説明

電力変換装置の制御装置

【課題】 インバータを利用したモータ駆動システムにおいて、同期PWMモードでのインバータの運転時に、トルク不足の問題を発生させることなく、モータの損失の増加を回避し、効率低下を抑える。
【解決手段】 インバータ制御部110は、インバータ40のスイッチング素子のON/OFF切替を行うためのゲート信号の生成モードとして、非同期PWMモードと同期PWMモードとを有する。直流電圧指令値演算部143は、インバータ制御部110が同期PWMモードでゲート信号を生成している場合に、インバータ40からモータ50に供給される電流のうちd軸電流が0または負になるように、DC−DCコンバータ20からインバータ40に供給する直流電圧を指示する指令値を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータを可変速駆動する電力変換装置の制御装置に係り、特にDC−DCコンバータとインバータとからなる電力変換装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気車の動力源として、可変速範囲が広範囲である永久磁石同期モータが期待されている。また、永久磁石同期モータを可変速駆動するための電源としては、可変周波数電源であるインバータが一般的である。ここで、インバータに対して可変速範囲が広い永久磁石同期モータを負荷として接続した場合、永久磁石同期モータの誘起電圧がモータの回転速度に比例して上昇し、モータに誘起される逆起電圧に対してインバータの出力電圧が不足する可能性がある。このようにインバータの出力電圧が不足すると、インバータからモータに所望の電流を流すことができなくなるため、モータにおいて必要なトルクを発生することができなくなる可能性がある。そこで、従来、非同期PWM(Pulse Width Modulation;パルス幅変調)モードにてインバータを運転している領域では、最大トルク/電流制御や弱め磁束制御により、モータに誘起される逆起電圧に対するインバータの出力電圧のマージン不足の問題を回避する策が採られていた。ここで、非同期PWMモードとは、インバータからモータに供給すべき交流電圧波形を指示する電圧指令とこの電圧指令に対して非同期な所定周波数のキャリアとを用いたパルス幅変調によりPWMパルスであるゲート信号を生成するモードである。
【0003】
最大トルク/電流制御および弱め磁束制御では、モータに流す電流を制御する。モータの電機子巻線(固定子巻線)に流れる電流は、ロータの永久磁石のN極の方向を向いたd軸に沿った成分であるd軸電流iと、このd軸と直交するq軸に沿った成分であるq軸電流iに分解することができる。ここで、q軸電流iはモータにおいてマグネットトルクの発生に寄与し、d軸電流iとq軸電流iはリラクタンストルクの発生に寄与する。最大トルク/電流制御および弱め磁束制御では、このd軸電流iおよびq軸電流iを成分とする電流ベクトルの制御を行う。
【0004】
最大トルク/電流制御では、絶対値が同じである電流ベクトル群の中からトルクが最大となる電流ベクトルを選び、その最大のトルクとそのトルクが得られる電流ベクトルとを対応付けておく。そして、必要なトルクが与えられた場合に、そのトルクに対応付けられた電流ベクトルを求め、そのような電流ベクトルの成分であるd軸電流iおよびq軸電流iをモータに流すための電流位相制御を行う。この最大トルク/電流制御を行うことにより、必要なトルクを得るためにモータに流す電流を最小とし、モータに発生する銅損を最小にすることにより、モータの逆起電圧とインバータの出力電圧との間に設けるべきマージンを少なくすることができる。
【0005】
また、弱め界磁制御は、負のd軸電流iをモータの電機子巻線に流すことによりロータの回転によって電機子巻線に発生する逆起電圧を減らし、これによりq軸電流iを増加させ、モータのトルクを増加させるものである。なお、弱め界磁制御および上述の最大トルク/電流制御は例えば非特許文献1に開示されている。
【0006】
弱め界磁制御を行うことにより、モータの回転速度が高い領域におけるトルク不足の問題をある程度解決することができる。しかしながら、弱め界磁制御にも限界があり、モータの回転速度がある限度を越えると、非同期PWMモードにおいて弱め界磁制御を行っても、高速回転領域において所望のトルクが得られない問題が発生する。
【0007】
そこで、制御装置におけるゲート信号の生成モードを非同期PWMモードから例えば1パルスの同期PWMモードへ切り替えるという制御が行われる場合がある。ここで、同期PWMモードとは、インバータからモータに供給すべき交流電圧波形を指示する電圧指令とこの電圧指令に対して同期したキャリアとを用いたパルス幅変調によりPWMパルスであるゲート信号を生成するモードである。また、1パルスの同期PWMモードとは、電圧指令の1周期の間に1個のPWMパルスを生成するモードである。この1パルス等の同期PWMモードに切り替えると、インバータからモータに高い基本波電圧を供給することができるので、高速回転領域におけるトルク不足の問題を解決することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−208409号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】武田・松井・森本・本田共著「埋込永久磁石同期モータの設計と制御」オーム社,2001.10発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、同期PWMモードでは、例えばモータの逆起電圧に対してインバータの出力電圧が大きい場合に、モータに正のd軸電流が流れ、モータ内の磁束密度が高くなって、モータの損失(すなわち、トルクの発生に寄与しないインバータの出力)が増える場合があった。特許文献1は、昇圧型のDC−DCコンバータからインバータに直流電圧を与え、このインバータによりモータを駆動する車両用動力制御装置に関するものであるが、この車両用動力制御装置では、モータの消費電力に基づいて、モータの負荷が軽い低電力駆動時にDC−DCコンバータの昇圧比を低下させて回路損失を低減するようにしている。そこで、この特許文献1に従い、同期PWMモードでのインバータの運転時、モータの負荷が軽い場合に、インバータに直流電圧を供給するDC−DCコンバータの昇圧比を低下させる方法を採ることが考えられる。しかし、同期PWMモードでのインバータの運転時、モータは高速回転しており、高い逆起電圧が発生している。従って、モータの負荷のみに基づいてDC−DCコンバータの昇圧比を低下させると、インバータの出力電圧がモータの逆起電圧に対して不足し、必要なトルクが得られない問題が発生する。
【0011】
この発明は、以上説明した事情に鑑みてなされたものであり、同期PWMモードでのインバータの運転時に、トルク不足の問題を発生させることなく、モータの損失の増加を回避し、モータ駆動システムの効率低下を抑えることができる電力変換装置の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、直流電圧を出力する直流電圧発生手段と、前記直流電圧発生手段から出力される直流電圧に基づいてモータを駆動する交流電圧を発生するインバータとを有する電力変換装置の制御装置において、前記インバータのスイッチング素子のON/OFF切替を行うためのゲート信号を生成する手段であって、前記ゲート信号の生成モードとして、前記インバータから前記モータに供給すべき交流電圧波形を指示する電圧指令とこの電圧指令に対して非同期な所定周波数のキャリアとを用いたパルス幅変調により前記ゲート信号を生成する非同期PWMモードと、前記電圧指令と前記電圧指令に同期したキャリアを用いたパルス幅変調により前記ゲート信号を生成する同期PWMモードとを有するインバータ制御手段と、前記インバータ制御手段のゲート信号の生成モードが前記同期PWMモードである場合に、前記インバータから前記モータに供給される電流のうち前記モータのロータに設けられた永久磁石のN極の向きに対応した成分であるd軸電流が0または負になるように、前記直流電圧発生手段から前記インバータに供給する直流電圧を指示する指令値を演算する直流電圧指令値演算手段とを具備することを特徴とする電力変換装置の制御装置を提供する。
