量子ドットの形成方法及び半導体装置の製造方法
【課題】不純物を直接ドーピングしても良好な結晶性を得ることができる量子ドットの形成方法及び半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】GaAsバッファ層の厚さが所定値に達すると、In及びAsの原料を供給し始める。この結果、ぬれ層が成長し始める。ぬれ層の成長開始から120秒程度経過すると、核生成が生じる(段階A)。更に5秒間程度経過すると、核生成が停止し、各核を起点として量子ドットに原料が凝集し始める(段階B)。この段階においてSiの供給を開始し、量子ドットに不純物としてSiをドーピングする。更に30秒間程度経過すると、量子ドットの凝集が停止し始める(段階C)。凝集が停止し始める時に不純物の供給を停止する。つまり、Siのドーピングを停止する。その後、不純物の供給を停止してから45秒間経過した時にInの供給を停止し、Gaの供給を再開することにより、キャップ層の形成を開始する。
【解決手段】GaAsバッファ層の厚さが所定値に達すると、In及びAsの原料を供給し始める。この結果、ぬれ層が成長し始める。ぬれ層の成長開始から120秒程度経過すると、核生成が生じる(段階A)。更に5秒間程度経過すると、核生成が停止し、各核を起点として量子ドットに原料が凝集し始める(段階B)。この段階においてSiの供給を開始し、量子ドットに不純物としてSiをドーピングする。更に30秒間程度経過すると、量子ドットの凝集が停止し始める(段階C)。凝集が停止し始める時に不純物の供給を停止する。つまり、Siのドーピングを停止する。その後、不純物の供給を停止してから45秒間経過した時にInの供給を停止し、Gaの供給を再開することにより、キャップ層の形成を開始する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電素子等に好適な量子ドットの形成方法及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遠赤外光検出器等の光電素子、温度無依存の半導体レーザ及び超高速変調光中継デバイス等の光通信に用いる光デバイス、並びに量子情報における演算機能デバイスでの量子ドットの使用に関する研究が行われている。
【0003】
量子ドットは3次元のナノスケールでキャリアの閉じ込めを制御でき、状態数が離散的なため、既存の半導体装置を超える特性を得ることができる。例えば、Siが直接ドーピングされたInAs量子ドットを遠赤外光検出器に用いた場合に、伝導帯のサブバンド間遷移を用いたμmオーダーの波長検出が可能となる。また、量子ドットの近傍にP型不純物が添加された量子ドットレーザでは、優れた温度安定性が示されている。
【0004】
また、InAs量子ドットレーザの特性を改善するために、量子ドットのサイズを均一化させ、発光スペクトルの狭線化を狙うために、Siを量子ドットに直接ドーピングする技術についての研究も行われている。
【0005】
しかしながら、量子ドットに不純物を直接ドーピングすると、結晶性が低下してしまい、発光強度の低下及び量子ドットのサイズの2極化等の問題が生じてしまう。このため、光デバイスの実用化が困難である。これらの原因に関し、不純物によって非輻射再結合中心が形成されるために発光強度が低下するという考え方がある。その一方で、Si2H6ガスを用いた有機金属気相成長法(MOVPE法)でSiをドーピングした場合に、フォトルミネッセンス(PL)発光強度が強くなるという報告もある。このように、現状では、量子ドットの結晶性及び発光強度に関する研究が十分とはいえず、不純物を直接ドーピングした量子ドットの結晶性を良好なものとして、安定して強い発光強度を得ることができない。
【0006】
【特許文献1】特開平5−175118号公報
【非特許文献1】Zhao Qian et al. / Journal of Crystal Growth 200 (1999) 603-607
【非特許文献2】C.-Y. Huang et al. / Thin Solid Films 515 (2007) 4459-4461
【非特許文献3】H. Hwang et al. / Current Applied Physics 3 (2003) 465-468
【非特許文献4】J.S. Kim et al. / Journal of Crystal Growth 234 (2002) 105-109
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、不純物を直接ドーピングしても良好な結晶性を得ることができる量子ドットの形成方法及び半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、以下に示す発明の諸態様に想到した。
【0009】
量子ドットの形成方法では、半導体層上に量子ドットの核を生成し、その後、前記核を起点として量子ドットを成長させる。そして、前記核を生成する際には不純物のドーピングを行わずに、前記量子ドットを成長させる際に不純物のドーピングを行う。
【0010】
半導体装置の製造方法では、上記の方法により、量子ドットを半導体素子の活性層に形成する。
【発明の効果】
【0011】
上記の方法によれば、不純物のドーピングのタイミングを適切に規定しているため、良好な結晶性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(量子ドットの成長態様)
先ず、本願発明者等が行った量子ドットの成長態様に関する解析の内容について説明する。図1は、量子ドットの形成に用いられる分子線エピタキシー(MBE)装置の概要を示す模式図である。
【0013】
この分子線エピタキシー装置では、図1に示すように、チャンバ1にRHEED(反射高エネルギ電子線回折:reflection high-energy electron diffraction)電子銃2及びRHEEDスクリーン3が設けられている。また、チャンバ1内にヒ素(As)を供給するAsセル4、チャンバ1内にインジウム(In)を供給するInセル5、チャンバ1内にガリウム(Ga)を供給するGaセル6、及びチャンバ1内に不純物を供給する不純物セル7も設けられている。不純物としては、例えばシリコン(N型不純物)、ベリリウム(P型不純物)等が用いられる。また、不純物としてサルファー又はカーボンを用いてもよい。更に、試料8を保持するホルダ9及び四重極質量分析器10も設けられている。
