説明

高周波半導体スイッチ

【課題】トランジスタのドレインとバックゲート間およびソースとバックゲート間に生じる電流の漏洩を抑圧し、高周波信号の透過損失の増大を抑制できる高周波半導体スイッチを得る。
【解決手段】高周波半導体スイッチは、接地部を有するSi等の真性半導体基板と、この真性半導体基板に形成され、バックゲート端子を有するMOSトランジスタと、真性半導体基板の接地部およびMOSトランジスタのバックゲート端子間に設けられたインダクタとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波集積回路で用いられる高周波半導体スイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体スイッチを構成するトランジスタのバックゲートと接地間に抵抗器を接続し、トランジスタのドレインとバックゲート間およびソースとバックゲート間の容量に起因する高周波電流の透過損失を低減する高周波スイッチ回路がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−242826号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような高周波スイッチ回路をSi基板のような真性半導体の基板上に形成する場合、ドレインとバックゲート間およびソースとバックゲート間に電流が漏洩し、高周波信号の透過損失を増大するという問題がある。
【0005】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、トランジスタのドレインとバックゲート間およびソースとバックゲート間に生じる電流の漏洩を抑圧し、高周波信号の透過損失の増大を抑制できる高周波半導体スイッチを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る高周波半導体スイッチは、接地部を有する真性半導体基板と、真性半導体基板に設けられ、バックゲートを有するトランジスタと、接地部およびトランジスタのバックゲート間に設けられたインダクタとを備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、トランジスタのドレインとバックゲート間およびソースとバックゲート間に生じる電流の漏洩を抑圧し、高周波信号の透過損失の増大を抑制できる高周波半導体スイッチを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1に係る高周波半導体スイッチの回路構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態2に係る高周波半導体スイッチの回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
本発明を実施するための実施の形態1における高周波半導体スイッチ1を図1を用いて説明する。高周波半導体スイッチ1は裏側に接地面を有するSi基板すなわち真性半導体基板に設けられ、図1に示すように、高周波信号の入力端子2及び出力端子3の間に配置されたn形のMOSトランジスタ4と、MOSトランジスタ4の制御電源5と、MOSトランジスタ4と制御電源5を共有するインバータ回路6すなわち安定化手段と、インバータ回路6の駆動電源7とを備えている。
【0010】
インバータ回路6はp形のMOSトランジスタ8およびn形のMOSトランジスタ9とで構成され、MOSトランジスタ9のソースはSi基板に集積回路のパッド(図示しない)として形成された接地端子10すなわち接地部に接続されている。また、接地端子10とSi基板裏側の接地面は金ワイヤ等で接続され、電気的に安定した接地状態を構成している。
なお、インバータ回路6はMOSトランジスタ4の各端子間の電位を安定させるために設けたもので、ゲート端子に対してドレイン端子及びソース端子の電位を反転させるものであれば他の回路で代用しても良い。
【0011】
MOSトランジスタ4のドレイン、ソース、ゲートの各端子およびインバータ回路の入力端子6aには保護用の抵抗12〜15が設けられ、MOSトランジスタ4のバックゲート端子と接地端子10の間にはインダクタ11が接続されている。
なお、インダクタ11はインダクタ成分を有するものであれば、Si基板上に形成された伝送線路であっても良い。
【0012】
また、ここでは高周波信号に対して優れた透過特性を有するn形のMOSトランジスタ4を用いる場合を示したが、p形のMOSトランジスタを用いても良いし、n形またはp形のジャンクショントランジスタを用いても良い。さらに、高周波半導体スイッチ1を構成するMOSトランジスタ4はひとつに限らず、入力端子2および出力端子3間に複数のMOSトランジスタを並列に接続しても良いし、直列に多段接続しても良い。
【0013】
次に動作について説明する。
図1において、MOSトランジスタ4のゲート電圧は制御電源5により制御される。制御電源5からゲート端子に印加するゲート電圧をローレベルにすると、MOSトランジスタ4はn形のためオフ状態となり、ドレイン端子とソース端子間が電気的に開放される。このとき、入力端子2に高周波信号が入力されても出力端子3からは信号が出力されず、高周波半導体スイッチ1はオフとして動作する。
【0014】
一方、制御電源5からゲート端子に印加するゲート電圧をハイレベルにすると、MOSトランジスタ4がオン状態となり、ドレイン端子とソース端子間が電気的に短絡される。このとき、インバータ回路6にも制御電源5からハイレベルの電圧が印加されるため、p形のMOSトランジスタ8はオフ状態、n形のMOSトランジスタ9はオン状態となり、インバータ回路の出力端子6bの電圧がローレベルとなる。
【0015】
この状態で入力端子2へ入力された高周波信号は、MOSトランジスタ4を透過して出力端子3より出力される。すなわち、高周波半導体スイッチ1がオンとして動作する。
【0016】
MOSトランジスタ4のドレイン端子とバックゲート端子間およびソース端子とバックゲート端子間には容量が存在するため、高周波信号が透過する際に容量に起因する電流が生じる。インダクタ11は高周波信号に対してハイインピーダンスとなるため、MOSトランジスタ4のドレイン端子からバックゲート端子へ漏洩する電流およびソース端子からバックゲート端子に漏洩する電流を抑圧することができ、高周波信号の透過損失の増大を抑制できる。
また、このような高周波半導体スイッチを衛星通信、地上波マイクロ波通信および移動体通信等の通信装置に用いれば、高周波信号の透過損失を抑制することができ、高性能の通信装置が得られる。
【0017】
