説明

電動パワーステアリング装置

【課題】3相電動モータで1相に異常が発生したときに、操舵フィーリングを悪化させることなく、残りの2相を用いてモータ駆動を継続できる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】異常検出手段で各相コイルのうちの1相の駆動系統に通電異常を検出したとき、異常時モータ指令値算出手段34で、操舵補助電流指令値Irefに基づいて残りの2相のコイルを使用する異常時相電流指令値を算出し、その異常時相電流指令値に基づいて3相電動モータ12を駆動する。その際、操舵トルク及び前記3相電動モータ12で発生する操舵補助トルクの和と外力との釣合い時に、前記異常時相電流指令値を低下させる電流指令値補正手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3相ブラシレスモータを駆動制御して、操舵系に運転者の操舵負担を軽減する操舵補助力を付与する電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電動パワーステアリング装置として、例えば特許文献1に記載の技術がある。この技術は、3相ブラシレスモータで1相に異常が発生したとき、残りの2相の逆起電圧情報に基づいて、モータトルクを略一定とする異常時電流指令値を算出し、その異常時電流指令値に基づいて上記モータを継続駆動するものである。
すなわち、異常時モータ指令値算出手段で算出した異常時相電流指令値の符号が反転する電気角を跨ぐ加速領域で、意図的にモータの回転を操舵方向へ加速するので、当該加速領域でのブレーキトルクの発生を防止することにより、モータトルクが低下する不安定出力角度領域をモータ慣性力により効率的に飛び越えることができ、操舵フィーリングを向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−51481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載の従来例にあっては、切増操舵中に、モータトルクを全く発生できない又はモータトルクが低下する電気角範囲すなわち故障相を除く2相のコイルでモータトルクを発生しているため、故障相に対応する電気角付近ではモータトルクが低下するトルク低下領域となり、このトルク低下領域を含む加速領域で、モータの回転を操舵方向へ加速してトルク低下領域を飛び越えるようにしている。しかしながら、トルク低下領域で、操舵トルクとブラシレスモータで発生する操舵補助トルクとを加算したトルクが外力(操舵反力)と略等しくなって操舵トルクが釣り合った状態では、トルク低下領域を慣性トルクで飛び越えることができない場合が生じて運転者に引っ掛かり感を与えるという未解決の課題がある。
【0005】
そこで、本発明は、3相ブラシレスモータで1相に異常が発生して残りの2相でモータを駆動する際に、トルク低下領域を確実に飛び越えて操舵フィーリングを悪化させることなく、モータ駆動を継続することができる電動パワーステアリング装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る電動パワーステアリング装置の第1の態様は、操舵系に対して操舵補助力を付与する各相コイルをスター結線した3相電動モータと、前記操舵系に伝達される操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、前記各相コイルの通電異常を検出するコイル通電異常検出手段と、該コイル通電異常検出手段で、1相のコイルの通電異常を検出したときに、残りの2相のコイルに対する異常時相電流指令値を算出する異常時モータ指令値算出手段と、前記異常時相電流指令値に基づいて前記3相電動モータを駆動制御するモータ制御手段とを備える電動パワーステアリング装置であって、
前記操舵トルク及び前記3相電動モータで発生する操舵補助トルクの和と外力との釣合い時に、前記異常時相電流指令値を低下させる電流指令値補正手段を備えている。
【0007】
また、本発明に係る電動パワーステアリング装置の第2の態様は、前記電流指令値補正手段が、前記操舵トルク及び前記3相電動モータで発生する操舵補助トルクの和と外力との釣合い時に、前記3相電動モータの電気角が、前記異常時モータ指令値算出手段で算出した異常時相電流指令値の符号が反転する最小トルク電気角を跨ぐ所定の角度領域であるモータトルク低下領域に達したときに、前記異常時相電流指令値を低下させるように構成されている。
【0008】
また、本発明に係る電動パワーステアリング装置の第3の態様は、前記電流指令値補正手段が、前記操舵トルク及び前記3相電動モータで発生する操舵補助トルクの和と外力との釣合い時を、前記操舵トルク、前記3相電動モータの回転角及び回転速度に基づいて検出するようにしている。
さらにまた、本発明に係る電動パワーステアリング装置の第4の態様は、前記電流指令値補正手段が、前記操舵トルク及び前記3相電動モータで発生する操舵補助トルクの和と外力との釣合い時に、前記異常時相電流指令値を低下させた後、前記外力によって当該3相電動モータの電気角が戻されて操舵補助トルクを発生可能な電気角に達したときに、前記異常時相電流指令値を増加させるように構成されている。
【0009】
また、本発明に係る電動パワーステアリング装置の第5の態様は、前記電流指令値補正手段が、前記3相電動モータの電気角が、前記異常時モータ指令値算出手段で算出した異常時相電流指令値の符号が反転する最小トルク電気角を跨ぐ所定の角度領域である加速領域内にあるか否かを判定する加速領域判定手段と、前記加速領域判定手段で前記電気角が前記加速領域内にあると判定したときに、前記異常時モータ指令値算出手段で算出した異常時相電流指令値を増加補正することで、前記3相電動モータの回転を操舵方向へ加速するモータ回転加速手段と、該モータ回転加速手段による前記3相ブラシレスモータの回転を操舵方向へ加速したときに、前記電気角が前記最小トルク電気角を跨ぎ前記加速領域より広いリトライ領域内を継続しているか否かを判定するリトライ領域判定手段と、該リトライ領域判定手段の判定結果が、前記電気角がリトライ領域内を継続する場合に、前記加速領域を増加させて、前記3相ブラシレスモータの回転を操舵方向へ再加速するリトライ加速手段とを備えている。
【0010】
また、本発明に係る電動パワーステアリング装置の第6の態様は、前記リトライ加速手段が、前記電気角が加速領域内にあり、操舵トルク及び操舵補助トルクの和と外力との釣合い時に、前記異常時相電流指令値を基本電流指令値より低下させ、前記電気角が前記加速領域の境界位置に達したときに、当該異常時相電流指令値を基本電流指令値より増加させて前記3相電動モータの回転を操舵方向へ再加速するように構成されている。
【0011】
また、本発明に係る電動パワーステアリング装置の第7の態様は、前記3相電動モータのモータ回転速度を検出するモータ回転速度検出手段を備え、前記リトライ加速手段が、前記操舵トルクと前記モータ回転速度とに基づいて操舵方向が切増方向であるか切戻方向であるかを判定して第1の切戻フラグを設定する切増切戻判定部と、前記加速領域判定手段の判定結果、前記異常時相電流指令値、前記切戻フラグ及び前記モータ回転速度に基づいてトルク低下領域であるか否かを判定し、トルク低下領域であるときに切戻を指示する第2の切戻フラグを設定するトルク低下領域判定部と、前記加速領域判定手段の判定結果と前記第2の切戻フラグとに基づいて前記異常時相電流指令値を減少させ、外力により前記電気角を変化させる補正電流指令ゲインを生成する補正電流指令ゲイン生成部とを備えている。
【0012】
また、本発明に係る電動パワーステアリング装置の第8の態様は、前記リトライ領域判定手段が、前記リトライ加速手段で前記3相電動モータの回転を操舵方向へ再加速した後の前記電気角がリトライ領域を継続する場合に、リトライ回数を計数するリトライ計数部を備えている。
また、本発明に係る電動パワーステアリング装置の第9の態様は、前記リトライ領域判定手段が、前記電気角及び前記操舵トルクの方向に基づいてリトライ領域を増加させるように構成されている。
また、本発明に係る電動パワーステアリング装置の第10の態様は、前記リトライ加速手段が、前記リトライ計数部のリトライ回数が閾値を超えたときに、前記加速領域外の前記異常時相電流指令値を当該リトライ回数に応じて高めるように構成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、3相電動モータで1相に異常が発生した場合には、残りの2相を用いてモータ駆動を継続することができる。このとき、操舵トルク及び前記3相電動モータで発生する操舵補助トルクの和と外力との釣合い時に、トルク低下領域の乗り越えができないときに、異常時相電流指令値を減少させて外力により電気角を戻してから指令電流値を増加させてモータ加速を行ってトルク低下領域を確実に乗り越えることができる。その結果、操舵トルクが小さい直進走行付近や、車速が低く操舵トルクが大きい時でも、モータトルクが低下するトルク低下領域をモータ慣性力により確実に飛び越えることができ、滑らかな操舵フィーリングとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る電動パワーステアリング装置のシステム構成図である。
【図2】操舵補助制御装置の具体的構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態における制御演算装置23の具体的構成を示すブロック図である。
【図4】操舵補助電流指令値算出マップである。
【図5】ベクトル相指令値算出回路のd軸電流指令値算出部の具体的構成を示すブロック図である。
【図6】d−q軸電圧算出用記憶テーブルを示す特性線図である。
【図7】正常時の3相ブラシレスモータで発生する誘起電圧波形を示す特性線図である。
【図8】3相ブラシレスモータにおける2相通電時のステータ磁界モデルを示す説明図である。
【図9】3相ブラシレスモータにおける2相通電時のモータ誘起電圧を示す特性線図である。
【図10】モータ加速領域判定部の具体的構成を示すブロック図である。
【図11】切増切戻判定部の具体的構成を示すブロック図である。
【図12】トルク低下領域判定部の具体的構成を示すブロック図である。
【図13】補正電流指令ゲイン生成部の具体的構成を示すフロック図である。
【図14】切り戻し補正ゲインの例を示す図である。
【図15】リトライカウント部の具体的構成を示すブロック図である。
【図16】リトライ電流ゲイン生成部の具体的構成を示すブロック図である。
【図17】リトライ領域を示す説明図である。
