説明

電気自動車

【課題】 モータがトルク制御不能となった場合に、適切な対処が迅速に行える電気自動車を提供する。
【解決手段】 この電気自動車は、車輪2を駆動するモータ6と、ECU21と、インバータ装置22とを備えている。インバータ装置22におけるモータコントロール部29に回転数制御する回転数制御手段37を設け、前記モータコントロール部29によるトルク制御の異常を検出するトルク制御異常検出手段38と、この手段38によりトルク制御の異常の判定出力に応答して前記モータコントロール部29を前記回転数制御手段37による回転数制御に切り替える制御方式切替手段39とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪を駆動するモータを備えたバッテリ駆動、燃料電池駆動等のインホイールモータ車両等となる電気自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車では、車両駆動のためのモータおよびこれを制御するコントローラの故障は、走行性、安全性に大きく影響する。特に、電気自動車において、インホイールモータ駆動装置を用いた場合、同装置のコンパクト化を図る結果、この構成部品である車輪用軸受、減速機、およびモータは、モータの高速回転化を伴うため、これらの信頼性確保が重要な課題となる。
従来、インホイールモータ駆動装置において、信頼性確保のために、車輪用軸受、減速機、およびモータ等の温度を測定して過負荷を監視し、温度測定値に応じてモータの駆動電流の制限や、モータ回転数を低下させるものが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−168790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、インホイールモータ駆動装置において、モータ等の温度を測定して過負荷を監視し、モータを駆動制限することは行われているが、温度測定結果による制御では、例えば、モータ電流を検出するセンサが破損等し、トルク制御不能となった場合に適切な対応を行えない。
【0005】
この発明の目的は、モータがトルク制御不能となった場合に、適切な対処が迅速に行える電気自動車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の電気自動車は、車輪2を駆動するモータ6と、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECU21と、直流電力を前記モータ6の駆動に用いる交流電力に変換するインバータ31を含むパワー回路部28および前記ECU21の制御に従って少なくとも前記パワー回路部28を制御するモータコントロール部29を有するインバータ装置22とを備え、前記ECU21は、モータ6を駆動するトルク指令値をインバータ装置22へ出力し、前記インバータ装置22の前記モータコントロール部29はトルク制御を行う電気自動車において、前記モータコントロール部29に回転数制御する回転数制御手段37を設け、前記モータコントロール部29によるトルク制御の異常を検出するトルク制御異常検出手段38と、この手段38によりトルク制御の異常の判定出力に応答して前記モータコントロール部29を前記回転数制御手段37による回転数制御に切り替える制御方式切替手段39とを設けたことを特徴とする。
【0007】
この構成によると、電気自動車の運転時において、通常時には、モータコントロール部29は、ECU21からのトルク指令値に基づきトルク制御を行う。トルク制御異常検出手段38は、このトルク制御の異常を常時検出する。制御方式切替手段39は、トルク制御異常検出手段38による判定出力に応答して前記モータコントロール部29を回転数制御手段37による回転数制御に切り替える。例えば、モータ電流を測定する電流検出手段35の破損等によりトルク制御不能となった場合、トルク制御異常検出手段38は、トルク制御に異常ありとの判定出力を行う。これにより制御方式切替手段39は、モータコントロール部29をトルク制御から回転数制御に切り替える。このようにトルク制御不能となった場合に、適切な対処が迅速に行える。
【0008】
前記トルク制御異常検出手段38は、ECU21の出力する前記トルク指令値に対応するモータ電流の測定値が定められた範囲を超えたとき、トルク制御に異常ありの判定出力を行うものであっても良い。前記定められた範囲は、例えば、実験、シミュレーション等により、ECU21からのトルク指令値に対応する正常時のモータ電流の測定値を予め基準値として求めておく。この基準値に対し測定値が乖離してトルク制御を行うことに支障が生じた範囲を、前記定められた範囲とする。