【0013】
この発明によれば、同期PWMモードにてインバータの運転を行っている場合に、モータに流すd軸電流が0または負になるように直流電圧発生手段からインバータに供給される直流電圧が制御されるので、トルク不足の問題を発生させることなく、モータの損失の増加を回避し、モータ駆動システムの効率低下を抑えることができる。
【0014】
多くの電力変換装置の制御装置は、プロセッサとこのプロセッサに実行させるプログラムを記憶したメモリとにより構成されている。従って、各種のモータを想定して、コンピュータを上記制御装置として機能させるプログラムを作成し、このプログラムを電力変換装置の制御装置のユーザに配布するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の第1実施形態である制御装置を含むモータ駆動システムの構成を示すブロック図である。
【図2】同実施形態における負荷角とトルクの関係を示す図である。
【図3】同実施形態においてモータの逆起電圧がインバータの出力電圧よりも低く、かつ、モータが無負荷である場合の電圧ベクトル図である。
【図4】モータの逆起電圧がインバータの出力電圧よりも低く、かつ、モータに一定の負荷が与えられた場合の電圧ベクトル図である。
【図5】モータの逆起電圧がインバータの出力電圧と等しい場合の電圧ベクトル図である。
【図6】モータの永久磁石による電機子鎖交磁束よりも総合磁束が大きく、かつ、無負荷である場合のモータ内の磁束を示すベクトル図である。
【図7】モータの永久磁石による電機子鎖交磁束よりも総合磁束が大きく、かつ、軽負荷である場合のモータ内の磁束を示すベクトル図である。
【図8】モータの永久磁石による電機子鎖交磁束と総合磁束が等しく、かつ、負荷がモータに与えられている場合のモータ内の磁束を示すベクトル図である。
【図9】同実施形態においてモータの永久磁石による電機子鎖交磁束よりも総合磁束が大きい場合、永久磁石による電機子鎖交磁束と総合磁束とが等しい場合の各々についてモータの損失解析を行った結果を示す図である。
【図10】この発明の第2実施形態である制御装置の構成を示すブロック図である。
【図11】モータの永久磁石による電機子鎖交磁束と総合磁束が等しく、かつ、重負荷がモータに与えられている場合のモータ内の磁束およびモータに流れる電流を示すベクトル図である。
【図12】同実施形態の効果を示すベクトル図である。
【図13】この発明の第3実施形態である制御装置の構成を示すブロック図である。
【図14】この発明の第4実施形態である制御装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照し、この発明の実施形態について説明する。
【0017】
<第1実施形態>
図1はこの発明の第1実施形態である制御装置を含むモータ駆動システムの構成を示すブロック図である。このモータ駆動システムは、直流電圧発生手段を構成する直流電源10およびDC−DCコンバータ20と、コンデンサ30と、インバータ40と、モータ50と、本実施形態による制御装置100とにより構成されている。
【0018】
この例において、DC−DCコンバータ20は、互いに直列接続された2個のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor;絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)と、これらのIGBTに各々逆並列接続された2個のフライホイールダイオードと、昇圧リアクトルとにより構成された周知のDC−DCコンバータである。ここで、2個のIGBTのうちの一方と、昇圧リアクトルと、直流電源10は直列接続されて閉ループをなしている。
【0019】
そして、DC−DCコンバータ20では、一方のIGBTのみをONにして、昇圧リアクトルを含む閉ループに電流を流す動作と、この一方のIGBTをOFFにするとともに他方のIGBTをONにして、この昇圧リアクトルに流れていた電流を他方のIGBTと逆並列接続されたフライホイールダイオードを介してコンデンサ30側に流す動作が交互に繰り返される。これにより直流電源10の出力電圧を昇圧した直流中間電圧edcがコンデンサ30に充電される。そして、DC−DCコンバータ20では、2個のIGBTをONさせる時間を調整することによりコンデンサ30に充電させる直流中間電圧edcの制御を行うことが可能である。
【0020】
インバータ40は、コンデンサ30の充電電圧である直流中間電圧edcをモータ50を駆動するための3相交流電圧に変換する手段である。このインバータ40は、周知のインバータと同様、IGBTおよびフライホイールダイオードの組を6組用いて構成されたブリッジ回路である。この例においてモータ50は、永久磁石同期モータである。
【0021】
本実施形態による制御装置100は、電流検出部101と、回転数検出部102と、直流電圧検出部103と、インバータ制御部110と、非同期/同期判定部120と、コンバータ制御部130と、極数記憶部141と、逆起電圧記憶部142と、直流電圧指令演算部143と、比較部144とを有する。
【0022】
電流検出部101は、インバータ40からモータ50の電機子巻線に供給されるU、V、Wの各相の交流電流を検出する装置である。回転数検出部102は、モータ50のロータの単位時間当たりの回転数、すなわち、回転速度nを検出する装置である。直流電圧検出部103は、コンデンサ30に充電された直流中間電圧edcを検出する装置である。
【0023】
インバータ制御部110は、インバータ40の各IGBTのON/OFF切替を行うためのゲート信号を発生する装置である。さらに詳述すると、このインバータ制御部110は、外部から与えられるトルク指令等に基づき、モータ50に供給すべき交流電圧波形を指示する電圧指令を発生し、この電圧指令とキャリアとを用いてパルス幅変調を行い、このパルス幅変調により得られるPWMパルスをゲート信号としてインバータ40の各IGBTに供給する。
【0024】
インバータ制御部110は、ゲート信号の生成モードとして、非同期PWMモードと1パルスの同期PWMモードとを有する。上述したように、非同期PWMモードは、電圧指令とこの電圧指令に対して非同期な所定周波数のキャリアとを用いたパルス幅変調によりPWMパルスを生成し、ゲート信号として出力する生成モードである。また、同期PWMモードは、電圧指令とこの電圧指令に同期したキャリアとを用いたパルス幅変調によりPWMパルスを生成し、ゲート信号として出力する生成モードである。以下、これらの各モードにおけるインバータ制御部110の動作の概略について説明する。
【0025】
まず、非同期PWMモードについて説明する。永久磁石同期モータであるモータ50のロータに発生するトルクTは式(1)により与えられる。
【数1】

