説明

金属部品のクラック修繕方法および修繕された金属部品

【課題】 カソードアーク・コーティングおよび熱間静水圧圧縮成形処理を用いたクラックの修繕方法を提供する。
【解決手段】 金属部品(13)のクラック修繕方法であって、このクラック修繕方法は、クラック(15)を有する金属部品(13)を提供し、クラック(15)を洗浄して酸化物層を除去し、カソードアーク蒸着および低圧プラズマ溶射の少なくとも一方によって修繕合金(17)を施してクラック(15)を覆い、クラック(15)を塞ぐのに十分な温度および圧力で部品(13)を加熱することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソードアーク・コーティングおよび熱間静水圧圧縮成形処理を用いた金属部品のクラック修繕方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンの構成要素において、運転の間に部品の表面で発生して部品内に延びるかまたは逆に部品内で発生して表面に延びるクラック(割れ)が生じることは一般的である。このようなクラックは、主にタービンエンジン構成要素が受ける高温や高圧によって時間の経過とともに発生する。問題なのは、ニッケル基超合金などの超合金材料で構成されるタービン構成要素に生じるクラックである。このような材料は、等軸、方向性凝固、および単結晶の合金構造を有する傾向がある。
【0003】
残念ながら、このようなクラックの修繕に現在使用されている方法は、重大な難点を有する。現在使用されている方法の例は、活性拡散修復(Activated Diffusion Healing ADH)すなわちターボフィックス(Turbofix)(登録商標)拡散ろう付け、溶接、および高速ガス式(High Velocity Oxy−Fuel HVOF)溶射材料の使用を含む。ADH/ターボフィックス拡散ろう付けは、クラックを封止するためにろう付け用合金と基本合金の混合物を一般に使用する。ろう付け用合金と基本合金の特性は、典型的に等軸合金の母材の50%より低い強度を示す。方向性凝固および単結晶の合金に用いた場合には、ろう付け用合金および基本合金の修繕材料は、母材の50%よりもかなり低い強度特性を示す。母材をクラックに溶接する試みは、異なる難点を有する。具体的には、典型的に溶接作業によって投入される局部的な熱により、クラックをさらに生じさせずに溶接処理によって超合金部品に材料を加えることが困難である。加えて、溶接が成功した場合でも、方向性凝固および単結晶の合金は、元の部品よりも強度特性がかなり低くなる。最後に、HVOF溶射材料の溶射も同様に難点を有する。具体的には、この処理では大気中でクラックを封止するので、酸素が存在するためにクラックを封止して接合する能力が妨げられる。さらに、HVOF処理は、溶射する材料と材料の溶射を受ける部品の両方を酸化させる。部品内部の酸化および溶射される合金の酸素含有量は、結果的に得られる修繕部の強度を減少させてしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、金属部品、特にガスタービンエンジン構成要素のクラックを合金によって封止および修繕することができる修繕方法であって、部品を構成する母材の材料特性に近似する特性が得られ、かつ等軸、方向性凝固、および単結晶の合金に使用可能な修繕方法が求められている。
【0005】
よって、本発明の目的は、カソードアーク・コーティングおよび熱間静水圧圧縮成形処理を用いた金属部品のクラック修繕方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による金属部品のクラック修繕方法は、クラックを有する金属部品を提供し、クラックを洗浄して酸化物層を除去し、カソードアーク蒸着および低圧プラズマ溶射の少なくとも一方によって修繕合金を施してクラックを覆い、クラックを塞ぐのに十分な温度および圧力で部品を加熱することを含む。
【0007】
また、本発明によるガスタービンエンジン構成要素のクラック修繕方法は、クラックを有するガスタービンエンジン構成要素を提供し、クラックを洗浄して酸化物層を除去し、カソードアーク蒸着および低圧プラズマ溶射の少なくとも一方によって修繕合金を施してクラックを覆い、クラックを塞ぐのに十分な温度および圧力でガスタービンエンジン構成要素を加熱することを含む。
【0008】
さらに、本発明による修繕された金属部品は、修繕すべきクラックを有する金属部品を提供し、クラックを洗浄して酸化物層を除去し、カソードアーク蒸着および低圧プラズマ溶射の少なくとも一方によって修繕合金を施してクラックを覆い、クラックを塞いで修繕するのに十分な温度および圧力で部品を加熱することによって形成される。
