図である。
【0024】
図3において、電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御や自動変速機26の変速制御、ロックアップクラッチ32のロックアップ制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や油圧制御回路50のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5、SLU、SLTを制御する変速制御用等に分けて構成される。
【0025】
例えば、電子制御装置100には、アクセル開度センサ54により検出されたアクセルペダル52の操作量に相当するアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、エンジン回転速度センサ56により検出されたエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Neを表す信号、冷却水温センサ58により検出されたエンジン12の冷却水温Twを表す信号、吸入空気量センサ60により検出されたエンジン12の吸入空気量Qを表す信号、スロットル弁開度センサ64により検出された電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを表すスロットル弁開度信号、出力軸回転速度センサ66により検出された出力歯車30の回転速度である出力回転速度Noutすなわち車速Vを表す信号、ブレーキスイッチ70により検出された常用ブレーキであるフットブレーキ(ホイールブレーキ)の作動中(踏込操作中)を示すフットブレーキペダル68の操作(オン)Bonを表す信号、レバーポジションセンサ74により検出されたシフト装置71のシフトレバー72のレバーポジション(操作位置、シフトポジション)PSHを表す信号、タービン回転速度センサ76により検出されたトルクコンバータ32のタービン軸の回転速度であるタービン回転速度Ntすなわち入力軸28の回転速度Ninを表す信号、ATF油温センサ78により検出された油圧制御回路50内の作動油の温度であるATF油温Toil表す信号などがそれぞれ供給される。
【0026】
また、電子制御装置100からは、電子スロットル弁62を開閉駆動するスロットルアクチュエータ80への駆動信号、エンジン12の点火時期を指令する点火信号、エンジン12の吸気管または筒内に燃料を供給し或いは停止する燃料噴射装置82によるエンジン12への燃料供給量を制御する燃料供給量信号、シフトインジケータを作動させるためのレバーポジションPSH表示信号、自動変速機26のギヤ段を切り換えるために油圧制御回路50内のシフト弁を駆動するシフトソレノイドを制御する信号、およびライン圧を制御するリニヤソレノイド弁を駆動するための指令信号などがそれぞれ出力される。
【0027】
シフトレバー72は例えば運転席の近傍に配設され、図3に示すように、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、または「S」へ手動操作されるようになっている。「P」ポジションは自動変速機26内の動力伝達経路を解放しすなわち自動変速機26内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力歯車30の回転を阻止(ロック)するための駐車レンジ(位置)であり、「R」ポジションは自動変速機26の出力歯車30の回転方向を逆回転とするための後退走行レンジであり、「N」ポジションは自動変速機26内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための非走行レンジであり、「D」ポジションは自動変速機26の変速を許容する変速範囲で第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の総ての前進ギヤ段を用いて自動変速制御を実行させる前進走行レンジであり、「S」ポジションはギヤ段の変化範囲を制限する複数種類の変速レンジすなわち高車速側のギヤ段が異なる複数種類の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能な前進走行レンジである。この「S」ポジションにおいては、シフトレバー72の操作毎に変速範囲をアップ側にシフトさせるためのレバーポジションPSHとしての「+」ポジション、シフトレバー72の操作毎に変速範囲をダウン側にシフトさせるためのレバーポジションPSHとしての「−」ポジションが備えられている。
【0028】
