説明

高温用基準ワーク及びこれを用いた高温物寸法計測用形状計測器の精度検証方法

【課題】熱間鍛造等のような高温環境において寸法計測の基準ワークとして使用できる高温用の基準ワーク、及び同基準ワークを用いた高温物寸法計測用形状計測器の精度検証方法を提供する。
【解決手段】半円形断面形状が一定間隔で一方向に複数個並設された、熱膨張係数が既知で耐酸化性を有する高融点の金属材により高温用の基準ワークを得る。この基準ワークの熱膨張係数と半円形断面形状並設方向の表面形状の寸法の常温での測定値とから検証目標高温時での上記表面形状の寸法を理論値として求めておく。同基準ワークを検証目標高温まで加熱し、その際の上記表面形状の寸法を精度検証対象である非接触型の形状計測器により計測し、上記表面形状中の複数の半円形断面形状について円形状のフィッティング処理を行い、上記表面形状の寸法を実測値として求める。この実測値と上記理論値との比較値を得て高温物寸法計測用の上記形状計測器の精度を検証する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温用基準ワーク、及び高温物の寸法を計測するための形状計測器の精度を上記高温用基準ワークを用いて検証する方法(高温物寸法計測用形状計測器の精度検証方法)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、マスタワークを用いて被測定ワークの寸法を測定する装置(マスタワークからの補正係数算出機能を含む。)が種々開発されている(例えば特許文献1等)。
【0003】
【特許文献1】特開平8−15176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来技術におけるマスタワーク(基準ワーク)や、このマスタワークからの補正係数算出機能は、常温環境において適用されるものであって、例えば熱間鍛造等における高温物の寸法計測に適用し得るものではなく、高温物の寸法計測を行うための技術として用いることはできなかった。
【0005】
本発明は、熱間鍛造等のような高温環境において寸法計測の基準ワークとして使用できる高温用基準ワークを提供することを課題とする。
また本発明は、上記高温用基準ワークを用いた高温物寸法計測用形状計測器の精度検証方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、
高温用基準ワーク及びこれを用いた高温物寸法計測用形状計測器の精度検証方法を下記各態様の構成とすることによって解決される。
各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも本発明の理解を容易にするためであり、本明細書に記載の技術的特徴及びそれらの組合わせが以下の各項に記載のものに限定されると解釈されるべきではない。また、1つの項に複数の事項が記載されている場合、それら複数の事項を常に一緒に採用しなければならないわけではなく、一部の事項のみを取り出して採用することも可能である。
【0007】
以下の各項のうち、(1)項が請求項1に、(3)項が請求項2に、各々対応する。
(2)項、(4)項は請求項に係る発明ではない。
【0008】
(1) 表面から肉厚方向に窪む半円形断面形状が予め定められた間隔で一方向に複数個並設された、熱膨張係数が既知で耐酸化性を有する高融点の金属材からなることを特徴とする高温用基準ワーク。
半円形断面形状は、例えば断面半円形の溝や半球状の穴によって得られる。
「高温用」の「高温」とは、本項の高温用基準ワークの使用時の温度、つまりこの高温用基準ワークを用いて精度検証される高温物寸法計測用形状計測器による、高温物寸法計測時の環境温度に応じて定まる相対的な温度である。本項の高温用基準ワークが熱間鍛造における高温環境で使用されるならば、上記「高温」とは熱間鍛造における高温、例えば1100℃がその一例である。
耐酸化性が要件とされるのは、上記使用時における「高温」によって表面に酸化膜が形成されることによる悪影響、特に形成された酸化膜が剥離し、本項の高温用基準ワークの形状や寸法が変化することを防止するためである。
(2) 前記金属材はステンレス鋼材であることを特徴とする(1)項に記載の高温用基準ワーク。
ステンレス鋼材は耐酸化性(耐久性)を有する高融点の金属材として入手しやすく、(1)項の高温用基準ワークをなす金属材として好適である。