【0009】
本発明の1つまたは複数の実施例の詳細は、添付図面および以下の実施形態によって明らかになる。本発明の他の特徴、目的、および利点は、詳細な説明、図面および請求項によって明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
従って、本発明の教示は、カソードアーク・コーティングおよび/または低圧プラズマ溶射(LPPS)および熱間静水圧圧縮成形処理を用いて、サイクル疲労強度および酸化性の改善に関して、母材の材料に類似するか、母材よりも優れた材料の合金および超合金を施すことにより、金属部品、特にタービンエンジン構成要素の修繕方法を提供することである。
【0011】
図1を参照すると、本発明の方法のステップを示すフローチャートが提供されている。ステップ1では、エンジンの動作時に生じるコンタミや酸化物などの所望でない物質を除去するために部品が洗浄される。動作時には、ガスタービンエンジン部品、特にファンや圧縮機ブレードは高温にさらされる。酸素を含む環境におけるこのような高温での動作により、部品の表面および発生しうるクラックの内側壁に酸化層が形成される。このようなエンジン動作時に生じる酸化層が修繕前に除去されなければ、この酸化層は拡散の障壁となり、修繕材料がクラックの壁に接合するのを妨げるとともに、修繕材料によって覆われていない母材が、以下でより詳細に説明するHIPおよび後の熱処理においてそれ自体に接合するのを妨げるおそれがある。本発明は、エンジンの動作時に生じる酸化物を除去するために水素を含むガスを使用する。好ましくは、フッ化水素ガスが部品表面、特に修繕されるクラックの壁と接触するように導かれる。酸化層の厚さは部品によって異なるので、酸化物を除去するためのパラメータは、エンジンの動作時に生じる酸化物層のうち少なくともクラックの壁に付着したものを減少または除去するための十分な時間にわたって部品と接触する量のフッ化水素ガスとして表される。
【0012】
続いて、ステップ2では、高密度の低酸化物材料がカソードアークおよび/またはLPPSコーティング処理によってクラックに施される。図2を参照すると、典型的なクラックのプロファイルが示されている。クラック15は、金属部品13の表面に開口し、かつ金属部品13の内部に下向きに延びる。クラック15の形状は、クラック15の比較的幅が広い部分が金属部品13の表面に開口し、クラック15の開口部から離れるに従ってクラック15の部分が実質的に狭くなっていることが分かる。図3に示すように、このようなクラック15の部分の狭さにより、カソードアークまたはLPPS溶射処理によって高密度の低酸化物材料を形成する修繕合金17を施すことが困難になる。修繕合金17は、クラック15を封止すなわち覆うように機能し、修繕合金17から離れるように下向きに延びるクラック15の狭い空き空間が残る。以下でより詳細に説明する理由により、修繕合金17によって埋まらないクラック15の空き部分が実質的に空気または他の流体を含まないことが重要である。このため、クラック15に修繕合金17を施すのに使用されるカソードアークやLPPSコーティング処理は、真空または(約10-2Torrより低い)ほぼ真空の環境で行われる。
【0013】
好適実施例では、修繕合金17は、部品13を構成する基本合金とほぼ一致する金属を含む。“ほぼ一致”とは、修繕合金が部品13を製造する親材料と類似あるいは同じ組成であることを意味する。修繕合金17の形成に使用される金属の例には、ニッケル基合金、ニッケル基超合金、チタン、チタン基合金が含まれるが、これらに限定されない。ニッケル基超合金で製造された部品では、修繕合金としてニッケル基超合金を使用することが最も好ましい。上述のように、修繕合金17は、高密度の低酸化物合金材料として施されることが好ましい。これは、施された状態の修繕合金に含まれる酸化物が1体積%より少なく(低酸化物)、かつ多孔性が1体積%よりも低い(高密度)ことが好ましいことを意味する。
【0014】
真空またはほぼ真空の環境において、修繕合金17をクラック15にカソードアーク・コーティング処理によって施した後、金属部品は比較的高温かつ高圧の処理、好ましくは熱間静水圧圧縮成形処理を受ける(図4、ステップ3)。熱間静水圧圧縮成形は、典型的にアルゴン雰囲気で実施される。クラックを含む金属部品がニッケル基合金またはニッケル基超合金を含む場合には、熱間静水圧圧縮成形は、約15〜30ksi(約1〜2Pa)の圧力でかつ約2000〜2300°F(約1093〜1260℃)の温度で実施されることが好ましい。金属部品がチタンまたはチタン基合金で構成される場合には、熱間静水圧圧縮成形は、約15〜30ksiの圧力でかつ約1800°F(約982℃)より低い温度で実施されることが好ましい。好ましくは、熱間静水圧圧縮成形は、全ての場合において部品や修繕合金組成に関係なく最低2時間行われる。