【0026】
この式(1)において、Pは極対数、Ψはロータの永久磁石によって発生され、電機子巻線と鎖交する磁束、iはd軸電流、iはq軸電流、Lはd軸インダクタンス、Lはq軸インダクタンスである。また、式(1)において、第1項は永久磁石の作る磁束により発生するマグネットトルク、第2項はリラクタンストルクである。
【0027】
非同期PWMモードにおいて、インバータ制御部110は、トルク指令値に対応したトルクの得られる電流がインバータ40からモータ50に供給されるようにインバータ40に与えるゲート信号を制御する。その際、モータ50の端子電圧に対してインバータ40の出力電圧に余裕がある場合には電流値が最小となるようにd軸電流iおよびq軸電流iを制御し、モータ50の端子電圧に対してインバータ40の出力電圧が低い場合には、弱め界磁制御を行う。
【0028】
次に同期PWMモードについて説明する。ここでは、一例として1パルスの同期PWMモードについて説明する。
【0029】
定常状態において、モータ50の電機子巻線に与えられる交流電圧をd軸方向の成分であるd軸電圧vとq軸方向の成分であるq軸電圧vに分解すると、これらのd軸電圧vおよびq軸電圧vは式(2)および式(3)により与えられる。
【数2】

【数3】

上記式(2)および(3)において、Rはモータ50の電機子巻線の巻線抵抗、ωはモータ50の回転速度により決まる電気角速度である。
【0030】
また、モータ50の端子電圧vmtとd軸電圧vおよびq軸電圧vとの関係は次式に示すものとなる。
【数4】

【0031】
ここで、巻線抵抗が十分に小さい(R≒0)と仮定し、v=−V・sinδ、v=V・cosδを式(2)、式(3)に代入し、式(2)、式(3)をi、iについて解いて、式(1)に代入すると、式(5)が得られる。ただし、Vはインバータ40の出力電圧、δは負荷角、すなわち、モータ50内に発生する総合磁束Ψの向きとロータの永久磁石による電機子鎖交磁束Ψの向きとがなす角度である。
【数5】

【0032】
1パルスの同期PWMモードにおいて、インバータ制御部110は、電圧指令と同じ周波数を有する一定の矩形波電圧Vをインバータ40に出力させる。コンデンサ30に充電されるインバータ直流電圧をedcとすると、このインバータ40の出力電圧Vは、式(6)により与えられる。
【数6】

【0033】
1パルスの同期PWMモードでは、上記式(5)における電圧Vが一定となるため、モータ50に発生するトルクTは負荷角δに依存する。図2は、式(5)における負荷角δとトルクの関係を示すものである。負荷角δが正の領域は、モータ50において力行(モータとしての動作)が行われている領域である。負荷角δが負の領域は、モータ50において回生(発電機としての動作)が行われている領域である。
以上が非同期PWMモードおよび1パルスの同期PWMモードの動作の概略である。
【0034】
インバータ制御部110は、例えば回転数検出部102により検出されるモータ50の回転速度等に基づき、ゲート信号の生成モードを非同期PWMモードから1パルスの同期PWMモードへ、または1パルスの同期PWMモードから非同期PWMモードへと切り替える。非同期/同期判定部120は、このインバータ制御部110のゲート信号の生成モードが非同期PWMモードであるか同期PWMモードであるかを判定する装置である。
【0035】
コンバータ制御部130は、DC−DCコンバータ20からインバータ40に供給する直流中間電圧edcを制御する装置である。本実施形態では、インバータ制御部110が1パルスの同期PWMモードでゲート信号を生成している期間において、コンバータ制御部130により直流中間電圧edcを適切に制御することによりモータ駆動システムの効率低下を抑制する。以下では、本実施形態における直流中間電圧edcの制御に関する理解を容易にするため、直流中間電圧edcの制御の説明に先立って、インバータ制御部110が1パルスの同期PWMモードでゲート信号を生成している場合におけるモータ駆動システムの効率について説明する。
【0036】
まず、インバータ40からモータ50に供給される電流は、モータ50の逆起電圧vmeとインバータ40の出力電圧Vとの大小関係に依存する。図3は、モータ50の逆起電圧vmeがインバータ40の出力電圧Vより低い場合において、モータ50が無負荷の状態、すなわち、モータ50の負荷角δが0である状態における電圧ベクトル図を示している。ただし、ここではモータ50の電機子の巻線抵抗による電圧降下を無視している。図3に示すように、モータ50の電機子には、モータ50の逆起電圧vmeとインバータ40の出力電圧Vとの差に応じて、d軸電流iが流れる。また、モータ50の逆起電圧vmeがインバータ40の出力電圧Vより低い場合のd軸電流iの極性は正となる。
【0037】
ここで、非同期PWMモードでは、インバータ制御部110は、所望のトルクを得るのに必要な電流がインバータ40からモータ50に供給されるようにインバータ40を制御し、かつ、その際にモータ50の端子電圧vmtに対してインバータ40の出力電圧Vに余裕がある場合には電流値が最小となるようにd軸電流iおよびq軸電流iを制御する。従って、非同期PWMモードにおいて、モータ50が無負荷であり、必要なトルクが0であれば、インバータ40からモータ50に供給される電流はほぼ0となり、インバータ40において損失は発生しない。
【0038】
しかし、同期PWMモードでの運転時には、図3に示すように、モータ50の逆起電圧vmeがインバータ40の出力電圧Vより低い場合にトルクに寄与しない電流がインバータ40からモータ50に流れ、インバータ40において損失が発生する。同時に、モータ50にも電流が流れるため、モータ50の電機子巻線において銅損が発生する。また、d軸電流iが正の場合、増磁効果が生じ、この結果、電機子の磁束密度が高くなり、電機子の鉄損が増加するという問題がある。
【0039】
図4は、モータ50の逆起電圧vmeがインバータ40の出力電圧Vより低い場合において,一定の負荷がモータ50に与えられた場合の電圧ベクトル図を示す。前掲式(6)から明らかなようにインバータ40の直流中間電圧edcが一定ならば、インバータ40の出力電圧Vも一定であり、出力電圧Vは半径一定の円弧を描いて推移する。図4に示す例では、モータ50に負荷が与えられることによりq軸電流iがモータ50に流れるものの、依然としてモータ50の逆起電圧vmeに対してインバータ40の出力電圧Vが過剰であるため、d軸電流iは正のままである。この状態でも、前述の増磁効果が生ずるため、電機子の鉄損が増加するという問題がある。
【0040】
しかし、図3に示す状態から、図4に示す状態を経て、さらにモータ50の負荷が大きくなり、負荷角δが大きくなると、やがてモータ50のd軸電流iは0を経由して負に変化する。
【0041】
図5はモータ50の逆起電圧vmeがインバータ出力電圧Vと等しい場合の電圧ベクトル図を示している。モータ50の逆起電圧vmeとインバータ出力電圧Vが等しい場合、無負荷状態のモータ50には電流はほとんど流れず、モータ50の負荷が大きくなるとd軸電流iとq軸電流iが流れ、その際にd軸電流iは必ず負となる。よって、モータ50において増磁効果は生じず、電機子の鉄損の増加を抑制することができる。
【0042】
そこで、本実施形態では、同期PWMモードにおいてモータ50の鉄損が増加するのを防ぐため、モータ50に流れるd軸電流iが0または負になるようにDC−DCコンバータ20からインバータ40に供給する直流中間電圧edcの制御をコンバータ制御部130に行わせる。このd軸電流iが0または負になる直流中間電圧edcの指令値の算出方法に関しては各種の方法が考えられるが、本実施形態では、インバータ40の出力電圧Vがモータ50の逆起電圧vmeと等しくなるインバータ40の直流中間電圧edcの指令値を直流電圧指令値演算部143が演算する。
【0043】
以下、本実施形態において行われる直流中間電圧edcの制御について説明する。まず、前掲式(6)において、V=vmeとし、edcについて解くと式(7)が得られる。
【数7】