【0009】
前記モータコントロール部29を回転数制御に切り替えるとき、直前のトルク制御時におけるモータ回転数を目標値とする目標値生成手段43を設け、前記回転数制御手段37は、モータ回転数を検出するセンサ36の検出値と前記目標値との偏差に応じてフィードバック制御を行うものであっても良い。この場合、回転数制御手段37は、センサ36の検出値を目標値に近づけるように回転数制御する。つまり正常時におけるトルク制御時のモータ回転数に制御し得る。
【0010】
前記回転数制御手段37による回転数制御への切替え後、車両の全ての車輪駆動用のモータ6のトルクまたは回転数を徐々に減少させる徐々駆動低下手段45を設けても良い。このように駆動低下手段45により、異常時、モータ6のトルクまたは回転数を徐々に減少させることで、車両を、処置が可能な場所まで走行させることができる。その後、電気自動車をトルク制御可能な状態に修理することができる。
【0011】
前記モータコントロール部29を回転数制御に切り替えるとき、前記ECU21にモータ6の異常報告を出力する異常報告手段41を前記インバータ装置22に設けても良い。ECU21は、車両全般を統括して制御する装置であるため、トルク制御異常検出手段38により異常を検出したとき、ECU21にトルク制御に異常ありとの異常報告を出力することで、ECU21により車両全体の適切な制御が行える。また、ECU21はインバータ装置22に駆動の指令を与える上位制御手段であり、インバータ装置22による応急的な制御の後、ECU21により、その後の駆動のより適切な制御を行うことも可能となる。
【0012】
前記モータ6は、一部または全体が車輪2内に配置されて前記モータ6と車輪用軸受4と減速機7とを含むインホイールモータ駆動装置8を構成するものであっても良い。インホイールモータ駆動装置8の場合、コンパクト化を図る結果、車輪用軸受4、減速機7、およびモータ6は、モータ6の高速回転化を伴うため、これらの信頼性確保が重要な課題となる。モータ6の少なくとも一部がトルク制御不能となった場合に、回転数制御に切り替えることで、モータ6を急激に駆動停止させることなく、処置が可能な場所まで車両を走行させることができる。その後、電気自動車をトルク制御可能な状態に修理することができる。
【0013】
前記モータ6の回転を減速する減速機7を備え、前記減速機7はサイクロイド減速機であっても良い。減速機7をサイクロイド減速機として減速比を例えば1/6以上に高くした場合、モータ6の小型化を図り、装置のコンパクト化を図ることができる。減速比を高くした場合、モータ6は高速回転するものが用いられる。モータ6が高速回転状態のときにトルク制御不能となった場合であっても、モータコントロール部を回転数制御に切り替えるため、モータ6が急激に駆動停止する等の不具合を防止できる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の電気自動車は、車輪を駆動するモータと、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECUと、直流電力を前記モータの駆動に用いる交流電力に変換するインバータを含むパワー回路部および前記ECUの制御に従って少なくとも前記パワー回路部を制御するモータコントロール部を有するインバータ装置とを備え、前記ECUは、モータを駆動するトルク指令値をインバータ装置へ出力し、前記インバータ装置の前記モータコントロール部はトルク制御を行う電気自動車において、前記モータコントロール部に回転数制御する回転数制御手段を設け、前記モータコントロール部によるトルク制御の異常を検出するトルク制御異常検出手段と、この手段によりトルク制御の異常の判定出力に応答して前記モータコントロール部を前記回転数制御手段による回転数制御に切り替える制御方式切替手段とを設けた。このため、モータがトルク制御不能となった場合に、適切な対処が迅速に行える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る電気自動車を平面図で示す概念構成のブロック図である。
【図2】同電気自動車のインバータ装置等の概念構成のブロック図である。
【図3】同電気自動車のトルク制御手段による制御系のブロック図である。
