説明

電界効果トランジスタ

【課題】歩留りの低下を抑制する。
【解決手段】開口部121.1の形成により、第1の半導体層110の上面のうち、上方に第2の半導体層120が形成されていない部分の少なくとも一部には、絶縁体130.1が形成される。開口部121.1には、絶縁体130.1を覆うようにソース電極S10が形成される。ソース電極S10は、第1の半導体層110と前記第2の半導体層120との界面と接するように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、民生機器の電源回路に用いられるパワートランジスタに適用可能な電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体は、シリコン(Si)やGaAsなどと比べ、バンドギャップ、絶縁破壊電界、電子の飽和ドリフト速度のいずれもが大きい。また、(0001)面を主面とする基板上に形成された、AlGaN/GaNからなる、ヘテロ構造のトランジスタでは、自発分極およびピエゾ分極によりヘテロ界面に2次元電子ガス(以下、2DEGともいう)が生じる。
【0003】
そのため、当該ヘテロ構造のトランジスタでは、何もドープしなくとも1×1013cm-2程度以上のシートキャリア濃度の2DEGが得られる。この高濃度の2DEGをキャリアとして用いた高電子移動度トランジスタ(HEMT(High Electron Mobility Transistor))が近年注目を集めており、種々のHEMT構造(ヘテロ接合)の電界効果トランジスタが提案されている。
【0004】
図6は、特許文献1に示される従来の電界効果トランジスタ500の断面構造を示す図である。以下においては、電界効果トランジスタを、単に、FET(Field Effect Transistor)ともいう。また、以下においては、FETを、単に、デバイスともいう。
【0005】
図6に示されるように、電界効果トランジスタ500においては、基板501上に、第1の窒化物半導体(GaN)からなる第1の半導体層510(動作層)、第2の窒化物半導体からなる第2の半導体層520(障壁層)が積層される。第2の窒化物半導体のバンドギャップは、第1の窒化物半導体のバンドギャップより大きい。
【0006】
第1の半導体層510上に第2の半導体層520が形成されることにより、ヘテロ接合界面が形成される。そのため、第1の半導体層510におけるヘテロ接合界面の近傍の領域には、2DEG層511が形成される。
【0007】
第2の半導体層520には、当該第2の半導体層520を貫通して第1の半導体層510に達する(接する)開口部521.1,521.2が形成される。
【0008】
なお、開口部521.1,521.2の各々は、2DEG層511を貫通し、当該2DEG層511よりも下側の領域に達するように形成される。
【0009】
開口部521.1の内部に、導電性材料が埋め込まれることにより、オーミック電極であるソース電極S50が形成される。また、開口部521.2の内部に、導電性材料が埋め込まれることにより、オーミック電極であるドレイン電極D50が形成される。
【0010】
第2の半導体層520上には、ショットキー電極であるゲート電極G50が形成される。また、ゲート電極G50は、ソース電極S50とドレイン電極D50との間に形成される。
【0011】
なお、ソース電極S50、ドレイン電極D50およびゲート電極G50上には、表面保護膜550が形成される。
【0012】
この構成により、オーミック電極と2DEG層とが直接接触するため、オーミック電極のコンタクト抵抗を低減することができる。以下においては、電界効果トランジスタ500を、従来のFETともいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−329350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来のFETでは、以下のような問題を解決できない。
例えば、従来のFETにおいては、ゲート電極の幅(ソース−ドレイン間の電流経路の幅)を長くすることにより、ON時の抵抗(ON抵抗)を下げることができる。
【0015】
ところが、当該従来のFETの第1の半導体層510または第2の半導体層520には、図7の電子線顕微鏡写真に示されるような小さなピットが存在する場合がある。当該ピットは、ボイド状の欠陥である。ピットが存在する場合、ピットと基板との間の耐電圧が低下する。すなわち、FET(デバイス)の耐電圧が低下する。耐電圧とは、デバイス等に印加可能な電圧の限界値である。
【0016】
そのため、FET(デバイス)の耐電圧が、良品とみなされるための所定の耐電圧未満となる確率が増大し、FET(デバイス)の歩留りが低下する。
【0017】