【0044】
図1において、制御装置100の極数記憶部141、逆起電圧記憶部142および直流電圧指令値演算部143は、モータ50の現在の逆起電圧vmeを求め、この逆起電圧vmeを用いて、上記式(7)に従って、直流中間電圧edcの指令値を算出する手段を構成している。さらに詳述すると、逆起電圧記憶部142は、例えば基底周波数fbaseと基底周波数におけるモータ50の逆起電圧vemfを記憶している。ここで、基底周波数fbaseは、モータ50が最大トルクを低下させることなく動作可能なモータ50の回転速度の最大値をモータ50の逆起電圧の周波数に換算したものである。また、極数記憶部141は、モータ50におけるロータの磁極対数Pを記憶している。
【0045】
直流電圧指令値演算部143は、まず、極数記憶部141に記憶された磁極対数Pと、回転数検出部102により検出されるモータ50の回転速度nとに基づき、モータ50の逆起電圧の現在の周波数fを式(8)に従って算出する。
【数8】

【0046】
次に、直流電圧指令値演算部143は、モータ50の現在の逆起電圧vmeを次式(9)により算出する。
【数9】

【0047】
そして、直流電圧指令値演算部143は、このようにして算出した逆起電圧vmeを前掲式(7)に代入することにより直流中間電圧edcの指令値を算出するのである。すなわち、直流電圧指令値演算部143は、次の式(10)に従い、直流中間電圧edcの指令値を決定する。
【数10】

【0048】
比較部144は、この直流電圧指令値演算部143により算出される直流中間電圧edcの指令値と、直流電圧検出部103により検出される直流中間電圧edcの電圧値とを比較して両者の差分を算出し、コンバータ制御部130に供給する。
【0049】
そして、コンバータ制御部130は、直流電圧検出部103により検出される直流中間電圧edcの電圧値が直流電圧指令値演算部143により算出される指令値よりも大きい場合には直流中間電圧edcを低下させ、直流電圧検出部103により検出される直流中間電圧edcの電圧値が直流電圧指令値演算部143により算出される指令値よりも小さい場合には直流中間電圧edcを上昇させるためのDC−DCコンバータ20の制御を行うのである。
【0050】
同期PWMモードでは、このようにインバータ40の出力電圧Vがモータ50の逆起電圧vmeに一致するようにDC−DCコンバータ20からインバータ40に供給される直流中間電圧edcが制御される。その結果、モータ50に流れるd軸電流iが0または負となる。従って、同期PWMモードでの運転時、モータ50に損失が増加するのを防止することができ、モータ駆動システムの効率低下を抑制することができる。
【0051】
以上の説明では、同期PWMモードにおいてモータ50に流れるd軸電流iがモータ50の逆起電圧vmeとインバータ40の出力電圧Vとの大小関係に依存することに着目した。そして、出力電圧Vが逆起電圧vmeと一致するように直流中間電圧edcを制御する観点から、d軸電流iを0または負とするための直流中間電圧edcの指令値の算出式(10)を導出した。しかし、これとは別の観点からd軸電流iを0または負とするための直流中間電圧edcの指令値の算出式(10)を導出することができる。以下では、同期PWMモードにおいてモータ50に流れるd軸電流iがモータ50の永久磁石による電機子鎖交磁束Ψとインバータ40の出力電圧Vによる総合磁束Ψとの大小関係に依存することに着目する。そして、Ψ=Ψとなるように直流中間電圧edcを制御する観点から、d軸電流iを0または負とするための直流中間電圧edcの指令値の算出式(10)を導出する。
【0052】
まず、モータ50の永久磁石による電機子鎖交磁束Ψとインバータ40の出力電圧Vによる総合磁束Ψとの大小関係により、どのように電流がモータ50に流れるかを説明する。
【0053】
永久磁石による電機子鎖交磁束Ψは、基底周波数fbaseと基底周波数における逆起電圧vemfとから式(11)により算出することができる。ここで、周波数と逆起電圧は比例関係にあるので、記憶すべき周波数と逆起電圧は基底周波数のものでなくとも良い。
【数11】