図4は、上記電子制御装置100による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図4において、エンジン出力制御手段102は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ80により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置82による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置による点火時期を制御するなどしてエンジン12の出力制御を実行する。スロットル制御は、予め記憶された関係からアクセル操作量Accに基づいてスロットルアクチュエータを駆動し、アクセル操作量Accが増加する程スロットル弁開度θTHを増加させるように行われる。
【0029】
変速制御手段104は、自動変速機26の変速制御を行うもので、シフトレバー72が「D」ポジションへ操作されることにより前記自動変速モード(Dレンジ)を成立させ、例えば図5に示すように車速Vおよびアクセル操作量Accをパラメータとして予め設定された変速マップに従って、総ての前進ギヤ段「1st」〜「6th」を用いて自動変速を行う。図5の変速マップは、変速規則に相当するもので、実線はアップ変速を判断するためのアップ変速線であり、破線はダウン変速を判断するためのダウン変速線である。
【0030】
発熱時ダウンシフト手段106は、トルクコンバータ34の単位時間当たりの発熱量qが予め設定されている上限値qmax以上、且つ、自動変速機26のダウンシフト前後のエンジン12の回転速度変化量ΔNeが所定値α以下であることに基づいて、変速線図に拘わらずダウンシフトを実行する指令を変速制御手段104に出力する。例えば第6速ギヤ段で走行時に単位時間当たりの発熱量が上限値qmaxを越え、さらに、後述するエンジン12の回転速度変化量ΔNeが所定値α以下となることに基づいて、第5速ギヤ段へのダウンシフトを実行する指令を変速制御手段104に出力する。そして、変速制御手段104によって自動変速機26がダウンシフトされると、自動変速機26の入力軸28の回転速度Ninすなわちトルクコンバータ34のタービン回転速度Ntが上昇するため、トルクコンバータ34のポンプインペラ側のポンプ回転速度Npすなわちエンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとの差回転ΔNが低減される。これに従い、トルクコンバータ34内の作動油の攪拌が抑制されるので発熱量qが低減される。
【0031】
発熱量算出手段108は、トルクコンバータ34で発生する単位時間当たりの発熱量q(cal/s)を算出する。発熱量算出手段108は、例えば図6に示すような、予め実験的に求められた速度比eと発熱量qとの2次元マップに基づいて、現時点における速度比eを参照することにより、単位時間当たりの発熱量qを算出する。ここで、速度比eは、タービン回転速度Ntとポンプ回転速度Np(エンジン回転速度Ne)との比(=Nt/Np)で算出される値である。図6に示すように、速度比eが小さい場合、タービン回転速度Ntとポンプ回転速度Npとの差回転ΔN(Np−Nt)が大きいことから、トルクコンバータ34内の作動油が攪拌されるため、発熱量qが大きくなる。そして、速度比eが増加するに従って差回転ΔNが小さくなることから、トルクコンバータ34内の作動油の攪拌が抑制されて発熱量qが減少する。なお、発熱量qは、上記図6に示すような2次元マップからではなく、公知である計算式に基づいて算出しても構わない。
【0032】
発熱時ダウンシフト手段106は、発熱量算出手段108によって求められた発熱量qが予め設定されている上限値qmax以上であるか否かを判定する。ここで、上限値qmaxは、予め実験等に基づいて求められており、トルクコンバータ34内の作動油の過度の温度上昇が防止される発熱量に設定されている。また、上限値qmaxは必ずしも一定値ではなく、例えば油圧制御回路50内の作動油のATF油温Toilに応じて設定される。具体的には、図7に示すようなATF油温Toilと上限値qmaxとをパラメータとする2次元マップが予め実験的に求められており、ATF油温センサ78によって検出されたATF油温Toilからこの2次元マップを参照することにより上限値qmaxが求められる。図7に示すように、ATF油温Toilが低温状態にあるとき上限値qmaxが高い値に設定される。これは、ATF油温Toilが低い場合には、発熱量qが大きくてもATF油温Toilが過度に高くならないためである。そして、ATF油温Toilが高くなるに従って、上限値qmaxが小さくなるように設定されている。これは、ATF油温Toilが高くなると、発熱量qが小さくてもATF油温Toilが高温状態になり易いためである。
【0033】