【図18】2相制御用電流指令値生成部の具体的構成を示すブロック図である。
【図19】相異常時における切り増し操舵時のモータ電流とモータトルクとを示す図である。
【図20】相異常時における2相の基本電流値とモータトルクとの示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施の形態)
(構成)
図1は、本発明の一実施形態を示す全体構成図である。
図中、符号1は、ステアリングホイールであり、このステアリングホイール1に運転者から作用される操舵力がステアリングシャフト2に伝達される。このステアリングシャフト2は、入力軸2aと出力軸2bとを有する。入力軸2aの一端はステアリングホイール1に連結され、他端は操舵トルクセンサ3を介して出力軸2bの一端に連結されている。
【0016】
そして、出力軸2bに伝達された操舵力は、ユニバーサルジョイント4を介してロアシャフト5に伝達され、さらに、ユニバーサルジョイント6を介してピニオンシャフト7に伝達される。このピニオンシャフト7に伝達された操舵力はステアリングギヤ8を介してタイロッド9に伝達され、図示しない転舵輪を転舵させる。ここで、ステアリングギヤ8は、ピニオンシャフト7に連結されたピニオン8aとこのピニオン8aに噛合するラック8bとを有するラックアンドピニオン形式に構成され、ピニオン8aに伝達された回転運動をラック8bで車幅方向の直進運動に変換している。
【0017】
ステアリングシャフト2の出力軸2bには、操舵補助力を出力軸2bに伝達する操舵補助機構10が連結されている。この操舵補助機構10は、出力軸2bに連結した減速ギヤ11と、この減速ギヤ11に連結された操舵補助力を発生する3相電動モータとしての3相ブラシレスモータ12とを備えている。
操舵トルクセンサ3は、ステアリングホイール1に付与されて入力軸2aに伝達された操舵トルクを検出するもので、例えば、操舵トルクを入力軸2a及び出力軸2b間に介挿した図示しないトーションバーの捩れ角変位に変換し、この捩れ角変位を抵抗変化や磁気変化に変換して検出するように構成されている。
【0018】
また、3相ブラシレスモータ12は、図2に示すように、A相コイルLa、B相コイルLb及びC相コイルLcの一端が互いに接続されてスター結線とされ、各コイルLa、Lb及びLcの他端が操舵補助制御装置20に接続されて個別にモータ駆動電流Ia、Ib及びIcが供給されている。また、3相ブラシレスモータ12は、ロータの回転位置を検出するホール素子、レゾルバ等で構成されるロータ回転角検出回路13を備えている。
【0019】
操舵補助制御装置20には、操舵トルクセンサ3で検出された操舵トルクT及び車速センサ21で検出された車速Vsが入力されると共に、ロータ回転角検出回路13で検出されたロータ回転角θmが入力される。また、この操舵補助制御装置20には、さらに3相ブラシレスモータ12の各相コイルLa、Lb及びLcに供給されるモータ駆動電流Ia、Ib及びIcを検出するモータ電流検出回路22から出力されるモータ駆動電流検出値Iad、Ibd及びIcdが入力される。
【0020】
操舵補助制御装置20は、操舵トルクT、車速Vs、モータ電流検出値Iad、Ibd及びIcd、並びにロータ回転角θmに基づいて操舵補助電流指令値を演算して、各相モータ電圧指令値Va、Vb及びVcを出力する制御演算装置23を備えている。また、操舵補助制御装置20は、3相ブラシレスモータ12を駆動する電界効果トランジスタ(FET)で構成されるモータ駆動回路24と、制御演算装置23から出力される相電圧指令値Va、Vb及びVcに基づいてモータ駆動回路24の電界効果トランジスタのゲート電流を制御するFETゲート駆動回路25とを備えている。さらに、操舵補助制御装置20は、モータ駆動回路24及び3相ブラシレスモータ12との間に接続された遮断用リレー回路26と、3相ブラシレスモータ12に供給されるモータ駆動電流Ia、Ib及びIcの異常を検出する異常検出回路27とを備えている。
【0021】
(制御演算装置23の構成)
図3は、制御演算装置23の具体的構成を示すブロック図である。
制御演算装置23は、図3に示すように、操舵補助電流指令値演算部31、角度情報演算部32、正常時モータ指令値算出部33及び異常時モータ指令値算出部34で構成される指令値出力部30と、指令値選択部35と、モータ電流制御部36とを備えている。
【0022】
操舵補助電流指令値演算部31は、操舵トルクセンサ3で検出した操舵トルクTと車速センサ21で検出した車速Vsとを入力し、これらに基づいて操舵補助電流指令値Irefを算出する。
角度情報演算部32は、ロータ回転角検出回路13で検出したロータ回転角θmに基づいて、電気角θeを演算する電気角変換部32aと、この電気角変換部32aから出力される電気角θeを例えば微分してモータ回転速度ωmを算出するモータ回転速度演算部32bとを備えている。
【0023】
ここで、操舵トルクセンサ3は、例えば、右操舵時の発生トルクは正値、左操舵時の発生トルクは負値として、操舵トルクTに符号を付与して出力するように構成されている。同様に、3相ブラシレスモータ12のモータ回転速度演算部32bは、3相ブラシレスモータ12の回転方向に応じて符号を付与し、例えば、右方向の操舵時に操舵補助力を付与する回転方向の場合には正値、左方向の操舵時に操舵補助力を付与する回転方向の場合には負値、を付与して出力するように構成されている。
【0024】
正常時モータ指令値算出部33は、操舵補助電流指令値Iref、電気角θe及び電気角速度ωeに基づいて、3相電流指令値(正常時相電流指令値)Iaref〜Icrefを算出する。
異常時モータ指令値算出部34は、後述する異常検出回路27から入力される相異常検出信号AS、操舵補助電流指令値Iref、電気角θe及び電気角速度ωeに基づいて正常なコイルLi(i=a〜c)及びLj(j=b〜a)に対する2相電流指令値(異常時相電流指令値)Iiref及びIjrefを算出する。このとき、基本電流指令値としての2相電流指令値Iiref及びIjrefは、図19に示すように、互いに符号が逆で絶対値が等しく算出する。つまり、2相電流指令値Iiref及びIjrefの和は零であり、これらは共通の電気角θeで符号が反転することになる。
【0025】
指令値選択部35は、相異常検出信号ASに基づいて相異常検出信号ASが“0”であるときに正常時モータ指令値算出部33から出力される3相電流指令値Iaref〜Icrefを選択し、相異常検出信号ASが“0”以外の値であるときに異常時モータ指令値算出部34から出力される2相電流指令値Iiref及びIjrefを選択する。
モータ電流制御部36は、指令値選択部35で選択した電流指令値とモータ電流検出回路22で検出したモータ電流検出値Iad、Ibd及びIcdとを用いて、電流フィードバック処理を行う。
【0026】
以下、各ブロックで実行する処理について詳細に説明する。
操舵補助電流指令値演算部31は、操舵トルクT及び車速Vsをもとに、図4に示す操舵補助電流指令値算出マップを参照して操舵補助電流指令値Irefを算出する。操舵補助電流指令値算出マップは、図4に示すように、横軸に操舵トルクTをとり、縦軸に操舵補助電流指令値Irefをとると共に、車速検出値Vsをパラメータとした放物線状の曲線で表される特性線図で構成される。
【0027】
この特性線図は、操舵トルクTが"0"からその近傍の設定値Ts1までの間は操舵補助電流指令値Irefが"0"を維持し、操舵トルクTが設定値Ts1を超えると最初は操舵補助電流指令値Irefが操舵トルクTの増加に対して比較的緩やかに増加するが、さらに操舵トルクTが増加すると、その増加に対して操舵補助電流指令値Irefが急峻に増加するように設定されている。また、この特性曲線は、車速Vsが増加するに従って傾きが小さくなるように設定されている。
角度情報演算部32は、ロータ回転角検出回路13で検出したロータ回転角θmを電気角θeに変換する電気角変換部32aと、この電気角変換部32aから出力される電気角θeを微分してモータ回転速度を表す電気角速度ωeを算出する微分回路32bとを有する。
【0028】
正常時モータ指令値算出部33は、図3に示すように、操舵補助電流指令値Irefと電気角速度ωeとに基づいてd軸電流指令値Idrefを算出するd軸電流指令値算出部33a、電気角θeに基づいてd軸電圧ed(θe)及びq軸電圧eq(θe)を算出するd−q軸電圧算出部33bを備えている。また正常時モータ指令値算出部33は、d−q軸電圧算出部33bから出力されるd軸電圧ed(θe)及びq軸電圧eq(θe)とd軸電流指令値算出部33aから出力されるd軸電流指令値Idrefと操舵補助電流指令値演算部31から出力される操舵補助電流指令値Irefとに基づいてq軸電流指令値Iqrefを算出するq軸電流指令値算出部33cで構成されるd−q軸電流指令値算出部33dを備えている。さらに、正常時モータ指令値算出部33は、d軸電流指令値算出部33aから出力されるd軸電流指令値Idrefとq軸電流指令値算出部33cから出力されるq軸電流指令値Iqrefとを3相電流指令値Iaref、Ibref及びIcrefに変換する2相/3相変換部33eを備えている。
【0029】
d軸電流指令値算出部33aは、図5に示すように、操舵補助電流指令値演算部31から出力される操舵補助電流指令値Irefを3相ブラシレスモータ12へのベース角速度ωbに換算する換算部51と、操舵補助電流指令値Irefの絶対値|Iref|を算出する絶対値部52と、電気角速度ωeとモータの磁極数Pとからモータの機械角速度ωm(=ωe/P)を算出する機械角算出部53と、ベース角速度ωbと機械角速度ωmとに基づいて進角Φ=acos(ωb/ωm)を算出するacos算出部54と、進角Φに基づいてsinΦを求めるsin算出部55と、絶対値部52からの絶対値|Iref|とsin算出部55から出力されるsinΦとを乗算して−1倍することによりd軸電流指令値Idref(=−|Iref|sinΦ)を求める乗算器56とを備えている。
このようにd軸電流指令値算出部33aを構成することにより、d軸電流指令値Idrefは、
Idref=−|Iref|・sin(acos(ωb/ωm)) …………(1)
となる。
【0030】
上記(1)式のacos(ωb/ωm)の項に関し、モータの回転速度が高速でない場合、つまり3相ブラシレスモータ12の機械角速度ωmがベース角速度ωbより低速時の場合は、ωm<ωbとなるのでacos(ωb/ωm)=0となり、よってIdref=0となる。しかし、高速回転時、つまり機械角速度ωmがベース角速度ωbより高速になると、電流指令値Idrefの値が現れて、弱め界磁制御を始める。上記(1)式に表されるように、電流指令値Idrefは3相ブラシレスモータ12の回転速度によって変化するため、高速度回転時の制御をつなぎ目なく円滑に行うことが可能であるという優れた効果がある。
