説明

遮熱コーティング、タービン部材、及びガスタービン

【課題】耐酸化性及び延性に優れる遮熱コーティングを提供する。
【解決手段】耐熱合金基材11上に、金属結合層12と、セラミックス層13とを備え、金属結合層12が、基板11側から順に第1層12a及び第2層12bが積層されて構成される遮熱コーティング。第1層11aが、質量%で、Ni:20〜40%、Cr:10〜30%、Al:4〜15%、Y:0.1〜5%、Co:残部、第2層11bが、質量%で、Ni:20〜40%、Cr:10〜30%、Al:4〜15%、Y:0.1〜5%、Re:0.5〜10%、Co:残部とされるまたは、第1層11aが、質量%で、Co:0.1〜12%、Cr:10〜30%、Al:4〜15%、Y:0.1〜5%、Ni:残部、第2層11bが、質量%で、Co:0.1〜12%、Cr:10〜30%、Al:4〜15%、Y:0.1〜5%、Re:0.5〜10%、Ni:残部とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮熱コーティング、並びに、該遮熱コーティングを備えるタービン部材及びガスタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、産業用ガスタービンにおいて、遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating)は、動翼や静翼などのタービン部材の形状や冷却構造を変えずに耐熱合金基材の温度を低減できることから、必須の技術となっている。
【0003】
一般に、遮熱コーティングは、耐熱合金基材上に、耐酸化性に優れたMCrAlY合金(Mは、Ni、Co、Fe、またはこれらの合金を表す)からなる金属結合層と、主としてジルコニア系セラミックスからなる低熱伝導性のセラミックス層とを順次積層させた2層構造となっている。
【0004】
例えば1500℃を超える高温でガスタービンを長時間使用すると、金属結合層上に酸化スケール(Thermally Grown Oxide)が発生する。酸化スケールが成長すると、セラミックス層内に応力が生じて亀裂が発生し、セラミックス層の剥離に繋がる恐れがある。従って、金属結合層の耐酸化性を向上させて酸化スケールの成長速度を抑制する必要がある。
また、タービンの発停に伴う温度変化により、タービン部材に熱応力が発生し、タービンの運転中に金属結合層に割れが発生する恐れがある。従って、金属結合層は延性を有することが必要とされる。
【0005】
特許文献1及び特許文献2に、耐酸化性及び延性を向上させた耐高温腐食合金材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4166977号公報(請求項1)
【特許文献2】特許第4166978号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐酸化性及び延性に優れ、超高温で使用されるガスタービンに適用可能な遮熱コーティングを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、耐熱合金基材上に、金属結合層と、該金属結合層上に積層されたセラミックス層とを備え、前記金属結合層が、前記基板側から順に第1層及び第2層が積層されて構成され、前記第1層が、質量%で、Ni:20〜40%、Cr:10〜30%、Al:4〜15%、Y:0.1〜5%を含み、残部が実質的にCoからなる合金とされ、前記第2層が、質量%で、Ni:20〜40%、Cr:10〜30%、Al:4〜15%、Y:0.1〜5%、Re:0.5〜10%を含み、残部が実施的にCoからなる合金とされる遮熱コーティングを提供する。
【0009】
また、本発明は、前記第1層が、質量%で、Co:0.1〜12%、Cr:10〜30%、Al:4〜15%、Y:0.1〜5%を含み、残部が実質的にNiからなる合金とされ、前記第2層が、質量%で、Co:0.1〜12%、Cr:10〜30%、Al:4〜15%、Y:0.1〜5%、Re:0.5〜10%を含み、残部が実施的にNiからなる合金とされる遮熱コーティングを提供する。
【0010】
上記合金に含まれる各元素の作用は以下の通りである。
Ni:上記含有量において、金属結合層の延性を向上させる。
Co:上記含有量において、金属結合層の延性を向上させる。
Cr:金属結合層の耐酸化性を向上させる。但し、含有量が30質量%を超えると、Alスケールの生成が阻害されて、金属結合層の耐酸化性が低下する。
Al:金属結合層の表面に緻密なAlスケールを形成し、耐酸化性を向上させる。但し、含有量が15質量%を超えると、Ni−Al相の形成により、延性が低下する。
Y:Alスケールの剥離を防止する。但し、含有量が5質量%を超えると、金属結合層の靭性を低下させ、耐熱衝撃性を低下させる。
Re:Alスケールをより緻密なものとして耐酸化性を更に向上させる。Alスケール直下においてCrRe化合物を形成することにより、NiCrOやCrなどの低密度で脆い化合物(酸化変質層)の脆化を防止する。また、Alスケールの成長を阻害する。これにより、遮熱コーティングを長寿命化させる。