【0014】
このように構成された分子線エピタキシー装置では、RHEED電子銃2から電子線を試料8の表面に照射すると、反射高速電子回折により、その回折像がRHEEDスクリーン3に映し出される。そして、回折像の解析を行うことにより、試料8の結晶の状態等を把握することができる。
【0015】
量子ドットをS−K(Stranski-Krastanov)モードの自己形成により化合物半導体層等の上に成長させた場合、図2(a)に示すような(004)面の回折スポットが現れる。また、その成長段階では、当該回折スポットの長軸から傾斜した方向に延びる回折像(シェブロンテール)も現れる。そこで、本願発明者らは、回折スポットの中心から長軸が延びる方向に任意の距離Lだけ離れた点を通り、かつ長軸に垂直な直線上における回折像の強度を測定した。シェブロンテールが現れている場合には、図2(b)に示すように、シェブロンテールと交差する位置において明敏なピークが現れる。
【0016】
そして、InAs量子ドットの成長過程において、このような回折像の強度の変化の観察を行ったところ、図3に示す結果が得られた。なお、図3中の横軸は上記の直線上の位置を示し、横軸の「InAs堆積厚さ」は、InAs量子ドットの成長速度に時間を乗じて厚さに換算した値を示している。
【0017】
また、図2(a)に示すように、シェブロンテールと回折スポットの長軸とのなす角の大きさ(シェブロン角度)の変化を観察したところ、図4に示す結果が得られた。
【0018】
これらの結果から、本願発明者等は量子ドットの成長過程を、図3に示すように4つの段階に分けることができることを見出した。つまり、本願発明者等は、量子ドットの成長過程を、シェブロンテールの出現前の段階A、シェブロン角度が徐々に大きくなる段階B、シェブロン角度が安定する段階C及びシェブロン角度が徐々に小さくなる段階Dに分けることができることを見出した。なお、図3における段階Aよりも前の段階は、ぬれ層が形成される段階である。図4は、シェブロン角度の変化を示すグラフである。
【0019】
更に、段階B、C及びDにおける量子ドットの形状を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察したところ、夫々図5(a)、図5(b)、図5(c)に示す像が得られた。つまり、段階Bでは、図5(a)に示すように、サイズの分布が二極化していた。また、段階Cでは、図5(b)に示すように、サイズの分布がほぼ均一になっていた。また、段階Dでは、図5(c)に示すように、巨大な量子ドットが出現している一方で、個数密度が低下していた。
【0020】
これらの観察結果から、段階Aは量子ドットの核生成が行われる段階、段階Bは量子ドットの原料が凝集する段階、段階Cは凝集が停止してサイズが均一化する段階、段階Dは一部の量子ドットが巨大化し、他の一部の量子ドットが分解する段階であるということができる。これらを図示すると図6のようになる。つまり、段階Aでは、図6(a)に示すように、ぬれ層21の複数箇所に核22が発生する。段階Bでは、図6(b)に示すように、核22を起点として原料が凝集して量子ドット23が成長し始める。段階Cでは、図6(c)に示すように、一定の大きさに達した量子ドット23の凝集が停止する。段階Dでは、図6(d)に示すように、一部の量子ドット23が更に成長し、他の一部の量子ドット23が粒子24に分解する。
【0021】
そして、本願発明者らは、これらの4段階の夫々において不純物のドーピングを行った場合に、量子ドットの結晶がどのような状態となるか検討した結果、次のような知見を得た。即ち、段階Aにおいて不純物のドーピングを行うと、核生成が阻害されて結晶性が低下してしまう。段階Bにおいて不純物のドーピングを行うと、量子ドットが不純物の原子を活発に取り込み、結晶性が均一で良好なものとなる。段階Cにおいて不純物のドーピングを行うと、成長が平衡状態となるため不純物の取り込みは弱まるが、結晶性は均一で良好なものとなる。段階Dにおいて不純物のドーピングを行うと、点欠陥が多く発生し、結晶性が低下してしまう。なお、段階Dは、量子ドットを備えた半導体装置には必要とされない段階でもある。
【0022】
(実施形態)
次に、上記の知見に基づく実施形態について説明する。図7は、本実施形態において形成する半導体装置の構造の一部を示す断面図である。
【0023】
この半導体装置では、図7に示すように、基板11上にバッファ層12が位置し、その上にぬれ層13及び複数の量子ドット14が位置する。更に、ぬれ層13上に、量子ドット14を覆うキャップ層15が位置する。例えば、基板11はGaAsから構成され、その表面のミラー指数は(001)である。また、バッファ層12はGaAsから構成され、その厚さは500nm程度である。ぬれ層13及び量子ドット14はSiがドーピングされたInAsから構成される。キャップ層15はGaAsから構成され、その厚さは150nm程度である。
【0024】
このような構造の形成に当たり、本実施形態では、図1に示す分子線エピタキシー装置を用いたエピタキシャル成長を行う。図8は、本実施形態における各原料のセルのシャッターの開閉を示すタイミングチャートである。なお、横軸の数値は量子ドット層(ぬれ層13及び量子ドット14)の形成を開始してからの経過時間を示している。
【0025】
本実施形態では、図8に示すように、先ず、Gaセル6及びAsセル4のシャッターを開き、基板11上にGaAsからなるバッファ層12を形成する。
【0026】
その後、バッファ層12の厚さが所定値(例えば500nm)に達すると、Gaセル6のシャッターを閉じ、Inセル5のシャッターを開く。また、基板11の温度を450℃に設定し、チャンバ1内のAs圧を3.0×10-6Torr(4×10-4Pa程度)とする。そして、量子ドット層の成長速度を0.012ML/sとする。この結果、ぬれ層13が成長し始める。
【0027】
そして、ぬれ層13の成長開始から120秒程度経過すると、核生成が生じる(段階A)。
【0028】
更に5秒間程度経過すると、核生成が停止し、各核を起点として量子ドット14に原料が凝集し始める(段階B)。本実施形態では、この段階において不純物セル7のシャッターを開き、原料を凝集しようとする量子ドット14に、不純物としてSiをドーピングする。