【図4】同電気自動車の回転数制御手段による制御系のブロック図である。
【図5】同電気自動車のトルク制御異常検出手段の異常判定を説明する図である。
【図6】同電気自動車におけるインホイールモータ駆動装置の破断正面図である。
【図7】図6のVII-VII 線断面となるモータ部分の断面図である。
【図8】図6のVIII-VIII線断面となる減速機部分の断面図である。
【図9】図8の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の第1の実施形態に係る電気自動車を図1ないし図9と共に説明する。この電気自動車は、図1に示すように、車体1の左右の後輪となる車輪2が駆動輪とされ、左右の前輪となる車輪3が従動輪の操舵輪とされた4輪の自動車である。駆動輪および従動輪となる車輪2,3は、いずれもタイヤを有し、それぞれ車輪用軸受4,5を介して車体1に支持されている。車輪用軸受4,5は、図1ではハブベアリングの略称「H/B」を付してある。駆動輪となる左右の車輪2,2は、それぞれ独立の走行用のモータ6,6により駆動される。モータ6の回転は、減速機7および車輪用軸受4を介して車輪2に伝達される。これらモータ6、減速機7、および車輪用軸受4は、互いに一つの組立部品であるインホイールモータ駆動装置8を構成しており、インホイールモータ駆動装置8は、一部または全体が車輪2内に配置される。インホイールモータ駆動装置8は、インホイールモータユニットとも称される。モータ6は、減速機7を介さずに直接に車輪2を回転駆動するものであっても良い。各車輪2,3には、電動式のブレーキ9,10が設けられている。
【0017】
左右の前輪となる操舵輪である車輪3,3は、転舵機構11を介して転舵可能であり、操舵機構12により操舵される。転舵機構11は、タイロッド11aを左右移動させることで、車輪用軸受5を保持した左右のナックルアーム11bの角度を変える機構であり、操舵機構12の指令によりEPS(電動パワーステアリング)モータ13を駆動させ、回転・直線運動変換機構(図示せず)を介して左右移動させられる。操舵角は操舵角センサ15で検出し、このセンサ出力はECU21に出力され、その情報は左右輪の加速・減速指令等に使用される。
【0018】
制御系を説明する。図1に示すように、制御装置U1は、自動車全般の制御を行う電気制御ユニットであるECU21と、このECU21の指令に従って走行用のモータ6の制御を行うインバータ装置22とを有する。前記ECU21と、インバータ装置22と、ブレーキコントローラ23とが、車体1に搭載されている。ECU21は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、並びに各種の電子回路等で構成される。
【0019】
ECU21は、機能別に大別すると駆動制御部21aと一般制御部21bとに分けられる。駆動制御部21aは、アクセル操作部16の出力する加速指令と、ブレーキ操作部17の出力する減速指令と、操舵角センサ15の出力する旋回指令とから、左右輪の走行用モータ6,6に与える加速・減速指令を生成し、インバータ装置22へ出力する。駆動制御部21aは、上記の他に、出力する加速・減速指令を、各車輪2,3の車輪用軸受4,5に設けられた回転センサ24から得られるタイヤ回転数の情報や、車載の各センサの情報を用いて補正する機能を有していても良い。アクセル操作部16は、アクセルペダルとその踏み込み量を検出して前記加速指令を出力するセンサ16aとでなる。ブレーキ操作部17は、ブレーキペダルとその踏み込み量を検出して前記減速指令を出力するセンサ17aとでなる。
【0020】
ECU21の一般制御部21bは、前記ブレーキ操作部17の出力する減速指令をブレーキコントローラ23へ出力する機能、各種の補機システム25を制御する機能、コンソールの操作パネル26からの入力指令を処理する機能、表示手段27に表示を行う機能などを有する。前記補機システム25は、例えば、エアコン、ライト、ワイパー、GPS、アエバッグ等であり、ここでは代表して一つのブロックとして示す。
【0021】
ブレーキコントローラ23は、ECU21から出力される減速指令に従って、各車輪2,3のブレーキ9,10に制動指令を与える手段である。ECU21から出力される制動指令には、ブレーキ操作部17の出力する減速指令によって生成される指令の他に、ECU21の持つ安全性向上のための手段によって生成される指令がある。ブレーキコントローラ23は、この他にアンチロックブレーキシステムを備える。ブレーキコントローラ23は、電子回路やマイコン等により構成される。