【0015】
熱間静水圧圧縮成形は、修繕合金17が施されたクラック15を含む部品をかなりの圧力の下で加熱して内部構造体を膨張させるように機能し、これにより、中空空間および修繕合金17が施されなかったクラック15の部分などの基礎構造体を圧縮する。この結果、熱間静水圧圧縮成形後の修繕されたクラック15は図4に示すようになる。熱間静水圧圧縮成形により、図3で中空空間31を形成していたクラックの部分は閉鎖/封止される。
【0016】
他の実施例では、クラックのカソードアーク・コーティングおよび熱間静水圧圧縮成形の後、ステップ4に示す高温拡散サイクルを部品に実施することができる。拡散サイクルは、熱間静水圧圧縮成形とこれに続く比較的遅い冷却プロセスによって生じる部品の物理的特性の変化を補正するように機能する。部品13は、熱間静水圧圧縮成形処理を通して加熱された後に、例えば10°F/分(約5.6℃/分)の速度で典型的にゆっくりと冷却される。Ni合金部品の場合には、このような遅い冷却速度によってガンマプライム結晶粒粗大化が生じ、熱間静水圧圧縮成形の前における特性に比べて構造的強度などの部品特性が低下してしまう。ニッケル合金部品の高温拡散は、(約1Torr以下の)真空炉内で部品を1800°〜2300°F(約982〜1260℃)に熱してから、例えば、少なくとも35°F/分(約19℃/分)、好ましくは100°〜150°F/分(約56〜83℃/分)の比較的速い速度で部品を冷却することを含む。高温拡散サイクルは、部品13の特性の回復に加えて、クラック15の側壁を形成する隣接材料に修繕合金17を拡散させるように機能する。図5を参照すると、このような拡散サイクルによって生じる拡散領域19が示されている。修繕合金17が、クラック15が初めにあった空間に位置していることが分かる。しかし、クラック15の壁と接触する修繕合金17の端部は、隣接する基本合金と相互に拡散して拡散領域19を形成し、この拡散領域19は、修繕合金17と部品13を構成する基本合金との混合物である材料を含む。
【0017】
上述のように、本発明の方法は、等軸、方向性凝固、および単結晶の合金から形成される構成要素に同様に適用可能である。本発明の方法は、クラックが形成される合金の粒子配向を乱すことがない。部品に修繕合金17を施して熱間静水圧圧縮成形を実施することにより、クラック15の内側面が互いに接合され、必要に応じて等軸、方向性凝固、または単結晶の粒子が残る。これにより、本発明は、上述した従来の方法に比べて金属部品13を形成する母材の強度に近接する、また場合によりその強度を超える修繕合金材料を施すことができる。さらに、本発明の方法では、修繕合金17を施すときに金属部品13にクラックが生じない。最後に、本発明の方法によって施された修繕合金17は、密度が99%より大きく、かつ1%より低いごく僅かな酸化物含有量を有する。
【0018】
本発明の1つまたは複数の実施例を説明したが、本発明の趣旨と範囲から逸脱することなく、種々の改良が可能である。従って、請求の範囲には他の実施例も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の方法のフローチャートである。
【図2】本発明の方法を使用して修繕されるクラックの説明図である。
【図3】本発明による修繕材料を施した後の部品の説明図である。
【図4】熱間静水圧圧縮成形ステップを実施した後のクラックの説明図である。
【図5】熱処理ステップの後の拡散領域を示す修繕されたクラックの説明図である。
【符号の説明】
【0020】
13…金属部品
15…クラック
17…修繕合金
31…中空空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラック(15)を有する金属部品(13)を提供し、
クラック(15)を洗浄して酸化物層を除去し、
カソードアーク蒸着および低圧プラズマ溶射の少なくとも一方によって修繕合金(17)を施してクラック(15)を覆い、
クラック(15)を塞ぐのに十分な温度および圧力で部品(13)を加熱することを含むことを特徴とする金属部品のクラック修繕方法。
【請求項2】
クラック(15)は、エアシール、タービンブレード、ファンブレード、ベーン、および燃焼器パネルからなる群から選択された金属部品(13)の表面のクラックであることを特徴とする請求項1記載の金属部品のクラック修繕方法。
【請求項3】
クラック(15)は、ニッケル基合金、ニッケル基超合金、チタン、およびチタン基合金からなる群から選択された金属を含む金属部品(13)の表面のクラック(15)であることを特徴とする請求項1記載の金属部品のクラック修繕方法。