【0011】
しかし、CrRe化合物が形成されることにより、合金の硬さが上昇し、延性が低下する。そのため、タービンの発停に伴う温度変化が繰り返されると、層内に熱疲労による亀裂が発生しやすくなる。Reを含有する合金(第2層の組成)のみで金属結合層を形成した場合、発生した亀裂が耐熱合金基材に到達し、耐熱合金基材に損傷を与える。
本発明では、セラミックス層側に耐酸化性に優れるReを含有する第2層を配置し、耐熱合金基材側に高い延性を有する第1層を配置する。こうすることで、第2層に亀裂が発生した場合でも、第1層によって亀裂が耐熱合金基材に伝播することを阻害する。このため、より高寿命の遮熱コーティングとすることができる。更に、2層構成とすることで、高価なReの使用量が削減できるため、製造コストを大幅に削減することができる。
【0012】
本発明のタービン部材は、上記の遮熱コーティングを備えることを特徴とする。上記遮熱コーティングを用いることによって、セラミックス層の亀裂や剥離、及び、金属結合層の割れが発生しにくく、高温での耐久性に優れた長寿命のタービン部材を提供することができる。
上記タービン部材を備えるガスタービンは、1700℃級の高温で長時間に渡り安定に運転することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
遮熱コーティングの金属結合層を上述の構成することにより、金属結合層の耐酸化性及び延性を向上させることができる。これにより、遮熱コーティングのセラミックス層の剥離や金属結合層の割れなどの発生を抑制し、超高温ガスタービンに適用可能な遮熱コーティングを提供することができる。また、高価な材料の使用量を抑えることができるため、製造コストを削減できるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の遮熱コーティングを適用したタービン部材の断面の模式図である。
【図2】温度変化が繰り返し与えられた本発明の遮熱コーティングを備えるタービン部材の断面の模式図である。
【図3】実施例1の試験片の断面SEM写真である。
【図4】実施例2の試験片の断面SEM写真である。
【図5】比較例1の試験片の断面SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本実施形態に係る遮熱コーティングを適用したタービン部材の断面の模式図である。タービン動翼などの耐熱合金基材11上に金属結合層12が形成され、金属結合層12上にセラミックス層13が形成される。金属結合層12は、耐熱合金基材側から順に、第1層12a、第2層12bで構成される。
【0016】
耐熱合金基材11は、例えばIN738LC(商標名、化学組成:Ni−16Cr−8.5Co−1.75Mo−2.6W−1.75Ta−0.9Nb−3.4Ti−3.4Al(質量%))などの耐熱金属とされる。
【0017】
セラミックス層13の材料として、YbSZ(イッテルビア安定化ジルコニア)、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SmYbZr、DySZ(ジスプロシア安定化ジルコニア)、ErSZ(エルビア安定化ジルコニア)などが挙げられる。セラミックス層13は、大気圧プラズマ溶射、電子ビーム物理蒸着などによって製膜される。セラミックス層13は、気孔Pを10%程度含有する。
【0018】
本実施形態に係る金属結合層12の第1層12aは、質量%で、Ni:20〜40%、Cr:10〜30%、Al:4〜15%、Y:0.1〜5%を含み、残部が実質的にCoからなる合金を用いて形成される。
第2層12aは、質量%で、Ni:20〜40%、Cr:10〜30%、Al:4〜15%、Y:0.1〜5%、Re:0.5〜10%を含み、残部が実施的にCoからなる合金を用いて形成される。
【0019】
また、別の実施形態に係る金属結合層12の第1層12aは、質量%で、Co:0.1〜12%、Cr:10〜30%、Al:4〜15%、Y:0.1〜5%を含み、残部が実質的にNiからなる合金を用いて形成される。
第2層12aは、質量%で、Co:0.1〜12%、Cr:10〜30%、Al:4〜15%、Y:0.1〜5%、Re:0.5〜10%を含み、残部が実施的にCoからなる合金を用いて形成される。
【0020】
金属結合層12は、減圧プラズマ溶射法(LPPS)または高速フレーム溶射法(HVOF)により形成され、膜厚は0.1mm程度とされる。具体的に、HVOFの場合、1回(1パス)の溶射で形成される合金層の厚さは0.05mm程度である。従って、金属結合層12は、耐熱合金基材上11上に第1層12aを1パスにて成膜した後、第1層12a上に第2層12bを1パスにて成膜して形成される。
【0021】