【0022】
インバータ装置22は、各モータ6に対して設けられたパワー回路部28と、このパワー回路部28を制御するモータコントール部29とで構成される。モータコントール部29は、各パワー回路部28に対して共通して設けられていても、別々に設けられていても良いが、共通して設けられた場合であっても、各パワー回路部28を、例えば互いにモータトルクが異なるように独立して制御可能なものとされる。モータコントール部29は、このモータコントール部29が持つインホイールモータ8に関する各検出値や制御値等の各情報(「IWMシステム情報」と称す)をECUに出力する機能を有する。
【0023】
図2は、インバータ装置22等の概念構成を示すブロック図である。パワー回路部28は、バッテリ19の直流電力をモータ6の駆動に用いる3相の交流電力に変換するインバータ31と、このインバータ31を制御するPWMドライバ32とで構成される。モータ6は3相の同期モータ等からなる。インバータ31は、複数の半導体スイッチング素子(図示せず)で構成され、PWMドライバ32は、入力された電流指令をパルス幅変調し、前記各半導体スイッチング素子にオンオフ指令を与える。
【0024】
モータコントール部29は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成され、その基本となる制御部としてモータ駆動制御部33を有している。モータ駆動制御部33は、上位制御手段であるECUから与えられるトルク指令等による加速・減速指令に従い、電流指令に変換して、パワー回路部28のPWMドライバ32に電流指令を与える手段である。モータ駆動制御部33は、インバータ31からモータ6に流すモータ電流値を電流検出手段35から得て、電流フィードバック制御を行う。また、モータ駆動制御部33は、モータ6のロータの回転角を角度センサ36から得て、ベクトル制御等の回転角に応じた制御を行う。
【0025】
この実施形態では、上記構成のモータコントール部29に、次の回転数制御手段37、トルク制御異常検出手段38、制御方式切替手段39、および異常報告手段41を設け、ECU21に異常表示手段42を設けている。
モータコントール部29のうちモータ駆動制御部33は、ECU21から与えられるトルク指令を電流指令に変換するトルク制御手段40と、回転数制御手段37とを有する。トルク制御異常検出手段38は、モータコントール部29によるトルク制御の異常を検出する。通常時には、モータコントール部29は、ECU21からのトルク指令値に基づきトルク制御手段40によるトルク制御を行う。トルク制御異常検出手段38によりトルク制御に異常ありとの判定出力があると、制御方式切替手段39は、モータコントール部29を前記トルク制御から回転数制御手段37による回転数制御に切り替える。
【0026】
図5に示すように、トルク制御異常検出手段38は、ECU21の出力するトルク指令値に対応するモータ電流の測定値が定められた範囲Eaを超えたとき、トルク制御に異常ありの判定出力を行う。前記「定められた範囲」Eaは、例えば、実験、シミュレーション等により、ECU21からのトルク指令値に対応する正常時のモータ電流の測定値を予め基準値Kaとして求めておき、この基準値Kaに対する上限EHおよび下限ELの幅として求められる。求められた範囲Eaは、テーブルとして図示外の記憶手段に書換え可能に記憶されている。同図に示すように、ECU21からのトルク指令値が大きくなるのに比例して、基準値Kaも大きくなる。ある任意のトルク指令値Tr1に対して、基準値Ka1が一義的に定められる。例えば、ECU21からのトルク指令値Tr1に対し、基準値Ka1よりも大きく、定められた範囲Eaの上限EHを超えた電流値が測定されたとき、トルク制御異常検出手段38はトルク制御に異常ありの判定出力を行う。また、ECU21からのトルク指令値Tr1に対し、基準値Ka1よりも小さく、定められた範囲Eaの下限ELよりも小さい電流値が測定されたとき、トルク制御異常検出手段38はトルク制御に異常ありの判定出力を行う。このように任意のトルク指令値における基準値Kaに対し、モータ電流の測定値が乖離してトルク制御を行うことに支障が生じたとき、トルク制御異常検出手段38は、トルク制御に異常ありの判定出力を行う。モータ電流の前記測定値は、電流検出手段35により得られる。
【0027】