本発明は、上述の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、歩留りの低下を抑制可能な電界効果トランジスタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述の課題を解決するために、この発明のある局面に従う電界効果トランジスタは、基板と、第1の窒化物半導体からなる第1の半導体層と、前記第1の窒化物半導体よりもバンドギャップの大きい第2の窒化物半導体からなる第2の半導体層とを備え、前記第1の半導体層は、前記基板の上方に形成され、前記第2の半導体層は、前記第1の半導体層上に形成され、前記第2の半導体層には、該第2の半導体層を貫通して前記第1の半導体層に達する開口部が形成され、前記開口部の形成により、前記第1の半導体層の上面のうち、上方に前記第2の半導体層が形成されていない部分の少なくとも一部には、絶縁体が形成され、前記開口部には、前記絶縁体を覆うように電極が形成され、前記電極は、前記第1の半導体層と前記第2の半導体層との界面と接するように形成される。
【0019】
すなわち、前記開口部の形成により、前記第1の半導体層の上面のうち、上方に前記第2の半導体層が形成されていない部分の少なくとも一部には、絶縁体が形成される。前記開口部には、前記絶縁体を覆うように電極が形成される。前記電極は、前記第1の半導体層と前記第2の半導体層との界面と接するように形成される。
【0020】
ここで、仮に、第1の半導体層のうち、絶縁体の下部に耐電圧の低下の要因となる欠陥(例えば、ピット)が存在するとする。この場合、絶縁体により、欠陥と基板との間の耐電圧の低下を抑制することができる。すなわち、絶縁体により、電界効果トランジスタの耐電圧の低下を抑制することができる。
【0021】
これにより、耐電圧の低下の要因となる欠陥が存在する場合でも、電界効果トランジスタの耐電圧が、良品とみなされるための所定の耐電圧以上を維持する確率の低下を抑制することができる。
【0022】
すなわち、電界効果トランジスタの歩留りの低下を抑制することができる。
また、好ましくは、前記第1の半導体層と前記第2の半導体層との界面の近傍の領域に相当する、前記第1の半導体層の表面部には、2次元電子ガス層が形成され、前記電極は、前記第2の半導体層および前記2次元電子ガス層を貫通するように形成される。
【0023】
これにより、電極は、2次元電子ガス層と直接接触する。そのため、絶縁体が形成されていても、当該電極のコンタクト抵抗を小さくすることができる。
【0024】
また、好ましくは、前記第1の半導体層および第2の半導体層のうち、前記開口部の内側の表面部に相当する部分には、n型不純物がドーピングされる。
【0025】
また、好ましくは、前記開口部の内側の表面部に相当する部分は、前記第1の半導体層と前記第2の半導体層との界面の部分を含む。
【0026】
また、好ましくは、さらに、バッファ層を備え、前記基板、前記バッファ層および前記第1の半導体層は、この順で積層される。
【0027】
また、好ましくは、前記絶縁体は、少なくとも、AlN、SiO2、SiN、サファイア、ダイヤモンドおよび絶縁性有機物のいずれかからなる。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、歩留りの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1の実施の形態における電界効果トランジスタの断面構造を示す図である。
【図2】デバイスの素子面積とその歩留りとの関係を表した図である。
【図3】欠陥が存在する電界効果トランジスタを説明するための図である。
【図4】第2の実施の形態における電界効果トランジスタの断面構造を示す図である。
【図5】第3の実施の形態における電界効果トランジスタの断面構造を示す図である。
【図6】従来の電界効果トランジスタの断面構造を示す図である。
【図7】六角形状のピットを示す電子線顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明を省略する場合がある。
【0031】
<第1の実施の形態>
図1は、第1の実施の形態における電界効果トランジスタ100の断面構造を示す図である。電界効果トランジスタ100は、ヘテロジャンクション電界効果トランジスタである。また、電界効果トランジスタ100は、高電子移動度トランジスタ(HEMT)でもある。なお、図1には、電界効果トランジスタ100には含まれない表面保護膜150が示される。なお、表面保護膜150は、電界効果トランジスタ100に含まれても良い。
【0032】
図1に示されるように、電界効果トランジスタ100は、基板101と、バッファ層102と、第1の半導体層110と、第2の半導体層120と、ソース電極S10と、ドレイン電極D10と、ゲート電極G10と、絶縁体130.1,130.2とを備える。