【0054】
一方、総合磁束Ψは、インバータ40の出力電圧Vとその角速度ωとから式(12)により算出することができる。
【数12】

ここで、角速度ωは式(13)により表される。
【数13】

この式(13)における周波数fは、前掲式(8)により算出可能である。
【0055】
図6は、Ψ<Ψであり、かつ、無負荷、すなわち、負荷角δ=0における磁束のベクトル図を示す。図6に示すように、無負荷であってもΨ<Ψの条件下ではd軸電流iが流れ、さらにd軸電流iは正であるので強め磁束となる。図7に、Ψ<Ψであり、かつ、軽負荷の状態における磁束のベクトル図を示す。負荷角δが大きくなるとq軸電流iが流れ始める。しかし、d軸電流iは正のまま推移する。図8はΨ=Ψであり、かつ、負荷がモータ50に与えられている場合の磁束のベクトル図を示す。この場合、どのような負荷がモータ50に与えられてもd軸電流iが正になることはない。いうまでもなく、負荷が0、すなわち負荷角δ=0ならば、理論的にはモータ50に電流は流れない。
以上より、Ψ=Ψとなるようにインバータ40に与える直流中間電圧edcを制御すれば、モータ50の損失増加を招くことはない。
【0056】
図9に、Ψ<ΨおよびΨ=Ψの各条件において、モータ50の損失解析を行った結果を示す。ただし、この損失解析では、モータ50のd軸インダクタンスLは0.88mH、q軸インダクタンスLは2.08mHとした。また、両条件において、Ψ=0.18Wbとした。また、前者の条件ではΨ=0.20Wbとし、後者の条件ではΨ=0.18Wbとし、いずれの条件でもモータの負荷率は50%とした。
【0057】
また、上記2条件の各々について、式(5)より負荷角δを算出し、式(2)、式(3)よりd軸電流iおよびq軸電流iを求めた結果を表1に示す。
【表1】

この表1にも示すように、Ψ<Ψの条件ではd軸電流iは正となり、Ψ=Ψの条件ではd軸電流iは負となる。
【0058】
図9に示すように、Ψ=0.20Wbの条件では、Ψ=0.18Wbの条件に比べて、特に固定子の損失増加が顕著である。これは、表1にも示すように、Ψ=0.20Wbではd軸電流iが正の方向に流れて強め磁束となるため、固定子の磁束密度が高まり、損失が増加したからであると考えられる。Ψ=0.18Wbとした場合、Ψ=0.20Wbとした場合に比べて、モータ50全体の損失は約13%低下した。
【0059】
次にインバータ40の直流中間電圧edcの決定方法について説明する。まず、Ψ=Ψとするためには、前掲式(11)および(12)より次式が成立する必要がある。
【数14】

【0060】
この式(14)をVについて解くと、式(15)が得られる。
【数15】

【0061】
式(6)をedcについて解いて、この式(14)のVを代入すると、次式が得られる。
【数16】

【0062】
式(8)を式(12)に代入することにより得られるωをこの式(15)に代入して整理すると、上述した式(10)が得られる。
【0063】
以上のように、本実施形態による直流中間電圧edcの制御方法は、インバータ40の出力電圧Vが逆起電圧vmeと一致するように直流中間電圧edcを制御する方法であると同時に、モータ50の永久磁石による電機子鎖交磁束Ψがインバータ40の出力電圧Vによる総合磁束Ψと等しくなるように直流中間電圧edcを制御する方法であるということができる。そして、本実施形態による直流中間電圧edcの制御方法によれば、同期PWMモードでの運転時にモータ50に流れるd軸電流iを0または負とし、モータ50における損失の増加を防止することができる。
【0064】
<第2実施形態>
図10は、この発明の第2実施形態であるインバータの制御装置100Aの構成を示すブロック図である。本実施形態における制御装置100Aでは、上記第1実施形態による制御装置100(図1参照)のインバータ制御部110および直流電圧指令値演算部143がインバータ制御部110Aおよび直流電圧指令値演算部143Aに置き換えられている。なお、図10では、図面が煩雑になるのを防止するため、前掲図1における電流検出部101、直流電圧検出部103および非同期/同期判定部120に相当するものの図示が省略されている。
【0065】
本実施形態において、インバータ制御部110Aは、d軸電流q軸電流決定部111と、インダクタンス記憶部112と、総合磁束演算部113とを有する。本実施形態において、直流電圧指令値演算部143Aは、このインバータ制御部110Aの総合磁束演算部113と協働して直流中間電圧edcの指令値を演算する。
【0066】
上記第1実施形態のように、モータ50の電機子鎖交磁束Ψとインバータ40の出力電圧Vによる総合磁束Ψとが等しくなるように直流中間電圧edcを制御すると、重負荷の場合に、図11に示すように負荷角δが大きくなるに従ってd軸電流iが過大になり、インバータ50の出力電流が増加する。本実施形態はこの点に関して上記第1実施形態を改良したものである。
【0067】
本実施形態では、インバータ制御部110Aの総合磁束演算部113が、図12に例示するように、d軸電流iとq軸電流iが適切な電流値となるようなモータ50の総合磁束Ψを求め、その総合磁束Ψを得るためのインバータ40の直流中間電圧edcの指令値を直流電圧指令値演算部143Aが演算する。
【0068】
さらに詳述すると次の通りである。d軸電流q軸電流決定部111は、トルク指令に基づき、d軸電流iおよびq軸電流iを決定する。その際、予めテーブルとしてデータを有しても良く、または常時d軸電流iとq軸電流iを演算しても良い。
【0069】
好ましい態様において、d軸電流q軸電流決定部111は、非特許文献1の23〜24ページに記載された最大トルク/電流制御によりd軸電流iおよびq軸電流iを決定する。
【0070】
より具体的には、この態様では、各種のトルクについて、そのトルクを発生させることができるd軸電流iおよびq軸電流iの各成分からなる電流ベクトルのうち絶対値が最小となる電流ベクトルを求める。そして、各トルクに対応付けて、そのトルクを発生させることができる絶対値が最小の電流ベクトルのd軸電流iおよびq軸電流iを定義したテーブルを作成し、d軸電流q軸電流決定部111に予め記憶させるのである。そして、d軸電流q軸電流決定部111は、このテーブルから、トルク指令に対応したd軸電流iおよびq軸電流iを読み出して総合磁束演算部113に出力するのである。
【0071】
インダクタンス記憶部112には、モータ50のd軸インダクタンスLとq軸インダクタンスLとが記憶されている。また、直流電圧指令値演算部143Aは、逆起電圧記憶部142に記憶された基底周波数fbaseおよびこの基底周波数におけるモータ50の逆起電圧vemfに基づき、前掲式(11)に従って、モータ50における永久磁石の電機子鎖交磁束Ψを算出し、この電機子鎖交磁束Ψを総合磁束演算部113に通知する。
【0072】
総合磁束演算部113は、d軸電流q軸電流決定部111により決定されたd軸電流iおよびq軸電流iと、インダクタンス記憶部112に記憶されたd軸インダクタンスLおよびq軸インダクタンスLと、直流電圧指令値演算部143Aにより算出された電機子鎖交磁束Ψとを用いて次式に従って総合磁束Ψを算出する。そして、総合磁束演算部113は、算出した総合磁束Ψを直流電圧指令値演算部143Aに通知する。なお、式(17)が成立することは図8からも明らかである。
【数17】