(3) (1)項又は(2)項に記載の高温用基準ワークの半円形断面形状並設方向の表面形状の寸法の測定値とこの高温用基準ワークの熱膨張係数とから、所望の検証目標高温時における前記表面形状の寸法を理論値として求める第1工程と、前記高温用基準ワークを温度制御可能なヒータで前記検証目標高温まで加熱する第2工程と、この第2工程で加熱された前記高温用基準ワークの表面形状を精度検証対象である非接触型の形状計測器により計測する第3工程と、この第3工程で計測された前記高温用基準ワークの表面形状中の複数の前記半円形断面形状について円形状のフィッティング処理を行って前記高温用基準ワークの表面形状の寸法を実測値として求める第4工程と、この第4工程で求められた実測値と前記第1工程により求められた理論値との比較値を得る第5工程とを具備することを特徴とする高温物寸法計測用形状計測器の精度検証方法。
理論値の精度(信頼性)は、前記表面形状の寸法の測定値の精度が高いほど増すので、前記表面形状の寸法は高精度で測定されることが望まれる。
温度制御可能なヒータとしては電気ヒータが好適である。
非接触型の形状計測器としては、ビーム光、特にレーザ光を用いた二次元又は三次元非接触型表面形状計測器が好適である。非接触型のレーザ光を用いた形状計測器によれば高温物寸法計測が容易になる反面、計測時に高温物表面において影になる部分が生じた場合に、その部分については計測ができなくなる。例えば、高温物表面に窪み形状があって、その窪み形状の底面全てにレーザ光が当たらず、そこからの反射光が得られない場合には、その部分については計測ができなくなる。このような場合に、窪み形状が半円形(断面形状)であって、計測されたその形状について円形状のフィッティング処理を行い、表面形状を計測する方法によれば、形状の一部に欠け(データの欠落)があっても半円形断面形状の全体が計測できる。
本項の発明は、このような計測をすることによって、(1)項の高温用基準ワークを用いて高温物寸法計測用形状計測器の精度の検証を可能とした。
なお、本項の発明における「高温」も、(1)項の発明について述べたところと同じである。
(4) 前記温度制御可能なヒータはカートリッジヒータであって、長手方向を前記高温用基準ワークの半円形断面形状並設方向に向けてその高温用基準ワークに接触保持されることを特徴とする(3)項に記載の高温物寸法計測用形状計測器の精度検証方法。
温度制御可能なヒータとしては電気ヒータが好適であるが、中でもカートリッジヒータがコンパクトで扱いやすく、また高温用基準ワークを効率よく加熱できるので最適である。
【発明の効果】
【0009】
(1)項に記載の発明によれば、熱間鍛造等のような高温環境において寸法計測の基準ワークとして使用できる高温用基準ワークを提供できる。
(3)項に記載の発明によれば、(1)項に記載の高温用基準ワークを用いた高温物寸法計測用形状計測器の精度を検証する方法を提供できる。
なお、(2)項、(4)項に記載の発明は、本発明(特許請求の範囲に記載した発明)ではないので、上記課題を解決するための手段の欄にその効果を述べた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。なお、各図間において、同一符号は同一又は相当部分を示す。
図1は、本発明による高温用基準ワークの一実施形態をカートリッジヒータと共に示す3面図〔(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図〕、図2は図1の分解斜視図である。
これらの図に示すように、高温用基準ワーク1は、その一側面の一方向、ここでは右側面の長手方向(図中、上下方向)に、表面から肉厚方向に窪む半円形断面形状2が予め定められた間隔で多数個並設されている。
上記半円形断面形状2は、半球状の穴によって形成してもよいが、図示例では断面半円形の溝(半円形断面溝)3によって形成されている。
図示例では、大小2個の径を相違させた半円形断面溝3をワーク長手方向(図中、上下方向)に互い違いに並設して、多数個の半円形断面形状2を並設している。いずれにしても、各半円形断面溝3の間隔(溝3を形成する半円の中心間距離)は既知である。
この高温用基準ワーク1は、耐酸化性を有する高融点の金属材からなり、上記のように半円形断面形状2の間隔、つまり半円形断面溝3の相互間隔が既知であるが、その熱膨張係数も既知である。
【0011】
本実施形態では、熱間鍛造における高温環境での使用を想定しているので、上記「高温」とは熱間鍛造における高温、例えば1100℃が一例である。したがって、1100℃において酸化、溶融せず、しかも入手しやすいステンレス鋼材(SUS 310S等)が高温用基準ワーク1をなす金属材として好適である。
