説明

電界制御磁性素子及び電界制御磁気メモリ素子

【課題】 電界制御磁気素子及び電界制御磁気メモリ素子に関し、常磁性元素の強磁性化或いは強磁性元素の常磁性化を室温において電気的に制御する。
【解決手段】 電極1/絶縁膜2/遷移金属からなる導電体層3の積層構造を有するとともに、導電体層3に絶縁膜2を介して電圧を印加してフェルミ準位の位置を移動させることによって、常磁性−強磁性遷移或いは強磁性−常磁性遷移を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電界制御磁性素子及び電界制御メモリ素子に関するものであり、特に、通常の状態では常磁性を示す遷移金属の電子状態密度を制御して強磁特性を発現させるための構成に特徴のある電界制御磁性素子及び電界制御磁気メモリ素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気抵抗効果素子等を用いた磁気ヘッドを搭載したHDD装置が広範に普及しているが、このような磁気抵抗効果素子を構成するためにはNiFeやCoFe等の強磁性体が用いられている。
【0003】
金属の基本的性質は伝導電子の状態密度に依存し、遍歴電子モデルによって元素の磁性が説明される。
このような遍歴電子モデルにおいて、電子間クーロン相互作用を取り入れた強磁性理論がストーナー・モデル(Stoner Model)として知られている。
【0004】
このストーナー・モデルにおいては、Iを交換相互作用,ρ(Ef )をフェルミ準位における状態密度とすると、下記に式(1)として示すストーナー条件を満たす元素が強磁性体となる。
I×ρ(Ef )>1 ・・・(1)
で表される。
【0005】
この様な強磁性体における強磁性−常磁性の転移は熱の印加によって行われているが、熱の印加は、強磁性体のキュリー点が高いので印加温度が高くなるとともに、局所的な熱の印加が困難であり、さらに、状態の高速切替えができないという問題があるため、この様な熱の印加による強磁性−常磁性転移を電子デバイスとして応用することは、非常に困難である。
【0006】
また、電界印加による磁性制御は、GaMnAs等の半導体中にMnやFe等の磁性を有する元素を含ませた希薄磁性半導体において知られており(例えば、非特許文献1参照)、この希薄磁性半導体を用いてスピン偏極発光ダイオード等が実現され、各種の電子デバイスへの応用が期待されている。
【0007】
しかし、希薄磁性半導体はキュリー温度が非常に低いため、低温での制御しかできず、電子デバイスへの応用に不可欠な室温動作が実現されていない。
因に、GaMnAsのキュリー点は約110Kであり、液体窒素(77K)で冷却しなければならない。
【0008】
一方、本発明者等は、元来磁性を示さないPdを超微粒子化することによって、その表面での二次元的な電子状態に起因して、室温で安定な強磁性の発現に成功した(例えば、非特許文献2参照)。
【0009】
この研究によって、元素の種類が限られていた強磁性特性を常磁性元素に展開する展望が開けた。
【非特許文献1】H.Ohno,et.al.,Nature,Vol.408, p.944,2000pp.755−762,October 2005
【非特許文献2】T.Shinohara,T.Sato,T.Taniyama ,Physical Review Letters,Vol.91,No.19,pp.197201−1〜197201−4,7 November 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記の研究によって、元来磁性を示さない金属元素を強磁性体として用いる展望が開けたものの、微粒子合成による強磁性化であるため、電界等の外部入力によって磁性を自由に制御することができないという問題が依然としてある。
【0011】
したがって、本発明は、常磁性元素の強磁性化或いは強磁性元素の常磁性化を室温において電気的に制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
図1は本発明の原理的構成図であり、ここで図1を参照して、本発明における課題を解決するための手段を説明する。
なお、図1の上図は概略的斜視図であり、下図は、状態密度分布とフェルミ準位の関係の説明図であり、また、図における符号4は電源である。
図1参照
(1)上記課題を解決するために、本発明は、電界制御磁性素子において、電極1/絶縁膜2/遷移金属からなる導電体層3の積層構造を有するとともに、導電体層3に絶縁膜2を介して電圧を印加してフェルミ準位の位置を移動させることによって、常磁性−強磁性遷移或いは強磁性−常磁性遷移を制御することを特徴とする電界制御磁性素子。