【0029】
更に30秒間程度経過すると、量子ドット14の凝集が停止し始める(段階C)。本実施形態では、凝集が停止し始める時に不純物セル7のシャッターを閉じる。つまり、Siのドーピングを停止する。
【0030】
その後、不純物セル7のシャッターを閉じてから45秒間経過した時にInセル5のシャッターを閉じ、Gaセル6のシャッターを開き、キャップ層15の形成を開始する。この結果、量子ドット層の厚さは2.4MLとなる。そして、キャップ層15の厚さが所定値(例えば150nm)に達すると、再度、量子ドット層の形成を開始する。
【0031】
このような量子ドット層の形成とキャップ層15の形成を繰り返すことにより、所定の数の量子ドット層を形成する。更に、電極及び配線等を形成して半導体装置を完成させる。このような半導体装置では、量子ドット層が活性層として機能する。なお、最初の量子ドット層の形成の前に電極等を形成しておいてもよい。
【0032】
このような方法によれば、適切な段階において不純物であるSiのドーピングを行っているので、良好な結晶性の量子ドット14を得ることができる。従って、発光素子として用いれば、安定して強い発光強度を得ることができる。
【0033】
なお、図9に示すように、量子ドット14の凝集が停止し始めた後で、かつキャップ層15の形成を開始する前の段階においてSiのドーピングを行ってもよい。また、図10に示すように、凝集中にSiのドーピングを開始して、凝集が停止し始めてからSiのドーピングを停止してもよい。
【0034】
また、各シャッターの開閉は、RHEEDスクリーン3に映し出される回折像を観察しながら行うことが好ましいが、経過時間と量子ドット層の状態との相関関係が予め得られていれば、経過時間に基づいて各シャッターの開閉を制御してもよい。
【0035】
(第1の実験)
次に、本願発明者等が行った第1の実験の内容及び結果について説明する。第1の実験では、表1に示すように、Siのドーピングの段階又は密度を異ならせた5種類の試料を作製した。
【0036】
【表1】
【0037】
そして、比較例No.1、実施例No.1、及び実施例No.4について、原子間力顕微鏡を用いた量子ドットの分布及び電流の測定を行った。これらの結果を、夫々図11、図12、図13に示す。なお、図11〜図13中の(a)は量子ドットの形状像を示し、(b)は電流像を示す。なお、電流像では、電気抵抗が低く電流が多く流れる部分ほど明るくなる。
【0038】
比較例No.1での量子ドットの密度が4.5×1010cm-2であるのに対し、Siがドーピングされている実施例No.1及び実施例No.2での量子ドットの密度は5.2×1010cm-2であり、15%程度高くなった。また、比較例No.1の電流像(図11(b))には明るい点が存在しないが、実施例No.1及び実施例No.2の電流像(図12(b)及び図13(b))には明るい点が存在する。このことは、実施例No.1及び実施例No.2において、不純物(Si)のドーピングにより量子ドットの導電率が高くなっていることを意味している。また、実施例No.1及び実施例No.2の電流像を比較すると、実施例No.1の方が、量子ドットが位置する点の明るさが均一である。このことは、実施例No.1の方が、ドーピングが均一に行われたことを意味している。
【0039】
また、本願発明者等は、比較例No.1、実施例No.1、実施例No.2及び実施例No.3について、Arイオンレーザ(波長:488nm)を励起光源とし、励起光強度を0.5mW、温度を14Kとした環境下においてフォトルミネッセンス(PL)測定を行った。この結果を図14に示す。
【0040】
図14に示すように、Siがドーピングされた実施例No.1、実施例No.2及び実施例No.3において、比較例No.1の1.5〜3倍程度の発光強度が得られた。このことから、量子効率の向上、即ち量子ドットデバイスの利得向上に利用できると考えられる。また、フィッティングによって得られた、各試料の基底準位の発光波長、発光エネルギ及び半値幅を表2に示す。また、図15に、Siの密度と発光波長との関係を示す。
【0041】
【表2】
【0042】
これらの結果から、Siの密度を調整することにより、発光波長を制御できるといえる。また、Siがドーピングされた実施例No.1、実施例No.2及び実施例No.3では、半値幅が狭くなっている。これは、量子ドットのサイズの均一性が向上したためであると考えられる。
【0043】
本願発明者等は、更に、比較例No.1、実施例No.1、実施例No.2及び実施例No.3について、励起光強度を20mWとしたときのPL温度特性を測定した。この結果を図16に示す。
【0044】
図16に示すように、Siがドーピングされた実施例No.1、実施例No.2及び実施例No.3において、温度安定性が著しく向上した。つまり、300Kにおける発光強度は、比較例No.1では、14Kにおける発光強度の約1090分の1となったが、実施例No.1、実施例No.2及び実施例No.3では、約25〜40分の1となり、温度安定性が27倍〜43倍程度まで向上した。
【0045】
また、本願発明者等は、比較例No.1、実施例No.1、及び実施例No.4について、室温での発光強度を測定した。この結果を図17に示す。
【0046】
図17に示すように、実施例No.1、及び実施例No.4の発光強度が比較例No.1の100倍以上になった。
【0047】
(第2の実験)
次に、本願発明者等が行った第2の実験の内容及び結果について説明する。第2の実験では、Siのドーピングを段階Aから段階Bにかけて行って比較例No.2の試料を作製した。なお、Siの密度は、実施例No.1及びNo.4と同様に1.4×1011(cm-2)とした。
【0048】
そして、比較例No.2について、実施例No.1及びNo.4と同様に、原子間力顕微鏡を用いた電流の測定を行った。この結果を、実施例No.1及びNo.4の結果(図12(b)、図13(b))と共に図18に示す。図18(a)が比較例No.2の結果を示し、図18(b)が実施例No.1の結果を示し、図18(c)が実施例No.4の結果を示している。
【0049】
