説明

電力変換装置

【課題】 電力変換用スイッチング素子を異常電流から保護する際、当該スイッチング素子の制御端子に印加する電圧制御信号のレベルを下げることなく、またバラつきも少ないスイッチング素子を保護する機能を有する電力変換装置を提供する。
【解決手段】 本発明の電力変換装置1は、一対の主端子と主端子対に流れる電流を制御する制御端子とをもち、主端子の低電位側端子が低電位側に接続される電力変換用スイッチング素子134〜139と、主端子対に流れる主電流を検出する電流検出回路4と、制御端子と低電位側との間に位置する主コンデンサ5と、電流検出回路4によって検出された主電流がスイッチング素子134〜139の所定値を超えた場合に、制御端子と低電位側との間に主コンデンサ5が電気的に接続されるようにスイッチング動作する保護用スイッチング素子6と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関し、特にスイッチング素子を保護する保護回路を有する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置のインバータ回路で用いられるスイッチング素子には、定格電流以上の電流が流れる過電流やショートなどによる短絡電流により、スイッチング素子が破壊する場合がある。そのため、スイッチング素子の電流や電圧を検出し、それらの値がスイッチング素子に予め決められている許容量より小さい電流値(所定値)を超えた場合に電流を制限若しくは遮断し、スイッチング素子を保護するための保護回路が種々提案されている。短絡の状態を検知する手段としては、主電流を検出する電流トランス法や主電流が流れる位置に低抵抗値のシャント抵抗を挿入して電圧を検出するシャント抵抗法や、IGBTやMOSFETで見られるセンス端子(主電流より低電流が流される端子)付きの電流を検出する補助エミッタ法などがある。そして、異常電流(過電流や短絡電流)あるいは異常電圧などが検出された場合に、どのように保護するかも種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、主回路電流が所定値以上になると3端子半導体装置がONして、インバータ制御のスイッチング素子の制御端子に接続されているツェナダイオードが導通することで、当該制御端子に加わる電圧制御信号のレベルを制限し、主回路過電流を抑制する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平2−266712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の方法では、制御端子に印加する電圧制御信号のレベルを下げるため、電圧制御信号の遮断によるエネルギーが増加する。つまり、損失が悪化する。また、公差(バラつき)が大きくなることがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、電力変換用スイッチング素子を異常電流などから保護する際に、当該スイッチング素子の制御端子に印加する電圧制御信号のレベルを下げることなく、またバラつきも少ないスイッチング素子を保護する機能を有する電力変換装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための請求項1に係る発明の構成上の特徴は、
一対の主端子と前記主端子対に流れる電流を制御する制御端子とをもち、前記主端子の低電位側端子が低電位側に接続される電力変換用スイッチング素子と、
前記主端子対に流れる主電流を検出する電流検出回路と、
前記制御端子と前記低電位側との間に位置する主コンデンサと、
前記電流検出回路によって検出された前記主電流が所定値を超えた場合に、前記制御端子と前記低電位側との間に前記主コンデンサが電気的に接続されるようにスイッチング動作する保護用スイッチング素子と、を有することである。
【0007】
また請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記電力変換用スイッチング素子は、前記主端子対に流れる前記主電流より小さい副電流が流れる低電流端子を有し、前記電流検出回路は、前記主端子対に流れる前記主電流より小さい前記副電流を検出することで、前記主端子対の前記主電流を検出することである。
【0008】
また請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1又は2において、前記電力変換用スイッチング素子の駆動回路は、前記電力変換用スイッチング素子の前記制御端子に電圧制御信号を送出するゲート駆動回路を有し、前記ゲート駆動回路は、前記電流検出回路によって検出された前記主電流が前記所定値を超えた場合に、前記制御端子に送出する前記電圧制御信号を調整することである。
【0009】