【0013】
このように、遷移金属からなる導電体層3に絶縁膜2を介して電圧を印加してフェルミ準位の位置を移動させることによって、ストーナー条件を満たすようにすれば常磁性−強磁性遷移が可能になり、一方、ストーナー条件を満たしている導電体層3に対してはストーナー条件を外れるようにすることにより強磁性−常磁性遷移が可能になる。
【0014】
(2)また、本発明は、上記(1)において、絶縁膜2が、比誘電率が20以上の高誘電率膜からなり、且つ、導電体層3がPd層からなることを特徴とする。
【0015】
このように、絶縁膜2としてはSiO2 等の誘電体膜でも良いが、ストーナー条件を満たす或いは外すのに必要な電圧をより低減するためには、比誘電率が20以上の高誘電率膜、典型的にはHfO2 膜を用いることが望ましい。
【0016】
また、導電体層3として状態密度分布の極大値に位置がフェルミ準位に最も近いPdを用いることによって、ストーナー条件を満たすのに必要な電圧をさらに低減することができる。
【0017】
(3)また、本発明は、電界制御磁気メモリ素子において、上記(1)または(2)に記載の電界制御素子をスピン偏極電子のソース或いは受け入れるドレインとし、強磁性体からなる導電体層3をドレイン或いはソースとしたことを特徴とする。
【0018】
このように、電界制御素子をスピン偏極電子のソース或いはドレインとすることにより、電界印加による常磁性−強磁性遷移により磁化方向を書き込むことによって、電圧が印加されている間は、ソース−ドレイン間の抵抗値を高抵抗或いは低抵抗に維持することができるので、SRAM(スタティックRAM)的なメモリ素子を実現することができる。
【0019】
(4)また、本発明は、電界制御磁気メモリ素子において、上記(1)または(2)に記載の電界制御素子を非磁性層を介して磁化が固定された磁化固定層と積層させてメモリセルを構成したことを特徴とする。
【0020】
このように、MRAMを構成するフリー層の代わりに電界制御素子を用いることによって、電流によって発生する磁界ではなく、電界で磁化方向の書込みが可能になるので、電流を消費することなく情報の書込みが可能になる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電気的な手段によって元来常磁性の遷移金属を層状の状態で強磁性にスイッチしたり、元来強磁性の遷移金属を常磁性にスイッチすることができるので、各種の電子デバイスへの応用が容易になる。
【0022】
特に、磁気メモリ素子に応用した場合には、電流で発生した磁界ではなく、電圧によって磁化方向を制御する、即ち、情報を書き込むことができるので、電流を情報の書き込みのために消費することがなく、低消費電力化が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、遷移金属、典型的には状態密度分布の極大値の位置がフェルミ準位に最も近いPdからなる導電体層に絶縁膜、特に、絶縁膜として比誘電率が20以上の高誘電率膜、典型的にはHfO2 膜を介して電圧を印加してフェルミ準位の位置を移動させることによって、常磁性−強磁性遷移或いは強磁性−常磁性遷移を制御するものである。
【0024】
また、この電界制御素子をスピン偏極電子のソース或いはドレインとして、或いは、MRAMのフリー層として用いることによって、情報書込みのための電力消費を必要としないSRAM的な電界制御磁気メモリ素子を実現するものである。
【実施例1】
【0025】
ここで、図2及び図3を参照して、本発明の実施例1の電界制御磁性素子を説明する。 図2参照
図2は、本発明の実施例1の電界制御磁性素子の概略的斜視図であり、高濃度ドープにより縮退し金属化した単結晶シリコンからなる電極基板11上に厚さdが、例えば、50nmのHfO2 膜12を介してPd薄膜13を設けたものであり、電極基板11側が負になるように電源14から電圧を印加することによってPd薄膜13に強磁性を発現させるものである。
【0026】
次に、このPd薄膜13に強磁性特性を発現させるための条件を説明する。
まず、上述のストーナー条件におけるPdの交換相互作用Iは、I=0.025〔Ry 〕であることが知られているので(必要ならば、非特許文献3:Physical Review B,Vol.16,No.1,pp.255−262,1 JULY 1977のTable1参照)、ストーナー条件を満たすフェルミ準位における状態密度ρ(Ef1)は、