図18に示すように、実施例No.1及び実施例No.4の結果が、比較例No.2の結果よりも良好なものとなった。このことは、核生成の段階で不純物のドーピングを行っても、量子ドットの抵抗を十分に低減することはできず、所望の結果は得られないことを意味している。
【0050】
また、比較例No.2について、レーザ(波長:659nm)を励起光源とし、温度を5Kとした環境下においてフォトルミネッセンス(PL)測定を行った。この結果を、比較例No.1の結果と共に図19に示す。
【0051】
図19に示すように、比較例No.2では、Siがドーピングされていない比較例No.1と同程度の発光強度しか得られなかった。このことは、実施例No.1、実施例No.2及び実施例No.3では、比較例No.2と比較しても高い発光強度が得られることを意味している。
【0052】
また、本願発明者等は、比較例No.2について、室温での発光強度を測定した。この結果を、比較例No.1の結果と共に図20に示す。
【0053】
図20に示すように、比較例No.2では、比較例No.1と同程度の発光強度しか得られなかった。このことからも、実施例No.1、実施例No.2及び実施例No.3では、比較例No.2と比較しても高い発光強度が得られるということができる。
【0054】
本願発明者等は、更に、比較例No.2についてPL温度特性を測定した。この結果を図21に示す。
【0055】
図21に示すように、比較例No.2の温度依存性は、比較例No.1と同様のものとなった。このことは、実施例No.1、実施例No.2及び実施例No.3では、比較例No.2と比較しても良好な温度依存性が得られることを意味している。
【0056】
(第3の実験)
第3の実験では、不純物をSiからBeに代えて、段階Bの凝集時にBeをドーピングした場合の発光強度の測定も行った。この場合には、不純物セル7からBeの供給を行った。この結果を図22に示す。
【0057】
図22に示すように、Beをドーピングした場合にも、適切な量のドーピングを行った試料では、ドーピングをしていない試料よりも高い発光強度を得ることができた。
【0058】
これらの結果からも、量子ドットレーザ等の発光素子としてのみならず、赤外光検出器等の光電素子等の他の量子ドットデバイス(半導体装置)の温度安定性が著しく向上するといえる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】量子ドットの形成に用いられる分子線エピタキシー(MBE)装置の概要を示す模式図である。
【図2】回折像及び強度の測定箇所を示す図である。
【図3】回折像の強度の変化を示す図である。
【図4】シェブロン角度の変化を示す図である。
【図5】段階B、C及びDにおける量子ドットの形状を示す図である。
【図6】量子ドットの成長態様を示す図である。
【図7】実施形態において形成する半導体装置の構造の一部を示す断面図である。
【図8】実施形態における各原料のセルのシャッターの開閉を示すタイミングチャートである。
【図9】各原料のセルのシャッターの開閉の他の例を示すタイミングチャートである。
【図10】各原料のセルのシャッターの開閉の更に他の例を示すタイミングチャートである。
【図11】比較例No.1についての量子ドットの分布及び電流の測定結果を示す図である。
【図12】実施例No.1についての量子ドットの分布及び電流の測定結果を示す図である。
【図13】実施例No.4についての量子ドットの分布及び電流の測定結果を示す図である。
【図14】14Kにおける試料毎の発光強度を示す図である。
【図15】Siの密度と発光波長との関係を示す図である。
【図16】温度と発光波長との関係を示す図である。
【図17】室温における試料毎の発光強度を示す図である。
【図18】比較例No.2についての電流の測定結果を、実施例No.1及びNo.4の結果と共に示す図である。
【図19】5Kにおける比較例No.1及び比較例No.2の発光強度を示す図である。
【図20】室温における比較例No.1及び比較例No.2の発光強度を示す図である。
【図21】比較例No.1及び比較例No.2における温度と発光波長との関係を示す図である。
【図22】Beを用いた場合の発光強度を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1:チャンバ
2:RHEED電子銃
3:RHEEDスクリーン
4:Asセル
5:Inセル
6:Gaセル
7:不純物セル
8:試料
9:ホルダ
10:四重極質量分析器
11:基板
12:バッファ層
13:ぬれ層
14:量子ドット
15:キャップ層
21:ぬれ層
22:核
23:量子ドット
24:粒子
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電素子等に好適な量子ドットの形成方法及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遠赤外光検出器等の光電素子、温度無依存の半導体レーザ及び超高速変調光中継デバイス等の光通信に用いる光デバイス、並びに量子情報における演算機能デバイスでの量子ドットの使用に関する研究が行われている。
【0003】
量子ドットは3次元のナノスケールでキャリアの閉じ込めを制御でき、状態数が離散的なため、既存の半導体装置を超える特性を得ることができる。例えば、Siが直接ドーピングされたInAs量子ドットを遠赤外光検出器に用いた場合に、伝導帯のサブバンド間遷移を用いたμmオーダーの波長検出が可能となる。また、量子ドットの近傍にP型不純物が添加された量子ドットレーザでは、優れた温度安定性が示されている。
【0004】
また、InAs量子ドットレーザの特性を改善するために、量子ドットのサイズを均一化させ、発光スペクトルの狭線化を狙うために、Siを量子ドットに直接ドーピングする技術についての研究も行われている。
【0005】
しかしながら、量子ドットに不純物を直接ドーピングすると、結晶性が低下してしまい、発光強度の低下及び量子ドットのサイズの2極化等の問題が生じてしまう。このため、光デバイスの実用化が困難である。これらの原因に関し、不純物によって非輻射再結合中心が形成されるために発光強度が低下するという考え方がある。その一方で、Si2H6ガスを用いた有機金属気相成長法(MOVPE法)でSiをドーピングした場合に、フォトルミネッセンス(PL)発光強度が強くなるという報告もある。このように、現状では、量子ドットの結晶性及び発光強度に関する研究が十分とはいえず、不純物を直接ドーピングした量子ドットの結晶性を良好なものとして、安定して強い発光強度を得ることができない。