図3は、この電気自動車のトルク制御手段40による制御系のブロック図である。トルク制御手段40は、モータ駆動電流を制御する手段であって、同図に示すように、モータ6に印加する駆動電流を電流検出手段35で検出して得た検出値と、駆動制御部21a(図1)で生成した加速・減速指令による値、つまりトルク指令値との偏差に応じてフィードバック制御を行う。詳しくは、モータ駆動制御部33(図2)は、モータ6のロータの回転角を角度センサ36から得て、ベクトル制御を行う。
【0028】
図4は、この電気自動車の回転数制御手段37による制御系のブロック図である。モータ駆動制御部33には、目標値生成手段43を設けている。この目標値生成手段43は、モータコントール部29を回転数制御に切り替えるとき、トルク制御時におけるモータ回転数を目標値とする手段である。この場合の目標値は、トルク制御に異常ありの判定出力を行った直前のアクセル操作部16の出力する加速指令等に応じたトルク制御時のモータ回転数が、目標値として定められる。この目標値は、モータ6にトルク指令で与える加速・減速指令に応じて適宜に変更しても良い。例えば、回転数制御に切り替えを開始した時点でのトルク指令値に対する速度の目標値を、この速度の目標値の生成時のトルク指令値に対する、現在のトルク指令値の割合に比例した速度の目標値としても良い。前記目標値は、前記加速・減速指令によらず一定値としても良い。回転数制御手段37は、モータ回転数を検出する角度センサ36の検出値と、前記目標値との偏差に応じてフィードバック制御を行う。前記角度センサ36で検出された角度の検出値は、微分手段44を経て角速度が得られる。すなわちこの角速度と、目標値生成手段43で生成される目標値との偏差に応じて前記フィードバック制御が行われる。なお、左右輪2,2のうち一方の車輪2を回転数制御に切り替えるとき、他方の車輪2もトルク制御から回転数制御に切り替える。この切り替え制御をインバータ装置22により行っても良いし、ECU21を介して行っても良い。
【0029】
回転数制御手段37は、その出力として電流指令値を出力する。この出力された電流指令値に応じたモータ電流が電流制御手段46により生成されモータ6に供給するフィードフォアード制御が行われる。この例ではモータコントール部29を回転数制御に切り替えるとき、トルク制御時における正常時のモータ回転数を、モータ回転数の目標値として制御する。またモータコントール部29には、徐々駆動低下手段45を設けている。この徐々駆動低下手段45は、回転数制御手段37による回転数制御への切替え後、車両の全ての車輪駆動用のモータ6のトルクまたは回転数を徐々に減少させる。
【0030】
図2に示すように、異常報告手段41は、モータコントール部29を回転数制御に切り替えるとき、すなわちトルク制御異常検出手段38がトルク制御に異常ありと判定したときに、ECU21に異常発生情報を出力する手段である。
ECU21に設けられた異常表示手段42は、トルク制御異常検出手段38から出力されたモータ6の異常発生情報を受けて、運転席の表示装置27に、異常を知らせる表示を行わせる手段である。表示装置27における表示は、文字や記号による表示、例えばアイコンによる表示とされる。
【0031】
作用効果について説明する。
電気自動車の運転時において、通常時には、ECU21は、アクセル操作部16の出力する加速指令、ブレーキ操作部17の出力する減速指令と、操舵角センサ15の出力する旋回指令とからトルク指令値を生成する。モータコントロール部29は、ECU21を介して与えられる前記トルク指令値に基づきトルク制御を行う。トルク制御異常検出手段38は、このトルク制御の異常を常時検出する。制御方式切替手段39は、トルク制御異常検出手段38による判定出力に応答してモータコントロール部29を回転数制御手段37による回転数制御に切り替える。例えば、モータ電流を測定する電流検出手段35の破損等によりトルク制御不能となった場合、トルク制御異常検出手段38は、トルク制御に異常ありとの判定出力を行う。これにより制御方式切替手段39は、モータコントロール部29をトルク制御から回転数制御に切り替える。このようにトルク制御不能となった場合に、適切な対処が迅速に行える。
【0032】
回転数制御手段37による回転数制御への切替え後、車両の全ての車輪駆動用のモータ6のトルクまたは回転数を徐々に減少させる徐々駆動低下手段45を設けたため、異常時、モータ6のトルクまたは回転数を徐々に減少させることで、車両を、道路の端や、修理工場等の処置が可能な場所まで自力で走行させることができる。その後、電気自動車をトルク制御可能な状態に修理することができる。