ρ(Ef1)=1/I=1/0.025=40〔(Ry atom)-1〕 ・・・(2)
となる。
なお、Ry はリュードベリ単位で、Ry =13.6eVである。
【0027】
また、電極基板11にゲート電圧を印加しない状態でのフェルミ準位における状態密度ρ(Ef0)は、非特許文献4(Physical Review B,Vol.23,No.12,pp.6377−6398,15 JUNE 1981)のTable VIIIのD(EF )がアップスピンとダウンスピンの個々の状態密度を表しているので、
ρ(Ef0)=17.36×2≒34.7〔(Ry atom)-1〕 ・・・(3)
となる。
【0028】
したがって、Pd薄膜13が強磁性特性を発現するためには、ρ(Ef )をρ(Ef0)=34.7〔(Ry atom)-1〕からρ(Ef1)=40〔(Ry atom)-1〕まで増加させれば良いことになる。
【0029】
図3参照
図3は、Pdの無バイアス状態における状態密度分布図(特許文献4のFIG.13参照)であり、状態密度の極大値がフェルミ準位の極近傍に存在している。
したがって、ρ(Ef0)をρ(Ef1)まで増加させるためには、フェルミ準位の位置を状態密度の極大値の近傍まで移動させれば良いことが分かる。
【0030】
そのためには、電極基板11側を負にバイアスして、Pd薄膜13中のHfO2 膜12との界面近傍における電子を減らせば良く、そのために必要な電子数Δeは図3におけるρ(Ef0)=34.7〔(Ry atom)-1〕とρ(Ef1)=40〔(Ry atom)-1〕における4d電子の個数N(E)(アップスピンとダウンスピンがあるので2倍)の差から、
Δe=0.032〔個/atom〕 ・・・(4)
と評価され、一原子当たり0.032個の電子を減らせばストーナー条件を満たし、強磁性が発現することになる。
【0031】
ここで、Pdの
格子定数a:0.389nm
単位格子中の原子数b:4個
原子一個当たりの4d電子の数c:10個
であるので、Pdの4d電子密度nは、
n=b×c/a3 =40/(0.389×10-93
≒6.8×1029〔m-3〕 ・・・(5)
となる。
【0032】
この式(5)と上述の式(4)から、強磁性発現に必要な電子の減少数Δnは、単位体積当たりに換算すると、
Δn=n×Δe/c=6.8×1029×0.032/10
≒2.17×1027〔m-3〕 ・・・(6)
となる。
【0033】
一方、電極基板11に印加するゲート電圧Vg により変化する電子数(面密度σ)を見積もると、HfO2 膜12の比誘電率εr をεr =24、ε0 を真空の誘電率、eを素電荷とすると、
σ=ε0 ×εr ×(−Vg )/e×d
=8.85×10-12 ×24×(−Vg )/(1.60×1019×50×10-9
≒2.6×1016×(−Vg ) ・・・(7)
となる。
【0034】
ここで、Pd薄膜13の厚さの内、0.5nmの厚さDの領域の電子が変化すると仮定すると、単位体積当たり変化する電子数ΔNは、
ΔN=σ/D=2.6×1016×(−Vg )/0.5×10-9
=5.2×1025×(−Vg )〔m-3〕 ・・・(8)
となる。
【0035】
したがって、強磁性特性を発現させるためには、ゲート電圧で減少する電子数ΔNが、上述の式(6)の強磁性発現に必要な電子の減少数Δnと等しくなる必要があり、
5.2×1025×(−Vg )=ΔN=Δn=2.17×1027
から、
g =−2.17×1027/(5.2×1025
≒−42〔V〕 ・・・(9)
となる。
【0036】
したがって、Pd薄膜13に強磁性特性を発現させるためには、電極基板11側が負になるように42V以上の電圧を印加すれば良く、このような印加電圧のオン−オフによりPd薄膜13の常磁性−強磁性スイッチを制御することが可能になる。
【0037】
このように本発明の実施例1においては、Pd薄膜に電界を印加してフェルミ準位の位置を状態密度の極致近傍に移動させているので、元来は磁性を示さないPd薄膜に強磁性特性を発現させることができる。
【0038】
特に、このようなPd薄膜におけるキュリー点は590K以上が期待されるので、室温動作が可能になる。
また、この実施例1の形態では、電圧のオン−オフによって、磁気シールド特性を任意に得ることができる。
【実施例2】
【0039】
次に、図4を参照して、本発明の実施例2の電界制御磁気素子を説明する。
図4参照
図4は、本発明の実施例2の電界制御磁性素子の概略的斜視図であり、(100)面を主面とするMgO基板21上にPd薄膜22をエピタキシャル成長させたのち、厚さdが、例えば、50nmのHfO2 膜23を介してAl,Au,Ti,Ni,Pt等、例えば、Alからなる電極24を設け、電極24側が負になるように電源25から電圧を印加することによってPd薄膜22に強磁性を発現させるものである。
