説明

車両用駆動装置

【課題】変速装置の回転要素の回転軸心が偏心した状態で係合されることを防止すると共に、係合完了までの期間を短縮することができる車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】駆動力源13が駆動力を発生していない状態で、変速装置TMの非伝達状態から伝達状態への状態移行指令が入力された場合に、摩擦係合要素C1を係合して伝達状態へ移行する前に、非伝達状態を維持しつつ、駆動力源13に駆動力を発生させて駆動入力部材Iを回転させ、流体継手14を介して変速入力部材Mを回転させることにより、変速入力回転動作を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力源と、流体継手と、変速装置と、少なくとも前記駆動力源及び前記変速装置の制御を行う制御装置とを備え、前記駆動力源により駆動される駆動入力部材の回転が前記流体継手を介して変速入力部材へ伝達され、当該変速入力部材の回転が前記変速装置で変速されて出力部材へ伝達される車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、駆動力源として内燃機関と回転電機とを併用するハイブリッド車両が普及している。このようなハイブリッド車両では、内燃機関の燃費向上や排出ガスの低減を図るため、車両の停止中や減速中等に内燃機関を停止させる内燃機関停止制御が積極的に行われる。また、従来型の内燃機関のみを駆動力源とする車両においても、同様に、車両の停止中や減速中等に内燃機関を停止させる内燃機関停止制御を行う場合があり、このような車両は一般にアイドリングストップ車両と呼ばれている。
【0003】
ところで、これらのハイブリッド車両やアイドリングストップ車両が、クラッチやブレーキ等の摩擦係合要素を含む変速装置を備える場合に特有の問題が生じ得る。すなわち、変速装置は、内部にギヤや軸等の回転要素を複数備えており、これらの回転要素間には、適切に回転や潤滑を行わせるために必要な隙間が設けられている。変速装置の内部の全ての回転要素が回転を停止している状態では、当該回転要素の回転や潤滑油圧による軸心調整機能が働かないため、各回転要素は、重力によって前記隙間分だけ下方へ移動することになる。これによって、変速装置の内部の各回転要素が偏心した状態となり、当該偏心した回転要素に支持される摩擦係合要素の構成部材も偏心した状態となる。このような状態で、車両の発進や加速等に備えて変速装置の摩擦係合要素を解放状態から係合状態にすると、当該摩擦係合要素の互いに係合する一方側部材と他方側部材とが、互いに軸心位置がずれた状態で係合することになる。このように軸心位置がずれて係合した摩擦係合要素によって各回転要素の軸心位置も規制されるため、その後に各回転要素の回転速度が上昇し或いは潤滑油圧が供給されても、軸心位置が調整されず偏心したままの状態が維持される。このように変速装置内部の回転要素が偏心した状態で車両を走行させると、各回転要素の軸受け等の潤滑油を適切に供給できず、各回転要素に偏磨耗が生じる可能性や、変速装置から異音が発生する可能性がある。
【0004】
そこで、例えば、下記の特許文献1には、駆動力源として内燃機関と回転電機とを備えたハイブリッド車両に関して、以下のような技術が記載されている。すなわち、このハイブリッド車両では、シフトレバーが操作されてシフトポジションがPポジションからDポジションに変更されたときは、モータを車軸側から切り離した状態にある変速機に接続されたモータから調心用トルクを出力し、変速機の各回転要素を回転させることにより調心されるのを待って、変速機をLoギヤの状態とするためにブレーキを係合する制御を行う。これにより、変速機の各回転要素の回転中心が偏心するのを抑制し、それによる不都合を回避することを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−105288号公報(第8−10頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来の構成では、回転電機に調心用トルクを出力させた状態で変速機のブレーキを係合することにより回転電機のトルクが車輪へ伝達されることを抑制するために、ブレーキの係合圧を次第に上昇させることに同期して回転電機が出力するトルクを次第に低下させる制御を行う。しかしながら、このような制御では、ブレーキの係合圧を高精度に制御することが難しいことから、車輪側へトルクが伝達されるのを抑制することは困難である。そこで従来の構成では、更に、回転電機のトルクが車輪側へ伝達された際にも、車輪が不用意に回転しないように、パーキングロック機構がロック状態であることを確認した上で当該ロック状態を維持したまま、回転電機に調心用トルクを出力させる制御を行う。しかしながら、このような構成では、パーキングロックの係合動作や係合確認のための処理が必要となり、処理が煩雑となる問題がある。また、ブレーキを係合した後、パーキングロックを解除してからしか車両を発進させることができないため、発進動作の遅れの原因となるという問題もある。
【0007】
そこで、変速装置が備える変速用回転要素の回転軸心が偏心した状態で摩擦係合要素が係合されることを抑制できるとともに、そのための制御を簡略化でき、更には駆動力源の駆動力を車輪側へ伝達可能な状態を迅速に実現することができる車両用駆動装置が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る、駆動力源と、流体継手と、変速装置と、少なくとも前記駆動力源及び前記変速装置の制御を行う制御装置とを備え、前記駆動力源により駆動される駆動入力部材の回転が前記流体継手を介して変速入力部材へ伝達され、当該変速入力部材の回転が前記変速装置で変速されて出力部材へ伝達される車両用駆動装置の特徴構成は、前記変速装置が、複数の変速用回転要素と少なくとも一つの摩擦係合要素とを備え、前記摩擦係合要素が係合状態となることにより前記変速入力部材の回転を前記出力部材へ伝達する伝達状態となり、前記摩擦係合要素が解放状態となることにより前記変速入力部材の回転を前記出力部材へ伝達しない非伝達状態となるように構成され、前記制御装置が、前記駆動力源が駆動力を発生させていない状態で、前記非伝達状態から前記伝達状態への状態移行指令が入力された場合に、前記摩擦係合要素を係合して前記伝達状態へ移行する前に、前記非伝達状態を維持しつつ、前記駆動力源に駆動力を発生させて前記駆動入力部材を回転させ、前記流体継手を介して前記変速入力部材を回転させることにより、変速入力回転動作を行う点にある。
【0009】
本願では、「駆動力源」は、例えば回転電機、内燃機関、或いはこれらの組み合わせ等、駆動力を発生させることができる各種動力源のことであり、好ましくは車両の駆動力源となり得るものである。ここで、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。また、本願における「流体継手」は、自動変速装置等に一般的に用いられている公知のトルクコンバータを含む概念として用いている。
【0010】
この特徴構成によれば、摩擦係合要素を係合して伝達状態へ移行する前に、駆動力源に駆動力を発生させて駆動入力部材を回転させ、流体継手を介して変速入力部材を回転させることにより、複数の変速用回転要素の少なくとも一部の回転軸心の位置を調整する調心動作を行うことができるので、変速用回転要素の回転軸心が調心された状態で摩擦係合要素を係合させることができる。従って、変速用回転要素の回転軸心が偏心した状態で摩擦係合要素が係合されることによる不具合の発生を抑制できる。ここで、変速入力回転動作を行う条件を、駆動力源が駆動力を発生させていない状態であって非伝達状態から伝達状態への変速装置の状態移行指令が入力された場合としていることにより、変速用回転要素の回転軸心が偏心している可能性がある状況で適切に調心を行うことができる。
【0011】
また、この特徴構成によれば、変速入力回転動作に際して、駆動力源の駆動力による駆動入力部材の回転が流体継手を介して変速入力部材に伝達される。このため、仮に摩擦係合要素が係合して変速装置が伝達状態に移行した際に駆動力源が駆動力を発生させた状態であっても、流体継手の出力側に対して入力側が差回転をもつことにより、駆動入力部材の回転が直接的に変速入力部材に伝達されることが抑制され、出力部材に伝達される駆動力の変動を抑制することができる。また、このように流体継手が差回転をもつことにより、車輪を停止させるホイールブレーキ等により出力部材の回転が停止している状態でも、駆動力源の駆動力による駆動入力部材の回転が許容される。従って、摩擦係合要素の係合圧に同期させて駆動力源の駆動力を高精度に制御して駆動力が出力部材に伝達されることを抑制する制御を行う必要性が低い。また、パーキングロック等の機械的な固定機構により出力部材を固定する必要性も低い。よって、従来に比べて変速入力回転動作のための制御を簡略化することができると共に、駆動力源の駆動力を車輪側へ伝達可能な状態を迅速に実現することができる。
【0012】
ここで、前記出力部材の回転を機械的に固定する回転固定状態と、当該固定を解除する固定解除状態とを切り替え可能なロック機構を更に備える構成であって、前記制御装置が、前記変速入力回転動作に際して、前記ロック機構が前記回転固定状態にある場合には、前記駆動力源に駆動力を発生させる前に前記ロック機構を前記固定解除状態に切り替えると好適である。
【0013】
この構成によれば、出力部材の回転を機械的に固定可能なロック機構を備える場合においても、変速入力回転動作に際して駆動力源に駆動力を発生させる前にロック機構を固定解除状態とするので、変速入力回転動作の終了後にロック機構を固定解除状態とする場合に比べて、駆動力源の駆動力を車輪側へ伝達可能な状態を迅速に実現することができる。
【0014】
また、前記制御装置が、前記駆動力源の駆動状態を制御する駆動制御部を備える構成であって、前記駆動制御部は、前記摩擦係合要素が係合状態への移行を開始した後、前記流体継手を介する前記駆動入力部材と前記変速入力部材との回転速度差の増加を検出したことに基づいて、前記駆動力源による駆動力の発生を停止させると好適である。また、前記駆動制御部は、前記非伝達状態から前記伝達状態への状態移行指令に基づいて前記駆動力源に駆動力を発生させると好適である。
【0015】
上記のとおり、この車両用駆動装置の構成によれば、駆動力源により駆動される駆動入力部材の回転が流体継手を介して変速入力部材へ伝達される。このため、摩擦係合要素が係合状態への移行を開始し、摩擦係合要素の伝達トルク容量が増加するに従って、変速入力部材の回転速度が出力部材の回転速度に近づく方向に変化する。これにより、流体継手の入力側部材である駆動入力部材と、流体継手の出力側部材である変速入力部材との回転速度差(差回転)が増加する。この構成によれば、変速装置の摩擦係合要素の係合開始によって伝達トルク容量が増加し始めたことを適切に検出し、それに基づいて駆動力源による駆動力の発生を停止させることができる。よって、出力部材に伝達される駆動力の変動を更に抑制できると共に、変速用回転要素の調心が完了した後に駆動力源を駆動することによる無駄なエネルギ消費を抑制することができる。
【0016】
また、上記の係合制御部の制御に代えて、前記制御装置が、前記摩擦係合要素の係合状態を制御する係合制御部を備える構成であって、前記係合制御部は、前記非伝達状態から前記伝達状態への状態移行指令が入力された後、予め定められた係合開始条件を満たしてから前記摩擦係合要素の係合圧が当該摩擦係合要素を部分係合状態とする部分係合圧となるように制御し、前記駆動入力部材と前記変速入力部材との回転速度差の増加を検出した後、前記摩擦係合要素の係合圧を前記部分係合圧より増大させて前記摩擦係合要素を完全係合状態へ移行させても好適である。
【0017】