また請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜3の何れか1項において、前記主コンデンサは、一端が前記保護用スイッチング素子を介して前記電力変換用スイッチング素子の前記制御端子に接続され、他端が前記低電位側に前記保護用スイッチング素子を介さずに接続されることである。
【0010】
また請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜3の何れか1項において、前記主コンデンサは、一端が前記電力変換用スイッチング素子の前記制御端子に前記保護用スイッチング素子を介さずに接続され、他端が前記保護用スイッチング素子を介して前記低電位側に接続されることである。
【0011】
また請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜5の何れか1項において、前記電力変換装置は、さらに、前記主コンデンサに並列接続され、且つ、前記保護用スイッチング素子に直列接続される放電用抵抗を有することである。
【0012】
また請求項7に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜6の何れか1項において、前記電力変換装置は、さらに、一端が前記制御端子と接続され、直列に接続される前記保護用スイッチング素子及び前記主コンデンサに並列接続される補助コンデンサを有することである。
【0013】
また請求項8に係る発明の構成上の特徴は、請求項7において、前記電力変換用スイッチング素子は、少なくとも前記低電位側端子と前記制御端子との間に寄生容量を有し、前記補助コンデンサは、前記寄生容量より容量が大きいことである。
【0014】
また請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1又は2において、前記主コンデンサは、前記補助コンデンサより容量が大きいことである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明においては、電力変換用スイッチング素子の主端子対に流れる主電流を電流検出回路で検出し、主電流が所定値(例えば、電力変換用スイッチング素子の許容量より小さい値)を超えた場合に、保護用スイッチング素子のスイッチング動作により制御端子と低電位側との間に位置する主コンデンサが電気的に接続されるため、制御端子に印加される電圧が主コンデンサにも印加され、主端子対に流れる電流の急上昇を抑えることができ、電力変換用スイッチング素子を異常電流から保護でき破壊を防止できる。そして、制御端子に印加される電圧制御信号を遮断しないため、信号レベルが低下せず、バラつきも少なくなる。なお、主コンデンサが電気的に接続し得る「低電位側」の電位は、電力変換用スイッチング素子の低電位側端子の電位と同電位であり、いわゆる基準電位である。例えば、電力変換用スイッチング素子が上下に直列接続され、且つ、一方をバッテリーのプラス端子に接続され、他方をバッテリーのマイナス端子に接続される場合において、上アーム用電力変換用スイッチング素子の基準電位とは、当該上アーム用電力変換用スイッチング素子と下アーム用電力変換用スイッチング素子との間の電位である。また、下アーム用電力変換用スイッチング素子の基準電位は、バッテリーのマイナス端子と同電位である。
【0016】
請求項2に係る発明においては、電力変換用スイッチング素子の主端子対に流れる主電流より小さい副電流が流れる低電流端子を用いて、主端子対に流れる主電流の検出を行うことができる。主端子対に流れる主電流が非常に大きく主電流を直接検出することが非常に難しい場合などは、低電流の副電流を検出し、電力変換用スイッチング素子のための保護回路を実現できる。また、副電流を用いることで、耐圧の小さな保護用スイッチング素子を用いることができる。従って、低コスト化を図ることができる。
【0017】
請求項3に係る発明においては、主電流が所定値を超えた場合に、ゲート駆動回路が制御端子に印加する電圧制御信号を調整することで電力変換用スイッチング素子の破壊を防止することができる。ゲート駆動回路は、通常、電力変換用スイッチング素子の制御端子に電圧制御信号を送出する回路である。ゲート駆動回路により制御端子に印加される電圧が低下あるいは停止されるまでの間に、保護用スイッチング素子がONし、主コンデンサが電気的に接続されることで急激に上昇する電荷を主コンデンサが吸収することができる。つまり、主コンデンサ及び保護用スイッチング素子で急激な電流の上昇を抑制し、抑制されている間にゲート駆動回路が電圧制御信号を低下あるいは停止することができるため、より確実に電力変換用スイッチング素子を破壊から守ることができる。
【0018】
請求項4に係る発明においては、主コンデンサの一端が保護用スイッチング素子を介して制御端子に接続され、他端が何も介さず低電位側に接続されるため、主コンデンサに電圧が印加されていない状態となる。その結果、回路が安定化しやすい。
【0019】