また、発熱時ダウンシフト手段106は、発熱量算出手段108に代わって、速度比算出手段110によって速度比e(=Nt/Np)を算出して自動変速機26のダウンシフトの実施を判断しても構わない。図6に示したように、速度比eと発熱量qとは、相関関係にあることが知られている。従って、速度比eを算出し、算出された速度比eに基づいてダウンシフトの実施を判断しても、発熱量qに基づいてダウンシフトの実施を判断することと実質的に変わらない。発熱時ダウンシフト手段106は、速度比算出手段110によって算出された速度比eが予め設定されている下限値emin以下であるか否かを判定する。なお、下限値eminは、予め実験等によって求められており、トルクコンバータ34内の作動油の過度の温度上昇が防止される発熱量に設定されている。また、下限値eminは、必ずしも一定値ではなく、例えば油圧制御回路50内の作動油のATF油温Toilに応じて設定される。具体的には、図8に示すようなATF油温Toilと下限値eminとをパラメータとする2次元マップが予め実験的に求められており、ATF油温センサ78によって検出されたATF油温Toilからこの2次元マップを参照することにより下限値eminが求められる。図8に示すように、ATF油温が低温状態にあるとき下限値eminが低い値に設定される。これは、速度比eが小さい状態ではトルクコンバータ34内の作動油が攪拌されて発熱量qが大きくなるが、ATF油温Toilが低いため、その発熱量qが大きくてもATF油温Toilが高温状態にはならないためである。そして、ATF油温Toilが高くなるに従って下限値eminが大きくなるように設定されている。これは、ATF油温Toilが高くなるに従って、発熱量qを抑制するためである。
【0034】
回転変化量判定手段112は、発熱時ダウンシフト手段106によるダウンシフトを実行するに際して、変速前後のエンジン12の回転速度変化量ΔNeが予め設定されている所定値α以下となるか否かを判定する。ここで、変速後のエンジン回転速度Ne'は、予め求められて記憶されている図9に示すトルクコンバータ34の回転速度の特性マップから、変速後のタービン回転速度Nt’を参照することで求められる。なお、変速後のタービン回転速度Nt’は、出力軸回転速度センサ66から検出される出力回転速度Noutと変速後のギヤ段の変速比γとの積(=Nout×γ)で算出される。そして、回転変化量判定手段112は、算出された変速後のエンジン回転速度Ne'と現時点におけるエンジン回転速度Neとの回転速度変化量ΔNe(Ne'−Ne)が、予め設定されている所定値α以下であるか否かを判定する。
【0035】
ここで、上記所定値αは、予め実験等によって求められ、変速前後において発生するエンジン12の回転速度変化が運転者に知覚されない、すなわち運転者に違和感を与えない値に設定されている。上記所定値αは、例えばエンジン回転速度Neに応じて変化するように設定されている。例えば、変速前後でエンジン回転速度Neが500rpm変化すると仮定し、エンジン回転速度Neが6000rpmで回転している場合、この500rpmの変化は相対的には小さいため、運転者に殆ど違和感を与えない。一方、エンジン回転速度Neが1000rpmで回転している場合、500rpm変化するとその変化は相対的に大きいため、運転者に違和感を与えることとなる。これより、所定値αは、図10に示すように、エンジン回転速度Neが増加するに従って大きくなるように設定されている。この変速前後のエンジン12の回転速度変化量ΔNeが所定値α以下となるのは、図11の斜線で示すようにダウン変速線に隣接する領域となる。この図11は、図5のダウン変速線のうちの1つを拡大したものである。図11に示すように、自動変速機26の変速前後のエンジン12の回転速度変化量ΔNeが所定値α以下となる領域、すなわちエンジン12の回転速度変化が運転者によって知覚されない領域は、各ダウン変速線毎に存在し、予め実験的に求めることができる。これより、回転変化量判定手段112は、自動変速機26の変速前後におけるエンジン12の回転速度変化量ΔNeが所定値α以下となる予め設定されている領域にあるか否かを判断しても構わない。
【0036】
この自動変速機26の変速前後のエンジン回転速度Neの回転速度変化量ΔNeが所定値α以下となる領域でダウンシフトが実行されると、エンジン12の回転速度変化量ΔNeが所定値αとなるため、エンジン回転速度Neの回転速度変化によって運転者に与える違和感が抑制される。発熱時ダウンシフト手段106は、発熱量qが上限値qmax以上となり、回転変化量判定手段112によって変速前後のエンジン12の回転速度変化量ΔNeが所定値α以下となると判断されると、変速制御手段104によるダウンシフトを実行(開始)する。
【0037】