この構成によれば、まず摩擦係合要素を部分係合状態とした後、駆動入力部材と変速入力部材との回転速度差の増加によって摩擦係合要素の伝達トルク容量が増加し始めたことを検出してから摩擦係合要素を完全係合状態へ移行させる。従って、摩擦係合要素の伝達トルク容量の変動を小さく抑えることができるので、出力部材に伝達される駆動力の変動を更に小さく抑制することができる。また、係合開始条件を変速入力回転動作の完了条件に対応する条件とすれば、変速入力回転動作の完了後に摩擦係合要素を部分係合状態及び完全係合状態に移行させるので、変速入力回転動作による調心を確実に完了させた上で変速装置を伝達状態に移行させることができる。
【0018】
また、前記係合開始条件は、前記非伝達状態から前記伝達状態への状態移行指令が入力されたときを基準とする時間、又は前記変速入力部材の回転速度、により規定された条件であると好適である。
【0019】
この構成によれば、係合開始条件を容易に検出可能な条件として設定することができる。ここで、変速装置の入力側の部材である変速入力部材が所定の回転速度で回転させれば、調心動作を適切に行うことができる。従って、駆動力源に駆動力を発生させて駆動入力部材を回転させることにより変速入力部材が所定の回転速度に達するまでの時間、又は当該変速入力部材の所定の回転速度そのものを係合開始条件として設定することにより、変速入力回転動作の完了条件に対応させて適切に係合開始条件を設定することができる。
【0020】
また、前記状態移行指令が、少なくとも前記変速装置の前記伝達状態と前記非伝達状態とを切り替える操作を受け付ける切替操作部の操作に基づいて前記制御装置に入力される構成とすると好適である。この構成によれば、車両の運転者の操作に基づいて適切に変速入力回転動作を開始することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用駆動装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る変速機のスケルトン図である。
【図4】本発明の実施形態に係る変速機の作動表を示す図である。
【図5】本発明の実施形態の調心による作用効果を説明するための図である。
【図6】本発明の第一の実施形態に係る制御装置の処理を示すタイミングチャートである。
【図7】本発明の第一の実施形態に係る制御装置の処理を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第二の実施形態に係る制御装置の処理を示すタイミングチャートである。
【図9】本発明の第二の実施形態に係る制御装置の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.第一の実施形態
本発明の第一の実施形態について図面に基づいて説明する。本実施形態においては、本発明に係る制御装置31を、ハイブリッド車両の車両用駆動装置2に適用する場合を例として説明する。図1は、本実施形態に係る車両用駆動装置2の概略構成を示す模式図である。なお、図1において、実線は駆動力(トルク)の伝達経路を示し、破線は作動油の指令圧又は作動油の供給経路を示し、一点鎖線は電気信号の伝達経路を示している。この図に示すように、本実施形態に係る車両用駆動装置2は、概略的には、駆動力源13としてのエンジンE及び回転電機MGと、流体継手としてのトルクコンバータ14と、変速装置TMと、少なくとも駆動力源13及び変速装置TMの制御を行う制御装置31を備え、これらの駆動力源13により駆動される駆動入力部材としての入力軸Iの回転が、トルクコンバータ14を介して変速入力部材としての中間軸Mへ伝達し、当該変速入力部材の回転が変速装置TMで変速され出力部材としての出力軸Oへ伝達される構成となっている。また、この車両用駆動装置2は、制御装置31により制御されて、変速装置TMやトルクコンバータ14や伝達クラッチTCなどの各油圧作動部に作動油の指令圧を供給する油圧制御装置PCを備えている。
【0023】
車両用駆動装置2は、入力軸I、中間軸M、出力軸Oのそれぞれの回転速度を検出する入力軸回転速度センサSe1、中間軸回転速度センサSe2、出力回転速度センサSe3を備えている。また、車両用駆動装置2は、変速装置TMの状態を切り替える操作を受け付ける切替操作部としてのシフトレバーSLの選択位置(以下「シフト位置」という。)を検出するシフト位置センサSe4を備えている。各センサSe1〜Se4の出力は制御装置31に入力される。本実施形態では、シフトレバーSLによって「P(パーキング)レンジ」、「R(リバース)レンジ」、「N(ニュートラル)レンジ」、及び「D(ドライブ)レンジ」が選択可能とされている。これらの各レンジのうち、「Pレンジ」及び「Nレンジ」は、中間軸Mの回転を出力軸Oへ伝達しないため本発明における非伝達状態に相当し、「Dレンジ」及び「Rレンジ」は、中間軸Mの回転を出力軸Oへ伝達するため本発明における伝達状態に相当する。制御装置31は、シフト位置センサSe4で検出されるシフト位置に基づいて少なくとも変速装置TMの伝達状態(ここではD、Rレンジ)と非伝達状態(ここではP、Nレンジ)との切り替えを行う。また、車両用駆動装置2は、出力部材としての出力軸Oの回転を機械的に固定する回転固定状態と、当該固定を解除する固定解除状態とを切り替え可能なロック機構としてのパーキングロック機構PRを備えており、制御装置31は、その回転固定状態と固定解除状態との切り替えを行う。
【0024】
1−1.車両用駆動装置の駆動伝達系の構成
1−1−1.駆動力源
本実施形態では、図1に示すように、車両用駆動装置2は、車両駆動用の駆動力源13としてエンジンE及び回転電機MGを備え、これらのエンジンEと回転電機MGとが伝達クラッチTCを介して直列に連結されるパラレル方式のハイブリッド車両用の駆動装置となっている。エンジンEは、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを果すことが可能とされている。そのため、回転電機MGは、図示しないバッテリやキャパシタなどの蓄電装置と電気的に接続されている。回転電機MGのロータは、入力軸Iと一体回転するように構成されている。エンジンEと回転電機MGとの間には、エンジンEを入力軸Iに選択的に連結するための伝達クラッチTCが設けられている。この伝達クラッチTCは、油圧制御装置PCから作動油の指令圧の供給を受けて動作する。
【0025】
1−1−2.伝達クラッチ
本実施形態の車両用駆動装置2では、車両の発進時や低速走行時には、伝達クラッチTCが解放されるとともに、エンジンEが停止状態とされ、回転電機MGの駆動力のみが車輪18に伝達されて走行する。このとき、回転電機MGは、図示しない蓄電装置からの電力の供給を受けて駆動力を発生する。そして、回転電機MGの回転速度が一定以上となった状態で、伝達クラッチTCが係合状態とされることにより、エンジンEがクランキングされて始動される。エンジンEの始動後は、エンジンE及び回転電機MGの双方の駆動力が車輪18に伝達されて走行する。この際、回転電機MGは、図示しない蓄電装置の充電状態により、エンジンEの駆動力により発電する状態と、蓄電装置から供給される電力により駆動力を発生する状態のいずれともなり得る。また、車両の減速時には、伝達クラッチTCが解放されるとともに、エンジンEが停止状態とされ、回転電機MGは、車輪18から伝達される駆動力により発電する状態となる。回転電機MGで発電された電力は、図示しない蓄電装置に蓄えられる。車両の停止状態では、伝達クラッチTCは解放状態とされ、エンジンEは停止状態とされ、回転電機MGの駆動力のみがトルクコンバータ14を介して変速装置TMに伝達可能とされる。
【0026】
1−1−3.トルクコンバータ
また、車両用駆動装置2は、駆動力源13からの駆動力を車輪18側へ伝達するためのトルクコンバータ14及び変速装置TMを備えている。変速装置TMは、駆動力源13と車輪18との間に設けられ、トルクコンバータ14を介して伝達される駆動力源13からの駆動力を変速して車輪18側へ伝達する装置である。トルクコンバータ14は、駆動力源13と変速装置TMとの間に設けられ、入力軸Iの駆動力を、中間軸Mを介して変速装置TMに伝達する装置である。本実施形態においては、このトルクコンバータ14が本発明における流体継手に相当する。
【0027】
トルクコンバータ14は、入力軸Iに連結された入力側回転部材としてのポンプインペラ14aと、中間軸Mに連結された出力側回転部材としてのタービンランナ14bと、これらの間に設けられ、ワンウェイクラッチを備えたステータ14cとを備えている。そして、トルクコンバータ14は、内部に充填された作動油を介して、入力側(駆動側)のポンプインペラ14aと出力側(従動側)のタービンランナ14bとの間の駆動力の伝達を行う。このため、駆動側と従動側の回転軸の間には、通常、トルク差及び回転速度差が生じる。また、このトルクコンバータ14は、ロックアップ用の摩擦係合手段として、ロックアップクラッチLCを備えている。このロックアップクラッチLCは、ポンプインペラ14aとタービンランナ14bとの間の差回転(滑り)を無くして伝達効率を高めるために、ポンプインペラ14aとタービンランナ14bとを一体回転させるように連結するクラッチである。トルクコンバータ14は、ロックアップクラッチLCの係合状態では、作動油を介さずに、駆動力源13(入力軸I)の駆動力を直接、変速装置TM(中間軸M)に伝達するため、駆動側と従動側の回転軸の間には、トルク差及び回転速度差が生じない。このロックアップクラッチLCは、油圧制御装置PCから作動油の指令圧の供給を受けて動作する。
【0028】
このトルクコンバータ14では、一般的な自動変速装置のトルクコンバータと同様に、変速装置TMの変速段の切り替え時にロックアップクラッチLCが解放され、作動油を介した駆動力の伝達が行われる。また、本実施形態では、車両の停止状態では、ロックアップクラッチLCは解放状態とされ、作動油を介した駆動力の伝達が行われる。回転電機MGの駆動力のみを用いて車両を発進させる場合は、変速装置TMの発進用の変速段(本例では第一速段)への切り替え完了後にロックアップクラッチLCは係合状態とされ、回転電機MGの駆動力による車両の発進が行われる。
【0029】
1−1−4.変速装置
変速装置TMは、複数の変速用回転要素と少なくとも一つの摩擦係合要素とを備え、摩擦係合要素が係合状態となることにより中間軸Mの回転を出力軸Oへ伝達する伝達状態となり、摩擦係合要素が解放状態となることにより中間軸Mの回転を出力軸Oへ伝達しない非伝達状態となるように構成されている。
【0030】
本実施形態の変速装置TMは、変速比の異なる複数の変速段を有する有段の自動変速装置である。変速装置TMは、これら複数の変速段を形成するため、変速用回転要素としての遊星歯車機構等の歯車機構の各ギヤ、並びに回転軸、軸受、及びハブ等の回転部材と、摩擦係合要素としてのクラッチ、ブレーキ等の摩擦係合要素を備えている。摩擦係合要素は、それぞれ摩擦材を有して構成される係合要素である。なお、変速用回転要素には、摩擦係合要素を構成するドラム、ハブ、ピストン、摩擦材等も含まれる。これらの摩擦係合要素は、供給される油圧を制御することによりその伝達トルク容量の増減を連続的に制御することが可能とされている。このような摩擦係合要素としては、例えば湿式多板クラッチ、湿式多板ブレーキ、乾式クラッチ、乾式ブレーキ等が好適に用いられる。図1には、摩擦係合要素の一例として、第一クラッチC1が模式的に示されている。
【0031】
変速装置TMの各摩擦係合要素は、それぞれ油圧制御装置PCから作動油の指令圧の供給を受けて動作する。そして、複数の摩擦係合要素の係合又は解放を選択的に切り替えることにより、歯車機構が有する複数の変速用回転要素への駆動力の伝達状態が切り替えられて、変速段の切り替えが行われる。いずれかの変速段が形成されている状態では、変速装置TMは中間軸Mの回転を出力軸Oへ伝達する伝達状態となる。一方、全ての摩擦係合要素を解放状態とすることにより、変速装置TMは中間軸Mの回転を出力軸Oへ伝達しない非伝達状態となる。そして、変速装置TMは、各変速段について設定された所定の変速比で、中間軸Mの回転速度を変速するとともにトルクを変換して出力軸Oへ伝達する。そして、変速装置TMから出力軸Oへ伝達された駆動力は、ディファレンシャル装置17を介して車輪18に伝達される。