請求項5に係る発明においては、請求項4に係る発明に比べて、主コンデンサの一方電極に電圧が印加されている状態であることにより、安定性としては劣る。ただし、この場合も、確実に、上記した請求項1〜3による効果を発揮できる。
【0020】
請求項6に係る発明においては、電力変換装置がさらに主コンデンサと並列接続され、且つ且つ、保護用スイッチング素子に直列接続される放電用抵抗を有するため、主コンデンサが電気的に接続され蓄電した電荷は放電用抵抗により放電させることができる。仮に、保護機能が実行されて主コンデンサに電荷がたまった状態のままでは、再び、保護機能を実行できない。そこで、放電用抵抗を設けることで、主コンデンサに一旦蓄電した後であっても、再び保護機能を発揮することができる。
【0021】
請求項7に係る発明においては、一端が制御端子に接続し、直列に接続される保護用スイッチング素子及び主コンデンサに並列接続される補助コンデンサを有することで、保護用スイッチング素子のスイッチング動作により主コンデンサが電気的に接続された際、補助コンデンサから主コンデンサに電荷が供給されることで、電力変換用スイッチング素子の寄生容量の電荷を維持することができる。その結果、電力変換用スイッチング素子の電位の急激な低下を回避することができる。
【0022】
請求項8に係る発明においては、補助コンデンサの容量を電力変換用スイッチング素子の寄生容量より大きくすることで、主コンデンサが電気的に接続された際、容量の小さい寄生容量からではなく、容量の大きい補助コンデンサ側から優先的に主コンデンサに電荷が供給される。従って、電力変換用スイッチング素子の電位の急激な低下をより確実に回避することができる。
【0023】
請求項9に係る発明においては、主コンデンサの容量を補助コンデンサの容量より大きくすることで主コンデンサが電気的に接続された際、主コンデンサは電力変換用スイッチング素子及び補助コンデンサの両方の電荷を抜き取ることができるため、電力変換用スイッチング素子を急激な過剰電流による破壊から保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、実施形態を用いて本発明を具体的に説明する。
【0025】
(実施形態1)
本実施形態1の電力変換装置1の回路図を図1に示す。本実施形態1の電力変換装置1は、バッテリー11、昇降圧コンバータ12、モータジェネレータMG及びインバータ13を備える。
【0026】
バッテリー11は、昇降圧コンバータ12に接続されており、昇降圧コンバータ12に直流電力を供給し、また昇降圧コンバータ12から回生される直流電力を蓄電する。
【0027】
昇降圧コンバータ12は、バッテリー11から供給された直流電力を昇圧して後述するインバータ13に出力し、またインバータ13から出力された直流電力を降圧してバッテリー11に出力する。昇降圧コンバータ12は、コンデンサ123、リアクトル124、高圧側の半導体素子である上アーム用スイッチング素子121及び低圧側の半導体素子である下アーム用スイッチング素子122、ダイオードD1、D2を含む。バッテリー11の正極側にコンデンサ123及びリアクトル124の一端が接続され、負極側にコンデンサ123の他端と下アーム用スイッチング素子122のエミッタ端子が接続されている。上アーム用スイッチング素子121と下アーム用スイッチング素子122とは直接に接続されており、リアクトル124の他端は、上アーム用スイッチング素子121のエミッタ端子及び下アーム用スイッチング素子122のコレクタ端子に接続されている。上アーム用スイッチング素子121のコレクタ端子は、後述するインバータ13の一端側に接続されている。下アーム用スイッチング素子122のエミッタ端子は、インバータ13の他端側に接続されている。スイッチング素子121、122のコレクタ−エミッタ間には、エミッタ側からコレクタ側に電流を流すダイオードD1、D2が配置されている。
【0028】
モータジェネレータMGはインバータ13に接続されており、バッテリー11から供給される電力により駆動する。そして、発電機として働く場合は、交流電力をそれぞれに接続されるインバータ13に出力する。
【0029】
インバータ13は、昇降圧コンバータ12によって昇圧された直流電力を三相交流に変換して、モータジェネレータMGに出力する。そして、モータジェネレータMGが発電機として働く場合は、モータジェネレータMGから出力される交流電力を直流に変換して昇降圧コンバータ12に出力する。
【0030】
インバータ13は、U相131とV相132とW相133とからなり、U相131、V相132及びW相133は、昇降圧コンバータ12に並列に接続されている。U相131は、高圧側の半導体素子の上アーム用スイッチング素子134と低圧側の半導体素子の下アーム用スイッチング素子135とが直接に接続されている。同様に、V相は上アーム用スイッチング素子136と下アーム用スイッチング素子137、W相は上アーム用スイッチング素子138と下アーム用スイッチング素子139が直列に接続されている。そして、各スイッチング素子134〜139のコレクタ−エミッタ間には、エミッタ側からコレクタ側へ電流を流すダイオードD3〜8がそれぞれ接続されている。各相の中間点は、モータジェネレータMGの各相コイル(図示略)の各相端に接続されている。ここで、昇降圧コンバータ12及びインバータ13にそれぞれ含まれるスイッチング素子は、IGBT、MOSFET等のパワー素子を用いる。