【0033】
基板101は、一例として、p型のSi基板である。
バッファ層102は、基板101上に形成される。バッファ層102は、AlN(窒化アルミニウム)バッファ、AlNおよびGaNを100周期形成した超格子構造を有する。当該AlNバッファの膜厚は、例えば、300nmである。当該超格子構造1周期中のAlNの膜厚は、例えば、5nmである。当該超格子構造1周期中のGaNの膜厚は、例えば、20nmである。
【0034】
第1の半導体層110は、バッファ層102上に形成される。すなわち、第1の半導体層110は、基板101の上方に形成される。つまり、基板101、バッファ層102および第1の半導体層110は、この順で積層される。
【0035】
第1の半導体層110は、第1の窒化物半導体からなる。第1の窒化物半導体は、例えば、GaN(窒化ガリウム)である。なお、第1の窒化物半導体は、GaNに限定されず、窒化物半導体である他の材料であってもよい。また、第1の窒化物半導体は、GaNと他の材料が混合されたものであってもよい。第1の半導体層110の膜厚は、例えば、2μmである。
【0036】
第2の半導体層120は、第1の半導体層110上に形成される。第2の半導体層120は、第2の窒化物半導体からなる。第2の窒化物半導体は、例えば、AlGaNである。なお、第2の窒化物半導体は、AlGaNに限定されず、窒化物半導体である他の材料であってもよい。また、第2の窒化物半導体は、AlGaNと他の材料が混合されたものであってもよい。第2の半導体層120の膜厚は、例えば、50nmである。
【0037】
第2の窒化物半導体のバンドギャップは、第1の窒化物半導体のバンドギャップより大きい。
【0038】
なお、第1の半導体層110上に第2の半導体層120が形成されることにより、ヘテロ接合界面が形成される。そのため、第1の半導体層110におけるヘテロ接合界面の近傍の領域には、2DEG(2次元電子ガス)層111が形成される。2DEG層111は、2DEG(2次元電子ガス)により形成される層である。
【0039】
すなわち、第1の半導体層110と第2の半導体層120との界面の近傍の領域に相当する、第1の半導体層110の表面部には、2次元電子ガス層(2DEG層111)が形成される。
【0040】
第2の半導体層120には、当該第2の半導体層120を貫通する開口部(以下、貫通領域部ともいう)が形成される。具体的には、第2の半導体層120には、第2の半導体層120を貫通して第1の半導体層110に達する(接する)開口部121.1,121.2が形成される。
【0041】
開口部121.1,121.2は、ドライエッチング工程により形成される。開口部121.1,121.2の各々の深さは、例えば、100nmである。
【0042】
開口部121.1の形成により、第1の半導体層110の上面のうち、上方に第2の半導体層120が形成されていない部分(以下、層上面Aともいう)の少なくとも一部には、絶縁体130.1が形成される。なお、絶縁体130.1の底面の面積は、層上面Aの面積の例えば80%〜100%である。
【0043】
開口部121.2の形成により、第1の半導体層110の上面のうち、上方に第2の半導体層120が形成されていない部分(以下、層上面Bともいう)の少なくとも一部には、絶縁体130.2が形成される。
【0044】
なお、絶縁体130.2の底面の面積は、層上面Bの面積の例えば80%〜100%である。
【0045】
開口部121.1には、オーミック電極であるソース電極S10が形成される。すなわち、開口部121.1には、絶縁体130.1の上部を覆うように電極(ソース電極S10)が形成される。電極としてのソース電極S10は、第1の半導体層110と第2の半導体層120との界面と接するように形成される。また、電極としてのソース電極S10は、第2の半導体層120および2次元電子ガス層(2DEG層111)を貫通するように形成される。
【0046】
また、ソース電極S10は、当該ソース電極S10の下部が、当該2DEG層111よりも下側の領域に達するように形成される。
【0047】
ソース電極S10は、主に、TiとAlからなる。ソース電極S10の膜厚は、200nmである。
【0048】
開口部121.2には、オーミック電極であるドレイン電極D10が形成される。すなわち、開口部121.2には、絶縁体130.2の上部を覆うように電極(ドレイン電極D10)が形成される。電極としてのドレイン電極D10は、第1の半導体層110と第2の半導体層120との界面と接するように形成される。また、電極としてのドレイン電極D10は、第2の半導体層120および2次元電子ガス層(2DEG層111)を貫通するように形成される。
【0049】