【0032】
図3は、本実施形態に係る変速装置TMのスケルトン図である。この図に示すように、変速装置TMは、2組の遊星歯車機構PG1、PG2を組み合わせてなる遊星歯車装置を備えて構成される。また、変速装置TMは、この遊星歯車装置を構成する回転要素に対応して複数の摩擦係合要素C1、C2、C3、C4、B1、B2、F1を備えている。具体的には、変速装置TMは、これらの摩擦係合要素として、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第三クラッチC3、第四クラッチC4、第一ブレーキB1、第二ブレーキB2、及び一方向クラッチF1を備えている。
【0033】
図4は、これらの摩擦係合要素C1、C2、C3、C4、B1、B2、F1の作動表を示す図である。この図に示す作動表において、「○」は各摩擦係合要素が係合状態にあることを示している。また「無印」は、各摩擦係合要素が解除状態にあること示している。なお「△」は、一方向クラッチF1が働くことを示している。なお、第一速段を用いた車両発進時には、一方向クラッチF1は係合状態となる。この作動表に示すように、変速装置TMでは、各変速段においていずれか2つの摩擦係合要素が係合状態とされ、残りの摩擦係合要素が係合解除状態とされることで、各変速段を選択する。
【0034】
なお、図4において、「1st」は第一速段、「2nd」は第二速段、「3rd」は第三速段、「4th」は第四速段、「5th」は第五速段、「6th」は第六速段、「7th」は第七速段、「8th」は第八速段、「Rev1」は後進第一速段、「Rev2」は後進第二速段をそれぞれ示している。本実施形態においては、中間軸Mの回転を出力軸Oへ伝達する際の変速比が大きいものから順に第一速段、第二速段、・・・第八速段としている。この点は後進用の変速段についての同様であり、変速比が大きいものから順に後進第一速段、後進第二速段としている。第一速段(1st)から第八速段(8th)は、シフト位置として「Dレンジ」が選択されたときに制御装置31により選択される。後進第一速段(Rev1)及び後進第二速段(Rev2)は、シフト位置として「Rレンジ」が選択されたときに制御装置31により選択される。シフト位置として「Pレンジ」又は「Nレンジ」が選択されたときには、図4に示すように、全ての摩擦係合要素が解放状態とされる。本実施形態では、このような変速装置MTの状態を、便宜上、ニュートラル段(Ntl)とする。このように、「Pレンジ」又は「Nレンジ」でニュートラル段(Ntl)が選択されると、変速装置MTは非伝達状態となる。一方、「Dレンジ」又は「Rレンジ」で第一速段(1st)から第八速段(8th)のいずれか又は後進第一速段(Rev1)及び後進第二速段(Rev2)のいずれかが選択されると、変速装置MTは伝達状態となる。例えば、駆動力源13としてのエンジンE及び回転電機MGが駆動力を発生させていない状態で、シフトレバーSLが操作されて「Pレンジ」又は「Nレンジ」(非伝達状態)から「Dレンジ」(伝達状態)への状態移行指令が入力された場合には、ニュートラル段(Ntl)から第一速段(1st)への切り替えが行われる。このとき第一速段(1st)は第一クラッチC1の係合のみによって形成される。したがって、この場合、第一クラッチC1が本発明における少なくとも一つの摩擦係合要素に相当する。
【0035】
次に、図3に戻り、本実施形態における変速装置TMのスケルトン図を説明する。第二差動歯車装置PG2は、中間軸Mと同軸状に配置されたダブルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。すなわち、第二差動歯車装置PG2は、複数組のピニオンギヤを支持するキャリアca3と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合うサンギヤs3及びリングギヤr3との3つの回転要素を備えている。
【0036】
第二差動歯車装置PG2のキャリアca3は、中間軸Mと一体回転するように接続されており、中間軸Mの駆動力が第二差動歯車装置PG2に伝達される。また、第二差動歯車装置PG2のサンギヤs3は、ケースDcに固定されている。したがって、中間軸Mの回転により第二差動歯車装置PG2の各回転要素が回転する。第二差動歯車装置PG2に係合される全ての摩擦係合要素が解放状態にあるニュートラル段(Ntl)のとき、中間軸Mの回転により、特に、第二差動歯車装置PG2の各回転要素が回転するが、出力軸Oには駆動力が伝達されない。
【0037】
一方、第一差動歯車装置PG1は、入力軸Mと同軸状に配置されたラビニヨ型の遊星歯車装置により構成されている。ここで、ラビニヨ型の遊星歯車装置とは、ピニオンギヤp3を用いるシングルピニオン型の遊星歯車機構とピニオンギヤp3、p4の組を用いるダブルピニオン型の遊星歯車装置とが、ピニオンギヤp3とキャリアca1とリングギヤr1とを共用して構成されるものである。具体的には、この第一差動歯車装置PG1は、第一サンギヤs1及び第二サンギヤs2の2つのサンギヤと、リングギヤr1と、第一サンギヤs1及びリングギヤr1の双方に噛み合うロングピニオンギヤp3並びにこのロングピニオンギヤp3及び第二サンギヤs2に噛み合うショートピニオンギヤp4を支持する共通のキャリアca1との4つの回転要素を備えている。
【0038】
第一クラッチC1を係合状態とすることにより、第二差動歯車装置PG2に伝達された中間軸Mのトルクが、第二差動歯車装置PG2のリングギヤr3から第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2に入力される。そして、第一クラッチC1以外の摩擦係合要素が解放状態にあるとき、第一差動歯車装置PG1の第二サンギヤs2に入力された駆動力によって一方向クラッチF1が係合状態となり、第二サンギヤs2に入力された駆動力は、第二差動歯車装置PG2を介してそのリングギヤr1から出力軸Oに伝達される。この時のトルク伝達経路が第一速段を構成する。なお、一方向クラッチF1は、このキャリアca1が負回転となるときに係合状態となって回転が阻止される一方向係合要素として機能し、キャリアca1を選択的にケースDcに固定して停止させる。
【0039】
一方、第二差動歯車装置PG2のリングギヤr3は、第三クラッチC3を介してブレーキドラムDr及びそれと一体回転する第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1に選択的に接続される。キャリアca3は、第四クラッチC4を介してブレーキドラムDr及びそれと一体回転する第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1に選択的に接続される。ここで、ブレーキドラムDrは、第一差動歯車装置PG1に対してエンジンE側に配置された円筒状回転部材であり、外周に第一ブレーキB1が設けられている。また、このブレーキドラムDrの内周には、第三クラッチC3及び第四クラッチC4が設けられており、その更に径方向内側には、第二差動歯車装置PG2及び第一クラッチC1が配置されている。そして、このブレーキドラムDrは、出力軸O側の端部において第一サンギヤs1と一体回転するように接続されている。また、この第一サンギヤs1は、第一ブレーキB1を介してケースDcに選択的に固定される。更に第一サンギヤs1は、第三クラッチC3を介して第二差動歯車装置PG2のリングギヤr3に選択的に接続されるとともに、第四クラッチC4を介して第二差動歯車装置PG2のキャリアca3に選択的に接続される。キャリアca1は、第二ブレーキB2を介してケースDcに選択的に固定されるとともに、第二クラッチC2を介して中間軸Mに選択的に接続される。また、一方向クラッチF1は、上記のようにキャリアca2を選択的にケースDcに固定して停止させる。
【0040】
したがって、第一差動歯車装置PG1の第一サンギヤs1には、第三クラッチC3を係合状態とすることにより、この第三クラッチC3を介して、第二差動歯車装置PG2のキャリアca3からリングギヤr3に伝達された中間軸Mのトルクが入力される。また、この第一サンギヤs1には、第四クラッチC4を係合状態とすることにより、この第四クラッチC4を介して中間軸Mのトルクが入力される。更に、第一差動歯車装置PG1のキャリアca1には、第二クラッチC2を係合状態とすることにより、この第二クラッチC2を介して中間軸Mのトルクが入力される。これらの摩擦係合要素を、図4で示す作動表に基づき選択的に係合状態とすることにより、各変速段が形成される。
【0041】
1−1−5.パーキングロック機構
図1に模式的に示すように、出力軸Oには、出力軸Oの回転を機械的に固定する回転固定状態と、当該固定を解除する固定解除状態とを切り替え可能なロック機構であるパーキングロック機構PRが取り付けられている。本実施形態では、例えば、パーキングロック機構PRは、出力軸Oに取り付けられたパーキングギヤ(不図示)と、そのパーキングギヤと噛み合ってその回転駆動を停止した状態で固定するパーキングロックポール(不図示)とからなり、パーキングロックポールは、制御装置31からの指令やシフトレバーSLの操作等により動作し、パーキングギヤとの噛合およびその解除によりパーキングロック機構PRの回転固定状態と固定解除状態とを切り替える。
【0042】
2.油圧制御装置の構成
次に、上述した車両用駆動装置2の油圧制御装置PCについて説明する。油圧制御装置PCは、図示しないオイルパンに蓄えられた作動油を吸引し、車両用駆動装置2の各部に作動油を供給するための油圧源として、機械式ポンプMP及び電動ポンプEPの二種類のポンプを備えている。本例では、機械式ポンプMPは、トルクコンバータ14のポンプインペラ14aに駆動連結されており、エンジンE又は回転電機MGの駆動力により駆動される。しかし、機械式ポンプMPは、入力軸Iの停止中(例えば、エンジンE及び回転電機MGの停止中)には作動油を吐出しない。そこで、機械式ポンプMPを補助するためのポンプとして、電動ポンプEPを備えている。
【0043】
電動ポンプEPは、駆動力源13の駆動力とは無関係に、ポンプ用モータ20の駆動力により駆動されて作動油を吐出するオイルポンプである。電動ポンプEPを駆動するポンプ用モータ20は、バッテリ(不図示)と電気的に接続され、バッテリからの電力の供給を受けて駆動力を発生する。この電動ポンプEPは、機械式ポンプMPを補助するためのポンプであって、車両の停止中に機械式ポンプMPから必要な油量が供給されない状態で動作する。従って、必要に応じて、電動ポンプが駆動され、各摩擦係合要素の係合に必要な油圧が確保される。本実施形態では、後述する調心動作を行う時に、駆動力源13により入力軸Iは回転駆動され機械式ポンプMPが駆動されるが、入力軸Iの回転速度が低く油量が不足する場合は、電動ポンプEPも駆動し油圧を確保する。
【0044】
また、油圧制御装置PCは、機械式ポンプMP及び電動ポンプEPから供給される作動油の油圧を所定圧に調整するための不図示の油圧制御弁を備えている。ここでは詳しい説明を省略するが、油圧制御弁は、不図示の油圧調整用のリニアソレノイド弁からの信号圧に基づき一又は二以上の調整弁の開度を調整することにより、当該調整弁からドレインする作動油の量を調整して作動油の油圧を所定圧に調整する。所定圧に調整された作動油は、それぞれ必要とされるレベルの油圧で、伝達クラッチTC、ロックアップクラッチLC、及び変速装置TMの複数の摩擦係合要素C1、C2、C3、C4、B1、B2に供給される。なお、作動油は変速装置TMの各変速用回転要素である第一遊星歯車装置P1及び第二遊星歯車装置P2の各ギヤ、軸、軸受等の各部の潤滑や冷却のためにも、これらの部位に供給される。後述する調心動作を行う時に、上記のように機械式ポンプMP及び電動ポンプEPを駆動し油圧を発生するとともに、駆動力源13により、トルクコンバータ14を介して中間軸Mを回転させて、変速装置TMの各変速用回転要素を回転させることにより、変速装置TMの軸受やギヤ等の回転要素に潤滑油を供給し、油膜を形成することができる。