【0031】
本実施形態に係る電力変換装置1は、バッテリー11の直流電力を昇降圧コンバータ12で昇圧してインバータ13で三相交流に変換し、モータジェネレータMGを駆動する。そして、モータジェネレータMGが発電機として働く場合は、モータジェネレータMGから出力される交流電力がインバータ13で直流電力に変換され、昇降圧コンバータ12で降圧し、バッテリー11に回生される。
【0032】
本発明の電力変換装置1において、昇降圧コンバータ12及びインバータ13で用いられる上下アーム用スイッチング素子134〜139には、図2に示されるように、1つのスイッチング素子(電力変換用スイッチング素子)に対してそれぞれにゲート駆動回路2、ゲート抵抗3、電流検出回路4、主コンデンサ5及び保護用スイッチング素子6が配置されている。ただし、図2は、W相133の下アーム用スイッチング素子139のみに関するゲート駆動回路2などについて図示している。なお、図示しないが、他のスイッチング素子134〜138についても、図2と同様に構成される。そこで、図2を参照して、インバータ13のW相133の下アーム用スイッチング素子139について説明する。
【0033】
スイッチング素子139のゲート端子(制御端子)は、主端子(コレクタ−エミッタ(低電位端子))間の電流を制御するための制御信号を送信する駆動PWM信号出力部(図示略)とゲート駆動回路2及びゲート抵抗3を介して接続されている。ゲート駆動回路2は、ゲート端子に印加するゲート電圧を調整するための回路を含み、上下アーム用スイッチング素子138及び139が同時にONにならないように、スイッチングタイミングに必要なデッドタイムが設定されるように調整している。そして、スイッチング素子139の設置される環境、運転条件などによりさらにゲート電圧を調整するために、ゲート駆動回路2とゲート端子との間にゲート抵抗3が接続されている。
【0034】
スイッチング素子139のコレクタ端子が上アーム用スイッチング素子138のエミッタ端子と接続されており、さらにスイッチング素子138のコレクタ端子が650Vの主電源に接続されている状態も表している。スイッチング素子139のコレクタ−ゲート間のコンデンサCcg及びエミッタ−ゲート間のコンデンサCgeは、いわゆる寄生容量を示している。エミッタは、このスイッチング素子139の基準電位(低電位)に接続されている。そして、コレクタ−エミッタ間に流れる主電流の例えば1万分の1の副電流が流れるセンスエミッタ端子は抵抗を介して基準電位に接続されている。2つの第1抵抗R1と第2抵抗R2とがセンスエミッタ端子に直列接続されており、2つの抵抗R1、R2との間が保護用スイッチング素子6のゲート端子に接続され、電流検出回路4を形成している。つまり、電流検出回路4を構成する抵抗R1とR2との間の電圧が、スイッチング素子139のコレクタ−エミッタ間に流れる主電流に対応したものとなる。
【0035】
主コンデンサ5は、一端がスイッチング素子139のゲート端子に接続され、他端が保護用スイッチング素子6の端子の1つに接続され、保護用スイッチング素子6と直列接続されている。保護用スイッチング素子6は、ゲート端子とゲート端子に印加される電圧によりON状態になるとスイッチング素子139のゲート端子に主コンデンサ5が電気的に接続されるように電流が流れる2端子とを有する。保護用スイッチング素子6として、ゲート端子に印加される電圧によって電流を流すnチャネルMOSFET(電解効果トランジスタ)を用いている。従って、ソース端子が主コンデンサ5の他端に接続され、ドレイン端子が基準電位に接続され、スイッチング動作によりソース−ドレイン間に電流が流れると主コンデンサ5に電流が流れ込む。なお、このnチャネルMOSFETである保護用スイッチング素子6は、このゲート端子に印加される電圧が基準電位に対して所定電位(後述する「主電流の許容量より小さい電流値」に相当する電位)より大きくなった場合に、ソース−ドレイン間に電流が流れるように動作する。ここで、主電流の許容量とはスイッチング素子139の主端子対に流れる主電流について、スイッチング素子139が正常動作することができる限界の電流量のことであり、異常電流とは主電流の許容量を超える電流のことである。
【0036】
さらに、本実施形態1に係る電力変換装置1では、電流検出回路4によって出力される電圧がゲート駆動回路2にも入力される。ゲート駆動回路2は、スイッチング素子139の主端子間を流れる主電流が所定値より大きくなった異常電流の場合、スイッチング素子139の制御端子に印加する電圧制御信号を調整する。