【0031】
また、別の効果としてモータ端子電圧の飽和の問題に関しても効果がある。モータの相電圧Vは、一般的に、
V=E+R・I+L(di/dt) …………(2)
で表される。ここで、Eは逆起電圧、Rは固定抵抗、Lはインダクタンスである。逆起電圧Eはモータが高速回転になるほど大きくなり、バッテリー電圧などの電源電圧は固定であるから、モータの制御に利用できる電圧範囲が狭くなる。この電圧飽和に達する角速度がベース角速度ωbで、電圧飽和が生じるとPWM制御のデューティ比が100%に達し、それ以上は電流指令値に追従できなくなり、その結果トルクリップルが大きくなる。
【0032】
しかし、上記(1)式で表される電流指令値Idrefは極性が負であり、上記(2)式のL(di/dt)に関する電流指令値Idrefの誘起電圧成分は、逆起電圧Eと極性が反対となる。よって、高速回転になるほど値が大きくなる逆起電圧Eを、電流指令値Idrefによって誘起される電圧で減じる効果を示す。その結果、3相ブラシレスモータ12が高速回転になっても、電流指令値Idrefの効果によってモータを制御できる電圧範囲が広くなる。つまり、電流指令値Idrefの制御による弱め界磁制御によってモータの制御電圧は飽和せず、制御できる範囲が広くなり、モータの高速回転時にもトルクリップルが大きくなることを防止できる効果がある。
【0033】
さらに、d−q軸電圧算出部33bは、電気角θeをもとに、図6に示す3相駆動用記憶テーブルとしてのd−q軸電圧算出用記憶テーブルを参照して、d軸電圧ed(θe)及びq軸電圧eq(θe)を算出する。ここで、d−q軸電圧算出用記憶テーブルは、図6に示すように、横軸に電気角θeをとり、縦軸に各相コイルが発生する誘起電圧波形を回転座標に変換したd軸電圧ed(θ)及びq軸電圧eq(θ)をとって構成される。3相ブラシレスモータ12が図7に示すように正常時の誘起電圧波形A相EMF、B相EMF及びC相EMFが夫々120度位相の異なる正弦波となる正弦波誘起電圧モータである場合には、図6に示すように、電気角θには関係なくed(θ)及びq軸電圧eq(θ)が共に一定値となる。
【0034】
さらにまた、q軸電流指令値算出部33cは、入力される操舵補助電流指令値Iref、d軸電圧ed(θe)、q軸電圧eq(θe)、d軸電流指令値Idref及び電気角速度ωeに基づいて下記(3)式の演算を行ってq軸電流指令値Iqrefを算出する。
Iqref={Kt×Iref×ωe−ed(θe)×Idref(θe)}/eq(θe)
………………(3)
ここで、Ktはモータトルク定数である。
【0035】
(異常時モータ指令値算出部34の構成)
異常時モータ指令値算出部34は、3相ブラシレスモータ12の1相のコイルを含む駆動系統に異常が発生した場合に、残りの2相のコイルを使用して3相ブラシレスモータ12の回転駆動を継続するための相電流指令値を算出するものである。
3相ブラシレスモータ12では、例えば図8(a)に示すようにA相コイルLaに対する駆動系統に断線が発生して、A相コイルLaにモータ電流を供給できない状態となると、モータ電流を供給可能なコイルはB相コイルLb及びC相コイルLcの2つのコイルとなる。これらB相コイルLb及びC相コイルLcに供給する電流の方向は、B相コイルLbからモータ電流を入力してC相コイルLcから出力する場合と、逆にC相コイルLcからモータ電流を入力してB相コイルLbから出力する場合の2通りとなる。
これらモータ電流によって発生するステータ合成磁界は、図8(b)及び(c)に示すように、180度異なる方向にのみ形成することができるだけであるので、これらのステータ合成磁界のみでは3相ブラシレスモータ12を2相駆動することはできない。
【0036】
そこで、例えばA相の駆動系統に通電異常が発生したときに、残りのB相及びC相を使用してモータ駆動する場合のモータ誘起電圧を、図9に示すように、電気角θeに対する特性曲線L1及びL2で示される誘起電圧EMFb(θe)及びEMFc(θe)を合成した特性曲線L3で示される合成誘起電圧EMFaとする。そして、この合成誘起電圧EMFaに基づいて相電流指令値Im(θe)を算出し、この相電流指令値Im(θe)に基づいて、上述した2相電流指令値を算出する。
ここで、本実施形態では、現在の電気角θeが後述する所定の加速領域内にあるとき、3相ブラシレスモータ12を操舵方向へ加速するべく、上記相電流指令値Im(θe)を増加又は減少する補正を行うものとする。
【0037】
次に、異常時モータ指令値算出部34の具体的構成について説明する。
異常時モータ指令値算出部34は、図3に示すように、基本電流指令値生成部60と、基本電流指令ゲイン生成部61と、補正電流指令ゲイン生成部62と、リトライ電流指令ゲイン生成部63と、基本電流指令ゲイン生成部61から出力される基本電流ゲインGifと補正電流指令ゲイン生成部62から出力される補正電流指令ゲインGiaとリトライ電流指令ゲイン生成部63から出力されるリトライ電流指令ゲインGirとに基づいて2相電流指令値Iiref及びIjrefを生成する2相制御用各相電流指令値生成部64とを備えている。ここで、補正電流指令ゲイン生成部62、リトライ電流指令ゲイン生成部63及び2相制御用各相電流指令値生成部64で、電流指令値補正手段が構成されている。
【0038】
基本電流指令値生成部60は、誘起電圧算出部60aと相電流指令値算出部60bとを備えている。誘起電圧算出部60aは、電気角θe及び後述する異常検出回路27から出力される相異常検出信号ASに基づいて、合成誘起電圧EMFa(θe)を算出する。
ここで、誘起電圧算出部60aは、B−C2相で駆動する場合の図9の特性曲線L3で表される合成誘起電圧EMFaと電気角θeとの関係を示す合成誘起電圧算出用記憶テーブル、A−B2相で駆動する場合の合成誘起電圧EMFaと電気角θeとの関係を表す合成誘起電圧算出テーブル、及びA−C2相で駆動する場合の合成誘起電圧EMFaと電気角θeとの関係を表す合成誘起電圧算出用記憶テーブルの3つの合成誘起電圧算出用記憶テーブルを有する。そして、相異常検出信号ASに基づいて正常である2相に対応する合成誘起電圧算出用記憶テーブルを選択し、電気角θeをもとに選択した合成誘起電圧算出用記憶テーブルを参照して合成誘起電圧EMFa(θe)を算出する。
【0039】
相電流指令値算出部60bは、誘起電圧算出部60aで算出した合成誘起電圧EMFa(θe)、操舵補助電流指令値Iref及び電気角速度ωeに基づいて、相電流指令値Im(θe)を算出する。
すなわち、相電流指令値算出部60bは、下記(4)の演算を行って相電流指令値Im(θe)を算出する。
Im(θe)=(Kt2×Iref×ωe)/EMFa(θe) ………(4)
ここで、Kt2は2相通電時のモータトルク定数である。
【0040】
基本電流指令ゲイン生成部61は、相異常検出信号ASが“0”以外の値であるときに、異常を検出した相以外の2つの相に対して電気角θeを0〜180°及び180°〜360°に振り分けるオフセット処理を行う故障相別角度オフセット処理部65と、このオフセット処理された故障相別シフト後電気角θesと逆誘起電圧特性ゲインとの関係を表す逆誘起圧特性ゲイン算出用記憶テーブルを有する逆EMF特性ゲイン算出部66とを備えている。
【0041】
そして、逆誘起電圧特性ゲイン算出部66から故障相別シフト後電気角θesに応じた基本電流ゲインGifが2相制御用各相電流指令値生成部64に供給される。
補正電流指令ゲイン生成部62は、切増切戻判定部71と、モータ加速領域判定部72と、トルク低下領域判定部73と、補正電流指令ゲイン生成部74とを備えている。
切増切戻判定部71は、図10に示すように、操舵トルクセンサ3で検出された操舵トルクTが入力されて操舵トルクTの符号を判定する操舵トルク符号判定部71aと、この操舵トルク符号判定部71aの判定結果と電気角速度ωeが入力されてブラシレスモータの回転方向を判定する回転方向判定部71bと、この回転方向判定部71bの判定結果と操舵トルク符号判定部71aの判定結果とが入力されて切増/切戻を判定して、切戻状態で“1”となる第1の切戻フラグFr1を出力する切増/切戻判定部71cとを備えている。
【0042】
操舵トルク符号判定部71aは、操舵トルクTが零を含む正値であるときには論理値“1”の符号判定出力Stが出力され、操舵トルクTが負値であるときには論理値“0”の符号判定出力Stが出力される。
回転方向判定部71bは、操舵トルク符号判定部71aから入力される符号判定出力Stが論理値“1”であるときには、回転速度ωmに予め設定された回転速度ヒステリシスωhを加算した値の絶対値が回転速度ヒステリシスωh1を超えているか否かを判定する。この判定結果が、|ωm+ωh1|>ωh1である場合には、回転速度ωmが0を含む正値であるときに論理値“1”の回転方向判定出力Srを出力し、回転速度ωmが負値であるときには論理値“0”の回転方向判定出力Srを出力する。また、|ωm+ωh1|≦ωh1であるときには前回出力を維持する。
【0043】
また、回転方向判定部71bは、操舵トルク符号判定部71aから入力される符号判定出力Stが論理値“0”であるときには、回転速度ωmから予め設定された回転速度ヒステリシスωh2を減算した値の絶対値が回転速度ヒステリシスωh2を超えているか否かを判定する。この判定結果が、|ωm−ωh2|>ωh2である場合には、回転速度ωmが0を含む正値であるときに論理値“1”の回転方向判定出力Srを出力し、回転速度ωmが負値であるときには論理値“0”の回転方向判定出力Srを出力する。また、|ωm−ωh2|≦ωh2であるときには前回出力を維持する。
【0044】
さらに、切増/切戻判定部71cは、入力される回転方向判定出力Sr及び符号判定出力Stに基づいて回転方向判定出力Sr及び符号判定出力Stが不一致となっている継続時間が切増から切戻に切り換わる切換時間閾値を超えているか否かを判定し、回転方向判定出力Sr及び符号判定出力Stが不一致となっている継続時間が切増から切戻に切り換わる切換時間閾値を超えているときには切戻状態であると判断して第1の切戻フラグFr1を“1”にセットし、上記以外の場合には切増状態であると判断して第1の切戻フラグFr1を“0”にリセットするとともに、内部カウンタを零リセットする。
【0045】