【0045】
3.制御装置の構成
次に、本実施形態に係る制御装置31の構成について説明する。車両用駆動装置2が備える制御装置31は、図2に示すように、車両用駆動装置2の各部の動作制御を行う中核部材としての機能を果たしている。そして、制御装置31は、調心制御部32、入力情報検出部33、エンジン制御部34、回転電機制御部35、変速制御部36、ロックアップ制御部37、及びパーキングロック制御部38の各機能部を備えている。本実施形態では、調心制御部32が、一連の調心制御を行うときに、その他の各機能部を統合して制御する。一方、調心制御部32が調心制御を行わないときは、その他の各機能部は、それぞれ通常の制御を行う。以下に、制御装置31の各構成について、詳細に説明する。
【0046】
3−1.制御装置
制御装置31は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)、メモリ等の記憶装置等を有して構成されている(不図示)。そして、ROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、上記の制御装置31の各機能部32〜38が構成される。これらの各機能部32〜38は、互いに情報の受け渡しを行うことができるように構成されている。
【0047】
また、図1及び図2に示すように、この車両用駆動装置2は、上記のように、各部に設けられた複数のセンサ、すなわち、入力軸回転速度センサSe1、中間軸回転速度センサSe2、出力回転速度センサSe3、シフト位置センサSe4等を備えており、各種センサ等の入力情報は、制御装置31に入力される。また、制御装置31は、エンジンE、回転電機MG、油圧制御装置PC、ポンプ用モータ20、及びパーキングロック機構PR等を制御する電気信号を出力する。
【0048】
3−2.入力情報検出部
入力情報検出部33は、制御装置31に接続された上記の各種センサ等の入力情報を検出する機能部である。制御装置31の各機能部は、入力情報検出部33により検出された各検出値を用いて、各種の動作処理を実行する。以下に図2に示している各センサ入力について説明する。入力軸回転速度センサSe1は、入力軸Iの回転速度を検出するセンサである。この入力軸回転速度センサSe1により検出される回転速度は、回転電機MGの回転速度であって、トルクコンバータ13の入力側の回転速度である。中間軸回転速度センサSe2は、中間軸Mの回転速度を検出するセンサである。この中間軸回転速度センサSe2により検出される回転速度は、トルクコンバータ13の出力側の回転速度であって、変速装置TMの入力側の回転速度となる。出力軸回転速度センサSe3は、出力軸Oの回転速度を検出するセンサである。この出力軸回転速度センサSe3により検出される回転速度は、変速装置TMの出力側の回転速度となる。また、この回転速度は、車速に比例するため、入力情報検出部33は、この回転速度に基づき車速を検出できる。
【0049】
また、シフト位置センサSe4は、シフトレバーSLの選択位置(シフト位置)を検出するためのセンサである。上記のとおり、本実施形態では、シフトレバーSLによって「Pレンジ」、「Rレンジ」、「Nレンジ」、及び「Dレンジ」が選択可能とされている。従って、シフト位置センサSe4からは、シフト位置の検出値として、「Pレンジ」、「Rレンジ」、「Nレンジ」、又は「Dレンジ」のいずれが選択されているかを表す値が入力情報検出部33に入力される。入力情報検出部33は、シフト位置センサSe4からの入力情報に基づいて、いずれの「P」、「N」、「D」、及び「R」のいずれのレンジが運転者により指定されたか、すなわちいずれの状態指令がなされたかを検出する。そして、これらの各レンジを指定する状態指令が変化したばあいには、入力情報検出部33は状態移行指令があったと判定する。本実施形態では、「Pレンジ」及び「Nレンジ」が変速装置MTを非伝達状態とする状態指令であり、「Dレンジ」及び「Rレンジ」が変速装置MTを伝達状態とする状態指令である。従って、シフト位置が、「Pレンジ」又は「Nレンジ」から「Dレンジ」又は「Rレンジ」に切り替えられることにより、制御装置31の入力情報検出部33に、非伝達状態から伝達状態への状態移行指令が入力されることになる。
【0050】
3−3.エンジン制御部
エンジン制御部34は、エンジンEの動作制御を行う機能部である。エンジン制御部34は、エンジン動作点を決定する、もしくは調心制御部32等の他の機能部からエンジン動作点を指令され、当該エンジン動作点でエンジンEを動作させるように制御する処理を行う。ここで、エンジン動作点は、エンジンEの制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、エンジン動作点は、車両要求出力(車両要求トルク及びエンジン回転速度に基づいて定まる)を考慮して決定されるエンジンEの制御目標点を表す指令値であって、回転速度指令値とトルク指令値により定まる。そして、エンジン制御部34は、エンジン動作点に示されるトルク及び回転速度で動作するようにエンジンEを制御する。また、エンジン動作点には、エンジンEの始動、停止の制御指令値も含まれる。そして、始動の制御指令値があった時は、エンジン制御部34は、始動用の燃料供給を行うなどの始動シーケンスを実行し、エンジンEを始動する。また、停止の制御指令値があった時は、エンジン制御部34は、燃料供給を遮断してエンジンEを停止するなどの停止シーケンスを実行する。
【0051】
本実施形態においては、エンジン制御部34は、所定のアイドル停止条件が成立したときにエンジンEへの燃料供給を遮断して、エンジンEを停止させるアイドル停止制御を行う構成となっている。このアイドル停止制御中は、車両の主電源はオンとされたままの走行可能な状態でエンジンEが停止された状態に維持される。つまり、車両が走行している状態でエンジンEが停止された状態に維持されるか、車両が停車している状態でエンジンEが停止された状態に維持される。ここで、アイドル停止条件は、本例ではエンジンEの回転速度やアクセル開度、車速等に基づいて予め定められている。例えば、車両が停止している(車速がゼロである)ことや、車両がコースト状態でエンジンEの出力が低下している(アクセル開度が所定値以下の状態でエンジンEの回転速度が減少している)こと等が、アイドル停止条件として定められている。なお、エンジン制御部34は、前記アイドル停止条件が成立しなくなったときにエンジンEへの燃料供給を再開して、エンジンEを再始動させる制御も行う。そのような制御も、上記のアイドル停止制御に含まれるものとする。
【0052】
3−4.回転電機制御部
回転電機制御部35は、回転電機MGの動作制御を行う機能部である。回転電機制御部35は、回転電機動作点を決定する、もしくは調心制御部32等の他の機能部から回転電機動作点を指令され、当該回転電機動作点で回転電機MGを動作させるように制御する処理を行う。ここで、回転電機動作点は、回転電機MGの制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、回転電機動作点は、車両要求出力とエンジン動作点とを考慮して決定される回転電機MGの制御目標点を表す指令値であって、回転速度指令値とトルク指令値により定まる。そして、回転電機制御部35は、回転電機動作点に示されるトルク及び回転速度で動作するように回転電機MGを制御する。また、回転電機制御部35は、不図示のバッテリ状態検出センサにより検出されるバッテリの充電量に応じて、バッテリから供給される電力により回転電機MGに駆動力を発生させる状態と、エンジンEの駆動力により回転電機MGに発電させる状態とを切り替える制御も行う。なお、回転電機制御部35は、電動ポンプEPを駆動するためのポンプ用モータ20の回転速度の制御も行うように構成されている。
【0053】
3−5.変速制御部
変速制御部36は、通常の制御時において、車両のアクセル開度、車速、及びシフト位置に基づいて、変速装置TMにおける目標変速段を決定し、変速装置TM内の各摩擦係合要素の係合又は解放を指令して変速を行う機能部である。このような目標変速段を決定するため、変速制御部36は、ROM等に格納された変速マップ(不図示)を参照し、目標変速段を決定する。そして、変速制御部36は、決定された目標変速段に応じて、ROM等に格納された図4に示すような作動表に基づき、各係合要素C1、C2、C3、C4、B1、B2の係合又は解放動作を制御することにより、変速装置TMの変速段を切り替える制御を行う。つまり、変速制御部36は、通常の制御として、決定された目標変速段に応じて選択された各係合要素に、指令圧の設定シーケンスに従い、油圧制御装置25を介して、設定した作動油の指令圧を供給して当該係合要素を係合状態又は解放状態とし、目標変速段を実現させる制御を行う。この際、シフト位置として「Dレンジ」が選択されている場合には、変速制御部36は、第一速段(1st)から第八速段(8th)の中から目標変速段を決定し、「Rレンジ」が選択されている場合には、変速制御部36は、後進第一速段(Rev1)及び後進第二速段(Rev2)の中から目標変速段を決定する。また、「Pレンジ」又は「Nレンジ」が選択されている場合には、変速制御部36は、ニュートラル段(Ntl)を目標変速段に決定する。ニュートラル段(Ntl)を目標変速段とする場合、変速制御部36は、全ての係合要素C1、C2、C3、C4、B1、B2を解放状態とする制御を行う。一方、後述するように、調心制御部32により調心制御が行われているときは、変速制御部36による変速制御を禁止して、調心制御部32により変速制御を行う。
【0054】
3−6.ロックアップ制御部
ロックアップ制御部37は、車両のアクセル開度、車速、及びシフト位置に基づいて、摩擦係合要素であるロックアップクラッチLCの目標係合状態を決定し、ロックアップクラッチLCの係合又は解放を制御する機能部である。このような目標係合状態を決定するため、ロックアップ制御部37は、ROM等に格納されたロックアップマップ(不図示)を参照し、目標係合状態を決定する。そして、ロックアップ制御部37は、決定された目標係合状態に応じて、ロックアップクラッチLCに、指令圧の設定シーケンスに従い、油圧制御装置25を介して、設定した作動油の指令圧を供給してロックアップクラッチLCを係合状態又は解放状態とする制御を行う。一方、調心制御部32により、調心制御が行われているときは、後述するように、調心制御部32は、ロックアップ制御部37にロックアップクラッチLCの解放を指令して、ロックアップクラッチLCを解放状態とする制御を行う。
【0055】
3−7.パーキングロック制御部
パーキングロック制御部38は、パーキングロック機構PRの回転固定状態と、固定解除状態との切替制御を行う機能部である。通常、「Pレンジ」を指定する状態指令が入力情報検出部33に入力されている際に、パーキングロック制御部38は、パーキングロック機構PRを回転固定状態とするように制御する。そして、「Pレンジ」以外の「Nレンジ」、「Dレンジ」、及び「Rレンジ」を指定する状態指令が入力情報検出部33に入力されている際には、パーキングロック制御部38は、パーキングロック機構PRを固定解除状態とするように制御する。一方、調心制御部32により、調心制御が行われているときは、後述するように、パーキングロック制御部38は、調心制御部32の指令に応じて、パーキングロック機構PRを固定解除状態とする制御を行う。