駆動力調整手段114は、発熱時ダウンシフト手段106が実行されるに際して、自動変速機26の変速前後に発生する出力歯車30から出力される駆動力Toutの段差ΔT(駆動力段差ΔT)を抑制する制御を実行する。具体的には、駆動力調整手段114は、自動変速機26のダウンシフトによる駆動力Toutの増加分が相殺されるように、エンジン12の出力トルクを低減させる指令をエンジン出力制御手段102に出力する。なお、エンジン12の出力トルクの低減量は、ダウンシフトされるギヤ段の変速比γ等に応じて変速前後の駆動力段差ΔT(駆動力変化)が抑制される値に設定されている。
【0038】
また、駆動力調整手段114は、駆動力段差ΔTを抑制する他の手段として、トルクコンバータ34のロックアップクラッチ32をスリップさせる制御(スリップ制御)を実行する。ロックアップクラッチ32がスリップされると、ポンプ回転速度Npとタービン回転速度Ntとの差回転ΔNが抑制される。すなわち、トルクコンバータ34のトルク増幅作用が抑制され、結果として出力歯車30から出力される駆動力Toutが低減される。なお、ロックアップクラッチ32のスリップ量Nslipは、予め実験的に求められており、変速前後の駆動力段差ΔTが抑制される、すなわちダウンシフトによる駆動力Toutの増加分が相殺される値に設定されている。
【0039】
さらに、駆動力調整手段114は、駆動力段差ΔTを抑制するさらに他の手段として、自動変速機26の所定の摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)をスリップさせる。なお、この所定の摩擦係合装置とは、ダウンシフトの際に係合される摩擦係合装置に該当しない摩擦係合装置である。すなわち、この変速の際に係合されない摩擦係合装置をスリップさせることで、自動変速機26を僅かにタイラップ状態(ロック状態)とすることで、出力歯車34から出力される駆動段差ΔTを抑制する。例えば、第6速ギヤ段から第5速ギヤ段へのダウンシフトの場合、クラッチC1、ブレーキB1、ブレーキB2が係合されないので、これらの摩擦係合装置が所定の摩擦係合装置となる。駆動力調整手段114は、上記駆動力段差を抑制する各手段のうちの何れか1つ、或いは各手段を組み合わせて実施することにより、変速前後に発生する駆動力段差ΔTを抑制する。
【0040】
図12は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわちトルクコンバータ34で発生する単位時間当たりの発熱量qを抑制するためにダウンシフトを実行するに際して、ダウンシフトによって運転者に与える違和感を抑制する制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
【0041】
先ず、発熱量算出手段108および発熱時ダウンシフト手段106に対応するステップSA1(以下、ステップを省略する)において、トルクコンバータ34で発生する単位時間当たりの発熱量qが算出され、その発熱量qが上限値qmax以上であるか否かが判定される。SA1が否定される場合、SA1が肯定されるまで繰り返しSA1の判定が実施される。SA1が肯定される場合、回転変化量判定手段112に対応するSA2において、自動変速機26の変速前後のエンジン回転速度Neの変化量ΔNが予め設定されている所定値α以下か否かが判定される。SA2が否定される場合、再度SA1に戻り、同様のステップが繰り返される。SA2が肯定される場合、発熱時ダウンシフト手段106に対応するSA3において、自動変速機26のダウンシフトが開始される。そして、SA3のステップと並行して、駆動力調整手段114に対応するSA4において、出力歯車30において発生する駆動力段差ΔTが抑制されるように、エンジン12の出力トルク低減制御、ロックアップクラッチ32のロックアップ制御、および自動変速機26の所定の摩擦係合装置のスリップ制御の何れか1つ、或いはこれらを組み合わせた制御が開始される。
【0042】
図13は、図12のフローチャートに基づく作動状態を説明するためのタイムチャートである。t1時点において単位時間当たりの発熱量qが上限値qmax以上となり、発熱量qを抑制するためのダウンシフト側への変速判断が為され、これと同時に自動変速機26の変速前後のエンジン回転速度Neの回転速度変化量ΔNeが算出され、その回転速度変化量ΔNeが所定値α以下か否かが判定される。そして、変化量ΔNが所定値α以下であると判断されると、ダウンシフトが開始される。なお、実際の変速制御は、所定の時間遅れの後、t2時点から開始される。また、t2時点において、ダウンシフトの開始と同時に、自動変速機26の変速前後の駆動力段差ΔT(駆動力変化)を抑制する制御が開始される。そして、t3時点において、タービン回転速度Ntが変化するイナーシャ相が開始される。t4時点において、イナーシャ相が終了すると、変速終期に実施される摩擦係合装置の油圧を上昇させる制御が実行され、摩擦係合装置が完全係合される。ここで、図13に示すように、エンジン回転速度Neのt1時点からt5時点間の変化量ΔNは、数百回転程度と比較的小さいので、エンジン回転速度Neの変化によって運転者に与える違和感は抑制されている。また、t3時点からt5時点間における自動変速機26(出力歯車30)の駆動力段差ΔTも駆動力調整手段114によって抑制されている。これらより、エンジン回転速度変化による違和感、および、駆動力段差によって運転車に与える違和感が抑制される。