高温用基準ワーク1に耐酸化性が要求されるのは、その使用時における高温によって表面に形成された酸化膜が剥離し、高温用基準ワーク1自体の形状、寸法が変化することを防止するためである。
なお「高温」とは、高温用基準ワーク1使用時の温度、換言すればこの高温用基準ワーク1を用いて精度検証される高温物寸法計測用形状計測器による、高温物寸法計測時の環境温度に応じて定まる相対的な温度である。
【0012】
高温用基準ワーク1には、図示するように半円形断面溝3の並設面とは反対側の面(高温用基準ワーク1背面)に、ヒータ保持材4とでカートリッジヒータ5を挟持するための断面半円形の縦溝6が形成されている。ヒータ保持材4には、高温用基準ワーク1側の縦溝6の断面がなす半円形よりも円弧長が僅かに足りないほぼ半円形の縦溝7が形成されている。
上記カートリッジヒータ5は、上記両縦溝6,7が合わされて形成されるほぼ円柱状の空間内に挿通された状態で高温用基準ワーク1及びヒータ保持材4相互がねじ締め等で締め付けられることにより、高温用基準ワーク1を加熱可能に同基準ワーク1及びヒータ保持材4相互間に挟持される。カートリッジヒータ5は外部から温度制御可能であり、本実施形態では高温用基準ワーク1を1100℃に加熱、保持可能である。なお、カートリッジヒータ5のリード線は図示省略されている。
【0013】
上記のような高温用基準ワーク1を使用した高温物寸法計測用形状計測器の精度検証方法の一例を図3のフローチャートを参照して説明する。
高温用基準ワーク1が用意できたなら(ステップ301)、まず、その半円形断面溝3の並設面(高温用基準ワーク正面)側の表面形状の寸法、具体的には半円形断面形状2(半円形断面溝3)の間隔寸法を常温で精密測定する(ステップ302)。この精密測定は、常温で行うので接触式、非接触式を問うことなく種々の測定手段が適用できるもので、可能な限り精密な測定が行われる。図4はこのような精密測定結果のイメージ図である。 ステップ303では、ステップ302による精密測定の結果(測定値)と高温用基準ワーク1の材料、ここではステンレス鋼材の熱膨張係数とから、所望の検証目標高温、本実施形態では1100℃の際の上記半円形断面溝3の間隔寸法を理論値として求め、後述する演算器内に記憶する。
【0014】
次に、上記と同じ高温用基準ワーク1を図1に示すカートリッジヒータ5で検証目標高温、本実施形態では1100℃まで加熱する(ステップ304)。
高温用基準ワーク1が検証目標高温1100℃に加熱され保持されると、その温度1100℃にて精度検証対象である非接触型の高温物寸法計測用形状計測器、つまりビーム光による二次元又は三次元表面形状計測器、ここではレーザ光による三次元表面形状計測器によって高温用基準ワーク1の半円形断面溝並設面(高温用基準ワーク正面)側の表面形状を計測する(ステップ305)。
【0015】
図5は、高温用基準ワーク1の正面側の表面形状をレーザ光による三次元表面形状計測器51によって計測している様子を示す図である。
この図に示すように、高温用基準ワーク1の半円形断面溝3の並設面(高温用基準ワーク正面)には、その半円形断面溝3の延出方向に直交する方向(半円形断面溝3の並設方向:図中、上下方向)にファン状に広げられたシート状レーザ光52が三次元表面形状計測器51から投射されている。三次元表面形状計測器51は、投射したレーザ光52の反射光を受光し、高温用基準ワーク1の表面(レーザ光投射面)形状を得るためのデータを取得して演算器53に与える。
演算器53はレーザ光52による三次元表面形状計測器51からのデータを演算して高温用基準ワーク1の表面形状を演算し、ディスプレイ54に表示する。
三次元表面形状計測器51からのレーザ光52を単なるビーム状とし、これを高温用基準ワーク1の半円形断面溝3の並設方向(図中、上下方向)にファン状に走査して同基準ワーク1の表面形状を得るためのデータを取得するようにしてもよい。
図6に、演算器53で演算されディスプレイ54に表示される高温用基準ワーク1の表面形状を例示する。
【0016】
ステップ306では、上記演算器53によって演算して得られた高温用基準ワーク1の表面形状(表面形状計測データ)中の全半円形断面溝、あるいは予め選択された複数の半円形断面溝3の形状(半円形断面形状2)について、各々円形状のフィッティング処理を行う。
そして、フィットした円形状の径寸法から上記半円形断面溝3の間隔、つまり半円形断面形状2の間隔を算出し、高温用基準ワーク1の表面形状の実測値として記憶する。