【0056】
3−8.調心制御部
調心制御部32は、駆動力源13が駆動力を発生させていない状態で、非伝達状態から伝達状態への状態移行指令が入力された場合に、変速装置TM内の複数の変速用回転要素の少なくとも一部の回転軸心の位置を調整する調心動作を行う。この調心制御部32は、本実施形態の特徴的な機能部である。ここで、調心動作は、変速装置TMの少なくとも一つの摩擦係合要素を係合して伝達状態へ移行する前に、非伝達状態を維持しつつ、駆動力源13に駆動力を発生させて駆動入力部材としての入力軸Iを回転させ、流体継手としてのトルクコンバータTCを介して変速入力部材としての中間軸Mを回転させる動作である。従って、本実施形態においては、調心動作が、本発明における「変速入力回転動作」に相当する。調心制御部32は、本機能を実現するため、制御装置31の各機能部を統合して動作させる。
【0057】
ここで、本発明の調心動作に係る課題、作用効果を図5に示す例を用いて説明する。通常、変速装置TMの変速用回転要素間、具体的には、遊星歯車装置のギヤ結合間、ブッシュなどの軸受け部材間等には、油膜を形成し滑らかに動かすためにオイルクリアランスが設けられている。しかし、各変速用回転要素の回転を停止して放置すると、それらの部材の自重により、オイルクリアランス分だけ下方に移動する。このため、各変速用回転要素の回転軸心がそれぞれ偏心し、しかも偏心した軸心は相互に一致しない。このように相互に偏心した各変速用回転要素を、摩擦係合要素により係合すると、回転軸心が相互に偏心した状態で固定される。この偏心固定状態で、変速用回転要素を回転しても、オイルクリアランスは回復せず、各変速用回転要素に偏磨耗が生じる可能性や、変速装置TMから異音が発生する可能性がある。
【0058】
図5(a)に、図3に示した変速装置TMについて、第一クラッチC1の周辺における各変速用回転要素の回転軸心が偏心している状態の例を模式的に示している。この図では、中間軸Mを構成する軸部材61、62は、両部材間でスプライン嵌合しており、このスプライン嵌合には遊びが設けられているため、自重により、中間付近で軸心Xに対して下方に撓んでいる。また、ダブルピニオン型の遊星歯車機構である第二差動歯車装置PG2のピニオンギヤp2、キャリアca3(63)は、オイルクリアランス分だけ、自重により軸心が偏心している。また、円筒状部材65と中間軸M(62)との間はブッシュ状の軸受けとなっておりオイルクリアランスが設けられているが、図5(a)に示すように、自重により、上方のクリアランスは狭まり、下方のクリアランスは広がっている。これらの変速用回転部材の偏心により、第一クラッチC1が配置されている空間は、上方の空間は広がり、下方の空間は狭まっている。このように第一クラッチC1の偏心状態で、第一クラッチC1を係合すると、偏心状態が固定される。
【0059】
図5(b)に、第一クラッチC1が偏心したまま係合された状態で、変速入力部材(中間軸M)を回転し、各変速用回転要素を回転したときの状況を示す。この図に示すように、各変速用回転要素を回転することにより、偏心係合された第一クラッチC1を除き、オイルクリアランスに潤滑油が供給され、オイルクリアランスの自重による偏りが回復し、回転軸心の偏心が解消している。しかし、第一クラッチC1は偏心係合されているため、図5(b)に示すように、円筒状部材65と中間軸M(62)との間のクリアランスは回復していない。このため、これらの相対回転する部材同士が接触し、偏磨耗が生じたり、異音が発生したりする可能性がある。
【0060】
このため、本実施形態のように、摩擦係合要素である第一クラッチC1を係合する前に、変速入力部材(中間軸M)を回転させ、各変速用回転要素を回転させる調心動作を行うことにより、オイルクリアランスに潤滑油が供給され、オイルクリアランスの自重による偏りを回復させることができる。よって、回転軸心の偏心及び第一クラッチC1の偏心を解消することができる。なお、円筒状部材65と中間軸M(62)との間のクリアランスにも、中間軸M(62)が回転するため、潤滑油が供給されクリアランスが回復する。そして、このような調心動作を行った後に第一クラッチC1を係合させることにより、上記のような不具合を抑制することができる。
【0061】
また、本実施形態によれば、調心動作に際して、回転電機MGの駆動力による入力軸Iの回転がトルクコンバータ13を介して中間軸M(62)に伝達される。このため、摩擦係合要素(例えば、第一クラッチC1)が係合して変速装置TMが伝達状態に移行した際に回転電機MGが駆動力を発生させた状態であっても、トルクコンバータ13の出力側に対して入力側が差回転をもつことにより、入力軸Iの回転が直接的に中間軸M(62)に伝達されることが抑制され、変速装置TMを介して出力軸Oに伝達される駆動力の変動を抑制することができる。また、このようにトルクコンバータ13が差回転をもつことにより、車輪18を停止させるホイールブレーキ等により出力軸Oの回転が停止している状態でも、回転電機MGの駆動力による入力軸Iの回転が許容される。従って、摩擦係合要素(例えば、第一クラッチC1)の係合圧に同期させて回転電機MGの駆動力を高精度に制御して駆動力が出力軸Oに伝達されることを抑制する制御を行う必要性が低い。また、パーキングロック機構PRにより出力軸Oを固定する必要性も低い。よって、調心動作のための制御を簡略化することができると共に、駆動力源13としての回転電機MG及びエンジンEの一方又は双方の駆動力を車輪18側へ伝達可能な状態を迅速に実現することができる。
【0062】
3−8−1.調心制御開始判定
以下に調心制御部32による調心動作を行うための調心制御について詳細に説明する。まず、調心制御部32は、駆動力源13が駆動力を発生させていない状態で、非伝達状態から伝達状態への状態移行指令が入力された場合に、調心制御開始条件が成立したと判定して、調心動作及び係合の一連の調心制御を開始する。本実施形態では、駆動力源13は、エンジンE及び回転電機MGであり、双方の駆動力源13が駆動力を発生していない状態である場合がこの場合に相当する。より具体的には、エンジンEが停止状態であり、回転電機MGが回転停止状態およびトルク発生していない状態である場合である。この状態で、更に、シフト位置センサSe4の検出信号に基づいて、伝達状態から非伝達状態の状態移行指令を検出した場合は、調心制御開始条件が成立したと判定する。本実施形態では、シフト位置センサSe4により検出されている状態指令が、非伝達状態に対応する「Pレンジ」又は「Nレンジ」から伝達状態に対応する「Dレンジ」又は「Rレンジ」に変化したときに、入力情報検出部33が非伝達状態から伝達状態への状態移行指令を検出する。以下の実施形態の説明では、図6(時刻t11)に示すように、非伝達状態に対応する「Pレンジ」から伝達状態に対応する「Dレンジ」に状態移行する状態移行指令を検出した場合を例に説明する。
【0063】
3−8−2.各制御部の調心制御への切替
調心制御部32は、上記の調心制御開始条件が成立したと判定した場合は、各制御部34〜38の制御モードを通常制御モードから、調心制御モードに切り替える。具体的には、エンジン制御部34は、調心制御部32から指令されたエンジン動作点のみに従い、エンジンEの制御を行う。本実施形態では、回転電機MGの回転駆動により調心動作を行うので、調心制御部32は、エンジンEを停止状態とする指令を行い、エンジンEの始動及び運転を禁止する。また、調心制御部32は、伝達クラッチTCを解放状態とする指令を行い、制御装置31は、伝達クラッチTCを解放状態に制御する。
【0064】
回転電機制御部35は、調心制御部32から指令された回転電機動作点に従い、回転電機MGの制御を行う。本実施形態では、回転電機MGの回転駆動により調心動作を行うので、調心制御部32は、後述するように目標回転速度の値を設定した回転電機動作点の指令を行い、回転電機制御部35を介して回転電機MGを制御する。
【0065】
調心制御部32は、変速制御部36による変速装置MTの制御を禁止し、調心制御部32による変速装置MTの制御に切り替える。ロックアップ制御部37は、調心制御部32から指令された目標係合状態に従い、ロックアップクラッチLCの制御を行う。本実施形態では、トルクコンバータ13を介した回転及び駆動力の伝達を行うので、調心制御部32は、ロックアップ制御部37に対してロックアップクラッチLCを解放状態とする指令を行い、ロックアップクラッチTCの係合が禁止される。
【0066】
パーキングロック制御部38は、調心制御部32からの指令に従い、パーキングロック機構PRの状態制御を行う。本実施形態では、調心制御部32は、パーキングロック制御部38に対してパーキングロック機構PRを固定解除状態とする指令を行い、パーキングロック機構PRが固定解除状態とされる。これにより、仮に状態移行指令の入力前のシフト位置が「Pレンジ」であった場合にも、回転電機MGに駆動力を発生させる前には、パーキングロック機構PRが固定解除状態とされる。
【0067】
また、調心制御部32は、回転電機制御部35にポンプ用モータ20を回転駆動するように指令する。これにより、変速装置TM内に潤滑油が供給されて、回転電機MGの回転による油膜形成が促進されて、調心精度を向上できるとともに調心時間を短縮できる。また、変速装置TMの摩擦係合要素(例えば第一クラッチC1)の係合のための油圧供給の応答が向上し、係合時間を短縮することができる。また、調心制御部32は、油圧制御装置PCに対し、変速装置TM内への供給する潤滑油の油圧を通常制御の油圧より高めるように指令する。これにより、更に、回転電機MGの回転による変速装置TM内の油膜形成が促進されて、調心精度を向上できるとともに調心時間を短縮できる。このように、調心動作に合わせて油圧供給装置PCの制御も行うことにより、更に調心時間を短縮できる。よって、状態移行検出後の車両の発進遅れを小さくすることができ、ドライバビリティを向上できる。
【0068】
3−8−3.駆動力源の駆動開始
制御装置31の各制御部を調心制御モードに切り替えた後、調心制御部32は、調心動作及び係合の一連の調心制御のシーケンスを開始する。まず、調心制御部32は、変速装置TMを伝達状態へ移行する前に非伝達状態を維持しつつ、回転電機MGの回転駆動を開始する。本例では、図6(時刻t11)に示すように、調心制御開始条件が成立したと判定した時に、回転電機MGの回転駆動を開始する。この際、調心制御部32は、回転電機MGの目標回転速度を設定して回転電機制御部35に指令する。回転電機制御部35は、この目標回転速度に基づいて、回転電機MGの回転駆動の開始後、0からステップ的に目標回転速度まで回転電機MGの回転速度を変化させる。図6に示す例では、目標回転速度のステップ変化に対して、実回転速度は遅れを持って追従している。この追従遅れは、回転電機制御部35の制御ゲインの設定により調整できる。調心制御部32は、回転電機制御部35に制御ゲインを指令して、追従遅れを調整することができる。
【0069】
3−8−4.調心の完了判定
本実施形態では、調心制御部32は、調心制御開始条件が成立したと判定した時点から所定時間経過した時に、変速装置TM内の複数の変速用回転要素の少なくとも一部の回転軸心の位置を調整する調心動作が完了したと判定する。この所定時間は、各種要因によるばらつきを考慮して変速用回転要素の調心が完了する時点になるように設定される。特に、トルクコンバータ13を介することによる、入力軸Iの回転変化に対する中間軸Mの追従遅れを考慮する必要があり、所定時間は、中間軸Mが調心のために十分な回転速度に到達する時点に設定される。従って、トルクコンバータ13を介して調心する場合でも、精度良く調心完了時点を判定することができる。なお、調心のために十分な回転速度は、例えば、200rpm程度である。図6に示す例では、調心制御部32は、調心制御開始条件の成立時(時刻t11)に、オートデクリメントタイマを所定時間(図6に示す例では、100msec、以下「タイマ時間」という。)に設定し、当該タイマ時間が経過し、タイマが0になった時(時刻t12)に、調心動作が完了したと判定している。