【0073】
直流電圧指令値演算部143Aは、総合磁束演算部113により算出された総合磁束Ψの得られる直流中間電圧edcの指令値を演算する。具体的には次の通りである。まず、前掲式(12)をインバータ40の出力電圧Vについて解くと、次式が得られる。
【数18】

【0074】
次に、前掲式(6)をedcについて解いて、この式(18)のVを代入すると、次式が得られる。
【数19】

【0075】
そこで、直流電圧指令値演算部143Aは、総合磁束演算部113により算出された総合磁束Ψと、回転数検出部102により検出された回転速度nと、極数記憶部142に記憶された磁極対数Pとから、上記式(19)に従い、直流中間電圧edcの指令値を算出する。そして、コンバータ制御部130は、インバータ40に供給される直流中間電圧edcをこの指令値に一致させるためのコンバータ20の制御を行うのである。
【0076】
このような制御が行われることにより、同期PWMモードでの運転時、図12に例示するように、適切なq軸電流iと、0または負である適切なd軸電流iとがモータ50に流れる。従って、本実施形態によれば、重負荷時にd軸電流iが過剰に大きくなるのを防止しつつ、モータ50の鉄損の増加を防止することができる。
【0077】
<第3実施形態>
図13は、この発明の第3実施形態であるインバータの制御装置100Bの構成を示すブロック図である。本実施形態における制御装置100Bでは、上記第2実施形態による制御装置100A(図10参照)のインバータ制御部110Aおよび直流電圧指令値演算部143Aがインバータ制御部110Bおよび直流電圧指令値演算部143Bに置き換えられている。なお、図13では、図10と同様、図面が煩雑になるのを防止するため、電流検出部101、直流電圧検出部103および非同期/同期判定部120に相当するものの図示が省略されている。
【0078】
インバータ制御部110Bでは、上記第2実施形態のインバータ制御部110Aにおける総合磁束演算部113が端子電圧演算部114に置き換えられている。この端子電圧演算部114は、上記式(17)に従って、総合磁束Ψを算出し、この総合磁束Ψにモータ50の角速度ωを乗算して、総合磁束Ψの得られるモータ50の端子電圧vmtを算出する。ここで、角速度ωは、極数記憶部141に記憶されたモータ50のロータの磁極対数Pと回転数検出部102により検出されるモータ50の回転速度nとから、上記式(8)および(13)に従って算出される。
【0079】
このような算出方法の代わりに、次のような方法に従ってモータ50の端子電圧vmtを算出してもよい。すなわち、永久磁石の電機子鎖交磁束Ψの代わりにモータ50の逆起電圧と角速度を用い、図5のベクトル図に示すように、次式に従って端子電圧vmtを算出するのである。
【数20】

【0080】
ここで、逆起電圧vmeは、モータ50の回転速度に比例するので、逆起電圧記憶部142に記憶された基底周波数fbaseおよび基底周波数における逆起電圧vemfと、回転数検出部102により検出される現在のモータ50の回転速度nとに基づき算出することができる。
【0081】
直流電圧指令値演算部143Bは、モータ50の端子電圧vmtを端子電圧演算部114により算出された端子電圧vmtとするための直流中間電圧edcの指令値を次式に従って演算する。
【数21】