また、ドレイン電極D10は、当該ドレイン電極D10の下部が、当該2DEG層111よりも下側の領域に達するように形成される。
【0050】
ドレイン電極D10は、主に、Alからなる。ドレイン電極D10の厚みは、200nmである。ソース電極S10およびドレイン電極D10は、順次形成される。
【0051】
ゲート電極G10は、第2の半導体層120上に形成され、かつ、ソース電極S10とドレイン電極D10との間に形成される。ゲート電極G10は、ショットキー電極もしくはp型窒化物半導体からなる。p型窒化物半導体としては一例としてp−GaNが挙げられる。
【0052】
ソース電極S10、ドレイン電極D10およびゲート電極G10上には、表面保護膜150が形成される。
【0053】
本願の発明者らは、絶縁体130.1,130.2を構成する材料として、プラズマCVD装置により形成されるAlNを用いた。また、本願の発明者らは、絶縁体130.1,130.2の膜厚を150nmとし、X方向における、絶縁体130.1と2DEG層111との距離d1は、一例として、0.5μmとした。また、X方向における、絶縁体130.2と2DEG層111との距離d1も、一例として、0.5μmとした。
【0054】
本願の本発明者らは、絶縁体130.1,130.2を構成する材料として、放熱性を考慮して放熱性のよいAlNを用いたが、これに限定されず、絶縁体として機能する材料であれば他の材料が用いられてもよい。
【0055】
絶縁体130.1,130.2を構成する材料は、例えば、SiO2、SiN、Al23、サファイア、ダイヤモンド、絶縁性有機物等であってもよい。すなわち、絶縁体130.1,130.2は、少なくとも、AlN、SiO2、SiN、サファイア、ダイヤモンドおよび絶縁性有機物のいずれかからなる。
【0056】
図2は、デバイスの素子面積とその歩留りとの関係を表した図である。
図2において、横軸は、電界効果トランジスタの素子面積を示し、縦軸は、電界効果トランジスタの歩留りを示す。以下においては、電界効果トランジスタを、FETともいう。
【0057】
ここで、FETとしての電界効果トランジスタ100の構造として、ソース−ゲート間距離LSG=1.5μm、ゲート電極長LG=2μm、ゲート−ドレイン間距離LGD=10μm、ソース電極長LS=8μm、ドレイン電極長LD=8μmとした。
【0058】
FETの歩留りは、以下の条件Aを満たすFETを「不良」とみなした場合の歩留りである。当該条件Aは、FETのOFF状態において、ドレイン−ソース間電圧VDSが400Vである場合にリーク電流が10-7A/mm以下であるという条件である。
【0059】
以下においては、デバイス(例えば、FET)の耐電圧の低下の要因となる欠陥を、耐電圧低下欠陥ともいう。耐電圧低下欠陥は、一例として、ピットであるとする。なお、耐電圧低下欠陥は、ピットに限定されず、例えば、転位、マイクロパイプ、インバージョンドメインであってもよい。
【0060】
特性曲線L11,L12,L13,L14,L15,L16は、デバイス(FET)内に、耐電圧低下欠陥が存在すると仮定した場合の当該耐電圧低下欠陥の密度に対応する理論曲線である。
【0061】
デバイス(FET)内に存在すると仮定した耐電圧低下欠陥は、一例として、デバイス(FET)の耐電圧が400V以上になることを妨げる欠陥であるとする。当該耐電圧低下欠陥は、一例として、ピットであるとする。前述の耐電圧低下欠陥の密度とは、リークパスの面内密度でもある。
【0062】
特性曲線L11,L12,L13,L14,L15,L16は、それぞれ、耐電圧低下欠陥の密度が10000,1000,100,10,1,0.1/cm2に対応する特性曲線である。
【0063】
特性曲線L11〜L16より、デバイス(FET)の耐電圧が400V以上になることを妨げる耐電圧低下欠陥の密度は、およそ10/cm2であることがわかる。
【0064】
図2において、特性点P1(三角(▲)印)は、絶縁体130.1,130.2が形成された電界効果トランジスタ100(デバイス)の歩留りを示す。
【0065】
一方、黒丸(●)印は種々の素子面積を持つFETにおいて、絶縁体130.1,130.2が形成されてない場合の歩留りを、素子面積の関数としてプロットしたものである。特性点P0は、電界効果トランジスタ100において、仮に、絶縁体130.1,130.2が形成されていない場合のデバイス(電界効果トランジスタ)の歩留りを示す。
【0066】
図2より、同一素子面積において、特性点P1が示す歩留りは、特性点P0が示す歩留りの約2倍である。すなわち、同一素子面積において、絶縁体がない場合と比べ、絶縁体がある場合には歩留りが2倍に上昇した。このように、絶縁体の形成によりデバイス(電界効果トランジスタ)の歩留りが向上することがわかる。
【0067】
<比較例>