モータ加速領域判定部72bは、図19に示す基本電流指令値Im(θe)に基づいて電流値の絶対値が最大値Imaxから低下する電気角範囲である安定領域角範囲を算出する安定領域角算出部72aと、第1の切戻フラグFr1が“1”にセットされている領域に基づいて安定領域角範囲を補正する切戻操舵安定領域補正部72bと、後述するリトライカウント部81から入力されるリトライ回数Nrに基づいてリトライ切戻操舵による加速領域の増加分を補正するリトライ切戻操舵安定領域補正部72cと、このリトライ切戻操舵安定領域補正部72cから出力される安定領域角度θsaと故障相別シフト後電気角θesとに基づいて安定領域角度θsa以上の加速度領域内であるか否かを判定し、加速領域判定フラグFaを出力する加速領域判定部72dとを備えている。
【0046】
ここで、加速領域判定部72dは、故障相別シフト後電気角θesが安定領域角度θsa以上(θes≧θsa)であるときに、加速領域内であると判断して加速領域判定フラグFaを“1”にセットし、それ以外すなわちθes<θsaであるときには安定領域内であると判断して加速領域判定フラグFaを“0”にリセットする。
上記加速領域は、前述した相電流指令値算出部60bで算出する相電流指令値Im(θe)の符号が反転する電気角θeを跨ぐ所定の角度領域に設定する。具体的には、当該加速領域は、相電流指令値Im(θe)が、各相コイルの駆動系統で通電可能な電流値の上限に相当する相電流上限値(モータ駆動回路24で出力可能な最大電流値Imax)に達している角度領域の前後を含む角度領域とする。
【0047】
3相ブラシレスモータ12の何れか1相に通電異常が発生し、2相電流指令値に基づいて3相ブラシレスモータ12を回転駆動した場合、相電流指令値Im(θe)の符号が反転する電気角θeでモータトルクが必ず零となる。したがって、上記加速領域は、モータトルクが零となる電気角θeを跨ぐ角度領域とも言える。
トルク低下領域判定部73は、図12に示すように、電流指令値Iiref及びIjrefが最大電流値Imaxに近い値のトルク低下領域判定電流閾値Itd以上であるか否か判定する電流指令値比較部73aと、モータ回転速度ωmがトルク低下領域判定回転速度閾値ωtm以下であるか否かを判定する回転速度比較部73bと、前述した加速領域判定フラグFa、電流指令値比較部73aの比較出力及び回転速度比較部73bの比較出力が入力されてトルク低下領域内であるか否かを判定する判定部73cとを備えている。
【0048】
ここで、電流指令値比較部73aは、電流指令値Iiref及びIjrefの絶対値がトルク低下領域判定電流閾値Itd以上であるときに論理値“1”の比較出力Ctiを出力し、それ以外のときに論理値“0”の比較出力Ctiを出力する。
回転速度比較部73bは、回転速度ωmの絶対値がトルク低下領域判定回転速度閾値ωtm以下であるときには論理値“1”の比較出力Ctvを出力し、それ以外のときには論理値“0”の比較出力Ctvを出力する。
【0049】
判定部73cは、加速領域判定フラグFaが“1”にセットされ、電流指令値判定出力Stiが論理値“1”で、且つ回転速度判定出力Stvが論理値“1”であるときの継続時間がトルク低下領域判定時間閾値を超えているとき、又は第1の切戻フラグFr1が“1”にセットされているときには切戻状態であると判断して第2の切戻フラグFr2を“1”にセットし、それ以外の場合には、切増状態であると判断して第2の切戻フラグFr2を“0”にリセットするとともに、内部カウンタを零にリセットする。
【0050】
補正電流指令ゲイン生成部74は、電流指令値Iiref及びIjrefに基づいて切戻/切増時補正電流ゲインを算出するゲイン算出部74aと、加速領域判定フラグFa及び第2の切戻フラグFr2が入力される電流ゲイン算出部74bとを備えている。
ここで、ゲイン算出部74aは、切戻時に図14に示すゲイン算出マップを参照して切戻補正電流ゲインGirvを算出してゲイン算出部74bに設定するとともに、切増時に予め設定された切増補正電流ゲインをゲイン算出部74bに設定し、電流指令値Iiref及びIjrefが安定領域にあるときに予め設定された安定領域補正電流ゲインをゲイン算出部74bに設定する。
【0051】
ここで、切戻補正電流ゲインGirvは、図14に示すように、|Im(θe)|≧Im(θe)TH2であるときに0より僅かに大きな正値となり、|Im(θe)|<Im(θe)TH1であるときに最小値−Girminとなる。ここで、Girmin≦1である。また、切り戻し補正電流ゲインGirvは、Im(θe)TH1≦|Im(θe)|<Im(θe)fTH2であるとき、基本電流指令値|Im(θe)|が大きくなるにつれて−GirminからGirmaxまで徐々に変化するように設定する。
すなわち、|Im(θe)|≧Im(θe)TH2である場合には、相電流指令値Im(θe)の絶対値を減少させる補正を行う。一方、|Im(θe)|<Im(θe)TH1である場合には、相電流指令値Im(θe)の符号を反転すると共に減少させる補正を行う。
【0052】
また、Im(θe)TH1≦|Im(θe)|<Im(θe)TH2である場合には、上記相電流指令値Im(θe)の補正量を、操舵補助電流指令値Irefを基準に徐変させて急激な変化を防止する。このように、操舵補助電流指令値Irefに応じて相電流指令値Im(θe)の補正量を徐々に変化させる徐変領域を設ける。
ここで、上記閾値Im(θe)TH1及びIm(θe)TH2は、モータに回転力を与える程度のモータに係る外部負荷が発生する操舵補助電流指令値を基準に設定される。
【0053】
ゲイン算出部74bは、加速領域判定フラグFaが“1”にセットされ且つ切戻フラグFrが“1”にセットされているときには図14で算出される切戻補正電流ゲインを補正電流指令ゲインGiaとして2相制御用各相電流指令値生成部64へ出力する。また、ゲイン算出部74bは、加速領域判定フラグFaが“1”にセットされ且つ切戻フラグFrが“0”にリセットされているときに切増補正電流ゲインを補正電流指令ゲインGiaとして2相制御用各相電流指令値生成部64へ出力する。さらに、ゲイン算出部74は、上記の2つの状態以外のときには、安定領域補正電流ゲインを補正電流指令ゲインGiaとして2相制御用各相電流指令値生成部64へ出力する。
【0054】
リトライ電流指令ゲイン生成部63は、リトライカウント部81と、リトライ電流指令ゲイン算出部82とを備えている。リトライカウント部81は、図15に示すように、故障相別シフト後電気角θesがリトライ領域内に継続しているかを判定するリトライ継続判定部81aと、第2の切戻フラグFr2の切戻状態から切増状態への状態変化を判定して切戻→切増変化フラグFriを出力する状態変化判定部81bと、リトライ継続判定部81aの判定出力Srt及び状態変化判定部81bの切戻−切増変化フラグFriに基づいてリトライ回数Nrを算出するリトライ回数計数部81cとを備えている。
【0055】
ここで、リトライ継続判定部81aは、操舵トルクTを操舵トルク閾値Ttと比較するトルク比較部81dと、故障相別シフト後電気角θesと操舵トルクTとが入力されてリトライ領域電気角θrtを算出するリトライ領域電気角算出部81eと、故障相別シフト後電気角θesとリトライ領域電気角θrtとを比較するリトライ電気角比較部81fと、このリトライ電気角比較部81fの比較出力Ctiを1回分遅延させる遅延回路81gと、現在の比較出力Cti(n)と前回の比較出力Cti(n-1)とを比較して両者が一致するか否かを判定する一致検出回路81hと、一致検出回路81hの出力Scoとトルク比較部81dの比較出力Stcとの論理積を取るアンド回路81iとを備えている。
トルク比較部81dは、操舵トルクTと操舵トルク閾値とを比較して操舵トルクTが操舵トルク閾値以上であるときに論理値“1”の比較出力Ctcをアンド回路81iに出力し、それ以外のときに論理値“0”の比較出力Ctcをアンド回路81iに出力する。
【0056】
リトライ領域電気角算出部81eは、操舵トルクTが0を含む正値である場合に、故障相別シフト後電気角θesが180°未満であるときには180°にリトライ領域オフセット値Δθoを加算した値をリトライ領域電気角θrt(=180°+Δθo)としてリトライ電気角比較部81fに出力し、故障相別シフト後電気角θesが180°以上であるときには0°にリトライ領域オフセット値Δθoを加算した値をリトライ領域電気角θrt(=0°+Δθo)としてリトライ電気角比較部81fに出力する。同様に、リトライ領域電気角算出部81eは、操舵トルクTが負値である場合に、故障相別シフト後電気角θesが180°未満であるときには180°からリトライ領域オフセット値Δθoを減算した値をリトライ領域電気角θrt(=180°−Δθo)としてリトライ電気角比較部81fに出力し、故障相別シフト後電気角θesが180°以上であるときには0°からリトライ領域オフセット値Δθoを減算した値をリトライ領域電気角θrt(=0°−Δθo)としてリトライ電気角比較部81fに出力する。
【0057】
リトライ電気角比較部81fは、故障相別シフト後電気角θesとリトライ領域電気角θrtとを比較し、θes<θrtであるときに論理値“1”の比較出力Ctiを出力し、θes≧θrtであるときに論理値“0”の比較出力Ctiを出力する。
状態変化判定部81bは、第2の切戻フラグFr2が“1”から“0”にすなわち切戻状態から切増状態に状態変化した場合には切戻→切増変化フラグFriを“1”にセットし、それ以外の場合には切戻→切増変化フラグFriを“0”にリセットする。
【0058】
リトライ回数計数部81cは、リトライ継続判定部81aの判定結果がリトライ領域電気角内継続であるときに、切戻→切増変化フラグFriが“1”となる毎にリトライ回数Nrを“1”だけインクリメントし、リトライ継続判定部81aの判定結果がリトライ領域電気角内継続ではないときにはリトライ回数Nrを“0”にクリアし、リトライ回数Nrをリトライ電流指令ゲイン生成部82及び補正電流指令ゲイン生成部62のモータ加速領域判定部72に出力する。
【0059】
リトライ電流指令ゲイン生成部82は、図16に示すように、リトライ回数Nrと第2の切戻フラグFr2とが入力されるリトライゲイン出力判定部82aと、このリトライゲイン出力判定部82aの判定結果とリトライ回数Nrとが入力されるリトライ電流指令ゲイン演算部82bとを備えている。
【0060】
ここで、リトライゲイン出力判定部82aは、リトライ回数Nrが予め設定した閾値Ns以上で且つ第2の切戻フラグFr2が“1”にセットされて切戻状態である場合にリトライゲインを出力するものと判断して論理値“1”のリトライゲイン出力判定信号Srgをリトライ電流指令ゲイン演算部82bに出力し、上記以外の場合にリトライゲインを出力しないものと判断して論理値“0”のリトライゲイン出力判定信号Srgをリトライ電流指令ゲイン演算部82bに出力する。
【0061】