この実施の形態によれば、Si基板に形成された接地端子10とMOSトランジスタ4のバックゲート端子との間にインダクタ11を設けたことにより、ドレイン端子とバックゲート端子間およびソース端子とバックゲート端子間に生じる電流の漏洩を抑圧し、高周波信号の透過損失の増大を抑制できる。
また、インバータ回路6を設けたことにより、MOSトランジスタ4の各端子間の電位を安定させることができる。
【0018】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、MOSトランジスタ4とインバータ回路6とで接地端子10を共有しているが、実施の形態2では、MOSトランジスタ4のバックゲート端子専用に他の回路から独立した接地端子110を設ける。
【0019】
Si基板には通常、増幅器(図示しない)等の他の回路も設けられている。高周波半導体スイッチ100は、図2に示すように、他の回路から独立したパッドに形成された接地端子110すなわち接地部を有し、この接地端子110とMOSトランジスタ4のバックゲート端子とがインダクタ11を介して接続されている。接地端子110はSi基板裏側の接地面にも金ワイヤ等で接続され、電気的に安定した接地状態を構成している。その他の構成は実施の形態1と同様であるため説明を省略する。
なお、インダクタ11は接地端子110とMOSトランジスタ4のバックゲート端子との間に設ける代わりに、接地端子110とSi基板裏側の接地面との間に設けても良い。
【0020】
次に動作について説明する。
図2において、MOSトランジスタ4のゲート電圧は制御電源5により制御される。制御電源5からゲート端子に印加するゲート電圧をローレベルにすると、MOSトランジスタ4はn形のためオフ状態となり、ドレイン端子とソース端子間が電気的に開放される。このとき、入力端子2に高周波信号が入力されても出力端子3からは信号が出力されず、高周波半導体スイッチ100はオフとして動作する。
【0021】
一方、制御電源5からゲート端子に印加するゲート電圧をハイレベルにすると、MOSトランジスタ4がオン状態となり、ドレイン端子とソース端子間が電気的に短絡される。このとき、インバータ回路6にも制御電源5からハイレベルの電圧が印加されるため、p形のMOSトランジスタ8はオフ状態、n形のMOSトランジスタ9はオン状態となり、インバータ回路の出力端子6bの電圧がローレベルとなる。
【0022】
この状態で入力端子2へ入力された高周波信号は、MOSトランジスタ4を透過して出力端子3より出力される。すなわち、高周波半導体スイッチ100がオンとして動作する。
【0023】
MOSトランジスタ4のドレイン端子とバックゲート端子間およびソース端子とバックゲート端子間には容量が存在するため、高周波信号が透過する際に容量に起因する電流が生じる。インダクタ11は高周波信号に対してハイインピーダンスとなるため、MOSトランジスタ4のドレイン端子からバックゲート端子へ漏洩する電流およびソース端子からバックゲート端子に漏洩する電流を抑圧することができ、高周波信号の透過損失の増大を抑制できる。なお、インダクタ11が接地端子110とSi基板裏側の接地面との間に設けられた場合もバックゲート端子側がハイインピーダンスとなるため、同様に動作する。
【0024】
ところで、高周波信号がSi基板に形成された増幅器等の他の回路を透過する際、電流を漏洩することがある。この漏洩した電流は集積回路上のパッド等を介して他の回路に流れ込むが、接地端子110は他の回路から独立しているため、MOSトランジスタ4のバックゲート端子に漏洩した電流が流れ込むことは無い。つまり、MOSトランジスタ4のバックゲート端子の電位は接地状態に固定されるので、漏洩した電流により電位がふらつき、高周波半導体スイッチ100の動作が不安定になるのを防ぐことができる。
【0025】
この実施の形態によれば、高周波半導体スイッチ100はSi基板上に設けられた他の回路の接地端子から独立した接地端子110を有し、この接地端子110とMOSトランジスタ4のバックゲート端子間にインダクタ11を接続したことにより、実施の形態1の効果に加えて、高周波信号が他の回路を透過する際に漏洩する電流がMOSトランジスタ4に流れ込んでバックゲート端子の電位がふらつき、高周波半導体スイッチ100の動作が不安定になるのを防止できる。
【符号の説明】
【0026】
1、100 高周波半導体スイッチ
4、8、9 MOSトランジスタ
6 インバータ回路
11 インダクタ
10、110 接地端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地部を有する真性半導体基板と、前記真性半導体基板に設けられ、バックゲートを有するトランジスタと、前記接地部および前記トランジスタのバックゲート間に設けられたインダクタとを備えた高周波半導体スイッチ。
【請求項2】
前記接地部は、前記真性半導体に設けられた他の回路の接地部から独立していることを特徴とする請求項1に記載の高周波半導体スイッチ。
【請求項3】
前記トランジスタは、高周波信号の入力端子および高周波信号の出力端子との間に設けられたことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか一項に記載の高周波半導体スイッチ。
【請求項4】
前記トランジスタはMOSトランジスタであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の高周波半導体スイッチ。
【請求項5】
前記トランジスタはジャンクショントランジスタであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の高周波半導体スイッチ。
【請求項6】
接地部を有する真性半導体基板と、前記真性半導体基板に設けられ、バックゲートを有するトランジスタと、前記接地部および前記トランジスタのバックゲート間に設けられたインダクタと、前記トランジスタの端子間の電位を安定化させる安定化手段を備えた高周波半導体スイッチ。
【請求項7】
前記安定化手段は、p形のトランジスタとn形のトランジスタとを備えたインバータであることを特徴とする請求項6に記載の高周波半導体スイッチ。
【請求項8】
前記接地部は、前記真性半導体に設けられた他の回路の接地部から独立していることを特徴とする請求項6または請求項7のいずれか一項に記載の高周波半導体スイッチ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−103537(P2011−103537A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257088(P2009−257088)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】