【0037】
次に、本実施形態1の電力変換装置1に係る回路における、スイッチング素子139の各間の電圧又は電流について図3を参照して説明する。図3は、本実施形態1の電力変換装置1に係る回路における、スイッチング素子139の各間の電圧又は電流についてのタイムチャートである。なお、図3は、比較のために、主コンデンサ5及び保護用スイッチング素子6を有しない回路における、スイッチング素子139の各間の電圧又は電流を図示する。
【0038】
図3は、上から、スイッチング素子139のゲート−エミッタ間の電圧(VGE)、スイッチング素子139のコレクト−エミッタ間に流れる電流(Ic)、スイッチング素子139のコレクタ−エミッタ間の電圧(VCE)、スイッチング素子139のセンスエミッタ−エミッタ間の電圧(VSE)、スイッチング素子139のゲート−センスエミッタ間の電圧(VGS)を表している。そして、図3(a)がスイッチング素子139の主端子対に異常電流が流れない通常時の各値の様子を示し、図3(b)が異常電流が流れた場合について示している。また、図3(b)において、実線は本実施形態1の電力変換装置1、すなわち、主コンデンサ5及び保護用スイッチング素子6を有する回路のものであり、一点波線が比較例である主コンデンサ5及び保護用スイッチング素子6を有さない回路(従来の回路)のものである。
【0039】
まず、スイッチング素子139の主端子対に異常電流が流れない通常時について説明する。時間t1において、スイッチング素子139の制御端子に電圧制御信号が印加されはじめ、VGEの電圧が上昇しはじめる。時間t2で制御端子に印加される電圧が所定値を越え、スイッチング素子139の主端子対に主電流Icが流れはじめる。(VGEの時間t2から時間t3の間はミラー期間である。)主電流Icが流れ出し、VCEの電圧も変化する。VSE及びVGSもスイッチング素子139のON動作により共に変化する。そして、時間t4から時間t5の一定期間、一定電流が主端子対に流れたのち、制御端子に印加される電圧制御信号が低下しはじめ、VGE及びIcが低下しはじめる。(VGEの時間t6から時間t7の間はミラー期間である。)他の値も同様に変化し、時間t7でスイッチング素子139がOFFになり、主端子対にIcが流れなくなる。
【0040】
次に、主端子対に異常電流が流れた場合の従来の回路では、時間t1から時間t3までVCE以外は通常時と同様の様子を示している。VCEの変化が異なるのは、スイッチング素子139がONになれば主端子対には異常電流が流れる状態にあり、時間t2でスイッチング素子139がONになってすぐ、VCEは異常電流による異常電圧が印加されるため、初期値から電位が急激に下がり、すぐに電位が初期値に戻るからである。そして、時間t3以降では、時間t4において、通常時と比較し、Icがかなり上昇していることが分かる。Icに異常電流が流れ出してから一定時間後の時間t4’に、ゲート駆動回路2により制御端子への電圧印加が停止され、VGEが低下し、それに伴いIcも急激に低下する。そのため、VCEに高いサージ電圧が発生している。
【0041】
本実施形態1に係る回路は、時間t1からt3に至るまで従来の回路と同様に動作する。そして、時間t3’で電流検出回路4が主電流の異常値を検出し、保護用スイッチング素子6がONになり、主コンデンサ5がスイッチング素子139の制御端子と電気的に接続される。従来の回路と比較し、VGEが時間t4’までに緩やかに上昇し、それに伴いIcも緩やかに上昇している。つまり、主端子対の主電流が所定値を超えてからゲート駆動回路2により制御端子への電圧制御信号の印加が停止される時間t4’まで、Icの急激な上昇が抑制されている。そのため、ピーク電流が減少している。よって、制御端子への電圧印加が停止されIcが急激に減少しても従来の回路と比較し、サージ電圧が減少する。
【0042】
本実施形態の電力変換装置1によれば、電流検出回路4によりスイッチング素子139のコレクタに流れる主電流を電圧に変換して電圧制御信号として保護用スイッチング素子のゲート端子に入力し、主電流が所定値を超える場合には保護用スイッチング素子6がONされ、ソース−ドレイン間に電流が流れる状態になる。それにより、スイッチング素子139のゲート端子に加えられる電圧が保護用スイッチング素子6に直列接続される主コンデンサ5に分配されることとなり、ゲート端子に加えられる電圧の上昇が制限され、結果スイッチング素子139のコレクタ−エミッタ間に流れる主電流が抑制されるため、電流の急激な上昇が抑止できスイッチング素子139の破壊が防止される。
【0043】
そして、コレクタ−エミッタ間の主電流を直接検出するのではなく、主電流より非常に低い副電流を電圧に変換するため、大電流のコレクタ−エミッタ間の電流を検出するより電流の検出が確実に行え、スイッチング素子を保護するための回路を実現しやすい。また、副電流を用いることで、耐圧の小さな保護用スイッチング素子を用いることができ、コストも抑えられる。