リトライ電流指令ゲイン演算部82bは、リトライゲイン出力判定信号Srgが論理値“1”であるときに、予め設定されたリトライ電流指令基準ゲインGirbにリトライ回数Nrを乗算した値をリトライ電流指令ゲインGir(=Gitb*Nr)として2相制御用各相電流指令値生成部64に出力する。
【0062】
2相制御用各相電流指令値生成部64は、図18に示すように、基本電流指令ゲイン生成部61から出力される基本電流指令ゲインGifに補正電流指令ゲイン生成部62から出力される補正電流ゲインGiaを乗算する乗算器64aと、この乗算器64aの乗算出力をビット調整回路64bでビット調整してからリトライ電流指令ゲイン生成部63から出力されるリトライ電流指令ゲインGirを加算する加算器64cと、この加算器64cの加算出力を基本電流指令値Im(θe)に乗算する乗算器64dと、この乗算器64dの乗算出力をビット調整するビット調整回路64eと、このビット調整回路64eから出力される相電流指令値を最大値で制限する相電流指令値制限回路64fと、この相電流指令値制限回路64fで制限された相電流指令値を変化量を制限するレイトリミッタ64gと、このレイトリミッタ64gから出力される電流指令値Imと相異常検出信号ASとが入力される各相電流選択演算部64hとから構成されている。
【0063】
ここで、各相電流選択演算部64hは、相異常検出信号ASがA相故障を表しているときには、A相電流指令値Iarefを0に設定し、B相電流指令値Ibrefを−Imに設定し、C相電流指令値を+Imに設定する。また、各相電流選択演算部64hは、相異常検出信号ASがB相故障を表しているときには、A相電流指令値Iarefを+Imに設定し、B相電流指令値Ibrefを0に設定し、C相電流指令値Icrefを−Imに設定する。さらに各相電流選択演算部64hは、相異常検出信号ASがC相故障を表しているときには、A相電流指令値Iarefを−Imに設定し、B相電流指令値Ibrefを+Imに設定し、C相電流指令値Icrefを0に設定する。
【0064】
指令値選択部35は、切換スイッチ91a、91b及び91cと、これら切換スイッチ91a、91b及び91cを切換え制御する選択制御部92とを備えている。
切換スイッチ91a、91b及び91cの常閉接点には、正常時モータ指令値算出部33の2相/3相変換部33eで算出された各相電流指令値Iaref、Ibref及びIcrefが入力され、他方の常開接点には異常時モータ指令値算出部34から出力される各相電流指令値Iaref、Ibref及びIcrefが入力される。
【0065】
選択制御部92は、異常検出回路27から出力される相異常検出信号ASが全ての相が正常であることを示す“0”であるとき、切換スイッチ91a〜91cに対して常閉接点を選択する論理値“0”の選択信号を出力すると共に、後述する遮断リレー回路RLY1〜RLY3に対してこれらをオン状態に制御するリレー制御信号を出力する。一方、相異常検出信号ASが“0”でないときには、切換スイッチ91a〜91cに対して常開接点を選択する論理値“1”の選択信号を出力すると共に、異常となった駆動系統に対応する遮断リレー回路RLYx(x=a〜c)に対してこれをオフ状態に制御するリレー制御信号を出力する。
【0066】
モータ電流制御部36は、指令値選択部35から供給される各相電流指令値Iaref,Ibref,Icrefから電流検出回路22で検出した各相コイルLa、Lb、Lcに流れるモータ相電流検出値Iad、Ibd、Icdを減算して各相電流誤差ΔIa、ΔIb、ΔIcを求める減算器101a、101b及び101cと、求めた各相電流誤差ΔIa、ΔIb、ΔIcに対して比例積分制御を行って指令電圧Va、Vb、Vcを算出するPI制御部102とを備えている。
【0067】
そして、PI制御部102から出力される指令電圧Va、Vb、VcがFETゲート駆動回路25に供給される。
モータ駆動回路24は、図2に示すように、各相コイルLa、Lb及びLcに対応して直列に接続されたNチャンネルMOSFETで構成されるスイッチング素子Qaa,Qab、Qba,Qbb及びQca,Qcbを並列に接続されたインバータ構成を有する。スイッチング素子Qaa,Qabの接続点、Qba,Qbbの接続点及びQca,Qcbの接続点は、夫々相コイルLa、Lb及びLcの中性点Pnとは反対側に接続されている。
【0068】
そして、モータ駆動回路24を構成する各スイッチング素子Qaa,Qab、Qba,Qbb及びQca,QcbのゲートにFETゲート駆動回路25から出力されるPWM(パルス幅変調)信号が供給される。
さらに、遮断用リレー回路26は、3相ブラシレスモータ12の相コイルLa、Lb及びLcの中性点Pnとは反対側の端子と、モータ駆動回路24の電界効果トランジスタQaa,Qab、Qba,Qbb及びQca,Qcbの接続点との間に個別に介挿されたリレー接点RLY1、RLY2及びRLY3で構成されている。各リレー接点RLY1〜RLY3は、選択制御部92から出力されるリレー制御信号によってオン/オフ状態が制御される。このとき、異常検出回路27で全ての相で異常が検出されない正常状態では閉状態(オン状態)に制御され、何れか1つの相で異常が検出されたときに異常となった相のリレー接点RYLi(i=1〜3)が開状態(オフ状態)に制御される。
【0069】
さらにまた、異常検出回路27は、FETゲート駆動回路25に供給する電圧指令値Va、Vb及びVc又はモータ駆動回路24に供給するパルス幅変調信号と各相のモータ電圧とを比較することによってA相、B相、及びC相の不導通及び短絡異常を検出することができる。そして、異常検出回路27では、A相、B相及びC相の全てが正常である場合には、“0”、A相不導通異常時には“A1”、A相短絡異常時には“A2”、B相不導通異常時には“B1”、B相短絡異常時には“B2”、C相不導通異常時には“C1”、C相短絡異常時には“C2”となる相異常検出信号ASを制御演算装置23の異常時モータ指令値算出部34及び指令値選択部35に出力する。
なお、図1の操舵トルクセンサ3が操舵トルク検出手段に対応し、車速センサ21が車速検出手段に対応し、操舵補助制御装置20がモータ制御手段に対応し、図2の異常検出回路27がコイル相異常検出手段に対応している。
【0070】
また、図3の操舵補助電流指令値演算部31が操舵補助電流指令値算出手段に対応し、正常時モータ指令値算出部33が正常時モータ指令値算出手段に対応し、異常時モータ指令値算出部34が異常時モータ指令値算出手段に対応し、指令値選択部35及びモータ電流制御部36がモータ駆動制御手段に対応している。さらに、モータ加速領域判定部72が加速領域判定手段に対応し、リトライ電流指令ゲイン生成部63がリトライ加速手段に対応している。
【0071】
次に、上記実施形態の動作を説明する。
(動作)
次に、上記実施形態の動作を説明する。
今、モータ駆動回路24を構成する各電界効果トランジスタQaa〜Qcbが正常であると共に、3相ブラシレスモータ12の各相コイルLa〜Lcに断線や地絡が生じていない正常状態であるものとする。この場合には、異常検出回路27で異常状態が検出されることがないため、異常検出回路27は“0”を表す相異常検出信号ASを異常時モータ指令値算出部34及び指令値選択部35に出力する。
【0072】
このため、指令値選択部35の選択制御部92は論理値“0”の選択信号を切換スイッチ91a〜91cに出力する。したがって、各切換スイッチ91a〜91cが常閉接点側を選択し、正常時モータ指令値算出部33が出力した相電流指令値Iaref〜Icrefがモータ電流制御部36に供給される。これと同時に各リレー接点RLY1〜RLY3に対してこれらを閉状態に制御するリレー制御信号が出力される。
【0073】
これにより、モータ駆動回路24から出力したモータ駆動電流Ia、Ib及びIcがリレー接点RLY1、RLY2及びRLY3を介して3相ブラシレスモータ12の各相コイルLa、Lb及びLcに供給される。すなわち、3相コイルを使用したモータ駆動制御が行われる。
このとき、車両が停止しており、運転者がステアリングホイール1を操舵していない状態であるとすると、制御演算装置23の正常時モータ指令値算出部33は、相電流指令値Iaref、Ibref及びIcrefをそれぞれ“0”に算出する。このとき、3相ブラシレスモータ12が停止している場合には、各相コイルLa、Lb及びLcに供給されるモータ電流Ia、Ib及びIcも“0”となり、3相ブラシレスモータ12は停止状態を維持する。
【0074】
このステアリングホイール1の非操舵状態から、車両の停止時にステアリングホイール1を操舵する所謂据え切り状態とすると、これに応じて操舵トルクセンサ3は大きい操舵トルクTを検出する。したがって、正常時モータ指令値算出部33は、この操舵トルクTに応じた相電流指令値Iaref、Ibref及びIcrefを算出し、これらをモータ電流制御部36に供給する。
【0075】
すると、モータ電流制御部36は、相電流指令値Iaref、Ibref及びIcrefに基づいて指令電圧Va、Vb及びVcを算出し、これらをFETゲート駆動回路25に供給する。これにより、モータ駆動回路24の各電界効果トランジスタが制御されて、3相ブラシレスモータ12が回転駆動される。このため、3相ブラシレスモータ12は、ステアリングホイール1に入力される操舵トルクTに応じた操舵補助力を発生し、これが減速ギヤ11を介してステアリングシャフト2に伝達されることにより、運転者はステアリングホイール1を軽い操舵力で操舵することができる。
【0076】
この正常状態から、例えばA相コイルLaを駆動する駆動系統即ちモータ駆動回路24の電界効果トランジスタQaa又はQabがオフ状態を継続したままとなるか、A相コイルLaを含む通電経路に断線が生じることにより、A相コイルLaが不導通となる異常が発生したものとする。この場合、当該異常を異常検出回路27で検出し、異常検出回路27はA相不導通異常を表す“A1”の相異常検出信号ASを異常時モータ指令値算出部34及び指令値選択部35に供給する。
このため、選択スイッチ91a〜91cが常閉接点側から常開接点側に切換えられる。したがって、モータ電流制御部36に供給する相電流指令値は、正常時モータ指令値算出部33が出力する相電流指令値Iaref〜Icrefから、異常時モータ指令値算出部34が出力する相電流指令値Iaref〜Icrefに切換えられる。
【0077】
異常時モータ指令値算出部34では、異常検出回路27から入力される相異常検出信号ASが“A1”であるので、誘起電圧算出部60aで、角度情報演算部32から入力される電気角θeをもとに、V相誘起電圧とW相誘起電圧との合成誘起電圧EMFa(θe)を算出する。そして、算出された合成誘起電圧EMFa(θe)が相電流指令値算出部60bに供給され、この相電流指令値算出部60bで前記(4)式の演算を行って基本相電流指令値Im(θe)を算出する。