【0043】
上述のように、本実施例によれば、トルクコンバータ34の単位時間当たりの発熱量qが上限値qmax以上、または、トルクコンバータ34の速度比eが下限値emin以下となることに基づいて、通常ダウンシフトが実施されないタイミングでダウンシフトされ、自動変速機26の変速前後に発生する駆動力段差ΔTによって運転者に違和感を与えることとなるが、ダウンシフトの際に発生する、変速前後の駆動力段差ΔTを抑制する制御が実行されるため、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0044】
また、本実施例によれば、自動変速機26の変速前後において、エンジン12の回転速度変化量ΔNeが予め設定されている所定値α以下であることに基づいてダウンシフトを実行する。このようにすれば、ダウンシフトの際にエンジン12の回転速度変化量ΔNeも抑制されるため、エンジン12の回転速度変化によって運転者に与える違和感をさらに抑制することができる。
【0045】
また、本実施例によれば、駆動力段差ΔTを抑制する制御として、エンジン12の出力トルクを低減させる。このようにすれば、自動変速機26のダウンシフトによる駆動力の増加分をエンジン12のトルクの低減によって相殺することができ、結果として駆動力段差ΔTを抑制することができる。
【0046】
また、本実施例によれば、駆動力段差ΔTを抑制する制御として、トルクコンバータ34に備えられているロックアップクラッチ32をスリップ制御させる。このようにすれば、自動変速機26のダウンシフトによる駆動力の増加分を、ロックアップクラッチ32のスリップ制御による、トルクコンバータ34のトルク増幅機能の抑制によって相殺することができ、結果として駆動力段差ΔTを抑制することができる。
【0047】
また、本実施例によれば、駆動力段差ΔTを抑制する制御として、自動変速機26のダウンシフトの際に係合されない所定の摩擦係合装置をスリップさせる。このようにすれば、自動変速機26のダウンシフトによる駆動力の増加分を、自動変速機26の摩擦係合装置をスリップさせて、自動変速機26を僅かにタイラップ状態(固着状態)とすることで相殺することができ、結果として駆動力段差ΔTを抑制することができる。
【0048】
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0049】
図14は、本発明の他の実施例である車両用動力伝達装置150(動力伝達装置150)の基本構成を示すと共に、その動力伝達装置150を制御する電子制御装置152による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【0050】
動力伝達装置150は、エンジン154、電動機MG、トルクコンバータ156、および油圧制御回路159の油圧制御によって変速される自動変速機158を主に備えて構成されている。なお、エンジン154(駆動源)、トルクコンバータ156、および自動変速機158の構成は、基本的には前述した実施例と略変わらないのでその説明を省略する。電動機MGは、エンジン154のクランク軸(すなわちトルクコンバータ156のポンプ軸)に動力伝達可能に連結されており、蓄電装置155に連結されているインバータ157によって力行または回生制御させられる。なお、電動機MGは必ずしも直列に配置される必要はなく、歯車等を介して並列に設けられていても構わない。また、電動機MGの配置位置もエンジン154とトルクコンバータ156との間にのみに限定されない。例えば、電動機MGがトルクコンバータ156のタービン軸に動力伝達可能に連結される構成、或いは、電動機MGが自動変速機158の出力軸160に動力伝達可能に連結される構成であっても構わない。すなわち、電動機MGは、エンジン154から車輪164の間に動力伝達可能に連結されている構成であればよい。
【0051】