【0006】
【特許文献1】特開平5−175118号公報
【非特許文献1】Zhao Qian et al. / Journal of Crystal Growth 200 (1999) 603-607
【非特許文献2】C.-Y. Huang et al. / Thin Solid Films 515 (2007) 4459-4461
【非特許文献3】H. Hwang et al. / Current Applied Physics 3 (2003) 465-468
【非特許文献4】J.S. Kim et al. / Journal of Crystal Growth 234 (2002) 105-109
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、不純物を直接ドーピングしても良好な結晶性を得ることができる量子ドットの形成方法及び半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、以下に示す発明の諸態様に想到した。
【0009】
量子ドットの形成方法では、半導体層上に量子ドットの核を生成し、その後、前記核を起点として量子ドットを成長させる。そして、前記核を生成する際には不純物のドーピングを行わずに、前記量子ドットを成長させる際に不純物のドーピングを行う。
【0010】
半導体装置の製造方法では、上記の方法により、量子ドットを半導体素子の活性層に形成する。
【発明の効果】
【0011】
上記の方法によれば、不純物のドーピングのタイミングを適切に規定しているため、良好な結晶性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(量子ドットの成長態様)
先ず、本願発明者等が行った量子ドットの成長態様に関する解析の内容について説明する。図1は、量子ドットの形成に用いられる分子線エピタキシー(MBE)装置の概要を示す模式図である。
【0013】
この分子線エピタキシー装置では、図1に示すように、チャンバ1にRHEED(反射高エネルギ電子線回折:reflection high-energy electron diffraction)電子銃2及びRHEEDスクリーン3が設けられている。また、チャンバ1内にヒ素(As)を供給するAsセル4、チャンバ1内にインジウム(In)を供給するInセル5、チャンバ1内にガリウム(Ga)を供給するGaセル6、及びチャンバ1内に不純物を供給する不純物セル7も設けられている。不純物としては、例えばシリコン(N型不純物)、ベリリウム(P型不純物)等が用いられる。また、不純物としてサルファー又はカーボンを用いてもよい。更に、試料8を保持するホルダ9及び四重極質量分析器10も設けられている。
【0014】
このように構成された分子線エピタキシー装置では、RHEED電子銃2から電子線を試料8の表面に照射すると、反射高速電子回折により、その回折像がRHEEDスクリーン3に映し出される。そして、回折像の解析を行うことにより、試料8の結晶の状態等を把握することができる。
【0015】
量子ドットをS−K(Stranski-Krastanov)モードの自己形成により化合物半導体層等の上に成長させた場合、図2(a)に示すような(004)面の回折スポットが現れる。また、その成長段階では、当該回折スポットの長軸から傾斜した方向に延びる回折像(シェブロンテール)も現れる。そこで、本願発明者らは、回折スポットの中心から長軸が延びる方向に任意の距離Lだけ離れた点を通り、かつ長軸に垂直な直線上における回折像の強度を測定した。シェブロンテールが現れている場合には、図2(b)に示すように、シェブロンテールと交差する位置において明敏なピークが現れる。
【0016】
そして、InAs量子ドットの成長過程において、このような回折像の強度の変化の観察を行ったところ、図3に示す結果が得られた。なお、図3中の横軸は上記の直線上の位置を示し、横軸の「InAs堆積厚さ」は、InAs量子ドットの成長速度に時間を乗じて厚さに換算した値を示している。
【0017】
また、図2(a)に示すように、シェブロンテールと回折スポットの長軸とのなす角の大きさ(シェブロン角度)の変化を観察したところ、図4に示す結果が得られた。
【0018】
これらの結果から、本願発明者等は量子ドットの成長過程を、図3に示すように4つの段階に分けることができることを見出した。つまり、本願発明者等は、量子ドットの成長過程を、シェブロンテールの出現前の段階A、シェブロン角度が徐々に大きくなる段階B、シェブロン角度が安定する段階C及びシェブロン角度が徐々に小さくなる段階Dに分けることができることを見出した。なお、図3における段階Aよりも前の段階は、ぬれ層が形成される段階である。図4は、シェブロン角度の変化を示すグラフである。
【0019】
更に、段階B、C及びDにおける量子ドットの形状を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察したところ、夫々図5(a)、図5(b)、図5(c)に示す像が得られた。つまり、段階Bでは、図5(a)に示すように、サイズの分布が二極化していた。また、段階Cでは、図5(b)に示すように、サイズの分布がほぼ均一になっていた。また、段階Dでは、図5(c)に示すように、巨大な量子ドットが出現している一方で、個数密度が低下していた。
【0020】
これらの観察結果から、段階Aは量子ドットの核生成が行われる段階、段階Bは量子ドットの原料が凝集する段階、段階Cは凝集が停止してサイズが均一化する段階、段階Dは一部の量子ドットが巨大化し、他の一部の量子ドットが分解する段階であるということができる。これらを図示すると図6のようになる。つまり、段階Aでは、図6(a)に示すように、ぬれ層21の複数箇所に核22が発生する。段階Bでは、図6(b)に示すように、核22を起点として原料が凝集して量子ドット23が成長し始める。段階Cでは、図6(c)に示すように、一定の大きさに達した量子ドット23の凝集が停止する。段階Dでは、図6(d)に示すように、一部の量子ドット23が更に成長し、他の一部の量子ドット23が粒子24に分解する。