【0078】
この基本相電流指令値Im(θe)は、図17(a)に示すように、電気角θe=0°で正値の最小値となり、その後電気角θeが増加するにつれて増加し、電気角θeが60°近傍で最大電流値となり、その後電気角θeが90°で符号反転して負値の最大値となり、その後、電気角θeが110°近傍で負値の最大値から徐々に減少して電気角θeが180°で絶対値が最小値となる。
【0079】
この基本相電流指令値Im(θe)によって、ブラシレスモータ12で発生するモータトルクは図17(b)に示すように、基本相電流指令値Im(θe)が正値の最大電流値に達するまでは一定値を維持し、基本相電流指令値Im(θe)が正値の最大電流値に達すると、電気角θeの増加に応じて減少し、基本相電流指令値Im(θe)が符号反転する電気角θeが90°となるときにモータトルクは“0”となる。
【0080】
その後、電気角θeが90°を超えて増加すると電気角θeの増加に応じてモータトルクも回復して行き、基本相電流指令値Im(θe)の絶対値が減少し始める時点で一定トルクに復帰し、その後電気角θeの増加に関わらずモータトルクは一定値を維持する。
ここで、モータトルクが一定値から減少している領域がモータトルク低下領域Atdとなり、このモータトルク低下領域Atdとその両側のモータトルクを最大値まで増加可能なモータトルク発生領域Atgとを含めて加速領域Aaが設定される。
【0081】
このとき、ステアリングホイール1を例えば右切りしている状態で、操舵電気角θeが加速領域に達せず安定領域にあるものとすると、モータ加速領域判定部72は加速領域判定フラグFa=0を出力する。また、このとき、運転者がステアリングホイール1を切り増し方向に操舵している場合には、切増切戻判定部71は、第1の切戻フラグFr1を、切増状態を表す“0”にリセットする。
【0082】
このため、電気角θeが安定領域にあるので、トルク不足を生じることはなく、トルク低下領域判定部73では、加速領域判定フラグFaが“0”にリセットされ、電流指令値Im(θe)の絶対値もトルク低下領域判定電流閾値より小さいので、電流指令値比較部73aの比較出力Ctiも論理値“0”であり、モータ回転速度ωmもトルク低下領域判定回転速度より高くなっている。したがって、判定部73cでは第2の切戻フラグFr2が切増状態を表す“0”にリセットされている。
このため、補正電流指令ゲイン生成部74では、安定領域補正電流ゲインが補正電流指令ゲインGiaとして2相制御用各相電流指令値生成部64に供給される。
【0083】
一方、リトライ電流指令ゲイン生成部63では、第2の切戻フラグFr2が“0”にリセットされている状態が継続しており、状態変化がないので、切戻→切増判定部81bで設定される切戻→切増変化フラグFriが“0”を維持しており、リトライカウント部81cではリトライ回数Nrが“0”にクリアされた状態を維持する。このとき、リトライ領域継続判定部81aでは、操舵トルクセンサ3で検出された操舵トルクTが大きいものとすると、操舵トルク比較部81dから出力される比較出力が論理値“1”となり、リトライ領域電気角演算部81eで算出されるリトライ領域電気角θrtは、操舵トルクTが右切り状態であるので正値となり、電気角θeが180°未満であるとするθrt=180°+リトライ領域オフセット値Δθoとなる。このため、リトライ領域は、図17に示すように、電気角0°〜180°の範囲の実線図示の基本リトライ領域に対して点線図示のリトライ領域オフセット値Δθo分だけ右側にシフトする。このため、リトライ領域電気角比較部81fでは電気角θeがリトライ領域電気角θrtより小さいので、論理値“1”の比較出力Cti(n)が出力される。このとき、前回の比較出力Cti(n-1)が電気角θeが180°を超えていて360°未満であって、論理値“0”であるものとすると一致回路81hで不一致が検出されて、その出力が論理値“0”となり、アンド回路81iの出力は、操舵トルクTが操舵トルク閾値より大きいかないかにかかわらず論理値“0”となり、リトライ領域電気角内継続状態ではないことを表す。このため、リトライカウント部81cで、リトライ回数Nrが“0”にクリアされる。
このため、リトライ電流ゲイン生成部82ではリトライ回数Nrが“0”であり、第2の切戻フラグFr2も“0”にリセットされているので、リトライ電流指令ゲイン演算部82bでリトライ電流指令ゲインGirが“0”に設定される。
【0084】
そして、2相制御用各相電流指令値生成部64では、故障相別シフト後電気角θesに基づいて逆誘起電圧特性ゲイン算出部67で基本電流ゲインGifが算出されているのだ、この基本電流ゲインGifに安定領域補正電流ゲインでなる補正電流指令ゲインGiaを乗算してからビット調整を行った値に“0”のリトライ電流指令ゲインGirを加算し、これを電流指令値Im(θe)に乗算するので、安定領域に対応した電流指令値が得られ、これが相電流指令値制限部64fで最大値が制限されるとともに、レイトリミッタ64gで変化率が制限されて電流指令値Imとして各相電流選択演算部64hに供給される。
【0085】
このとき、各相電流選択演算部64hではA相が故障しているので、B相電流指令値Ibrefが−Imに設定され、C相電流指令値Icrefが+Imに設定される。このため、図20に示す電流波形がブラシレスモータ12のB相コイルLb及びC相コイルLcに供給される。
このとき、電気角θeが0°〜90°であるときには、C相コイルLcからB相コイルLbに向けて電流を流し、電気角θeが90°〜270°であるときにはB相コイルLbからC相コイルLcに向けて電流を流す。さらに、電気角θeが270°〜360°であるときにはC相コイルLcからB相コイルLbに向けて電流を流す。また、A相電流指令値Iarefは“0”に設定される。
【0086】
すなわち、A相の駆動系統に通電異常が発生している場合には、B相電流指令値とC相電流指令値とが互いに逆符号でその絶対値が等しくなるようにする(正常な2相の電流指令値の和が零となるようにする)。
こうして、回転するステータ合成磁界を発生させてロータを回転させることにより、3相ブラシレスモータ12を2相駆動する。
【0087】
図19は、切り増し操舵時のC相のモータ電流とモータトルクとを示す図であり、破線は相電流指令値Im(θe)の補正を行わない場合のモータ電流及びモータトルク、実線は上記補正を行った場合のモータ電流及びモータトルクを示している。
ここでは切り増し操舵を行っているため、モータトルク方向とモータ回転方向は共に正方向(図11の左→右)であり、モータに係る外部負荷(操舵反力)の方向は負方向(図11の右→左)となる。
【0088】
図19の破線に示すように、相電流指令値Im(θe)の補正を行わない場合のC相電流指令値Icrefは、基本電流指令値Im(θe)のままであるので、モータ電流が電流上限に達する前の領域(モータトルク低下領域Atdに達する前の領域)では、基本モータ電流は下に凸となる円弧状で正の最大電流値まで増加する。そして、モータトルク低下領域Atdでは、90°より前の領域で負の最大値を維持し、90°で符号が反転して90°より後の領域で負の最大値を維持する。また、モータトルク低下領域Atdを超えると、モータ電流は上に凸となる円弧状で絶対値が最大値から減少する。
【0089】
このときモータトルクは、図19(b)で破線に示すように、モータトルク低下領域Atdの前後の角度領域においては一定値となる。そして、相電流が電流上限に達するモータトルク低下領域Atdではモータトルクが低下し、90°でモータトルクが零となる。すなわち、モータトルク低下領域Atdの前後の角度領域は、一定のモータトルクを出力可能な安定出力角度領域であり、モータトルク低下領域Atdは、モータ駆動回路24で出力可能な最大電流値Imaxで電流が制限されて、一定のモータトルクが得られない不安定出力角度領域となる。
このように、通電異常時に3相ブラシレスモータを駆動制御したとき、相電流指令値Im(θe)の符号が反転し、モータトルクが必ず零になる電気角θe(90°,270°)が存在する。本実施形態では、その電気角θeを跨ぐ領域Atdの前後の領域(領域Atg)を含む角度領域を加速領域Aaとする。
【0090】
電気角θeが加速領域Aaに達していない場合、補正電流指令ゲインGiaが安定領域補正電流ゲイン(<1)に設定されるので、2相制御用各相電流指令値生成部64では、相電流指令値Im(θe)を減少補正した電流指令値Imが生成される。
このように、加速領域Aaに達する前の安定出力角度領域でモータ電流を減少補正することで、この領域ではモータトルクが低減する。これにより、操舵トルクを意図的に上昇させる。
【0091】
その後、電気角θeが加速領域Aaに達すると、モータ加速領域判定部72は加速領域判定フラグFa=1を出力する。このとき、第1の切戻フラグFr1は“0”にリセットされており、第2の切戻フラグFr2も“0”にリセットされている。
このため、補正電流指令ゲイン生成部74の補正電流指令ゲイン演算部74bで切増補正電流ゲインGii(>1)が選択され、この切増補正電流ゲインGiiが補正電流指令ゲインGiaとして2相制御用各相電流指令値生成部64に出力される。
このとき、リトライ電流指令値ゲイン生成部63では、リトライ電流指令ゲインGirが“0”を維持する。
【0092】
このため、2相制御用各相電流指令値生成部64の乗算器64aで基本電流指令ゲインGifに切増補正電流ゲインGiiでなる補正電流指令ゲインGiaが乗算されるので、電流ゲインが増加し、ここの電流ゲインが電流指令値Im(θe)に乗算されるので、電流指令値Im(θe)′が急増し、相電流指令値制限部64fで最大値に制限されるとともに、レイトリミッタ64gで変化率が制限される。このため、レイトリミッタ64gから出力される電流指令値Imは図19に示すように比較的急峻に最大値まで増加する。
このように、加速領域Aaに達したときにモータ電流を増加補正することで、モータトルクを上昇し3相ブラシレスモータ12を正方向に加速する。この増加補正は電気角θeが加速領域Aa内に存在する間、継続する。
【0093】
この加速領域Aaにおいて、補正電流指令ゲイン生成部74による補正電流指令ゲインGiaが増加されることによって、電流指令値Imが電流最大値Imaxまで増加し、これにより、加速領域Aaでは、90°を境にして正の最大値と負の最大値とを維持することになる。すなわち、領域Aaの前後の領域Atgでは、破線に示す補正無しの場合と比較してモータ電流が大きくなり、それに伴ってモータトルクも大きくなる。