【0070】
また、変速装置MTの変速用回転要素の回転停止時間が長くなると、変速装置TM内の回転要素間の油膜の形成状態が不十分になり、より長い期間の調心動作が必要になる。一方、変速用回転要素の回転停止時間が短ければ、調心動作の必要時間が短くなる。従って、変速装置MTの変速用回転要素の回転停止時間に応じて、上記タイマ時間を設定するようにしても良い。もしくは、回転停止時間が所定値より短い場合は、調心動作を行う必要がないと判断して、調心制御を行わず、通常制御を行うようにしても良い。このようにすると、回転停止時間によって変化する調心動作の必要時間に応じて、適切な調心時間を設定できる。よって、状態移行指令から摩擦係合要素(ここでは、第一クラッチC1)の係合開始までの遅れ時間を必要に応じて短縮することができる。これにより、車両の発進遅れを小さくすることができ、ドライバビリティを向上できる。また、上記の回転電機MGの目標回転数も、同様の理由により、この回転停止時間に応じて設定してもよい。
【0071】
また、トルクコンバータ13のトルク変換特性は、トルクコンバータ13内に充填された作動油の粘度により変化するため、上記の中間軸Mの追従遅れも変化する。また、変速装置TM内の各回転要素に供給される潤滑油の粘度は、その油温によって変化するため、油膜を形成して調心動作が完了するまでの期間も変化する。また、調心制御は、エンジンEの暖機前に行われることが多く、油温が安定していないことも多い。従って、変速装置MT内の油温などの何れかの検出した温度情報に応じて、上記タイマ時間を変化させるようにしても良い。油温が低くなるに従って油の粘度が高くなるので、タイマ時間を長く設定すると好適である。このようにすると、油温によって変動する調心完了時点に対応できる。また、上記の回転電機MGの目標回転数も、同様の理由により、このような温度情報に応じて設定してもよい。
【0072】
3−8−5.係合制御の開始
調心動作の完了が判定された後は、変速装置TMを非伝達状態から伝達状態に移行させる制御を開始する。従って、上記のようなタイマ時間の経過という調心完了判定条件は、すなわち係合開始判定条件となる。本実施形態では、調心制御部32は、このような係合開始判定条件が満たされてから、図6に示すように、変速装置TMの少なくとも一つの摩擦係合要素(例えば第一クラッチC1)の係合圧が、当該摩擦係合要素を部分係合状態とする部分係合圧となるように制御する。そして、入力軸Iと中間軸Mとの回転速度差の増加を検出した後、当該摩擦係合要素の係合圧を部分係合圧より増大させて当該摩擦係合要素を完全係合状態へ移行させる制御を行う。以下で、このような摩擦係合要素の係合制御について説明する。
【0073】
3−8−6.係合する摩擦係合要素の決定
まず、係合する変速装置TMの少なくとも一つの摩擦係合要素を決定する。本実施形態では、上記のように、非伝達状態に対応する「Pレンジ」から伝達状態に対応する「Dレンジ」に状態移行する状態移行指令があった場合を例としているので、変速制御部36が目標変速段を第一速段(1st)に決定し、図4の作動表に従い、第一クラッチC1が、係合する一つの摩擦係合要素として決定される。
【0074】
3−8−7.部分係合圧制御の開始
そして、係合開始判定条件に基づいて係合開始が判定された時点で、上記で決定した摩擦係合要素である第一クラッチC1に油圧制御装置PCを介して作動油を供給して、部分係合圧とする制御を開始する。本実施形態では、図6の例に示すように、部分係合圧は、第一クラッチC1係合が開始する圧力、つまり伝達トルク容量が生じ始める圧力であるストロークエンド圧より所定圧だけ大きい圧力に設定される。そして、調心制御部32は、この部分係合圧を指令圧として、油圧制御装置PCに指令し、第一クラッチC1に指令圧の作動油を供給する。また、本例では、図6の例に示すように、部分係合圧制御の開始直後、瞬間的に部分係合圧より高い指令圧を設定し、実圧の立ち上がりを早める制御を行っている。
【0075】
3−8−8.部分係合の完了判定
部分係合圧制御の開始時点から、入力軸Iと中間軸Mとの回転速度差の増加を検出した後、第一クラッチC1の係合圧を前記部分係合圧より増大させて第一クラッチC1を完全係合状態へ移行させる。図6の例に示すように、第一クラッチC1の係合動作を開始し、当該第一クラッチC1の実圧がストロークエンド圧に到達し(時刻t13)、その後更に部分係合圧まで次第に増加すると、第一クラッチC1の伝達トルク容量が次第に増加する。これにより、中間軸Mの回転速度が出力軸Oの回転速度に同期する方向に変化する。車輪18の停止中は、出力軸Oは停止しているので、中間軸Mの回転速度は次第に低下する(時刻t13以降)。一方、中間軸Mと入力軸Iの間には、トルクコンバータ13を介しているので、当該トルクコンバータ13の差回転が増加するだけで、回転電機MGにより回転駆動されている入力軸Iの回転速度はほとんど変化しない。従って、図6の例に示すように(時刻t13以降)、中間軸Mと入力軸Iとの回転速度差が増加する。
【0076】
本実施形態では、図6に示すように、部分係合圧制御を開始した時点(時刻t12)から、入力軸Iと中間軸Mとの回転速度差を検出して、モニタを開始する。そして、回転速度差が所定判定値に到達した時点(時刻t14)に、係合圧が部分係合圧に到達したと判定して、部分係合圧制御の完了判定を行う。
【0077】
本例では、図6に示すように、回転速度差のモニタを開始した時点から現時点までに検出した回転速度差の最小値を検出する処理を行い、当該回転速度差の最小値に所定値を加算した値を前記の所定判定値に設定している。より具体的には、この回転速度差の最小値の算出は、モニタを開始した時点の回転速度差を初期の回転速度差の最小値として設定し、それ以降は、前回更新した回転速度差の最小値と今回算出した回転速度差とを比較して、より小さい値を回転速度差の最小値として更新する。このようにすると、係合圧がストロークエンド圧に到達した時点の回転速度差が変動した場合でも、その変動した回転速度差を基準に、回転速度差の変動量をモニタすることができるので、バラツキに対してよりロバスト性の高い部分係合圧制御の完了判定を行うことができる。特に、本実施形態のように、トルクコンバータ13を介して回転駆動力を伝達する場合は、トルクコンバータ13内の作動油の粘度、各回転部材間の摩擦等の変動により、トルクコンバータ13の回転差が変動し易いため、この判定値の設定方法は重要になる。
【0078】
3−8−9.駆動力源の駆動力発生の停止
トルクコンバータ13を介する入力軸Iと中間軸Mとの回転速度差の増加を検出した上記の部分係合圧制御の完了判定により、回転電機MGによる駆動力の発生を停止させる。本実施形態では、部分係合圧制御の完了判定条件と同じ条件を回転電機MGの駆動を停止させる回転電機駆動停止条件としている。従って、図6に示すように、調心制御部32は、部分係合圧制御の完了判定時(時刻t14)に、回転電機MGの駆動を停止させる。この際、調心制御部32は、回転電機MGの目標回転速度を0に設定して回転電機制御部35に指令する。回転電機制御部35は、この目標回転速度に基づいて、回転電機MGの回転速度をステップ的に0まで変化させる。図6に示す例では、回転電機MGの実回転速度は、ステップ的に変化した目標回転速度に対して遅れを持って変化する。上記のように、調心制御部32は、回転電機制御部35に制御ゲインを指令して、追従遅れを調整することができる。また、回転電機MGの回転速度を上昇させる際と下降させる際とで制御ゲインを異ならせてもよい。
【0079】
3−8−10.完全係合制御の開始及び完了判定
また、入力軸I中間軸Mとの回転速度差の増加を検出した上記の部分係合圧制御の完了判定後、第一クラッチC1の係合圧を部分係合圧より増大させて当該第一クラッチC1を完全係合状態へ移行させる制御を行う。本実施形態では、部分係合圧制御の完了判定時点(時刻t14)から作動油の指令圧を部分係合圧から完全係合圧まで段階的に増加させていき、完全係合圧に到達した時点で調心制御に係わる係合制御を終了する。
【0080】
本例では、図6に示すように、部分係合圧制御の完了判定時点(時刻t14)以後、指令圧を部分係合圧から所定の変化率で増加させていく。油圧の増加に比例して、伝達トルク容量が増加していき、第一クラッチC1の入出力部材間の回転差が減少していく。そして、回転差が0になった時に完全係合状態になったと判定し、指令圧を完全係合圧までステップ的に増加させる。本実施形態では、完全係合制御を開始した時、上記のように、回転電機MGの駆動力を低下させているとともに、入力軸Iと中間軸Mとの間でトルクコンバータ13を介して駆動力を伝達しているので、中間軸Mの回転速度は、第一クラッチC1の係合圧の増加に伴って出力軸Oの回転速度に次第に一致する。本例では、車両は停止しているので、中間軸Mの回転速度は0に向って次第に減少する。従って、本実施形態では、中間軸Mの回転速度が所定判定値以下になった時、完全係合状態になったと判定する。図6に示す例では、所定判定値を0に設定しており、中間軸Mの回転速度が0になった時、完全係合状態になったと判定する(時刻t15)。そして、指令圧を完全係合圧までステップ的に増加させて、調心制御に係わる係合制御を終了する。
【0081】
3−8−11.各制御部の通常制御への復帰
そして、調心動作及び係合が終了したので、上記のように調心制御モードに切り替えた各制御部を通常制御モードへ復帰させる処理を行い、一連の調心制御を終了する。
【0082】
3−8−12.調心制御部の処理手順
次に、本実施形態に係わる、調心動作及び係合の一連の調心制御の処理について、図7のフローチャートを参照して説明する。まず、調心制御部32は、上記のように調心制御開始条件が成立しているか判定する処理を行う(ステップ#11)。調心制御開始条件が成立した場合には(ステップ#11:Yes)、上記のように、各制御部を調心制御モードに切り替える処理を行う(ステップ#12)。続いて、回転電機MGの駆動力の発生を開始する処理を行う(ステップ#13)。その後、上記のように、調心完了判定条件(係合開始判定条件)が成立して、調心が完了しているか判定する(ステップ#14)。調心完了判定条件が成立した場合には(ステップ#14:Yes)、上記のように、部分係合制御を開始する処理を行う(ステップ#15)。その後、上記のように、駆動入力部材と変速入力部材との回転速度差の増加に基づき部分係合圧制御の完了条件が成立して、部分係合圧制御が完了しているか判定する(ステップ#16)。完了条件が成立した場合には(ステップ#16:Yes)、上記のように、回転電機MGの駆動力発生を停止する処理を行う(ステップ#17)。続いて、上記のように、完全係合制御を開始する処理を行う(ステップ#18)。その後、上記のように、完全係合状態の完了条件が成立して、完全係合が完了しているか判定する(ステップ#19)。完了条件が成立した場合には(ステップ#19:Yes)、上記のように、各制御部を通常制御に復帰させる処理を行い(ステップ#20)、一連の調心制御を終了する。
【0083】
4.第二の実施形態
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。上記の第一の実施形態では、調心制御部32は、調心完了判定(係合開始判定)を調心制御の開始後の経過時間(タイマ時間)で判定していたが、本実施形態では、調心制御部32は、中間軸Mの回転速度に基づき判定する点が相違する。また、上記の第一の実施形態では、調心制御部32は、駆動力源13の駆動力発生の停止及び完全係合制御の開始を、入力軸Iと中間軸Mとの回転速度差の増加に基づき判定していたが、本実施形態では、調心制御部32は、駆動力源13の駆動力発生の停止を、駆動力源13の回転速度が判定値に到達した時点を基準にして判定し、完全係合制御の開始を、係合開始判定の時点からの経過時間により判定する点が相違する。その他の構成は、上記第一の実施形態と同様とすることができる。従って、上記の第一の実施形態との相違点について以下に説明する。