【0040】
この場合、Pd薄膜22は(100)面に配向するのでゲート電界印加によるHfO2 膜23との界面近傍の電子数の減少をより効果的に実現することができる。
即ち、Pdの(100)面は電子の局在性が高いために、状態密度の幅が狭くなることによって状態密度の極大値が高くなり、したがって、強磁性が発現しやすい面であることによる(上述の非特許文献2参照)。
【実施例3】
【0041】
次に、図5を参照して、本発明の実施例3の電界制御磁気メモリ素子を説明する。
図5参照
図5は本発明の実施例3の電界制御磁気メモリ素子の概略的斜視図であり、チャネル層となるCu基板31上に、磁化が一方向に固定された例えば、CoFeからなるソース32を設けるとともに、チャネル領域を介して対向する位置にドレイン33を設ける。
【0042】
この場合のドレイン33は、Pd薄膜パターン34、Pd薄膜パターン34上に設けられたHfO2 膜35、HfO2 膜35上に設けられた制御電極36からなり、この制御電極36には、制御電源37により情報書き込み時及び情報保持時にPd薄膜パターン34がストーナー条件を満たす電圧を印加するものである。
【0043】
ここで、ソース32−ドレイン33間に電源38から電圧を印加するとソース32からスピン偏極電子がスピン注入されて、チャネル領域を介してドレイン33に到達する。
この時、スピン注入されたスピン偏極電子が緩和してスピンの向きが変わらないうちにドレイン33に到達させるためには、チャネル長をスピン拡散長より短くする必要がある。
【0044】
通常、非磁性体であるCu基板31中でのスピン拡散長は、平均自由工程より長いことが知られており、数nm〜数百nm、一般的には数十nmであるので、数十nmより若干長い長さに設定すればスピン緩和を起こさずにドレイン33に注入されることになる。
【0045】
この時、ドレイン33を構成するPd薄膜パターン34が常磁性状態の場合には、スピン偏極電子はそのままドレイン33に吸収されるが、Pd薄膜パターン34が磁化方向がソース32と逆向きの強磁性状態の場合には、ソース32とドレイン33における状態密度分布が異なっているため、抵抗が高くなり、電流計39を流れる電流量の変化として検出される。
なお、全体構成の図示は省略するが、Pd薄膜パターン34の磁化方向はメモリ素子を収容する容器に備えつけた永久磁石によって付与される。
【0046】
この場合、制御電極36に印加する電圧を保持した状態では常に高抵抗状態を示すので、情報“1”が書き込まれたことになり、一方、電圧を切ると情報が消去されるので、SRAM的なメモリ素子として作用することになる。
【0047】
このように、本発明の実施例3においては、電界制御磁気素子をドレインとして用いているので、制御電極に印加する電圧のオン−オフを制御することによって、磁界や熱によらずに、選択的な情報の書込みが可能になる。
【実施例4】
【0048】
次に、図6を参照して、本発明の実施例4の電界制御磁気メモリ素子を説明する。
図6参照
図6は本発明の実施例4の電界制御磁気メモリ素子の概念的斜視図であり、ゲート電極42がセンス線45に接続されたアクセストランジスタ41のドレイン44に電界制御磁気メモリセル50を構成する固定層51を接続するとともに、電界制御磁気メモリセル50を構成する書込層53にビット線47を接続し、さらに、電界制御磁気メモリセル50を構成するAl制御電極55にワード線46を接続したものである。
なお、アクセストランジスタ41のソース43は接地する。
【0049】
この場合の電界制御磁気メモリセル50は、CoFeからなる固定層51上にAl−O膜からなるトンネル絶縁膜52を介してPdからなる書込層53を設け、この書込層53上にHfO2 膜54及びAl制御電極55を順次設けたものである。
【0050】
なお、固定層51には成膜時に所定方向の磁場を印加しておくことによって所定方向に磁化させておくものであり、また、ビット線47は書込層53の露出部を介してPdからなる書込層53と電気的に接続している。
【0051】
このような電界制御磁気メモリセルにおける書込動作は、センス線45へ電圧を印加してアクセストランジスタ41をオンにした状態でAl制御電極55を介してワード線47からPdがストーナー条件を満たす負電圧を印加することによって書込層53を構成するPdのフェルミ準位が状態密度分布の極大値近傍へ移動して強磁性体となる。
【0052】