このように、電流上限に到達する前後の安定出力角度領域Atg、すなわちモータトルクを自由に増加減できる角度領域でモータ電流を増加する補正を行う。
【0094】
そして、電気角θeが加速領域Aaを超えると、モータ加速領域判定部72は加速領域判定フラグFa=0を出力する。そのため、補正電流指令ゲイン生成部74で安定領域補正電流ゲインが補正電流指令値ゲインGiaとして選択されるので、2相制御用各相電流指令値生成部64で基本電流指令値Im(θe)が再度減少する補正が行われて電流指令値Imが減少し、モータトルクを低減する。
【0095】
このように、切り増し操舵時は、領域Aに達する前の領域Bでモータを正方向に加速するので、モータの慣性トルクによって、図中丸印b→丸印cに示すように、一定のモータトルクが得られないモータトルク低下領域Atdを飛び越えることができる。また、このとき、加速領域Aaの手前で相電流指令値を低減し、操舵トルクを上昇させておく。モータに掛かる外部負荷は、車両負荷−操舵力(操舵トルク)であるため、操舵トルクを上昇させることでモータに掛かる外部負荷を小さくしておくことができる。そのため、加速領域Aaでのモータ加速を行い易くすることができる。
【0096】
さらに、加速領域Aaにおいては、領域Atdを超えた後の領域Atgでもモータを正方向に加速するので、一度領域Atdを飛び越えた後に、負方向に発生しているモータに掛かる外部負荷によりモータがモータトルク低下領域Atdに再度落ち込むのを防ぐことができる。したがって、丸印c→丸印dに示すように、適切にモータを正方向に回転させることができる。
このように、3相のうち1相に異常が発生した場合には、残りの2相を使用して3相ブラシレスモータ12を継続駆動することができる。また、このとき、電流制限により一定のモータトルクが得られないモータトルク低下領域Atdを効率良く飛び越えることができる。
【0097】
しかしながら、直進走行時に近い操舵状態では、操舵トルクTが小さく、これに応じてブラシレスモータ12で発生される操舵補助トルクも小さく、操舵トルクTと操舵補助トルクとを加算したトルク合算値が外部負荷(操舵反力)と略一致して釣り合ってしまう場合が生じる。この場合には、上述したように、加速領域Aaに入った時点で、補正電流指令ゲインGiaを増加させて、ブラシレスモータ12を加速させても、ブラシレスモータ12で大きな慣性トルクを得ることができず、トルク不足となってモータトルク低下領域Atdを飛び越えられない状態が発生する。
【0098】
この場合には、2相制御用各相電流指令値生成部64で生成される電流指令値Imは最大値を維持するが、トルク不足により、モータトルク低下領域を飛び越えられないので、故障相別シフト後電気角θesが現在の値近傍に留まることになり、操舵トルクTが大きくなりながらブラシレスモータ12の回転速度ωmが減少することになり、運転者に引っ掛かり感を与えることになる。
【0099】
このような状態となると、右切り状態であるので、操舵トルクTが正方向に大きくなり、且つ故障相別シフト後電気角θesがリトライ領域電気角θrt(=180°+Δθo)より小さい状態を維持することにより、電気角比較部81fの比較出力Cti(n)が論理値“1”となるとともに、前回の比較主力Cti(n-1)も論理値“1”であるので、一致回路81hから論理値“1”の一致出力がアンド回路81iに供給される。
【0100】
一方、操舵トルク比較部81dでは、操舵トルクの絶対値|T|が操舵トルク閾値より大きくなるので、論理値“1”の比較出力Ctcがアンド回路81iに出力されるので、アンド回路81iの出力がリトライ領域電気角内継続を表す論理値“1”となる。
このとき、トルク低下領域判定部73では、加速領域判定フラグFaが“1”にセットされており、電流指令値Im(θe)が最大値であることから電流指令値比較部73aから出力される比較出力Ctiが論理値“1”となる。また、モータ回転速度ωmが低下して、略零に近づいて、トルク低下領域判定回転速度閾値以下に低下するので、回転速度比較部73bの比較出力Ctvも論理値“1”となる。
【0101】
そして、この状態がトルク低下領域判定時間閾値を超えて継続すると、判定部73cで、第2の切戻フラグFr2が強制的に切戻状態を表す“1”にセットされる。
このため、補正電流指令ゲイン生成部74では、加速領域フラグFaが“1”にセットされ、第2の切戻フラグFr2が“1”にセットされるので、切戻補正電流ゲインGirvが補正電流指令ゲインGiaとして2相制御用各相電流指令値生成部64に出力される。このときの切戻補正電流ゲインGirvは、図14に示すように、電流指令値Im(θe)が最大値となっているので、“1”より小さく零に近い正値になる。
【0102】
この補正電流指令ゲインGiaが2相制御用各相電流指令値生成部64に供給されて、電流指令値Im(θe)に乗算されるので、補正後の電流指令値Im(θe)が図19において矢印Y1で示すように、零に近い値にまで低下される。
このため、ブラシレスモータ12で発生される操舵補助トルクが略零となるので、操舵トルクTと操舵補助トルクとを合算したトルクに対して外力(操舵反力)の方が大きな値となることにより、外力によってブラシレスモータ12が戻されることにより、電気角θesが図19において矢印Y2で示すように低下する。
【0103】
そして、電気角θeが加速領域Aaを外れて安定出力領域に移行すると、モータ加速領域判定部72で加速領域判定フラグFaが“0”にリセットされる。このため、トルク低下領域判定部73では加速領域判定フラグFaが“0”にリセットされることにより、第2の切戻フラグFr2が“0”にリセットされる。したがって、補正電流指令ゲイン生成部74で、加速領域判定フラグFaが“0”にリセットされ、第2の切戻フラグFr2が“0”にリセットされているので、補正電流指令ゲイン演算部74bで安定領域補正電流ゲインが選択されて、この安定領域補正電流ゲインが補正電流ゲインとして2相制御用各相電流指令値生成部64に供給される。
【0104】
したがって、前述したと同様に、電流指令値Imが図19の矢印Y3で示すように増加する。この電流指令値Imの増加によってブラシレスモータ13で発生するモータトルクが増加し、再度切増状態に移行する。これによって、故障相別シフト後電気角θesが増加し、加速領域Aaに達すると、再度加速領域判定フラグFaが“1”にセットされて、上述したと同様のブラシレスモータ12の加速制御がリトライ加速制御として実行される。
【0105】
このとき、リトライカウント部81では、リトライ領域内電気角継続状態を維持しているので、第2の切戻フラグFr2が切戻状態から切増状態に状態変化したときに、リトライ回数Nrが“0”から“1”にインクリメントされる。
このリトライ加速制御で、モータトルク低下領域Atdを飛び越せれば、その後は、2相制御が継続されることになる。
【0106】
しかしながら、リトライ加速制御を所定回数繰り返してもモータトルク低下領域Atdを飛び越せない場合には、リトライ回数Nrが順次増加される。このように、リトライ回数Nrが増加すると、リトライ回数に応じてモータ加速領域判定部72におけるリトライ切戻操舵安定領域補正部72cで図19に示すように、加速領域Aaが順次増加される。このため、矢印Y2で示す外力による電気角θesの戻し位置が順次遠くなり、電流指令値が最大値となる電気角θesが小さくなるので、ブラシレスモータ12の加速制御をより長く行って、ブラシレスモータ12の慣性トルクを大きくし、モータトルク低下領域Atdを飛び越し易くする。この加速領域Aaの増加によって、モータトルク低下領域Atdを飛び越せれば、前述した通常時の2相制御状態に復帰する。
【0107】
しかしながら、この加速領域Aaの増加によっても、モータトルク低下領域Atdを飛び越せない場合には、リトライ回数Nrが所定閾値となり、且つ第2の切戻フラグFr2が切戻状態を示す“1”にセットされているときには、リトライ電流ゲイン生成部82のリトライゲイン出力判定部82aから出力されるリトライゲイン出力判定信号Srgが論理値“1”となる。このリトライゲイン出力判定信号Srgがリトライ電流指令ゲイン演算部82bに供給されるので、このリトライ電流指令ゲイン演算部82bで、リトライ電流指令基準ゲインGirbにリトライ回数Nrを乗算したリトライ電流指令ゲインGirが増加される。
【0108】
このため、2相制御用各相電流指令値生成部64で基本電流ゲインGifにリトライ電流指令ゲインGirが加算されることにより、安定出力領域での電流指令値Imが図19で一点鎖線図示のように基本電流指令値を超えて増加される。このため、安定出力領域でのブラシレスモータ12から出力されるモータトルクも増加されることになり、ブラシレスモータ12のより大きな電流指令値によるトルク加速制御を行うことができ、モータ慣性トルクを増加させて、モータトルク低下領域Atdを飛び越すことができる。
【0109】
このように、上記実施形態によれば、操舵トルクTとブラシレスモータ12で発生するモータトルクとの合算値が外力(操舵反力)に釣り合った場合に、モータトルク低下領域Atdを飛び越せない状態が発生して、電流指令値Im(θw)が最大値を維持しながらモータ回転速度ωmが低下して運転者に引っ掛かり感を与える状態となったときに、強制的に第2の切戻フラグFr2を切戻状態を表す“1”にセットすることにより、補正電流指令ゲインGiaを切戻補正電流ゲインGirvに設定して、補正電流指令ゲインGiaを零近くまで低下させる。このため、電流指令値Imが零近くまで低下することにより、外力によってブラシレスモータ12が切戻方向に戻されて、再度ブラシレスモータ12を加速するリトライ加速状態とすることができる。
【0110】
このリトライ加速状態を繰り返してもモータトルク低下領域Atdを飛び越せない場合には、リトライ回数Nrの増加に応じて安定出力領域を縮小して加速領域Aaを増加させることにより、ブラシレスモータ12の加速制御時間を増加させて、より大きい慣性トルクを発生するようにブラシレスモータ12をリトライ加速制御する。
この加速領域Aaを増加させても、モータトルク低下領域Atdを飛び越せない場合には、最後に安定出力領域で、リトライ電流指令ゲインGirをリトライ回数Nrに応じて増加させ、これを基準電流指令ゲインGifに加算することにより、安定出力領域での電流指令値Imを増加させて、より大きなモータトルクを発生させて、モータトルク低下領域Atdを飛び越す。
【0111】
このようにすることにより、リトライ加速制御を行うことにより、操舵トルクTとモータトルクとの合算値が外力と釣り合った状態で、運転者に引っ掛かり感を与えることを抑制することができる。