【請求項4】
クラックの洗浄は、クラック(15)が形成された金属部品(13)と接触するようにフッ化水素ガスを投入することを含むことを特徴とする請求項1記載の金属部品のクラック修繕方法。
【請求項5】
修繕合金を施すことは、
少なくともクラック(15)の周囲に真空を形成し、
ニッケル基合金、ニッケル基超合金、チタン、およびチタン基合金からなる群から選択された修繕合金(17)を施すことを含むことを特徴とする請求項1記載の金属部品のクラック修繕方法。
【請求項6】
修繕合金を施すことは、1体積%よりも少ない酸化物を含み、かつ1体積%よりも低い気孔率を有する修繕合金(17)を施すことを含むことを特徴とする請求項1記載の金属部品のクラック修繕方法。
【請求項7】
部品の加熱は、修繕合金(17)がニッケル基合金およびニッケル基超合金からなる群から選択された金属を含む場合に、15〜30ksiの圧力でかつ2000〜2300°Fの温度において少なくとも2時間にわたって熱間静水圧圧縮成形を実施することを含むことを特徴とする請求項1記載の金属部品のクラック修繕方法。
【請求項8】
部品の加熱は、修繕合金(17)がチタンおよびチタン基合金からなる群から選択された金属を含む場合に、15〜30ksiの圧力でかつ1800°Fよりも低い温度において少なくとも2時間にわたって熱間静水圧圧縮成形を実施することを含むことを特徴とする請求項1記載の金属部品のクラック修繕方法。
【請求項9】
部品(13)に拡散熱処理サイクルを実施することをさらに含むことを特徴とする請求項1記載の金属部品のクラック修繕方法。
【請求項10】
拡散熱処理は、約1800〜2300°Fの温度でかつ約1Torr以下の真空で拡散熱処理を実施することを含むことを特徴とする請求項9記載の金属部品のクラック修繕方法。
【請求項11】
クラック(15)を有するガスタービンエンジン構成要素(13)を提供し、
クラック(15)を洗浄して酸化物層を除去し、
カソードアーク蒸着および低圧プラズマ溶射の少なくとも一方によって修繕合金(17)を施してクラック(15)を覆い、
クラック(15)を塞ぐのに十分な温度および圧力でガスタービンエンジン構成要素(13)を加熱することを含むことを特徴とするガスタービンエンジン構成要素のクラック修繕方法。
【請求項12】
クラック(15)は、エアシール、タービンブレード、ファンブレード、タービンベーン、燃焼器パネル、ケース、圧縮機ブレード、および圧縮機ベーンからなる群から選択されたガスタービンエンジン構成要素(13)の表面のクラックであることを特徴とする請求項11記載のガスタービンエンジン構成要素のクラック修繕方法。
【請求項13】
クラック(15)は、ニッケル基合金、ニッケル基超合金、チタン、およびチタン基合金からなる群から選択された金属を含むガスタービンエンジン構成要素(13)の表面のクラック(15)であることを特徴とする請求項11記載のガスタービンエンジン構成要素のクラック修繕方法。
【請求項14】
クラックの洗浄は、少なくともクラック(15)が形成されたガスタービンエンジン構成要素の部分(13)と接触するようにフッ化水素ガスを投入することを含むことを特徴とする請求項11記載のガスタービンエンジン構成要素のクラック修繕方法。
【請求項15】
修繕合金を施すことは、
少なくともクラック(15)の周囲に真空を形成し、
ニッケル基合金、ニッケル基超合金、チタン、およびチタン基合金からなる群から選択された修繕合金(17)を施すことを含むことを特徴とする請求項11記載のガスタービンエンジン構成要素のクラック修繕方法。
【請求項16】
修繕すべきクラック(15)を有する金属部品(13)を提供し、
クラック(15)を洗浄して酸化物層を除去し、
カソードアーク蒸着および低圧プラズマ溶射の少なくとも一方によってクラック(15)を覆い、
クラック(15)を塞いで修繕するのに十分な温度および圧力で部品(13)を加熱することによって形成されることを特徴とする修繕された金属部品。
【請求項17】
クラック(15)は、エアシール、タービンブレード、ファンブレード、タービンベーン、燃焼器パネル、ケース、圧縮機ブレード、および圧縮機ベーンからなる群から選択された金属部品(13)の表面のクラックであることを特徴とする請求項16記載の修繕された金属部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−62080(P2006−62080A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245446(P2005−245446)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】