なお、書込情報を保持する場合には、情報を書き込んだ電界制御磁気メモリセルのアクセストランジスタ41を常にオンにするともに、ワード線からAl制御電極55に印加する電圧を常にオンにしておく。
【0053】
この時、図示しない永久磁石によって、固定層51の磁化方向とは逆方向の磁場を印加しておくことによって、書込層53は固定層51の磁化方向とは逆方向に磁化されて情報が書き込まれたことになる。
【0054】
一方、情報の消去は、ワード線47からAl制御電極55に印加する電圧をオフにすることによって、書込層53を構成するPdは常磁性体へと遷移して磁化を失うので、書き込んだ情報が簡単に消去されることになる。
【0055】
また、情報の読出は、センス線45へ電圧を印加してアクセストランジスタ41をオンにした状態でビット線47に読出電圧を印加し、ビット線に流れる電流をセンスアンプ(図示を省略)で測定することによって、センス線45とビット線47との間の抵抗値状態により“0”或いは“1”を検出する。
なお、情報が書き込まれている電界制御磁気メモリセルのアクセストランジスタ41は常にオンになっている。
【0056】
即ち、書込層53に制御電圧が印加されている状態では、書込層53と固定層51との磁化方向が反対であるので、高抵抗状態となり、書込層53に制御電圧が印加されていない状態では、低抵抗状態となる。
【0057】
このように、本発明の実施例4においては、情報の書込を電圧によって行っているので、従来のMRAMのように電流により発生する磁界で書き込む場合に比べて消費電力を低減することができる。
【0058】
以上、本発明の各実施例を説明したが、本発明は各実施例に記載した構成及び条件に限られるものではなく、各種の変更が可能であり、例えば、上記の各実施例においては、状態密度の極大値がフェルミ準位に最も近いPdを例に説明しているが、Pdに限られるものではなく、遍歴電子を有する遷移金属一般に、特に、Rh,Pt,Au等に適用されるものである。
【0059】
この場合、Pdと同様にPtは、フェルミ準位が状態密度の極大値の位置より高エネルギー側にあるが、Rh,Ru等はフェルミ準位が状態密度の極大値の位置より低エネルギー側にあるため、この場合には、フェルミ準位を状態密度の極大値の近傍に移動させるためには、金属基板側を正にバイアスして、電子数を増加させる必要がある。
【0060】
さらには、Pdのようにフェルミ準位が状態密度の極大値の位置より高エネルギー側にある遷移金属と、Rh,Ru等のようにフェルミ準位が状態密度の極大値の位置より低エネルギー側にある遷移金属とを合金化することで、フェルミ準位を状態密度の極大値の近傍に移動させることが可能であり、それによって、ストーナー条件を満たすのに必要な電圧をより低減することができる。
【0061】
また、現時点では確認していないが、材料の組合せによっては、Pdのようにフェルミ準位が状態密度の極大値の位置より高エネルギー側にある遷移金属と、Rh,Ru等のようにフェルミ準位が状態密度の極大値の位置より低エネルギー側にある遷移金属とを合金化することで、フェルミ準位を状態密度の極大値の位置に移動させて無バイアス状態で強磁性体を実現できる可能があり、その場合には、ストーナー条件をはずすために電圧を印加することによって強磁性−常磁性のスイッチが可能になる。
【0062】
さらに、組成比が異なる合金により、一方が強磁性で他方が常磁性になるように構成することによって、電圧のオン−オフにより強磁性−常磁性と常磁性−強磁性のスイッチングを交互に行うことによってフリップ・フロップ的な動作が可能になる。
【0063】
また、上記の各実施例においては元来磁性を有さない遷移金属元素であるPdを例に説明しているが、Ni,Co,Fe等の磁性金属やこれらを含む合金にも適用されるものであり、この場合には、電界を印加することによってフェルミ準位の位置を状態密度の極大値の位置からずらして、ストーナー条件を満たさないようにすることによって強磁性−常磁性のスイッチが可能になる。
【0064】
さらには、Zr1-x HfZn2 ,Zr1-x TiZn2 ,Sc3 In等の他の合金にも適用されるものであり、主に遍歴電子系の金属、合金に適用されるものである。
【0065】
また、上記各実施例においては、絶縁膜としてHfO2 膜を用いているがHfO2 に限られるものではなく、高誘電率膜であれば良く、特に、比誘電率が20以上の高誘電率膜、例えば、HfSiO、HfSiON、HfAlO、或いは、HfAlON等を用いても良いものであり、組成がHfO2 に近くなるようにすれば、比誘電率は20以上となる。
【0066】