制動装置162は、図14に示すように、常用ブレーキとしてよく知られた所謂ディスクブレーキであって、車軸に固定されて車輪164と共に回転するディスク166と、車体に連結されたサスペンションを構成する部材等に配設され、ブレーキ制御装置168等からブレーキ油圧が供給されることによりブレーキパッド(摩擦材)を介してディスク166を挟圧するキャリパ170とを備えるホイールブレーキ172と、ブレーキアクチュエータ174等とを有して構成されている。上記ブレーキアクチュエータ174は、たとえば、ブレーキ油圧の元圧を発生させる油圧ポンプやアキュムレータ、および各車輪164のブレーキ油圧を独立に調圧する電磁弁(たとえばリニアソレノイドバルブ等)等を備え、電子制御装置152からの指令に従って各車輪164のキャリパ170へブレーキ油圧を供給するとともにその供給されるブレーキ油圧を調圧制御するものである。上記ホイールブレーキ172は、車両の制動時において、車輪164と共に回転するディスク166に対してキャリパ170からブレーキパッドが押し付けられることにより発生する摩擦により車輪164の回転を制動するものであり、その摩擦による制動力(油圧制動トルクTb-oil、ブレーキ制動トルク)は、ブレーキアクチュエータから供給される油圧の大きさに応じて増減させられるようになっている。
【0052】
駆動力調整手段180は、前述した駆動力調整手段114と同様に、エンジンの出力トルクを低減させることによる自動変速機158の変速前後の駆動力段差ΔTの抑制、トルクコンバータ156に備えられているロックアップクラッチ153のロックアップ制御による駆動力段差ΔTの抑制、および、自動変速機158のダウンシフト時に係合されない所定の摩擦係合装置のスリップによる駆動力段差ΔTの抑制を実施することができる。
【0053】
また、駆動力調整手段180は、変速前後の駆動力段差ΔTを抑制する他の手段として、制動装置162による制動力を発生させる制御を実行する。具体的には、駆動力調整手段180は、自動変速機158のダウンシフトによる駆動力の増加分を相殺する大きさの制動力を発生させる。なお、上記駆動力段差ΔTを抑制する制動力(油圧制動トルクTb-oil)は、予め実験的に求められて記憶されている。
【0054】
また、駆動力調整手段180は、変速前後の駆動力段差ΔTを抑制するさらに他の手段として、電動機MGの回生制御により電気的な制動力を発生させる制御を実行する。具体的には、駆動力調整手段180は、自動変速機158のダウンシフトによる駆動力の増加分を相殺する大きさの制動力を発生させる。なお、上記駆動力段差ΔTを相殺できる電動機MGによる制動力は、予め実験的に求められて記憶されている。
【0055】
駆動力調整手段180は、上記駆動力段差ΔTを抑制する各手段のうちの何れか1つ、或いは各手段を組み合わせて実施することにより、自動変速機158の出力軸160で発生する駆動力Toutの駆動力段差Δを抑制する。なお、電子制御装置152の各手段の作動については、前述の実施例と同様であるため、その説明を省略する。
【0056】
上記のように構成される車両用動力伝達装置150においても、前述の実施例と同様に、発熱量qが上限値qmax以上となって自動変速機158のダウンシフトが実施されても、自動変速機158の変速前後の駆動力変化およびエンジン回転速度Neの変化が抑制されるため、運転者に与える違和感が抑制される。
【0057】
また、本実施例によれば、駆動力段差ΔTを抑制する制御として、エンジン154と車輪164(駆動輪)との間に動力伝達可能に連結されている電動機MGの回生制御が実施される。このようにすれば、自動変速機158のダウンシフトによる駆動力の増加分を、電動機MGの回生制御によって相殺することができ、結果として駆動力段差ΔTを抑制することができる。
【0058】
また、本実施例によれば、駆動力段差ΔTを抑制する手段として、車輪164に制動力を発生させる制動装置162によって制動力を付与する。このようにすれば、自動変速機158のダウンシフトによる駆動力の増加分を、車輪164に付与される制動力によって相殺することができ、結果として駆動力段差ΔTを抑制することができる。
【0059】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0060】
例えば、前述の実施例では、有段式の自動変速機26、158が用いられているが、自動変速機は必ずしも有段式の変速機に限定されず、ベルト式無段変速機など、無段式の変速機であっても構わない。
【0061】
また、前述の実施例では、単位時間当たりの発熱量qが上限値qmax以上となり、且つ、エンジン12の回転速度変化量ΔNeが所定値α以下となるとダウンシフトを実行するものであったが、エンジン12の回転速度変化量ΔNeが所定値α以下であることは必ずしも必要なく、単位時間当たりの発熱量qが上限値qmaxを越えると、ダウンシフトを実行するものであっても構わない。
【0062】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0063】
10、150:車両用動力伝達装置
12、154:エンジン(駆動源)
26、158:自動変速機
32、153:ロックアップクラッチ
34、156:トルクコンバータ
100、152:電子制御装置
162:制動装置
164:車輪(駆動輪)
MG:電動機
e:速度比
emin:下限値
q:単位時間当たりの発熱量
qmax:上限値