図7に、上記ディスプレイ54においてフィッティング処理が行われている様子を例示する。図7では、大径側の隣接する半円形断面溝3について円形状71のフィッティング処理を行い、それらの間隔d1〜d5(ないしd1+d2+…dn:nは任意数)を算出する例を示している。
【0017】
ステップ307では、高温用基準ワーク1の表面形状の寸法につき、ステップ303により求められた理論値とステップ306により求められた実測値との比較値を算出し、これをステップ305の計測に用いた三次元表面形状計測器51の精度検証結果として出力する。
上記比較値(精度検証結果)としては、上記理論値と実測値との比が挙げられるが、その値は、例えば三次元表面形状計測器51を用いて寸法計測する場合の実測値に対して補正を行う補正係数として用いられ、高温環境における正確な寸法計測を可能とする。
【0018】
以上述べた実施形態によれば、熱間鍛造等のような高温環境において寸法計測の基準ワークとして使用できる新規な高温用基準ワーク1を提供できる。また、この高温用基準ワーク1を用いた、三次元表面形状計測器51の精度検証方法も提供でき、ひいてはこの精度検証方法の適用結果によって、同三次元表面形状計測器51を用いた高温環境における正確な寸法計測が可能になる等の効果を発揮できる。
【0019】
なお上述実施形態では、高温用基準ワークの加熱にカートリッジヒータを用いたが、外部から温度調整可能で、高温用基準ワークを目標温度に加熱、保持できる電気ヒータであれば、そのいずれでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による高温用基準ワークの一実施形態をカートリッジヒータと共に示す3面図〔(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図〕である。
【図2】図1の分解斜視図である。
【図3】図1に示す高温用基準ワークを使用した高温物寸法計測用形状計測器の精度検証方法の一例を示すフローチャートである。
【図4】図3中の精密測定処理ステップによって得られた精密測定結果のイメージ図である。
【図5】高温用基準ワークの表面形状を三次元表面形状計測器によって計測している様子を示す図である。
【図6】図5中の演算器で演算されディスプレイに表示される高温用基準ワークの表面形状を例示する図である。
【図7】同上演算器のディスプレイにおいてフィッティング処理が行われている様子を例示する図である。
【符号の説明】
【0021】
1:高温用基準ワーク、2:半円形断面形状、3:半円形断面溝、5:カートリッジヒータ、51:レーザ光による三次元表面形状計測器(非接触型の形状計測器)、52:シート状レーザ光、53:演算器、54:ディスプレイ。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から肉厚方向に窪む半円形断面形状が予め定められた間隔で一方向に複数個並設された、熱膨張係数が既知で耐酸化性を有する高融点の金属材からなることを特徴とする高温用基準ワーク。
【請求項2】
請求項1に記載の高温用基準ワークの半円形断面形状並設方向の表面形状の寸法の測定値とこの高温用基準ワークの熱膨張係数とから、所望の検証目標高温時における前記表面形状の寸法を理論値として求める第1工程と、
前記高温用基準ワークを温度制御可能なヒータで前記検証目標高温まで加熱する第2工程と、
この第2工程で加熱された前記高温用基準ワークの表面形状を精度検証対象である非接触型の形状計測器により計測する第3工程と、
この第3工程で計測された前記高温用基準ワークの表面形状中の複数の前記半円形断面形状について円形状のフィッティング処理を行って前記高温用基準ワークの表面形状の寸法を実測値として求める第4工程と、
この第4工程で求められた実測値と前記第1工程により求められた理論値との比較値を得る第5工程とを具備することを特徴とする高温物寸法計測用形状計測器の精度検証方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−264838(P2009−264838A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112903(P2008−112903)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(393011038)菱栄エンジニアリング株式会社 (59)
【Fターム(参考)】