ここで、図6で説明した、従来のFETについて考察する。前述したように、当該従来のFETの第1の半導体層510または第2の半導体層520に、耐電圧低下欠陥が存在する場合、耐電圧低下欠陥と基板との間の耐電圧が低下する。ここで、当該電圧低下欠陥は、一例として、ピットであるとする。
【0068】
そのため、FET(デバイス)の耐電圧が、良品とみなされるための所定の耐電圧未満となる確率が増大し、FET(デバイス)の歩留りが低下する。
【0069】
なお、ゲート電極の長手方向の長さ(図6のゲート電極G50の奥行方向の長さ)を長くし、FET(デバイス)の有効面積を大きくするほど、デバイスの有効面積中の耐電圧低下欠陥の存在確率が増大する。そのため、耐電圧低下欠陥の存在確率を所定値以下に維持するためには、ゲート電極の長さを無制限に長くすることはできない。
【0070】
ここで、図6のソース電極S50のX方向の幅(長さ)を、ソース電極長という。また、図6のドレイン電極D50のX方向の幅(長さ)を、ドレイン電極長という。
【0071】
デバイスの有効面積をなるべく小さくする手段の一つとして、ソース電極長やドレイン電極長を短くする手段も考えられる。しかしながら、この手段は、以下に示す理由A,Bから好ましい手段ではない。
【0072】
理由Aは、ソース電極やドレイン電極に流れる電流に制限が生じるためである。
理由Bは、ソース電極長、ドレイン電極長を短くすると、放熱性が悪化し、デバイスの特性が悪化する可能性があるためである。
【0073】
特に、2DEGを用いた窒化物半導体電界効果トランジスタにおいては、温度が上がるにつれて電子の移動度が減少し、それに伴いシート抵抗が上昇する。そのため、放熱性が悪化するようなデバイス構造は望ましくない。
【0074】
ここで、本実施の形態における電界効果トランジスタ100において、図3に示すように、絶縁体130.1の直下に、耐電圧低下欠陥B11が存在したとする。耐電圧低下欠陥B11は、一例として、ピットであるとする。
【0075】
この場合、ドレイン電極D10に電圧が印加されたとしても、絶縁体130.1,130.2が存在するため、耐電圧低下欠陥B11と基板101との間の耐電圧を維持することができる。
【0076】
すなわち、耐電圧低下欠陥B11と基板101との間の耐電圧の低下を抑制することができる。
【0077】
なお、電界効果トランジスタ100において、絶縁体130.2の直下に、耐電圧低下欠陥B11が存在するとする。この場合に、ドレイン電極D10に電圧が印加されたとしても、絶縁体130.2が存在するため、耐電圧低下欠陥B11と基板との間の耐電圧を維持することができる。
【0078】
これにより、耐電圧の低下の要因となる欠陥が存在する場合であっても、電界効果トランジスタ100の耐電圧が、良品とみなされるための所定の耐電圧以上を維持する確率の低下を抑制することができる。
【0079】
すなわち、電界効果トランジスタ100の歩留りの低下を抑制することができる。
また、オーミック電極(ソース電極S10、ドレイン電極D10)は、2DEG層111と直接接触する。そのため、当該絶縁体130.1,130.2が形成されていても、オーミック電極(ソース電極S10、ドレイン電極D10)と、2DEG層111とのコンタクト抵抗は影響を受けない。したがってデバイスの静特性には何ら影響を及ぼさない。
【0080】
したがって、本実施の形態に係る電界効果トランジスタ100の構成によれば、ゲート幅を長くすることにより、電界効果トランジスタ100の有効面積を大きくしても、電界効果トランジスタ100は、所望の耐電圧を維持することができる。すなわち電界効果トランジスタ100の耐電圧が、良品とみなされるための所定の耐電圧以上を維持する確率の低下を抑制することができる。すなわち、電界効果トランジスタの歩留りの低下を抑制することができる。
【0081】
したがって、本実施の形態に係る電界効果トランジスタ100の構成によれば、歩留りの向上を実現することができる。
【0082】
<第2の実施の形態>
図4は、第2の実施の形態における電界効果トランジスタ100Aの断面構造を示す図である。
【0083】
電界効果トランジスタ100Aは、図1の電界効果トランジスタ100と比較して、n型不純物がドーピングされている領域122が形成されている点が異なる。それ以外の電界効果トランジスタ100Aの構造は、電界効果トランジスタ100と同様なので詳細な説明は繰り返さない。また、電界効果トランジスタ100Aを構成する構成要素の材料も、電界効果トランジスタ100と同様なので詳細な説明は繰り返さない。
【0084】
以下においては、開口部121.1,121.2の各々を、総括的に、開口部121ともいう。
【0085】
具体的には、第1の半導体層110および第2の半導体層120のうち、開口部121の内側の表面部に相当する部分(領域122)には、n型不純物がドーピングされる。
【0086】