【0044】
(実施形態2)
本発明の実施形態2について具体的に説明する。本実施形態2は実施形態1と基本的には同様の構成及び同様の作用効果を有する。以下、異なる部分を中心に説明する。
【0045】
本実施形態2の電力変換装置1は、図4に示されるように、各スイッチング素子134〜139のゲート端子に接続される主コンデンサ5と保護用スイッチング素子6とからなる構成において、主コンデンサ5の一端が保護用スイッチング素子6を介してスイッチング素子139のゲート端子に接続され、他端が基準電位に接続されている。このように、主コンデンサ5を基準電位側に接続することで回路が安定する。
【0046】
(実施形態3)
本発明の実施形態3について具体的に説明する。本実施形態3は実施形態2と基本的には同様の構成及び同様の作用効果を有する。以下、異なる部分を中心に説明する。
【0047】
本実施形態3の電力変換装置1は、図5に示されるように、各スイッチング素子134〜139のゲート端子に接続される主コンデンサ5と保護用スイッチング素子6とからなる構成において、主コンデンサ5と並列接続される放電用抵抗7を有する。放電用抵抗7は、一端が保護用スイッチング素子6のドレイン端子に接続され、他端が基準電位に接続され、主コンデンサ5と並列接続されている。このように、放電用抵抗7を主コンデンサ5と並列に回路に組み込むことで、保護用スイッチング素子6のONにより主コンデンサ5に電流が流れ込み蓄電された場合、放電用抵抗7が主コンデンサ5に蓄積された電荷を放電することができる。そのため、再び保護機能が必要になり、主コンデンサ5が電気的に接続されても主コンデンサ5に電荷を蓄積させることができる。
【0048】
また、放電用抵抗7を実施形態1の電力変換装置1に係る主コンデンサ5、つまりスイッチング素子139のゲート端子と保護用スイッチング素子6のソース端子間に位置する主コンデンサ5と並列接続させるものでもよい。
【0049】
(実施形態4)
本発明の実施形態4について具体的に説明する。本実施形態4は実施形態2と基本的には同様の構成及び同様の作用効果を有する。以下、異なる部分を中心に説明する。
【0050】
本実施形態4の電力変換装置1は、図6に示されるように、各スイッチング素子134〜139のゲート端子に接続される主コンデンサ5と保護用スイッチング素子6とからなる構成において、直列接続される主コンデンサ5及び保護用スイッチング素子6と並列接続される補助コンデンサ8を有する。補助コンデンサ8は、一端がスイッチング素子139のゲート端子に接続され、他端が基準電位に接続される。そして、補助コンデンサ8はスイッチング素子6のゲート端子とコレクタ端子間のいわゆる寄生容量Cgeより大きい容量であり、主コンデンサ5より小さい容量である。
【0051】
このように、補助コンデンサ8を並列接続させることで、主コンデンサ5が電気的にゲート端子と接続した際、主コンデンサ5に流れ込む電荷がスイッチング素子139側から急激に奪うのではなく補助コンデンサ8側からも供給されることで、スイッチング素子139の急激な電位低下を防止することができる。また、補助コンデンサ8の容量を寄生容量より大きくすることで、スイッチング素子139の寄生容量Cgeより容量の大きい補助コンデンサ8から優先的に主コンデンサ5に流れ込みやすいため、より確実にスイッチング素子139の一時的な電位の低下を防止できる。さらに、補助コンデンサ8の容量が主コンデンサ5より小さくすることで、主コンデンサ5が蓄積できる容量より補助コンデンサ8の容量が大きいとスイッチング素子139に流れ込む電荷を吸収できなくならないようにするためである。
【0052】
また、主コンデンサ5の接続位置が実施形態1の場合でも同様の効果が得られる。
【0053】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、電力変換装置用スイッチング素子の1例として、下アームのスイッチング素子139について説明したが、他の下アーム用スイッチング素子135、137及び上アーム用スイッチング素子134、136、138に対してもゲート駆動回路2、電流検出回路4、主コンデンサ5及び保護用スイッチング素子6からなる回路を構成できる。その際、基準電位は3相131〜133の下アームで同じ基準電位であり、上アームではそれぞれ別の基準電位であり、バッテリー11のマイナス側と同電位である。
【0054】
また、電流検出回路4は電流を電圧に変換して保護用スイッチング素子6に電圧制御信号として入力しているが、電流検出回路4が検出する電流によりスイッチング動作する保護用スイッチング素子6を用いることも考えられる。また、センスエミッタ端子を用いず、コレクタ−エミッタ間の電流又は電圧を検出するものでもよい。そして、電流検出回路4としては検出速度が速いことが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施形態1の電力変換装置1の回路図である。