本実施形態においても上記第2実施形態と同様な効果が得られる。
【0082】
<第4実施形態>
図14はこの発明の第4実施形態である制御装置100Cを備えたモータ駆動システムの構成を示すブロック図である。なお、この図において、上記第1実施形態(図1)の構成要素と対応する要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0083】
本実施形態における制御装置100Cは、電流値演算部151と、基準電流記憶部152とを有する。ここで、電流値演算部151は、電流検出部101により検出されるU相電流、V相電流およびW相電流の大きさ、例えばこれらの各電流の振幅を平均した電流値を出力する装置である。基準電流記憶部152は、各種のトルクに対応付けて基準電流値を定義したテーブルを記憶している。このテーブルにおいて各トルクに対応した基準電流値は、例えば上述した最大トルク/電流制御を行うための電流値、すなわち、そのトルクを発生させることができるd軸電流iおよびq軸電流iからなる電流ベクトルのうち絶対値が最小である電流ベクトルの絶対値である。
【0084】
直流電圧指令値演算部143Cは、電流値演算部151により算出される電流値が基準電流記憶部152に記憶された基準電流値以下である場合には、上記第1実施形態と同様、インバータ40の出力電圧Vを逆起電圧vmeに一致させるための直流中間電圧edcの指令値またはインバータ40の出力電圧Vによる総合磁束Ψをモータ50の永久磁石による電機子鎖交磁束Ψに一致させる直流中間電圧edcの指令値を算出し、比較部144に供給する。
【0085】
これに対し、電流値演算部151により算出される電流値が基準電流記憶部152に記憶された基準電流値を越えた場合、本実施形態では次のような制御を行う。まず、図5によると、上記第1実施形態において説明したインバータ40の出力電圧Vを逆起電圧vmeに一致させる制御が行われている状況において、インバータ40の出力電圧Vを現状よりも大きくすると、d軸電流iが低下することが分かる。また、図8によると、上記第1実施形態において説明したインバータ40の出力電圧Vによる総合磁束Ψをモータ50の永久磁石による電機子鎖交磁束Ψに一致させる制御が行われている状況において、インバータ40の出力電圧Vによる総合磁束Ψを現状よりも大きくすると、d軸電流iが低下することが分かる。そこで、本実施形態における直流電圧指令値演算部143Cは、電流値演算部151により算出される電流値が基準電流記憶部152に記憶された基準電流値を越えた場合、算出した直流中間電圧edcの指令値よりも大きな指令値を比較部144に供給してインバータ40の直流中間電圧edcを高くし、インバータ40の出力電圧Vをモータ50の逆起電圧vmeより大きくし、または総合磁束Ψを永久磁石による電機子鎖交磁束Ψより大きくしてd軸電流iを低下させ、インバータ40の出力電流を低減する。
【0086】
従って、本実施形態によれば、同期PWMモードでの運転時、電流値演算部151により算出される電流値が基準電流値以下である場合には、d軸電流iが0または負となるように直流中間電圧edcの制御が行われ、モータ50の損失の増加が防止される。また、同期PWMモードでの運転時、電流値演算部151により算出される電流値が基準電流値を越える場合には、直流中間電圧edcを増加させてd軸電流iを減少させる制御が行われるため、高負荷時にモータ50に過剰な電流が流れるのを防止することができる。
【0087】
また、本実施形態において、直流電圧指令値演算部143Cは、インバータ40の直流中間電圧edcの上限値を記憶している。この上限値は、DC−DCコンバータ20やインバータ40のスイッチング素子およびコンデンサ30の耐圧の上限に基づいて決定される。そして、直流電圧指令値演算部143Cは、直流中間電圧edcの指令値が上限値を越える場合に、指令値を上限値と等しくして、モータ50のトルク制御を行う。
【0088】
従って、本実施形態によれば、直流中間電圧edcが上限値を越えるのを防止して、DC−DCコンバータ20やインバータ40のスイッチング素子およびコンデンサ30を保護することができる。
【0089】
<他の実施形態>
以上、この発明の第1〜第4実施形態について説明したが、これら以外にも、この発明には他の実施形態が考えられる。例えば次の通りである。
【0090】
(1)上記第1実施形態において説明したインバータの出力電圧がモータの逆起電圧に等しくなるようにインバータに与える直流電圧を制御する方法と、上記第2実施形態において説明したモータに所望の電流が流れるようにインバータに与える直流電圧を制御する方法と、上記第4実施形態において説明したモータに流れる電流が基準電流を越えた場合にインバータに与える直流電圧の指令値を現状より増加させる方法を併用してもよい。例えばモータの回転速度nに基づいていずれの方法によりインバータに与える直流電圧を制御するかを切り替えても良いし、トルク指令により切り替えても良い。トルク指令によって切り替える場合、たとえば軽負荷領域ではインバータの出力電圧がモータの逆起電圧に等しくなるようにインバータに与える直流電圧を制御し、重負荷領域では、モータに所望の電流が流れるようにインバータに与える直流電圧を制御する方法等が考えられる。
【0091】
(2)上記各実施形態では、直流電源と昇圧型DC−DCコンバータによりインバータに対して直流電圧を供給する直流電圧発生手段を構成したが、直流電源の出力電圧が十分に高い場合には降圧型DC−DCコンバータや昇降圧コンバータを用いてもよい。また、交流を直流に変換するAC−DCコンバータ(PWM整流器)を直流電圧発生手段として用いても良い。
【0092】
(3)上記各実施形態では、インバータ制御部にトルク指令を与えたが、速度指令を与え、速度指令値と実際の速度との偏差からトルク指令を得るようにしても良い。
【0093】
(4)上記各実施形態では、インバータからモータに供給される3相電流を検出したが、必ずしも3相全部を検出する必要はなく、2相を検出し,残りの1相は演算により求めても良い。
【0094】
(5)回転数検出部を備える代わりに回転数予測部を備えても良い。
【0095】
(6)上記第1実施形態では、上記式(10)を利用して、モータ50に発生する逆起電圧vmeと、インバータ40の出力電圧Vの基本波成分が等しくなる直流中間電圧edcの指令値を算出した。しかし、これ以外の方法により当該直流中間電圧edcの指令値を算出してもよい。また、上記第1実施形態では、上記式(10)を利用して、インバータ40の出力電圧Vによりモータ50に生成させる総合磁束Ψとモータ50における永久磁石による電機子鎖交磁束Ψとが等しくなる直流中間電圧edcの指令値を算出した。しかし、これ以外の方法により当該直流中間電圧edcの指令値を算出してもよい。
【0096】
(7)上記各実施形態では、同期PWMモードとして1パルスの同期PWMモードを採用したが、インバータの出力電圧の負荷角を制御してトルク制御を実施する場合、3パルス等の同期PWMモードを採用してもよい。
【0097】
(8)多くの電力変換装置の制御装置は、プロセッサとこのプロセッサに実行させるプログラムを記憶したメモリとにより構成されている。そこで、各種のモータを想定して、コンピュータを本発明による制御装置として機能させるプログラムを作成し、このプログラムをインバータの制御装置のユーザに配布するようにしてもよい。例えば上記第1実施形態(図1)において、インバータ制御部110、非同期/同期判定部120、コンバータ制御部130、直流電圧指令値演算部143、比較部144の実体は、プロセッサがプログラムに従って実行する演算処理である。そこで、各種のモータ50を想定してこのプログラムを作成し、制御装置のメモリにインストールするのである。その際、極数記憶部141等の各種の記憶部に記憶させるパラメータは、プログラム自体に持たせてもよく、あるいは不揮発性メモリ等に記憶させたものをプログラムに読み込ませるようにしてもよい。上記第1実施形態以外の各実施形態をプログラムとして実現する場合も同様である。
【符号の説明】
【0098】