【0021】
そして、本願発明者らは、これらの4段階の夫々において不純物のドーピングを行った場合に、量子ドットの結晶がどのような状態となるか検討した結果、次のような知見を得た。即ち、段階Aにおいて不純物のドーピングを行うと、核生成が阻害されて結晶性が低下してしまう。段階Bにおいて不純物のドーピングを行うと、量子ドットが不純物の原子を活発に取り込み、結晶性が均一で良好なものとなる。段階Cにおいて不純物のドーピングを行うと、成長が平衡状態となるため不純物の取り込みは弱まるが、結晶性は均一で良好なものとなる。段階Dにおいて不純物のドーピングを行うと、点欠陥が多く発生し、結晶性が低下してしまう。なお、段階Dは、量子ドットを備えた半導体装置には必要とされない段階でもある。
【0022】
(実施形態)
次に、上記の知見に基づく実施形態について説明する。図7は、本実施形態において形成する半導体装置の構造の一部を示す断面図である。
【0023】
この半導体装置では、図7に示すように、基板11上にバッファ層12が位置し、その上にぬれ層13及び複数の量子ドット14が位置する。更に、ぬれ層13上に、量子ドット14を覆うキャップ層15が位置する。例えば、基板11はGaAsから構成され、その表面のミラー指数は(001)である。また、バッファ層12はGaAsから構成され、その厚さは500nm程度である。ぬれ層13及び量子ドット14はSiがドーピングされたInAsから構成される。キャップ層15はGaAsから構成され、その厚さは150nm程度である。
【0024】
このような構造の形成に当たり、本実施形態では、図1に示す分子線エピタキシー装置を用いたエピタキシャル成長を行う。図8は、本実施形態における各原料のセルのシャッターの開閉を示すタイミングチャートである。なお、横軸の数値は量子ドット層(ぬれ層13及び量子ドット14)の形成を開始してからの経過時間を示している。
【0025】
本実施形態では、図8に示すように、先ず、Gaセル6及びAsセル4のシャッターを開き、基板11上にGaAsからなるバッファ層12を形成する。
【0026】
その後、バッファ層12の厚さが所定値(例えば500nm)に達すると、Gaセル6のシャッターを閉じ、Inセル5のシャッターを開く。また、基板11の温度を450℃に設定し、チャンバ1内のAs圧を3.0×10-6Torr(4×10-4Pa程度)とする。そして、量子ドット層の成長速度を0.012ML/sとする。この結果、ぬれ層13が成長し始める。
【0027】
そして、ぬれ層13の成長開始から120秒程度経過すると、核生成が生じる(段階A)。
【0028】
更に5秒間程度経過すると、核生成が停止し、各核を起点として量子ドット14に原料が凝集し始める(段階B)。本実施形態では、この段階において不純物セル7のシャッターを開き、原料を凝集しようとする量子ドット14に、不純物としてSiをドーピングする。
【0029】
更に30秒間程度経過すると、量子ドット14の凝集が停止し始める(段階C)。本実施形態では、凝集が停止し始める時に不純物セル7のシャッターを閉じる。つまり、Siのドーピングを停止する。
【0030】
その後、不純物セル7のシャッターを閉じてから45秒間経過した時にInセル5のシャッターを閉じ、Gaセル6のシャッターを開き、キャップ層15の形成を開始する。この結果、量子ドット層の厚さは2.4MLとなる。そして、キャップ層15の厚さが所定値(例えば150nm)に達すると、再度、量子ドット層の形成を開始する。
【0031】
このような量子ドット層の形成とキャップ層15の形成を繰り返すことにより、所定の数の量子ドット層を形成する。更に、電極及び配線等を形成して半導体装置を完成させる。このような半導体装置では、量子ドット層が活性層として機能する。なお、最初の量子ドット層の形成の前に電極等を形成しておいてもよい。
【0032】
このような方法によれば、適切な段階において不純物であるSiのドーピングを行っているので、良好な結晶性の量子ドット14を得ることができる。従って、発光素子として用いれば、安定して強い発光強度を得ることができる。
【0033】
なお、図9に示すように、量子ドット14の凝集が停止し始めた後で、かつキャップ層15の形成を開始する前の段階においてSiのドーピングを行ってもよい。また、図10に示すように、凝集中にSiのドーピングを開始して、凝集が停止し始めてからSiのドーピングを停止してもよい。
【0034】
また、各シャッターの開閉は、RHEEDスクリーン3に映し出される回折像を観察しながら行うことが好ましいが、経過時間と量子ドット層の状態との相関関係が予め得られていれば、経過時間に基づいて各シャッターの開閉を制御してもよい。
【0035】
(第1の実験)
次に、本願発明者等が行った第1の実験の内容及び結果について説明する。第1の実験では、表1に示すように、Siのドーピングの段階又は密度を異ならせた5種類の試料を作製した。
【0036】
【表1】
【0037】
そして、比較例No.1、実施例No.1、及び実施例No.4について、原子間力顕微鏡を用いた量子ドットの分布及び電流の測定を行った。これらの結果を、夫々図11、図12、図13に示す。なお、図11〜図13中の(a)は量子ドットの形状像を示し、(b)は電流像を示す。なお、電流像では、電気抵抗が低く電流が多く流れる部分ほど明るくなる。
【0038】
比較例No.1での量子ドットの密度が4.5×1010cm-2であるのに対し、Siがドーピングされている実施例No.1及び実施例No.2での量子ドットの密度は5.2×1010cm-2であり、15%程度高くなった。また、比較例No.1の電流像(図11(b))には明るい点が存在しないが、実施例No.1及び実施例No.2の電流像(図12(b)及び図13(b))には明るい点が存在する。このことは、実施例No.1及び実施例No.2において、不純物(Si)のドーピングにより量子ドットの導電率が高くなっていることを意味している。また、実施例No.1及び実施例No.2の電流像を比較すると、実施例No.1の方が、量子ドットが位置する点の明るさが均一である。このことは、実施例No.1の方が、ドーピングが均一に行われたことを意味している。
【0039】