トルク制御異常検出手段38をインバータ装置22のモータコントロール部29に設け、モータ6に近い部位でトルク制御の異常判定を行えるため、配線上有利であり、ECU21に設ける場合に比べて迅速な制御が行え、車両走行上の問題を迅速に回避することができる。また高機能化により煩雑化が進むECU21の負担を軽減することができる。
【0033】
ECU21は、車両全般を統括して制御する装置であるため、トルク制御異常検出手段38により異常を検出したとき、ECU21にトルク制御に異常ありとの異常報告を出力することで、ECU21により車両全体の適切な制御が行える。例えば、左右輪の走行用モータ6,6のうち一方のモータ6のみに異常が生じたとき、ECU21は、徐々駆動低下手段45に指令して、左右輪のモータ6,6を同時にトルク低減または回転数低減させる制御を行うことができる。また、ECU21はインバータ装置22に駆動の指令を与える上位制御手段であり、インバータ装置22による応急的な制御の後、ECU21により、その後の駆動のより適切な制御を行うことも可能となる。
【0034】
また、インホイールモータ駆動装置8の場合、コンパクト化を図る結果、車輪用軸受4、減速機7、およびモータ6は、モータ6の高速回転化を伴うため、これらの信頼性確保が重要な課題となる。左右輪の走行用モータ6,6のいずれか一方または両方がトルク制御不能となった場合に、回転数制御に切り替えることで、モータ6を急激に駆動停止させることなく、処置が可能な場所まで車両を走行させることができる。その後、電気自動車をトルク制御可能な状態に修理することができる。
【0035】
インホイールモータ駆動装置8における減速機7をサイクロイド減速機として減速比を例えば1/6以上に高くした場合、モータ6の小型化を図り、装置のコンパクト化を図ることができる。減速比を高くした場合、モータ6は高速回転するものが用いられる。モータ6が高速回転状態のときにトルク制御不能となった場合であっても、モータコントロール部29を回転数制御に切り替えるため、モータ6が急激に駆動停止する等の不具合を防止できる。
【0036】
図6に示すように、インホイールモータ駆動装置8は、車輪用軸受4とモータ6との間に減速機7を介在させ、車輪用軸受4で支持される駆動輪である車輪2(図2)のハブとモータ6(図6)の回転出力軸74とを同軸心上で連結してある。減速機7は、減速比が1/6以上のものであるのが良い。この減速機7は、サイクロイド減速機であって、モータ6の回転出力軸74に同軸に連結される回転入力軸82に偏心部82a,82bを形成し、偏心部82a,82bにそれぞれ軸受85を介して曲線板84a,84bを装着し、曲線板84a,84bの偏心運動を車輪用軸受4へ回転運動として伝達する構成である。なお、この明細書において、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0037】
車輪用軸受4は、内周に複列の転走面53を形成した外方部材51と、これら各転走面53に対向する転走面54を外周に形成した内方部材52と、これら外方部材51および内方部材52の転走面53,54間に介在した複列の転動体55とで構成される。内方部材52は、駆動輪を取り付けるハブを兼用する。この車輪用軸受4は、複列のアンギュラ玉軸受とされていて、転動体55はボールからなり、各列毎に保持器56で保持されている。上記転走面53,54は断面円弧状であり、各転走面53,54は接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材51と内方部材52との間の軸受空間のアウトボード側端は、シール部材57でシールされている。
【0038】
外方部材51は静止側軌道輪となるものであって、減速機7のアウトボード側のハウジング83bに取り付けるフランジ51aを有し、全体が一体の部品とされている。フランジ51aには、周方向の複数箇所にボルト挿通孔64が設けられている。また、ハウジング83bには,ボルト挿通孔64に対応する位置に、内周にねじが切られたボルト螺着孔94が設けられている。ボルト挿通孔94に挿通した取付ボルト65をボルト螺着孔94に螺着させることにより、外方部材51がハウジング83bに取り付けられる。
【0039】