図2は、タービン発停などの温度変化が繰り返し与えられた本実施形態の遮熱コーティングを備えるタービン部材の断面の模式図である。金属結合層12の第2層12bには、熱疲労により、第2層12bとセラミックス層13との界面から亀裂Cが発生する。亀裂Cは第2層12bの膜厚方向に伸展するが、第2層12bと第1層12aとの界面で亀裂伸展が停止され、第1層12aに亀裂は導入されない。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本実施形態の遮熱コーティングを詳細に説明する。
実施例として、低圧プラズマ溶射法を用いて、表1に示される組成の合金粉末を、厚さ5mmの合金金属基材(IN−738LC)上に溶射して第1層及び第2層をそれぞれ0.05mmずつ成膜し、金属結合層を形成した。低圧プラズマ溶射条件は以下の通りである。
チャンバ圧力:5.5×10〜6.5×10Pa
溶射距離:270〜280mm
Arガス流量:40〜50l/min
ガス流量:8〜10l/min
電流:670〜700A
第1層及び第2層形成後、850℃、24時間の条件で、熱拡散処理を施した。
【0023】
比較例1及び2として、表1に示される組成の合成粉末を、実施例と同様条件にて合金金属基材上に溶射して、厚さ0.1mmの金属結合層を形成した。
比較例3及び4として、実施例1及び実施例2の第2層の組成の合成粉末を、実施例と同様条件にて合金金属基材上に溶射して、厚さ0.1mmの金属結合層を形成した。
【0024】
【表1】

【0025】
各金属結合層上に、YSZ(8wt%Y−ZrO)粉末を用いて、大気圧プラズマ溶射法により膜厚0.5mmのセラミックス層を形成した。大気圧プラズマ溶射条件は以下の通りである。
溶射距離:150mm
粉末供給量:60g/min
Arガス流量:35l/min
ガス量:7.4l/min
電流:600A
【0026】
(酸化試験)
実施例及び比較例の試験片を電気炉に入れ、1000℃、1000時間の条件で大気中にて加熱した。加熱後の試験片の断面をSEM観察した。図3は実施例1の試験片の断面SEM写真である。図4は実施例2の試験片の断面SEM写真である。図5は比較例1の試験片の断面SEM写真である。
実施例及び比較例の各試験片のSEM写真から、金属結合層とセラミックス層との界面の酸化スケールの厚さを測定した。結果を表2に示す。
【表2】

【0027】
実施例1及び実施例2では、比較例1及び比較例2よりも酸化スケールが薄くなった。比較例1及び比較例2に対する酸化スケール生成速度は、実施例1で約30%、実施例2で約18%減少した。また、実施例1及び実施例2は、それぞれ実施例3及び実施例4とほぼ同等の酸化スケール厚さとなった。
このように、金属結合層を2層構成とし、第2層にReを含有する合金層を設けることによって、Reを含有しない金属結合層よりも耐酸化性が向上することが確認された。また、2層構成の金属結合層で、Reを含有する金属結合層1層の場合とほぼ同等の効果が得られることが確認された。
また、実施例1及び実施例2の試験片の断面SEM観察により、第2層で亀裂は発生したものの、第1層に亀裂がないことが確認された。
【符号の説明】
【0028】
11 耐熱合金基材
12 金属結合層
13 セラミックス層
C 亀裂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱合金基材上に、金属結合層と、該金属結合層上に積層されたセラミックス層とを備え、
前記金属結合層が、前記基板側から順に第1層及び第2層が積層されて構成され、
前記第1層が、質量%で、Ni:20〜40%、Cr:10〜30%、Al:4〜15%、Y:0.1〜5%を含み、残部が実質的にCoからなる合金とされ、
前記第2層が、質量%で、Ni:20〜40%、Cr:10〜30%、Al:4〜15%、Y:0.1〜5%、Re:0.5〜10%を含み、残部が実施的にCoからなる合金とされる遮熱コーティング。
【請求項2】
耐熱合金基材上に、金属結合層と、該金属結合層上に積層されたセラミックス層とを備え、
前記金属結合層が、前記基板側から順に第1層及び第2層が積層されて構成され、
前記第1層が、質量%で、Co:0.1〜12%、Cr:10〜30%、Al:4〜15%、Y:0.1〜5%を含み、残部が実質的にNiからなる合金とされ、
前記第2層が、質量%で、Co:0.1〜12%、Cr:10〜30%、Al:4〜15%、Y:0.1〜5%、Re:0.5〜10%を含み、残部が実施的にNiからなる合金とされる遮熱コーティング。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の遮熱コーティングを備えることを特徴とするタービン部材。
【請求項4】
請求項3に記載のタービン部材を備えることを特徴とするガスタービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−127145(P2011−127145A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284253(P2009−284253)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】