【図2】本実施形態1の電力変換装置1で用いられるスイッチング素子に係る回路図である。
【図3】(a)通常時における回路内の各間の電流及び電圧のタイムチャート図、(b)本実施形態1の電力変換装置1に係るスイッチング素子のコレクタ−エミッタ間に異常電流が流れた場合の回路内の各間の電流及び電圧のタイムチャート図である。
【図4】本実施形態2の電力変換装置1で用いられるスイッチング素子に係る回路図である。
【図5】本実施形態3の電力変換装置1で用いられるスイッチング素子に係る回路図である。
【図6】本実施形態4の電力変換装置1で用いられるスイッチング素子に係る回路図である。
【符号の説明】
【0056】
1:電力変換装置、11:バッテリー 、12:昇降圧コンバータ、13:インバータ、
121,122,134〜139:スイッチング素子、
123:コンデンサ、124:リアクトル、
2:ゲート駆動回路、
3:ゲート抵抗、
4:電流検出回路、
5:主コンデンサ、
6:保護用スイッチング素子、
7:放電用抵抗、
8:補助コンデンサ、
D1〜D8:ダイオード、MG:モータジェネレータ、R1:第1抵抗、R2:第2抵抗。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の主端子と前記主端子対に流れる電流を制御する制御端子とをもち、前記主端子の低電位側端子が低電位側に接続される電力変換用スイッチング素子と、
前記主端子対に流れる主電流を検出する電流検出回路と、
前記制御端子と前記低電位側との間に位置する主コンデンサと、
前記電流検出回路によって検出された前記主電流が所定値を超えた場合に、前記制御端子と前記低電位側との間に前記主コンデンサが電気的に接続されるようにスイッチング動作する保護用スイッチング素子と、
を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記電力変換用スイッチング素子は、前記主端子対に流れる前記主電流より小さい副電流が流れる低電流端子を有し、
前記電流検出回路は、前記主端子対に流れる前記主電流より小さい前記副電流を検出することで、前記主端子対の前記主電流を検出する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記電力変換用スイッチング素子の駆動回路は、前記電力変換用スイッチング素子の前記制御端子に電圧制御信号を送出するゲート駆動回路を有し、
前記ゲート駆動回路は、前記電流検出回路によって検出された前記主電流が前記所定値を超えた場合に、前記制御端子に送出する前記電圧制御信号を調整する請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記主コンデンサは、一端が前記保護用スイッチング素子を介して前記電力変換用スイッチング素子の前記制御端子に接続され、他端が前記低電位側に前記保護用スイッチング素子を介さずに接続される請求項1〜3の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記主コンデンサは、一端が前記電力変換用スイッチング素子の前記制御端子に前記保護用スイッチング素子を介さずに接続され、他端が前記保護用スイッチング素子を介して前記低電位側に接続される請求項1〜3の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記電力変換装置は、さらに、前記主コンデンサに並列接続され、且つ、前記保護用スイッチング素子に直列接続される放電用抵抗を有する請求項1〜5の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記電力変換装置は、さらに、一端が前記制御端子と接続され、直列に接続される前記保護用スイッチング素子及び前記主コンデンサに並列接続される補助コンデンサを有する請求項1〜6の何れか1項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記電力変換用スイッチング素子は、少なくとも前記低電位側端子と前記制御端子との間に寄生容量を有し、
前記補助コンデンサは、前記寄生容量より容量が大きい請求項7に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記主コンデンサは、前記補助コンデンサより容量が大きい請求項7又は8に記載の電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−213305(P2009−213305A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55461(P2008−55461)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】