【0084】
4−1.調心制御部
上記のように、第一の実施形態と本実施形態とは、調心制御部32の一部が相違する。従って、以下で、調心制御部32について、相違している内容を中心に説明する。
【0085】
4−1−1.駆動力源の駆動開始
本実施形態に係わる調心制御部32は、上記の第一の実施形態と同様の調心制御開始判定及び各制御部の調心制御モードへの切り替えを行う。その後、調心制御部32は、調心制御開始条件が成立したと判定した時に、駆動力源13の回転駆動を開始する。本実施形態では、図8に示すように、調心制御部32は、調心制御開始判定時点(時刻21)から、所定の変化率で目標回転速度を増加させていく。本例では、調心制御部32は、変化率を1100[rpm/sec]に設定しているが、各条件により変更可能である。本例では、駆動力源13として回転電機MGを用いた場合を例として説明する。このように、目標回転速度の変化率が一定に設定されることにより、回転電機MGの実回転速度は、目標回転速度に比較的小さな遅れで追従することができ、調心制御部32は、回転電機MGの実回転速度を計画的に設定することができる。従って、調心制御部32は、回転電機MGの回転を用いる調心動作をより計画的に行うことができ、調心精度が向上する。
【0086】
4−1−2.調心の完了判定
本実施形態では、調心制御部32は、調心制御開始判定後、中間軸Mの回転速度に基づき、変速装置TM内の複数の変速用回転要素の少なくとも一部の回転軸心の位置を調整する調心動作が完了したと判定する。本例では、調心制御部32は、図8に示すように、中間軸Mの回転速度が調心完了判定速度に到達した時に、調心動作が完了したと判定する。上記のように、特に、本発明では、トルクコンバータTCを介することによる、駆動入力軸Iの回転変化に対する中間軸Mの追従遅れを考慮する必要があり、上記のように、追従遅れは、トルクコンバータTC内の作動油の粘度、回転部材間の摩擦の変動により変化しうる。よって、本実施形態のように、調心制御部32は、中間軸Mの実際の回転速度に基づき調心動作の完了を判定することにより、本発明のようにトルクコンバータTCを介して調心する場合でも、調心制御部32は、精度良く調心完了時点を判定することができる。図8に示す例では、調心制御部32は、完了判定速度を400「rpm」に設定しているが、各条件により変更可能である。
【0087】
また、上記のように、変速装置MTの変速用回転要素の回転停止時間が長くなると、変速装置TM内の回転要素間の油膜の形成状態が不十分になり、より高い回転速度の調心動作が必要になる。一方、変速用回転要素の回転停止時間が短ければ、調心動作の必要回転速度が低くなる。従って、変速装置MTの変速用回転要素の回転停止時間に応じて、上記の中間軸Mの回転速度と比較される調心完了判定速度を設定するようにしても良い。もしくは、回転停止時間が所定値より短い場合は、調心動作を行う必要がないと判断して、調心制御を行わず、通常制御を行うようにしても良い。このようにすると、回転停止時間によって変化する調心動作の必要回転数に応じて、適切な調心時間を設定できる。また、調心制御部32は、上記の駆動力源13の目標回転速度の変化率、及び後述する駆動力源13の停止判定に用いる駆動完了判定速度も、同様の理由により、この回転停止時間に応じて設定してもよい。よって、状態移行指令から第一クラッチC1の係合開始までの遅れ時間を必要に応じて短縮することができる。これにより、車両の発進遅れを小さくすることができ、ドライバビリティを向上できる。
【0088】
また、変速装置TM内の各回転要素に供給される潤滑油の粘度は、その油温によって変化するため、油膜を形成して調心動作が完了するために必要とされる中間軸Mの回転速度、調心期間も変化する。また、調心制御は、エンジンEの暖機前に行われることが多く、油温が安定していないことも多い。従って、変速装置MT内の油温などの何れかの検出した温度情報に応じて、上記の調心完了判定速度を変化させるようにしても良い。油温が低くなるに従って油の粘度が高くなるので、調心完了判定速度を高く設定すると好適である。また、調心制御部32は、上記の回転電機MGの目標回転速度の変化率、及び後述する回転電機MGの停止判定に用いる駆動完了判定速度も、同様の理由により、このような温度情報に応じて設定してもよい。
【0089】
4−1−3.駆動力源の駆動力発生の停止
本実施形態では、図8に示すように、調心制御部32は、上記のように所定の変化率で増加される回転電機MGの目標回転速度が駆動完了判定速度に到達した時(時刻t23)に、回転電機MGによる駆動力の発生を停止する判定を行う。そして、調心制御部32は、この停止判定時点(時刻23)から、所定の変化率で目標回転速度を減少させていく。本例では、駆動完了判定速度は、800[rpm]に設定され、変化率は、−1100[ rpm / sec ]に設定されているが、上記のように各条件により変更可能である。また、調心制御部32は、回転電機MGの回転速度を上昇させる際と下降させる際とで変化率を変化させてもよい。また、調心制御部32は、停止判定時点を、回転電機MGの目標回転速度が所定の判定値に到達してから所定時間経過後の時点としてもよく、この所定時間の間は、目標回転速度を駆動完了判定速度に維持する構成とすると更に好適である。
【0090】
4−1−4.完全係合制御の開始
調心動作の完了が判定された後は、調心制御部32は、変速装置TMを非伝達状態から伝達状態に移行させる制御を開始する。従って、調心完了判定は、係合開始判定ともなる。本実施形態では、第一の実施形態と、完全係合制御の開始判定の方法が異なり、その他の構成は、上記第一の実施形態と同様となる。本実施形態では、調心制御部32は、図8に示すように、係合開始判定の時点からの所定の時間が経過した時に、自動的に部分係合圧の制御を終了し、完全係合制御を開始する。上記第一の実施形態のように、調心制御部32は、入力軸Iと中間軸Mとの回転速度差を検出するまで、完全係合制御の開始を待つ必要がなく、係合完了までの時間を短縮することができる。これは、上記のように、調心制御部32は、回転電機MGの目標回転速度を所定の変化率で増減させ、回転電機MGの回転速度を計画的に安定的に設定できるため、係合動作も計画的に設定できるためである。
【0091】
4−1−5.各制御部の通常制御への復帰
そして、調心制御部32は、調心動作及び係合が終了したので、上記のように調心制御モードに切り替えた各制御部を通常制御モードへ復帰させる処理を行い、一連の調心制御を終了する。
【0092】
4−1−6.調心制御部の処理手順
次に、本実施形態に係わる、調心動作及び係合の一連の調心制御の処理について、図9のフローチャートを参照して説明する。まず、調心制御部32は、第一の実施形態と同様に調心制御開始条件が成立しているか判定する処理を行う(ステップ#21)。調心制御開始条件が成立した場合には(ステップ#21:Yes)、第一の実施形態と同様に、調心制御部32は、各制御部を調心制御モードに切り替える処理を行う(ステップ#22)。続いて、調心制御部32は、上記のように、回転電機MGの駆動力の発生を開始する処理を行う(ステップ#23)。なお、図9のフローチャートには示していないが、調心制御部32は、上記のように、目標回転数の増加後、自動的に回転電機MGの駆動力発生を停止する処理を行う。その後、調心制御部32は、上記のように、中間軸Mの回転速度に基づき、調心完了判定条件(係合開始判定条件)が成立して調心が完了しているか判定する(ステップ#24)。調心完了判定条件が成立していると判定した場合には(ステップ#24:Yes)、調心制御部32は、上記のように、部分係合圧制御を開始し、所定の時間経過後、完全係合制御を開始する制御である係合制御を開始する処理を行う(ステップ#25)。その後、調心制御部32は、第一の実施形態と同様に、完全係合状態の完了判定条件が成立して、完全係合が完了しているか判定する(ステップ#26)。完了判定条件が成立した場合には(ステップ#26:Yes)、調心制御部32は、上記のように、各制御部を通常制御に復帰させる処理を行い(ステップ#27)、一連の調心制御を終了する。
【0093】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の実施形態において、エンジンE及び回転電機MGを駆動力源13として備えたハイブリッド車両の車両用駆動装置2を例とし、回転電機MGを回転駆動して調心動作を行う場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、エンジンE及び回転電機MGを駆動力源13として備えたハイブリッド車両の車両用駆動装置2において、回転電機MGに代えて、又は回転電機MGと共に、エンジンEを始動及び回転駆動して調心動作を行う構成とすることも本発明の好適な実施形態の一つである。また、駆動力源13として回転電機MGを備えない車両において、エンジンEを始動及び回転駆動して調心動作を行う構成とすることも本発明の好適な実施形態の一つである。いずれにしても、制御装置31は、エンジンEの始動前又は始動後に、伝達クラッチTCを係合状態に制御して、エンジンEの駆動力が、トルクコンバータ13等の流体継手を介して変速装置TMに伝達されるように制御する。この場合、制御装置31は、調心完了判定条件が満たされた後、上記の各実施形態における回転電機MGと同様に、エンジンEの回転駆動を停止する構成とすることができる。また、制御装置31は、調心完了判定条件が満たされた後、エンジンEの回転駆動を停止せず、通常制御モードに移行する構成としても好適である。
【0094】
(2)上記の各実施形態においては、車両用駆動装置2が1つの回転電機MGを備える場合を例として説明した、しかし、本発明の実施形態はこれに限定されず、車両用駆動装置2が複数の回転電機MGを駆動力源13として備える構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、複数の回転電機MGの一部又は全部を回転駆動して、調心動作を行わせることができる。また、上記の各実施形態のように、エンジンE及び回転電機MGを駆動力源13として備えたハイブリッド車両の車両用駆動装置2において、伝達クラッチTCを備えない構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0095】
(3)上記の各実施形態において、エンジンE及び回転電機MGを駆動力源13として備えたハイブリッド車両の車両用駆動装置2を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、エンジンE又は回転電機MGの何れか一方のみを駆動力源13として備える車両用駆動装置2とすることも本発明の好適な実施形態の一つである。ここで、エンジンEのみを備える車両用駆動装置2とする場合は、車両用駆動装置2をアイドリングストップ車両に適用し、制御装置31は、短時間の車両の停止時にも、エンジンEを停止するようにしても良い。この場合、上記の実施形態において、変速装置MTの変速用回転要素の回転停止時間に応じて設定又は判定する各パラメータである、調心動作の完了判定用のタイマ時間及び調心完了判定速度、駆動力源13の目標回転数、駆動完了判定速度及び目標回転速度の変化率、及び調心動作の実行の可否などを、エンジンEを停止するアイドリングストップによる変速装置MTの変速用回転要素の回転停止時間により設定又は判定するようにしても良い。アイドルリングストップ車両の場合は、信号待ちなどの停車毎にエンジンEを停止するので、状態移行指令から第一クラッチC1の係合開始までの遅れ時間の短縮効果は大きく、車両の発進遅れを小さくすることができ、ドライバビリティを向上できる。