さらには、絶縁膜はHfO2 膜等の比誘電率が20以上の高誘電率膜に限られるものではなく、SiO2 、SiN、SiON等の通常の誘電体膜を用いても良いものである。
【0067】
また、上記の実施例1においては電極基板として縮退した単結晶シリコンを用いているが、縮退した単結晶シリコンに限られるものではなく、Al基板、Cu基板、Ti基板、W基板等の他の金属基板を用いても良いものである。
【0068】
また、上記実施例1或いは実施例2の構成をマトリクスアレイ状に配置することによって、電圧の印加した部分のみを磁気シールド層として機能させることができ、磁気情報を必要とする微小領域のみに選択的に導入することができる。
【0069】
また、上記の実施例3においては、ソースをCoFeで構成しているが、CoFeに限られるものではなく、NiFe、Fe、CoNiFe等の他の強磁性体で構成しても良いものである。
【0070】
また、上記の実施例3においては、ドレイン側に電界制御磁気素子を用いているが、ソース側に電界制御磁気素子を用い、ドレイン側を強磁性体で構成しても良いものである。
【0071】
また、上記の実施例4においては、書込層の磁化方向と固定層の磁化方向を逆向きにしているが、同方向になるように磁化しても良いものであり、それによって、書込電界印加時には低抵抗状態に、一方、無バイアス状態においては相対的に高抵抗状態となる。
【0072】
また、上記の実施例3或いは実施例4においては、常磁性体が強磁性体に遷移した時の磁化方向の付与を永久磁石によって行っているが、電磁石によって行っても良いものである。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の活用例としては、SRAM型のMRAMが典型的なものであるが、スピン偏極電子のソース或いはシンクとして、または、選択的磁気シールド層としての応用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の原理的構成の説明図である。
【図2】本発明の実施例1の電界制御磁性素子の概略的斜視図である。
【図3】Pdの無バイアス状態における状態密度分布図である。
【図4】本発明の実施例2の電界制御磁性素子の概略的斜視図である。
【図5】本発明の実施例3の電界制御磁気メモリ素子の概略的斜視図である。
【図6】本発明の実施例4の電界制御磁気メモリ素子の概念的斜視図である。
【符号の説明】
【0075】
1 電極
2 絶縁膜
3 導電体層
4 電源
11 電極基板
12 HfO2
13 Pd薄膜
14 電源
21 MgO基板
22 Pd薄膜
23 HfO2
24 電極
25 電源
31 Cu基板
32 ソース
33 ドレイン
34 Pd薄膜パターン
35 HfO2
36 制御電極
37 制御電源
38 電源
39 電流計
41 アクセストランジスタ
42 ゲート電極
43 ソース
44 ドレイン
45 センス線
46 ワード線
47 ビット線
50 電界制御磁気メモリセル
51 固定層
52 トンネル絶縁膜
53 書込層
54 HfO2
55 Al制御電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極/絶縁膜/遷移金属からなる導電体層の積層構造を有するとともに、前記導電体層に絶縁膜を介して電圧を印加してフェルミ準位の位置を移動させることによって、常磁性−強磁性遷移或いは強磁性−常磁性遷移を制御することを特徴とする電界制御磁性素子。
【請求項2】
上記絶縁膜が、比誘電率が20以上の高誘電率膜からなり、且つ、上記導電体層がPd層からなることを特徴とする請求項1記載の電界制御磁性素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電界制御素子をスピン偏極電子のソース或いはドレインとし、強磁性体からなる導電体層をスピン偏極電子のドレイン或いはソースとしたことを特徴とする電界制御磁気メモリ素子。
【請求項4】
請求項1または2に記載の電界制御素子を非磁性層を介して磁化が固定された磁化固定層と積層させてメモリセルを構成したことを特徴とする電界制御磁気メモリ素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−250811(P2007−250811A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−72031(P2006−72031)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】