また、本願発明者等は、比較例No.1、実施例No.1、実施例No.2及び実施例No.3について、Arイオンレーザ(波長:488nm)を励起光源とし、励起光強度を0.5mW、温度を14Kとした環境下においてフォトルミネッセンス(PL)測定を行った。この結果を図14に示す。
【0040】
図14に示すように、Siがドーピングされた実施例No.1、実施例No.2及び実施例No.3において、比較例No.1の1.5〜3倍程度の発光強度が得られた。このことから、量子効率の向上、即ち量子ドットデバイスの利得向上に利用できると考えられる。また、フィッティングによって得られた、各試料の基底準位の発光波長、発光エネルギ及び半値幅を表2に示す。また、図15に、Siの密度と発光波長との関係を示す。
【0041】
【表2】
【0042】
これらの結果から、Siの密度を調整することにより、発光波長を制御できるといえる。また、Siがドーピングされた実施例No.1、実施例No.2及び実施例No.3では、半値幅が狭くなっている。これは、量子ドットのサイズの均一性が向上したためであると考えられる。
【0043】
本願発明者等は、更に、比較例No.1、実施例No.1、実施例No.2及び実施例No.3について、励起光強度を20mWとしたときのPL温度特性を測定した。この結果を図16に示す。
【0044】
図16に示すように、Siがドーピングされた実施例No.1、実施例No.2及び実施例No.3において、温度安定性が著しく向上した。つまり、300Kにおける発光強度は、比較例No.1では、14Kにおける発光強度の約1090分の1となったが、実施例No.1、実施例No.2及び実施例No.3では、約25〜40分の1となり、温度安定性が27倍〜43倍程度まで向上した。
【0045】
また、本願発明者等は、比較例No.1、実施例No.1、及び実施例No.4について、室温での発光強度を測定した。この結果を図17に示す。
【0046】
図17に示すように、実施例No.1、及び実施例No.4の発光強度が比較例No.1の100倍以上になった。
【0047】
(第2の実験)
次に、本願発明者等が行った第2の実験の内容及び結果について説明する。第2の実験では、Siのドーピングを段階Aから段階Bにかけて行って比較例No.2の試料を作製した。なお、Siの密度は、実施例No.1及びNo.4と同様に1.4×1011(cm-2)とした。
【0048】
そして、比較例No.2について、実施例No.1及びNo.4と同様に、原子間力顕微鏡を用いた電流の測定を行った。この結果を、実施例No.1及びNo.4の結果(図12(b)、図13(b))と共に図18に示す。図18(a)が比較例No.2の結果を示し、図18(b)が実施例No.1の結果を示し、図18(c)が実施例No.4の結果を示している。
【0049】
図18に示すように、実施例No.1及び実施例No.4の結果が、比較例No.2の結果よりも良好なものとなった。このことは、核生成の段階で不純物のドーピングを行っても、量子ドットの抵抗を十分に低減することはできず、所望の結果は得られないことを意味している。
【0050】
また、比較例No.2について、レーザ(波長:659nm)を励起光源とし、温度を5Kとした環境下においてフォトルミネッセンス(PL)測定を行った。この結果を、比較例No.1の結果と共に図19に示す。
【0051】
図19に示すように、比較例No.2では、Siがドーピングされていない比較例No.1と同程度の発光強度しか得られなかった。このことは、実施例No.1、実施例No.2及び実施例No.3では、比較例No.2と比較しても高い発光強度が得られることを意味している。
【0052】
また、本願発明者等は、比較例No.2について、室温での発光強度を測定した。この結果を、比較例No.1の結果と共に図20に示す。
【0053】
図20に示すように、比較例No.2では、比較例No.1と同程度の発光強度しか得られなかった。このことからも、実施例No.1、実施例No.2及び実施例No.3では、比較例No.2と比較しても高い発光強度が得られるということができる。
【0054】
本願発明者等は、更に、比較例No.2についてPL温度特性を測定した。この結果を図21に示す。
【0055】
図21に示すように、比較例No.2の温度依存性は、比較例No.1と同様のものとなった。このことは、実施例No.1、実施例No.2及び実施例No.3では、比較例No.2と比較しても良好な温度依存性が得られることを意味している。
【0056】
(第3の実験)
第3の実験では、不純物をSiからBeに代えて、段階Bの凝集時にBeをドーピングした場合の発光強度の測定も行った。この場合には、不純物セル7からBeの供給を行った。この結果を図22に示す。
【0057】
図22に示すように、Beをドーピングした場合にも、適切な量のドーピングを行った試料では、ドーピングをしていない試料よりも高い発光強度を得ることができた。
【0058】
これらの結果からも、量子ドットレーザ等の発光素子としてのみならず、赤外光検出器等の光電素子等の他の量子ドットデバイス(半導体装置)の温度安定性が著しく向上するといえる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】量子ドットの形成に用いられる分子線エピタキシー(MBE)装置の概要を示す模式図である。
【図2】回折像及び強度の測定箇所を示す図である。
【図3】回折像の強度の変化を示す図である。
【図4】シェブロン角度の変化を示す図である。
【図5】段階B、C及びDにおける量子ドットの形状を示す図である。
【図6】量子ドットの成長態様を示す図である。
【図7】実施形態において形成する半導体装置の構造の一部を示す断面図である。
【図8】実施形態における各原料のセルのシャッターの開閉を示すタイミングチャートである。
【図9】各原料のセルのシャッターの開閉の他の例を示すタイミングチャートである。
【図10】各原料のセルのシャッターの開閉の更に他の例を示すタイミングチャートである。
【図11】比較例No.1についての量子ドットの分布及び電流の測定結果を示す図である。
【図12】実施例No.1についての量子ドットの分布及び電流の測定結果を示す図である。
【図13】実施例No.4についての量子ドットの分布及び電流の測定結果を示す図である。