【0096】
(4)上記の各実施形態においては、変速装置TMを伝達状態とする状態指令が、「Dレンジ」及び「Rレンジ」である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、切替操作部としてのシフトレバーSLの選択位置として「セカンドレンジ」、「ローレンジ」などのその他の状態指令を選択可能な構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0097】
(5)上記の各実施形態においては、変速装置TMの状態を切り替える操作を受け付ける切替操作部がシフトレバーSLである場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、シフトレバーSLに代えて、ダイヤルやボタン等の運転者からの操作入力を受け付ける各種の入力受付装置を、切替操作部として備える構成とすることも本発明の好適な実施形態の一つである。
【0098】
(6)上記の各実施形態においては、シフト位置センサSe4からの入力情報に基づいて、状態指令を検出する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。シフト位置センサSe4の入力情報に基づかず、又はシフト位置センサSe4の入力情報に反して、制御装置31が状態指令を生成する構成に本発明を適用しても好適である。この場合において、制御装置31は、自らが生成した非伝達状態から伝達状態への状態移行指令に基づき、調心動作を実行する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0099】
(7)上記の各実施形態においては、シフト位置センサSe4からの入力情報に基づいて、状態指令を検出する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。例えば、「Dレンジ」等が選択されており、変速装置TMが伝達状態であった場合でも、ハイブリッド車両又はアイドルリングストップ車両の場合などにおいて、駆動力源13が停止され、油圧制御装置PCから変速装置TMの摩擦係合要素への供給油圧が低下して、変速装置TMが非伝達状態になる場合がある。もしくは、シフト位置センサSe4からの入力情報に基づいて「Dレンジ」等の変速装置MTを伝達状態とする状態指令が検出されている状態であっても、制御装置31の指令により、変速装置TMが非伝達状態に制御される場合が考えられる。このように、状態指令が伝達状態であるが、変速装置TMが非伝達状態である場合において、制御装置31により、再び、変速装置TMが伝達状態に制御される場合も、本発明における、伝達状態から前記伝達状態への状態移行指令が入力された場合に含めることができる。
【0100】
(8)上記の各実施形態の制御装置31における調心動作の完了判定方法は、第一の実施形態が、調心動作開始後の経過時間により判定し、第二の実施形態が、変速入力部材の回転速度に基づき判定する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第一の実施形態において、調心動作の完了判定を変速入力部材の回転速度に基づき行っても良く、第二の実施形態において、調心動作の完了判定を調心動作開始後の経過時間に基づき行っても良い。
【0101】
(9)上記の第二の実施形態において、制御装置31は、係合制御の開始後に部分係合圧に維持する制御を行い、その後に完全係合制御を行う場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第二の実施形態が、係合制御の開始後に部分係合圧とする制御を行わずに、直接、完全係合制御を行うようにすることも本発明の好適な実施形態の一つである。この場合においても、係合制御の開始後に瞬間的に高い指令圧を設定し、実圧の立ち上がりを早める制御を行っても良い。
【0102】
(10)上記の各実施形態の制御装置31における調心動作のための駆動力源13の目標回転速度の増減は、第一の実施形態が、ステップ的に変化させ、第二の実施形態が、所定の変化率で変化させる場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、各実施形態の制御装置31における調心動作のための駆動力源13の目標回転速度の増減は、第一の実施形態において、所定の変化率で変化させても良く、第二の実施形態において、ステップ的に変化させても良く、更には、目標回転速度の増加又は減少は、ステップ変化と、所定の変化率での変化の何れの組み合わせによる増加又は減少としても良く、更には、任意の波形に従った増加又は減少としても良い。
【0103】
(11)上記の第二の実施形態において、駆動力源13として回転電機MGを用いて、当該回転電機MGの回転速度を所定の変化率で増減する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち第二の実施形態において、駆動力源13としてエンジンEを用いて、当該エンジンEの回転速度を所定の変化率で増減させても良く、更には、エンジン始動後又は停止前の回転速度に相当する所定の回転速度を基準として、エンジンEの回転速度を所定の変化率で増減させるようにしても好適である。
【0104】
(12)上記の各実施形態において、制御装置31は、駆動力源13の駆動力の停止時点を、調心動作の完了判定時点よりも後に設定する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち各実施形態において、制御装置31は、駆動力源13の駆動力発生の停止時点を、調心動作の完了判定時点と同時、又は調心動作の完了判定時点を基準として設定される時点(例えば調心動作の完了判定時点から所定時間後)等として設定することも本発明の好適な実施形態の一つである。このようにすると、駆動力源13の駆動力の発生期間を調心動作の期間に合わせて必要最小限に短縮することが可能となる。
【0105】
(13)上記の各実施形態において、変速装置TMは、第一速段〜第八速段を有する有段の自動変速装置の場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、上記のように、複数の変速用回転要素と少なくとも一つの摩擦係合要素とを備え、摩擦係合要素が係合状態となることにより入力側の回転を出力側へ伝達する伝達状態となり、摩擦係合要素が解放状態となることにより入力側の回転を出力側へ伝達しない非伝達状態となるように構成されている変速装置TMであれば、何れの種類の変速装置でもよく、例えば、任意の数の変速段を有する有段の自動変速装置、ダブルクラッチ式トランスミッション、自動制御式マニュアルトランスミッションなどの各種の変速装置TMを用いることも本発明の好適な実施形態の一つである。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、駆動力源と、流体継手と、変速装置と、少なくとも前記駆動力源及び前記変速装置の制御を行う制御装置とを備え、前記駆動力源により駆動される駆動入力部材の回転が前記流体継手を介して変速入力部材へ伝達され、当該変速入力部材の回転が前記変速装置で変速されて出力部材へ伝達される車両用駆動装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0107】
E:エンジン(駆動力源)
MG:回転電機(駆動力源)
TM:変速装置
C1:第一クラッチ(摩擦係合要素、変速用回転要素)
TC:伝達クラッチ
PC:油圧制御装置
I:入力軸(駆動入力部材)
M:中間軸(変速入力部材、変速用回転要素)
O:出力軸(出力部材)
Se1:入力軸回転速度センサ
Se2:中間軸回転速度センサ
Se3:出力軸回転速度センサ
Se4:シフト位置センサ
PR:パーキングロック機構
PG2:第二差動歯車装置(変速用回転要素)
2:車両用駆動装置
13:駆動力源
14:トルクコンバータ(流体継手)
31:制御装置
32:調心制御部
33:入力情報検出部
34:エンジン制御部
35:回転電機制御部
36:変速制御部
37:ロックアップ制御部
38:パーキングロック制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源と、流体継手と、変速装置と、少なくとも前記駆動力源及び前記変速装置の制御を行う制御装置とを備え、前記駆動力源により駆動される駆動入力部材の回転が前記流体継手を介して変速入力部材へ伝達され、当該変速入力部材の回転が前記変速装置で変速されて出力部材へ伝達される車両用駆動装置であって、
前記変速装置は、複数の変速用回転要素と少なくとも一つの摩擦係合要素とを備え、前記摩擦係合要素が係合状態となることにより前記変速入力部材の回転を前記出力部材へ伝達する伝達状態となり、前記摩擦係合要素が解放状態となることにより前記変速入力部材の回転を前記出力部材へ伝達しない非伝達状態となるように構成され、
前記制御装置は、前記駆動力源が駆動力を発生させていない状態で、前記非伝達状態から前記伝達状態への状態移行指令が入力された場合に、前記摩擦係合要素を係合して前記伝達状態へ移行する前に、前記非伝達状態を維持しつつ、前記駆動力源に駆動力を発生させて前記駆動入力部材を回転させ、前記流体継手を介して前記変速入力部材を回転させることにより、変速入力回転動作を行う車両用駆動装置。
【請求項2】
前記出力部材の回転を機械的に固定する回転固定状態と、当該固定を解除する固定解除状態とを切り替え可能なロック機構を更に備え、
前記制御装置は、前記変速入力回転動作に際して、前記ロック機構が前記回転固定状態にある場合には、前記駆動力源に駆動力を発生させる前に前記ロック機構を前記固定解除状態に切り替える請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記駆動力源の駆動状態を制御する駆動制御部を備え、
前記駆動制御部は、前記摩擦係合要素が係合状態への移行を開始した後、前記流体継手を介する前記駆動入力部材と前記変速入力部材との回転速度差の増加を検出したことに基づいて、前記駆動力源による駆動力の発生を停止させる請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記摩擦係合要素の係合状態を制御する係合制御部を備え、
前記係合制御部は、前記非伝達状態から前記伝達状態への状態移行指令が入力された後、予め定められた係合開始条件を満たしてから前記摩擦係合要素の係合圧が当該摩擦係合要素を部分係合状態とする部分係合圧となるように制御し、前記駆動入力部材と前記変速入力部材との回転速度差の増加を検出した後、前記摩擦係合要素の係合圧を前記部分係合圧より増大させて前記摩擦係合要素を完全係合状態へ移行させる請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記係合開始条件は、前記非伝達状態から前記伝達状態への状態移行指令が入力されたときを基準とする時間、又は前記変速入力部材の回転速度、により規定された条件である請求項4に記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
前記状態移行指令は、少なくとも前記変速装置の前記伝達状態と前記非伝達状態とを切り替える操作を受け付ける切替操作部の操作に基づいて前記制御装置に入力される請求項1から5のいずれか一項に記載の車両用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−179559(P2011−179559A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42891(P2010−42891)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】