なお、上記実施形態においては、切増切戻判定部71の操舵トルク符号判定部71aで符号判定する場合に、操舵トルクセンサ3のセンサ誤差を考慮してヒステリシスを設定するようにしてもよい。
【0112】
また、上記実施形態においては、トルク低下領域判定部73で、電流指令値がトルク低下領域判定電流閾値を超え且つモータ回転速度ωmがトルク低下判定回転速度閾値以下となったときに第2の切戻フラグFr2を、強制的に切戻状態を表す“1”にセットした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、加速領域判定フラグFaが“1”で、電流指令値がトルク低下領域判定電流閾値を超え且つモータ回転速度ωmがトルク低下判定回転速度閾値以下となったときに、電流指令値Imを外力による切戻状態となるように低下できればよく、任意の電流低減手段を適用することができる。
【0113】
また、上記実施形態においては、最大電流値Imaxを電流上限値で固定とした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、車速Vsに応じて最大電流値Imaxの大きさを変更するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、電気角が加速領域内にあるとき、予め設定した補正ゲインを乗算することで、電流指令値を減少補正する場合について説明したが、相電流指令値Im(θe)から補正電流指令ゲインやリトライ補正電流指令ゲインに相当する補正量を減算したり、加算したりすることで増加補正または減少補正することもできる。
【0114】
また、上記実施形態においては、3相ブラシレスモータ12の各相コイルLa〜Lcとモータ駆動回路24との間に遮断用リレー回路RLY1〜RLY3を介挿した場合について説明したが、遮断用リレー回路RLY1〜RLY3の何れか1つを省略することもできる。この場合には、省略した遮断用リレー回路を含む駆動系統におけるモータ駆動回路24における上アーム又は下アームの電界効果トランジスタにショートが生じた場合には、対応することができなくなり、異常時における3相ブラシレスモータの2相駆動の適用範囲が2個所減少するだけであり、大きな問題とはなることはない。
【0115】
さらに、上記各実施形態においては、正常時モータ指令値算出部33のd−q軸電流指令値算出部33dの出力側に2相/3相変換部33eを設けた場合について説明したが、この2相/3相変換部33eを省略することもできる。この場合、これに代えてモータ電流検出回路22から出力されるモータ電流検出値Iad、Ibd及びIcdを3相/2相変換部に供給して、回転座標のd軸電流Idd及びq軸電流Iqdに変換し、モータ電流制御部36でd軸電流指令値Idref及びq軸電流指令値Iqrefからd軸電流Idd及びq軸電流Iqdを減算して電流偏差ΔId及びΔIqを算出し、これらをPI制御部62でPI制御処理してd軸指令電圧Vd及びq軸指令電圧Vqを算出し、これらを2相/3相変換部で3相の指令圧Va、Vb及びVcに変換して、FETゲート駆動回路25に供給するようにして制御演算装置23全体をベクトル制御系に構成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0116】
1…ステアリングホイール、2…ステアリングシャフト、3…操舵トルクセンサ、8…ステアリングギヤ、10…操舵補助機構、12…3相ブラシレスモータ、13…ロータ回転角検出回路、20…操舵補助制御装置、21…車速センサ、22…モータ電流検出回路、23…制御演算装置、24…モータ駆動回路、25…FETゲート駆動回路、26…遮断用リレー回路、27…異常検出回路、31…操舵補助電流指令値演算部、32…角度情報演算部、32a…電気角変換部、32b…微分回路、33…正常時モータ指令値算出部、33a…d軸電流指令値算出部、33b…d−q軸電圧算出部、33c…q軸電流指令値算出部、33e…2相/3相変換部、34…異常時モータ指令値算出部、35…指令値選択部、36…モータ電流制御部、61…基本電流指令ゲイン生成部、62…補正電流指令ゲイン生成部、63…リトライ電流指令ゲイン生成部、64…2相制御用各相電流指令値生成部、66…故障相別角度オフセット処理部、67…逆起電圧特性ゲイン算出部、71…、切増切戻判定部、72…モータ加速領域判定部、73…トルク低下領域判定部、74…補正電流指令ゲイン生成部、81…リトライカウント部、82dリトライ電流指令ゲイン生成部、91a〜91c…選択スイッチ、92…選択制御部、101a〜101c…減算器、102…PI制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵系に対して操舵補助力を付与する各相コイルをスター結線した3相電動モータと、前記操舵系に伝達される操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、前記各相コイルの通電異常を検出するコイル通電異常検出手段と、該コイル通電異常検出手段で、1相のコイルの通電異常を検出したときに、残りの2相のコイルに対する異常時相電流指令値を算出する異常時モータ指令値算出手段と、前記異常時相電流指令値に基づいて前記3相電動モータを駆動制御するモータ制御手段とを備える電動パワーステアリング装置であって、
前記操舵トルク及び前記3相電動モータで発生する操舵補助トルクの和と外力との釣合い時に、前記異常時相電流指令値を低下させる電流指令値補正手段を備えている
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記電流指令値補正手段は、前記操舵トルク及び前記3相電動モータで発生する操舵補助トルクの和と外力との釣合い時に、前記3相電動モータの電気角が、前記異常時モータ指令値算出手段で算出した異常時相電流指令値の符号が反転する最小トルク電気角を跨ぐ所定の角度領域であるモータトルク低下領域に達したときに、前記異常時相電流指令値を低下させるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記電流指令値補正手段は、前記操舵トルク及び前記3相電動モータで発生する操舵補助トルクの和と外力との釣合い時を、前記操舵トルク、前記3相電動モータの回転角及び回転速度に基づいて検出することを特徴とする請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記電流指令値補正手段は、前記操舵トルク及び前記3相電動モータで発生する操舵補助トルクの和と外力との釣合い時に、前記異常時相電流指令値を低下させた後、前記外力によって当該3相電動モータの電気角が戻されて操舵補助トルクを発生可能な電気角に達したときに、前記異常時相電流指令値を増加させることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記電流指令値補正手段は、前記3相電動モータの電気角が、前記異常時モータ指令値算出手段で算出した異常時相電流指令値の符号が反転する最小トルク電気角を跨ぐ所定の角度領域である加速領域内にあるか否かを判定する加速領域判定手段と、
前記加速領域判定手段で前記電気角が前記加速領域内にあると判定したときに、前記異常時モータ指令値算出手段で算出した異常時相電流指令値を増加補正することで、前記3相電動モータの回転を操舵方向へ加速するモータ回転加速手段と、
該モータ回転加速手段による前記3相ブラシレスモータの回転を操舵方向へ加速したときに、前記電気角が前記最小トルク電気角を跨ぎ前記加速領域より広いリトライ領域内を継続しているか否かを判定するリトライ領域判定手段と、
該リトライ領域判定手段の判定結果が、前記電気角がリトライ領域内を継続する場合に、前記加速領域を増加させて、前記3相ブラシレスモータの回転を操舵方向へ再加速するリトライ加速手段とを備えた
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
前記リトライ加速手段は、前記電気角が加速領域内にあり、操舵トルク及び操舵補助トルクの和と外力との釣合い時に、前記異常時相電流指令値を外力により前記電気角が変化するように低下させ、前記電気角が前記加速領域の境界位置に達したときに、当該異常時相電流指令値を基本電流指令値より増加させて前記3相電動モータの回転を操舵方向へ再加速するように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
前記3相電動モータのモータ回転速度を検出するモータ回転速度検出手段を備え、
前記リトライ加速手段は、前記操舵トルクと前記モータ回転速度とに基づいて操舵方向が切増方向であるか切戻方向であるかを判定して第1の切戻フラグを設定する切増切戻判定部と、前記加速領域判定手段の判定結果、前記異常時相電流指令値、前記切戻フラグ及び前記モータ回転速度に基づいてトルク低下領域であるか否かを判定し、トルク低下領域であるときに切戻を指示する第2の切戻フラグを設定するトルク低下領域判定部と、前記加速領域判定手段の判定結果と前記第2の切戻フラグとに基づいて前記異常時相電流指令値を減少させ、外力により前記電気角を変化させる補正電流指令ゲインを生成する補正電流指令ゲイン生成部とを備えていることを特徴とする請求項5に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
前記リトライ領域判定手段は、前記リトライ加速手段で前記3相電動モータの回転を操舵方向へ再加速した後の前記電気角がリトライ領域を継続する場合に、リトライ回数を計数するリトライ計数部を備えることを特徴とする請求項5乃至7の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項9】
前記リトライ領域判定手段は、前記電気角及び前記操舵トルクの方向に基づいてリトライ領域を増加させるように構成されていることを特徴とする請求項8に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項10】
前記リトライ加速手段は、前記リトライ計数部のリトライ回数が閾値を超えたときに、前記加速領域外の前記異常時相電流指令値を当該リトライ回数に応じて高めるように構成されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−1289(P2013−1289A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135658(P2011−135658)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】