10……直流電源、20……DC−DCコンバータ、30……コンデンサ、40……インバータ、50……モータ、100,100A,100B,100C……制御装置、101……電流検出部、102……回転数検出部、103……直流電圧検出部、110,110A……インバータ制御部、120……非同期/同期判定部、130……コンバータ制御部、141……極数記憶部、142……逆起電圧記憶部、143,143A,143B,143C……直流電圧指令演算部、144……比較部、111……d軸電流q軸電流決定部、112……インダクタンス記憶部、113……総合磁束演算部、114……端子電圧演算部、151……電流値演算部、152……基準電流記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧を出力する直流電圧発生手段と、前記直流電圧発生手段から出力される直流電圧に基づいてモータを駆動する交流電圧を発生するインバータとを有する電力変換装置の制御装置において、
前記インバータのスイッチング素子のON/OFF切替を行うためのゲート信号を生成する手段であって、前記ゲート信号の生成モードとして、前記インバータから前記モータに供給すべき交流電圧波形を指示する電圧指令とこの電圧指令に対して非同期な所定周波数のキャリアとを用いたパルス幅変調により前記ゲート信号を生成する非同期PWMモードと、前記電圧指令と前記電圧指令に同期したキャリアを用いたパルス幅変調により前記ゲート信号を生成する同期PWMモードとを有するインバータ制御手段と、
前記インバータ制御手段のゲート信号の生成モードが前記同期PWMモードである場合に、前記インバータから前記モータに供給される電流のうち前記モータのロータに設けられた永久磁石のN極の向きに対応した成分であるd軸電流が0または負になるように、前記直流電圧発生手段から前記インバータに供給する直流電圧を指示する指令値を演算する直流電圧指令値演算手段と
を具備することを特徴とする電力変換装置の制御装置。
【請求項2】
前記直流電圧指令値演算手段は、前記モータに発生する逆起電圧と、前記インバータの出力電圧の基本波成分が等しくなるように、前記直流電圧の指令値を演算することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置の制御装置。
【請求項3】
特定の周波数における前記モータの逆起電圧を記憶する逆起電圧記憶手段と、
前記モータの磁極対数を記憶する極数記憶手段とを具備し、
前記直流電圧指令値演算手段は、
前記モータの回転速度と、前記極数記憶手段に記憶された磁極対数と、前記逆起電圧記憶手段に記憶された特定の周波数における前記モータの逆起電圧とに基づいて、前記モータに発生する逆起電圧と前記インバータの出力電圧の基本波成分とを等しくする前記直流電圧の指令値を演算することを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置の制御装置。
【請求項4】
前記直流電圧指令値演算手段は、前記インバータの出力電圧により前記モータに生成させる総合磁束と前記モータにおける永久磁石による電機子鎖交磁束とが等しくなるように、前記直流電圧の指令値を演算することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置の制御装置。
【請求項5】
特定の周波数における前記モータの逆起電圧を記憶する逆起電圧記憶手段と、
前記モータの磁極対数を記憶する極数記憶手段とを具備し、
前記直流電圧指令値演算手段は、
前記モータの回転速度と、前記極数記憶手段に記憶された磁極対数と、前記逆起電圧記憶手段に記憶された特定の周波数における前記モータの逆起電圧とに基づいて、前記インバータの出力電圧により前記モータに生成させる総合磁束と前記モータにおける永久磁石による電機子鎖交磁束とを等しくする前記直流電圧の指令値を演算することを特徴とする請求項4に記載の電力変換装置の制御装置。
【請求項6】
特定の周波数における前記モータの逆起電圧を記憶する逆起電圧記憶手段と、
前記モータの磁極対数を記憶する極数記憶手段とを具備し、
前記インバータ制御手段は、
トルク指令に基づき、前記モータに流すd軸電流とd軸に対して直交するq軸に沿った成分であるq軸電流とを決定するd軸電流q軸電流決定手段と、
前記モータのd軸インダクタンスおよびq軸インダクタンスを記憶するインダクタンス記憶手段と、
前記d軸電流q軸電流決定手段により決定されたd軸電流およびq軸電流と、前記インダクタンス記憶手段に記憶されたd軸インダクタンスおよびq軸インダクタンスと、前記逆起電圧記憶手段に記憶された特定の周波数における前記モータの逆起電圧から定まる前記モータの永久磁石の電機子鎖交磁束とに基づいて、前記モータに生成させる総合磁束を演算する総合磁束演算手段とを具備し、
前記直流電圧指令演算手段は、前記総合磁束演算手段により算出された総合磁束を前記モータに生成させるための前記直流電圧の指令値を演算することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置の制御装置。
【請求項7】
特定の周波数における前記モータの逆起電圧を記憶する逆起電圧記憶手段と、
前記モータの磁極対数を記憶する極数記憶手段とを具備し、
前記インバータ制御手段は、
トルク指令に基づき、前記モータに流すd軸電流とd軸に対して直交するq軸に沿った成分であるq軸電流とを決定するd軸電流q軸電流決定手段と、
前記モータのd軸インダクタンスおよびq軸インダクタンスを記憶するインダクタンス記憶手段と、
前記d軸電流q軸電流決定手段により決定されたd軸電流およびq軸電流と、前記インダクタンス記憶手段に記憶されたd軸インダクタンスおよびq軸インダクタンスと、前記逆起電圧記憶手段に記憶された特定の周波数における前記モータの逆起電圧から定まる前記モータの永久磁石の電機子鎖交磁束とに基づいて、前記モータに与えるべき端子電圧を演算する端子電圧演算手段とを具備し、
前記直流電圧指令演算手段は、前記端子電圧演算手段により算出された端子電圧を前記モータに与えるための前記直流電圧の指令値を演算することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置の制御装置。
【請求項8】
前記d軸電流q軸電流決定手段は、前記トルク指令に対応したトルクの得られるd軸電流およびq軸電流であって、両者を成分とする電流ベクトルの絶対値が最小となるd軸電流およびq軸電流を決定することを特徴とする請求項6または7に記載の電力変換装置の制御装置。
【請求項9】
前記インバータから前記モータに供給される電流値を演算する電流値演算手段と、
所定の基準電流値を記憶する基準電流記憶手段とを具備し、
前記直流電圧指令値演算手段は、前記電流値演算手段により算出される電流値が前記基準電流記憶手段に記憶された基準電流値を越えた場合に、前記直流電圧の指令値を現在よりも高い値に制御することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置の制御装置。
【請求項10】
前記直流電圧指令値演算手段は、算出した前記直流電圧の指令値が所定の上限値を越えた場合に該指令値を該上限値と等しくすることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1の請求項に記載の電力変換装置の制御装置。
【請求項11】
コンピュータを、
直流電圧を出力する直流電圧発生手段と、前記直流電圧発生手段から出力される直流電圧に基づいてモータを駆動する交流電圧を発生するインバータとを有する電力変換装置の制御を行うための手段であって、
前記インバータのスイッチング素子のON/OFF切替を行うためのゲート信号を生成する生成モードとして、前記インバータから前記モータに供給すべき交流電圧波形を指示する電圧指令とこの電圧指令に対して非同期な所定周波数のキャリアとを用いたパルス幅変調により前記ゲート信号を生成する非同期PWMモードと、前記電圧指令と前記電圧指令に同期したキャリアを用いたパルス幅変調により前記ゲート信号を生成する同期PWMモードとを有するインバータ制御手段と、
前記インバータ制御手段のゲート信号の生成モードが前記同期PWMモードである場合に、前記インバータから前記モータに供給される電流のうち前記モータのロータに設けられた永久磁石のN極の向きに対応した成分であるd軸電流が0または負になるように、前記直流電圧発生手段から前記インバータに供給する直流電圧を指示する指令値を演算する直流電圧指令値演算手段と
として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−55817(P2013−55817A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192993(P2011−192993)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】