【図14】14Kにおける試料毎の発光強度を示す図である。
【図15】Siの密度と発光波長との関係を示す図である。
【図16】温度と発光波長との関係を示す図である。
【図17】室温における試料毎の発光強度を示す図である。
【図18】比較例No.2についての電流の測定結果を、実施例No.1及びNo.4の結果と共に示す図である。
【図19】5Kにおける比較例No.1及び比較例No.2の発光強度を示す図である。
【図20】室温における比較例No.1及び比較例No.2の発光強度を示す図である。
【図21】比較例No.1及び比較例No.2における温度と発光波長との関係を示す図である。
【図22】Beを用いた場合の発光強度を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1:チャンバ
2:RHEED電子銃
3:RHEEDスクリーン
4:Asセル
5:Inセル
6:Gaセル
7:不純物セル
8:試料
9:ホルダ
10:四重極質量分析器
11:基板
12:バッファ層
13:ぬれ層
14:量子ドット
15:キャップ層
21:ぬれ層
22:核
23:量子ドット
24:粒子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層上に量子ドットの核を生成する工程と、
前記核を起点として量子ドットを成長させる工程と、
を有し、
前記核を生成する工程では不純物のドーピングを行わずに、前記量子ドットを成長させる工程において不純物のドーピングを行うことを特徴とする量子ドットの形成方法。
【請求項2】
前記量子ドットを成長させる工程では、
前記量子ドットの原料が凝集し、その後、前記原料の凝集が停止して量子ドットの成長が停滞することを特徴とする請求項1に記載の量子ドットの形成方法。
【請求項3】
前記不純物のドーピングを、前記原料が凝集する工程内で行うことを特徴とする請求項2に記載の量子ドットの形成方法。
【請求項4】
前記不純物のドーピングを、前記原料の凝集が停止して量子ドットの成長が停滞する工程内で行うことを特徴とする請求項2に記載の量子ドットの形成方法。
【請求項5】
前記不純物のドーピングを、前記原料が凝集する段階から前記原料の凝集が停止して量子ドットの成長が停滞する段階にかけて行うことを特徴とする請求項2に記載の量子ドットの形成方法。
【請求項6】
前記不純物のドーピングを開始するタイミングの決定のために反射高エネルギ電子線回折法により前記核の生成を観察することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の量子ドットの形成方法。
【請求項7】
前記核を生成する工程の開始から前記量子ドットを成長させる工程の終了までの期間を、反射高エネルギ電子線回折法により得られるシェブロン像のスポットが現れる核生成過程、シェブロン角度が徐々に広がる凝集過程、及びシェブロン角が変化しない停止過程に分類し、前記不純物のドーピングを、前記凝集過程又は前記停止過程の少なくとも一方において行うことを特徴とする請求項6に記載の量子ドットの形成方法。
【請求項8】
前記不純物として、シリコン、ベリリウム、サルファー又はカーボンを用いることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の量子ドットの形成方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法により、量子ドットを半導体素子の活性層に形成する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項1】
半導体層上に量子ドットの核を生成する工程と、
前記核を起点として量子ドットを成長させる工程と、
を有し、
前記核を生成する工程では不純物のドーピングを行わずに、前記量子ドットを成長させる工程において不純物のドーピングを行うことを特徴とする量子ドットの形成方法。
【請求項2】
前記量子ドットを成長させる工程では、
前記量子ドットの原料が凝集し、その後、前記原料の凝集が停止して量子ドットの成長が停滞することを特徴とする請求項1に記載の量子ドットの形成方法。
【請求項3】
前記不純物のドーピングを、前記原料が凝集する工程内で行うことを特徴とする請求項2に記載の量子ドットの形成方法。
【請求項4】
前記不純物のドーピングを、前記原料の凝集が停止して量子ドットの成長が停滞する工程内で行うことを特徴とする請求項2に記載の量子ドットの形成方法。
【請求項5】
前記不純物のドーピングを、前記原料が凝集する段階から前記原料の凝集が停止して量子ドットの成長が停滞する段階にかけて行うことを特徴とする請求項2に記載の量子ドットの形成方法。
【請求項6】
前記不純物のドーピングを開始するタイミングの決定のために反射高エネルギ電子線回折法により前記核の生成を観察することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の量子ドットの形成方法。
【請求項7】
前記核を生成する工程の開始から前記量子ドットを成長させる工程の終了までの期間を、反射高エネルギ電子線回折法により得られるシェブロン像のスポットが現れる核生成過程、シェブロン角度が徐々に広がる凝集過程、及びシェブロン角が変化しない停止過程に分類し、前記不純物のドーピングを、前記凝集過程又は前記停止過程の少なくとも一方において行うことを特徴とする請求項6に記載の量子ドットの形成方法。
【請求項8】
前記不純物として、シリコン、ベリリウム、サルファー又はカーボンを用いることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の量子ドットの形成方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法により、量子ドットを半導体素子の活性層に形成する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2010−40680(P2010−40680A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200251(P2008−200251)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]