内方部材52は回転側軌道輪となるものであって、車輪取付用のハブフランジ59aを有するアウトボード側材59と、このアウトボード側材59の内周にアウトボード側が嵌合して加締めによってアウトボード側材59に一体化されたインボード側材60とでなる。これらアウトボード側材59およびインボード側材60に、前記各列の転走面54が形成されている。インボード側材60の中心には貫通孔61が設けられている。ハブフランジ59aには、周方向複数箇所にハブボルト66の圧入孔67が設けられている。アウトボード側材59のハブフランジ59aの根元部付近には、駆動輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部63がアウトボード側に突出している。このパイロット部63の内周には、前記貫通孔61のアウトボード側端を塞ぐキャップ68が取り付けられている。
【0040】
モータ6は、円筒状のモータハウジング72に固定したモータステータ73と、回転出力軸74に取り付けたモータロータ75との間にラジアルギャップを設けたラジアルギャップ型のIPMモータ(すなわち埋込磁石型同期モータ)である。回転出力軸74は、減速機7のインボード側のハウジング83aの筒部に2つの軸受76で片持ち支持されている。
【0041】
図7は、モータの断面図(図6のVII-VII 断面)を示す。モータ6のロータ75は、軟質磁性材料からなるコア部79と、このコア部79に内蔵される永久磁石80から構成される。永久磁石80は、隣り合う2つの永久磁石がロータコア部79内の同一円周上で断面ハ字状に向き合うように配列される。永久磁石80にはネオジウム系磁石が用いられている。ステータ73は軟質磁性材料からなるコア部77とコイル78で構成される。コア部77は外周面が断面円形とされたリング状で、その内周面に内径側に突出する複数のティース77aが円周方向に並んで形成されている。コイル78は、ステータコア部77の前記各ティース77aに巻回されている。
【0042】
図6に示すように、モータ6には、モータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度を検出する角度センサ36が設けられる。角度センサ36は、モータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度を表す信号を検出して出力する角度センサ本体70と、この角度センサ本体70の出力する信号から角度を演算する角度演算回路71とを有する。角度センサ本体70は、回転出力軸74の外周面に設けられる被検出部70aと、モータハウジング72に設けられ前記被検出部70aに例えば径方向に対向して近接配置される検出部70bとでなる。被検出部70aと検出部70bは軸方向に対向して近接配置されるものであっても良い。角度センサ36はレゾルバであっても良い。このモータ6では、その効率を最大にするため、角度センサ36の検出するモータステータ73とモータロータ75の間の相対回転角度に基づき、モータステータ73のコイル78へ流す交流電流の各波の各相の印加タイミングを、モータコントール部29のモータ駆動制御部33によってコントロールするようにされている。
なお、インホイールモータ駆動装置8のモータ電流の配線や各種センサ系,指令系の配線は、モータハウジング72等に設けられたコネクタ99により纏めて行われる。
【0043】
減速機7は、上記したようにサイクロイド減速機であり、図8のように外形がなだらかな波状のトロコイド曲線で形成された2枚の曲線板84a,84bが、それぞれ軸受85を介して回転入力軸82の各偏心部82a,82bに装着してある。これら各曲線板84a,84bの偏心運動を外周側で案内する複数の外ピン86を、それぞれハウジング83bに差し渡して設け、内方部材2のインボード側材60に取り付けた複数の内ピン88を、各曲線板84a,84bの内部に設けられた複数の円形の貫通孔89に挿入状態に係合させてある。回転入力軸82は、モータ6の回転出力軸74とスプライン結合されて一体に回転する。なお、回転入力軸82はインボード側のハウジング83aと内方部材52のインボード側材60の内径面とに2つの軸受90で両持ち支持されている。
【0044】
モータ6の回転出力軸74が回転すると、これと一体回転する回転入力軸82に取り付けられた各曲線板84a,84bが偏心運動を行う。この各曲線板84a,84bの偏心運動が、内ピン88と貫通孔89との係合によって、内方部材52に回転運動として伝達される。回転出力軸74の回転に対して内方部材52の回転は減速されたものとなる。例えば、1段のサイクロイド減速機で1/10以上の減速比を得ることができる。
【0045】