n型不純物は、例えば、シリコン(Si)である。n型不純物がドーピングされる際の当該n型不純物の濃度は、10-18cm-3である。
【0087】
さらに具体的には、第1の半導体層110および第2の半導体層120のうち、開口部121.1の内側の表面部に相当する部分(領域122)には、n型不純物がドーピングされる。開口部121.1の内側の表面部に相当する部分は、第1の半導体層110と第2の半導体層120との界面の部分を含む。すなわち、ソース電極S10(オーミック電極)と2DEG層111とがコンタクトしている部分(領域122)に、n型不純物がドーピングされる。
【0088】
これにより、ソース電極S10(オーミック電極)と2DEG層111とのコンタクト抵抗が低減される。
【0089】
また、第1の半導体層110および第2の半導体層120のうち、開口部121.2の内側の表面部に相当する部分(領域122)には、n型不純物がドーピングされる。ここで、開口部121.2の内側の表面部に相当する部分は、第1の半導体層110と第2の半導体層120との界面の部分を含む。すなわち、ドレイン電極D10(オーミック電極)と2DEG層111とがコンタクトしている部分(領域122)に、n型不純物がドーピングされる。
【0090】
これにより、ドレイン電極D10(オーミック電極)と2DEG層111とのコンタクト抵抗が低減される。
【0091】
なお、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様、絶縁体130.1,130.2を構成する材料はAlNであり、絶縁体130.1,130.2の膜厚は150nmである。また、X方向における、絶縁体130.1(絶縁体130.2)と2DEG層111との距離d1(図1参照)は、一例として、0.5μmである。
【0092】
なお、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様、FETとしての電界効果トランジスタ100Aの構造として、ソース−ゲート間距離LSG=1.5μm、ゲート電極長LG=2μm、ゲート−ドレイン間距離LGD=10μm、ソース電極長LS=8μm、ドレイン電極長LD=8μmである。
【0093】
FETの歩留りは、第1の実施の形態と同様、前述の条件Aを満たすFETを「不良」とみなした場合の歩留りである。
【0094】
図2において、特性点P2(中抜きの四角(□)印)は、絶縁体130.1,130.2が形成されている電界効果トランジスタ100Aの電界効果トランジスタの歩留りを示す。
【0095】
図2により、同一素子面積において、特性点P2が示す歩留りは、特性点P0が示す歩留りの約2倍である。つまり、絶縁体がある場合の電界効果トランジスタの歩留りは、絶縁体がない場合の電界効果トランジスタの歩留りの約2倍である。このように、本実施の形態における電界効果トランジスタ100Aの構成においても、歩留りの向上を達成することができる。
【0096】
また、本実施の形態における電界効果トランジスタ100Aの構成により、第1の実施の形態と同様に、電界効果トランジスタ100Aの歩留りの低下を抑制することができる。
【0097】
<第3の実施の形態>
図5は、第3の実施の形態における電界効果トランジスタ100Bの断面構造を示す図である。
【0098】
電界効果トランジスタ100Bは、図1の電界効果トランジスタ100と比較して、開口部121.1に、絶縁体130.1が形成されていない点が異なる。それ以外の電界効果トランジスタ100Bの構成は、電界効果トランジスタ100と同様なので詳細な説明は繰り返さない。また、電界効果トランジスタ100Bを構成する構成要素の材料も、電界効果トランジスタ100と同様なので詳細な説明は繰り返さない。
【0099】
すなわち、電界効果トランジスタ100Bには、絶縁体130.1,130.2のうち、絶縁体130.2のみが形成されている。なお、この構成に限定されず、電界効果トランジスタ100Bには、絶縁体130.1,130.2のうち、絶縁体130.1のみが形成されていてもよい。
【0100】
なお、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様、絶縁体130.2を構成する材料はAlNであり、絶縁体130.2の膜厚は150nmである。また、X方向における、絶縁体130.2と2DEG層111との距離d1(図1参照)は、一例として、0.5μmである。
【0101】
なお、第1の実施の形態と同様、絶縁体130.2を構成する材料を、放熱性を考慮して放熱性のよいAlNとしたが、これに限定されず、絶縁体として機能する材料であれば他の材料が用いられてもよい。絶縁体130.2を構成する材料は、例えば、SiO2、SiN、Al23、サファイア、ダイヤモンド、絶縁性有機物等であってもよい。