α:所定値
ΔNe:エンジンの回転速度変化量(駆動源の回転速度変化量)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と自動変速機との間にトルクコンバータが動力伝達可能に設けられている車両用動力伝達装置の制御装置であって、
前記トルクコンバータの単位時間当たりの発熱量が予め設定されている上限値以上、または、該トルクコンバータの速度比が予め設定されている下限値以下となることに基づいて、前記自動変速機のダウンシフトを実行するものであり、
該自動変速機をダウンシフトする際には、変速前後に発生する駆動力段差を抑制する制御を実行することを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記自動変速機の変速前後において、前記駆動源の回転速度変化量が予め設定されている所定値以下であることに基づいて、ダウンシフトを実行することを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記駆動力段差を抑制する制御とは、前記駆動源のトルクを低減させる制御であることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記駆動力段差を抑制する制御とは、前記トルクコンバータに備えられているロックアップクラッチのスリップ制御であることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記駆動力段差を抑制する制御とは、前記駆動源と駆動輪との間に動力伝達可能に連結されている電動機の回生制御であることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記駆動力段差を抑制する手段とは、車輪に制動力を発生させる制動装置によって制動力を付与する制御であることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記駆動力段差を抑制する制御とは、前記自動変速機のダウンシフトの際に係合されない所定の摩擦係合装置をスリップさせる制御であることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項1】
駆動源と自動変速機との間にトルクコンバータが動力伝達可能に設けられている車両用動力伝達装置の制御装置であって、
前記トルクコンバータの単位時間当たりの発熱量が予め設定されている上限値以上、または、該トルクコンバータの速度比が予め設定されている下限値以下となることに基づいて、前記自動変速機のダウンシフトを実行するものであり、
該自動変速機をダウンシフトする際には、変速前後に発生する駆動力段差を抑制する制御を実行することを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記自動変速機の変速前後において、前記駆動源の回転速度変化量が予め設定されている所定値以下であることに基づいて、ダウンシフトを実行することを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記駆動力段差を抑制する制御とは、前記駆動源のトルクを低減させる制御であることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記駆動力段差を抑制する制御とは、前記トルクコンバータに備えられているロックアップクラッチのスリップ制御であることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記駆動力段差を抑制する制御とは、前記駆動源と駆動輪との間に動力伝達可能に連結されている電動機の回生制御であることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記駆動力段差を抑制する手段とは、車輪に制動力を発生させる制動装置によって制動力を付与する制御であることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記駆動力段差を抑制する制御とは、前記自動変速機のダウンシフトの際に係合されない所定の摩擦係合装置をスリップさせる制御であることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−197827(P2012−197827A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61084(P2011−61084)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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