前記2枚の曲線板84a,84bは、互いに偏心運動が打ち消されるように180°位相をずらして回転入力軸82の各偏心部82a,82bに装着され、各偏心部82a,82bの両側には、各曲線板84a,84bの偏心運動による振動を打ち消すように、各偏心部82a,82bの偏心方向と逆方向へ偏心させたカウンターウエイト91が装着されている。
【0046】
図9に拡大して示すように、前記各外ピン86と内ピン88には軸受92,93が装着され、これらの軸受92,93の外輪92a,93aが、それぞれ各曲線板84a,84bの外周と各貫通孔89の内周とに転接するようになっている。したがって、外ピン86と各曲線板84a,84bの外周との接触抵抗、および内ピン88と各貫通孔89の内周との接触抵抗を低減し、各曲線板84a,84bの偏心運動をスムーズに内方部材52に回転運動として伝達することができる。
【0047】
図6において、このインホイールモータ駆動装置8の車輪用軸受4は、減速機7のハウジング83bまたはモータ6のハウジング72の外周部で、ナックル等の懸架装置(図示せず)を介して車体に固定される。
【符号の説明】
【0048】
2…車輪
4…車輪用軸受
6…モータ
7…減速機
8…インホイールモータ駆動装置
19…バッテリ
21…ECU
22…インバータ装置
28…パワー回路部
29…モータコントール部
31…インバータ
36…角度センサ
37…回転数制御手段
38…トルク制御異常検出手段
39…制御方式切替手段
41…異常報告手段
43…目標値生成手段
45…徐々駆動低下手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を駆動するモータと、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECUと、直流電力を前記モータの駆動に用いる交流電力に変換するインバータを含むパワー回路部および前記ECUの制御に従って少なくとも前記パワー回路部を制御するモータコントロール部を有するインバータ装置とを備え、前記ECUは、モータを駆動するトルク指令値をインバータ装置へ出力し、前記インバータ装置の前記モータコントロール部はトルク制御を行う電気自動車において、
前記モータコントロール部に回転数制御する回転数制御手段を設け、前記モータコントロール部によるトルク制御の異常を検出するトルク制御異常検出手段と、この手段によりトルク制御の異常の判定出力に応答して前記モータコントロール部を前記回転数制御手段による回転数制御に切り替える制御方式切替手段とを設けたことを特徴とする電気自動車。
【請求項2】
請求項1において、前記トルク制御異常検出手段は、ECUの出力する前記トルク指令値に対応するモータ電流の測定値が定められた範囲を超えたとき、トルク制御に異常ありの判定出力を行う電気自動車。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記モータコントロール部を回転数制御に切り替えるとき、直前のトルク制御時におけるモータ回転数を目標値とする目標値生成手段を設け、前記回転数制御手段は、モータ回転数を検出するセンサの検出値と前記目標値との偏差に応じてフィードバック制御を行う電気自動車。
【請求項4】
請求項3において、前記回転数制御手段による回転数制御への切替え後、車両の全ての車輪駆動用のモータのトルクまたは回転数を徐々に減少させる徐々駆動低下手段を設けた電気自動車。
【請求項5】
請求項3または請求項4において、前記モータコントロール部を回転数制御に切り替えるとき、前記ECUにモータの異常報告を出力する異常報告手段を前記インバータ装置に設けた電気自動車。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記モータは、一部または全体が車輪内に配置されて前記モータと車輪用軸受と減速機とを含むインホイールモータ駆動装置を構成する電気自動車。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記モータの回転を減速する減速機を備え、前記減速機はサイクロイド減速機である電気自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−178919(P2012−178919A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39856(P2011−39856)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】