【0102】
なお、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様、FETとしての電界効果トランジスタ100Bの構造として、ソース−ゲート間距離LSG=1.5μm、ゲート電極長LG=2μm、ゲート−ドレイン間距離LGD=10μm、ソース電極長LS=8μm、ドレイン電極長LD=8μmである。
【0103】
FETの歩留りは、第1の実施の形態と同様、前述の条件Aを満たすFETを「不良」とみなした場合の歩留りである。
【0104】
図2において、特性点P3(中抜きの白丸(○)印)は、絶縁体130.2が形成されている電界効果トランジスタ100Bの電界効果トランジスタの歩留りを示す。図2により、同一素子面積において、特性点P2が示す歩留りは、特性点P0が示す歩留りの約1.5倍である。このように、本実施の形態における電界効果トランジスタ100Bの構成においても、歩留りの向上を達成することができる。
【0105】
また、本実施の形態における電界効果トランジスタ100Bの構成により、第1の実施の形態と同様に、電界効果トランジスタ100Bの歩留りの低下を抑制することができる。
【0106】
以上、本発明における電界効果トランジスタについて、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したもの、あるいは異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【0107】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明における電界効果トランジスタは、エアコン、調光装置等の民生機器の電源回路等で用いられるパワートランジスタとして、利用することができる。
【符号の説明】
【0109】
100,100A,100B 電界効果トランジスタ
101 基板
102 バッファ層
110 第1の半導体層
120 第2の半導体層
121.1,121.2 開口部
122 領域
130.1,130.2 絶縁体
150 表面保護膜
D10 ドレイン電極
G10 ゲート電極
S10 ソース電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
第1の窒化物半導体からなる第1の半導体層と、
前記第1の窒化物半導体よりもバンドギャップの大きい第2の窒化物半導体からなる第2の半導体層とを備え、
前記第1の半導体層は、前記基板の上方に形成され、
前記第2の半導体層は、前記第1の半導体層上に形成され、
前記第2の半導体層には、該第2の半導体層を貫通して前記第1の半導体層に達する開口部が形成され、
前記開口部の形成により、前記第1の半導体層の上面のうち、上方に前記第2の半導体層が形成されていない部分の少なくとも一部には、絶縁体が形成され、
前記開口部には、前記絶縁体を覆うように電極が形成され、
前記電極は、前記第1の半導体層と前記第2の半導体層との界面と接するように形成される
電界効果トランジスタ。
【請求項2】
前記第1の半導体層と前記第2の半導体層との界面の近傍の領域に相当する、前記第1の半導体層の表面部には、2次元電子ガス層が形成され、
前記電極は、前記第2の半導体層および前記2次元電子ガス層を貫通するように形成される
請求項1に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項3】
前記第1の半導体層および第2の半導体層のうち、前記開口部の内側の表面部に相当する部分には、n型不純物がドーピングされる
請求項1または2に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項4】
前記開口部の内側の表面部に相当する部分は、前記第1の半導体層と前記第2の半導体層との界面の部分を含む
請求項3に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項5】
さらに、バッファ層を備え、
前記基板、前記バッファ層および前記第1の半導体層は、この順で積層される
請求項1〜4のいずれかに記載の電界効果トランジスタ。
【請求項6】
前記絶縁体は、少なくとも、AlN、SiO2、SiN、サファイア、ダイヤモンドおよび絶縁性有機物のいずれかからなる
請求項1〜5のいずれかに記載の電界効果トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−23211(P2012−23211A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160113(P2010−160113)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】